(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】スパークプラグの製造方法及びスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20230421BHJP
H01T 21/02 20060101ALI20230421BHJP
H01T 13/32 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
H01T13/20 E
H01T21/02
H01T13/20 B
H01T13/32
(21)【出願番号】P 2020014689
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 雄大
(72)【発明者】
【氏名】関澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 智克
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】東松 祐樹
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-174793(JP,A)
【文献】特表2009-541946(JP,A)
【文献】特開2011-154810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、
前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記接地電極本体に対して、前記他端の側に開口し、前記貴金属チップを配置するためのチップ配置溝と
、前記貴金属チップを配置しない領域に拡張させた拡張溝と、を形成
し、前記拡張溝は、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で形成する溝形成工程と、
前記チップ配置溝に前記貴金属チップを配置して前記貴金属チップと前記接地電極本体とを溶接する溶接工程と、を備えるスパークプラグの製造方法。
【請求項2】
前記拡張溝は、前記溝壁のうち、前記接地電極本体の前記一端の側にある奥壁を切り欠い
た形状で形成されている請求項1に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項3】
前記拡張溝は、前記溝壁のうち、前記接地電極本体の延びる方向に沿って延びる側壁を切り欠い
た形状で形成されている請求項1または請求項2に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項4】
前記拡張溝は、前記側壁から前記接地電極本体の端まで貫通している請求項3に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項5】
中心電極と、
前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、
前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備え、
前記貴金属チップは、前記貴金属チップの成分と前記接地電極本体との成分を含む溶融部を介して前記接地電極本体に接合されたスパークプラグであって、
前記接地電極本体は、
前記他端の側に開口し、前記貴金属チップが配置されたチップ配置溝と
、前記貴金属チップを配置しない領域に拡張した拡張溝と、を備え、
前記拡張溝は、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で形成するものであり、
前記溶融部は前記チップ配置溝及び前記拡張溝に形成されている、スパークプラグ。
【請求項6】
前記チップ配置溝は、前記貴金属チップが載置される平坦な載置面を有し、
前記拡張溝は、前記載置面から延出された延出面と、前記延出面の周縁から起立する延出壁と、を有し、前記延出壁は、前記延出面と直交する方向から見て円弧状に湾曲した内面を有している請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項7】
前記チップ配置溝は、前記貴金属チップが載置される平坦な載置面を有し、
前記拡張溝は、前記載置面から延出された延出面と、前記延出面の周縁から起立する延出壁と、を有し、前記延出壁は、前記延出面と直交する方向から見て円弧状に湾曲した内面を有している請求項5に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグの製造方法及びスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるスパークプラグとして、例えば特開2017-174793号公報に記載のスパークプラグが知られている。このスパークプラグは、筒状の主体金具と、主体金具が嵌め込まれた絶縁体と、発火部を突出させた状態で絶縁体の内側に設けられた中心電極と、中心電極の中心電極チップと対向するように配置された接地電極と、を備えている。接地電極は、湾曲した棒状の接地電極本体と、中心電極チップと対向する位置に配された接地電極チップと、を有している。
【0003】
接地電極本体の一端部は、主体金具に固着されており、接地電極本体の他端部は、接地電極チップが溶接されている。接地電極チップは貴金属によって構成され、接地電極本体の他端部に設けた凹部に接地電極チップを挿入し、その接地電極本体の他端部と接地電極チップとの境界がレーザ溶接される。接地電極本体と接地電極チップとがレーザ溶接される際には、接地電極本体の一部や接地電極チップの一部が溶融状態となった後、凝固して溶融部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザ溶接の際には、接地電極本体の凹部内において接地電極本体の一部と接地電極チップの一部とが溶融状態となる。このとき、溶融状態となった部分は、流動可能であるため、凹部の壁面を伝って移動し、接地電極チップの表面(中心電極を向く面)に移動して固化すると溶接ダレが生じ、この溶接ダレの剥離等による不具合が懸念される。具体的には、剥離した溶接ダレによって中心電極と接地電極とが導通する不具合などがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載されたスパークプラグの製造方法は、中心電極と、前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備えるスパークプラグの製造方法であって、前記接地電極本体に対して、前記他端の側に開口し、前記貴金属チップを配置するためのチップ配置溝と、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で前記貴金属チップを配置しない領域に拡張させた拡張溝と、を形成する溝形成工程と、前記チップ配置溝に前記貴金属チップを配置して前記貴金属チップと前記接地電極本体とを溶接する溶接工程と、を備える。
【0007】
本明細書に記載されたスパークプラグは、中心電極と、前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備え、前記貴金属チップは、前記貴金属チップの成分と前記接地電極本体との成分を含む溶融部を介して前記接地電極本体に接合されたスパークプラグであって、前記接地電極本体は、前記他端の側に開口し、前記貴金属チップが配置されたチップ配置溝と、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で前記貴金属チップを配置しない領域に拡張した拡張溝と、を備え、前記溶融部は前記チップ配置溝及び前記拡張溝に形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本明細書に記載された技術によれば、溶接ダレによる不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1のスパークプラグの断面図である。
【
図2】
図2は、接地電極の先端部を拡大した断面図である。
【
図3】
図3は、接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図5】
図5は、溶接溝を形成する工程を説明する斜視図である。
【
図6】
図6は、接地電極本体の先端部を拡大した斜視図である。
【
図7】
図7は、貴金属チップ及び接地電極本体をレーザ溶接する工程を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、比較例としての接地電極本体の溶接溝に貴金属チップが収容された状態を示す平面図である。
【
図9】
図9は、比較例としての接地電極本体の溶接溝に貴金属チップが収容された状態でのレーザ溶接を示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態2の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図11】
図11は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図12】
図12は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図13】
図13は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図14】
図14は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図15】
図15は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図16】
図16は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図17】
図17は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図18】
図18は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【
図19】
図19は、異なる実施形態の接地電極本体の先端部を拡大した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示のスパークプラグの製造方法は、中心電極と、前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備えるスパークプラグの製造方法であって、前記接地電極本体に対して、前記他端の側に開口し、前記貴金属チップを配置するためのチップ配置溝と、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で前記貴金属チップを配置しない領域に拡張させた拡張溝と、を形成する溝形成工程と、前記チップ配置溝に前記貴金属チップを配置して前記貴金属チップと接地電極本体とを溶接する溶接工程と、を備える。
本構成によれば、溶接の際に貴金属チップをチップ配置溝に配置できると共に、溶接により貴金属チップの一部及び接地電極本体の一部が溶融状態となった場合であっても、チップ配置溝の溝壁を切り欠いて拡張された拡張溝に溶融した金属(溶融金属)を収容することが可能になる。よって、貴金属チップの表面の溶接ダレによる不具合を抑制することができる。
【0011】
(2)前記拡張溝は、前記溝壁のうち、前記接地電極本体の前記一端の側にある奥壁を切り欠いて形成されている。
このようにすれば、溶接の際に、溝壁のうち、接地電極本体の一端の側にある奥壁を伝って貴金属チップの表面に生じる溶接ダレを抑制することができる。
【0012】
(3)前記拡張溝は、前記溝壁のうち、前記接地電極本体の延びる方向に沿って延びる側壁を切り欠いて形成されている。
このようにすれば、溶接の際に、溝壁のうち、側壁を伝って貴金属チップの表面に生じる溶接ダレを抑制することができる。
【0013】
(4)前記拡張溝は、前記側壁から前記接地電極本体の端まで貫通している。
このようにすれば、接地電極本体について、溶融金属を収容可能な拡張溝の面積を確保することができる。
【0014】
(5)スパークプラグは、中心電極と、前記中心電極を内側に絶縁保持する筒状の主体金具と、前記主体金具に一端が接合され、他端に前記中心電極の端部に対向する貴金属チップが接合された接地電極本体と、を備え、前記貴金属チップは、前記貴金属チップの成分と前記接地電極本体との成分を含む溶融部を介して前記接地電極本体に接合されたスパークプラグであって、前記接地電極本体は、前記他端の側に開口し、前記貴金属チップが配置されたチップ配置溝と、前記チップ配置溝の溝壁を切り欠いた形状で前記貴金属チップを配置しない領域に拡張した拡張溝と、を備え、前記溶融部は前記チップ配置溝及び前記拡張溝に形成されている。
本構成によれば、拡張溝に溶融部が広がることにより、チップ配置溝の内部のみに溶融部が形成される構成と比較して、接地電極本体と溶融部との接触面積が増加する。これにより、溶融部と接地電極本体との接合強度が向上する。また、溶接の際に貴金属チップの一部及び接地電極本体の一部が溶融状態となったときに、拡張溝に溶融金属を収容することが可能になる。よって、貴金属チップの表面の溶接ダレによる不具合を抑制することができる。
【0015】
[本開示の実施形態1の詳細]
本開示のスパークプラグ100の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
<スパークプラグ100の全体構成>
図1は実施形態1のスパークプラグ100の断面図である。
図2は、
図1のスパークプラグ100の先端部を拡大した断面図である。
図1の一点破線は、スパークプラグ100の軸線AXを示している。
図1の下方向を先端方向FDといい、
図1の上方向を後端方向BDという。
【0017】
スパークプラグ100は内燃機関に取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の混合気に着火するために用いられる。スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、抵抗体70と、導電性のシール部材60、80と、を備える。
【0018】
<絶縁体>
絶縁体10は、軸線AXに沿って延び、絶縁体10を貫通する軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、縮外径部15と、脚長部13と、を備えている。
【0019】
鍔部19は、絶縁体10における軸線方向の略中央に位置する部分である。後端側胴部18は、鍔部19よりも後端側に位置し、鍔部19の外径よりも小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19よりも先端側に位置し、後端側胴部18の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17よりも先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13の外径は、先端側ほど縮径され、スパークプラグ100が図示しない内燃機関に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。縮外径部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成され、後端側から先端側に向かって外径が縮径した部分である。
【0020】
絶縁体10の内周側の構成は、後端側に位置する大内径部12Lと、大内径部12Lよりも先端側に位置し、大内径部12Lよりも内径が小さな小内径部12Sと、縮内径部16と、を備えている。縮内径部16は、大内径部12Lと小内径部12Sとの間に形成され、後端側から先端側に向かって内径が縮径した部分である。
【0021】
<主体金具50>
主体金具50は、全体として円筒形状であって、内燃機関のエンジンヘッドに固定可能とされ、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成されている。主体金具50には、軸線AXに沿って貫通する通し孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲に配置され、主体金具50の通し孔59内に、絶縁体10が挿入、保持されている。絶縁体10の後端は、主体金具50の後端よりも後端側に突出している。
【0022】
主体金具50は全体として、軸線AXを中心として円筒状をなすように設けられている。主体金具50の内部には、中心電極20が絶縁保持されている。主体金具50は、プラグレンチ等の工具が係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8~M18である。
【0023】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属製の環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、スパークプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、スパークプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0024】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面と、の間に形成される環状の領域には、環状の線パッキン6、7が配置されている。当該領域における2つの線パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が径方向内側に曲げられながら先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、線パッキン6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。主体金具50における取付ネジ部52の内周側の位置に段部57が形成されている。絶縁体10の縮外径部15は、環状の板パッキン8を介して段部57によって押圧され、板パッキン8は縮外径部15と段部57の間に挟持される。なお、板パッ
キン8を省略することは可能である。この結果、絶縁体10は、加締部53からの押圧
力と段部57からの押圧力とで主体金具50に固定される。また、内燃機関の燃焼室内の混合気が、主体金具50と絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。主体金具50の先端側には、絶縁体10の脚長部13及び中心電極20を円筒形状に包囲する周壁50Aが設けられている。
【0025】
<中心電極>
中心電極20は、軸線AXに沿って延びる棒状の中心電極本体21と、発火部29と、を備えている。中心電極本体21は、絶縁体10の軸孔12の内部の先端側の部分に保持されている。すなわち、中心電極20の後端側は、軸孔12内に配置されている。中心電極本体21は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、例えば、ニッケル(Ni)製またはニッケル(Ni)が一番多く含まれる合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)製とされている。中心電極本体21は、NiまたはNi合金で形成された母材と、その母材の内部に埋設された芯部と、を含む2層構造を有してもよい。この場合には、芯部は、例えば、母材よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)製または銅(Cu)が一番多く含まれる合金で形成される。
【0026】
中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25と、を備えている。鍔部24は、絶縁体10の縮内径部16によって、先端側から支持されている。すなわち、中心電極本体21は、縮内径部16に係止されている。脚部25の先端側、すなわち、中心電極本体21の先端側は、絶縁体10の先端よりも前方側に突出している。発火部29は、中心電極本体21の先端に接合されている。発火部29は、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成されている。なお、発火部29を省略して、中心電極本体部21の先端を発火部とすることは可能である。
【0027】
<端子金具>
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、絶縁体10の軸孔12に後端側から挿通され、軸孔12内において、中心電極20よりも後端側に位置している。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、例えば、防食のために、Niなどのめっきが形成されている。
【0028】
端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42と、鍔部42よりも後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42よりも先端側の脚部43と、を備えている。端子金具40のキャップ装着部41は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、図示しない高圧ケーブルが接続された図示しないプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0029】
<抵抗体>
抵抗体70は、絶縁体10の軸孔12において端子金具40の先端と中心電極20の後端との間に配置されている。抵抗体70は、例えば、1[kΩ]以上の抵抗値(例えば、5[kΩ])を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有する。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
【0030】
軸孔12における抵抗体70の先端と中心電極20の後端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材60によって埋められている。一方、軸孔12における抵抗体70の後端と端子金具40の先端部との間には隙間が設定されており、この隙間は導電性のシール部材80によって埋められている。すなわち、シール部材60は、中心電極20と抵抗体70とにそれぞれ接触し、中心電極20と抵抗体70とを離間している。シール部材80は、抵抗体70と端子金具40とにそれぞれ接触し、抵抗体70と端子金具40とを離間している。このように、シール部材60、80は、中心電極20と端子金具40とを抵抗体70を介して電気的、かつ、物理的に接続している。シール部材60、80は、導電性を有する材料、例えば、B2O3-SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0031】
<接地電極30>
接地電極30は、主体金具50の先端に接合された接地電極本体31と、四角柱形状の貴金属チップ39と、を備えている。接地電極本体31は、断面が四角形の湾曲した棒状体である。接地電極本体31は、主体金具50の先端面に、例えば、抵抗溶接によって、接合されている。これによって、主体金具50と接地電極本体31とは、電気的に接続される。接地電極本体31は、例えば、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601等のNi合金)を用いて形成されている。あるいは、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金で形成された母材と、その母材の内部に埋設された芯部と、を含む2層構造を有してもよい。接地電極本体31の先端部の上面31Aには、
図2,
図3に示すように、溶接溝32が形成されている。溶接溝32は、貴金属チップ39を配置するためのチップ配置溝33と、貴金属チップ39を配置しない領域に拡張させた拡張溝35と、を有する。
【0032】
チップ配置溝33は、内部に貴金属チップ39に応じた直方体状の空間を形成するものであり、
図3に示すように、貴金属チップ39が載置される平坦な載置面33Aと、載置面33Aから起立し、貴金属チップ39が収容される空間を仕切る溝壁34と、を有する。溝壁34は、互いに対向配置され、接地電極本体31に沿って延びる一対の側壁34Aと、一対の側壁34Aの奥側に配され、側壁34Aと直交(交差)する方向に延びる奥壁34Bと、を備える。
【0033】
拡張溝35は、内部に溶接の際に生じる溶融金属を収容可能な空間を形成するものであり、載置面33Aから奥方側(主体金具50側)に面一に延出された延出面35Aと、奥壁34Bを切り欠いて後方に延出され、延出面35Aの周縁から起立する延出壁35Bとを有する。延出壁35Bは、円弧状に湾曲した内面(壁面)を有している。
【0034】
貴金属チップ39は、
図4に示すように、扁平な直方体状であって、貴金属を含んだ構成とされ、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)などの高融点の貴金属または貴金属が一番多く含まれる合金で形成されている。貴金属チップ39の上面39A及び下面39Bの形状(及び平断面の形状)は、チップ配置溝33の載置面33Aの形状(及び大きさ)とほぼ同じとされている。これにより、チップ配置溝33に収容された状態(溶接前の状態)の貴金属チップ39は所定の位置に位置決めされる(位置ずれが規制される)。
【0035】
貴金属チップ39は、接地電極本体31の溶接溝32に対して、レーザ溶接によって接合されている。そのため、
図2に示すように、貴金属チップ39と接地電極本体31との間には、レーザ溶接によって形成された溶融部37が配置されている。溶融部37は、溶接前の貴金属チップ39の一部分と、接地電極本体31の一部分と、が溶融・凝固した部分である。したがって、溶融部37は、貴金属チップ39の成分と、接地電極本体31の成分と、を含んでいる。この溶融部37は、チップ配置溝33の載置面33Aと、拡張溝35の延出面35Aとの双方に積層されて(重なって)おり、貴金属チップ39と載置面33Aとが固着(接合)されるとともに、拡張溝35内は、下方が接地電極本体31に接合され、上方側が貴金属チップ39に接合されない溜まり部37Aとされている。
【0036】
<スパークプラグ100の製造方法>
スパークプラグ100の製造方法について、接地電極30の製造方法を中心に説明する。先ず、曲げられる前の棒状の接地電極本体31と、貴金属チップ39とを用意する。
(溝形成工程)
図5に示すように、溶接溝32に対応する形状を有する図示しない押圧部材PMとを用いて、図示しないプレス機により、押圧部材PMを棒状の接地電極本体31の先端部の上面に押し当て下方に圧力を加えて接地電極本体31を変形させる。そして、接地電極本体31から押圧部材PMを取り外すと、接地電極本体31に溶接溝32が形成された状態となる(
図6)。なお、押圧部材PMは、溶接溝32(の載置面33A及び延出面35A)と同じ底面(及び平断面)を有する形状とされている。そして、溶接溝32におけるチップ配置溝33に溶接前の貴金属チップ39を配置する。
【0037】
(溶接工程)
次に、
図7に示すように、図示しない治具を用いて、貴金属チップ39を下方(接地電極本体31側)に押さえながら、貴金属チップ39と接地電極本体31との境界に沿ってレーザL1(例えばファイバレーザ、YAGレーザ等)を照射してレーザ溶接を行う。このとき、溶融状態となった貴金属チップ39の一部、及び、接地電極本体31の一部は、溶接溝32内のチップ配置溝33だけでなく、拡張溝35に流れて拡張溝35内に収容され、チップ配置溝33及び拡張溝35内で固化した溶融部37(溜まり部37A)を形成する(
図2)。
【0038】
ここで、例えば、比較例としての
図8,
図9に示すように、拡張溝35のない溶接溝D1を用いる場合には、貴金属チップ39の一部及び接地電極本体TAの一部(
図9の二点鎖線)が溶融状態となって貴金属チップ39と奥壁34Bの間を通って貴金属チップ39の上(中心電極20を向く面)に上がり、溶接ダレSを生じることが懸念される。これに対して、本実施形態では、貴金属チップ39の一部、及び、接地電極本体31の一部は拡張溝35に収容されるため、溶接ダレSを抑制することができる。
【0039】
<実施形態1の作用、効果>
スパークプラグ100の製造方法は、中心電極20と、中心電極20を内側に絶縁保持する筒状の主体金具50と、主体金具50に一端が接合され、他端に中心電極20の端部に対向する貴金属チップ39が接合された接地電極本体31と、を備えるスパークプラグ100の製造方法であって、接地電極本体31に対して、他端の側に開口し、貴金属チップ39を配置するためのチップ配置溝33と、チップ配置溝33の溝壁34を切り欠いた形状で貴金属チップ39を配置しない領域に拡張させた拡張溝35と、を形成する溝形成工程と、チップ配置溝33に貴金属チップ39を配置して貴金属チップ39と接地電極本体31とを溶接する溶接工程と、を備える。
本実施形態のスパークプラグ100によれば、溶接の際に貴金属チップ39をチップ配置溝33に配置できると共に、溶接により貴金属チップ39の一部及び接地電極本体31の一部が溶融状態となった場合であっても、チップ配置溝33の溝壁34を切り欠いて拡張された拡張溝35に溶接ダレSを収容することが可能になる。よって、貴金属チップ39の表面の溶接ダレSによる不具合を抑制することができる。また、拡張溝35に溶融部37が広がることにより、チップ配置溝33の内部のみに溶融部37が形成される構成と比較して、接地電極本体31と溶融部37との接触面積が増加する。これにより、溶融部37と接地電極本体31との接合強度や熱伝導性を向上させることができる。
【0040】
また、拡張溝35は、溝壁34のうち、接地電極本体31の一端の側にある奥壁34Bを切り欠いて形成されている。
このようにすれば、溶接の際に、溝壁34のうち、接地電極本体31の一端の側にある奥壁34Bを伝って貴金属チップ39の表面に生じる溶接ダレSを抑制することができる。
【0041】
[本開示の実施形態2の詳細]
次に、実施形態2について
図10~
図19を参照しつつ説明する。実施形態2は、実施形態1の溶接溝32に対して拡張溝の位置、数、形状を変えたものである。以下では、実施形態1と同じ構成については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図10に示す溶接溝90は、チップ配置溝33と、貴金属チップ39を配置しない領域に拡張させた2つ(複数)の拡張溝35と、を備えている。複数の拡張溝35は、チップ配置溝33における奥壁34Bを切り欠いて形成されている。このようにすれは、拡張溝35が一つである構成と比較して、より多くの溶融金属を複数の拡張溝35に溜めることができる。
【0042】
拡張溝35は、これに限られず、異なる実施形態の
図11に示すように、溶接溝91は、一対の側壁34Aのうちの一方の側壁34Aを切り欠いて拡張溝35を形成してもよい。また、
図12に示すように、溶接溝91は、一対の側壁34Aのうちの他方の側壁34Aを切り欠いて拡張溝35を形成してもよい。即ち、拡張溝35は、接地電極本体31の延びる方向に沿って延びる側壁34Aを切り欠いて形成するようにしてもよい。このようにすれば、溶接の際に、溝壁34のうち、側壁34Aを伝って貴金属チップ39の表面に生じる溶接ダレSを抑制することができる。また、
図13に示すように、溶接溝93は、一対の側壁34Aの双方を切り欠いて2つ(複数)の拡張溝35を形成してもよい。また、
図14に示すように、溶接溝94は、一対の側壁34Aと、奥壁34Bとを切り欠いて3つ(複数)の拡張溝35を形成してもよい。
【0043】
また、異なる実施形態としての
図15に示すように、溶接溝95は、一対の側壁34Aのうちの一方の側壁34Aを貫通させた拡張溝85を形成してもよい。拡張溝85は、載置面33Aから面一(同一平面上)に延出された延出面85Aと、奥壁34Bを切り欠いて延出され、延出面35Aの両測縁から起立する一対の延出壁85Bとを有する。即ち、拡張溝35は、側壁34Aから接地電極本体31の端(端縁)まで貫通しているようにしてもよい。このようにすれば、接地電極本体31について、溶融金属を収容可能な拡張溝35の面積を確保することができる。また、
図16に示すように、溶接溝96は、一対の側壁34Aのうちの他方の側壁34Aを貫通させた拡張溝85を形成してもよい。また、
図17に示すように、溶接溝97は、一対の側壁34Aの双方を貫通する2つ(複数)の拡張溝85(一対の拡張溝)を形成してもよい。また、
図18に示すように、溶接溝98は、接地電極本体31の先端を含む上面に一対の拡張溝86を形成してもよい。この拡張溝86は、載置面33Aから面一(同一平面上)に延出された延出面86Aと、一対の側壁34Aを切り欠いて形成され、延出面86Aの後端から起立する延出壁86Bとを有する。また、
図19に示すように、溶接溝98に対して、奥壁34Bに拡張溝35を形成した溶接溝99としてもよい。
【0044】
[他の実施形態]
(1)拡張溝35の深さは、チップ配置溝33と同じ深さ(面一)としたが、これに限られず、例えば、拡張溝35をチップ配置溝33よりも深くしたりしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
5:ガスケット、6、7:線パッキン、8:板パッキン、9:タルク(滑石)、10:絶縁体、12:軸孔、12L:大内径部、12S:小内径部、13:脚長部、15:縮外径部、16:縮内径部、17:先端側胴部、18:後端側胴部、19:鍔部、20:中心電極、21:中心電極本体、23:頭部、24:鍔部、25:脚部、29:発火部、30:接地電極、31:接地電極本体、31A:上面、32:溶接溝、33:チップ配置溝、33A:載置面、34:溝壁、34A:側壁、34B:奥壁、35:拡張溝、35A:延出面、35B:延出壁、37:溶融部、39:貴金属チップ、39A:上面、39B:下面、40:端子金具、41:キャップ装着部、42:鍔部、43:脚部、50:主体金具、50A:周壁、51:工具係合部、52:取付ネジ部、53:加締部、54:座部、57:段部、58:圧縮変形部、59:通し孔、60、80:シール部材、70:抵抗体、85:拡張溝、85A:延出面、85B:延出壁、86:拡張溝、86A:延出面、86B:延出壁、90:溶接溝、91,92:溶接溝、93:溶接溝、94:溶接溝、95,96:溶接溝、97:溶接溝、98:溶接溝、98A:延出面、99:溶接溝、100:スパークプラグ、600:NCF、601:NCF、AX:軸線、BD:後端方向、D1:溶接溝、FD:先端方向、L1,L2:レーザ、PM:押圧部材、S:溶接ダレ、TA:接地電極本体