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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】高血糖症を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/277 20060101AFI20230421BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K31/277 ZMD
A61K31/155
A61P3/10
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022002081
(22)【出願日】2022-01-11
(62)【分割の表示】P 2020032083の分割
【原出願日】2017-05-17
(65)【公開番号】P2022050572
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】62/339,131
(32)【優先日】2016-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517144651
【氏名又は名称】センター ラボラトリーズ, インク.
【氏名又は名称原語表記】CENTER LABORATORIES, INC.
【住所又は居所原語表記】7F., No.3-2 Yuanqu St., Nangang Dist. Taipei City, Taiwan 115 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】シュー ジュイ-パオ
(72)【発明者】
【氏名】シャン グアン-ツー
(72)【発明者】
【氏名】リー メン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】リャオ イー-ピン
(72)【発明者】
【氏名】イェー ユー-イン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0210911(US,A1)
【文献】特表2013-510872(JP,A)
【文献】特開2013-032359(JP,A)
【文献】特表2012-528170(JP,A)
【文献】The American Journal of Cardiology,1986年,Vol.57,p.39D-43D
【文献】Diabetes Research and Clinical Practice,2016年01月15日,Vol.115,p.115-121
【文献】糖尿病,Supplement 1,2015年,p.S-378, No.III-13-8
【文献】Regulatory Peptides,2002年,Vol.104,p.153-159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A61K 9/00 ~ 9/72
A61P 1/00 ~ 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトホルミンを含む医薬と組み合わせて併用投与されるために使用される真性糖尿病を処置するための医薬組成物であって、該医薬組成物は(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩と、薬学的に許容できる担体とからなる、医薬組成物。
【請求項2】
前記(R)-(+)-ベラパミルは塩酸塩として存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は経口、静脈内、筋肉内、皮下、経粘膜、または直腸内投与に対して好適である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与に対して好適な前記医薬組成物は、錠剤、丸剤、顆粒、粉末、溶液、懸濁物、シロップ、またはカプセルとして提供される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、前記医薬組成物中に15~1,000mgの量で存在する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、前記医薬組成物中に25~800mgの量で存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概して、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩によって、たとえば真性糖尿病などの高血糖症を処置する方法に向けられたものである。
【背景技術】
【0002】
真性糖尿病とは、ある人物の身体が十分なインスリンを産生しないか、またはインスリンに対して適切に応答しない状態である。インスリンは、細胞がグルコースをエネルギーに変えるために吸収することを可能にする、膵臓で産生されるホルモンである。インスリン産生が不十分であるか、または身体がインスリンに適切に応答しないとき、血中にグルコースが蓄積し、それがさまざまな合併症をもたらし得る。糖尿病にはいくつかの形があるが、3つの形が最もよく認識されている。すなわちI型糖尿病、II型糖尿病、および妊娠糖尿病である。加えて、糖尿病に先行する糖尿病前症が認識されており、これは血糖値が正常よりも高いが、まだ糖尿病と診断されるために十分な高さではないときに存在する。
【0003】
I型糖尿病またはインスリン依存型真性糖尿病(IDDM:insulin-dependent diabetes mellitus)とは、膵臓中のインスリン産生ベータ細胞の破壊によって引き起こされる代謝障害であり、インスリン欠乏および血漿中に高レベルのグルコースをもたらす。I型糖尿病の発症は一般的に、自己免疫性の病因によってもたらされる。しかし、I型に対してはベータ細胞破壊の突発性の原因が生じ得る。1型糖尿病には子供も成人も罹患し得るが、それは子供の糖尿病の症例の大部分を表しているため、伝統的には「若年性糖尿病」と名付けられている。
【0004】
II型糖尿病すなわちインスリン非依存型真性糖尿病(NIDDM:non-insulin-dependent diabetes mellitus)は、外部環境因子に大きく影響され得る遺伝性の局面を有することが見出されている。II型糖尿病の根底にある病因は、インスリン産生ベータ細胞の欠乏;筋肉、脂肪(adipose)、および肝臓細胞によるインスリン応答の変化;ならびに食物摂取に続く炭水化物および脂質の代謝制御を行う調整機構の異常を含む。インスリン感受性の調節は、環境因子および挙動、主にセデンタリー・ライフスタイルおよび肥満症によって影響される。筋肉および脂肪細胞のインスリンに対する感受性の調節に寄与する細胞機構は複雑であり、十分に理解されていない。インスリンシグナル伝達経路の変更、細胞内脂肪の量の増加、ならびに遊離脂肪酸およびその他の脂肪組織生成物のレベル上昇が、インスリン感受性に影響し得ると考えられている。
【0005】
妊娠糖尿病は、過去に糖尿病と診断されたことはないが妊娠中に高グルコースレベルを有する妊婦に起こる。全妊婦の約4%が妊娠糖尿病に罹患し、その後II型糖尿病が発病することがある。
【0006】
適切に制御または安定化されない場合、高血糖状態は心血管疾患、視覚障害、さまざまな形の神経障害および認知障害、脳卒中、ならびに末梢血管疾患を含む併存症に関連してきた。一般的な治療的アプローチは、個人の食餌性栄養および身体活動性の大きな変更に加えて、抗高血糖薬物およびインスリンの使用を含む。この疾患は慢性かつ進行性であり、今のところその進行を逆行させ得る処置はないため、この分野においては高血糖症に関連する状態、疾患、および/または障害を処置するための改善した薬物がなおも必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下は、読者に基本的な理解を提供するために開示の簡略化した概要を提示するものである。この概要は開示の広範囲の概観ではなく、本発明の重要/決定的な構成要素を識別するものでも、本発明の範囲を描写するものでもない。この概要の唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、本明細書に開示されるいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0008】
本発明は、単独または任意の血糖低下剤との組み合わせで、高血糖症の対象の血糖値を効果的に低下させる薬物に関する。したがって本発明は、I型、II型真性糖尿病、妊娠糖尿病、他の形の糖尿病、および/またはそれらに関係する障害を含むがそれらに限定されない高血糖症に関係する状態を処置するために有用である。
【0009】
したがって、本開示の1つの局面は、I型、II型真性糖尿病、妊娠糖尿病、他の形の糖尿病、および/またはそれらに関係する障害に関係する状態の処置のための薬物の製造のために有用な、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩の新規の使用に関する。
【0010】
本開示の好ましい実施形態に従うと、薬物に含まれる(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、結晶形態である。
【0011】
本開示の好ましい実施形態に従うと、薬物に含まれる(R)-(+)-ベラパミルは、塩酸塩の形態である。
【0012】
本開示の実施形態に従うと、この薬物は、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1:glucagon-like peptide 1)受容体アゴニスト、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4:dipeptidyl peptidase-4)阻害剤、インスリン、インスリン類似体、ビグアナイド、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD:thiazolidinedione)、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2:sodium-glucose co-transporter 2)阻害剤、およびα-グリコシダーゼ阻害剤からなる群より選択され得る血糖低下剤をさらに含む。
【0013】
本開示の実施形態に従うと、GLP-1受容体アゴニストはリラグルチド、エクセナチド、アルビグルチド、またはLY2189265である。
【0014】
本開示の実施形態に従うと、DPP-4阻害剤はグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、ベルベリン、およびルペオールである。
【0015】
本開示の実施形態に従うと、インスリン類似体はグラルギン、デグルデク、またはデテミルである。
【0016】
本開示の実施形態に従うと、ビグアナイドはメトホルミン、フェンホルミン、またはブホルミン(bufomin)である。本開示の好ましい実施形態に従うと、この薬物は(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩と、メトホルミンとを含む。
【0017】
本開示の実施形態に従うと、スルホニルウレアはグリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド、またはグリピジドである。
【0018】
本開示の実施形態に従うと、TZDはピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、またはトログリタゾンである。
【0019】
本開示の実施形態に従うと、SGLT2阻害剤はダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボネート、レモグリフロジンエタボネート、またはエルツグリフロジンである。
【0020】
本開示の実施形態に従うと、α-グリコシダーゼ阻害剤はアカルボース、ミグリトール(miglitose)、またはボグリボースである。
【0021】
本開示の好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩を含む薬物は、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、皮下、経粘膜、または直腸内投与に対して好適である。好ましい実施形態の1つにおいて、この薬物は経口投与される。経口投与に対して好適な薬物は、錠剤、丸剤、顆粒、粉末、溶液、懸濁物、シロップ、またはカプセルとして提供されてもよい。
【0022】
本開示の実施形態に従うと、薬物は約15~1,000mg/日の量で投与される。好ましくは、薬物は約25~800mg/日の量で投与される。より好ましくは、薬物は約30~600mg/日の量で投与される。
【0023】
本発明の別の局面は、たとえばI型、II型真性糖尿病、妊娠糖尿病、他の形の糖尿病、および/またはそれらに関係する障害などの高血糖症を処置する方法に関する。この方法は、真性糖尿病に関連する症状を軽減または寛解させるために、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害に罹患した対象に、有効量の(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩を投与するステップを含む。
【0024】
本開示の好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、結晶形態で投与される。
【0025】
本開示の好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルは塩酸塩の形態で投与される。
【0026】
本開示の実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約15~1,000mg/日の量で投与される。好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約25~800mg/日の量で投与される。より好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約30~600mg/日の量で投与される。
【0027】
本開示の実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、皮下、経粘膜、または直腸内投与される。好ましい実施形態の1つにおいて、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、経口投与される。経口投与に対して好適な薬物は、錠剤、丸剤、顆粒、粉末、溶液、懸濁物、シロップ、またはカプセルとして提供されてもよい。
【0028】
本開示の実施形態に従うと、この方法は対象に血糖低下剤を投与するステップをさらに含み、この血糖低下剤はグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体アゴニスト、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤、インスリン、インスリン類似体、ビグアナイド、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD)、SGLT2阻害剤、およびα-グリコシダーゼ阻害剤からなる群より選択されてもよい。
【0029】
本開示の実施形態に従うと、GLP-1受容体アゴニストはリラグルチド、エクセナチド、アルビグルチド、またはLY2189265である。
【0030】
本開示の実施形態に従うと、DPP-4阻害剤はグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、ベルベリン、およびルペオールである。
【0031】
本開示の実施形態に従うと、インスリン類似体はグラルギン、デグルデク、またはデテミルである。
【0032】
本開示の実施形態に従うと、ビグアナイドはメトホルミン、フェンホルミン、またはブホルミンである。本開示の好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、メトホルミンとともに投与される。
【0033】
本開示の実施形態に従うと、スルホニルウレアはグリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド、またはグリピジドである。
【0034】
本開示の実施形態に従うと、TZDはピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、またはトログリタゾンである。
【0035】
本開示の実施形態に従うと、SGLT2阻害剤はダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボネート、レモグリフロジンエタボネート、またはエルツグリフロジンである。本開示の実施形態に従うと、α-グリコシダーゼ阻害剤はアカルボース、ミグリトール、またはボグリボースである。
【0036】
本開示に伴う特徴および利点の多くは、添付の図面に関連して考慮される以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるだろう。
【0037】
本記載は、添付の図面に照らして以下の詳細な説明を読むことによって、よりよく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施例1.1に従う、STZ誘導糖尿病マウスにおける血糖値に対するラセミベラパミルHCl、(R)-(+)-ベラパミルHCl、および(S)-(-)-ベラパミルHClの効果を示す棒グラフである。
図2】本発明の実施例1.2に従う、NIDDMマウスにおける血糖値に対するラセミベラパミルHCl、(R)-(+)-ベラパミルHCl、および(S)-(-)-ベラパミルHClの効果を示す棒グラフである。
図3】本発明の実施例2.1に従う、NIDDMマウスにおける血糖値に対する(R)-(+)-ベラパミルHClおよび/またはメトホルミンの効果を示す棒グラフであって、ここでは+P<0.05、対媒体対照(db/m+)、*P<0.05、対媒体対照(db/db)、#P<0.05、対メトホルミン(db/db)における差が有意とみなされる。「メトホルミン」および「媒体対照(db/db」の比較は、スチューデントの対応のないt検定を用いて行われる。有意性が実線で示される。
図4】本発明の実施例2.2に従う、NIDDMマウスにおける糖化ヘモグロビン(HbA1c)のレベルに対する(R)-(+)-ベラパミルHClおよび/またはメトホルミンの効果を示す棒グラフを示す図であって、ここでは+P<0.05、対媒体対照(db/m+)、*P<0.05、対媒体対照(db/db)、#P<0.05、対メトホルミン(db/db)における差が有意とみなされる。「メトホルミン」および「媒体対照(db/db」の比較は、スチューデントの対応のないt検定を用いて行われる。有意性が実線で示され、傾向が破線で示される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
添付の図面に関連して以下に提供される詳細な説明は、本実施例の説明として意図されたものであり、本実施例が構築または使用され得る唯一の形を表すことは意図されていない。この説明は、実施例の機能ならびに実施例を構築および動作するためのステップの順序を示す。しかし、異なる実施例によって同じまたは同等の機能および順序が達成されてもよい。
【0040】
1.定義
便宜上、明細書、実施例、および添付の請求項に使用されている特定の用語をここに集めている。別様に定義されない限り、本明細書に用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の通常の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0041】
状況が別様を明らかに示さない限り、本明細書において単数形「a」、「and」および「the」は複数の指示対象を含むように用いられる。本明細書において用いられる「約」という用語は一般的に、所与の値または範囲の10%、5%、1%、または0.5%以内を意味する。代替的に、「約」という用語は、通常の当業者が考える許容できる標準誤差以内を意味する。動作/作業実施例以外で、または別様に明白に特定されない限り、本明細書に開示されるたとえば材料の量、持続時間、温度、動作条件、量の比率、または反射角などに対するすべての数値的な範囲、量、値、およびパーセンテージは、すべての場合に「約」という用語によって修飾されるものと理解されるべきである。したがって、反対のことが示されない限り、本開示および添付の請求項に示される数値パラメータは、所望に応じて変動し得る近似である。少なくとも、各数値パラメータは少なくとも報告される有効数字の数に照らし、通常の四捨五入技術を適用することによって解釈されるべきである。
【0042】
「真性糖尿病」という用語は、I型、II型真性糖尿病、妊娠糖尿病、および他の形の糖尿病を示す。他の形の糖尿病とは、成人潜在性自己免疫性糖尿病(LADA:latent autoimmune diabetes of adult)、先天性糖尿病、ステロイド糖尿病、膵臓欠陥関連糖尿病(例、慢性膵炎関連糖尿病、嚢胞性線維症関連糖尿病、膵臓新生物関連糖尿病、ヘモクロマトーシス関連糖尿病、および線維石灰化性膵疾患(pancreatopaty)関連糖尿病)、内分泌疾患(edocrinopathy)関連糖尿病(例、先端巨大症関連糖尿病、挫滅症候群関連糖尿病、甲状腺機能亢進症関連糖尿病、褐色細胞腫関連糖尿病、およびグルカゴノーマ関連糖尿病)、感染症関連糖尿病(例、サイトメガロウイルス感染症関連糖尿病、およびコクサッキーウイルス(coxackievirus)B関連糖尿病)、糖尿病性血管障害(例、糖尿病性網膜症および糖尿病性腎症)、ならびに薬物関連糖尿病(例、グルココルチコイド関連糖尿病、甲状腺ホルモン関連糖尿病、β-アドレナリンアゴニスト関連糖尿病、およびスタチン関連糖尿病)であってもよい。II型真性糖尿病にしばしば相関するのは、メタボリックシンドローム、肥満症、インスリン抵抗性、脂質異常症、および病的耐糖性の1つまたはそれ以上である。真性糖尿病の対象には、さまざまな程度の血圧上昇、コレステロールおよび/またはトリグリセリドのレベル上昇、尿酸レベルの上昇、ならびに凝固を促進する因子のレベル上昇が現れる。したがって、本明細書において用いられる「真性糖尿病に関係する障害」とは、高血圧症、高脂血症、高尿酸血症、痛風、および凝固性亢進、すなわち血管の内側に凝血塊を形成する異常な傾向の増加を示す。これらの障害は、アテローム硬化性大血管性疾患および細小血管障害に対するよく認識された危険因子である。アテローム硬化性大血管性疾患は、心筋梗塞、脳卒中、および肢切断を含む。微小血管合併症は、失明、腎疾患、および衰弱性神経障害を含む。
【0043】
本明細書で用いられる「処置」という用語は、たとえば高血糖症の対象における血糖値を低下させるなどの、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味することが意図される。この効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に防ぐという点で予防的であってもよいし、ならびに/または、疾患および/もしくはその疾患に起因し得る悪影響の部分的もしくは完全な治癒という点で治療的であってもよい。本明細書において用いられる「処置」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の防止的(例、予防的)、治療的、または対症的な処置を含むが、これに限定されず、この処置は(1)疾患の素因を有し得るが、まだその疾患の診断を受けていない個体における疾患または状態(例、真性糖尿病またはそれに関係する障害)の発症の防止的(例、予防的)、治療的、または対症的な処置;(2)(例、インスリン産生ベータ細胞の増殖促進またはこれらの細胞のアポトーシス抑制による)疾患の阻害;あるいは(3)疾患の軽減(例、疾患に関連する症状の低減)を含む。
【0044】
本明細書において「投与された」、「投与する」、または「投与」という用語は、本発明の薬剤(例、化合物または組成物)の経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、頭蓋内、経粘膜(例、吸入および鼻腔内)、または皮下投与を限定なしに含む送達のモードを示すために交換可能に用いられる。好ましい実施形態において、本開示の化合物(すなわち(R)-(+)-ベラパミル)は、経口投与に好適な組成物に調合される。
【0045】
本明細書において用いられる「有効量」という用語は、高血糖症からもたらされる疾患の処置に関する所望の結果を達成するために、用量において、かつ必要な期間にわたって有効である量を示す。たとえば真性糖尿病の処置においては、真性糖尿病に関係する任意の症状を減少、防止、遅延もしくは抑制、または抑止する薬剤(すなわち本化合物)が有効となる。有効量の薬剤は、疾患または状態を治癒する必要はなく、疾患または状態の発生が遅延、妨害、もしくは防止されるか、または疾患もしくは状態の症状が寛解されるような、疾患または状態に対する処置を提供する。特定の有効量または十分量は、たとえば処置される特定の状態、患者の身体的状態(例、患者の体重、年齢、または性別)、処置される哺乳動物または動物の種類、処置の持続時間、(あれば)併用療法の性質、および使用される特定の調合物などの因子によって変わる。有効量は、たとえば1日当りの活性薬剤の合計質量(例、グラム、ミリグラム、またはマイクログラム単位)などとして表されてもよい。有効量は、指定された期間にわたって1、2、またはそれ以上の回数で投与されるように、好適な形の1、2、またはそれ以上の用量に分割されてもよい。
【0046】
本明細書において「対象」または「患者」という用語は交換可能に用いられ、本発明の化合物によって処置できるヒト種を含む哺乳動物を意味することが意図される。「哺乳動物」という用語は、哺乳類の綱のすべてのメンバーを示し、それはヒト、霊長類、家畜および飼育動物、たとえばウサギ、ブタ、ヒツジ、およびウシなど;ならびに動物園、スポーツ、またはペット用動物;ならびにげっ歯類、たとえばマウスおよびラットなどを含む。さらに「対象」または「患者」という用語は、1つの性別が特定的に示されていない限り、オスおよびメスの両方の性別を示すことが意図される。したがって「対象」または「患者」という用語は、本開示の処置法の利益を受け得る任意の哺乳動物を含む。「対象」または「患者」の例は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、雌ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ、および家禽を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0047】
本明細書において用いられる「賦形剤」という用語は、活性薬剤に対する媒体/担体を形成する任意の不活性物質(たとえば粉末または液体など)を意味する。賦形剤は一般的に安全で無毒であり、広い意味では医薬組成物を調製するために有用な医薬品産業における任意の公知の物質、たとえばフィラー、希釈剤、接合剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、安定剤、着色剤、湿潤剤、および崩壊剤などをも含んでもよい。
【0048】
本明細書において用いられる「ラセミ」という用語は、ベラパミルの(R)-および(S)-鏡像異性体または立体異性体の混合物を示し、ここでは鏡像異性体も立体異性体も実質的に他方から精製されていない。
【0049】
II.真性糖尿病およびそれに関係する障害の処置
ベラパミル(例、2-(3,4-ジメトキシフェニル)-5-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エチル-メチルアミノ]-2-プロパン-2-イルペンタンニトリル)は、さまざまな医薬的効能を有する公知の薬物である。伝統的に、ベラパミルはたとえば高血圧症などの冠疾患を処置するために用いられる。この化合物は不斉中心を有するため、光学鏡像異性体に分離され得る。(S)-鏡像異性体は、カルシウムチャネル拮抗薬活性の大部分を有することが公知であるのに対し、(R)-鏡像異性体はソマトスタチン受容体2に対するアゴニスト活性と、オレキシン受容体1および2、ドーパミンD2L受容体、ナトリウムおよびカルシウムチャネルに対する拮抗薬活性とを有することが公知である(国際公開第2011/057471A1号を参照)。したがって、(R)-鏡像異性体はヒト対象におけるこれらの受容体に関係する疾患または状態を処置するための薬物として有用である。
【0050】
本発明は一般的に、(R)-(+)-ベラパミルは、ラセミベラパミルまたは(S)-(-)-ベラパミルよりも強力に糖尿病対象における空腹時血糖値を低下させるという新規の発見に関するものである。したがって(R)-(+)-ベラパミルは、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害の処置に用いるための薬物として製造されてもよい。
【0051】
これに関して、本発明の特定の局面は、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害に罹患した対象を処置する方法に関する。この方法は、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害に関連する症状を寛解または軽減するように、有効量の(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩(例、(R)-(+)-ベラパミルHCl)を対象に投与するステップを含む。
【0052】
(R)-(+)-ベラパミルは、ベラパミルのラセミ混合物から、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high performance liquid chromatography)分離によって得られてもよいし、たとえば光学活性分割酸などの任意の利用可能な手段を用いた鏡像異性体の分割によって得られてもよい。代替的に(R)-(+)-ベラパミルは、関連技術分野において公知の任意の方法を用いた立体特異的合成によって合成されてもよい。一般的な立体特異的合成は、高い鏡像異性体純度を有する生成物をもたらし得る。鏡像異性体純度が不十分である場合には、(S)-(-)-ベラパミルから(R)-(+)-ベラパミルを分離することによって鏡像異性体純度を高めるためのさらなる精製プロセスを合成産物に受けさせてもよい。(R)-(+)-ベラパミルを生成するためにラセミベラパミルを分離するためのプロセスの例は、通常の当業者に周知である。
【0053】
いくつかの好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、結晶形態で投与される。(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩の結晶は、たとえば飽和法などの任意の公知の結晶化法によって生成されてもよい。一実施例において、(R)-(+)-ベラパミルHClは、酢酸エチル、トルエン、および1,4-ジオキサン/ヘプタン(1:1)を含むがそれらに限定されない好適な溶剤(単数または複数)に飽和溶液が得られるまで溶解される。次いでその飽和溶液を冷却して、そこから(R)-(+)-ベラパミルHCl結晶を形成する。
【0054】
好ましい実施形態に従うと、本発明において使用するために好適な(R)-(+)-ベラパミルは塩酸塩、すなわち(R)-(+)-ベラパミルHClの形である。
【0055】
任意の実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、対象の高血糖状態を寛解または軽減するために、(R)-(+)-ベラパミル以外の1つまたはそれ以上の活性化合物とともに投与されてもよい。いくつかの好ましい実施形態において、この1つまたはそれ以上の活性化合物は血糖低下剤である。任意の公知の血糖低下剤が用いられてもよい。好ましくは、血糖低下剤はグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体アゴニスト、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤、インスリン、インスリン類似体、ビグアナイド、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD)、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害剤、またはα-グリコシダーゼ阻害剤である。
【0056】
GLP-1受容体アゴニストの好適な例はリラグルチド、エクセナチド、アルビグルチド、またはLY2189265を含むが、これらに限定されない。
【0057】
DPP-4阻害剤はグリプチンであり、グリプチンの好適な例はシタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、ベルベリン、およびルペオールを含むが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書において用いられる「インスリン」という用語は、構造、使用、および意図される効果が天然に発生するインスリンと同じまたは類似であり、かつ真性糖尿病の処置に有用である精製、合成、および/または生物工学的に得られた生成物を示す。たとえば、家畜(例、ブタ)の膵臓腺などの哺乳動物の膵臓組織からインスリンが直接回収されてもよい。代替的には、組み換え技術によってインスリンが生成されてもよい。
【0059】
インスリン類似体の例はグラルギン、デグルデク、およびデテミルを含むが、これらに限定されない。
【0060】
ビグアナイドの好適な例はメトホルミン、フェンホルミン、およびブホルミンを含むが、これらに限定されない。
【0061】
スルホニルウレアの好適な例はグリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド、およびグリピジドを含むが、これらに限定されない。
【0062】
TZDの例はピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、およびトログリタゾンを含むが、これらに限定されない。
【0063】
SGLT2阻害剤の例はダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボネート、レモグリフロジンエタボネート、およびエルツグリフロジンを含むが、これらに限定されない。
【0064】
α-グリコシダーゼ阻害剤の好適な例はアカルボース、ミグリトール、およびボグリボースを含むが、これらに限定されない。
【0065】
本開示の実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、こうした処置を必要とする対象に15~1,000mg/日、たとえば15、20、25、30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1,000mg/日などの量で投与されてもよい。好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約25~800mg/日、たとえば25、30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800mg/日などの量で投与される。より好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約30~600mg/日、たとえば30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600mg/日などの量で投与される。
【0066】
好ましい実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、それを必要とする対象にメトホルミンとともに投与され、この併用処置の結果として血糖および糖化ヘモグロビン(HbA1c)のレベルの相乗効果的な低下が得られる。
【0067】
本開示の実施形態に従うと、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、頭蓋内、および皮下の経路を含むがそれらに限定されないあらゆる好適な経路を介して投与されてもよい。好ましい実施形態において、有効量の(R)-(+)-ベラパミル塩酸塩は、それを必要とする対象に経口投与される。
【0068】
さらなる実施形態において、この方法は、経口高血糖症薬剤に対する応答が不十分な糖尿病の処置に対するものである。
【0069】
本発明のさらなる局面は、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害の処置のための医薬組成物に関する。この組成物は、有効量の(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩と、薬学的に許容できる賦形剤とを含む。
【0070】
この医薬組成物を生成するために、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩、好ましくは(R)-(+)-ベラパミルの結晶は好適な賦形剤と混合されて、経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、頭蓋内、経粘膜(例、吸入、バッカル、および鼻腔内)、または皮下投与に対して好適な剤形に調合される。好適な賦形剤は当業者に公知であり、たとえばHandbook of Pharmaceutical Excipients(Kibbe(ed.),3rd Edition(2000),American Pharmaceutical Association,Washington,D.C.)、およびRemington’s Pharmaceutical Sciences(Gennaro(ed.),20th edition(2000),Mack Publishing Inc.,Easton、Pa)などに記載されており、賦形剤および剤形に関するそれらの開示は本明細書において引用により援用される。たとえば、好適な賦形剤はデンプン、糖、結晶セルロース、希釈剤、顆粒化剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、潤滑剤、乳化剤、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味料、保存剤、可塑剤、ゲル化剤、濃化剤、硬化剤(hardeners)、硬化剤(setting agents)、懸濁剤、界面活性剤、吸湿剤、担体、安定剤、抗酸化剤、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0071】
医薬組成物は典型的に、任意の所望の経路による対象への投与のために好適な剤形で提供される。当業者は、本発明における使用に好適なさまざまな剤形を熟知している。あらゆる所与の場合の最も好ましい経路は、処置および/または管理される疾患の性質および重症度に依存するだろう。たとえば、医薬組成物は経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、頭蓋内、経粘膜(例、吸入、バッカル、および鼻腔内)、または皮下投与のために調合されてもよい。好ましくは、医薬組成物は経口投与される。
【0072】
経口投与に対して好適な医薬組成物の剤形は、たとえば錠剤、丸剤、顆粒、粉末、溶液、懸濁物、シロップ、またはカプセルなどを含む。たとえば錠剤、丸剤、顆粒、または粉末などの固体剤形を生成する方法として、固体剤形はたとえば賦形剤、結合剤、または崩壊剤などの薬学的に許容できる担体を用いた従来の技術によって形成され得る。経口投与のための固体剤形は、任意には切れ目を入れられたり、たとえば進入コーティングおよび放出速度を変更するためのコーティングなどのコーティングおよびシェルとともに調製されたりしてもよい。さらに、任意の固体剤形は、当該技術分野において公知の任意の賦形剤を用いて軟質および硬質のゼラチンカプセルに封入されてもよい。
【0073】
加えて、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、経口投与のための液体剤形に調合されてもよい。好適な調合物はエマルション、溶液、懸濁物、またはシロップを含み、この調合物はたとえば水、グリセロールエステル、アルコール、および植物油などの当該技術分野において一般的に用いられる希釈剤を用いた従来の技術によって生成され得る。液体調合物は任意には、たとえば湿潤剤、乳化剤、および懸濁剤、甘味剤、香味料、着色剤、および保存剤などのアジュバントを含んでもよい。加えて液体調合物は、軟質ゼラチンカプセルに充填されてもよい。たとえば、この液体は(R)-(+)-ベラパミルを有する溶液、懸濁物、エマルション、沈殿物、または任意のその他の所望の液体媒体を含んでもよい。この液体は、放出の際の(R)-(+)-ベラパミルの可溶性を改善するように設計されてもよいし、放出の際に薬物含有エマルションまたは分散相を形成するように設計されてもよい。こうした技術の例は、関連技術分野において周知である。軟質ゼラチンカプセルは、所望に応じてたとえば薬物の放出を遅らせるためなどの機能性コーティングでコートされてもよい。
【0074】
非経口投与の場合、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、静脈内、皮下、または筋肉内投与のための注射可能な形に調合されてもよい。注射剤は、たとえば生理食塩水などの水溶性溶液、またはたとえばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、または植物油(例、ゴマ油)などの有機エステルからなる水不溶性溶液に、本開示の化合物(例、(R)-(+)-ベラパミル、(R)-(+)-ベラパミルHCl、またはその結晶)を溶解することによって調製できる。
【0075】
経皮投与の場合、たとえば軟膏またはクリームなどの剤形が使用され得る。軟膏は、本開示の化合物(例、(R)-(+)-ベラパミル、(R)-(+)-ベラパミルHCl、またはその結晶)を脂肪または油と混合することによって生成でき、クリームは、本開示の化合物(例、(R)-(+)-ベラパミル、(R)-(+)-ベラパミルHCl、またはその結晶)を乳化剤と混合することによって生成できる。経皮調合物は、液体または粉末状の調合物の形であってもよい。液体調合物においては、水、塩溶液、リン酸緩衝液、および酢酸緩衝液などがベースとして用いられてもよい。加えて液体調合物は界面活性剤、抗酸化剤、安定剤、保存剤、または粘着性付与剤を含有してもよい。粉末状調合物は、たとえば水溶性ポリアクリレート、セルロース低アルキルエステル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、およびアミラーゼなどの吸水性材料、ならびにたとえばセルロース、デンプン、ガム、植物油、または架橋ポリマーなどの非吸水性材料を含有してもよい。さらに、粉末状調合物には抗酸化剤、着色剤、保存剤が加えられてもよい。液体または粉末状調合物は、噴霧装置を用いることによって投与されてもよい。
【0076】
直腸投与の場合、調合物はゼラチン軟質カプセルを用いた坐剤の形態であってもよい。
【0077】
鼻または口を通じた吸入の場合、本開示の化合物(例、(R)-(+)-ベラパミル、(R)-(+)-ベラパミルHCl、またはその結晶)と、この目的のために一般的に許容される医薬賦形剤とを含有する溶液または懸濁物が、吸入剤エアロゾルスプレーを通じて吸入される。代替的には、粉末の形態の本開示の化合物(例、(R)-(+)-ベラパミル、(R)-(+)-ベラパミルHCl、またはその結晶)が、粉末と肺との直接接触を可能にする吸入器を通じて投与されてもよい。これらの調合物に対して、もし必要であれば、たとえば等張剤、保存剤、分散物、または安定剤などの薬学的に許容できる担体が加えられてもよい。さらにもし必要であれば、これらの調合物は、ろ過または熱もしくは照射による処理によって滅菌されてもよい。
【0078】
真性糖尿病および/またはそれに関係する障害を処置するために好適な、本開示の(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩の有効量は、投与の経路、または処置を受ける対象の状態、年齢、性別、もしくは体重によって変わる。一般的に、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、単一または分割された用量で、1日に2、3、4、またはそれ以上の回数対象に投与される。代替的に、用量は2、3、4、5、またはそれ以上の日数毎に1回送達されてもよい。好ましい実施形態の1つにおいて、医薬組成物は1日に1回投与される。別の実施形態において、医薬組成物は1日に2回投与される。投与されるべき(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩の有効量は、約15~1,000mg/日、たとえば15、20、25、30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1,000mg/日などである。好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約25~800mg/日、たとえば25、30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800mg/日などの量で投与される。より好ましくは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩は、約30~600mg/日、たとえば30、35、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、130、140、150、160、170、175、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、375、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600mg/日などの量で投与される。
【0079】
上述の医薬組成物および剤形の任意のものは、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩によって処置されるものと同じ状態を管理するために、(R)-(+)-ベラパミル以外の1つまたはそれ以上の活性化合物をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態においては、医薬組成物に血糖低下剤が含まれる。好ましくは、血糖低下剤はグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体アゴニスト、ジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)阻害剤、インスリン、インスリン類似体、ビグアナイド、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD)、SGL-T2阻害剤、またはα-グリコシダーゼ阻害剤である。
【0080】
GLP-1受容体アゴニストの好適な例はリラグルチド、エクセナチド、アルビグルチド、およびLY2189265を含むが、これらに限定されない。
【0081】
DPP-4阻害剤はグリプチンであり、グリプチンの好適な例はシタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、ゲミグリプチン、アナグリプチン、テネリグリプチン、アログリプチン、トレラグリプチン、デュトグリプチン、オマリグリプチン、ベルベリン、およびルペオールを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書において用いられるインスリンとは、構造、使用、および意図される効果が天然に発生するインスリンと同じまたは類似であり、かつ真性糖尿病の処置に有用である精製、合成、および/または生物工学的に得られた生成物を示す。たとえば、家畜(例、ブタ)の膵臓腺などの哺乳動物の膵臓組織からインスリンが直接回収されてもよい。代替的には、組み換え技術によってインスリンが生成されてもよい。
【0083】
インスリン類似体の例はグラルギン、デグルデク、およびデテミルを含むが、これらに限定されない。
【0084】
ビグアナイドの好ましい例はメトホルミン、フェンホルミン、またはブホルミンを含むが、これらに限定されない。
【0085】
スルホニルウレアの好適な例はグリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド、およびグリピジドを含むが、これらに限定されない。
【0086】
TZDの例はピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン、シグリタゾン、ダルグリタゾン、エングリタゾン、ネトグリタゾン、リボグリタゾン、およびトログリタゾンを含むが、これらに限定されない。
【0087】
SGLT2阻害剤の例はダパグリフロジン、エンパグリフロジン、カナグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、セルグリフロジンエタボネート、レモグリフロジンエタボネート、およびエルツグリフロジンを含むが、これらに限定されない。
【0088】
α-グリコシダーゼ阻害剤の好適な例はアカルボース、ミグリトール、およびボグリボースを含むが、これらに限定されない。
【0089】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、有効量の(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩と、メトホルミンとを含む。
【0090】
任意の実施形態において、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩以外の1つまたはそれ以上の活性化合物(例、血糖低下剤)は、別の調合物中に提供されて、本医薬組成物とともに対象に同時投与されてもよい。こうした別の調合物は、(R)-(+)-ベラパミルまたはその薬学的に許容できる塩を含む本組成物の投与の前、後、またはそれと同時に投与されてもよい。
【0091】
ここで以下の実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は特定される実施例に限定されないことが理解されるべきである。
【実施例
【0092】
材料および方法
材料
(R)-(+)-ベラパミルHCl、(S)-(-)-ベラパミルHCl、およびラセミ混合物は、それぞれセンター・ラボラトリーズ社(Center Laboratories Inc)(台北(Taipei)、台湾(Taiwan)、R.O.C.)が提供したものである。グルコメーターは、アボット(Abbott)(USA)より購入した。グルコースアッセイキットは、デンカ生研株式会社(Denka Seiken Co.Ltd)(東京(Tokyo)、日本(Japan))より購入した。インスリンおよびメトホルミンは、どちらもシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)(USA)からのものであり、HbA1cアッセイキットは富士レビオ(Fujirebio)(日本)からのものであった。
【0093】
動物
野生型(Wide-type)オスC57BL/6マウス(各体重約20~25g)、インスリン非依存型真性糖尿病(NIDDM)オスdb/dbマウス(C57BLKS/J lar- +Leprdb/+Leprdb、各体重約45±10g)およびdb/m+(C57BLKS/J Lar-m+/+Leprdb)マウスを本研究に用いた。
【0094】
C57BL/6マウスは、BioLASCO台湾(チャールズ・リバー・ラボラトリー(Charles River Laboratory)、ウィルミントン(Wilmington)、MAにより認定)が提供した。
【0095】
NIDDMマウスおよびdb/m+マウスは、一般財団法人動物繁殖研究所(IAR:Institute for Animal Reproduction、日本)が提供した。それらのマウスは高インスリン血症、高血糖症、および島萎縮症を示しており、約10~12週齢にて用いた。研究の間、これらの動物を個別換気ケージ(Individually Ventilated cages)ラック(IVCラック、36ミニ・アイソレーター(Mini Isolator)システム(テクニプラスト(Tecniplast)、イタリア(Italy))に単独で収容した。
【0096】
すべてを動物施設内で、温度(20~24℃)、湿度(50~80%)、および12h/12h明/暗サイクル(7:00a.m.に点灯)を制御し、食物および水を自由に提供しながら維持した。マウスの取り扱いに対する実験手順は、AAALAC公認の実験動物施設(ユーロフィンズ・パンラブス・タイワン社(Eurofins Panlabs Taiwan、Ltd.))において「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals:Eighth Edition」(National Academies Press,Washington,D.C.,2011)に示される関連規定を順守した。
【0097】
STZ誘導糖尿病マウスおよび処置
野生型(Wide-type)オスC57BL/6マウスに、ストレプトゾトシン(STZ:streptozotocin、40mg/Kg/日を5日間、1日目から5日目)を複数回腹腔内注射することによって、糖尿病にした。6日目に160mg/dLより高い平均血糖値を示したマウスを、以後の研究のために選択した。媒体または指定用量のテスト化合物(すなわちベラパミルHClのラセミ形(VPM:verapamil、bid)、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM、bid)、または(S)-(-)-ベラパミルHCl(S-VPM、bid))を、各マウスに6日目から1日2回経口的に与え、49日目まで44日間続けた。インスリン処置する動物に対しては、血糖測定の90分前にインスリンを皮下投与した。6、15、および25日目に非絶食時血糖値を測定し、40日目および50日目に空腹時血糖(すなわち12hr絶食後の絶食後血糖値)を測定した。
【0098】
NIDDMマウスおよび処置
NIDDMマウスおよびdb/m+マウス(シャム対照)を少なくとも1週間順化し、次いで6hr絶食後の平均血糖値が≧350mg/dlであるときに処置のためにグループ化した。指定用量のテスト化合物(すなわちベラパミルHClのラセミ形(VPM、bid)、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM、bid)、(S)-(-)-ベラパミルHCl(S-VPM、bid)、メトホルミン(1日1回)、またはR-VPM(bid)とメトホルミン(Met:metformin、1日1回)との組み合わせ)を各マウスに1日目から経口投与し、45日目までの44連続日(実施例1.2)または43日目までの42連続日(実施例2)だけ続けた。指定日に、6hr絶食後の血糖および糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを測定した。研究期間中に各テスト動物の体重も測定した。
【0099】
なお、この実験(実施例1.2)の予備実施の際に、50mg/Kg、bidのVPMまたはS-VPMの投与によってすべてのテスト動物が死亡したため、この実験におけるVPMまたはS-VPMの用量は50mg/Kg、bid以下に設定した(たとえば15mg/Kg、bidまたは30mg/Kg、bidなど)。他方で、R-VPMに対する用量はこうした制限を受けなかった。
【0100】
統計
平均±平均の標準誤差(SEM:standard error of the mean)として結果を表した。物質処置および媒体処置グループの統計的比較のために、独立スチューデントt検定または1元ANOVAに続くダネット検定を用いた。+P<0.05、対媒体対照(db/m+)、*P<0.05、対媒体対照(db/dbまたはSTZ誘導マウス)、#P<0.05、対メトホルミン(db/db)における差を有意とみなす。スチューデントの対応のないt検定による「Met」および「媒体対照(db/db)」の比較:有意性を実線で示し、傾向を破線で示す。
【0101】
実施例1 糖尿病マウスにおける血糖値に対する(R)-(+)-ベラパミルHClの効果
【0102】
1.1 STZ誘導糖尿病マウス
この実施例においては、「材料および方法」セクションに記載した手順に従って、STZ誘導糖尿病動物におけるラセミベラパミルHCl(VPM)、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM)、または(S)-(-)-ベラパミルHCl(S-VPM)の効果を評価した。結果を図1に示す。
【0103】
図1に示すとおり、インスリンはSTZ誘導糖尿病動物における非絶食時または空腹時血糖のレベルを低下させることができたのに対し、ラセミベラパミル(25mg/Kg、bidまたは35mg/Kg、bid)は空腹時または非絶食時血糖値のいずれに対しても効果を有さなかった。(R)-(+)-ベラパミルHClおよび(S)-(-)-ベラパミルHClの効果に関しては、(R)-(+)-ベラパミルHClの方が(S)-(-)-ベラパミルHClよりも空腹時血糖値低下が比較的強力であることが示された。
【0104】
1.2 インスリン非依存型真性糖尿病(NIDDM)マウス
この実施例においては、インスリン抵抗性およびその後の糖尿病表現型の進行を引き起こすインスリンシグナル伝達カスケードの軽度の欠陥を有して生まれたNIDDMマウスを用いることによって、血糖値に対するラセミベラパミルHCl(VPM)、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM)、または(S)-(-)-ベラパミルHCl(S-VPM)の効果を評価した。比較のために、シャム対照として5匹のdb/m+(C57BLKS/J Lar- m+/+Leprdb)マウスのグループを用いた。6hr絶食動物の血糖値を0日目(処置前)、ならびに15、30、および45日目に測定した。結果を図2に示す。
【0105】
予想どおり、メトホルミン(300mg/Kg)はNIDDMマウスにおける空腹時血糖値を低下させた。しかし、ラセミベラパミルHCl(30mg/Kg、bid)も(S)-(-)-ベラパミルHClも空腹時血糖値の低下に対する効果を何ら有さなかった。これに対し、50mg/Kg、bidおよび75mg/Kg、bidの用量の(R)-(+)-ベラパミルHClのそれぞれは、対照媒体NIDDMマウスと比べて空腹時血糖値を低下させた。
【0106】
実施例2 (R)-(+)-ベラパミルHClおよびメトホルミンの併用処置は、NIDDMマウスにおける血糖値および糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルを相乗効果的に低下させた
【0107】
実施例1.2の知見に基づいて、NIDDMマウスにおいてメトホルミンと(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM)との空腹時血糖および糖化ヘモグロビン(HbA1c)に対する併用効果をさらに評価した。比較のために、シャム対照として8匹のdb/m+(C57BLKS/J Lar- m+/+Leprdb)マウスのグループを用いた。6hr絶食動物の血糖およびHbA1cのレベルのそれぞれを0日目(処置前)、ならびに15、29、および43日目に測定した。結果を図3および図4ならびに表1から表6に提供する。
【0108】
2.1 血糖値
図3を参照すると、予想どおり、メトホルミンはNIDDMマウスの血糖値を15、29、および43日目に低下でき、高用量(すなわち30mg/Kg、bidまたは50mg/Kg、bid)の(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM)も同様であった。より驚くべきことに、R-VPMおよびメトホルミンの併用処置は、単独では血糖値低下に効果のない用量である低用量R-VPM(すなわち15mg/Kg、bid)を投与した場合にも血糖値低下に対する相乗効果を示した。
【0109】
表1を参照すると、これは本研究のそれぞれの対照レベルと比較したときの、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM、15mg/kg、bid)、メトホルミン(300mg/Kg)、またはそれら両方で処置したNIDDMマウスから収集した相対血糖値をまとめたものである。表1において、各処置グループの血糖値を対照の%として表しており、対照は0日目の血糖値であって、これを100%とした。「媒体」グループにおいて、15、29、および43日目の血糖値はそれぞれ対照の97.1%、116.4%、および121.6%であることを見出した(表1の列Aを参照)。「メトホルミン」グループにおいて、15、29、および43日目の血糖値はそれぞれ0日目の65.3%、103.6%、および108.8%であり(すなわち列B)、これらの値を「媒体」グループのものと比べるとき、メトホルミンは15、29、および43日目に血糖値を約31.8%、12.8%、および12.8%低下させたことが明らかになった(すなわち列C)。R-VPMの効果に関しては、血糖値は対照よりもさらに高く(列D対列A)、血糖値の低下は観察されず(すなわち列E)、15mg/kg、bidの用量の(R)-(+)-ベラパミルHClは処置効果を有さないことを示した。これに対し、R-VPMおよびメトホルミンの併用処置の結果として、15、29、および43日目に血糖値が約42.5%、35%、および47.6%低下し(列H)、これはメトホルミン単独およびR-VPM単独によって得られる血糖変化の合計よりもかなり低かった(列H対列F)。まとめると、このデータは、R-VPMおよびメトホルミンの併用処置が糖尿病動物の血糖値を相乗効果的に低下させ得ることを示唆しており、その低下は対照(すなわち列F)の約1.44、4.61、および2.45倍であった(すなわち列I)。
【0110】
メトホルミンと、より高用量の(R)-(+)-ベラパミルHClとの併用処置についても、血糖値の低下に対する類似の相乗効果が観察され、その低下はそれぞれ30mg/Kg、bidのR-VPMに対して対照(列F、表2)の約1.11、1.49、および1.52倍(列I、表2)であり、50mg/Kg、bidのR-VPMに対して対照(列F、表3)の約1.17、1.24、および1.30倍(列I、表3)であった。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
2.2 糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベル
本研究においては、別の一般的指標である、ある持続時間にわたる平均血糖値を反映する糖化ヘモグロビン(HbA1c)も測定した。HbA1cは、身体全体に酸素を運ぶ赤血球内のタンパク質であるヘモグロビンが血中のグルコースと結合して「糖化」されるときに発生する。ヒト体内の赤血球は再生まで約8~12週間残存するため、HbA1cのレベルはこうした期間の平均血糖値の全体像を与える。
【0115】
図4を参照すると、これはNIDDMマウスのHbA1cレベルに対するメトホルミン、(R)-(+)-ベラパミルHCl(R-VPM)、またはそれら両方の効果を示す。メトホルミンはHbA1cレベルを有意に低下させることが見出され、R-VPMは15mg/Kg、bidの用量では効果を有さず、30mg/Kg、bidの用量ではわずかな低下が観察された。しかし、実施例2.1における知見と同様に、メトホルミンおよびR-VPMによる併用処置は、NIDDMマウスのHbA1cレベルの相乗効果的低下を生じた。表4にまとめたとおり、15mg/Kg、bid(R)-(+)-ベラパミルとメトホルミンとの併用処置の結果として、メトホルミン単独およびR-VMP単独によって得られるHbA1c変化の合計(列F、表4)と比較して15、29、および43日目にそれぞれ1.56、11.94、および3.84倍(列I、表4)のHbA1cレベル低下が見出された。表5および表6においても類似の知見が見出され、その低下はそれぞれ30mg/Kg、bidのR-VMPに対して対照(列F、表5)の約1.45、6.71、および1.13倍(列I、表5)であり、50mg/Kg、bidのV-RMPに対して対照(列F、表6)の約1.10、2.92、および1.41倍(列I、表6)であった。
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
作業実施例の知見をまとめると、(R)-(+)-ベラパミルHCl単独(≧25mg/Kg、bid)は血糖値の低下に有効であるため、糖尿病の処置に対して有用である。最も驚くべきことは、メトホルミン(300mg/Kg)と(R)-(+)-ベラパミル(≧15mg/Kg、bid)との併用処置が、血糖値および長期の糖尿病指標であるHbA1cのレベルの相乗効果的低下を生じることである。したがって(R)-(+)-ベラパミルは、真性糖尿病および/またはそれに関係する障害を処置するための血糖低下剤の開発に対するリード化合物としての使用に好適である。
【0120】
上記の実施形態の説明は単なる例として与えられるものであり、通常の当業者によりさまざまな変更がなされてもよいことが理解されるだろう。上記明細書、実施例、およびデータは、本発明の例示的実施形態の構造および使用の完全な説明を提供するものである。上記においては本発明のさまざまな実施形態がある程度詳細に、または1つもしくはそれ以上の個々の実施形態を参照しながら説明されているが、通常の当業者は本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、開示される実施形態に多数の変更を加えることができる。
図1
図2
図3
図4