(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物及び酸化防止剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/09 20060101AFI20230424BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230424BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230424BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230424BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230424BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230424BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230424BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230424BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230424BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230424BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61K31/09
A61K47/04
A61K47/22
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61P9/00
A61P9/12
A61P29/00 101
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2019085391
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】田渕 良
(72)【発明者】
【氏名】足立 知基
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏大
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-524566(JP,A)
【文献】特開2016-140351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸してなる粉末と還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物であって、非晶体の還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物。
【請求項2】
二酸化ケイ素の細孔が、細孔容積1.0~2.0mL/gである請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
粉末組成物中に、ビタミンC 0.5~2質量部、二酸化ケイ素40~60質量部、還元型コエンザイムQ10 40~60質量部を含む請求項1または2に記載の粉末組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の粉末組成物を含む経口用剤。
【請求項5】
軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、顆粒剤のいずれかである請求項4に記載の経口用剤。
【請求項6】
二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸させてなる粉末と還元型コエンザイムQ10粉末を混合し55~65℃で加温する工程を含む非晶体の還元型コエンザイムQ10含有粉末組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物及び還元型コエンザイムQ10の酸化防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10は、ビタミンの一種であるユビキノン(2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-ポリプレニル-1,4-ベンゾキノン)の側鎖のイソプレン単位が10のヒト特有のユビキノン類である。コエンザイムQ10は、生体において、コエンザイムとしてミトコンドリア中のアデノシン三リン酸の生産に必須である。また、免疫機能を向上させ、さらに心臓病、高血圧、リウマチ性弁疾患に対する有効性等が確認されている。さらにまた、歯槽の炎症に対する有効性についても研究されている。
【0003】
コエンザイムQ10は高い生理活性を持ち、かつ生体内に存在する安全性の高い物質として、日常的に積極的に摂取することが勧められている。しかしコエンザイムQ10は難水溶性であり、さらに結晶性が高いため、一般的な乳化による製剤化には困難が伴う。また結晶コエンザイムQ10をそのまま経口摂取や飲用しても殆ど生体には吸収されない。
一旦乳化組成物を調製しても、数日以内にコエンザイムQ10の結晶化が起こって乳化組成物が分離したり、あるいは乳化組成物が固化したりする現象が見られる。加えて、製剤としての効果を確保するためにはコエンザイムQ10の濃度を高くする必要がある。しかし、このような難水溶性及び高結晶性のために、コエンザイムQ10を食用油に溶解し、さらに消化管内で微粒子として分散するためには、乳化剤を大量に使用する製剤化が必要であった。
【0004】
このような問題を解決するため、還元型コエンザイムQ10を高含有する製剤が提案されている(特許文献1)。
コエンザイムQ10は、酸化型と還元型の2タイプが存在することが知られている。生体内においては、コエンザイムQ10のかなりの部分が還元型で存在することが知られており、その割合は通常40~90%程度である。したがって、還元型コエンザイムQ10の方が、経口的に摂取するには適している。しかし、還元型コエンザイムQ10は、空気中で速やかに酸化型コエンザイムQに変化するため、還元型を生体外で維持することは困難である。
【0005】
還元型コエンザイムQ10を空気中でも安定にするために様々な提案がなされている。
例えば、強酸の存在下で結晶化させる酸性結晶化法(特許文献2)、抗酸化物質を含む製剤化(特許文献3)、ポリオールを含む製剤化(特許文献4)、プロピレングリコール脂肪酸エステルを配合して製剤化する方法(特許文献5)、ワックスと界面活性剤を配合して製剤化する方法(特許文献6)、油脂とポリオールを配合して製剤化する方法(特許文献7)、アミノ酸類を配合して製剤化する方法(特許文献8)、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを、コエンザイムQ10を含む組成物に配合する方法(特許文献9)など様々な方法がある。あるいは、還元型CoQ10をシクロデキストリンとの包接体とする方法(特許文献10)、シクロデキストリンとの擬ロタキサンとする方法(特許文献11)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-109933号公報
【文献】国際公開第2003/008363号
【文献】特開2003-119127号公報
【文献】国際公開第2003/062182号
【文献】国際公開第2007/052802号
【文献】国際公開第2009/025372号
【文献】特開2010-189437号公報
【文献】国際公開第2011/046199号
【文献】特開2016-140351号公報
【文献】特開2010-126492号公報
【文献】特開2009-269827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、還元型コエンザイムQ10を安定に含む粉末組成物を提供することを課題としている。また本発明は、還元型コエンザイムQ10を安定に含む粉末組成物を調製するために用いる、還元型コエンザイムQ10の安定化剤を提供することを課題とする。またコエンザイムQ10の固体分散体を含有する経口投与剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の主な構成は以下の通りである。
(1)二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸してなる粉末と還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物であって、非晶体の還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物。
(2)二酸化ケイ素の細孔が、細孔容積1.0~2.0mL/gである(1)に記載の粉末組成物。
(3)粉末組成物中に、ビタミンC 0.5~2質量部、二酸化ケイ素 40~60質量部、還元型コエンザイムQ10 40~60質量部を含む(1)または(2)に記載の粉末組成物。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の粉末組成物を含む経口用剤。
(5)軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、顆粒剤のいずれかである(4)に記載の経口用剤。
(6)二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸させてなる還元型コエンザイムQ10の安定化剤。
(7)二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸させてなる粉末と還元型コエンザイムQ10粉末を混合し55~65℃で加温する工程を含む非晶体の還元型コエンザイムQ10含有粉末組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の粉末組成物は、含有される還元型コエンザイムQ10が、空気中で長時間還元型コエンザイムQ10の形態を保ち酸化型の形態に変化することが少ない。また非晶性のため、水に対する高い溶解性(溶出性)を示す。
さらに本発明の還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物は、水に分散させると水中にコエンザイムQ10を溶解(溶出)させるために、飲料等の飲食品に利用可能である。さらに水溶解性が高いため、経口投与時の吸収性が高まり、一回あたりの投与量を減量することが可能である。
本発明の還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物は、コエンザイムQ10が高濃度に含有されているため、経口投与を目的とした錠剤やカプセル剤、顆粒剤とした場合、小型の剤形とすることが可能である。そのため嚥下しやすい錠剤となり、患者の負担が少ないという効果を奏する。
また本発明の微粒二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸させた還元型コエンザイムQ10の安定化剤は、その他の酸化防止剤では抑制することができない条件でも還元型コエンザイムQ10の酸化を抑制し、酸化による着色や褐変を抑制することができる。
さらにまた本発明は、安定な還元型コエンザイムQ10を含む粉末組成物の簡便な製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例、参考例及び比較例1~11の試料が、室温保存条件下で還元型コエンザイムQ10から酸化型コエンザイム10へ変化するその変化率を確認した試験結果のグラフである。
【
図2】実施例、参考例及び比較例1~3、10、11の試料が、40℃遮光保存条件下で還元型コエンザイムQ10から酸化型コエンザイム10へ変化するその変化率を確認した試験結果のグラフである。
【
図3】実施例、比較例10の粉末組成物のX線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、安定な還元型コエンザイムQ10(以下「還元型CoQ10」という)を含む粉末組成物及びその製造方法に関する。
本発明の粉末組成物について、具体的に説明する。
なお本発明でいうビタミンC及び/またはカテキン類が二酸化ケイ素に含浸するとは、ビタミンC及び/またはカテキン類が、二酸化ケイ素粒子に存在する多数の孔に吸着されて存在している状態をいう。
【0012】
[還元型CoQ10]
本発明でいう還元型CoQ10は別名ユビキノールとも呼ばれる。
酸化型コエンザイムQ10(以下「酸化型CoQ10」という)は、下記の式(1-A)、還元型CoQ10は、下記の式(1-B)で示される構造の化合物である。
【0013】
【0014】
上記式(1)中、式(1-A)は酸化型CoQ10であり、式(1-B)は還元型CoQ10である。両者は酸化または還元によって相互に変換しうる化合物である。そして還元型CoQ10(1-B)は、空気中で速やかに酸化型CoQ10(1-A)に酸化される。
【0015】
上記CoQ10を得る方法としては特に限定されず、例えば、合成、発酵、天然物からの抽出等の従来公知の方法によりCoQ10を得た後、クロマトグラフィーにより流出液中の還元型CoQ10を濃縮する方法等を採用することができる。この場合においては、必要に応じて、上記CoQ10に対し、水素化ほう素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイトナトリウム)等の一般的な還元剤を添加し、常法により上記CoQ10中に含まれる酸化型CoQ10を還元して還元型CoQ10とした後にクロマトグラフィーによる濃縮を行ってもよい。また、既存の高純度CoQ10に上記還元剤を作用させる方法によっても得ることができる。
【0016】
[二酸化ケイ素]
本発明に使用する二酸化ケイ素は、組成式SiO2で表される化合物であって、多数の細孔をその構造中に持つ化合物である。本発明には、このような多孔性の二酸化ケイ素粉末を使用することができる。なかでも微粒二酸化ケイ素として流通する粉末が好ましい。
本発明に使用する、微粒二酸化ケイ素とは、多孔性を持った二酸化ケイ素の微粉末をいう。微粉末は、粉末の粒子平均粒子径が50μm以下であればどのような粒子サイズであっても良いが、好ましくは平均粒子径が2~30μmである。二酸化ケイ素としては、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素を例示できる。多孔性二酸化ケイ素は、微小な細孔を形成している。この多孔性二酸化ケイ素の細孔は、平均細孔容積0.3~3mL/g、好ましくは1.0~2.0mL/gのものを使用する。
【0017】
なお微粒二酸化ケイ素の平均細孔容積はガス吸着法や水銀圧入法によって測定することができる。
ガス吸着法の測定条件として次のような条件を採用すれば良い。
測定機器:4連式比表面積・細孔分布測定装置 NOVA-TOUCH型(Quantachrome製)
使用ガス:窒素ガス
冷媒(温度):液体窒素(77.35K)
前処理条件:110℃加熱下、6Hr真空脱気
測定内容:吸着等温線
測定相対圧力:5×10-3<P/P0<0.99
比表面積:BET法を用いて解析
細孔分布:BJH法を用いて解析
【0018】
本発明に使用する微粒二酸化ケイ素の細孔は、平均細孔容積1.0~2.0mL/gであるものが好ましい。このような多孔性二酸化ケイ素は、医薬品やサプリメントの錠剤を調整するための微粒二酸化ケイ素として販売されている。微粒二酸化ケイ素は無水型と含水型がありいずれであっても良い。具体的には、サイロページ720、サイリシア250、サイリシア320、サイリシア350、サイシリア740(富士シリシア化学株式会社製)、アドソリダー101、アドソリダー102(フロイント産業株式会社製)、カープレックス#67、カープレックスFPS-500(エポニック・ジャパン株式会社製)、AEROSIL200FAD、アエロジル200、アエロジル300(日本アエロジル株式会社製)、サンスフェアH-51(AGCエスアイテック株式会社製)等が挙げられる。なかでもサイロページ720が好ましい。
【0019】
[ビタミンC]
本発明でいうビタミンCは、アスコルビン酸又はアスコルビン酸の塩又は誘導体をいう。例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム塩及びアスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩等のアスコルビン酸リン酸エステル塩、アスコルビン酸テトライソパルミチン酸エステル等のアスコルビン酸脂肪酸エステル、アスコルビン酸エチルエーテル等のアスコルビン酸アルキルエーテル、アスコルビン酸-2-グルコシド等のアスコルビン酸グルコシドおよびその脂肪酸エステル類、アスコルビン酸硫酸エステル、リン酸トコフェリルアスコルビル等のアスコルビン酸誘導体である。
アスコルビン酸としては、抗酸化能を有する物質であれば、本発明において使用可能である。この中でもアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムが好ましい。
【0020】
本発明の粉末組成物における、ビタミンCと還元型CoQ10、微粒二酸化ケイ素の含有比率は、ビタミンC 0.5~2質量部、微粒二酸化ケイ素 40~60質量部、還元型CoQ10 40~60質量部を含むように調製することが、還元型CoQ10が酸化型に変化するのを抑制する上で好ましい。
【0021】
[粉末組成物の調製方法]
本発明の粉末組成物の調製は次のような工程で行う。
工程1:微粒二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸している粉末の調製
微粒二酸化ケイ素と水とビタミンCを混合し、微粒二酸化ケイ素が分散したビタミンC水溶液を調製する。この水溶液と微粒二酸化ケイ素を充分に撹拌混合し、次いでこれを乾燥させる。乾燥手段はどのような方法でも選択できる。中でも凍結乾燥法が好ましい。
工程2:還元型CoQ10粉末との混合
工程1で得た微粒二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸している粉末と、還元型CoQ10粉末を粉混合し、均質になるように撹拌する。
工程3:加温操作
工程2で得られた混合物を50~70℃、好ましくは55~65℃で加温する。加温時間は5~30分、好ましくは10~20分、撹拌しながら混合物を加温する。
加温終了後、得られた粉末を回収する。粉末が凝集している場合、粉砕機を用いて結着している塊を粉砕して、その後篩い分けして粉末の粒子径をそろえても良い。
【0022】
かくして得られた粉末は、還元型CoQ10が非晶体となり、極めて安定性の高い状態を維持し、酸化型CoQ10への変化を抑制している。
これは、微粒二酸化ケイ素の細孔にビタミンCを含浸している粉末が還元型CoQ10に対して強い抗酸化効果を発揮しているためである。
【0023】
本発明の粉末組成物は、そのままで飲食品に配合可能であり、あるいはサプリメント製剤、医薬用製剤として使用できる。サプリメント製剤や医薬用製剤とする場合、通常使用される添加剤を加えて経口用製剤にすることができる。
【0024】
経口用製剤の添加剤としては、乳糖、結晶セルロース、白糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム等の賦形剤;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、プルラン等の結合剤;クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、α化でんぷん、部分α化でんぷん等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル等の滑沢剤;コチニール色素等の着色剤;ステビア、アスパルテーム、香料等の矯味剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の粉末組成物を含む製剤の形態としては、例えば錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤または硬カプセル剤)、顆粒剤、細粒剤等の経口用製剤や舌下剤が挙げられる。
【実施例】
【0026】
実施例、参考例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。
<1.還元型CoQ10を含有する各種粉末組成物の調製>
(1)粉末組成物の調製
下記表1に記載の市販の食品または医薬品原料を用いて粉末組成物を調製した。
【0027】
【0028】
1)実施例の粉末組成物の調製
水5mLに、ビタミンC10mgを溶解分散させた水溶液を調製した。この水溶液に サイロページ720(微粒二酸化ケイ素)495mgを加え、撹拌混合した後、常法により凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕して、ビタミンCを含浸させた微粒二酸化ケイ素粉末を得た。なおサイロページ720の細孔容積は1.6mg/mLであった。
この粉末505mgに還元型CoQ10粉末495mgを加えて混合した後、さらに60℃に加温したホットプレート上で約10分加温し還元型CoQ10を融解させた。加温終了後、粉末が結着している場合粉砕し、実施例の粉末組成物を得た。
【0029】
2)参考例の粉末組成物の調製
水5mLに、サンフェノン90LB-OP(カテキン)10mgを溶解分散させた水溶液を調製した。この水溶液にサイロページ720(微粒二酸化ケイ素)495mgを加え、撹拌混合した後、常法により凍結乾燥した。得られた乾燥物を粉砕して、サンフェノン90LB-OP(カテキン)を含浸させた微粒二酸化ケイ素粉末を得た。
この粉末505mgに還元型CoQ10粉末495mgを加えて混合した後、さらに60℃に加温したホットプレート上で約10分加温し還元型CoQ10を融解させた。加温終了後、粉末が結着している場合粉砕し、参考例の粉末組成物を得た。
【0030】
3)ビタミンEを含浸させた微粒二酸化ケイ素の調製
比較例の粉末組成物を調製するため、ビタミンEとして理研Eオイル910またはガンマブライト90 10mgをエタノール5mLに溶解分散させ、このエタノール溶液中にサイロページ720(微粒二酸化ケイ素)495mgを加え、撹拌混合した後、常法で減圧乾燥した。得られた乾燥物を粉砕して、ビタミンEを含浸させた微粒二酸化ケイ素粉末を得た。
【0031】
4)比較例の粉末の調製
比較例1は未処理の還元型CoQ10粉末とした。比較例2は未処理の微粒二酸化ケイ素500mgに還元型CoQ10粉末500mgを粉混合処理(PM)して調製した。比較例3は比較例2の粉末を実施例記載の加温条件で加熱混合(HM)して調製した。比較例4は、上記3)の理研Eオイル910含浸微粒二酸化ケイ素505mgに還元型CoQ10粉末495mgを粉混合処理(PM)して調製した。比較例5は比較例4の粉末を実施例記載の加温条件で加熱混合(HM)して調製した。比較例6は、上記3)のガンマブライト90含浸微粒二酸化ケイ素505mgに還元型CoQ10粉末495mgを粉混合処理(PM)して調製した。比較例7は比較例6の粉末を実施例記載の加温条件で加熱混合(HM)して調製した。比較例8はビタミンC10mg、微粒二酸化ケイ素495mg、還元型CoQ10粉末495mg粉混合処理(PM)して調製した。比較例9は比較例8の粉末を実施例記載の加温条件で加熱混合(HM)して調製した。比較例10は上記1)のビタミンC含浸微粒二酸化ケイ素505mgに還元型CoQ10粉末495mg粉混合処理(PM)して調製した。比較例11は上記2)のカテキン含浸微粒二酸化ケイ素505mgに還元型CoQ10粉末495mg粉混合処理(PM)して調製した。
【0032】
比較例の配合成分と処理の一覧を下記の表2に示す。
【0033】
【0034】
<2.保存試験1>
実施例、参考例、及び比較例1~11の各粉末500mgを、密封シール付ポリエチレン製袋(ユニパック)に採取し、これを試験試料として、保存試験を行った。
(1)室温保存
上記の試料を入れた密封袋を、室内に放置した。なお室温は約20℃、湿度及び光の調整は行なわなかった。
【0035】
(2)保存による変化
還元型CoQ10は、酸化型に変化すると黄色に着色し、酸化が進むと褐変化する。これを次の基準で目視評価した。また加温(HM)処理によっても着色する。
【0036】
評価基準は以下の通りである。
+++:褐変化
++:濃い黄色~オレンジ色
+:黄色
±:わずかに着色
-:色の変化なし
【0037】
目視評価結果を下記の表3に示す。
【0038】
【0039】
実施例は7日間の保管後も変化がなかった。参考例は、着色が認められた。一方比較例1~11はいずれも着色した。特に比較例1、4、7は着色の程度が甚だしかった。
【0040】
(3)酸化型CoQ10の含有量測定
各試料のCoQ10量を下記の方法で定量した。
HPLCサンプルの調製
各粉末を秤量後、0.1% 2,6-Di-tert-butyl-cresol含有エタノールに溶解させ、フィルター濾過を行い、次いでエタノールで希釈し、HPLC測定用試料とした。
【0041】
HPLC条件
カラム:Inertsil ODS -3(3μm、50×4.6mm I.D 、GL サイエンス社製)
溶離液:Aメタノール、Bエタノール(A/B 65/35,v/v)
カラム温度:40℃
検出:UV275mm(酸化型CoQ10)、UV290nm、(還元型CoQ10)
流速:0.6mL/min
【0042】
酸化型CoQ10の定量
各サンプルの酸化型CoQ10の含有率は、下記の式より算出した。
酸化型CoQ10含有率(%)={酸化型CoQ10/(酸化型CoQ10+還元型CoQ10)}×100
【0043】
【0044】
【0045】
酸化型CoQ10の含有率は、着色の評価にほぼ対応していた。
【0046】
<3.保存試験2>
保存試験1の結果に基づいて、高温条件での保存による影響を試験した。実施例、参考例、及び比較例1~3、10、11の各粉末500mgを、密封シール付ポリエチレン製袋(ユニパック)に採取し、これを試験試料として、保存試験を行った。
上記の試料を入れた袋を、さらに遮光性のあるアルミ袋に入れて密封した。
【0047】
(1)保存条件
上記の試料を入れた密封袋を、40℃に設定した恒温槽中で保存した。
【0048】
(2)保存による色調変化
試験1に準じて、還元型CoQ10の色調の変化を次の基準で目視評価した。
+++:褐変化
++:濃い黄色~オレンジ色
+:黄色
±:わずかに着色
-:色の変化なし
目視評価結果を下記の表5に示す。
【0049】
【0050】
実施例は7日間の保管後も変化がなかった。参考例は、着色が認められた。一方比較例はいずれも着色した。特に比較例1は着色の程度が甚だしかった。
【0051】
(3)酸化型CoQ10の含有量測定
各試料のCoQ10量を上記と同様に測定し、酸化型CoQ10の含有率を求めた。
【0052】
【0053】
【0054】
酸化型CoQ10の含有率は、試験1と同様に着色の評価に対応していた。
【0055】
以上の保存試験1及び2から、本発明の組成物は、還元型CoQ10が安定に保持されている組成物であることが明らかである。また、この発明の組成物を調製するために用いる、ビタミンCを含浸した微粒二酸化ケイ素は、還元型CoQ10の酸化防止に極めて有効性が高いことが判明した。
【0056】
<4.結晶性の確認>
本発明の作用機構を検討するため、X線回折装置を用いて結晶状態を観察した。実施例及び粉混合物である比較例10の粉末組成物を室温で1週間保存したものを測定試料とした。測定条件は次のとおりである。
粉末X線回折装置:MiniFlex 600(リガク社製)
X線出力40kV、15mA、スキャンスピード10°/分で行った。
【0057】
回折パターンを
図3に示す。
実施例の粉末組成物の回折パターンからは、還元型CoQ10の結晶を示すピークが消失していた。一方比較例10の組成物には、還元型CoQ10由来の回折ピークが出現した。これは、本発明の組成物は、還元型CoQ10が非晶体となっていることを裏付けるものである。すなわち、本発明の粉末組成物は、還元型CoQ10が非晶体としてビタミンCと共存することで安定化しているものと考えられた。
【0058】
<5.実施例の粉末を用いた製剤製造例>
(1)錠剤
実施例の粉末と賦形剤として結晶セルロース、崩壊剤として部分α化でんぷん、滑沢剤としてステアリン酸カルシウムを混合し、これを打錠してCoQ10 30質量%含有錠剤を調製した。
打錠成形にあたって特段の問題点は無かった。
【0059】
(2)カプセル剤
実施例の粉末と賦形剤として結晶セルロース、滑沢剤としてステアリン酸カルシウムを混合し、HPMCハードカプセルに充填し、CoQ10を4~30質量%含有のハードカプセルを得た。ハードカプセル作製にあたって特段の問題点は無かった。
【0060】
(3)顆粒剤
実施例の粉末をマルチトール、結晶セルロースと混合した後、湿式造粒法にて顆粒化し、CoQ10を4~30質量%含有の顆粒剤を得た。顆粒剤作製にあたって特段の問題点は無かった。