(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-20
(45)【発行日】2023-04-28
(54)【発明の名称】吊りロープを具備した土木工事用袋体
(51)【国際特許分類】
E02B 3/04 20060101AFI20230421BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20230421BHJP
B65D 30/06 20060101ALI20230421BHJP
B65D 30/10 20060101ALI20230421BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
E02B3/04 301
D07B1/02
B65D30/06
B65D30/10 E
E02D17/20 102A
(21)【出願番号】P 2022058996
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】井坂 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】川端 聡史
(72)【発明者】
【氏名】坪田 憲紀
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-174226(JP,A)
【文献】特開2013-170323(JP,A)
【文献】特開2012-116638(JP,A)
【文献】特開2010-185150(JP,A)
【文献】特開平10-025681(JP,A)
【文献】特開2020-133086(JP,A)
【文献】実開昭63-158999(JP,U)
【文献】特開2009-019492(JP,A)
【文献】特表2005-533192(JP,A)
【文献】中国実用新案第214992150(CN,U)
【文献】特開2008-274698(JP,A)
【文献】実開平05-069199(JP,U)
【文献】特開平08-302580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04
D07B 1/02
B65D 30/06
B65D 30/10
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋本体の口部に吊りロープを周回して取り付け、前記吊りロープの両端部に一定長の範囲に亘って第1端末部と第2端末部を形成し、前記第1端末部の一部を第2端末部のロープ本体内に挿し込んで形成した第1重合拘束部と、前記第2端末部の一部を第1端末部のロープ本体内に挿し込んで形成した第2重合拘束部とを直列に少なくとも配置して無端構造に連結した
繊維製の吊りロープを具備した土木工事用袋体であって、
前記吊りロープは複数のストランドを一単位として組紐状又は網組状に編み込んだ中空の編みロープからなり、
前記複数のストランド
が複数のモノフィラメント糸の束糸からなり、
前記複数のモノフィラメント糸の束糸が同一方向に撚られて該複数のモノフィラメント糸の束糸に撚り戻り力が付与されるように、前記複数のモノフィラメント糸の束糸の周面にらせん突条による凹凸捩れ面を有し、
前記吊りロープの内外周面に前記凹凸捩れ面が露出していることを特徴とする、
吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【請求項2】
前記複数のストランドが周面に凹凸捩れ面を有する複数のモノフィラメント糸を主体とする束糸にマルチフィラメント糸、タスラン糸またはスパン糸の何れか一種または複数種を混入させたことを特徴とする、請求項1に記載の吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【請求項3】
前記第1重合拘束部および第2端末部を構成するロープ本体の内外周面が凹凸捩れ面を介して接面していることを特徴とする、請求項1または2に記載の吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【請求項4】
前記吊りロープに引張力が作用すると吊りロープの内外周面に形成した前記凹凸捩れ面が硬く変化することを特徴とする、請求項1または2に記載の吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【請求項5】
前記吊りロープの編目を拡開して第1および第2導入口を形成し、前記第1または第2導入口を通じて前記第1または第2端末部をロープ本体内に挿し込んであることを特徴とする、請求項1または2に記載の吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【請求項6】
前記吊りロープに引張力が作用すると前記第1および第2重合拘束部が縮径して内挿した第1および第2端末部を拘束することを特徴とする、請求項1または2に記載の吊りロープを具備した土木工事用袋体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は護岸工や根固め工等に適用可能な土木工事用袋体に関し、特に吊りロープを具備した土木工事用袋体に関する。
【背景技術】
【0002】
図7を参照して説明する。
図7(A)に示すように土木工事用袋体60は、巾着状を呈する網製の袋本体61と、袋本体61の口部の周囲に組み付けた吊りロープ70と口縛りロープ71を具備する(特許文献1)。
土木工事用袋体60は袋本体61の内部に砕石等の中詰材40を投入して製作した土木工事用構造体を各種の土木工事に使用している。
【0003】
吊りロープ70には、3~8tもの重量が負荷するため、吊りロープ70には引張強度に優れた合成繊維製の撚りロープ(一般的には三つ打ちロープ)を用いている。
、公知のショートスプライスを使用して吊りロープ70にエンドレス加工をしている(特許文献2~3)。
【0004】
袋本体61の網目62に周回して取り付けた撚りロープ製の吊りロープ70のエンドレス加工について説明すると、袋本体61から引き出した吊りロープ70の両端部を一定長に亘ってストランド71の撚りを戻す第1工程と、吊りロープ70の端部を互いに突き合わせ、スパイキーと呼ばれる手工具を使用して吊りロープ70側のストランド71間に挿し込みながら、撚り戻し側のストランド71を編み込む第2工程と、編み込みを終えて吊りロープ70側の外周面から突出した撚り戻し側のストランド71を切除する第3工程を経て行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-131447
【文献】実開平2-25592号公報
【文献】特開平10-236380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の撚りロープ製の吊りロープ70は次のような問題点を内包している。
【0007】
<1>ショートスプライスを行うには高度の熟練技術が必要である。吊りロープ70の編み込みに慣れた熟練技術者であっても多くの時間と労力を要する。
<2>不慣れな者が行うと編み込み作業に手数と時間が倍増するだけでなく、連結強度にバラツキが生じ易い。
ストランド71の編み込みにバラツキがあると、吊りロープ70の吊り上げ時にストランド71が緩んで抜け易い。
<3>ストランド71の編み込み作業において、吊りロープ70に先鋭なスパイキーを挿し込んでストランド間を広げることが困難である。
<4>先鋭なスパイキーを吊りロープ70に挿し込む際にストランドが損傷を受け易く、ストランドが損傷すると吊りロープ70の強度低下を招く。
<5>吊りロープ70の連結部72と、連結部72に隣り合うロープ本体との境界部に径差による段差が生じるだけでなく、編み込んだ複数のストランド71の切除端73が連結部72の終端外周面にはみ出す(
図7(B),(C))。
そのため、吊りロープ70を吊り上げする際に、吊りロープ70が袋本体61の網目62を摺動しようとすると、連結部72の境界部に形成された段差や切除端73が編地に引っ掛かってしまい円滑に摺動できない。
<6>吊りロープ70の連結部72が網目62に引っ掛かった状態で、吊りロープ70を無理に吊り上げると、一部の吊りロープ70と編地の係留部に過大な張力が作用して袋本体61が破断するおそれがある。
<7>土木工事用構造体を海洋で使用すると、繊維製の吊りロープ70にキンク現象(吊りロープ70の形くずれ)が発生し易い。特に三つ打ちロープはロープが片撚りされているためにキンク現象が生じ易くなる。
吊りロープ70にキンク現象が発生すると、ロープの強度が著しく低下し、土木工事用構造体を再度吊り上げるときに吊りロープ70が破断するおそれがある。
【0008】
本発明は以上の課題を解決できる吊りロープを具備した土木工事用袋体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、袋本体の口部に吊りロープを周回して取り付け、前記吊りロープの両端部に一定長の範囲に亘って第1端末部と第2端末部を形成し、前記第1端末部の一部を第2端末部のロープ本体内に挿し込んで形成した第1重合拘束部と、前記第2端末部の一部を第1端末部のロープ本体内に挿し込んで形成した第2重合拘束部とを直列に少なくとも配置して無端構造に連結した繊維製の吊りロープを具備した土木工事用袋体であって、前記吊りロープは複数のストランドを一単位として組紐状又は網組状に編み込んだ中空の編みロープからなり、前記複数のストランドが複数のモノフィラメント糸の束糸からなり、前記複数のモノフィラメント糸の束糸が同一方向に撚られて該複数のモノフィラメント糸の束糸に撚り戻り力が付与されるように、前記複数のモノフィラメント糸の束糸の周面にらせん突条による凹凸捩れ面を有し、前記吊りロープの内外周面に前記凹凸捩れ面が露出している。
本発明の他の形態において、前記複数のストランドが周面に凹凸捩れ面を有する複数のモノフィラメント糸を主体とする束糸にマルチフィラメント糸、タスラン糸またはスパン糸の何れか一種または複数種を混入させて構成してもよい。
本発明の他の形態において、前記第1重合拘束部および第2端末部を構成するロープ本体の内外周面が凹凸捩れ面を介して接面している。
本発明の他の形態において、前記吊りロープに引張力が作用すると吊りロープの内外周面に形成した前記凹凸捩れ面が硬く変化する。
本発明の他の形態において、前記吊りロープの編目を拡開して第1および第2導入口を形成し、前記第1または第2導入口を通じて前記第1または第2端末部をロープ本体内に挿し込んである。
本発明の他の形態において、前記吊りロープに引張力が作用すると前記第1および第2重合拘束部が縮径して内挿した第1および第2端末部を拘束する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上の構成により、次の効果のうち少なくとも一つを備える。
<1>吊りロープの連結部が袋本体の網目に引っ掛からず、しかも吊りロープの連結部が高い引張強度を発揮できるので、編みロープを土木工事用構造体の吊りロープとして使用することが可能となった。
<2>吊りロープとして改良した中空構造の編みロープを使用できるので、従来の三打ちロープ等の撚りロープと比べて軽量で取扱いが非常に便利となる。
<3>吊りロープの両端末部の一部を互いにロープ本体に挿し込むだけの簡単な作業で短時間のうちに連結できる。
そのため、従来の撚りロープの連結作業のような熟練技術を必要としない。
<4>吊りロープを構成するストランドが時計方向と反時計方向の両方向から編み込んであるため、従来の一般的な三つ打ちロープと比べて、キンクが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る吊りロープを具備した土木工事用袋体の説明図
【
図3】一部を省略した編みロープ製の吊りロープの説明図
【
図4】吊りロープのエンドレス加工方法の説明図で、(A)は加工前の準備の説明図、(B)は第1端末部を右方のロープ本体に挿通する工程の説明図、(C)は第2端末部を左方のロープ本体に挿通する工程の説明図、(D)は第1および第2端末部を対応する各ロープ本体に挿通を終えた工程の説明図
【
図5】袋本体の網目に挿通した吊りロープの連結部の説明図
【
図6】吊りロープの連結部の連結作用の説明図で、(A)は吊りロープの連結部の説明図、(B)は本発明の両挿し構造における吊りロープの連結部のモデル図
【
図7】従来の吊りロープを具備した土木工事用袋体の説明図で、(A)は土木工事用袋体の全体の説明図、(B)は撚りロープ製の吊りロープの連結部の説明図、(C)は(B)のC―Cの断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施例1]
1.発明が前提とする土木工事用袋体
図1,2を参照して本発明が前提とする土木工事用袋体10について説明する。
土木工事用袋体10は、巾着状を呈する網製の袋本体20と、袋本体20の口部22に周回して組み付けたエンドレス構造の吊りロープ30を少なくとも具備する。
なお、図中符号23は袋本体20の口部に組み付けた縛りロープである。
袋本体20に中詰材40を投入することで土木工事用構造体Aを製作できる。
【0013】
2.袋本体
袋本体20は口部22を有するネット生地製の有底袋である。
袋本体20のネット生地としては、例えばポリエステル(1500d/20本、強度100kgf/2脚、または破断伸度50%)等の合成繊維糸を二重に編成した極太ラッセル網地を使用できる。
【0014】
袋本体20を構成するネット生地の網目21は、その展開形状が四角形または六角形を呈していて、全体が均一の網目である。
網目21は中詰材40が抜け出ない寸法に設定してあり、一般的な網目寸法は25~50mmである。
【0015】
3.吊りロープ
吊りロープ30は袋本体20の口部の網目21に挿通して取り付けるロープであり、袋本体20に取り付けた後にロープの両端末部を編み込んでエンドレス構造とする。
本発明では、後述するように吊りロープ30として改良した中空構造の編みロープを使用する。
【0016】
<1>従来のブレートロープが吊りロープとして使用されなかった理由
一般に編みロープは、複数のストランドを編み込んで製作し、主に船舶用ワイヤーロープの代替材として使用されている。
従来の編みロープを、洗掘防止部材である中詰材を封入する袋本体20の吊りロープに使用された例はこれまでになかった。
【0017】
何故なら、吊りロープとして使用する場合、ロープの連結部が袋本体の網目に引っ掛からないように工夫して連結することと、中詰材の巨大な吊り荷重(2~10t)に耐えられるように、ロープの両端を高強度に連結し得ること、といった2つの要件を満たす必要がある。
【0018】
従来の編みロープは、前記した2つの要件を同時に満たすことが技術的に困難であった。
吊りロープの連結部が袋本体の網目に引っ掛かると、吊り上げ時に袋本体のネット生地が破れて中詰材が散乱する問題が起きる。
さらに、吊りロープの連結部に強度不足が生じると、吊り上げ時に吊りロープの連結部が解けることで土木工事用構造体が落下して重大事故につながるおそれがある。
以上の理由から、編みロープが土木工事用構造体の吊りロープとして使用されることがなかった。
【0019】
<2>本発明で使用する編みロープ製の吊りロープ
本発明では、上記した要件を満たすように編みロープの構成を改良することで、編みロープを土木工事用構造体の吊りロープ30として使用することを可能とした。
吊りロープ30は複数のストランド31を一単位として組紐状又は網組状に編み込んだ中空の編みロープからなる。
ストランド31は複数のモノフィラメント糸32の束糸からなる。
以降に
図3を参照しながら吊りロープ30について詳述する。
【0020】
<2.1>モノフィラメント糸
モノフィラメント糸32は単一の糸であり、マルチフィラメントと比較すると、繊維が太いために高い剛性と硬度を有している。
基本的にモノフィラメント糸32の外周面は平滑で滑り易い性質を有しているが、本発明ではモノフィラメント糸32の剛性と撚り戻り力を利用することで、吊りロープ30の摩擦力を改善した。
【0021】
<2.2>モノフィラメント糸の素材
モノフィラメント糸32の素材としては、例えば、ポリアリレート、アラミド、超高分子量ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等の化学繊維の紡績糸またはフィラメント糸若しくはフィラメント加工糸を使用できる。
【0022】
<2.3>ストランド
ストランド31は、複数のモノフィラメント糸32を束ねて束糸を製作し、これらモノフィラメント糸32の束糸全体を特定方向に捻って(捩って)使用する。
【0023】
<2.3.1>ストランドの撚り方向
複数のストランド31の撚り方向(S撚りまたはZ撚り)は、ストランドユニット33の組単位で同一である。
すなわち、ストランド31の撚り方向は、ストランドユニット33の撚り方向と逆の組合せ(普通撚り)とするか、または同一の組み合わせ(ラング撚り)とする。
【0024】
<2.3.2>ストランドの凹凸捩れ面
本発明では、ストランド31の周面に凹凸捩れ面31aを形成する。
ストランド31の周面に凹凸捩れ面31aを形成するのは、ストランド31の外周面を単にでこぼこの粗面に形成するだけでなく、吊りロープ30に引張力が作用したときにストランド31の周面の凹凸捩れ面31aを硬化させてストランド31の摩擦抵抗を格段に高めるためである。
【0025】
例えば、ストランドにマルチフィラメントを使用した場合、マルチフィラメントに撚りを与えても剛性が低いためマルチフィラメントに撚り戻り力(軸方向に向けた縮み力)はほとんど発生せず、しかもマルチフィラメントの外周面は平滑面として形成される。
【0026】
本発明では、モノフィラメント糸32の束糸に捻りを加えることで、ストランド31の外周面に凹凸捩れ面31aを形成する。
撚りを与える対象は、モノフィラメント糸32の単体ではなく、複数のモノフィラメント糸32の集合体である。
モノフィラメント糸32の束糸に捻りを加えることで、ストランド31を構成するモノフィラメント糸32の束糸の外周面にコブ状の突起体がらせん状に形成され、これらコブ状の突起体が不揃いの凹凸捩れ面31aを形成する。
【0027】
換言すれば、ストランド31の全体をらせん状に捩じることで、ストランド31の外周面にコブ状の連続性を有するらせん突条が形成される。
スランド31を捩った後のスランド31の見掛けの外径は捩る前のスランド31単体の径と比べて倍増する。
凹凸捩れ面31aとは、見掛けの外径が倍増したスランド31の表面に現れたらせん突条による凹凸面を指している。
【0028】
<2.3.3>凹凸捩れ面の形成原理
モノフィラメント糸32は剛性と硬さを有しているため、モノフィラメント糸32の束糸に対して強制的にトルクをかけて捩じると、モノフィラメント糸32の束糸が弾性変形した分だけ、トルクをかけた方向と逆方向の撚り戻り力がはたらく。
モノフィラメント糸32の束糸は、一部が塑性変形してねじり癖がつくものの、撚り戻り力が残留する。
モノフィラメント糸32の束糸に残留する撚り戻り力(軸方向へ向けた縮み力)は、撚り回数に比例して大きくなり、撚り回数が増えるほど、モノフィラメント糸32の束糸の外周面に凹凸捩れ面31aが顕著に表れる。
凹凸捩れ面31aは、モノフィラメント糸32の束糸の全長に亘って形成される。
このように本発明では、モノフィラメント糸32の撚り戻り力を利用して、ストランド31の束糸の外周面に不揃いの凹凸捩れ面31aを形成する。
【0029】
モノフィラメント糸32の束糸の撚り回数は、ストランド31の束糸の外周面に不揃いの凹凸捩れ面31aが形成できる回数である。
実用上、例えばモノフィラメント糸32の一本に400dモノフィラメントを80本束ねた場合には、モノフィラメント糸32の束糸全体に20回以上の撚り回数を与えるとよい。
【0030】
<2.4>ストランドユニット
吊りロープ30は複数のストランド31を1組とする複数組のストランドユニット33で構成し、これら複数組のストランドユニット33をS撚りとZ撚りの二方向から編み込む。
ストランドユニット33を構成する1組のストランド31の構成本数は、適宜選択が可能であるが、実用上は1~12本の範囲が好ましい。
ストランドユニット33の総組数は適宜選択が可能であるが、実用上は4~16組である。
【0031】
中空構造の吊りロープ30の内外周面には複数のストランド31が露出するので、吊りロープ30の内外周面には連続した凹凸捩れ面31aが形成される。
さらに吊りロープ30は、任意の位置でロープの拡縮が可能である。吊りロープ30を軸方向に向けて圧縮することで大径化してストランド31間の編目が開き、吊りロープ30を離間方向に緊張すると縮径してストランド31間の編目が閉じる。
【0032】
[吊りロープの製造方法]
以下に吊りロープ30の製作方法の一例について説明する。
複数のモノフィラメント糸32を供給する工程と、複数のモノフィラメント糸32の束糸を対象に既述した撚り加工を施し、外周面に不揃いの凹凸捩れ面31aを形成したストランド31を製作する工程と、複数のストランド31をまとめた複数組のストランドユニット33を編み込む工程のこれら複数工程を並行して行うことで吊りロープ30を機械的に製作する。
【0033】
[吊りロープの連結方法]
図4を参照して土木工事用袋体10の口部に周回して取り付けた吊りロープ30の両端末部の連結方法について説明する。
【0034】
<1>吊りロープの連結準備
図4(A)は、連結前における吊りロープ30の両端部に形成した第1および第2端末部35a,35bと、連結作業で使用する筒状の挿込治具50を示している。
【0035】
挿込治具50は第1および第2端末部35a,35bを挿入可能な筒部51と、筒部51の先端に一体に形成したテーパ状に先端部52を有していて、挿込治具50の筒部51内に第1または第2端末部35a,35bを挿入したまま、先端部52を吊りロープ30の内部に挿し込んで使用する。
挿込治具50は一例であって、他の挿込治具を使用してもよいし、挿込治具を使用せずに吊りロープ30の第1および第2端末部35a,35bを挿し込んでもよい。
【0036】
<2>第1端末部の挿し込み
図4(B)は吊りロープ30の第1端末部35aの先端を第2端末部35bの途中に逆向きで挿し込む工程の説明図である。
右方の第2端末部35bの端部近くに第1導入口36bを形成する。ロープ本体を軸方向に圧縮して拡径すると、ストランド間の編目が開いて導入口を形成できる。
この第1導入口36bを通じて第1端末部35aの一部を第2端末部35b内に挿し込む。
第2端末部35bと第1端末部35aとの重合範囲に第1重合拘束部37bを形成する。
【0037】
<3>第2端末部の挿し込み
図4(C)と(D)は吊りロープ30の第2端末部35bを第1端末部35aの途中に逆向きに挿し込む工程の説明図である。
左方の第1端末部35aの端部近くに形成した第2導入口36aを通じて第2端末部35bの一部を第1端末部35a内に挿し込み、第1端末部35aと第2端末部35bとの重合範囲に第2重合拘束部37aを形成する。
【0038】
吊りロープ30の連結部34は、第1および第2端末部35a,35bをロープ本体に両挿しした構造である。
したがって、連結部34では、第1重合拘束部37bおよび第2重合拘束部37aが直列に位置するとと共に、第1および第2重合拘束部37a,37bの間に第1、第2重合拘束部23a,23bの一部が露出する。
【0039】
以上のように、ロープ本体20の第1、第2端末部35a,35bの端部を、それぞれ対応する第1、第2端末部35a,35bの途中に逆向きに挿し込むだけの簡単な作業で以て、吊りロープ30の両端末部35a,35bの連結作業を行うことかできる。
【0040】
[吊りロープの連結部の特性]
【0041】
<1>吊りロープの連結部と袋本体の網目の摺動性
図5を参照して吊りロープ30の連結部34と袋本体20の網目21の摺動性について説明する。
吊りロープ30の連結部34において、第1および第2端末部35a,35bがロープ本体の内部に挿入されているので、ロープの端部がロープ本体の表面に突出せず、突起物が一切発生しない。
さらに、吊りロープ30の連結部34とロープ本体の境界部に大きな段差が生じない。
そのため、吊りロープ30が袋本体20の網目21を摺動する際に、吊りロープ30の連結部34が袋本体20の網目21に引っ掛かることがなく、円滑に摺動することができる。
したがって、吊りロープ30の吊り上げ時に袋本体20のネット生地が破れる心配がない。
【0042】
<2>吊りロープの連結部の引張強度
図6を参照して吊りロープ30の連結部34の引張強度について説明する。
図6(B)は同図(A)に示した第1および第2端末部35a,35bはそれぞれロープ本体に両挿した連結部34の連結構造をデフォルメして示したものである。
吊りロープ30の連結部34は、以下に説明する複数の要因によって高い引張強度を発揮する。
【0043】
<2.1>ロープの把持力(拘束力)による要因
連結部34の両端に離間方向へ向けて張力(荷重)FR、FLが作用すると、第1および第2重合拘束部23a,23bの両端部にも張力FR、FLが作用するため、第1および第2重合拘束部23a,23bに均等な把持力G1,G2が生じる。
把持力G1,G2は、第1および第2重合拘束部23a,23bの全長に亘って作用し、張力FR、FLに比例して大きくなるので、第1および第2重合拘束部23a,23bにおける摩擦抵抗力が増して連結部34の引張強度が高くなる。
【0044】
<2.2>凹凸捩れ面の噛み合いによる要因
本発明では、各ストランド31の周面に形成された凹凸捩れ面31aが、吊りロープ30の内外周面に表れる。
そのため、ロープ本体を重合させた第1および第2重合拘束部23a,23bにおいては、吊りロープ30の内外周面の凹凸捩れ面31aが互いに噛み合うことで摩擦抵抗が高くなる。
【0045】
<2.3>凹凸捩れ面の硬質変化による要因
本発明では、以下に説明するように、吊りロープ30に改良した編みロープを使用することで、吊りロープ30に作用する張力を利用して吊りロープ30の連結部34の連結強度が高くなる。
土木工事用構造体の吊り上げ時において、吊りロープ30に巨大な引張力が作用する。
吊りロープ30に作用した巨大な引張力は各ストランド31に作用し、各ストランドの束糸が撚り戻り力に抗して軸方向に伸長する。
各ストランド31の束糸が伸長限界に達することで、ストランド31の束糸の表面に形成された凹凸捩れ面31aが硬く変化する。
吊りロープ30の内外周面に形成した凹凸捩れ面31aが硬く変化することで、ロープ本体を重合させた第1および第2重合拘束部23a,23bにおける接合面の摩擦抵抗が格段に高くなる。
すなわち、吊りロープ30の内外周面に形成した凹凸捩れ面31aの摩擦抵抗は、吊りロープ30の張力作用前後を比べると、張力作用後が作用前と比べて格段に高くなる。
【0046】
以上説明したように、本発明では上記したように、吊りロープ30の連結部34が袋本体20の網目21に引っ掛からず、しかも上記した複数の要因によって吊りロープ30の連結部34が高い引張強度を発揮できるので、編みロープを土木工事用構造体の吊りロープ30として使用することが可能となった。
吊りロープ30が実用に耐えられることは実際実験で確認済みである。
【0047】
[実施例2]
実施例1では、ストランド31を周面に凹凸捩れ面を有する複数のモノフィラメント糸32の束糸で構成する形態について説明したが、これに限定されるものではない。
ストランド31は、複数のモノフィラメント糸32を主体とする束糸にマルチフィラメント糸、タスラン糸またはスパン糸(紡績糸)の何れか一種または複数種を混入させて構成してもよい。
【0048】
モノフィラメント糸32にマルチフィラメントまたはタスラン糸を混入させると、フィラメント糸やスパン糸は繊維1本がモノフィラメントと比較して、繊維が細く、表面積が大きいため、摩擦力が高いことから、100%モノフィラメント糸32の束糸からなる場合と比べて、ストランド31の周面の摩擦抵抗を高めることができる。
【0049】
複数のモノフィラメント糸32に対するマルチフィラメントまたはタスラン糸の混入量(混入比率)は適宜選択が可能である。
【0050】
[実施例3]
実施例1では、第1および第2重合拘束部23a,23bにより連結部34を構成する形態について説明したが、連結部34を構成する重合拘束部の列設数は、少なくとも2つ以上が列設してあればよい。
すなわち、ロープ本体に挿し込んで第1および第2端末部35a,35bのそれぞれをロープ本体の外部に出した後に、再びロープ本体に挿し込み、ロープ本体の片側の複数箇所で出し入れを行って、第1重合拘束部23aまたは第2重合拘束部23bの外方に第3、第4の重合拘束部(図示省略)を列設してもよい。
重合拘束部の列設は適宜選択が可能である。
【0051】
本例のように、連結部34を構成する重合拘束部の列設数を4つ以上に増やすことで、連結部34の連結強度をさらに高くすることができる。
【符号の説明】
【0052】
A・・・・・・土木工事用構造体
10・・・・・土木工事用袋体
20・・・・・袋本体
21・・・・・袋本体の網目
22・・・・・袋本体の口部
23・・・・・縛りロープ
30・・・・・吊りロープ
31・・・・・ストランド
31a・・・・凹凸捩れ面
32・・・・・モノフィラメント糸
33・・・・・ストランドユニット
34・・・・・吊りロープの連結部
35a・・・・第1端末部
35b・・・・第2端末部
36a・・・・第2導入口
36b・・・・第1導入口
40・・・・・中詰材
【要約】
【課題】ロープの編み込みに不慣れな者でも、簡単な結合操作で以て強固に連結できる吊りロープを具備した土木工事用袋体を提供すること。
【解決手段】吊りロープ30が複数のストランド31を一単位として編み込んだ中空の編みロープからなり、複数のストランド31が周面に凹凸捩れ面31aを有する複数のモノフィラメント糸32の束糸からなり、吊りロープ30の内外周面に凹凸捩れ面31aが露出するように構成した。
【選択図】
図3