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特許7266588肝脂肪を低減させるためのノルウルソデオキシコール酸の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】肝脂肪を低減させるためのノルウルソデオキシコール酸の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20230421BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20230421BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P1/16
A61P43/00 105
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K31/4418
A61K31/58
A61K31/56
A61K31/573
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020517804
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2018076461
(87)【国際公開番号】W WO2019063790
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】17193777.4
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509274005
【氏名又は名称】ドクトル ファルク ファルマ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】プレルス,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】グラインワルト,ローラント
(72)【発明者】
【氏名】トラウナー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】フィッケルト,ペーター
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544267(JP,A)
【文献】志田隆史 他,Controlled Attenuation Parameterの肝脂肪量測定による非アルコール性脂肪性肝疾患の非侵襲的診断法の有用性について,超音波検査技術,2015年,Vol.40, No.2,pp.167-173
【文献】EU Clinical Trials Register[online],2014年,検索日:2022年6月21日、URL:https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/trial/2013-004605-38/AT
【文献】BERAZA, N. et al,Nor-ursodeoxycholic acid reverses hepatocyte-specific nemo-dependent steatohepatitis,Gut,2011年,Vol.60,pp.387-396
【文献】HALILBASIC, E. et al,Nor-Ursodeoxycholic Acid as a Novel Therapeutic Approach for Cholestatic and Metabolic Liver Diseases,Dig Dis,2017年03月,Vol.35,pp.288-292
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪肝の治療のための医薬の製造における、ノルウルソデオキシコール酸(Nor-UDCA)の使用であって、該治療が、ヒト患者にNor-UDCAの有効量を投与することを含むこと、該ヒト患者の肝臓の脂肪率が10%より高いこと、前記ヒト患者に投与されるNor-UDCAの用量が750mg/日~2,500mg/日であること、該脂肪肝が、脂肪性肝炎まで進行していないこと、および前記患者が原発性硬化性胆管炎に罹患していないか、原発性硬化性胆管炎と診断されたことがないことを特徴とするNor-UDCAの使用。
【請求項2】
前記患者が中等度の脂肪沈着または重度の脂肪沈着を有することを特徴とする、請求項1に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項3】
前記患者のアラニントランスアミナーゼ(ALT)の血清濃度が、正常上限(ULN)の0.8倍~4倍未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項4】
前記治療により、前記ALTの血清濃度がULN未満に低下することを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項5】
前記治療により、前記ALTの血清濃度がULNの0.9倍以下に低下することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項6】
前記治療により、前記ALTの血清濃度がULNの0.8倍以下に低下することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項7】
前記患者のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)の血清濃度が、正常上限(ULN)の4倍未満であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項8】
前記患者の肝臓の脂肪率が20%より高いことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項9】
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも10%低下することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項10】
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも2パーセントポイント低下することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項11】
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が25kg/mを超えることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項12】
前記患者が肝線維症を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項13】
前記患者に投与されるNor-UDCAの用量が1,000mg/日~1,500mg/日であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項14】
前記患者に投与されるNor-UDCAの用量が1,500mg/日であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項15】
前記患者に1日1回投与されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項16】
前記患者に経口投与されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項17】
前記治療が、Nor-UDCA以外の活性物質を投与することをさらに含むこと、ならびにNor-UDCA以外の前記活性物質が、抗線維化剤、抗炎症剤、免疫調節剤、生物製剤、コレステロール低下物質、ロイコトリエンアンタゴニストおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項18】
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、ピルフェニドン、フィブラート類、ブデソニド、フルチカゾン、フルニソリド、シクレソニド、モメタゾン、ベクロメタゾンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載のNor-UDCAの使用。
【請求項19】
前記Nor-UDCAが、粉末X線回折(XRPD)において11.9±0.2°、14.4±0.2°、15.3±0.2°、15.8±0.2°および16.6±0.2°(2θ)にピークを有する多形体であることを特徴とする、請求項1~18のいずれか1項に記載のNor-UDCAの使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
脂肪肝とは、脂肪沈着の過程により肝細胞に過剰に脂肪が蓄積した病態(すなわち、細胞内の脂質の異常貯留)である。脂肪肝には複数の原因、例えば、アルコールの過剰摂取、薬物毒性、代謝障害、栄養上の理由などが考えられる。
【0002】
脂肪肝は肝臓の進行性の炎症(肝炎)へと移行する可能性があり、この肝炎は脂肪性肝炎と称される。このようなより重篤な病態は、アルコール性脂肪性肝炎または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と称される場合もある。NASH患者は、さらに重篤化すると、肝線維症や最終的には肝硬変を発症する可能性もある。
【0003】
現在、脂肪肝の治療管理の選択肢は限られている。主なものとしては、減量や運動量の増加などの食習慣の変化や生活様式の改変が推奨されている。脂肪肝からNASHへの進行を予防する維持療法で使用できる安全で有効な薬はない。様々な薬に対する研究がこれまで行われてきており、現在も進行中である。ピオグリタゾンでは好ましい効果が確認されており、脂肪沈着を改善することが示唆されている。
【0004】
天然の胆汁酸であるウルソデオキシコール酸(UDCA)は、ヒトの胆汁や血液にわずかに存在しており、肝疾患の治療薬として広く用いられている。UDCAの最も重要な適応疾患領域の1つは、胆石の溶解や原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療である。UDCAは、細胞保護作用、膜安定化作用や抗アポトーシス作用を有する。
【0005】
UDCAの誘導体である24-ノルウルソデオキシコール酸(Nor-UDCA)は、物理化学的性質が改変されたUDCA類似化合物である。Nor-UDCAとUDCAは構造上類似しているが、哺乳動物に投与した際に異なる特性を示す。Nor-UDCAは、UDCAとは異なり、アシル補酵素Aシンセターゼの基質としての適性が低く、タウリンやグリシンによるN-アシルアミド化をほとんど受けない。in vivo実験により、胆汁うっ滞性肝疾患の動物モデルでNor-UDCAの有効性が示されている(国際公開第2006/119803号A1)。また、国際公開第2006/119803号A1では、Nor-UDCAの抗炎症活性が報告されており、それゆえに、アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎およびウイルス性肝炎を含む様々な肝炎を治療するためのNor-UDCAの使用が請求項に記載されている。
【0006】
Halibasicら(2017) Dig Dis 35:288-292では、胆汁うっ滞性肝障害および代謝性肝障害の新規の治療法としてのNor-UDCAの最近の進展について概説されており、特に原発性硬化性胆管炎(PSC)に関して重点的に記載されている。
【0007】
Steinacherら(2017) Journal of Hepatology vol. 66; S95-S332; Abstract THU-385では、肥満症および脂肪過多症のマウスモデルにおいて、Nor-UDCAにより肝損傷および代謝状態が改善されることが報告されている。この文献には、ALT値が大幅に低下するとの記載がある。しかし、使用したマウスモデルは、通常、ALT値が非常に高いことから、実際にALT値が正常上限(ULN)以下のレベルまで低下した可能性は低いと考えられる。
【0008】
Steinacherら(2015) Hepatology vol. 62 number 1 (Suppl.) page 689A, Abstract 977では、Nor-UDCAにより、肝損傷が抑制され、肥満症および脂肪過多症のマウスモデルにおいてグルコース感受性が改善されることが報告されている。使用したマウスモデルは、通常、ALT値が非常に高い。この文献には、ALT値が大幅に低下するとの記載がある。しかし、使用したマウスモデルでは、通常、ALT値が非常に高いことから、実際にALT値が正常上限(ULN)以下のレベルまで低下した可能性は低いと考えられる。
【0009】
Belonovskayaら(2013) Eksperimental’naya I Klinicheskaya Farmakologiya vol.76, no. 1:25-29では、実験的なアルコール性脂肪性肝炎における新規のUDCA誘導体の予防的投与に関する研究が報告されている。この文献では、肝臓のトリグリセリドの蓄積を予防する効果は、UDCAよりもNor-UDCAの方がはるかに高いことが示されている。この文献は、脂肪過多症の治療に関するものではなく、実験的なアルコール性脂肪性肝炎の発症に対するUDCA誘導体の予防効果に関するものである。
【0010】
Ratziu (2012) Clinics and Research in Hepatology and Gastroenterology vol.15, no.2: S41-S45では、UDCAを用いたNASHの治療について論じられている。Ratziuらは、新規のUDCA誘導体の前臨床モデルにおける有効性が期待できることに加えて、この新規のUDCA誘導体を臨床試験で検証する価値がありそうであることについても言及している。
【0011】
脂肪性肝炎まで進行していない脂肪肝に対する治療的処置が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の発明者らは、驚くべきことに、Nor-UDCAの投与により、肝脂肪を有意に低減させることができることを見出した。したがって、Nor-UDCAは、脂肪肝を患う患者の肝臓の脂肪率を減少させるのに適している。特に、この効果は、炎症の徴候または肝炎が見られない患者にも認められる。また、500mg/日より高い用量のNor-UDCAを投与した場合に、治療として最も有効であることも分かった。さらに驚くべきことに、アラニントランスアミナーゼ(ALT)値が正常上限(ULN)未満である軽度の脂肪過多症の患者でも、この処置による予防効果による恩恵が受けられることも分かった。また、本発明者らは、Nor-UDCAが、(アポトーシスのマーカーまたはネクローシスのマーカーとして公知である)サイトケラチン18フラグメントの血清濃度を低下させる作用があることを見出した。したがって、本発明は、以下の項[1]~[65]に記載の内容に関する。
【0013】
項[1]
脂肪肝の治療に使用するためのノルウルソデオキシコール酸(Nor-UDCA)であって、該治療が、ヒト患者にNor-UDCAの有効量を投与することを含むこと、および該ヒト患者の肝臓の脂肪率が10%より高いことを特徴とするNor-UDCA。
項[2]
脂肪肝の治療に使用するためのNor-UDCAであって、該治療が、ヒト患者にNor-UDCAの有効量を投与することを含むことを特徴とするNor-UDCA。
項[3]
前記患者が中等度の脂肪肝を有することを特徴とする、項[1]または[2]に記載のNor-UDCA。
項[4]
前記患者が重度の脂肪肝を有することを特徴とする、項[1]または[2]に記載のNor-UDCA。
項[5]
前記患者のアラニントランスアミナーゼ(ALT)の血清濃度が、正常上限(ULN)の4倍未満であり、例えば、ULNの0.8倍~4倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[6]
前記患者のALTの血清濃度が、ULNの3倍未満であり、例えば、ULNの0.8倍~3倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[7]
前記患者のALTの血清濃度が、ULNの2倍未満であり、例えば、ULNの0.8倍~2倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[8]
前記患者のALTの血清濃度が、ULN以下であり、例えば、ULNの0.8倍~1倍であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[9]
前記患者のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)の血清濃度が、ULNの4倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[10]
前記患者のASTの血清濃度が、ULNの3倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[11]
前記患者のASTの血清濃度が、ULNの2倍未満であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[12]
前記患者のASTの血清濃度が、ULN以下であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[13]
前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも12%であり、例えば、12%~50%であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[14]
前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも15%であり、例えば、15%~40%であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[15]
前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも20%であり、例えば、20%~30%であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[16]
前記肝臓の脂肪率が磁気共鳴画像法または磁気共鳴分光法(MRS)で測定されることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[17]
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも1パーセントポイント低下することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[18]
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも2パーセントポイント低下することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[19]
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも3パーセントポイント低下することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[20]
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも4パーセントポイント低下することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[21]
前記治療により、前記患者の肝臓の脂肪率が少なくとも5パーセントポイント低下することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[22]
前記患者の肝臓の脂肪率の低下が12週間以内に生じることを特徴とする、項17~21のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[23]
前記患者の肝臓の脂肪率が磁気共鳴画像法(MRI)で測定されることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[24]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が25kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[25]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が26kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[26]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が27kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[27]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が28kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[28]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が29kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[29]
前記患者のボディマスインデックス(BMI)が30kg/mを超えることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[30]
前記患者が肝線維症を有することを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[31]
前記患者の肝臓が炎症の徴候を示していないこと、および/または前記患者が肝炎を有していないことを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[32]
前記患者に投与されるNor-UDCAの用量が750mg/日~2,500mg/日であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[33]
前記患者に投与されるNor-UDCAの用量が1,000mg/日~2,000mg/日であり、好ましくは1,250mg/日~1,750mg/日、最も好ましくは約1,500mg/日であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[34]
前記患者に1日1回投与されることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[35]
前記治療が、Nor-UDCA以外の活性物質を投与することをさらに含むこと、ならびにNor-UDCA以外の前記活性物質が、抗線維化剤、抗炎症剤、免疫調節剤、生物製剤、コレステロール低下物質、ロイコトリエンアンタゴニスト、PPARα/δアゴニスト、CCR2/5阻害剤、ASBT阻害剤およびそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[36]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、ピルフェニドン、フィブラート類、FXRアゴニストおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される抗線維化剤であることを特徴とする、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[37]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイドおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される抗炎症剤であることを特徴とする、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[38]
前記NSAIDが、アセチルサリチル酸、セレコキシブ、デクスケトプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、エトリコキシブ、フェノプロフェン、フィロコキシブ、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラック、リコフェロン、ロルノキシカム、ロキソプロフェン、ルミラコキシブ、メクロフェナム酸、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、ニメスリド、オキサプロジン、パレコキシブ、ピロキシカム、ロフェコキシブ、サルサラート、スリンダク、テノキシカム、トルフェナム酸、バルデコキシブおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、項[37]に記載のNor-UDCA。
項[39]
前記コルチコステロイドが、ブデソニド、フルチカゾン、フルニソリド、シクレソニド、モメタゾン、ベクロメタゾンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、項[37]に記載のNor-UDCA。
項[40]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、シクロスポリンA、タクロリムス、メトトレキサートおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される免疫調節剤である、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[41]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、スタチン類、コレステロール吸収阻害剤(例えば、エゼチミブ)、金属イオン封鎖剤、ナイアシンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるコレステロール低下物質である、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[42]
前記スタチンが、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、項[41]に記載のNor-UDCA。
項[43]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、TNF-αアンタゴニスト、接着分子アンタゴニスト(例えば、ベドリズマブ、エトロリズマブ)、JAK阻害剤(例えば、トファシチニブ)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される生物製剤である、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[44]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、アダリムマブ、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エタネルセプト、セルトリズマブおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるTNF-αアンタゴニストである、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[45]
Nor-UDCA以外の前記活性物質が、モンテルカスト、ザフィルルカスト、メクロフェナム酸塩、ジロイトンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるロイコトリエンアンタゴニストである、項[35]に記載のNor-UDCA。
項[46]
前記ヒト患者に経口投与されることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[47]
前記ヒト患者がさらに2型糖尿病に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[48]
前記ヒト患者がさらに高血圧症に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[49]
前記ヒト患者がさらに高コレステロール血症に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[50]
前記ヒト患者がさらに高脂血症に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[51]
前記ヒト患者がさらに脂質異常症に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[52]
前記ヒト患者がさらに脾腫に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[53]
前記ヒト患者がさらに肥満症に罹患していることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[54]
前記Nor-UDCAが化学的に純粋な多形体であること、化学的不純物の総量が0.5wt%未満であること、および前記多形体の粒子の少なくとも60%が粒径<10μmであることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[55]
前記多形体中の化学的不純物の総量が0.1wt%未満、好ましくは0.05wt%未満であることを特徴とする、項[54]に記載のNor-UDCA。
項[56]
前記多形体が熱力学的に安定であることを特徴とする、項[54]または[55]に記載のNor-UDCA。
項[57]
前記Nor-UDCAが無水物であることを特徴とする、項[54]~[56]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[58]
前記多形体が、粉末X線回折(XRPD)において11.9±0.2°、14.4±0.2°、15.3±0.2°、15.8±0.2°および16.6±0.2°(2θ)にピークを有することを特徴とする、項[54]~[57]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[59]
前記多形体が、国際公開第2012/072689号A1の図5に示されるXRPDパターンを有することを特徴とする、項[54]~[58]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[60]
前記多形体が、検出可能な量の非晶質Nor-UDCAを含まないことを特徴とする、項[54]~[59]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[61]
前記多形体の体積加重平均粒径D50が10μm未満であることを特徴とする、項[54]~[60]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[62]
前記多形体の体積加重平均粒径D95が30μm未満であることを特徴とする、項[54]~[61]のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[63]
前記ヒト患者が成人であり、好ましくは18~75歳の成人であることを特徴とする、先行する項のいずれかに記載のNor-UDCA。
項[64]
項[1]~[53]のいずれかまたは項[63]に記載の脂肪肝の治療のための医薬の製造における、項[54]~[62]のいずれかに記載のNor-UDCAの使用。
項[65]
肝脂肪の低減に使用するためのNor-UDCAであって、該使用が、先行する項のいずれかに記載の治療を含んでいてもよいことを特徴とする、Nor-UDCA。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、肝臓の脂肪率が10%より高い患者の脂肪肝を治療するためのNor-UDCAの使用に関する。前記治療は、ヒト患者に、有効量のNor-UDCAと、任意で少なくとも1つのさらなる活性物質を投与することを含む。
【0015】
Nor-UDCA
本明細書において、Nor-UDCAは、24-ノルウルソデオキシコール酸という化合物を表す。この化合物は以下の構造式を有する。
【化1】
【0016】
本発明において使用されるNor-UDCAおよびその調製は特に限定されない。好ましくは、Nor-UDCAは、国際公開第2012/072689号A1に記載の方法と同様にして調製される結晶の形態である。好ましい実施形態において、Nor-UDCAまたはその薬学的に許容される塩の純粋な多形体が使用される。この多形体は、熱力学的に安定していることが好ましい。Nor-UDCAまたはその薬学的に許容される塩の多形体は、通常、無水物である。すなわち、この多形体結晶は実質的に水を含まない。前記結晶中の水量は、結晶の全重量に対して、通常1%未満であり、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満である。前記多形体は、粉末X線回折(XRPD)において、通常、11.9±0.2°、14.4±0.2°、15.3±0.2°、15.8±0.2°および16.6±0.2°(2θ)にピークを有することを特徴とする。好ましくは、前記多形体が、国際公開第2012/072689号A1の図5に示されるような「A型」のXRPDパターンを有することを特徴とする。国際公開第2012/072689号A1の開示内容は、本明細書において明示的に参照され、その開示内容の全体が本明細書に援用される。
【0017】
Nor-UDCAの多形体は、単一の多形体であることが好ましく、すなわち、本質的に単一の多形体からなるか、多形体として純粋であるか、あるいはその両方であることが好ましい。前記多形体中の非晶質のNor-UDCAの量は、通常無視できる程度の量である。好ましくは、本発明の多形体中の非晶質のNor-UDCAは、例えば、XRPDで検出できないレベルである。より好ましくは、前記多形体は、非晶質のNor-UDCAを実質的に含まない。最も好ましくは、本発明の多形体は、非晶質のNor-UDCAを全く含まない。本発明の多形体中のA型の多形体の量は、Nor-UDCAの全重量に対して、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、さらに好ましくは少なくとも99.9%、最も好ましくは実質的に100%である。
【0018】
前記多形体の粒径分布は、前記結晶の少なくとも60%が10μm未満の粒径を有する粒径分布であることが好ましい。前記多形体は、D50が10μm未満であることが好ましい。例えば、D50は0.5μm~10μmの範囲であってもよく、好ましくは1μm~9μm、より好ましくは2μm~8μm、最も好ましくは3μm~7μmである。前記多形体は、D90が30μm未満であることが好ましい。例えば、D90は2μm~30μmの範囲であってもよく、好ましくは5μm~25μm、より好ましくは8μm~20μm、最も好ましくは10μm~18μmである。前記多形体は、D95が30μm未満であることが好ましい。例えば、D95は3μm~30μmの範囲であってもよく、好ましくは6μm~28μm、より好ましくは9μm~25μm、最も好ましくは10μm~20μmである。
【0019】
D50、D90およびD95はそれぞれ、体積基準で測定された粒径分布の中央値または第50百分位数、第90百分位数および第95百分位数を示す。すなわち、D50(D90;D95)が示す数値は、粒径分布において、この数値以下の粒径の粒子の累積体積が50%(90%;95%)であることを意味する。
【0020】
粒径分布は、ヨーロッパ薬局方(Ph.Eur.)第6.6版 2.9.31節に準拠して測定することができる。好ましくはMalvern instruments社製Mastersizer 2000を用いて測定する。その評価は、通常、フラウンホーファーモデルに基づいて行われる。
【0021】
脂肪肝の患者
治療対象となるヒト患者は脂肪肝を有する。脂肪肝は、肝細胞の少なくとも5%に細胞内脂肪が認められる状態と定義される。より具体的には、脂肪肝は、ヘマトキシリン・エオジンで染色した組織切片で肝細胞の少なくとも5%に大滴性の脂肪沈着が認められる病態として組織学的に定義することができる。脂肪沈着はその程度に基づいてグレード0~3で評価することができる:グレード0(正常)=肝細胞の<5%;グレード1(軽度)=肝細胞の5%~33%;グレード2(中等度)=肝細胞の34%~66%;グレード3(重度)=肝細胞の少なくとも67%で肉眼的な脂肪沈着が特徴的に認められる(Kleinerら, Hepatology 2005, 41, 1313-1321)。脂肪肝は、肝生検の組織学的検査、超音波検査、CT検査または磁気共鳴画像法により診断することができる。
【0022】
この実施形態において、治療対象となる患者は、さらに、肝臓の脂肪率が10%より高い患者である。肝臓の脂肪率は、後述する本明細書の実施例3に記載の方法と同様にして、MRIまたはMRSにより測定することができる。好ましくは、肝臓の脂肪率はMRIにより測定される。MRI測定法は、Dixon,W.T., Radiology 1984, 153, 189-194にも記載されている。特定の一実施形態において、肝臓の脂肪率は、MRIで測定されるプロトン密度脂肪率(PDFF)である。この方法により、固有の組織特性に基づき、客観的で定量的かつ標準化された、肝臓の脂肪のMRI測定を行うことができる(Hinesetら,“T1 independent, T2 corrected chemical shift based fat-water separation with multi-peak fat spectral modeling is an accurate and precise measure of hepatic steatosis”. J. Magn. Reson. Imaging 2011, 33, 873-881;およびMeisamyら, “Quantification of hepatic steatosis with T1-independent, T2-corrected MR imaging with spectral modeling of fat: blinded comparison with MR spectroscopy”. Radiology 2011, 258, 767-775.を参照のこと)。
【0023】
別の一実施形態において、前記患者の肝臓の脂肪率は、12%より高い値、15%より高い値、または20%より高い値である。例えば、前記肝臓の脂肪率は、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、または少なくとも25%であってよい。
【0024】
別の一実施形態において、プロトン磁気共鳴分光法(H-MRS)により測定される、治療対象の患者の肝臓のトリグリセリド含有量は、少なくとも6%、少なくとも8%、少なくとも10%、少なくとも12%、少なくとも15%、または少なくとも20%である。この方法により、肝臓の脂肪量を正確かつ再現性よく測定することができる(例えば、Bohteら, Eur. Radiol. 2011, 21, 87-97を参照のこと)。
【0025】
本発明における治療対象の疾患は、アルコールの過剰摂取(男性:>30g/日、女性:>20g/日)、B型肝炎、C型肝炎、自己免疫性肝炎、鉄過剰症、薬物および毒物のいずれにも起因しない脂肪肝として定義される非アルコール性脂肪肝であることが好ましい。
【0026】
一実施形態において、本発明における治療対象のヒト患者は、アルコール性脂肪性肝炎または非アルコール性脂肪性肝炎に罹患していないか、アルコール性脂肪性肝炎または非アルコール性脂肪性肝炎と診断されたことがない患者である。肝臓で炎症が生じていないことは、肝生検の組織学的検査、または非侵襲的手法、例えばトランジェントエラストグラフィーにより確認することができる。
【0027】
別の一実施形態において、前記患者は、動脈硬化症に罹患していないか、動脈硬化症と診断されたことがない患者である。
【0028】
別の一実施形態において、本発明における治療対象のヒト患者は、原発性硬化性胆管炎(PSC)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、具体的には1型、2型および3型の進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、嚢胞性線維症、薬物性胆汁うっ滞症、慢性ウイルス性肝炎(B型、C型、D型)、アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、自己免疫性肝炎、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病ならびにα1-アンチトリプシン(AT)欠損症からなる群から選択される病態に罹患していないか、これらの病態と診断されたことがない患者である。これらの病態の診断は当業者には周知である。
【0029】
前記患者のALTの血清濃度は、通常、正常上限(ULN)の4倍未満である。好ましくは、前記ALTの血清濃度は、ULNの3倍未満、ULNの2倍未満、またはULN以下である。ALTのULNは、男性成人では50U/L、女性成人では35U/Lである。前記ALTの血清濃度は、治療の過程で、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%低下することが好ましい。さらに好ましくは、前記ALTの血清濃度は、治療の過程で、ULN未満に低下する。さらに好ましい一実施形態において、前記ALTの血清濃度は、治療の過程で、ULNの0.8倍以下に低下する。一実施形態において、ALTの血清濃度がULNの1.5倍を超える値である治療対象の患者において、治療により、ALTの血清濃度がULNの1.5倍未満に低下する。別の一実施形態において、ALTの血清濃度がULNを超える値である治療対象の患者において、治療により、ALTの血清濃度がULN未満に低下する。さらに別の一実施形態において、ALTの血清濃度がULNの0.8倍を超える値である治療対象の患者において、治療により、ALTの血清濃度がULNの0.8倍未満に低下する。
【0030】
本明細書において、「成人」という用語は、18歳以上のヒトを表す。本明細書において、治療中、すなわち「治療の過程で」確認または達成された特定の効果について言及する場合、特別の定めがない限り、治療期間は12週間である。
【0031】
前記患者のASTの血清濃度は、通常、正常上限(ULN)の4倍未満である。好ましくは、前記ASTの血清濃度は、ULNの3倍未満、ULNの2倍未満、またはULN以下である。ASTのULNは、男性成人では50U/L、女性成人では35U/Lである。前記ASTの血清濃度は、治療の過程で、ULN未満に低下することが好ましい。前記ASTの血清濃度は、治療の過程で、少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも15%低下することも好ましい。
【0032】
一実施形態において、前記患者のγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の血清濃度はULNを超える値である。GGTのULNは、男性成人では71U/L、女性成人では42U/Lである。前記GGTの血清濃度は、治療の過程で、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、または少なくとも25%低下することが好ましい。特定の一実施形態において、前記GGTの血清濃度は、治療の過程で、ULN未満に低下する。
【0033】
前記患者のアルカリホスファターゼ(AP)の血清濃度は、通常、ULN未満である。APのULNは、男性成人では129U/L、女性成人では104U/Lである。前記APの血清濃度は、治療の過程で上昇しないことが好ましい。
【0034】
一実施形態において、前記患者は重度の脂肪沈着を有する。別の一実施形態において、前記患者は中等度の脂肪沈着を有する。さらに別の一実施形態において、前記患者は軽度の脂肪沈着を有する。脂肪肝のグレード(軽度、中等度または重度)は先に記載した通りであり、肝生検の組織学的検査により確認することができる。
【0035】
本発明の治療の過程で、前記肝臓の脂肪率は、25%未満、20%未満、18%未満、16%、14%未満、12%未満、10%未満、8%未満、または6%未満に低下し得る。別の一実施形態において、前記肝臓の脂肪率は、当該治療により、治療開始時の数値に対して少なくとも5%、少なくとも10%、または少なくとも15%低下する。別の一実施形態において、前記肝臓の脂肪率は、当該治療により、治療開始時のパーセント数値から少なくとも1パーセントポイント、少なくとも2パーセントポイント、少なくとも3パーセントポイント、少なくとも4パーセントポイント、または少なくとも5パーセントポイント低下する。例えば、前記肝臓の脂肪率が20%から18%に低下した場合は、「18%に低下」、「10%低下」または「2パーセントポイント低下」と表記する。これらの違いは、肝臓の脂肪率の低下を、低下後のパーセント数値で示すか、低下分をパーセント単位で表すか、低下分をパーセントポイント単位で表すかの違いに過ぎない。
【0036】
別の一実施形態において、治療対象の患者のサイトケラチン18(M65)の血清濃度は、750U/ml未満、600U/ml未満、500U/ml未満、400U/ml未満、300U/ml未満、または250U/ml未満である。サイトケラチン18のM65フラグメントの濃度は、公知の方法、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定することができる。
【0037】
別の一実施形態において、治療対象の患者のサイトケラチン18(M30)の血清濃度は、500U/ml未満、400U/ml未満、300U/ml未満、200U/ml未満、または150U/ml未満である。サイトケラチン18のM30フラグメントの濃度は、公知の方法、例えば、ELISAにより測定することができる。
【0038】
可溶性形態のサイトケラチン18の血清濃度は、NASH患者で上昇することが報告されている。具体的には、切断により生じるM30フラグメントはアポトーシスのマーカーとして、M65フラグメントはネクローシスのマーカーとして認知されている。本発明者らは、Nor-UDCAが、M30フラグメントおよびM65フラグメントの血清濃度を低下させる作用があることを見出した。
【0039】
サイトケラチン18(M65)の血清濃度は、本発明の治療の過程で、治療開始時の数値に対して少なくとも3%、少なくとも5%、少なくとも7%、または少なくとも10%低下し得る。
【0040】
サイトケラチン18(M30)の血清濃度は、本発明の治療の過程で、治療開始時の数値に対して少なくとも3%、少なくとも5%、少なくとも7%、または少なくとも10%低下し得る。
【0041】
本発明の治療対象の患者は、好ましくはヒト成人、より好ましくは18~75歳のヒト患者である。
【0042】
本発明の治療対象のヒト患者の体重は、通常40kg~200kg、好ましくは50kg~150kg、より好ましくは60kg~120kgである。
【0043】
本発明の治療対象の患者のBMIは、通常、25kg/mを超える値である。別の実施形態において、前記患者のBMIは、少なくとも26kg/m、少なくとも27kg/m、少なくとも28kg/m、少なくとも29kg/m、または少なくとも30kg/mであってもよい。BMIは、体重(ボディマス)を身長の2乗で除した値と定義されており、キログラム単位で表される体重とメートル単位で表される身長から得られる値であるため、kg/mの単位で一般に表記される。
【0044】
一実施形態において、音響放射力インパルス(ARFI)により測定される、前記患者の肝硬度はステージ2以上である。これは、1.34m/sを超えるせん断弾性波速度に相当する。ARFIにより測定される肝硬度のステージは、後述の実施例2に定義されている。別の一実施形態において、ARFIにより測定される、前記患者の肝硬度はステージ3以上である。さらに別の一実施形態において、ARFIにより測定される、前記患者の肝硬度はステージ4である。さらに別の一実施形態において、ARFIにより測定される肝硬度は、治療の過程で、1ステージ低下する(すなわち、ステージ2からステージ0/1になるか、ステージ3からステージ2になるか、またはステージ4からステージ3になる)。好ましくは、ARFIにより測定される肝硬度は、治療の過程で、ステージ0/1に低下する。特定の一実施形態において、治療前にステージ2であった患者は、治療終了時にステージ0/1になる。
【0045】
ARFIは、例えば肝臓などの組織の局所的な機械的性質を調べる音波検査法である。短時間の音響パルスを特定の関心領域付近で発生させて、組織に局所的に機械的振動を付与すると、組織変位が生じ、加振部位からせん断波が発生する。このせん断波の伝搬速度(メートル毎秒の単位で表される)を算出することにより、肝臓組織の粘弾性特性の評価が可能になる。組織の弾性が大きければ(組織が軟らかければ)、組織変位量は大きくなる。これにより定量的な評価が可能になる。せん断波伝搬速度は組織弾性率の平方根に比例するため、肝臓が硬いほど、記録されるせん断弾性波速度は大きくなる。硬度が高いということは、肝臓の健康状態が悪いことを示す。
【0046】
医薬組成物および治療
本発明のNor-UDCAは、通常、医薬組成物として投与され、該医薬組成物は、薬学的に許容される適当な添加剤を1以上含んでいてもよい。
【0047】
本発明のNor-UDCAは、経口投与用に製剤化することが可能であり、Nor-UDCAの経口投与用製剤は、薬学的に許容される担体、補助剤、添加剤および/またはビヒクルをさらに含む。
【0048】
経口投与用の固体剤形としては、錠剤、好ましくは発泡性錠剤またはチュアブル錠、カプセル剤、丸剤、散剤および粒剤が挙げられる。このような固体剤形には、Nor-UDCAとともに、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、デンプンおよびデンプン誘導体、セルロースおよびセルロース誘導体(例えば、微結晶セルロース)、リン酸二カルシウム、ラクトース、コロイド状無水シリカ、タルク、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、マクロゴール)、崩壊剤ならびに緩衝剤などの通常用いられる製剤用物質が配合されていてもよい。Nor-UDCAが胃酸および胃の中の酵素による影響を受けないように、錠剤および丸剤に腸溶性コーティングを施すことも可能である。
【0049】
本発明のNor-UDCAを含む剤形は、当該活性化合物と反応しない慣用の添加剤、好ましくは、薬学的に許容される有機または無機の担体物質をさらに含んでいてもよい。好適な薬学的に許容される担体としては、例えば、水、塩溶液、アルコール、油、好ましくは植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、界面活性剤、香油、脂肪酸モノグリセリドおよび脂肪酸ジグリセリド、石油エーテル脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。本発明の医薬製剤は滅菌処理を施してもよく、所望により、当該活性化合物と有害な反応を生じない助剤、例えば、滑沢剤、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩類、緩衝剤、着色料、香味料および/または芳香剤などを配合することができる。非経口用途において特に好適なビヒクルは、溶液、好ましくは油性溶液または水性溶液からなり、懸濁液、エマルジョンまたはインプラントからなっていてもよい。
【0050】
送達システムとして、様々な送達システムが知られており、これらを本発明のNor-UDCAの投与に使用することができる。送達システムの例としては、リポソーム、エマルジョン、マイクロ粒子、マイクロカプセルおよびマクロ顆粒への封入が挙げられる。必要な用量を、シングルユニット型の剤形として、または徐放型剤形として投与することが可能である。また、必要な用量を、コーティングを施したマルチプルユニット型の剤形、即時放出型、徐放型、持続放出型または長期放出型の剤形に調製し、マトリックス製剤などとして投与してもよい。
【0051】
本発明のNor-UDCAの生物学的利用率を向上させるために、当該製剤を、適当な添加剤または適当な薬剤、例えば、リン脂質もしくは界面活性剤などの存在下、磨砕、粉砕およびスプレー乾燥などの慣用の手法を用いて微粉末化してもよい。しかし、本発明のNor-UDCA多形体は既に適当な粒径を有しているため、特別な一実施形態においては磨砕や粉砕は不要である。
【0052】
本発明のNor-UDCAは、薬学的に許容される塩の形態で製剤化してもよい。本発明のNor-UDCAの薬学的に許容される塩としては、好ましくは金属塩、特にアルカリ金属塩、さらにその他の薬学的に許容される塩も挙げられる。薬学的に許容される塩基付加塩としては、リチウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムおよび亜鉛から形成される金属塩、または第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンおよび環状アミンから形成される有機塩が挙げられる。
【0053】
本発明の医薬組成物は、Nor-UDCAの有効量と、薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容される添加剤とを含むことが好ましい。
【0054】
本発明のNor-UDCAの用量は特に限定されないが、1日当たりの用量は500mgより高い用量であることが好ましく、例えば750~2,500mg/日、1,000~2,000mg/日、または1,250~1,750mg/日であり、例えば1,500mg/日である。これらの用量を、1日1回投与することが好ましいが、複数回(少なくとも2回、3回、4回、5回または10回)に分けて投与することも可能である。本発明の剤または医薬組成物は、1週間より長い期間、好ましくは4週間より長い期間、より好ましくは6ヶ月より長い期間、最も好ましくは1年より長い期間、特に脂肪肝の解消まで投与してもよい。
【0055】
併用療法
Nor-UDCAまたはその塩は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、本明細書に記載の剤形で投与することが可能であるが、当然のことながら、1以上のその他の有効成分(例えば、ウルソデオキシコール酸、またはスリンダク、イブプロフェンなどのNSAID)と組み合わせてもよく、そのような有効成分としては、治療対象の疾患もしくはそれに類似した疾患に対して有効であることが知られているもの(例えば、ウルソデオキシコール酸)、または別の疾患に対して有効であることが知られているものが挙げられる。ここで、別の疾患とは、肝疾患の結果として生じる疾患、またはメタボリックシンドロームもしくは2型糖尿病などの病態の結果として生じる疾患であることが好ましい。
【0056】
本発明における併用治療は、複数の活性物質を混合して、またはこれらの活性物質を別々の剤形として投与することを含みうる。また、本発明における併用治療は、活性物質を同時に、または時間間隔をあけて、例えば、逐次的に投与することを含みうる。
【0057】
本発明の治療は、Nor-UDCA以外の活性物質を投与することを含みうる。Nor-UDCA以外の活性物質は、抗線維化剤、抗炎症剤、免疫調節剤、生物製剤、コレステロール低下物質、ロイコトリエンアンタゴニストおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0058】
好適な抗線維化剤としては、セニクリビロック、エラフィブラノル、ピルフェニドン、フィブラート類、FXRアゴニスト(例えば、オベチコール酸)およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。フィブラート類としては、クロフィブラートアルミニウム、ベザフィブラート、シプロフィブラート、コリンフェノフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブレート、クロフィブリド、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル、ロニフィブラート、シンフィブラートおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
好適な抗炎症剤としては、NSAID、コルチコステロイドおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。NSAIDは、アセチルサリチル酸、セレコキシブ、デクスケトプロフェン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、エトリコキシブ、フェノプロフェン、フィロコキシブ、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラック、リコフェロン、ロルノキシカム、ロキソプロフェン、ルミラコキシブ、メクロフェナム酸、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、ニメスリド、オキサプロジン、パレコキシブ、ピロキシカム、ロフェコキシブ、サルサラート、スリンダク、テノキシカム、トルフェナム酸、バルデコキシブおよびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。コルチコステロイドは、ブデソニド、フルチカゾン、フルニソリド、シクレソニド、モメタゾン、ベクロメタゾンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0060】
好適な免疫調節剤としては、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、シクロスポリンA、タクロリムス、メトトレキサートおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
好適な生物製剤としては、TNF-αアンタゴニスト(例えば、アダリムマブ、インフリキシマブ、ゴリムマブ、エタネルセプトまたはセルトリズマブ)、接着分子アンタゴニスト(例えば、ベドリズマブ、エトロリズマブ)、JAK阻害剤(例えば、トファシチニブ)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
好適なコレステロール低下物質としては、スタチン類、コレステロール吸収阻害剤(例えば、エゼチミブ)、金属イオン封鎖剤、ナイアシンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好適なスタチン類としては、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
好適なロイコトリエンアンタゴニストとしては、モンテルカスト、ザフィルルカスト、メクロフェナム酸塩、ジロイトンおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明の別の態様は、肝脂肪を低減させるためのNor-UDCAの使用である。この態様の好ましい実施形態は、上述の本発明の別の態様に関して記載した好ましい実施形態と同様である。
【0065】
本発明のさらに別の態様は、肝脂肪の低減が必要な患者にNor-UDCAの有効量を投与することを含む、肝脂肪を低減する方法である。この態様の好ましい実施形態は、上述の本発明の別の態様に関して記載した好ましい実施形態と同様である。
【実施例
【0066】
以下に記載の二重盲検ランダム化プラセボ対照フェーズII臨床試験を実施した。
【0067】
主な組入基準:
-以下の3つの判定基準の少なくとも1つに該当することで定義されるNAFLDである。
(1)過去4週間以内に超音波画像診断法(少なくともステージ1)、またはその他の画像診断法、例えば、磁気共鳴画像法(MRI)、化学シフトイメージング(CSI)および/または磁気共鳴分光法(MRS)(脂肪率>10%)などによって脂肪肝が認められている。
(2)過去4週間以内のCAP(制御減衰量パラメーター)フィブロスキャンで少なくともグレード1(>10%)の脂肪沈着が認められている。
(3)過去5年以内の事前生検で診断の確定につながる組織学的所見が認められている。
-ALTが>0.8ULNである。
-2型糖尿病の患者の場合は、以下のADA判定基準の少なくとも1つに該当することで診断されている必要がある。
(1)随時血糖濃度が>200mg/dlである。
(2)空腹時血糖値が>126mg/dl(7.0mmol/l)である。
(3)75g経口ブドウ糖負荷試験で負荷後2時間後の血糖値が>200mg/dlである。
(4)HbA1cが≧6.5%である。
【0068】
主な除外基準:
-スクリーニング実施前1年以内に連続3ヶ月を超える期間にわたる相当量(女性の場合>平均20g/d、男性の場合>平均30g/d)のアルコール摂取歴があるか、アルコール性疾患歴がある。
-以下の合併肝疾患の既往歴を有するか、現在罹患している。
・B型肝炎またはC型肝炎の血清学的検査で陽性(HBs Ag+、抗HBc+、抗HCV+;抗HBc+のみを満たす患者の場合、HBV-DNAが陰性であれば試験に組み入れられる場合がある)
・原発性胆汁性肝硬変(AMA陽性)
・原発性硬化性胆管炎
・ウィルソン病
・ヘモクロマトーシス
・自己免疫性肝炎
・α1AT欠損症
・公知の胆管閉塞症
・薬物性肝疾患
・肝癌(疑いまたは確定)
-Child-PughスコアのグレードAより上位の肝硬変を併存している。
-スクリーニング実施時および/またはベースライン診察時のHbA1cが≧9.5%であることで定義されるコントロール不良な糖尿病である。
-スクリーニング実施時および/またはベースライン診察時のASTまたはALTが>4×ULNである。
【0069】
非アルコール性脂肪肝の臨床診断がなされた患者の無作為割付を行い、12週間の治療および4週間の経過観察を行った。患者は3群に分けられた。第1群は、1日当たり1,500mgのNor-UDCA(250mgのNor-UDCAを含有するカプセル剤を6錠)を服用した。第2群は、1日当たり500mgのNor-UDCA(250mgのNor-UDCAを含有するカプセル剤を2錠と250mgのプラセボを含有するカプセル剤を4錠)を服用した。第3群は、250mgのプラセボを含有するカプセル剤を6錠服用した。
【0070】
Nor-UDCAは、国際公開第2012/072689号A1に記載の方法と同様にして調製した。
【0071】
記録のための診察は、以下の通り略記するものとする。
V1=スクリーニング時の診察(ベースラインの20~10日前)
V2=ベースライン診察(0週目)
V3=中間診察(2週目)
V4=中間診察(4週目)
V5=中間診察(8週目)
V6=治療終了(EOT)時/中止時の診察(12週目)
V7=経過観察(FU)時の診察(EOT時/中止時の診察の4週間後)
【0072】
各治療群は以下の通り略記するものとする。
N1500=経口用250mg Nor-UDCAカプセル剤×6錠
N500=経口用250mg Nor-UDCAカプセル剤×2錠および250mgプラセボカプセル剤×4錠
プラセボ=250mgプラセボカプセル剤×6錠
【0073】
治験対象患者の内訳およびベースラインの人口統計学的データの詳細は下表の通りである。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
実施例1:肝臓の超音波検査
方法:
超音波検査を、V1の4週間前からV1までの期間の任意の時点、V1の1週間後およびV6において実施した。具体的には以下の項目について検査を行った。
-肝臓:サイズ、エコー輝度、総合所見(正常、異常(臨床的に重大でない)、異常(臨床的に重大))
-脂肪肝は以下のステージに従って4段階で評価した:
・脂肪沈着なし/軽微な脂肪沈着:
正常な肝臓のエコー像が描出される場合は、脂肪沈着なしとする。肝臓のエコー輝度が右腎臓よりわずかに高く、肝臓内の血管壁および横隔膜のエコー輝度が高く、これらを十分に視認できる場合は、軽微な脂肪沈着と判断する。
・軽度の脂肪沈着:
肝臓のエコー輝度が右腎臓よりやや高く、肝臓内の血管壁の視認性が少し悪く、片側の横隔膜の反射が減少していることを特徴とする。
・中等度の脂肪沈着:
肝臓のエコー輝度が右腎臓よりやや高く、肝臓内の血管壁の視認性が悪く、片側の横隔膜の反射が減少していることを特徴とする。
・重度の脂肪沈着:
肝臓のエコー輝度が右腎臓より顕著に高く、肝臓内の血管壁が視認できず、片側の横隔膜の反射が顕著に減少していることを特徴とする。
肝臓のスコア化は、影響が最も大きい部位で行った。
【0077】
結果:
結果を表3にまとめた。1,500mgのNor-UDCAを服用した群において、重度の脂肪沈着を有する患者のパーセンテージは20.3%から10.9%に減少した。500mgのNor-UDCAを服用した群では、重度の脂肪沈着を有する患者のパーセンテージは27.3%から16.7%に減少した。プラセボ群では、重度の脂肪沈着を有する患者のパーセンテージにほぼ変化はなかった。
【0078】
この結果から、Nor-UDCAが、脂肪肝、特に重度の脂肪肝の治療に有効であることが分かる。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例2:治験期間中のフィブロスキャンまたはARFIによる肝硬度
方法:
A)実施が可能な場合は、フィブロスキャン検査を、V1の4週間前からV1までの期間の任意の時点、V1の1週間後およびV6において実施した。この測定に際しては、患者は絶食であることが求められる。
【0081】
肝硬度測定/トランジェントエラストグラフィー
フィブロスキャンは、振動制御トランジェントエラストグラフィーにより脂肪肝の検出を行う非侵襲性装置(Echosens社、フランス)である。この装置の構成は、超音波システムと、これに連結した加振器からなっている。この装置から得られる信号により、走査した組織の硬度を算出し、疾患の程度を評価することができる。肝弾性度の測定結果は、硬度(kPa)と完遂率(%)で示される。
【0082】
測定中、制御せん断波の伝搬中に超高速パルスエコーシーケンスが発振される(6kHzのパルス繰返周波数)。捕捉にかかる時間はわずか80msであり、せん断波の伝搬により肝臓で生じたひずみが、連続する超音波の系列データから標準的な自己相関法により計測される。硬度値はkPAの単位で得られる。
【0083】
肝硬度は、2つのプローブのいずれか(MプローブまたはXLプローブ)を用いて測定し、以下に示す各ステージの閾値を参照して記録した。
Mプローブ:
ステージ0/1(すなわち<ステージ2):<7.0kPa(閾値)
ステージ≧2:≧7.0kPa
ステージ≧3:≧8.8kPa
ステージ=4:≧10.3kPa
XLプローブ:
ステージ0/1(すなわち<ステージ2):<6.2kPa(閾値)
ステージ≧2:≧6.2kPa
ステージ≧3:≧7.2kPa
ステージ=4:≧7.9 kPa
【0084】
B)実施が可能な場合は、音響放射力インパルスイメージング(ARFI)検査を、V1の4週間前からV1までの期間の任意の時点、V1の1週間後およびV6において実施した。ARFI測定値は、以下に示す各ステージの閾値を参照して記録した。
ステージ0/1(すなわち<ステージ2):<1.34m/s(閾値)
ステージ≧2:≧1.34m/s
ステージ≧3:≧1.55m/s
ステージ=4:≧1.8m/s
【0085】
結果:
表4に示すように、1,500mgのNor-UDCAを服用した群において、肝硬度がステージ0または1の患者のパーセンテージは55.6%から67.5%に増加した。一方、500mgのNor-UDCAを服用した群とプラセボ群では、肝硬度がステージ0/1の患者のパーセンテージは減少した。
【0086】
肝硬度が高いほど肝臓の状態が悪いことを示していることから、これらの結果は、1日当たり1,500mgのNor-UDCAの投与により肝臓機能が改善されることを示唆している。
【0087】
【表4】
【0088】
実施例3:MRIおよび/またはMRSで測定した肝臓の脂肪率
方法:
実施が可能な場合は、磁気共鳴画像法/分光法(MRI/MRS)による検査を、V1の4週間前からV1までの期間の任意の時点、V1の1週間後およびV6において実施した。MRI、MRSのいずれも、MRを利用して肝臓の信号を水の成分と脂肪の成分に分離する方法である。水のプロトンと脂肪の主要なプロトンに対応する共鳴周波数は異なるため、スペクトルの軌跡から直接定量化することができる。
【0089】
下記の等式を用いて、化学シフトイメージング(CSI)データから得られる肝臓の脂肪率を算出する。
CSI 肝臓の脂肪率未補正=SI同位相-SI逆位相/2×SI同位相
【0090】
脂肪含有量に依存しない信号強度差を考慮して、肝臓の測定を行う際に同じ画像内にある脾臓にも関心領域を設けた。(脾臓の測定値を用いて)補正した信号強度による肝臓の脂肪率を算出するために、上記の等式を以下のように変形する。
CSI 肝臓の脂肪率脾臓補正
(SI同位相 肝臓/SI脾臓)-(SI逆位相 肝臓/SI脾臓)/2×(SI同位相 肝臓/SI脾臓
【0091】
計算で肝臓の平均脂肪率がマイナスの値になった場合は、マイナスの値をとることはないとの理由から、脂肪率0とみなした。
【0092】
MRSは1.5テスラまたは3.0テスラで実施して、肝臓のトリグリセリド含有量(%)を測定した。
【0093】
結果:
MRIで測定した肝臓の平均脂肪率は、1,500mgのNor-UDCAを服用した群で21.3%から16.3%に低下した。500mg服用群とプラセボ群では、肝臓の脂肪率の実質的な減少は認められなかった(表5を参照のこと)。
【0094】
【表5】
【0095】
実施例4:肝臓酵素
方法:
肝臓酵素値に対するNor-UDCAの効果を、ALT、AST、GGT、APおよび血清ビリルビンの推移から評価した。また、ALT、ASTおよびGGTの正常上限(ULN)に基づいて事前に定めたアウトカム基準による治療効果も調べた。
【0096】
ALT、AST、GGT、APおよび血清ビリルビンの血清濃度は、既に確立されている標準的な実験室的手法により測定した。
【0097】
結果:
上記の肝臓酵素パラメーターALT、ASTおよびGGTに関して、Nor-UDCAによる治療効果が認められた。V2からV6-LOCFまでの期間のALTの平均の絶対値変化量は治療群間で大幅に異なっており、N1500群では統計学的に有意な減少が見られ(-17.2U/l)、N500群では中程度の減少が見られ(-7.0U/l)、プラセボ群ではわずかな上昇が見られた(5.3U/l)。
【0098】
また、ASTの変化量(N1500:-8.7U/l、N500:-3.8U/l、プラセボ:-0.9U/l)およびALT/AST比の変化量(N1500:-0.14、N500:-0.05、プラセボ:0.10)に関しては、中程度の用量依存性が見られた。
【0099】
GGTの推移に関しては、Nor-UDCAによる治療効果が明確に示され、用量依存性も見られた。N1500群の患者では、V2時の178.8U/lから、V6-LOCFで111.7U/lへと明らかなGGTの減少が認められた。一方、N500群ではGGT値はごくわずかな減少にとどまり(V2:144.7U/l、V6-LOCF:137.6U/l)、プラセボ群ではGGT値はほぼ変化しなかった(V2:150.0U/l、V6-LOCF:152.9U/l)。
【0100】
AP値および血清ビリルビン値の推移においては、N1500、N500、プラセボの3群間に関連する差は見られなかった。
【0101】
ALTのアウトカム基準に関しては、ベースライン時にALT>0.8ULNの患者のうちALT≦0.8ULNとなった割合(N1500:17.5%、N500:14.8%、プラセボ:5.2%)、ベースライン時にALT>1.0ULNの患者のうちALT<ULNとなった割合(N1500:35.7%、N500:16.9%、プラセボ:7.5%)、ベースライン時にALT>1.5ULNの患者のうちALT<1.5ULNとなった割合(N1500:53.1%、N500:37.9%、プラセボ:24.1%)から、Nor-UDCAの治療効果が明確に示され、用量依存性も見られた。
【0102】
ASTに関しては、AST>0.33ULN~≦0.67ULNという基準に対して、治療群間で用量依存的な差が見られた(N1500:32.7%、N500:26.4%、プラセボ:6.9%)。また、AST<ULNという基準を満たした患者の割合(N1500:54.5%、N500:27.3%、プラセボ:37.9%)およびAST<1.5ULNという基準を満たした患者の割合(N1500:75.0%、N500:50.0%、プラセボ:66.7%)から分かるように、これらの基準を満たした患者の割合は、N500群またはプラセボ群よりN1500群で高かった。
【0103】
ALTおよび/またはASTの≧15%減少という組合せ基準に関して改善が見られた患者数は、Nor-UDCA群の方がプラセボ群より多かった(N1500:71.6%、N500:49.3%、プラセボ:35.9%)。
【0104】
Nor-UDCAの用量依存的な効果は、GGT>0.33ULN~≦0.67ULNというアウトカム基準に関しても見られた(N1500:21.6%、N500:13.0%、プラセボ:7.4%)。GGT≦ULNという基準に関しては、この基準を満たした患者の割合はN1500群で最も高く(31.0%)、N500群(12.2%)とプラセボ群(14.0%)との間では関係のある差は見られなかった。
【0105】
治験期間中のFASの肝臓酵素値の推移を表5に記載した。
【0106】
【表6】
【0107】
実施例5:治験期間中のサイトケラチン18
V2時のサイトケラチン18(M30フラグメント)の平均値は、いずれの治療群でも同程度であった(N1500:333.7U/l、N500:389.4U/l、プラセボ:357.6U/l)。治験期間を通して、サイトケラチン18の数値はすべての治療群で同程度に減少した(N1500:-30.3U/l、N500:-34.4U/l、プラセボ:-29.3U/l)。
【0108】
また、V2時のサイトケラチン18(M65フラグメント)の平均値も、すべての群で同程度であった(N1500:519.9U/l、N500:590.2U/l、プラセボ:584.2U/l)。治験期間を通して、サイトケラチン18の平均値はすべての群で減少したが、減少幅は、N500群(-106.0U/l)がN1500群(-80.6U/l)やプラセボ群(-34.6U/l)より大きかった。