(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】汚泥掻寄機
(51)【国際特許分類】
B01D 21/18 20060101AFI20230421BHJP
B01D 21/22 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
B01D21/18 G
B01D21/22
(21)【出願番号】P 2019186793
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】林田 恵星
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-73599(JP,A)
【文献】実開昭52-153357(JP,U)
【文献】特開2018-99682(JP,A)
【文献】特開2006-61876(JP,A)
【文献】実開平6-85002(JP,U)
【文献】米国特許第4724088(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/40
B65G 19/00-19/30
B65G 21/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフライトが取り付けられたチェーン構造を駆動して沈殿池の底の汚泥を掻き寄せる汚泥掻寄機において、
前記汚泥掻寄機は、
各前記フライトを移動可能に支持するためのガイドレールと、
前記沈殿池の側壁に固定され、前記ガイドレールを支持するブラケットと、
各前記フライトを相互に連結し、各前記フライトの運動を同期させるリンクロッドと、
を備え、
前記フライトのうち1以上は、フライト正転作動アームを備える正転用フライトであり、
前記フライトのうち1以上は、フライト逆転作動アームを備える逆転用フライトであり、
前記チェーン構造は、1以上のフライト正転ストライカと、1以上のフライト逆転ストライカとを備え、
前記フライト正転ストライカが前記フライト正転作動アームに作用することにより、前記正転用フライトの下端が下降するとともに、他の前記フライトの下端が前記リンクロッドを介して下降し、
前記フライト逆転ストライカが前記フライト逆転作動アームに作用することにより、前記逆転用フライトの下端が上昇するとともに、他の前記フライトの下端が前記リンクロッドを介して上昇する、
ことを特徴とする汚泥掻寄機。
【請求項2】
前記汚泥掻寄機は、各前記フライトについて、当該フライトと前記ガイドレールとを連結する連結プレートを備え、
前記連結プレートは被ガイド部を備え、
前記被ガイド部は前記ガイドレールにより移動可能に支持され、
前記連結プレートは、前記フライトが汚泥を掻き寄せる際に前記フライトが汚泥から受ける力に逆らって前記フライトの可動域を制限する
ことを特徴とする、請求項1に記載の汚泥掻寄機。
【請求項3】
各前記フライトおよび前記リンクロッドは、各前記フライトの下端が上昇した位置にある場合に、各前記フライトおよび前記リンクロッドに作用する重力により、各前記フライトの下端の高さ位置が維持されるように連結される、
ことを特徴とする請求項1に記載の汚泥掻寄機。
【請求項4】
前記チェーン構造には、水面のスカムを掻き寄せるスカム掻寄板がさらに取り付けられ、
前記フライト正転ストライカが前記フライト正転作動アームに作用することにより、前記スカム掻寄板が下降し、
前記フライト逆転ストライカが前記フライト逆転作動アームに作用することにより、前記スカム掻寄板が上昇する、
ことを特徴とする請求項1に記載の汚泥掻寄機。
【請求項5】
前記チェーン構造は、第1チェーン部と、第2チェーン部と、第1中間ロッドと、第2中間ロッドとを備え、
前記第1中間ロッドには各前記フライトが連結され、
前記第2中間ロッドには前記フライト正転ストライカ及び前記フライト逆転ストライカが設けられ、
前記第1チェーン部の長さおよび前記第2チェーン部の長さは、いずれも前記フライトの配置ピッチより長い、
ことを特徴とする請求項1に記載の汚泥掻寄機。
【請求項6】
前記ガイドレールは、各前記フライトの両側を支持するために複数設けられ、
前記チェーン構造は、1つのみ設けられる、
ことを特徴とする、請求項1に記載の汚泥掻寄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、沈殿池で使用される汚泥掻寄機に関する。沈殿池は、たとえば下水道あるいは上水道などのものである。
【背景技術】
【0002】
沈殿池の池底に堆積する汚泥を除去するために、汚泥を上流側に掻き寄せる汚泥掻寄機が用いられる。汚泥掻寄機の例として、たとえば特許文献1および2に開示されるものが知られている。
【0003】
特許文献1の技術は、沈殿池の内部に配置された駆動軸、アイドラ軸、テークアップ軸及び水中軸の合計4つの軸を有してフライトを駆動する。池底にガイドレールを設置して往路のフライトをガイドし、水面付近にもガイドレールを設置して復路のフライトをガイドする。
図13にこのような技術を用いた構成の例を示す。
図13(a)は正面図であり、
図13(b)は側面図である。
【0004】
特許文献2によれば、スロッシング対策として、フライトのシューがガイドレールを両側から挟むように構成される。とくに、復路側ガイドレールの頭部を間にはさむように、復路側シューの突起と対峙する位置に突起を位置するプレート(突起付きガイド板)をあらたに設置している。
【0005】
なお、沈殿池におけるスロッシングの被害例としては、処理水が地震等によって揺動し、この揺動によってフライトがガイドレールから逸脱することが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4536595号公報
【文献】特許第5727075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術では、フライトをガイドするための構造に関して様々な課題があった。
たとえば、施工性に関する課題として、池底における工事に関するものがある。
【0008】
特許文献1の技術では、
図13に示すように、ガイドレールを池底および水面付近に敷設する必要がある。池底ガイドレール502の設置にあたっては、池底での汚泥のかき残しを少なくするために、池底ガイドレール502を池底に埋め込み、フライトと池底との隙間を小さくする必要がある。
【0009】
池底ガイドレール502を埋め込むには、池底ガイドレール502を池底にアンカーボルトで固定した後、池底ガイドレール502周りを含めて池底全面に無筋コンクリートを流し、池底を高くして池底ガイドレール502を埋め込む。
【0010】
この無筋コンクリートと沈殿池躯体の鉄筋コンクリートとの付着性をよくするために、躯体の池底全面をはつり、目荒らしする必要があり、たいへんな手間がかかっている。
【0011】
さらに、無筋コンクリートを流し込んだ後、養生期間が必要となるが、この養生期間には池底を含めた池内の作業ができなくなり、作業工程が必然的に長くなっている。
【0012】
また、既設のチェーンフライト式汚泥掻寄機を更新する場合にも、既設の池底ガイドレール502を交換するために池底の無筋コンクリートをはつり、既設の池底ガイドレール502を露出させ撤去する、という作業が必要である。
【0013】
施工性に関する別の課題として、基礎ボルトの施工本数および高所作業に関するものがある。
【0014】
特許文献1のようなチェーンフライト式汚泥掻寄機では、
図13に示すように、池内に駆動軸503、アイドラ軸504、テークアップ軸505及び水中軸506の合計4つの軸を有する。
【0015】
それぞれの軸は、池壁に基礎ボルトで固定する。このために、沈殿池躯体をはつり、鉄筋を露出させ、露出させた鉄筋に基礎ボルトを結束させる作業が必要である。また、軸を基礎ボルトで固定したあと、はつった躯体のコンクリートによる埋め戻し作業と養生が必要である。
【0016】
さらに、4つの軸のうち、駆動軸503とアイドラ軸504は池底から3mから5m程度の水面近くに配置するため、施工時は、高所作業足場が必要となる。
【0017】
高所作業足場の設置、分解の手間がかかるうえ、高所作業足場への物の上げ下げや作業者の昇り降りの時間がかかるため、高所でない作業と比べると作業性が悪くなる。
【0018】
高所へ設置する部品は駆動軸503とアイドラ軸504以外にも、復路側ガイドレール501とその支持用のブラケットが必要であり、それを池側壁へ設置するために高所作業足場による作業が必要である。
【0019】
また、スロッシング対策に関する課題がある。
特許文献2の技術は、スロッシング対策として、復路側シューの突起と対峙する位置に突起を位置するプレート(突起付きガイド板)をあらたに設けるものであるが、フライトに付属品を追加する必要があるので、付属品の製作と取付作業が煩雑になる。
【0020】
この発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、フライトをガイドするための構造を改善した汚泥掻寄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明に係る汚泥掻寄機の一例は、
複数のフライトが取り付けられたチェーン構造を駆動して沈殿池の底の汚泥を掻き寄せる汚泥掻寄機において、
前記汚泥掻寄機は、
各前記フライトを移動可能に支持するためのガイドレールと、
前記沈殿池の側壁に固定され、前記ガイドレールを支持するブラケットと、
各前記フライトを相互に連結し、各前記フライトの運動を同期させるリンクロッドと、
を備え、
前記フライトのうち1以上は、フライト正転作動アームを備える正転用フライトであり、
前記フライトのうち1以上は、フライト逆転作動アームを備える逆転用フライトであり、
前記チェーン構造は、1以上のフライト正転ストライカと、1以上のフライト逆転ストライカとを備え、
前記フライト正転ストライカが前記フライト正転作動アームに作用することにより、前記正転用フライトの下端が下降するとともに、他の前記フライトの下端が前記リンクロッドを介して下降し、
前記フライト逆転ストライカが前記フライト逆転作動アームに作用することにより、前記逆転用フライトの下端が上昇するとともに、他の前記フライトの下端が前記リンクロッドを介して上昇する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る汚泥掻寄機によれば、池底のはつり作業や基礎ボルトの施工作業、および高所作業を必要としないため施工性がよく、またスロッシングによる影響が小さい汚泥掻寄機を提供することができる。
【0023】
たとえば、池底における工事に関して、本発明に係る汚泥掻寄機の一例ではフライト吊下げ構造となっており、フライトは池側壁のガイドレールに吊下げられる構造であるので、池底ガイドレールが不要であり、池底のはつり作業(目荒らし作業)が不要となる。このようにして施工性が改善される。
【0024】
また、基礎ボルト施工本数および高所作業に関して、本発明に係る汚泥掻寄機の一例では、フライトが池底だけに配置され、かき寄せ方向と戻り方向とで往復する。このため、軸本数が4つから2つに減り、基礎ボルト施工本数が半減できる。
【0025】
さらに、水面付近に設置する部品(たとえば、
図13に示す従来のチェーンフライト式汚泥掻寄機における駆動軸503、アイドラ軸504、復路側ガイドレール501等)が不要となるので、設置時の高所作業が不要となる。このようにして施工性が改善される。
【0026】
また、スロッシング対策に関して、本発明に係る汚泥掻寄機の一例では、スロッシングによる影響の小さい池底だけにフライトが配置されており、スロッシングによる影響の大きい水面付近にはフライトが配置されないので、スロッシングによるフライトの逸脱等を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】この発明の実施形態1に係る汚泥掻寄機の側面図。
【
図5】フライトが下降した位置にある状態の、
図1の汚泥掻寄機の斜視図。
【
図6】フライトが上昇した位置にある状態の、
図1の汚泥掻寄機の斜視図。
【
図10】各アームおよび各ストライカの位置関係を示す斜視図。
【
図11】フライトが上昇する動作を説明する側面図。
【
図12】フライトが下降する動作を説明する側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
実施形態1.
図1は、この発明の実施形態1に係る汚泥掻寄機の側面図である。沈殿池200に汚泥掻寄機10が設置されている。以下、説明の便宜上、
図1の紙面左方向を前方向とし、
図1の紙面右側を後方向とし、
図1の紙面上方向を上方向とし、
図1の紙面下方向を下方向とする。処理水は、
図1の白抜き矢印の向きに、前から後へと流れる。
【0030】
汚泥掻寄機10は、チェーン構造20を駆動して沈殿池の底の汚泥を掻き寄せる汚泥掻寄機である。チェーン構造20には複数のフライト30が取り付けられている。フライト30は、池底の汚泥を前方に掻き寄せることができるように構成される。掻き寄せられた汚泥は、たとえば池底前方に形成された汚泥ピット201に集積される。なおフライト30は複数設けられているが、図によって参照符号は1つのみ示す場合がある。フライト30以外の構成要素についても同様である。
【0031】
チェーン構造20は、駆動機構40により駆動される。駆動機構40は、駆動装置41と、駆動軸装置42と、従動軸装置43とを備え、駆動装置41は沈殿池200の水上部に設置されている。なお駆動装置41の位置は図示のものに限らない。
【0032】
汚泥掻寄機10は、スカム掻寄機構80を備える。スカム掻寄機構80はチェーン構造20に取り付けられる。スカム掻寄機構80はスカム掻寄板81を備える。スカム掻寄板81は水面付近に設けられ、水面のスカムを後方に掻き寄せてスカム収集装置90に到達させる。スカム収集装置90は、スカムスキマと呼ばれるものであってもよく、スカムを収集して沈殿池200の外部に排出する。スカム収集装置90は、たとえばスカムパイプを用いて構成することができる。
【0033】
図2は、汚泥掻寄機10の平面図であり、
図3は、汚泥掻寄機10の正面図である。なお
図3では駆動機構40を省略している。汚泥掻寄機10は、各フライト30を移動可能に支持するためのガイドレール50を備える。ガイドレール50は前後方向に延びるレールであり、左右に対として設けられ、各フライト30の両端部分または両端近傍部分を下方から支持するとともに、上方への移動を制限する。ガイドレール50による具体的な支持構造の例は
図7等を用いて後述する。また、汚泥掻寄機10は、ガイドレール50を支持するブラケット60を備える。ブラケット60は沈殿池200の側壁に固定される。
【0034】
図1に示すように、チェーン構造20は、チェーン部および中間ロッドを備えて閉じたループ構造に構成される。本実施形態では、チェーン構造20は、第1チェーン部21と、第2チェーン部22と、第1中間ロッド23と、第2中間ロッド24とを備える。第1チェーン部21は駆動軸装置42において駆動ホイルの周りに巻かれ、第2チェーン部22は従動軸装置43において従動ホイルの周りに巻かれる。
【0035】
第1中間ロッド23は、第1チェーン部21の下側端と、第2チェーン部22の下側端との間に連結される。第2中間ロッド24は、第1チェーン部21の上側端と、第2チェーン部22の上側端との間に連結される。
【0036】
図4は、駆動機構40の正面図である。
図1に示すように、駆動装置41の駆動ホイルと、駆動軸装置42の駆動ホイルとは運動伝達機構(ベルト、チェーン、等)によって連結され(この運動伝達機構そのものは
図4には示さない)、駆動装置41の駆動軸の回転が駆動軸装置42の駆動軸に伝達される。また、駆動軸装置42の別の駆動ホイルと、従動軸装置43の従動ホイルとはチェーン構造20によって連結され、駆動軸装置42の駆動軸の回転が従動軸装置43の従動軸に伝達される。
【0037】
ここで、従来のチェーンフライト式汚泥掻寄機では、
図13に示すように合計4つの軸が必要であるが、本実施形態に係る汚泥掻寄機10によれば、沈殿池200内の駆動機構40の回転軸は、駆動軸装置42の駆動軸と、従動軸装置43の従動軸との2つのみとすることができ、軸の数を低減することができる。このため、軸に関する作業工程全体を削減することができる。
【0038】
さらに、従来のチェーンフライト式汚泥掻寄機では、軸の一部(駆動軸およびアイドラ軸)を池底から3mから5m程度の水面近くに配置する必要があるので、施工時に高所作業足場が必要となる。これに対し、本実施形態に係る汚泥掻寄機10によれば、沈殿池200内のすべての軸を池底付近に設置することができる。このように、施工性が改善される。
【0039】
図1に示すように、第1中間ロッド23および第2中間ロッド24のうち一方(本実施形態では第1中間ロッド23)には、各フライト30およびスカム掻寄機構80が連結されている。第1中間ロッド23の前後移動に伴って、各フライト30およびスカム掻寄機構80は、ガイドレール50に沿って前後移動する。また、第1中間ロッド23に対して、各フライト30は、それぞれの連結軸の周りに回転可能となるよう構成される(
図11および
図12を用いて後述する)。
【0040】
汚泥掻寄機10は、リンクロッド70を備える。リンクロッド70は各フライト30を相互に連結し、各フライト30の運動を同期させる。すなわち、あるフライト30が第1中間ロッド23との連結軸の周りに回転すると、リンクロッド70に連結されたすべてのフライト30が同様にそれぞれの連結軸の周りに回転するようになっている。
【0041】
フライト30の、ある方向への回転は、そのフライト30(とくにその下端)を下降させる回転であり、以下ではこれを「正転」と呼ぶ。また、これと逆の方向への回転は、そのフライト30(とくにその下端)を上昇させる回転であり、以下ではこれを「逆転」と呼ぶ。
【0042】
なお、
図2に示すように、本実施形態ではリンクロッド70は左右両側に合計2本設けられ、これらが固定構造71を介して互いに固定される。固定構造71は、
図2の例では左右にわたって交差して設けられる筋交い棒であるが、具体的な構造はこれに限らない。たとえば、四角形(正方形、長方形または台形)の板を水平に配置し、平行な2辺に沿って左右のリンクロッド70を固定してもよい。
【0043】
図5は、汚泥掻寄機10の斜視図である。
図5の汚泥掻寄機10は、各フライト30およびスカム掻寄機構80が下降した状態にある。この状態では、フライト30の位置(とくにその下端の位置。たとえば
図11および
図12に下端30cとして示す。以下同様)は、池底の汚泥を掻き寄せることができる低い位置に配置される。また、スカム掻寄板81の位置は、
図1および
図3に示すように水面より下側にあり、水面のスカムを掻き寄せない位置に配置される。なお、
図5における各フライト30およびスカム掻寄機構80の前後位置は、
図1とは異なる。
【0044】
この状態でチェーン構造20が回転し、第1中間ロッド23が前方に向かって移動すると、フライト30も前方に向かって移動し、その位置に応じて池底の汚泥を前方に掻き寄せることができる。
【0045】
ここで、
図1および
図5等に示すように、第1チェーン部21の長さは、フライト30の配置ピッチより長い。また、第2チェーン部22の長さも、フライト30の配置ピッチより長い。このような構成によれば、各フライト30の移動範囲は、隣接するフライト30の移動範囲と前後に重複するので、複数のフライト30によって池底の全面をカバーすることができ、たとえば池底の後方に堆積した汚泥を前方の汚泥ピット201に掻き寄せることができる。
【0046】
図6は、汚泥掻寄機10の別の斜視図である。
図6の汚泥掻寄機10は、各フライト30およびスカム掻寄機構80が上昇した状態にある。この状態では、フライト30の位置(とくにその下端30cの位置)は、池底の汚泥と接触しない(または接触しにくい)高い位置に配置される。また、スカム掻寄板81は、水面を含む高い位置に配置され、水面のスカムを掻き寄せることができる。
【0047】
この状態でチェーン構造20が回転し、第1中間ロッド23が後方に向かって移動すると、スカム掻寄板81も後方に向かって移動し、その位置に応じて水面のスカムを後方に掻き寄せることができる。
【0048】
ここで、
図5および
図6等に示すように、本実施形態において、ガイドレール50は、各フライト30の両側を支持するために複数(この例では合計2本)設けられ、同様に、チェーン構造20のうち第1中間ロッド23も、各フライト30の両側を支持するために複数(この例では合計2本)設けられる。しかしながら、チェーン構造20のうち第1チェーン部21、第2チェーン部22および第2中間ロッド24は、それぞれ1つのみ(すなわち片側にのみ)設けられる。また、駆動機構40も1つのみ(すなわち片側にのみ)設けられる。このため、駆動機構40およびチェーン構造20全体を両側に配置した構成と比較すると、構成が簡素になり、施工性が改善される。ただし、変形例として、駆動機構40またはチェーン構造20全体を両側に設けることも可能である。
【0049】
このように、本実施形態に係る汚泥掻寄機10によれば、ガイドレール50がブラケット60を介して沈殿池200の側壁に設けられるので、ガイドレール50を池底に固定する必要がない。このため、汚泥掻寄機10を設置する際にも、沈殿池200の池底をはつる作業や、目荒らしする作業は不要である。また、無筋コンクリートを新たに池底に用いる必要がないので、養生期間に池内の作業ができなくなるという事態が回避でき、作業工程が短縮できる。さらに、汚泥掻寄機10を更新する場合にも、池底のコンクリートに対する作業なくガイドレール50を交換することができる。このように、施工性が改善される。
【0050】
さらに、本実施形態に係る汚泥掻寄機10によれば、フライト30がすべて池底近くに配置されており、水面付近に移動することがないので、フライト30に対するスロッシングの影響を抑制することができる。このため、たとえばスロッシング対策のための追加構造等は不要である。
【0051】
図7は、
図3のフライト30およびスカム掻寄機構80の一端側を拡大した部分拡大図である。また、
図8は、駆動軸装置42周辺の斜視図である。また、
図9は、従動軸装置43周辺の斜視図である。
図9に示すように、フライト30はすべてが同一の形状および構造を有する必要はなく、たとえば最後方のフライト30(特にフライト30aとして示す)を異なる形状としてもよい。
【0052】
図7~9に示すように、汚泥掻寄機10は、各フライト30について、その左右両側に、当該フライト30とガイドレール50とを連結する連結プレート31を備える。フライト30はそれぞれ連結プレート31を介してガイドレール50に支持される。
【0053】
連結プレート31は被ガイド部を備え、この被ガイド部が、ガイドレール50によって移動可能に支持される。本実施形態では、被ガイド部は
図7に示すガイドホイル32として構成される。ガイドホイル32のローラが、ガイドレール50によって回転移動可能に支持されることにより、ガイドホイル32の軸を介して、連結プレート31およびフライト30が支持される。なお被ガイド部をガイドホイル32のように回転可能な構成とする必要はなく、たとえばガイドレール50内を滑動可能な構成としてもよい。
【0054】
連結プレート31は第1中間ロッド23に対して固定されている。また、フライト30は連結プレート31に対して回転可能に連結されており、各フライト30が回転することによりそのフライト30の位置が変化する。この回転動作については
図11および
図12を参照して後述する。
【0055】
図7に示すように、汚泥掻寄機10は、フライト正転作動アーム101およびフライト逆転作動アーム102を備える。フライト正転作動アーム101は、フライト30のうち1以上(正転用フライト)に備えられる。また、フライト逆転作動アーム102も、フライト30のうち1以上(逆転用フライト)に備えられる。本実施形態では、これらは1つずつ設けられ、同一のフライト30に備えられる。すなわち、本実施形態では、ある1つのフライト30が、正転用フライトとしても逆転用フライトとしても機能する。
【0056】
これらのアームは、フライト30に固定される。このため、フライト30の位置(たとえば回転位置)に応じ、各アームの位置が変化する。これによって、各アームの高さ(たとえば上端の高さ)も変化する。
【0057】
チェーン構造20は、1以上のフライト正転ストライカ111と、1以上のフライト逆転ストライカ112とを備える。これらは、第1中間ロッド23および第2中間ロッド24のうち、フライト30が連結されない方(本実施形態では第2中間ロッド24)に設けられる。本実施形態では、これらのストライカは1つずつ設けられる。なお、フライト正転ストライカ111は、フライト正転作動アーム101と同じ数だけ設けられてもよく、フライト逆転ストライカ112は、フライト逆転作動アーム102と同じ数だけ設けられてもよい。
【0058】
フライト正転作動アーム101およびフライト正転ストライカ111は、互いに干渉し得る左右方向位置に配置される。すなわち、これらの前後方向位置と、高さ(とくにフライト正転作動アーム101の高さ)とが所定の関係を満たすと、これらは接触して機械的な力を及ぼし合う。
【0059】
また、フライト逆転作動アーム102およびフライト逆転ストライカ112も、同様に、互いに干渉し得る左右方向位置に配置される。一方で、
図7に示すように、フライト正転作動アーム101およびフライト逆転ストライカ112は左右方向位置が異なっており、互いに干渉しない。同様に、フライト逆転作動アーム102およびフライト正転ストライカ111も左右方向位置が異なっており、互いに干渉しない。
【0060】
図10は、本実施形態における、フライト正転作動アーム101、フライト逆転作動アーム102、フライト正転ストライカ111およびフライト逆転ストライカ112の位置関係を示す斜視図である。この例では、上述のように、フライト正転作動アーム101およびフライト逆転作動アーム102は同一のフライト30に設けられる。また、この例では、フライト正転ストライカ111はフライト逆転ストライカ112に対して後方に設けられる。
【0061】
図11を用いて、フライト30が上昇する動作を説明する。なお
図11に示すフライト30は、本実施形態ではフライト正転作動アーム101およびフライト逆転作動アーム102の双方を備えるものであるが、説明の便宜上、
図11ではフライト逆転作動アーム102のみを示し、フライト正転作動アーム101については図示を省略する。
【0062】
図11(a)は、フライト30が下降した位置にある状態を示す。フライト逆転ストライカ112はフライト逆転作動アーム102よりも前方に位置している。フライト30の下端30cは池底に近い位置にある。
【0063】
フライト30は、連結プレート31に、連結軸33を介して回転可能に連結されている。連結プレート31のガイドホイル32は、ガイドレール50(
図11には示さず)に沿って前後に移動可能である。駆動機構40の駆動に応じて、第1中間ロッド23が前方に向かって移動すると、フライト30も前方に向かって移動する。これによって、フライト30は池底の汚泥を前方に掻き寄せる。
【0064】
一方で、第2中間ロッド24は後方に向かって移動し、これとともにフライト逆転ストライカ112も後方に向かって移動する。
【0065】
これらの移動によって、やがてフライト逆転作動アーム102とフライト逆転ストライカ112とが接触する。
図11(b)は、接触後わずかに時間が経過した状態を示す。フライト逆転作動アーム102がフライト逆転ストライカ112によって後方に押され、これによってフライト30が連結軸33の周りに回転する。この回転の結果、フライト30(とくにその下端30c)が上昇する。
【0066】
ここで、フライト30にはリンクロッド70が連結されているので、フライト30の回転に応じて、第1中間ロッド23に対するリンクロッド70の位置も変化する。より厳密には、フライト30は連結軸72を介してリンクロッド70に連結されており、フライト30の回転に応じてこの連結軸72の位置が変化する。
【0067】
さらに、リンクロッド70にはすべてのフライト30が連結されているので、他のフライト30もリンクロッド70を介して力を受け、逆転用フライト(フライト30のうちフライト逆転作動アーム102を備えるもの)と同様に回転する。この結果、すべてのフライト30が
図11(b)に示すように上昇する。
【0068】
このように、フライト逆転ストライカ112がフライト逆転作動アーム102に作用することにより、逆転用フライトの下端30cが上昇するとともに、他のフライト30の下端30cもリンクロッド70を介して上昇する。
【0069】
図11(c)は、
図11(b)からさらに時間が経過した状態を示す。フライト逆転作動アーム102はさらに後方に押され、フライト30がさらに上昇する。
【0070】
ここで、各フライト30およびリンクロッド70は、各フライト30(とくにその下端30c)が上昇した位置にある場合に、各フライト30およびリンクロッド70に作用する重力により、各フライト30の下端の高さ位置が維持されるように連結される。すなわち、リンクロッド70はカウンターウェイトとしても作用する構成要素であり、ウェイトロッドとも呼ぶことができる。
【0071】
このような作用を実現するための具体的な設計値についてはとくに説明しないが、当業者は適宜設計することが可能である。たとえば、フライト30の重量およびその分布、リンクロッド70の重量およびその分布、ガイドホイル32の軸位置、連結軸33の位置、連結軸72の位置、等を考慮し、ガイドホイル32の軸回りのモーメントを適正範囲内とすることによって実現することができる。
【0072】
このように重力を利用した構造とすることにより、フライト30の動作を制御する構成を簡素にすることができる。たとえば、フライト30を上昇した位置に維持するための追加構造等は不要である。
【0073】
図11(c)の時点で、またはこれより所定の余裕時間が経過した後に、駆動機構40は駆動方向を逆転させる。その後、フライト30は後方に向かって移動し、フライト逆転ストライカ112は前方に向かって移動する。しかしながら、フライト逆転作動アーム102は
図11(c)に示す位置またはこれより下にまで下降しているので、フライト逆転ストライカ112とは接触せず、すれ違うことになる。
【0074】
図12を用いて、フライト30が下降する動作を説明する。なお
図12に示すフライト30は、本実施形態では
図11に示すフライト30と同一のものであり、フライト正転作動アーム101およびフライト逆転作動アーム102の双方を備えるものであるが、説明の便宜上、
図12ではフライト正転作動アーム101のみを示し、フライト逆転作動アーム102については図示を省略する。
【0075】
図12(a)は、フライト30が上昇した位置にある状態を示す。これは
図11(c)の状態に対応する。フライト正転ストライカ111は、フライト正転作動アーム101の後方からフライト正転作動アーム101に接触している。
【0076】
駆動機構40の駆動に応じて、第1中間ロッド23が後方に向かって移動すると、フライト30も後方に向かって移動する。一方で、第2中間ロッド24は前方に向かって移動し、これとともにフライト正転ストライカ111も前方に向かって移動する。
【0077】
図12(b)は、
図12(a)からわずかに時間が経過した状態を示す。フライト正転作動アーム101がフライト正転ストライカ111によって前方に押され、これによってフライト30が連結軸33の周りに回転する。この回転の結果、フライト30(とくにその下端)が下降する。
【0078】
図11を用いて説明したように、他のフライト30もリンクロッド70を介して力を受け、正転用フライト(フライト30のうちフライト正転作動アーム101を備えるものであり、本実施形態では逆転用フライトと同一のフライト30である)と同様に回転する。この結果、すべてのフライト30が
図12(b)に示すように下降する。
【0079】
このように、フライト正転ストライカ111がフライト正転作動アーム101に作用することにより、正転用フライトの下端30cが下降するとともに、他のフライト30の下端30cもリンクロッド70を介して下降する。
【0080】
図12(c)は、
図12(b)からさらに時間が経過した状態を示す。フライト正転作動アーム101はさらに前方に押され、フライト30がさらに下降している。これは
図11(a)の状態に対応する。
【0081】
また、フライト30が
図12(c)の位置まで回転すると、フライト30と連結プレート31とが接触する。より具体的には、連結プレート31の支持端31aが、フライト30の後面30bと接触し、後面30bを後方から前方に向けて支持する。ここで、フライト30と連結プレート31とは連結軸33を介して連結されているので、支持端31aが後面30bを支持することにより、フライト30と連結プレート31とは互いに固定される。このようにして連結プレート31はフライト30の可動域(たとえば回転範囲)を制限する。
【0082】
図12(c)の時点で、またはこれより所定の余裕時間が経過した後に、駆動機構40は駆動方向を逆転させる。その後、フライト30は前方に向かって移動し、フライト正転ストライカ111は後方に向かって移動する。しかしながら、フライト正転作動アーム101は
図12(c)に示す位置に下降しているので、フライト正転ストライカ111とは接触せず、すれ違うことになる。
【0083】
このようにフライト30が前方に向かって移動すると、再び池底の汚泥を前方に掻き寄せることができる。この状態は
図11(a)に対応する。この際、連結プレート31の支持端31aが、フライト30の後面30bを後方から前方に向けて支持しているので、連結プレート31は、フライト30が汚泥を掻き寄せる際にフライト30が汚泥から受ける力に逆らってフライト30の可動域(たとえば回転範囲)を制限し、すなわちフライト30が汚泥等に押されて動く(たとえば下端30cが後方に回転する)といった事態が防止される。
【0084】
このような支持構造とすることにより、フライト30の動作を制御する構成を簡素にすることができる。すなわち、フライト30を第1中間ロッド23に連結するための連結プレート31を、フライト30を下降した位置に維持するための維持構造としても利用することができ、部品点数を削減することができる。
【0085】
本実施形態では、フライト30の位置の変化に応じ、スカム掻寄機構80の位置も変化するように構成されている。以下、スカム掻寄機構80の動作について説明する。
【0086】
図7および
図10に示すように、スカム掻寄機構80は、摺動軸82と、可動フレーム83と、連結部材84とを備える。摺動軸82は連結プレート31に固定される。連結部材84は、フライト30と可動フレーム83とを連結する(なお
図7には、連結部材84のうち可動フレーム83に連結される部分のみ示している)。可動フレーム83は、摺動軸82と嵌合し、摺動軸82に対して所定の摺動方向に摺動するよう構成される。摺動方向は、たとえば鉛直方向であるが、前後方向成分を含む斜め方向であってもよい。可動フレーム83の上端にはスカム掻寄板81が固定される。
【0087】
図11に関して説明したように、フライト逆転ストライカ112がフライト逆転作動アーム102に作用することによってフライト30が上昇すると、これに応じて連結部材84も上昇する。これによって可動フレーム83が持ち上げられ、スカム掻寄板81が上昇して水面に到達し、水面のスカムを掻き寄せる位置に配置される。すなわち、フライト逆転ストライカ112がフライト逆転作動アーム102に作用することにより、スカム掻寄板81が上昇する。このように、スカム掻寄板81の上昇動作は、各フライト30の上昇動作と同期する。
【0088】
スカム掻寄板81が上昇した状態で後方に向かって移動すると、水面のスカムを後方に向かって掻き寄せ、スカム収集装置90に収集させることができる。
【0089】
一方、
図12に関して説明したように、フライト正転ストライカ111がフライト正転作動アーム101に作用することによってフライト30が下降すると、これに応じて連結部材84も下降する。これによって可動フレーム83が引き下げられ、スカム掻寄板81が下降して水没し、水面のスカムを掻き寄せない位置に配置される。すなわち、フライト正転ストライカ111がフライト正転作動アーム101に作用することにより、スカム掻寄板81が下降する。このように、スカム掻寄板81の下降動作も、各フライト30の下降動作と同期する。
【0090】
スカム掻寄板81が下降した位置では、スカム掻寄板81が前方に向かって移動しても、スカムは前方には掻き寄せられない。
【0091】
このように、スカム掻寄板81の動作をフライト30の動作と同期させることにより、全体の構成を簡素にすることができる。たとえば、スカム掻寄機構80またはスカム掻寄板81を駆動するための専用の駆動装置を設置する必要がない。
【0092】
なお、このような摺動軸と可動フレームとを用いた上下動構造は、フライト30の一部または全部について用いることも可能である。たとえば
図9に示す最後方のフライト30(特にフライト30aとして示す)は、リンクロッド70の動作に応じ、可動フレームが上下することにより位置を変更してもよい。そのような場合には、フライト30aは、他のフライト30のように連結プレート31との連結軸33の周りに回転するのではなく、摺動軸の方向に平行移動することになる。
【0093】
なお、このような摺動軸と可動フレームとを用いた上下動構造は、いずれのフライト30についても用いない構成としてもよい。すなわち、最後方のフライト30(特にフライト30aとして示す)についても、他のフライト30と同様に動作するよう構成してもよい。この場合には、最後方のものを含むすべてのフライト30が、連結軸33を介して連結プレート31に回転可能に連結されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10…汚泥掻寄機
20…チェーン構造
21…第1チェーン部
22…第2チェーン部
23…第1中間ロッド
24…第2中間ロッド
30(30a)…フライト
30b…フライト後面
30c…フライト下端
31…連結プレート
32…ガイドホイル
40…駆動機構
50…ガイドレール
60…ブラケット
70…リンクロッド
71…固定構造
80…スカム掻寄機構
81…スカム掻寄板
82…摺動軸
83…可動フレーム
84…連結部材
90…スカム収集装置
101…フライト正転作動アーム
102…フライト逆転作動アーム
111…フライト正転ストライカ
112…フライト逆転ストライカ
200…沈殿池
201…汚泥ピット