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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】表面処理酸化亜鉛粒子及び塗布用組成物
(51)【国際特許分類】
   C01G 9/02 20060101AFI20230424BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 8/58 20060101ALI20230424BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20230424BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
C01G9/02 A
A61K8/27
A61K8/35
A61K8/58
A61K8/20
A61Q17/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019166665
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042110
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 貴仁
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131460(JP,A)
【文献】特開2019-026525(JP,A)
【文献】特開2004-059421(JP,A)
【文献】特開2018-024577(JP,A)
【文献】特開2010-195773(JP,A)
【文献】特開2002-154915(JP,A)
【文献】特開2001-131528(JP,A)
【文献】特開2003-096202(JP,A)
【文献】特開2020-158350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C09C 1/00-3/12
C09D 15/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛の芯材粒子の表面に、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物を有してなり、
前記有機シロキサン化合物が、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物の脱水縮合生成物を含む、表面処理酸化亜鉛粒子。
【請求項2】
前記ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤が、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンである請求項1に記載の表面処理酸化亜鉛粒子。
【請求項3】
前記酸化亜鉛の芯材粒子がハロゲンを含有する、請求項1又は2に記載の表面処理酸化亜鉛粒子。
【請求項4】
ハロゲンの含有量が0.015質量%以上1.0質量%以下である、請求項3に記載の表面処理酸化亜鉛粒子。
【請求項5】
84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの2.0mmol/Lのトルエン溶液の吸収強度をIとし、
84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる前記酸化亜鉛の芯材粒子1g当たりのスペクトル吸収強度をIとしたとき、
I/Iで表される相対スペクトル吸収強度が0.001以上である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の表面処理酸化亜鉛粒子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の表面処理酸化亜鉛粒子と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含む塗布用組成物。
【請求項7】
酸化亜鉛粒子と、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物と、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含む塗布用組成物。
【請求項8】
前記ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤が、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンである請求項7に記載の塗布用組成物。
【請求項9】
前記酸化亜鉛の芯材粒子がハロゲンを含有する、請求項7又は8に記載の塗布用組成物。
【請求項10】
ハロゲンの含有量が0.015質量%以上1.0質量%以下である、請求項9に記載の塗布用組成物。
【請求項11】
84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの2.0mmol/Lのトルエン溶液の吸収強度をIとし、
84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる前記酸化亜鉛の芯材粒子1g当たりのスペクトル吸収強度をIとしたとき、
I/Iで表される相対スペクトル吸収強度が0.001以上である、請求項7ないし10のいずれか一項に記載の塗布用組成物。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか一項に記載の塗布用組成物を基材の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜から前記有機溶媒を除去する工程を有する紫外線遮蔽膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理酸化亜鉛粒子に関する。また本発明は塗布用組成物に関する。本発明の表面処理酸化亜鉛粒子を含む膜及び本発明の塗布用組成物から形成される膜は紫外線遮蔽膜として有用である。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は紫外線遮蔽能を有することが知られている。その特性を活かして酸化亜鉛の粒子は、化粧料、塗料、接着剤、樹脂成形品等にしばしば配合される。この場合、酸化亜鉛の粒子は有機紫外線吸収剤と併用されることがある。例えば特許文献1には、ブチルメトキシジベンゾイルメタンによってコーティングされた酸化亜鉛粒子が開示されている。
【0003】
特許文献2には、シリカ系物質で被覆された酸化亜鉛粒子が開示されている。この粒子における被覆層は、その内層がシリカからなり、外層がメチルトリメトキシシランからなる。同文献は、この粒子に4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンを添加してなる分散液が開示されている。
特許文献3には、シランカップリング剤で被覆された酸化亜鉛粒子が開示されている。シランカップリング剤としては、分子内にオクチル基及びアルコキシ基を有するものが特に優れていることが記載されている。また、紫外線吸収剤を含んでもよいことが同文献には記載されており、紫外線吸収剤の一例として4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-121810号公報
【文献】特開2000-319128号公報
【文献】特開2019-26525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、酸化亜鉛粒子と4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンとを併用することが従来知られているところ、これらを含む塗料を用いて紫外線遮蔽膜を形成すると、該膜が白化する場合があることが本発明者の検討の結果判明した。
したがって本発明の課題は、白化しづらい紫外線遮蔽膜を形成し得る原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、酸化亜鉛粒子と紫外線吸収剤とを併用するに場合に、特定のシラン化合物を用いることで、紫外線遮蔽膜の白化を抑制し得ることを知見した。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、酸化亜鉛の芯材粒子の表面に、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物を有してなり、
前記有機シロキサン化合物が、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物の脱水縮合生成物を含む、表面処理酸化亜鉛粒子を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記の表面処理酸化亜鉛粒子と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含む塗布用組成物を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、酸化亜鉛粒子と、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物と、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含む塗布用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、白化しづらい紫外線遮蔽膜を形成し得る表面処理酸化亜鉛粒子及び塗布用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の表面処理酸化亜鉛粒子は、酸化亜鉛の芯材粒子が表面処理されてなるものである。芯材粒子の表面処理は、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物による処理である。表面処理によって、芯材粒子の表面にジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物が存在することになる。芯材粒子の表面におけるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物の存在状態に特に制限はなく、例えばこれら2種の化合物が互いに異なる層をなしていてもよく、あるいは両者が混合した状態で単一の層をなしていてもよい。
【0011】
本発明で用いられるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤としては、ジベンゾイルメタン及びその誘導体が挙げられる。ジベンゾイルメタンの誘導体としては、ジベンゾイルメタンにおけるベンゼン環中の任意の水素原子がアルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基などの置換基で置換された化合物が挙げられる。例えば、2-メチルジベンゾイルメタン、4-メチルジベンゾイルメタン、4-イソプロピルジベンゾイルメタン、4-tert-ブチルジベンゾイルメタン、2,4-ジメチルジベンゾイルメタン、2,5-ジメチルジベンゾイルメタン、4,4’-ジイソプロピルジベンゾイルメタン、4,4’-ジメトキシジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、2-メチル-5-イソプロピル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、2,4-ジメチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、2,6-ジメチル-4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、2-カルボキシル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、及び4-tert-ブチル-4’-ヒドロキシジベンゾイルメタン等が挙げられる。特に、ジベンゾイルメタンにおけるベンゼン環中の任意の水素原子が、炭素数1以上6以下のアルキル基及び/又は炭素数1以上6以下のアルコキシ基で置換された化合物が紫外線吸収能の高さの点から好ましい。とりわけ、ジベンゾイルメタンの誘導体として、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンを用いることが、紫外線吸収能が非常に高い点から好ましい。
【0012】
ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤と併用される有機シロキサン化合物は、酸化亜鉛の芯材粒子の分散性を高めるために用いられる。有機シロキサン化合物は、-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合を有するか、又はシロキサン結合が複数連なったポリシロキサン結合を有するとともに、アルキル基、アルコキシ基及びフェニル基等の有機基を有する化合物である。本発明においては、有機シロキサン化合物を、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物から形成することが、紫外線遮蔽膜の白化を抑制する観点から好ましい。本発明者の検討の結果、シラン化合物としてジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシラン以外のものを用いた場合には紫外線遮蔽膜の白化を十分に抑制できないことが判明した。
【0013】
ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランは一般にシランカップリング剤として知られている化合物の一種である。シランカップリング剤は水の存在下で加水分解反応を起こし、引き続き脱水縮合反応することで、シロキサン結合又はポリシロキサン結合を有する化合物を生成する。ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランも同様の反応機構によってシロキサン結合又はポリシロキサン結合を有する化合物を生成する。したがって本発明で用いられる好ましい有機シロキサン化合物は、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物を脱水縮合させた生成物を含むものである。
【0014】
本発明の表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、該酸化亜鉛粒子から形成される紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能を十分に発揮させる観点から、炭素原子換算で、1.0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、3.0質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。
【0015】
表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の炭素原子換算での割合は、燃焼-非分散型赤外線吸収法によって炭素原子の量を測定することで得られる。本発明においては、LECOジャパン社から販売されている炭素・硫黄分析装置CS844を用い、これによって測定された炭素原子の量からジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の炭素原子換算での割合を算出する。
【0016】
一方、本発明の表面処理酸化亜鉛粒子に含まれる有機シロキサン化合物の割合は、該酸化亜鉛粒子から形成される紫外線遮蔽膜の白化を効果的に抑制する観点から、ケイ素原子換算で、0.001質量%以上7質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることが更に好ましく、0.08質量%以上3質量%以下であることが一層好ましい。
【0017】
表面処理酸化亜鉛粒子に含まれる有機シロキサン化合物のケイ素原子換算での割合は例えば、該粒子について酸分解法による前処理を行い、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析を行うことで測定できる。
【0018】
酸化亜鉛の芯材粒子の表面には、上述したジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物に加えて、本発明の表面処理酸化亜鉛粒子の各種性能を高め得る剤が存在していてもよい。例えば、樹脂との相溶性を高める剤や、樹脂中での粒子の分散性を高める剤が存在していてもよい。樹脂との相溶性を高める剤としては、例えばポリオキシエチレン系化合物、高分子不飽和カルボン酸系化合物、カチオン基含有アクリルポリマー、シランカップリング剤(ただしジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランを除く。)などが挙げられる。樹脂中での分散性を高める剤としては、例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸石鹸及び有機チタネート化合物などが挙げられる。
【0019】
表面処理酸化亜鉛粒子は、例えば酸化亜鉛の芯材粒子の表面にジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤を施し、次いでジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物を施し、該シラン化合物を脱水縮合させることで得られる。あるいは、表面処理酸化亜鉛粒子は、酸化亜鉛の芯材粒子の表面にジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物を施し、該シラン化合物を脱水縮合させ、次いでジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤を施すことで得られる。あるいは、表面処理酸化亜鉛粒子は、酸化亜鉛の芯材粒子の表面に、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤と、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物とを施し、次いで該シラン化合物を脱水縮合させることで得られる。ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤が固体である場合には、該ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の溶解が可能な有機溶媒に、該ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤を溶解させて用いることが好ましい。
【0020】
表面処理酸化亜鉛粒子における芯材粒子である酸化亜鉛粒子は、その粒子径が、一次粒子径で表して、5nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上90nm以下であることが更に好ましく、20nm以上80nm以下であることが一層好ましい。一次粒子とは、酸化亜鉛の芯材粒子を電子顕微鏡で50000倍に拡大観察したときに、外見上の幾何学的形態から判断して、粒子としての最小単位と認められる物体のことをいう。酸化亜鉛の芯材粒子の一次粒子径がこの範囲であると、粒子の透明性の観点から有利である。一次粒子径は、酸化亜鉛粒子を製造するときの条件、例えば焼成条件等を調整することでコントロールできる。なお、酸化亜鉛の芯材粒子の表面に存在するジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物の量は微量なので、酸化亜鉛の芯材粒子の一次粒子径と、表面処理酸化亜鉛粒子の一次粒子径とは実質的に同じである。したがって表面処理酸化亜鉛粒子の一次粒子径の好ましい範囲は上述のとおりとなる。
【0021】
酸化亜鉛の芯材粒子及び表面処理酸化亜鉛粒子の一次粒子径は、次の方法で測定される。日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡JEM-2100型を用い、50000倍に拡大した粒子の透過型電子顕微鏡像を得る。撮像視野に観察される粒子を任意に30個選択し、フェレ径を測定する。フェレ径の算術平均値を求め、その値を粒子の一次粒子径とする。
【0022】
酸化亜鉛の芯材粒子としては市販品を用いることができる。あるいは合成したものを用いることもできる。芯材粒子の合成は、例えば亜鉛源となる化合物が溶解した水溶液と、水酸化ナトリウム等の塩基性物質とを混合して、亜鉛を含む沈殿物を液中に生成させ、該沈殿物を分離した後に酸素含有雰囲気下で焼成する工程を含む。焼成は例えば350℃以上700℃以下で行うことができる。
【0023】
酸化亜鉛の芯材粒子は、以下に定義される相対スペクトル吸収強度I/Iが0.001以上であることが、可視光の波長領域に近い長波長の紫外線の遮蔽が可能となることから好ましい。本明細書において、可視光の波長領域に近い長波長の紫外線とは、波長領域が360nm以上400nm以下の紫外線のことである。
:84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下「TEMPOL」ともいう。)の2.0mmol/Lのトルエン溶液の吸収強度。
I:84Kにおいて、電子スピン共鳴法で得られる酸化亜鉛の芯材粒子1g当たりのスペクトル吸収強度。
【0024】
酸化亜鉛の紫外線遮蔽能について本発明者が鋭意検討したところ、酸化亜鉛に特定の異種元素がドープされることに起因してバンドギャップが変化することが紫外線遮蔽の程度と関係していることを知見した。またバンドギャップの変化に起因して不対電子に変化が生じ、不対電子の変化を電子スピン共鳴法(以下「ESR」ともいう。)で検出できることを知見した。一般に物質の電子状態はESRによって測定される強度の値に反映される。
【0025】
TEMPOLは本発明においてESR測定の標準物質として用いられるものである。TEMPOLを標準物質とした理由は、この物質から生じるラジカルが安定であることによるものである。ESR測定の温度を84Kとした理由は、ESR測定においてマイクロ波の吸収に関与する不対電子の数が低温になるほど多くなり、そのことに起因して低温で測定するほど感度が上がることによるものである。
【0026】
相対スペクトル吸収強度I/Iが0.001以上である酸化亜鉛の芯材粒子は、長波長の紫外線の遮蔽能が高いものとなる。相対スペクトル吸収強度はその値が大きければ大きいほど好ましく、具体的には0.005以上であることが好ましく、0.008以上であることが更に好ましい。相対スペクトル吸収強度の上限値には特に制限はないが、現時点で到達可能な上限値は0.1程度である。
【0027】
相対スペクトル吸収強度I/Iを求めるためのESRの測定法は以下に述べるとおりである。
日本電子株式会社製のXバンド(9GHz帯)電子スピン共鳴装置(JES-X330)を使用して測定する。外径5mmの石英管に測定試料を入れ、以下の測定条件で測定を行い、ESRスペクトルを得る。酸化亜鉛の芯材粒子については、得られたESRスペクトルの吸収強度を、試料の1g当たりの値に換算する。
試料質量:20mg
石英管:日本電子株式会社製No.193-S(高精度用)
マイクロ波出力:0.25mW
磁場掃引幅:20mT
変調磁場:0.3mT
感度:50
時定数:0.03秒
測定時間:30秒
測定温度:84K
【0028】
酸化亜鉛の芯材粒子が上述した物性を有するためには、該芯材粒子の製造方法において、微量の塩素等の一種以上のハロゲンを酸化亜鉛に含有させることが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。本発明においてハロゲンとは、第17族元素のうち、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を意味する。アスタチン及びテネシンは本発明にいうハロゲンに包含されない。芯材粒子の製造方法において、特にハロゲンとして塩素、ヨウ素及び臭素からなる群より選択される一種又は二種以上の元素を用いると、長波長の紫外線遮蔽能が一層優れるので好ましい。芯材粒子におけるハロゲンの含有量は、各ハロゲンについて、0.02質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.8質量%以下であることが更に好ましく、0.08質量%以上0.7質量%以下であることが一層好ましい。特に、すべてのハロゲンの合計の含有量が、この範囲内であることが好ましい。この範囲でハロゲンを含有することで、芯材粒子は、長波長の紫外線遮蔽能に更に一層優れたものとなる。
【0029】
酸化亜鉛の芯材粒子に含まれるハロゲンの量は、株式会社三菱ケミカルアナリテック製の自動試料燃焼装置AQF-100で前処理を行い、Dionex Corporation製イオンクロマトグラフICS-1000によって測定される。
【0030】
酸化亜鉛の芯材粒子が塩素等のハロゲンを含有することが好適であることとは対照的に、該芯材粒子は、三価又は四価をとり得る元素を非含有であることが好ましい。三価又は四価をとり得る元素としては、三価の元素の例としてAl、Cr、Fe、B、In、Gaなどが挙げられる。一方、四価の元素の例としてZr、Ti、Hfなどが挙げられる。これらの元素は、可視光の透過性を低下させる一因となる点で有利とはいないので、芯材粒子に含有させないことが望ましい。この観点から、酸化亜鉛の芯材粒子は、三価又は四価をとり得る元素として、特にAl、Ga、Inを非含有であることが好ましい。三価又は四価をとり得る元素は、それらの合計量が、芯材粒子中の亜鉛原子に対して0.2原子量%未満であることが好ましく、0.1原子量%未満であることが更に好ましい。酸化亜鉛の芯材粒子におけるこれらの元素の含有量は、株式会社日立ハイテクサンエンス製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)SPS5100によって測定される。
【0031】
相対スペクトル吸収強度I/Iが0.001以上である酸化亜鉛の芯材粒子は、例えば以下に述べる方法によって好適に製造される。まず出発原料としてのハロゲン化亜鉛、例えば塩化亜鉛(ZnCl)を用意し、これを水に溶かして亜鉛及びハロゲンを含有する水溶液とする。ハロゲン化亜鉛は、三価又は四価をとり得る元素を非含有である高純度のものを用いることが好ましい。例えば純度が99質量%以上のものを用いることが好ましい。水溶液中の亜鉛の濃度は、粒子径制御の観点から、10質量%以上80質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上70質量%以下とすることが更に好ましく、30質量%以上60質量%以下とすることが一層好ましい。
【0032】
このようにして調製したハロゲン化亜鉛の水溶液と、塩基性物質とを混合して、亜鉛を含む沈殿物を液中に生成させる。塩基性物質はそのままの状態でハロゲン化亜鉛の水溶液と混合してもよく、あるいは水溶液の状態でハロゲン化亜鉛の水溶液と混合してもよい。いずれの場合であっても、塩基性物質の添加量は、モル基準で、金属イオン中和当量に対して好ましくは1.2倍以上2.8倍以下であることが好ましい。その際の金属塩水溶液濃度は、1質量%以上40質量%以下とすることが好ましく、塩基性物質の水溶液濃度は5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
ハロゲン化亜鉛水溶液と塩基性物質の混合は、室温下、非加熱状態で行ってもよく、あるいは加熱状態で行ってもよい。加熱状態で混合を行う場合、混合液の温度は30℃以上90℃以下に設定することが好ましく、35℃以上80℃以下に設定することが更に好ましく、40℃以上70℃以下に設定することが一層好ましい。この範囲の温度で塩化亜鉛水溶液と塩基性物質とを混合することで、前記の沈殿物を首尾よく生成させることができる。
【0034】
ハロゲン化亜鉛水溶液と塩基性物質の混合は、例えば、ハロゲン化亜鉛水溶液中に塩基性物質を添加することで行うことができる。この場合、塩基性物質の添加は一括添加でもよく、あるいは逐次添加でもよい。塩基性物質を逐次添加する場合、該塩基性物質をその水溶液の状態で、所定の時間にわたり連続的に添加することが、前記の沈殿物を首尾よく生成させ得る点から好ましい。
【0035】
塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、無機炭酸塩及び無機炭酸水素塩などが挙げられる。これらの塩基性物質は一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの塩基性物質のうち、アルカリ金属の水酸化物を用いることが、沈殿物を首尾よく生成させ得る点から好ましく、特に水酸化ナトリウムを用いることが経済的観点からも好ましい。
【0036】
このようにして液中に沈殿物が生成したら、この沈殿物を濾別して水洗する。水洗の程度は、最終的に得られる酸化亜鉛の芯材粒子に含まれるハロゲンの量と関係する。この観点から、沈殿物の水洗は、洗浄水の導電率(25℃)が好ましくは1μS/cm以上10000μS/cm以下となるように行い、更に好ましくは2μS/cm以上5000μS/cm以下となるように行い、一層好ましくは5μS/cm以上4000μS/cm以下となるように行う。この条件で水洗を行うことで、最終的に得られる酸化亜鉛の芯材粒子に含まれるハロゲンの量を所望の範囲内とすることができる。
【0037】
前記の沈殿物を水洗したら、次いで該沈殿物を焼成し、目的とする酸化亜鉛の芯材粒子を得る。焼成の雰囲気としては、例えば大気などの酸化性雰囲気、水素含有雰囲気などの還元性雰囲気、及び窒素雰囲気などの不活性ガス雰囲気が挙げられる。安全性や経済性を考慮すると、大気などの酸化性雰囲気を用いることが好ましい。
【0038】
焼成の雰囲気が上述のいずれの場合であっても、焼成温度は350℃以上750℃以下であることが好ましく、400℃以上700℃以下であることが更に好ましく、450℃以上650℃以下であることが一層好ましい。この範囲の温度で焼成を行うことで、目的とする紫外線遮蔽能を有する酸化亜鉛の芯材粒子を首尾よく得ることができる。同様の観点から、焼成時間は0.5時間以上20時間以下とすることが好ましく、0.5時間以上10時間以下とすることが更に好ましく、1時間以上5時間以下とすることが一層好ましい。
【0039】
このようにして、目的とする酸化亜鉛の芯材粒子が得られる。この粒子は、必要に応じ粉砕等の後処理に付され、所望の粒径を有するものとなる。粉砕手段に特に制限はなく、各種のメディアミルを用いることができる。
【0040】
本発明の表面処理酸化亜鉛粒子は、紫外線遮蔽膜を製造するための塗布用組成物の構成成分として特に有用である。この塗布用組成物は、表面処理酸化亜鉛粒子と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含んで構成されるものである。この塗布用組成物を基材の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜から有機溶媒を除去することで、紫外線遮蔽膜を形成することができる。
【0041】
塗布用組成物の塗布の方法に特に制限はなく、従来公知の塗布方法を用いることができる。例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
【0042】
塗布用組成物に含まれるバインダー樹脂としては、例えばアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。基材としては、例えばガラス、樹脂フィルム、繊維製品、陶器などが挙げられる。
【0043】
有機溶媒としては、例えば、炭素数1以上6以下の脂肪族一価アルコール、該一価アルコールのエステル、多価アルコール、多価アルコールのエステル、メチルエチルケトン等のケトン類、エーテル類、及びトルエン等の芳香族類等が挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
塗布用組成物に含まれる表面処理酸化亜鉛粒子の割合は、該塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能を十分に高める観点から、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、7質量%以上25質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが一層好ましい。
塗布用組成物に含まれるバインダー樹脂の割合は、該塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜に十分な強度を付与する観点から、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以上15質量%以下であることが一層好ましい。
塗布用組成物に含まれる有機溶媒の割合は、該塗布用組成物を塗布するときの操作性を良好にする観点から、50質量%以上94質量%以下であることが好ましく、55質量%以上90質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以上85質量%以下であることが一層好ましい。
【0045】
塗布用組成物の別の実施形態として、上述した表面処理酸化亜鉛粒子を用いない実施形態が挙げられる。この実施形態の塗布用組成物は、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物による表面処理を施していない酸化亜鉛粒子と、ジメチルジメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも一種のシラン化合物と、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤と、バインダー樹脂と、有機溶媒とを含むものである(以下、この塗布用組成物を「第2の塗布用組成物」ともいう。)。第2の塗布用組成物を用いた場合にも、目的とする紫外線遮蔽膜を首尾よく形成できる。尤も、紫外線遮蔽膜の白化の抑制効果が一層高い観点からは、上述した表面処理酸化亜鉛粒子を含む塗布用組成物を用いることが有利である。
【0046】
第2の塗布用組成物に含まれる、表面処理を施していない酸化亜鉛粒子の割合は、該塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能を十分に高める観点から、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、7質量%以上25質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが一層好ましい。
第2の塗布用組成物に含まれるシラン化合物の割合は、該塗布用組成物中での酸化亜鉛粒子の分散性を十分に高める観点から、0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、0.8質量%以上7質量%以下であることが一層好ましい。
第2の塗布用組成物に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、該塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜の紫外線遮蔽能を十分に高める観点から、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、0.8質量%以上10質量%以下であることが一層好ましい。
第2の塗布用組成物に含まれるバインダー樹脂及び溶媒の割合は、先に述べた塗布用組成物に含まれるバインダー樹脂及び溶媒の割合と同様とすることができる。
【0047】
上述した各塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜は、背景技術の項で述べた特許文献1ないし3に記載の酸化亜鉛粒子を用いて形成された紫外線遮蔽膜に比べて経時的な白化が抑制されたものとなる。したがって、上述した各塗布用組成物から形成される紫外線遮蔽膜は、例えば紫外線遮蔽性能を有し、かつ内容物視認性や透明性を有することが求められるプラスチック軟包装や容器包装、ディスプレイ関連部材用シート、太陽電池部材用シート、農業用シートに設けられる紫外線遮蔽層として有用なものとなる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
本実施例では、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理して表面処理酸化亜鉛粒子を製造し、該表面処理酸化亜鉛粒子を用いて塗布用組成物を調製した。
【0050】
(1)酸化亜鉛の芯材粒子の合成
純度98%の硫酸亜鉛七水和物100gを純水12リットルに溶解して水溶液を得た。この操作とは別に、25%水酸化ナトリウム水溶液を1400g用意した。流量調整可能なポンプを用い、塩化亜鉛水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を連続して供給した。供給速度は40ml/分に設定した。この間、混合液を60℃に加温してpHを9-10に調整した。また、水酸化ナトリウム水溶液の供給中は、液を高速撹拌し続けた。これによって液中に、亜鉛を含む沈殿物を生成させた。
【0051】
沈殿物が生成した液を濾過し、水洗を繰り返した後に、沈殿物を150℃で乾燥させ、引き続き大気雰囲気下、550℃で1.5時間にわたり焼成した。これによって、酸化亜鉛の芯材粒子を得た。この芯材粒子をビーズミルで粉砕して所望の粒径にした。
【0052】
(2)表面処理
4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタンを酢酸エチルに溶解して溶液となした。この溶液中に酸化亜鉛の芯材粒子を添加して混合した。次いで、溶液中から芯材粒子を引き上げた後、該芯材粒子をジメチルジメトキシシラン中に添加して混合した。次いで芯材粒子を引き上げた後、大気中で150℃に加熱して、ジメチルジメトキシシランの脱水縮合反応を行い、有機シロキサン化合物を生成させた。このようにして、酸化亜鉛の芯材粒子の表面を、ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤及び有機シロキサン化合物によって処理してなる表面処理酸化亜鉛粒子を得た。表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、炭素原子換算で5.5%であり、有機シロキサン化合物の割合は、ケイ素原子換算で0.10%であった。
【0053】
(3)塗布用組成物の調製
表面処理酸化亜鉛粒子と、ウレタン樹脂と、酢酸エチルとを混合して塗布用組成物を調製した。塗布用組成物における表面処理酸化亜鉛粒子の割合は14.0%、ウレタン樹脂の割合は5.7%、酢酸エチルの割合は69.0%とした。
【0054】
〔実施例2〕
本実施例では実施例1と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理して表面処理酸化亜鉛粒子を製造し、該表面処理酸化亜鉛粒子を用いて塗布用組成物を調製した。
【0055】
(1)酸化亜鉛の芯材粒子の合成
純度99%の塩化亜鉛600gを純水12リットルに溶解して水溶液を得た。この操作とは別に、25%水酸化ナトリウム水溶液を1400g用意した。流量調整可能なポンプを用い、塩化亜鉛水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を連続して供給した。供給速度は40ml/分に設定した。この間、混合液を60℃に加温してpHを9-10に調整した。また、水酸化ナトリウム水溶液の供給中は、液を高速撹拌し続けた。これによって液中に、亜鉛を含む沈殿物を生成させた。
【0056】
沈殿物が生成した液を濾過し、その洗浄水の導電率(25℃)が400μs/cm以下になるまで水洗を繰り返した。次いで、水洗後の沈殿物を150℃で乾燥させ、引き続き大気雰囲気下、550℃で1.5時間にわたり焼成した。これによって、酸化亜鉛粒子を得た。この酸化亜鉛粒子をビーズミルで粉砕して所望の粒径にした。
【0057】
(2)表面処理及び塗布用組成物の調製
実施例1と同様とした。表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、炭素原子換算で5.5%であり、有機シロキサン化合物の割合は、ケイ素原子換算で0.10%であった。
【0058】
〔実施例3〕
本実施例では実施例1と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理して表面処理酸化亜鉛粒子を製造し、該表面処理酸化亜鉛粒子を用いて塗布用組成物を調製した。
本実施例においては、実施例1で用いたジメチルジメトキシシランに代えてフェニルトリメトキシシランを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理酸化亜鉛粒子及びそれを含む塗布用組成物を得た。表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、炭素原子換算で5.5%であり、有機シロキサン化合物の割合は、ケイ素原子換算で0.10%であった。
【0059】
〔実施例4〕
本実施例では実施例2と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理して表面処理酸化亜鉛粒子を製造し、該表面処理酸化亜鉛粒子を用いて塗布用組成物を調製した。
本実施例においては、実施例2で用いたジメチルジメトキシシランに代えてフェニルトリメトキシシランを用いた。これ以外は実施例2と同様にして、表面処理酸化亜鉛粒子及びそれを含む塗布用組成物を得た。表面処理酸化亜鉛粒子に含まれるジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤の割合は、炭素原子換算で5.5%であり、有機シロキサン化合物の割合は、ケイ素原子換算で0.10%であった。
【0060】
〔実施例5〕
本実施例では、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。詳細には以下に示す成分を、以下に示す組成で混合して塗布用組成物を調製した。
・実施例1で合成した酸化亜鉛の芯材粒子 13%
・ジメチルジメトキシシラン 1%
・4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 1%
・ウレタン樹脂 6%
・酢酸エチル 残部
【0061】
〔実施例6〕
本実施例では、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。詳細には以下に示す成分を、以下に示す組成で混合して塗布用組成物を調製した。
・実施例2で合成した酸化亜鉛の芯材粒子 13%
・ジメチルジメトキシシラン 1%
・4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 1%
・ウレタン樹脂 6%
・酢酸エチル 残部
【0062】
〔実施例7〕
本実施例では、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。詳細には以下に示す成分を、以下に示す組成で混合して塗布用組成物を調製した。
・実施例1で合成した酸化亜鉛の芯材粒子 13%
・フェニルトリメトキシシラン 1%
・4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 1%
・ウレタン樹脂 6%
・酢酸エチル 残部
【0063】
〔実施例8〕
本実施例では、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。詳細には以下に示す成分を、以下に示す組成で混合して塗布用組成物を調製した。
・実施例2で合成した酸化亜鉛の芯材粒子 13%
・フェニルトリメトキシシラン 1%
・4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン 1%
・ウレタン樹脂 6%
・酢酸エチル 残部
【0064】
〔比較例1〕
本比較例では実施例6と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。ただし、本比較例においては、実施例6で用いたジメチルジメトキシシランに代えてメチルトリメトキシシランを用いた。これ以外は実施例6と同様にして、表面処理酸化亜鉛粒子及びそれを含む塗布用組成物を得た。
【0065】
〔比較例2〕
本比較例では実施例6と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。ただし、本比較例においては、実施例6で用いたジメチルジメトキシシランに代えてメチルトリエトキシシランを用いた。これ以外は実施例6と同様にして、表面処理酸化亜鉛粒子及びそれを含む塗布用組成物を得た。
【0066】
〔比較例3〕
本比較例では実施例6と同様に、酸化亜鉛の芯材粒子を表面処理せずに使用して塗布用組成物を調製した。ただし、本比較例においては、実施例6で用いたジメチルジメトキシシランを用いなかった。これ以外は実施例6と同様にして、表面処理酸化亜鉛粒子及びそれを含む塗布用組成物を得た。
【0067】
〔評価〕
実施例及び比較例で合成した酸化亜鉛の芯材粒子について、相対スペクトル吸収強度、ハロゲンの含有量及び一次粒子径を上述の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
また、実施例及び比較例で得られた塗布用組成物を、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム(厚さ100μm、東レ株式会社製のT-60(商品名))に塗布した。塗布にはバーコーター(#7)を用いた。塗布量は3g/mとした。このようにして得られた塗膜を大気下に80℃で乾燥した。乾燥時間は15分とした。これによって得られた膜についてヘイズをヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、NDH-4000)によって測定した。測定は、膜の形成直後、及び膜の形成後、該膜を40℃、80%RHに保った恒温恒湿槽内に24時間保管後に行った。測定されたヘイズの値からヘイズ上昇率を算出した。その結果を表1に示す。ヘイズ上昇率の算出は以下に示す式を用いて行った。
ヘイズ上昇率(%)=(H2-H1)/H1×100
H1:膜の形成直後のヘイズ
H2:膜を形成して24時間(40℃、80%RH)経過後のヘイズ
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例の塗布用組成物から形成された膜は、比較例の塗布用組成物から形成された膜に比べて、経時後の白化が防止されていることが判る。