(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製部品の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
C22F 1/053 20060101AFI20230424BHJP
B21C 23/00 20060101ALI20230424BHJP
B21C 29/00 20060101ALI20230424BHJP
B21C 35/02 20060101ALI20230424BHJP
B21C 35/03 20060101ALI20230424BHJP
C22F 1/057 20060101ALI20230424BHJP
C22C 21/10 20060101ALN20230424BHJP
C22C 21/12 20060101ALN20230424BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
C22F1/053
B21C23/00 A
B21C29/00
B21C35/02 101
B21C35/03
C22F1/057
C22C21/10
C22C21/12
C22F1/00 602
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2019070883
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】細井 寛哲
(72)【発明者】
【氏名】石飛 秀樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-027550(JP,A)
【文献】実開昭57-146907(JP,U)
【文献】特開2000-233317(JP,A)
【文献】特開平06-238326(JP,A)
【文献】特開平08-060285(JP,A)
【文献】特表2019-504180(JP,A)
【文献】特開2002-235158(JP,A)
【文献】特開平10-183287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/04- 1/057
B21C 23/00-35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
7000系又は2000系アルミニウム合金を押出プレス装置により熱間押出加工し、ダイスから押し出され前方に移動する押出材を冷却すると共に所定長さに切断し、切断後の押出材を塑性加工装置に向けて搬送し、押出材の耐力が自然時効により120MPaを超えて増加する前に塑性加工を施し、次いで押出材に
人工時効処理を施すことを特徴とするアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項2】
ダイスから押し出され前方に移動する押出材を空冷又は水冷して焼き入れることを特徴とする請求項1に記載されたアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項3】
押出材が中空断面を有する場合に、ダイスから押し出され前方に移動する押出材の断面内部に前方からノズルを挿入し、前記ノズルから冷媒を噴射して冷却することを特徴とする請求項1又は2に記載されたアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項4】
切断時に切断箇所の前後をクランプし、押出材の切断箇所及びその前後を冷却することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載されたアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項5】
押出材を所定長さに切断した後、塑性加工を施す前に、前記押出材を冷間で引張矯正することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載されたアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項6】
7000系又は2000系アルミニウム合金を熱間押出加工する押出プレス装置と、前記押出プレス装置の出側に配置され、押出材を所定長さに切断して前記押出プレス装置から切り離す切断装置と、前記押出プレス装置に併設された搬送装置及び塑性加工装置からなり、前記切断装置は前記押出材の押出速度と同速度で前方に移動する切断工具を備え、前記搬送装置は前記切断装置により所定長さに切断された押出材を前記塑性加工装置に搬送し、前記塑性加工装置は前記搬送装置により搬送された押出材に塑性加工を施してアルミニウム合金製部品に成形することを特徴とするアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項7】
前記押出プレス
装置の出側に冷却装置が配置されていることを特徴とする請求項6に記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項8】
前記冷却装置が冷媒を噴射するノズルを備え、前記ノズルが前記押出材の押出方向に沿って進退可能であることを特徴とする請求項7に記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項9】
前記切断装置が、前記切断工具の前方及び後方側直近に配置され、押出材を把持し前記切断工具と同調して前方に移動する一対のクランプ部材を備えることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項10】
前記切断工具と一対のクランプ部材の少なくとも一方が、押出材を冷却するための冷却機構を備えることを特徴とする請求項9に記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項11】
前記切断装置が、切断された押出材を引張矯正するストレッチャーの機能を有し、前記押出材の前後端を前記一対のクランプ部材により把持し、前記一対のクランプ部材の間隔を広げ前記押出材を引張矯正することを特徴とする請求項9又は10に記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項12】
前記押出プレス装置の出側にストレッチャーが併設され、前記ストレッチャーは切断された押出材を引張矯正することを特徴とする請求項6~10のいずれかに記載されたアルミニウム合金製部品の製造設備。
【請求項13】
熱処理型アルミニウム合金を押出プレス装置により熱間押出加工し、ダイスから押し出され前方に移動する押出材を冷却すると共に所定長さに切断し、切断後の押出材を塑性加工装置に向けて搬送し、押出材の耐力が自然時効により120MPaを超えて増加する前に塑性加工を施し、次いで押出材に時効処理を施すアルミニウム合金製部品の製造方法であり、切断時に切断箇所の前後を一対のクランプ部材でクランプし、押出材の切断箇所及びその前後を冷却し、切断後の押出材に前記塑性加工を施す前に、前記押出材の前後端を前記一対のクランプ部材により把持し、前記一対のクランプ部材の間隔を広げ前記押出材を冷間で引張矯正することを特徴とするアルミニウム合金製部品の製造方法。
【請求項14】
熱処理型アルミニウム合金を熱間押出加工する押出プレス装置と、前記押出プレス装置の出側に配置され、押出材を所定長さに切断して前記押出プレス装置から切り離す切断装置と、前記押出プレス装置に併設された搬送装置及び塑性加工装置からなり、前記切断装置は前記押出材の押出速度と同速度で前方に移動する切断工具を備え、前記搬送装置は前記切断装置により所定長さに切断された押出材を前記塑性加工装置に搬送し、前記塑性加工装置は前記搬送装置により搬送された押出材に塑性加工を施してアルミニウム合金製部品に成形するアルミニウム合金製部品の製造設備であり、前記切断装置が、前記切断工具の前方及び後方側直近に配置され、押出材を把持し前記切断工具と同調して前方に移動する一対のクランプ部材を備え、前記押出材の前後端を前記一対のクランプ部材により把持し、前記一対のクランプ部材の間隔を広げ前記押出材を引張矯正することを特徴とするアルミニウム合金製部品の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理型アルミニウム合金押出材に塑性加工を施してアルミニウム合金製部品を製造する方法、及びその方法を実施するのに適する製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の衝突安全や歩行者保護に関する基準強化に伴い、衝突保護部材(バンパーリインフォース等)やボディー骨格等の自動車部品の高強度化が要求されている。その一方で、運動性能向上や燃費向上のため、自動車部品の軽量化が要求されている。そのため、これらの自動車部品の素材として、高強度化と軽量化を両立させる目的で、熱処理型アルミニウム合金の押出材が用いられており、デザイン自由度の確保や部品点数削減の観点から、曲げや潰しなどの塑性加工が施される場合がある。
【0003】
従来のアルミニウム合金製部材(例えばバンパーリインフォースを想定)の製造方法及び製造設備の一例を、
図2の模式図を参照して工程順に説明する。
(1)熱間押出
押出加工可能な温度に加熱したアルミニウム合金のビレット2を、押出プレス装置1のコンテナ3内に収納し、ステム4を前進させ、ダイス5を通して前方に押し出す。自動車用のアルミニウム合金製部品(衝突保護部材やボディー骨格等)の材料として、6000系又は7000系の熱処理型アルミニウム合金が用いられることが多い。
(2)冷却
押出プレス装置1から押し出された押出材6がテーブル7上を移動し、その際に冷却装置8(ファン空冷又は水冷装置)により押出材6を冷却して焼き入れる。押出材6の冷却は、押出直後(ダイス5の出口から0.5~1.5mのあたり)に開始する。熱処理型アルミニウム合金は、一般に合金成分が多く高強度になるほど焼き入れ感受性が高くなるため、急速冷却する必要がある。
冷却された押出材6はテーブル7上にストックされる。また、押出材6をテーブル7から他の保管場所に移すこともある。
【0004】
(3)ストレッチ
押出材6の長さは一般に30~50mと長尺である。押出材6は、切断前にストレッチャー(図示せず)により引張矯正する。
(4)切断
長尺の押出材6を固定式の切断機(切断工具である丸のこ9のみ示す)に送り、所定長さ(1つのアルミニウム合金製部品に対応する長さ)に切断する。切断された押出材は、ロット単位にまとめて塑性加工装置(曲げプレス及び潰しプレスを含む)に搬送する。
(5)曲げ加工
バンパーリインフォースの場合、両端部を曲げ加工することが多い。引張曲げ加工を行う場合、前記ストレッチを省略できる。
【0005】
(6)軟化熱処理
押出材に対し端部の潰しなど大きな塑性歪みを付与する場合、加工時の割れを防止するため、必要に応じて、溶体化熱処理や復元処理(特許文献1参照)を行い、自然時効による硬化をキャンセルする。
(7)潰し加工
デザイン上の必要性や他部品との干渉防止のため、押出材の長さ方向の一部領域に対し潰し加工を施し、同領域の断面形状を変更する。軟化熱処理を行う代わりに、潰し加工において温間プレス加工又は熱間プレス加工を行うこともある。
(8)人工時効処理
塑性加工後の押出材(アルミニウム合金製部品)に人工時効処理を施し、材料強度を向上させる。強度向上を重視するときはT5処理(通常の時効処理)、応力腐食割れの回避を重視するときはT7処理(過時効処理)が適宜選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム合金製部品(衝突保護部材やボディー骨格等)の素材として、一般に6000系及び7000系アルミニウム合金押出材が用いられている。これらの熱処理型アルミニウム合金は、押出後の時間経過とともに自然時効が進行し、強度が増加し伸びが低下する。従来の製造工程では、30~50m程度の長尺の押出材を押し出した後、テーブル上又は他の保管場所にストックし、相当期間経過後、前記押出材を所定長さ(1個のアルミ合金製部品に対応する長さ)に切断し、切断された押出材をロット単位にまとめて塑性加工装置に送り、塑性加工を施している。このため、押出材に曲げ、潰し、剪断(穴抜き等)、バーリング、スエージング、及び他のプレス成形等の塑性加工を行う際には、自然時効が進行して材料の伸びが低下し、大きな変形を伴う塑性加工を施したとき、押出材に破断や割れが発生するという問題がある。また、自然時効の進行の差に起因する材料耐力の増分差により、スプリングバック量がばらつき、寸法精度が悪化するという問題もある。これらの問題は、アルミニウム合金が高強度材料であるほど生じやすい。
【0008】
上記の問題を解決するには、押出材に塑性加工を施す前に、自然時効による硬化をキャンセルし、押出材の耐力を低下させ、伸びを増加させる必要がある。自然時効による押出材の硬化をキャンセルするには、先に述べたような溶体化処理又は復元処理を行うことが考えられるが、これらの方法では、塑性加工の直前に押出材を再加熱及び冷却する必要があり、熱処理設備の投資や工数追加によるコスト増の問題が生じる。
【0009】
焼き入れ感受性が高いアルミニウム合金の場合、人工時効処理で十分な硬化量を確保するためには押出後に急冷する必要がある。しかし、例えば中空断面を有し内部に1以上の内リブを有する押出材の場合、外周から直接冷却されない内リブの温度低下が遅れて焼き入れが不十分となり、人工時効処理後に所定の強度が得られないという問題がある。また、冷却時の断面の温度分布の不均一に起因する熱収縮差により、冷却後の押出材の変形が大きくなるという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、熱処理型アルミニウム合金押出材に塑性加工を施してアルミニウム合金製部材を製造する場合に、溶体化処理又は復元処理を含む方法に比べより低コストで、塑性加工時の割れの発生を防止することである。
本発明の他の目的は、前記熱処理型アルミニウム合金押出材が中空断面を有し内部に1以上の内リブを有する場合に、冷却後の押出材の変形を抑えるとともに、内リブの人工時効処理後の強度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るアルミニウム合金製部品の製造方法は、熱処理型アルミニウム合金を押出プレス装置により熱間押出加工し、ダイスから押し出され前方に移動する押出材を冷却すると共に所定長さに切断し、切断後の押出材を塑性加工装置に向けて搬送し、押出材の耐力が自然時効により120MPaを超えて増加する前に塑性加工を施し、次いで押出材に人工時効処理を施すことを特徴とする。
上記製造方法において、ダイスから押し出された押出材は、前方に移動中に自然空冷又は強制冷却(ファン空冷、水冷)により冷却される。押出材が中空断面を有し、断面内に1以上の内リブがある場合、ダイスから押し出され前方に移動する押出材の断面内部に前方からノズルを挿入し、前記ノズルから冷媒を噴射して押出材を内面側からも冷却することが好ましい。
【0012】
本発明に係るアルミニウム合金製部品の製造設備は、上記製造方法を実施するために好適に用いられるもので、熱処理型アルミニウム合金を熱間押出加工する押出プレス装置と、前記押出プレス装置の出側に配置され、押出材を所定長さに切断して前記押出プレス装置から切り離す切断装置と、前記押出プレス装置に併設された搬送装置及び塑性加工装置からなり、前記切断装置は前記押出材の押出速度と同速度で前方に移動する切断工具を備え、前記搬送装置は前記切断装置により所定長さに切断された押出材を前記塑性加工装置に搬送し、前記塑性加工装置は前記搬送装置により搬送された押出材に塑性加工を施してアルミニウム合金製部品に成形することを特徴とする。
上記製造設備において、好ましくは前記押出プレスの出側に冷却装置が配置される。この冷却装置は、ダイスから押し出されて移動する押出材を強制冷却(ファン空冷、水冷)する。押出材が中空断面で断面内に1以上の内リブがある場合、好ましくは、前記冷却装置に冷媒を噴射するノズルが含まれる。前記ノズルは、押出方向に沿って進退可能とされ、押出材の断面内部に前方から挿入され、押出材を内面側から冷却することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金製部品の製造方法では、押出プレスから押し出されて前方に移動する押出材を、テーブル上又は他の保管場所にストックすることなく、その場で所定長さに切断して塑性加工装置に搬送し、自然時効が進む前に(耐力が120MPaを超えないうちに)塑性加工を施す。このため、塑性加工前に溶体化処理や復元処理を行わなくても、低い耐力と高い伸びを維持した状態で各種塑性加工を行うことができ、塑性加工時に割れが発生しにくい。この製造方法によれば、溶体化処理又は復元処理を行う必要がなく、また、塑性加工時の耐力が低いことからスプリングバック量が小さく、高精度のアルミニウム合金製部品を低コストで製造できる。加えて、プレス加工に伴う残留応力を低減できるため、高強度の7000系アルミニウム合金製部材であっても、耐応力腐食割れ性を向上できる。
【0014】
ダイスから押し出された熱処理型アルミニウム合金押出材は、自然空冷又は強制冷却(ファン空冷、水冷)により焼き入れされる。押出材が中空断面を有し断面内に内リブを有する場合、冷却手段として冷媒を噴射するノズルを併用することにより、押出材を断面の外側からだけでなく内側からも冷却し、冷却過程における断面全体の温度差を小さくできる。その結果、冷却時の熱収縮に起因する押出材の変形が抑制され、断面内での温度履歴差が小さくなり、時効処理後の材料特性が断面内で均一化する。また、前記ノズルを併用することにより押出材の冷却速度が大きくなり、焼き入れ感受性が高い例えば高強度の7000系アルミニウム合金であっても、焼き入れが可能となり、時効処理後の強度向上量の増加が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るアルミニウム合金製部品の製造方法及び製造設備の一例を説明する模式図である。
【
図2】従来のアルミニウム合金製部品の製造方法及び製造設備の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製部品の製造方法及び製造設備の一例を、
図1の模式図を参照して説明する。
図1に示す製造設備は、押出プレス装置11、押出プレス装置11の出側に配置された冷却装置12及び切断装置13、押出プレス装置11に併設された搬送装置14及び塑性加工装置15を備える。
押出プレス装置11は従来例のものと変わりなく、熱処理型アルミニウム合金を熱間押出加工する。熱処理型アルミニウム合金として、JIS(Japanese Industrial Standards)に規定され又はAA(Aluminum Association)に登録された2000系、6000系、7000系アルミニウム合金が挙げられる。
【0017】
冷却装置12は、ファン空冷装置又は水冷装置の少なくとも一つからなり、押出プレス装置11のダイスから押し出されてテーブル16上を前方に移動する押出材17を強制冷却し、焼き入れる。また、この冷却装置12は、冷媒(例えば、空気又はクーラント液)を噴射するノズル18を含む。ノズル18は、支持機構19に支持されて押出方向に沿って進退可能であり、後端(
図1において右端)が図示しない冷媒供給機構に接続されている。なお、熱処理型アルミニウム合金の焼き入れ感受性が低く、押出材17が自然空冷のみで十分焼き入れができる場合は、冷却装置12を設置する必要はない。また、押出材17がファン空冷装置又は水冷装置のみで十分焼き入れができる場合は、ノズル18を設置する必要はない。
【0018】
冷却装置12は、押出材17が自然空冷のみでは焼き入れできない場合に使用される。また、ノズル18は、熱処理型アルミニウム合金の焼き入れ感受性が高い場合に、必要に応じて前記ファン空冷装置又は水冷装置と共に使用され、特に押出材17が中空断面を有し、その断面内に1以上の内リブを有する場合に、好適に使用される。ノズル18は、押出プレス装置11のダイスから押し出されて前方に移動する押出材17の前記中空断面内に、前方側から挿入され、噴射口から冷媒を中空断面内に噴射し、押出材17を内側から冷却し、冷却終了後、中空断面内から抜き出される。押出材17を中空断面の内側から均等に冷却するため、冷媒を噴射しながら、ノズル18を中空断面の内外に抜き差しすることもできる。
【0019】
冷却装置12において、前記ファン空冷装置又は水冷装置とノズル18を併用し、押出材17の内外両方からの冷却を行うことにより、冷却過程における押出材17の断面全体の温度差及び温度履歴差を小さくできる。その結果、冷却時の熱収縮に起因する押出材17の変形が抑制され、かつ時効処理後の材料特性が断面内で均一化する。また、押出材17の冷却速度が大きくなり、焼き入れ感受性が高い例えば高強度の7000系アルミニウム合金であっても、内リブを含む断面全体の焼き入れが可能となる。さらに、従来より高い冷却速度が実現可能となるため、制御可能な冷却速度の範囲が拡大し、人工時効処理において析出物のサイズ及び分布の制御範囲が広がり、これにより時効処理後の材料強度の向上及び耐応力腐食割れ性の向上が期待できる。
【0020】
切断装置13は、切断工具21(この例では丸のこ)と一対のクランプ部材22,22を備える。また、切断装置13は、切断工具21を作動(回転)させる駆動機構(駆動モータ)、クランプ部材22,22を作動させる駆動機構、切断工具21及びクランプ部材22,22を押出方向に沿って前方又は後方に移動させる進退機構(各機構はいずれも図示せず)等を備える。切断工具21、クランプ部材22,22及び前記各機構は、例えばテーブル16の上部に設置されている。
切断工具21は、例えばチェーンソー等の他の工具であってもよい。クランプ部材22,22は切断工具21の前後方向直近位置に配置され、ダイスから押し出され前方に移動する押出材17の切断箇所の前後位置(把持箇所)を把持し、押出材17を切断工具21に対し位置決めする。切断工具21及び押出材17を把持したクランプ部材22,22は、押出プレス装置11の押出速度(押出材17の移動速度)と同速で前方に移動し、その過程で切断工具21が作動して押出材16を切断する。前記切断箇所は、切断後の押出材17(17aとする)の長さが所定長さ(1個のアルミニウム合金製部品に対応する長さ)となる位置に設定される。この所定長さは、最終的に得られるアルミニウム合金製部品の押出方向に沿った長さと同一か、又はストレッチの把持代等を考慮してやや大きく設定される。
【0021】
クランプ部材22,22は、押出直後の位置(押出プレス11のダイス出口から前方に0.5~1.5mのあたり)で押出材17を把持するように設定されている。従って、クランプ部材22,22が押出材17を把持した時点で、前記切断箇所及び把持箇所は高温状態である可能性が高い。高温で軟化した押出材17が切断時に変形するのを防止するため、クランプ部材22,22又は切断工具21の少なくとも一方が、押出材17の前記切断箇所及び把持箇所を冷却する冷却手段(空冷又は水冷)を含むことが好ましい。
なお、冷却装置12による押出材17の冷却は、切断装置13による押出材17の切断と並行して行われる。ただし、冷却装置12による冷却と切断装置13による切断の開始及び終了のタイミングを一致させる必要はない。
【0022】
切断装置13において、一対のクランプ部材22,22と、クランプ部材22,22を作動させる駆動機構及びクランプ部材22,22を押出方向に沿って前方又は後方に移動させる進退機構は、必要に応じて、切断及び冷却後の押出材17aのストレッチャーとして機能させることができる。押出材17aの両端をクランプ部材22,22で把持し、クランプ部材22,22の間隔を広げることで、切断後の押出材17aを引張矯正することができる。
なお、切断装置13をストレッチャーとして機能させる代わりに、必要に応じて専用のストレッチャー23を切断装置13の近傍に配置し、切断後の押出材17aを引張矯正することもできる。また、後述する塑性加工装置15において引張曲げを行う場合、引張曲げの過程で押出材17aに対し引張矯正が行われるため、クランプ部材22,22又はストレッチャー23による事前の引張矯正は不要である。
【0023】
上記のように、押出直後の押出材17を所定長さに切断し、かつ冷却と切断を並行して行うことにより、従来のような巨大なテーブル7(
図2参照)は不要となる。
図1に示すテーブル16の前後方向長さは10m以下で十分である。また、切断後の押出材17aは一般に短尺(最大でも5m以下)であるから、搬送装置14や塑性加工装置15を含めても、製造設備の床面積は小さくできる。
【0024】
搬送装置14は、切断された押出材17aを把持し、塑性加工装置15に向けて搬送する。先に述べたとおり、押出材17aは一般に短尺であるので、
図1に示すように、例えばグリッパーを備えるロボットアームが使用でき、この点からも製造設備の床面積を小さくできる。
【0025】
塑性加工装置15は、押出材17aに対し、曲げ、潰し、剪断(例えば穴抜き)、バーリング、スエージング、及び他のプレス成形等のうち1種以上の塑性加工を冷間で施す。アルミニウム合金製部品の種類(押出材17aに施すべき塑性加工の種類)に対応して、塑性加工装置15には、必要とされるプレス装置等が配置される。アルミニウム合金製部品が例えばバンパーリインフォースであり、押出材17aの両端部に曲げ加工を施し、次いで長手方向の一部に潰し加工を施す場合、塑性加工装置15には、曲げプレスと潰しプレスが含まれる。
【0026】
熱処理型アルミニウム合金からなる押出材17(17a)は、冷却直後から自然時効が始まり、時間経過と共に耐力がしだいに増加するが、塑性加工は押出材17aの耐力(0.2%耐力)が120MPaを超えて増加する前に完了させる。
図1に示す製造方法及び製造設備によれば、押出プレス装置11から押し出されて前方に移動する押出材17を、テーブル上又は他の保管場所にストックすることなく、その場で所定長さに切断し、搬送装置14により塑性加工装置15に搬送する。このため、押出材17aに対し、冷却後短時間で(耐力が120MPaを超えないうちに)塑性加工を施すことができる。従って、従来のように塑性加工の前に行われていた溶体化処理や復元処理などの再加熱処理は行われない。
【0027】
自然時効が余り進んでいない押出材17aは、塑性加工時の耐力が小さく、伸びも大きいことにより、厳しい塑性加工(例えば潰し)を施した場合でも、破断や割れの発生が抑制され、また、スプリングバック量が小さく、高精度のアルミニウム合金製部品を製造できる。さらに、塑性加工時の耐力が小さいことにより、塑性加工により押出材17a(アルミニウム合金製部品)に付加される残留応力を小さくし、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。塑性加工時における120MPaという耐力は、以上の効果が発生する目安となる数値である(特許文献1参照)。
【0028】
なお、上記塑性加工において、より確実に破断や割れを防止するため、加熱装置を装備したプレス金型を用いて、例えば150~300℃の温度範囲で温間プレス加工又は熱間プレス加工を行うこともできる。この場合、押出材17の押出温度、及び押出直後から切断、搬送時における押出材17(17a)の温度低下を制御して、塑性加工時の押出材17aの温度を上記の温度範囲に維持することにより、押出材17aの再加熱を省略することができる。この温間プレス加工又は熱間プレス加工も、当該プレス加工温度における押出材17aの耐力が120MPaを超えないうちに行う。
【0029】
塑性加工後、押出材17aに対し人工時効処理を施してアルミニウム合金製部品とする。この人工時効処理は、加熱炉を用いてロット単位で行うことができ、従来材と同様に、強度向上を重視するときはT5処理(通常の時効処理)、応力腐食割れの回避を重視するときはT7処理(過時効処理)が適宜選択される。この加熱炉は、
図1に示す製造設備の一部として同一フロアに設置されていてもよく、また、他の適当な場所に設置されていてもよい。
【0030】
本発明に係るアルミニウム合金性部品の素材であるアルミニウム合金押出材として、限定的ではないが、応力腐食割れの問題が生じやすい高強度の7000系アルミニウム合金押出材を好適に採用できる。7000系アルミニウム合金の好ましい組成として、例えばZn:3~8質量%、Mg:0.4~2.5質量%、Cu:0.05~2.0質量%、Ti:0.005~0.2質量%を含有し、さらにMn:0.01~0.5質量%、Cr:0.01~0.3質量%、Zr:0.01~0.3質量%の1種以上を含有し、残部Al及び不純物からなる組成を挙げることができる。
【0031】
そのほか、6000系アルミニウム合金の好ましい組成として、例えばMg:0.35~1.1質量%、Si:0.2~1.3質量%、Ti:0.005~0.2質量%、Cu:0.15~0.7質量%、及びZr:0.06~0.2質量%、Mn:0.05~0.5質量%、Cr:0.05~0.15質量%のいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる組成を挙げることができる。
また、2000系アルミニウム合金の好ましい組成として、例えばSi:1.3質量%以下、Fe:1.5質量%以下、Cu:1.5~6.8質量%、Mn:1.2質量%以下、Mg:1.8質量%以下、Cr:0.10質量%以下、Zn:0.50質量%以下、Ti:0.20質量%以下、残部:Al及び不可避的不純物からなる組成を挙げることができる。
【0032】
本発明は、乗用車、軽自動車、トラック等の衝突保護部材(エネルギー吸収部材)用及びボディー骨格用のアルミニウム合金製部品の製造に好適に用いられる。衝突保護部材用部品として、例えばバンパーリインフォース、ドアビーム、クラッシュボックス(バンパーステイ)、ステイ一体型バンパーリインフォース、歩行者脚部保護部品、アンダーランプロテクター等が挙げられる。ボディー骨格用部品として、例えばフロント及びリアサイドメンバー、ラジエータサポート、フロントアッパーメンバー、ルーフレール、フロント及びリアヘッダー、ロッカー、フロアクロスメンバー等が挙げられる。
また、本発明は、自動二輪車や自転車のボディー骨格用部品、及びその他のアルミニウム合金製部品の製造にも用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
11 押出プレス装置
12 冷却装置
13 切断装置
14 搬送装置
15 塑性加工装置
16 テーブル
17,17a 押出材
18 冷却用ノズル
21 切断工具(丸のこ)
22 クランプ部材