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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ブレーキディスク
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20230424BHJP
   B62L 1/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
F16D65/12 U
F16D65/12 S
F16D65/12 Q
F16D65/12 R
B62L1/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019054376
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153475
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-07-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲史
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/042247(WO,A1)
【文献】特開2016-038029(JP,A)
【文献】特開2009-197853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B62L 1/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキディスクであって、
ブレーキパッドの摺動部エリアとなる外周部であって、該外周部は、その外周に亘って凹部と凸部とが繰り返し形成された波形部を有する、前記外周部を備え、
前記外周部において周方向及び径方向の熱容量分布を実質的に均一とするため、
前記外周部は、
周方向に沿って等角に各々区分けされた前記外周部の複数の周方向区分において、各々の周方向区分の熱容量に対する前記周方向区分の間の熱容量差の比が第1の所定比率以下となり、
径方向に沿って等しい長さに各々区分けされた前記外周部の少なくとも3つの径方向区分において、各々の径方向区分の熱容量に対する前記径方向区分の間の熱容量差の比が第2の所定比率以下となるように形成されており、
前記少なくとも3つの径方向区分の最外側の径方向区分は、前記波形部を包含する径方向長さであり、前記第2の所定比率は、8%である、
ブレーキディスク。
【請求項2】
前記外周部の径方向内側に形成された内周部であって、該内周部は、前記ブレーキパッドの非摺動部エリアとなる、前記内周部を更に備え、
前記外周部と前記内周部との間の境界線をまたいで、クリーニング用の貫通孔が形成されており、該クリーニング用の貫通孔には前記ブレーキパッドの径方向内側縁部が交差可能である、請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記周方向区分の各々は、前記凹部の極小点を通過して径方向に延びる第1の周方向境界線と、前記凸部の極大点を通過して径方向に延びる第2の周方向境界線と、によって画定され、前記第1の所定比率は、25%である、請求項1又は2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
前記ブレーキディスクには、複数の貫通孔が形成されている、請求項1からのいずれか1項に記載のブレーキディスク。
【請求項5】
前記波形部の前記凹部及び前記凸部、及び、前記貫通孔は、前記ブレーキディスクの側面の表面積を増大させて所望の冷却効率を達成するように形成されている、請求項に記載のブレーキディスク。
【請求項6】
前記内周部及び前記外周部は一体に成形されている、請求項2に記載のブレーキディスク。
【請求項7】
前記内周部は、前記外周部に連結手段により連結されている、請求項2に記載のブレーキディスク。
【請求項8】
前記波形部の凹部は、左右非対称に形成されている、請求項1からのいずれか1項に記載のブレーキディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周に亘って凹部と凸部とが繰り返し形成された波形部を有するブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等に用いられるブレーキディスクとして、真円形状のブレーキディスクの他に、外周に亘って凹部と凸部とが繰り返し形成された波形部を有する、所謂「ウェーブディスク」が知られている(下記特許文献1~3、図14のディスクA)。ウェーブディスクは、真円ディスクに比べて意匠の自由度が高く、波形部によりブレーキパッドの摩耗により生じた微量粉末を除去する効果がある。
【0003】
しかし、ウェーブディスクは、真円ディスクに比べ、その複雑な形状から温度むらも大きくなりやすく、ブレーキフィーリングも低下する。
ブレーキディスクの熱容量を大きくすることによってブレーキフィーリングを向上させることも考えられる。この場合、板厚及びディスク材料を従来と同一とすると、ディスクの制動表面及び制動裏面の面積を増加することによって、ディスクの熱容量を増加させることが可能となる。しかし、面積の増大に伴い、ブレーキディスクの重量も増加することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4155301号公報
【文献】特許第4973586号公報
【文献】特開2008-298094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みなされたもので、外周に亘って凹部と凸部とが繰り返し形成された波形部を有するブレーキディスクにおいて、ブレーキフィーリングを向上させることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のブレーキディスクは、ブレーキパッドの摺動部エリアとなる外周部であって、該外周部は、その外周に亘って凹部と凸部とが繰り返し形成された波形部を有する、前記外周部を備え、前記外周部において周方向及び径方向の熱容量分布を実質的に均一とするため、前記外周部は、周方向に沿って等角に各々区分けされた前記外周部の複数の周方向区分において、各々の周方向区分の熱容量に対する前記周方向区分の間の熱容量差の比が第1の所定比率以下となり、径方向に沿って等しい長さに各々区分けされた前記外周部の複数の径方向区分において、各々の径方向区分の熱容量に対する前記径方向区分の間の熱容量差の比が第2の所定比率以下となるように形成されている。ここで、第1の所定の比率及び第2の所定の比率は、外周部において周方向及び径方向の熱容量分布を実質的に均一とするように定められる。
【0007】
好ましい本発明のブレーキディスクは、前記外周部の径方向内側に形成された内周部であって、該内周部は、前記ブレーキパッドの非摺動部エリアとなる、前記内周部を更に備え、前記外周部と前記内周部との間の境界線をまたいで、クリーニング用の貫通孔が形成されており、該クリーニング用の貫通孔には前記ブレーキパッドの径方向内側縁部が交差可能である。
【0008】
好ましくは、前記周方向区分の各々は、前記凹部の極小点を通過して径方向に延びる第1の周方向境界線と、前記凸部の極大点を通過して径方向に延びる第2の周方向境界線と、によって画定され、前記第1の所定比率は、25%である。
【0009】
好ましくは、前記複数の径方向区分は、少なくとも3つの径方向区分であり、最外側の径方向区分は、前記波形部を包含する径方向長さであり、前記第2の所定比率は、8%である。
【0010】
また好ましくは、前記ブレーキディスクには、複数の貫通孔が形成されている。かかる場合、前記波形部の前記凹部及び前記凸部、及び、前記貫通孔は、前記ブレーキディスクの側面の表面積を増大させて所望の冷却効率を達成するように形成されている。
【0011】
前記内周部及び前記外周部は一体に成形されていてもよい。或いは、前記内周部は、前記外周部に連結手段により連結されていてもよい。
前記波形部の凹部は、左右非対称に形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係るブレーキディスクの正面図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るブレーキディスクの背面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るブレーキディスクの斜視図である。
図4図4は、第1の実施形態に係るブレーキディスクの側面図である。
図5図5は、図1のA-A線に沿って取られた、第1の実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
図6図6は、図3に示されたブレーキディスクの一部拡大図である。
図7図7は、第1の実施形態に係るブレーキディスクの周方向区分及び径方向区分を説明するための概略部分図であって、(a)は周方向区分、(b)は径方向区分に関する。
図8図8は、第1の実施形態に係るブレーキディスクと、図14に示される従来ディスクAとの比較を示す概略部分図であって、(a)は、非クリーニング部の有無、(b)は径方向区分の各々の面積と径方向区分の間の最大面積差、(c)は周方向区分の各々の面積と周方向区分の間の最大面積差を示す。
図9図9は、図14に示される従来ディスクA以外の従来ディスク2、3、4との比較を示す概略部分図であって、(a)は、非クリーニング部の有無、(b)は径方向区分の各々の面積と径方向区分の間の最大面積差、(c)は周方向区分の各々の面積と周方向区分の間の最大面積差を示す。
図10図10は、第1の実施形態に係るブレーキディスクと、図14に示される従来ディスクAとの間の、全体の熱容量、周方向の熱容量差、径方向の熱容量差、及び側面の表面積に関する比較を示す概略図である。
図11図11は、従来ディスクAと第1の実施形態に係るディスクとの周方向の温度むらと最高温度を示す温度分布図であって、(a)は従来ディスクA、(b)は第1の実施形態に係るディスクに関する。
図12図12は、本発明の第2の実施形態に係るブレーキディスクの正面図である。
図13図13は、図12のA’―A’線に沿って取られた、第2の実施形態に係るブレーキディスクの断面図である。
図14図14は、従来ディスクAの概略図であって、(a)は従来ディスクAの正面図、(b)は従来ディスクAの斜視図で、摺動部エリアと非摺動部エリアとを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1から図5には、本発明の第1の実施形態に係るブレーキディスク1が示されている。このブレーキディスク1は、自転車や自動二輪車等で用いられるブレーキディスクとして実現したものである。ブレーキディスク1の材料として、例えばアルミニウム、ステンレス、炭素鋼等を用いてもよいが、これらの例に限定されるものではない。図1は、ブレーキディスク1を制動表面17aから見た図、図2は、ブレーキディスク1を制動裏面17bから見た図である。
【0014】
図1から図3に最も良く示されているように、ブレーキディスク1は、制動時に図示しないブレーキパッドが当接されて荷重が作用する外周部2と、外周部2の内側に形成された中央開口部3と、ブレーキディスク1をホイール等の回転体(図示せず)に取り付けるため外周部2から中央開口部3内へと突出する位置に形成された複数の取り付け孔5と、を備えている。
【0015】
外周部2の外縁には、径方向に凹部10aと凸部10bとの繰り返しからなる花びら状の波形部10が形成されており、外周部2は、図示しないブレーキパッドが適用可能であるパッド押圧面を形成する。例えばブレーキパッドは一対のパッドで外周部2を制動表面17a及び制動裏面17bの両面から当接することによってブレーキディスクにブレーキ力を印可することができる。よって、回転伝達時、すなわちブレーキパッドが外周部2に当接してブレーキ力が印可されたとき、ブレーキディスク1の回転方向とは逆方向に外周部2に直接荷重がかけられる。また、パッド押圧面には、波形部10の凸部10bが含まれており、凸部10bの各々が凹部10aを挟んでブレーキパッドに順次当たることにより、ブレーキパッドの摩耗により生じた微量粉末を除去することが可能となる。
【0016】
凹部10aは、2つの側辺20、21から形成されており、本実施形態では凹部10aの形状が非対称に形成されている。非対称の形状として、例えば、側辺20の接線が径方向に対する角度は、45°以下であり、側辺21の接線が径方向に対する角度は、45°より大きい。なお、本発明では、波形部10の形状は、図示の例に限定されるものではなく、任意好適に変更可能である。例えば、凹部10aが、対称的なもの、凹部10a全体が円弧状に形成されているもの、3つ以上の側辺から形成されているもの等、様々な形態が含まれる。凸部10bに関しても図示の例に限定されないことは勿論である。
【0017】
また、外周部2には、多数の貫通孔11も形成されており、表面積の増大による放熱性の向上、軽量化、慣性モーメントの低減による制動性の向上、摩耗屑及び泥除け性の向上が図られている。
【0018】
図6には、凹部10aと凸部10bとからなる波形部の一部拡大図が示されている。図示されるように、外周部2の径方向内側には、内周部32が形成されている。外周部2は、図示しないブレーキパッドの摺動部エリア、すなわち、その上をブレーキパッドが摺動しながら当接する領域となり、内周部32は、ブレーキパッドの非摺動部エリア、すなわち、その上をブレーキパッドが当接しない領域となる。外周部2と内周部32との境界線を30で表すと、外周部2に形成されている貫通孔11に加えて、境界線30をまたぐように貫通孔36、38が形成されており、該貫通孔36、38には、ブレーキパッドの径方向内側縁部が交差可能となる。貫通孔36、38は、ブレーキパッドの径方向外側縁部が交差可能となる凹部10a、凸部10bと同様に、ブレーキパッドの摩耗により生じた微量粉末を除去するクリーニング部として機能する。
【0019】
なお、制動表面17aと外周端面18との間の境界にある外周縁部には、面取り部40が形成され、制動裏面17bと外周端面18との間の境界にある外周縁部には、面取り部41が形成されている。
【0020】
次に、ブレーキディスク1の内周部32について説明する。なお、以下で示す内周部32は、主として外周部2に特徴を有する本発明の内周部の一例であり、本発明の内周部を当該例に限定するものではない。
【0021】
図1から図5の例では、内周部32において、取り付け孔5は、6個設けられている。図の例では、6個の取り付け孔5は、隣接する2つの取り付け孔5,5がブレーキディスクの中心に対してなす中心角(分割角度)が実質的に等しい等分角度となるように周方向に分布している。取り付け孔5が6個の場合、等分角度は、360°/6=60°となる。取り付け孔5の配置は、ブレーキディスク1が取り付けられるホイール等の回転体の仕様に応じて決定されるため、必ずしも分割角度の各々が等しくなる等分角度であるとは限らない。例えば、ホイールの仕様に応じて、分割角度が50°、55°、60°、65°,...というように不均等(一部均等を含んでもよい)であっても本発明を適用することができる。
【0022】
また、図1から図5の例では、取り付け孔5は、ブレーキディスクの中心Oから径方向に等距離の位置に形成されている。しかし、この点に関しても、取り付け孔5の配置は、ホイール等の仕様に応じて決定されるため、必ずしも取り付け孔5の中心Oからの径方向距離が等しくなるとは限らず、異なっていてもよく(一部等半径を含んでもよい)、この場合でも、本発明を適用することができる。
【0023】
各々の取り付け孔5は、外周部2から中央開口部3内へと延在する第1の桟部6と、外周部2から中央開口部3内へと延在する第2の桟部7とが交差した領域8に形成されている。第1の桟部6、第2の桟部7及び交差した領域8は、外周部2と共に貫通孔としての周開口部9を各々形成している。交差した領域8には、第1の桟部6及び第2の桟部7のみが交差しており、これら桟部以外には、交差した領域8に交差する部分は存在していない。なお、本発明の内周部32において、第1の桟部と第2の桟部とが対称的に形成されてもよく、また、上記のように2つの桟部ではなく、外周部2より径方向内側に延びる1つの桟部を設け、その桟部に取り付け孔5を形成してもよい。或いは、3つ以上の桟部を設けてもよい。後者の場合、例えば、それらの交差部に取り付け孔を形成してもよい。
【0024】
図4の側面図から明らかなように、ブレーキディスク1は、外周部2、第1の桟部6、第2の桟部7、交差した領域8及び波形部10が所定の厚さ範囲に収まるように、プレート状に形成されている。
【0025】
ブレーキディスク1は、図2に示される制動裏面17bをホイールに押し当て、図1に示される制動表面17aから取り付け孔5にボルトを通してホイールのネジ孔に螺合することによって、ホイールに取り付けられる。そのため、図1図2及び図5に示されるように、取り付け孔5は、表側面において、ボルトの頭が着座できるように、皿状に凹んだ部分12(図3)を有する。取り付け孔5は、この例に限定されず、例えば、円柱状の貫通孔であっても、或いは、皿状の部分が断面矩形であってもよい。
【0026】
第1の実施形態に係るブレーキディスク1は、外周部2において周方向及び径方向の熱容量分布を実質的に均一とするように、波形部10の凹部10a、凸部10bの形状及びサイズ、貫通孔11の数及びサイズ、周開口部9のサイズが定められている。さらには、波形部10の凹部10a、凸部10b、貫通孔11、周開口部9は、ブレーキディスクの側面の表面積を増大させて所望の冷却効率を達成するように形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態でいう「周方向及び径方向の実質的に均一な熱容量分布」の定義について図7を用いて説明する。
図7(a)、(b)には、外周部2の一区画(3つの凸部10bと2つの凹部10a分に相当する区画)が示されている。勿論、外周部2の全周に亘って、図示のような区分けが適用されることは言うまでもない。
【0028】
図7(a)には、周方向に沿って等角に各々区分けされた外周部2の周方向区分c1、c2、c3、c4、c5、c6が示され、図7(b)には、径方向に沿って等しい長さに各々区分けされた外周部2の径方向区分r1、r2、r3が示されている。
【0029】
周方向区分c1、c2、c3、c4、c5、c6は、ブレーキディスクの中心Oから径方向に等角度で引かれた仮想の周方向境界線b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7によって便宜的に区分けされている。これらの周方向境界線のうちb1、b3、b5、b7は、凹部10aの極小点を通過して径方向に延び、周方向境界線b2、b4、b6は、凸部10bの極大点を通過して径方向に延びるように設定される。なお、図7(a)に示した周方向境界線b1,...は、あくまで例示の仮想線であり、これ以外の分割の仕方も本実施形態に含まれる。好ましい周方向の分割数としては、30分割~45分割であり、上記例では、周方向に10度づつ36分割している。
【0030】
周方向に均一な熱容量分布は、周方向区分c1、...の間の熱容量差が小さくなることであるから、「周方向に実質的に均一な熱容量分布」とは、周方向区分c1、...の各々の熱容量に対する周方向区分の間の熱容量差の比が第1の所定比率以下となることであると定義することができる。
【0031】
一方、径方向区分r1、r2、r3は、外周部2の最外側縁から、外周部2と内周部32との間の境界線30との間を2つの径方向境界線d1、d2によって径方向に等しい長さで各々等分されたものである。図7(b)に示した径方向境界線d1,d2は、あくまで例示の仮想線であり、これ以外の分割の仕方も本実施形態に含まれる。好ましくは、図7(b)に示されるように、径方向区分は、少なくとも3つの径方向区分であり、最外側の径方向区分r1は、波形部10を包含する径方向長さであるのがよい。
【0032】
径方向に均一な熱容量分布は、径方向区分r1、r2、r3の間の熱容量差が小さくなることであるから、「径方向に実質的に均一な熱容量分布」とは、径方向区分r1、r2、r3の各々の熱容量に対する周方向区分の間の熱容量差の比が第2の所定比率以下となることであると定義することができる。
【0033】
本実施形態に係るブレーキディスク1の上記した特徴を明確にするため、従来ディスクAを図14(a)、(b)を用いて説明する。
図14(a)、(b)には、第1の実施形態に係るブレーキディスク1と比較するための従来ディスクAが示されている。図14(a)に示されるように、従来ディスクAの外周部52は、外周に亘って凹部60aと凸部60bとが繰り返し形成された波形部60と、貫通孔61、62とを有する。外周部52の径方向内側には、径方向に対してより小さい傾斜角度で中央開口部53へと延在する第1の桟部56と、径方向に対してより大きい傾斜角度で中央開口部53へと延在する第2の桟部57とが形成され、第1の桟部56と第2の桟部57とが交差した領域に取り付け孔55が各々形成されている。第1の桟部56、第2の桟部57及び交差した領域は、外周部52と共に周開口部59を各々形成している。
【0034】
また、図14(b)に示されるように、従来ディスクAの外周部52は、図示しないブレーキパッドの摺動部エリア、すなわち、その上をブレーキパッドが摺動しながら当接する領域となり、第1の桟部56と第2の桟部57とで構成される内周部は、ブレーキパッドの非摺動部エリア、すなわち、その上をブレーキパッドが当接しない領域となる。外周部52と内周部との境界線を63で表すと、従来ディスクAには、境界線63をまたぐ貫通孔は形成されていない。これに対して、本実施形態に係るブレーキディスク1は、外周部2と内周部32との境界線30をまたぐクリーニング用の貫通孔36、38を備えている。
【0035】
図8には、本実施形態に係るブレーキディスク1と従来ディスクAとの比較が示されている。
図8(a)に示されるように、ブレーキディスク1は、外周部2の最外側に、ブレーキパッドのクリーニング部として機能する波形部を備え、さらに、外周部と内周部との境界線には、当該境界線をまたぐようにクリーニング用貫通孔を備えており、非クリーニング部が無いディスクとなっている。これに対して、従来ディスクAは、外周部2の最外側に、ブレーキパッドのクリーニング部として機能する波形部を備えているが、図14(b)で上述したように、摺動部エリアと非摺動部エリアとの境界線に、クリーニング部が形成されていない。よって、当該境界線上に非クリーニング部(太線)がある状態となっている。
【0036】
また、図8(b)には、本ブレーキディスク1及び従来ディスクAにおける、径方向区分の各々の面積と、径方向区分の間の最大面積差とが示されている。同図に示されるように、従来ディスクAの径方向区分r1’、r2’、r3’の各面積は、522mm、750mm、855mmであり、径方向区分の間の最大面積差(r3’の面積-r1’の面積)は、333mmとなる。これに対して、本ブレーキディスク1の径方向区分r1、r2、r3の各面積は、680mm、730mm、725mmであり、径方向区分の間の最大面積差(r2の面積-r1の面積)は、50mmとなる。
【0037】
これら2つのブレーキディスクにおいて、板厚は全領域に亘って各々均一で両者同一、材料も均一で両者同一であるとすると、各区分の面積は、各区分の熱容量に対応していることになる。
【0038】
よって、本ブレーキディスク1は、各々の径方向区分の熱容量に対する径方向区分の間の熱容量差の比が、従来ディスクAに比べて顕著に小さく、径方向の熱容量分布が実質的に均一であるということができる。
【0039】
図8(c)には、本ブレーキディスク1及び従来ディスクAにおける、周方向区分の各々の面積と、径方向区分の間の最大面積差とが示されている。同図に示されるように、従来ディスクAの周方向区分c1’~c6’の各面積は、277mm~356mmであり、周方向区分の間の最大面積差(c5’の面積-c1’の面積)は、137mmとなる。これに対して、本ブレーキディスク1の径方向区分c1~c6の各面積は、382mm~341mmであり、周方向区分の間の最大面積差(c5の面積-c2の面積)は、64mmとなる。
【0040】
よって、本ブレーキディスク1は、各々の周方向区分の熱容量に対する周方向区分の間の熱容量差の比が、従来ディスクAに比べて顕著に小さく、周方向の熱容量分布が実質的に均一であるということができる。
【0041】
以上の通り、本ブレーキディスク1は、周方向及び径方向の熱容量分布が実質的に均一であるとみなすことができる。図8に示されたブレーキディスク1において、各々の周方向区分の熱容量に対する周方向区分の間の熱容量差の比は25%以下に収まっている。また、本ブレーキディスク1において、各々の径方向区分の熱容量に対する径方向区分の間の熱容量差の比が8%以下に収まっている。従って、第1の所定比率を25%、第2の所定比率を8%と設定することができる。
【0042】
図9には、従来ディスクA以外の従来ディスクB,C,及びDにおける、図8と同様の比較図が示されている。従来ディスクBは、波形部の形状が従来ディスクと異なるもの、従来ディスクCは、波形部の振幅がより小さいもの、従来ディスクDは、真円ディスクである。
【0043】
図9(a)に示されるように、いずれの従来ディスクも非クリーニング部が存在するものとなっている。特に、波形部が小さい従来ディスクC及び波形部が存在しない従来ディスクDは、最外側においても非クリーニング部が存在する。
【0044】
また、図9(b)に示されるように、従来ディスクB,C、Dの径方向区分の最大面積差は、本ブレーキディスク1に比べて大きく、各々の径方向区分の熱容量に対する径方向区分の間の熱容量差の比もより大きくなっている。
【0045】
図9(c)に示されるように、従来ディスクC,Dにおいては各周方向区分の面積差をきわめて少なくすることが可能であるが、クリーニング部として機能する波形部を有する従来ディスクBにおいては、周方向区分の最大面積差及び各区分の面積に対する比率は、本ディスク1に比べて大きい。
【0046】
以上から明らかな通り、各々の周方向区分の熱容量に対する周方向区分の間の熱容量差の比が第1の所定比率(25%)以下に収まり、かつ、各々の径方向区分の熱容量に対する径方向区分の間の熱容量差の比が第2の所定比率(8%)以下に収まり、加えて、非クリーニング部が存在しないディスクは、本実施形態に係るブレーキディスク1のみである。
【0047】
図10には、本実施形態に係るブレーキディスク1と従来ディスクAとの、熱容量及び側面の表面積に関する上記した比較をまとめたものが示されている。
ブレーキディスク1と従来ディスクAとは、ブレーキパッドの摺動部エリアである外周部全体の熱容量はほぼ同じ値(約166J/K)となっている。しかし、周方向の最大熱容量差に関して、従来ディスクAが1.8J/Kであるのに対して、本ブレーキディスク1は0.6J/Kであり、顕著に小さい周方向の熱容量差を達成している。また、径方向の最大熱容量差に関して、従来ディスクAが4.4J/Kであるのに対して、本ブレーキディスク1は0.7J/Kであり、顕著に小さい径方向の熱容量差を達成している。側面の表面積(制動表面及び制動裏面以外の側面から見た部分の面積)に関しては、従来ディスクAが1487mmであるのに対して、本ブレーキディスク1は2469mmと顕著に大きい。これは、本ブレーキディスク1が、波形部の形状及びサイズ、並びに、貫通孔(9、11、36、38)の配列、数、サイズを調整することによって、側面の表面積を増大させることができたからである。
【0048】
従って、本ブレーキディスク1は、周方向及び径方向熱容量分布を実質的に均一にすると共に、側面の表面積を増大させることで、熱容量それ自体を増やさなくとも冷却効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0049】
図11には、従来ディスクAと本実施形態に係るブレーキディスク1との、同一条件下における温度測定結果が示されている。
図11(a)に示されるように、従来ディスクAでは、周方向に大きい温度むらが存在しており、最高温度も617℃に達した。これに対して、本実施形態に係るブレーキディスク1では、摺動部エリアの重量すなわち熱容量を従来ディスクと同一に維持しながら、周方向の温度むらが均一であり、最高温度も572℃に低下させることができた。
【0050】
換言すれば、本実施形態によれば、従来ディスクAと最高温度が同じとなる仕様にしても、ディスク重量を減少させることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、熱容量が従来ディスクと同等でも、温度むらの均一化を図ると共に冷却効率を高めることが可能となり、これによって、ブレーキフィーリングも良化させることが可能となる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ブレーキディスク1全体が一体に成形されていた。本発明のブレーキディスクは、これに限定されるものではなく、2つ以上の部品から構成することもできる。この例を第2の実施形態として図12及び図13を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の第2の実施形態の構成要件については、第1の実施形態と同じ参照番号にbを附して詳細な説明を省略する。
【0051】
図12及び図13に示されるように、第2の実施形態に係るブレーキディスク1bは、外周部2bと桟内周部13とを備えており、桟内周部13は、外周部2bから中央開口部3bへと延びる複数のブリッジ部15と、ピン14を介して外周部2bと連結される。
【0052】
桟内周部13には、ブレーキディスク1bの全ての第1の桟部6b及び第2の桟部7bが一体に成形されており、第1及び第2の桟部の交差した領域8bの各々には、取り付け孔5bが各々形成されている。なお、複数の取り付け孔5bの中には、中心Oからの距離が異なるものも含まれている。
【0053】
なお、第2の実施形態においても、複合した弧の部分20~24や凹状張り出し部25~27が形成されていてもよい。
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の作用効果の他に、ホイールの仕様に応じて桟内周部13のみを交換するだけで対応できるブレーキディスクを提供することができる。或いはその逆に外周部2bのみを摩耗等により交換することもできる。
【0054】
以上が本発明の実施形態に係るブレーキディスクであるが、本発明は、上記例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で任意好適に変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、1b ブレーキディスク
2、2b 外周部
3、3b 中央開口部
5、5b 取り付け孔
6、6b 第1の桟部
7、7b 第2の桟部
8、8b 交差した領域
9、9b 周開口部
10 波形部
10a 凹部
10b 凸部
11、11b 貫通孔
12 皿状に凹んだ部分
13 桟内周部
14 ピン
15 ブリッジ部
17a 制動表面
17b 制動裏面
20 凹部10aの側辺(径方向に対して45°以下となるサイド)
21 凹部10aのサイド(径方向に対して45°以上となるサイド)
30 外周部2と内周部32との境界線
32 内周部
36、38 クリーニング用の貫通孔
b1、b2、b3、b4、b5、b6、b7 周方向境界線
c1、c2、c3、c4、c5、c6 周方向区分
d1、d2 径方向境界線
r1、r2、r3 径方向区分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14