(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】嫌気処理装置及び嫌気処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20230101AFI20230421BHJP
【FI】
C02F3/28 A
C02F3/28 Z
(21)【出願番号】P 2019062833
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】野口 真人
(72)【発明者】
【氏名】志村 憲尋
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156216(WO,A1)
【文献】特開2003-033781(JP,A)
【文献】特開昭61-035899(JP,A)
【文献】国際公開第2012/070493(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0233795(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸生成槽を通過した排水を嫌気処理する反応部と、
前記反応部内の排水を循環させる循環部と、
前記
循環部のpHを測定するpH測定部と、
前記pH測定部で測定したpHの値に基づいて前記
循環部にpH調整剤を添加することで前記反応部内の排水のpHを調整するpH調整部と、を備え
、
前記pH測定部は、前記pH調整部の後段に設けられることを特徴とする、嫌気処理装置。
【請求項2】
酸生成槽を通過した排水を嫌気処理する反応部と、
前記反応部のpHを測定するpH測定部と、
前記pH測定部で測定したpHの値に基づいて
前記酸生成槽にpH調整剤を添加することで前記反応部内の排水のpHを調整するpH調整部と、を備えることを特徴とする、嫌気処理装置。
【請求項3】
酸生成槽を通過した排水を嫌気処理する反応部と、
前記反応部内の排水を循環させる循環部と、
前記
循環部のpHを測定するpH測定部と、
前記pH測定部で測定したpHの値に基づいて
前記酸生成槽にpH調整剤を添加することで前記反応部内の排水のpHを調整するpH調整部と、を備えることを特徴とする、嫌気処理装置。
【請求項4】
酸生成槽を通過した排水を反応部で嫌気処理する反応ステップと、
前記反応部内の排水を循環させる循環ステップと、
前記
循環ステップで循環する排水のpHを測定するpH測定ステップと、
前記pH測定ステップで測定したpHの値に基づいて
前記循環ステップで循環する排水にpH調整剤を添加することで前記反応部内の排水のpHを調整するpH調整ステップと、を備え
、
前記pH測定ステップは、前記pH調整ステップの後段に設けられることを特徴とする、嫌気処理方法。
【請求項5】
酸生成槽を通過した排水を反応部で嫌気処理する反応ステップと、
前記反応部のpHを測定するpH測定ステップと、
前記pH測定ステップで測定したpHの値に基づいて前記酸生成槽にpH調整剤を添加することで前記反応部内の排水のpHを調整するpH調整ステップと、を備えることを特徴とする、嫌気処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気処理装置及び嫌気処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む排水を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。特に、嫌気的な環境下での生物処理(以下、「嫌気処理」と呼ぶ)は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入に係るメリットが高いことが挙げられる。
【0003】
このような嫌気処理としては、メタン発酵処理が知られている。メタン発酵処理は、嫌気的な環境下における嫌気性微生物の働きにより、排水中の有機物をメタンと二酸化炭素に分解する嫌気処理であり、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、嫌気処理として広く用いられている。
【0004】
メタン発酵処理には、排水中の有機物に酸生成菌を接触させて酸を生成させる酸生成工程と、酸が生成した処理液にメタン生成菌を接触させてメタンを生成させるメタン生成工程が含まれる。酸生成工程とメタン生成工程はそれぞれ好適な進行条件が異なるため、通常別々の処理槽(酸生成槽及びメタン発酵槽)で行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機物を含む排水の嫌気処理として、酸生成槽とメタン発酵槽を備えた嫌気処理装置が記載されている。また、特許文献1には、酸生成工程と、メタン生成工程と、メタン生成工程の処理液の一部を酸生成工程に返送する返送工程とを含む嫌気処理方法において、返送工程により返送する処理液量を規定することにより、酸生成工程におけるpH低下を抑制し、アルカリの添加量を削減できるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、酸生成工程とメタン発酵工程による嫌気処理においては、それぞれの工程に好適なpH範囲が存在する。
酸生成工程では、有機酸が生成するため、酸生成槽内のpHは低下する。このとき、pHの低下により、酸生成菌の活性が阻害される場合がある。
ここで、特許文献1に記載されるように、酸生成菌の活性を高く維持するために、酸生成槽にてpH測定及びpH調整を行うことは既に知られている。また、特許文献1に記載されるように、酸生成槽に添加するアルカリ量を低減するための方法も検討されている。
【0008】
一方、特許文献1には、メタン発酵槽内のpH測定及びpH調整を行うことは記載されていない。特許文献1に記載された嫌気処理装置では、メタン発酵槽の前段に設けられた酸生成槽にてpH測定及びpH調整を行った処理液がメタン発酵槽に供給されている。したがって、供給された処理液のpH値がメタン発酵槽内でも保たれているとみなされ、メタン発酵槽内のpH測定及びpH調整は積極的に行われていないものと推測される。
【0009】
しかし、メタン生成工程を行うメタン発酵槽内のpHは必ずしも一定に保たれるものではない。そのため、酸生成槽にてpH測定及びpH調整を行うことのみでは、メタン発酵槽内のpH変動を把握できず、嫌気処理効率の低下につながるという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、酸生成処理後の処理水を嫌気処理する際のpHの変動を高精度で把握し、嫌気処理効率の低下を抑制することができる嫌気処理装置及び嫌気処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、嫌気処理において、酸生成処理後の処理水を嫌気処理する反応部内の排水のpH測定及びpH調整を行うことで、嫌気処理効率の低下を抑制することができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の嫌気処理装置及び嫌気処理方法である。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の嫌気処理装置は、酸生成槽を通過した排水を嫌気処理する反応部と、反応部のpHを測定するpH測定部と、pH測定部で測定したpHの値に基づいて反応部内の排水に対してpH調整処理を行い、反応部内の排水のpHを調整するpH調整部とを備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理装置は、反応部における排水のpHを測定することで、反応部内のpH変動を高精度で把握することができるとともに、反応部内の排水に対して直接pH調整処理を行うことで、反応部における嫌気処理に好適なpH範囲を維持することが可能となる。これにより、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0013】
また、本発明の嫌気処理装置の一実施態様としては、反応部は、反応部内の排水を循環させる循環部を備え、循環部にpH測定部とpH調整部を設けるという特徴を有する。
この特徴によれば、反応部内における排水の撹拌効果を得ることができるため、反応部における排水を均質化し、反応部内のpHをより高精度で把握することが可能となる。また、循環部による撹拌効果により、反応部内における排水中の成分と嫌気性微生物の接触効率が向上し、嫌気処理効率を高めることが可能となる。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の嫌気処理装置としては、酸生成槽を通過した排水を嫌気処理する反応部と、反応部のpHを測定するpH測定部と、pH測定部で測定したpHの値に基づいて反応部内の排水のpHを調整するpH調整部とを備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理装置は、反応部における排水のpHを測定することで、反応部内のpH変動を高精度で把握することができるとともに、反応部内の排水に対してpH調整処理を行うことで、反応部における嫌気処理に好適なpH範囲を維持することが可能となる。これにより、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0015】
また、本発明の嫌気処理装置の一実施態様としては、pH調整部は、pH測定部で測定したpHの値に基づいて酸生成槽内の排水に対してpH調整処理を行い、反応部内の排水のpHを調整するという特徴を有する。
この特徴によれば、反応部のpHに応じて酸生成槽内の排水のpH調整処理を行うことで、反応部内の排水に対して間接的にpH調整処理を行うことが可能となる。これにより、1つのpH調整部で酸生成槽及び反応部におけるpH調整を行うことができるとともに、それぞれの処理工程に適したpH範囲となるように制御することが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の嫌気処理方法としては、酸生成槽を通過した排水を反応部で嫌気処理する反応ステップと、反応部のpHを測定するpH測定ステップと、pH測定ステップで測定したpHの値に基づいて反応部内の排水のpHを調整するpH調整ステップとを備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理方法は、反応部における排水のpHを測定することで、反応部内のpH変動を高精度で把握することができるとともに、反応部内の排水に対して直接あるいは間接的にpH調整処理を行うことで、反応部における嫌気処理に好適なpH範囲を維持することが可能となる。これにより、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸生成処理後の処理水を嫌気処理する際のpHの変動を高精度で把握し、嫌気処理効率の低下を抑制することができる嫌気処理装置及び嫌気処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施態様における嫌気処理装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施態様における嫌気処理装置の概略説明図である。
【
図3】本発明の第3の実施態様における嫌気処理装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の嫌気処理装置及び嫌気処理方法は、排水の嫌気処理において好適に利用されるものである。
【0020】
本発明の処理対象である排水とは、食品工場、化学工場等の各種工場から排出される工業排水等が挙げられる。また、本発明の効果をより発揮するという観点から、本発明の処理対象である排水は、低級アルコールや有機酸を含む排水であることが好ましく、特に高濃度の低級アルコールや有機酸を含む排水であることがより好ましい。なお、低級アルコールとしては、炭素数が6以下のものが好ましく、炭素数が3以下のものが特に好ましい。このような排水としては、パルプの製造時に発生するクラフトパルプ排水や半導体などの電子部品製造に係る工場排水、樹脂製造に係る工場排水などが挙げられる。なお、本発明の処理対象である排水は、これに限定されるものではなく、嫌気性下で生物処理が可能な有機物を含む排水であれば、本発明の処理対象となる。
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る嫌気処理装置及び嫌気処理方法の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載する嫌気処理装置については、本発明に係る嫌気処理装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。また、本実施態様に記載する嫌気処理方法についても、本発明に係る嫌気処理装置を用いた嫌気処理方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0022】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様の嫌気処理装置の概略説明図である。
本発明に係る嫌気処理装置1aは、
図1に示すように、各種工場からの排水WOを導入する酸生成槽2と、酸生成槽2からの被処理水W1を嫌気処理する反応部3と、反応部3のpHを測定するpH測定部4と、反応部3内の被処理水W1のpHを調整するpH調整部5を備えている。さらに、酸生成槽2に対して排水WOを導入するための導入配管であるラインL1と、酸生成槽2から排出された被処理水W1を反応部3に導入するラインL2と、反応部3から排出される処理水Wを系外に排出するための排出配管であるラインL3を有している。なお、
図1中の太線の矢印は水の流れを示すものであり、一点破線の矢印は制御可能に接続されていることを示すものである。
【0023】
酸生成槽2は、溶存酸素のない嫌気性雰囲気下で、絶対嫌気性細菌である酸生成菌によって排水WO中の有機物を分解し、有機酸を生成する酸生成工程を行うためのものである。
図1に示すように、酸生成槽2の下部に設けられたラインL1を介して排水WOが酸生成槽2に供給される。酸生成槽2では、内部に収容する酸生成菌により、排水WO中に含まれる成分の分解が行われる。酸生成処理後の被処理水W1は、酸生成槽2の上部に設けられたラインL2を介し酸生成槽2から排出される。なお、酸生成槽2は、密閉系とし、嫌気的環境を維持することが必須である。
【0024】
酸生成槽2内に収容される酸生成菌としては、ラインL4により酸生成槽2へ循環する処理水W中に含まれる菌体を用いる。酸生成を経由しない反応のみでメタン発酵を行う場合は、ラインL4やその他酸生成槽への菌の補充は不要となる。
【0025】
本実施態様における酸生成槽2は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、酸生成槽2は、内部の水温調整手段、酸生成菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。また、酸生成槽2において、酸生成菌を保持した担体を用いるものとしてもよい。
【0026】
反応部3は、酸生成槽2で処理された被処理水W1を嫌気処理する反応ステップを行うためのものである。
図1に示すように、反応部3は、メタン発酵槽31と、メタン発酵槽31内の上部に、メタンガス、処理水W及び固体分を分離する分離装置32を備えている。
【0027】
メタン発酵槽31は、酸生成槽2で処理された被処理水W1に含まれる炭素源からメタンを生成するメタン発酵工程を行うためのものである。メタン発酵工程は、浮遊法、固定床法、流動床法、UASB法、EGSB法等によりメタン発酵槽31内に保持されたメタン生成菌によって、溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行うものである。なお、メタン発酵槽31は、密閉系とし、嫌気的環境を維持することが必須である。
【0028】
メタン発酵槽31内に保持されるメタン生成菌としては、特に限定されない。例えば、単離された微生物を用いるものであってもよく、他の嫌気処理設備等からの種汚泥を用いるものであってもよい。また、排水WO中に含まれる嫌気性微生物を活用するものであってもよい。
【0029】
また、メタン生成菌の形態としては、特に限定されないが、例えばグラニュールと呼ばれる直径0.3~3mm程度の微生物の造粒物を用いるものとすることが挙げられる。グラニュールは、自己固定化作用(Self-immobilization)を利用した微生物塊であり、高い菌体濃度を維持することが可能である。したがって、グラニュールを用いることで、メタン生成菌を高濃度に維持した層がメタン発酵槽31内に形成される。
また、メタン発酵槽31において、メタン生成菌を保持した担体を用いるものとしてもよい。
以下、グラニュール層やメタン生成菌を保持した担体層等、メタン生成菌からなる層を、嫌気性微生物層Mという。
【0030】
分離装置32により分離したメタンガス、処理水W及び固体分については、それぞれを回収又は再利用するための手段を設けることが好ましい。例えば、メタンガスについては、バイオガスとして利用するために、回収、精製及び貯留を行う手段を備えるものとすることが好ましい。また、処理水Wについては、ラインL3を介して系外に排出される以外に、一部を循環水WRとし、ラインL3から分岐したラインL4を介して酸生成槽2に返送して酸生成槽2内の排水WOのpH調整や希釈に利用するものとしてもよい。また、固体分は、メタン生成菌を含むため、系外に流出しないよう分離装置32を使用してメタン発酵槽31で保持させることが好ましい。また、固体分の一部を酸生成槽2に供給し、酸生成菌の種汚泥として利用するものとしてもよい。
【0031】
本実施態様における反応部3は、さらに付帯する各種設備を設けることができる。例えば、反応部3は、内部の水温調整手段、メタン生成菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加する手段を備えたものとしてもよい。
【0032】
pH測定部4は、反応部3のpHを測定するpH測定ステップを行うものであり、より具体的にはメタン発酵槽31内の被処理水W1のpHを測定するものが挙げられる。
pH測定部4としては、被処理水W1のpHを測定することができるものであれば特に限定されず、pH計として公知のものを用いることができる。また、メタン発酵槽31内の被処理水W1のpH変動を高精度で把握するために、pH測定部4はメタン発酵槽31内に被処理水W1が存在する間、pH測定を連続して行い、pHの変動に係る情報をモニタリングすることが好ましい。
【0033】
pH測定部4を設ける箇所については、特に限定されない。例えば、メタン発酵槽31内の被処理水W1を直接測定することができるようにpH測定部4を設けるものとしてもよく、メタン発酵槽31から抜き出した被処理水W1に対してpH測定ができるようにpH測定部4を設けるものとしてもよい。
また、後述するように、pH測定部4を複数設けるものとしてもよい。
【0034】
嫌気性微生物層Mを形成するメタン発酵槽31においては、メタン生成菌の活性状態により局所的にpHが変動することがある。したがって、反応部3内のpHを高精度で把握するためには、反応部3内の被処理水W1を均質化した状態でpHを測定することが好ましい。
【0035】
反応部3内の均質化手段としては、メタン発酵槽31内を撹拌することが挙げられる。
具体的には、例えば、
図1に示すように、反応部3内の被処理水W1を循環させる循環部6を設け、循環部6上にpH測定部4を設けることが挙げられる。
循環部6は、メタン発酵槽31内の被処理水W1の一部を抜き出し、ラインL2側に返送する返送ライン61とポンプ62を備えている。循環部6は、ポンプ62により、メタン発酵槽31内の被処理水W1を循環させるため、メタン発酵槽31内における撹拌効果を奏する水流の形成が容易となる。これにより、メタン発酵槽31内を撹拌して被処理水W1を均質化することができ、pH測定部4におけるpH測定の精度を向上させることが可能となる。
また、循環部6によりメタン発酵槽31内が撹拌されるため、被処理水W1と嫌気性微生物層Mの接触効率が向上し、メタン発酵工程を促進することができるという効果も奏する。
【0036】
また、循環部6により被処理水W1を抜き出す位置は、メタン発酵槽31内に収容された嫌気性微生物層Mの上部とすることが好ましい。これにより、メタン発酵槽31内のメタン生成菌などの固形物が循環部6に流入することを防ぎ、pH測定部4におけるpH測定精度を向上させることができる。
【0037】
pH調整部5は、pH測定部4で測定されたpHの値に基づき、反応部3内の被処理水W1のpHを調整するpH調整ステップを行うものである。また、本実施態様のpH調整部5は、反応部3内の被処理水W1に対して直接pH調整処理を行うものである。
【0038】
また、pH調整部5は、反応部3内の被処理水W1を嫌気処理(メタン発酵処理)に適したpH範囲とするためのものである。反応部3内の被処理水W1は、中性付近となるようにすることが好ましい。具体的には、pHの下限は6.0とすることが好ましい。また、pHの上限は7.5とすることが好ましい。これにより、メタン生成菌によるメタン発酵工程に係る処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0039】
pH調整部5としては、例えば、反応部3内の被処理水W1のpHを調整するために、pH調整剤51を添加するpH調整剤添加部52を備えるものが挙げられる。
pH調整剤添加部52としては、例えば、pH調整剤51を貯留する貯留槽と、貯留槽に接続した配管を備え、配管に設けたバルブなどの添加量制御機構により、pH調整剤51を添加するものが挙げられる。また、他の例としては、pH調整剤51を添加する対象に投入口を設け、あらかじめ設定した量のpH調整剤51を添加するものなどが挙げられる。
【0040】
また、pH調整部5は、pH測定部4の測定結果に基づき、pH調整剤添加部52からのpH調整剤51の添加量を制御することが好ましい。
pH調整部5における制御手段は特に限定されない。例えば、
図1に示すように、pH測定部4の測定結果を直接入力可能とし、pH調整剤添加部52を制御する制御部53を設けることが挙げられる。このとき、制御部53は、pH測定部4の測定結果に基づきpH調整剤51の添加量を算出し、pH調整剤添加部52から添加するpH調整剤51の添加量を制御可能とすることが挙げられる。また、他の制御手段としては、pH測定部4の測定結果に基づき、作業者がpH調整剤51の添加量を決定してpH調整剤添加部52を介してpH調整剤51を添加することなどが挙げられる。なお、作業効率を鑑み、pH調整部5に制御部53を設け、pH調整剤51の添加量の算出及びpH調整剤51の添加を自動化することが好ましい。
【0041】
pH調整剤51としては、酸、アルカリともに公知の物質を用いるものとする。例えば、pH測定部4による測定結果が酸性側(pH6.0未満)である場合、pH調整剤51として水酸化ナトリウムを用い、被処理水W1のpHを6.0以上とする。また、pH測定部4による測定結果がアルカリ側(pH7.5より大きい)である場合、pH調整剤51として塩酸を用い、被処理水W1のpHを8.5以下とする。なお、pH測定部4の測定結果がpH6.0~7.5の範囲内にある場合は、pH調整剤51を添加する必要はない。
【0042】
pH調整部5により被処理水W1に対してpH調整剤51を添加する箇所については、特に限定されない。例えば、メタン発酵槽31内に直接pH調整剤51を添加するものとしてもよく、メタン発酵槽31から抜き出した被処理水W1に対してpH調整剤51を添加するものとしてもよい。
【0043】
例えば、
図1に示すように、循環部6上にpH調整剤添加部52を設け、被処理水W1のpHを調整することが挙げられる。これにより、循環部6によるメタン発酵槽31内の撹拌効果も得ることができるため、反応部3内のpHを均質化するとともに、メタン発酵工程の促進が可能となる。
【0044】
また、循環部6上でpH調整剤51を添加する際、pH測定部4の設置箇所とpH調整剤添加部52の設置箇所の位置関係については特に限定されない。例えば、
図1に示すように、pH測定部4の上流側にpH調整剤添加部52を設けるものとしてもよい。これにより、メタン発酵槽31内に返送する被処理水W1が所定のpHを満たしているかどうかを高精度で把握することができる。また、pH測定部4の下流側にpH調整剤添加部52を設けるものとしてもよい。これにより、必要なpH調整剤51の添加量の算出が容易となるとともに、pH調整剤51の添加量を適量とすることができるため、コスト削減が可能となる。
【0045】
本実施態様の嫌気処理装置1aは、pH測定部4を複数設けるものとしてもよい。
このとき、複数のpH測定部4を設ける箇所の一例としては、循環部6上に設けたpH調整剤添加部52の前後に設けることが挙げられる。これにより、循環部6に導入された被処理水W1のpHに基づき、pH調整剤51の添加量を容易に算出することができ、かつpH調整剤51を添加した被処理水W1のpHが所定の範囲内にあるかどうかを確認することが可能となる。
【0046】
また、複数のpH測定部4を設ける箇所の他の例としては、メタン発酵槽31内と循環部6にそれぞれpH測定部4を設けることが挙げられる。このとき、それぞれのpH測定部4の測定結果に基づき、循環部6から導入する被処理水W1の流量を制御することにより、メタン発酵槽31内の撹拌効率を制御し、メタン発酵槽31内の被処理水W1のpHを均質化するものとしてもよい。
さらに、複数のpH測定部4を設ける箇所の他の例としては、メタン発酵槽31内の嫌気性微生物層M内あるいはその近傍と、メタン発酵槽31内の上部(分離装置32近傍)に設けることが挙げられる。これにより、メタン発酵槽31内のpHをより高精度に把握することができる。このとき、循環部6を設け、メタン発酵槽31内の撹拌効果を得るものとしてもよい、また、循環部6を設けず、pH調整部5によるpH調整処理を行うものとしてもよい。これにより、反応部3の構造を簡略化することが可能となる。
【0047】
本実施態様における嫌気処理装置を用いた嫌気処理方法として、メタン発酵処理について説明する。なお、嫌気処理装置としては、
図1に示した構造に基づき説明しているが、これに限定されるものではない。
【0048】
酸生成槽2及び反応部3でメタン発酵処理を行う場合、酸生成槽2内部に収容する酸生成菌により、排水WO中の糖、蛋白質などの高分子有機物を分解して、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸を生成する酸生成工程と、メタン発酵槽31内部に収容するメタン生成菌により、排水WO中の単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸等の炭素源からメタンを生成するメタン生成工程により、メタン発酵が進行する(反応ステップ)。
【0049】
このとき、排水WO中に含まれる成分が高濃度の低級アルコールや有機酸である場合、酸生成菌による分解対象が少なく、酸生成槽2における酸生成工程はほとんど進行しない。したがって、酸生成槽2における酸生成工程の進行に伴うpHの変動は少なくなる。このため、排水WOのpHが強酸または強アルカリである場合を除き、酸生成槽2におけるpH調整は不要となる。一方、メタン発酵槽31においては、メタン生成菌によるメタン生成工程が進行し、低級アルコールの分解による有機酸生成や、有機酸の分解による二酸化炭素生成により、メタン発酵槽31内のpHは低下していく。上述したように、メタン発酵槽31内におけるメタン生成工程の好適pHは中性付近であることが知られている。ここで、メタン発酵槽31に設けられたpH測定部4により、メタン発酵槽31内の被処理水W1のpHを測定し(pH測定ステップ)、測定結果が好適pHの範囲を満たさない場合、pH調整部5によりメタン発酵槽31内の被処理水W1のpHを調整する(pH調整ステップ)。これにより、反応部3内をメタン発酵工程に適した条件に維持することが可能となり、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0050】
以上のように、本実施態様の嫌気処理装置及び嫌気処理方法を用いることで、メタン発酵工程におけるpH変動を高精度で把握するとともに、メタン発酵工程に供された被処理水のpH調整を行うことで、メタン発酵工程に適した条件を維持することが可能となる。これにより、嫌気処理を行う嫌気処理装置及び嫌気処理方法において、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0051】
また、本実施態様において、処理対象である排水WOとして、排水WO中に低級アルコールや酢酸などを多く含み、酸生成工程の処理対象が少ない排水WOについて説明したが、これに限定されるものではない。処理対象として、メタン発酵工程において高精度でpH変動を把握し、pH調整を行う必要がある他の成分を含む排水に対しても、本実施態様の嫌気処理装置及び嫌気処理方法を好適に用いることができる。
【0052】
[第2の実施態様]
図2は、本発明の第2の実施態様の嫌気処理装置1bの概略説明図である。
本実施態様に係る嫌気処理装置1bは、
図2に示すように、第1の実施態様の嫌気処理装置1aにおけるpH調整部5を酸生成槽2側に設け、反応部3内の被処理水W1に対して間接的にpH調整処理を行うものである。
なお、本実施態様における嫌気処理装置1bの構成のうち、第1の実施態様の嫌気処理装置1aの構成と同じものについては、説明を省略する。また、
図2において、循環水WR及びラインL4については記載を省略している。
【0053】
本実施態様の嫌気処理装置1bは、pH測定部4により反応部3のpHを測定し、その測定結果に基づき、酸生成槽2に設けたpH調整剤添加部52を制御して酸生成槽2内の排水WOに対してpH調整剤51を添加し、pH調整処理を行うものである。
【0054】
本実施態様の嫌気処理装置1bでは、pH調整処理された排水WOは酸生成工程に供された後、ラインLを介して被処理水W1として反応部3に導入される。このとき、被処理水W1のpHがメタン発酵工程に適したpH範囲となるよう、pH調整剤51の添加量を制御する。これにより、反応部3内の被処理水W1のpHを調整することが可能となる。
【0055】
酸生成槽2側に設けたpH調整部5によって、反応部3内の被処理水W1のpHがメタン発酵工程に適したpH範囲となるように調整されるため、結果として酸生成槽2内の排水WOは中和されて、酸生成工程に適したpH範囲を満たすようになる。したがって、本実施態様の嫌気処理装置1bは、酸生成槽2内の排水WOのpH調整と、メタン発酵槽31内の被処理水W1のpH調整を、1つのpH調整部5により行うことが可能となる。これにより、嫌気処理装置1bの構造を簡略化するとともに、嫌気処理に係る複数の工程に対する制御をより平易に実行することが可能となる。
【0056】
本実施態様における嫌気処理装置1bにより、メタン発酵工程におけるpH変動を高精度で把握するとともに、メタン発酵工程におけるpHに基づき、酸生成槽内の排水に対してpH調整を行うことで、酸生成工程及びメタン発酵工程に適した条件を維持することが可能となる。
また、本実施態様の嫌気処理装置1bを用い、第1の実施態様において記載した嫌気処理方法と同様の工程に基づき、嫌気処理を行うことができる。
これにより、嫌気処理を行う嫌気処理装置及び嫌気処理方法において、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0057】
[第3の実施態様]
図3は、本発明の第3の実施態様の嫌気処理装置1cの概略説明図である。
本実施態様に係る嫌気処理装置1cは、
図3に示すように、第2の実施態様の嫌気処理装置1bにおける循環部6を設けず、pH測定部4をメタン発酵槽31内に設けるものである。
なお、本実施態様における嫌気処理装置1cの構成のうち、第2の実施態様の嫌気処理装置1bの構成と同じものについては、説明を省略する。また、
図3において、循環水WR及びラインL4については記載を省略している。
【0058】
本実施態様の嫌気処理装置1cは、pH測定部4をメタン発酵槽31内に設けることで、被処理水W1のpHを直接測定するものである。これにより、反応部3の構造をより簡略化することが可能となる。
【0059】
本実施態様の嫌気処理装置1cにおけるpH測定部4の配置箇所は、メタン発酵槽31内であればよく、特に限定されない。
例えば、嫌気性微生物層M内あるいは近傍にpH測定部4を設け、この測定結果に基づき、pH調整部5によるpH調整処理を行うことが挙げられる。これにより、嫌気性微生物層Mにおけるメタン生成工程に係る好適pH範囲を維持することが可能となる。
また、メタン発酵槽31内の上部(分離装置32近傍)にpH測定部4を設け、この測定結果に基づき、pH調整部5によるpH調整処理を行うことが挙げられる。これにより、ラインLから排出される直前の被処理水W1のpHが、処理水Wとして適切な水質であるか否かを判断することができるとともに、メタン生成工程が進行するようにpH調整をすることで、適切な水質(pH)を満たす処理水Wを得ることができる。
【0060】
また、pH測定部4を複数設けるものとしてもよい。例えば、メタン発酵槽31内の嫌気性微生物層M内あるいはその近傍と、メタン発酵槽31内の上部(分離装置32近傍)に設けることが挙げられる。これにより、メタン発酵槽31内のpHをより高精度に把握することができる。
【0061】
本実施態様の嫌気処理装置1cにより、装置の構造を簡略化し、メタン発酵工程におけるpH変動を高精度で把握するとともに、メタン発酵工程におけるpHに基づき、酸生成槽内の排水に対してpH調整を行うことで、酸生成工程及びメタン発酵工程に適した条件を維持することが可能となる。
また、本実施態様の嫌気処理装置1cを用い、第1の実施態様において記載した嫌気処理方法と同様の工程に基づき、嫌気処理を行うことができる。
これにより、嫌気処理を行う嫌気処理装置及び嫌気処理方法において、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0062】
なお、上述した実施態様は嫌気処理装置及び嫌気処理方法の一例を示すものである。本発明に係る嫌気処理装置及び嫌気処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る嫌気処理装置及び嫌気処理方法を変形してもよい。
【0063】
例えば、本実施態様の嫌気処理装置において、酸生成槽のpHを測定するpH測定部を別途設けることとしてもよい。また、酸生成槽のpHの測定結果に基づき、酸生成槽内の排水のpHを調整するpH調整部を別途設けることとしてもよい。なお、反応部側に設けられたpH測定部及びpH調整部と、酸生成槽側に設けられたpH測定部及びpH調整部は、それぞれが独立してpH調整処理を行うものであってもよく、それぞれのpH測定部による測定結果を互いに参照し、pH調整部を制御するものとしてもよい。これにより、反応部のpHだけではなく、酸生成槽内のpHも調整することで、酸生成工程に適したpH範囲とし、嫌気処理効率の低下を抑制することが可能となる。
【0064】
また、第1の実施態様の嫌気処理装置において、循環部に対してpH測定部の上流側にpH調整剤添加部を設ける場合、pH測定部の下流側の循環部上に流量調節機能を設け、pH測定部の測定結果が所定のpHを満たした被処理水のみを循環させるものとしてもよい。なお、流量調節機能としては、循環部の返送ライン上に流量調節弁を設けるものや、被処理水を一時貯留する一時貯留槽を設けることなどが挙げられる。このとき、酸生成槽側にもpH調整部を設けて、反応部のpH測定部の測定結果に基づき、酸生成槽から供給される被処理水のpHを調整し、反応部に導入される被処理水のpHが所定の範囲となるようにすることが好ましい。これにより、反応部内のpHをより高精度で制御することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の嫌気処理装置及び嫌気処理方法は、有機物を含む排水の嫌気処理に利用される。特に、本発明の嫌気処理装置及び嫌気処理方法は、低級アルコールや有機酸を含む排水の嫌気処理に対して好適に利用される。
【符号の説明】
【0066】
1a,1b,1c 嫌気処理装置、2 酸生成槽、3 反応部、31 メタン発酵槽、32 分離装置、4 pH測定部、5 pH調整部、51 pH調整剤、52 pH調整剤添加部、53 制御部、6 循環部、61 返送ライン、62 ポンプ、L1~L3 ライン、M 嫌気性微生物層、WO 排水、W1 被処理水、W 処理水