(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】クレーンを使用して吊荷を移動させる方法
(51)【国際特許分類】
B66C 23/88 20060101AFI20230421BHJP
B66C 13/48 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
B66C23/88 D
B66C23/88 E
B66C13/48 J
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018164934
(22)【出願日】2018-09-03
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】10 2017 120 613.2
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597120075
【氏名又は名称】リープヘル-ヴェルク エーインゲン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Liebherr-Werk EhingenGmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン アンドレアス
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101723248(CN,A)
【文献】国際公開第2014/046213(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0345857(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0345938(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015118434(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0089032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/88
B66C 13/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーン制御部と、作業計画プログラムと、吊荷を掛けるフックブロックとを備え、前記吊荷を移動させる展開場所に移動して展開可能なクレーンを使用して吊荷を移動させる方法であって、
(1)前記クレーン制御部が、前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記クレーンにおいて
前記クレーンの位置及び配向を示す原点座標系を設定する工程と、
(2)前記クレーン制御部が、前記作業計画プログラム上で、前記吊荷を移動させる
前記クレーンの展開場所に少なくとも暫定的に
固定された、前記吊荷を移動させるときに避けるべき少なくとも1つの障害物に関する少なくとも1つの障害物座標系を設定する工程と、
(3)前記クレーンが前記展開場所に位置決めされた後、前記クレーン制御部が、前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記原点座標系
と、前記少なくとも1つの障害物座標系
の障害物における基準面とを空間的に関係付ける工程と、
(4)前記クレーン制御部が、前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記少なくとも1つの障害物座標系を利用して
、前記吊荷が掛けられたフックブロックの移動経路を事前設定する工程と、
(5)前記クレーン制御部が、前記移動経路を、
前記フックブロックの動きと吊荷重に対応するように、前記
少なくとも1つの障害物座標系
での直線移動を、前記クレーンの軸及びアクチュエータに対応するアクチュエータ制御に変換
する工程とを備え
、
前記原点座標系と前記少なくとも1つの障害物座標系との関係付けは、前記フックブロック又は前記少なくとも1つの障害物座標系を前記少なくとも1つの障害物の少なくとも1つの地形的及び構造的特徴と調整することを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、移動対象である前記吊荷の位置及び、
配向を、前記
少なくとも1つの障害物座標系において検出する工程をさらに含む
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記吊荷を移動させるための
、前記クレーン制御部による前記アクチュエータ制御は、
起伏動作を個別に又は共通して行うこと、
吊上げ動作を個別に又は共通して行うこと、
前記クレーンの上部構造体の旋回を個別に又は共通して行うこと、及び、
クレーンブームの伸縮動作を行うこと
のうちの少なくとも1つを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法において、
変換対象の前記移動経路を複数のアクチュエータ制御
を用いて実現可能であるときは、
前記フックブロックの移動に関連する前記クレーンのアクチュエータ制御は
、予め定められた移動時の最大吊上荷重、最高速度、及び/又は、最小エネルギー消費量
に基づいて
行われる
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記原点座標系を、さらに
前記作業計画プログラム上で前記クレーンに固定的に関連付け、
前記原点座標系と前記
少なくとも1つの障害物座標系との空間的関係を、クレーン制御部
が認識し、
前記原点座標系
を前記クレーンの旋回ベアリングの中心に位置
付ける
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記作業計画プログラム上で前記クレーンの前記フックブロックに固定的に関連付けられたフックブロック座標系をさらに設定し、
前記フックブロック座標系の移動及び回転を逆算して、
前記作業計画プログラム上で前記クレーンに固定的に関連付けられた原点座標系を求める
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、ブーム上端部に配置したカメラを使用して
、前記
少なくとも1つの障害物座標系を検出し、
前記フックブロック座標系を、
前記
少なくとも1つの障害物座標系に位置合わせして重畳し、前記
少なくとも1つの障害物座標系
を認識
する
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記展開場所の特徴的目印を利用して、前記フックブロック座標系を前記
少なくとも1つの障害物座標系に位置合わせし、
前記特徴的目印は、
建物の縁部又は前記展開場所における特別な地形的又は構造的目印
を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項
7に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記
少なくとも1つの障害物座標系の原点、及び、
追加的に前記
少なくとも1つの障害物座標系の軸の1点を
認識するために、前記フックブロック座標系の原点を利用して、
前記
少なくとも1つの障害物座標系を検出する
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項
6に記載の方法において、
前記吊荷の移動のために、2基のクレーンによる相吊りを行
うときに、
前記2基のクレーンの
前記クレーン制御部が、それぞれの
前記クレーンの原点座標系を、
単一の共通の障害物座標系に伝送
して前記共通の障害物座標系に位置決め又は組み込む
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の方法において、
一方のクレーンの前記クレーン制御部が、前記吊荷の移動の前に、前記2基のクレーンをデータリンクを介して接続し、前記データリンクを使用して、前記
共通の障害物座標系における一方のクレーンのフックブロック座標を、他方のクレーン
のクレーン制御部に伝送
して前記共通の障害物座標系に位置決め又は組み込む
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項
11に記載の方法において、
前記他方のクレーン
の前記クレーン制御部が、前記他方のクレーンのフックブロックの位置を、前記一方のクレーンのフックブロックの
前記共通の障害物座標系における座標、及び、前記吊荷の所望の配向に応じて動かす
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項
5に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記クレーンに設けられた無線GPS受信機
が少なくとも1つの障害物に配置された無線GPS送信機
の信号を受信して
、前記
少なくとも1つの障害物座標系を検出し
、前記
少なくとも1つの障害物座標系の配向と位置
を導出
する
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか1項に記載の方法において、
前記クレーン制御部が、前記吊荷の移動経路の特定よりも前に、前記クレーンを前記
少なくとも1つの障害物座標系に配置し、
前記移動経路の特定の後に、所望の移動経路について、前記クレーンの吊上荷重の計算をさらに行
う
ことを特徴とする方法。
【請求項15】
作業計画プログラムと、吊荷を掛けるフックブロックとを備え、前記吊荷を移動させる展開場所に移動して展開可能な吊荷を移動させるためのクレーンと、
前記クレーンのアクチュエータを制御するためのクレーン制御部と、
を備え、
前記フックブロックが、前記作業計画プログラム上で前記クレーンの展開場所に固定的に関連付けされた、空間的に固定された障害物座標系において、前記クレーンの位置と配向とを検出及び決定するための座標系検出
装置を備え、
前記クレーン制御部は、
(1)前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記クレーンにおいて前記クレーンの位置及び配向を示す原点座標系を設定する工程と、
(2)前記作業計画プログラム上で、前記吊荷を移動させる前記クレーンの展開場所に少なくとも暫定的に固定された、前記吊荷を移動させるときに避けるべき少なくとも1つの障害物に関する少なくとも1つの障害物座標系を設定する工程と、
(3)前記クレーンが前記展開場所に位置決めされた後、前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記原点座標系と、前記少なくとも1つの障害物座標系の障害物における基準面とを空間的に関係付ける工程と、
(4)前記クレーンのユーザの入力に基づいて、前記少なくとも1つの障害物座標系を利用して、前記吊荷が掛けられたフックブロックの移動経路を事前設定する工程と、
(5)前記移動経路を、前記フックブロックの動きと吊荷重に対応するように、前記少なくとも1つの障害物座標系での直線移動を、前記クレーンの軸及びアクチュエータに対応するアクチュエータ制御に変換する工程と
を行うよう構成されており、
前記クレーン制御部は、前記クレーンの前記障害物座標系における検出された位置及び方向に基づいて前記吊荷を移動させるように構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項15に記載の装置において、
前記クレーン制御部は、
前記障害物座標系において
前記クレーンの位置と配向を検
出した後に、前記障害物座標系において検出された吊荷について、吊上荷重を計算するよう構成されている
ことを特徴とする装置。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の装置において、
変換対象の前記移動経路を複数のアクチュエータ制御を用いて実現可能であるときは、前記フックブロックの移動に関連する前記クレーンのアクチュエータ制御は、予め定められた移動時の最大吊上荷重、最高速度、及び/又は、最小エネルギー消費量に基づいて行われる
ことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンを使用して吊荷を移動させる方法、及び、この目的のための対応するクレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンを使用して、クレーンフックに掛けられた吊荷を、建物の縁部などの障害物を迂回させて誘導することは困難である場合が多い。このとき、具体的には、フックを直線移動させることが必要であることが多い。直線移動の際には、オペレータは、複数のクレーンアクチュエータを異なる速度で同時に制御しなければならない。ほとんどの場合、これは、熟練のクレーンオペレータにしかできないが、通常は、熟練オペレータにとっても難易度の高い作業である。フックとそこに掛けられた吊荷を直線移動させるためには、起伏動作、吊上げ動作、クレーンの上部構造体の旋回、及び、クレーンのブームの伸縮動作が同時に必要となり得る。直線移動は、上記の各種動作を同時に制御することによって吊荷の高さを一定にして行われ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、典型的にはクレーンの展開場所において、フックを使用した状態で障害物を迂回する移動のときに行われる、このような直線移動を、経験の浅いクレーンオペレータにも行えるようにして、吊荷の困難な移動を遅滞なく行うこと及びクレーンに関係する作業手順のスピードアップを実現可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題は、請求項1の構成を全て含む方法により解決される。
【0005】
クレーンを使用して吊荷を移動させるための本発明に係る方法では、クレーンにおいて原点座標系を設定し、吊荷を移動させる展開場所に固定的に関連付けられた障害物座標系を設定し、少なくとも1つの上記障害物座標系と上記原点座標系との関係を規定し、好ましくは吊荷が掛けられたフックブロックの移動経路を事前設定し、この移動経路を障害物座標系からクレーンのアクチュエータ制御に変換して、吊荷を移動経路に対応させて移動させる。
【0006】
このとき、上記の空間的に固定された障害物座標系を利用して、すなわち、タッチディスプレイからの入力等によって、吊荷の移動経路を事前設定することが有利である。これにより、速度が様々に異なる複数のクレーン駆動部の並行制御パルスを入力する必要がなくなる。個々の制御パルスは、障害物座標系からの変換を利用して得られる。障害物座標系からの変換によって、空間的に固定された障害物座標系において対応する移動を実現するための、クレーンの複数のアクチュエータのアクチュエータ制御が実現される。また、吊荷の複雑な移動も可能である。なぜなら、空間的に固定された障害物座標系を利用した移動経路の入力は、経験の浅いクレーンオペレータにも理解しやすいからである。したがって、例えば、クレーンの展開場所の鳥瞰図から所望の移動経路を入力することができる。
【0007】
移動対象の吊荷の位置及び、好ましくは、さらには配向を、障害物座標系において検出してもよい。
【0008】
本発明の有利な変形例では、吊荷を移動させるためのアクチュエータ制御は、起伏動作を個別に又は共通して行うこと、吊上げ動作を個別に又は共通して行うこと、クレーンの上部構造体の旋回を個別に又は共通して行うこと、及び、クレーンブームの伸縮動作を行うことのうちの少なくとも1つを含む。
【0009】
本発明は、上述の例示的なクレーンの動作に限定されず、列挙されていないクレーンの動作及び制御指令をさらに包含する。ただし、上述の例示的なクレーンの動作が、吊荷の移動には好適である。当業者には明らかなように、吊荷の移動のために利用されるべきクレーンの自由度の全てを利用可能である。
【0010】
本発明の方法によれば、さらに、移動経路を複数のアクチュエータ制御群で実現するときは、最終的なアクチュエータ制御群は、好ましくは最大吊上荷重、最高速度、及び/又は、最小エネルギー消費量を含む仕様に基づいて得られる。
【0011】
したがって、変換対象の移動経路を、クレーン動作の様々な組み合わせによって実施可能な場合がある。このような曖昧さを解消するために、仕様に対して最適化されているとともに、例えば、許容荷重が最大であるか又は移動速度が最速である移動経路を選択する。
【0012】
本発明の方法によれば、原点座標系は、さらに、クレーンに固定的に関連付けられており、原点座標系と障害物座標系との空間的関係が、クレーン制御部に通知されてもよい。ここで、原点座標系は、好ましくは、クレーンの旋回ベアリングの中心にあってもよい。
【0013】
障害物座標系に対する、原点座標系(すなわち、クレーンの位置及び配向)の空間的関係が、クレーン制御部に通知されると、クレーン制御部は、クレーンの位置と配向とを障害物座標系に変換することができる。したがって、障害物座標系は、クレーン及び吊荷の環境の特別な地形的及び構造的特徴に加え、クレーン自体も含み、吊上荷重の計算等を簡単な方法で行うことができる。これは、障害物座標系では、関係する全ての物体の位置と配向がわかっているからである。
【0014】
さらに、クレーンのフックブロックに固定的に関連付けられたフックブロック座標系を設定し、フックブロック座標系の変位及び回転を逆算すると、クレーンに固定的に関連付けられた原点座標系が算出されることが好ましく、これはクレーン制御部により行われることが好ましい。クレーン制御部がアクチュエータの位置決めを行うので、フックブロック座標系を常時クレーンの原点座標系に空間的に関係付けすることができる。このため、フックブロック又はフックブロックに関連付けられたフックブロック座標系を利用して、障害物座標系の特定の特徴点へ移動することができ、したがって、簡単な方法で、障害物座標系の1つ又は複数の特徴点をクレーン制御部に通知することができる。複数の移動式クレーンを利用して、クレーン制御部に障害物座標系が正確に含まれるようにすることもできる。これは、例えば、障害物座標系の原点の特徴点(例えば、建物の縁部、等)の鉛直上方にフックブロックを配置することにより実現される。クレーン制御部は、必要な情報を受信し、このフックブロック位置に必要なクレーン制御についての認識を利用して、クレーンに固定的に関連付けられた原点座標系に、障害物座標系を正確に位置決め又は組み込む。フックブロックを使用した障害物の較正は、クレーンに最初に存在する原点座標系で行う。障害物の較正の結果得られる障害物座標系は、したがって、原点座標系に関係しており、原点座標系に組み込むことができる。
【0015】
また、カメラを使用して、クレーン制御部(又は、原点座標系)において、障害物座標系を設定し又は認識させ、一方、フックブロック座標系を、クレーンにとっては未知の障害物座標系に好ましくは位置合わせして重畳させて、この障害物座標系を、クレーンのクレーン制御部に認識させるようにしてもよい。オペレータの入力によってフックブロック座標系が正しい位置にあり、かつ、正しく位置合わせされている場合、フックブロック座標系がとる位置とアラインメントを、障害物座標系の原点として決定することができ、オペレータによる別の入力によって原点座標系に組み込むことができる。カメラを利用することで、障害物座標系の特徴的目印に設定された障害物座標系原点が、フックブロック座標系の原点と一致しているかどうかについての概要を迅速かつ簡単に得ることもできる。障害物座標系の配向も、展開場所の特徴的目印を利用して(例えば、建物の縁部又は角部を利用して)決定されているので、障害物座標系をクレーン制御部に明確に通知できる。
【0016】
本発明の方法の好適な実施形態では、認識されたフックブロック座標系が、画面に表示されたカメラ画像に再現される。この再現された座標系は、好ましくはボタン操作によるユーザの入力によって、適切に回転及び移動される。正しい位置にある場合は、座標系が障害物座標系となる。これは、フックブロック座標系の現在位置(好ましくは、配向及び位置)を、ユーザによる入力によって障害物座標系の原点として決定し、障害物座標系を原点座標径に固定的に配置することによって実現することが好ましい。
【0017】
本発明の方法によれば、したがって、好ましくは建物縁部又は他の特別な地形的若しくは構造的特徴である、展開場所の特徴的目印を利用して、フックブロック座標系を障害物座標系に位置合わせすることがさらに可能である。吊荷が迂回すべき障害物を、この目的で利用することが好ましい。したがって、クレーン制御部は、クレーンをその原点座標系とともに、障害物座標系に組み込み、変換を利用して障害物座標系に入力された吊荷の所望の移動を実現することができる。障害物座標系は、好ましくは、現場設計図及び/又は建設現場設計図に対応する。
【0018】
障害物座標系の原点、及び、障害物座標系の軸の1点(例えば、2Dシステム又は3Dシステムでは、2本の軸における各1点)をクレーン制御部に認識させるために、フックブロック座標系の原点を利用して、クレーン制御部において障害物座標系を検出する。これにより、障害物座標系の配向及び位置は、クレーン制御部に明確に伝達される。
【0019】
さらに、無線GPS送信機を使用して、クレーン制御部において障害物座標系を検出するようにしてもよい。無線GPS送信機は、クレーンに設けられたクレーン制御部のGPS受信機と協働して、障害物座標系の配向と位置に係る結論の導出を可能にする。
【0020】
本発明の方法の別の任意の実施形態では、クレーンオペレータによる吊荷の移動経路の特定よりも前に、クレーンを障害物座標系に配置し、吊荷の移動経路を特定した後に、所望の移動経路についてクレーンの吊上荷重の計算をさらに行う。このプロセス中に、障害物座標系におけるクレーンの正確な位置を、クレーン制御部に認識させることができるので、計画又は予測された予想クレーン位置には基づかない現状に適用可能な吊上荷重計算を行うことも可能となる。吊上荷重の計算のために事前に使用された建設現場におけるクレーンの位置まで正確に移動する必要もない。
【0021】
本発明の方法によれば、さらに、吊荷の移動のために、2基のクレーンによる相吊りを行うことができる。2基のクレーンのそれぞれの原点座標系を、好ましくは上述の変形例のうちの1つによって、単一の共通の障害物座標系において使用する。
【0022】
ここで、吊荷の移動の前に、2基のクレーンをデータリンクを介して接続し、このデータリンクを使用して、(好ましくは障害物座標系における)一方のクレーンのフックブロック座標を、他方のクレーンに伝送する。したがって、他方のクレーンはその動作を、一方のクレーンのフックブロック座標に整合させることができる。
【0023】
好ましくは、他方のクレーンは、そのフックブロックの位置を、第1のクレーンのフックブロックの障害物座標系における座標、及び、吊荷の所望の配向に応じて動かす。
【0024】
本発明は、特に上記の変形例のうちの1つに記載の方法を実施するための装置をさらに包含する。この装置は、吊荷を移動させるためのクレーンと、アクチュエータを制御するためのクレーン制御部と、クレーンの展開場所に固定的に関連付けられた、空間的に固定された障害物座標系におけるクレーンの位置と配向とを検出及び決定するための座標系検出手段とを備え、クレーン制御部は、障害物座標系において検出されたクレーンの位置と配向とに基づいて、吊荷を移動させるよう構成されている。
【0025】
クレーン制御部は、空間的に固定された障害物座標系においてクレーンの位置と配向とを検出及び決定した後に、障害物座標系において検出された吊荷又は吊荷の移動について、吊上荷重を計算するよう構成されていることが好ましい。
【0026】
ここで、座標系検出手段は、クレーンの座標系に対する正確な位置及び配向がクレーン制御部に認識されているフックブロックであってもよい。原点座標系は、クレーンに固定的に関連付けられ、また、典型的には旋回ベアリングの中心にある。クレーンの長手方向の長さがY軸に平行であり、クレーンの幅方向がX軸に平行である。
【0027】
原点座標系に、複数の障害物座標系を保存することも可能であることが、当業者には明らかである。
【0028】
さらに、「障害物座標系」は、例えば、吊荷を載置するためのローローダーのような、実用的な障害物座標系であってもよい。ここで、障害物座標系は、建設現場の任意の点にあってもよく、又は、原点座標系にあってもよい。したがって、障害物座標系が指示する障害物は特に限定されない。
【0029】
本発明のさらなる利点、特徴、及び詳細は、以下の図面の説明を参照することにより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】クレーンの複数の座標系を表わす概略図である。
【
図3】相吊り作業における移動の概要を示す概略図である。
【
図4A】クレーン作業において、障害物座標系を設定するための第1の実施可能態様を示す。
【
図4B】クレーン作業において、障害物座標系を設定するための第1の実施可能態様を示す。
【
図4C】クレーン作業において、障害物座標系を設定するための第1の実施可能態様を示す。
【
図5】障害物座標系を設定するための第2の実施可能態様を示す。
【
図6】障害物座標系を設定するための第3の実施可能態様を示す。
【
図7A】障害物座標系を設定するための第4の実施可能態様を示す。
【
図7B】障害物座標系を設定するための第4の実施可能態様を示す。
【
図8A】吊荷を移動させるための計画工程を表わす図である。
【
図8B】吊荷を移動させるための計画工程を表わす図である。
【
図8C】吊荷を移動させるための計画工程を表わす図である。
【
図9A】吊荷を吊り上げるための配置を表わす図である。
【
図9B】吊荷を吊り上げるための配置を表わす図である。
【
図9C】吊荷を吊り上げるための配置を表わす図である。
【
図10A】障害物座標系において吊荷を吊り上げるための個々の工程を表わす図である。
【
図10B】障害物座標系において吊荷を吊り上げるための個々の工程を表わす図である。
【
図10C】障害物座標系において吊荷を吊り上げるための個々の工程を表わす図である。
【
図10D】障害物座標系において吊荷を吊り上げるための個々の工程を表わす図である。
【
図11A】本発明に係る相吊りでの吊荷の移動を表わす概略図である。
【
図11B】本発明に係る相吊りでの吊荷の移動を表わす概略図である。
【
図11C】本発明に係る相吊りでの吊荷の移動を表わす概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、障害物の縁に沿って吊荷を直線移動させる様子を表わす概略図である。ここでは、クレーンオペレータは、矢印が示す方向を決定するとともに、必要に応じ移動速度を決定する。そして、制御部が、フック又は吊荷を直線移動させるためには、クレーンの個々の軸及びアクチュエータをどのように制御すべきかを計算する。円形やフリードロー線のような非直線移動経路での移動も自動で行い得ることが、当業者には明らかである。例えば、起伏動作又はその代わりに伸縮動作によって移動経路を実現可能である場合のように、移動経路を実現するための複数の解決手段が制御部により見出された場合には、このような曖昧さは事前定義可能な仕様に基づき解消できる。例えば、とりわけ、移動時の最大吊上荷重、最高移動速度、又は、最小エネルギー消費量に基づいて、このような曖昧さを解消することができる。
【0032】
図1には、さらに、クレーンの原点座標系も示されている。ここでは、クレーンの長手方向軸がこの座標系のY軸に対応する。座標系の原点は、典型的には、クレーンの上部構造体の回転軸に位置する。
【0033】
クレーンの制御部において行われる変換によって、障害物座標系での直線移動が、クレーンの軸及びアクチュエータの対応する制御に変換される。この変換では、典型的には、座標変換手段及び座標系変換手段を利用する。
【0034】
図2は、クレーン又はその環境における複数の座標系を表わす概略図である。空間的に固定された障害物座標系120は、その地形的又は構造的特徴のせいで吊荷の移動を困難にすることが多い。このような障害物座標系120は、典型的には、クレーンの展開場所、すなわち、建設現場等にある。
【0035】
さらに、クレーン側原点座標系がある。この座標系の原点は、原則として、旋回ベアリングの中心に位置する。フックブロックの配向と配置に応じて移動可能なフックブロック座標系130は、
図2における第3の座標系として認められる。なお、フックブロック座標系130の移動及び回転を原点座標系100へ変換することは、クレーン制御部がセンサシステムと要素の配置とに基づいて計算する。センサシステムと要素の配置とは、ともに、クレーン制御部に認識されている。したがって、動作中は常時、原点座標系100に対するフックブロック座標系130の空間的関係が、クレーン制御部により認識されている。
【0036】
ここで、障害物座標系の組み込みは、クレーン制御部にとってより大きな問題である。なぜなら、この座標系の原点が、展開場所でのクレーンの位置に応じて、その配向と位置を変化させるからである。事前に計画された建設現場におけるクレーンの位置は、後の実施とは常に異なる。一般に認められているように、予め計測された地点にクレーンを配置するよう試みることは可能である。しかし、クレーンの操作性が制限されていること、及び、建設現場の他の空間的制約によって、この試みが成功することは少ない。さらには、クレーンの位置をこのように正確に特定化することは、非常に面倒で、長時間を要することがある。
【0037】
したがって、クレーンを位置決めした後、実際のクレーンの展開場所において、クレーン制御部に障害物座標系120を認識させて、原点座標系を障害物座標系120に空間的に関係付けることが必要である。ここで、クレーン(又は原点座標系)の位置が変更された場合には、クレーン制御部において、障害物座標系120を再設定しなければならない(又は、障害物座標系の配向及び位置をクレーン制御部に認識させなければならない)。
【0038】
障害物座標系120を利用することは、直線に沿った移動を行う必要があるときに特に有利である。
【0039】
図2を参照して示したように、全ての座標系がクレーン制御部に認識されている場合には、障害物座標系において、フックブロックを(障害物座標系の)Y方向に-12mの距離、続いて、(障害物座標系の)X方向に+5mの距離だけ簡単に移動させることができる。ここで、フックブロックは、各種クレーン駆動部によって、障害物座標系において現在位置から上記の距離を移動する。三次元空間においてもこの移動は可能であることが、当業者には明らかである。この場合には、このために必要なZ軸をX軸及びY軸に追加する。
【0040】
その代わりに、フックブロックの移動運動が通過すべき、障害物座標系における絶対点を指定することも可能である。したがって、例えば、2つの空間点を設定してもよい。この空間点は、フックブロックから所望の移動目標地点まで延びる、移動を表わす2本の矢印の先端に位置する。
【0041】
図3は、少なくとも2基のクレーンを使用して行う、複数のクレーンホイストを考慮した相吊り作業を表わす概略図である。この場合、2基のクレーンが同一の障害物座標系を利用できると有利である。このようにすれば、1人のオペレータによって、これらの複数基のクレーンの制御を障害物座標系において非常に簡単に行える。このオペレータは、制御対象のクレーンの配向を知っていなくてもよい。本発明を利用することにより、困難な移動経路を相吊り作業において実現でき、必要なリード時間も大幅に短縮される。相吊り作業中にミスを引き起こしやすい、2人のクレーンオペレータによる同時に制御も不要になる。
【0042】
図4A~
図4Cには、クレーン作業において障害物座標系を設定するための実施可能形態を示す。ブーム上端部にはカメラが配置されており、このカメラは、ブーム上端部から地面への方向に下方に向けられている。フックブロックの位置及び配向、又は、フックブロックに固定的に関連するフックブロック座標系の位置及び配向は、このカメラ画像をクレーン制御部へ伝送することによって認識できる。クレーン制御部を介して、フックブロック座標系又はフックブロック自体を展開場所において位置決めできる。この位置決めは、障害物座標系に関連するとともに障害物座標系の原点となるクレーン展開場所の特徴的目印にフックブロック座標系又はフックブロックの位置が、上下に一致するか又は重畳するように行う。そして、フックブロックの位置が、クレーン制御部に伝達される。
【0043】
図4Cの太い矢印は、障害物の縁部に配置された障害物座標系をフックブロック座標系とできるだけ一致させてマッピングして、原点座標系において障害物座標系を較正するために、フックブロックが辿るべき経路を示す。ここでは、既知のフックブロック座標系が、画面に表示されたカメラ画像に再現されている。この再現された座標系は、ユーザによる入力(例えば、ボタン操作等)によって、適切に回転及び移動される。正しい位置(具体的には、障害物座標系がすでに図として表示されている障害物の角部)に来ると、ユーザの再度の入力によって、この座標系が障害物座標系になる。そして、施工計画書又は作業計画を介して、障害物座標系に関連する障害物(建物や特別な地形的特徴など)がクレーン制御部により認識される。その結果、クレーン制御部のタッチパネルを介して、可能な移動経路を自由曲線として入力できるようになる。移動経路は、クレーン画像に指で描かれる。添付の図面では、このようにして描かれる移動経路は、事前設定されたクレーンの設置高さにのみ関連する。これは、カメラ自体には、高さを検出することはできないからである。ただし、例えば、高度センサを設けて、高さを検出できるようにしてもよい。
【0044】
ここで、クレーン又は原点座標系を障害物座標系において統合する。この統合は、位置及び配向についてフックブロック座標系が障害物座標系に重畳された、先ほどのフックブロックの位置を逆算することにより行う。
【0045】
図5には、クレーン制御に障害物座標系を認識させるための第2の実施可能形態を示す。この目的のために、ここでも、フックブロック座標系の原点を伴った、障害物座標系の原点への移動を行う。このとき、これら2つの座標系の配向は互いに一致しなくてもよい。クレーン制御部にはこの状態が伝送される。次の第2工程では、障害物座標系のX軸上の1点が選択され、この1点も同様にクレーン制御部に伝送される。3Dシステムでは、障害物座標系のY軸上の1点について同じことが別の工程において行われ、これに基づき、クレーン制御部が、障害物座標系の正しい配向と位置とを計算することができる。
【0046】
図6には、クレーン制御部に障害物座標系を認識させるための第3の実施可能形態を示す。本実施形態では、クレーンに無線送信を行う少なくとも1つのGPS送信機200が使用される。GPS送信機200は、建設現場の所定の地点において少なくとも部分的に能動である。同様に、クレーン自体も少なくとも1つのGPS受信機200を有する。GPS受信機200は、障害物に配置されたGPS送信機の信号を受信するよう構成されている。これによって、障害物座標系120について結論を導出できる。この目的には、GPSだけでなく、全ての汎地球測位システムが適切であることが当業者には明らかである。
【0047】
クレーンの携帯型無線リモコンのコンパスを使用して、障害物座標系の配向及び原点座標系をクレーン制御部に認識させることもできる。例として、
図7A及び
図7Bを参照してこれを説明する。ここで、無線リモコンにインストールされたコンパスを、同様にクレーンに配置されたコンパス302と相互作用させて、地理上の北に対するクレーンの旋回とリモコンの回転を判定するために使用する。これは、例えば、次のようにして行うことができる。リモコンを、基準面301が障害物の所望の縁部315に対して平坦(又は、平行)となるように持つ。次いで、ボタン操作によって回転角を保存する。これにより、クレーンに対する回転と地理上の北に対する保存済みの回転角とを利用して、これら2つの間の回転を計算できる。
【0048】
したがって、マスタースイッチによって、保存された位置のX又はYにおける相対的移動を行うことができる。ただし、2つの座標系の移動についての情報は何ら認識されていないので、これは絶対的移動を行えない。したがって、クレーン制御部において、障害物座標系も位置及び配向を伴っては存在しない。
【0049】
本発明は、障害物座標系を設定する又は認識させるための上記の実施可能形態のうちの複数の使用も包含する。
【0050】
図8A~
図8Cには、計画段階において吊荷を移動させる手順を示す。障害物座標系は、PC又はクレーン制御部で実行可能な作業計画において設定される(
図8Aを参照)。図示されている枠は、ここでは、作業計画プログラムが表示されていることを表わすものとする。
【0051】
この目的のために、障害物座標系を、クレーンの展開場所のできるだけわかりやすい1点に位置合わせする必要がある。こうすることにより、後の手順において、クレーンが実際に建設現場にあるときに、フックブロックを利用して、障害物座標系の原点を比較的簡単に重畳させることができる。この例では、矩形の障害物があり、その1辺が障害物座標系の原点となる。ここでは、矩形の2辺のうち長辺がY軸に等しく、短辺がX軸に等しい。よって、建設現場の特徴的な位置を利用することにより、後の較正が容易になる。ここでは、建物の角部又は縁部が特に適切である。
【0052】
作業計画プログラムでは、障害物に対する吊荷の位置をさらに設定可能である。
【0053】
図8Bには、作業計画プログラムでのクレーンの位置決めを示す。
【0054】
この工程に続いて、クレーンの移動経路及び別の中間点(吊荷の取付、吊荷の回転、等)が設定される。中間点の設定は、タッチスクリーン又は他の入力手段によって行える。このようにして提供された情報に基づいて、作業計画において吊上荷重を計算できる。当然のことながら、これは使用されるクレーンの種類に依存する。
【0055】
図8A~
図8Cとは異なり、
図9A~
図9Cには、建設現場におけるクレーンの実際の位置が示されている。実際の位置は、作業計画プログラムでの予定位置とは違っていることがわかるが、この違いは、本発明の使用にあたっては何ら問題にならない。
図9Bには、上記の実施可能形態のうちの1つを使用した、障害物座標系の較正を示す。これによって、クレーン制御部は、障害物座標系と固定的に関係付けられた建設現場図のどこにクレーンを配置すべきかを認識する。障害物座標系においては、吊荷も指示されるので、吊上荷重を再計算することができる。再計算の結果は、当然、計画段階で行われた吊上荷重計算とは異なる。
【0056】
吊上荷重の計算が完了して、肯定的な結果が出ると、クレーンオペレータは、フックブロックを吊荷移動の始点に自動で移動させる。この間、オペレータは、マスタースイッチを使用して、速度調節及び障害物との予期せぬ衝突がないかのチェックのみを行う。フックブロックが、移動対象の吊荷の上方に到達すると、吊荷が取り付けられる。クレーンオペレータは、移動経路を選択し、自身で制御することによって速度を指定する。選択された経路における移動は、半自動で又は全自動で所定速度で行われる(
図9C参照)。
【0057】
【0058】
ここでも、最初に、建設現場の環境が作業計画プログラムに示される(
図10A~
図10Dを参照)。図示されている枠は、ここでは、作業計画プログラムが表示されていることを表わすものとする。さらに、吊荷の位置と配向を座標系によって設定する必要がある(
図10A参照)。建設現場には、さらに、迂回対象の障害物がある。したがって、障害物座標系を設定することが適切である。ここでも、建設現場の特徴的な点を使用することにより、クレーン制御部における障害物座標系の較正が容易になる。クレーンを1基だけ使用した吊上げの場合と同様に、吊荷の移動経路、及び、場合によっては必要な中間点(吊荷の取付、吊荷の回転、等)も、相吊りの次の計画工程において設定しなければならない。これは、プログラム上で吊荷を動かすだけで行うことができる。
【0059】
図11Aは、計画ツールにおける2基のクレーンの配置を示している。ここでも、枠は作業計画プログラムを表わしている。ここで、吊荷の固縛点が設定され、対応するクレーンに付与される。吊上荷重の監視が可能なように、2基のクレーンはさらなる手順を経る。したがって、移動経路中の全ての点において吊荷を所望の配向及び所望の位置で保持できるように、移動の概要がクレーン毎に別々に作成される。
【0060】
このとき、2つの移動経路が互いに依存し合っていることを考慮しなければならない。なぜなら、一方のクレーンの各点において、他方のクレーンが特定の点になければならないからである。クレーンの2つの移動経路が障害物座標系に関連していると、計算と移動経路の入力に有利である。
【0061】
図11B及び
図11Cでは、計画ツールは図示されなくなっており、建設現場での2基のクレーンの実際の配置が表示されている。実際の配置が、計画ツールで設定された通りである必要はない。
【0062】
ここで、2基のクレーンは、障害物座標系について、別々に較正される。この例でも、較正は、この目的のための上述の方法を参照して行われる。各クレーンの計画移動経路について、吊上荷重の再計算を行ってもよい。吊上荷重の計算に問題がなければ、2基のクレーンのフックブロックは、吊荷の上方を移動し、クレーンの各々に吊荷を接続できる位置に到達する。次に、2基を互いに接続して、2基のクレーンを信頼できるデータリンクで繋げる。そして、一方のクレーンオペレータが速度制御を引き継ぐ。好ましくは、他方のクレーンオペレータは、吊荷移動を解除しなければならないようにしてもよい。これは、例えば、いわゆるデッドマンスイッチを利用して行い得る。第2のクレーンオペレータがいわゆるデッドマンスイッチを離すと、2基のクレーンの両方が停止する。
【0063】
クレーンは各種のクレーン駆動部を有するので、最も低速で動くことができるクレーン要素の駆動部が、一連の運動を行う際の最高速度を決定する。
【0064】
そして、第1のオペレータが速度を上げて、第1のオペレータのクレーンが動き始めると、吊荷が移動される。この間、このクレーンが、障害物座標系におけるフックブロックの位置のXーY座標を、他方のクレーンに伝送する。これを受けて、他方のクレーンは、対応する調整を行うことによりこのクレーンのフックブロックの位置を変更し、吊荷を所望の通りに配向及び移動させる。したがって、事前に設定されたように、吊荷がマスタースレーブ動作で移動する。差異が大き過ぎる場合には、2基のクレーンは自動的に停止する。
【0065】
本発明によれば、特に困難な相吊りを確実かつ正確に実施できる。