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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】腫瘍抗原ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230424BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230424BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230424BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230424BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230424BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230424BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230424BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230424BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K31/713
A61K35/17
A61K38/17
A61P35/00
C07K16/30
C07K19/00
C12N5/0783
C12N15/12
C12Q1/6886 Z
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2017559207
(86)(22)【出願日】2016-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2016088904
(87)【国際公開番号】W WO2017115798
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2015257195
(32)【優先日】2015-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】金関 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】コーチン ビタリー
(72)【発明者】
【氏名】菊池 泰弘
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】川合 理恵
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0154915(US,A1)
【文献】国際公開第2004/029070(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第2915883(EP,A1)
【文献】特表2010-508861(JP,A)
【文献】特表2005-520543(JP,A)
【文献】特表2018-518937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
C12N1/00-7/08
C12Q1/00-3/00
A61K31/00-49/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質の部分ペプチドのアミノ酸配列からなり、HLA-A24結合性を有する、腫瘍抗原ペプチドまたはその置換体であって、
PVT1由来の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号1で表され、SUV39H2由来の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号2で表され、ZNF724P由来の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号3で表され、SNRNP40由来の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号4で表され、DYRK4由来の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号5で表され、
配列番号1~5で表されるアミノ酸配列において、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されていてもよく、および/または、C末端のアミノ酸がロイシンもしくはイソロイシンに置換されていてもよい、前記腫瘍抗原ペプチドまたはその置換体。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5で表される、請求項1に記載の腫瘍抗原ペプチド。
【請求項3】
複数のエピトープペプチドが連結されたポリエピトープペプチドであって、該エピトープペプチドとして、請求項1または2に記載の腫瘍抗原ペプチドを少なくとも1つ含む、前記ポリエピトープペプチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載の腫瘍抗原ペプチドまたは請求項3に記載のポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターを含む、遺伝子導入用組成物。
【請求項7】
(A)請求項1または2に記載の腫瘍抗原ペプチドもしくは請求項3に記載のポリエピトープペプチド、または、
(B)前記(A)のペプチドおよび/もしくはポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド
と、抗原提示能を有する細胞とを、in vitroで接触させることを含む、抗原提示細胞の製造方法。
【請求項8】
以下の(a)~(e):
(a)請求項1または2に記載の抗原ペプチドまたは請求項3に記載のポリエピトープペプチド、
(b)請求項4に記載のポリヌクレオチド、
(c)請求項5に記載の発現ベクター、
(d)SUV39H2およびSNRNP40からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(e)請求項1または2に記載の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞
のいずれかを有効成分として含有する、細胞傷害性T細胞の誘導剤。
【請求項9】
(A)請求項1または2に記載の腫瘍抗原ペプチドもしくは請求項3に記載のポリエピトープペプチド、
(B)前記(A)のペプチドおよび/もしくはポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド、または、
(C)請求項1または2に記載の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞
と、末梢血リンパ球とを、in vitroで接触させることを含む、細胞障害性T細胞の誘導方法。
【請求項10】
以下の(a)~(e):
(a)請求項1または2に記載の抗原ペプチドまたは請求項3に記載のポリエピトープペプチド、
(b)請求項4に記載のポリヌクレオチド、
(c)請求項5に記載の発現ベクター、
(d)SUV39H2およびSNRNP40からなる群から選択されるタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(e)請求項1または2に記載の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞を特異的に傷害する細胞傷害性T細胞
のいずれかを有効成分として含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドまたは請求項3に記載のポリエピトープペプチドを有効成分として含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
アジュバントをさらに含む、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
がんの予防および/または治療剤である、請求項10~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
がんの予防および/または治療用ワクチンである、請求項10~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
免疫チェックポイント阻害剤とともに用いられる、請求項10~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドとHLA-A24とを含む、HLA-A24マルチマー。
【請求項17】
請求項16に記載のHLA-A24マルチマーを含む、診断薬。
【請求項18】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドとHLA-A24との複合体を認識する、T細胞受容体様抗体。
【請求項19】
請求項18に記載のT細胞受容体様抗体を含有する腫瘍検出剤。
【請求項20】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドとHLA-A24との複合体を認識する、キメラ抗原受容体。
【請求項21】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドとHLA-A24との複合体を認識するT細胞受容体を含む、人工CTL。
【請求項22】
請求項1または2に記載の抗原ペプチドとHLA-A24との複合体と、リンパ球表面抗原とを特異的に認識する、二重特異性抗体。
【請求項23】
ZNF724P遺伝子の発現産物を検出するための検出剤を含む、肺、大腸、小腸、脳、心臓、胎盤、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、卵巣および血液からなる群から選択される1または2以上の生体試料に由来する細胞を含む細胞集団において腫瘍細胞を検出するための、組成物。
【請求項24】
遺伝子の発現産物が、mRNAおよび/または内在性ポリペプチドである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
遺伝子の発現産物がmRNAであり、前記遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーを含む、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
遺伝子の発現産物が内在性ポリペプチドであり、該内在性ポリペプチドと特異的に反応する検出物質を含む、請求項23~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
検出物質が、抗体である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
請求項10~15のいずれか一項に記載の医薬組成物を用いたがんの処置方法が有効な治療対象患者を選択するための診断薬であって、請求項16に記載のHLA-A24マルチマー、請求項18に記載のT細胞受容体様抗体および/または請求項23~27のいずれか一項に記載の組成物を含む、前記診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞に特異的に発現する遺伝子を利用した腫瘍細胞を検出するための検出剤、がんの予防および/または治療剤として有用な、該遺伝子由来の腫瘍抗原ペプチドおよびそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外科療法(手術)、放射線療法、および抗がん剤などを用いる化学療法ががんの三大療法といわれてきた。しかしながら、これらの治療法には、病巣の箇所やステージによっては病巣の完全な除去が困難であったり、強い副作用があったりといった問題も多い。実際、これまでに開発された抗がん剤の中には、その治療効果が十分ではないものや、強い副作用を伴うものも多い。
【0003】
かかる欠点の解消のため、近年では異常細胞において特異的にまたは過剰に発現する特定の標的を狙い撃ちにする分子標的治療が盛んに研究されている。そこからさらに進んで、自己免疫系を活性化することで腫瘍細胞を攻撃する免疫療法が注目されている。しかしながら免疫療法は、自己の免疫を活性化するため副作用が少ないものの、高い治療効果を有するものはまだ少なく、さらなる研究が求められている。
【0004】
生体による腫瘍細胞やウイルス感染細胞等の排除には細胞性免疫、とりわけ細胞傷害性T細胞(CTL)が重要な働きをしている。例えば腫瘍細胞の排除の場合、CTLは、腫瘍細胞上の抗原ペプチド(腫瘍抗原ペプチド)と主要組織適合遺伝子複合体(MHC:Major Histocompatibility Complex)クラスI抗原(ヒトの場合はHLAクラスI抗原と称する)との複合体を認識し、腫瘍細胞を攻撃・破壊する。つまり腫瘍抗原ペプチドは、腫瘍に特有のタンパク質、すなわち腫瘍抗原タンパク質が細胞内で合成された後、プロテアーゼにより細胞内で分解されることによって生成される。そして生成された腫瘍抗原ペプチドは、小胞体内でMHCクラスI抗原(HLAクラスI抗原)と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示される。この抗原提示に係る複合体を腫瘍特異的なCTLが認識し、細胞傷害作用やリンフォカインの産生を介して抗腫瘍効果を示す。このような一連の作用の解明に伴い、腫瘍抗原タンパク質または腫瘍抗原ペプチドをいわゆるがん免疫療法剤(がんワクチン)として利用することにより、がん患者の体内のがん特異的CTLを増強させる治療法が開発されつつある。
【0005】
腫瘍抗原ペプチドは、腫瘍細胞において発現するタンパク質が断片化されて提示されたものである。したがって、がん免疫療法の開発においては、腫瘍細胞において発現するタンパク質、とくに正常細胞では発現が観察されないが、腫瘍細胞においては発現が観察される腫瘍抗原タンパク質の探索が重要となる。
腫瘍細胞においては、正常組織では精巣以外に発現が観察されないタンパク質がいくつも発現していることが知られており、「がん精巣抗原(CT抗原)」と呼ばれている。CT抗原は主に精巣でしか発現していないため、これを標的とした免疫療法では正常細胞が標的となることがなく、したがってがん免疫療法の好適な標的として探索が進められており、これまでにSOX2、OR7C1、DNAJB8などといったタンパク質ががん精巣抗原として報告されている。また、がん精巣抗原は、いわゆるがん幹細胞/がん起始細胞(CSC/CIC)と呼ばれる高い増殖能を有するがん細胞において特に強く発現していることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2010/050268号
【文献】国際公開第2012/164936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、腫瘍細胞を特異的に検出するための検出剤、腫瘍細胞特異的に提示される腫瘍抗原ペプチド、これを有効成分として含有するがんの予防および/または治療に有用な医薬組成物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
腫瘍細胞に特異的に抗原提示されるペプチドを探索する中で、腫瘍細胞に特異的に発現するタンパク質の配列中にHLAと結合すると予測されるエピトープ領域が複数存在したとしても、当該タンパク質のどの部分が実際に生体内でHLAと結合して細胞表面に抗原提示され得るか同定することは容易ではない。そこで、本発明者らはかかる課題を解決するため、実際に腫瘍細胞に抗原提示されているペプチド(ナチュラルペプチド)を直接同定する方法を開発し、多数のナチュラルペプチドを同定した。そしてかかるペプチドのうちのいくつかが、正常細胞においては精巣以外の組織でほとんど発現していないタンパク質由来のペプチドであることを見出し、さらに鋭意研究を続け、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に下記に掲げるものに関する:
[1]PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列中の連続する8~14アミノ酸からなり、HLA結合性を有する、腫瘍抗原ペプチドまたはそのモチーフ置換体。
[2]HLAが、HLA-A24である、[1]の腫瘍抗原ペプチドまたはそのモチーフ置換体。
[3]N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるペプチドであるか、または該ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチドである、[1]または[2]の腫瘍抗原ペプチド。
【0010】
[4]配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5で表される、[1]~[3]の腫瘍抗原ペプチド。
[5]複数のエピトープペプチドが連結されたポリエピトープペプチドであって、該エピトープペプチドとして、[1]~[4]の腫瘍抗原ペプチドを少なくとも1つ含む、前記ポリエピトープペプチド。
[6][1]~[4]の腫瘍抗原ペプチドまたは[5]に記載のポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド。
【0011】
[7][6]のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[8][7]の発現ベクターを含む、遺伝子導入用組成物。
[9](A)[1]~[4]の腫瘍抗原ペプチドもしくは[5]のポリエピトープペプチド、または、
(B)前記(A)のペプチドおよび/もしくはポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド
と、抗原提示能を有する細胞とを、in vitroで接触させることを含む、抗原提示細胞の製造方法。
【0012】
[10] 以下の(a)~(e):
(a)[1]~[4]の抗原ペプチドまたは[5]のポリエピトープペプチド、
(b)[1]のポリヌクレオチド、
(c)[1]の発現ベクター、
(d)PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター
(e)[1]~[4]の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞
のいずれかを有効成分として含有する、細胞傷害性T細胞の誘導剤。
【0013】
[11] (A)[1]~[4]の腫瘍抗原ペプチドもしくは[5]のポリエピトープペプチド、
(B)前記(A)のペプチドおよび/もしくはポリエピトープペプチドの少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド、または、
(C)[1]~[4]の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞
と、末梢血リンパ球とを、in vitroで接触させることを含む、細胞障害性T細胞の誘導方法。
【0014】
[12]以下の(a)~(e):
(a)[1]~[4]の抗原ペプチドまたは[5]のポリエピトープペプチド、
(b)[6]のポリヌクレオチド、
(c)[7]の発現ベクター、
(d)PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択されるタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、
(e)[1]~[4]の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞を特異的に傷害する細胞傷害性T細胞
のいずれかを有効成分として含む、医薬組成物。
【0015】
[13][1]~[4]の抗原ペプチド、および/または[5]のポリエピトープペプチドを有効成分として含む、[12]の医薬組成物。
[14]アジュバントをさらに含む、[12]または[13]の医薬組成物。
[15]がんの予防および/または治療剤である、[12]~[14]の医薬組成物。
[16]がんの予防および/または治療用ワクチンである、[12]~[15]の医薬組成物。
【0016】
[17]免疫チェックポイント阻害剤とともに用いられる、[12]~[16]の医薬組成物。
[18][1]~[4]の抗原ペプチドとHLAとを含む、HLAマルチマー。
[19][18]のHLAマルチマーを含む、診断薬。
[20][1]~[4]の抗原ペプチドとHLAとの複合体を認識する、T細胞受容体様抗体。
[21][20]のT細胞受容体様抗体を含有する腫瘍検出剤。
【0017】
[22][1]~[4]の抗原ペプチドとHLAとの複合体を認識する、キメラ抗原受容体。
[23][1]~[4]の抗原ペプチドとHLAとの複合体を認識するT細胞受容体を含む、人工CTL。
[24][1]~[4]の抗原ペプチドとHLAとの複合体と、リンパ球表面抗原とを特異的に認識する、二重特異性抗体。
[25]PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物を検出するための検出剤を含む、腫瘍細胞検出剤。
【0018】
[26]肺、大腸、小腸、脳、心臓、胎盤、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、卵巣および血液からなる群から選択される1または2以上の生体試料に由来する細胞を含む細胞集団において腫瘍細胞を検出するための、[25]の腫瘍細胞検出剤。
[27]遺伝子の発現産物が、mRNAおよび/または内在性ポリペプチドである、[25]または[26]の腫瘍細胞検出剤。
[28]遺伝子の発現産物がmRNAであり、前記遺伝子に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーを含む、[25]~[27]の腫瘍細胞検出剤。
[29]遺伝子の発現産物が内在性ポリペプチドであり、該内在性ポリペプチドと特異的に反応する検出物質を含む、[25]~[28]の腫瘍細胞検出剤。
【0019】
[30]検出物質が、抗体である、[29]の腫瘍細胞検出剤。
[31][12]~[17]の医薬組成物を用いたがんの処置方法が有効な治療対象患者を選択するための診断薬であって、[18]のHLAマルチマー、[20]のT細胞受容体様抗体および/または[25]~[30]の腫瘍細胞検出剤を含む、前記診断薬。
[32]PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド。
[33]PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子に対して相補的なアンチセンス領域および該アンチセンス領域に少なくとも部分的に相補的なセンス領域を含む、siRNA。
【0020】
[34][32]のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/または[33]のsiRNA、ならびに薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物。
[35]がんの予防および/または治療剤である、[34]の医薬組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、腫瘍細胞を特異的に攻撃するCTLの誘導剤として有用な腫瘍抗原ペプチド、およびこれを有効成分として含有するがんの予防および/または治療に有用な医薬組成物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、がん細胞株SW480、HCT-116、HCT-15/β2m、Colo320、LHK2およびSq-1におけるHLA-A24分子の局在を示す。HCT-116以外の細胞株において、コントロールよりも多くのHLA-A24分子が細胞表面に存在していることがわかる。この結果は、これらの細胞がHLA-A24分子と複合体化したナチュラルペプチドを多く抗原提示していることを示唆する。
図2図2は各細胞株において細胞表面に抗原提示されたナチュラルペプチドの分布を示す。図2-1は大腸がん細胞株、図2-2は肺がん細胞株のものを示し、いずれの図においてもAはナチュラルペプチドが有する各アミノ酸長での存在割合を、Bは9アミノ酸長および10アミノ酸長のペプチドにおける各アミノ酸位置でのアミノ酸の存在比率を表す。
【0023】
図3図3は、ランダムに選択した26個のナチュラルペプチドの結合アッセイの結果から調査したNetMHCスコアとΔMFIとの相関関係を表すグラフである。縦軸がΔMFIを表し、横軸がNetMHCスコアを表す。NetMHCスコアが0.12よりも小さい群は1つを除いてすべてΔMFIが10より小さくなり、NetMHCスコアが0.18よりも大きい群は2つを除いてΔMFIが約40以上となった。この結果から、あるペプチドのNetMHCスコアが0.15より大きい(ΔMFIが17より大きい)場合に、当該ペプチドがHLA-A24結合ペプチドであると推測した。
図4図4は、PVT1およびPVT1由来のナチュラルペプチド(配列番号1)の評価結果を表す。Aは、ナチュラルペプチドのMS/MSの結果を表す。Bは、ナチュラルペプチドの結合アッセイの結果を表す。Cは、PVT1の各正常組織における発現を表す。Dは、PVT1の各種がん細胞における発現を表す。
図5図5は、SUV39H2およびSUV39H2由来のナチュラルペプチド(配列番号2)の評価結果を表す。Aは、ナチュラルペプチドのMS/MSの結果を表す。Bは、ナチュラルペプチドの結合アッセイの結果を表す。Cは、SUV39H2の各正常組織における発現を表す。Dは、SUV39H2の各種がん細胞における発現を表す。
【0024】
図6図6は、ZNF724PおよびZNF724P由来のナチュラルペプチド(配列番号3)の評価結果を表す。Aは、ナチュラルペプチドのMS/MSの結果を表す。Bは、ナチュラルペプチドの結合アッセイの結果を表す。Cは、ZNF724Pの各正常組織における発現を表す。Dは、ZNF724Pの各種がん細胞における発現を表す。
図7図7は、SNRNP40およびSNRNP40由来のナチュラルペプチド(配列番号4)の評価結果を表す。Aは、ナチュラルペプチドのMS/MSの結果を表す。Bは、SNRNP40の各正常組織における発現を表す。Cは、SNRNP40の各種がん細胞における発現を表す。
図8図8は、DYRK4およびDYRK4由来のナチュラルペプチド(配列番号5)の評価結果を表す。Aは、ナチュラルペプチドのMS/MSの結果を表すBは、DYRK4の各正常組織における発現を表す。Cは、DYRK4の各種がん細胞における発現を表す。
【0025】
図9図9は、各CTLクローンの性質を、HLA-A24テトラマー試薬を用いて解析した結果を表すドットプロットである。いずれも縦軸はナチュラル抗原ペプチド/HLA-A24テトラマー試薬の蛍光強度であり、横軸は、AおよびBの左図がCD8、Bの右図がHIV/HLA-A24テトラマー試薬の蛍光強度を表す。Aはナチュラル抗原ペプチドとしてHF10を用いたものであり、Bはナチュラル抗原ペプチドとしてRF8を用いたものである。本願実施例の例5(1)に記載の方法により、いずれのナチュラル抗原ペプチドを用いた場合も複数のCTLクローンが誘導されたが、AはそのうちHF10で誘導されたクローンA10、E10およびH3を、BはRF8で誘導されたクローン11の結果を示すものである。
【0026】
図10図10は、ELISPOTアッセイの結果を表す図である。Aは、ナチュラル抗原ペプチドとしてHF10を用いたELISPOTアッセイの結果を表し、左側6段がクローンA10、中央6段がE10、右側6段がクローンH3をそれぞれCTLとして用いた場合の結果を表す。Bは、ナチュラル抗原ペプチドとしてRF8、CTLとしてクローン11を用いたELISPOTアッセイの結果を表し、グラフは、縦軸が1ウェルあたりのIFN-γが検出されたスポットの数、横軸がターゲット細胞を表す。またグラフの下の写真図は、各細胞に対するELISPOTアッセイにより得られた実際のスポットを表す写真である。
図11図11は、クローン11を用いたLDHキリングアッセイの結果を表すグラフである。Aは各ペプチドでパルスしたT2-A24細胞を標的細胞として用いた場合の結果を、Bは各種がん細胞株を標的細胞として用いた場合の結果をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明において「エピトープペプチド」とは、MHC(ヒトにおいてはHLA)と結合して、細胞表面に抗原提示され、かつ抗原性を有する(T細胞に認識され得る)ペプチドを意味する。エピトープペプチドには、MHCクラスIと結合して抗原提示され、CD8陽性T細胞に認識されるエピトープペプチドであるCTLエピトープペプチド、およびMHCクラスIIと結合して抗原提示され、CD4陽性T細胞に認識されるエピトープペプチドであるヘルパーエピトープペプチドが含まれる。
【0028】
エピトープペプチドのうち、腫瘍細胞において特異的にあるいは過剰に発現しているタンパク質由来のペプチドを、特に腫瘍抗原ペプチドという。抗原提示とは、細胞内に存在するペプチドがMHCと結合し、このMHC/抗原ペプチド複合体が細胞表面に局在化する現象をいう。上述のとおり、細胞表面に提示された抗原はT細胞などにより認識された後、細胞性免疫や液性免疫を活性化することが知られており、MHCクラスIに提示された抗原は、細胞性免疫を活性化するとともに、ナイーブT細胞のT細胞受容体に認識され、ナイーブT細胞を、細胞傷害活性を有するCTLへと誘導するため、免疫療法に用いられる腫瘍抗原ペプチドとしては、MHCクラスIと結合し、抗原提示されるペプチドが好ましい。
【0029】
MHCと結合するペプチドの多くは、一定の特徴を有していることが知られている。本発明においては、この特徴を「結合モチーフ」という。いかなるMHCがいかなる結合モチーフを有するペプチドと結合するかは、当該技術分野において知られている。例えば、ヒトMHCの一種であるHLA-A24の結合モチーフは、N末端から2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、かつC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンである。
【0030】
本明細書において「モチーフ置換体」とは、ある結合モチーフを有するペプチドにおいて、当該結合モチーフを別の結合モチーフに置換したものをいう。当業者であれば、本発明においてモチーフ置換体も置換前のペプチドと同等の効果を奏することを当然に理解するものである。
本発明において、「腫瘍(tumor)」は、良性腫瘍および悪性腫瘍(がん、悪性新生物)を含む。がん(cancer)は、造血器の腫瘍、上皮性の悪性腫瘍(癌、carcinoma)と非上皮性の悪性腫瘍(肉腫、sarcoma)とを含む。
【0031】
本発明では、実際に細胞表面に抗原提示されているナチュラルペプチドを単離/同定することができる下記実施例等に記載の方法を用いることによって、本発明のナチュラルペプチドを単離/同定した。なお、本発明において、「ナチュラルペプチド」とは、実際に細胞表面に抗原提示されているペプチドのことをいう。また「ナチュラル抗原ペプチド」とは、ナチュラルペプチドのうち抗原性が確認できたものをいう。このナチュラル抗原ペプチドをがん細胞から単離し、配列およびその由来を決定することにより、CTLを用いたがんの標的治療に有用な知見を得ることが可能である。
【0032】
本発明で用いたナチュラルペプチドの単離/同定方法には、ナチュラルペプチドを提示しているがん幹細胞を溶解し、その溶解物(ライセート)からMHCとナチュラルペプチドとの複合体を単離する工程、単離した複合体をMHC分子とナチュラルペプチドに分離してナチュラルペプチドを単離する工程、単離したナチュラルペプチドを同定する工程が含まれる。
【0033】
下記実施例においては、MHCとナチュラルペプチドとの複合体の単離には、MHCに対する特異抗体を用いた免疫沈降法によるペプチド/MHC複合体の抽出法を採用したが、ライセートと、MHCとナチュラルペプチドとの複合体とを単離することができる方法であればいかなる方法を用いてもよい。
下記実施例においては、適切な抗MHC抗体として、抗HLA-A24抗体などの、HLAクラスIに対する抗体を使用したが、MHCとナチュラルペプチドとの複合体を特異的に認識できる抗体であればいかなる抗体を用いてもよい。
【0034】
下記実施例においては、複合体をMHC分子とナチュラルペプチドとに分離する工程として弱酸を用いたペプチド単離を行ったが、MHCとナチュラルペプチドとを分離できる方法であればいかなる方法を用いてもよい。
さらに下記実施例においては、上記単離ナチュラルペプチドの配列を液体クロマトグラフィーとタンデムマススペクトロメトリーとを組み合わせたペプチド配列解析法を用いて解析し、実際に細胞表面に抗原提示されているナチュラルペプチドを同定したが、ペプチドの配列を同定可能な方法であれば、いかなる方法を用いて同定してもよい。
【0035】
本発明者らは、ヒトがん細胞において抗原提示されているナチュラル抗原ペプチドを解析した。その結果、がん細胞において抗原提示されているナチュラルペプチドとして、383種のペプチドが同定された。かかる383種のペプチドのうち、HLA-A24結合性の高いことが見出されたペプチドが由来する273種の遺伝子について正常組織における発現を調べたところ、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4の5種の遺伝子が、正常組織では精巣のみに発現が見られる、いわゆるがん精巣抗原であることがわかった。
【0036】
PVT1(Plasmacytoma variant translocation 1)は、癌原遺伝子として知られるMYCと同じ染色体上に存在するノンコーディングRNAであり、MYCアクチベーターとして機能すると考えられている。また、MYCのコピー数増加が観察される多数の癌において、同様にコピー数が増加していることが報告されており、PVT1遺伝子の転写量の増加が細胞増殖および癌化に関与していることが示唆されている。しかしながら上述のとおりPVT1はノンコーディングRNAであると考えられていたところ、本発明者らにより初めて、がん細胞においてPVT1がコードすると予測されるタンパク質の部分ペプチドが抗原提示されていることが見いだされたのであり、これは少なくともがん細胞においてPVT1がタンパク質として発現している可能性を示唆する驚くべきものである。
【0037】
SUV39H2(Suppressor of variegation 3-9 homolog 2 (Drosophila))はヒストンH3のLys-9を特異的にトリメチル化する転移酵素であるヒストン-リシン N-メチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子である。ヒストンH3のトリメチル化により、エピジェネティックな転写抑制が起こると考えられており、とくにSUV39H2タンパク質は、哺乳動物の細胞においてテロメア長のエピジェネティックな制御に関与していることが報告されている。またがん細胞においては、肺がん、肝細胞がん、前立腺がんなどで高発現していることが報告されている。また、初期の未分化ヒト胚性幹細胞において発現しており、分化の進行と共に発現が漸次抑制され、その後また未分化細胞と同レベルまで回復することが報告されている。さらには、がん細胞においてSUV39H2を過剰発現するとがん細胞のコロニー形成能が上昇し、SUV39H2を過剰発現するがん細胞においてSUV39H2をノックダウンすると細胞増殖が抑えられることも報告されている(特許文献2)。
【0038】
ZNF724P(zinc finger protein 724, pseudogene)は、ジンクフィンガータンパク質の一種をコードする遺伝子であると推定されるが、ZNF724Pタンパク質の機能についての報告はない。構造的特徴に鑑みると、KRABを有するC2H2型の古典的ジンクフィンガータンパク質であることから、DNAと相互作用することで転写制御に関与することが推測される。また、腫瘍形成や幹細胞性への関与については報告されていない。
【0039】
SNRNP40(U5 small nuclear ribonucleoprotein 40 kDa protein)は、スプライソソームを構成する核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)のうち、U5 snRNPを構成するタンパク質をコードする遺伝子である。したがってSNRNP40タンパク質はmRNAのスプライシングに関与することが推測される。また、腫瘍形成や幹細胞性への関与については報告されていない。
【0040】
DYRK4(Dual specificity tyrosine-phosphorylation-regulated kinase 4)は、セリン/トレオニンタンパク質キナーゼの一種をコードする遺伝子である。DYRK4が属する二重特異性キナーゼファミリーは、細胞の分化および増殖の制御、生存ならびに発生において機能すると考えられている。DYRK4には複数のスプライスバリアントを含む複数のアイソフォームが存在することがわかっている。また、腫瘍形成や幹細胞性への関与については報告されていない。
【0041】
<1>本発明の遺伝子発現産物
本発明において、例えば「PVT1」など、単に遺伝子名で表記している場合、別段の記載のない限り当該遺伝子名で表される公知の核酸配列を有する遺伝子を意味し、典型的にはcDNAまたはmRNA配列を表すが、当業者が当該遺伝子の配列として認識し得る限りこれに限定されず、たとえば。本発明における好ましい遺伝子およびその核酸配列の例としては、下記の配列で表される下記の遺伝子が挙げられる。
PVT1:GenBank Accession No. NR_003367
SUV39H2:GenBank Accession No. NM_001193424.1およびNM_001193425
ZNF724P:GenBank Accession No. NR_045525.1
SNRNP40:GenBank Accession No. NM_004814.2
DYRK4:GenBank Accession No. NM_001282285.1、NM_001282286.1、NM_003845.2およびNR_104115.1
したがって本発明の遺伝子発現産物としてのmRNAを、単に遺伝子名の記載により表す場合がある。
【0042】
本発明において、「PVT1タンパク質」など、遺伝子名に「タンパク質」と付記して表す場合、当該遺伝子によりコードされるタンパク質、そのアイソフォーム、およびそのホモログのことを意味する。当該アイソフォームとしては、例えばスプライシングバリアント、個体差に基づくSNP等のバリアント等が挙げられる。具体的には、(1)当該遺伝子によりコードされるタンパク質において、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列において、1または複数、好ましくは1~数個、さらに好ましくは、1~10個、1~5個、1~3個、1もしくは2個のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0043】
本発明の遺伝子発現産物として好ましいタンパク質は、上述の遺伝子(核酸配列)によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質、または前記タンパク質において、1~3個、好ましくは1もしくは2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。さらに好ましくは上述の遺伝子(核酸配列)によりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。
【0044】
<2>本発明のペプチド
本発明のペプチドは、一態様において、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質の部分ペプチドであって、MHC、特にHLAと結合するペプチド、好ましくはMHC、特にHLAにより抗原提示されるペプチド、さらに好ましくはMHC、特にHLAにより抗原提示されてCTLを誘導可能なペプチドを含む。HLAにはいくつかの型が存在するが、本発明のペプチドは、好ましくはHLAクラスIに結合可能であり、より好ましくはHLA-A24に結合可能である。本発明のペプチドは、MHCに結合する前にプロセシングなどの処理を経てもよく、それらの処理の結果エピトープペプチドを生成するようなペプチドも本発明のペプチドに含まれる。したがって、本発明のペプチドは、エピトープペプチドのアミノ酸配列を含む配列であれば、アミノ酸長は特に限定されない。しかしながら、本発明のペプチドそのものがエピトープペプチドであることが好ましく、したがってアミノ酸長は約8~14アミノ酸程度が好ましく、約8~11アミノ酸程度がより好ましく、約9~約11アミノ酸程度が特に好ましい。
【0045】
ヒトのMHCクラスIであるHLAクラスIと結合するエピトープペプチドは、約8~14アミノ酸長、好ましくは約9~11アミノ酸長であり、その配列中に結合するHLA特有の結合モチーフを有することが知られている。例えばHLA-A02と結合するペプチドは、N末端から2番目のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはメチオニンであり、および/またはC末端のアミノ酸がバリン、ロイシンもしくはイソロイシンであるという結合モチーフを有し、HLA-A24と結合するペプチドは、N末端から2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/またはC末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるという結合モチーフを有する。
【0046】
したがって本発明のペプチドは、好ましい一態様において、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質の部分ペプチドであって、該タンパク質のアミノ酸配列中の連続する8~14アミノ酸からなり、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンであり、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンであるペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるエピトープペプチドである。
【0047】
また、別の好ましい一態様において、前記部分ペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているペプチドであるエピトープペプチドを含み、より好ましくは該エピトープペプチドそのものである。中でも特に好ましいのは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、N末端から第2番目のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンもしくはトリプトファンに置換されており、および/または、C末端のアミノ酸がロイシン、イソロイシンもしくはフェニルアラニンに置換されているエピトープペプチドである。
【0048】
本発明のペプチドは、そのN末端および/またはC末端が修飾されていてもよい。当該修飾として具体的には、N-アルカノイル化(例えば、アセチル化)、N-アルキル化(例えば、メチル化)、C末端アルキルエステル(例えば、エチルエステル)、およびC末端アミド(例えばカルボキサミド)等が挙げられる。
本発明のペプチドの合成については、通常のペプチド化学において用いられる既知の方法に準じて行うことができる。かかる既知の方法としては文献(Peptide Synthesis,Interscience,New York,1966; The Proteins,Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)などに記載されている方法が挙げられる。
【0049】
本発明のペプチドは、後述するCTL誘導方法や、ヒトモデル動物を用いたアッセイ(国際公開第02/47474号公報、Int J. Cancer:100,565-570 (2002))等に供することにより、in vivoでの活性を確認することができる。
【0050】
本発明のペプチドには、さらに、前記本発明のペプチドを少なくとも1つ含む複数のエピトープペプチドを連結したペプチド(ポリエピトープペプチド)も含まれる。したがって、該ポリエピトープペプチドであって、CTL誘導活性を有するペプチドも、本発明のペプチドの具体例として例示することができる。
本発明のポリエピトープペプチドは、具体的には、
(i)本発明のペプチド(エピトープペプチド)および任意の本発明のペプチド以外の1または2以上のCTLエピトープペプチドを直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド、
(ii)本発明のペプチドおよび任意の1または2以上のヘルパーエピトープペプチドを直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド、若しくは、
(iii)上記(i)に記載のポリエピトープペプチドに、さらに1または2以上ヘルパーエピトープペプチドを、直接、または適宜スペーサーを介して連結したペプチド
であって、抗原提示細胞内にてプロセッシングを受け、生じたエピトープペプチドが抗原提示細胞に提示され、CTL誘導活性を導くペプチドとして定義され得る。
【0051】
ここで、(i)における本発明のペプチド以外のCTLエピトープペプチドとしては特に限定はないが、具体的には、例えばヒトASB4由来のエピトープペプチド、ヒトOR7C1、ヒトDNAJB8由来のエピトープペプチド(例えば、国際公開第2010/050190号に記載されたペプチド)、ヒトFAM83B由来のエピトープペプチド(国際出願第PCT/JP2014/076625号)などが挙げられる。
スペーサーとしては、抗原提示細胞内におけるプロセッシングに悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されず、好ましくはそれぞれのエピトープペプチドとペプチド結合で連結されるリンカーであり、例えばいくつかのアミノ酸が連結したペプチドリンカーや、両端にアミノ基およびカルボキシル基を有するリンカーなどが挙げられる。具体的にはグリシンリンカーやPEG(ポリエチレングリコール)リンカーなどが挙げられ、グリシンリンカーとしてはポリグリシン(例えばグリシン6個からなるペプチド;Cancer Sci, vol.103, p150-153)が挙げられ、PEGリンカーとしては、PEGの両端にアミノ基およびカルボキシ基を有する化合物由来のリンカーが挙げられる(例えば、HN-(CH)2-(OCHCH-COOH;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 7551-7556)。
【0052】
本発明のポリエピトープペプチドに含まれる本発明のエピトープペプチドは、1種または2種以上が選択されてよい。すなわち、同一のエピトープペプチドが複数個連結されていてもよいし、複数の異なるエピトープペプチドが連結されたものであってもよい。当然ながら、2種以上のエピトープペプチドが選択される場合であっても、選択されたエピトープペプチドのうちの1種または2種以上が複数個連結されてもよい。本発明のペプチド以外のエピトープペプチドについても、同様に複数種および/または複数個のエピトープペプチドが連結されてよい。本発明のポリエピトープペプチドは、2~12個のエピトープペプチドが連結されたものであってよく、好ましくは2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個のエピトープペプチドが連結されており、最も好ましくは2個のエピトープペプチドが連結されている。
ここで、本発明のペプチドに連結させるエピトープペプチドがヘルパーエピトープペプチドの場合、用いられるヘルパーエピトープペプチドとしては、例えばB型肝炎ウイルス由来のHBVc128-140や破傷風毒素由来のTT947-967などが挙げられる。また当該ヘルパーエピトープペプチドの長さとしては、13~30アミノ酸程度、好ましくは13~17アミノ酸程度を挙げることができる。
【0053】
このような複数のエピトープペプチドを連結させたペプチド(ポリエピトープペプチド)もまた、前述のように一般的なペプチド合成法によって製造することができる。またこれら複数のエピトープペプチドを連結させたポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列情報に基づいて、通常のDNA合成および遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。
すなわち、当該ポリヌクレオチドを周知の発現ベクターに挿入し、得られた組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換して作製された形質転換体を培養し、培養物より目的の複数のエピトープを連結させたポリエピトープペプチドを回収することにより製造することができる。これらの手法は、前述のように文献(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory(1983)、DNA Cloning, DM.Glover, IRL PRESS(1985))に記載の方法などに準じて行うことができる。
【0054】
以上のようにして製造された複数のエピトープペプチドを連結させたポリエピトープペプチドを、前述のin vitroアッセイや、国際公開第02/47474号およびInt J. Cancer:100,565-570 (2002)(これらの文献は引用により本願の一部を構成する)に記述のヒトモデル動物を用いたin vivoアッセイに供すること等によりCTL誘導活性を確認することができる。
本発明のペプチド(ポリエピトープペプチドを含む)は、本明細書に記載のとおり、がんの予防および/または治療などに有用であり、医薬組成物の有効成分とすることができる。また、本発明のペプチドは、がんの予防および/または治療のためのものであってもよい。さらに、本発明は、がんの予防および/または治療のための医薬の製造への本発明のペプチドの使用にも関する。
【0055】
<3>本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、前記本発明のペプチドを少なくとも1つコードするポリヌクレオチドを含む。本発明のポリヌクレオチドは、cDNAやmRNA、cRNA、または合成DNAのいずれであってもよい。また1本鎖、2本鎖のいずれの形態であってもよい。具体的には、これに限定するものではないが例えば、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質の部分ペプチドであって、MHCとペプチドの結合予測プログラムであるBIMAS(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/)、SYFPEITHI(http://www.syfpeithi.de/)およびIEDB(MHC-I processing predictions;http://www.iedb.org/)などを用いて結合性を有することが予測されたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドなどが挙げられる。別の具体的な態様としては、配列番号1~5に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、および配列番号1~5から選択される任意の2以上のペプチド、または配列番号1~5から選択されるペプチドおよびヘルパーエピトープを連結させたポリエピトープペプチドを、それぞれ発現可能なようにコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドなどが挙げられる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドは、1本鎖および2本鎖のいずれの形態もとることができる。本発明のポリヌクレオチドが2本鎖の場合、前記本発明のポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入することにより、本発明のペプチドを発現するための組換え発現ベクターを作製することができる。すなわち本発明のポリヌクレオチドの範疇には、本発明の2本鎖型ポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入して作製された組換え発現ベクターも含まれる。
本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載のとおり、がんの予防および/または治療などに有用であり、医薬組成物の有効成分とすることができる。また、本発明のポリヌクレオチドは、がんの予防および/または治療のためのものであってもよい。さらに、本発明は、がんの予防および/または治療のための医薬の製造への本発明のポリヌクレオチドの使用にも関する。
【0057】
本発明で用いる発現ベクターは、用いる宿主や目的等に応じて様々なものを用いることができ、当業者であれば適宜選択することができる。本発明で用い得る発現ベクターとしては、例えばプラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。例えば、宿主が大腸菌の場合、ベクターとしては、pUC118、pUC119、pBR322、pCR3等のプラスミドベクター、λZAPII、λgt11などのファージベクターが挙げられる。宿主が酵母の場合、ベクターとしては、pYES2、pYEUra3などが挙げられる。宿主が昆虫細胞の場合には、pAcSGHisNT-Aなどが挙げられる。宿主が動物細胞の場合には、pCEP4、pKCR、pCDM8、pGL2、pcDNA3.1、pRc/RSV、pRc/CMVなどのプラスミドベクターや、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。
【0058】
前記ベクターは、発現誘導可能なプロモーター、シグナル配列をコードする遺伝子、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を適宜有していてもよい。また、単離精製が容易になるように、チオレドキシン、Hisタグ、あるいはGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)等との融合タンパク質として発現する配列が付加されていてもよい。この場合、宿主細胞内で機能する適切なプロモーター(lac、tac、trc、trp、CMV、SV40初期プロモーターなど)を有するGST融合タンパク質ベクター(pGEX4Tなど)や、Myc、Hisなどのタグ配列を有するベクター(pcDNA3.1/Myc-Hisなど)、さらにはチオレドキシンおよびHisタグとの融合タンパク質を発現するベクター(pET32a)などを用いることができる。
【0059】
前記で作製された発現ベクターで宿主を形質転換することにより、当該発現ベクターを含有する形質転換細胞を作製することができる。したがって、本発明には、前記発現ベクターを含む遺伝子導入用組成物が包含される。
形質転換に用いられる宿主としては、本発明のポリペプチドが有する機能を損なわない限りいかなる細胞を用いてもよく、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。大腸菌としては、E.coli K-12系統のHB101株、C600株、JM109株、DH5α株、AD494(DE3)株などが挙げられる。また酵母としては、Saccharomyces cerevisiaeなどが挙げられる。動物細胞としては、L929細胞、BALB/c3T3細胞、C127細胞、CHO細胞、COS細胞、Vero細胞、HeLa細胞、293-EBNA細胞などが挙げられる。昆虫細胞としてはsf9などが挙げられる。
宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、前記宿主細胞に適合した通常の導入方法を用いればよい。具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin; Gibco-BRL社)を用いる方法などが挙げられる。導入後、選択マーカーを含む通常の培地にて培養することにより、前記発現ベクターが宿主細胞中に導入された形質転換細胞を選択することができる。
【0060】
以上のようにして得られた形質転換細胞を好適な条件下で培養し続けることにより、本発明のペプチドを製造することができる。得られたペプチドは、一般的な生化学的精製手段により、さらに単離・精製することができる。ここで精製手段としては、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。また本発明のペプチドを、前述のチオレドキシンやHisタグ、GST等との融合タンパク質として発現させた場合は、これら融合タンパク質やタグの性質を利用した精製法により単離・精製することができる。
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもRNAの形態であっても良い。これら本発明のポリヌクレオチドは、本発明のペプチドのアミノ酸配列情報およびそれによりコードされるDNAの配列情報に基づき、当該技術分野において知られた通常の方法を用いて容易に製造することができる。具体的には、通常のDNA合成やPCRによる増幅などによって、製造することができる。
本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、前記エピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0061】
<4>本発明のペプチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物
本発明のペプチドはCTL誘導活性を有し、腫瘍抗原ペプチドとして、CTL誘導剤となり得る。また上述のとおり、本発明者らによりPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質が腫瘍抗原であること、該タンパク質由来のペプチドが腫瘍細胞表面にHLAクラスI抗原と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示されていることが初めて見出された。したがって、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質そのものもまたCTL誘導剤となり得る。
【0062】
すなわち、HLA-A24抗原が陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、in vitroで本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を添加して刺激することにより、該ペプチドをパルスしたHLA-A24抗原陽性細胞を特異的に認識するCTLを誘導することができる(J.Immunol.,154,p2257,1995)。ここでCTLの誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γ)の量を、例えばELISA法などによって測定することにより、確認することができる。また51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(51Crリリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994)によっても確認することができる。
また、Int. J. Cancer, 39, 390-396, 1987、N. Eng. J. Med, 333, 1038-1044, 1995等に記載の方法により、CTLクローンを樹立することもできる。
【0063】
本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質によって誘導されたCTLは、本発明のペプチドならびに/または他のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質由来のエピトープペプチドを抗原として提示する細胞に対する傷害作用やリンフォカインの産生能を有する。本発明のペプチドは上述のとおり腫瘍抗原ペプチドであり、またPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質は細胞内で分解されて腫瘍抗原ペプチドを生じるため、それら機能を介して抗腫瘍作用、好ましくは抗がん作用を発揮することができる。したがって本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質、ならびにそれにより誘導されたCTLは、がんの予防および/または治療のための医薬や医薬組成物の有効成分とすることができる。
本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分として含有するCTL誘導剤をがん患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA抗原、好ましくはHLA-A24抗原に本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質由来のエピトープペプチドが提示され、HLA抗原と提示されたペプチドとの複合体を特異的に認識するCTLが増殖してがん細胞を破壊することができ、その結果、がんを予防および/または治療することができる。したがって、本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分とするCTLの誘導剤は、好ましくは、HLA-A24抗原陽性の対象であって、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患している対象に対して使用することができる。PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんとしては、例えば大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のがん(腫瘍)などが挙げられ、本発明のCTL誘導剤は、これらのがんの予防および/または治療のために使用することができる。
【0064】
ここでがんの「予防」には、患者のがんへの罹患の予防だけでなく、手術により原発巣の腫瘍を切除した患者における再発予防、手術、放射線療法もしくは薬物療法等のがん治療により完全に除去できなかった腫瘍の転移防止等が含まれる。また、がんの「治療」には、がんを縮小させるがんの治癒・症状改善のみでなく、がん細胞の増殖、腫瘍の拡大もしくは原発巣からのがん細胞の転移を抑制する進行防止等が含まれる。
【0065】
本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分とするCTL誘導剤は、例えばPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患している、HLA-A24陽性のがん患者に対して特に有効である。具体的には、例えば、大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のがん(腫瘍)の予防または治療のために使用することができる。したがって、本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分として含む医薬組成物もまた、本発明に包含される。かかる医薬組成物は、好ましくはがんの予防および/または治療用の組成物、すなわちがんの予防および/または治療剤である。また、本発明の医薬組成物は、がん細胞に特異的なCTLを誘導、すなわちがん細胞特異的な細胞性免疫を活性化することによりがんを予防および/または治療するものであるため、好ましくはがんの予防および/または治療用ワクチンである。
【0066】
本発明のペプチドを有効成分とする医薬組成物は、単一のCTLエピトープ(本発明のペプチド)を有効成分とするものであっても、また他のペプチド(CTLエピトープやヘルパーエピトープ)と連結したポリエピトープペプチドを有効成分とするものであってもよい。近年、複数のCTLエピトープ(抗原ペプチド)を連結したポリエピトープペプチドが、in vivoで効率的にCTL誘導活性を有することが示されている。例えばJournal of Immunology 1998, 161: 3186-3194(本文献は引用により本願の一部を構成する)には、がん抗原タンパク質PSA由来のHLA-A2、-A3、-A11、-B53拘束性CTLエピトープ(抗原ペプチド)を連結した約30merのポリエピトープペプチドが、in vivoでそれぞれのCTLエピトープに特異的なCTLを誘導したことが記載されている。またCTLエピトープとヘルパーエピトープとを連結させたポリエピトープペプチドにより、効率的にCTLが誘導されることも示されている。このようなポリエピトープペプチドの形態で投与した場合、ポリエピトープペプチドが抗原提示細胞内に取り込まれ、その後、細胞内分解を受けて生じた個々の抗原ペプチドがHLA抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に高密度に提示され、この複合体に特異的なCTLが体内で効率的に増殖し、がん細胞を破壊する。このようにしてがんの治療または予防が促進される。
【0067】
本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分とする医薬組成物は、細胞性免疫が効果的に成立するように、医薬として許容されるキャリアー、例えば適当なアジュバントと混合して投与、または併用して投与することができる。
【0068】
アジュバントとしては、文献(例えば、Clin Infect Dis.:S266-70, 2000)に記載のものなど、当該技術分野において既知のアジュバントが適用可能であり、具体的には、例えば、ゲルタイプとして水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸カルシウムなど、菌体タイプとしてCpG、モノホスホリルリピドA(monophosphoryl lipid A;MPL)、コレラ毒素、大腸菌易熱性毒素、百日咳毒素およびムラミルジペプチド(Muramyl dipeptide;MDP)など、油乳濁液タイプ(エマルション製剤)としてフロイント不完全アジュバント、MF59およびSAFなど、高分子ナノ粒子タイプとして免疫刺激複合体(Immunostimulatory complex;ISCOMs)、リポソーム、生分解性マイクロスフェア(Biodegradable microsphere)およびサポニン由来のQS-21など、合成タイプとして非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチドアナログ(Muramyl peptide analogue)、ポリホスファゼンおよび合成ポリヌクレオチドなど、サイトカインタイプとしてIFN-γ、IL-2およびIL-12などを挙げることができる。
また、本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質を有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物の剤形としては、特に限定はないが、油乳濁液(エマルション製剤)、高分子ナノ粒子、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤、マイクロスフェア製剤、マイクロカプセル製剤などが挙げられる。
【0069】
投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与などの既知の任意の投与方法が挙げられる。製剤中の本発明のペプチドの投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常0.0001mg~1000mg、好ましくは0.001mg~1000mg、より好ましくは0.1mg~10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
本発明のペプチドを実際に医薬として作用させる手法としては、当該ペプチドを直接体内に導入するin vivo法の他に、ヒトからある種の細胞を採集し体外で本発明のペプチドを作用させ、その細胞を体内に戻すex vivo法があり(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁、月刊薬事,36(1),23-48(1994)、実験医学増刊,12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)、当業者であれば、かかる手法に適切な細胞、投与方法、投与形態および投与量を選択することができる。
【0070】
<5>本発明のポリヌクレオチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物
本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現させた細胞は、本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質由来の他のエピトープペプチドを抗原として提示し得る細胞となるため、T細胞受容体を介してT細胞に認識されるという特徴を有する。したがって、本発明のポリヌクレオチドおよび/またはならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドもまたCTLの誘導剤となり得る。誘導されたCTLは、本発明のペプチドならびに/またはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子によりコードされるタンパク質によって誘導されたCTLと同様に、細胞傷害作用やリンフォカインの産生を介して抗腫瘍作用、好ましくは抗がん作用を発揮することができる。したがって本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、がんの治療または予防のための医薬や医薬組成物の有効成分とすることができる。本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを有効成分として含有するCTLの誘導剤は、例えば、本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドをがん患者に投与し発現させることで、がんを治療および/または予防し得るものである。
【0071】
例えば発現ベクターに組み込まれた本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを以下の方法によりがん患者に投与すると、抗原提示細胞内で腫瘍抗原ペプチドが高発現する。その後、生じた腫瘍抗原ペプチドがHLA-A24抗原などのHLA抗原と結合して複合体を形成し、該複合体が抗原提示細胞表面に高密度に提示されることにより、がん特異的CTLが体内で効率的に増殖し、がん細胞を破壊する。以上のようにして、がんの治療または予防が達成される。したがって、本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む医薬組成物もまた、本発明に包含される。かかる医薬組成物は、好ましくはがんの予防および/または治療用の組成物、すなわちがんの予防および/または治療剤である。また、本発明の医薬組成物は、がん細胞(好ましくはがん幹細胞)に特異的なCTLを誘導、すなわちがん細胞特異的な細胞性免疫を活性化することによりがんを予防および/または治療するものであるため、好ましくはがんの予防および/または治療用ワクチンである。
【0072】
本発明のポリヌクレオチドを有効成分とするCTL誘導剤/医薬組成物は、好ましくはHLA-A24抗原陽性の対象であって、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患した対象に対して使用することができる。PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんとしては、例えば大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のがん(腫瘍)などが挙げられ、本発明のCTL誘導剤は、これらのがんの予防または治療のために使用することができる。
本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを投与し細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターによる方法およびその他の方法(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁,月刊薬事,36(1),23-48(1994)、実験医学増刊,12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)のいずれの方法も適用することができる。したがって、本発明の医薬組成物の一態様において、本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが有効成分として含有される。
【0073】
ウイルスベクターによる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに本発明のDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。この中で、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いた方法が特に好ましい。
その他の方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0074】
本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを実際に医薬として作用させるには、当該ポリヌクレオチドを直接体内に導入するin vivo法、およびヒトからある種の細胞を採集し体外で本発明のポリヌクレオチドを該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁,月刊薬事,36(1),23-48(1994)、実験医学増刊,12(15),(1994)、およびこれらの引用文献等、これらの文献は引用により本願の一部を構成する)。in vivo法がより好ましい。
本発明のポリヌクレオチドならびに/またはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質およびDYRK4タンパク質からなる群から選択されるタンパク質をコードするポリヌクレオチドをin vivo法により投与する場合は、治療目的の疾患、症状等に応じた適当な投与経路および投与形態を適宜選択して投与し得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に注射可能な形態で投与することができる。in vivo法により投与する場合は、例えば、液剤等の製剤形態をとり得るが、一般的には有効成分である本発明のポリヌクレオチドを含有する注射剤等とされ、必要に応じて、医薬上許容されるキャリアー(担体)を加えてもよい。また、本発明のポリヌクレオチドを含有するリポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)-リポソーム等)においては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0075】
製剤中の本発明のポリヌクレオチドの含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調整することができるが、通常、ポリヌクレオチドの含量として、0.0001mg~100mg、好ましくは0.001mg~10mgの本発明のポリヌクレオチドを、数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。
当業者であれば、好適な細胞、ベクター、投与方法、投与形態および投与量を適宜選択することが可能である。
【0076】
また近年、複数のCTLエピトープ(腫瘍抗原ペプチド)を連結したポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチド、あるいはCTLエピトープとヘルパーエピトープとを連結させたポリエピトープペプチドをコードするポリヌクレオチドが、in vivoで効率的にCTL誘導活性を有することが示されている。例えばJournal of Immunology 1999, 162: 3915-3925(本文献は引用により本願の一部を構成する)には、HBV由来HLA-A2拘束性抗原ペプチド6種類、HLA-A11拘束性抗原ペプチド3種類、およびヘルパーエピトープを連結したエピトープペプチドをコードするDNA(ミニジーン)が、in vivoでそれぞれのエピトープに対するCTLを効果的に誘導したことが記載されている。
したがって、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを1種または2種以上連結させることにより、また場合によっては他のペプチドをコードするポリヌクレオチドも連結させることにより作製されたポリヌクレオチドを、適当な発現ベクターに組み込むことにより、CTLの誘導剤の有効成分とすることができる。このようなCTLの誘導剤も、前記と同様の投与方法および投与形態をとることができる。
【0077】
また近年、がん細胞が免疫細胞による攻撃を遮蔽することにより、免疫系による排除を回避していること、かかる遮蔽は、もともと自己に対する過剰な免疫反応や正常組織に対する障害を抑えるために備わっている「免疫チェックポイント」と呼ばれるメカニズムを利用していることなどがわかってきた。したがって、がん細胞において免疫チェックポイントの機能を抑制することにより、免疫細胞による攻撃を効果的なものとすることができる。本発明の医薬組成物は、腫瘍特異的な免疫細胞を誘導することにより抗腫瘍効果を発揮するものであるため、免疫チェックポイントの機能を併せて抑制することにより、より高い治療効果を発揮することができる。したがって好ましい一態様において、本発明の医薬組成物は、免疫チェックポイント阻害剤とともに用いられる。
【0078】
本発明において、ある剤Aと別の剤Bとを「ともに用いる」または「併用する」という場合、剤Aが効果を発揮している間に剤Bが効果を発揮する状態にすることをいう。したがって、剤Aの投与と同時に剤Bを投与してもよいし、剤Aの投与後一定の間隔を空けて剤Bを投与してもよい。また、剤Aと剤Bとは同一の投与形態であってもよいし、異なる投与形態であってもよい。さらに、剤Aまたは剤Bがその効果を喪失してしまわない限り、剤Aと剤Bとを混合して一つの組成物としてもよい。
【0079】
本態様における免疫チェックポイント阻害剤としては、本発明の組成物のCTLを誘導する能力を阻害しない限り、免疫チェックポイント阻害剤として公知である任意の剤を用いることができる。免疫チェックポイント阻害剤として知られたものとしては、これに限定するものではないが、例えば抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG-3抗体、抗B7-H3抗体、抗B7-H4抗体、抗B7-H5抗体、抗TIGIT抗体などが挙げられる。
【0080】
<6>本発明の抗原提示細胞
前記した本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば、以下のようにin vitroで利用することができる。すなわち本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドのいずれかと抗原提示能を有する細胞とをin vitroで接触させることにより、本発明の抗原ペプチドを抗原として提示する抗原提示細胞を作製することができる。したがって本発明の一態様において、細胞表面にHLA抗原、好ましくはHLA-A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させた抗原提示細胞、およびその製造方法を提供するものである。上述のとおり、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドはがんを予防および/または治療するために利用することが可能である。したがって本態様の抗原提示細胞またはその製造方法は、好ましくはがん患者由来の単離された細胞を利用するものである。具体的には、がん患者由来の単離された抗原提示能を有する細胞と、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれかをin vitroで接触させることにより、当該細胞の細胞表面にHLA抗原、好ましくはHLA-A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させた抗原提示細胞を製造する。
【0081】
ここで「抗原提示能を有する細胞」とは、本発明のペプチドを提示することの可能なMHC、好ましくはHLA、より好ましくはHLA-A24抗原を細胞表面に発現する細胞であれば特に限定されないが、これらのうち、プロフェッショナル抗原提示細胞が好ましく、特に抗原提示能が高いとされる樹状細胞がより好ましい。
また、前記抗原提示能を有する細胞から本発明の抗原提示細胞を調製するために添加される物質としては、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれであってもよい。
本発明の抗原提示細胞は、例えば、がん患者から抗原提示能を有する細胞を単離し、該細胞に本発明のペプチドをin vitroでパルスして、HLA-A24抗原と本発明のペプチドとの複合体を提示させることにより得られる(Cancer Immunol. Immunother., 46:82, 1998、J. Immunol., 158, p1796, 1997、Cancer Res., 59, p1184, 1999)。樹状細胞を用いる場合は、例えば、がん患者の末梢血からフィコール法によりリンパ球を分離し、その後非付着細胞を除き、付着細胞をGM-CSFおよびIL-4存在下で培養して樹状細胞を誘導し、当該樹状細胞を本発明のペプチドと共に培養してパルスすることなどにより、本発明の抗原提示細胞を調製することができる。
【0082】
また、前記抗原提示能を有する細胞に本発明のポリヌクレオチドを導入することにより本発明の抗原提示細胞を調製する場合は、当該ポリヌクレオチドは、DNAの形態であっても、RNAの形態であってもよい。具体的には、DNAの場合はCancer Res.,56:p5672,1996やJ.Immunol.,161: p5607,1998(これらの文献は引用により本願の一部を構成する)などを参考にして行うことができ、またRNAの場合はJ.Exp.Med., 184: p465,1996(本文献は引用により本願の一部を構成する)などを参考にして行うことができる。
【0083】
前記抗原提示細胞はCTLの誘導剤および/または医薬組成物の有効成分とすることができる。当該抗原提示細胞を有効成分として含有するCTLの誘導剤および/または医薬組成物は、抗原提示細胞を安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与などが挙げられる。このような抗原提示細胞を有効成分として含有してなるCTLの誘導剤および/または医薬組成物を患者の体内に戻すことにより、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患している患者の体内で、本発明のペプチドを抗原提示するがん細胞に特異的なCTLが効率良く誘導され、結果として本発明のペプチドを抗原提示するPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを予防および/または治療することができる。
【0084】
<7>本発明の細胞傷害性T細胞(CTL)
本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドは、例えば以下のようにin vitroで利用することができる。すなわち本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドのいずれかと末梢血リンパ球とをin vitroで接触させることにより、CTLを誘導することができる。したがって本発明の一態様において、本発明のペプチドを抗原提示する細胞を特異的に傷害するCTLおよびその誘導方法を提供するものである。上述のとおり、本発明のペプチドおよびポリヌクレオチドはがんを予防および/または治療するために利用することが可能である。したがって本態様のCTLおよびその誘導方法には、好ましくは癌患者由来の末梢血リンパ球を利用するものである。具体的には、がん患者由来の末梢血リンパ球と、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドのいずれかをin vitroで接触させることにより、本発明のペプチドを抗原提示する細胞を特異的に傷害するCTLを誘導する。
【0085】
例えばメラノーマにおいては、患者本人の腫瘍内浸潤T細胞を体外で大量に培養して、これを患者に戻す養子免疫療法に治療効果が認められている(J.Natl.Cancer.Inst.,86:1159,1994)。またマウスのメラノーマにおいては、脾細胞をin vitroで腫瘍抗原ペプチドTRP-2により刺激し、腫瘍抗原ペプチドに特異的なCTLを増殖させ、該CTLをメラノーマ移植マウスに投与することにより転移抑制が認められている(J.Exp.Med.,185:453,1997)。これは、抗原提示細胞のMHCと腫瘍抗原ペプチドとの複合体を特異的に認識するCTLをin vitroで増殖させた結果に基づくものである。したがって、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを用いて、in vitroで患者末梢血リンパ球を刺激して腫瘍特異的CTLを増やした後、このCTLを患者に戻す治療法は有用であると考えられる。
【0086】
当該CTLは、がんの治療剤または予防剤の有効成分とすることができる。該治療剤または予防剤は、CTLを安定に維持するために、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地等を含むことが好ましい。投与方法としては、静脈内投与、皮下投与、皮内投与などが挙げられる。このようなCTLを有効成分として含有してなるがんの治療または予防剤を患者の体内に戻すことにより、本発明のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患した患者の体内でCTLによるがん細胞の傷害作用が促進され、がん細胞を破壊することにより、がんを治療することができる。
【0087】
本発明のCTLは、腫瘍細胞に抗原提示されている本発明のペプチドとHLAとの複合体を標的として細胞傷害活性を発揮することができる。すなわち本発明のCTLのT細胞受容体(TCR)は、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するものである。近年、CTLに発現する特定のペプチド-HLA複合体を認識するTCR遺伝子をクローニングし、当該TCR遺伝子をがん患者より採取したCD8T細胞に遺伝子導入して人工的にCTLを作製し、大量に培養した後、患者体内に戻す養子免疫療法が考案されている(例えばOchi et al., Blood. 2011 Aug 11;118(6):1495-503など)。本発明において、「人工CTL」という場合、前述のようにペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRをコードする遺伝子を、T細胞に遺伝子導入して作製されたCTLを意味し、これもまた上述の天然のCTLと同様にがんの治療に用いることができるものである。したがってかかる人工CTLもまた、本発明のCTLに包含される。かかる態様において、人工CTLに遺伝子導入される、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRは、該複合体に対する結合親和性や細胞傷害活性を上げるために、適宜改変されてもよい。したがって、「人工CTL」には、本発明のペプチドとHLAとの複合体を認識するTCRをコードする遺伝子を、適宜遺伝子改変したのち患者由来のT細胞に遺伝子導入して作製されたCTLも包含される。人工CTLの作製には、当該技術分野において知られた方法を用いることができる。
【0088】
<8>本発明のペプチドを用いた腫瘍特異的CTL検出剤
本発明のペプチドは、腫瘍特異的CTLに認識され得るため、腫瘍特異的CTL検出剤の成分として有用である。したがって、本発明はまた、本発明のペプチドを含む、腫瘍特異的CTL検出剤に関する。一態様において、本発明の腫瘍特異的CTL検出剤は、本発明のペプチドとHLA-A24とを含有するHLAマルチマー(モノマー、ダイマー、テトラマー、ペンタマーおよびデキストラマー)を含む。
【0089】
例えば、HLAテトラマーとは、HLAのα鎖とβ2ミクログロブリンをペプチド(エピトープペプチド)と会合させた複合体(HLAモノマー)をビオチン化し、アビジンに結合させることにより4量体化したものを指す(Science 279: 2103-2106(1998)、Science 274: 94-96 (1996))。現在では種々の抗原ペプチドを含有するHLAテトラマーが市販されており(例えば(株)医学生物学研究所より)、本発明のペプチドとHLA-A24とを含有するHLAテトラマーを容易に作製することができる。また、HLAダイマーおよびHLAペンタマーも同様な原理に基づいており、これらにおいては、それぞれ、前記HLAモノマーが2量体化および5量体化されている。したがって、本発明のペプチドとHLA-A24とを含有するHLAマルチマーもまた、本発明の一態様である。
【0090】
具体的には、例えば配列番号1~5のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるペプチドとHLA-A24とを含有するHLAテトラマーが挙げられる。当該HLAテトラマーは、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡等の既知の検出手段により結合したCTLを容易に選別または検出することができるように蛍光標識されていることが好ましい。具体的には、例えばフィコエリスリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ペリジニンクロロフィルプロテイン(PerCP)などにより標識されたHLAテトラマーが挙げられる。
【0091】
HLAテトラマーの製法例としては、例えば、Science 279: 2103-2106(1998)、Science 274: 94-96 (1996)などの文献に記載のものが挙げられ、簡単に述べると以下のようになる。
まずタンパク質を発現可能な大腸菌や哺乳動物細胞に、HLA-A24のα鎖発現ベクターおよびβ2ミクログロブリン発現ベクターを導入し発現させる。ここでは大腸菌(例えばBL21)を用いることが好ましい。得られた単量体HLA-A24と本発明のペプチドとを混合し、可溶性のHLA-ペプチド複合体を形成させる。次にHLA-ペプチド複合体におけるHLA-A24のα鎖のC末端部位の配列をBirA酵素によりビオチン化する。このビオチン化されたHLA-ペプチド複合体と蛍光標識されたアビジンとを4:1のモル比で混合することにより、HLAテトラマーを調製することができる。なお、前記各ステップにおいて、ゲルろ過等によるタンパク精製を行うことが好ましい。
【0092】
<9>腫瘍細胞検出剤
上述のとおり、本発明者らはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子が腫瘍細胞において特異的に高発現しているがん精巣抗原であることを見出した。すなわち本発明者らにより、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子は、精巣を除く通常の体細胞においては発現が見られないが、腫瘍細胞においては高発現している遺伝子であることが明らかとなった。かかる知見からPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子は、腫瘍細胞、特にがん細胞を識別するためのマーカーとして利用可能であることが見出された。したがって本発明は一側面において、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物を検出するための検出剤を含む、腫瘍細胞検出剤に関する。
【0093】
本発明において、単にPVT1などという場合、別段の記載のない限りPVT1遺伝子などを意味する。好ましくはヒトの遺伝子であるが、そのホモログであってもよい。
本発明において「遺伝子の発現」とは、該遺伝子の転写を起点とする一連の生体反応をいい、「発現産物」とは、例えばmRNAや内在性ポリペプチドなど、この一連の生体反応によって生成される分子をいう。遺伝子の発現産物である内在性ポリペプチドは、好ましくは当該遺伝子の発現により最終的に産生されるタンパク質である。
本発明において「遺伝子の発現産物の検出剤」とは、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物を、定性的および/または定量的に検出するための剤を意味する。
【0094】
本発明の腫瘍細胞検出剤は、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物を検出するための検出剤を含む。検出対象においてPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物が検出された場合、検出対象が腫瘍細胞を有する、すなわち腫瘍細胞が検出されたと決定できる。本発明の腫瘍細胞検出剤は、in vivoでもin vitroでも用いることが可能であるが、好ましくは生物個体(検査対象)から採取された生体試料由来の細胞集団(検出対象)に対してin vitroで用いる。この場合、検出対象である生体試料由来の細胞集団において腫瘍細胞が検出されたことは、すなわち検査対象である生体試料が採取された生物個体においても腫瘍細胞が検出された、すなわち該生物個体が腫瘍細胞を有することを意味する。したがって、後述するように、本発明の腫瘍細胞検出剤を使用して、検査対象において腫瘍細胞を検出する方法、すなわち検査対象が腫瘍を有しているかを検査する方法も本発明に包含される。
検査対象である生物個体は、腫瘍を有し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。
検出対象の細胞集団は、上記検査対象から得られた任意の生体試料由来の細胞集団に対して用いることが可能であるが、好ましくはヒトから得られた生体試料に由来する細胞集団であり、より好ましくは組織の細胞においてPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子がほとんど発現していないことが確認されている精巣以外の組織、例えば心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸、大腸および血液からなる群から選択される1または2以上の生体試料に由来する細胞を含む細胞集団である。
【0095】
本発明の腫瘍細胞検出剤に含まれる、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物の検出剤は、検出する発現産物に依拠して変化し得、当業者であれば適宜最適なものを選択し得る。具体的には、例えば発現産物がmRNAである場合、当該技術分野において公知である任意のmRNA検出法を用いることができ、これに限定するものではないが、例えばRT-PCR法、in situハイブリダイゼーション法、ノーザンブロッティング法、リアルタイムRT-PCRなどが挙げられ、中でも検出感度の高さ、実験手技の簡便さなどから、RT-PCR法が好ましい。例えば発現産物が内在性ポリペプチド(好ましくはPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質および/またはDYRK4タンパク質)である場合は、これに限定するものではないが、例えばウェスタンブロッティング法、免役組織染色法などが挙げられる。用いるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現産物の検出剤は、検出する発現産物や採用する検出法に依存して変化し得、当業者は適宜最適なものを選択し得る。
【0096】
具体的には、例えば内在性ポリペプチドを検出する場合はPVT1タンパク質、SUV39H2タンパク質、ZNF724Pタンパク質、SNRNP40タンパク質および/またはDYRK4タンパク質に対する特異抗体(好ましくはモノクローナル抗体)など、mRNAを検出する場合はPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の塩基配列の一部に相補的な塩基配列を有するプローブおよび/またはプライマーなどが挙げられるが、これに限定するものではない。また検出する発現産物は、単一の発現産物であっても複数の発現産物を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
<10>本発明のペプチドを認識する抗体
上述のとおり本発明のペプチドは、腫瘍細胞によりCTLエピトープペプチドとして抗原提示される。この際、MHCと複合体を形成して細胞表面に提示されるため、本発明のペプチドや該ペプチドとMHCとの複合体を認識する抗体を用いることで、本発明のペプチドを腫瘍マーカーとして利用できる。このような抗体としては、例えば、本発明のペプチドを特異的に認識する抗体(好ましくはモノクローナル抗体)や、本発明のペプチドとHLAとの複合体、好ましくはHLA-A24との複合体を認識するTCR(T細胞抗原受容体)様抗体などが挙げられる。したがって、本発明はまた、本発明のペプチドや該ペプチドとMHCとの複合体を認識する抗体、とくにモノクローナル抗体やT細胞抗原受容体様抗体にも関する。
本発明において「TCR様抗体」は、断片化された抗原由来のペプチドと主要組織適合性抗原複合体(MHC)分子との複合体(pMHC)に対してTCR様の結合力(抗原認識能)を有する分子である。例えば、Eur J Immunol. 2004;34:2919-29等で報告されているように、腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するTCR様抗体は、CTLが標的とし得る腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞、がん細胞を貪食してMHCクラスI上に腫瘍抗原ペプチドを提示している樹状細胞などを認識することができる。
【0098】
前記TCR様抗体は、Eur J Immunol. 2004;34:2919-29等で記載されている方法で作製することができる。例えば、MHCとペプチド複合体をマウス等の動物に免疫することにより複合体特異的な抗体を取得できる。また、ファージディスプレイ法を利用して複合体特異的抗体を取得することも可能である。
【0099】
上述のとおり、本発明のペプチドおよび/または該ペプチドを提示するMHC複合体を認識することにより、本発明のペプチドを含む該MHC複合体を細胞表面に提示する腫瘍細胞を検出することが可能である。したがって本発明は、上記TCR様抗体を含む腫瘍検出剤にも関する。また本発明のペプチドは、腫瘍細胞の他、抗原提示細胞、特に樹状細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞にも同様に提示されるため、上記TCR様抗体は、本発明のペプチドを提示する抗原提示細胞等の検出にも有用である。
なお、本発明において「抗体」といった場合、免疫グロブリン分子だけでなく、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、Diabodyおよびsc(Fv)2などの、抗体の機能的断片も含まれる。また、これら機能的断片の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の抗体に含まれる。
【0100】
また上述のとおり本発明のペプチドは、腫瘍細胞によりCTLエピトープペプチドとして提示されるため、本発明のペプチドおよび/または該ペプチドとHLAとの複合体、好ましくはHLA-A24との複合体を認識するTCR様抗体は、対象において細胞表面に存在する前記複合体と結合することができる。TCR様抗体が腫瘍細胞表面に結合すると、該抗体のFc部位にマクロファージやNK細胞などのエフェクター細胞のFc受容体が結合し、該エフェクター細胞が腫瘍細胞を攻撃する抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が生じることで腫瘍を処置することができる。したがって上記TCR様抗体は、がんの予防および/または治療にも有用である。したがって、本発明はまた、本発明のTCR様抗体を含む、がんの予防および/または治療剤にも関する。
【0101】
また近年では、2つの抗原結合部位がそれぞれ異なる抗原と結合するように改変した二重特異性抗体が開発されている。一方の抗原結合部位でMHC-抗原ペプチド複合体などのがん細胞表面抗原を認識し、もう一方の抗原結合部位でCD3などのリンパ球表面抗原を認識する二重特異性抗体は、がん細胞の近傍にCTLやエフェクター細胞などのリンパ球表面抗原を有する細胞を拘束、集積化することが可能となる。がん細胞近傍に拘束されたリンパ球は、自身がADCC活性などの抗腫瘍活性を示すだけでなく、サイトカインなどの分泌によりがん細胞周辺のナイーブな免疫細胞を抗腫瘍性に活性化するバイスタンダーな効果を発揮することでがん細胞を攻撃することができる。
【0102】
したがって本発明は、本発明のペプチドおよび/または該ペプチドとHLAとの複合体と、リンパ球表面抗原とを特異的に認識する二重特異性抗体も包含する。特異的に認識されるリンパ球表面抗原は、リンパ球の表面に特異的に発現している抗原であれば特に限定されないが、好ましくはCD3、CD16、CD64などが挙げられる。特にCD3はCTLの細胞傷害活性の誘導に関与している細胞表面抗原であり、CD3に抗体が結合するとHLA-がん抗原複合体を認識せずにHLA非拘束的にCTLが活性化でき、強力な細胞傷害活性を発揮することが期待できるため好ましい。
【0103】
さらに、近年、腫瘍抗原に特異的なモノクローナル抗体の一部に遺伝子操作を加えて改変したキメラ抗原受容体(CAR)を患者由来のT細胞に遺伝子導入し、この遺伝子改変T細胞を体外で増幅培養した後に患者に輸注するという新たな免疫細胞治療法が考案されている(Nat Rev Immunol. 2012;12:269-81)。具体的には、患者から採取された末梢血単核球を抗CD3抗体とIL-2等の存在下で培養することによりT細胞を活性化したのち、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどの形質転換用ベクターを用いてCARをコードする遺伝子をT細胞に導入することにより、遺伝子改変T細胞を作製する。
本発明において、「キメラ抗原受容体」は、がん細胞の細胞表面に存在する分子を認識する抗体の抗体可変領域の軽鎖と重鎖を直列に結合させた単鎖抗体(scFv)をN末端側に、T細胞受容体(TCR)/CD3複合体を構成する分子のうちCD3ζ鎖をC末端側に持つように設計されたキメラタンパク分子である。このキメラ抗原受容体は、scFv領域で特定の抗原を認識すると、CD3ζ鎖を介してT細胞の活性化が生じる。T細胞の活性化を増強するために、scFvとζ鎖の間に1または2以上の共刺激分子(例えばCD28、4-1BB、ICOSなど)を組み込んでもよい。本発明においては、scFvとして、本態様のTCR様抗体(TCR様抗体から設計され得る抗体分子またはその断片を含む)を用いてCARを作製することができる。腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するCARは、CTLが標的とし得る腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞、がん細胞を貪食してMHCクラスI上に腫瘍抗原ペプチドを提示している樹状細胞などを認識することができるため、前記CARを導入した遺伝子改変T細胞は、人工CTLと同様に、前記腫瘍抗原に特異的ながんの予防および/または治療剤として有用である。したがって、本発明はまた、本発明の腫瘍抗原由来のペプチドとMHCとの複合体を認識するCARを導入した遺伝子改変T細胞または人工CTLを含む、がんの予防および/または治療剤にも関する。
【0104】
<11>腫瘍の検出方法(検査方法、診断方法)
本発明は、前述した本発明のCTL検出剤または腫瘍細胞検出剤(腫瘍検出剤)を利用した腫瘍の検出方法(検査方法、診断方法)を提供するものである。
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出方法(診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、若しくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を認識するCTLの量を、本発明のCTL検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
【0105】
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、もしくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4発現産物の量を、本発明の腫瘍検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)は、典型的には、被験者の血液を採取するか、もしくは腫瘍が疑われる被験組織の一部をバイオプシ等で採取し、そこに含まれるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を提示する細胞の量を、本発明の腫瘍検出剤によって検出・測定することにより、大腸癌、肺癌、乳癌、骨髄腫、口腔癌、膵癌、皮膚癌、前立腺癌等のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがん(腫瘍)の罹患の有無またはその程度を検出、検査または診断するものである。
【0106】
本発明の検出(検査、診断)方法は、例えば腫瘍を有する患者において、該腫瘍の改善のために治療薬を投与した場合における、該腫瘍の改善の有無またはその程度を検出(検査、診断)することもできる。さらに本発明の検出(検査、診断)方法は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを有効成分とする医薬を有効に適用できる治療対象患者の選択や、当該医薬による治療効果の予測や判定などにも利用できる。また、本発明の腫瘍検出剤を用いる態様においては、本発明のペプチドを有効成分とするがんワクチンを投与することにより患者生体内で誘導されるCTLが実際に標的とし得る、腫瘍抗原ペプチドを提示しているがん細胞を検出することが可能である。
【0107】
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(a)および(b)、および任意に(c)の工程を含むものである:
(a)被験者から得られた生体試料と本発明のCTL検出剤とを接触させる工程、
(b)該生体試料中のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を認識するCTLの量を、上記CTL検出剤が結合した細胞の量を指標として測定する工程、
(c)(b)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(a)、(b)および(c)の工程を含む。
【0108】
本発明の腫瘍細胞検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(d)および(e)、および任意に(f)の工程を含むものである:
(d)被験者から得られた生体試料と本発明の腫瘍細胞検出剤とを接触させる工程、
(e)該生体試料中のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4発現産物の量を測定する工程、
(f)(e)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明の腫瘍細胞検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(d)、(e)および(f)の工程を含む。
本発明の腫瘍細胞検出剤を用いる腫瘍細胞を検出する方法の態様は、上記(d)、(e)の工程および(f)に代えて下記(f’)の工程を含む:
(f’)(e)の結果をもとに、生体試料中の腫瘍細胞の存在または不存在を決定する工程。
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(がん細胞の存在が疑われる組織およびその周辺組織、または血液など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から採取された組織細胞を含む試料などを挙げることができる。
【0109】
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の検出(検査)方法の特定の態様は、次の(g)および(h)、および任意に(i)の工程を含むものである:
(g)被験者から得られた生体試料と本発明の腫瘍検出剤とを接触させる工程、
(h)該生体試料中のPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4由来の腫瘍抗原ペプチドとHLA抗原との複合体を提示する細胞の量を、上記腫瘍検出剤が結合した細胞の量を指標として測定する工程、
(i)(h)の結果をもとに、がんの罹患を判断する工程。
本発明の腫瘍検出剤を用いる本発明の診断方法の特定の態様は、上記(g)、(h)および(i)の工程を含む。
ここで用いられる生体試料としては、被験者の生体組織(がん細胞の存在が疑われる組織およびその周辺組織、または血液など)から調製される試料を挙げることができる。具体的には、該組織から採取された組織細胞を含む試料などを挙げることができる。
【0110】
本発明のCTL検出剤を用いる本発明の検出方法(検査方法、診断方法)の一態様は、生体試料中の本発明のペプチド特異的CTLを検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には、文献(Science,274:p94,1996、本文献は引用により本願の一部を構成する)に記載の方法に従って蛍光標識したHLA抗原と本発明のペプチドとの複合体の4量体(HLAテトラマー)を作製し、これを用いてがんが疑われる患者の末梢血リンパ球中の抗原ペプチド特異的CTLをフローサイトメーターにより定量することにより行うことができる。
【0111】
腫瘍の有無の予測、判定、判断または診断は、例えば、被験者の血液や腫瘍が疑われる被験組織における本発明のペプチド特異的CTLの量、または、本発明のペプチドを提示する細胞の量を測定することにより行うことができる。その際、場合によっては正常な対応組織におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4遺伝子発現レベル、本発明のペプチドレベルまたはCTLレベル等を基準値として、該基準値と被験者から得られた試料における前記レベルとを比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
ここで被験者の被験組織と正常な対応組織との前記レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。並行して行わない場合は、複数(少なくとも2つ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常な組織を用いて均一な測定条件で測定して得られた本発明のペプチド特異的CTLの量または本発明のペプチドを提示する細胞の量の平均値または統計的中間値を、正常者の値すなわち基準値として、比較に用いることができる。
【0112】
被験者が、がんに罹患しているかどうかの判断は、例えば該被験者の組織における本発明のペプチド特異的CTLの量、または、本発明のペプチドを提示する細胞が、正常者のそれらのレベルと比較して例えば2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。
また、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを投与されている被験者において、本発明のペプチド特異的CTLの量を測定することにより、実際にCTLが誘導されているか否かを判定することも可能である。例えば、該被験者の組織における本発明のペプチド特異的CTLの量が、正常者のそれらのレベルと比較して例えば2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドによる治療が有効であると判定することができる。
【0113】
<12>がんの予防および/または治療方法
本発明はまた、対象におけるがんを予防および/または治療する方法であって、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、CTL、抗原提示細胞、TCR様抗体、人工CTL、遺伝子改変T細胞からなる群から選択される有効成分の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法にも関する。
本発明における「対象」は、がんに罹患し得る生物個体であればいかなる生物個体であってもよいが、好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯類、チンパンジーなどの霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、ウサギ、イヌ、ネコなど)の個体であり、より好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、がんの予防および/または治療が企図される場合には、典型的にはがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。本発明の一態様において、対象はHLA-A24陽性である。本発明の一態様において、対象はPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する。本発明の一態様において、対象はHLA-A24陽性であり、かつ、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する。
【0114】
本発明の予防/治療方法に用いる本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、CTL、抗原提示細胞、TCR様抗体、人工CTL、および遺伝子改変T細胞としては、本明細書に記載の任意のものが挙げられる。本発明における有効量とは、例えば、がんの症状を低減し、またはその進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、がんを抑制し、または治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラットなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
【0115】
具体的な用量としては、例えば、本発明のペプチドの場合、通常0.0001mg~1000mg、好ましくは0.001mg~1000mg、より好ましくは0.1mg~10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。また、本発明のポリヌクレオチドの場合、通常、0.0001mg~100mg、好ましくは0.001mg~10mgであり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。また、本発明のTCR様抗体の場合、通常、0.0001mg~2000mg、好ましくは0.001mg~2000mgであり、これを1週間~4週間に1回投与するのが好ましい。本発明の遺伝子改変T細胞または人工CTLの場合、通常、1×10~1×10、好ましくは1×10~1×10であり、これを1日~4週間に1回投与するのが好ましい。また、投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与などの既知の任意の適切な投与方法を用いることができる。また、本発明のペプチドやヌクレオチドを直接体内に投与するin vivo法の他、ヒトからある種の細胞を採集し、体外で本発明のペプチドやポリヌクレオチドを用いてCTLや抗原提示細胞を誘導した後、これらの細胞を体内に戻すex vivo法を用いることもできる。
【0116】
本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、HLA-A24陽性の対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象のHLA型を決定する工程をさらに含んでもよい。対象のHLA型の決定は、既知の任意の手法により行うことができる。また、本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを検出する工程をさらに含んでもよい。対象におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんの検出は、上記<11>に記載の腫瘍の検出方法を用いることができる。本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、HLA-A24陽性であり、かつ、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含む。本発明のこの態様は、上記選択する工程の前に、対象のHLA型を決定する工程および対象におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを検出する工程をさらに含んでもよい。
【0117】
<13>がん細胞を標的とするがん治療薬のスクリーニング方法
本発明の腫瘍細胞検出剤を用いる態様において、検出対象におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4発現産物の発現量は、検出対象中の腫瘍細胞の量と正に相関していると考えられる。したがって、検出対象に対してがん治療薬の候補化合物を投与する前後におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4発現産物の発現量を比較することで、投与した候補化合物が腫瘍細胞を標的とするがん治療薬として有用であるか否かを判定することができる。
【0118】
本発明のスクリーニング方法は、以下の工程(I)、(II)および任意に(III)を含むものである:
(I)がん治療薬の候補化合物を、対象に投与する前に、該対象におけるPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4遺伝子の発現産物の検出量Aを測定する工程、
(II)前記候補化合物を前記対象細胞集団に投与した後に、該対象における前記遺伝子の発現産物の検出量Bを測定する工程、および
(III)前記検出量AとBとを比較し、該検出量AがBより有意に大きい場合に、前記候補化合物を、がん幹細胞を標的とすることを特徴とするがん治療薬候補であると判定する工程。
本発明のスクリーニング方法の特定の態様は、上記工程(I)~(III)を含む。ここで工程(I)および(II)の検出量を測定する工程は、それぞれ上記検出(検査、診断)方法における工程(d)および(e)を含む。
【0119】
<14>遺伝子の発現を抑制するためのポリヌクレオチド
上述のとおり、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子は、精巣以外の正常細胞においては発現していないが腫瘍細胞において発現しているがん精巣抗原であることが初めて見いだされた。このことは、これらの遺伝子の発現が細胞のがん化に関与していることを示唆し、したがってこれらの遺伝子の発現を抑制することでがんを処置することができると考えられる。
【0120】
すなわち本発明は一態様において、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤に関する。
細胞において特定の遺伝子を選択的に発現抑制する方法は特に限定されず、例えばアンチセンスRNA法、RNA干渉(RNAi)法、CRISPR-Cas法、ZFN法、TALEN法などが挙げられる。中でもバイオアベイラビリティやオフターゲット効果の低さ、などの観点から、アンチセンスRNA法およびRNAi法が好ましく、RNAi法がより好ましい。
【0121】
したがって本発明の好ましい一態様において、遺伝子発現抑制剤は、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである。本発明において、ある遺伝子に対する「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、当該遺伝子の発現産物であるmRNAに対してハイブリダイズすることにより、当該遺伝子の発現を抑制することができるオリゴヌクレオチドを意味し、これはDNAやRNAなどの任意の核酸であってよい。かかるオリゴヌクレオチドとしては、典型的には、当該遺伝子のmRNAの配列の一部分と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「相補的」という語は、ある核酸が他の核酸配列と水素結合を形成できることを意味し、特定の「配列(の一部分)と相補的な配列」とは、当該配列を有するヌクレオチドと細胞内環境でハイブリダイズすることができる程度に相補性を有する配列を意味する。したがって配列の全てが相補的(すなわち完全に相補的)である必要はない。
【0122】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には約15~30ヌクレオチドの長さを有する。また、生体内での安定性や発現抑制活性の向上、オフターゲット効果の低減などの目的のため、当該技術分野において知られた修飾を施されていてよい。
【0123】
また本発明の好ましい一態様において、遺伝子発現抑制剤は、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子に対するsiRNAである。本発明においてある遺伝子に対する「siRNA」とは、当該遺伝子の発現を阻害することができる二本鎖構造RNAを意味し、当該二本鎖構造RNAは、センス領域およびアンチセンス領域を有し、アンチセンス領域は特定遺伝子のmRNAの配列に相補的であり、センス領域はアンチセンス領域の配列に相補的である。本発明のsiRNAの各センス領域およびアンチセンス領域は、約15~30ヌクレオチド程度の長さを有し、好ましくは19~27ヌクレオチド程度の長さを有する。また、センス領域およびアンチセンス領域は、それぞれセンス鎖およびアンチセンス鎖の二本の鎖により二本鎖構造を形成していてもよい。また、センス領域およびアンチセンス領域は、連結されて1つのヌクレオチド鎖を構成していてもよく、この場合一本鎖のRNAがヘアピン状に折りたたまれて、センス領域およびアンチセンス領域が二本鎖構造を形成することになる。
【0124】
当該技術分野において、siRNAの発現抑制効果を向上させたり、バイオアベイラビリティを向上させたり、オフターゲット効果を低減させたりする方法は知られている。本発明のsiRNAは、siRNAとしての機能を向上させるためのこれらの知られた修飾や改変を適宜適用することができる。
上記ポリヌクレオチドは、当該技術分野において公知の方法、例えば市販のDNA合成装置によって容易に合成することができる。
【0125】
本発明は別の側面において、上記アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/または上記siRNAを含む医薬組成物を提供する。本態様の医薬組成物に含まれ得る他の成分としては、例えば薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤などが挙げられ、とくに薬学的に許容可能な担体を含むことが好ましい。薬学的に許容可能な担体としては、これに限定するものではないが、例えばリポソーム、親水性ポリマーなどが挙げられる。
【0126】
上述のとおり、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現を抑制することでがんを処置することができるものと考えられる。したがって本態様のポリヌクレオチドを含む上記医薬組成物は、がんの予防および/または治療剤として用いることができる。
【0127】
本発明は別の側面において、上記PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現を抑制することを含む、がんを予防および/または処置する方法にも関する。本方法においては、投与される有効成分がPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現を抑制する遺伝子発現抑制剤、好ましくはPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAであること以外は、上記<12>に記載の方法に準じて実施することができる。
【0128】
すなわち上記方法は、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40およびDYRK4からなる群から選択される遺伝子の発現抑制剤の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、がんを予防および/または処置する方法ということができる。対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、がんの予防および/または治療が企図される場合には、典型的にはがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。したがって、対象はPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんに罹患しているか、罹患するリスクを有する。
【0129】
また、本発明の予防/治療方法の一態様は、投与する工程の前に、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを有する対象を予防/治療の対象として選択する工程をさらに含んでよい。対象の選択に際しては、上記<11>の対象においてPVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40またはDYRK4陽性のがんを検出する方法を用い得る。
【0130】
本態様における有効量とは、例えば、がんの症状を低減し、またはその進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、がんを抑制し、または治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラットなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。有効成分の具体的な用量は、それを必要とする対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
【0131】
本明細書中で言及する全ての特許、出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例
【0132】
例1.HLA-A24に提示されるナチュラルペプチドの同定
【0133】
(1)細胞表面HLA-A24分子の確認
ヒト大腸癌細胞株であるSW480、HCT-116、HCT-15/β2mおよびColo320、肺腺癌細胞株であるLHK2および肺扁平上皮癌であるSq-1をそれぞれ用いて、細胞表面に存在するHLA-A24分子の局在を調べた。
【0134】
培養した上記がん細胞を0.25%のトリプシン-EDTA(Gibco)で処理し、氷冷PBSで洗浄し、約2×10個/ウェルとなるようにU底96ウェルプレート(Corning)に分注した。細胞を380gで5分間遠心し、抗HLA-A24モノクローナル抗体を産生するマウスハイブリドーマC7709A2(P. G. Coulie博士(de Duve Institute, Brussel)より供与されたもの)または抗汎HLAクラスI抗体を産生するマウスハイブリドーマW6/32の培養上清と共に、氷上で1時間インキュベートした。細胞を氷冷PBSで洗浄した後、FITC抱合ヤギ抗マウスIgG抗体とともに氷上で30分インキュベートした。再度細胞を氷冷PBSで洗浄した後、1%ホルムアルデヒド含有PBSで細胞を再懸濁し、BD FACS Caliburシステム(BD Biosciences, Mountain View, CA)で分析し、HLA-A24分子の量と比例する蛍光強度を計測した。
【0135】
結果を図1に示す。用いた6種の細胞株(SW480、HCT-116、HCT-15/β2m、Colo320、LHK2、およびSq-1)のうち、遺伝子的にHLA-A2402であるSW480、HCT-15/β2m、Colo320、LHK2、およびSq-1の5種において、W6/32抗体と同程度の蛍光強度がC7709A2抗体においても観察された。このことは、C7709A2によって、細胞表面におけるHLA-A24とナチュラルペプチドとの複合体が選択的に検出されたことを意味する。
(2)ペプチドの単離
がん細胞表面に局在する、ナチュラルペプチドとHLA-A24との複合体の単離は、Purcell et al., Methods Mol Biol. 2004, 251, 291-306およびEscobar et al., J. Immunol, 2008, 181: 4874-4882に記載の方法に準じて行った。簡潔には、抗HLA-A24モノクローナル抗体を産生するマウスハイブリドーマC7709A2(P. G. Coulie博士(de Duve Institute, Brussel)より供与されたもの)の培養上清を収集し、PEG-20,000(WAKO chemicals)に対する逆浸透により約1/40の体積まで濃縮した濃縮液約40ml(pH約7.2~7.4に調製)を、約3mlの洗浄済みプロテインA-セファロースビーズ(GE Healthcare)に添加し、4℃で一晩揺動してインキュベートした。
【0136】
その後ビーズを0.1Mのホウ酸緩衝液(pH8.2)および0.2Mのトリエタノールアミン(pH8.2)で洗浄した。プロテインAに結合した抗体を、0.2Mのトリエタノールアミン(pH8.3)に20体積の20mMピメルイミド酸ジメチル(DMP)二塩酸塩(Sigma)を加えた液体中にビーズを再懸濁することにより、共有結合で連結した。カップリング反応は、室温のRotamix中で1~1.5時間進行させた。DMP中の残った遊離イミド酸基を、セファロースビーズを10体積の20~50mMモノエタノールアミン溶液とともに、室温で2時間、Rotamix中でインキュベートすることによりクエンチした。その後ビーズを0.1Mのホウ酸緩衝液で洗浄し、0.02%のアジ化ナトリウムを加えて4℃で保存した。
【0137】
細胞は、上記(1)で用いた細胞株をそれぞれ用いた。細胞を、0.5%のNonidet P-40、50mMのトリス塩酸、150mMのNaClおよびプロテアーゼ阻害剤(Roche)を含む氷冷緩衝液中でライセートした。4℃で2,000g-10分、38,000g-30分、100,000g-90分という一連の遠心によって細胞ライセートを清澄化した。最後の遠心後、上清を収集し、Poly-Prep Chromatography Columns(Bio-Rad)中の、0.5mlのプロテインA-セファロースビーズスラリーを通過させて、タンパク質Aと非特異的に結合するあらゆる分子を除去した。
【0138】
得られた精製前のライセートを、1mlの上記で作製した抗HLA-A24モノクローナル抗体(C7709A2)を共有結合させたプロテインA-セファロースビーズと混合し、一晩4℃で穏やかにロータミックス処理した。ビーズを4つの氷冷緩衝液(緩衝液1:0.005%Nonidet P-40、50mMトリス塩酸、pH8.0、150mM NaCl、5mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびプロテアーゼ阻害剤、緩衝液2:50mMトリス塩酸、pH8.0および150mM NaCl、緩衝液3:50mMトリス塩酸、pH8.0および450mM NaCl、緩衝液4:50mMトリス塩酸、pH8.0)で順次洗浄した。最終的に、HLA分子とペプチドとの複合体を6mlの10%酢酸で溶出した。続けて、HLA分子とペプチドとを、3kDaカットオフフィルターAmicon Ultra-15 Centrifugal Filter Units(Millipore)を用いた限外ろ過により分離した。得られた5.5mlまでの通過画分をSpeedVacで数マイクロリットルまで濃縮し、0.1%ギ酸を溶媒として再溶解し、MALDIスポッティングデバイスと連結されたナノフローHLPCシステムに供した。
【0139】
(2)ペプチドの同定
ペプチドを、MALDIスポッティングデバイスと連結されたDiNaシステム(KYA Technologies)中のHiQsilC18W-3カラム(100μm ID×100mm;KYA Technologies, Tokyo, Japan)上で分離した。溶出溶媒Aとして0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を、溶出溶媒Bとして70%アセトニトリル中の0.1%トリフルオロ酢酸を用いた。濃度勾配を、80分間で溶媒Bが5%~50%となるようにし、300nL/分の流速とした。分離したペプチドを、DiNa MaP MALDIスポッティングシステム中のOpti-TOFTM 384 Well Insert(123×81mm)ステンレスMALDIプレート(AB Sciex, Foster City, CA)にスポットした。30秒ごとに150nLのペプチド分画を収集し、were overlaid with70%ACN/0.1%TFA中の4mg/mlのα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(CHCA; Sigma, Tokyo, Japan)700nLおよび80μg/mlのクエン酸水素ジアンモニウムで重層した。質量分析は、4800 Plus MALDI-TOF/TOF Analyzer(AB Sciex)と4000 Series Explorer software (ver. 3.5.3)(AB Sciex)上で実施した。質量の正確さを較正するため、トリプシン処理BSA標準(KYA Technology)および6-ペプチドミクスチャ(AB Sciex)を用いた。
【0140】
プリカーサイオンスキャンは600~3500m/zの範囲で実施し、10以上のS/N閾値を有する100個までのプリカーサイオンを、結果として起こる分裂のために選択した(TOP100 algorithm)。MS/MSの取得は、空気を衝突ガスとし、衝突エネルギーを1kVとして実施した。取得データからのペプチド同定は、ProteinPilot 3.0 software(AB Sciex)に採用されているParagon search algorithmを用いて、human International Protein Index(IPI)データベース(ipi.HUMAN.v3.71.fasta、86739種のタンパク質配列を含む;ipi.HUMAN.v3.87.fasta、91444種のタンパク質配列を含む)およびhuman UniProt Knowledge Base(UniProtKB_HUMAN.fasta、2014年6月時点で88993種のタンパク質配列を含む)に対して行った。
【0141】
調査のため、以下の設定を選択した:sample type-identification;Cys. alkylation-none;digestion-none; instrument-4800;species-Homo sapiens;ID Focus-no focus / focus on amino acid substitutions;search effort-thorough。ペプチド同定の生データ(ProteinPilot's .group files)はエクセルファイルフォーマット(Microsoft)に移行し、各スペクトルを同定したアミノ酸配列とそのMS/MSイオンシグナルの間の対応について手動で調査したのち、偽陽性の判定をリストから除去した。
【0142】
結果を図2に示す。得られた複合体からナチュラルペプチドを単離してその配列を決定した結果、5種の細胞株いずれの場合においても、9アミノ酸長のナチュラルペプチドが大部分を占めていた。また、各アミノ酸位置におけるアミノ酸残基の分布を調べたところ、N末端から2番目のアミノ酸がチロシンおよび/またはC末端のアミノ酸がフェニルアラニンであるペプチドが大部分であった(図2)。これはHLA-A24の結合モチーフと符合する。
【0143】
さらにMS/MSにより配列決定した384種のナチュラルペプチドが由来する親タンパク質を調査したところ、そのほとんど(304種)がそれぞれの親タンパク質に由来する唯一のものであった。同定された親タンパク質のうち、30種は2つのナチュラルペプチドを供与し、5種のタンパク質は3つのナチュラルペプチドを供与し、1種のタンパク質は5つのナチュラルペプチドを供与していた。
【0144】
例2.HLA-A24に対する結合アッセイ
(1)ペプチドの合成
上記1.で同定されたナチュラルペプチドを合成により製造した(PH Japan Co. Ltd., Hiroshima)。70%以上の純度のペプチドを結合アッセイに用いた。HLA-A24結合性についてのネガティブコントロールとして、合成ペプチドGK12(配列番号6)を用いた。
【0145】
(2)結合アッセイ
HLA-A24を発現するT2細胞であるT2-A24細胞を、27℃で一晩、COインキュベーター内でプレインキュベートした。収集した細胞をOpti-MEMで再懸濁し、U底96ウェルプレート(Corning社製)に1ウェルあたり約1×10細胞/200μLで播種した。対象ペプチドを0.33μM、1μMおよび10μMの濃度でそれぞれ添加し、27℃で3時間、続いて37℃で2.5時間、COインキュベーター内でインキュベートした。その後、細胞をプレートに入れたまま遠心(380g、5分)し、100μLのC7709A2モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ培養上清で再懸濁し、氷上で45~60分インキュベートした。氷冷PBSで洗浄した後、細胞をFITC抱合ヤギ抗マウスIgG抗体(KPL, Gaithersburg, MD)とともに氷上で30分インキュベートした。プレートに入れたまま氷冷PBSで洗浄した後、1%ホルムアルデヒドおよびPBSで再懸濁し、FACScan(BD Biosciences, Mountain View, CA)で分析し、安定HLA-A24分子の量の増加に起因する平均蛍光強度(MFI)シフト(結合ペプチドにより安定化するため、結果として蛍光が増大する)を計測した。非結合ペプチドGK12(濃度0~10μM)で処理した細胞のMFIは一定であり、それをネガティブコントロールとして用いた。
【0146】
上記例1で得られたナチュラルペプチドのうち、ランダムに選択した26種のペプチドについて、ペプチド濃度1μMにおけるMFIシフト(ΔMFI)を計測した。またそれらのペプチドについて、NetMHC3.4を用いてそれぞれスコアを算出し、ΔMFIとの相関関係について検討した。結果を図3に示す。ΔMFIとNetMHCスコアとは、決定係数R=0.6で線形に相関することがわかった。そしてNetMHCスコアの閾値を0.15(ΔMFIが17に相当)として、それより大きいNetMHCスコアを示す場合に結合ペプチドであると推測されることがわかった。その結果、同定されたナチュラルペプチド384種のうち、273種のペプチドが結合ペプチド(すなわちNetMHC>0.15)であると推測されることがわかった(データ示さず)。
【0147】
例3.腫瘍特異的遺伝子の同定
(1)親遺伝子の正常組織における発現確認
各正常組織における遺伝子発現の確認のため、ハウスキーピング遺伝子により標準化されたヒトcDNAパネル(Human MTC Panels IおよびII、Clontech社製)を用いた。また、各がん細胞株のトータルRNAは、RNeasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いて調製し、oligo(dT)プライマーおよびSuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)を用いてcDNAを調製した。
【0148】
上記で調製したcDNAライブラリを用いて、例2で結合ペプチドであると推測された273種のペプチドが由来する親タンパク質をコードする遺伝子(親遺伝子)の発現をPCRで確認した。プライマーセットは、上記ナチュラルペプチドをコードする領域を含み、PCR産物が約200~400塩基対の長さになるように設計した。PCRは、DreamTaqDNAポリメラーゼ、10×DreamTaqバッファ(Thermo Scientific社製)、2mMのdNTPミクスチャ、0.25μMの順行および逆行プライマー、ならびに対応するcDNAテンプレートを含む、20μLの体積で行った。PCRサイクルは以下の条件で行った:
【表1】
得られたPCR産物を、1.5%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで可視化して、UV光下で観察した。
【0149】
(2)がん精巣抗原の同定
がん抗原として知られている遺伝子の中には、正常な組織細胞においてはほとんど発現が確認されない遺伝子が存在する。かかる遺伝子は多くの場合精巣にのみ発現が確認されることから、「がん精巣抗原」と称されている。上記(1)の結果から、がん精巣抗原であると推測される遺伝子を選択した。その結果、PVT1、SUV39H2、ZNF724P、SNRNP40、DYRK4およびTOPK/CT84の6種の遺伝子ががん精巣抗原であると推測された。このうちTOPK/CT84については、がん精巣抗原であり、当該遺伝子に由来するペプチドががん細胞において抗原提示されていることがすでに報告されている(国際公開第2013/061594号)。
【0150】
例4.ナチュラル抗原ペプチドの評価
例3で推測されたがん精巣抗原遺伝子を親遺伝子とする、以下の各ナチュラルペプチドについて、ナチュラル抗原ペプチドとしての評価試験を行った。
PVT1:HWNDTRPAHF(配列番号1)
SUV39H2:RYGNVSHF(配列番号2)
ZNF724P:KYVKDFHKF(配列番号3)
SNRNP40:IFQGNVHNF(配列番号4)
DYRK4:VYTYIQSRF(配列番号5)
【0151】
上記各遺伝子の発現解析には下表のプライマーセットを用いた。
【表2】
【0152】
(1)PVT1およびそれに由来するナチュラルペプチドについて
PVT1および配列番号1のペプチドについての試験結果を図4に示す。PVT1は従前ncRNAとして知られていたものであるが、本発明者らにより、少なくともがん細胞においてはタンパク質レベルで発現している可能性が示唆された。PVT1は精巣以外の正常組織細胞においてはmRNAレベルでの発現が確認されておらず、PVT1に由来する配列番号1のペプチドは、HLA-A24との高い結合性を示したことから、免疫治療の標的として有用であると考えられる。また、当該遺伝子はがん細胞において特異的に発現していることから、がん細胞化やがん細胞の生存性に関与している可能性があるため、発現抑制などによる核酸治療などの標的としても効果が期待される。
【0153】
(2)SUV39H2およびそれに由来するナチュラルペプチドについて
SUV39H2および配列番号2のペプチドについての試験結果を図5に示す。SUV39H2は精巣以外の正常組織細胞においてはmRNAレベルでの発現が確認されておらず、SUV39H2に由来する配列番号2のペプチドは、HLA-A24との高い結合性を示したことから、免疫治療の標的として有用であると考えられる。また、当該遺伝子はがん細胞において特異的に発現していることから、がん細胞化やがん細胞の生存性に関与している可能性があるため、発現抑制などによる核酸治療などの標的としても効果が期待される。
【0154】
(3)ZNF724Pおよびそれに由来するナチュラルペプチドについて
ZNF724Pおよび配列番号3のペプチドについての試験結果を図6に示す。ZNF724Pは精巣以外の正常組織細胞においてはmRNAレベルでの発現が確認されておらず、ZNF724Pに由来する配列番号3のペプチドは、HLA-A24との高い結合性を示したことから、免疫治療の標的として有用であると考えられる。また、当該遺伝子はがん細胞において特異的に発現していることから、がん細胞化やがん細胞の生存性に関与している可能性があるため、発現抑制などによる核酸治療などの標的としても効果が期待される。
【0155】
(4)SNRNP40およびそれに由来するナチュラルペプチドについて
SNRNP40および配列番号4のペプチドについての試験結果を図7に示す。SNRNP40は精巣以外の正常組織細胞においてはmRNAレベルでの発現が確認されておらず、SNRNP40に由来する配列番号4のペプチドは、HLA-A24との高い結合性を示したことから、免疫治療の標的として有用であると考えられる。また、当該遺伝子はがん細胞において特異的に発現していることから、がん細胞化やがん細胞の生存性に関与している可能性があるため、発現抑制などによる核酸治療などの標的としても効果が期待される。
【0156】
(5)DYRK4およびそれに由来するナチュラルペプチドについて
DYRK4および配列番号5のペプチドについての試験結果を図8に示す。DYRK4は精巣以外の正常組織細胞においてはmRNAレベルでの発現が確認されておらず、DYRK4に由来する配列番号5のペプチドは、HLA-A24との高い結合性を示したことから、免疫治療の標的として有用であると考えられる。また、当該遺伝子はがん細胞において特異的に発現していることから、がん細胞化やがん細胞の生存性に関与している可能性があるため、発現抑制などによる核酸治療などの標的としても効果が期待される。
【0157】
例5.CTL誘導および評価
(1)CTLの誘導
インフォームドコンセントを得たHLA-A24陽性健常者の末梢血をヘパリン添加50mLシリンジにて採血した。全血を、リンフォプレップ(Nycomed社)を13mL添加した50mLチューブ(ファルコン社)に重層し、2000rpm、30分間遠心分離した。リンフォプレップ層上に沈殿したPBMC層をピペットにて回収し、PBSにて3回洗浄し、ヒトPBMCとした。
【0158】
96ウェルU底細胞培養用マイクロテストプレート(BECTON DIKINSON社)の各ウェルに、Hepes改変RPMI1640培地(Sigma社)に2-メルカプトエタノール(最終濃度55μM)、L-グルタミン(最終濃度2mM)、抗生物質としてストレプトマイシン(最終濃度100μg/mL)とペニシリンG(最終濃度100U/mL)および5%の血清成分を加えた培地を10mLおよび上記で分離したヒトPBMCを約3×10個/プレート入れ、浮遊させて培養した。これに10μg/mLの濃度で配列番号1のPVT1由来ナチュラル抗原ペプチド(以下「HF10」と記載)または配列番号2のSUV39H2由来ナチュラル抗原ペプチド(以下「RF8」と記載)を加えた。2日間培養後、50U/mLの最終濃度でIL-2を添加し、さらに2週間培養した。
【0159】
上記培養細胞の適量に対して、20μLのCD8-FITC抗体と、HF10パルス細胞に対しては10μLのPE標識HF10/HLA-A24テトラマー試薬を、RF8パルス細胞に対してはPE標識RF8/HLA-A24テトラマー試薬をそれぞれ加え、穏やかに混合し、4℃にて30分静置した。1.5mLのPBSを加え攪拌後、3,000rpmで5分間遠心分離し、上清を吸引廃棄後、細胞を400μLのPBSに再懸濁し、24時間以内にフローサイトメーターにて分析し、CD8(+)およびHLA-A24テトラマー(+)となる細胞分画をソーティングして増殖し、CD8T細胞クローンを調製し、CTLとした。
【0160】
図9は、各CTLの性質を、HLA-A24テトラマー試薬を用いて解析したフローサイトメトリー(テトラマーアッセイ)の結果を表す。いずれの株もCD8(+)およびナチュラル抗原ペプチド/HLA-A24テトラマー(+)を示した。また、RF8パルスCTLは、HIV/HLA-A24テトラマーに対して結合性が低く、RF8/HLA-A24テトラマーに対して高い特異性を有することが示唆された。
【0161】
(2)インターフェロン(IFN)-γ ELISPOTアッセイ
実験は、Human IFNγ ELISPOT set(BD社)を使用して行った。ELISPOTプレートに、200倍希釈した抗IFNγ抗体を4℃で一晩静置してコートした。10%FCS補充RPMI(Sigma-Aldrich社)にてプレートを室温にて2時間培養し、ブロッキングし、ELISPOTプレートとした。
20μg/mLの濃度にて各ペプチドを、ヒトリンパ芽球様細胞T2細胞にHLA-A2402遺伝子を導入して発現させた細胞株であるT2-A24細胞(葛島先生、愛知県がんセンターより供与)に室温にて1時間パルスした。ペプチドパルス群は[1]ペプチドパルス無し、[2]HIVペプチドパルス、[3]HF10またはRF8ペプチドパルスの3群とした。ペプチドパルス後PBS添加、1500rpmで5分間遠心分離した。細胞ペレットを5×10個/mLになるように懸濁し、ELISPOTプレートに各ウェル5×10個ずつ播種した。上記で調製したCTLを各ウェル5×10個播種し、37℃にて一晩培養した。
【0162】
一晩培養したELISPOTプレートから培養液および細胞を除去後、Milli Q水にて2回、wash bufferにて3回洗浄した。各ウェルに250倍希釈したビオチン化検出抗体を添加、室温にて2時間培養した。Wash bufferにて3回洗浄後、100倍希釈したHRP標識ストレプトアビジンを各ウェルに添加、室温にて1時間培養した。Wash bufferにて3回洗浄およびPBSにて2回洗浄後、発色試薬を各ウェルに添加、室温にて15~30分間発色反応を行った。十分な可視スポット形成を確認後、Milli Q水にて洗浄し、反応を終了した。ニトロセルロース膜を乾燥後、KS ELISPOT(ZEISS社)にて検出、撮影した。
【0163】
また標的細胞として、ペプチドパルスしたT2-A24細胞に代えて、がん細胞を用いて同様にELISPOTアッセイを行った。がん細胞は、CTLクローンA10、E10およびH3に対しては大腸がん細胞SW480およびcolo320ならびに肺がん細胞Sq-1を用い、CTLクローン11に対しては、大腸がん細胞SW480を用いた。
【0164】
結果を図10に示す。Aは、HF10ペプチドを用いて誘導したCTLクローンA10、E10およびH3を用いたアッセイの結果を表す。いずれのクローンも、HF10でパルスしたT2-A24細胞に対して特異的な反応性を示した。また、がん細胞を用いたアッセイにおいては、例4においてPVT1のmRNAが検出されたSW480およびcolo320に対して反応性が示されたが、PVT1のmRNAが検出されなかったSq-1に対しては反応が見られなかった。このことは、SW480およびcolo320がPVT1タンパク質を発現し、HF10を細胞表面に抗原提示していることを表す。
BはRF8ペプチドを用いて誘導したCTLクローン11を用いたアッセイの結果を示す。こちらもHF10と同様、RF8でパルスしたT2-A24細胞に対して特異的な反応性を示した。またペプチドパルス細胞に代えて、RF8が単離された細胞であるSW480細胞に対しても、やはり特異的な反応性を示した。このことは、SW480がRF8を細胞表面に抗原提示していることを表す。
【0165】
(3)LDHキリングアッセイ
上記で調製したRF8ペプチド特異的CTLが、実際にSUV39H2を発現する細胞を攻撃するかを、LDH killingアッセイ(TaKaRa Bio社)で解析した。まず、RF8ペプチド特異的CTLの攻撃の対象となる標的細胞(Target)として、上記(2)と同様に、ペプチドパルスT2-A24細胞を調製した。標的細胞は、96ウェルV底プレート(コーニング社)に、1×10個/ウェルずつ播種した。RF8特異的CTL(Effector)は、図11に記載したE/T ratio(すなわち標的細胞の3倍、10倍および30倍)となるようウェルごとに細胞数を調整し、96ウェルプレートに撒いた標的細胞と混合した。その後、96ウェルプレートを、1800rpm、10分遠心後、37℃のCOインキュベーターの中で4時間から12時間静置した。96ウェルプレートを遠心し、細胞を沈殿させた後、上清100μLを平底96ウェルプレートに移した。それぞれのウェルに、ジアホラーゼを含む反応液を100μL加えて室温で30分静置し、そののち490nmの吸光度を測定した。この操作により、通常は細胞膜内に存在するLDHが、細胞が傷害を受けている場合、細胞膜の損傷により細胞外に放出されるため、培養液中のLDH量を、吸光度として測定することにより細胞傷害性を査定することが可能である。この方法を用いて、RF8ペプチド特異的CTLが、RF8ペプチドを提示する標的細胞を認識し攻撃するかを検討した。
【0166】
次に標的細胞として、各種がん細胞株を用いて同様の試験を行った。標的細胞としては、RF8が単離された細胞株である大腸がん細胞株SW480の他、肺がん細胞株であるLHK2およびSq-1を用いた。両細胞株はいずれもSUV39H2を発現しており、さらにHLA-A24も発現していることを確認している。また、ネガティブコントロールとして、HLAを発現していないことが知られている慢性骨髄性白血病細胞株K562細胞株を用いた。
【0167】
結果を図11に示す。AはペプチドパルスT2-A24細胞に対する傷害活性アッセイの結果を示すものであり、ペプチドパルスなしおよびHIVペプチドパルスT2-A24に対しては細胞傷害活性を示さなかったのに対し、RF8ペプチドでパルスしたT2-A24に対しては強い細胞傷害活性を示した。またBは各種がん細胞株に対する傷害活性アッセイの結果を示すものであり、SW480、LHK2およびSq-1のいずれの細胞株に対しても、強い細胞傷害活性を示した。一方ネガティブコントロールであるK562に対しては、細胞傷害活性を示さなかった。この結果は、RF8ペプチドがSUV39H2発現細胞のHLA-A24にナチュラルに提示されることを示しており、同時に誘導したCTLががん細胞に対して抗腫瘍効果をもたらすことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明のペプチドは、いずれも腫瘍特異的に抗原提示されているペプチドであり、分子標的治療、免疫療法、核酸治療などの腫瘍特異的な治療の標的として非常に有用であることが示されたものである。とくにこれらのペプチドは、実際にがん細胞表面に、HLA-A24との複合体として抗原提示されているペプチドとして同定されたものであり、したがって免疫療法において特に好適に用いることができるものである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図11
【配列表】
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