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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】中空ばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/02 20060101AFI20230421BHJP
   B60G 21/055 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
F16F1/02 B
B60G21/055
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021570417
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019498
(87)【国際公開番号】W WO2021229808
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000176833
【氏名又は名称】三菱製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】佐山 博信
(72)【発明者】
【氏名】広兼 徹
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038010(JP,A)
【文献】国際公開第2018/152226(WO,A1)
【文献】特開2007-127227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/02
B60G 21/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ばねの製造方法であって、
中空ばねに用いる所定の形状に曲げ加工された鋼管を提供する工程と、
前記鋼管の外面の曲げ加工された部分を含む少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加して前記鋼管の内面の少なくとも一部に圧縮残留応力を付与する工程と
を含み、前記鋼管の内面に圧縮残留応力を付与することにより前記鋼管の疲労寿命を向上させる方法。
【請求項2】
前記鋼管の外面に圧縮力を印加する工程は、前記鋼管を圧子でプレスする工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧子は、前記鋼管の曲げ加工された部分を含む外面の少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加することができるような形状の押圧面を有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記押圧面は、前記鋼管の外面に沿って周方向に延びる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記押圧面は、前記鋼管の周方向に半周にわたって延びる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記押圧面は、前記鋼管の軸方向に前記鋼管の外面に対向するアール形状を有する請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記圧子でプレスする鋼管は、平坦な面に支持された請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記鋼管は、熱処理されている請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、疲労寿命を向上させた中空ばね及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では軽量化の要求から中空ばねが検討されている。例えば、中空ばねの一種として、コーナリング時に生じる車体のロールを少なくするために、鋼管などを所定の形状に曲げ加工されてなる中空スタビライザーが提供されている。近年では省資源・省エネルギーなどの観点から軽量化の要求が更に高まる傾向があり、中実スタビライザーから中空スタビライザーへの需要は更に高まっている(特許文献1を参照)。
【0003】
中空ばねにおいては、通常は管の外面よりも内面の応力が低いが、外面にショットピーニングを施して圧縮残留応力を付与すると、外面の応力が緩和され、外面と内面の応力差は小さくなる。中空ばねを軽量化するために肉厚を薄くしていくと、この傾向がより顕著となり、内面を起点とする折損が生じることもある。
【0004】
一般的に疲労破壊は表面より生じるため、中空ばねの内面に圧縮残留応力を付与することにより内面の応力を緩和でき、中空ばねの疲労寿命を向上させることが可能である。例えば、特許文献2には、パイプの穴に反射部材を配置し、投射されたショットを反射部で反射し、内面にショットピーニングを施して内面に圧縮残留応力を付与する技術が開示されている。引用文献3には、ショットの反射部材をガイド部材によってパイプの穴の内面に対して支持し、ワイヤによってパイプの穴に沿って移動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-89325号公報
【文献】特開2009-107031号公報
【文献】特開2009-125827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2及び3に開示された技術では、パイプの穴に配置される反射部材、ガイド部材やワイヤ、ショットを回収するための集塵機など設備に一定の構成部品を必要としていた。また、パイプの曲げ部においては、ワイヤで反射部材を移動させるときにガイド部材が内面に沿って摺動するため、内面に擦り傷が発生する懸念があった。さらにまた、パイプの穴に反射部材等を配置して移動させるため、より複雑な形状や細径のパイプに対応しきれない場合もあった。
【0007】
本実施の形態は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、内面に圧縮残留応力を付与することにより疲労寿命を向上させた中空ばね及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、この出願に係る中空ばねは、鋼管で構成され、鋼管に負荷をかけたときに発生する鋼管の軸方向を向いた引張応力を軽減するように、鋼管は内面の少なくとも一部に鋼管の軸方向を向いた圧縮残留応力が付与されたものである。
【0009】
前記少なくとも一部は、中空ばねに負荷をかけたときに引張応力が集中するような鋼管の特定の部位の内面を含んでもよい。中空ばねはスタビライザーであり、前記少なくとも一部はスタビライザーを構成する鋼管の曲げ部を含んでもよい。
【0010】
また、この出願に係る中空ばねの製造方法は、中空ばねに用いる鋼管を提供する工程と、鋼管の外面の少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加して鋼管の内面の少なくとも一部に圧縮残留応力を付与する工程とを含み、鋼管の内面に圧縮残留応力を付与することにより鋼管の疲労寿命を向上させるものである。
【0011】
鋼管の外面に圧縮力を印加する工程は、鋼管を圧子でプレスする工程を含んでもよい。圧子は、鋼管の外面の少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加することができるような形状の押圧面を有してもよい。押圧面は、鋼管の外面に沿って周方向に延びていてもよい。押圧面は、鋼管の周方向に半周に達していてもよい。押圧面は、鋼管の軸方向に鋼管の外面に対向するアール形状を有していてもよい。圧子でプレスする鋼管は、平坦な面に支持されていてもよい。
【0012】
鋼管は、所定の形状に曲げ加工されていてもよい。鋼管は、熱処理されていてもよい。
【0013】
この出願に係る中空ばねは、上述の中空ばねの製造方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、中空ばねは、鋼管の内面に圧縮残留応力が付与され、疲労寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】中空ばねを製造する一連の工程を示すフローチャートである。
図2】管状部材を示す三面図である。
図3】管状部材のストレート部に適用した中空ばねの製造方法を示す斜視図である。
図4】管状部材のストレート部に適用した中空ばねの製造方法を示す側面図である。
図5】管状部材のストレート部に適用した中空ばねの製造方法を示す断面図である。
図6】圧縮加工した管状部材のストレート部の内面における最小主応力の分布を示す斜視図である。
図7】疲労試験による結果を示すグラフである。
図8】管状部材の曲げ部に適用した中空ばねの製造方法を示す斜視図である。
図9】管状部材の曲げ部に適用した中空ばねの製造方法を示す上面図である。
図10】管状部材の曲げ部に適用した中空ばねの製造方法を示す断面図である。
図11】圧縮加工した管状部材の曲げ部の内面における最小主応力の分布を示す斜視図である。
図12】管状部材に負荷をかけたときに発生する最大主応力の大きさの分布を示す上面図である。
図13図12の管状部材の曲げ部における最大主応力の大きさの分布を示す一部拡大斜視図である。
図14図13の曲げ部の内面における最大主応力の分布を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、中空ばね及びその製造方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態の中空ばねは、鋼管によって構成され、鋼管の外面に周方向から圧縮力を印加して鋼管の内面に圧縮残留応力を付与することにより、中空ばねの疲労強度を向上させたものである。
【0017】
本実施の形態では、中空ばねとして中空スタビライザーを想定して説明する。中空スタビライザーにおいては、端部に形成される他の部材との連結部を除いた中空スタビライザーの本体が本実施の形態の中空ばねに相当する。本実施の形態の中空ばねは、中空スタビライザーに限らず、例えば自動車のサスペンション用の中空コイルばねなど他の種類の中空ばねにも適用することができる。
【0018】
中空スタビライザーは、図1のフローチャートに示すように、素材の鋼管の受け入れ(ステップS1)、切断(ステップS2)、曲げ加工(ステップS3)、熱処理(ステップS4)、圧縮加工(ステップS5)、端部加工(ステップS6)、ショットピーニング(ステップS7)、塗装(ステップS8)という一連の工程によって製造される。
【0019】
本実施の形態の中空ばねの製造方法は、ステップS5の圧縮加工の工程に相当している。本実施の形態の中空ばねの製造方法においては、素材の受け入れ(ステップS1)、切断(ステップS2)、曲げ加工(ステップS3)、熱処理(ステップS4)の工程を経た鋼管が提供され、この鋼管に対して圧縮加工(ステップS5)を施している。圧縮加工(ステップS5)は、熱処理(ステップS4)の工程の直後ではなく、端部加工(ステップS6)の工程の後で行ってもよい。
【0020】
なお、図1に示した順序とは異なるが、中空スタビライザーの製造工程において、端部加工(ステップS6)は熱処理(ステップS4)の前に行ってもよい。この場合にも、圧縮加工(ステップS5)は熱処理(ステップS4)に続いて行われる。
【0021】
以下の説明では、便宜上、図1のステップS1からステップS4の工程を経て、ステップS5に相当する本実施の形態の中空ばねの製造方法が適用される鋼管を管状部材と称することにする。
【0022】
図2は、管状部材10を示す三面図である。図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は側面図である。管状部材10は、曲げ加工により略コ字状に形成され、第1端11の近くに第1曲げ部13、第2端12の近くに第2曲げ部14を有し、第1曲げ部13及び第2曲げ部14の他はストレート部を形成している。
【0023】
本実施の形態の中空ばねの製造方法として、圧子をプレスして管状部材10を圧縮加工する方法を説明する。本実施の形態では、管状部材10をストレート部と曲げ部とに分けてそれぞれ説明する。
【0024】
最初に、本実施の形態を管状部材10のストレート部に適用した場合について説明する。図3から図5は、管状部材10のストレート部に適用した本実施の形態の中空ばねの製造方法を示す図である。図3は斜視図であり、図4は側面図であり、図5図4の切断面V-Vにおける断面図である。
【0025】
管状部材10のストレート部は、図示しない台の略水平に延びる平坦な天面に支持されている。管状部材10の軸方向に所定の位置には、管状部材10の上半部を軸方向に所定幅で覆うように圧子1が配置される。
【0026】
圧子1は、管状部材10の外面の少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加できるような形状の押圧面1aを有している。詳しくは、押圧面1aは管状部材10の外面に沿って周方向に延び、管状部材10の上半部を覆うように周方向に半周に達している。また、圧子1は、管状部材10の軸方向に管状部材10の外面に対向して接するアール形状の押圧面1aを有している。圧子1は、工具鋼で構成されてもよい。
【0027】
このような圧子1をプレスすることによって管状部材10に周方向から圧縮力を印加して管状部材10を圧縮加工する。図5に示すように、アール形状を有する圧子1の押圧面1aは、管状部材10の径方向に延びる断面において管状部材10の外面に所定の範囲で接している。押圧面1aが管状部材10の外面に接する範囲は管状部材10の周方向に上半部に延び、押圧面1aが管状部材10の外面に接する範囲の全体は管状部材10の軸に直交する平面内で管状部材10の外面に沿って延びる上半円を形成する。
【0028】
このような状態で圧子1をプレスすると管状部材10には周方向から圧縮力が印加され、管状部材10の内面において圧子1の押圧面1aが外面に接する範囲の付近では管状部材10の軸方向に変形しようとするが、周囲の材料によって変位は拘束されている。このため、圧子1のプレスする荷重を取り除いたときに、管状部材10の内面には軸方向への圧縮残留応力が付与される。
【0029】
図6は、圧縮加工した管状部材10のストレート部の内面における最小主応力の分布を示す斜視図である。最小主応力の分布は、有限要素法により計算したものである。ここでの最小主応力は、負値である圧縮応力に相当している。圧子1のプレスする荷重を取り除いた後に最小主応力が残留していることが確認できたため、圧縮残留応力が付与されていることが明らかになった。最小主応力は、図中の矢印に示すように概ね管状部材10の軸方向を向いていることが見られる。
【0030】
管状部材10のストレート部に及ぼす圧縮加工の効果について、実験より確認した。圧縮加工する対象物として熱処理を施した鋼管を使用した。鋼管のサイズは、外径28.6mm、板厚4mm、長さ300mmであった。実験では、鋼管の内面に歪ゲージを貼り、圧縮加工の前後で鋼管の内面で検出した歪から残留応力を算出した。
【0031】
表1には、プレスの負荷荷重と歪及び残留応力との関係の実験結果が示されている。表1において、圧縮時とはプレスに負荷をかけたときの値であり、解放時とはプレスから負荷を取り除いたときの値である。
【0032】
【表1】
【0033】
表1を参照すると、プレスの負荷を取り除いた解放時において鋼管の内面の応力は負値であり、圧縮加工により鋼管の内面に圧縮残留応力が付与されたことが見られた。また、負荷荷重が増加するとともに解放時における鋼管の内面の負値の応力は減少し、圧縮加工において印加する圧縮力が大きいほど圧縮残留応力が増加することが見られた。
【0034】
さらに、管状部材10のストレート部に付与した圧縮残留応力の効果について、4点曲げ疲労試験を実施して確認した。疲労試験の対象物には、圧縮加工の実験で対象物とした鋼管について、圧縮加工の実験と同一の条件で表1に示した負荷荷重の内で152460Nのプレスにより圧縮加工したものを使用した。
【0035】
表2には、圧縮加工を施した鋼管と圧縮加工を施していない鋼管について、それぞれ2つの対象物について疲労試験を実施した結果を示している。図7には、表2に示した疲労試験の結果について横軸を耐久回数、縦軸を負荷応力としてグラフに示した。図7において、データ点Aは圧縮加工なし、データ点Bは圧縮加工ありである。
【0036】
【表2】
【0037】
図7において、疲労試験を実施した耐久回数の付近において、圧縮加工なしの2つのデータ点Aと、圧縮加工ありの2つのデータ点Bとについてそれぞれ結んで延長し、耐久回数と負荷応力と間の線形関係を得た。これらを参照すると、圧縮加工ありと圧縮加工なしのいずれの場合も、負荷圧力が増加するにつれて耐久回数が減少することが見られた。一方、同じ負荷応力に対応する耐久回数は、圧縮加工ありが圧縮加工なしよりも飛躍的に増加することが見られた。このことから、管状部材に圧縮加工を施して内面に圧縮残留応力を付与することによって、管状部材の疲労寿命が向上することが明らかになった。
【0038】
次に、本実施の形態を管状部材10の曲げ部に適用した場合について説明する。図8から10は、管状部材10の曲げ部に適用した本実施の形態の中空ばねの製造方法を示す図である。図8は斜視図であり、図9は上面図であり、図10図9の切断面X-Xにおける断面図である。
【0039】
管状部材10の曲げ部は、図示しない台の略水平に延びる平坦な天面に支持されている。管状部材10の軸方向に所定の位置には、管状部材10の上半部を軸方向に所定範囲で覆うように圧子1が配置される。管状部材10の曲げ部に適用する圧子1は、前述した管状部材10のストレート部に適用する圧子と異なる形状を有してもよいが、これらの対応関係を明らかにするため同一の参照符号を用いて説明する。
【0040】
圧子1は、管状部材10の外面の少なくとも一部に周方向から圧縮力を印加できるような形状の押圧面1aを有している。詳しくは、押圧面1aは管状部材10の外面に沿って周方向に延び、管状部材10の上半部を覆うように周方向に半周に達している。また、圧子1は、管状部材10の軸方向に管状部材10の外面に対向して接するアール形状の押圧面1aを有している。押圧面1aは、圧子1は、工具鋼で構成されてもよい。
【0041】
このような圧子1をプレスすることによって管状部材10に周方向から圧縮力を印加して管状部材10を圧縮加工する。管状部材10の曲げ部の場合にも、ストレート部について示した図5と同様に、アール形状を有する圧子1の押圧面1aは、管状部材10の径方向に延びる切断面において管状部材10の外面に所定の範囲で接している。図10に示すように、押圧面1aが管状部材10の外面に接する範囲は管状部材10の周方向に上半部に延び、押圧面1aが管状部材10の外面に接する範囲の全体は管状部材10の軸に直交する平面内で管状部材10の外面に沿って延びる上半円を形成する。
【0042】
このような状態で圧子1をプレスすると管状部材10には周方向から圧縮力が印加され、管状部材10の内面において圧子1の押圧面1aが外面に接する範囲の付近では管状部材10の軸方向に変形しようとするが、周囲の材料によって変位は拘束されている。このため、圧子1のプレスする荷重を取り除いたときに、管状部材10の内面には軸方向への圧縮残留応力が付与される。
【0043】
図11は、圧縮加工した管状部材10の曲げ部の内面における最小主応力の分布を示す斜視図である。最小主応力の分布は、有限要素法により計算したものである。ここでの最小主応力は、負値である圧縮応力に相当している。圧子1のプレスする荷重を取り除いた後に最小主応力が残留しているのが確認できたため、圧縮残留応力が付与されていることが明らかになった。図中の矢印に示すように、最小主応力は、概ね管状部材10の軸方向を向いていることが見られる。
【0044】
図12は、管状部材10に負荷をかけたときに発生する最大主応力の大きさの分布を示す上面図である。図12は、管状部材10の第1端11と第2端12との間に負荷をかけたときに発生する最大主応力の大きさの分布を有限要素法により求めたものである。ここでの最大主応力は、正値である引張応力に相当している。図中において暗い領域ほど最大主応力が大きいことを示し、黒色の領域で最大主応力が最も大きく、白色の領域で最大主応力が最も小さい。図12において、第1端11に近い第1曲げ部13において最大主応力が最も大きいことが見られる。
【0045】
図13は、図12の管状部材10の第1曲げ部13における最大主応力の大きさの分布を示す一部拡大斜視図である。第1曲げ部13において、最大主応力が大きい領域は、概ね管状部材10の軸方向に沿って延びていることが見られる。
【0046】
図14は、図13の第1曲げ部13における最大主応力の分布を示す図である。最大主応力の分布は、有限要素法により計算したものである。ここでの最大主応力も、正値である引張応力に相当している。図中の矢印に示すように、最大主応力の方向は、概ね管状部材10の軸方向を向いていることが見られる。
【0047】
ここで、図11に示した圧縮加工した管状部材10の曲げ部の内面における最小主応力の分布を参照すると、曲げ部において、圧縮加工により付与された圧縮残留応力に相当する最小主応力は概ね管状部材10の軸方向を向いている。図13及び図14に示したような管状部材に負荷をかけたときに発生する管状部材10の引張応力に相当する最大主応力の方向は最小主応力の方向と概ね同じ軸方向である。したがって、最小主応力に相当する負値の圧縮残留応力によって最大主応力に相当する正値の引張応力を低減することができる。
【0048】
このため、管状部材10の第1曲げ部13のような負荷によって大きな引張応力が発生する部位を圧縮加工して圧縮残留応力を付与することで、発生した引張応力を低減することにより引張応力を緩和することができる。このことによって、引張応力による管状部材10の内面の負担を軽減し、管状部材10の疲労寿命を向上させることができる。
【0049】
上述のように、本実施の形態によると、中空ばねを構成する管状部材10には、内面に圧縮残留応力が付与され、疲労寿命を向上させることができる。詳しくは、圧子1でプレスすることにより管状部材10のストレート部又は曲げ部にかかわらず、所望の部位の内面に圧縮残留応力を付与することができる。圧縮残留応力の付与は、圧子をプレスすることで足りるため、複雑な設備構成等は不要である。
【0050】
また、中空スタビライザーに負荷をかけたときに引張応力が集中して高応力になる曲げ部のような特定の部位の内面に圧縮残留応力を付与することができる。このことにより、高応力の部位の引張応力を圧縮残留応力で低減して疲労寿命を向上させることができる。また、管状部材10の曲げ部において、圧縮残留応力に相当する最小主応力の方向が、引張応力に相当する最大主応力の方向に一致するように圧縮残留応力を付与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、自動車などの車両に使用される中空ばね及びその製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 圧子
1a 押圧面
10 管状部材
11 第1端
12 第2端
13 第1曲げ部
14 第2曲げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14