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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】キラルアミノ酸の分離解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20230421BHJP
   B01J 20/29 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20230421BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20230421BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20230421BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
G01N30/88 W
G01N30/88 F
B01J20/29
G01N30/06 E
G01N30/72 C
B01J20/283
G01N30/26 A
B01J20/281 X
G01N30/02 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021042055
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142070
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 錬
(72)【発明者】
【氏名】辻村 久
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100906(JP,A)
【文献】特開2018-021015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159841(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0064601(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィーを用いて、試料中のキラルアミノ酸を分離解析する方法であって、キラルアミノ酸を含む試料と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとを反応させる工程、反応物を両性イオン交換型の固定相を有するキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する工程、及び質量分析によってキラルアミノ酸を検出又は定量する工程を含む、方法。
【請求項2】
キラルカラムの固定相が、基材に(S,S)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニーネを保持させたもの又は(R,R)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニジンを保持させたものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
質量分析がMS/MSにより行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
キラルカラムの基材がシリカゲルである請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
液体クロマトグラフィーの分離モードがアイソクラティックモードである請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アイソクラティックモードがアルコール系有機溶剤の移動相を用いる請求項5記載の方法。
【請求項7】
血液中のD-アスパラギン、又は唾液中のD-アスパラギン及びD-アスパラギン酸を分離解析する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキラルアミノ酸の分離解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は生命体を構成する主要な化合物群の1つである。グリシンを除くアミノ酸において、生体内におけるアミノ酸鏡像異性体の含量比は大きくL型に偏っており、特に哺乳類のような高等動物では、L-アミノ酸のみが存在して生理機能を有すると長い間考えられてきた。しかし、近年、解析法の進歩に伴って哺乳類の体内にもD-アミノ酸が存在することが明らかとなり、生理機能を有することが分かりつつある。
【0003】
キラルアミノ酸の分離解析に関しては、混在するアミノ酸同士の分子種分離、及び各分子種におけるD型とL型のキラル分離の双方が必要となる。従来、例えば、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキサジアゾール(NBD-F)試薬を用いてアミノ酸をNBD誘導体とした後、逆相カラム(1次元目:分子種分離)とキラル識別子を担持した固定相を有するキラルカラム(2次元目:キラル分離)を用いた2次元液体クロマトグラフィー(LC)を用いた分離定量(非特許文献1)や、アミノ酸を誘導体化することなく、1本のキラルカラムを用い、高速分離する1次元LC法(非特許文献2)が考案されている。
また、本出願人は、アミノ酸を6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシイミジルカルバメート(AQC)誘導体化し、異なるキラル識別子を担持した固定相を有する2種のイオン交換型キラルカラムを組み合わせてクロマト分離を行うことにより、精度よく且つ簡便にキラルアミノ酸を分離できることを見出している(特許文献1)。
【0004】
非特許文献1に記載の2次元LC法は、分子種分離とキラル分離を各々に適した分離条件で実施するため分離能は優れているものの、流路切替バルブやマルチループを必要とするため装置及び操作が煩雑となり、また多成分を対象とする際には1次元目で対象成分間に充分な分離時間差が求められることからスループット性の低さが課題点として挙げられている。また、非特許文献2に記載の1次元LC法は、2級アミンの分離ができない、高感度分析が困難、分析精度の低さから微量成分への適用が課題点として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6764778号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kenji, H. et al., J.Chro. B, 879, 3196-3202 (2011).
【文献】Eiichiro, F. et al.: J.Biosci. Bioeng, 121,349-353(2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、試料中のキラルアミノ酸を、超高感度で分離解析可能な方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)基を有する特定のアミノ基誘導体化試薬を用いてアミノ酸を誘導体化した後、両性イオン交換型キラルカラムを用いてクロマト分離を行うことにより、超高感度で且つ簡便にキラルアミノ酸を分離解析できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、液体クロマトグラフィーを用いて、試料中のキラルアミノ酸を分離解析する方法であって、キラルアミノ酸を含む試料と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとを反応させる工程、反応物を両性イオン交換型の固定相を有するキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する工程、及び質量分析によってキラルアミノ酸を検出又は定量する工程を含む、方法に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、試料中のキラルアミノ酸のDL解析を超高感度で且つ簡便に行うことが可能である。よって、血液や唾液等に含まれる微量のD-アミノ酸の検出又は定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】標準品のキラルアミノ酸解析結果。
図2】標準品のD-アミノ酸の検出感度。
図3】標準品のキラルアミノ酸(Asn、Asp)の解析結果。
図4】血漿サンプルのキラルアミノ酸(Asn、Asp)の解析結果。
図5】唾液サンプルのキラルアミノ酸(Asn、Asp)の解析結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法は、液体クロマトグラフィーを用いて、試料中のキラルアミノ酸を分離解析する方法であって、キラルアミノ酸を含む試料と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとを反応させる工程、反応物を両性イオン交換型の固定相を有するキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する工程、及び質量分析によってキラルアミノ酸を検出又は定量する工程を含むものである。
【0013】
本発明において、キラルアミノ酸としては、タンパク質を構成する20種のアミノ酸や、代謝関連アミノ酸(例えば、オルニチン、シトルリン)のD型(D-アミノ酸)及びL型(L-アミノ酸)が挙げられ、タンパク質を構成する20種のアミノ酸(D型及びL型)が好適である。
【0014】
本発明において、キラルアミノ酸を含む試料としては、例えばヒト、動物や植物等の一部であって、ヒト又は動物の場合は生体や死体から採取した皮膚、皮膚角質層、皮脂、毛、臓器、血液(全血、血漿、血清)、唾液、尿、体液、及びそれらから再構成した細胞や組織等が挙げられる。例えば、皮膚由来試料はテープストリッピング等で非侵襲的に収集される。
採取された試料は、水や有機溶剤(メタノール、エタノール、2-プロパノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)などの溶媒に浸漬され、常法によりアミノ酸やペプチドが抽出される。さらに、キラルアミノ酸解析が夾雑成分の影響を受ける可能性がある場合、夾雑成分を除去するための前処理を施してもよい。
【0015】
本発明の方法において、キラルアミノ酸の分離は、少なくともキラルアミノ酸の分離手段が液体クロマトグラフィー(LC)によって行われるものであればよい。分離されたキラルアミノ酸の検出又は定量は、質量分析計(MS)を用いて行われる。したがって、本発明のキラルアミノ酸の分離解析方法は、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせたLC-MS、LC-MS/MS等を用いて行うのがより好ましい。
【0016】
本発明においては、液体クロマトグラフィーに上記の試料を適用するに当たり、キラルアミノ酸を含む試料と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとを反応させ、アミノ酸のアミノ基を誘導体化する。
2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートは、下記(1)で示される化学構造を有し、N-グリカン等を分離検出するための高速標識化試薬として開発された化合物である(米国特許出願公開第2014/0350263号)。該化合物は、RapiFluor-MS(RFMS)とも称され、市販されている(Waters社)。
【0017】
【化1】
【0018】
アミノ酸は、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとの反応により、其のアミノ基が誘導体化される(下記(2))。
【0019】
【化2】
〔式中、Rはアミノ酸の側鎖を示す。〕
【0020】
アミノ酸と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとの反応は、アミノ基のカルバモイル化反応に用いられる条件で行うことができるが、例えば、アミノ酸標準溶液又はアミノ酸試料と、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートを溶解した溶液(例えばジメチルホルムアミド溶液)を、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液中で混合・撹拌した後、20~60℃の温度で、1~10分間反応することが挙げられる。
【0021】
本発明において、液体クロマトグラフィーによるキラルアミノ酸の分離は、クロマトグラフィー用キラルカラムを含む装置に、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートによりアミノ基が誘導体化されたアミノ酸試料を配して行われる。
ここで、用いられるキラルカラムとしては、両性イオン交換型キラル固定相(chiral stationary phase:CSP)を有するキラルカラムが用いられる。
例えば、基材にキラル識別子として、(S,S)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニーネ(8S、9R)又は(R,R)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニジン(8R、9S)を保持させた両性イオン交換型のキラルカラムが挙げられる(下記参照)。
斯かる固定相を有するキラルカラムは、「CHIRALPAK ZWIX(+)」及び「CHIRALPAK ZWIX(-)」(共にDAICEL社)として市販されている。
【0022】
【化3】
【0023】
斯かるキラル識別子を保持する基材(担体)(上記式中の「●」で表記)としては、多孔質有機基材又は多孔質無機基材が挙げられ、好ましくは多孔質無機基材である。多孔質有機基材として適当なものは、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等からなる高分子物質である。多孔質無機基材として適当なものは、シリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイトなどであり、好ましい基材はシリカゲルである。
【0024】
基材としてシリカゲルを使用する場合のシリカゲルの粒径は1.7μm~10μm、好ましくは3μm~5μmであり、平均孔径は50Å~150Å、好ましくは100Å~150Åである。
【0025】
また、カラムは好適な寸法を有することができる。例えば、内径1.0~20mm、長さ10~250mmであり得、好ましくは内径2.1~4.6mm、長さ150~250mmである。
【0026】
本発明の方法において、液体クロマトグラフィーは種々の分離モードを選択することができる。すなわち、グラジエントモード、アイソクラティックモードの何れを選択することができる。好ましくは、アイソクラティックモードである。
アイソクラティックモードを選択する場合は、例えば高極性移動相の使用が望ましい。好ましくは優れたプロトン供与性溶媒のメタノール系であり、例えば、メタノール-水混液、メタノール単液等が挙げられる。
【0027】
また、何れの分離モードにおいても、必要により、誘導体化アミノ酸の分離及び/又は検出を容易にするため、クロマトグラフィーのピーク形状の改善及び/又はLC-MSのイオン化促進のために、移動相には1つ又はそれ以上の試薬、例えば、酸性添加剤や塩基性添加剤等を配合することができる。好ましくはギ酸及びその塩(例えば、ギ酸アンモニウム等)の緩衝液系である。
【0028】
本発明の方法において、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせて用いられるが、ここで、質量分析計は、前記液体クロマトグラフィーと連通し、試料中のアミノ酸を同定するための質量分析データセットを生み出すことができる。液体クロマトグラフィー-質量分析の実施に好適な装置は市販されており、例えば、Agilent Technologies製の、Triple Quadrupole LC/MS systemを使用することができる。
【0029】
質量分析計は、分離されたアミノ酸分子をイオン化し、帯電したイオン分子を生成するためのイオン源を含む。イオン化の方法は、例えばエレクトロスプレーイオン化法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、大気圧光イオン化法(APPI)、電子イオン化法(EI)、高速原子衝突(FAB)/液体二次イオン化法(LSIMS)、マトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、フィールドイオン化法、電解脱離法、熱スプレー/プラズマスプレーイオン化法、粒子ビームイオン化法等が挙げられ、このうちエレクトロスプレーイオン化法が好ましい。
【0030】
イオン化によって生成した正又は負に帯電したイオンを分析し、質量電荷比(すなわちm/z)が測定される。質量電荷比を測定するのに好適な分析計には四重極型質量分析装置(Q-MS)、飛行時間型質量分析装置(TOF-MS)、イオントラップ型質量分析装置(IT-MS)、フーリエ変換型質量分析装置(FT-MS)等のシングル型の質量分析装置、Q-TOF、IT-TOF等のハイブリッド型質量分析装置、又はトリプル四重極型等のタンデム質量分析装置(MS/MS等)等があるが、四重極を用いて質量電荷比を測定するのが好ましく、トリプル四重極型を用いるのがより好ましい。
また、生成イオンの検出には、一般に選択イオンモニタリング(SIM)法や、フルスキャン法、選択リアクションモニタリング(SRM)法等があるが、本発明においては、SRM法が好適に使用できる。
【0031】
斯くして、本発明の方法によれば、試料中のキラルアミノ酸のDL解析を超高感度で行うことが可能である。すなわち、従来法では、ナノ又はフェムトモルレベルであった検出感度がアトモルレベルにまで高感度化し、例えば、血漿や唾液等に含まれる微量のアミノ酸である、アスパラギン(Asn)やアスパラギン酸(Asp)のDL分離解析が可能となる。
【0032】
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の方法を本明細書に開示する。
<1>液体クロマトグラフィーを用いて、試料中のキラルアミノ酸を分離解析する方法であって、キラルアミノ酸を含む試料と2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートとを反応させる工程、反応物を両性イオン交換型の固定相を有するキラルカラムとを接続した液体クロマトグラフィーを用いて分離する工程、及び質量分析によってキラルアミノ酸を検出又は定量する工程を含む、方法。
<2>キラルカラムの固定相が、基材に(S,S)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニーネを保持させたもの又は(R,R)-トランス-2-アミノシクロヘキサンスルホン酸を結合させたキニジンを保持させたものである<1>又は<1>に記載の方法。
<3>質量分析がMS/MSにより行われる、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>キラルカラムの基材がシリカゲルである<1>~<3>のいずれかに記載の方法。
<5>液体クロマトグラフィーの分離モードがアイソクラティックモードである<1>~<4>のいずれかに記載の方法。
<6>アイソクラティックモードがアルコール系有機溶剤を含む移動相を用いる<5>に記載の方法。
<7>アルコール系有機溶剤を含む移動相がメタノール-水混液又はメタノールである<6>に記載の方法。
<8>血液中のD-アスパラギン、又は唾液中のD-アスパラギン及びD-アスパラギン酸を分離解析する、<1>~<7>のいずれかに記載の方法。
【0033】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【実施例
【0034】
試験例1 ヒト血漿・唾液中のキラルアミノ酸分離解析
(1)試料溶液及び標準品の調製
ヒト血漿及び唾液(プール市販品、コスモ・バイオ株式会社)各々10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、メタノール:水(9:1,v/v)溶液490μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵下(4℃)で5分間、3000rpmにて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、別途10mLスピッチグラスに、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、採取上清溶液、2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(2-((2-(ジエチルアミノ)エチル)カルバモイル)キノリン-6-イル)カルバメートのジメチルホルムアミド溶液(Waters社製RapiFluor-MS(RFMS)粉末を4.5mg/mL,すなわち10mmol/Lの濃度で超脱水ジメチルホルムアミドに溶解)を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃10分間加熱することにより試料溶液を調製した。
同様に、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、10nmol/L D,L-アミノ酸標準溶液(アミノ酸:Ala/アラニン,Arg/アルギニン,Asn/アスパラギン,Asp/アスパラギン酸,Gln/グルタミン,Glu/グルタミン酸,Gly/グリシン,His/ヒスチジン,Ile/イソロイシン,Leu/ロイシン,Lys/リジン,Met/メチオニン,Phe/フェニルアラニン,Pro/プロリン, Ser/セリン,Thr/トレオニン,Trp/トリプトファン,Tyr/チロシン, Val/バリン、Cit/シトルリン、Orn/オルニチン、0.2mol/L ホウ酸緩衝液溶解)、RFMS溶液を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃で10分間加熱することによりアミノ酸標準溶液を調製した。
【0035】
(2)Chiral LC-MS/MS分析
(1)で調製した試料溶液を、下記の条件下でChiral LC-MS/MS分析し、各種キラルアミノ酸の分離検出を行った。
(装置)
Exion LCシリーズ(AB SCIEX社)、質量分析計/QTRAP6500リニアイオントラップ型(AB SCIEX社)
【0036】
(クロマトグラフィー分離)
分離キラルカラム:CHIRALPAK ZWIX(+) <DAICEL社>3.0mm内径×150mm、粒径3μm
カラム温度:45℃
溶離液:0.1%(v/v)ギ酸及び55mMギ酸アンモニウム含有,メタノール:水(90:10,v/v)溶液
溶離法:アイソクラティック
移動相流量:0.25mL/min
注入量:5μL
【0037】
(質量分析)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
極性:正イオン
Curtain Gas(CUR):30psi
Ionspray voltage(IS):4500V
Temperature(TEM):600℃
Ion Source Gas1(GS1):80psi
Ion Source Gas1(GS2):80psi
Collision Gas(CAD):10
【0038】
(検出モード)
表1において誘導体化されたアミノ酸分子種の詳細な検出条件を記載した。プリカーサーイオン(Q1)にプロトンイオン付加分子([M+H])、プロダクトイオン(Q3)にRFMS由来フラグメントイオン(m/z=240)を設定した正イオンモードによるSRM(Selected Reaction Monitoring)検出。なお、Q1 Mass:Q1(m/z),Q3 Mass:Q3(m/z),Declustering Potential:DP(V),Entrance Potential:EP(V),Collision Energy:CE(V),Collision Cell Exit Potential:CXP(V),Dwell Time(msec)として表記。
【0039】
【表1】
【0040】
試験例2 ヒト血漿・唾液中のキラルアミノ酸分離解析(従来法:特許第6764778号)
(1)試料溶液及び標準品の調製
試験例1と同様のヒト血漿及び唾液(プール市販品、コスモ・バイオ株式会社)各々10μLを10mLスピッチグラス(商品名:強化硬質ねじ口試験管)に入れ、メタノール:水(9:1,v/v)溶液490μLを混合後、遠心機(HITACHI製/CF5RE)にて冷蔵下(4℃)で5分間、3000rpmにて遠心分離を行うことで除タンパクし、上清のアミノ酸を採取した。次いで、別途10mLスピッチグラスに、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、採取上清溶液、AccQ・Tag Ultra誘導体化試薬、すなわちAQC溶液(Waters社製:AQC粉末を3mg/mL,すなわち10mmol/Lの濃度で超脱水アセトニトリルに溶解)を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃10分間加熱することにより試料溶液を調製した。試験例1と同様に、0.2mol/L ホウ酸緩衝液(pH8.9)、10nmol/L D,L-アミノ酸標準溶液(アミノ酸:Ala/アラニン,Arg/アルギニン,Asn/アスパラギン,Asp/アスパラギン酸,Gln/グルタミン,Glu/グルタミン酸,Gly/グリシン,His/ヒスチジン,Ile/イソロイシン,Leu/ロイシン,Lys/リジン,Met/メチオニン,Phe/フェニルアラニン,Pro/プロリン,Ser/セリン,Thr/トレオニン,Trp/トリプトファン,Tyr/チロシン,Val/バリン、Cit/シトルリン、Orn/オルニチン、0.2mol/L ホウ酸緩衝液溶解)、AQC溶液を各々70μL、10μL、20μL(7:1:2)の順番で混合し、直ちに撹拌後、55℃で10分間加熱することによりアミノ酸標準溶液を調製した。
【0041】
(2)Chiral tandem LC-MS/MS分析
(1)で調製した試料溶液を、下記の条件下でChiral tandem LC-MS/MS分析し、各種キラルアミノ酸の分離検出を行った。
(装置)
Exion LCシリーズ(AB SCIEX社)、質量分析計/QTRAP6500 リニアイオントラップ型(AB SCIEX社)
【0042】
(クロマトグラフィー分離)
分離キラルカラム:CHIRALPAK QN-AX<DAICEL社>
2.1mm内径×150mm、粒径5μm(第一のキラルカラム)及びCHIRALPAK ZWIX(+)<DAICEL社>
3.0mm内径×150mm、粒径3μm(第二のキラルカラム)をこの順序で直列接続(45℃)
溶離液:0.1%(v/v)ギ酸及び55mM ギ酸アンモニウム含有,メタノール:水(90:10,v/v)溶液
溶離法:アイソクラティック
移動相流量:0.25mL/min
注入量:5μL
【0043】
(質量分析)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
極性:正イオン
Curtain Gas(CUR):30psi
Ionspray voltage(IS):4500V
Temperature(TEM):600℃
Ion Source Gas1(GS1):80psi
Ion Source Gas1(GS2):80psi
Collision Gas(CAD):10
【0044】
(検出モード)
表2においてAQC誘導体化アミノ酸分子種の詳細な検出条件を記載した。プリカーサーイオン(Q1)にプロトンイオン付加分子([M+H])、プロダクトイオン(Q3)にAQC由来フラグメントイオン(m/z171)を設定した正イオンモードによるSRM(Selected Reaction Monitoring)検出。なお、Q1 Mass:Q1(m/z),Q3 Mass:Q3(m/z),Declustering Potential:DP(V),Entrance Potential:EP(V),Collision Energy:CE(V),Collision Cell Exit Potential:CXP(V),Dwell Time(msec)として表記。
【0045】
【表2】
【0046】
<データ解析及び有用性の検証>
試験例1で得られたデータを、保持時間とイオン強度の2軸を有するクロマトグラムに展開した。図1,3のクロマトグラム(標準品)に示されるように、分離条件検討の結果、メタノール-ギ酸緩衝液下で両性イオン交換型キラルカラムを使用することで、誘導化されたキラルアミノ酸が良好に分離・検出された(グリシンはアキラルな分子のため、DL表記を施していない)。なお1級アミンにおいてはD体の溶離がL体よりも早い一方で、2級アミンではL体の溶離がD体よりも早いことが確認された。また、図2に示されるように、試験例1の方法では、D-アミノ酸分子種により差はあるものの、試験例2(従来法)と比較して10倍以上の高感度化が達成された(特にD-AsnやD-Aspの感度向上率が顕著)。なおL-アミノ酸もD-アミノ酸と同様の高感度化が達成された。エレクトロスプレーイオン化法(正イオンモード)における感度向上には、特にRFMSのアミノピリジル基骨格及び3級アミンの寄与が大きいことが判明した。
また、従来法は、2種の機序の異なるイオン交換型キラルカラム(アニオン・両性イオン交換)直列接続されたものであるが、試験例1の方法では両性イオン交換型キラルカラム単体のみでDL分離が達成され、分析時間の短縮化並びに簡易化が可能となる。
【0047】
さらに本発明の分析技術を生体試料に適用したところ(図4:血漿、図5:唾液)、血漿ではD-Asn、唾液においてはDL-AsnやD-Aspが従来法(試験例2)では検出困難であったが、本発明の方法(試験例1)では検出することができた。すなわち本発明の方法では超微量キラルアミノ酸分子種の検出が可能となった。したがって、分析妨害マトリックスが多数あるサンプル(特に生体試料)においても、超微量タンパク質構成・非タンパク質構成キラルアミノ酸分離・検出が可能であることから、本発明の技術の有用性が示された。
図1
図2
図3
図4
図5