(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】細胞培養用立体足場、その製造方法、それを用いた細胞播種方法及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230424BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230424BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2019210643
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599029420
【氏名又は名称】田畑 泰彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】夏原 久美子
(72)【発明者】
【氏名】島田 直樹
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特許第7038368(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/235745(WO,A1)
【文献】特開2004-148014(JP,A)
【文献】特表2014-514942(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068266(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布及びゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された細胞培養用立体足場において、
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が少なくとも部分的に溶着しており、
前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層され、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着しており、
前記ゼラチン不織布は、厚みが0.1mm以上2.0mm以下であり、
前記ゼラチン不織布は、目付が10g/m
2
以上600g/m
2
以下であり、
前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfとの比Tf/Tnが
1.0×10
-3
以上7.5×10
-3以下であることを特徴とする細胞培養用立体足場。
【請求項2】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムは、熱脱水架橋されている請求項1に記載の細胞培養用立体足場。
【請求項3】
前記ゼラチンフィルムは、厚みが0.
5μm以上
10μm以下である請求項1又は2に記載の細胞培養用立体足場。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の細胞培養用立体足場の製造方法であって、
ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、
前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、
前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、ゼラチンを主成分とするゼラチンフィルム上に前記繊維形成した繊維を集積させてゼラチン不織布とすることで、前記ゼラチンフィルムと前記ゼラチン不織布の積層体を得ることを特徴とする細胞培養用立体足場の製造方法。
【請求項5】
前記積層体を熱脱水架橋する請求項
4に記載の細胞培養用立体足場の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の細胞培養用立体足場を用いた細胞播種方法であって、
培養容器中に膨潤後の細胞培養用立体足場をゼラチンフィルムが培養容器の内底面に接するように配置する工程、及び
細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下する工程を含むことを特徴とする細胞播種方法。
【請求項7】
前記培養容器の内面が親水化処理されており、前記細胞培養用立体足場の膨潤後のサイズLsと前記細胞培養用立体足場を配置して細胞培養を行う培養容器の内底面のサイズLbの比Ls/Lbが1.05倍以上1.3倍以下である請求項
6に記載の細胞播種方法。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の細胞播種方法において、細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して
3~4時間静置した後、液体培地を添加して細胞培養を行う細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞播種効率が高く、細胞培養に適した細胞培養用立体足場、その製造方法、それを用いた細胞播種方法及び細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維シートは、有孔度や比表面積の高さから、医療用及び細胞培養の足場等に有用である。特に生体適合性ポリマーを用いた繊維シートは、医療用及び細胞培養の足場として好適に用いられている。例えば、特許文献1には、ガーゼやスポンジ等の支持体上に、ゼラチン、コラーゲン及びセルロース等の生体高分子からなるナノファイバーを形成させて培養基材として用いることが記載されている。特許文献2には、平均繊維径が1~70μmの生体適合性長繊維の繊維交点を部分的に溶着させた生体適合性長繊維不織布を細胞培養用足場として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2014/196549号
【文献】WO2018/235745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の培養基材のように、ナノファイバーを用いた緻密な素材の場合、細胞が培養基材表面に留まりやすいという問題がある。また、特許文献2に記載の足場では、繊維径が大きすぎたり、不織布の目付が低いと疎な素材となり、細胞が足場内部を貫通して足場から脱落してしまう問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、細胞播種時に足場内部に細胞が侵入しやすく、かつ足場からの細胞の脱落を抑制することができる細胞培養用立体足場、その製造方法及びこれを用いた細胞培養方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布及びゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成された細胞培養用立体足場において、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が少なくとも部分的に溶着しており、前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布の一方の表面に積層され、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着しており、前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfの比Tf/Tnが7.5×10-3以下であることを特徴とする細胞培養用立体足場に関する。
【0007】
本発明は、また、前記細胞培養用立体足場の製造方法であって、ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、ゼラチンを主成分とするゼラチンフィルム上に前記繊維形成した繊維を集積させてゼラチン不織布とすることで、前記ゼラチンフィルムと前記ゼラチン不織布の積層体を得ることを特徴とする細胞培養用立体足場の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、また、前記の細胞培養用立体足場を用いた細胞培養方法であって、培養容器中に膨潤後の細胞培養用立体足場をゼラチンフィルムが培養容器の内底面に接するように配置する工程、及び細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下する工程を含むことを特徴とする細胞培養方法に関する。
【0009】
本発明は、また、前記の細胞播種方法において、細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下して所定時間静置した後、液体培地を添加して細胞培養を行う細胞培養方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、細胞播種時に、足場内部に細胞が侵入しやすく、かつ足場からの細胞の脱落を抑制することができる細胞培養用立体足場を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、バインダー成分や熱圧着手段を用いることなく、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化された積層体で構成された細胞培養用立体足場を得ることができる。
また、本発明の細胞播種方法によれば、足場内部に細胞が侵入しやすく、かつ足場からの細胞の脱落を抑制することができる。
また、本発明の細胞培養方法によれば、細胞の3次元培養を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の一実施例で得られた細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図2】
図2は同、細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(500倍)の写真である。
【
図3】
図3は本発明の他の一実施例で得られた細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図4】
図4は同、細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(500倍)の写真である。
【
図5】
図5は本発明の他の一実施例で得られた細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図6】
図6は同、細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(500倍)の写真である。
【
図7】
図7は本発明の一比較例で得られた細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図8】
図8は同、細胞培養用立体足場(積層体)の走査型電子顕微鏡(500倍)の写真である。
【
図9】
図9は本発明の他の一比較例で得られた細胞培養用立体足場(不織布)の走査型電子顕微鏡(100倍)の写真である。
【
図10】
図10は本発明の一実施例で使用する細胞培養用立体足場(積層体)を製造する製造装置の模式的説明図である。
【
図11】
図11は、実施例1の細胞培養用立体足場に細胞播種後4時間静置し、ゼラチン不織布に細胞を接着させた後の足場切片のヘマトキシリンエオジン染色結果を示す写真である。
【
図12】
図12は、同ゼラチン不織布部分の拡大写真である。矢じりは細胞を示す。
【
図13】
図13は、同ゼラチンフィルム部分の拡大写真である。矢じりは細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発明者らは、上述した問題を解決するため、検討を重ねた。その結果、細胞培養用立体足場を、ゼラチンを主成分とするゼラチン不織布と、ゼラチンを主成分とするゼラチンフィルムを含む積層体で構成し、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維の平均繊維径を2μm以上400μm以下とし、繊維交点を少なくとも部分的に溶着させ、前記ゼラチン不織布の一方の表面に前記ゼラチンフィルムを積層して前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着させるとともに、前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfの比Tf/Tnを7.5×10-3以下にすることで、細胞播種時に、足場内部に細胞が侵入しやすく、かつ足場からの細胞の脱落を抑制することができる細胞培養用立体足場を提供する。本発明において、「膨潤」とは、水、緩衝液又は液体培地で飽和状態まで膨潤することを意味する。
【0013】
前記ゼラチン不織布において、ゼラチン繊維の膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、繊維交点が部分的に溶着していることにより、ゼラチン不織布は嵩高いブリッジ構造となり、細胞播種時に細胞が足場に侵入しやすい。また、水を含んだ場合でも不織布の力学強度が劣らず、細胞培養時における不織布の変形の抑制、内部構造(空隙)の維持、細胞親和性の高いゼラチン繊維を用いることで、細胞の生理学的環境が整えられたことで、細胞培養時に不織布内側及び外側で細胞が増殖でき、細胞の3次元組織化が可能になると考えられる。
【0014】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維とゼラチンフィルムが部分的に溶着することで、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化されていることで、細胞が足場を貫通して細胞から脱落することが抑制される。また前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfの比Tf/Tnが7.5×10-3以下である、すなわちゼラチンフィルムが適切な厚みを有することで、膨潤後における積層体の反りが抑制され、細胞懸濁液が積層体の側面に流出しにくくなり、それゆえ、足場からの細胞の脱落が抑制される。さらに、細胞培養時に積層体が膨潤した場合でも、ゼラチン不織布にゼラチンフィルムが追従しやすく、ゼラチンフィルムの剥離や破壊が生じにくい。
【0015】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムは、いずれも、ゼラチンを主成分とする。本発明において、主成分とは、ゼラチンを90質量%以上含むことを意味する。10質量%以下の他の成分は、必要に応じて、他の生体適合性ポリマー、架橋剤、薬剤、可塑剤、他の添加剤等であってもよい。実質的に100質量%のゼラチンであってもよい。本発明の細胞培養用立体足場は、安全性が高く、生体吸収性に優れるゼラチンを主成分とすることから、該足場は、生体に移植して再生治療用、細胞研究及び創薬研究に必要となる三次元培養組織体等として好適に用いることができる。
【0016】
前記ゼラチンの原材料となるコラーゲンが由来する動物の種類や部位は特に限定されない。コラーゲンは、例えば脊髄動物由来でもよく、魚由来でもよい。また、真皮、靭帯、腱、骨、軟骨等の様々な器官や組織由来のコラーゲンを適宜用いることができる。また、コラーゲンからゼラチンを調製する方法も特に限定されず、例えば酸処理、アルカリ処理、及び酵素処理等が挙げられる。前記ゼラチンの分子量も特に限定されず、様々な分子量のものを適宜選択して用いることができる。また、ゼラチンは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記ゼラチンは、特に限定されないが、適度な柔軟性及び硬さを有し、足場のハンドリング性を高める観点から、ゼリー強度が100g以上400g以下であることが好ましく、より好ましくは150g以上360g以下である。本発明において、ゼリー強度は、JIS K 6503に準じて測定する。前記ゼラチンは、市販品であってもよい。
【0018】
前記他の生体適合性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、天然高分子や合成高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばタンパク質や多糖類が挙げられる。タンパク質としては、例えばコラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、フィブリン等が挙げられる。多糖類としては、例えばキトサン、アルギン酸カルシウム、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、 デンプン、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム等の天然高分子を用いてもよく、カルボキシメチルセルロース等の天然高分子の誘導体を用いてもよい。合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコールポロエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、シクロオレフィンポリマー、アモルファスフッ素樹脂等の非吸収性の合成高分子や、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン等の生体吸収性高分子等が挙げられる。上述した他の生体適合ポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0019】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、膨潤後の平均繊維径が2μm以上400μm以下であり、好ましくは5μm以上300μm以下であり、より好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上100μm以下である。ゼラチン繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、細胞培養用立体足場のゼラチン不織布の表面上に細胞を播種した際、細胞が細胞培養用立体足場に侵入しやすい上、細胞培養用立体足場の内部に均一に分布しやすい。本発明において、「膨潤後の平均繊維径」は、膨潤後の細胞培養用立体足場におけるゼラチン不織布から任意に選択した50本の繊維の直径の平均値を意味する。
【0020】
前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維は、繊維交点が部分的に溶着している。この部分的溶着は、後述するように、細胞培養用立体足場の製造時に圧力流体によって吹き飛ばされたゼラチン繊維が堆積する際に、完全に固化していない状態の時に発現する。この部分的溶着により、ゼラチン不織布はブリッジ構造となり、嵩高く低密度であり、所望の形に成形しやすく、かつ成形安定性も高いものとなる。本発明において、繊維交点が部分的に溶着していることにより、ゼラチン不織布は水に濡れてもへたらない。また、ゼラチン不織布において、繊維交点は一部が溶着してもよく、繊維交点の全部が溶着してもよい。
【0021】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、ハンドリング性及び細胞の侵入性を高める観点から、厚みが0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましく、0.4mm以上であることが特に好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、厚みが2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。
【0022】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の脱落を抑制する観点から、目付が10g/m2以上であることが好ましく、25g/m2以上であることがより好ましく、50g/m2以上であることがさらに好ましく、100g/m2以上であることが特に好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の侵入性及び3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、目付が600g/m2以下であることが好ましく、500g/m2以下であることがより好ましく、400g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0023】
前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の侵入性及び3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、細孔径が20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましい。また、前記ゼラチン不織布は、特に限定されないが、例えば、細胞の脱落を抑制する観点から、細孔径が400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。本発明において、ゼラチン不織布の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式(1)にて算出することができる。
【数1】
【0024】
前記ゼラチンフィルムは、前記ゼラチン不織布の一方の表面に配置されており、前記ゼラチン不織布を構成するゼラチン繊維と部分的に溶着している。この部分的溶着は、後述するように、細胞培養用立体足場の製造時に圧力流体によって吹き飛ばされたゼラチン繊維がゼラチンフィルム上に堆積する際に、完全に固化していない状態の時に発現する。この部分的溶着により、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化されており、細胞が足場を貫通して細胞から脱落することが抑制される。
【0025】
前記ゼラチン不織布の厚みTnと前記ゼラチンフィルムの厚みTfの比Tf/Tnが7.5×10-3以下である。これにより、膨潤後における積層体の反りが抑制され、細胞懸濁液が積層体の側面に流出しにくくなり、それゆえ、足場からの細胞の脱落が抑制される。さらに、積層体が膨潤した場合でも、ゼラチン不織布にゼラチンフィルムが追従しやすく、ゼラチンフィルムの剥離や破壊が生じにくい。前記Tf/Tnは、7.0×10-3以下であることが好ましく、6.0×10-3以下であることがより好ましい。また、前記Tf/Tnは、ゼラチンフィルムの剥離や破壊を抑制しやすい観点から、1.0×10-3以上であることが好ましく、1.5×10-3以上であることがより好ましい。
【0026】
前記ゼラチンフィルムは、一例として、簡便性及びハンドリング性の観点から、厚みが0.5μm以上であることが好ましく、0.6μm以上であることがより好ましく、0.7μm以上であることがさらに好ましく、0.8μm以上であることが特に好ましい。また、前記ゼラチンフィルムは、一例として、ゼラチン不織布との一体性及び細胞の3次元培養の効率を高める観点から、厚みが10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましく、4μm以下であることが特に好ましい。
【0027】
前記ゼラチンフィルムは、無孔フィルムであることが好ましいが、細胞が貫通しないぐらいの大きさ、例えば細孔径が10μm以下又は5μm以下程度の微小孔を有してもよい。
【0028】
前記積層体は、特に限定されないが、例えば、細胞培養時に強度を保ち、3次元培養における細胞の生存率を高める観点から、水で飽和状態まで膨潤した後における1.0kPaの圧縮応力時の圧縮変形率(以下において、単に「圧縮変形率」とも記す。)が40%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、30%以下がさらに好ましい。前記飽和状態とは、水が最大限に含まれた状態であり、水の含有量が一定限度にとどまりそれ以上増えない状態を意味する。本明細書において、圧縮変形率は、水で飽和状態まで膨潤した後の積層体において、無荷重の時の厚さを(H1)とし、1.0kPaの圧縮応力時の厚さを(H2)とした場合、下記式で算出したものである。圧縮試験は、後述のとおりに行う。
圧縮変形率(%)=100-{(H2/H1)×100}
【0029】
前記ゼラチン不織布及び前記ゼラチンフィルムは、耐水性を高め、細胞培養時の形態を維持しやすく、効果的に細胞の3次元培養を行う観点から、架橋されていることが好ましい。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、又は架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられ、簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。
【0030】
本発明の1以上の実施形態において、前記ゼラチン不織布とゼラチンフィルムの積層体は、細胞接着因子、細胞誘導因子、細胞増殖因子、細胞に栄養やエネルギーを与える物質、細胞の機能を抑制または亢進する物質等でコーティングされてもよい。細胞接着因子としては、特に限定されないが、例えば、フィブロネクチン等が挙げられる。細胞に栄養やエネルギーを与える物質としては、特に限定されないが、例えば、ATP、ピルビン酸、グルタミン等が挙げられる。また、本発明の1以上の実施形態において、前記ゼラチン不織布とゼラチンフィルムの積層体を細胞誘導因子、細胞増殖因子等の生理活性物質を含む溶液に浸して、これらの成分を含ませてもよい。細胞培養過程において、積層体から、これらの生理活性物質が徐々に放出されることで、細胞培養を促進することができる。
【0031】
本発明の1以上の実施形態において、細胞培養用立体足場は、特に限定されないが、夾雑物の発生を抑制し、製品汚染を防ぐとともに、バインダー成分や熱圧着手段を用いることなく、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムを一体化する観点から、ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から空気中に押し出し、前記ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、ゼラチンを主成分とするゼラチンフィルム上に前記繊維形成した繊維を集積させてゼラチン不織布とすることで、前記ゼラチンフィルムと前記ゼラチン不織布の積層体を得ることで作製することが好ましい。
【0032】
前記ゼラチンフィルムは、特に限定されず、公知のフィルムの製造方法で作製することができる。例えば、ゼラチン溶液を基材表面に塗布した後、乾燥することで作製することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ガラス板、ポリスチレンシート、フッ素樹脂シート等を用いることができる。PETフィルム、ガラス板、ポリスチレンシート、フッ素樹脂シート等は撥水処理されてもよい。
【0033】
前記ゼラチン溶液は、ゼラチン単独、或いは、必要に応じてゼラチンと上述した他の成分として用いることができる他の生体適合ポリマーを溶媒に溶解することで得ることができる。溶媒としては、例えば、水、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、グリセリン等のアルコール類、あるいはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、取扱い性の観点から、蒸留水、純水、超純水、イオン交換水等の水を用いることが好ましい。ゼラチンが水溶性であることで、水溶液の状態でフィルム化に用いることができ、生体に対する安全性が高くなる。
【0034】
ゼラチンの濃度は、特に限定されないが、例えば、成膜性及び流延性の観点から、ゼラチン溶液を100質量%とした時、0.1質量%以上35質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。溶解温度(溶媒の温度)は10℃以上90℃以下が好ましく、20℃以上80℃以下であることがより好ましく、30℃以上70℃以下であることがさらに好ましい。必要に応じて、ゼラチンを溶媒に溶解した後、フィルトレーションして異物やごみ等を除去してもよい。また、必要に応じて、その後、減圧又は真空脱泡して溶解空気を除去してもよい。効率よく気体(気泡)を除去する観点から、減圧脱泡時の真空度は5kPa以上30kPa以下であることが好ましい。
【0035】
前記乾燥は特に限定されず、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥(真空乾燥)、強制排気乾燥、強制循環対流等により行うことができる。具体的に、乾燥温度は、例えば、-40℃以上90℃以下であってもよく、0℃以上60℃以下であってもよく、10℃以上40℃以下であってもよい。また、乾燥時間は、例えば、1~200時間の範囲であってもよく、好ましくは3~100時間の範囲であり、より好ましくは5~48時間の範囲である。
【0036】
本発明で用いるメルトブロー法は、ゼラチンを含む紡糸液をノズル吐出口から押し出し、ノズル吐出口の後方に位置し、前記ノズル吐出口とは非接触状態の流体噴射口から前方に向けて圧力流体を噴射し、前記押し出された紡糸液を前記圧力流体に随伴させて乾式でダイレクトに繊維化し、得られたゼラチン繊維をゼラチンフィルム上に集積させて不織布にすることから、コンタミ(夾雑物)の発生は防止され、衛生的に製造できる。紡糸後に繊維を集積(堆積)させる時に繊維同士が、水分を含んだ状態で積層されるため、繊維同士が溶着したり互いに絡んで一体化されるとともに、該不織布を構成するゼラチン繊維がゼラチンフィルムと溶着してゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化する。繊維を堆積させる際の捕集距離を変えることで、容易に不織布密度を変えることができる。
【0037】
図10は本発明の一実施例で使用する細胞培養用立体足場の製造装置の模式的説明図である。細胞培養用立体足場の製造装置20において、加温槽1に入れたゼラチンを含む紡糸液2をノズル吐出口3から空気中に押し出す。加温槽1にはコンプレッサー4により、所定の圧力をかけておく。12は保温容器である。
また、ノズル吐出口3の後方に位置し、ノズル吐出口3とは非接触状態の流体噴射口5から前方に向けて圧力流体7を噴射させる。流体噴射口5にはコンプレッサー6から圧力流体(例えば圧空)が供給される。流体噴射口5とノズル吐出口3との距離は5~30mmが好ましい。
押し出された紡糸液は圧力流体7に随伴されてゼラチン繊維8となり、巻き取りロール11上に配置されたゼラチンフィルム10上でゼラチン不織布9となって堆積される。この時、堆積された繊維は水分を含んでいたり、完全には固化していないので、繊維交点の少なくとも一部において接している繊維が互いに溶着するとともに、不織布を構成するゼラチン繊維がゼラチンフィルムと溶着してゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化する。なお、巻き取りロールに変えてネット等の他の捕集手段を用いてもよい。
【0038】
まず、ゼラチン単独、或いは、必要に応じてゼラチンと上述した他の成分として用いることができる他の生体適合ポリマーを溶媒、好ましくは水に溶解して紡糸液を調製する。溶解温度(水等の溶媒の温度)は20℃以上90℃以下が好ましく、40℃以上90℃以下であることがより好ましい。必要に応じて、ゼラチンを水等の溶媒に溶解した後、フィルトレーションして異物やごみ等を除去してもよい。また、必要に応じて、その後、減圧又は真空脱泡して溶解空気を除去してもよい。効率よく気体(気泡)を除去する観点から、減圧脱泡時の真空度は5kPa以上30kPa以下であることが好ましい。ゼラチンが水溶性であることで、紡糸液として水溶液の状態で紡糸でき、生体に対する安全性が高くなる。水としては、例えば、純水、蒸留水、超純水等を適宜用いることができる。なお、他の成分として、他の生体適合性水溶性高分子を用いる場合、ゼラチンと同時に水に溶解することで、紡糸液を調製することができる。
【0039】
前記紡糸液の温度は20℃以上90℃以下であることが好ましく、40℃以上90℃以下であることがより好ましい。前記の範囲であればゼラチンは安定したゾル状態を維持できる。また、前記ゼラチン水溶液のゼラチン濃度は、ゼラチン水溶液を100質量%とした時、30質量%以上55質量%以下であることが好ましい。さらに好ましい濃度は35質量%以上50質量%以下である。前記の濃度であれば安定したゾル状態を維持できる。前記ゼラチン水溶液(紡糸液)の粘度は500mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましい。ゼラチン水溶液の粘度が前記の範囲であれば安定した紡糸ができる。
【0040】
前記紡糸液を紡糸機のノズルから吐出し、前記ノズル周囲から圧力流体を供給し、前記吐出したゼラチン水溶液を前記圧力流体に随伴させて繊維形成させ、得られたゼラチン繊維をゼラチンフィルム上で集積させてゼラチン不織布とする。ノズルの吐出圧は、特に限定されないが、例えば0.1MPa以上1MPa以下であってもよい。
【0041】
前記圧力流体の温度は、20℃以上120℃以下であることが好ましく、80℃以上120℃以下であることがより好ましい。圧力流体の流速及び周囲雰囲気の温度にもよるが、前記の温度範囲であれば安定した紡糸ができる。圧力流体は空気を使用することが好ましく、圧力は0.1MPa以上1MPa以下であることが好ましい。前記の範囲であれば、ノズル吐出口から空気中に押し出された紡糸液を吹き飛ばして繊維化できる。
【0042】
前記ゼラチン不織布において、ゼラチン繊維の膨潤後の平均繊維径は2μm以上400μm以下であり、好ましくは5μm以上300μm以下であり、より好ましくは10μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは15μm以上100μm以下である。ノズル径(内径)等適宜を調整することで、所望の平均繊維径を有する前記ゼラチン不織布を得ることができる。
【0043】
前記ゼラチン不織布及びゼラチンフィルムの積層体は、架橋することが好ましい。これにより形態安定性及び耐水性を高めることができる。架橋は、架橋剤等の化合物を用いた化学架橋であってもよいが、生体安全性の観点から、生体安全性を有する架橋剤を用いる架橋、架橋剤を用いない架橋であることが好ましい。架橋剤を用いない架橋としては、例えば、熱架橋、電子線架橋、γ線等の放射線架橋、紫外線架橋等が挙げられる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌と架橋を同時にすることもできる。簡便に所望の架橋効果を得やすい観点から、熱架橋であることが好ましく、熱脱水架橋であることがより好ましい。熱脱水架橋は、例えば、100℃以上160℃以下で、24時間以上96時間以下行ってもよい。また、熱脱水架橋は、例えば、1kPa以下の真空下で行ってもよい。前記積層体は、架橋する前に乾燥してもよい。乾燥は、室温における風乾でもよく、真空凍結乾燥でもよい。
【0044】
ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化された積層体を必要に応じて所定の形状や大きさにカットして細胞培養用立体足場として用いることができる。ゼラチンは生体適合性、生分解性を有することから、ゼラチン不織布とゼラチンフィルムが一体化された積層体は、医療用又は細胞培養の足場用に好適である。細胞培養用立体足場は、使用時に、エチレンオキサイドガス滅菌、水蒸気(オートクレーブ)、電子線照射、γ線等の放射線照射等で滅菌したり、エタノール処理等で殺菌することができる。電子線照射、γ線等の放射線照射の場合は、滅菌とともに架橋を同時にすることもできる。
【0045】
上記ゼラチンフィルムや積層体の製造工程は、例えば、クリーンベンチ、クリーンルーム内で無菌的に行うことが好ましい。作業中における雑菌の繁殖によって、ゼラチンフィルムや積層体が汚染することを防止することができる。使用する製造器具は、例えば、オートクレーブ、電子線照射、γ線等の放射線照射等で滅菌処理されたものを使用することが好ましい。また、上記ゼラチン溶液も、例えば、従来公知のフィルターろ過滅菌を行ってから前記フィルム製造工程に供することが好ましい。
【0046】
本発明において、一例として、架橋させた後の積層体を所定の形に打ち抜く等して成形し、細胞培養用足場とする。或いは、水、緩衝液又は所定の液体培地で膨潤した後に、目的の細胞培養用足場とする。
【0047】
前記細胞培養用足場を用いて細胞播種を行うと、足場からの細胞の脱落が抑制され、播種効率が高まる。具体的には、培養容器中に膨潤後の細胞培養用立体足場をゼラチンフィルムが培養容器の内底面に接するように配置し、細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下することで、細胞を播種することができる。足場の配置は、具体的には、ピンセットで足場の端部を把持して行うことができる。
【0048】
培養容器としては、特に限定されないが、例えば、ディッシュ、プレート、及びフラスコ等を用いることができる。細胞接着を促進するために内面を親水化処理した培養容器であってもよく、このような処理を行っていない未処理培養容器であってもよい。
【0049】
培養容器として、細胞接着を促進するために内底面等の内面を親水化処理した培養容器を用いる場合は、前記細胞培養用立体足場の膨潤後のサイズ(例えば、直径)Lsと前記細胞培養用立体足場を配置して細胞培養を行う培養容器の内底面のサイズ(例えば、直径)Lbの比Ls/Lbが1.01倍以上1.30倍以下であることが好ましく、1.05培以上1.25倍以下であることがより好ましく、1.10倍以上1.20倍以下であることがさらに好ましい。これにより、細胞培養用立体足場と培養容器の側面との密着性が良好になり、細胞播種時に細胞が足場の周囲を回り込んで足場から脱落することが抑制される。ここで、Ls及びLbは、それぞれ、膨潤後の細胞培養用立体足場をゼラチンフィルムが培養容器の内底面に接するように配置した後、所定の配置箇所において測定した培養容器の内底面のサイズ及びその配置箇所における細胞培養用立体足場の膨潤後のサイズを意味する。例えば、培養容器の内底面が円形の場合は、細胞培養用立体足場の膨潤後のサイズLsは細胞培養用立体足場の膨潤後の直径に該当し、培養容器の内底面のサイズLbは培養容器の内底面の直径に該当する。
【0050】
本発明において、細胞は、動物細胞であればよく、その由来は特に限定されない。動物としては、ヒトでもよく、ヒト以外の動物でもよい。ヒト以外の動物としては、例えば、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の有蹄類等が挙げられる。また、本発明において、細胞は、個々の細胞、細胞株、初代培養等培養で得られる細胞等を含む。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、体細胞、幹細胞、前駆細胞、生殖細胞、免疫細胞等が挙げられる。
【0051】
体細胞は、生体を構成する体細胞や体細胞から派生した癌細胞を含む。生体を構成する体細胞としては、特に限定されず、例えば、線維芽細胞、筋細胞、内皮細胞、骨芽細胞、内皮細胞、膀胱細胞、肺細胞、骨細胞、神経細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、中皮細胞等が挙げられる。癌細胞としては、特に限定されず、例えば、乳癌細胞、腎癌細胞、前立腺癌細胞、肺癌細胞、肝癌細胞、子宮頸癌細胞、食道上皮癌、膵癌、大腸癌、膀胱癌等が挙げられる。
【0052】
幹細胞は、様々な特殊化した細胞型へ分化する可能性がある細胞である。幹細胞としては、特に限定されず、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性癌腫細胞(EC)、胚性生殖幹細胞(EG)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、成体幹細胞、胚盤胞由来幹細胞、生殖隆起由来幹細胞、奇形腫由来幹細胞、オンコスタチン非依存性幹細胞(OISC)、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、羊水由来間葉系幹細胞、皮膚由来間葉系幹細胞、骨膜由来間葉系幹細胞等が挙げられる。
【0053】
前駆細胞は、前記幹細胞から発生し生体を構成する最終分化細胞へ分化することができる細胞である。
【0054】
生殖細胞としては、精子、精細胞、卵子、卵細胞等が挙げられる。
【0055】
免疫細胞としては、特に限定されないが、例えば、マクロファージ、リンパ球、樹状細胞等が挙げられる。
【0056】
上述した細胞は、1種を単独で用いてもよく、目的等に応じて2種以上を併用してもよい。
【0057】
細胞培養用立体足場の単位表面積当たりの細胞の播種量は、特に限定されず、細胞種類、足場の厚み及び目付等に基づいて適宜決めることができるが、例えば、高密度に播種する観点から、200細胞/mm2以上20000細胞/cm2以下であることが好ましく、2000細胞/mm2以上15000細胞/mm2以下であることがより好ましく、4000細胞/mm2以上12000細胞/mm2以下であることがさらに好ましい。
【0058】
前記液体培地としては、特に限定されず、細胞の種類に応じて、細胞の生存増殖に必要な成分を含むものを適宜用いることができる。前記培地は、血清、抗生物質及び成長因子等を含んでもよい。血清は、例えば、ウシ血清、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清等を適宜用いることができる。抗生物質は、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、アンフォテリシン、アンピシリン、ミノマイシン、カナマイシン等を適宜用いることができる。成長因子は、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子等を適宜用いることができる。
【0059】
本発明の1以上の実施形態において、細胞培養用立体足場のゼラチン不織布上に細胞懸濁液を滴下した後、所定時間例えば3~4時間静置して細胞を接着させるための前培養を行った後に、液体培地を添加して細胞培養を行うことができる。
【0060】
培養は、例えば、27℃以上40℃以下で行ってもよく、31℃以上37℃以下であってもよい。二酸化炭素は、2%以上10%以下の範囲であってもよい。
【0061】
培養時間は、細胞種類、細胞数等に応じて適宜決めればよいが、例えば、2~8日継続して培養してもよく、3~7日継続して行ってもよく、4~6日継続して行ってもよい。培地は、2~3日毎に交換してもよい。
【0062】
一例として、細胞播種4時間後に細胞が細胞培養用立体足場に接着したのを確認してから、培養容器中に液体培地を加え、所定条件(例えば温度37℃、5%CO2)のインキュベーター中で静置培養してもよい。液体培地は、2~3日毎に交換してもよい。或いは、細胞播種後に、培養容器中に液体培地を加え、37℃、5%CO2のインキュベーター中に置いたマグネティックスターラー上で液体培地を撹拌して循環させながら、撹拌培養してもよい。3~4日毎に、液体培地を半分量除き、等量の新たな液体培地を加えることで、培地交換を行ってもよい。或いは、細胞播種後に、培養容器中に液体培地を加え、37℃、5%CO2のインキュベーター中で振とうさせながら培養してもよい。3~4日毎に、液体培地を半分量除き、等量の新たな液体培地を加えることで、培地交換を行ってもよい。本発明の細胞培養用立体足場は、水に濡れると透明になるため、培養液中で倒立顕微鏡により足場の内部まで観察することができる。
【0063】
上記のように細胞培養用立体足場に細胞を播種し、細胞培養を行うと、細胞が足場内部に侵入しやすく、細胞が足場からの脱落が抑制されていることから、安定的に目的とする3次元細胞を行うことができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0065】
測定・評価方法は下記のとおりである。
<平均繊維径>
膨潤後の足場を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製、型番BZ-X700)で観察し、任意に選択した50本の繊維を用いて、膨潤後の平均繊維径を測定した。
<厚み>
積層体の断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製FlexSEM1000、100倍及び500倍)で観察し、得られた走査型電子顕微鏡写真から任意に選択した10か所のゼラチンフィルム層厚み、ゼラチン不織布の厚み、及び積層体の厚みを計測し、平均値を算出した。
<目付(単位面積あたりの質量)>
ゼラチン不織布の目付はJIS L 1913に準じて測定した。
<見掛密度>
ゼラチン不織布の密度は不織布の厚み及び目付に基づいて算出した。
<細孔径>
ゼラチン不織布の細孔径は、Wrotnowskiの仮定に基づいて、下記計算式(1)にて算出することができる。
【数2】
【0066】
(実施例1)
<積層体(細胞培養用立体足場)の作製>
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g、原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=92.5:7.5の質量比(ゼラチン濃度7.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。このゼラチン水溶液を、ポリテトラフルオロエチレンフィルム(膜厚50μm)上に、TP技研株式会社製バーコーターNo.20で塗布し、室温で一晩風乾させることによりゼラチンフィルムを得た。
次いで、ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g、原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=3:5の質量比(ゼラチン濃度37.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。60℃における粘度は960~970mPa・sであった。このゼラチン水溶液を紡糸液とし、
図10に示す製造装置を使用して、巻き取りロール上に配置されたゼラチンフィルム上にゼラチン繊維を集積して不織布にすることで積層体を製造した。紡糸液の温度は60℃、ノズル直径(内径)250μm、吐出圧0.2MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.375MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした。積層体は室温で一晩風乾し、次いで加熱脱水架橋させた。架橋条件は温度140℃、48時間とした。
得られた積層体を精製水で膨潤後に直径7mmの円柱に打ち抜き、細胞培養用立体足場を作製した。
なお、積層体において、ゼラチン不織布の目付は150g/m
2、ゼラチン繊維の膨潤後の平均繊維径は47μm、孔径は119.6~157.1μmであった。
<細胞播種>
(1)上記で得られた積層体(細胞培養用立体足場)を液体培地(Gibco社製のMEM Alpha basic)中に30分間静置して、液体培地で膨潤させた。
(2)膨潤後の積層体をゼラチンフィルムがウェルの底面に接するようにウェル底面の直径が6.3mmの96ウェルプレート中に設置した。70%エタノールで洗浄し、PBSで洗浄することで積層体を殺菌した。
(3)積層体をつついて、確実にウェル底面・壁面に密着させて泡がないようにした。
(4)マウス由来の繊維芽細胞様MC3T3-E1細胞を液体培地(Gibco社製 MEM Alpha basic)に1×10
6cells/mLになるように懸濁して得られた細胞懸濁液を積層体のゼラチン不織布の表面上に100μL滴下した。温度37℃、5%CO
2のインキュベーター中で4時間静置培養して細胞を積層体に接着させた後、液体培地100μLをさらに添加した。
(5)ウェル底面にピントを合わせて光学顕微鏡(オリンパス社製、型番CKX53)で明視野観察し、積層体の反り、及びウェル底面及び壁面への密着性を観察した。
(6)積層体を慎重に除去し、ウェル底面に落ちた細胞を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製、型番BZ-X700)で明視野観察した。ウェル底面を明視野観察写真において、1/4面積(即ち90°)分を抽出し、細胞の接着面積をImage Jで測定し、ウェルの1/4面積の中の細胞接着面積の割合を算出した。
(7)積層体を4%パラホルムアルデヒド(PFA)固定し、50℃の送風乾燥機で2~3時間乾燥した後、ゼラチンフィルム部を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製FlexSEM1000、500倍)で観察し、ゼラチンフィルムの破れの有無を確認した。
(8)積層体を4%PFA固定後、さらにリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後、OCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン社)で包埋後、液体窒素で凍結し、凍結状態で、円柱状の積層体の直径と垂直方向(積層体の最大割面)を10μm厚になるように切片を作製した。切片の作製にはクライオフィルム(ライカマイクロシステムズ社製、型番「2C(9)」)を用いた。凍結切片をヘマトキシリンエオジン染色し、足場内の細胞分布の仕方を光学顕微鏡(株式会社キーエンス社製、型番「BZ-X700」)で観察した。
【0067】
(実施例2)
ゼラチンフィルム作製時のゼラチン水溶液の濃度を5質量%とした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養用立体足場を作製し、細胞播種を行った。
【0068】
(実施例3)
ゼラチンフィルム作製時にTP技研株式会社製バーコーターNo.10を使用した以外は、実施例2と同様にして、細胞培養用立体足場を作製し、細胞播種を行った。
【0069】
(比較例1)
ゼラチンフィルム作製時にTP技研株式会社製バーコーターNo.40を使用した以外は実施例2と同様にして、細胞培養用立体足場を作製し、細胞播種を行った。
【0070】
(比較例2)
ゼラチンとして新田ゼラチン社製(ゼリー強度262g 原料:アルカリ処理牛骨)を使用し、ゼラチン:水=3:5の質量比(ゼラチン濃度37.5質量%)とし、温度60℃で溶解した。60℃における粘度は960~970mPa・sであった。このゼラチン水溶液を紡糸液とし、
図10に示す製造装置を使用して、巻き取りロール上に直接ゼラチン繊維を集積して長繊維不織布を製造した。紡糸液の温度は60℃、ノズル直径(内径)250μm、吐出圧0.2MPa、ノズル高さ5mm、エアー圧力0.375MPa、エアー温度100℃、流体噴射口とノズル吐出口との距離は5mm、捕集距離50cmとした。長繊維不織布は室温で一晩風乾し、次いで加熱脱水架橋させた。架橋条件は温度140℃、48時間とした。
得られたゼラチン不織布の目付は150g/m
2、ゼラチン繊維の膨潤後の平均繊維径は47μm、孔径は119.6~157.1μmであった。
得られた長繊維不織布を精製水で膨潤後に直径φ7mmの円柱に打ち抜き、細胞培養用立体足場を作製した。
上記で得られた細胞培養用立体足場を用いた以外は、実施例1と同様にして細胞播種を行った。
【0071】
実施例1及び比較例2の細胞培養用立体足場の各種測定・評価結果を下記表1に示した。下記表1において、厚みは膨潤前の細胞培養用立体足場について測定したものであり、Lsは膨潤後の細胞培養用立体足場の直径について測定したものである。
【0072】
【0073】
【0074】
表1及び表2のデータから分かるように、ゼラチンフィルムとゼラチン不織布が積層されて一体化された細胞培養用立体足場において、ゼラチンフィルムの厚みTfとゼラチン不織布の厚みTnの比Tf/Tnが7.5×10-3以下である実施例では、細胞播種時に、足場からの細胞の脱落が抑制されており、播種効率が向上していた。
【0075】
一方、ゼラチンフィルムとゼラチン不織布が積層されて一体化されているが、ゼラチンフィルムの厚みTfとゼラチン不織布の厚みTnの比Tf/Tnが7.5×10-3を超える比較例1の足場の場合、ゼラチンフィルムとゼラチン不織布の膨潤程度の違いにより積層体に反りが発生し、その傾斜によって細胞懸濁液が積層体の側面に流出してしまい、足場からの細胞の脱落が顕著であった。また、ゼラチンフィルムを含んでいない比較例2の足場の場合も、細胞播種後に、足場から細胞が顕著に脱落していた。
【0076】
(2)細胞の分布
図11に、実施例1において、足場に細胞を播種し、4時間静置して細胞をゼラチン不織布に接着させた後の足場の切片(足場断面)をヘマトキシリンエオジン染色し、光学顕微鏡で観察した全体像の写真(10倍で観察し、ソフトウェア上で連結)を示した。
図11において、スケールは1mmである。
図12に、ゼラチン不織布部分の拡大写真を示した。
図12において、スケールは100μmである。
図13に、ゼラチンフィルム部分の拡大写真を示した。
図13において、スケールは100μmである。
図11~13から明らかなように、積層体のゼラチン不織布の表面上に播種した細胞が足場内部まで侵入している。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の細胞培養用立体足場は、細胞培養に用いる他、様々な医療用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 加温槽
2 紡糸液
3 ノズル吐出口
4、6 コンプレッサー
5 流体噴射口
7 圧力流体
8 ゼラチン繊維
9 ゼラチン不織布
10 ゼラチンフィルム
11 巻き取りロール
12 保温容器
20 製造装置