(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20230424BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/153 108
(21)【出願番号】P 2017154625
(22)【出願日】2017-08-09
【審査請求日】2020-06-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 基樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】柏 智男
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】清水 稔
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-060284(JP,A)
【文献】特開2016-208002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び磁性粒子を含む磁性体本体と、
前記磁性体本体に埋設されたコイル導体と、
を備え、
前記磁性粒子は、第1磁性粒子、第2磁性粒子、及び第3磁性粒子を含み、
前記第1磁性粒子の平均粒径は、15μm~50μmであり、
前記第2磁性粒子の平均粒径は、前記第1磁性粒子の平均粒径よりも小さく、
前記第3磁性粒子の平均粒径は、前記第2磁性粒子の平均粒径よりも小さく、
前記第1磁性粒子、前記第2磁性粒子、及び前記第3磁性粒子の総体積に対する前記第1磁性粒子の体積比率は、70vol%~85vol%であり、
前記総体積に対する前記第2磁性粒子の体積比率は、2vol%~28vol%であり、
前記総体積に対する前記第3磁性粒子の体積比率は、2vol%~28vol%であり、
前記第3磁性粒子の粒度分布は、前記第2磁性粒子の粒度分布と重複しており、
前記磁性体本体における前記磁性粒子の充填率は87%以上であり、
前記第2磁性粒子の粒度分布の累積5%の粒径は、前記第3磁性粒子の粒度分布と前記第2磁性粒子の粒度分布の頻度が等しい粒径よりも小さく
、
前記磁性粒子は、第4磁性粒子をさらに含み、
前記第4磁性粒子の平均粒径は、前記第3磁性粒子の平均粒径よりも小さく、
前記第4磁性粒子の粒度分布は、前記第3磁性粒子の粒度分布と重複している、
コイル部品。
【請求項2】
前記第1磁性粒子の粒度分布は、前記第2磁性粒子の粒度分布と重複している、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第2磁性粒子の粒度分布の累積10%の粒径は、前記第3磁性粒子の粒度分布の累積90%値となる粒径よりも小さい、請求項1又は請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第2磁性粒子の平均粒径は、2μm~10μmである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記第3磁性粒子の平均粒径は、2μm未満である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記第3磁性粒子の平均粒径は、0.5μm以下である、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記第1磁性粒子、前記第2磁性粒子、及び前記第3磁性粒子は、Feを含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記第1磁性粒子は、Feを72wt%~97wt%含み、前記第2磁性粒子は、Feを87wt%~99.8wt%含み、前記第3磁性粒子は、Feを50wt%~93wt%含む、請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記第2磁性粒子及び前記第3磁性粒子は、Feを92wt%以上含む請求項7に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記第2磁性粒子の密度は、前記第1磁性粒子の密度以上である、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記第3磁性粒子の密度は、前記第2磁性粒子の密度以上である、請求項1~請求項10のいずれか1項に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記磁性粒子は、10
9Ω・cm以上の体積抵抗率を有する、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。本発明は、より具体的には、樹脂及び磁性粒子を含む複合樹脂材料から成る磁性体本体と、当該磁性体本体に埋設されたコイル導体とを備えるコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるコイル部品の一つとしてインダクタがある。インダクタは、電子回路において用いられる受動素子である。インダクタは、例えば、電源ラインや信号ラインにおいて、ノイズを除去するために用いられる。
【0003】
コイル部品は、通常、磁性体本体と、当該磁性体本体に埋設されたコイル導体と、当該コイル導体の端部に接続された外部電極とを有する。コイル部品の磁性体本体は、フェライトや複合樹脂材料から形成されることが多い。
【0004】
この複合樹脂材料は、バインダ樹脂により多数の磁性粒子を結合させた複合材料である。複合樹脂材料は、フェライトに比べて成型が容易であるため、小型のコイル部品の磁性体本体の材料として広く用いられている。
【0005】
複合樹脂材料から成る磁性体本体は、射出成型やトランスファー成型により作製される。具体的には、磁性体本体は、磁性粒子とバインダ樹脂とを混練して得られたスラリーを所定の型に流し込み、このスラリーを型内で硬化させることで形成される。
【0006】
コイル部品の磁性体本体は、高い透磁率を有することが望まれる。複合樹脂材料製の磁性体本体の透磁率を向上させるためには、当該磁性体本体における磁性粒子の充填率を高めればよい。
【0007】
透磁率向上のために磁性粒子の充填率を高めるための提案がこれまでにもなされている。例えば、特開2006-179621号公報には、第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子を含む複合磁性材料が開示されており、この第2の磁性粒子の平均粒径が当該第1の磁性粒子の平均粒径の50%以下であり、当該第1の磁性粒子の含有率をX[wt%]、当該第2の磁性粒子の含有率をY[wt%]としたとき、0.05≦Y/(X+Y)≦0.30の関係を満足させることにより、磁性粒子が高密度で充填された成形体が得られるとされている。
【0008】
特開2015-026812号公報には、磁性体本体に含まれる第1の磁性粒子及び第2の磁性粒子を鉄(Fe)を含む非晶質金属製とし、当該第1の磁性粒子を長軸の長さが15μm以上の粗粉とし、当該第2の磁性粒子を長軸の長さが5μm以下の微粉とすることにより、磁性粒子の充填率を向上させることが開示されている。
【0009】
特開2016-208002号公報には、磁性体本体が3種類以上の粒度分布を有する磁性粒子を含むことにより、磁性粒子の充填率を高めることが開示されている。
【0010】
このように、従来は、互いに異なる粒径を有する2種類又は3種類の磁性粒子を磁性体本体に含有させることにより、当該磁性体本体における磁性粒子の充填率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2006-179621号公報
【文献】特開2015-026812号公報
【文献】特開2016-208002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、磁性体本体は、磁性粒子とバインダ樹脂とを混練して得られたスラリーを所定の成形型に流し込み、このスラリーを当該成形型内で硬化させることで形成される。スラリーの粘度は、当該スラリーが小粒径の磁性粒子を含むと高くなる。よって、小粒径の磁性粒子を含む磁性体本体を作成するためには、スラリーを成型用の型へ注入する際に高い圧力をかけることが必要となる。しかしながら、成形型への注入時に高い圧力がかけられると磁性粒子内に歪が生じ、この歪によりコア損失が増大するおそれがある。他方、十分な圧力をかけないと、成型された磁性体本体において、磁性粒子の分布が不均一となってしまう。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決又は緩和することである。より具体的な本発明の目的の一つは、コイル部品の磁性体本体において、磁性粒子の充填率を高めるとともに磁性粒子の分布の均一性を向上させることである。本発明のこれら以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施形態に係るコイル部品は、樹脂及び磁性粒子を含む磁性体本体と、前記磁性体本体に埋設されたコイル導体と、を備え、前記磁性粒子は、第1磁性粒子、第2磁性粒子、及び第3磁性粒子を含む。
【0015】
磁性体本体に含まれる磁性粒体のうち、第1磁性粒子は、最も大きな平均粒径を有する。この第1磁性粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、磁性体本体の外表面に凹凸が生じてしまうので、本発明の一実施形態において、前記第1磁性粒子の平均粒径は50μm以下とされる。磁性体本体の外表面に凹凸が生じると、外部電極が脱落しやすくなってしまうが、第1磁性粒子の平均粒径が50μm以下であれば、当該磁性体本体の外表面を平滑にすることができるので外部電極の脱落を抑止できる。第1磁性粒子の平均粒径が50μm以下であれば、当該磁性体本体の外表面に切削加工又は研磨加工を施してもその外表面を平滑に保つことができる。
【0016】
他方、第1磁性粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、当該第1磁性粒子を含むスラリーの粘度が高くなるので、磁性体本体の成型時に当該スラリーを成形型へ流し込むために高い圧力が必要となる。そこで、スラリー粘度が所定値よりも高くならないようにするために、当該第1磁性粒子の平均粒径の下限を設定する。本発明の一実施形態において、当該第1磁性粒子の平均粒径は、15μm以上とされる。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記第2磁性粒子の平均粒径は、前記第1磁性粒子の平均粒径よりも小さく、前記第3磁性粒子の平均粒径は、前記第2磁性粒子の平均粒径よりも小さい。一実施形態において、前記第2磁性粒子の平均粒径は、2μm~10μmとされる。一実施形態において、前記第3磁性粒子の平均粒径は、2μm未満とされる。
【0018】
上記のように平均粒径が互いに異なる3種類以上の粒子を混合させることにより、磁性体本体における磁性粒子の充填率を高めることができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記第3磁性粒子の平均粒径は、0.5μm以下とされる。これにより、高周波でコイル部品を励磁する場合でも、第3磁性粒子内における渦電流の発生を抑制することができる。これにより、高周波特性に優れたコイル部品を得ることができる。
【0020】
本発明の一実施形態においては、前記磁性体本体における前記磁性粒子の充填率が87%以上とされる。これにより、透磁率に優れた磁性体本体を得ることができる。
【0021】
磁性粒子の含有比率は、以下のようにして定められる。第2磁性粒子及び第3磁性粒子の含有比率が高くなると、当該第2磁性粒子及び当該第3磁性粒子を含むスラリーの粘度が高くなるので、磁性体本体の成型時に当該スラリーを成形型へ流し込むために高い圧力が必要となる。他方、第2磁性粒子及び第3磁性粒子の含有比率が低くなると、磁性体本体における磁性粒子の充填率が低下してしまう。そこで、第2磁性粒子及び第3磁性粒子の含有比率には上限及び下限を設定する必要がある。本発明の一実施形態において、前記第1磁性粒子、前記第2磁性粒子、及び前記第3磁性粒子の総体積に対する前記第1磁性粒子の体積比率は、70vol%~85vol%であり、前記総体積に対する前記第2磁性粒子の体積比率は、2vol%~28vol%であり、前記総体積に対する前記第3磁性粒子の体積比率は、2vol%~28vol%である。第1磁性粒子、第2磁性粒子、及び第3磁性粒子の含有比率を前記範囲とすることにより、第1磁性粒子、第2磁性粒子、及び第3磁性粒子を含む樹脂組成物の溶融粘度を低く保つことができる。
【0022】
樹脂に磁性粒子を混練して得られた樹脂組成物中における当該磁性粒子の流動性は、当該磁性粒子の密度及び粒径によって異なる。仮に第1磁性粒子、第2磁性粒子、及び第3磁性粒子の密度が同一と仮定すると、最も大径の第1磁性粒子が樹脂組成物中で最も移動しやすく、逆に、最も小径の第3磁性粒子が樹脂組成物中で最も移動しにくい。したがって、各磁性粒子の移動のしやすさの違いに起因して、成形型への注入時に樹脂組成物において磁性粒子が均一に分散しなくなるおそれがある。例えば、成形型に注入される樹脂組成物の一部の領域に第1磁性粒子が偏在してしまうおそれがある。樹脂組成物は、小径の磁性粒子の含有比率が高い領域において粘度が高くなってしまうので、樹脂組成物における磁性粒子の分散の均一性が損なわれると、樹脂組成物の粘度が局所的に増加してしまい、その結果、樹脂組成物の注入のために高い圧力が必要となってしまう。
【0023】
そこで、本発明の一実施形態においては、前記第3磁性粒子の粒度分布が前記第2磁性粒子の粒度分布とが重複するように、前記第2磁性粒子及び前記第3磁性粒子の粒度分布を定める。例えば、一実施形態においては、前記第2磁性粒子の粒度分布の累積5%の粒径が、前記第3磁性粒子の粒度分布と前記第2磁性粒子の粒度分布の頻度が等しい粒径よりも小さくなるように、当該第2磁性粒子及び当該第3磁性粒子の粒度分布が決められる。他の実施形態においては、前記第2磁性粒子の粒度分布の累積10%の粒径が、前記第3磁性粒子の粒度分布の累積90%の粒径よりも小さくなるように、当該第2磁性粒子及び当該第3磁性粒子の粒度分布が決められる。このように、当該第3磁性粒子の粒度分布が当該第2磁性粒子の粒度分布と重複するようにすれば、樹脂組成物における第3磁性粒子の移動のしやすさを第2磁性粒子の移動のしやすさに近づけることができるため、当該樹脂組成物における磁性粒子の偏在を緩和することができる。これにより、樹脂組成物における局所的な粘度の増加を抑制することができる。
【0024】
本発明の一実施形態においては、前記第1磁性粒子の粒度分布が前記第2磁性粒子の粒度分布と重複する。これにより、樹脂組成物における第2磁性粒子の移動のしやすさを第11磁性粒子の移動のしやすさに近づけることができるため、当該樹脂組成物における磁性粒子の偏在を緩和することができる。これにより、樹脂組成物における局所的な粘度の増加をさらに抑制することができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記第1磁性粒子、前記第2磁性粒子、及び前記第3磁性粒子は、Feを含む。例えば、前記第1磁性粒子は、Feを72wt%~97wt%含み、前記第2磁性粒子は、Feを87wt%~99.8wt%含み、前記第3磁性粒子は、Feを50wt%~93wt%含む。本発明の一実施形態において、前記第2磁性粒子及び前記第3磁性粒子は、Feを92wt%以上含む。これらの実施形態によれば、透磁率に優れた磁性体本体を得ることができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記第2磁性粒子の密度は、前記第1磁性粒子の密度以上とされる。これにより、樹脂組成物において第2磁性粒子の移動のしやすさを第1磁性粒子の移動のしやすさに近づけることができるため、当該樹脂組成物における磁性粒子の偏在を緩和することができる。したがって、樹脂組成物における局所的な粘度の増加を抑制することができる。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記第3磁性粒子の密度は、前記第2磁性粒子の密度以上とされる。これにより、樹脂組成物において第3磁性粒子の移動のしやすさを第2磁性粒子の移動のしやすさに近づけることができるため、当該樹脂組成物における磁性粒子の偏在を緩和することができる。したがって、樹脂組成物における局所的な粘度の増加を抑制することができる。
【0028】
前記第3磁性粒子として、鉄を主成分としない粒子を用いることもできる。鉄を主成分としない粒子とは、鉄の含有率が50%未満となる粒子をいう。このような鉄を主成分としない粒子として、具体的には、ニッケルを主成分とする粒子、または、シリカを主成分とする粒子がある。前記第3磁性粒子としてニッケルを主成分とする粒子を用いることにより、磁性体本体の透磁率を大きくできる。前記第3磁性粒子としてニッケルを主成分とする粒子を用いると、当該第3磁性粒子の密度は、前記第2の磁性粒子の密度よりも小さくなることがある。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記磁性粒子は、109Ω・cm以上の体積抵抗率を有する。これにより、コイル部品の直流重畳特性を大きくすることができるので、大電流が供給される回路に適したコイル部品が得られる。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記磁性粒子は、第4磁性粒子をさらに含み、前記第4磁性粒子の平均粒径は、前記第3磁性粒子の平均粒径よりも小さく、前記第4磁性粒子の粒度分布は、前記第3磁性粒子の粒度分布と重複している。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一実施形態によれば、コイル部品の磁性体本体において、磁性粒子の充填率を高めるとともに、磁性粒子の分布の均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
【
図2】
図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図1のコイル部品の磁性体本体に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図4】大粒子、中粒子、及び小粒子の体積占有率を示す三元図である。
【
図5】試料c1(実施
例c1)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図6】試料c2(実施
例c2)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図7】試料c3(実施
例c3)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図8】試料c4(実施
例c4)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図9】試料c5(実施
例c5)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【
図10】試料c6(比較例c1)に含まれる磁性粒子の体積基準の粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0034】
図1及び
図2を参照して本発明の一実施形態に係るコイル部品10について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品
10の斜視図であり、
図2は、
図1のコイル部品
10をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
図1においては、コイル部品の構成要素のうち一部を透過させてコイル部品10の内部構造を図示している。
【0035】
これらの図には、コイル部品10の一例として、差動信号を伝送する差動伝送回路からコモンモードノイズを除去するためのコモンモードチョークコイルが示されている。コモンモードチョークコイルは、本発明を適用可能な磁気結合型コイル部品の一例である。本発明は、コモンモードチョークコイル以外にも、トランス、カップルドインダクタ及びこれら以外の様々なコイル部品に適用することができる。
【0036】
コイル部品10は、例えば薄膜プロセスによって作製される。本発明によるコイル部品は、薄膜プロセス以外にも任意の公知のプロセスを用いて作成され得る。
【0037】
図示のように、本発明の一実施形態におけるコイル部品10は、磁性体本体20と、磁性体本体20に埋設されたコイル導体25と、絶縁基板50と、4つの外部電極21~24と、を備える。コイル導体25は、絶縁基板50の上面に形成されたコイル導体25aと、当該絶縁基板50の下面に形成されたコイル導体25bと、を含む。
【0038】
外部電極21は、コイル導体25aの一端と電気的に接続され、外部電極22は、当該コイル導体25aの他端と電気的に接続されている。外部電極23は、コイル導体25bの一端と電気的に接続され、外部電極24は、当該コイル導体25bの他端と電気的に接続されている。
【0039】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品10の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、
図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。コイル部品10の上下方向に言及する際には、
図1の上下方向を基準とする。
【0040】
本発明の一実施形態において、コイル部品10は、長さ寸法(L方向の寸法)が1.0mm~2.6mm、幅寸法(W方向の寸法)が0.5~2.1mm、厚み寸法(T方向の寸法)が0.5~1.0mmとなるように形成される。後述するように、本発明の各実施形態によれば、磁性体本体20の原料となる樹脂組物の溶融粘度が、成形型への注入時に270Pa・s以下となるので、コイル部品の寸法を小さくすることができる。例えば、コイル部品10の磁性体本体20の厚み寸法は、0.95mm以下とされる。
【0041】
絶縁基板50は、磁性材料から板状に形成された部材である。絶縁基板50用の磁性材料は、例えば、バインダ樹脂及びフィラー粒子を含む複合磁性材料である。このバインダ樹脂は、例えば、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂であり、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂である。
【0042】
本発明の一実施形態において、絶縁基板50に含まれる用いられるフィラー粒子は、フェライト材料の粒子、金属磁性粒子、SiO2やAl2O3などの無機材料粒子、ガラス系粒子、又はこれら以外の任意の公知のフィラー粒子である。本発明に適用可能なフェライト材料の粒子は、例えば、Ni-Znフェライトの粒子またはNi-Zn-Cuフェライトの粒子である。本発明に適用可能な金属磁性粒子は、酸化されていない金属部分において磁性が発現する材料であり、例えば、酸化されていない金属粒子や合金粒子を含む粒子である。本発明に適用可能な金属磁性粒子には、例えば、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe―Si-Cr-B-C、もしくはFe-Si-B-Cr、Fe、またはこれらの混合材料の粒子が含まれる。本発明に適用可能な金属磁性粒子には、さらにFe-Si-Al、FeSi-Al-Crの粒子が含まれる。これらの粒子から得られる圧粉体も本発明の金属磁性粒子として用いることができる。さらに、これらの粒子または圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成したものも本発明の金属磁性粒子として利用することができる。本発明に適用可能な金属磁性粒子は、例えばアトマイズ法で製造される。また、本発明に適用可能な金属磁性粒子は、公知の方法を用いて製造することができる。また、本発明には、市販されている金属磁性粒子を用いることもできる。市販の金属磁性粒子として、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF-20F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlがある。
【0043】
本発明の一実施形態において、絶縁基板50は、磁性体本体20よりも大きな抵抗値を有するように構成される。これにより、絶縁基板50を薄くしても、コイル導体25aとコイル導体25bとの間の電気的絶縁を確保することができる。
【0044】
コイル導体25aは、絶縁基板50の上面に、所定のパターンを有するように形成される。図示の実施形態では、コイル導体25aは、コイル軸CLの周りに巻回された複数ターンの周回部を有するように形成される。
【0045】
同様に、コイル導体25bは、絶縁基板50の下面に、所定のパターンを有するように形成される。図示の実施形態では、コイル導体25bは、コイル軸CLの周りに巻回された複数ターンの周回部を有するように形成される。本発明の一実施形態において、コイル導体25bは、その周回部の上面がコイル導体25aの周回部の下面と対向するように形成される。
【0046】
コイル導体25aの一方の端部には、引出導体26aが設けられ、他方の端部には、引出導体27aが設けられている。コイル導体25aは、この引出導体26aを介して外部電極21と電気的に接続され、引出導体27aを介して外部電極22と電気的に接続される。同様に、コイル導体25bの一方の端部には、引出導体26bが設けられ、他方の端部には、引出導体27bが設けられている。コイル導体25bは、この引出導体26bを介して外部電極23と電気的に接続され、引出導体27bを介して外部電極24と電気的に接続される。
【0047】
コイル導体25a及びコイル導体25bは、パターニングされたレジストを絶縁基板50の表面に形成し、このレジストの開口部をめっき処理により導電性金属で充填することで形成される。
【0048】
本発明の一実施形態において磁性体本体20は、第1の主面20a、第2の主面20b、第1の端面20c、第2の端面20d、第1の側面20e、及び第2の側面20fを有する。磁性体本体20は、これらの6つの面によってその外面が画定される。
【0049】
外部電極21及び外部電極23は、磁性体本体20の第1の端面20cに設けられる。
外部電極22及び外部電極24は、磁性体本体20の第2の端面20dに設けられる。各外部電極は、図示のように、磁性体本体20の上面20a及び下面20bまで延伸する。
【0050】
本発明の一実施形態において、磁性体本体20は、多数の磁性粒子を分散させた樹脂から形成される。本発明の一実施形態において、磁性体本体20に含まれる樹脂は、絶縁性に優れた熱硬化性の樹脂である。
【0051】
磁性体本体20用の熱硬化性樹脂として、ベンゾシクロブテン(BCB)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂(PI)、ポリフェニレンエーテルオキサイド樹脂(PPO)、ビスマレイミドトリアジンシアネートエステル樹脂、フマレート樹脂、ポリブタジエン樹脂、又はポリビニルベンジルエーテル樹脂が用いられる。
【0052】
磁性体本体20には多数の磁性粒子が含まれる。この磁性粒子は、互いに粒径の異なる3種類の磁性粒子を含む。
図2に示されているように、本発明の一実施形態において、磁性体本体20の磁性粒子は、複数の第1磁性粒子31、複数の第2磁性粒子32、及び複数の第3磁性粒子33を含む。
図2における各磁性粒子は、平均粒径の相違を強調して表現するために、正確な寸法比率で記載されていない点に留意されたい。
【0053】
3種類の磁性粒子の中では、第1磁性粒子31が最も大きな平均粒径を有する。第1磁性粒子31の平均粒径は、例えば、15μm~50μmとされる。
【0054】
前記第2磁性粒子32の平均粒径は、第1磁性粒子31の平均粒径よりも小さく、第3磁性粒子33の平均粒径は、第2磁性粒子32の平均粒径よりも小さい。一実施形態において、第2磁性粒子32の平均粒径は、2μm~10μmとされ、第3磁性粒子33の平均粒径は、2μm未満とされる。
【0055】
第1磁性粒子31の平均粒径は、第2磁性粒子32の平均粒径よりも大きく、また、第2磁性粒子32の平均粒径は、第3磁性粒子33の平均粒径よりも大きいので、本明細書では、第1磁性粒子31を大粒子、第2磁性粒子32を中粒子、第3磁性粒子33を小粒子と呼ぶことがある。
【0056】
第3磁性粒子33の平均粒径は、0.5μm以下としてもよい。これにより、高周波でコイル部品を励磁する場合でも、第3磁性粒子33内における渦電流の発生を抑制することができる。これにより、優れた高周波特性を有するコイル部品10が得られる。
【0057】
本明細書において、磁性粒子の「平均粒径」は、それと別の意味に解すべき場合を除き、体積基準平均粒径を意味する。磁性粒子の体積基準平均粒径は、JIS Z 8825に従って、レーザ回折散乱法により測定される。レーザ回折・散乱装置としては、例えば、日本国京都府京都市の堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(型番:LA-960)を用いることができる。
【0058】
本発明の一実施形態において、第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33の総体積に対する第1磁性粒子31の全体積の比率は、70vol%~85vol%である。第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33の総体積は、磁性体本体20に含まれる全ての第1磁性粒子31、全ての第2磁性粒子32、及び全ての第3磁性粒子33の体積を合計した値であり、本明細書において、「磁性粒子総体積」と呼ばれることもある。本明細書においては、磁性体本体20(または、その原料となる樹脂組成物)に含まれる複数種類の磁性粒子に総体積(磁性粒子総体積)に対する、特定種類の磁性粒子の全体積の比率を、当該特定種類の磁性粒子の「体積占有率」と呼ぶ。例えば、磁性体本体20が第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33を含むときに、磁性粒子総体積に対する第1磁性粒子31の全体積の比率を、当該第1磁性粒子31の体積占有率と呼ぶ。第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33の総体積は、磁性体本体20を切断して得られる一断面に現れる各磁性粒子(第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33)の体積を全て足し合わせることで求められる。第1磁性粒子31の全体積は、当該一断面に現れる第1磁性粒子31の体積を全て足し合わせることで求められる。同様に、第2磁性粒子32の全体積は、当該一断面に現れる第2磁性粒子32の体積を全て足し合わせることで求められ、第3磁性粒子33の全体積は、当該一断面に現れる第3磁性粒子33の体積を全て足し合わせることで求められる。磁性体本体20を切断して得られる一断面に現れる各磁性粒子の体積は、当該一断面に現れる各磁性粒子の粒径を前述したJIS Z 8825に従ったレーザ回折散乱法で測定し、この測定結果として得られる粒径を体積に換算することで得られる。粒径から体積への換算を行う際は、JIS Z 8825に従ったレーザ回折散乱法の測定原理に鑑みて、各磁性粒子が球形と仮定される。
【0059】
本発明の一実施形態において、磁性粒子総体積に対する第2磁性粒子32の全体積の比率は、2vol%~28vol%とされ、当該磁性粒子総体積に対する第3磁性粒子33の全体積の比率は、2vol%~28vol%とされる。
【0060】
このように、平均粒径が互いに異なる3種類以上の粒子を混合させることにより、磁性体本体における磁性粒子の充填率を高めることができる。本発明の一実施形態においては、前記磁性体本体における前記磁性粒子の充填率が87%以上とされる。これにより、透磁率に優れた磁性体本体を得ることができる。
【0061】
本発明の一実施形態において、第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33は、鉄(Fe)を含むFe基非晶質合金から成る。このFe基非晶質合金は、例えば、Fe―Si-Cr-B-C、Fe-Si-B-Cr、又はこれらを混合した混合材料である。
【0062】
本発明の一実施形態において、第1磁性粒子31は、Feを72wt%~80wt%含み、第2磁性粒子32は、Feを87wt%~99.8wt%含み、第3磁性粒子33は、Feを50wt%~93wt%含む。第2磁性粒子32及び第3磁性粒子33におけるFeの含有比率は、92wt%以上としてもよい。かかる組成により、透磁率に優れた磁性体本体20を得ることができる。
【0063】
本発明の一実施形態において、第2磁性粒子32は、その密度が第1磁性粒子31の密度以上となるように形成される。例えば、第2磁性粒子32におけるFeの含有比率を第1磁性粒子31におけるFeの含有比率よりも高くすることにより、第2磁性粒子32の密度を第1磁性粒子31の密度よりも高くすることができる。
【0064】
本発明の一実施形態において、第3磁性粒子33は、その密度が第2磁性粒子32の密度以上となるように形成される。例えば、第3磁性粒子33におけるFeの含有比率を第2磁性粒子32におけるFeの含有比率よりも高くすることにより、第3磁性粒子33の密度を第2磁性粒子32の密度よりも高くすることができる。
【0065】
本発明の一実施形態において、第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33はいずれも、109Ω・cm以上の体積抵抗率を有するように形成される。これにより、コイル部品10の直流重畳特性を大きくすることができる。これにより、大電流が供給される回路に適したコイル部品10を得ることができる。
【0066】
図3は、磁性体本体20に含まれる磁性粒子の粒度分布の一例を示すグラフである。図示のとおり、この粒度分布のグラフは、3つのピーク、すなわち、第1ピークP1、第2ピークP2、及び第3ピークP3を含む。この第1ピークP1を含む粒度分布は、第1磁性粒子31の粒度分布を表し、第2ピークP2を含む粒度分布は、第2磁性粒子32の粒度分布を表し、第3ピークP3を含む粒度分布は、第3磁性粒子33の粒度分布を表す。第1ピークP1は、15μm~50μmの範囲に位置し、第2ピークP2は、2μm~10μmの間に位置し、第3のピークP3は、2μm未満に位置する。上述したように、磁性体本体20は、磁性粒子を含んでおり、この磁性粒子は、第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33が所定の割合で混合して得られたものである。
図3は、この混合された3種類の磁性粒子の粒度分布を示している。
【0067】
本発明の一実施形態においては、図示のように、第3磁性粒子33の粒度分布が第2磁性粒子32の粒度分布と重複する。例えば、第2磁性粒子32の粒度分布の10%値が、第3磁性粒子33の粒度分布の90%値よりも小さくなる。
【0068】
本発明の一実施形態においては、第2磁性粒子32の粒度分布が第1磁性粒子31の粒度分布と重複してもよい。この場合、第1磁性粒子31の粒度分布の10%値が、第2磁性粒子32の粒度分布の90%値よりも小さくなる。第2磁性粒子32の粒度分布と第1磁性粒子31の粒度分布とは互いに重複していなくともよい。
【0069】
本発明の一実施形態において、磁性体本体20は、4種類以上の磁性粒子を含んでいてもよい。例えば、磁性体本体20は、第3磁性粒子33の平均粒径よりも小さい平均粒径を有する第4磁性粒子を含んでも良い。この場合、当該第4磁性粒子の粒度分布は、第3磁性粒子33の粒度分布と重複していてもよい。
【0070】
次に、コイル部品10の製造方法の一例を説明する。コイル部品10は、例えば薄膜プロセスによって製造することができる。コイル部品10を薄膜プロセスにて製造する際には、まず磁性材料から板状に形成された絶縁基板を準備する。この絶縁基板は、例えば、上述した絶縁基板50と同様に構成される。
【0071】
次に、当該絶縁基板の上面及び下面にフォトレジストを塗布し、続いて、当該絶縁基板の上面及び下面の各々に導体パターンを露光・転写し、現像処理を行う。これにより、当該絶縁基板の上面及び下面の各々に、コイル導体を形成するための開口パターンを有するレジストが形成される。絶縁基板の上面に形成される導体パターンは、例えば、上述したコイル導体25aに対応する導体パターンであり、絶縁基板の下面に形成される導体パターンは、例えば、上述したコイル導体25bに対応する導体パターンである。
【0072】
次に、めっき処理により、当該開口パターンの各々を導電性金属で充填する。続いて、エッチングにより上記絶縁基板からレジストを除去することで、当該絶縁基板の上面及び下面の各々にコイル導体が形成される。
【0073】
次に、上記コイル導体が形成された絶縁基板の両面に、磁性体本体を形成する。この磁性体本体は、例えば、前述した磁性体本体20に対応する。この磁性体本体は、例えば、トランスファー成形により作成される。具体的には、成型金型に上記のコイル導体が形成された絶縁基板を配し、3種類の磁性粒子と熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)とを混練して得られた樹脂組成物(スラリー)を当該成型金型に注入することで、当該絶縁基板に磁性体本体が形成された成型品を得ることができる。この3種類の磁性粒子は、例えば、前述の第1磁性粒子31、第2磁性粒子32、及び第3磁性粒子33である。
【0074】
次に、当該絶縁基板に磁性体本体が形成された成型品に所定数の外部電極を形成する。この外部電極は、例えば、前述の外部電極21~24を対応するものである。各外部電極は、磁性体本体の表面に導電性ペーストを塗布して下地電極を形成し、この下地電極の表面にめっき層を形成することにより形成される。めっき層は、例えば、ニッケルを含むニッケルめっき層と、スズを含むスズめっき層の2層構造とされる。
【0075】
以上の工程により、本発明の一実施形態に係るコイル部品10が得られる。上述したコイル部品10の製造方法は一例に過ぎず、コイル部品10の製造方法は上述したものに限られない。
【実施例】
【0076】
続いて、本発明の実施例について説明する。
【0077】
組成がFe―Si-Cr-B-Cで表され、以下の表1に示された平均粒径を有する3種類の磁性粒子をエポキシ樹脂と混練して、5種類の樹脂組成物の試料(試料a1~試料a5)を得た。この5つの試料の各々において、最も大きな平均粒径を有する大粒子、2番目に大きな平均粒径を有する中粒子、及び3番目に大きな(最も小さな)平均粒径を有する小粒子の体積占有率は、大粒子:中粒子:小粒子=75:17:8とした。
【0078】
この試料a1~試料a5の各々について、溶融粘度を測定した。この溶融粘度は、直径1mm、長さ1mmのダイスを装着した島津製作所社製のフローテスター(型番:CFT-500D)を使用して、試験温度130度、シリンダ圧力11770000Paの条件下で試料投入から20秒後に測定した。
【0079】
各試料についての溶融粘度の測定結果は、以下のとおりである。
【表1】
【0080】
試料a1~試料a4においては、溶融粘度が270Pa・s未満となることが確認できた。これにより、樹脂組成物に含まれる大粒子、中粒子、及び小粒子の体積占有率が75:17:8のときに、当該大粒子の平均粒径が15μm~50μmの範囲にあれば、当該樹脂組成物は270Pa・s未満という低い溶融粘度を有する。溶融粘度が270Pa・s未満の樹脂組成物は、成形型への注入時に当該樹脂組成物が通る流路の断面の最小寸法が0.2mm以下であっても高圧をかけることなく、当該成形型へ注入することができる。
【0081】
次に、以下で説明する手順により、樹脂組成物における大粒子、中粒子、及び小粒子の含有比率が溶融粘度に与える影響を確認した。まず、平均粒径が25μmの磁性粒子(大粒子)、平均粒径が5μmの磁性粒子(中粒子)、及び平均粒径が2μmの磁性粒子(小粒子)を、以下の表2に示されている体積占有率となるように混合し、この混合された粒子をエポキシ樹脂と混練して、表2に示す13個の樹脂組成物の試料(試料b1~試料b13)を得た。各磁性粒子はいずれも、組成がFe―Si-Cr-B-Cで表されるFe基非晶質合金とした。
【0082】
この試料b1~試料b13の各々について、溶融粘度を測定した。溶融粘度は、直径1mm、長さ1mmのダイスを装着した島津製作所社製のフローテスター(型番:CFT-500D)を使用して、試験温度130度、シリンダ圧力11770000Paの条件下で試料投入から20秒後に測定した。
【0083】
各試料についての溶融粘度の測定結果は、以下のとおりである。
【表2】
【0084】
表2に示すように、試料b1~試料b8については、いずれも溶融粘度が270Pa・s未満となり、試料b9~試料b13については、いずれも溶融粘度が270Pa・s以上となった。
【0085】
図4は、試料b1~試料b13の大粒子(第1磁性粒子)、中粒子(第2磁性粒子)、及び小粒子(第3磁性粒子)の体積占有率を表す三元図である。
図4に示すように、試料b1~試料b13を三元図にプロットすると、平均粒径の異なる3種類の粒子(大粒子、中粒子、及び小粒子)を含む樹脂組成物の溶融粘度は、当該大粒子の体積占有率が70vol%~85vol%であり、当該中粒子の体積占有率が2vol%~28vol%であり、当該小粒子の体積占有率が2vol%~28vol%である場合(
図4の三元図においてハッチングされている領域にある場合)に、270Pa・s未満となる。大粒子の平均粒径が15μm~50μmの範囲にあれば、大粒子、中粒子、及び小粒子の平均粒径が表2に示したものから変わっても、270Pa・s未満の溶融粘度が得られる体積占有率の範囲には影響がないと考えられる。すなわち、大粒子の平均粒径が15μm~50μmの範囲にあれば、樹脂と3種類の磁性粒子(大粒子、中粒子、及び小粒子)とを混練して得られた樹脂組成物の溶融粘度は、大粒子、中粒子、及び小粒子の平均粒径によらず、大粒子の体積占有率が70vol%~85vol%であり、中粒子の体積占有率が2vol%~28vol%であり、小粒子の体積占有率が2vol%~28vol%である場合に、270Pa・s未満となると考えられる。
【0086】
次に、以下で説明する手順により、樹脂組成物における大粒子、中粒子、及び小粒子の含有比率が溶融粘度に与える影響を確認した。まず、平均粒径が25μmの磁性粒子(大粒子)、平均粒径が5μmの磁性粒子(中粒子)、及び平均粒径が2μmの磁性粒子(小粒子)を、それぞれの体積占有率が75vol%、17vol%、8vol%となるように混合し、この混合された粒子をエポキシ樹脂と混練して、6個の樹脂組成物の試料(試料c1~試料c6)を得た。各磁性粒子はいずれも、組成がFe―Si-Cr-B-Cで表されるFe基非晶質合金とした。
【0087】
試料c1~試料c6は、
図5~
図10に示すように、各磁性粒子の粒径分布の重複の程度が異なっている。
図5は、試料c1に含まれる各磁性粒子の粒径分布を示すグラフである。試料c1は、
図5に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0088】
同様に、
図6は、試料c2に含まれる各磁性粒子の体積基準の粒径分布を示すグラフである。試料c2は、
図6に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0089】
図7は、試料c3に含まれる各磁性粒子の体積基準の粒径分布を示すグラフである。試料c3は、
図7に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0090】
図8は、試料c4に含まれる各磁性粒子の体積基準の粒径分布を示すグラフである。試料c4は、
図8に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0091】
図9は、試料c5に含まれる各磁性粒子の体積基準の粒径分布を示すグラフである。試料c5は、
図9に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0092】
図10は、試料c6に含まれる各磁性粒子体積基準のの粒径分布を示すグラフである。試料c6は、
図10に示す粒度分布を有する大粒子、中粒子、及び小粒子を上記のようにエポキシ樹脂と混練して得られた樹脂組成物である。
【0093】
図5~
図10に示すグラフはいずれも、3つのピークを有している。各図において、第1ピークP1を含む粒度分布は大粒子の粒度分布を示し、第2ピークP2を含む粒度分布は中粒子の粒度分布を示し、第3ピークP3を含む粒度分布は小粒子の粒度分布を示す。
【0094】
図5~
図9に示すように、試料c1~試料
c5においては、大粒子の粒度分布と中粒子の粒度分布とが重複しており、また、中粒子の粒度分布と小粒子の粒度分布とが重複している。
【0095】
具体的には、
図5に示すように、試料c1においては、中粒子の粒度分布のグラフと大粒子の粒度分布のグラフとが中粒子の粒度分布の累積頻度95%及び大粒子の粒度分布の累積頻度5%に対応する粒径9.5μmで交わっており、小粒子の粒度分布のグラフと中粒子の粒度分布のグラフとが小粒子の粒度分布の累積頻度80%及び中粒子の粒度分布の累積頻度20%に対応するの粒径3.7μmで交わっている。
【0096】
また、
図6に示すように、試料c2においては、中粒子の粒度分布のグラフと大粒子の粒度分布のグラフとは、中粒子の粒度分布の累積頻度98%及び大粒子の粒度分布の累積頻度2%に対応する粒径14μmで交わっており、小粒子の粒度分布のグラフと中粒子の粒度分布のグラフとは、小粒子の粒度分布の累積頻度98%及び中粒子の粒度分布の累積頻度3%に対応する粒径3.7μmで交わっている。
【0097】
また、
図7に示すように、試料c3においては、中粒子の粒度分布のグラフと大粒子の粒度分布のグラフとは、中粒子の粒度分布の累積頻度99%及び大粒子の粒度分布の累積頻度1%に対応する粒径8.2μmで交わっており、小粒子の粒度分布のグラフと中粒子の粒度分布のグラフとは、小粒子の粒度分布の累積頻度87%及び中粒子の粒度分布の累積頻度14%に対応する粒径3.2μmで交わっている。
【0098】
また、
図8に示すように、試料c4においては、中粒子の粒度分布のグラフと大粒子の粒度分布のグラフとは、中粒子の粒度分布の累積頻度99%及び大粒子の粒度分布の累積頻度1%に対応する粒径8.2μmで交わっており、小粒子の粒度分布のグラフと中粒子の粒度分布のグラフとは、小粒子の粒度分布の累積頻度94%及び中粒子の粒度分布の累積頻度7%に対応する粒径3.2μmで交わっている。
【0099】
また、
図9に示すように、試料c5においては、中粒子の粒度分布のグラフと大粒子の粒度分布のグラフとは、中粒子の粒度分布の累積頻度99%及び大粒子の粒度分布の累積頻度1%に対応する粒径8.2μmで交わっており、小粒子の粒度分布のグラフと中粒子の粒度分布のグラフとは、小粒子の粒度分布の累積頻度96%及び中粒子の粒度分布の累積頻度3%に対応する粒径3.2μmで交わっている。(
【0100】
図10に示すように、試料c6においては、大粒子の粒度分布と中粒子との粒度分布とが重複しておらず、また、中粒子の粒度分布と小粒子の粒度分布とも重複していない。
【0101】
この試料c1~試料c6の各々について、溶融粘度を測定した。溶融粘度は、直径1mm、長さ1mmのダイスを装着した島津製作所社製のフローテスター(型番:CFT-500D)を使用して、試験温度130度、シリンダ圧力11770000Paの条件下で試料投入から20秒後に測定した。
【0102】
各試料についての溶融粘度の測定結果は、以下のとおりである。
【表3】
【0103】
表3に示すように、磁性粒子の粒度分布に重複がある試料c1~試料c5については、いずれも溶融粘度が270Pa・s未満となり、磁性粒子の粒度分布に重複がない試料c6については、溶融粘度が270Pa・s以上となった。これにより、樹脂組成物に含まれる異なる種類の磁性粒子の粒度分布同士に重複がある場合には、重複がない場合と比較して、当該樹脂組成物の溶融粘度が低下することが確認できた。
【0104】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0105】
10 コイル部品
20 磁性体本体
25a、25b コイル導体
31 第1磁性粒子(大粒子)
32 第2磁性粒子(中粒子)
33 第3磁性粒子(小粒子)
50 絶縁基板