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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】空調用圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/06 20060101AFI20230424BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230424BHJP
   F04C 29/04 20060101ALI20230424BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20230424BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
F04B39/06 N
F04C29/00 T
F04C29/04 J
F04B39/02 N
H02K9/19 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019089497
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020186651
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】小川 真
(72)【発明者】
【氏名】木全 央幸
(72)【発明者】
【氏名】江崎 郁男
(72)【発明者】
【氏名】宇野 将成
(72)【発明者】
【氏名】島谷 紘史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】笹川 千賀子
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓馬
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-043596(JP,U)
【文献】特開2015-206281(JP,A)
【文献】特開2014-103722(JP,A)
【文献】特開2002-165406(JP,A)
【文献】特開平08-326677(JP,A)
【文献】特開2000-337256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/06
F04C 29/00
F04C 29/04
F04B 39/02
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる軸線に沿って延びるシャフトと、
該シャフトを回転駆動するモータと、
前記シャフトの回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮部と、
前記シャフト、前記モータ、及び前記圧縮部を収容するハウジングと、
該ハウジング内に貯留された潤滑油をくみ上げて前記圧縮部に供給する潤滑油供給部と、
を備え、
前記モータは、
前記シャフトと一体に設けられたロータと、
該ロータを外周側から覆うステータと、
を有し、
前記シャフトの内部には、前記潤滑油が流通する油流路が形成され、
前記シャフトの前記軸線方向の両端部には、前記油流路に連通することで前記潤滑油を前記ステータに向かって外周側に噴射する噴射孔が形成され
前記軸線方向における前記ステータの寸法は、前記ロータの寸法よりも大きく、
前記噴射孔は、前記軸線に対する径方向内側から外側に向かうに従って、前記ロータから次第に離れる方向のみに延びることで、前記ステータに向かって潤滑油を噴射する
空調用圧縮機。
【請求項2】
前記噴射孔のうち、前記軸線方向において前記潤滑油供給部から離れている側の前記噴射孔は、前記潤滑油供給部に近接している側の前記噴射孔よりも開孔径が大きい請求項1に記載の空調用圧縮機。
【請求項3】
前記モータは、前記ロータの前記軸線方向における両端部であって、前記軸線に対する周方向の一部に設けられたバランスウエイトをさらに有し、
前記噴射孔は、周方向において前記バランスウエイトと異なる位置に形成されている請求項1又は2に記載の空調用圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調用圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば空調装置における冷媒の圧縮に用いられる装置として、ロータリ圧縮機やスクロール圧縮機が知られている。ロータリ圧縮機は、シャフトと、シャフトを回転駆動するモータと、シャフトの偏心部に装着されたピストンロータと、ピストンロータを収容するシリンダ室を有するシリンダと、シリンダ室の軸方向両側に配置される上部軸受、及び下部軸受と、シリンダ室内に向かって突出するブレードと、これらを収容するハウジングと、ハウジング内に貯留されている潤滑油を循環させて上部軸受、及び下部軸受に供給する遠心ポンプ等の潤滑油供給装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-137008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータは、シャフトと一体に回転するロータと、このロータを外周側から覆う筒状をなすとともに外部から供給された電力によって磁界を発生させるステータと、を有している。ロータは、ステータによって生成された磁力によって回転駆動される。ロータリ圧縮機を連続的に運転した場合、例えば自身の内部抵抗等によってモータが発熱することが知られている。発熱が亢進するとモータの性能に影響が及ぶ可能性がある。そこで、モータを効率的に冷却することが可能な技術に対する要請が高まっている。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、モータをより効率的に冷却することで性能の向上した空調用圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る空調用圧縮機は、鉛直方向に延びる軸線に沿って延びるシャフトと、該シャフトを回転駆動するモータと、前記シャフトの回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮部と、前記シャフト、前記モータ、及び前記圧縮部を収容するハウジングと、該ハウジング内に貯留された潤滑油をくみ上げて前記圧縮部に供給する潤滑油供給部と、を備え、前記モータは、前記シャフトと一体に設けられたロータと、該ロータを外周側から覆うステータと、を有し、前記シャフトの内部には、前記潤滑油が流通する油流路が形成され、前記シャフトの前記軸線方向の両端部には、前記油流路に連通することで前記潤滑油を前記ステータに向かって外周側に噴射する噴射孔が形成され、前記軸線方向における前記ステータの寸法は、前記ロータの寸法よりも大きく、前記噴射孔は、前記軸線に対する径方向内側から外側に向かうに従って、前記ロータから次第に離れる方向のみに延びることで、前記ステータに向かって潤滑油を噴射する
【0007】
上記構成によれば、シャフトの両端部に、潤滑油をステータに向かって外周側に噴射する噴射孔が形成されている。ここで、運転中のモータは、一例として100℃~150℃程度に達することがある。一方で、潤滑油の温度はモータの温度よりも低い値で推移する。したがって、噴射孔から噴射された潤滑油により、モータを積極的に冷却することができる。ところで、モータを冷却するに当たっては、ロータ、及びステータの双方に潤滑油を供給する構成を採ることも考えられる。ロータはシャフトと一体となって高速回転している。回転中のロータに潤滑油を外部から吹きかけた場合、潤滑油が周囲に飛散してしまう。その結果、例えば冷媒の流れに多くの潤滑油が混じって、空調用圧縮機のハウジング外に油が放出され、の熱交換機内にたまることにより、サイクル全体の熱効率が低下する虞がある。しかしながら、上記の構成によれば、ロータではなく、ステータに対して積極的に潤滑油が供給される。したがって、上記のようにロータに潤滑油が供給されることで性能に影響が及ぶ可能性を低減することができる。
さらに、上記構成によれば、軸線方向におけるステータの寸法は、ロータの寸法よりも大きい。つまり、ステータは、軸線方向においてロータの端部を外周側、及び軸線方向から覆っている。このような構成において、噴射孔は径方向内側から外側に向かうに従って、ロータから次第に離れる方向(即ち、ステータの端部に向かう方向)に延びている。したがって、噴射孔から供給された潤滑油は、ロータから離れる方向に噴射され、ステータの端部に積極的に接触する。これにより、ロータに潤滑油が接触する可能性がさらに低減されるとともに、ステータをより積極的に冷却することができる。
【0008】
上記空調用圧縮機では、前記噴射孔のうち、前記軸線方向において前記潤滑油供給部から離れている側の前記噴射孔は、前記潤滑油供給部に近接している側の前記噴射孔よりも開孔径が大きくてもよい。
【0009】
ここで、空調用圧縮機は、潤滑油供給部が下方に位置するように、つまり軸線を鉛直方向に沿わせるような姿勢で配置・運用されることが一般的である。したがって、噴射孔から供給された潤滑油は、ステータに接触した後、下方に向かって滴下する。上記構成によれば、潤滑油供給部から離れている側の噴射孔は、潤滑油供給部に近接している側の噴射孔よりも開孔径が大きい。したがって、上側の噴射孔から供給された潤滑油は、ステータに接触した後、下方に向かって滴下する中途で、当該ステータの全体に万遍なく行き渡る。これにより、ステータをさらに効率的に冷却することができる。
【0012】
上記空調用圧縮機では、前記モータは、前記ロータの前記軸線方向における両端部であって、前記軸線に対する周方向の一部に設けられたバランスウエイトをさらに有し、前記噴射孔は、周方向において前記バランスウエイトと異なる位置に形成されていてもよい。
【0013】
上記構成によれば、噴射孔は、周方向においてバランスウエイトと異なる位置に形成されている。したがって、例えば噴射孔がバランスウエイトと周方向において重複している構成に比べて、バランスウエイトによって潤滑油が妨げられることがなく、より円滑にステータに対して潤滑油を吹きかけることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モータをより効率的に冷却することで性能の向上した空調用圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態に係る空調用圧縮機(ロータリ圧縮機)の構成を示す縦断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る空調用圧縮機の要部拡大断面図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る空調用圧縮機の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一実施形態]
本発明の実施形態について、図1図2を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る空調用圧縮機としてのロータリ圧縮機100は、アキュムレータ24と、吸入管26A、26Bと、圧縮機本体10と、を備えている。圧縮機本体10は、軸線Oに沿って延びるクランクシャフト16(シャフト)と、クランクシャフト16を回転させるモータ18と、クランクシャフト16の回転に伴って冷媒を圧縮する圧縮部10Aと、クランクシャフト16、モータ18、及び圧縮部10Aを覆うハウジング11と、ハウジング11内に貯留された潤滑油をくみ上げて圧縮部10Aに供給する遠心ポンプP(潤滑油供給部)と、を備えている。
【0017】
圧縮部10Aは、クランクシャフト16の回転に伴って軸線Oから偏心した位置で旋回(回転)するピストンロータ13A、13B(第一ピストンロータ13A、第二ピストンロータ13B)と、これら第一ピストンロータ13A、及び第二ピストンロータ13Bがそれぞれ収容される圧縮室Cを形成するシリンダ12A、12Bと、クランクシャフト16を回転可能に支持する上部軸受17A、及び下部軸受17Bと、を有している。
【0018】
圧縮部10Aは、円筒形状のハウジング11内に、円環状のシリンダ12A、12Bが上下2段に設けられた、いわゆる2気筒タイプのロータリ圧縮機である。ハウジング11は、シリンダ12A、12Bを囲うことで、圧縮された冷媒が排出される吐出空間Vを形成する。シリンダ12A、12Bの内部には、各々、シリンダ内壁面の内側よりも小さな外形を有する円筒状の第一ピストンロータ13A、第二ピストンロータ13Bが配置されている。第一ピストンロータ13A、第二ピストンロータ13Bは、各々、クランクシャフト16におけるクランク軸14A、14B(第一クランク軸14A、第二クランク軸14B)に挿入固定されている。
【0019】
上段側のシリンダ12Aの第一ピストンロータ13Aと、下段側の第二ピストンロータ13Bとは、その位相が互いに180°だけ異なるように設けられている。即ち、第一ピストンロータ13Aは、第二ピストンロータ13Bの偏心方向とは反対の方向に偏心している。また、上下のシリンダ12A、12Bの間には、ディスク状の仕切板15が設けられている。仕切板15により、上段側のシリンダ12A内の空間Rと、下段側の空間Rとが互いに区画されて、それぞれ圧縮室C1とC2とされている。
【0020】
シリンダ12A、12Bは、上部軸受17A、及び下部軸受17Bによってハウジング11に固定されている。より具体的には、上部軸受17Aは圧縮部10Aの上部に固定された円盤状をなしており、その外周面はハウジング11の内周面に固定されている。下部軸受17Bは圧縮部10Aの下部に固定された円盤状をなしており、その外周面はハウジング11の内周面に固定されている。上部軸受17Aは、上段側のシリンダ12Aを上方(軸線O方向一方側)から覆っている。また、下部軸受17Bは、下段側のシリンダ12Bを下方(軸線O方向他方側)から覆っている。つまり、上部軸受17Aは、シリンダ12A、及び仕切板15とともに、上記の圧縮室C1を形成し、下部軸受17Bは、シリンダ12B、及び仕切板15とともに、上記の圧縮室C2を形成する。なお、ロータリ圧縮機100は、このような2気筒ではなく、1気筒であってもよい。1気筒の場合、上記の仕切板15を設けることなく、シリンダの軸線O方向両側を、それぞれ上部軸受17A、及び下部軸受17Bによって覆う構成が採られる。
【0021】
圧縮機本体10には、圧縮機本体10への供給に先立って冷媒を気液分離するアキュムレータ24がステー25を介してハウジング11に固定されている。アキュムレータ24と圧縮機本体10との間には、アキュムレータ24内の冷媒を圧縮機本体10に吸入させるための吸入管26A、26Bが設けられている。吸入管26A、26Bの一端はアキュムレータ24の下部に接続され、他端は開口22A、22Bを通して、シリンダ12A、12Bにそれぞれ形成された吸入ポート23A、23Bに連通している。クランクシャフト16の一端側には、当該クランクシャフト16を回転駆動させるためのモータ18のロータ19Aが一体に設けられている。ロータ19Aの外周部に対向して、軸線Oを中心とする筒状のステータ19Bが、ハウジング11の内周面に固定されている。ロータ19Aは、ステータ19Bが発生させる磁界による力を受けて、軸線O回りに回転駆動される。
【0022】
軸線O方向におけるステータ19Bの寸法は、ロータ19Aの寸法よりも大きい。したがって、ステータ19Bの上端部は、ロータ19Aの上端部よりも上側(軸線O方向一方側)に位置している。また、ステータ19Bのか端部は、ロータ19Aの下端部よりも下側(軸線O方向他方側)に位置している。つまり、ロータ19Aの両端部は、外周側からステータ19Bによって覆われている。また、ロータ19Aの両端部には、回転中の慣性力を維持するためのバランスウエイトWがそれぞれ設けられている。具体的には、バランスウエイトWは、ロータ19Aにおける周方向の一部のみに設けられている。また、ロータ19Aの上端側と下端側とで、バランスウエイトWの設けられる位置が異なっている。
【0023】
遠心ポンプPは、クランクシャフト16の軸線O方向他方側(鉛直方向下側)に設けられている。遠心ポンプPは、クランクシャフト16の回転に伴って、ハウジング11内に貯留されている潤滑油を、当該クランクシャフト16に沿ってくみ上げる。くみ上げられた潤滑油は、上記の上部軸受17A、及び下部軸受17Bの潤滑、及びモータ18の冷却(後述)に利用される。なお、潤滑油をくみ上げられる限りにおいて、遠心ポンプP以外の構成を潤滑油供給部として用いることも可能である。なお、本実施形態に係るロータリ圧縮機100におけるモータ18の発熱量は、遠心ポンプPによってくみ上げることが可能な量の潤滑油によって十分に冷却することが可能な程度に留まる。即ち、揚程を確保するために遠心ポンプPに代えて他の供給装置等を空調用圧縮機の外部に別に設ける必要がない。
【0024】
続いて、図2を参照して、上部軸受17A周囲の構成について説明する。図2に示すように、上部軸受17Aは、軸線Oを中心とする円盤状の円盤部171と、当該円盤部171に一体に設けられ、軸線Oを中心とする円筒状の筒状部172と、を有している。円盤部171は、上記のシリンダ12Aを軸線O方向の一方側(上側)から覆っている。つまり、円盤部171は、圧縮室C1における軸線O方向一方側(上側)の内面を形成している。筒状部172は軸線O方向に開口しており、その内側にはクランクシャフト16が挿通されている。つまり、筒状部172はクランクシャフト16を軸線O回りに回転可能に支持している。
【0025】
さらに、円盤部171には、マフラーMが取り付けられている。マフラーMは、上記の圧縮室Cから吐出された高圧の冷媒の流速を下げつつ、ハウジング11内の広範囲に拡散させるために設けられている。具体的にはマフラーMは、円盤部171を軸線O方向一方側から覆うカップ状をなしている。つまり、マフラーMは、軸線Oを含む断面視において、円盤部171の外周側の端縁から軸線O方向一方側に向かって延びるとともに、径方向の寸法が次第に減少するように形成されている。これにより、マフラーMと円盤部171との間には、圧縮室Cから吐出された高圧の冷媒が流通するマフラー空間Vmが形成されている。
【0026】
マフラーMの中心部には、上記の筒状部172が挿通される開口部Mhが形成されている。開口部Mhは、筒状部172の外径寸法よりも大きい径寸法を有している。即ち、開口部Mhの端縁と筒状部172の外周面との間には、軸線Oを中心とする円環状の隙間gが形成されている。圧縮室Cから吐出された高圧の冷媒は、この隙間gを通じて軸線O方向一方側(上側)に向かって流れる。
【0027】
次いで、クランクシャフト16の構成について説明する。図2に示すように、クランクシャフト16の内部には、上記の遠心ポンプPによってくみ上げられた潤滑油の一部が流通する油流路Foが形成されている。油流路Foは、軸線Oに沿って上下方向に延びている。油流路Foの下端は、遠心ポンプPに連通している。油流路Foの上端は、クランクシャフト16の上端面に設けられた蓋部材Lによって閉止されている。
【0028】
さらに、上記のロータ19Aを基準として、クランクシャフト16の軸線O方向における両端部には、上記の油流路Foに連通する噴射孔Fjがそれぞれ形成されている。本実施形態では、噴射孔Fjは、油流路Foから径方向外側に向かって延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数形成されている。噴射孔Fjから径方向外側に向かって噴射された潤滑油は、モータ18のステータ19Bに対して内周側から吹き付けられる。以降の説明では、軸線O方向一方側(上側)に位置する噴射孔Fjを第一噴射孔F1と呼び、軸線O方向他方側(下側)に位置する噴射孔Fjを第二噴射孔F2と呼ぶ。第一噴射孔F1の開孔径は、第二噴射孔F2の開孔径よりも大きい。また、これら噴射孔Fjは、上述のバランスウエイトWとは異なる周方向位置に形成されている。つまり、噴射孔Fjは、バランスウエイトWと重複しない周方向位置に形成されている。
【0029】
次に、本実施形態に係るロータリ圧縮機100の動作について説明する。ロータリ圧縮機100を運転するに当たっては、外部からの電力供給によってまずモータ18を駆動する。モータ18の駆動に伴って、クランクシャフト16が軸線O回りに回転する。クランクシャフト16の回転に伴って第一クランク軸14A、第二クランク軸14Bがクランクシャフト16の中心軸線(軸線O)回りに旋回する。この旋回に追従するようにして、第一ピストンロータ13A、及び第二ピストンロータ13Bが圧縮室C1、C2内で偏心回転する。第一ピストンロータ13A、及び第二ピストンロータ13Bの偏心回転によって、圧縮室C1、C2の容積が変化し、当該圧縮室C1、C2内に取り込まれた冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、上記のマフラー空間Vm、及びハウジング11内の吐出空間Vを経て外部に取り出される。
【0030】
ここで、ロータリ圧縮機100を連続的に運転した場合、例えば自身の内部抵抗等によってモータ18が発熱することが知られている。発熱が亢進するとモータ18の性能に影響が及ぶ可能性がある。そこで、モータ18を効率的に冷却することが可能な技術に対する要請が高まっている。
【0031】
そこで、本実施形態では、上述の油流路Fo、及び噴射孔Fjを通じて、潤滑油の一部をモータ18(ステータ19B)に対して吹きつけることでこれを冷却する構成を採っている。上記構成によれば、クランクシャフト16の両端部に、潤滑油をステータ19Bに向かって外周側に噴射する噴射孔Fjが形成されている。ここで、運転中のモータ18は、一例として200~300℃程度に達することがある。一方で、潤滑油の温度はモータ18の温度よりも低い値で推移する。したがって、噴射孔Fjから噴射された潤滑油により、モータ18を積極的に冷却することができる。
【0032】
ところで、モータ18を冷却するに当たっては、ロータ19A、及びステータ19Bの双方に潤滑油を供給する構成を採ることも考えられる。しかし、ロータ19Aはクランクシャフト16と一体となって高速回転している。回転中のロータ19Aに潤滑油を外部から吹きかけた場合、潤滑油が周囲に飛散してしまう。その結果、例えば冷媒の流れに多くの潤滑油が混じって、ロータリ圧縮機100の効率が低下する虞がある。一方で、上記の構成によれば、ロータ19Aではなく、ステータ19Bに対して積極的に潤滑油が供給される。したがって、上記のようにロータ19Aに潤滑油が供給されることで性能に影響が及ぶ可能性を低減することができる。その結果、モータ18をより安定的に運転することが可能となり、ロータリ圧縮機100の性能をより一層向上させることができる。
【0033】
ここで、ロータリ圧縮機100は、遠心ポンプPが下方に位置するように、つまり軸線Oを鉛直方向に沿わせるような姿勢で配置・運用されることが一般的である。したがって、噴射孔Fjから供給された潤滑油は、ステータ19Bに接触した後、下方に向かって滴下する。上記構成によれば、遠心ポンプPから離れている側の噴射孔Fj(第一噴射孔F1)は、遠心ポンプPに近接している側の噴射孔Fj(第二噴射孔F2)よりも開孔径が大きい。したがって、上側の第一噴射孔F1から供給された潤滑油は、ステータ19Bに接触した後、下方に向かって滴下する中途で、当該ステータ19Bの全体に万遍なく行き渡る。これにより、ステータ19Bをさらに効率的に冷却することができる。
【0034】
さらに、上記構成によれば、噴射孔Fjは、周方向においてバランスウエイトWと異なる位置に形成されている。したがって、例えば噴射孔FjがバランスウエイトWと周方向において重複している構成に比べて、バランスウエイトWによって潤滑油の流れが妨げられることがなく、より円滑にステータ19Bに対して潤滑油を吹きかけることができる。
【0035】
以上、本発明の第一実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第一実施形態では、空調用圧縮機としてロータリ圧縮機100を例に説明をした。しかしながら、空調用圧縮機の例はロータリ圧縮機100に限定されず、他の例としてスクロール圧縮機に上記実施形態に係る構成を適用することも可能である。この場合であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
[第二実施形態]
続いて、本発明の第二実施形態について、図3を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図3に示すように、本実施形態では、噴射孔Fj´の構成が上記第一実施形態とは異なっている。本実施形態では、噴射孔Fj´は、径方向に対して傾斜した方向に延びている。より具体的には、噴射孔Fj´は、径方向内側から外側に向かうに従って、ロータ19Aから次第に離れる方向に延びている。さらに詳細には、上側の第一噴射孔F1´は、径方向内側から外側に向かうに従って、下側から上側(軸線O方向他方側から一方側)に向かうように延びている。下側の第二噴射孔F2´は、径方向内側から外側に向かうに従って、上側から下側(軸線O方向一方側から他方側)に向かうように延びている。また、本実施形態においても、第一噴射孔F1´の開孔径は、第二噴射孔F2´の開孔径よりも大きい。
【0037】
ここで、上記第一実施形態、及び本実施形態では、軸線O方向におけるステータ19Bの寸法は、ロータ19Aの寸法よりも大きい。つまり、ステータ19Bは、軸線O方向においてロータ19Aの端部を外周側から覆っている。このような構成において、本実施形態に係る噴射孔Fjは径方向内側から外側に向かうに従って、ロータ19Aから次第に離れる方向(即ち、ステータ19Bの端部に向かう方向)に延びている。
【0038】
この構成によれば、噴射孔Fj´から供給された潤滑油は、ロータ19Aから離れる方向に噴射され、ステータ19Bの端部に積極的に接触する。これにより、ロータ19Aに潤滑油が接触する可能性がさらに低減されるとともに、ステータ19Bをより積極的に冷却することができる。その結果、モータ18をより安定的に運転することが可能となり、ロータリ圧縮機100の性能をより一層向上させることができる。
【0039】
以上、本発明の第二実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第二実施形態では、空調用圧縮機としてロータリ圧縮機100を例に説明をした。しかしながら、空調用圧縮機の例はロータリ圧縮機100に限定されず、他の例としてスクロール圧縮機に上記実施形態に係る構成を適用することも可能である。この場合であっても、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
100・・・ロータリ圧縮機
10・・・圧縮機本体
10A・・・圧縮部
11・・・ハウジング
12A、12B・・・シリンダ
13A・・・第一ピストンロータ
13B・・・第二ピストンロータ
14A・・・第一クランク軸
14B・・・第二クランク軸
16・・・クランクシャフト
17A・・・上部軸受
171・・・円盤部
172・・・筒状部
17B・・・下部軸受
18・・・モータ
19A・・・ロータ
19B・・・ステータ
22A、22B・・・開口
23A、23B・・・吸入ポート
24・・・アキュムレータ
25・・・ステー
26A、26B・・・吸入管
C,C1,C2・・・圧縮室
F1,F1´・・・第一噴射孔
F2,F2´・・・第二噴射孔
Fj,Fj´・・・噴射孔
Fo・・・油流路
g・・・隙間
L・・・蓋部材
Mh・・・開口部
P・・・遠心ポンプ
V・・・吐出空間
Vm・・・マフラー空間
W・・・バランスウエイト
図1
図2
図3