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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】高炉出銑樋および出銑方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/14 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
C21B7/14 302
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021178978
(22)【出願日】2021-11-01
(65)【公開番号】P2022107505
(43)【公開日】2022-07-21
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2021002275
(32)【優先日】2021-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】田中 稔
(72)【発明者】
【氏名】飯國 恒之
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 雅史
(72)【発明者】
【氏名】石川 和輝
(72)【発明者】
【氏名】大町 友浩
(72)【発明者】
【氏名】工藤 一路
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-219806(JP,A)
【文献】実開昭62-011155(JP,U)
【文献】特開昭62-256909(JP,A)
【文献】実開昭61-175895(JP,U)
【文献】特開2005-076097(JP,A)
【文献】特開2002-274963(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0065778(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉から出銑される溶銑を流通可能な高炉出銑樋であって、
前記溶銑の流路の底部に、基底部と、前記基底部を少なくとも部分的に被覆して設けられた捨て張り部と、を備え、
前記基底部は、第一耐火物により形成され、
前記捨て張り部は、第二耐火物により形成され
前記第二耐火物は、前記第一耐火物より耐食性が低く他の部位より早く損耗し、
損耗した前記捨て張り部は、スラグとともにスキンマーダンパーによって堰き止められ、滓はねに流出する高炉出銑樋。
【請求項2】
前記溶銑はスラグを同伴して前記高炉から出銑され、
前記基底部の上面を基準とする、
前記捨て張り部の上面の高さH(mm)と、
前記捨て張り部を設ける前に前記スラグを伴った前記溶銑を流通すると仮定した場合に、前記溶銑および前記スラグの比重に基づいて算出される前記溶銑と前記スラグとの界面である想定メタルラインの高さH(mm)と、は、
以下の式(1)を満たす請求項1に記載の高炉出銑樋。
-100≦H≦H+400 式(1)
【請求項3】
前記第二耐火物は、Alを20質量%以上85質量%以下含む請求項1または2に記載の高炉出銑樋。
【請求項4】
前記第二耐火物は、CaOの含有量が12質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の高炉出銑樋。
【請求項5】
第一耐火物によって形成された基底部の少なくとも一部を、前記第一耐火物より耐食性が低い第二耐火物によって形成された捨て張り部で被覆して設けられた底部を有する流路に、高炉から出銑された溶銑を流通し、前記捨て張り部が他の部位より早く損耗し、損耗した前記捨て張り部は、スラグとともにスキンマーダンパーによって堰き止められ、滓はねに流出する工程を含む出銑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄分野における高炉出銑樋、および出銑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉出銑樋1(図1図2)は、高炉Fの出銑口Foから流出する溶銑Mを流通できるように設けられた樋状の部材であり、その全体が耐火物によりライニングされている。図1には、高炉出銑樋1の斜視図を示し、図2には、高炉出銑樋1が高炉Fの側から延出する方向に沿った垂直断面図を示している。図1および図2に示すように、高炉出銑樋1は、高炉Fから水平方向に離間した位置に設けられたスキンマーダンパー4によって、上流側1aと下流側1bとに区分される。
【0003】
高炉Fで製銑した銑鉄は、溶銑Mとして高炉Fの出銑口Foから流出する。このとき溶銑Mは、スラグSを伴っている。スラグSの比重は溶銑Mの比重より小さいため、出銑口Foから流出した溶銑MとスラグSとは、溶銑Mを下層とし、スラグSを上層とする二層に分離する。したがって、高炉出銑樋1の上流側1aでは、溶銑MとスラグSとの二層の流れが形成される(図2)。
【0004】
図1および図2に示すように、スキンマーダンパー4は、高炉出銑樋1の上流側1aを流れる溶銑MおよびスラグSを堰き止めることができるように設けられている。ここで、スキンマーダンパー4の下端4aは、比重の違いによって二層に分離した溶銑MとスラグSとの界面であるメタルラインMLより低い位置に設けられている。これによって、溶銑Mのみがスキンマーダンパー4の下側を通過して、高炉出銑樋1の下流側1bに流出する。
【0005】
一方、スキンマーダンパー4により堰き止められたスラグSは、高炉出銑樋1が高炉Fの側から延出する方向の側方に延びる滓はね5に流出する。かかる流出が可能になるように、滓はね5の下端5aは、高炉出銑樋1の上流側1aに形成される二層の流れの最上面であるスラグラインSLより低い位置に設けられている。
【0006】
図2に示すように、高炉出銑樋1の下流側1bには、立ち上がり部6が設けられている。高炉出銑樋1の下流側1bに流入した溶銑Mは、さらに下流に設けられた溶銑樋(不図示)に流出する。
【0007】
すなわち高炉出銑樋1は、滓はね5、スキンマーダンパー4、および立ち上がり部6のレベルを適正に保つことで、溶銑MとスラグSとを別々に回収できる構造となっている。
高炉出銑樋1は、その稼働中において常に溶銑MとスラグSとを貯留した状態に維持されるため、貯銑式といわれている。
【0008】
上述のような高炉出銑樋1において、溶銑MおよびスラグSの通過および貯留により、壁面が侵食される。その侵食は均一ではなく、スラグラインSLに当接する部分およびメタルラインMLに当接する部分の二か所において局所的に発生する(図4)。そこで、高炉出銑樋の側面における局部侵食を抑制する技術が、従来検討されてきた。
【0009】
特許文献1は、出銑立ち上がり部を溶銑の通銑によって自動的にレベル変更できるようにする技術を開示している。特許文献2は、階段状に形成された立ち上がり部を段階的に除去することによって、メタルラインを調整できる技術を開示している。これらの技術によれば、メタルラインMLを移動させることができるので、侵食される箇所を分散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-274963号公報
【文献】特開2005-307230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1の技術を適用すると、立ち上がり部が大きく損耗した場合にスラグが溶銑に混入するおそれがあった。加えて、溶銑のみが通過する立ち上がり部に、溶銑に溶解しやすい耐火材が使用されているため、当該耐火材が溶銑に混入する問題があった。
また、特許文献2の技術では、立ち上がり部の一部を除去する際に重機などの機械手段を用いる必要があるため、加工精度が低い場合があった。
【0012】
そこで、溶銑を汚染せず、かつ、機械手段を要さずに、メタルラインを調整できる技術の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明に係る高炉出銑樋は、高炉から出銑される溶銑を流通可能な高炉出銑樋であって、前記溶銑の流路の底部に、基底部と、前記基底部を少なくとも部分的に被覆して設けられた捨て張り部と、を備え、前記基底部は、第一耐火物により形成され、前記捨て張り部は、第二耐火物により形成され、前記第二耐火物は、前記第一耐火物より耐食性が低く他の部位より早く損耗し、損耗した前記捨て張り部は、スラグとともにスキンマーダンパーによって堰き止められ、滓はねに流出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る出銑方法は、第一耐火物によって形成された基底部の少なくとも一部を、前記第一耐火物より耐食性が低い第二耐火物によって形成された捨て張り部で被覆して設けられた底部を有する流路に、高炉から出銑された溶銑を流通し、前記捨て張り部が他の部位より早く損耗し、損耗した前記捨て張り部は、スラグとともにスキンマーダンパーによって堰き止められ、滓はねに流出する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
これらの構成によれば、溶銑を汚染せず、かつ、機械手段を要さずに、メタルラインを調整できる。これによって、出銑樋の局部損耗を防止することによって耐火物寿命を延長し、耐火物コストを低減できる。
【0016】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0017】
本発明に係る高炉出銑樋は、一態様として、前記溶銑はスラグを同伴して前記高炉から出銑され、前記基底部の上面を基準とする、前記捨て張り部の上面の高さH(mm)と、前記捨て張り部を設ける前に前記スラグを伴った前記溶銑を流通すると仮定した場合に、前記溶銑および前記スラグの比重に基づいて算出される前記溶銑と前記スラグとの界面である想定メタルラインの高さH(mm)と、は、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
-100≦H≦H+400 式(1)
【0018】
この構成によれば、メタルラインを調整する効果と、高炉出銑樋の十分な容量とを両立しやすい。
【0019】
本発明に係る高炉出銑樋は、一態様として、前記第二耐火物は、Alを20質量%以上85質量%以下含むことが好ましい。
【0020】
この構成によれば、メタルラインを調整する効果が十分に発現し、かつ当該効果が十分に持続しやすい。
【0021】
本発明に係る高炉出銑樋は、一態様として、前記第二耐火物は、CaOの含有量が12質量%以下であることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、捨て張り用耐火物の損耗速度が適切な水準になり、メタルラインがひとりでに移動する効果の大きさと、当該効果の持続性とのバランスがよくなりやすい。
【0023】
本発明に係る高炉出銑樋は、一態様として、前記第二耐火物は、前記第一耐火物より耐食性が低いことが好ましい。
【0024】
この構成によれば、捨て張り用耐火物の損耗速度がより適切な水準になりやすい。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】高炉出銑樋の斜視図である。
図2】高炉出銑樋のII-II断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る高炉出銑樋のIII-III断面図である。
図4】従来技術による高炉出銑樋の浸食プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る高炉出銑樋および出銑方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る高炉出銑樋を、高炉Fから出銑される溶銑Mを流通可能な高炉出銑樋1に適用した例について説明する。なお、上記では図1および図2を用いて従来技術を説明したが、図1および図2は、本実施形態に係る高炉出銑樋1にも共通するので、以下では図1および図2を、本実施形態に係る高炉出銑樋1を説明するために用いる。
【0028】
〔基底部および捨て張り部の構成〕
高炉出銑樋1の底部1cに設けられた、基底部2および捨て張り部3について説明する。高炉出銑樋1は、公知の樋材用の耐火物を基材として施工した上に、その基底部2を被覆するように捨て張り部3を施工して設けられる。以下では、この構成を念頭に置いて説明する。
【0029】
高炉出銑樋1は、鉄製の樋基材Bの上に、耐火物をライニングした構造を有する。かかる耐火物としては、部位によって異なる耐火物が用いられている。まず、側壁部の下側1dおよび基底部2(図3)、すなわち主に溶銑Mが接触する領域には、メタルライン用途に適した耐火物として当業者に公知の耐火物(以下、メタルライン用耐火物という。)が用いられている。かかるメタルライン用耐火物(第一耐火物の例)としては、Al-SiC-C系耐火物や、スピネル-Al-SiC-C系耐火物などが例示される。
【0030】
また、側壁部の上側1e、すなわち主にスラグSが接触する領域には、スラグライン用途に適した耐火物として当業者に公知の耐火物(以下、スラグライン用耐火物という。)が用いられている。かかるスラグライン用耐火物としては、SiC系の耐火物などが例示される。
【0031】
捨て張り部3は、基底部2を被覆して設けられる。ここで、捨て張り部3を形成する捨て張り用耐火物(第二耐火物の例)としては、メタルライン用耐火物と同様に、Al-SiC-C系耐火物や、スピネル-Al-SiC-C系耐火物などが例示される。捨て張り用耐火物は、メタルライン用耐火物より耐食性が低い耐火物であることが好ましい。
【0032】
ここで耐食性とは、溶銑Mに対する耐食性であり、たとえば高周波誘導炉内張り法による溶銑侵食試験により評価した耐食性をいう。当該溶銑侵食試験は、流し込み成形したキャスタブルを供試試料とし、当該供試試料に侵食剤として流し込んだ銑鉄20kgに対する耐食性を評価する試験方法であり、銑鉄を流し込まれた供試試料を1600℃で4時間保持したのちに、溶銑を除去して供試試料の溶損深さを測定し、当該溶損深さが小さい材料の方が溶銑に対する耐食性が高いと評価する。
【0033】
捨て張り部3が、メタルライン用耐火物より耐食性が低い耐火物により形成されていることによって、高炉出銑樋1に溶銑Mを流通したときに、捨て張り部3が他の部位より早く損耗する。そのため、高炉出銑樋1の下方に向けて損耗が進行し、高炉出銑樋1の運用中に高炉出銑樋1の流路の深さが徐々に深くなっていく。これによって、高炉出銑樋1を流通する溶銑MおよびスラグSの水準が、徐々に下方に移動する。これによって、特に損耗しやすいメタルラインMLおよびスラグラインSLがひとりでに移動するので、高炉出銑樋1の側壁部が局所的に損耗することが防止される。
【0034】
捨て張り用耐火物は、Alを20質量%以上85質量%以下含むことが好ましい。Alの含有量が85質量%以下であると、捨て張り用耐火物の耐食性がメタルライン用耐火物より低くなり、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果が発現しやすい。また、Alの含有量が20質量%以上であると、捨て張り用耐火物の損耗速度が適切な水準になり、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果の大きさと、当該効果の持続性とのバランスがよくなりやすい。捨て張り用耐火物は、Alを25質量%以上65質量%以下含むことがより好ましく、40質量%以上60質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0035】
また、捨て張り用耐火物は、CaOの含有量が12質量%以下であることが好ましい。CaOの含有量が12質量%以下であると、捨て張り用耐火物の損耗速度が適切な水準になり、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果の大きさと、当該効果の持続性とのバランスがよくなりやすい。なお、CaOの含有量が12質量%以下であるとは、当該含有量が0質量%の場合、すなわち捨て張り用耐火物がCaOを含まない場合を包含する。ただし、CaOの含有量が0質量%を超えると、捨て張り用耐火物の耐食性がメタルライン用耐火物より低くなり、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果が発現しやすいため、より好ましい。また、捨て張り用耐火物は、CaOを3.0質量%以上11質量%以下含むことがさらに好ましく、5.0質量%以上10質量%以下含むことが特に好ましい。
【0036】
溶銑Mの流通により損耗した捨て張り用耐火物は、その比重が溶銑Mより小さいため、スラグとともに溶銑Mの上に浮上する。そのため、捨て張り用耐火物は、スラグとともにスキンマーダンパー4によって堰き止められ、滓はね5に流出する。したがって、損耗した捨て張り用耐火物によって溶銑が汚染されることを抑制できる。
【0037】
なお、本実施形態では、高炉出銑樋1の上流側1aの、出銑口Foから10m以内の範囲にわたって、捨て張り部3が設けられている。ただし、捨て張り部3を設ける領域の大きさは、高炉出銑樋1の大きさに応じて適宜調整可能である。
【0038】
〔捨て張り用耐火物の施工レベル〕
次に、捨て張り部3の好ましい施工レベルについて説明する。ここで、捨て張り部3の施工レベルとは、捨て張り部3の上面の高さH(mm単位)をいう(図3)。なお、以下の説明における高さは、特記しない限り、基底部2の上面を基準とする高さをいう。
【0039】
捨て張り部3の施工レベルは、捨て張り部3を設ける前の高炉出銑樋1に溶銑MおよびスラグSを流通すると仮定したときに、メタルラインが存在することが想定される高さH(mm単位)を基準として定めることができる。なお、かかる想定メタルラインの高さHの算出方法については後述する。捨て張り部3の上面の高さHと、想定メタルラインの高さHとは、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
-100≦H≦H+400 式(1)
【0040】
すなわち、捨て張り部3の施工レベルHは、想定メタルラインの高さHより100mm低い位置以上にすることが好ましい。この構成によれば、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果が得られやすい。捨て張り部3の施工レベルH(mm)は、想定メタルラインの高さHより50mm低い位置以上にすると、より好ましい。
【0041】
また、捨て張り部3の施工レベルHは、想定メタルラインの高さHより400mm高い位置以下にすることが好ましい。高炉出銑樋1の容量は、捨て張り部3の施工によって減少するが、上記の構成によれば、高炉出銑樋1の容量を十分に確保しつつ、メタルラインMLをひとりでに移動させる効果が得られやすい。捨て張り部3の施工レベルHは、想定メタルラインの高さHより350mm高い位置以下にすると、より好ましい。
【0042】
好ましい施工レベルは、高炉の出銑量や樋形状などに依存する。そのため、上記の好ましい数値範囲に限定されず、操業環境を観察して出銑樋ごとに経験的に決定されうる。
【0043】
以上の説明の前提となる想定メタルラインの高さHは、特許文献2に記載された公知の方法に従って算出できる。なお、高炉出銑樋1の底部1cの形状は、直線状、傾斜状、段差状などでありうるが、底部1cの形状にかかわらず想定メタルラインの高さHを算出可能である。
【0044】
〔出銑方法〕
本実施形態に係る出銑方法は、上記の高炉出銑樋1を高炉Fの出銑口Foの下流に設け、当該高炉出銑樋1に溶銑Mを流通する工程を含む。高炉出銑樋1に溶銑Mを流通すると、捨て張り部3が他の部位より早く損耗することによって、メタルラインMLおよびスラグラインSLがひとりでに下方に移動する。そのため、本実施形態に係る出銑方法によれば、立ち上がり部6を部分的に切削するなどの従来の方法によってメタルラインMLを調整する作業を省略しうる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0046】
以下に実施例および比較例を提示して、本発明に係る高炉出銑樋をさらに説明する。ただし本発明は以下の実施例により限定されない。
【0047】
〔試験方法〕
(実施例1~14)
上記の実施形態に即して、出銑口Foから10m以内の範囲にわたって捨て張り部3を設けた高炉出銑樋1を作成した。ここで、捨て張り用耐火物の組成が異なる12の実施例についてそれぞれ損耗量評価試験に供した。なお、いずれの例においても、想定メタルラインの高さHが150mmである樋を使用し、捨て張り部の上面の高さHを250mmとした。
【0048】
(比較例)
比較例として、捨て張り部を設けない以外は上記の実施例と同様の高炉出銑樋を作成した。当該比較例についても、上記の実施例と同様に損耗量評価試験に供した。
【0049】
(損耗量評価試験)
作成した高炉出銑樋1のそれぞれに溶銑を流通し、積算の流通量が140ktに達した時点で溶銑の流通を止めた。その後、高炉出銑樋1の側壁部の下側において最も損耗量が大きい箇所について、損耗量(mm単位)を測定した。損耗量を溶銑の流通量で除した値を、樋側面の損耗速度の最大値(mm/kt単位)とした。
【0050】
〔試験結果〕
まず、捨て張り用耐火物のAl含有量の影響について検討した。表1に示すように、実施例1~7のいずれについても、捨て張り部を設けなかった比較例に比べて、局所的な損耗を効果的に抑制できた。Al含有量が25質量%以上65質量%以下の場合(実施例2~5)は、局所的な損耗を一層抑制できた。実施例2~5では、捨て張り用耐火物の損耗速度がより適切な水準となり、樋側面の損耗が比較的広い範囲にわたって分散されたため、局所的な損耗が一層抑制されたといえる。
【0051】
表1:捨て張り用耐火物のAl含有量の影響
【表1】
【0052】
次に、捨て張り用耐火物のCaO含有量の影響について検討した。表2に示すように、実施例8~14のいずれについても、局所的な損耗を効果的に抑制できた。CaO含有量が3 .0質量%以上11質量%以下の場合(実施例9~12)は、局所的な損耗を一層抑制できた。実施例9~12では、捨て張り用耐火物の損耗速度がより適切な水準となり、樋側面の損耗が比較的広い範囲にわたって分散されたため、局所的な損耗が一層抑制されたといえる。
【0053】
表2:捨て張り用耐火物のCaO含有量の影響
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、たとえば高炉から流出する溶銑を流通するための高炉出銑樋に利用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 :高炉出銑樋
1a :高炉出銑樋の上流側
1b :高炉出銑樋の下流側
1c :高炉出銑樋の底部
1d :高炉出銑樋の側壁部の下側(メタルライン用耐火物施工部分)
1e :高炉出銑樋の側壁部の上側(スラグライン用耐火物施工部分)
2 :基底部
3 :捨て張り部
4 :スキンマーダンパー
4a :スキンマーダンパーの下端
5 :滓はね
5a :滓はねの下端
6 :立ち上がり部
F :高炉
Fo :出銑口
M :溶銑
ML :メタルライン
S :スラグ
SL :スラグライン
図1
図2
図3
図4