(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】Mg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/00 20060101AFI20230424BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20230424BHJP
B21J 1/04 20060101ALI20230424BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20230424BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
C22C23/00
C22F1/06
B21J1/04
B21J5/00 D
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630C
C22F1/00 640A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
(21)【出願番号】P 2018121265
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】512292522
【氏名又は名称】カミテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130823
【氏名又は名称】三浦 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100210778
【氏名又は名称】角田 世治
(72)【発明者】
【氏名】上手 康弘
(72)【発明者】
【氏名】峯田 才寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕之
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279675(JP,A)
【文献】特開2011-058074(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104561709(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104004950(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00
C22F 1/06
B21J 1/04
B21J 5/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体心立方構造を有する固溶体単相であり、平均結晶粒径が3μm以下であることを特徴とするMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金。
【請求項2】
焼きなましした体心立方格子構造を有する固溶体単相のMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金に加える相当ひずみのトータルが
3.2乃至4.0に達するまで加工する巨大ひずみ加工を施すことを特徴とする
平均結晶粒径が3μm以下であるMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金の製造方法。
【請求項3】
巨大ひずみ加工は、繰り返しチャンネルダイ圧縮接合によるものであることを特徴とする請求項2記載の
平均結晶粒径が3μm以下であるMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム-リチウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造用金属材料として、マグネシウム合金が注目されている。特に、マグネシウ
ム-リチウム合金は、軽量であり、体心立方格子構造BCCの結晶構造のものは加工性に
優れることから、自動車分野や航空機分野における構造用金属材料として期待されている
。
【0003】
自動車分野や航空機分野に利用される構造用金属材料は、軽量性、強度、耐食性等のい
ずれの機械特性も優れていることを要求される。
しかし、リチウムLiは電気化学的に卑な元素であるため、リチウム含有量を多く含む
マグネシウム-リチウム合金は、耐食性に乏しかった。
【0004】
現在、耐食性に優れたマグネシウム-リチウム合金、圧延材、成型品及びその製造方法
が提供されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のマグネシウム-リチウム合金は、Liを10.5質量%以上、16.0質
量%以下と、Alを0.50質量%以上、1.50質量%以下と、Caを0.10質量%
以上、0.50質量%以下と、Zn、Mn、Si、Zr、Ti、又は原子番号57~64
の希土類金属元素のいずれか1種を5.0質量%以下とを含有し、残部Mgからなる、平
均結晶粒径が5μm以上、40μm以下、引張強度が150MPa以上で、β相単相であ
る。このβ相単相のマグネシウム-リチウム合金は、加工性と耐食性に優れたものである
。
【0007】
しかし、構造用金属材料として利用されるマグネシウム-リチウム合金は、軽くて強度
も優れたものでなければならない。
【0008】
上記問題を解決するために、強度と耐食性の両方が優れたマグネシウム-リチウム合金
及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金は、平均結晶粒径が3μm以下の体心立方格子構造を有する固溶体単相であるようにしたものである。
【0010】
本発明の平均結晶粒径が3μm以下であるMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金の製造方法は、焼きなましした体心立方格子構造を有する固溶体単相のMg-Li-Al-Ca-Zn-Si合金に加える相当ひずみのトータルが3.2乃至4.0に達するまで加工する巨大ひずみ加工を施すようにしたものである。
また、巨大ひずみ加工は、繰り返しチャンネルダイ圧縮接合によるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、構造用金属材料として利用できる、強度及び耐食性の両方が優れたマグ
ネシウム-リチウム合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のマグネシウム-リチウム合金の製造方法を表わす図である。
【
図2】本発明のマグネシウム-リチウム合金の結晶構造を表わす図である。
【
図3】本発明のマグネシウム-リチウム合金の強度を表わす図である。
【
図4】本発明のマグネシウム-リチウム合金の耐食性を表わす図である。
【
図5】本発明のマグネシウム-リチウム合金の機械特性を表わす図である。
【
図6】本発明のマグネシウム-リチウム合金の特徴を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者らは、従来のマグネシウム-リチウム合金の強度及び耐食性を高めるために
鋭意研究した結果、マグネシウム-リチウム合金に大きなひずみを加えることで結晶粒径
を微細化して強度を高めることができ、同時に耐食性も高まる現象を見出した。巨大ひず
み加工によってマグネシウム-リチウム合金へ与えられる変形量(相当ひずみ)と、合金
の微細構造、強度及び耐食性の関連性について検証を進めた結果、加工性に優れる体心立
方構造を有する固溶体単相のマグネシウム-リチウム合金に繰り返しチャンネルダイ圧縮
接合を施すことにより、マグネシウム-リチウム合金の強度及び耐食性を同時に向上する
ことが分かった。
巨大ひずみ加工法は、繰り返しチャンネルダイ圧縮接合による加工法に限るものではな
く、材料(マグネシウム-リチウム合金)に大きな変形を付与し結晶粒径を微細化する加
工法であればよい。
【0014】
本発明のマグネシウム-リチウム合金及びマグネシウム-リチウム合金の製造方法は、
マグネシウム-リチウム合金の強度及び耐食性の両方を同時に向上させることを実現する
ものである。
【実施例】
【0015】
本発明のマグネシウム-リチウム合金は、体心立方格子構造BCCを有する固溶体単相
であり、平均結晶粒径が3μm以下のものである。本発明のマグネシウム-リチウム合金
の製造方法は、基材となるマグネシウム-リチウム合金に、繰り返しチャンネルダイ圧縮
接合による巨大ひずみ加工を施して得るものである。
本実施例では、基材となるマグネシウム-リチウム合金に、株式会社三徳製LA143
合金、商品名「SanMaLia」(登録商標)を用いた。このマグネシウム-リチウム
合金は、表1に示す化学組成からなるものであり、体心立方構造BCCを有する固溶体で
ある。
【0016】
【0017】
基材となるマグネシウム-リチウム合金は、約14質量%のリチウムLi、約3質量%
のアルミニウムAl、約0.2質量%のカルシウムCaを含み、その他亜鉛Zn、ケイ素
Si、鉄Fe、銅Cu、ニッケルNi、マンガンMnを含み、残部がマグネシウムMgで
あるマグネシウム合金LA143である。
なお、本発明のマグネシウム-リチウム合金の化学組成はこれに限られるものではない
。基材となるマグネシウム-リチウム合金には、異種元素を成分(化学組成)として含有
したものを含む。異種元素の選択肢として、Al、Zn、希土類元素が考えられる。異種
元素量の許容範囲は、実用材の場合、9質量%以下になると考えられる。
また、BCC単相を得るために、Liは11質量%以上とする。
【0018】
本実施例に用いる基材は、長さL8mm×幅W8mm×厚さH1mmに切り出したマグ
ネシウム-リチウム合金LA143の試験片(以下、「LA143合金シート試料」とい
う。)であり、300℃で1時間保持する熱処理(焼きなまし)を施したもの(以下、「
熱処理材」という。)である。
本発明のマグネシウム-リチウム合金は、BCC単相のマグネシウム-リチウム合金を
基材とするものである。鋳造まま(成型品)の場合、材料組織は冷却過程における熱でB
CC相とHCP相の複合となっている。上記熱処理は、BCC相とHCP相の複合となっ
ている材料組織を均一なBCC単相へ変化させるための熱処理である。
材料組織を均一なBCC単相へ変化させるための熱処理は、本発明において不可欠なも
のであるが、熱処理温度を300℃に限定するものではなく、300℃乃至400℃程度
が好ましいと考える。
【0019】
(巨大ひずみ加工について)
図1は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の製造方法を表わす図である。
図1の模式図は、巨大ひずみ加工法の一つである、繰り返しチャンネルダイ圧縮接合A
CCB法(accumulative channel-die compression-bonding)を示すものである。プレス
加工(圧縮接合)を施した材料(基材となるマグネシウム-リチウム合金の試験片)を重
ね合わせ、更にプレス加工を施すことにより、材料に大きな変形を付与する。
まず、熱処理した長さL8mm×幅W8mm×厚さH1mmのLA143合金シート試
料(基材)を切断し、長さL4mm×横W8mm×厚さH1mmの試験片に等分する(図
1(a))。
次に、等分した2枚の試験片の表面を機械研磨し、アセトン(有機溶剤)で脱脂する(
図1(b))。
次に、機械研磨した表面を接合させて2枚の試験片をチャンネルダイ(コの字型の金型
)に重ねて2mm厚にして置く(
図1(c))。
次に、圧下率50%、ひずみ速度1.0s
-1で、プレスして圧縮接合し、長さL8m
m×幅W8mm×厚さH1mmの試料を得る(
図1(d))。
図1(a)乃至(d)の切断、研磨、脱脂、重ね、圧縮接合を巨大ひずみ加工の1サイ
クルとする。
【0020】
本実施例では、LA143合金シート試料に1サイクル乃至5サイクルの巨大ひずみ加
工を施した。1サイクル乃至5サイクルの巨大ひずみ加工を施したLA143合金シート
試料は、
図2乃至
図6中の実験例1~実験例5のマグネシウム-リチウム合金である。
【0021】
本実施例では、1サイクル乃至5サイクル施したマグネシウム-リチウム合金(実験例
1~実験例5のマグネシウム-リチウム合金)を用意した。
巨大ひずみ加工によるマグネシウム-リチウム合金の変形量は、相当ひずみεによって
評価する。相当ひずみεは、チャンネルダイを用いた場合は、下記数式1よって求められ
る。
【数1】
ここで、rは圧下率(本実施例では0.5)である。数式1により、1サイクルの巨大
ひずみ加工で得られる試験片(実験例1のマグネシウム-リチウム合金)に加えられる相
当ひずみεは0.8と計算される。5サイクルの巨大ひずみ加工で得られる試験片(実験
例5のマグネシウム-リチウム合金)に加えられる相当ひずみεは4.0である。
これまでの巨大ひずみ加工(ACCB法やARB法)の研究によれば、巨大ひずみ加工では、
微結晶粒化による材料の強化が、少なくともトータルの相当ひずみεが4.0に達するま
で進むことが示されていることから、本実施例では、トータルの相当ひずみεが4.0に
達する5サイクルまで、LA143合金シート試料に加工を施した。
【0022】
(マグネシウム-リチウム合金の結晶構造)
図2は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の結晶構造を表わす図である。
X線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab 9kW)を用いて、熱処理材お
よび実験例1~5のマグネシウム-リチウム合金の結晶構造を調べた。
LA143合金シート試料の表面をエメリー紙とアルミナスラリー(粒径0.1μm)
を用いて機械研磨し、2%硝酸エタノール溶液でエッチングし測定試料とした。X線回折
測定の条件は、線源:CuKα(λ=0.154nm)、測定法:連続法、回折角:2θ
=30~80°、ステップ幅:0.01°、加速電圧:40kV、管電流:200mAで
行った。測定面は、TD-LD面(圧延方向と垂直な面)について測定した。
測定の結果、
図2に示すX線回折パターンが得られた。得られたX線回折パターンを解
析(株式会社リガク, PDXL software version 2.7.3.0)した結果、実験例1~5の
マグネシウム-リチウム合金の結晶構造は、いずれもBCC単相であった。巨大ひずみ加
工前の試料(熱処理材)はBCC単相であり、巨大ひずみ加工を施した後も変化していな
いことが分かった。
【0023】
(マグネシウム-リチウム合金の結晶粒径)
実験例1~5の試験片(マグネシウム-リチウム合金)の結晶粒径を観察した。
熱処理材(巨大ひずみ加工を施していないマグネシウム-リチウム合金)の平均結晶粒
径は10μm程度であったが、実験例5の試験片(5サイクルの巨大ひずみ加工を施した
マグネシウム-リチウム合金)の平均結晶粒径は0.5-1.0μm程度まで微細化され
ていた。これにより、マグネシウム-リチウム合金に巨大ひずみ加工を施すことで、マグ
ネシウム-リチウム合金の結晶粒径を微細化できることが分かった。
なお、上記平均結晶粒径は、数十個程度の結晶粒があるSEM像から切片法により算出
した値である。
【0024】
(マグネシウム-リチウム合金の硬度)
図3は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の強度を表わす図である。
巨大ひずみ加工前後の試料のビッカース硬度は、ビッカース試験機(島津製作所製、HMV-G21ST)を用いて測定した。TD-LD面に、室温において荷重0.1kgで圧痕を15点打ち込み、この平均値を試料のビッカース硬度とした。加工前のLA143合金シート試料のビッカース硬度は57.8HVであった。加工を1サイクル加え相当ひずみを導入するとビッカース硬度が増し、5サイクルの加工を施した後のLA143合金シート試料は加工前の約1.5倍の86.1HVであった(
図3)。巨大ひずみ加工し、相当ひずみを導入することで高い強度のマグネシウム-リチウム合金が得られた。なお、いずれの試料においても、圧痕の対角線はほぼ同じ長さであった。このことから、加工を加えた後においても、硬度の異方性が無いことがわかった。
本実施例において、ビッカース硬度は、相当ひずみ4.0程度の加工を施した時がピークであった。
また、巨大ひずみ加工を施したLA143合金シート試料のビッカース硬度は、平均結晶粒径が3μm以下になると、汎用Mg合金(例えばAZ31合金のビッカース硬度60-70HV程度)を上回った。
たとえば、汎用Mg合金のビッカース硬度70HV程度を上回る、実施例4(相当ひずみε=3.2)、実施例5(相当ひずみε=4.0)の巨大ひずみ加工を施したLA143合金シート試料(図3)の平均結晶粒径は3μm以下になる。
【0025】
(マグネシウム-リチウム合金の耐食性)
図4は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の耐食性を表わす図である。
巨大ひずみ加工前後の試料(熱処理材)を、塩化ナトリウム水溶液による浸漬試験を行
った。予め重量と表面積を計測した試料を、室温で3.5質量%塩化ナトリウム水溶液に
浸漬した。浸漬時間が30分経過するごとに重量減少量を計測し、TD-LDの表面積で
除して単位表面積あたりの重量減少量を求めた。
実験例1~実験例5のマグネシウム-リチウム合金のいずれの試料についても、塩化ナ
トリウム水溶液への浸漬によって重量が減少し、浸漬時間と共に重量減少量が増した。3
時間経過後の重量減少量は、加工前の試料で最も大きく、加工を加えるごとに小さくなっ
た。1サイクルの巨大ひずみ加工によっても、マグネシウム-リチウム合金の耐食性が向
上した。5サイクルの加工を加えた試料が最も重量減少量が小さかった。巨大ひずみ加工
を加えることで、耐食性が高いマグネシウム-リチウム合金が得られた。
本耐食性試験により、巨大ひずみ加工によって結晶粒径が微細化されることにより、マ
グネシウム-リチウム合金の耐食性を改善できることが分かった。
【0026】
図5は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の機械特性を表わす図であり、実験例1
~5のマグネシウム-リチウム合金について、ビッカース硬度と耐食性(3時間浸漬後の
重量減少量)の関係を示すものである。
ビッカース硬度と耐食性との関係では、巨大ひずみ加工のサイクルが増えると、マグネ
シウム-リチウム合金のビッカース硬度と耐食性が同時に向上する。体心立方構造を有す
る固溶体単相のマグネシウム-リチウム合金に大きな変形を付与し、ACCBのサイクル
を増加させることすなわち結晶粒径をより微細化することにより、強度と耐食性を同時に
向上させることができることが分かった。
【0027】
図6は、本発明のマグネシウム-リチウム合金の特徴を表わす図であり、ビッカース硬
度と密度との関係(比硬度:単位密度当たりのビッカース硬度、HV
S)を示すものであ
る。
図6中には、従来提供されている軽金属・軽合金の代表格である、純マグネシウム、
マグネシウム合金、純アルミニウム、アルミニウム合金を例示した。
LA143合金シート試料の変形量の増加に伴う硬度の増加が確認された。巨大ひずみ
加工を施した実験例1~実験例5のマグネシウム-リチウム合金の比硬度は、純マグネシ
ウムの3.5倍であり、純アルミニウムの5.3倍に達した。また、実用マグネシウム合
金及びアルミニウム合金以上であった。
巨大ひずみ加工を施した実験例1~実験例5のマグネシウム-リチウム合金は、より軽
くて強度が高いものであり、従来の軽金属・軽合金を凌ぐものであった。
【0028】
(マグネシウム-リチウム合金の硬度と耐食性との関係)
巨大ひずみ加工を施した材料は、ホール・ペッチ則に従い、結晶粒径が微細化すると硬
度が増すことが知られている。一方、実施例に示す耐食性試験(
図4)から、結晶粒径が
微細化すると耐食性が増すことが明らかになった。
本発明は、材料(基材となるマグネシウム-リチウム合金)の組成を変えることなく、
強度と耐食性の両方を向上させるものであることから、LA143合金以外のマグネシウ
ム-リチウム合金(例えば、LA141合金といったMg-Li-Al合金)にも適用す
ることができる。
【0029】
以上のように、ACCB法による巨大ひずみ加工は硬さと耐食性を同時に向上させる有
効な方法であることが、明らかになった。X線回折の結果から、マグネシウム-リチウム
合金LA143はBCC単相であった。LA143合金の硬さは、ACCBサイクルの回
数を重ねるごとに増大した。LA143合金の耐食性は、ACCBサイクル数を増やすと
向上した。比硬度(HVs)は、他のMg合金やAl合金よりも高い値であった。
したがって、ACCBによって得られたLA143合金は、高い比硬度と、高い耐食性
を備えた材料ということができる。このLA143合金は、良好な機械的特性と耐食性を
備えた超軽量構造材料の一つとして有望なものである。
【0030】
本発明のマグネシウム-リチウム合金及びその製造方法によると、コーティングや更な
る元素添加を必要としないことから、その軽量性を損なうことなく、材料(基材となるマ
グネシウム-リチウム合金)の強度及び耐食性の両方を同時に改善することができる。
また、本発明のマグネシウム-リチウム合金は、軽量性、強度、耐食性に優れたもので
あることから、航空宇宙分野や医療分野等への応用が期待される。