(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】新規なジヒドロキシ化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 209/34 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
C07D209/34 CSP
(21)【出願番号】P 2018509158
(86)(22)【出願日】2017-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2017011625
(87)【国際公開番号】W WO2017170094
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2016063774
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】溝口 隼
(72)【発明者】
【氏名】路 緒旺
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】冨永 保
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/014536(WO,A1)
【文献】特開2009-256342(JP,A)
【文献】特開2009-155252(JP,A)
【文献】特開2001-206863(JP,A)
【文献】特開2015-54946(JP,A)
【文献】特表2010-505011(JP,A)
【文献】特開平10-114695(JP,A)
【文献】特開平8-183853(JP,A)
【文献】Macromolecules、(2010)、Vol.43、No.17、pp.6968-6979
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物。
【化1】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基を示し、R
2は水素原子又はメチル基を示し、R
4は水素原子又はメチル基を示し、mは0又は1を示し、nは0を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジヒドロキシ化合物に関する。詳しくは、芳香族ポリカーボネートオリゴマー乃至樹脂等原料として好適な、インドリン骨格を有するジヒドロキシ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビスフェノキシアルコール類(ビスフェノール類のヒドロキシ基の水素原子をヒドロキシアルキル基に置換した化合物)は、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性合成樹脂原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂原料、酸化防止剤原料、感熱記録体原料、感光性レジスト原料などの用途で用いられており、近年、これらのビスフェノキシアルコール類に要求される性能はますます高度化している。
また、ビスフェノキシアルコール類としては、イソインドリン骨格を持つ3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-フェニルフタルイミジンが知られている(非特許文献1)。しかし該化合物は、耐熱性や光学特性等が十分ではなく、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Izvestiya Akademii Nauk Gruzinskoi SSR, Seriya Khimicheskaya, 1985, vol. 11, p.78-80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した事情を背景としてなされたものであって、高耐熱性、高屈折率であるインドリン骨格を有する新規なジヒドロキシ化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の課題解決のために鋭意検討した結果、インドリン骨格を持つ3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン類のヒドロキシフェニル骨格にフェニル基を置換させた化合物が従来化合物(3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-フェニルフタルイミジン)よりも高耐熱性、高屈折率を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物。
【化1】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基を示し、R
2は水素原子又はメチル基を示し、R
4は水素原子又はメチル基を示し、mは0又は1を示し、nは0を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によるジヒドロキシ化合物は、高耐熱性であり、しかも高屈折率を有しているため、光学材料用途のポリカーボネート、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の樹脂原料として優れた効果が期待できる。
さらに、本発明に係るジヒドロキシ化合物を原料モノマーとしたポリカーボネートは、高純度で、高耐熱性、高屈折率を有することが期待され、特に光学材料用ポリカーボネートにおいて優れた効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のジヒドロキシ化合物は下記一般式(1)で表される。
【化2】
(式中、Rは各々独立して炭素原子数2~6のアルキレン基を示し、R
1は各々独立して炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を示し、R
2は各々独立して水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R
3は炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、mは0~2の整数を示し、nは0~2の整数を示し、ただし、mが2の場合、R
1は同一でも異なっていてもよく、nが2の場合、R
3は同一でも異なっていてもよい。)
上記一般式(1)において、Rは各々独立して炭素原子数2~6のアルキレン基であり、アルキレン基としては、具体的には、例えば、1,2-エチレンジイル基、1,2-プロパンジイル基、1,3-プロパンジイル基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられるが、好ましくは炭素原子数2~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素原子数2又は3のアルキレン基である。ここで、上記一般式(1)中の「-O-R-OH」で表されるヒドロキシアルコキシ基について説明すると、アルキレン基Rに結合したヒドロキシ基の結合位置は、エーテル基と直接結合したアルキレン基Rを構成する炭素原子(1位炭素原子)には結合しない。Rが炭素原子3以上のアルキレン基である場合に、ヒドロキシ基の結合位置は、アルキレン基「R」の2位または3位が好ましく、中でも2位がより好ましい。具体的には、例えば、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシプロポキシ基、2-ヒドロキシ-1-メチルエトキシ基、3-ヒドロキシプロポキシ基等が挙げられる。
R
1は各々独立して炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子であり、R
1が炭素原子数1~8のアルキル基である場合、アルキル基としては、好ましくは炭素原子数1~4の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。このようなアルキル基には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、フェニル基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
また、R
1が炭素原子数1~8のアルコキシ基である場合、アルコキシ基としては、好ましくは炭素原子数1~4の直鎖状、分岐鎖状のアルコキシ基であり、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。このようなアルコキシ基には本願の効果を損なわない範囲で、例えば、フェニル基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
また、R
1がフェニル基である場合、フェニル基には本願の効果を損なわない範囲で、例えば、アルキル基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよいが、無置換のフェニル基が好ましい。
また、R
1がハロゲン原子である場合、ハロゲン原子としては、具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
R
1は、好ましくはメチル基又はフェニル基である。
R
2は各々独立して水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、R
3は炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、R
2、R
3が炭素原子数1~8のアルキル基である場合、好ましい基や具体例はR
1のそれと同じであり、R
2、R
3が炭素原子数1~8のアルコキシ基、ハロゲン原子である場合も同様に、好ましい基や具体例は各々R
1のそれと同じである。R
2は、好ましくは水素原子又はメチル基であり、R
3は好ましくはメチル基である。
また、上記一般式(1)において、mは0、1又は2であり、好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0であり、nは0、1又は2であり、好ましくは0又は1であり、特に好ましくは0である。
【0009】
また、上記一般式(1)において、インドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル基に置換する「-O-R-OH」基及びフェニル基、並びにR1の置換位置については、まず、「-O-R-OH」基は、インドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して4位又は2位に置換することが好ましく、4位に置換することがより好ましい。
また、フェニル基は、上記「-O-R-OH」基に対してo-位又はp-位に置換することが好ましく、「-O-R-OH」基がインドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して4位に置換している場合は、3位又は5位に置換することが好ましく、「-O-R-OH」基が2位に置換している場合は、3位又は5位に置換することが好ましい。
さらに、上記一般式(1)において、R1は、上記「-O-R-OH」基に対してo-位又はp-位に置換することが好ましく、前記インドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して、「-O-R-OH」基が4位、フェニル基が3位に置換しているときは、5位に置換することが好ましく、「-O-R-OH」基が2位、フェニル基が3位に置換しているときは、5位に置換することが好ましく、「-O-R-OH」基が2位、フェニル基が5位に置換しているときは、3位に置換することが好ましい。
さらに、mが2の場合のR1の置換位置は、前記インドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して、「-O-R-OH」基が4位、フェニル基が3位、R1が5位及び6位に置換するか又は「-O-R-OH」基が4位、フェニル基が3位、R1が2位及び5位に置換することが好ましい。
【0010】
従って、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、好ましくは下記一般式(3)で表される。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、nは式(1)のそれと同じであり、R
4は各々独立して水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を示し、ただし、各々のヒドロキシエトキシ基に置換するR
4の炭素原子数の合計は4以下である。)
上記一般式(3)において、R
1、R
2、R
3、m、nに関する好ましい例や具体例は、一般式(1)のそれと同じである。また、R
4が炭素原子数1~4のアルキル基である場合には、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。R
4は、中でも水素原子またはメチル基が好ましい。
【0011】
上記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物において、mが1である場合、R1の置換位置はインドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して、5位が好ましく、mが2である場合、R1の置換位置はインドリン骨格の3位の炭素原子と直接結合しているフェニル炭素原子に対して、5位及び6位又は2位及び5位が好ましい。
【0012】
本発明の一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には例えば、3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
【化4】
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシ-1-メチルエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-5-メチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(5-エチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジフェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-5,6-ジメチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-2,5-ジメチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-(4-メチルフェニル)フェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-(3-メチルフェニル)フェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(2-(2-ヒドロキシエトキシ)-5-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(2-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-(4-メチルフェニル)-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-(2-メチルフェニル)-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-2-オン
等が挙げられる。
【0013】
本発明の上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、その製造方法については、特に制限はなく、好ましくは、下記一般式(5)で表されるN-フェニルイサチン化合物と下記一般式(6)で表されるフェニルフェノール化合物を原料とし、これらを酸触媒の存在下に反応させることにより下記一般式(7)で表されるインドリン骨格を有するビスフェノール化合物を得、得られたビスフェノール化合物と、アルキレンカーボネート類、アルキレンオキシド類およびハロゲン化アルコール類のいずれかと反応させて得ることができる。
【化5】
(式中、R
3、nは一般式(1)のそれと同じである。)
R
3、nの好ましい例や具体例も一般式(1)のそれと同じである。
このような上記一般式(5)で表されるN―フェニルイサチン化合物としては、具体的には、例えば
1-フェニル-1H-インドール-2,3-ジオン
1-(4-メチルフェニル)-1H-インドール-2,3-ジオン
1-(2-メチルフェニル)-1H-インドール-2,3-ジオン
1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-2,3-ジオン
等が挙げられる。
また、
【化6】
(式中、R
1、R
2、mは一般式(1)のそれと同じである。)
R
1、R
2、mの好ましい例や具体例も一般式(1)のそれと同じである。
このような上記一般式(6)で表されるフェニルフェノール化合物としては、具体的には、例えば
2-フェニルフェノール
6-メチル-2-フェニルフェノール
6-エチル-2-フェニルフェノール
2,6-ジフェニルフェノール
5,6-ジメチル-2-フェニルフェノール
3,6-ジメチル-2-フェニルフェノール
2-(4-メチルフェニル)フェノール
2-(3-メチルフェニル)フェノール
等が挙げられる。
また、
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、nは一般式(1)のそれと同じである。)
R
1、R
2、R
3、m、nに関する好ましい例や具体例も式(1)のそれと同じである。
【0014】
上記一般式(7)で表されるビスフェノール化合物としては、下記一般式(8)で表されるビスフェノール化合物が好ましい。
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、nは一般式(1)のそれと同じである。)
R
1、R
2、R
3、m、nに関する好ましい例や具体例も式(1)のそれと同じである。
このような上記一般式(8)で表されるビスフェノール化合物としては、具体的には、例えば
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
【化9】
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-5-メチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(5-エチル-4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-5,6-ジメチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-(4-メチルフェニル)フェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-(3-メチルフェニル)フェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(2-ヒドロキシ-5-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(2-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-(4-メチルフェニル)-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-(2-メチルフェニル)-1H-インドール-2-オン
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-2-オン
等が挙げられる。
【0015】
また、上記アルキレンカーボネート類は好ましくは下記一般式(10)で表される。
【化10】
(式中、R
4は一般式(3)のそれと同じである。)
R
4に関する好ましい例や具体例も一般式(3)のそれと同じである。
このような上記一般式(10)で表されるアルキレンカーボネート類としては、具体的には、例えば
エチレンカーボネート
プロピレンカーボネート
1,2-ブチレンカーボネート
等が挙げられる。
また、上記アルキレンオキシド類は好ましくは下記一般式(11)で表される。
【化11】
(式中、R
4は一般式(3)のそれと同じである。)
R
4に関する好ましい例や具体例も一般式(3)のそれと同じである。
このような上記一般式(11)で表されるアルキレンオキシド類としては、具体的には、例えば
エチレンオキシド
プロピレンオキシド
1,2-ブチレンオキシド
等が挙げられる。
また、上記ハロゲン化アルコール類は下記一般式(12)で表される。
【化12】
(式中、Rは一般式(1)のそれと同じであり、Xはハロゲン原子を示し、ただし、Xはヒドロキシ基が置換した炭素原子に置換しない。)
Rに関する好ましい例や具体例も一般式(1)のそれと同じである。
このような上記一般式(12)で表されるハロゲン化アルコール類としては、具体的には、例えば
2-クロロエタノール
2-ブロモエタノール
2-クロロ-1-メチルエタノール
2-ブロモ-1-メチルエタノール
2-クロロ-2-メチルエタノール
等が挙げられる。
【0016】
本発明のジヒドロキシ化合物の製造方法は特に限定されないが、一例として縮合反応により前記した一般式(7)で表されるビスフェノール化合物を合成し、一般式(10)で表されるアルキレンカーボネート類を用いて一般式(1)のジヒドロキシ化合物を製造する方法について詳しく説明する。
縮合反応は、上記の一般式(5)で表されるN-フェニルイサチン化合物と一般式(6)で表されるフェニルフェノール化合物を、通常酸触媒の存在下に反応させて行う。まず、N-フェニルイサチン化合物とフェニルフェノール化合物を酸触媒の存在下に反応させ、得られた反応混合物をアルカリで中和した後、公知の方法に従い、晶析、ろ過して、目的物を得る。
反応に際して、N-フェニルイサチン化合物に対するフェニルフェノール化合物の仕込みモル比は、理論値(2.0)以上であれば、特に限定されるものではないが、通常、2.5倍モル量以上、好ましくは、2.5~20倍モル量の範囲、特に好ましくは3~10倍モル量の範囲で用いられる。
酸触媒としては、例えば、塩酸、塩化水素ガス、60~98%硫酸、85%リン酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、蟻酸、トリクロロ酢酸又はトリフルオロ酢酸等の有機酸、ヘテロポリ酸等の固体酸等を挙げることができる。好ましくは 塩化水素ガスである。このような酸触媒の使用量は反応条件によって好適な量は異なるが、例えば塩化水素ガスの場合は、反応系の空気を窒素ガス等の不活性ガスで置換した後、塩化水素ガスを吹き込み、反応容器内の気相中の塩化水素ガス濃度を75~100容量%とし、反応液中の塩化水素濃度を飽和濃度にするのがよい。35%塩酸の場合はフェニルフェノール化合物100重量部に対して、5~70重量部の範囲、好ましくは、10~40重量部の範囲、より好ましくは20~30重量部の範囲で用いられる。
反応に際し、酸触媒と共に必要に応じて助触媒を用いてもよい。例えば、塩化水素ガスを触媒として用いる場合、助触媒としてチオール類を用いることによって、反応速度を加速させることができる。このようなチオール類としては、アルキルメルカプタン類やメルカプトカルボン酸が挙げられ、好ましくは、炭素原子数1~12のアルキルメルカプタン類や炭素原子数1~12のメルカプトカルボン酸類であり、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ラウリルメルカプタン等やそれらのナトリウム塩等のようなアルカリ金属塩、チオ酢酸、β-メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。また、これらは単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。
助触媒としてのチオール類の使用量は、原料のN-フェニルイサチン化合物に対し通常1~30モル%の範囲、好ましくは2~10モル%の範囲で用いられる。
【0017】
また、反応に際して反応溶媒は、原料のN-フェニルイサチン化合物とフェニルフェノール化合物の融点が低く、操作性に問題がなければ、溶媒を使用する必要はないが、工業的生産時の操作性や反応速度の向上などの理由で、使用してもよい。反応溶媒としては、反応温度において反応器から留出せず、反応に不活性であれば特に制限はないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール等の脂肪族アルコール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類又はこれらの混合物が挙げられる。これらのうち、脂肪族アルコールが好ましく用いられる。
また、フェニルフェノール化合物の凝固点を下げ酸触媒の反応を促進するため、必要に応じて少量の水を添加してもよい。特に酸触媒が塩化水素ガスの場合は、水は触媒の塩化水素ガスの吸収を促進する理由で好ましい。水を添加する場合その添加量は、フェニルフェノール化合物100重量部に対し、0.5~5.0重量部の範囲が好ましい。
反応温度は、使用する触媒等の条件により異なるが、通常10~60℃、好ましくは25~50℃の範囲である。反応圧力は、通常、常圧下で行われるが、用いてもよい有機溶媒の沸点によっては、反応温度が前記範囲内になるように、加圧又は減圧下で行ってもよい。このような条件下で反応を行えば、反応は、通常1~30時間程度で終了する。
反応の終点は、液体クロマトグラフィー又はガスクロマトグラフィー分析にて確認することができる。未反応のN-フェニルイサチン化合物が消失し、目的物の増加が認められなくなった時点を反応の終点とするのが好ましい。
フェニルフェノール化合物に対する反応収率は、通常75~95モル%程度である。
反応終了後、得られた反応混合物に、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液を加えて酸触媒を中和して、本発明に係る一般式(7)で表されるビスフェノール化合物を含む反応終了混合液を得る。
該反応終了混合物から目的物を分離精製する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、中和した反応終了混合液をそのまま又は一旦加熱して均一の溶液とした後、冷却するか、もしくはメタノール等の晶析溶媒を加えた後、冷却して、結晶を析出させ、析出結晶をろ別することで、粗製又は高純度の目的物を得ることができる。
このようにして得られたビスフェノール化合物は、必要に応じて、さらに精製して高純度品としてもよい。特にポリカーボネートの原料ジヒドロキシフェノールとして用いる場合は高純度品とするのが好ましい。例えば、上記得られた目的物の結晶を、再度、適宜の溶媒、例えばトルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等の脂肪族ケトン溶媒等の溶媒に溶解し、冷却するかもしくはメタノール、水等の晶析溶媒を加えて再度冷却、晶析し、ろ別、乾燥する。または、上記晶析操作の代わりに反応終了後、反応終了混合物から反応溶媒等を減圧下に濃縮し、その残渣をカラムクロマトグラフィー等により精製することで目的物の高純度品を得ることもできる。
本発明の上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の、上記の好ましい製造方法以外の製造方法例としては、下記一般式(5)で表されるN-フェニルイサチン化合物とフェニルフェノキシアルコール類を酸触媒の存在下に反応させて得る方法が挙げられる。
【0018】
次いで、アルキレンカーボネート類を用いて一般式(1)のジヒドロキシ化合物を製造するヒドロキシアルキル化について説明する。
ヒドロキシアルキル化は、通常塩基触媒の存在下にて行う。塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ触媒、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウムハライド等を挙げることができ、また、これらの塩基触媒は単独または二種類以上を組み合わせて使用することができる。このような塩基触媒の使用量は反応条件によって好適な量が異なるが、ビスフェノール化合物1モルに対して、通常0.005~0.5モルの範囲、好ましくは0.01~0.4モルの範囲で用いられる。
反応に際して、ビスフェノール化合物に対するアルキレンカーボネート類の使用量は、ビスフェノール化合物1モルに対して、通常2~10モルの範囲、好ましくは2.5~5モルの範囲である。反応温度は、通常100~150℃、好ましくは120~130℃の範囲である。
また、反応に際して通常反応溶媒を使用して行う。反応溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、1-ブタノール、2-ブタノール、エチレングリコール等の脂肪族アルコール、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒又はこれらの混合物が挙げられる。
これらの反応溶媒の使用量は、ビスフェノール化合物100重量部に対して、好ましくは50~300重量部の範囲であり、より好ましくは100~200重量部の範囲である。
このヒドロキシアルキル化の方法は特に限定されず、公知の方法を使用できるが、例えば、反応原料、触媒、反応溶媒等を一括で反応容器に仕込んで、反応温度まで昇温してもよく、また、ビスフェノール化合物、反応溶媒、触媒の混合液を所定の温度に昇温し、そこにアルキレンカーボネート類を滴下してもよい。
反応終了後、反応終了混合液からは、公知の精製方法により粗結晶、又は高純度品として目的物を取り出すことができる。例えば、反応終了後、反応終了混合物に水を加えて過剰のアルキレンカーボネートを水により分解する。アルカリ触媒を用いた場合には、酸を加えて中和してもよい。次に必要に応じて水と分離する溶媒を加えた後、油層を水洗し、触媒もしくは中和塩を除去する。その後、油層を必要に応じて濃縮して冷却するか、又は油層を濃縮した後、溶媒を加えて溶解してから冷却して晶析、ろ過することによって目的物を得ることができる。再結晶すればさらに高純度の目的物を得ることができる。
【0019】
次に、本発明のジヒドロキシ化合物の用途について説明する。
まず、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を原料とした、ポリカーボネートについて説明する。
当該ポリカーボネートは、下記一般式(2)で表される。
【化13】
(式中、Rは各々独立して炭素原子数2~6のアルキレン基を示し、R
1は各々独立して炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を示し、R
2は各々独立して水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R
3は炭素原子数1~8のアルキル基又は炭素原子数1~8のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、mは0~2の整数を示し、nは0~2の整数を示し、ただし、mが2の場合、R
1は同一でも異なっていてもよく、nが2の場合、R
3は同一でも異なっていてもよい。)
【0020】
上記一般式(2)において、式中、R、R
1、R
2、R
3で示される置換基の好ましい例や具体例、及びm、nで示される置換数の規定並びに好ましい置換位置は一般式(1)のそれと同じである。
従って、上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートにおいて好ましい繰り返し単位を含むポリカーボネートは下記一般式(13)で表される。
【化14】
(式中、R
1、R
2、R
3、m、nは一般式(2)のそれと同じであり、R
4は一般式(3)のそれと同じである。)
R
1、R
2、R
3、m、nに関する好ましい例や具体例は、一般式(1)のそれと同じであり、R
4に関する好ましい例や具体例は一般式(3)のそれと同じである。
【0021】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートは、その製造方法については特に制限はなく、従来公知の任意の方法を用いることができる。具体的には、界面重合法、溶融エステル交換法、固相重合法、環状カーボネート化合物の開環重合法、ピリジン法などが挙げられるが、中でも、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を原料とする界面重合法、溶融エステル交換法が好ましく、特に、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステル類とをエステル交換
触媒の存在下に溶融エステル交換反応により製造することが好ましい。
【0022】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む芳香族ポリカーボネートの原料として用いられるジヒドロキシ化合物は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外の、例えばビスフェノールA等の他のジヒドロキシ化合物も共重合原料として用いることができる。
共重合原料を用いる場合、全ジヒドロキシ化合物中、主として用いられる上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物共重合原料の割合は、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、好ましくは0~20モル%の範囲、より好ましくは0~10モル%の範囲、さらに好ましくは0~5モル%の範囲、特に好ましくは0~2モル%の範囲である。
上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートを溶融重縮合で製造する溶融エステル交換法についてさらに詳しく説明する。ここで、溶融エステル交換法としては従来公知の方法を用いることができる。
例えば、原料ジヒドロキシ化合物が3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オンであり、原料炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートである場合の、上記芳香族ポリカーボネートを得る反応を下記に反応式で示す。
【化15】
溶融エステル交換反応は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを触媒の存在下、炭酸ジエステルと常圧または減圧不活性ガス雰囲気で加熱しながら撹拌し、生成するフェノールを留出させることで行われる。
ジヒドロキシ化合物と反応させる炭酸ジエステルとしては、具体的には、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート等の炭酸ジアリール、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等の炭酸ジアルキル、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネート等の炭酸アルキルアリール又はジビニルカーボネート、ジイソプロペニルカーボネート、ジプロペニルカーボネート等の炭酸ジアルケニル等が挙げられる。好ましくは炭酸ジアリールであり、特に好ましいのはジフェニルカーボネートである。
【0023】
通常、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合比率や、エステル交換反応時の減圧度を調整して、所望の分子量および末端水酸基量を調整した芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
上記ポリカーボネートを得るジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合比率は、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを通常0.5~1.5モル倍、好ましくは0.6~1.2モル倍用いる。
溶融エステル交換反応に際し、反応速度を高めるため、必要に応じてエステル交換触媒が用いられる。
エステル交換触媒としては、特に制限はなく、例えばリチウム、ナトリウム、セシウムの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物、アルコラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ金属化合物等のアルカリ金属化合物;ベリリウム、マグネシウム等の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物、アルコラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ土類金属化合物等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の塩基性ホウ素化合物;トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン等の3価のリン化合物、又は、これらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等の塩基性リン化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物又は4-アミノピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、アミノキノリン等アミン系化合物等の公知のエステル交換触媒を用いることができる。中でも、アルカリ金属化合物が好ましく、特に炭酸セシウム、水酸化セシウム等のセシウム化合物が好ましい。
触媒の使用量は、触媒残留物が生成ポリカーボネートの品質上の問題が生じない範囲で用いられ、触媒の種類により好適な添加量が異なるので一概には言えないが概略、例えば、上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物1モルに対して通常0.05~100μモル、好ましくは0.08~50μモル、より好ましくは0.1~20μモル、さらに好ましくは0.1~5μモルである。触媒はそのままで添加してもよいし、溶媒に溶解して添加してもよく、溶媒としては例えば、水、フェノール等の反応に影響しないものが好ましい。
溶融エステル交換反応の反応条件は、温度は通常120~360℃の範囲、好ましくは150~280℃の範囲、より好ましくは180~270℃の範囲である。反応温度が低すぎるとエステル交換反応が進行せず、反応温度が高いと分解反応等の副反応が進行するので好ましくない。反応は好ましくは減圧下で行われ、反応圧力は反応温度において原料である炭酸ジエステルが系外に留出せず、副生するフェノールが留出する圧力であることが好ましい。このような反応条件において、反応は通常0.5~10時間程度で完結する。
【0024】
このようにして得られたポリカーボネートを含む反応終了物を、次いで、必要に応じて低分子量成分の分離低減処理を行った後、乾燥工程に付すことで、上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含むポリカーボネートが得られる。
上記反応工程により得られたポリカーボネートを含む反応終了物は、通常、反応温度近傍では溶融状態にある透明な粘稠物であり、常温近傍では固形体である。
必要に応じて行われてもよい低分子量成分の分離低減処理は、例えば特開平7-192310号公報記載のように、ポリカーボネートを適宜の良溶媒に溶解し、その後メタノール等の貧溶媒中でポリカーボネートを沈殿し、乾燥することにより、低分子量成分が低減された粒子状、粉状、フレーク状等の上記芳香族ポリカーボネートを得ることができる。
また、高分子量ポリカーボネートを得るためにより好ましい方法としては、特開平3-223330号公報、WO00/18822公報記載のように該反応において予備重合を行い(第一工程)ポリカーボネートオリゴマーを得、該ポリカーボネートオリゴマーを触媒の存在下に固相重合又は膨潤固相重合させる(第二工程)ことにより、高分子量ポリカーボネートを得ることができる。
【0025】
上記第一工程における予備重合は、溶融エステル交換反応により行われ、ジヒドロキシ化合物およびジフェニルカーボネートを、触媒存在下、フェノールを留出させながら温度120~360℃、好ましくは150~280℃、特に好ましくは180~270℃において、0.5~10時間反応させることによりポリカーボネートオリゴマーを得る。上記第一工程において得られるポリカーボネートオリゴマーは、第二工程における操作性の面から公知の方法に従いフレーク状、粉末又は粒子等の固形体とするのが好ましい。
第二工程においては、第一工程で得られたポリカーボネートオリゴマーに、減圧下のもとで必要に応じて4級ホスホニウム塩等、適宜前述のエステル交換触媒を追加添加し、不活性ガスを導入して、撹拌下に、ポリカーボネートのガラス転移温度以上で、且つ固相重合中の結晶化オリゴマーが溶融しない固相状態又は膨潤固相状態で残余のフェノールを留出させつつ、反応させることにより、高分子量ポリカーボネートを得る。
第一工程の反応と第二工程の反応は、別々に行っても、また、連続して行っても良い。
ここで、ポリカーボネートオリゴマーとは通常、例えば重量平均分子量が500~15000程度である。また、高分子量ポリカーボネートとは通常、例えば重量平均分子量が15000~100000程度である。しかし、本発明のジヒドロキシ化合物を原料とするポリカーボネートはこのような分子量には限定されない。
上記の様にして得られるポリカーボネートは、高分子量ポリカーボネートとすることで、透明性、耐熱性、機械特性、耐衝撃性、流動性等に優れ、光ディスク、スマートフォン等に用いられる光学レンズ、フラットパネルディスプレイ等に用いられる光学フィルムなどの光学用途や、エンジニアリングプラスチックとして自動車分野、電気・電子分野、各種容器等、様々な分野での使用が期待できる。
また、ポリカーボネートオリゴマーとしては、各種重合方法により、高分子量ポリカーボネートを製造する際の原料として使用することができるだけでなく、表面改質剤、難燃剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、可塑剤、樹脂アロイ用溶化剤などのポリマー改質剤等、添加剤としても幅広く利用することができる。
更に、その他の用途として、本発明のジヒドロキシ化合物は、末端のヒドロキシ基を利用して、ポリカーボネート以外にも、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ノボラック、レゾール等の樹脂原料、その他感光性組成物原料、レジスト添加剤、顕色剤、酸化防止剤としての利用も期待できる。
特に、本発明のジヒドロキシ化合物をアクリル酸等と反応させて得られるジアクリレート等のアクリルモノマーやアクリル樹脂原料としての利用、及びそれらを用いた光学ハードコーティング材料としての使用が期待できる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例における軟化点、屈折率、純度は以下の方法により測定した。
[分析方法]
1.軟化点測定
装置 :株式会社島津製作所製 DSC-60 DIFFERENTIAL SCANNING CALORIMETER
昇温条件 :10℃/分 (30℃→200℃)
雰囲気ガス:窒素ガス(流量:50ml/分)
測定方法 :
上記昇温条件で1回目の測定を行い、その吸熱ピークから融点を測定した。
その後、同じ試料を室温まで冷却し、同条件で2回目の測定を行い、その吸熱ピークを軟化点とした。
2.屈折率測定
装置 :京都電子工業株式会社製 Refractometer RA-500N
測定方法:
濃度10、15、30%のTHF溶液(THF屈折率1.40)を調整し、その溶液の屈折率から測定化合物の屈折率を外挿法により算出した。
3.純度測定
装置 :株式会社島津製作所製 CLASS-LC10
ポンプ :LC-10ATvp
カラムオーブン :CTO-10Avp
検出器 :SPD-10Avp
カラム :Shim-pack CLC-ODS 内径6mm、長さ150mm
オーブン温度 :50℃
流量 :1.0ml/min
移動相 :(A)アセトニトリル、(B)0.2vol%酢酸水
グラジエント条件:(A)体積%(分析開始からの時間)
60%(0min)→60%(20min)→100%(40min)→100%(50min)
試料注入量 :20μl
検出波長 :280nm
【0027】
<参考例1>
3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オンの製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに2-フェニルフェノール680.4g(4.00モル)、1-フェニル-1H-インドール-2,3-ジオン223g(1.00モル)を仕込み、反応容器を窒素置換した後、40℃で塩化水素ガスを吹込んで系内を置換した。その後、15%メチルメルカプタンナトリウム水溶液22.3g(メチルメルカプタンナトリウムとして0.05モル)を添加し、40℃で19時間撹拌した。反応終了後、16%水酸化ナトリウム水溶液409.4g(水酸化ナトリウムとして1.64モル)を加えて中和した。得られた溶液を78℃まで昇温した後、メタノール612.0gを添加し、35℃まで冷却した。析出した結晶をろ別して白色結晶691.7gを得た。
得られた白色結晶にトルエン2026.2g、メチルエチルケトン675.4gを加え溶解した後、水675.4gを添加し80℃で撹拌、静置後水層を抜き取る水洗操作を2回繰り返した。油層を107℃まで昇温して、溶媒919.3gを蒸留により除去した後、25℃まで冷却し、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を減圧下で乾燥することにより、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン417.6gを得た。
純度 99.0%(高速液体クロマトグラフィー面積%)
収率 77%(対1-フェニル-1H-インドール-2,3-ジオン)
融点 180℃/218℃(示差走査熱量分析)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒DMSO-D6、標準TMS)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数)
6.8ppm(d, 1H), 7.0ppm(d, 2H), 7.1ppm(dd, 2H), 7.2ppm(m, 3H), 7.2~7.3ppm(m, 3H), 7.4ppm(t, 4H), 7.4~7.5ppm(m, 8H), 7.5~7.6ppm(m, 2H), 9.7ppm(s, 2H)
【0028】
<実施例1>
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オンの製造
温度計、撹拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに参考例1で得られた3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン208.5g(0.38モル)、エチレンカーボネート97.6g(1.11モル)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロミド1.23g(0.004モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液2.23g(水酸化ナトリウムとして0.03モル)、1-ブタノール312.7gを仕込み、反応容器を窒素置換した後、120℃で15時間撹拌した。反応終了後、水121.3gを添加し、95℃で6時間、105℃で1時間撹拌した。次いで酢酸1.0g(0.22モル)を添加し、水層のpHが5~6となるように調整した。さらに油層に水を添加し、80℃で撹拌した後水層を抜き取り、1-ブタノール728.6gを添加した後、蒸留により、留分615.6gを留出させた。得られた溶液を25℃まで冷却し、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を乾燥することにより、3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)-1-フェニル-1H-インドール-2-オン209.7gを得た。
純度 99.2%(高速液体クロマトグラフィー面積%)
収率 87%(対ビスフェノール)
融点 185℃(示差走査熱量分析)
軟化点 93℃(示差走査熱量分析)
屈折率(nD20)1.63
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒DMSO-D6、標準TMS)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数)
3.7ppm(m, 4H), 4.1ppm(t, 4H), 4.8ppm(m, 2H), 6.8ppm(d, 1H), 7.1~7.2ppm(m, 3H), 7.2~7.3ppm(m, 7H), 7.4ppm(t, 4H), 7.5ppm(m, 8H), 7.6ppm(m, 8H)
【0029】
<比較例1>
3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-フェニルフタルイミジンの製造
(工程1)
温度計、撹拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコにアニリン902.5g(9.70モル)を仕込み、反応容器を窒素置換した後、85~95℃を保ちながらメタンスルホン酸192.7gを系内に滴下した。その後、90~100℃でフェノールフタレイン385.4g(1.21モル)を添加し、添加終了後、147~153℃を保ちながら21.5時間撹拌した。反応終了後、冷却して110℃でトルエン1480.6gを、90℃で水1480.6gを添加した後、30℃まで冷却して析出した結晶をろ別することにより、粗結晶481.6gを得た。
上記で得られた粗結晶にトルエン913.4g、メタノール228.4gを添加し、71℃で5時間撹拌した後30℃まで冷却し、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を減圧下、乾燥することにより、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルフタルイミジン347.2gを得た。
純度 99.6%(高速液体クロマトグラフィー面積%)
収率 75%(対フェノールフタレイン)
融点 291.5℃(示差走査熱量分析)
(工程2)
温度計、撹拌機、冷却管を備えた四つ口フラスコに工程1で得られた3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルフタルイミジン30.0g(0.076モル)、エチレンカーボネート19.5g(0.22モル)、48%水酸化カリウム水溶液0.44g(水酸化カリウムとして0.0038モル)、1-ブタノール45.0gを仕込み、反応容器を窒素置換した後、115~118℃で11時間撹拌した。反応終了後、水2.7gを添加し、106~109℃で3時間撹拌した。次いで10%酢酸2.2gを添加し、水層のpHが4~5となるように調整した。得られた油層にメチルイソブチルケトンを添加し、さらに水を添加して80~85℃で撹拌した後水層を抜き取る操作を2回行った。得られた油層を125℃まで昇温し、蒸留により留分50.0gを留出させた。得られた溶液にアセトン及び水を添加した後30℃まで冷却し、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を乾燥することにより、3,3-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-フェニルフタルイミジン28.5gを得た。
純度 96.7%(高速液体クロマトグラフィー面積%)
収率 78%(対3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルフタルイミジン)
融点 155℃(示差走査熱量分析)
軟化点 68℃(示差走査熱量分析)
屈折率(nD20) 1.60
【0030】
上記実施例1で得られた化合物と比較例1で得られた化合物との融点、軟化点、屈折率について、それぞれ表1に記載する。
【表1】
本発明による実施例1の化合物は公知の比較例1の化合物と比較して、耐熱性(軟化点温度)が高く、より高屈折率を有しているため、光学材料用途のポリカーボネート原料として有用であることを確認できた。