(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ヘッドホンとイヤーマフ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
H04R1/10 101Z
H04R1/10 102
(21)【出願番号】P 2019166745
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】坪根 広大
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】実公昭40-030801(JP,Y2)
【文献】特開平6-113384(JP,A)
【文献】特開2016-025546(JP,A)
【文献】特開平8-088889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバユニットと、
前記ドライバユニットを保持するバッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられるイヤパッドと、
前記バッフル部材に取り付けられ、前記ドライバユニットを収容するハウジングと、
を有してなり、
前記イヤパッドは、
リング状の本体部、
を備え、
前記バッフル部材は、
前記本体部と対向する対向面、
を備え、
前記バッフル部材に対して前記本体部が配置される方向を第1方向とし、
前記バッフル部材に対して前記ハウジングが配置される方向を第2方向としたとき、
前記対向面の少なくとも一部は、前記対向面の外縁から前記対向面の内縁に向かって、前記第2方向側に傾斜する傾斜面または前記第2方向側に湾曲する曲面である、
ことを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
前記傾斜面または前記曲面は、前記対向面の全周に亘って配置される、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記傾斜面の傾斜角または前記曲面の曲率半径は、前記対向面の全周に亘って均等である、
請求項2記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記対向面のうち、一部の前記対向面の前記傾斜面の傾斜角または前記曲面の曲率半径は、他の一部の前記対向面の前記傾斜角または前記曲率半径と、異なる、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項5】
前記傾斜角または前記曲率半径は、平均的な人の耳の周囲の部分の形状に基づいて、設定される、
請求項3または請求項4記載のヘッドホン。
【請求項6】
使用者に装着されたとき、
前記使用者の耳の後方に配置される前記対向面の前記傾斜角は、前記耳の前方に配置される前記対向面の前記傾斜角より大きい、または、前記耳の後方に配置される前記対向面の前記曲率半径は、前記耳の前方に配置される前記対向面の前記曲率半径よりも小さい、
請求項4記載のヘッドホン。
【請求項7】
使用者に装着されていないとき、
前記本体部と前記対向面の前記内縁との間の距離は、前記本体部と前記対向面の前記外縁との間の距離より、大きい、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項8】
前記対向面の前記外縁は、前記イヤパッドと当接し、
前記対向面の前記内縁は、前記イヤパッドと当接しない、
請求項7記載のヘッドホン。
【請求項9】
前記対向面のうち、一部の前記対向面の前記外縁と前記内縁との間の距離は、他の一部の前記対向面の前記外縁と前記内縁との間の距離と、異なる、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項10】
前記バッフル部材は、
前記バッフル部材の外縁部に配置される鍔部、
を備え、
前記鍔部は、
前記鍔部の前記第1方向側の面である第1面と
前記鍔部の前記第2方向側の面である第2面と、
を備え、
前記第1面は、前記対向面であり、
前記対向面は、前記第2面に対して、傾斜または湾曲する、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項11】
前記バッフル部材は、
前記ドライバユニットを保持する保持部と、
前記保持部と前記対向面との間に配置される傾斜部と、
を備え、
前記傾斜部は、前記第2面に対して傾斜する、
請求項10記載のヘッドホン。
【請求項12】
前記第2面に対する前記傾斜部の傾斜角は、前記傾斜部の周方向において連続的に変化する、
請求項11記載のヘッドホン。
【請求項13】
使用者に装着されたとき、
前記保持部は、前記使用者の耳介に沿うように、前記第2面に対して傾斜する、
請求項11記載のヘッドホン。
【請求項14】
前記傾斜部の一部は、前記第2面に対して前記第1方向側へ傾斜する、
請求項11乃至請求項13のいずれかに記載のヘッドホン。
【請求項15】
前記傾斜部は、
前記ドライバユニットの前記第1方向側の空間と、前記ドライバユニットの前記第2方向側の空間と、を連通させる複数の貫通孔、
を備え、
前記貫通孔それぞれは、前記傾斜部の前記周方向に沿って配置される、
を備える、
請求項12記載のヘッドホン。
【請求項16】
前記貫通孔それぞれの形状は、前記第1方向からの投影視において、略同一である、
請求項15記載のヘッドホン。
【請求項17】
前記貫通孔それぞれの開口面積は、前記傾斜部の前記傾斜角が大きくなるに連れて、大きくなる、
請求項15記載のヘッドホン。
【請求項18】
前記ハウジングは、
前記ドライバユニットの前記第2方向側を覆う被覆面、
を備え、
前記被覆面と前記貫通孔との間の距離は、前記傾斜部の前記傾斜角が大きくなるに連れて、短くなる、
請求項15記載のヘッドホン。
【請求項19】
前記イヤパッドは、
前記本体部の前記第2方向側の開口を塞ぐメッシュ部材、
を備え、
使用者に装着されたとき、
前記メッシュ部材と前記傾斜部との間には、隙間が形成される、
請求項15記載のヘッドホン。
【請求項20】
前記隙間は、前記傾斜部の全周に亘って形成される、
請求項19記載のヘッドホン。
【請求項21】
バッフル部材と、
前記バッフル部材に取り付けられるイヤパッドと、
前記バッフル部材に取り付けられるハウジングと、
を有してなり、
前記イヤパッドは、
リング状の本体部、
を備え、
前記バッフル部材は、
前記本体部と対向する対向面、
を備え、
前記バッフル部材に対して前記本体部が配置される方向を第1方向とし、
前記バッフル部材に対して前記ハウジングが配置される方向を第2方向としたとき、
前記対向面の少なくとも一部は、前記対向面の外縁から前記対向面の内縁に向かって、前記第2方向側に傾斜する傾斜面または前記第2方向側に湾曲する曲面である、
ことを特徴とするイヤーマフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンとイヤーマフとに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンのうち、耳覆い型のヘッドホンは、使用者に装着されたとき、使用者の耳を覆う放音ユニットを備える。放音ユニットは、ドライバユニットとバッフル部材とイヤパッドとを備える。ドライバユニットは、音源からの電気信号に基づいて音波を出力する。バッフル部材は、ドライバユニットを保持する。
【0003】
イヤパッドは、ヘッドホンが使用者に装着されたとき、使用者の耳介の周囲の側頭部に押し当てられる。このとき、イヤパッドは、側頭部に密着して、側頭部とバッフル部材との間の緩衝材として機能する。その結果、イヤパッドは、使用者の耳とドライバユニットとの間に外部から閉ざされた音響空間(閉空間)を形成する。
【0004】
人の側頭部の形状には個人差があるため、側頭部とイヤパッドとの間には、隙間が生じやすい。イヤパッドと側頭部との間に隙間が生じると、ドライバユニットからの音波が隙間から外部に漏出して、ヘッドホンの低域の音圧が低下する。また、ヘッドホンの遮音性が低下して、外部からの騒音が隙間から音響空間内に進入する。このように、前述の音響空間は、ヘッドホンの音響特性に影響を与える重要な要素である。したがって、ヘッドホンが使用者に装着されたとき、イヤパッドは、前述の隙間を生じさせないように(音響空間の気密性を保つように)、側頭部に密着されなければならない。
【0005】
一般的に、イヤパッドを側頭部に密着させるため、イヤパッドには、変形しやすい発泡ウレタンなどの弾性材が用いられる。弾性率の小さい弾性材を用いると、イヤパッドは、側頭部の形状に追随して変形し、側頭部に密着する。その結果、音響空間の気密性は保たれ、ヘッドホンの装着性(装着感)も向上する。しかしながら、弾性率の小さい弾性材からなるイヤパッドは大きく潰れるため、音響空間の容積は、小さくなる。また、イヤパッドに外力が加えられると、イヤパッドが変形してヘッドホンがずれ易くなる。一方、弾性率の大きい弾性材を用いると、イヤパッドは、潰れ難く、側頭部の形状に十分に追随できない(イヤパッドが側頭部に密着し難い)。その結果、音響空間の容積は、大きく確保可能であるが、音響空間の気密性やヘッドホンの装着性は、低下する。
【0006】
このような問題を解決するため、弾性係数や硬度の異なる複数の素材をイヤパッドに用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0007】
特許文献1に開示された技術では、イヤパッドは、弾性係数の異なる2つのリング状の弾性材(第1弾性材、第2弾性材)を備える。第1弾性材の弾性係数は、第2弾性材の弾性係数より大きい。第2弾性材は、ヘッドホンが使用者に装着されたとき側頭部寄りに配置されるように、第1弾性材に積層される。第2弾性材の内径の少なくとも一部は、第1弾性材の内径よりも小さくなるように構成される。この内径差により、イヤパッドの内周側には、第2弾性材の変形が許容される空間(変形許容空間)が形成される。この第1弾性材と第2弾性材とがカバーで包まれると、第2弾性材は、変形許容空間(内周側)に向けて倒れ込むように変形する。その結果、イヤパッドの側頭部に接する面において、内周側に傾斜する傾斜面が形成される。
【0008】
特許文献1に開示された技術において、ヘッドホンが使用者に装着されたとき、第2弾性材は内周側に変形し、イヤパッドは側頭部に密着する。このとき、第1弾性材は、変形せずに所定の厚さを保持する。その結果、音響空間の気密性と音響空間の容積とは、十分に確保される。
【0009】
特許文献2に開示された技術では、イヤパッドは、同心円状に配列された3つのリング状の弾性材(外環部材、中環部材、内環部材)を備える。中環部材は、外環部材と内環部材との間に配置される。中環部材の硬度は、外環部材と内環部材それぞれの硬度よりも低くなるように構成される。これらの弾性材がカバーで包まれると、カバーの張力と各弾性材の硬度差とにより、イヤパッドの側頭部に接する面は、平坦状になる。
【0010】
特許文献2に開示された技術において、ヘッドホンが使用者に装着されたとき、外環部材と内環部材とは側頭部の形状に追従するように中環部材側に撓み、イヤパッドは側頭部に密着する。このとき、各弾性材は、厚さ方向には大きく変形しない。その結果、音響空間の気密性と音響空間の容積とは、十分に確保される。
【0011】
このように、特許文献1,2に開示された技術は、弾性率(硬度)が異なる複数の素材をイヤパッドに用いてイヤパッドと側頭部との間の密着性を向上させる。その結果、音響空間の容積が確保されると共に、音響空間の気密性とヘッドホンの装着性とが向上する。しかしながら、これらの技術では、各弾性材の構造を決定するためヘッドホンの種類ごとに各弾性材の変形量の計算が必要となり、イヤパッドの設計が複雑になる。また、イヤパッドに複数の弾性材や加工が必要となるため、イヤパッドの構造が複雑になり、コストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-225809号公報
【文献】特開2009-105841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、低コストかつ容易にイヤパッドと側頭部との間の密着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるヘッドホンは、ドライバユニットと、ドライバユニットを保持するバッフル部材と、バッフル部材に取り付けられるイヤパッドと、バッフル部材に取り付けられ、ドライバユニットを収容するハウジングと、を有してなり、イヤパッドは、リング状の本体部、を備え、バッフル部材は、本体部と対向する対向面、を備え、バッフル部材に対して本体部が配置される方向を第1方向とし、バッフル部材に対してハウジングが配置される方向を第2方向としたとき、対向面の少なくとも一部は、対向面の外縁から対向面の内縁に向かって、第2方向側に傾斜する傾斜面または第2方向側に湾曲する曲面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストかつ容易にイヤパッドと側頭部との間の密着性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1のヘッドホンが備える左放音ユニットの側面図である。
【
図3】
図2の左放音ユニットのAA線における断面図である。
【
図4】
図2の左放音ユニットのBB線における断面図である。
【
図6】
図2の左放音ユニットが備えるバッフル部材の側面図である。
【
図8】
図6のバッフル部材のDD線における断面図である。
【
図9】
図6のバッフル部材のEE線における断面図である。
【
図10】
図1のヘッドホンが使用者に装着される直前の状態を示す断面図である。
【
図11】
図10のヘッドホンが使用者に装着された後の状態を示す断面図である。
【
図12】
図11の状態を別の角度から見た状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態について説明する。
【0018】
●ヘッドホン●
●ヘッドホンの構成
図1は、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
ヘッドホン1は、ヘッドホン1の使用者の頭部に装着されて、例えば、携帯型音楽再生機などの音源(不図示)からの音声信号に応じた音波を出力する。ヘッドホン1は、左放音ユニット10と右放音ユニット20と連結部材30とを有してなる。
【0019】
以下の説明において、ヘッドホン1の上下左右前後の各方向は、使用者にヘッドホン1が装着された状態(以下「装着状態」という。)における使用者の上下左右前後の各方向と同じである。すなわち、例えば、使用者の側頭部HD(
図10参照。以下同じ。)のうち、使用者の左耳LE(
図10参照。以下同じ。)の周囲には左放音ユニット10が装着され、右耳の周囲には右放音ユニット20が装着される。
【0020】
また、以下の説明において、「第1方向」は、装着状態において、左放音ユニット10と右放音ユニット20それぞれに対して側頭部HDが位置する方向である。すなわち、左放音ユニット10の第1方向は使用者の右方向であり、右放音ユニット20の第1方向は使用者の左方向である。
【0021】
さらに、以下の説明において、「第2方向」は、第1方向の反対側の方向である。すなわち、左放音ユニット10の第2方向は使用者の左方向であり、右放音ユニット20の第2方向は使用者の右方向である。
【0022】
左放音ユニット10は、側頭部HDのうち、左耳LEの周囲に装着されて、音源からの音声信号に応じた音波を出力する。
【0023】
右放音ユニット20は、側頭部HDのうち、右耳の周囲に装着されて、音源からの音声信号に応じた音波を出力する。
【0024】
連結部材30は、左放音ユニット10と右放音ユニット20それぞれに連結され、左放音ユニット10と右放音ユニット20それぞれを支持する。装着状態において、連結部材30は、左右放音ユニット10,20に対して第1方向側への側圧を与えて、左右放音ユニット10,20を側頭部HDに固定する。
【0025】
●左放音ユニットの構成
図2は、左放音ユニット10の右側面図である。
図3は、左放音ユニット10の
図2のAA線における断面図である。
図4は、左放音ユニット10の
図2のBB線における断面図である。
図5は、左放音ユニット10の分解斜視図である。
【0026】
左放音ユニット10は、ドライバユニット11と、バッフル部材12と、イヤパッド13と、ハウジング14と、を備える。
【0027】
ドライバユニット11は、音声信号を音波に変換して出力する。ドライバユニット11は、振動板111とボイスコイル112と磁気回路113とケース114と保護プレート115とを備える、ダイナミック型のドライバユニットである。
【0028】
バッフル部材12は、ドライバユニット11を保持する。また、バッフル部材12は、第1空間S1と第2空間S2とを区分けする。バッフル部材12の構成の詳細は、後述する。
【0029】
「第1空間S1」は、装着状態において、ドライバユニット11とバッフル部材12とイヤパッド13と側頭部HDとで囲まれた音響空間である。
【0030】
「第2空間S2」は、ドライバユニット11とバッフル部材12とハウジング14とで囲まれた音響空間である。第1空間S1の容積と第2空間S2の容積とは、振動板111の振動、すなわち、ヘッドホン1の特性に影響を与える。
【0031】
イヤパッド13は、バッフル部材12と側頭部HDとの間の緩衝材として機能する。イヤパッド13は、本体部131とフラップ132とメッシュ133とを備える。
【0032】
本体部131は、バッフル部材12と側頭部HDとの間の緩衝材である。本体部131は、リング状(ドーナツ状)である。本体部131は、連結部材30からの側圧により変形して、側頭部HDに密着する。装着状態において、本体部131の側頭部HDへの接触面積を大きくするため、本体部131のうち、耳の前後に配置される部分(本体部131の前部と後部)の幅は、耳の上下に配置される部分(本体部131の上部と下部)の幅よりも大きい。
【0033】
本体部131は、弾性材をカバー材で覆うことで構成され、弾性を有する。カバー材は、例えば、レザーなどの肌触りの良い材料で構成される。弾性材は、例えば、発泡ウレタンなどの弾力性のある材料で構成される。カバー材の一部は、本体部131の左面(
図3,4の紙面右側の面)の外周縁から内周側に張り出して、フラップ132を構成する。フラップ132は、本体部131をバッフル部材12に支持する。
【0034】
メッシュ133は、外部からドライバユニット11への汗や異物の侵入を防ぐ。メッシュ133は、例えば、通気性の良い化学繊維製である。メッシュ133は、本体部131の左面に所定の張力を有した状態で取り付けられる。メッシュ133は、本体部131の第2方向側の開口を塞ぐ。メッシュ133は、本発明におけるメッシュ部材である。
【0035】
フラップ132は、後述するバッフル部材12の第1鍔部121に取り付られる。その結果、本体部131とメッシュ133とは、バッフル部材12に対して第1方向側に配置される。
【0036】
ハウジング14は、ドライバユニット11を収容して、ドライバユニット11の第2方向側に第2空間S2を形成する。ハウジング14は、カップ状であり、例えば、緩やかな曲面状の底面14aを有する。ハウジング14は、例えば、ABSなどの合成樹脂製である。底面14aは、本発明における被覆面である。
【0037】
なお、ハウジングは、木製や金属製でもよく、あるいは、複合部材、例えば、合成樹脂製の部材と木製の部材とで構成されてもよい。
【0038】
●バッフル部材の構成
図6は、バッフル部材12の左側面図である。
図7は、バッフル部材12の
図6のC矢視図である。
図8は、バッフル部材12の
図6のDD線における断面図である。
図9は、バッフル部材12の
図6のEE線における断面図である。
【0039】
バッフル部材12は、側方視において円状である。バッフル部材12は、例えば、ABSなどの合成樹脂製である。バッフル部材12は、第1鍔部121と側面部122と第2鍔部123と保持部124と傾斜部125とを備える。第1鍔部121と側面部122と第2鍔部123と保持部124と傾斜部125それぞれは、一体に構成される。
【0040】
第1鍔部121は、イヤパッド13(
図3,4参照)を保持する。第1鍔部121は、リング板状である。第1鍔部121は、本発明における鍔部である。第1鍔部121は、側方視においてバッフル部材12の外縁部に配置される。第1鍔部121は、第1面121aと第2面121bとを備える。
【0041】
第1面121aは、第1鍔部121の第1方向側の面である。第1面121aは、本発明における対向面である。第1面121aは、第1面121aの全周に亘って、外縁から内縁に向かって第2方向側に湾曲する曲面である。換言すれば、第1面121aは、浅いすり鉢状である。
【0042】
本実施の形態において、「外縁から内縁に向かって第2方向側に湾曲する曲面」とは、曲率中心O1が第1方向側に位置し、左右方向において外縁が内縁よりも第1方向側に位置する曲面である。
【0043】
第1面121aの幅(外縁と内縁との間の距離)は、第1面121aの全周に亘って均等である。
【0044】
本実施の形態において、第1面121aは、
図8に示されるとおり、曲率中心O1を中心とした曲率半径R1の曲面として構成される。曲率中心O1は、第1面121aに対して第1方向側であって、バッフル部材12の中心軸線X1上に配置される。「中心軸線X1」は、側方視においてバッフル部材12の中心を通り、左右方向に平行な線である。すなわち、第1面121aの曲面の曲率半径R1は、第1面121aの全周に亘って均等である。
【0045】
曲率半径R1は、平均的な人の耳の周囲の部分の形状に基づいて、設定される。すなわち、例えば、曲率半径R1は、平均的な人の耳の周囲の部分の曲率半径の平均値より小さい値に設定される。
【0046】
第2面121bは、第1鍔部121の第2方向側の面である。第2面121bは、バッフル部材12の中心軸線X1に対して垂直な面である。したがって、第1面121aは、第2面121bに対して湾曲する面である。
【0047】
側面部122は、第1鍔部121と第2鍔部123との間に配置されて、フラップ132(
図3,4参照)が挿入される隙間を形成する。側面部122は、リング状である。側面部122は、第1鍔部121の左側に配置される。
【0048】
第2鍔部123は、リング板状である。第2鍔部123は、第2面121bと平行である。第2鍔部123は、側面部122の左側に配置される。
【0049】
保持部124は、ドライバユニット11(
図3,4参照)を保持する。保持部124は、円筒状である。保持部124は、中央にドライバユニット11より小径な開口124hを備える。保持部124は、側方視において、第1鍔部121よりもバッフル部材12の中央側に配置される。保持部124は、装着状態において、使用者の耳介に沿うように、第2面121bに対して傾斜する。すなわち、保持部124の中心軸線X2は、バッフル部材12の中心軸線X1に対して、斜め前方に傾斜する。
図9に示されるように、左右方向において、保持部124の後部は第2鍔部123よりも左方向(第2方向)側に配置され、保持部124の前部は第2鍔部123よりも僅かに右方向(第1方向)側に配置される。すなわち、保持部124の後部は、第2鍔部123から第2方向側に最も突出する。
【0050】
傾斜部125は、側方視において、第1鍔部121と保持部124との間に配置される。傾斜部125は、第2面121bに対して傾斜する環帯状である。
【0051】
傾斜部125の前部は、第2面121bに対して第1方向側へ傾斜する。傾斜部125の前部以外の部分は、第2方向側へ傾斜する。すなわち、傾斜部125の傾斜方向は、傾斜部125の周方向において、ある位置(変化点P:
図6参照)を境に変化する。第2面121bに対する傾斜部125の傾斜角は、変化点Pから後部へ向かって増加し、変化点Pから前部へ向かって僅かに増加する。つまり、同傾斜角は、傾斜部125の周方向において連続的に変化し、後部で最大となり、変化点Pで最小となる。
【0052】
傾斜部125の幅(外縁と内縁との間の距離)は、同傾斜角に応じて変化する。すなわち、傾斜部125の幅は、周方向において連続的に変化し、後部で最大となり、変化点Pで最小となる。換言すれば、傾斜部125の幅は、後部で最大となり、前部近傍で最小となる。前述のとおり、保持部124の後部は、第2鍔部123から第2方向側に最も突出する。そのため、傾斜部125の後部も、第2鍔部123から第2方向側に最も突出する。
【0053】
傾斜部125は、複数(本実施の形態では16個)の貫通孔125hを備える。貫通孔125hは、
図3,4に示されるように、第1空間S1と第2空間S2とを連通させる。貫通孔125hそれぞれは、傾斜部125の周方向に沿って等角度間隔で、傾斜部125に配置される。
【0054】
貫通孔125hそれぞれの開口面積は、傾斜部125の幅が大きくなるに連れて大きくなる。前述のとおり、傾斜部125の幅は、傾斜部125の傾斜角に応じて変化し、後部で最大となり、前部近傍で最小となる。そのため、同開口面積は、傾斜部125の傾斜角が大きくなるに連れて、大きくなるように設定される。したがって、後部の貫通孔125hの開口面積は、前部の貫通孔125hの開口面積よりも大きい。
【0055】
一方、貫通孔125hそれぞれの形状は、第1方向からの投影視(側方視)において、略同一となるように設定される。ここで、「形状が略同一」とは、傾斜部125に貫通孔125hの形成を阻害する構造物(例えば、ボス部やケーブルのジャックなど)が配置されなければ、形状が同一であることを示す。
【0056】
図3-
図5に戻る。
ドライバユニット11は、バッフル部材12の保持部124に取り付けられる。その結果、ドライバユニット11は、バッフル部材12に対して第2方向側に配置される。前述のとおり、バッフル部材12の保持部124は、バッフル部材12の第2面121bに対して傾斜している。したがって、ドライバユニット11も、第2面121bに対して傾斜した状態で保持部124に保持される。
【0057】
イヤパッド13のフラップ132は、バッフル部材12の第1鍔部121を包み込むように、バッフル部材12の隙間に挿入される。その結果、イヤパッド13は、バッフル部材12に取り付けられる。イヤパッド13の本体部131とメッシュ133とは、バッフル部材12に対して第1方向側に配置される。
【0058】
メッシュ133は、バッフル部材12と本体部131との間に配置され、バッフル部材12の右方向を覆う。
【0059】
第1鍔部121の第1面121aは、(メッシュ133を介して)本体部131に対向する。ヘッドホン1が使用者に装着されていない状態(未装着状態)において、第1面121aの外縁はイヤパッド13(メッシュ133または本体部131)と当接する。このとき、本体部131の内縁部は、第1面121aの外縁を支点として、フラップ132の張力により第1方向側に持ち上げられる。そのため、第1面121aの内縁は、イヤパッド13(本体部131またはメッシュ133)から離間している(当接しない)。すなわち、未装着状態において、本体部131と第1面121aとの間の距離は、第1面121aの外縁から内縁に向かって大きくなる。つまり、未装着状態において、本体部131と内縁との距離は、本体部131と外縁との距離より大きい。
【0060】
前述のとおり、本体部131の前部と後部それぞれの幅は、上部と下部それぞれの幅よりも大きい。そのため、本体部131の前部と後部それぞれは、バッフル部材12の傾斜部125の右方向まで張り出す。すなわち、本体部131の上部と下部それぞれは、(メッシュ133を介して)第1面121aに対向する。本体部131の前部と後部それぞれは、(メッシュ133を介して)第1面121aと傾斜部125とに対向する。
【0061】
ハウジング14は、ねじ(不図示)により、バッフル部材12の第2鍔部123に取り付けられる。ハウジング14は、バッフル部材12に対して第2方向側に配置される。ハウジング14は、ドライバユニット11とバッフル部材12それぞれの第2方向側を覆う。すなわち、ハウジング14の底面14aは、ドライバユニット11の第2方向側を覆う。その結果、ハウジング14は、ドライバユニット11とバッフル部材12と共に、第2空間S2を形成する。
【0062】
前述のとおり、保持部124の後部は、第2鍔部123から第2方向側に最も突出する。そのため、ドライバユニット11の後部は、ハウジング14の底面14aに最も近づく。その結果、振動板111が振動するとき、振動板111の後部は、第2空間S2内の内部圧力の影響を受け得る。「内部圧力」は、振動板111が振動して第2空間S2内に空気を押し出す際、第2空間S2内の空気から受ける圧力(反力)である。ここで、振動板111の振動の速度は、低域になるほど遅くなる。振動板111が低域で振動するとき、振動板111は、空気をゆっくりと動かしながら変位する。すなわち、振動板111は、低域になるほど多くの空気を第2空間S2へ押し出す。そのため、振動板111の振動は、低域になるほど、内部圧力による制動を受ける。その結果、振動板111と底面14aとの間の距離が短いと、振動板111の振動は、特に低域において抑制され得る。
【0063】
ここで、底面14aと貫通孔125hとの間の距離は、傾斜部125の前部から後部に向かって短くなる。傾斜部125の後部の貫通孔125hの開口面積は、前部の貫通孔125hの開口面積より大きい。そのため、第2空間S2の後部の空気は、第1空間S1へ移動(流動)し易くなる。その結果、前述の内部圧力の影響は、解消される。したがって、振動板111は、前述の内部圧力の影響を受けることなく、振動板111の周方向において均一に振動し得る。
【0064】
●右放音ユニットの構成
図1に戻る。
右放音ユニット20は、ドライバユニット(不図示)と、バッフル部材22と、イヤパッド23と、ハウジング24と、を備える。右放音ユニット20の構成は、左放音ユニット10の構成と共通する。そのため、右放音ユニット20の具体的な説明は、省略する。
【0065】
●イヤパッドの変形
次に、ヘッドホン1が使用者の頭部に装着されたときのイヤパッド13の変形について、説明する。
【0066】
図10は、ヘッドホン1が使用者の頭部に装着される直前の左放音ユニット10の
図2のAA線における断面図である。
同図は、説明の便宜上、側頭部HDと左耳LEとを模式的に示す。同図は、本体部131が側頭部HDに当接している状態を示す。同図は、例えば、使用者が手で左放音ユニット10を支えているため、連結部材30(
図1参照。以下同じ。)からの側圧がバッフル部材12と本体部131とに作用していない状態を示す。
【0067】
図10に示されるとおり、ヘッドホン1が使用者に装着される直前(すなわち、未装着状態)では、バッフル部材12は、イヤパッド13(本体部131)を側頭部HDに押圧しない。そのため、本体部131の内縁部とメッシュ133とは、バッフル部材12の第1面121aから離間している。
【0068】
連結部材30からの側圧がバッフル部材12に作用したとき、第1面121aの外縁が、メッシュ133と本体部131とを側頭部HDに向けて押圧する。このとき、本体部131は、第1面121aの外縁を支点として、第1面121a側(第2方向側)に傾倒する。前述のとおり、第1面121aの曲率半径R1(
図8参照)は、使用者の耳の周囲の側頭部HDの形状に基づいて、設定される。そのため、本体部131が第1面121a側に傾倒したとき、本体部131の右面131a(側頭部HD側の面)は、側頭部HDの形状に沿うように凹面(曲面)を形成する。その結果、同右面131aの大部分は、側頭部HDに一律に接触する。このとき、ドライバユニット11とバッフル部材12とイヤパッド13と側頭部HDとは、第1空間S1を形成する。
【0069】
図11は、装着状態における左放音ユニット10の
図2のAA線における断面図である。同図は、説明の便宜上、使用者の側頭部HDと左耳LEとを模式的に示す。
【0070】
第1面121aは、メッシュ133を介して、本体部131を側頭部HDに向けて押圧する。このとき、本体部131は、側頭部HDと第1面121aそれぞれの形状に沿って、内縁側と外縁側それぞれに略均等に変形する。その結果、本体部131は、側頭部HDの形状に沿うように変形し、側頭部HDに密着する。
【0071】
本体部131が第1面121a側に傾倒した結果、メッシュ133は、第1面121aの外縁から内縁の順に、第1面121aに当接する。このとき、メッシュ133は、本体部131により僅かに押し広げられる。その結果、メッシュ133に作用する張力は、僅かに増加する。
【0072】
このように、本体部131の右面131aの大部分が側頭部HDに接触した状態で、本体部131は、側頭部HDに沿って変形し、側頭部HDに密着する。そのため、本体部131は、全周に亘って均等な圧で側頭部HDに押圧される。その結果、イヤパッド13と側頭部HDとの間の密着性は向上し、使用者に対するヘッドホン1の装着性も向上する。また、第1空間S1はヘッドホン1の外部の空間から遮断され、第1空間S1の気密性は確保される。
【0073】
図12は、装着状態における左放音ユニット10の
図2のBB線における拡大断面図である。同図は、左放音ユニット10の前部の断面を拡大して示す。
【0074】
前述のとおり、イヤパッド13の前部は、傾斜部125に対向する。傾斜部125の前部は第1方向側に傾斜し、同前部の傾斜角は小さい。そのため、装着状態において、本体部131の前部は、傾斜部125の前部を覆うように第2方向側へ傾倒・変形する。このとき、メッシュ133が、本体部131と、第1面121aと傾斜部125の前部と、の間に挟まれる。前述のとおり、メッシュ133の張力は、僅かに増加する。そのため、メッシュ133は、本体部131の傾斜部125側への変形を阻害する。その結果、装着状態において、傾斜部125の前部とメッシュ133との間には、隙間S11が形成される。すなわち、傾斜部125の前部に配置される貫通孔125hは、本体部131に塞がれない。隙間S11は、傾斜部125の周方向において、傾斜部125の前部から後部に向かって大きくなり、第1空間S1の一部を構成する。つまり、隙間S11は、傾斜部125の全周に亘って形成される。その結果、装着状態において、第1空間S1と第2空間S2との間の通気は、傾斜部125の全周に亘って確保される。
【0075】
前述のとおり、貫通孔125hは等角度間隔で配置され、貫通孔125hそれぞれの形状は側方視において略同一である。すなわち、貫通孔125hは、ドライバユニット11を取り囲むように均等に配置される。そのため、第1空間S1と第2空間S2との間の通気は、ドライバユニット11の全周囲において略均一化される。その結果、振動板111は、振動板111の周方向において略均一に振動し得る。
【0076】
●まとめ●
以上説明した実施の形態によれば、バッフル部材12の第1面121aは、外縁から内縁に向かって、第2方向側に湾曲する曲面として構成される。そのため、使用者がヘッドホン1を装着するとき、イヤパッド13の本体部131は、第2方向側に傾倒する。その結果、本体部131の右面は、使用者の側頭部HDに一律に密着し得る。このように、ヘッドホン1は、バッフル部材12の第1面121aの形状を工夫することにより、イヤパッド13の側頭部HDへの密着性を向上させる。すなわち、ヘッドホン1は、イヤパッド13に特別な工夫を必要としない。したがって、ヘッドホン1では、複数の素材を組み合わせたイヤパッドを使用する従来のヘッドホン(以下「従来ヘッドホン」という。)と比較して、イヤパッド13に必要なコストが低減される。すなわち、ヘッドホン1は、従来ヘッドホンと比較して、低コストかつ容易にイヤパッド13と側頭部HDとの間の密着性を向上可能である。
【0077】
また、前述のとおり、使用者がヘッドホン1を装着するとき、本体部131が第1面121a側に傾倒するため、本体部131の右面131aの大部分が側頭部HDと一律に密着する。そのため、ヘッドホン1は、本体部131を過剰に変形させなくとも、イヤパッド13と側頭部HDとの間の密着性を確保可能である。その結果、ヘッドホン1は、イヤパッド13を過剰に厚く構成することなく、第1空間S1の容積を確保できる。
【0078】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、第1面121aの曲率半径R1は、平均的な人の耳の周囲の部分の形状に基づいて、設定される。そのため、本体部131が第2方向側に傾倒したとき、本体部131の右面131aは、側頭部HDの形状に沿うように湾曲しながら、側頭部HDに当接する。その結果、ヘッドホン1は、容易にイヤパッド13と側頭部HDとの間の密着性を向上可能である。
【0079】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、未装着状態において、第1面121aの外縁はイヤパッド13(本体部131またはメッシュ133)と当接し、第1面121aの内縁はイヤパッド13と当接しない。すなわち、本体部131と内縁との距離は、本体部131と外縁との間の距離より大きい。そのため、使用者がヘッドホン1を装着するとき、本体部131は、第1面121a側(第2方向側)に傾倒し易い。
【0080】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、第1鍔部121の第2面121bは、バッフル部材12の中心軸線X1に対して垂直な面である。第1面121aは、第2面121bに対して湾曲する曲面である。そのため、ヘッドホン1は、第2面121bとフラップ132とで本体部131を確実に保持しつつ、容易にイヤパッド13と側頭部HDとの密着性を向上可能である。
【0081】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、傾斜部125は第2面121bに対して傾斜し、その傾斜角は、傾斜部125の周方向において連続的に変化する。すなわち、傾斜部125は、全周において折れ曲がりや段部を有さない。そのため、第1空間S1と第2空間S2それぞれに放出される音波は、傾斜部125の表面で乱反射されない。その結果、第1空間S1と第2空間S2それぞれの周波数特性において、不要な共振点は生じ難くなる。また、傾斜部125によりバッフル部材12にも第1空間S1の一部が形成されるため、第1空間S1の容積が、十分に確保される。
【0082】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、保持部124は、使用者の耳介に沿うように、第2面121bに対して傾斜する。傾斜部125の一部(前部)は、第2面121bに対して第1方向側に傾斜する。その結果、ヘッドホン1は、左右方向における厚みの増加を抑制しつつ、バッフル部材12に対して可能な限り大口径のドライバユニット11を備えることを可能とする。また、保持部124の傾斜に応じて、傾斜部125が形成されるため、第1空間S1の容積が、十分に確保される。
【0083】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、傾斜部125は、傾斜部125の周方向に沿って配置される複数の貫通孔125hを備える。すなわち、貫通孔125hは、傾斜面である傾斜部125に配置される。換言すれば、貫通孔125hは、バッフル部材12に三次元的に配置される。その結果、ヘッドホン1は、バッフル部材12に対して大口径のドライバユニット11を取り付けても、第1空間S1と第2空間S2との間の通気を確保可能である。
【0084】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、貫通孔125hそれぞれの形状は、第1方向からの投影視において、略同一である。そのため、第1空間S1と第2空間S2との間の通気は、ドライバユニット11の全周囲において略均一化される。その結果、振動板111は、振動板111の周方向において略均一に振動し得る。
【0085】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、貫通孔125hそれぞれの開口面積は、傾斜部125の傾斜角が大きくなるに連れて大きくなる。ハウジング14の底面14aと貫通孔125hとの間の距離は、傾斜部125の傾斜角が大きくなるに連れて小さくなる。その結果、ドライバユニット11の後部を第2方向側に傾斜させることにより生じ得る、第2空間S2の後部における振動板111への内部圧力の影響は、解消される。したがって、振動板111は、同内部圧力の影響を受けることなく、振動板111の周方向において略均一に振動し得る。
【0086】
さらにまた、以上説明した実施の形態によれば、装着状態において、メッシュ133と傾斜部125との間には、隙間S11が形成される。隙間S11は、傾斜部125の全周に亘って形成される。そのため、貫通孔125hは、本体部131に塞がれない。隙間S11は、傾斜部125の前部から後部に向かって大きくなり、第1空間S1の一部を構成する。その結果、装着状態において、第1空間S1と第2空間S2との間の通気は、傾斜部125の全周に亘って確保される。
【0087】
なお、以上説明した実施の形態では、第1面121aの曲率半径R1は、全周に亘って同じであった。これに代えて、第1面のうち、一部の第1面の曲率半径は、他の一部の第1面の曲率半径と異なってもよい。すなわち、第1面の曲率半径は、側頭部の形状に合わせて、部位ごとに異なってもよい。通常、耳の周囲の側頭部において、耳の後方や下方の形状は、耳の前方や情報の形状よりも大きく湾曲(屈曲)する。そのため、例えば、耳の後方や下方に配置される対向面の曲率半径は、耳の前方や上方に配置される対向面の曲率半径よりも小さくてもよい。このように、第1面が側頭部の形状に沿って複数の曲率半径を有することで、イヤパッドと側頭部との間の密着性は、さらに向上する。
【0088】
また、以上説明した実施の形態では、曲面は、第1面121aの全周に亘って配置されていた。これに代えて、第1面は、一部に湾曲しない平面を有してもよい。換言すれば、第1面の少なくとも一部は第2方向側に湾曲し、他の一部は平面でもよい。
【0089】
さらに、以上説明した実施の形態では、第1面121aは、外縁から内縁に向かって第2方向側に湾曲する曲面であった。これに代えて、第1面は、第1面の外縁から内縁に向かって第2方向側に傾斜する傾斜面でもよい。この場合、傾斜面は、第1面の全周に亘って配置されてもよく、あるいは、第1面の一部に配置されてもよい(一部は傾斜しない平面でもよい)。この構成において、「第1面の傾斜角」は、例えば、第2方向に対する第1面の傾斜角、あるいは、第2面に対する第1面の傾斜角を意味する。第1面の傾斜角は、第1面の曲率半径と同様に、使用者の耳の周囲の部分の形状に基づいて設定される。そのため、第1面の傾斜角は、第1面の全周に亘って均等でもよい。あるいは、一部の第1面の傾斜角は、他の一部の第1面の傾斜角と異なってもよい。この構成によれば、使用者がヘッドホンを装着するとき、本体部は、第1面が曲面のときと同様に、第1面側(第2方向側)に傾倒し、使用者の側頭部に密着し得る。
【0090】
さらにまた、以上説明した実施の形態では、第1面121aの幅(外縁と内縁との間の距離)は、第1面121aの全周に亘って均等であった。これに代えて、第1面の幅は、不均等でもよい。すなわち、例えば、第1面のうち、一部の対向面の幅は、他の一部の対向面の幅と異なってもよい。具体的には、第1面の幅は、本体部の幅(本体部の外縁と内縁との間の距離)に合わせてもよい。すなわち、例えば、第1面の前部と後部それぞれの幅は、第1面の上部と下部それぞれの幅よりも大きくてもよい。
【0091】
さらにまた、第1面は、第2方向側に凹む凹部を備えてもよい。すなわち、例えば、第1面は、第1面の周方向に沿う溝を備えてもよい。この構成によれば、バッフル部材を成形する際に、第1面への巣(ヒケ)の発生が抑制される。そのため、第1面の成形精度は向上する。その結果、装着状態において、本体部の第1面側への傾倒状態にばらつきが生じず、本体部は側頭部へ一律に密着可能である。また、バッフル部材の重量(ヘッドホンの重量)は、軽減される。
【0092】
さらにまた、イヤパッドは、メッシュを備えなくてもよい。
【0093】
さらにまた、傾斜部の態様は、本実施の形態に限定されない。すなわち、例えば、傾斜部は、全周に亘って、第2方向側に傾斜してもよい。また、例えば、傾斜部の傾斜角は、傾斜部の周方向において連続的に変化しなくてもよい。すなわち、例えば、傾斜部の傾斜角は、一部で断続的に変化してもよい。
【0094】
さらにまた、保持部は、使用者の耳介に沿って傾斜しなくてもよい。すなわち、例えば、保持部は、バッフル部材の軸方向に対して垂直(第2面と平行)に配置されてもよい。
【0095】
さらにまた、傾斜部の一部または全部は、第2面に対して傾斜しなくてもよい。すなわち、例えば、傾斜部は、円筒状の周壁面とリング状の底面とにより構成されてもよい。この構成では、周壁面は第2面に対して垂直で、底面は第2面に対して平行である。また、例えば、第1鍔部と傾斜部とが連続する板状に構成されてもよい。この構成では、傾斜部は、第2面に対して平行である。
【0096】
さらにまた、バッフル部材の第1鍔部の第2面は、バッフル部材の中心軸線に対して垂直な面でなくてもよい。すなわち、例えば、第2面は、中心軸線にて対して傾斜してもよい。この場合、第1面の傾斜や湾曲などの基準となる面は、第2面に代えて、中心軸線に垂直な仮想面でもよい。
【0097】
さらにまた、以上説明した実施の形態では、ヘッドホン1は、密閉型のヘッドホンであった。これに代えて、ヘッドホンは、開放型のヘッドホンでもよい。
【0098】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、本発明をヘッドホン1に適用したものであった。これに代えて、本発明は、ドライバユニットを備えないイヤーマフに適用されてもよい。イヤーマフは、例えば、ハウジングと、ハウジングを保持するバッフル部材と、バッフル部材に取り付けられるイヤパッドと、を有してもよい。バッフル部材は、イヤパッドの本体部に対向する対向面を備える。この構成では、対向面の少なくとも一部は、対向面の外縁から内縁に向かって第2方向側に傾斜する傾斜面または第2方向側に湾曲する曲面である。この構成によれば、本発明にかかるイヤーマフは、低コストで容易にイヤパッドと側頭部との間の密着性を向上させ、高い遮音性を備える。
【符号の説明】
【0099】
1 ヘッドホン
11 ドライバユニット
12 バッフル部材
121 第1鍔部(鍔部)
121a 第1面(対向面)
121b 第2面
124 保持部
125 傾斜部
125h 貫通孔
13 イヤパッド
131 本体部
133 メッシュ(メッシュ部材)
14 ハウジング
R1 曲率半径