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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ファンモーター駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/29 20160101AFI20230421BHJP
   F23N 3/00 20060101ALI20230421BHJP
   F23L 5/02 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
H02P7/29 A
F23N3/00
F23L5/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019011863
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020120545
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】堀木 翔太
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175743(JP,A)
【文献】特開2011-101452(JP,A)
【文献】特開2016-103885(JP,A)
【文献】特開2006-148988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/29
F23N 3/00
F23L 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼装置と組み合わせて用いられるファンモーターを駆動するためのファンモーター駆動装置であって、
前記ファンモーターを駆動するための電力を発生させる直流電源と、
前記ファンモーターの回転速度を指示するための速度指示電圧を出力することによって、前記回転速度を制御する回転速度制御部と、
前記直流電源からの電力が前記ファンモーターに供給されるON状態と、前記直流電源からの電力が前記ファンモーターに供給されないOFF状態とに切換可能なスイッチング素子と、
前記スイッチング素子を前記ON状態または前記OFF状態に切り換えるための制御信号を、前記速度指示電圧の電圧値が大きくなるほどONデューティー比が大きくなる態様で前記速度指示電圧をパルス変調することによって生成する制御信号生成部と、
前記制御信号生成部を動作させるための制御用電源と、
前記スイッチング素子と前記ファンモーターとの間に設けられて、誘導成分と容量成分とを有するローパスフィルターと、
前記スイッチング素子と前記ローパスフィルターとの接続点に、順方向側の出力端子が接続されたダイオードと、
前記制御用電源と前記接続点との間に設けられたブートストラップコンデンサーと
を備え、
前記回転速度制御部は、前記ファンモーターに指示する回転速度に対応し、前記指示する回転速度が大きくなるほど電圧値が大きくなる前記速度指示電圧を出力しており、
前記スイッチング素子は、Nチャネル型電界効果トランジスタによって形成されており、
前記制御信号生成部は、前記ブートストラップコンデンサーの端子間の電圧差を利用して前記スイッチング素子を前記ON状態に切り換える前記制御信号を生成しており、
前記回転速度制御部は、前記回転速度を低下させる場合には、前記速度指示電圧を、低下させる目標の回転速度に対応する目標の電圧値よりも小さいが、回転速度0に対応する電圧値よりも大きな所定の減速用電圧値まで低下させた後、前記目標の電圧値まで上昇させる
ことを特徴とするファンモーター駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のファンモーター駆動装置において、
前記減速用電圧値は、前記目標の回転速度に依らない固定電圧値に設定されている
ことを特徴とするファンモーター駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のファンモーター駆動装置において、
前記ファンモーターの回転速度を検出する回転速度検出部を備え、
前記回転速度制御部は、前記速度指示電圧を前記減速用電圧値まで低下させた後、前記ファンモーターの回転速度と前記目標の回転速度との回転速度差が所定値以内になったら、前記速度指示電圧を前記目標の電圧値まで上昇させる
ことを特徴とするファンモーター駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置と組み合わせて用いられるファンモーターを駆動するためのファンモーター駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電圧によって駆動される電気負荷(例えば、LED照明灯など)の駆動装置としては、チョッパ回路と呼ばれる電気回路を組み込んだ駆動装置が広く知られている。特に、チョッパ回路のスイッチング素子にNチャネル型FETを採用したNチャネル型チョッパ回路は、回路内での発熱が少ないために高効率であり、更にコスト上のメリットも得られるために広く使用されている。また、Nチャネル型チョッパ回路は、Nチャネル型FETをON状態とするためのコンデンサー(ブートストラップコンデンサーと呼ばれる)と組み合わせて使用されることが通常である(特許文献1)。
【0003】
本願の発明者は、Nチャネル型チョッパ回路(以下、単に「チョッパ回路」と表記する)を、燃焼装置用ファンのファンモーターを駆動するためのファンモーター駆動装置に適用することを試みた。このファンモーター駆動装置は、ファンモーターの目標の回転速度に応じて、適切な電圧値の電圧をチョッパ回路に対して出力することによって、ファンモーターに流れる電流値を制御する。ここで、燃焼装置用ファンには、燃焼に必要な空気を燃焼装置に供給するためのファン(いわゆる燃焼ファン)や、燃焼によって生じた高温の燃焼ガスに空気を混ぜて適切な温度の温風を生成するためのファン(いわゆる送風ファン)などが含まれる。これらの燃焼装置用ファンは、燃焼装置での燃焼条件に変化に応じて、あるいはユーザーによって温風温度の設定が変更されたことに対応して、ファンの回転速度を出来るだけ迅速に変更可能なことが望まれる。
【0004】
そこで、本願の発明者は、ファンモーターの回転速度を迅速に低下させる方法として、以下のような方法を考えた。先ず、チョッパ回路に出力する電圧を、減速前の現状の回転速度に対応する電圧値から、回転速度0に対応する電圧値に切り換える。そして、ファンモーターの回転速度が低下した頃を見はからって、チョッパ回路に出力する電圧値を、減速後の目標の回転速度に応じた電圧値に変更する。こうすれば、チョッパ回路に対して回転速度0に対応する電圧値が出力されている間は、ファンモーターは回転トルクを発生させないので、ファンモーターおよび燃焼装置用ファンの回転に伴う抵抗や摩擦によって、ファンモーターの回転速度をすみやかに減速させることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-165587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した方法では、チョッパ回路に対して出力する電圧を、回転速度0に対応する電圧値から目標の回転速度に対応する電圧値に戻したときに、ブートストラップコンデンサーに充電された電荷量の不足からチョッパ回路のスイッチング素子をON状態とすることができず、その結果、ファンモーターを回転させることができなくなってしまうという問題が生じた。
【0007】
この発明は、Nチャネル型チョッパ回路を適用した燃焼装置用ファンのファンモーターを駆動するファンモーター駆動装置が有する上述した課題を解決するために成されたものであり、ファンモーターの回転速度をすみやかに減速させることが可能なファンモーター駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明のファンモーター駆動装置は次の構成を採用した。すなわち、
燃焼装置と組み合わせて用いられるファンモーターを駆動するためのファンモーター駆動装置であって、
前記ファンモーターを駆動するための電力を発生させる直流電源と、
前記ファンモーターの回転速度を指示するための速度指示電圧を出力することによって、前記回転速度を制御する回転速度制御部と、
前記直流電源からの電力が前記ファンモーターに供給されるON状態と、前記直流電源からの電力が前記ファンモーターに供給されないOFF状態とに切換可能なスイッチング素子と、
前記スイッチング素子を前記ON状態または前記OFF状態に切り換えるための制御信号を、前記速度指示電圧の電圧値が大きくなるほどONデューティー比が大きくなる態様で前記速度指示電圧をパルス変調することによって生成する制御信号生成部と、
前記制御信号生成部を動作させるための制御用電源と、
前記スイッチング素子と前記ファンモーターとの間に設けられて、誘導成分と容量成分とを有するローパスフィルターと、
前記スイッチング素子と前記ローパスフィルターとの接続点に、順方向側の出力端子が接続されたダイオードと、
前記制御用電源と前記接続点との間に設けられたブートストラップコンデンサーと
を備え、
前記回転速度制御部は、前記ファンモーターに指示する回転速度に対応し、前記指示する回転速度が大きくなるほど電圧値が大きくなる前記速度指示電圧を出力しており、
前記スイッチング素子は、Nチャネル型電界効果トランジスタによって形成されており、
前記制御信号生成部は、前記ブートストラップコンデンサーの端子間の電圧差を利用して前記スイッチング素子を前記ON状態に切り換える前記制御信号を生成しており、
前記回転速度制御部は、前記回転速度を低下させる場合には、前記速度指示電圧を、低下させる目標の回転速度に対応する目標の電圧値よりも小さいが、回転速度0に対応する電圧値よりも大きな所定の減速用電圧値まで低下させた後、前記目標の電圧値まで上昇させる
ことを特徴とする。
【0009】
かかる本発明のファンモーター駆動装置においては、ファンモーターに指示する回転速度に対応して、指示する回転速度が大きくなるほど電圧値が大きくなる速度指示電圧を出力し、速度指示電圧の電圧値が大きくなるほどONデューティー比が大きくなる態様で速度指示電圧をパルス幅変調することによって制御信号を生成する。そして、この制御信号を用いて、Nチャネル型電界効果トランジスタのスイッチング素子をON状態またはOFF状態に切り換える。すると、スイッチング素子が切り換わる度に、直流電源の電力がローパスフィルターに供給される状態と、ローパスフィルターに供給されない状態とが切り換わり、その結果、ローパスフィルターに流れる直流の電流成分が、駆動電流としてファンモーターに供給される。また、Nチャネル型電界効果トランジスタのスイッチング素子をON状態に切り換えるための制御信号は、ブートストラップコンデンサーの端子間の電圧差を利用して生成されており、ブートストラップコンデンサーには、次のようにして電荷が充電される。先ず、ブートストラップコンデンサーの一方の端子は、制御信号生成部を動作させるための制御用電源に接続されており、他方の端子は、スイッチング素子とローパスフィルターとの接続点に接続されている。更に、スイッチング素子とローパスフィルターとの接続点には、ダイオードの順方向側の出力端子も接続されている。こうすれば、スイッチング素子がOFF状態となった時に、ローパスフィルターの誘導成分が駆動電流を流し続けようとする作用によってダイオードが導通状態となる。このため、スイッチング素子とローパスフィイルターとの接続点の電圧が接地電圧まで低下するので、制御用電源からの電荷によってブートストラップコンデンサーを充電することができる。更に加えて、本発明のファンモーター駆動装置においては、ファンモーターの回転速度を低下させる場合には、速度指示電圧を、低下させる目標の回転速度に対応する目標の電圧値よりも小さい所定の減速用電圧値(但し、回転速度0に対応する電圧値よりは大きい)まで低下させた後、目標の電圧値まで上昇させることとしている。
【0010】
こうすれば、速度指示電圧が減速用電圧値となっている間は、ファンモーターに供給される駆動電流が十分に小さくなり、ファンモーターが発生する回転トルクも十分に小さくなるので、ファンモーターの回転速度をすみやかに減速させることが可能となる。また、減速用電圧値は回転速度0に対応する電圧値よりも大きいので、速度指示電圧が減速用電圧値となっている間もスイッチング素子はON状態とOFF状態とを繰り返している。このため、ブートストラップコンデンサーに電荷を充電しておくことができる。その結果、速度指示電圧を減速用電圧値から目標の電圧値に上昇させた際にも、スイッチング素子を確実にON状態に切り換えることができるので、速度指示電圧を上昇させる際にファンモーターの回転が止まってしまうという事態が生じることもない。
【0011】
また、上述した本発明のファンモーター駆動装置においては、減速用電圧値は、減速させようとする目標の回転速度に依らない固定電圧値に設定しておいても良い。
【0012】
こうすれば、目標の回転速度に応じて減速用電圧値を変更する必要が無いので、制御を簡単にすることが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明のファンモーター駆動装置においては、ファンモーターの回転速度を検出して、検出したファンモーターの回転速度が、減速させようとする目標の回転速度に対して、所定の回転速度差以内に近付いたら、速度指示電圧を、目標の回転速度に対応する電圧値まで上昇させるようにしても良い。
【0014】
こうすれば、適切なタイミングで、速度指示電圧を、目標の回転速度に対応する電圧値に上昇させることができるので、ファンモーターの回転速度をすみやかに減速させて、目標の回転速度にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施例のファンモーター駆動装置100の内部構造を示したブロック図である。
図2】本実施例のファンモーター駆動装置100がファンモーター10を駆動する動作を例示した説明図である。
図3】ブートストラップコンデンサー103Cに電荷を充電する動作についての説明図である。
図4】ファンモーター10の回転速度を減速させる際に、回転速度を指示する速度指示電圧Viを一旦0Vにする着想についての説明図である。
図5】回転速度を指示する速度指示電圧Viを一旦0Vにすると、その後に速度指示電圧Viを上昇させてもファンモーター10を駆動できなくなる現象についての説明図である。
図6】本実施例のファンモーター駆動装置100がファンモーター10をすみやかに減速させることが可能な理由を示した説明図である。
図7】変形例のファンモーター駆動装置100の内部構造を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本実施例のファンモーター駆動装置100の内部構造を示したブロック図である。本実施例のファンモーター駆動装置100は、燃焼装置用ファン1を回転させるためのファンモーター10を駆動しており、ファンモーター10に供給する駆動電流Idを制御することによって、ファンモーター10の回転速度を適切な回転速度に制御している。図示されるように、ファンモーター駆動装置100は、直流電源101と、スイッチング素子102と、制御信号生成部103と、回転速度制御部104と、制御用電源105と、ローパスフィルター106と、ダイオード107とを備えている。
【0017】
直流電源101は、ファンモーター10を駆動するための電力を発生させる電源であり、所定の電圧値の直流電圧Vgを発生させる。スイッチング素子102は、いわゆるNチャネル型の電界効果型トランジスター(FET)である。周知のように、Nチャネル型のFETは、ゲート電極(G電極)と、ドレイン電極(D電極)と、ソース電極(S電極)の3つの電極を備えており、S電極よりも高い電圧をG電極に印加すると、D電極とS電極とが導通するON状態となり、S電極よりも低い電圧をG電極に印加すると、D電極とS電極とが非導通のOFF状態となる。このため、スイッチング素子102がON状態になると、直流電源101からの電力がファンモーター10に供給され、逆に、スイッチング素子102がOFF状態になると、直流電源101からの電力がファンモーター10に供給されなくなる。
【0018】
制御信号生成部103は、スイッチング素子102をON状態またはOFF状態に切り換えるための制御信号Pdを生成してスイッチング素子102のG電極に出力する。上述したように、スイッチング素子102をON状態とするためには、S電極の電圧よりも電圧値が高い電圧をG電極に印加する必要がある。そこで制御信号生成部103には、このようなG電極に印加する電圧を生成するためのブートストラップ回路103bが付属されている。詳細な説明は省略するが、ブートストラップ回路103bは、ブートストラップコンデンサー103Cと呼ばれるコンデンサーや、逆流防止用のダイオードや、保護抵抗を備えており、ブートストラップコンデンサー103Cに電荷を蓄えることによって、スイッチング素子102のS電極よりも電圧値が高い電圧を発生させる。また、制御信号生成部103が生成する制御信号Pdは、高電圧状態(Hi状態)と低電圧状態(Low状態)とを一定周期で繰り返すパルス信号となっており、その一定周期内でHi状態となる時間比率が大きくなる程、ファンモーター10に大きな電力が供給されることになり、ファンモーター10の回転速度が高くなる。尚、一定周期内でHi状態となる時間比率は、「ONデューティー比」と呼ばれる。
【0019】
回転速度制御部104は、制御信号生成部103に対して、ファンモーター10の目標の回転速度に応じた電圧値の速度指示電圧Viを出力することによって、ファンモーター10の回転速度を制御する。本実施例の速度指示電圧Viは、ファンモーター10の目標の回転速度が0の場合は下限の電圧値(ここでは電圧値0V)となっており、目標の回転速度が大きくなる程、電圧値が高くなる電圧となっている。制御信号生成部103は、このような速度指示電圧Viをパルス幅変調することによって、一定周期でHi状態とLow状態とを繰り返すパルス状の制御信号Pdを生成する。ここでパルス幅変調とは、電圧値が大きくなる程、ONデューティー比が大きなパルス信号に変更する変調方式であり、下限の電圧値の場合はONデューティー比が0%となり、上限の電圧値の場合はONデューティー比が100%となる。
【0020】
制御用電源105は、制御信号生成部103を動作させるための直流電圧を発生させる電源である。制御信号生成部103を動作させるための直流電圧は、直流電源101が発生する直流電圧Vgよりも電圧値が小さいので、制御用電源105は直流電圧Vgよりも小さな電圧値の電圧を発生させる。また、制御用電源105は、保護抵抗やダイオードを介してブートストラップコンデンサー103Cにも接続されており、ブートストラップコンデンサー103Cに電荷を供給するための電源としても利用されている。尚、制御用電源105は、回転速度制御部104を動作させるための電源として利用することも可能である。
【0021】
ローパスフィルター106は、スイッチング素子102とファンモーター10との間に挿入されている。ローパスフィルター106は、いわゆるLCローパスフィルターであり、誘導成分106L(いわゆるコイル)と、誘導成分106Lに対して直列に接続された容量成分106C(いわゆるコンデンサー)とを備えている。また、ダイオード107は、順方向側の出力端子(いわゆるカソード端子)が、スイッチング素子102とローパスフィルター106との接続点に接続されている。
【0022】
図2は、上述した本実施例のファンモーター駆動装置100がファンモーター10を駆動する動作を例示した説明図である。例えば、図2(a)に示したように、ファンモーター10の回転速度を指示するための速度指示電圧Viが電圧値Vaで一定に保たれている状態から、時刻T1のタイミングで電圧値Vbに増加させたものとする。制御信号生成部103で生成される制御信号Pdは、速度指示電圧Viをパルス幅変調して得られる一定周期のパルス信号であるから、図2(b)に示すように、時刻T1まではONデューティー比が小さく、時刻T1以降はONデューティー比が大きな信号となる。尚、制御信号PdがLow状態となったときの電圧値は、制御信号生成部103が接地されている電圧値となるが、制御信号PdがHi状態となった時の電圧値は、ブートストラップコンデンサー103Cに充電された電荷量によって変化する。
【0023】
ブートストラップコンデンサー103Cに十分な電荷が充電されている場合は、制御信号PdがHi状態になるとスイッチング素子102がON状態となり、直流電源101の直流電圧Vgがローパスフィルター106の上流側に印加される。このため、スイッチング素子102とローパスフィルター106との接続点A(図1参照)の電圧値は、直流電源101の直流電圧Vgの電圧値となる。このような電圧がローパスフィルター106の上流側にかかる結果、ローパスフィルター106を介してファンモーター10に駆動電流Idが供給される。
【0024】
一方、制御信号PdがLow状態になると、スイッチング素子102がOFF状態となって、直流電源101の直流電圧Vgがローパスフィルター106に印加されなくなる。もっとも、ローパスフィルター106には誘導成分106Lが存在するので、直流電源101の直流電圧Vgがローパスフィルター106に印加されなくなっても、誘導成分106Lの作用によって駆動電流Idが流れ続けようとする。しかし、スイッチング素子102はOFF状態となっているので、その電流は順方向に接続されたダイオード107から供給されることになる。その結果、ダイオード107が導通状態となって、接続点A(図1参照)の電圧値が、ダイオード107の順方向降下電圧値(すなわち、略0V)まで低下する。
【0025】
このように、接続点Aの電圧値は、制御信号PdがHi状態になる度に、(スイッチング素子102がON状態となるため)直流電源101の直流電圧Vgの電圧値となり、制御信号PdがLow状態になる度に、(スイッチング素子102がOFF状態となるため)電圧値がダイオード107の順方向降下電圧値(略0V)となることを繰り返す。このため、接続点Aの電圧は、図2(c)に示すような電圧波形となる。尚、このような電圧がローパスフィルター106の上流側にかかることによってファンモーター10が駆動されることから、以下では、図1の接続点Aの電圧を、「駆動電圧Vd」と表記する。
【0026】
以上のようにして、図2(c)に示すような電圧波形の駆動電圧Vdをローパスフィルター106に印加すると、直流の電流成分だけがローパスフィルター106を通過することになって、図2(d)に示すような駆動電流Idがファンモーター10に供給されることになる。そして、ファンモーター10は駆動電流Idに比例した回転トルクを発生させるので、駆動電流Idの増加に伴って、図2(e)に示すように、ファンモーター10の回転速度(従って、燃焼装置用ファン1のファン回転速度)も上昇する。この結果、例えば、速度指示電圧Viを電圧値Vaから電圧値Vbに変化させることでファンモーター10(および燃焼装置用ファン1)の回転速度を、電圧値Vaに対応する回転速度Naから、電圧値Vbに対応する回転速度Nbに変化させることが可能となる(図2(e)参照)。
【0027】
以上のようにしてファンモーター10の回転速度を制御するためには、スイッチング素子102のON状態とOFF状態とを切り換える必要がある。そして、スイッチング素子102にはNチャネル型FETが用いられているので、スイッチング素子102をON状態とするためには、G電極に、S電極よりも高い電圧を印加する必要があり、そのためには、ブートストラップコンデンサー103Cに十分な電荷を充電する必要がある。ブートストラップコンデンサー103Cには、スイッチング素子102のON状態とOFF状態とが切り換わる際に、次のようなメカニズムで電荷が充電されている。
【0028】
図3は、スイッチング素子102のON状態とOFF状態とが切り換わる際に、ブートストラップコンデンサー103Cに電荷が充電されるメカニズムを示した説明図である。図3(a)には、OFF状態のスイッチング素子102をON状態にする様子が示されている。OFF状態のスイッチング素子102をON状態とするには、制御信号生成部103からスイッチング素子102のG電極に出力する制御信号PdをHi状態として、S電極よりも高い電圧値の電圧を印加すればよい。図3(a)に示されるように、ブートストラップコンデンサー103Cの一方の端子は、接続点Aと同じ電圧レベルにあるから、ブートストラップコンデンサー103Cに電荷が充電されていれば、ブートストラップコンデンサー103Cの他方の端子は、接続点Aよりも電圧値が高くなっている。
【0029】
そこで、図3(a)中に太い破線の矢印で示したように、この電圧をスイッチング素子102のG電極に印加することによって、スイッチング素子102をON状態とする。その結果、図中に太い実線の矢印で示したように、直流電源101の直流電圧Vgが、スイッチング素子102を介してローパスフィルター106に印加され、その結果、図中に太い一点鎖線の矢印で示した駆動電流Idがファンモーター10に供給される。その後、制御信号生成部103が制御信号PdをLow状態に切り換えると、スイッチング素子102がOFF状態に切り換わる。
【0030】
図3(b)には、スイッチング素子102がON状態からOFF状態に切り換わる様子が示されている。図2(c)を用いて前述したように、スイッチング素子102がON状態からOFF状態になっても、ローパスフィルター106の誘導成分106Lの作用によって暫くの間は駆動電流Idが流れ続けようとする(図3(b)中の太い一点鎖線の矢印を参照)。このため、ダイオード107には順方向の電流が流れることになってダイオード107が導通状態となるため、接続点Aの電圧値はダイオード107の順方向降下電圧値(略0V)となる。その結果、図3(b)中に太い破線の矢印で示したように、制御用電源105から電荷が供給されてブートストラップコンデンサー103Cが充電される。
【0031】
もっとも、ローパスフィルター106の誘導成分106Lが駆動電流Idを流し続けようとする作用は短時間しか継続しないので、誘導成分106Lの作用が無くなった後は、ダイオード107は非導通状態となる。この段階でも、ファンモーター10には、ローパスフィルター106の容量成分106Cの電荷が供給されることによって駆動電流Idが流れ続けるが、接続点Aの電圧は、ローパスフィルター106の容量成分106Cの高電圧側の端子の電圧となる。容量成分106Cの高電圧側の端子の電圧は、(厳密には容量成分106Cが電荷を放出するに伴って低下していくが)スイッチング素子102がOFF状態になる直前の電圧値とほぼ等しい電圧値を有している。このため、制御用電源105が発生する電圧値よりも高くなってしまい、それ以降はブートストラップコンデンサー103Cに電荷を充電することができなくなる。
【0032】
結局、ブートストラップコンデンサー103Cで電荷を充電することが出来るのは、スイッチング素子102がON状態からOFF状態に切り換わった後に、ローパスフィルター106の誘導成分106Lの作用が継続している短い時間となる。しかし、ブートストラップコンデンサー103Cの容量を小さくしておけば、短時間の充電でも、コンデンサーの端子間に十分な電圧差を発生させることができるので、その電圧差を用いてスイッチング素子102をON状態にすることが可能となる。
【0033】
ここで、本願の発明者は、燃焼装置用ファン1の回転速度(従ってファンモーター10の回転速度)をすみやかに減速させることを可能とするために、次のようなことを考えた。例えば、図2に示した例とは反対に、燃焼装置用ファン1(およびファンモーター10)を回転速度Nbから回転速度Naに減速させるものとする。この場合、単純には、図4(a)に示すように、制御信号生成部103に出力する速度指示電圧Viを電圧値Vbから電圧値Vaに低下させればよい。こうすれば、図4(b)に示すように、ある程度の時間Tiの経過した後、目標の回転速度Naとすることができる。ここで、速度指示電圧Viを電圧値Vaに低下させてから、目標の回転速度Naに達するまでに時間Tiが掛かるのは、ファンモーター10や燃焼装置用ファン1が慣性を有しているためである。そこで
、この時間Tiを出来るだけ短くするため、図4(c)に示したように、電圧値Vbから電圧値0Vに一旦低下させた後、電圧値0Vから電圧値Vaに上昇させることを考えた。こうすれば、速度指示電圧Viが電圧値0Vになっている間は、ファンモーター10が生じる回転トルクも0になるので、ファンモーター10および燃焼装置用ファン1の回転速度をすみやかに減速させることが可能と考えられた。
【0034】
図5は、速度指示電圧Viを低下させる際に、一旦、電圧値0Vを経由させた場合のファンモーター駆動装置100の動作を示した説明図である。図示した例では、図5(a)に示すように、速度指示電圧Viを時刻T1で電圧値Vbから電圧値0Vまで一旦低下させ、時刻T2になったら速度指示電圧Viを電圧値Vaまで上昇させている。
【0035】
図5(b)には、スイッチング素子102のG電極に出力される制御信号Pdが示されている。また、図5(c)には、ローパスフィルター106に印加される駆動電圧Vd(接続点Aでの電圧値)が示されている。図5(b)に示されるように、時刻T1までは、速度指示電圧Viの電圧値Vbに対応するONデューティー比のパルス信号が出力されており、これに伴ってローパスフィルター106にも、パルス状の駆動電圧Vdが印加されている。そして、時刻T1から時刻T2までの間は速度指示電圧Viの電圧値が電圧値0Vとなっているので、制御信号PdはONデューティー比0%となって、パルスが出力されない状態となり、駆動電圧Vdも0Vとなる。
【0036】
その後、時刻T2になったら、速度指示電圧Viを電圧値Vaに上昇させる。これに伴って、制御信号Pdでは、電圧値Vaに対応するONデューティー比でパルス信号の出力が再開され、駆動電圧Vdでも、パルス状の電圧が生じる筈である。ところが実際には、制御信号Pdで、時刻T2になって最初のパルスを出力することが出来ず、スイッチング素子102がON状態にならないという不可解な現象が発生した。図5(b)で時刻T2のパルスが破線で表示されているのは、本来は出力されるべきパルスが出力されないことを表している。
【0037】
図3を用いて前述したように、ブートストラップコンデンサー103Cはスイッチング素子102がON状態からOFF状態に切り換わる際に充電されるから、スイッチング素子102がON状態にならなければブートストラップコンデンサー103Cに充電することが出来ない。このため、それ以降も制御信号Pdを出力することが出来なくなり、駆動電圧Vdも出力されなくなる。その結果、図5(d)に示したように、時刻T1以降は、ファンモーター10に駆動電流Idを供給することも出来なくなってしまう。
【0038】
本願の発明者は、このような不可解な現象が生じる原因について調べた結果、ついに、ブートストラップコンデンサー103Cの自然放電に起因した現象であることを突き止めた。すなわち、図3(b)を用いて前述したように、ブートストラップコンデンサー103Cは短い時間で充電可能な少ない電荷量で端子間に大きな電圧差を生じさせる必要があるので、小さな容量のコンデンサーが用いられている。このため、自然放電によって制御信号生成部103に僅かな電荷が漏れ出す影響で、端子間の電圧差が小さくなっていき、時刻T2に達した時点では電圧差が残っていなかったものと考えられる。こうした事態を回避するためには、ブートストラップコンデンサー103Cの容量を大きくするか、制御信号生成部103への自然放電を小さくすれば良いが、何れも原理的に困難である。
【0039】
そこで、図6(a)に示したように、速度指示電圧Viを電圧値Vbから電圧値Vaに低下させる際に、電圧値Vbから電圧値0Vまで低下させるのではなく、電圧値0Vよりは大きいが、電圧値Vaよりは小さな所定の減速用電圧値Vcまで低下させ、その後、減速用電圧値Vcから電圧値Vaまで上昇させる方法を考え出した。図6(a)に示した例では、時刻T1で速度指示電圧Viを電圧値Vbから減速用電圧値Vcに低下させた後、時刻T3で減速用電圧値Vcから電圧値Vaに上昇させている。速度指示電圧Viを減速用電圧値Vcで保持する時間(すなわち、時刻T1から時刻T3までの時間)は、燃焼装置用ファン1の回転速度を減速させようとする減速量に応じて、予め設定しておいた時間を使用する。また、減速用電圧値Vcについては、減速させようとする目的の回転速度や減速量に拘わらず、固定電圧値に設定されている。
【0040】
こうすれば、図6(b)に示したように、時刻T1から時刻T3の間でも、一定周期でHi状態とLow状態とを繰り返す制御信号Pdが出力される。もちろん、減速用電圧値Vcは小さいので制御信号PdのONデューティー比も小さいが、それでもスイッチング素子102がON状態とOFF状態とを繰り返す。その結果、図6(c)に示したように、時刻T1から時刻T3の間でも、パルス状の駆動電圧Vdが発生し、それに伴って、図6(d)に示すように僅かな駆動電流Idがファンモーター10に供給される。また、この間(時刻T1から時刻T3の間)では、スイッチング素子102がON状態からOFF状態に切り換わる度に、ブートストラップコンデンサー103Cに電荷を充電することができる。
【0041】
そして、時刻T3になった時点で、速度指示電圧Viを電圧値Vaに上昇させると、制御信号PdのONデューティー比は、減速用電圧値Vcに対応する小さな値から、電圧値Vaに対応する値に増加し、それに伴って駆動電圧Vdのパルス幅も増加する(図6(c)参照)。その結果、図6(d)に示すように、電圧値Vaに対応する電流値の駆動電流Idをファンモーター10に供給することが可能となる。
【0042】
以上に説明した本実施例の方法によれば、時刻T1から時刻T3までの間はファンモーター10に供給する駆動電流Idを十分に小さくすることができるので、その間にファンモーター10(および燃焼装置用ファン1)の回転速度をすみやかに減速させることができる。そして、時刻T3になった後は、目的の回転速度に応じた電流値の駆動電流Idを供給することができる。その結果、図6(e)に例示したように、ファンモーター10(および燃焼装置用ファン1)の回転速度をすみやかに減速させて、目的の回転速度に制御することが可能となる。
【0043】
尚、上述した本実施例では、速度指示電圧Viを減速用電圧値Vcで保持する時間は、ファンモーター10(および燃焼装置用ファン1)の回転速度を減速させる減速量に応じて、予め設定されているものとして説明した。減速量が大きくなるほど、ファンモーター10および燃焼装置用ファン1を減速させるために要する時間が長くなるので、減速量に応じて適切な時間を設定しておけば、適切なタイミングで、速度指示電圧Viを目的の回転速度に対応する電圧値に上昇させることができる。しかし、ファンモーター10あるいは燃焼装置用ファン1の回転速度を検出して、検出した回転速度と目的の回転速度との速度差が所定値以下になったら、速度指示電圧Viを目的の回転速度に対応する電圧値に上昇させることとしても良い。
【0044】
図7は、こうした変形例のファンモーター駆動装置100の内部構造を示したブロック図である。図示した変形例のファンモーター駆動装置100は、図1に示した本実施例のファンモーター駆動装置100に対して、ファンモーター10の回転速度を検出する回転速度検出部108を備える点が異なっている。尚、回転速度検出部108には、マグネットピックアップや、ホール素子など、周知のセンサーを用いることができる。また、図7ではファンモーター10の回転速度を検出しているが、燃焼装置用ファン1の回転速度を検出することとしても良い。回転速度検出部108で検出した回転速度は回転速度制御部104に入力されている。そして、回転速度制御部104は、受け取った回転速度が、目標の回転速度に対して所定値以内に近付いたら、速度指示電圧Viを減速用電圧値Vcから目標の回転速度に対応する電圧値に上昇させる。こうすれば、より一層適切なタイミングで速度指示電圧Viを減速用電圧値Vcから目標の回転速度に対応する電圧値に上昇させることができるので、ファンモーター10および燃焼装置用ファン1の回転速度をより一層すみやかに減速させることが可能となる。
【0045】
以上、本実施例および変形例のファンモーター駆動装置100について説明したが、本発明は上記の実施例および変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…燃焼装置用ファン、 10…ファンモーター、
100…ファンモーター駆動装置、 101…直流電源、
102…スイッチング素子、 103…制御信号生成部、
103C…ブートストラップコンデンサー、 103b…ブートストラップ回路、
104…回転速度制御部、 105…制御用電源、
106…ローパスフィルター、 106C…容量成分、 106L…誘導成分、
107…ダイオード、 108…回転速度検出部、 A…接続点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7