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特許7266389揚げ物改良用組成物およびこれを用いる揚げ物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】揚げ物改良用組成物およびこれを用いる揚げ物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/10 20160101AFI20230421BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20230421BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20230421BHJP
   A23L 7/157 20160101ALI20230421BHJP
【FI】
A23L5/10 D
A23L29/30
A21D13/60
A23L7/157
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018214352
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020080649
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/065824(WO,A1)
【文献】特開平07-284372(JP,A)
【文献】特開2001-128635(JP,A)
【文献】特開2008-136445(JP,A)
【文献】特開2003-265143(JP,A)
【文献】特開2013-039105(JP,A)
【文献】特開2000-316479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00-5/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴からなる、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物であって、前記還元水飴を、揚げ物の食材、衣または皮に混合して用いることを特徴とする、前記組成物
【請求項2】
デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴からなる、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物(デキストリン還元物水溶液を用いて油ちょう前に揚げ物のブランチング処理を行って用いられるものを除く)
【請求項3】
デキストロース当量が35以上40未満の水飴を還元してなる還元水飴からなる、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物
【請求項4】
さらに、揚げ物の体積を増大させるために用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらに、揚げ物のサクサクした食感を増強させるために用いられる、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記還元水飴の糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~23質量%および四糖以上が55~92質量%である、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の組成物を含む材料を油調する工程を有する、揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物を改良する技術に関する。特に、所定の還元水飴を有効成分とする、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物、揚げ物の体積を増大させるための組成物および揚げ物のサクサクした食感を増大させるための組成物ならびにこれを用いる揚げ物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、高温の多量の油の中で食材を加熱調理してなる食品をいう。揚げ物は、(1)油調過程で油を吸収することにより、コクや風味を得るため、嗜好性が高くなる、(2)高温の油による加熱調理が食材表面の水分を除去すると同時に殺菌効果も奏するため、食中毒を起こしにくい、(3)短時間で調理が完了する、(4)油調過程で油を吸収することにより食品のカロリーが増大するため、満足感が高くなる、などの特徴を有し、外食産業や弁当・総菜、パン・菓子などの食品製造業において重要な地位を占めており、多くの製品が存在する。
【0003】
一方、揚げ物は、油分の含有量が多すぎる場合、油っぽくなり食味が低下する。また、過剰の油分摂取が健康に悪影響を与える虞があり、健康志向の高い消費者から敬遠される懸念もある。さらに、冷蔵ないし冷凍保存後に揚げ物から油染みが生じ、製品の外観および食味に悪影響を与える。また、ドーナツや唐揚げ、天ぷら等の代表的な揚げ物は、サクサクとした食感を有することが嗜好性ないし商品価値を高める上で重要であるが、揚げ物に当該食感を十分に付与できるか否かは、製造者の技量に左右される場合が少なくない。
【0004】
そこで、揚げ物における油の吸収量を低減させる技術や、揚げ物のサクサクとした食感を増強する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、グルコシルセラミドを含有させたフライ用バッターにより、口溶けがよく、サクサク感があり油っぽくなく歯切れがよいフライ食品を製造できることが開示されている。また、特許文献2には、小麦粉からなる衣材、ガルバンゾー、チャナダル、レンズ豆、ムングダル、エンドウから選ばれる粉砕物および水から主になる揚げ物用衣組成物により、サクサク感やカリカリ感が高く、かつ、油の吸収が少ない揚げ物を製造できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4357447号公報
【文献】特許第5414518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のフライ用バッターを用いたフライ食品は、官能評価にて「油っぽくない」ことや、「サクサク感がある」ことを確認しているに過ぎず、実際に油の吸収量が低減されているか、あるいは、食感の改良効果が十分か否かは不明である。また、特許文献2に記載の揚げ物用衣組成物を用いた揚げ物は、特定の豆類の風味が付与され、当該揚げ物本来の風味が損なわれることが懸念される。すなわち、これら先行技術を鑑みても、食品本来の風味を損なうことなく、揚げ物における油の吸収量を効果的に低減する技術、また、揚げ物のサクサクとした食感を効果的に増強する技術は十分に提供されている状況ではない。
【0007】
本発明は、これらの課題を解決するためになされたものであって、食品本来の風味を損なうことなく、揚げ物における油の吸収量を低減する技術、および、揚げ物のサクサクとした食感を増強する技術を提供することを目的とする。また、本発明は、揚げ物の体積を増大させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、低糖化還元水飴が、揚げ物における油の吸収量を低減すること、揚げ物の体積を増大させること、および、揚げ物のサクサクした食感を増強することを見出した。そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る組成物は、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物であって、五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴を有効成分とする。
【0010】
(2)本発明に係る組成物は、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物であって、デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0011】
(3)本発明に係る組成物は、揚げ物の体積を増大させるための組成物であって、五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴を有効成分とする。
【0012】
(4)本発明に係る組成物は、揚げ物の体積を増大させるための組成物であって、デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0013】
(5)本発明に係る組成物は、揚げ物のサクサクした食感を増強させるために用いることができる。
【0014】
(6)本発明に係る組成物において、還元水飴の糖組成は、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~23質量%および四糖以上が55~92質量%であってよい。
【0015】
(7)本発明に係る揚げ物の製造方法は、本発明に係る組成物を含む材料を油調する工程を有する。
【発明の効果】
【0016】
五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴、あるいは、デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴の味は、砂糖の1/3程度の低い甘味である。よって、本発明によれば、食品本来の風味を損なうことなく、揚げ物における油の吸収量を低減することができ、健康的であっさりとした、口当たりがよい揚げ物の製造に寄与することができる。
【0017】
また、本発明によれば、食品本来の風味を損なうことなく、揚げ物の体積を増大させることができる。よって、本発明によれば、外観が良く見栄えが向上した揚げ物や中身がふんわりとして食感が向上した揚げ物の製造に寄与することができる。
【0018】
また、本発明によれば、食品本来の風味を損なうことなく、揚げ物のサクサクとした食感を増強することができる。よって、本発明によれば、クリスピーで良好な食感を有する揚げ物の製造に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】上図は、砂糖(試料1)、高糖化還元水飴(試料2)、低糖化還元水飴(スイートNT)(試料3)および低糖化還元水飴(エスイー100)(試料4)を配合したドーナツを示す写真であり、下図はそれらの体積を示す棒グラフである。
図2】食品試料を圧縮した際の荷重を示す模式図(荷重波形)である。F1は試料が破断するまでの荷重(破断荷重)を示し、F2は試料が破断してからの荷重の減少量(もろさ荷重)を示す。
図3】砂糖(試料1)、高糖化還元水飴(試料2)、中糖化還元水飴(試料3)および低糖化還元水飴(エスイー30)(試料4)を配合したドーナツのもろさ荷重を示す棒グラフである。
図4】低糖化還元水飴(スイートNT)を配合した揚げ玉(試料2)およびこれを配合しない揚げ玉(試料1)のもろさ荷重を示す棒グラフである。
図5】砂糖(試料1)、高糖化還元水飴(試料2)および低糖化還元水飴(スイートNT)(試料3)を配合したドーナツを冷凍後、電子レンジにて再加熱した際のもろさ荷重を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、下記(a)~(d)の組成物を提供する。以下、(a)~(d)の組成物をまとめて「本発明の組成物」または「本発明に係る組成物」という場合がある。
(a)五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴を有効成分とする、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物(油の吸収量低減用組成物)。
(b)デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする、揚げ物における油の吸収量を低減させるための組成物(油の吸収量低減用組成物)。
(c)五糖以上を50質量%以上含む糖組成である還元水飴を有効成分とする、揚げ物の体積を増大させるための組成物(体積増大用組成物)。
(d)デキストロース当量が40未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする、揚げ物の体積を増大させるための組成物(体積増大用組成物)。
【0021】
本発明の組成物は、揚げ物のサクサクとした食感を増強する効果も有する。よって、本発明の組成物は、揚げ物における油の吸収量を低減させるとともに、揚げ物のサクサクとした食感を増強するための組成物(サクサク食感増強用組成物)として用いることができる。また、本発明の組成物は、揚げ物の体積を増大させるとともに、揚げ物のサクサクとした食感を増強するための組成物(サクサク食感増強用組成物)として用いることができる。
【0022】
本発明の組成物はいずれも、所定の還元水飴を有効成分としている。還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種(水飴の還元物)である。ここで、水飴はデンプンを酸や酵素などで糖化して得られるものであり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴も、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0023】
還元水飴は、原料とする水飴の糖化の程度により、高糖化還元水飴(糖組成:単糖が30~50質量%、二糖が20~50質量%、三糖以上が25質量%以下)、中糖化還元水飴(糖組成:単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満)および低糖化還元水飴(糖組成:五糖以上が50質量%以上)に分けられる場合があるが、本発明の組成物が有効成分としているのは、これらのうち、低糖化還元水飴である。低糖化還元水飴のより詳細な糖組成としては、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~23質量%および四糖以上が55~92質量%を例示することができる。
【0024】
なお、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0025】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴や水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;Shodex SUGAR KS-802 HQ(8.0mm ID x 300mm) 2本
溶離液;高純水
流速;1.0mL/分
注入量;200μL
カラム温度;50℃
検出;示差屈折率検出器Shodex RI
【0026】
また、還元水飴が原料とする水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。すなわち、DEが大きい水飴の還元物は高糖化還元水飴であり、DEが小さい水飴の還元物は低糖化還元水飴であるといえる。
【0027】
本発明では、後述する実施例で示すように、DEが40未満の水飴を還元してなる還元水飴(低糖化還元水飴)を用いることにより、揚げ物における油の吸収量を低減することができ、揚げ物の体積を増大することができ、あるいは、揚げ物のサクサクした食感を増強することができる。本発明に係る低糖化還元水飴において、原料とする水飴のDE値は、より好ましくは、1以上40未満、5以上40未満、5以上35以下、10以上40未満、10以上35以下、15以上40未満、15以上35以下などを例示することができる。
【0028】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDE値を求める。
式1:DE = (b-a)×f×3.602/(1/1000)/(200/10)/{A×(100-B)/100}×100
a:滴定値(mL)、b:ブランク値(mL)、f:チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター値、A:試料の秤取量(g)、B:試料の水分値(%)
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0029】
本発明において、低糖化還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。低糖化還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる、五糖以上が50質量%以上の糖組成の水飴あるいはDEが40未満の水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0030】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の低糖化還元水飴を作ることができる。
【0031】
本発明において、揚げ物とは、高温の多量の油の中で食材を加熱調理してなる食品をいう。揚げ物は、食材を、衣が無い状態で油で揚げたもの(素揚げ;油揚げ、厚揚げ、揚げかまぼこ、揚げ玉、チキン・ナゲット、揚げパン、ドーナツ、クルトン、フライドポテト、ポテトチップス、かりんとう、揚げ煎餅や揚げあられなどの米菓、揚げ麺、スナック菓子など)であってもよく、衣がある状態で揚げたもの(衣揚げ;天ぷら、唐揚げ、竜田揚げ、磯辺揚げ、フリッター、トンカツやコロッケなどのフライ類)であってもよく、皮を衣として具材を包み揚げたもの(春巻き、サモサ、揚げ餃子、揚げシュウマイ、カレーパン、揚げおやきなど)であってもよい。
【0032】
次に、本発明の組成物の使用方法について述べる。揚げ物が「衣が無い状態で食材を油で揚げるもの」である場合は、油調前に、当該食材に低糖化還元水飴を混合すればよい。食材に低糖化還元水飴を混合する際の濃度は、1~50質量%(油調前の食材の全体重量に対して)を例示することができる。また、低糖化還元水飴を水や調味液に溶解して低糖化還元水飴溶液とし、これを油調前に当該食材の表面に塗布してもよい。塗布する方法は、低糖化還元水飴溶液に当該食材を浸漬する、刷毛塗りやローラーブラシ塗り、エアスプレー、ロールコーティングなど、当該食材や調味液の種類・形態に応じて種々の方法を用いることができる。低糖化還元水飴溶液における低糖化還元水飴の濃度は、1~50質量%を例示することができる。
【0033】
また、揚げ物が、「衣がある状態で食材を油で揚げるもの」や「皮を衣として具材を包み揚げるもの」である場合は、その衣または皮に低糖化還元水飴を混合すればよい。衣または皮における低糖化還元水飴の濃度は、1~50質量%(油調前の衣または皮の全体重量に対して)を例示することができる。また、上述の低糖化還元水飴溶液を、油調前に衣または皮の表面に塗布してもよい。塗布する方法および低糖化還元水飴溶液における低糖化還元水飴の濃度は、上述と同様のものを例示することができる。
【0034】
本発明において、揚げ物における油の吸収量を低減させるとは、油調により食品に吸収される油の量を減少させることをいう。揚げ物における油の吸収量が低減されたか否かは、例えば、後述する実施例に示す方法により確認することができる。すなわち、当該食品の「油調後重量から油調前重量を減じた値」の「油調後重量」に対する百分率を吸油率とし、本発明の組成物を用いた場合と用いない場合とで、吸油率を比較する。前者の方が吸油率が小さければ、本発明により揚げ物における油の吸収量が低減されたと判断することができる。あるいは、油調による揚げ油の減少量を測定し、これを比較してもよい。本発明の組成物を用いた場合の方が、これを用いない場合と比較して、揚げ油の減少量が小さければ、本発明により揚げ物における油の吸収量が低減されたと判断することができる。
【0035】
本発明において、揚げ物の体積を増大させるとは、揚げ物において、油調により増加する体積の割合を大きくすることをいう。揚げ物の体積を増大したか否かは、例えば、後述する実施例に示す方法により確認することができる。すなわち、当該食品の油調前の重量を揃えた上で、油調後の体積を測定し、本発明の組成物を用いた場合と用いない場合とで比較する。前者の方が体積が大きければ、本発明により揚げ物の体積を増大したと判断することができる。体積の測定は定法に従って行うことができ、例えば、レーザー体積計や菜種法により測定することができる。
【0036】
本発明において、揚げ物のサクサクした食感を増強させるとは、揚げ物の表面が硬くもろいことによって呈される、咀嚼時のサクサクあるいはカリカリといったクリスピーで歯切れのよい食感(サク味)を強くすることをいう。サクサクした食感が増強されたか否かは、例えば、後述する実施例に示す方法により確認することができる。すなわち、クリープメーターを用いて荷重波形を取得し、もろさ荷重を算出して、本発明の組成物を用いた場合と用いない場合とで比較する。前者の方がもろさ荷重が大きければ、本発明により揚げ物のサクサクとした食感が増強されたと判断することができる。あるいは、官能試験によって確認することもできる。
【0037】
本発明は、揚げ物の製造方法を提供する。本製造方法は、本発明に係る組成物を含む材料を油調する工程を有する。ここで、本発明に係る組成物を含む材料とは、上述の「本発明の組成物の使用方法」で述べたように、本発明の組成物の有効成分である低糖化還元水飴を、混合や塗布等した食品材料をいう。油調は、通常の揚げ物を製造する場合と同様に行えばよく、揚げ油の種類や揚げ温度、揚げ時間等は、揚げ物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0038】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例
【0039】
本実施例において、甘味料は下記の表1に示すものを用いた。
【表1】
【0040】
<実施例1>油の吸収量低減効果
下記の表2に示す配合で各材料をミキサー(愛工舎製作所)に入れ、低速で2分、続いて中速で1分攪拌し、ドーナツ生地を得た。これを20g/個に分割して丸め、20gを油調前重量とした。丸めたドーナツ生地を180℃の油に入れて5分間揚げることによりドーナツを作製した。常温に20分置いて冷ました後、重量を測定し、これを油調後重量とした。下記の式1により吸油率(%)を算出し、各試料につき、15個のドーナツの平均値を求めた。その結果を表2の最下段に示す。
式1:吸油率(%)={(油調後重量-油調前重量)/油調後重量}×100
【表2】
【0041】
表2の最下段に示すように、吸油率は、試料1では5.12%、試料2では5.25%であったのに対して、試料3では0.38%であり、試料3で顕著に小さかった。すなわち、低糖化還元水飴(スイートNT)を配合したドーナツにおける油の吸収量は、砂糖や高糖化還元水飴を配合したものと比較して顕著に小さかった。この結果から、低糖化還元水飴は、揚げ物における油の吸収量を顕著に低減する効果を有することが明らかになった。
【0042】
<実施例2>体積増大効果
表3に示す配合および実施例1に記載の方法によりドーナツを作製した。常温に20分置いて冷ました後、レーザー体積計「AR-01」(ケイ・アクシス社)を用いて体積を測定し、各試料につき、8個のドーナツの平均値を求めた。その結果を図1に示す。
【表3】
【0043】
図1に示すように、体積は、試料1では30.23cm、試料2では28.33cmであったのに対して、試料3では33.28cm、試料4では32.92cmであり、試料3および試料4で顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴(スイートNTおよびエスイー100)を配合したドーナツの大きさは、砂糖や高糖化還元水飴を配合したものと比較して顕著に大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、揚げ物の体積を増大させる効果を有することが明らかになった。
【0044】
<実施例3>食感向上効果:ドーナツ
表4に示す配合および実施例1に記載の方法によりドーナツを作製した。常温に20分置いて冷ました後、クリープメータ(山電)の直径3mm棒型のプランジャーを用いて、ドーナツを圧縮速度1mm/秒で100体積%圧縮変形するまで圧縮した。この圧縮中の荷重を測定し、各試料について図2に示すような荷重波形を得た。図2において、F1は、試料が破断するまでの荷重(破断荷重)を示し、「かたさ」の指標となる。F2は、試料が破断してからの荷重(応力)の減少量を示し、「口の中での砕けやすさ」の指標となる(参考資料1:丹羽昭夫,“食品の食感の評価について”,[online],平成29年3月16日,あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター, [平成30年10月15日検索],インターネット,<URL: http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1703-2.pdf>)。このことから、F2を「もろさ荷重」と定義し、その値を算出した。すなわち、もろさ荷重の値が大きいほど、試料は、咀嚼時のサクサクあるいはカリカリといったクリスピーで歯切れのよい食感(サク味)が強いことを表す。もろさ荷重は、各試料につき、15個のドーナツの平均値を求めた。その結果を図3に示す。
【表4】
【0045】
図3に示すように、もろさ荷重は、試料1では約5.14Nであったのに対して、試料2では約0.47Nであり、顕著に小さかった。一方、試料3では約3.82Nであり、試料1と同等であった。そして、試料4では7.64Nであり、顕著に大きかった。すなわち、中糖化還元水飴を配合したドーナツは、砂糖を配合したものと同等のもろさ荷重を達成していた。また、低糖化還元水飴(エスイー30)を配合したドーナツは、砂糖や高糖化還元水飴を配合したものと比較して、顕著に、もろさ荷重が大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、揚げ物のサクサクした食感を増強する効果を有することが明らかになった。
【0046】
<実施例4>食感向上効果:揚げ玉
下記の表5に示す配合で各材料をボウルに入れ、泡立て器で1分攪拌し、バッターを得た。これを油面上40cmの高さから180℃の油に流し入れ、2分間揚げることにより揚げ玉を作製した。常温に20分置いて冷ました後、実施例3に記載の方法によりもろさ荷重を測定した。もろさ荷重は、各試料につき、10個の揚げ玉の平均値を求めた。その結果を図4に示す。
【表5】
【0047】
図4に示すように、もろさ荷重は、試料1では約0.51Nであったのに対して、試料2では約0.88Nであり、試料2で顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴(スイートNT)を配合した揚げ玉は、配合していないものと比較して、顕著に、もろさ荷重が大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、揚げ物のサクサクした食感を増強する効果を有することが明らかになった。
【0048】
<実施例5>食感向上効果:冷凍ドーナツ
表2に示す配合および実施例1に記載の方法によりドーナツを作製した。常温に30分置いて冷ました後、-20℃の冷凍庫に入れて急速冷凍し、1週間冷凍保存した。続いて、電子レンジにより1600ワットで10秒/1個あたり加熱した後、実施例3に記載の方法によりもろさ荷重を測定した。もろさ荷重は、各試料につき、8個のドーナツの平均値を求めた。その結果を図5に示す。
【0049】
図5に示すように、もろさ荷重は、試料1では約1.75Nであったのに対して、試料2では約0.05Nであり、顕著に小さかった。一方、試料3では約3.05Nであり、顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴(スイートNT)を配合したドーナツは、冷凍後再加熱したものであっても、砂糖や高糖化還元水飴を配合したものと比較して、顕著に、もろさ荷重が大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、揚げ物のサクサクした食感を増強する効果を有することが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5