(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法および光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/25 20060101AFI20230424BHJP
G02B 6/245 20060101ALI20230424BHJP
G02B 6/255 20060101ALI20230424BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
G02B6/25
G02B6/245
G02B6/255
G02B6/44 331
(21)【出願番号】P 2020501769
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006034
(87)【国際公開番号】W WO2019163748
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018028092
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久原 早織
(72)【発明者】
【氏名】高崎 卓
(72)【発明者】
【氏名】豊川 修平
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-102915(JP,A)
【文献】特開平05-264848(JP,A)
【文献】特開2004-331431(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153734(WO,A1)
【文献】特開2016-070966(JP,A)
【文献】特開2013-186243(JP,A)
【文献】特開2015-182912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0039440(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0370543(US,A1)
【文献】特開2012-053121(JP,A)
【文献】特開2015-229609(JP,A)
【文献】国際公開第2002/051763(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/088801(WO,A1)
【文献】特表2013-500936(JP,A)
【文献】特表2008-527420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
6/24-6/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の光ファイバの接続する側の端部のファイバ被覆層を除去してガラスファイバを露出する工程、
該ガラスファイバの端面同士を融着接続する工程、
前記ガラスファイバの露出部分の周囲に保護樹脂を再被覆する工程を有する、光ファイバの製造方法であって、
前記ファイバ被覆層はヤング率0.5MPa以下の内周側のプライマリ樹脂層とヤング率800MPa以上の外周側のセカンダリ樹脂層からなり、
前記露出する工程の前に、除去する部分の前記ファイバ被覆層に紫外線を照射して前記プライマリ樹脂層のヤング率を増加させる工程を有し、
前記露出する工程は、前記プライマリ樹脂層と前記セカンダリ樹脂層を含む前記ファイバ被覆層の被覆際の形状を前記端部側に向けて細くなるテーパの形状とする工程であり、
前記再被覆する工程は、前記被覆際を含むように前記保護樹脂を被覆する工程である、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造方法および光ファイバに関する。
本出願は、2018年2月20日出願の日本出願第2018-028092号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、ユーザからの要求に応じて、例えば、海底ケーブルのように数十kmに及ぶ長尺の光ファイバが製造される。このような長尺の光ファイバは、通常、複数本の光ファイバを融着接続して形成される。この場合、接続部を保護する保護樹脂と元の被覆樹脂との界面に剥離や割れが生じないことが求められる。例えば、特許文献1には、ファイバ被覆層の被覆際の形状をテーパ状とし、ファイバ被覆層際に被さる部分の保護樹脂を厚くすることによって、保護樹脂の剥がれや割れが生じるのを抑制することが開示されている。
【0003】
一方、100Gbit/s以上の伝送速度に対応する光伝送ネットワークにおいて、光ファイバのコアあたりの通信容量を拡大するために、より高い光信号対雑音比(Optical Signal-to-Noise Ratio:OSNR)が要求される。OSNRを改善する一つの方法として、光ファイバの非線形性を低く抑えることが挙げられる。そのためには、光ファイバの実効断面積Aeffを大きくするとともに、光ファイバの伝送損失を抑える必要がある。
【0004】
光ファイバの非線形屈折率をn2とし、光ファイバの実効断面積をAeffとすると、光ファイバの非線形性はn2/Aeffによって規定される。実効断面積Aeffが大きいほどコアへの光パワー密度の集中が避けられるので、非線形性は低減される。しかし、実効断面積Aeffが大きくなると、側圧に対して弱くなり、ボビン巻時の損失が大きくなってしまう。さらに、ボビン巻き状態での損失が大きく、また緩和速度が遅いことから、ボビン巻き状態での損失の大きさから光ファイバ本来の損失(例えば光ファイバ束状態での損失)の大きさに変化するまでに長時間を要する。そのため、特許文献2には、低損失化のためには光ファイバの被覆層を2層構造とし、中心側のプライマリ樹脂層にヤング率の低い(柔らかい)樹脂を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-102915号公報
【文献】特開2015-219271号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示に係る光ファイバの製造方法は、一対の光ファイバの接続する側の端部のファイバ被覆層を除去してガラスファイバを露出する工程、該ガラスファイバの端面同士を融着接続する工程、前記ガラスファイバの露出部分の周囲に保護樹脂を再被覆する工程を有する、光ファイバの製造方法であって、前記ファイバ被覆層はヤング率0.5MPa以下の内周側のプライマリ樹脂層とヤング率800MPa以上の外周側のセカンダリ樹脂層からなり、前記露出する工程の前に、除去する部分の前記ファイバ被覆層に紫外線を照射して前記プライマリ樹脂層のヤング率を増加させる工程を有し、前記露出する工程は、前記プライマリ樹脂層と前記セカンダリ樹脂層を含む前記ファイバ被覆層の被覆際の形状を前記端部側に向けて細くなるテーパの形状とする工程であり、前記再被覆する工程は、前記被覆際を含むように前記保護樹脂を被覆する工程である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本開示によって製造される光ファイバの接続部の軸方向に沿った断面図である。
【
図1B】本開示によって製造される光ファイバの接続部以外の箇所における径方向の断面図である。
【
図2】
図1Aの光ファイバの接続部の要部を示す図である。
【
図3】本開示の光ファイバの接続部に係るシミュレーションの実施例として用いた光ファイバの諸元を示す図表である。
【
図4A】
図3の諸元で示す実施例1の光ファイバを用いて、テーパの角度とテーパの長さをそれぞれ変えた際の、保護樹脂に作用する最大応力の大きさを示す図である。
【
図4B】
図3の諸元で示す実施例2の光ファイバを用いて、テーパの角度とテーパの長さをそれぞれ変えた際の、保護樹脂に作用する最大応力の大きさを示す図である。
【
図5】2層構造の被覆層を有する従来の光ファイバの接続部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
2層構造の被覆層を有する光ファイバを用いた海底ケーブルでは、接続部の保護樹脂に亀裂が発生する場合がある。
図5は、2層構造の被覆層を有する従来の光ファイバの接続部の構成を示す図であり、ガラスファイバ10と、ガラスファイバ10の周囲に中心側のプライマリ樹脂層21と外周側のセカンダリ樹脂層22からなる2層構造のファイバ被覆層20を設けた光ファイバ同士を接続したものである。それぞれの光ファイバの端部はファイバ被覆層20が除去され、露出したガラスファイバ10同士が融着接続部2で融着接続される。
【0010】
図5に示す光ファイバの接続部では、被覆層は融着接続部2側に向かって小径となるようにテーパ形状に除去されている。例えば、砥石により被覆層を研削する方法では、プライマリ樹脂層21が柔らかいとプライマリ樹脂層21が変形して研削がうまくできないため、
図5では、セカンダリ樹脂層22のみにテーパが形成されてプライマリ樹脂層21にはテーパが形成されていない場合を示している。そして、融着接続部2とファイバ被覆層20の除去部全体を覆うように、保護樹脂30がモールドされて再被覆されている。
【0011】
このように、従来の接続部では、短尺ファイバ同士の端部の被覆を除去して融着接続し、接続部に保護樹脂30を再被覆している。そして、プライマリ樹脂層21が柔らかく、セカンダリ樹脂層22が固い光ファイバの融着においては、融着後に光ファイバが引っ張られると、セカンダリ樹脂層22はファイバの軸方向に変形しにくい一方、プライマリ樹脂層21はファイバの軸方向に変形しやすい。このため、融着部分の被覆部分において、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層の境界部分を起点にクラックXが発生しやすいという問題があった。
【0012】
プライマリ樹脂層21のヤング率が大きい場合は保護樹脂30にクラックが発生しにくいことから、プライマリ樹脂層21までテーパ状に加工する必要はなかった。しかしながら、プライマリ樹脂層21のヤング率が小さい場合は、保護樹脂にクラックが発生するという問題に対して、発明者は、プライマリ樹脂層の領域まで含めてテーパ形状となるようにファイバ被覆層を除去することによって、クラックの発生を抑制できることを見出した。すなわち、ファイバ被覆層除去後のプライマリ樹脂層21とセカンダリ樹脂層22との被覆際(境界付近)がテーパとして形成されていることが望ましい。
【0013】
本開示は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層の境界で保護樹脂にかかる応力を小さくして光ファイバの接続部においてファイバ被覆層の除去部分とガラスファイバの露出部分を覆う保護樹脂でのクラックの発生を防止することができ、通信容量が大きく長距離伝送が可能な光ファイバの製造方法および光ファイバを提供することを、その目的とする。
【0014】
[本開示の効果]
本開示によれば、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層の境界で保護樹脂にかかる応力を小さくして光ファイバの接続部において被覆層の除去部分とガラスファイバの露出部分を覆う保護樹脂でのクラックの発生を防止することができ、通信容量が大きく長距離伝送が可能な光ファイバの製造方法および光ファイバを提供することができる。
【0015】
[本開示の実施態様の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示に係る光ファイバの製造方法は、一対の光ファイバの接続する側の端部のファイバ被覆層を除去してガラスファイバを露出する工程、該ガラスファイバの端面同士を融着接続する工程、前記ガラスファイバの露出部分の周囲に保護樹脂を再被覆する工程を有する、光ファイバの製造方法であって、前記ファイバ被覆層はヤング率0.5MPa以下の内周側のプライマリ樹脂層とヤング率800MPa以上の外周側のセカンダリ樹脂層からなり、前記露出する工程の前に、除去する部分の前記ファイバ被覆層に紫外線を照射して前記プライマリ樹脂層のヤング率を増加させる工程を有し、前記露出する工程は、前記プライマリ樹脂層と前記セカンダリ樹脂層を含む前記ファイバ被覆層の被覆際の形状を前記端部側に向けて細くなるテーパの形状とする工程であり、前記再被覆する工程は、前記被覆際を含むように前記保護樹脂を被覆する工程である。
【0016】
本態様によれば、ファイバ被覆層のプライマリ樹脂層に柔らかい樹脂を用いたとしても、被覆層除去後のプライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層との被覆際(境界付近)がテーパとして形成されているため、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層の境界で保護樹脂にかかる応力を小さくすることができる。このため、光ファイバの接続部において被覆層の除去部分とガラスファイバの露出部分を覆う保護樹脂でのクラックの発生を防止することができ、通信容量が大きく長距離伝送が可能な光ファイバを得ることができる。
また、本態様によれば、ファイバ被覆層のプライマリ樹脂層に柔らかい樹脂を用いたとしても、ファイバ被覆層を除去する前に、ファイバ被覆層を硬化させることができるため、ファイバ被覆層の被覆際をテーパの形状に加工することが容易に行える。このため、砥石や剃刀などの工具を用いてファイバ被覆層を除去する際に、スキルの差による形状のばらつきが発生しにくく、製造した光ファイバケーブルの品質を保つことができる。
【0022】
本態様によれば、ファイバ被覆層のプライマリ樹脂層に柔らかい樹脂を用いたとしても、被覆層除去後のプライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層との被覆際(境界付近)が、所定の長さを有するテーパとして形成されているため、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層の境界で保護樹脂にかかる応力を小さくすることができる。このため、光ファイバの接続部において被覆層の除去部分とガラスファイバの露出部分を覆う保護樹脂でのクラックの発生を防止することができ、通信容量が大きく長距離伝送が可能な光ファイバを得ることができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示に係る光ファイバの製造方法および光ファイバの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、複数の実施形態について組み合わせが可能である限り、本発明は任意の実施形態を組み合わせたものを含む。なお、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0026】
図1Aは、本開示によって製造される光ファイバの接続部の軸方向に沿った断面図であり、
図1Bは、本開示によって製造される光ファイバの接続部以外の箇所における径方向の断面図である。また、
図2は、
図1の光ファイバの接続部の要部を示す図である。本開示によって製造される光ファイバは、複数本の短尺の光ファイバ1を融着接続して形成される。本実施形態の光ファイバ1は、コア11およびクラッド12を含む光伝送体となるガラスファイバ10と、プライマリ(一次)樹脂層21とセカンダリ(二次)樹脂層22を含むファイバ被覆層20とを備えている。
【0027】
ガラスファイバ10は、ガラス製の部材であって、例えばSiO2ガラスからなる。ガラスファイバ10は、光ファイバ1に導入された光信号を伝送する。コア11は、例えばガラスファイバ10の中心軸線を含む領域に設けられている。コア11は、GeO2を含み、さらにフッ素元素を含んでいてもよい。クラッド12は、コア11を囲む領域に設けられている。クラッド12は、コア11の屈折率より低い屈折率を有する。クラッド12は、純SiO2ガラスから成ってもよいし、フッ素元素が添加されたSiO2ガラスから成っていてもよい。
【0028】
光ファイバ1の融着接続は、互いに接続される一対の光ファイバ1の端部のファイバ被覆層20が除去されて、ガラスファイバ10が露出される。そして、ファイバ被覆層20の除去により裸にされたガラスファイバ10の端面同士が突き合わされ、アーク放電等により、突き合わせた端面が融着接続部2として接続される。融着接続部2とその近傍の裸のガラスファイバ10は、傷が付きやすく機械的に弱い状態にあるため、保護樹脂30により再被覆される。保護樹脂30には、ファイバ被覆層と同種の紫外線硬化型樹脂が用いられる。保護樹脂30の被覆は、所定の成形用型を用いて樹脂を注入することによって形成することができる。
【0029】
本実施形態では、光ファイバ1のファイバ被覆層20として、光ファイバ1の損失増加の要因となるボビン巻時の側圧の影響を受けにくくするため、中心側のプライマリ樹脂層21には、ヤング率が0.5MPa以下の低い樹脂を使用している。また、外周側のセカンダリ樹脂層22には、プライマリ樹脂層21よりもヤング率が高いヤング率800MPa以上の樹脂を用いている。また、保護樹脂30のヤング率の大きさは、プライマリ樹脂層21の樹脂よりも大きく、セカンダリ樹脂層22の樹脂よりも小さい。すなわち、保護樹脂30は硬化後のヤング率が、プライマリ樹脂層21のヤング率とセカンダリ樹脂層22のヤング率との間のものを用いる。好ましくは、例えば、硬化後のヤング率が10MPaから500MPaの樹脂を用いる。
【0030】
プライマリ樹脂層21を構成する樹脂としては、両末端反応性オリゴマーおよび片末端反応性オリゴマーの双方若しくはいずれか一方を組成に含むものが好適である。また、片末端反応性オリゴマーが50%以上含まれていれば、側圧に対する強さを十分に確保することができる。両末端反応性オリゴマーとしては、例えば、
H-(I-ポリプロピレングリコールA)2-I-H
H-(I-ポリプロピレングリコールB)2-I-H
H-(I-ポリプロピレングリコールC)2-I-H
が挙げられる。また、片末端反応性オリゴマーとしては、例えば
H-(I-ポリプロピレングリコールA)2-I-X
H-(I-ポリプロピレングリコールB)2-I-X
H-(I-ポリプロピレングリコールC)2-I-X
が挙げられる。但し、Hはヒドロキシエチルアクリレートの残基を示し、Iはイソホロンジイソシアネートの残基を示し、Xはメタノールを示し、ポリプロピレングリコールA-Cはそれぞれ次のポリプロピレングリコールの残基を示す。すなわち、ポリプロピレングリコールAはACCLAIM 4200(分子量:4,000、不飽和度:0.003meq/g)、ポリプロピレングリコールBはXS-3020C(分子量:3,000、不飽和度:0.03meq/g)、ポリプロピレングリコールCはEXCENOL 3020(分子量:3,000、不飽和度:0.09meq/g)の残基を示す。ウレタンオリゴマーは、H-(I-プロピレングリコール)2-I-Hで示される。
【0031】
なお、両末端反応性オリゴマーおよび片末端反応性オリゴマーは上記の材料に限られない。上記以外に例えば分子量が1,000~13,000、好ましくは、2,000~8,000であり、かつその不飽和度が、0.01meq/g未満、好ましくは、0.0001~0.009meq/gであるポリプロピレングリコールまたはポリプロピレングリコール・エチレングリコールの共重合体であってよい。また、必要に応じて、これと少なくとも1種の他のポリオールとの混合物に由来する少なくとも1種の(メタ)アクリレート基を有するウレタン化合物を含有するものであってもよい。
【0032】
また、セカンダリ樹脂層22を構成する樹脂としては、例えば次のものが挙げられる。オリゴマーとしては、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、水酸基含有アクリレート化合物を反応させて得られるものが挙げられる。
ポリオール化合物としては、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。水酸基含有アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。
モノマーとしては、環状構造を有するN-ビニルモノマー、例えば、N-ビニルカプロラクタムが挙げられる。これらのモノマーを含むと硬化速度が向上するので好ましい。この他、イソボルニルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどの単官能モノマーや、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートまたはビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオールジアクリレートなどの多官能モノマーが用いられる。
【0033】
本実施形態においては、光ファイバ1の端部におけるプライマリ樹脂層21とセカンダリ樹脂層22を含むファイバ被覆層20の被覆際は、端部側に向かって被覆径が小さくされたテーパTが形成されている。すなわち、テーパTは、少なくともプライマリ樹脂層21とセカンダリ樹脂層22との境界Aの箇所を含んで形成されている。そして、保護樹脂30は、このテーパ形状にされたファイバ被覆層20の部分と裸のガラスファイバ10に被さるように成形される。この構成により、ファイバ被覆層20の被覆際の端面が覆われ、露出することがない。また、ファイバ被覆層20の被覆際がテーパ形状とされていることから、被覆際の保護樹脂30がファイバ被覆層20に被さる重なり部分を厚くできるとともに、この部分での接着面積を増加させ、保護樹脂30との接着力を高めることができる。また、後述するように、テーパTの長さを所定の長さ以上とすることによって、保護樹脂30に作用する内部応力を小さくすることができる。
【0034】
本実施形態では、プライマリ樹脂層21にヤング率が0.5MPa以下の柔らかい樹脂を使用しているため、内周側のプライマリ樹脂層21に達するまでテーパを形成することは難しい。このため、光ファイバ端部のファイバ被覆層20を除去する前に、除去する部分のファイバ被覆層20に紫外線を照射してプライマリ樹脂層21のヤング率を増加させた後に、ファイバ被覆層20の被覆際をテーパの形状に加工することが望ましい。ガラスファイバ10の周囲のファイバ被覆層20は、光ファイバ1の製造時に、ガラスファイバの周囲に塗布され紫外線の照射によって硬化するが、融着接続前に、除去する部分のファイバ被覆層20にさらに紫外線を照射することによって、プライマリ樹脂層21のヤング率を増すことができる。
【0035】
また、ファイバ被覆層20を除去する部分の硬度を増すために、除去する部分の光ファイバ1を冷却することによってプライマリ樹脂層21のヤング率を増加させた後、ファイバ被覆層20の被覆際をテーパの形状としてもよい。この場合、光ファイバ1の冷却は、例えばマイナス10°C前後で行うことが望ましい。ファイバ被覆層20を除去してテーパTを形成するためには、砥石や剃刀などの工具を用いることができる。なお、光ファイバ1を冷却することによって、プライマリ樹脂層21のヤング率を増加させた場合は、砥石によってファイバ被覆層20を除去する際に発熱するため、剃刀を使用することが望ましい。
【0036】
次に、ファイバ被覆層20に形成するテーパTの長さと角度θを変化させた場合に、保護樹脂30に作用する内部応力の最大値のシミュレーション結果について説明する。
図3は、本開示の光ファイバの接続部に係るシミュレーションの実施例として用いた光ファイバの諸元を示す図表である。
図4A、
図4Bは、
図3の諸元で示す光ファイバを用いて、テーパの角度とテーパの長さをそれぞれ変えた際の、保護樹脂に作用する最大応力の大きさを示す図である。
【0037】
シミュレーションでは、実施例1、2の2種類の光ファイバを対象とした。実施例1、2の光ファイバは、プライマリ樹脂層とセカンダリ樹脂層のヤング率が異なるだけで、他の諸元は同じである。具体的には、両者とも、ガラスファイバの外径を125μm、プライマリ樹脂層の外径を200μm、セカンダリ樹脂層の外径を245μm、接続部に設けた保護樹脂の外径を260μmとし、ガラスファイバのヤング率を74500MPaとした。そして、実施例1の光ファイバでは、プライマリ樹脂層のヤング率を0.15MPa、実施例2の光ファイバでは、プライマリ樹脂層のヤング率を0.45MPaとした。
【0038】
シミュレーションでは、実施例1、2の光ファイバについて、
図2で示すテーパTの角度θと、テーパTの光ファイバの軸方向長さLを変化させた際の、保護樹脂30の内部応力の最大値の変化について調べた。ここで、テーパTの光ファイバの軸方向長さLは、セカンダリ樹脂層22のテーパTの起点からプライマリ樹脂層21のテーパTの終点までの長さを光ファイバの軸方向に投影した長さである。また、テーパTの角度θについては、実際の作業性を考慮して、5~10度のテーパが用いられるため、シミュレーションにおいてはテーパTの角度θは5度と10度とした。
【0039】
図4Aおよび
図4Bは、それぞれ実施例1および実施例2の光ファイバについての結果を示す図であり、横軸にテーパの軸方向長さLを、縦軸に保護樹脂の内部応力の最大値をプロットしたものであり、テーパの角度θが10度の場合を丸印、5度の場合を四角印でプロットしている。
実施例1および実施例2の光ファイバにおいて、テーパの角度θが10度の場合も5度の場合も、テーパの軸方向長さLが長くなるほど、内部応力の最大値は減少する傾向があり、テーパ角度が小さい5度の場合の方がテーパの軸方向長さLの変化に対する内部応力の最大値の変化が大きくなっている。また、プライマリ樹脂層21に実施例2より柔らかい樹脂を用いた実施例1の場合の方が、内部応力の最大値が大きくなることが分かった。
【0040】
次に、保護樹脂に作用する内部応力の最大値の大きさとクラックXの発生の関係を求めるために、実際の光ファイバを用いて実験を行った結果、保護樹脂に作用する内部応力の最大値が15MPaを超えるとクラックが発生することが分かった。
したがって、内部応力の最大値が、15MPaの閾値以下となるテーパTの形状の特徴を、シミュレーション結果から求めると、通常用いられるテーパ角度において、テーパの軸方向長さLが280μm以上あれば、内部応力の最大値が、15MPaの閾値以下となることが確認できた。なお、テーパの軸方向長さLが280μm以上のテーパを形成した場合は、いずれの場合においても、テーパTはプライマリ樹脂層21とセカンダリ樹脂層22との境界Aを含んで形成される。また、テーパTはガラスファイバ10まで達していなくてもよい。
【0041】
プライマリ樹脂層のヤング率が大きいほど保護樹脂の内部応力の最大値は小さくなるため、クラックの発生を防止することができる。しかし、プライマリ樹脂層のヤング率を大きくすると、先述したように、ボビン巻時の損失が大きくなってしまう。このため、ボビン巻時の損失を考慮した場合、プライマリ樹脂層のヤング率は0.5MPa以下が望ましい。そして、実施例2では、プライマリ樹脂層のヤング率が0.45MPaの場合を示したが、ヤング率が0.5MPa以下であっても、テーパの軸方向長さLを280μmとすることによって、保護樹脂の内部応力の最大値を15MPaの閾値以下とすることができる。また、セカンダリ樹脂層のヤング率は800MPa以上であれば、保護樹脂の内部応力の最大値への影響は少なく、テーパの軸方向長さLを280μmとすることによって、保護樹脂の内部応力の最大値を15MPaの閾値以下とすることができる。
【符号の説明】
【0042】
1…光ファイバ、2…融着接続部、10…ガラスファイバ、11…コア、12…クラッド、20…ファイバ被覆層、21…プライマリ樹脂層、22…セカンダリ樹脂層、30…保護樹脂。