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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】有機化合物の半合成経路
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/08 20060101AFI20230421BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20230421BHJP
   C12P 7/62 20220101ALI20230421BHJP
   C07D 313/00 20060101ALN20230421BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20230421BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20230421BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20230421BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
C12P17/08
C12P7/64
C12P7/62
C07D313/00
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/55
C12N1/21
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021131594
(22)【出願日】2021-08-12
(62)【分割の表示】P 2020049039の分割
【原出願日】2015-04-10
(65)【公開番号】P2021180678
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】61/978,176
(32)【優先日】2014-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510199890
【氏名又は名称】ジェノマティカ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デル カーデイレ スティーブン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】シャーマー アンドレアス ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】コ ミョン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハイボ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-293284(JP,A)
【文献】米国特許第04014902(US,A)
【文献】国際公開第2008/119735(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/019647(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/039563(WO,A1)
【文献】米国特許第03963571(US,A)
【文献】特開平03-219886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式:
を有するZ-9シクロヘキサデセノリドを製造するための、化学酵素的プロセスであって、
(i) 代謝改変を含む組換え微生物を培養する段階であって、該微生物が、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体をインビボで産生し、該培養が、炭素系の原料とともに行われ、該代謝改変が、E.C. 1.14.15.3のω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼを含む変更された酵素機能を含み、該脂肪酸誘導体が、以下の構造式:
を有するω-ヒドロキシ-シス-9-ヘキサデセン酸である、段階;および
(ii) Z-9シクロヘキサデセノリドを生成させるのに十分な条件下で、該脂肪酸誘導体を試薬とエクスビボで接触させる段階
を含む、前記化学酵素的プロセス。
【請求項2】
変更された酵素機能が、チオエステラーゼをさらに含む、請求項1記載の化学酵素的プロセス。
【請求項3】
変更された酵素機能が、デサチュラーゼ(EC 1.14.19)の過剰発現をさらに含む、請求項1または2記載の化学酵素的プロセス。
【請求項4】
組換え微生物が、組換え大腸菌である、請求項1~3のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項5】
接触段階の前に脂肪酸誘導体を単離する段階をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項6】
脂肪酸誘導体が組換え微生物から分泌され、接触段階が、培養段階由来の脂肪酸誘導体を単離することなく行われる、請求項1~4のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項7】
接触段階が、脱水、ラクトン化、またはそれらの組合せを含む、請求項1~6のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項8】
炭素系の原料が単純な炭素源を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項9】
炭素系の原料が再生可能である、請求項1~8のいずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項10】
試薬がルイス酸を含む、請求項1~9いずれか一項記載の化学酵素的プロセス。
【請求項11】
芳香剤または香料を製造するための方法であって、
請求項1~10のいずれか一項記載の化学酵素的プロセスを実施することによって、Z-9シクロヘキサデセノリドを生成する段階;ならびに
芳香剤または香料を作製するために、Z-9シクロヘキサデセノリドを、精油および/または芳香性化合物および/または揮発防止剤(fixative)および/または溶媒の混合物または組成物に添加する段階
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年4月10日に提出された米国仮出願第61/978,176号の恩典を主張し、その内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は、産業的価値のある化合物を得るための、有機中間体の生合成生産とその後の合成変換とを組合せたプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
脂肪酸誘導体には、産業用物質の構成成分として数多くの商業的用途がある。しかし、それらを生産する純化学的な方法は、有害な試薬の使用を必要とすることもあれば、かつ/またはエネルギーを大量に消費するか、もしくは環境への負荷が大きいこともある。その反対に、石油化学品または油脂化学原料からの既存の純発酵経路は、化学的な生産方法と比較して依然として非常にコストがかかることがあり、製造しうる産物の種類も限られている。
【0004】
芳香剤成分の現在の供給は、3つの経路が基盤となっている:(i)植物または動物からの抽出、(ii)石油化学品からの全化学合成、および(iii)油脂化学物の真菌生体内変換。植物または動物から得られる芳香剤は天然芳香剤と見なされ、そのため消費者需要が大きく、割増し価格で売られる。しかし、これらの芳香剤化合物は通常は微量にしか、また時には稀少な植物または野生動物にしか存在しないため、供給が限られており、その上にそれらは、例えば天候の影響および植物疾患のリスクといった制御困難な要因に強く依存してもいる。芳香剤成分を得るのに群を抜いて最も主流になっている経路は、石油化学品前駆体からの全化学合成、ならびに天然物の抽出および精錬である。そのような芳香剤は天然芳香剤の供給問題を回避するが、それらは合成性であって消費者によって天然性とは判断されず、加えて、例えば天然アンブレットリドと合成イソアンブレットリドとの対比のように、ほとんどの場合には天然芳香剤と構造が同一ではない。真菌生体内変換に由来する芳香剤化合物は天然性と判断されうるが、それらは高価な油脂化学原料を使用するほか、この方法によって入手しうる芳香剤化合物の数が限られているため、特に優れるとは言えない。
【0005】
対照的に、炭素系の原料からの微生物由来脂肪酸誘導体を介する本化学酵素法は、制御されたコスト効率の高いプロセスを用いることにより、多くの種類の天然芳香剤成分を意味のある量で生産することができる。そのような芳香剤成分は、それらが炭素系の原料を用いて、生体、すなわち微生物から導き出されることから、天然性である。
【発明の概要】
【0006】
概要
いくつかの局面において、本明細書において開示される態様は、以下を含む、芳香剤成分を作り出すための化学酵素的プロセスに関する:1つまたは複数の変更された酵素機能を含む1つまたは複数の代謝改変を包含する組換え微生物を培養する段階であって、該微生物が、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体をインビボで産生するし、該培養が、炭素系の原料とともに行われる、段階;および、ラクトンまたは大環状ケトンを生成させるのに十分な条件下で、脂肪酸誘導体を試薬とエクスビボで接触させる段階。1つの態様において、炭素系の原料は単純な炭素源を含む。もう1つの態様において、炭素系の原料は再生可能な炭素源を含む。
【0007】
本開示の1つの局面は、以下を含む、芳香剤成分を作り出すための化学酵素的プロセスを提供する:代謝改変を有する組換え微生物を培養する段階であって、該微生物が、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体をインビボで産生し、該培養が、炭素系の原料とともに行われる、段階;および、ラクトンまたは大環状ケトンを生成させるのに十分な条件下で、脂肪酸誘導体を試薬とエクスビボで接触させる段階。1つの局面において、代謝改変は、変更された酵素機能を含む。1つの態様において、変更された酵素機能は、E.C. 3.1.2.-またはE.C. 2.1.1.5のチオエステラーゼを含む。もう1つの態様において、変更された酵素機能は、E.C. 3.1.2.-またはE.C. 2.1.1.5のチオエステラーゼと、E.C. 2.3.1.20のエステルシンターゼとの両方を含む。もう1つの態様において、変更された酵素機能は、E.C. 1.14.15.3のω-ヒドロキシラーゼまたはオキシゲナーゼを含む。さらにもう1つの態様において、変更された酵素機能は、E.C. 1.14.15.3のω-ヒドロキシラーゼまたはオキシゲナーゼと、EC 1.1.1.1/2、EC 1.1.3.13、EC 1.1.3.20、EC 1.2.1.3/4/5またはEC 1.2.3.1のオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼとの両方を含む。もう1つの態様において、代謝改変は、微生物内部の飽和または不飽和脂肪酸誘導体を増加させる。もう1つの態様において、脂肪酸誘導体は、奇数の炭素鎖、メチル分枝、またはそれらの組合せを有する。さらにもう1つの態様において、芳香剤成分はラクトンまたは大環状ケトンである。もう1つの態様において、芳香剤成分はガンマ-ラクトン(γ-ラクトン)、デルタ-ラクトン(δ-ラクトン)、またはそれらの組合せである。なおもう1つの態様において、芳香剤成分はC8~C18マクロラクトンである。
【0008】
本開示のもう1つの局面は、接触段階の前に脂肪酸誘導体を単離する段階をさらに含む、化学酵素的プロセス(前記)を提供する。1つの態様において、接触段階は、脱水、ラクトン化、またはそれらの組合せを含む。もう1つの局面において、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体は組換え微生物から分泌され、接触段階は、培養段階由来の脂肪酸誘導体を単離することなく行われる。1つの態様において、試薬は、塩酸、硫酸、リン酸および回収可能樹脂酸を非限定的に含むプロトン酸を含む。もう1つの態様において、作用物質は、有機スタンナンエステル交換触媒、銅塩または亜鉛塩、銀トリフラート、およびゼオライトを非限定的に含むルイス酸である。なおもう1つの態様において、試薬はペプチドカップリング剤である。
【0009】
本開示のもう1つの局面は、脂肪酸誘導体の種類に、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸(ω-OH FA)、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和ω-OH FA)、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(ω-OH脂肪酸エステル)、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和ω-OH脂肪酸エステル)、3-ヒドロキシ脂肪酸(3-OH FA)、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和3-OH FA)、3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和3-OH脂肪酸エステル)、アルファ-オメガ-二酸(α,ω-二酸)、不飽和アルファ-オメガ二酸(不飽和α,ω-二酸)、アルファ-オメガ-二酸エステル(α,ω-二酸エステル)、不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(不飽和α,ω-二酸エステル)、およびそれらの組合せが非限定的に含まれる、化学酵素的プロセス(前記)を提供する。1つの態様において、不飽和脂肪酸は一不飽和性である。もう1つの態様において、不飽和脂肪酸エステルは一不飽和性である。もう1つの態様において、不飽和脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸メチルエステル(FAME)および不飽和脂肪酸エチルエステル(FAEE)を含む。もう1つの態様において、不飽和FAMEまたはFAEEは一不飽和性である。もう1つの態様において、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和ω-OH FA)は一不飽和性である。もう1つの態様において、不飽和脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸メチルエステル(FAME)および不飽和脂肪酸エチルエステル(FAEE)を含む。もう1つの態様において、3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)は、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)である。もう1つの態様において、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(ω-OH脂肪酸エステル)は、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(ω-OH FAME)またはオメガ-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(ω-OH FAEE)である。もう1つの態様において、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和ω-OH脂肪酸エステル)は一不飽和性である。もう1つの態様において、一不飽和オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(一不飽和ω-OH脂肪酸エステル)は、オメガ-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸メチルエステル(ω-OH一不飽和FAME)およびオメガ-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸エチルエステル(ω-OH一不飽和FAEE)を非限定的に含む。もう1つの態様において、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和3-OH FA)は一不飽和性である。もう1つの態様において、3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)は、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)である。もう1つの態様において、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和3-OH脂肪酸エステル)は一不飽和性である。もう1つの態様において、一不飽和3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)は、3-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸メチルエステル(一不飽和3-OH FAME)または3-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸エチルエステル(一不飽和3-OH FAEE)である。もう1つの態様において、不飽和アルファ-オメガ-二酸(不飽和α,ω-二酸)または不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(不飽和α,ω-二酸エステル)は一不飽和性である。もう1つの態様において、一不飽和(monounsatured)アルファ-オメガ-二酸エステル(一不飽和α,ω-二酸エステル)は、酸半エステル(half-acid ester)である。もう1つの態様において、酸半エステルはメチルエステルまたはエチルエステルである。もう1つの態様において、一不飽和(monounsatured)アルファ-オメガ-二酸エステル(一不飽和α,ω-二酸エステル)は、ジエステルである。なおもう1つの態様において、ジエステルはメチルジエステルまたはエチルジエステルである。
[本発明1001]
以下を含む、芳香剤成分を作り出すための化学酵素的プロセス:
代謝改変を含む組換え微生物を培養する段階であって、該微生物が、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体をインビボで産生し、該培養が、炭素系の原料とともに行われる、段階;および
ラクトンまたは大環状ケトンを生成させるのに十分な条件下で、該脂肪酸誘導体を試薬とエクスビボで接触させる段階。
[本発明1002]
代謝改変が、変更された酵素機能を含む、本発明1001の化学酵素的プロセス。
[本発明1003]
変更された酵素機能が、E.C. 3.1.2.-またはE.C. 2.1.1.5のチオエステラーゼを含む、本発明1002の化学酵素的プロセス。
[本発明1004]
変更された酵素機能が、E.C. 2.3.1.20のエステルシンターゼをさらに含む、本発明1003の化学酵素的プロセス。
[本発明1005]
変更された酵素機能が、E.C. 1.14.15.3のω-ヒドロキシラーゼまたはオキシゲナーゼを含む、本発明1002の化学酵素的プロセス。
[本発明1006]
変更された酵素機能が、EC 1.1.1.1/2、EC 1.1.3.13、EC 1.1.3.20、EC 1.2.1.3/4/5またはEC 1.2.3.1のオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼをさらに含む、本発明1005の化学酵素的プロセス。
[本発明1007]
代謝改変が微生物内部の不飽和脂肪酸誘導体を増加させる、本発明1001の化学酵素的プロセス。
[本発明1008]
芳香剤成分がラクトンまたは大環状ケトンを含む、本発明1001の化学酵素的プロセス。
[本発明1009]
接触段階の前に脂肪酸誘導体を単離する段階をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
脂肪酸誘導体が組換え微生物から分泌され、接触段階が、培養段階由来の脂肪酸誘導体を単離することなく行われる、本発明1001の方法。
[本発明1011]
試薬が、塩酸、硫酸、リン酸および回収可能樹脂酸からなる群より選択されるプロトン酸を含む、本発明1001の方法。
[本発明1012]
試薬がルイス酸を含む、本発明1001の方法。
[本発明1013]
ルイス酸が、有機スタンナンエステル交換触媒、銅塩または亜鉛塩、銀トリフラート、およびゼオライトからなる群より選択される、本発明1012の方法。
[本発明1014]
試薬がペプチドカップリング剤である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
芳香剤成分が、ガンマ-ラクトン(γ-ラクトン)、デルタ-ラクトン(δ-ラクトン)、またはそれらの組合せである、本発明1001の方法。
[本発明1016]
芳香剤成分がC8~C18マクロラクトンである、本発明1001の方法。
[本発明1017]
脂肪酸誘導体が、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸(ω-OH FA)、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和ω-OH FA)、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(ω-OH脂肪酸エステル)、オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和ω-OH脂肪酸エステル)、3-ヒドロキシ脂肪酸(3-OH FA)、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和3-OH FA)、3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和3-OH脂肪酸エステル)、アルファ-オメガ-二酸(α,ω-二酸)、不飽和アルファ-オメガ二酸(不飽和α,ω-二酸)、アルファ-オメガ-二酸エステル(α,ω-二酸エステル)、不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(不飽和α,ω-二酸エステル)、およびそれらの組合せからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1018]
不飽和脂肪酸が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1019]
不飽和脂肪酸エステルが一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1020]
不飽和脂肪酸エステルが、不飽和脂肪酸メチルエステル(FAME)および不飽和脂肪酸エチルエステル(FAEE)からなる群より選択される、本発明1017の方法。
[本発明1021]
不飽和FAMEが一不飽和性である、本発明1020の方法。
[本発明1022]
不飽和FAEEが一不飽和性である、本発明1020の方法。
[本発明1023]
オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和ω-OH FA)が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1024]
不飽和脂肪酸エステルが、不飽和脂肪酸メチルエステル(FAME)および不飽和脂肪酸エチルエステル(FAEE)からなる群より選択される、本発明1017の方法。
[本発明1025]
3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)が、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)である、本発明1017の方法。
[本発明1026]
オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(ω-OH脂肪酸エステル)が、オメガ-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(ω-OH FAME)またはオメガ-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(ω-OH FAEE)である、本発明1017の方法。
[本発明1027]
オメガ-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和ω-OH脂肪酸エステル)が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1028]
一不飽和オメガ-ヒドロキシ脂肪酸エステル(一不飽和ω-OH脂肪酸エステル)が、オメガ-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸メチルエステル(ω-OH一不飽和FAME)およびオメガ-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸エチルエステル(ω-OH一不飽和FAEE)からなる群より選択される、本発明1027の方法。
[本発明1029]
3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸(不飽和3-OH FA)が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1030]
3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)が、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)である、本発明1017の方法。
[本発明1031]
3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル(不飽和3-OH脂肪酸エステル)が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1032]
一不飽和3-ヒドロキシ脂肪酸エステル(3-OH脂肪酸エステル)が、3-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸メチルエステル(一不飽和3-OH FAME)または3-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸エチルエステル(一不飽和3-OH FAEE)である、本発明1031の方法。
[本発明1033]
不飽和アルファ-オメガ-二酸(不飽和α,ω-二酸)または不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(不飽和α,ω-二酸エステル)が一不飽和性である、本発明1017の方法。
[本発明1034]
一不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(一不飽和α,ω-二酸エステル)が、酸半エステル(half-acid ester)である、本発明1033の方法。
[本発明1035]
酸半エステルがメチルエステルまたはエチルエステルである、本発明1034の方法。
[本発明1036]
一不飽和アルファ-オメガ-二酸エステル(一不飽和α,ω-二酸エステル)がジエステルである、本発明1033の方法。
[本発明1037]
ジエステルがメチルジエステルまたはエチルジエステルである、本発明1036の方法。
[本発明1038]
接触段階が、脱水、ラクトン化、またはそれらの組合せを含む、本発明1001の方法。
[本発明1039]
脂肪酸誘導体が、奇数炭素鎖、メチル分枝、またはそれらの組合せを含む、本発明1001の方法。
[本発明1040]
炭素系の原料が単純な炭素源を含む、本発明1001の方法。
[本発明1041]
炭素系の原料が再生可能である、本発明1001の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本明細書において開示される態様は、一部には、操作された生合成経路を用いて脂肪酸誘導体を合成することのできる組換え微生物の培養と、デルタ(δ)およびガンマ(γ)ラクトン、またはマクロラクトン産物および大環状ケトン産物の効率的な調製を得るための合成有機化学変換とを組合せたプロセスを対象とする。特に、本プロセスは、再生可能なバイオマス由来材料(すなわち、再生可能な原料)、例えば、トウモロコシ、サトウキビもしくはリグノセルロース系バイオマス由来の糖質;グリセロール、排ガス、合成ガスなどの廃棄物;またはバイオマスもしくは天然ガスなどの有機材料の再構成物もしくは二酸化炭素などからの、先進的中間体化合物の生成をもたらす。これは、これらの重要な化学物質の生産のための、コスト効果が高くかつ再生可能である代替的な供給源をもたらす。本プロセスは、単純な再生可能な原料から優れた選択性を伴って先進的化合物をもたらすことから、従来の合成的な多段階化学合成と比較して、コスト、操作の簡単さ、および環境的利点という点で経済的な優位性がある。
【0011】
本明細書において開示される組換え微生物は、偶数鎖、奇数鎖もしくはメチル分枝鎖を含む、C8~C18または炭素原子がそれを上回るさまざまな鎖長を有し、かつ不飽和、ヒドロキシル化およびエステル化を含むさまざまな誘導体官能性を含む、商業的な量の多種多様な脂肪酸誘導体を産生するように操作することができる。いくつかの態様において、本明細書において開示される組換え微生物は、培養物からの単離を伴わないインサイチューでの合成操作を容易にするため、または産物の単離を簡単にするために、結果として生じた脂肪酸誘導体を培地または発酵ブロス中に分泌することができる。本明細書において開示される組換え微生物における操作された経路を介した脂肪酸誘導体の産生は、天然に存在する生合成経路を通じての、または従来の合成有機化学手法を介したものよりも高い産物収量をもたらす可能性があることから、有用である。
【0012】
定義
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈によって明らかに別様に規定されている場合を除き、複数形の指示物も含む。したがって、例えば、「1つの宿主細胞」への言及は2つまたはそれを上回るそのような宿主細胞を含み、「1つの脂肪酸」への言及は1つもしくは複数の脂肪酸、または脂肪酸の混合物への言及を含み、「1つの核酸配列」への言及は1つまたは複数の核酸配列を含み、「1つの酵素」への言及は1つまたは複数の酵素を含み、他についても同様である。
【0013】
「芳香剤成分」という用語は、本明細書および特許請求の範囲において、芳香剤または香料を作り出すために、単独で、または精油および/もしくは芳香性化合物および/もしくは揮発防止剤(fixative)および/もしくは溶媒の混合物または組成物に添加して用いることのできる材料を意味する。芳香剤または香料は、人体、動物、食品群、対象物、および/または生活空間に心地の良い香りを加えるために用いられる。ラクトン(マクロラクトンを含む)および大環状ケトンは、芳香剤成分の例である。他の芳香剤成分は、ワールドワイドウェブでifraorg.orgにあるInternational Fragrance Association(IFRA)のウェブサイトに列記されている。
【0014】
「マクロラクトン」は、任意のマクロラクトンのことである。1つの態様において、マクロラクトンは、環内の原子数が10を上回るラクトンのことである。
【0015】
「酸半エステル」は、「ジカルボン酸の半エステル」と互換的に用いられ、そのカルボキシル基の1つがエステル化されているジカルボン酸のことである。
【0016】
本明細書で用いる場合、「微生物の(microbial)」、「微生物(microbial organism)」または「微生物(microorganism)」という用語は、古細菌、細菌または真核生物のドメイン内に含まれる、微視的細胞または単細胞生物として存在する任意の生物を意味する。したがって、この用語は、微細なサイズを有する原核性または真核性の細胞または生物を範囲に含むことを意図しており、これにはすべての種の細菌、古細菌および真正細菌、ならびに酵母および真菌などの真核性微生物が含まれる。この用語はまた、生化学物質の生産のために培養することができる、任意の種の細胞培養物も含む。
【0017】
「組換え微生物」という用語は、例えば、宿主細胞内のある特定の酵素活性が、親細胞または生来の宿主細胞に比して変更されている、追加されている、かつ/または欠失しているように遺伝的に改変された宿主細胞のことを指す。遺伝的に改変された宿主細胞は、組換え微生物の一例である。そのため、組換え宿主細胞における、例えば酵素などの「タンパク質の活性の改変または変更されたレベル」とは、その同じ改変が存在しない親細胞または生来の宿主細胞を基準として判定した、活性における1つまたは複数の特性の差異のことを指す。典型的には、活性の差異は、改変された活性を有する組換え宿主細胞と、その改変された活性を有しない対応する野生型宿主細胞との間で判定される(例えば、組換え宿主細胞の培養物と対応する野生型宿主細胞との比較)。活性の改変は、例えば、組換え宿主細胞によって発現されるタンパク質の量の改変(例えば、タンパク質をコードするDNA配列のコピー数の増加もしくは減少、タンパク質をコードするmRNA転写物の数の増加もしくは減少、および/またはmRNAからのタンパク質のタンパク質翻訳の量の増加もしくは減少の結果として);タンパク質の構造の変化(例えば、一次構造に対する変化、例えば、基質特異性の変化、観察される速度論的パラメーターの変化をもたらすタンパク質のコード配列に対する変化など);および、タンパク質安定性の変化(例えば、タンパク質の分解の増加もしくは減少)の結果でありうる。いくつかの態様において、ポリペプチドは、本明細書に記載のペプチドのいずれかの突然変異体またはバリアントである。場合によっては、本明細書に記載のポリペプチドのコード配列は、特定の宿主細胞における発現のためにコドンが最適化されている。例えば、大腸菌における発現のために、1つまたは複数のコドンを最適化することができる(例えば、Grosjean et al. (1982) Gene 18:199-209を参照)。
【0018】
「脂肪酸」という用語は、式RCOOHを有するカルボン酸を意味する。Rは脂肪族基、好ましくはアルキル基を表す。Rは約4~約22個の炭素原子を含むことができる。脂肪酸は分枝鎖または直鎖を有することができ、飽和性、一不飽和性または多不飽和性であってよい。
【0019】
「脂肪酸誘導体」とは、一部が生産宿主生物の脂肪酸生合成経路から作られ、一部がアシル-ACPまたはアシル-CoAから作られる産物のことである。この用語は、任意の脂肪酸(追加的な化学官能性を有するC6~C24であり、誘導体C6~C35を含みうる)を範囲に含むことを意図している。脂肪酸誘導体は、不飽和、ヒドロキシル化、ベータおよびオメガヒドロキシル化、および/またはエステル化のうち1つまたは複数を有しうる。例示的な脂肪酸誘導体には、飽和または一不飽和脂肪酸またはエステル、オメガヒドロキシル化脂肪酸またはエステルなどが含まれる。そのほかの例示的な脂肪酸誘導体には、アシル-CoA、脂肪酸、脂肪アルデヒド、短鎖および長鎖アルコール、脂肪アルコール、炭化水素、エステル(例えば、ワックス、脂肪酸エステル、脂肪エステル)、末端オレフィン、内部オレフィン、ならびにケトンが含まれる。
【0020】
本明細書で用いる場合、「代謝改変」という用語は、その天然に存在する状態とは異なるようにする、代謝経路または生合成経路における変化のことを指すことを意図している。代謝改変には、例えば、反応に関与する酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子の機能的破壊による、生化学反応活性の除去または減弱化が含まれうる。これにはまた、反応に関与する酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子をアップレギュレートまたは過剰発現させることによる生化学反応活性の増大も含まれうる。これにはまた、反応に関与する酵素をコードする1つまたは複数の遺伝子を外因性に発現させることによる生化学反応活性の導入も含まれうる。そのような改変は、微生物またはその環境の遺伝的、物理的または化学的な操作を通じて達成することができる。
【0021】
「変更された酵素機能」とは、細胞に天然には存在しない酵素活性のことを指す。変更された酵素機能の一例は、細胞内に天然には見いだされない酵素活性を有するタンパク質をコードする、外因性に発現された遺伝子である。変更された酵素機能のもう1つの例は、増大した発現レベルでは細胞内に天然には見いだされない酵素活性を有するタンパク質をコードする、過剰発現された遺伝子である。
【0022】
「脂肪酸誘導体をインビボで産生する」という用語は、本明細書で用いる場合、生存能力がある、および/または遺伝的に改変された宿主細胞において、再生可能な原料、例えば糖質または他のものなどから脂肪酸誘導体を産生することを意味し、ここで再生可能な原料は、宿主細胞が発酵中に炭素源を取り込んで代謝しうるように炭素源として発酵ブロスに添加される。これは、精製された酵素または細胞溶解物が用いられて、酵素的変換のための直接的な基質、例えば、脂肪酸または脂肪酸誘導体が精製された酵素または細胞溶解物溶液に添加される、脂肪酸誘導体がインビトロで生成される方法とは異なる。これはまた、休止細胞が用いられて、酵素的変換のための直接的な基質、例えば、脂肪酸または脂肪酸誘導体が休止細胞に外因性に添加される、脂肪酸誘導体が生体内変換で産生される方法とも異なる。
【0023】
本明細書で用いる場合、「脂肪酸生合成経路」という用語は、脂肪酸および脂肪酸誘導体を生成する生合成経路を意味する。そのような脂肪酸誘導体の例には、ω-ヒドロキシル化脂肪酸およびω-ヒドロキシル化脂肪酸エステル誘導体、ω-不飽和脂肪酸およびω-不飽和脂肪酸エステル誘導体、ならびに3-ヒドロキシ脂肪酸および3-ヒドロキシ脂肪酸エステル誘導体が非限定的に含まれる。脂肪酸生合成経路は、所望の特性を有するω-ヒドロキシル化脂肪酸およびω-ヒドロキシル化脂肪酸エステル誘導体、ω-不飽和脂肪酸およびω-不飽和脂肪酸エステル誘導体、ならびに3-ヒドロキシ脂肪酸および3-ヒドロキシ脂肪酸エステル誘導体などの脂肪酸誘導体を生成するために本明細書で述べたもの以外の酵素活性を有するさらなる酵素またはポリペプチドを含みうる。
【0024】
酵素分類(EC)番号は、国際生化学分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology)(IUBMB)の命名委員会(Nomenclature Committee)によって確立されており、その記述はWorld Wide WebのIUBMB Enzyme Nomenclatureウェブサイトで入手可能である。EC番号は、酵素により触媒される反応に応じて酵素を分類する。例えば、異なる酵素(例えば、異なる生物に由来する)が同じ反応を触媒するならば、それらは同じEC番号に分類される。加えて、収束進化を通じて、異なるタンパク質フォールドが同一の反応を触媒しうるようになり、そのため同一のEC番号が割り当てられることもある(Omelchenko et al. (2010) Biol. Direct 5:31を参照)。進化の上では関係がなく、同じ生化学反応を触媒しうるタンパク質は、相似酵素(すなわち、相同酵素とは対照的なものとして)と呼ばれることがある。EC番号は、例えば、タンパク質をそのアミノ酸配列によって特定するUniProt識別子とは異なる。
【0025】
「アクセッション番号」または「NCBIアクセッション番号」または「GenBankアクセッション番号」という用語は、特定の核酸配列を表す番号のことを指す。本記載において考察される配列アクセッション番号は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、U.S.A.)によって管理されているNCBI(National Center for Biotechnology Information)によって提供されるデータベースから、ならびにSwiss Institute of Bioinformaticsによって提供されるUniProt Knowledgebase(UniProtKB)およびSwiss-Protデータベースから入手した(UniProtKBアクセッション番号とも称される)。
【0026】
本明細書で用いる場合、「ヌクレオチド」という用語は、複素環塩基、糖、および1つまたは複数のリン酸基からなるポリヌクレオチドのモノマー単位を指す。天然の塩基(グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)、チミン(T)およびウラシル(U))は、典型的にはプリンまたはピリミジンの誘導体であるが、天然および非天然の塩基類似体も含まれることが理解されるべきである。天然の糖は、ペントース(五炭糖)デオキシリボース(DNAを形成する)またはリボース(RNAを形成する)であるが、天然および非天然の糖類似体も含まれることが理解されるべきである。核酸は、典型的にはリン酸結合を介して連結して核酸またはポリヌクレオチドを形成するが、多くの他の結合も当技術分野において公知である(例えば、ホスホロチオエート、ボラノホスフェートなど)。
【0027】
本明細書で用いる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチド(RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(DNA)の重合体を指し、それらは一本鎖でも二本鎖でもよく、非天然のまたは変更されたヌクレオチドを含むこともできる。「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」および「ヌクレオチド配列」という用語は、本明細書において、RNAまたはDNAのいずれかである任意の長さの重合型のヌクレオチドを指す目的で互換的に用いられる。これらの用語は分子の一次構造を指しており、それ故、二本鎖および一本鎖のDNA、ならびに二本鎖および一本鎖のRNAを含む。これらの用語は、同等のものとして、メチル化および/またはキャッピングされたポリヌクレオチドなどの、ただしそれらに限定はされないヌクレオチド類似体および改変されたポリヌクレオチドでできたRNAまたはDNAのいずれかの類似体を含む。ポリヌクレオチドは、プラスミド、ウイルス、染色体、EST、cDNA、mRNA、およびrRNAを非限定的に含む、任意の形態にあってよい。
【0028】
本明細書で用いる場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の重合体を指す目的で互換的に用いられる。「組換えポリペプチド」という用語は、組換え手法によって産生されるポリペプチドを指し、ここでは概して、発現させるタンパク質をコードするDNAまたはRNAを適した発現ベクター中に挿入し、続いてそれを、該ポリペプチドを産生させる目的で宿主細胞を形質転換するために用いる。
【0029】
本明細書で用いる場合、「ホモログ」および「相同な」という用語は、対応するポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列に対して少なくとも約50%同一である配列を含むポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。好ましくは、相同なポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、対応するアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも約99%の相同性を有するポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を有する。本明細書で用いる場合、配列「相同性」および配列「同一性」という用語は、互換的に用いられる。当業者は、2つまたはそれ以上の配列の間の相同性を決定するための方法を熟知しているであろう。手短に述べると、2つの配列間の「相同性」の計算は、以下のように行うことができる。配列を、最適な比較のために整列させる(例えば、最適なアラインメントのために第1および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較のために非相同配列を無視することができる)。1つの好ましい態様において、比較のために整列させる第1の配列の長さは、第2の配列の長さの少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%である。続いて、第1および第2の配列の対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められている場合には、その分子はその位置で同一である。2つの配列間の%相同性は、2つの配列の最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れた、配列が共通に持つ同一な位置の数の関数である。2つの配列間での配列の比較および%相同性の決定は、BLAST(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol, 215(3): 403-410)などの数学的アルゴリズムを用いて実現することができる。2つのアミノ酸配列間の%相同性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunschのアルゴリズムを用い、Blossum 62行列またはPAM250行列のいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6または4のギャップ加重および1、2、3、4、5または6の長さ加重を用いて決定することもできる(Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol., 48: 444-453)。また、2つのヌクレオチド配列間の%相同性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いNWSgapdnaCMP行列、ならびに40、50、60、70または80のギャップ加重および1、2、3、4、5または6の長さ加重を用いて決定することもできる。
【0030】
当業者は、初期の相同性計算を行い、それに応じてアルゴリズムパラメーターを調整することができる。好ましいパラメーターのセット(および、分子が添付の特許請求の範囲の相同性の限度内にあるか否かを判定するためにどのパラメーターを適用すべきかが不明である場合に用いるべきセット)では、Blossum 62スコアリング行列を、ギャップペナルティ12、ギャップ延長ペナルティ4およびフレームシフトギャップペナルティ5で用いる。配列アラインメントのそのほかの方法は、バイオテクノロジー分野で公知である(例えば、Rosenberg (2005) BMC Bioinformatics, 6: 278;Altschul, et al. (2005) FEBS J., 272(20): 5101-5109を参照されたい)。
【0031】
「オルソログ」とは、垂直伝達(vertical descent)によって関連づけられ、複数の異なる生物体において実質的に同じまたは同一の機能を担う1つまたは複数の遺伝子のことである。例えば、マウスエポキシドヒドロラーゼおよびヒトエポキシドヒドロラーゼは、エポキシドの加水分解の生物学的機能に関してオルソログと見なすことができる。遺伝子は、例えば、それらが相同であるかまたは共通の祖先からの進化によって関連づけられることを示すのに十分な量の配列類似性を有する場合、垂直伝達によって関連づけられる。また、遺伝子は、共通の三次元構造を有するが、一次配列類似性が識別可能でない程度までそれらが共通の祖先から進化したことを示すのに十分な量の配列類似性を必ずしも有しない場合にも、オルソログと見なすことができる。オルソロガスである遺伝子は、約25%~100%のアミノ酸配列同一性の配列類似性を有するタンパク質をコードすることができる。それらの三次元構造も類似性を示す場合には、25%未満のアミノ酸類似性を有するタンパク質をコードする遺伝子も、垂直伝達によって生じたと見なすことができる。組織プラスミノーゲン活性化因子およびエラスターゼを含む、セリンプロテアーゼファミリーの酵素のメンバーは、共通の祖先から垂直伝達によって生じたと見なすことができる。オルソログには、例えば進化を通して構造または全体的活性が分岐した遺伝子またはそれらのコードされる遺伝子産物が含まれる。例えば、1つの種が2つの機能を示す遺伝子産物をコードし、そのような機能が第2の種において複数の異なる遺伝子に分離されている場合には、この3つの遺伝子およびそれらの対応する産物はオルソログであると見なされる。生化学的産物の増殖連動生産(growth-coupled production)については、当業者は、天然に存在しない微生物の構築のために、破壊しようとする代謝活性を保有するオルソロガス遺伝子が選択されるべきであることを理解するであろう。分離可能な活性を示すオルソログの例は、別個の活性が2つまたはそれを上回る種の間で、または単一の種の中で異なる遺伝子産物に分離されている場合である。具体的な例の1つは、2つのタイプのセリンプロテアーゼ活性であるエラスターゼタンパク質分解およびプラスミノーゲンタンパク質分解の、プラスミノーゲン活性化因子およびエラスターゼとしての別個の分子への分離である。第2の例は、マイコプラズマ5'-3'エキソヌクレアーゼ活性とショウジョウバエ(Drosophila)DNAポリメラーゼIII活性の分離である。第1の種からのDNAポリメラーゼは、第2の種からのエキソヌクレアーゼまたはポリメラーゼの一方または両方に対してオルソログであると見なすことができ、その逆も同様である。
【0032】
対照的に、「パラログ」は、例えば、複製とそれに続く進化的分岐によって関連づけられるホモログであり、類似または共通しているが、同一ではない機能を有する。パラログは、例えば、同じ種または異なる種を起源とするかまたはそれに由来することができる。例えば、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(エポキシドヒドロラーゼI)および可溶性エポキシドヒドロラーゼ(エポキシドヒドロラーゼII)は、それらが同じ種において異なる反応を触媒し、異なる機能を有する、共通の祖先から共進化した2つの異なる酵素であることから、パラログと見なすことができる。パラログは、互いにかなり高い相互配列類似性を有する同じ種由来のタンパク質であり、このことはそれらが相同であるか、または共通の祖先からの共進化を通じて関連づけられることを示唆する。パラロガスなタンパク質ファミリーの群には、HipAホモログ、ルシフェラーゼ遺伝子、ペプチダーゼなどが含まれる。
【0033】
非オルソロガス遺伝子置換とは、複数の異なる種において言及される遺伝子機能を代替することができる、1つの種由来の非オルソロガス遺伝子のことである。置換には、例えば、異なる種における言及される機能と比較して、起源の種において実質的に同じまたは類似の機能を遂行しうるものが含まれる。一般に、非オルソロガス遺伝子置換は、言及される機能をコードする公知の遺伝子と構造的に関連するものとして同定可能であるが、構造的な関連は弱いものの機能的に類似した遺伝子およびそれらの対応する遺伝子産物も、本明細書で用いられる場合のこの用語の意味の範囲内に含まれる。機能的類似性としては、例えば、置換しようとする機能をコードする遺伝子と比較して、非オルソロガス遺伝子産物の活性部位または結合領域において少なくともある程度の構造的類似性が必要とされる。したがって、非オルソロガス遺伝子には、例えば、パラログまたは無関係な遺伝子が含まれる。
【0034】
したがって、脂肪酸誘導体の生産のための、本明細書において開示される天然に存在しない微生物の生物体を同定および構築するに際して、当業者は、代謝改変の同定にオルソログの同定および破壊が含まれるべきであるという、本明細書において提供される教示および手引きが特定の種に適用されることを理解するであろう。パラログおよび/または非オルソロガス遺伝子置換が、類似または実質的に類似の代謝反応を触媒する酵素をコードする言及される微生物に存在する限りにおいて、当業者は、設計した代謝改変が酵素活性のいかなる機能的冗長性によっても確実に回避されないように、これらの進化的に関連した遺伝子を破壊することもできる。オルソログ、パラログおよび非オルソロガス遺伝子置換は、当業者に周知の方法によって決定することができる。例えば、2つのポリペプチドの核酸配列またはアミノ酸配列を調べることにより、比較される配列間の配列同一性および類似性が明らかになると考えられる。そのような類似性に基づいて、当業者は、それらのタンパク質が共通の祖先からの進化を通じて関連づけられることを示す程度に類似性が十分に高いかどうかを決定することができる。当業者に周知のアルゴリズム、例えばAlign、BLAST、Clustal Wなどは、未処理の配列の類似性または同一性を比較して決定するほか、重みまたはスコアを割り当てることができる配列中のギャップの存在または重要性も決定する。そのようなアルゴリズムは当技術分野において公知であり、ヌクレオチド配列の類似性または同一性を決定することにも同様に適用しうる。関連性を決定するのに十分な類似性に関するパラメーターは、統計的類似性、またはランダムなポリペプチド中で類似のマッチを見いだす確率、および決定されたマッチの有意性を計算するための周知の方法に基づいて計算される。所望に応じて、2つまたはそれを上回る配列のコンピュータによる比較を、当業者が視覚的に最適化することもできる。関連する遺伝子産物またはタンパク質は、高い類似性、例えば、25%~100%の配列同一性を有すると予想することができる。関連性のないタンパク質は、十分なサイズのデータベースをスキャンする場合に偶然に生じることが予想されるのと本質的に同じである同一性を有することができる(約5%)。5%から24%までの間の配列は、比較される配列が関連していると結論づけるのに十分な相同性を表していることもあれば、表していないこともある。これらの配列の関連性を決定するために、データセットのサイズを前提とするそのようなマッチの有意性を決定するさらなる統計分析を実施することができる。例えば、BLASTアルゴリズムを用いて2つまたはそれを上回る配列の関連性を決定するための例示的なパラメーターは、下に示すようなものであってよい。手短に述べると、アミノ酸配列アラインメントを、BLASTPバージョン2.0.8(1999年1月5日)および以下のパラメーターを用いて実施することができる:マトリックス:0 BLOSUM62;ギャップオープン:11;ギャップ伸長:1;x_dropoff:50;期待値:10.0;ワードサイズ:3;フィルター:オン。核酸配列アラインメントは、BLASTNバージョン2.0.6(1998年9月16日)および以下のパラメーターを用いて実施することができる:マッチ:1;ミスマッチ:-2;ギャップオープン:5;ギャップ伸長:2;x_dropoff:50;期待値:10.0;ワードサイズ:11;フィルター:オフ。当業者は、比較のストリンジェンシーを増加または減少させ、例えば、2つまたはそれを上回る配列の関連性を決定するために、どのような改変を上記のパラメーターに加えることができるかを把握しているであろう。
【0035】
「異種」という用語は、一般に、異なる種に由来するか、または異なる生物に由来することを意味する。本明細書で用いる場合、これは、特定の生物に天然には存在しないヌクレオチド配列またはポリペプチド配列のことを指す。異種発現とは、タンパク質またはポリペプチドが、そのタンパク質を通常は発現しない細胞に実験的に追加されることを意味する。そのため、異種とは、移入されるタンパク質が、レシピエントとは異なる細胞型または異なる種に元々は由来するという事実を指す。例えば、植物細胞にとって内因性のポリヌクレオチド配列を組換え法を用いて細菌宿主細胞に導入することができ、その場合、植物ポリヌクレオチドは組換え細菌宿主細胞における異種ポリヌクレオチドである。
【0036】
「内因性」ポリペプチドとは、組換え細胞が操作されるかまたは導き出される元となる宿主細胞(例えば、親微生物細胞)のゲノムによってコードされるポリペプチドのことを指す。したがって、「内因性」という用語は、宿主内に天然に存在する参照分子または参照活性のことを指す。同様に、この用語は、コーディング核酸の発現を参照して用いられる場合、天然の微生物内に含まれるコーディング核酸の発現のことを指す。
【0037】
「異種性」という用語は、親微生物細胞のゲノムによってはコードされないポリペプチドのことを指す。バリアント(すなわち、突然変異体)ポリペプチドは、外因性ポリペプチドの一例である。「外因性」とは、言及される分子または言及される活性が宿主微生物に導入されることを意味するものとする。したがって、この用語は、コーディング核酸の発現に言及して用いられる場合、発現可能な形態にあるコーディング核酸の微生物への導入のことを指す。生合成活性に言及して用いられる場合、この用語は、宿主参照生物に導入される活性のことを指す。供給源は、例えば、宿主微生物への導入に続いて言及される活性を発現する、相同な、または異種性のコーディング核酸であってよい。したがって、本開示のコーディング核酸の外因性発現には、異種性のコーディング核酸または相同なコーディング核酸のいずれかまたは両方を利用することができる。
【0038】
本明細書で用いる場合、ポリペプチドの「断片」という用語は、完全長ポリペプチドまたはタンパク質のより短い部分を指し、そのサイズは、4アミノ酸残基から、アミノ酸配列全体から1アミノ酸残基を差し引いたものまでの範囲にわたる。本開示のある態様において、断片とは、ポリペプチドまたはタンパク質のあるドメイン(例えば、基質結合ドメインまたは触媒ドメイン)のアミノ酸配列全体のことを指す。
【0039】
本明細書で用いる場合、「突然変異誘発」という用語は、生物の遺伝情報を安定的な様式で変化させるプロセスを指す。タンパク質をコードする核酸配列の突然変異誘発により、突然変異体タンパク質が生じる。また、突然変異誘発とは、タンパク質活性の改変をもたらす非コード性核酸配列の変化のことも指す。
【0040】
本明細書で用いる場合、「遺伝子」という用語は、RNA産物またはタンパク質産物のいずれかをコードする核酸配列、ならびに、そのRNAもしくはタンパク質の発現に影響を及ぼす機能的に連結された核酸配列(例えば、そのような配列には、プロモーター配列またはエンハンサー配列が非限定的に含まれる)またはそのRNAもしくはタンパク質に影響を及ぼす配列をコードする機能的に連結された核酸配列(例えば、そのような配列には、リボソーム結合部位または翻訳制御配列が非限定的に含まれる)を指す。
【0041】
発現制御配列は当技術分野において公知であり、これには例えば、宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現をもたらす、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写終結因子、配列内リボソーム進入部位(IRES)などが含まれる。発現制御配列は、転写に関与する細胞タンパク質と特異的に相互作用する(Maniatis et al. (1987) Science, 236: 1237-1245)。例示的な発現制御配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。本開示の方法において、発現制御配列は、ポリヌクレオチド配列と機能的に連結されている。「機能的に連結された」という用語は、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が発現制御配列に結合した時に遺伝子発現を可能にするような様式で、ポリヌクレオチド配列と該発現制御配列が接続されていることを意味する。機能的に連結されたプロモーターは、転写および翻訳の方向の観点では、選択されたポリヌクレオチド配列の上流に位置する。機能的に連結されたエンハンサーは、選択されたポリヌクレオチドの上流、内部または下流に位置することができる。
【0042】
本明細書で用いる場合、「ベクター」という用語は、それに連結された別の核酸、すなわちポリヌクレオチド配列を輸送しうる核酸分子を指す。有用なベクターの一種は、エピソーム(すなわち、染色体外での複製が可能な核酸)である。有用なベクターは、それに連結された核酸の自律複製および/または発現を可能にするものである。機能的に連結された遺伝子の発現を導くことができるベクターを、本明細書では「発現ベクター」と称する。一般に、組換えDNA手法において有用な発現ベクターは、ベクター形態では染色体に結合していない環状二本鎖DNAループ全般を指す「プラスミド」の形態にあることが多い。ベクターの最も一般的に用いられる形態がプラスミドであるので、「プラスミド」および「ベクター」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。しかしながら、同等の機能を果たす他の形態の発現ベクター、および当技術分野において今後公知となる他の形態の発現ベクターも同じく含まれる。いくつかの態様において、組換えベクターは、ポリヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターをさらに含む。いくつかの態様において、プロモーターは、発生段階調節性(developmentally-regulated)プロモーター、オルガネラ特異的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、構成性プロモーター、または細胞特異的プロモーターである。組換えベクターは典型的に、以下を含む少なくとも1つの配列を含む: (a) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた発現制御配列; (b) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた選択マーカー; (c) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたマーカー配列; (d) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた精製部分; (e) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついた分泌配列;および (f) ポリヌクレオチド配列と機能的に結びついたターゲティング配列。ある態様において、ヌクレオチド配列は宿主細胞のゲノムDNAに安定的に組み込まれており、ヌクレオチド配列の発現は、調節プロモーター領域の制御下にある。本明細書に記載される発現ベクターは、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列を、宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現に適した形態で含む。当業者には、発現ベクターの設計が、形質転換させようとする宿主細胞の選択、所望のポリペプチドの発現レベルなどの要因に依存しうることが理解されるであろう。本明細書に記載の発現ベクターは、本明細書に述べるようなポリヌクレオチド配列によってコードされる、融合ポリペプチドを含むポリペプチドを産生させるために宿主細胞に導入することができる。原核生物、例えば大腸菌におけるポリペプチドをコードする遺伝子の発現は、融合または非融合ポリペプチドのいずれかの発現を導く構成性または誘導性プロモーターを含有するベクターを用いて実施されることが最も多い。融合ベクターは、その中にコードされているポリペプチド、通常は組換えポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシ末端に、いくつかのアミノ酸を付加する。そのような融合ベクターは、典型的には、以下の3つの目的のうちの1つまたは複数に役立つ:(1) 組換えポリペプチドの発現を増大させること;(2) 組換えポリペプチドの溶解性を高めること;および (3) アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって、組換えポリペプチドの精製を助けることを含む。多くの場合、融合発現ベクターでは、融合部分と組換えポリペプチドの接合部にタンパク質分解切断部位が導入されている。これにより、融合ポリペプチドの精製後に、融合部分からの組換えポリペプチドの分離が可能になる。ある態様において、本開示のポリヌクレオチド配列は、バクテリオファージT5由来のプロモーターと機能的に連結されていてもよい。ある態様において、宿主細胞は酵母細胞であり、発現ベクターは酵母発現ベクターである。酵母S.セレビシエ(S. cerevisiae)における発現のためのベクターの例には、pYepSec1(Baldari et al. (1987) EMBO J., 6: 229-234), pMFa(Kurjan et al. (1982) Cell, 30: 933-943)、pJRY88(Schultz et al. (1987) Gene, 54: 113-123)、pYES2(Invitrogen Corp., San Diego, CA)、およびpicZ(Invitrogen Corp., San Diego, CA)が含まれる。他の態様において、宿主細胞は昆虫細胞であり、発現ベクターはバキュロウイルス発現ベクターである。培養昆虫細胞(例えば、Sf9細胞)におけるタンパク質の発現のために利用しうるバキュロウイルスベクターには、例えば、pAc系列(Smith et al. (1983) Mol. Cell. Biol., 3: 2156-2165)およびpVL系列(Lucklow et al. (1989) Virology, 170: 31-39)が含まれる。さらにもう1つの態様において、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列を、哺乳動物発現ベクターを用いて哺乳動物細胞において発現させることもできる。原核細胞および真核細胞のいずれについても他の適した発現系が当技術分野において周知である;例えば、Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989)を参照されたい。
【0043】
本明細書で用いる場合、「アシル-CoA」という用語は、アルキル鎖のカルボニル炭素と補酵素A(CoA)の4'-ホスホパンテチオニル部分のスルフヒドリル基との間に形成され、式R-C(O)S-CoAを有するアシルチオエステルを指し、式中、Rは少なくとも4個の炭素原子を有する任意のアルキル基である。
【0044】
本明細書で用いる場合、「アシル-ACP」は、アルキル鎖のカルボニル炭素とアシルキャリアータンパク質(ACP)のホスホパンテテイニル部分のスルフヒドリル基との間に形成されるアシルチオエステルを指す。ホスホパンテテイニル部分は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの1つであるホロ-アシルキャリアータンパク質シンターゼ(ACPS)の作用によって、ACP上の保存されたセリン残基と翻訳後に結びつく。いくつかの態様において、アシル-ACPは完全飽和アシル-ACPの合成における中間体である。他の態様において、アシル-ACPは不飽和アシル-ACPの合成における中間体である。いくつかの態様において、炭素鎖は約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または26個の炭素を有すると考えられる。これらのアシル-ACPはそれぞれ、これらを脂肪酸誘導体へと変換する酵素の基質である。
【0045】
本明細書で用いる場合、「クローン」という用語は、典型的には、単一の共通の祖先の子孫でありかつ該祖先と本質的に遺伝的に同一である、細胞または細胞群、例えば、単一の細菌細胞から生じたクローン化された細菌コロニーの細菌を指す。
【0046】
「調節配列」という用語は、本明細書で用いる場合、典型的には、タンパク質をコードするDNA配列と機能的に連結された、該タンパク質の発現を最終的に制御するDNAの塩基の配列を指す。調節配列の例には、RNAプロモーター配列、転写因子結合配列、転写終結配列、転写のモジュレーター(エンハンサーエレメントなど)、RNA安定性に影響を及ぼすヌクレオチド配列、および翻訳調節配列(例えば、リボソーム結合部位(例えば、原核生物におけるShine-Dalgarno配列、または真核生物におけるKozak配列)、開始コドン、終止コドンなど)が非限定的に含まれる。
【0047】
本明細書で用いる場合、「培養物」という用語は、典型的には、生細胞を含む液体培地を指す。1つの態様において、培養物は、制御された条件下で所定の培養培地中で再生する細胞、例えば、選択された炭素源および窒素を含む液体培地中で増殖させた組換え宿主細胞の培養物が含まれる。「培養する」または「培養」とは、組換え宿主細胞の集団を、液体培地または固体培地中で、適した条件下で増殖させることを指す。特定の態様において、培養するとは、基質の最終産物への発酵性生物変換を指す。培養培地は周知であり、そのような培養培地の個々の構成成分は、例えばDIFCO(商標)およびBBL(商標)として、販売元から入手可能である。1つの非限定的な例では、水性栄養培地は、窒素、塩および炭素の複合的な供給源を含む富栄養培地、例えば、そのような培地当たり10g/Lのペプトンおよび10g/Lの酵母エキスを含むYP培地などである。培養物の宿主細胞は、米国特許第5,000,000号;第5,028,539号;第5,424,202号;第5,482,846号;第5,602,030号;WO2010127318号に記載された方法に従って、炭素を効率的に同化し、セルロース系材料を炭素源として用いるようにさらに操作することができる。加えて、いくつかの態様において、宿主細胞は、スクロースを炭素源として用いることができるようなインベルターゼを発現するように、操作される。
【0048】
本明細書で用いる場合、「遺伝子操作されたポリヌクレオチド配列を発現させるのに有効な条件下」という用語は、宿主細胞が所望の脂肪酸誘導体を産生することを可能にする任意の条件を意味する。例には、ω-ヒドロキシル化脂肪酸およびω-ヒドロキシル化脂肪酸エステル誘導体、ω-不飽和脂肪酸およびω-不飽和脂肪酸エステル誘導体、ならびに3-ヒドロキシ脂肪酸および3-ヒドロキシ脂肪酸エステル誘導体がある。適した条件には、例えば、発酵条件が含まれる。
【0049】
「変更されたレベルの発現」および「改変されたレベルの発現」という用語は互換的に用いられ、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、代謝産物、または産物(例えば、脂肪酸誘導体、ω-ヒドロキシ脂肪酸誘導体)が、操作された宿主細胞において、同じ条件下での対応する野生型細胞におけるその濃度と比較して異なる濃度で存在することを意味する。
【0050】
本明細書で用いる場合、「力価」という用語は、宿主細胞培養物の単位容積当たりで生産される脂肪酸誘導体の数量のことを指す。脂肪酸誘導体の例には、ω-脂肪酸誘導体および3-ヒドロキシ脂肪酸誘導体がある。したがって、力価が、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生される特定の(オメガ)ω-脂肪酸誘導体、またはω-脂肪酸誘導体の組合せのことを指してもよい。同様に、力価が、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生される特定の3-ヒドロキシ脂肪酸誘導体、または3-ヒドロキシ脂肪酸誘導体の組合せのことを指してもよい。
【0051】
本明細書で用いる場合、「生産性」という用語は、宿主細胞培養物の単位容積当たり・単位時間当たりに生産される1つまたは複数の脂肪酸誘導体の数量のことを指す。脂肪酸誘導体の例には、ω-脂肪酸誘導体および3-ヒドロキシ脂肪酸誘導体がある。生産性が、所与の組換え宿主細胞培養物によって産生される特定の1つのω-ヒドロキシル化脂肪酸もしくはω-ヒドロキシル化脂肪酸エステル誘導体、ω-不飽和脂肪酸もしくはω-不飽和脂肪酸エステル誘導体、または3-ヒドロキシ脂肪酸もしくは3-ヒドロキシ脂肪酸エステル誘導体、またはそのような脂肪酸誘導体の組合せを指してもよい。
【0052】
本明細書で用いる場合、「グルコース利用率」という用語は、グラム数/リットル/時(g/L/hr)として報告される、培養物によって単位時間当たりに用いられるグルコースの量を指す。
【0053】
「炭素系の」という用語は、単独で、または「供給源」に関連して用いられる場合、炭素源に由来していることを指す。炭素源は、油脂化学物質(すなわち、植物および動物由来の精製油、例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、TAG、ヒドロキシ脂肪酸など)および石油化学物質(すなわち、石油から得られる化学物質、例えばアルカン、アルケンなど)を除く、炭素が得られるあらゆる生物学的材料(再生可能な原料および/またはバイオマスを含む)を含む。したがって、本明細書で用いる場合、「炭素系の」という用語から、油脂化学物質および石油化学物質から得られる炭素は除外される。1つの態様において、炭素源は、単純な炭素源である。いくつかの態様において、炭素源は、糖または糖質(例えば、単糖類、二糖類もしくは多糖類)を含む。いくつかの態様において、炭素源はグルコースおよび/またはスクロースである。他の態様において、炭素源は、トウモロコシ、サトウキビもしくはリグノセルロース系バイオマス由来の糖質;またはグリセロール、煙道ガス、合成ガスなどの廃棄物;またはバイオマスもしくは天然ガスなどの有機材料の再構成物;または光合成で固定された二酸化炭素などの再生可能な原料に由来する。他の態様において、バイオマスは処理されて、生物変換に適した炭素源となる。さらに他の態様において、バイオマスは炭素源にするためのさらなる処理を必要とせず、直接的に炭素源として用いることができる。そのようなバイオマスの例示的な源には、植物体または草木、例えばスイッチグラスなどがある。もう1つの例示的な炭素源には、代謝廃棄物、例えば動物性物質(例えば、牛糞肥料)が含まれる。さらなる例示的な炭素源には、藻類および他の海洋植物が含まれる。別の炭素源(バイオマスを含む)は、発酵廃棄物、発酵バイオマス、グリセロール/グリセリン、エンシレージ、わら、材木、下水、生ごみ、都市(maniple)固形廃棄物、セルロース系都市廃棄物、および残飯を非限定的に含む、工業、農業、林業および家庭からの廃棄物も含まれる。
【0054】
本明細書で用いる場合、産物(脂肪酸誘導体など)に関する「単離された」という用語は、細胞構成成分、細胞培養培地、または化学前駆体もしくは合成前駆体から分離された産物のことを指す。例えば、本明細書に記載の生物体によって生産されるω-ヒドロキシル化脂肪酸またはω-ヒドロキシル化脂肪酸エステル誘導体、ω-不飽和脂肪酸またはω-不飽和脂肪酸エステル誘導体、あるいは3-ヒドロキシ脂肪酸または3-ヒドロキシ脂肪酸エステル誘導体は、発酵ブロス中、さらには細胞質中で比較的不混和性でありうる。このため、脂肪酸誘導体を、細胞内または細胞外のいずれかで有機相の中に収集することができる。いくつかの態様において、ω脂肪酸誘導体は細胞外で収集され、すなわち分泌される。本明細書で用いる場合、微生物に言及して用いられる場合の「単離された」という用語は、生物体が、言及される微生物が自然界で見いだされるときの少なくとも1つの構成要素を実質的に含まないことを意味するものとする。この用語は、その天然の環境で見いだされるときのいくつかまたはすべての構成要素から取り出された微生物を含む。この用語はまた、微生物が天然に存在しない環境で見いだされるときのいくつかまたはすべての構成要素から取り出された微生物も含む。したがって、単離された微生物は、それが自然界で見いだされるとき、またはそれが天然に存在しない環境で増殖している、貯蔵されている、もしくは存続しているときの他の物質から、部分的または完全に分離されている。単離された微生物の具体的な例には、部分的に純粋な微生物、実質的に純粋な微生物、および天然に存在しない培地中で培養されている微生物が含まれる。
【0055】
本明細書で用いる場合、「精製する」、「精製された」、または「精製」という用語は、例えば単離または分離による、分子のその環境からの除去または単離を意味する。「実質的に精製された」分子は、それらに付随する他の構成成分を少なくとも約60%含まない(例えば、少なくとも約70%含まない、少なくとも約75%含まない、少なくとも約85%含まない、少なくとも約90%含まない、少なくとも約95%含まない、少なくとも約97%含まない、少なくとも約99%含まない)。本明細書で用いる場合、これらの用語はまた、試料からの混入物の除去のことも指す。例えば、混入物の除去は、試料中の脂肪酸誘導体のパーセンテージの増加をもたらしうる。例えば、脂肪酸誘導体が組換え宿主細胞において産生される場合、脂肪酸誘導体は、宿主細胞タンパク質の除去によって精製することができる。精製後に、試料中の脂肪酸誘導体のパーセンテージは増加する。「精製する」、「精製された」、および「精製」という用語は、完全に純粋であることを必要としない相対的な用語である。したがって、例えば、脂肪酸誘導体が組換え宿主細胞において産生される場合、精製された脂肪酸誘導体は、他の細胞構成成分(例えば、核酸、ポリペプチド、脂質、炭水化物、または他の炭化水素)から実質的に分離された脂肪酸誘導体である。
【0056】
本明細書で用いる場合、本明細書において開示された微生物(microbial organism or microorganism)に言及して用いられる「天然に存在しない」という用語は、その生物体が、言及された種の野生型株を含む言及された種の天然株では通常見いだされない、少なくとも1つの遺伝的変更を有することを意味するものとする。遺伝的変更には、例えば、代謝性ポリペプチドをコードする発現可能な核酸を導入する改変、他の核酸の付加、核酸欠失および/または微生物遺伝物質の他の機能的破壊が含まれる。そのような改変には、例えば、言及された種の異種性の、相同な、または異種性および相同な両方のポリペプチドのコード領域およびその機能的断片が含まれる。そのほかの改変には、例えば、その改変が遺伝子またはオペロンの発現を変化させる非コード調節領域が含まれる。例示的な代謝性ポリペプチドには、脂肪酸誘導体生合成経路内の酵素またはタンパク質が含まれ、これにはチオエステラーゼ、エステルシンターゼ、オメガヒドロキシラーゼ、およびオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼが非限定的に含まれる。
【0057】
本明細書で用いる場合、「CoA」または「補酵素A」という用語は、活性酵素系を形成するためにその存在が多くの酵素の活性のために必要とされる、有機性の補因子または補欠分子族(酵素の非タンパク質部分)を意味するものとする。補酵素Aは、例えば、ある特定の縮合酵素において機能し、アセチル基転移または他のアシル基転移、脂肪酸の合成および酸化に作用する。
【0058】
本明細書で用いる場合、培養または増殖条件に関して用いられる場合の「実質的に嫌気性」という用語は、酸素の量が、液体培地中の溶存酸素の飽和量の約10%未満であることを意味するものとする。この用語はまた、約1%未満の酸素の雰囲気で維持される、液体または固体培地の密封チャンバーも含むものとする。
【0059】
本明細書で用いる場合、「遺伝子破壊」という用語、またはその文法的同義語は、コードされる遺伝子産物を不活性にする遺伝的変更を意味するものとする。遺伝的変更は、例えば、遺伝子全体の欠失、転写もしくは翻訳のために必要な調節配列の欠失、短縮遺伝子産物を生じさせる結果となる遺伝子の一部分の欠失、またはコードされる遺伝子産物を不活性化するさまざまな突然変異戦略のうちいずれかによるものであってよい。1つの特に有用な遺伝子破壊の方法は完全遺伝子欠失であるが、これはそれが本発明の天然に存在しない微生物における遺伝的復帰の発生の発生を減少させるかまたはなくすためである。「遺伝子破壊」という用語はまた、野生型生物におけるその活性を基準として所与の遺伝子産物の活性を低下させる遺伝的変更も意味するものとする。活性のこの減弱は、例えば、短縮遺伝子産物を生じさせる結果となる遺伝子の一部分の欠失、またはコードされた遺伝子産物をその天然形より低い活性にするさまざまな突然変異戦略のうちいずれか、より少ないもしくはより低い効率での遺伝子発現をもたらすプロモーター配列の置き換えもしくは突然変異、遺伝子が通常の培養条件下ほど高度には発現されない条件下での生物の培養、または遺伝子の相補的mRNA分子と相互作用してその発現を変化させるアンチセンスRNA分子の導入に起因しうる。
【0060】
本明細書で用いる場合、「真核生物」という用語は、細胞質中の特化した細胞小器官、および染色体の中に構成された遺伝物質を収めた膜結合核を有する細胞種を有する、任意の生物のことを指す。この用語は、酵母および真菌などの真核微生物を含む、すべての真核生物を範囲に含むものとする。この用語はまた、真核性の種が微生物である必要がない生化学物質の生産のために培養することができる、任意の真核性の種の細胞培養物も含むものとする。「真核微生物(eukaryotic microbial organism)」、「真核微生物(eukaryotic microbial organism)」、「真核微生物(eukaryotic microorganism)」、とは、真核生物のドメイン内に含まれる微視的細胞として存在する、任意の真核生物を意味するものとする。
【0061】
全体的概観
微生物由来の脂肪酸誘導体からの芳香剤成分として適する化合物の生産のための、新たで環境負荷の少ない化学酵素的プロセスの開発は、産業界にとって著しい改善を意味する。特に、本方法は、炭素系の原料、例えば、トウモロコシ、サトウキビもしくはリグノセルロース系バイオマス由来の糖質;グリセロール、排ガス、合成ガスなどの廃棄物;またはバイオマスもしくは天然ガスなどの有機材料の再構成物もしくは二酸化炭素などからの、これらの化合物の生産を提供する。これは、芳香剤成分などの化学物質の生産のための、不純物が少なく(clean)かつ環境的に持続可能なプロセスを提供する。本プロセスは、単純な再生可能な原料から化合物が生産されることを可能にすることから、コストおよび操作の簡単さの点でも明確に経済的な優位性がある。
【0062】
例えば、本化学酵素的プロセスは、再生可能な炭素系の原料から微生物によって脂肪酸誘導体を生産し、続いて脂肪酸誘導体を芳香剤成分などの化合物に合成的に変換する二段階方法を含む。このプロセスの利点は、それが、第1段階として、高価な(かつ多くの場合は複数の)化学的および/または生体触媒プロセスではなく微生物発酵を使用しているため、より単純でより費用効果の高い生産方法であることである。もう1つの利点は、生じる廃棄物がより少ないため、本プロセスはより汚染源となりにくい(cleaner)ことである。もう1つの利点は、未処理原料物質として再生可能な原料を用い、これにはグリセロールなどの廃棄物さえも含まれうるため、本プロセスはより持続可能であることである。もう1つの利点は、新たな具体的目標産物、すなわち、芳香剤として適する新規組成物の選択的製造である。さらに、もう1つの利点は、新規芳香剤の基盤となる多様な化学組成物が急速に得られることである。
【0063】
芳香剤成分には特有の嗅覚特性があり、それらの生産は、天然に存在する化合物または石油化学前駆体もしくは油脂化学前駆体を用いることにより、これまでは限られていた。本開示は、脂肪酸誘導体を基質として用いることによって新規化学構造の合成を可能にする化学酵素的プロセスを提供する。特に、発酵は、二重結合の位置および立体配置を変化させ、メチル分枝を導入し、かつ脂肪酸誘導体における炭素鎖の長さを多様にすることができる。続いて脂肪酸誘導体を、芳香剤成分を製造するための前駆体として用いる。これにより、より効力の強い嗅覚特性または変更された嗅覚特性を有する可能性のある新規化学構造の合成が可能になる。この目標に関しては、二重結合の付加および/またはその立体配置もしくは位置の変更が化合物の揮発性に影響を及ぼすことが当技術分野において周知である。これは化合物に強化または変更された芳香性を与えることができる。
【0064】
一例はグロバリド(ハバノリドとしても知られる)であり、これは金属の匂いがする新鮮なラディアントムスクである。グロバリドは、C11またはC12位置のいずれかに1つの二重結合を有する、シス(z-)またはトランス(e-)異性体としてのC15環状マクロライドの非天然(すなわち、合成)混合物である(e-11シクロペンタデセノリド、z-11シクロペンタデセノリド、e-12シクロペンタデセノリドおよびz-12シクロペンタデセノリドの混合物)。その二重結合の立体配置および位置は計画的なものではなく、その合成のために用いられる利用可能な化学原料であるシクロドデカノンおよびブタジエンによって決まる。本化学酵素的プロセスにより、規定の位置に二重結合を有する異性体として純粋なハバノリド、例えば、z-11シクロペンタデセノリド、z-12シクロペンタデセノリド、z-7シクロペンタデセノリドおよびz-8シクロペンタデセノリド)の合成が可能になり、これらは合成グロバリドと比較してより優れた嗅覚特性を有する可能性がある新規化合物である。
【0065】
もう1つの例はアンブレットリドファミリーである。アンブレットリドは、軽く甘い匂いのするムスクである。これはアンブレットシードに天然に存在し、これは1つの二重結合を有するC16マクロライド(z-7シクロヘキサデセノリド)である。アンブレットシードの供給は限られているため、これは通常は化学合成される。しかし、化学合成によって天然構造に至ることはできない。化学合成は、嗅覚特性の点で劣るその飽和類似体ジヒドロアンブレットリド(シクロヘキサデカノリド)、またはtrans-9異性体、イソアンブレットリド(e-9シクロヘキサデセノリド)に限られる。後者の化合物の二重結合の立体配置および位置は計画的なものではなく、化学原料、この場合にはアロイリチン酸によって決まる。本化学酵素的プロセスにより、天然アンブレットリドと同じ二重結合立体配置を有するイソアンブレットリドの1つであって、合成イソアンブレットリドと比較して優れた嗅覚特性を持つ可能性がある新規化合物であるz-9シクロヘキサデセノリドの合成が可能になる。
【0066】
もう1つの例は不飽和大環状ケトンファミリーである。天然に存在する大環状ケトンはごくわずかであり、例えば、ジャコウジカまたはマスクラット由来のムスコン((-)-(R)-3-メチルシクロペンタデカノン)、およびその供給は限られている。大環状ケトンは通常、環拡張またはオレフィンメタセシスによってシクロドデカノンから化学合成される。それらは通常は完全飽和性であり、例えば、ロマノン(エキサルトン)(シクロペンタデカノン)がある。本化学酵素的プロセスにより、不飽和ジカルボン酸、例えば、1,15ペンタデセン二酸または1,16ヘキサデセン二酸を脂肪酸誘導体前駆体として用いた場合に、不飽和大環状ケトン、例えば、シクロペンタデセノンまたはシクロヘキサデセノンの合成が可能になる。これらは、対応する合成飽和大環状ケトンと比較して優れた嗅覚特性を有する可能性のある新規化合物である。
【0067】
もう1つの例は、ガンマラクトンまたはデルタラクトン(γ-またはδ-ラクトン)ファミリー、例えばC12 γ-ラクトンおよびγ-ドデカラクトンである。化学合成によって不飽和γ-ラクトンに至ることはできない。ヒマシ油またはリシノール酸などの高価な油脂化学原料を用いる生体内変換では、例えばγ-dodec-2-エノラクトンのように、C2位置にある二重結合のみが可能である。後者のプロセスは制御するのも困難であり、γ-dodec-2-エノラクトンは他の様式の飽和ドデカラクトンに対してごく一部に過ぎない。本化学酵素的プロセスにより、不飽和3-ヒドロキシ脂肪酸または3-ヒドロキシ脂肪酸エステル、例えば、3-ヒドロキシdodec-5-エン酸または3-ヒドロキシdodec-5-エン酸メチルエステルを脂肪酸誘導体前駆体として用いた場合に、γ-dodec-5-エノラクトンの合成が可能になる。また、この化学酵素的プロセスにより、メチル分枝γ-ラクトン、例えば、9-メチル-γ-ドデカラクトン、10-メチル-γ-ドデカラクトンおよび10-メチル-γ-ウンデカラクトンの合成が、対応するメチル分枝不飽和脂肪酸または脂肪酸エステルを脂肪酸誘導体前駆体として用いた場合に可能になる。これらは、合成または半合成γ-ラクトンと比較して、優れた嗅覚特性を有する可能性のある新規化合物である。
【0068】
微生物
本開示は、再生可能な炭素系の原料、例えば糖質、廃棄物またはバイオマスなどを、芳香剤成分の生産のための微生物由来前駆体として役立つ特定の脂肪酸誘導体に選択的に変換するように操作された組換え微生物を提供する。そのため、本開示は、引き続いて芳香剤成分の生産のための微生物由来の前駆体として役立つ特定の脂肪酸誘導体、例えば、脂肪酸および脂肪エステルへの中間体の変換のための操作された微生物脂肪酸代謝を通じて変更された酵素機能を含む代謝改変を包含する微生物を想定している。組換え微生物は、芳香剤成分の生産の費用効果をさらに高くする大規模およびハイスループット発酵プロセスも可能にする。
【0069】
脂肪酸合成は、細菌生合成機構の最も保存された系の1つである。脂肪酸シンターゼ(FAS)多酵素複合体はすべての細菌および真核生物に存在する。FAS関連遺伝子のほとんどは、細胞の増殖および生存のために不可欠である。真核生物および細菌のFASは、本質的に同じ種類の生化学的形質転換を生じさせる。真核生物において、FASはFAS Iと称され、その触媒ドメインの大半は1つのポリペプチド鎖(解離不可能)によってコードされる。細菌などの原核生物において、FASはFASIIと称され、その個々の酵素およびキャリアータンパク質は、不連続な(解離しうる)タンパク質をコードする別個の遺伝子によってコードされる。
【0070】
アシルキャリアータンパク質(ACP)は、FAS経路における酵素とともに、生来の生物において産生される脂肪酸の長さ、飽和度および分枝を制御する。この経路における諸段階は、脂肪酸生合成(FAB)の酵素およびアセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC)遺伝子ファミリーによって触媒される。例えば、FAS経路に含まれうる酵素には、AccABCD、FabD、FabH、FabG、FabA、FabZ、FabI、FabK、FabL、FabM、FabB、およびFabFが含まれる。所望の脂肪酸誘導体産物に応じて、これらの遺伝子の1つまたは複数を減弱させること、または過剰発現させることができる。そのように、微生物は、グルコースまたは他の炭素源などの再生可能な原料からの脂肪酸誘導体の産生を増大させるために操作されている。本明細書において、主要な目標は、細菌株を、脂肪酸、脂肪酸メチルエステル(FAME)、および脂肪酸エチルエステル(FAEE)を含む脂肪酸誘導体の生産のための微生物工場に変換する目的で、脂肪酸誘導体の産生を調節する重要な制御酵素の活性を高めることである(例えば、本明細書に参照により組み入れられる、米国特許第8,283,143号を参照)。
【0071】
微生物または微生物細胞は、微生物前駆体として働く望ましい脂肪酸誘導体の生産のための酵素経路を改変することを目的とする酵素機能を持つポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現する。本明細書において酵素アクセッション番号(EC番号)によって特定されているこれらのポリペプチドは、脂肪酸誘導体の生産を導く脂肪酸経路を操作するために有用である。後述の表1は、そのような脂肪酸経路の操作において有用な酵素のEC番号を示している。
【0072】
(表1)酵素活性
【0073】
化学酵素的プロセスのための微生物前駆体として役立つと考えられる望ましい脂肪酸誘導体の例について、以下に考察する。これらの脂肪酸誘導体は、本開示の組換え微生物によって産生される。以下に考察する酵素機能および生化学経路は、微生物をどのように操作するかの説明のための例であり、限定的であると見なしてはならない。当業者は、組合せることで脂肪酸誘導体の生産を達成することができる、ある特定の酵素機能の代替的な態様があることを認識するであろう。
【0074】
奇数鎖および偶数鎖脂肪酸誘導体
大腸菌細胞は通常、膜生合成のために偶数直鎖脂肪酸を合成する。しかし、組換え微生物(例えば、大腸菌)を、炭素系の原料からの奇数鎖脂肪酸誘導体を産生するように操作することができる。加えて、奇数直鎖脂肪酸誘導体を産生させる目的で、ある特定の改変を有する菌株を組合せることもできる。1つの態様において、炭素系の原料から主として奇数直鎖脂肪酸を合成する組換え大腸菌菌株では、内因性アセチル-CoA特異的3-オキソアシル-[アシル-キャリアー-タンパク質]シンターゼIII(FabH)(EC 2.3.1.180)の活性が減弱し、広範な基質特異性を有する3-オキソアシル-[アシル-キャリアー-タンパク質]シンターゼIIIの活性が上昇しており、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のFabH1を過剰発現させることができる。他の態様において、改変された菌株は、トレオニン生合成経路の酵素、例えばアスパラギン酸キナーゼI/ホモセリンデヒドロゲナーゼI(ThrA)、ホモセリンキナーゼ(ThrB)およびトレオニンシンターゼ(ThrC)のさらなる改変された活性、ならびに/またはロイシン生合成経路の酵素、例えば3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(LeuB)、イソプロピルリンゴ酸(IPM)イソメラーゼおよびイソプロピルリンゴ酸(IPM)イソメラーゼ(LeuD)の改変された活性、ならびに/またはトレオニンデアミナーゼ(IlvA)もしくはトレオニンデヒドラターゼ(TdcB)の改変された活性を有しうる。また、そのような菌株で、例えば、メタノコッカス・ヤンナスキイ(Methanococcus jannaschii)由来のシトラマル酸シンターゼ(CimA)が過剰発現されていてもよい(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,372,610号を参照のこと)。
【0075】
分枝鎖脂肪酸誘導体
組換え微生物(例えば、大腸菌)を、炭素系の原料から分枝鎖脂肪酸誘導体を産生するように操作することができる。例えば、炭素系の原料から偶数鎖および奇数鎖のメチル分枝脂肪酸を合成する大腸菌菌株は、大腸菌が奇数鎖脂肪酸を合成することを可能にする改変のほかに改変を有することができる。1つの態様において、そのような菌株は、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)由来の分枝鎖α-ケト酸デヒドロゲナーゼ酵素複合体(Bkd)およびリポアミドデヒドロゲナーゼ(lpd)を発現することができる。もう1つの態様において、そのような菌株はまた、イソロイシン生合成経路の酵素、例えば、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(IlvC)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(ilvD)およびアセトヒドロキシ酸シンターゼII(IlvGM)の改変された活性を有してもよい(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,530,221号を参照のこと)。他の態様において、菌株は、分枝鎖脂肪酸誘導体を産生するために、類似のBkd様およびlpd様酵素機能ならびに/またはそれらの組合せを発現する。
【0076】
不飽和脂肪酸誘導体
ほとんどの微生物(例えば、大腸菌)は、飽和脂肪酸および一不飽和脂肪酸を天然に合成する。組換え微生物(例えば、大腸菌株)を、炭素系の原料から不飽和脂肪酸誘導体を過剰産生または過少産生するように操作することができる。1つの態様において、飽和脂肪酸と一不飽和飽和脂肪酸との比は、ある特定の転写調節タンパク質、例えば、FadRおよびFabRの活性を改変することによって、かつ/または(3R)-ヒドロキシミリストイルアシルキャリアータンパク質デヒドラターゼ(FabZ)(EC 4.2.1.-)、β-ヒドロキシデカノイルチオエステルデヒドラターゼ/イソメラーゼ(FabA)(EC 4.2.1.60)および3-オキソアシル-[アシル-キャリアー-タンパク質]シンターゼI(FabB)(EC 2.3.1.41)の酵素活性を直接的に改変することによって変化させることができる。もう1つの態様において、デサチュラーゼ(EC 1.14.19)の過剰発現によって不飽和のレベルをさらに高めることができる。そのような菌株は、一不飽和または二不飽和脂肪酸を合成しうる。なおもう1つの態様において、そのような菌株がまた、ある特定のフェレドキシンおよび/またはフェレドキシンレダクターゼを発現してもよい。したがって、特定の改変(前記)を有する菌株を組合せた場合に、不飽和脂肪酸誘導体の量を増加または減少させて産生させることができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、PCT国際公開第WO2013/019647号を参照のこと)。
【0077】
脂肪酸
組換え微生物(例えば、大腸菌株)を、炭素系の原料から脂肪酸を過剰産生するように操作することができる。1つの態様において、組換え微生物は、改変されたチオエステラーゼ酵素活性(EC 3.1.2.14)を有する。例えば、ある特定の内因性チオエステラーゼ(例えば、TesA)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ(Umbellularia California)由来のFatB1)を過剰発現させることによって、脂肪酸産生を増加させることができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2010/0154293号を参照のこと)。もう1つの態様において、菌株は、脂肪酸の量を増加させて産生する目的で、類似の(例えば、チオエステラーゼ様)酵素機能を含むと考えられる。
【0078】
脂肪酸エステル
組換え微生物(例えば、大腸菌株)を、炭素系の原料から脂肪酸エステルを過剰産生するように操作することができる。1つの態様において、炭素系の原料およびメタノールまたはエタノールからそれぞれ脂肪酸メチルエステル(FAME)または脂肪酸エチルエステル(FAEE)などの脂肪エステルを産生する組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、例えばマリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス(Marinobacter hydrocarbonoclasticus)由来のエステルシンターゼ(ES)(EC 2.3.1.20)を過剰発現する。他の態様において、そのような菌株はまた、改変されたチオエステラーゼ酵素活性(TE)(EC 3.1.2.14)および改変されたアシル-CoAシンテターゼ活性(FadD)(EC 6.2.1.3)も有する。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesA)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはアラビドプシス・タリアナ(Arabidopsis thaliana)由来のFatA3)を過剰発現させることによって達成することができる(例えば、米国特許出願公開第2010/0242345号および第2011/0072714号、参照により本明細書に組み入れられる)。さらにもう1つの態様において、菌株は、脂肪酸および脂肪エステルの両方の量を増加させて産生させることができるチオエステラーゼなどの単一の酵素を過剰発現するように微生物を操作することによって、改変されたチオエステラーゼ酵素活性および改変されたエステルシンターゼ活性を有する(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2010/0154293号を参照のこと)。
【0079】
3-ヒドロキシ脂肪酸
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料から3-ヒドロキシ脂肪酸を産生することができる。1つの態様において、3-ヒドロキシ脂肪酸を産生する組換え微生物は、改変されたチオエステラーゼ酵素活性(EC 3.1.2.14)を有する。この改変された酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesB)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはシュードモナス・プチダ(Pseudomoans putida)由来のPhaG)を過剰発現させることによって達成することができる。もう1つの態様において、菌株は、3-ヒドロキシ脂肪酸の量を増加させて産生する目的で、別の(例えば、チオエステラーゼ様)酵素機能を含むと考えられる。
【0080】
3-ヒドロキシ脂肪酸エステル
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料から3-ヒドロキシ脂肪酸エステルを産生することができる。1つの態様において、炭素系の原料およびメタノールまたはエタノールからそれぞれ3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)などの3-ヒドロキシ脂肪エステルを産生する組換え大腸菌株は、例えばマリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス由来のエステルシンターゼ(ES)(EC 2.3.1.20)を過剰発現する。そのような菌株がまた、改変されたチオエステラーゼ活性(TE)(EC 3.1.2.14)および改変されたアシル-CoAシンテターゼ活性(FadD)(EC 6.2.1.3)を有してもよい。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesB)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはシュードモナス・プチダ由来のPhaG)を過剰発現させることによって達成することができる。もう1つの態様において、菌株は、3-ヒドロキシ脂肪エステルの量を増加させて産生する目的で、他の(例えば、チオエステラーゼ様および/またはエステルシンターゼ様)酵素機能を含むと考えられる。
【0081】
ω-ヒドロキシ脂肪酸
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料からω-ヒドロキシ脂肪酸を産生することができる。1つの態様において、ω-ヒドロキシ脂肪酸を産生する組換え大腸菌株は、改変されたチオエステラーゼ酵素活性(EC 3.1.2.14)を有し、ω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)(以下の表2A~2C参照)、例えば、自己完結的(self-sufficient)ハイブリッド(キメラ性)cyp153Aオキシゲナーゼを過剰発現する。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesA)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはアラビドプシス・タリアナ由来のFatA3)を過剰発現させることによって達成することができる。他の態様において、菌株は、ω-ヒドロキシ脂肪酸の量を増加させて産生する目的で、他の酵素機能(例えば、チオエステラーゼ様および/またはω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ様)を含むと考えられる(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、PCT国際公開第WO2014/201474 A1号を参照のこと)。
【0082】
ω-ヒドロキシ脂肪酸エステル
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料からω-ヒドロキシ脂肪酸エステルを産生することができる。1つの態様において、炭素系の原料およびメタノールまたはエタノールからそれぞれω-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(ω-OH FAME)またはω-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(ω-OH FAEE)などのω-ヒドロキシ脂肪エステルを産生する組換え大腸菌株は、例えばマリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス由来のエステルシンターゼ(ES)(EC 2.3.1.20)、およびω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)(以下の表2A~2Cを参照)、例えば、自己完結的ハイブリッド(キメラ性)cyp153Aオキシゲナーゼを過剰発現する。そのような菌株がまた、改変されたチオエステラーゼ活性(TE)(EC 3.1.2.14)および改変されたアシル-CoAシンテターゼ活性(FadD)(EC 6.2.1.3)を有してもよい。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesA)調節解除するか改変するかのいずれかによって、または、外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはアラビドプシス・タリアナ由来のFatA3)を過剰発現させることによって達成することができる。他の態様において、菌株は、ω-ヒドロキシ脂肪酸の量を増加させて産生する目的で、他の(例えば、チオエステラーゼ様および/またはエステルシンターゼ様および/またはω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ様)酵素機能を含むと考えられる(例えば、PCT国際公開第WO2014/201474 A1号、前記を参照)。
【0083】
α,ω-ジカルボン酸
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料からα,ω-ジカルボン酸を産生することができる。1つの態様において、α,ω-ジカルボン酸を産生する組換え大腸菌株は、改変されたチオエステラーゼ酵素活性(EC 3.1.2.14)を有し、ω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)(以下の表2A~2Cを参照)、例えば、自己完結的ハイブリッド(キメラ性)cyp153Aオキシゲナーゼを過剰発現する。もう1つの態様において、そのような菌株は、さらなるオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼ、例えば、シュードモナス・プチダ由来のアルコールオキシダーゼalkJ、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼalkH(以下の表3A~3Bを参照)、またはそれらの改変もしくは過剰発現されたバージョンを包含する。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesA)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはアラビドプシス・タリアナ由来のFatA3)を過剰発現させることによって達成することができる。他の態様において、菌株は、α,ω-ジカルボン酸の量を増加させて産生する目的で、他の(例えば、チオエステラーゼ様および/またはω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ様および/またはデヒドロゲナーゼ様および/またはオキシダーゼ様)酵素機能を含むと考えられる(例えば、PCT国際公開第WO2014/201474 A1、前記を参照)。
【0084】
α,ω-ジカルボン酸エステル
組換え微生物(例えば、大腸菌株)は、炭素系の原料からα,ω-ジカルボン酸エステルを産生することができる。1つの態様において、炭素系の原料およびメタノールまたはエタノールからそれぞれオメガ-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(ω-OH FAME)またはオメガ-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(ω-OH FAEE)などのα,ω-ジカルボン酸エステルを産生する組換え大腸菌株は、例えばマリノバクター・ハイドロカーボノクラスティカス由来のエステルシンターゼ(ES)(EC 2.3.1.20)、およびω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)(以下の表2A~2Cを参照)、例えば、自己完結的ハイブリッド(キメラ性)cyp153Aオキシゲナーゼ、およびさらなるオキシダーゼまたはデヒドロゲナーゼ、例えば、シュードモナス・プチダ由来のアルコールオキシダーゼalkJ、およびアルデヒドデヒドロゲナーゼalkH(以下の表3A~3Bを参照)を過剰発現する。もう1つの態様において、そのような菌株はまた、改変されたチオエステラーゼ活性(TE)(EC 3.1.2.14)および改変されたアシル-CoAシンテターゼ活性(FadD)(EC 6.2.1.3)も有する。改変されたチオエステラーゼ酵素活性は、ある特定の内因性チオエステラーゼ遺伝子(例えば、TesA)を調節解除するか改変するかのいずれかによって、または外因性チオエステラーゼ(例えば、カリフォルニアゲッケイジュ由来のFatB1またはアラビドプシス・タリアナ由来のFatA3)を過剰発現させることによって達成することができる。他の態様において、菌株は、α,ω-ジカルボン酸エステルの量を増加させて産生するために、他の(例えば、チオエステラーゼ様および/またはエステルシンターゼ様および/またはω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ様および/またはデヒドロゲナーゼ様および/またはオキシダーゼ様)酵素機能を含むと考えられる(例えば、PCT国際公開第WO2014/201474 A1、前記を参照)。
【0085】
(表2A)ω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)の例
【0086】
(表2B)ω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)の酸化還元パートナーの例
【0087】
(表2C)自給型ω-1、ω-2、ω-3-ヒドロキシラーゼ/オキシゲナーゼ(EC 1.14.14.1)の例
【0088】
(表3A)アルコールデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.1/2)またはアルコールオキシダーゼ(EC 1.1.3.13、EC 1.1.3.20)の例
【0089】
(表3B)アルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.3/4/5/)またはアルデヒドオキシダーゼ(EC 1.2.3.1)の例
【0090】
変更された酵素機能による代謝改変
FadR(上記の表1を参照)は、脂肪酸分解経路および脂肪酸生合成経路に関与する重要な調節因子である(Cronan et al. (1998) Mol. Microbiol., 29(4): 937-943)。大腸菌の酵素FadD(上記の表1を参照)および脂肪酸輸送タンパク質FadLは、脂肪酸取り込み系の構成成分である。FadLは細菌細胞内への脂肪酸の輸送を媒介し、FadDはアシル-CoAエステルの形成を媒介する。他の炭素源が利用できない場合には、外因性脂肪酸が細菌によって取り込まれてアシル-CoAエステルに変換されて、これが転写因子FadRと結合して、脂肪酸の輸送(FadL)、活性化(FadD)、およびβ-酸化(FadA、FadB、およびFadE)を担うタンパク質をコードするfad遺伝子の発現を抑制することができる。代替的な炭素源が利用できる場合には、細菌は脂肪酸をアシル-ACPとして合成し、それらはリン脂質合成には用いられるが、β-酸化の基質ではない。したがって、アシル-CoAおよびアシル-ACPはいずれも、異なる最終産物をもたらしうる、脂肪酸の独立した供給源である(Caviglia et al. (2004) J Biol. Chem., 279(12): 1163-1169)。
【0091】
1つの例示的な態様において、経路は、グルコースなどの再生可能な原料を用いてω-ヒドロキシ脂肪酸誘導体を生成する。グルコースは生来の生物によってアシル-ACPに変換される。脂肪酸分解酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、任意で、所望の産物に応じて減弱させることができる。そのようなポリペプチドの非限定的な例には、アシル-CoAシンテターゼ(FadD)およびアシル-CoAデヒドロゲナーゼ(FadE)がある。表1は、当技術分野において公知の方法に従って任意で減弱させることができる、さまざまな脂肪酸分解酵素を含む代謝経路内にある酵素活性(上記)の包括的リストを提示している。
【0092】
別の例示的な態様において、経路は、グルコースなどの再生可能な原料を用いてα,ω-二酸を生成する。1つの特定の態様において、アシル-ACPは、C12遊離脂肪酸を前駆中間体としてまたはC12脂肪酸メチルエステル(FAME)を中間体として用いる2つの類似の経路を介してα,ω-二酸に変換されうる。
【0093】
別の例示的な態様は、ω-ヒドロキシ脂肪酸、ω-オキソ脂肪酸、およびα,ω-二酸を含む、さまざまな化合物の生成を意図している。これを実施するために、チオエステラーゼを用いてアシル-ACPを遊離脂肪酸に変換する。本明細書において、チオエステラーゼをコードする遺伝子は、tesA、'tesA、tesB、fatB1、fatB2、fatB3、fatA1、またはfatAであり得る(上記の表1も参照されたい)。ω-オキシゲナーゼとしても知られるω-ヒドロキシラーゼを用いてω-ヒドロキシ脂肪酸を生成することができる。適したω-ヒドロキシラーゼ/ω-オキシゲナーゼ(EC 1.14.15.3)およびそれらの酸化還元パートナーの例が、表2Aおよび2B(上記)に列記されている。これらは、シトクロムP450としても知られる、ある種の非ヘム二鉄オキシゲナーゼ(例えば、シュードモナス・プチダGPo1由来のalkB)またはある種のヘム型P450オキシゲナーゼ(例えば、マリノバクター・アクアエオレイ由来のcyp153A)である。シトクロムP450は、偏在性に分布している酵素であり、高度の複雑性を有する上に、幅広い領域にわたる活性を呈する。それらは、広範囲にわたる種々の基質を変換して種々の関心対象となる化学的反応を触媒する遺伝子のスーパーファミリーによってコードされる、ヘムタンパク質である。Cyp153Aは、炭化水素鎖をω位に対する高い選択性を伴ってヒドロキシル化する可溶性細菌シトクロムP450のファミリーである(van Beilen et al. (2006) Appl. Environ. Microbiol. 72:59-65)。cyp153Aファミリーのメンバーは、インビトロでアルカン、脂肪酸または脂肪アルコールのω位を選択的にヒドロキシル化することが示されており、これには例えば、マイコバクテリウム属種HXN-1500由来のcyp153A6(Funhoff et al. (2006) J. Bacteriol. 188:5220-5227)、マイコバクテリウム・マリヌム由来のcyp153A16、およびポラノモナス(Polaromonas)属種JS666由来のcyp153A(Scheps et al. (2011) Org. Biomol. Chem. 9:6727-6733)またはマイコバクテリウム・アクアエオレイ由来のcyp153A(Honda-Malca et al. (2012) Chem. Commun. 48:5115-5117)がある。
【0094】
したがって本開示は、α,ω-二官能性脂肪酸誘導体を含むω-ヒドロキシ脂肪酸誘導体をインビボで効率的かつ選択的に産生することができる微生物を提供する。ω-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステルを経由するα,ω-二酸への経路、またはα,ω-脂肪酸ジメチルエステルを経由するα,ω-二酸への経路が有利である可能性があるが、これは、メチルエステルが非荷電性であり、そのことが大規模生産および回収にとって利点となるためである。加えて、アルコールデヒドロゲナーゼまたはオキシダーゼは、ω-ヒドロキシ脂肪酸をω-オキソ脂肪酸にさらに変換することができる(上記の表3Aは、この段階を触媒させるために用いうるアルコールデヒドロゲナーゼまたはオキシダーゼの酵素活性を有するポリペプチドを示している)。例えば、12-ヒドロキシドデカン酸または12-ヒドロキシドデカン酸メチルエステルを12-オキソドデカン酸または12-オキソドデカン酸メチルエステルに酸化させることができる適した酵素には、アルコールオキシダーゼ(フラボタンパク質、例えば、シュードモナス・プチダ由来のalkJ)(EC 1.1.3.13、EC 1.1.3.20)またはNAD(P)依存性アルコールデヒドロゲナーゼ(例えば、ロドコッカス・ルバー由来のcddC(EC 1.1.1.1)がある(表3A、上記を参照)。
【0095】
組換え微生物および発酵
宿主細胞を介して脂肪酸誘導体を産生させる目的で、生産宿主細胞または微生物(上記)にいくつかの改変を加えることができる。したがって、本開示は、操作されていないまたは生来の宿主細胞(例えば、対照細胞としての役目を果たす野生型宿主細胞)に比して脂肪酸生合成経路をもたらすように操作された、組換え宿主細胞を提供し、これは例えば、菌株改良を通じて実現される。細菌、シアノバクテリウム、酵母、藻類または糸状菌などの微生物を、生産宿主として用いることができる。生産宿主として用いうる微生物の非限定的な例には、大腸菌、S.セレビシエなど(下記)が含まれる。
【0096】
微生物菌株は、グルコースまたは他の再生可能な原料を、脂肪酸または脂肪酸エステル、例えば脂肪酸メチルエステル(FAME)、脂肪酸エチルエステル(FAEE)、および他の脂肪酸誘導体(上記)などに効率的に変換させる。これを達成する目的で、脂肪酸の生産のためのチオエステラーゼ(例えば、大腸菌由来のTesA)またはFAMEまたはFAEEの生産のためのエステルシンターゼ(例えば、M.ハイドロカーボノクラスティカス由来のES9)を含む重要な酵素を発現するように、菌株を注意深く操作する。さまざまな化合物の生産のための高密度発酵に関するプロトコールおよび手順は確立されている(その全てが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第8,372,610号;第8,323,924号;第8,313,934号;第8,283,143号;第8,268,599号;第8,183,028号;第8,110,670号;第8,110,093号;および第8,097,439号を参照)。
【0097】
遺伝子工学手法を用いることにより、本明細書において考察した酵素的段階を、生体内変換触媒として機能しうる微生物宿主細胞に加えることができる。1つの態様において、発酵産物は細胞の外側に分泌され、合成方法を介した芳香剤成分への容易な変換が可能になる。ある特定の組換え酵素的段階を、特定の脂肪酸誘導体の直接生産のために1つの微生物細胞において組合せることができる。注目されることとして、グルコース、または外因性脂肪酸もしくはパラフィン以外の他の再生可能な原料から、例えば、α,ω-二酸を含む二官能性物などのω-ヒドロキシ脂肪酸誘導体を直接的かつ効率的に生産するための方法は、現在まで存在していなかった。これらの二官能性脂肪酸誘導体は、芳香剤成分を作り出すための適した前駆体である。ω-ヒドロキシ脂肪酸誘導体を含む脂肪酸誘導体の生産のための発酵に基づく方法は、当技術分野において使用される化学的方法に代わる、迅速かつ環境負荷の少ない選択肢を提供する。
【0098】
本方法は、再生可能なバイオマス由来材料(すなわち、再生可能な原料)、例えば、トウモロコシ、サトウキビもしくはリグノセルロース系バイオマス由来の糖質;グリセロール、排ガス、合成ガスなどの廃棄物;またはバイオマスもしくは天然ガスなどの有機材料の再構成物もしくは二酸化炭素などからの脂肪酸誘導体の直接生産を提供する。すなわち、本方法は、これらの重要な中間体の生産のための、代替的な再生可能な供給源を提供する。本方法は、単純な再生可能な原料から化合物が直接的かつ選択的に生産されることを可能にすることから、コストおよび環境安全性の観点から明確な優位性がある。本方法は、発酵ブロス中に組換え微生物(例えば、宿主細胞)を容易する段階;再生可能な原料を発酵ブロスに添加する段階;ならびに任意で、脂肪酸誘導体を、芳香剤成分の構成単位となるラクトンおよび/または大環状ケトンなどの化学物質にそれらを合成的に変換する目的で、発酵ブロスから単離する段階によって、脂肪酸誘導体を生産することを含む。1つの例示的な態様において、特定の微生物の宿主細胞は、チオエステラーゼまたはエステルシンターゼとω-ヒドロキシラーゼとを含むポリペプチドをコードする少なくとも2つの核酸配列を発現するように操作された経路を含む。
【0099】
いくつかの態様において、宿主細胞は、再生可能な原料などの炭素源の初期濃度約2 g/L~約100 g/Lを含む培養培地中で培養される。他の態様において、培養培地は、初期濃度が約2 g/L~約10 g/Lの炭素源、約10 g/L~約20 g/Lの炭素源、約20 g/L~約30 g/Lの炭素源、約30 g/L~約40 g/Lの炭素源、または約40 g/L~約50 g/Lの炭素源を含む。いくつかの態様において、培養培地中の炭素源のレベルに関して発酵をモニターしてもよい。いくつかの態様において、方法は、培養培地中の炭素源のレベルが約0.5 g/L未満である場合に、補足的な該炭素源を該培地に添加する工程をさらに含む。いくつかの態様において、培養培地中の炭素源のレベルが約0.4 g/L未満、約0.3 g/L未満、約0.2 g/L未満、または約0.1 g/L未満である場合に、補足的な該炭素源が該培地に添加される。いくつかの態様において、補足的な炭素源は、約1 g/L~約25 g/Lの炭素源レベルを維持するために添加される。いくつかの態様において、補足的な炭素源は、約2 g/Lまたはそれ以上(例えば約2 g/Lまたはそれ以上、約3 g/Lまたはそれ以上、約4 g/Lまたはそれ以上)の炭素源レベルを維持するために添加される。特定の態様において、補足的な炭素源は、約5 g/Lまたはそれ未満(例えば、約5 g/Lまたはそれ未満、約4 g/Lまたはそれ未満、約3 g/Lまたはそれ未満)の炭素源レベルを維持するために添加される。いくつかの態様において、補足的な炭素源は、約2 g/L~約5 g/L、約5 g/L~約10 g/L、または約10 g/L~約25 g/Lの炭素源レベルを維持するために添加される。いくつかの態様において、炭素源は、グルコース、または別な種類の再生可能な原料、例えばグリセロールである。
【0100】
いくつかの態様において、脂肪酸誘導体は、約1 g/L~約200 g/Lの濃度で産生される。いくつかの態様において、脂肪酸誘導体は、約1 g/Lまたはそれ以上(例えば、約1 g/Lまたはそれ以上、約10 g/Lまたはそれ以上、約20 g/Lまたはそれ以上、約50 g/Lまたはそれ以上、約100 g/Lまたはそれ以上)の濃度で産生される。いくつかの態様において、脂肪酸誘導体は、約1 g/L~約170 g/L、約1 g/L~約10 g/L、約40 g/L~約170 g/L、約100 g/L~約170 g/L、約10 g/L~約100 g/L、約1 g/L~約40 g/L、約40 g/L~約100 g/L、または約1 g/L~約100 g/Lの濃度で産生される。
【0101】
いくつかの態様において、脂肪酸誘導体は、約25mg/L、約50mg/L、約75mg/L、約100mg/L、約125mg/L、約150mg/L、約175mg/L、約200mg/L、約225mg/L、約250mg/L、約275mg/L、約300mg/L、約325mg/L、約350mg/L、約375mg/L、約400mg/L、約425mg/L、約450mg/L、約475mg/L、約500mg/L、約525mg/L、約550mg/L、約575mg/L、約600mg/L、約625mg/L、約650mg/L、約675mg/L、約700mg/L、約725mg/L、約750mg/L、約775mg/L、約800mg/L、約825mg/L、約850mg/L、約875mg/L、約900mg/L、約925mg/L、約950mg/L、約975mg/L、約1000mg/L、約1050mg/L、約1075mg/L、約1100mg/L、約1125mg/L、約1150mg/L、約1175mg/L、約1200mg/L、約1225mg/L、約1250mg/L、約1275mg/L、約1300mg/L、約1325mg/L、約1350mg/L、約1375mg/L、約1400mg/L、約1425mg/L、約1450mg/L、約1475mg/L、約1500mg/L、約1525mg/L、約1550mg/L、約1575mg/L、約1600mg/L、約1625mg/L、約1650mg/L、約1675mg/L、約1700mg/L、約1725mg/L、約1750mg/L、約1775mg/L、約1800mg/L、約1825mg/L、約1850mg/L、約1875mg/L、約1900mg/L、約1925mg/L、約1950mg/L、約1975mg/L、約2000mg/L(2g/L)、3g/L、5g/L、10g/L、20g/L、30g/L、40g/L、50g/L、60g/L、70g/L、80g/L、90g/L、100g/L、または上記の値の任意の2つを境界とする範囲の力価で産生される。他の態様において、ω-脂肪酸誘導体は、100g/Lを上回る、200g/Lを上回る、300g/Lを上回る、またはそれ以上、例えば500g/L、700g/L、1000g/L、1200g/L、1500g/Lまたは2000g/Lなどの力価で産生される。本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される脂肪酸誘導体の好ましい力価は、5g/L~200g/L、10g/L~150g/L、20g/L~120g/L、および30g/L~100g/Lである。1つの態様において、本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生されるω-脂肪酸誘導体の力価は約1g/L~約250g/Lであり、より詳細には90g/L~約120g/Lである。力価は、所与の組換え宿主細胞培養物により産生される特定の脂肪酸誘導体に関するものでも、脂肪酸誘導体の組合せに関するものでもよい。
【0102】
他の態様において、本開示の方法により脂肪酸誘導体を産生するように操作された宿主細胞は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、または少なくとも30%、または少なくとも40%、または上記の値の任意の2つを境界とする範囲の収量を有する。他の態様において、脂肪酸誘導体は、30%を上回る、40%を上回る、50%を上回る、60%を上回る、70%を上回る、80%を上回る、90%を上回る、またはそれ以上の収量で産生される。代替的または追加的に、収量は、約30%もしくはそれ未満、約27%もしくはそれ未満、約25%もしくはそれ未満、または約22%もしくはそれ未満である。したがって、収量は上記の終点の任意の2つを境界とすることができる。例えば、本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される1種または複数種の脂肪酸誘導体の収量は、5%~15%、10%~25%、10%~22%、15%~27%、18%~22%、20%~28%、または20%~30%でありうる。特定の態様において、組換え宿主細胞によって産生される1種または複数種の脂肪酸誘導体の収量は、約10%~約40%である。もう1つの特定の態様において、組換え宿主細胞によって産生される1種または複数種の脂肪酸誘導体の収量は、約25%~約30%である。収量は、所与の組換え宿主細胞培養物により産生される特定の脂肪酸誘導体に関するものでも、脂肪酸誘導体の組合せに関するものでもよい。さらに、収量は、使用される原料にも依存すると考えられる。
【0103】
いくつかの態様において、組換え宿主細胞によって産生される1種または複数種の脂肪酸誘導体の産生能は、少なくとも100mg/L/時、少なくとも200mg/L/時、少なくとも300mg/L/時、少なくとも400mg/L/時、少なくとも500mg/L/時、少なくとも600mg/L/時、少なくとも700mg/L/時、少なくとも800mg/L/時、少なくとも900mg/L/時、少なくとも1000mg/L/時、少なくとも1100mg/L/時、少なくとも1200mg/L/時、少なくとも1300mg/L/時、少なくとも1400mg/L/時、少なくとも1500mg/L/時、少なくとも1600mg/L/時、少なくとも1700mg/L/時、少なくとも1800mg/L/時、少なくとも1900mg/L/時、少なくとも2000mg/L/時、少なくとも2100mg/L/時、少なくとも2200mg/L/時、少なくとも2300mg/L/時、少なくとも2400mg/L/時または少なくとも2500mg/L/時である。例えば、本開示の方法による組換え宿主細胞によって産生される1種または複数種の脂肪酸誘導体の産生能は、500mg/L/時~2500mg/L/時、または700mg/L/時~2000mg/L/時であり得る。1つの態様において、産生能は、約0.7mg/L/h~約3g/L/hである。産生能は、所与の組換え宿主細胞培養物により産生される特定の脂肪酸誘導体に関するものでも、複数種の脂肪酸誘導体の組合せに関するものでもよい。
【0104】
いくつかの態様において、宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、真菌細胞、および/または糸状菌細胞より選択される。特定の態様において、宿主細胞は、エシェリキア属(Escherichia)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ロドコッカス属、シネココッカス属(Synechococcus)、シネコシスティス属(Synechocystis)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フザリウム属(Fusarium)、ヒューミコーラ属(Humicola)、リゾムコール属(Rhizomucor)、クリベロミセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophtora)、ペニシリウム属(Penicillium)、ファネロカエテ属(Phanerochaete)、プレウロタス属(Pleurotus)、トラメテス属(Trametes)、クリソスポリウム属(Chrysosporium)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ステノトロホモナス属(Stenotrophamonas)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、ヤロウイア属(Yarrowia)、またはストレプトミセス属(Streptomyces)より選択される。
【0105】
他の態様において、宿主細胞は、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)細胞、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)細胞、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)細胞、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)細胞、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)細胞、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)細胞、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)細胞、バチルス・プミルス(Bacillus pumilis)細胞、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)細胞、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)細胞、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)細胞、枯草菌(Bacillus subtilis)細胞、またはバチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)細胞である。ある態様において、宿主細胞は、シネココッカス属種PCC7002、シネココッカス・エロンガタスPCC7942、シネコシスティス属種PCC6803、シネココッカス・エロンガタスPCC6301、プロクロロコッカス・マリナス(Prochlorococcus marinus)CCMP1986(MED4)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)ATCC29413、ノストック・パンクチフォルメ(Nostoc punctiforme)ATCC29133(PCC73102)、グロエオバクター・ビオラセウス(Gloeobacter violaceus)ATCC29082(PCC7421)、ノストック(Nostoc)属種ATCC27893(PCC7120)、シアノセイス(Cyanothece)属種PCC7425(29141)、シアノセイス属種ATCC51442、またはシネココッカス属種ATCC27264(PCC7002)である。他の態様において、宿主細胞は、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma koningii)細胞、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)細胞、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)細胞、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)細胞、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)細胞、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigates)細胞、アスペルギルス・フェチダス(Aspergillus foetidus)細胞、アスペルギルス・ニディランス(Aspergillus nidulans)細胞、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)細胞、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)細胞、ヒューミコラ・インソレンス(Humicola insolens)細胞、ヒューミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginose)細胞、ロドコッカス・オパクス(Rhodococcus opacus)細胞、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)細胞、またはムコール・ミエヘイ(Mucor michei)細胞である。他の態様において、宿主細胞はアクチノミセス(Actinomycetes)細胞である。さらに他の態様において、宿主細胞は、ストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)細胞またはストレプトミセス・ムリヌス(Streptomyces murinus)細胞である。他の態様において、宿主細胞はサッカロミセス・セレビシエ細胞である。
【0106】
さらに他の態様において、宿主細胞は、真核植物、藻類、藍色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、好極限性細菌、酵母、真菌、これらの操作された生物体、または合成生物体に由来する細胞である。ある態様において、宿主細胞は、シロイヌナズナ、パニカム・ウィルガツム(Panicum virgatum)、ミスカンサス・ギガンテス(Miscanthus giganteus)、トウモロコシ(Zea mays)、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcuse braunii)、クラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、ドナリエナ・サリナ(Dunaliela salina)、サーモシネココッカス・エロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)、クロロビウム・テピダム(Chlorobium tepidum)、クロロフレクサス・オウランティアカス(Chloroflexus auranticus)、クロマチウム・ビノサム(Chromatiumm vinosum)、ロドスピリラム・ラブラム(Rhodospirillum rubrum)、ロドバクター・カプスラータ(Rhodobacter capsulatus)、ロドシュードモナス・パルストリス、クロストリジウム・リュングダーリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridiumthermocellum)、またはペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)に由来する細胞である。ある他の態様において、宿主細胞は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・プチダ、またはザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)に由来する。またさらなる態様において、宿主細胞は、シネココッカス属種PCC7002、シネココッカス属種PCC7942、またはシネコシスティス属種PCC6803に由来する細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Cv1細胞、MDCK細胞、293細胞、3T3細胞、またはPC12細胞である。特定の態様において、宿主細胞は大腸菌細胞である。いくつかの態様において、大腸菌細胞は大腸菌B株、C株、K株、またはW株の細胞である。
【0107】
天然に存在しない微生物宿主細胞または微生物は、安定した遺伝的変更を含みうる。これらの微生物は、変更を喪失することなく5世代を超えて培養することができる。一般に、安定した遺伝的変更には、10世代を超えて存続する改変が含まれ、特に安定した改変は約25世代を超えて、または無期限を含め、50世代を超えて存続すると考えられる。
【0108】
当業者は、本明細書において例示される代謝改変を含む遺伝的変更が、大腸菌などの参照生物体およびそれらの対応する代謝反応に関して記載しうることを理解するであろう。しかし、多種多様な生物体の完全ゲノムシークエンシングおよびゲノミクスの領域における高レベルの技術を考慮すれば、当業者は、本明細書において提供される教示および手引きを、他の多くの生物体に容易に適用しうると考えられる。例えば、本明細書において例示された代謝的変更を、言及された種以外の種からの同じであるか類似したコード核酸を組み込むことによって、他の種に容易に適用することができる。そのような遺伝的変更には、例えば、一般に、種ホモログの遺伝的変更、より詳細には、オルソログ、パラログまたは非オルソロガス遺伝子置換が含まれる。
【0109】
いくつかの態様においては、1つもしくは複数のラクトン産物(例えば、ガンマまたはデルタラクトン)、1つもしくは複数のマクロラクトン産物、または1つもしくは複数の大環状ケトン産物などを調製するための化学酵素的プロセスが提供される。これらのプロセスは、(i)(a)チオエステラーゼ、(b)オメガヒドロキシラーゼ、および(c)エステルシンターゼのうち1つまたは複数を含む脂肪酸誘導体産生のための代謝改変のセットを含む天然に存在しない微生物を培養する段階であって、微生物が1つまたは複数の脂肪酸誘導体を提供する段階、ここでこの培養の段階は炭素系の原料中で行われ、少なくとも1種類の脂肪酸誘導体は、ヒドロキシル化、不飽和、エステル化、またはそれらの組合せによって官能化された脂肪酸を含む、ならびに(ii)エクスビボで脂肪酸誘導体を非酵素試薬と、ラクトン、マクロラクトンまたは大環状ケトン産物を産生させるのに十分な条件下で接触させる段階、を含む。いくつかの態様において、本明細書において開示される方法は、接触の段階の前に脂肪酸誘導体を単離する段階をさらに含む。いくつかの態様においては、産物が分泌され、脂肪酸誘導体を、遠心分離、デカンテーション、抽出、濾過などの任意の組合せによって単離することができる。いくつかの態様においては、脂肪酸誘導体が細胞から分泌され、接触の段階は、培養の段階から脂肪酸誘導体を単離することを伴わずに行われる。
【0110】
化学変換
I.出発材料および前駆体
前述の生物体を利用することにより、脂肪酸誘導体の形態にある数多くの生合成材料の入手がもたらされる。脂肪酸誘導体は、価値の高い商品用化合物へのその後の合成有機変換のための前駆体として用いられる。いくつかの態様において、脂肪酸誘導体には、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸エステル、ω-ヒドロキシ脂肪酸、ω-ヒドロキシ不飽和脂肪酸、ω-ヒドロキシ脂肪酸エステル、ω-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル、3-ヒドロキシ脂肪酸、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸、3-ヒドロキシ脂肪酸エステル、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステル、およびそれらの組合せが非限定的に含まれる。
【0111】
いくつかの態様において、不飽和性である脂肪酸誘導体は一不飽和性である。例えば、不飽和脂肪酸エステルは一不飽和性であってよい。いくつかのそのような態様において、不飽和脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸メチルエステル(FAME)および不飽和脂肪酸エチルエステル(FAEE)であってよい。したがって、一不飽和性である不飽和FAMEまたは不飽和FAEEが提供されうる。いくつかの態様において、不飽和FAMEおよび不飽和FAEEから選択される不飽和脂肪酸エステルの入手がもたらされてもよい。いくつかの態様において、一不飽和性であるω-ヒドロキシ不飽和脂肪酸の生合成性入手がもたらされてもよい。
【0112】
いくつかの態様において、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)である3-ヒドロキシ脂肪酸エステルの入手がもたらされてもよい。いくつかの態様において、ω-ヒドロキシ脂肪酸エステルは、ω-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(ω-OH FAME)またはω-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(ω-OH FAEE)であってよい。いくつかの態様において、ω-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステルは一不飽和性であってよい。いくつかの態様において、一不飽和ω-ヒドロキシ脂肪酸エステルには、ω-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸メチルエステル(ω-OH一不飽和FAME)およびω-ヒドロキシ一不飽和脂肪酸エチルエステル(ω-OH一不飽和FAEE)が非限定的に含まれうる。いくつかの態様において、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸も一不飽和性であってよい。いくつかの態様において、3-ヒドロキシ脂肪酸エステルは、3-ヒドロキシ脂肪酸メチルエステル(3-OH FAME)または3-ヒドロキシ脂肪酸エチルエステル(3-OH FAEE)であってよい。いくつかの態様において、3-ヒドロキシ不飽和脂肪酸エステルは一不飽和性であってよい。いくつかの態様において、一不飽和3-ヒドロキシ脂肪酸エステルは、一不飽和3-OH FAMEまたは一不飽和3-OH FAEEであってよい。いくつかの態様において、不飽和α,ω-二酸または不飽和α,ω-二酸エステルは一不飽和性であってよい。そのような一不飽和(monounsatured)α,ω-二酸エステルは、酸半メチルエステルまたはエチルエステルなどの酸半エステルであってよい。他の態様において、一不飽和(monounsatured)α,ω-二酸エステルは、メチルジエステルまたはエチルジエステルなどのジエステルであってよい。いくつかの態様において、脂肪酸誘導体は、奇数炭素鎖、メチル分枝、またはそれらの組合せを含みうる。
【0113】
II.試薬
本明細書において開示された生物体によってもたらされる脂肪酸誘導体出発材料の多様性を鑑みれば、価値の高い有機産物の入手を容易に達成することができる。一般に、その後の有機変換は、1つまたは複数の生合成後操作を範囲に含む。いくつかの態様によれば、試薬は非酵素であってよい。1つの態様において、試薬はプロトン酸である。プロトン酸の例には、塩酸、硫酸およびリン酸が非限定的に含まれる。もう1つの態様において、試薬は回収可能樹脂酸(recoverable resin acid)である。他の態様において、試薬はルイス酸である。いくつかのそのような態様において、ルイス酸は、有機スタンナンエステル交換触媒、マグネシウム、銅塩または亜鉛塩、銀トリフラート、およびゼオライトであってよい。ルイス酸の例には、LiBr、MgBr2、CsBr、ZnBr2、ZnCl2、CuBr、Cu(CF3SO4)2、BF3OEt2、KBr、TiCl4、SnCl2、ScCl3、VCl3、AlCl3、InCl3、Al2CO3、CeCl3、Ag2O、ZnClO4、LiClO4、Ti{OCH(CH3)2}4、ならびにそれらの任意の複合体およびそれらの組合せが非限定的に含まれる。さらに他の態様において、試薬はペプチドカップリング剤であってよい。いくつかのそのような態様において、ペプチドカップリング剤は、水性系との適合性があってよく、培養ブロス中での反応を直接的に助長する。したがって、例えば、そのような試薬には、水溶性カルボジイミド試薬が非限定的に含まれうる。カップリング剤には、N,N-ジシクロカルボジイミド(DCC)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカーボネート(EDC)などカルボジイミドが非限定的に含まれてよく、それらを任意で、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)などのアシル活性化剤、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(BOP)もしくはそのトリス-ピロリジン変種(PyBOP)、O-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N-2-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)もしくはO-ピリドトリアゾリル変種(HATU)などのホスホニウム試薬およびウロニウム(uronim)試薬、またはエチルシアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸-O2)-トリ-(1-ピロリジニル)-ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyOxim)もしくはそのジメチルアミノ-モルホリノ変種(COMU)などのオキシム系試薬とともに用いることができる。
【0114】
III.ラクトン
いくつかの態様において、ラクトンは、ガンマ-ラクトン(γ-ラクトン)、デルタ-ラクトン(δ-ラクトン)、またはそれらの組合せである。いくつかの態様において、そのような産物の総炭素数はC8~C18であってよい。一例を挙げると、銀トリフラートは、以下のスキームIに示すように、不飽和脂肪酸の直接ラクトン化に利用されている(例えば、Goossen et al. (2010) Green Chem. 12:197-200を参照)。
スキームI
【0115】
また、プロトン酸も、ラクトン産物をもたらすことが指し示されている(例えば、Isbell et al. (1997) J. Am. Oil Chemists Soc. 74(2):153-158を参照)。いくつかの態様において、飽和性および不飽和性の両方のγ-およびδ-ラクトンの入手は、例えば、以下のスキームIIに示すように、脱水および脱共役ラクトン化を介して3-ヒドロキシ置換脂肪酸誘導体から行うことができる。
スキームII
【0116】
γラクトンは、特に、ルイス酸での処理による対応するβ-ラクトンの環拡大を介して、3-ヒドロキシ飽和および不飽和脂肪酸誘導体から入手可能である(例えば、Mulzer et al. (1979) Angew. Chemie Int. Ed. Engl., 18:793-794を参照)。3-ヒドロキシ脂肪酸誘導体からのβラクトンの入手は、アリールスルホニルクロリド/ピリジンによる3-ヒドロキシ酸の処理によって達成しうる。代替的な態様において、βラクトン官能性を生合成の流れの中で組み込むこともできる。室温の臭化マグネシウムなどの穏和な条件下で、βラクトンは、以下のスキームIIIに示すように、対応するγラクトンへの、ルイス酸により触媒されるジオトロピー転位(環ひずみの解放が動因となる)を起こす。
スキームIII
【0117】
いくつかの態様において、ラクトンはC8~C18マクロラクトンである。マクロラクトン産物には、ジラクトン産物が含まれうる。したがって、いくつかの態様において、マクロラクトン産物への出発材料には、飽和または一不飽和オメガヒドロキシ(ω-OH)酸もしくは二酸、または酸半エステルが含まれうる。以下のスキームIVは、二酸に由来する2つのエステル官能性を有するマクロラクトン産物の一例を示している。
スキームIV
【0118】
マクロラクトン化における課題の1つは、望ましくない重合体経路を最小限に抑えることにある。そのような副反応を克服するための1つの方法は、高希釈下で行うことである。いくつかの態様において、産物分泌を伴う脂肪酸誘導体の生物生産は、自然に、培養ブロス中への直接的な試薬導入を介したマクロラクトン化を直接的に行うのに適した十分な希釈条件をもたらしうる。一例を挙げると、本明細書において開示される方法は、天然に存在しない生物体を培養し、その後に水溶性ペプチドカップリング剤を培養ブロス中に直接的に添加することによって、ω-ヒドロキシ脂肪酸の生合成生産をもたらしうる。マクロラクトン化に使用される試薬は、前述のペプチドカップリング試薬(前記)の任意のものであってよい。そのような変換を生じさせるための他の試薬には、いわゆる山口法を用いる、無水酢酸、ペンタフルオロフェノール、2,4-ジクロロベンゾイルクロリド、および2.4,6-トリクロロベンゾイルクロリドが含まれる(例えば、Inanaga et al. (1989) M. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1979:52を参照)。ω-ヒドロキシ脂肪酸からマクロラクトンに至るいくつかのアプローチが記載されている(例えば、米国特許第4,014,902号を参照)。以下のスキームVは、前述の試薬および方法のいずれかを介して入手可能となる、不飽和ω-ヒドロキシ脂肪酸(またはエステル)の例示的なマクロラクトン化を示している。
スキームV
【0119】
いくつかの態様において、重合および/または解重合アプローチを、マクロラクトン構造を入手するために使用することができる(例えば、Spanagel et al. (1935) J. Am. Chem. Soc, 57:929-934を参照)。この手法は、マクロラクトン化反応に典型的に使用される溶媒負荷の高い高希釈条件に代わる、環境により優しい選択肢となりうる。以下のスキームVIは、エチレングリコール中でグリコール酸カリウムの作用によって、ベンガレン酸(bengalene acid)がイソアンブレットリド(シス/トランス混合物)に変換される、公知のプロセスを示している。理論に拘束されることは望まないが、酢酸基(acetate)の除去によって、重合体形成の前に一過性の単量体種がもたらされるか否かはわかっていない。さらに、この反応条件下では、重合体も単量体ラクトン構造に変換される一過性の種であり、後者は蒸留下で反応混合物から容易に取り出される。
スキームVI
【0120】
さらに別の例を挙げると、シス-9ω-ヒドロキシヘキサデセン酸を過剰量の無水酢酸と反応させて、対応する酢酸誘導体を生じさせることができる。続いて、この酢酸誘導体をグリセロール溶媒中でナトリウムメトキシドで処理して、スキームVIに示したのと類似の反応を生じさせて、アンブレットリドのシス-9異性体を得る。シス-9異性体アンブレットリドを減圧蒸留下で連続的に取り出すことができ、その際にグリセロールが同時に取り出される。相分離による蒸留液からのグリセロールの除去により、アンブレットリドの高純度シス-9異性体が得られる。
【0121】
さらなる別の態様において、マクロラクトンを、それらのグリセリルエステルから入手することもできる(例えば、米国特許第2,234,551号を参照)。すなわち、グリセロール中にあるω-ヒドロキシ脂肪酸のグリセリルエステルを加熱することにより、マクロラクトン産物とグリセロール溶媒の共蒸留が可能になる。蒸留液を水で洗浄することで、精製されたマクロラクトン産物が得られる。
【0122】
IV.大環状ケトン
いくつかの態様において、生合成性の二酸、酸半エステルまたはジエステルを、対応する大環状ケトンに変換することができる。ジエステルは、アシロイン縮合を介して環状ヒドロキシケトン産物に変換することができ、任意でヒドロキシ基を還元して大環状ケトンを得ることもできる(例えば、米国特許第3,963,571号を参照)。大環状ケトンを生成させるためのもう1つの方法は、気相におけるディークマン縮合による(例えば、米国特許第7,247,753号を参照)。いくつかの態様において、ディークマンアプローチでは、偶数鎖脂肪酸誘導体から、脱カルボキシル化機序を介して、奇数鎖炭素員数の環の入手がもたらされる。以下のスキームVIIは、ジエステル、二酸または酸半エステルの出発材料によって生じうる一般的な変換を示している。
スキームVII
【0123】
以下のスキームVIIIおよびスキームIXに、マクロラクトン化および大環状ケトンの生成を総合的に示す一般的な反応を示している。
スキームVIII
スキームIX
【0124】
いくつかの態様において、本明細書において開示されるプロセス/方法を用いて得られる目標産物には、芳香性ラクトン、例えば、γ-ラクトン(例えば、γ-ドデカラクトン、γ-テトラデカラクトン、γ-ウンデカラクトン、γ-デカラクトン、およびγ-ノナラクトン)、δ-ラクトン(例えば、δ-ドデカラクトン、δ-テトラデカラクトン、δ-ウンデカラクトン、δ-デカラクトン、およびδ-ノナラクトン)、およびマクロラクトン(例えば、アンブレットリド、イソ-アンブレットリド、ジヒドロアンブレットリド、ハバノリド(グロバリド)、エキサルトリド(チベトリド(thibetolide))(シクロペンタデカノリド)、その他)など、ならびに他の大環状ケトン芳香剤、例えばロマノン(エキサルトン、シクロペンタデカノン)、ムスコン、シベトンなどが含まれうる。
【0125】
V.追加的および補足的な方法
大環状化合物の調製のための追加的および補足的な方法およびプロセスには、二官能性化合物の縮合と、触媒の存在下におけるその後の熱的解重合が含まれる。熱的解重合は、式I:
R1-(O-CH2-CH2)n-OR2
の溶媒中で実施することができ、式中、R1およびR2は、官能基を伴うかまたは伴わず、数平均分子量(Mn)が500~3,000であり、nの値がそれによって決まる、炭素原子1~6個の、同一であるかまたは異なる脂肪族炭化水素基を表し、圧力は50hPa未満であり、温度は200℃~300℃であり、縮合性二官能性化合物の重量当たり5~1,000倍の重量の溶媒を用いる(例えば、米国特許第5,717,111号を参照)。
【0126】
熱的解重合のために用いられる高沸点媒質には、数平均分子量(Mn)が約500~3,000であるポリエチレングリコールジアルキルエーテルが含まれる。1つの態様において、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルは、約1,000~2,000の数平均分子量(Mn)を有する。ポリエチレングリコールジアルキルエーテルの末端OH基は、C1~6アルキル基によってエーテル化されている。ポリグリコールをエーテル化するアルキル基R1およびR2は、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基またはsec-ブチル基であってよい。アルキル基R1およびR2が、官能基によってさらに置換されていてもよく、ここで官能基は重合に関与しなくてもよい。異なるアルキル基によってエーテル化された複数の異なるポリエチレングリコールジアルキルエーテルの混合物およびポリエチレングリコールジアルキルエーテルの混合物を用いてもよい。縮合性二官能性化合物の重量当たり5~1,000倍の重量のポリエチレングリコールジアルキルエーテル、好ましくは10~100倍の重量のものを用いることができる。
【0127】
線状オリゴマーの解重合および環化には、マグネシウム塩、マンガン塩、カドミウム塩、鉄塩、コバルト塩、スズ塩、鉛塩、アルミニウム塩およびチタン塩を非限定的に含むアルカリ金属およびその塩といった、従来の触媒を使用することができる。触媒の量は、用いられる対応する種類に応じて、重量比で約0.1~20%である。1つの態様において、触媒の量は、縮合性二官能性化合物の重量を100%とした上で、重量比で約0.5~10%である。もう1つの態様において、プロセスはまず二官能性化合物の縮合によって開始され、それは触媒を伴うかまたは伴わない高温での従来の方法に従って行うことができる。1つの態様において、α,β-ヒドロキシカルボン酸またはα,β-ジカルボン酸またはエステルをグリコールと反応させる。このプロセスで形成されたアルコールまたは水は、共沸剤を用いるかまたはわずかな減圧の助けを借りて、蒸留により除去することまたは取り除くことができる。
【0128】
本方法は、線状ポリエステルの閉環を伴う解重合によって大環状化合物を形成させることを含む。このプロセスに用いうるポリエステルは、当業者に公知である従来の方法によって得られ、従来のジカルボン酸、ジオールおよびヒドロキシモノカルボン酸に由来する。1つの態様において、ジカルボン酸は脂肪族であり、飽和性であるか、またはオレフィン不飽和を含み、分枝鎖または直鎖である。もう1つの態様において、脂肪族ジカルボン酸は3個から最大約18個までの炭素原子を含む。なおもう1つの態様において、脂肪族ジカルボン酸は約8~14個の炭素原子を含む。有用なジカルボン酸には、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、およびペンタデカン二酸が非限定的に含まれる。2種またはそれを上回るジカルボン酸の混合物を用いることもできる。もう1つの態様において、ポリエステルは芳香族または脂環式ジカルボン酸に由来する。
【0129】
ポリエステルが、主に、2~12個の炭素原子を有する脂肪族ジオールであるジオールに由来してもよい。1つの態様において、脂肪族ジオールは2~6個の炭素原子を有する。もう1つの態様において、ジオールは飽和性でかつ直鎖状である。なおもう1つの態様において、ジオールは飽和性でかつ分枝状である。有用なジオールには、エチレングリコール;1,2-または1,3-プロパンジオール;1,2-、1,3-または1,4-ブタンジオール;1,6-ヘキサンジオール;3-メチル-1,5-ペンタンジオール;2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール;1,8-オクタンジオール;2-エチルヘキサンジオール;1,10-デカンジオール;1,12-ドデカンジオール;ジエチレングリコール;およびトリエチレングリコールが非限定的に含まれる。1,4-シクロヘキサジメタノールなどの脂環式ジオールを用いることもできる。
【0130】
また、ポリエステルが、エチレングリコールならびにジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールに由来してもよい。また、ポリエステルが、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、10-オキサ-16-ヒドロキシヘキサデカン酸、11-オキサ-16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-オキサ-16-ヒドロキシヘキサデカン酸、10-チア-16-ヒドロキシヘキサデカン酸、11-チア-16-ヒドロキシヘキサデカン酸、および12-チア-16-ヒドロキシヘキサデカン酸を非限定的に含むヒドロキシモノカルボン酸に由来してもよい。
【0131】
解重合および環化のために適する、いくつかの縮合性二官能性化合物が記載されている(例えば、米国特許第4,709,058号を参照)。縮合性二官能性化合物を反応器内に連続して移し、その中に高沸点媒質を触媒構成成分とともに投入する。解重合および環化は高温で起こる。1つの態様において、解重合および環化は、約200℃~300℃で、50hPa未満の減圧下で起こる。もう1つの態様において、解重合および環化は、約220℃~265℃で、50hPa未満の減圧下で起こる。これらの条件下では、目標産物は蒸留され、解重合によって生じたグリコール(例えば、エチレングリコール)あるいは故意的な過剰量のグリコールが環状構成成分とともに運ばれる。相分離の後に、分離されたグリコールを反応の開始時に縮合物に戻すことができる。数々の大環状化合物をこのプロセスによって製造することができ、これにはエステル、ラクトン、ラクタム、エーテルラクトン、ジラクトンおよびエーテルジラクトンが非限定的に含まれる。このプロセスは、6~20個の、またはより具体的には8~15個の炭素原子を有する大環状エステルおよびラクトンの調製のために適しているが、それはこれらの化合物が、香料としてそれらを用いるのに有利である比較的純粋な形態で生成されるためである。
【0132】
この解重合プロセスによって生成させることができる大環状化合物の例には、3,6,9-トリデカメチレンマロネート、ドデカメチレンマロネート、デカメチレンマロネート、エチレンスベレート、エチレンアゼレート、3-オキサ-ペンタメチレンアゼレート、3-メチルペンタメチレンセバケート、エチレンウンデカンジオエート、エチレンドデカンジオエート、エチレンブラシレート、エチレン-α-メチルブラシレート、エチレン-α,α-ジメチルブラシレート、エチレン-α-エチルブラシレート、ペンタデカノリド、12-オキサ-ペンタデカノリド、12-チア-ペンタデカノリド、ヘキサデカノリド、10-オキサ-ヘキサデカノリド、11-オキサ-ヘキサデカノリド、11-チア-ヘキサデカノリド、および12-オキサ-ヘキサデカノリドが非限定的に含まれる。本プロセスは、ポリエチレンブラシレートの解重合によってエチレンブラシレートを製造することができる。同様に、本プロセスは、ポリエチレンドデカンジオエートの解重合によってエチレンドデカンジオエートを製造することができる(例えば、米国特許第5,717,111号、前記を参照)。
【実施例
【0133】
以下の実施例は本開示をさらに例示するものであり、その範囲を限定するものとは決して解釈してはならない。
【0134】
実施例:マクロラクトン化のための実験手順
16-ヒドロキシ-ヘキサデカン酸および16-ヒドロキシ-7(Z)-ヘキサデセン酸(発酵により得られる)およびエチレングリコール(60mL)を含有する混合物(30g)を沸騰するまで加熱して、水を除去するために4時間かけてエチレングリコールをゆっくりと蒸留させる。その結果得られる、エチレングリコール中にあるエチレングリコールエステルとヒドロキシ酸オリゴマーエステルの混合物に、テトラブチルブタネート(0.5g)を添加する。続いてこれを、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(50g、1500~2000のMn)を含有する、250Cおよび10torrの減圧下にある反応器内に、4時間かけてゆっくりと添加する。この添加中にマクロラクトンをエチレングリコールと共蒸留させる。シクロヘキサンによる蒸留液の抽出および水洗浄により、マクロラクトンのシクロヘキサン溶液が得られる。濃縮によって粗製マクロラクトンを得る。減圧蒸留により、16-ヘキサデカラクトンと16-7(Z)-ヘキサデセラクトンの精製混合物が得られる。
【0135】
当業者には明らかであろうが、上記の諸局面および諸態様のさまざまな改変物および変形物を、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく作製することができる。そのような改変物および変形物は本開示の範囲内にある。