(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】トランスファ機構およびトランスファ装置
(51)【国際特許分類】
B21D 43/05 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
B21D43/05 B
B21D43/05 J
B21D43/05 C
B21D43/05 Q
(21)【出願番号】P 2019237002
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205888
【氏名又は名称】北川 孝之助
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆夫
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-170035(JP,U)
【文献】特開平04-157030(JP,A)
【文献】米国特許第04428221(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 43/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールと、前記レールに移動自在に設けられる第1および第2テーブルと、前記第1および第2テーブルによってそれぞれ
の基部が回動自在に支持される第1および第2アームと、前記第1および第2テーブルをそれぞれ前記レールに沿って独立して移動させる第1および第2駆動機構とを備え、
前記第1および第2アームはそれぞれの先端側と基部側の間の部位で互いに回動自在に連結され、
前記第1および第2アームの連結されている部位より先端側がワークを保持するフィンガとされており、
前記第1および第2駆動機構による前記第1および第2テーブル同士の相対的な逆方向への移動が前記第1および第2アームにクランプ/アンクランプ動作をもたらし、
前記第1および第2テーブル同士の同方向への協調移動が前記第1および第2アームにアドバンス/リターン動作をもたらす
トランスファ機構。
【請求項2】
前記第1および第2テーブルが、それぞれ斜めガイドを備えたテーブル本体と、前記斜めガイドに沿って移動自在に設けられるアームベースとからなり、
前記アームベースに前記第1および第2アームの基部が回動自在に支持されており、
前記第1および第2テーブルの前記斜めガイドが、上に向かって次第に離れるように互いに逆向きに傾斜している、
請求項
1記載のトランスファ機構。
【請求項3】
前記アームベースが、前記斜めガイドの下方に向かって付勢されている請求項
2記載のトランスファ機構。
【請求項4】
前記レールに複数組の前記第1および第2テーブルが設けられており、
前記第1駆動機構が、複数の前記第1テーブルを一括して移動させるものであり、
前記第2駆動機構が、複数の前記第2テーブルを一括して移動させるものである
請求項1~
3のいずれかに記載のトランスファ機構。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のトランスファ機構を2基、互いに向き合うように備えているトランスファ装置。
【請求項6】
前記向かい合う2基のトランスファ機構の前記第1テーブルが1つの前記第1駆動機構によって駆動され、前記第2テーブルが1つの前記第2駆動機構によって駆動される請求項
5記載のトランスファ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械に用いられるトランスファ機構およびトランスファ装置に関する。さらに詳しくは、金型へのワークの供給、金型間のワーク搬送、成形したワークの取り出しに用いるトランスファ機構およびトランスファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械の材料(ワーク)搬送装置として、トランスファ装置がある。従来のトランスファプレスでは、多工程ある各ステージの成形途中のワークを、左右に通った2本のフィードバーのクランプ(ワークの把持)、リフト(上昇)、アドバンス(前進)、ダウン(下降)、アンクランプ(ワークの把持解除)、リターン(後退)の動作で一斉に次のステージに搬送すると共に、リターン動作中にプレス加工を行なう(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1ではサーボモータの回転をフィードキャリアなどの往復直線運動に変換する機構としてボールネジ・ナット機構を用いている。他方、直線動作部にリニアモータを介在させるタイプのトランスファ装置も開発されている(特許文献2参照)。このものはプレス機械に固定した左右一対のバーの上部にフィードキャリアを設け、フィードキャリアとバーの間に介在させたリニアモータでフィードキャリアを往復駆動する。
【0004】
トランスファ装置としては、前述の3次元トランスファ装置のほか、リフト・ダウンを行わない2次元トランスファ装置が知られている。また、2本のフィードバーを備えたトランスファ装置のほか、1本のフィードバーに、バネの付勢力やエア駆動でワークをグリップするフィンガを配したシングルバータイプのトランスファ装置も知られている(特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開平5-9726号公報
【文献】特開2005-144555号公報
【文献】実開昭61-9145号公報
【文献】特開平2-142629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のトランスファ装置では、2本のフィードバーに加え、それらのフィードバーに取り付けたフィンガ及び全ステージのワークを搬送する必要がある。そしてイナーシャ(inertia:慣性または慣性力)が大きいフィードバーを高速で加速、減速させ、さらに上下動させるので、高出力のサーボモータが必要とされる。他方、特許文献2の装置はフィードバー全体を駆動せず、固定したバーに移動自在に設けたフィードキャリアをリニアモータで往復移動させるので、モータ出力は軽減される。しかしクランプ、アンクランプはフィードキャリアに設けたリニアモータで駆動し、リフト、ダウンはクランプキャリアに設けたリニアモータで駆動する。そのため、この装置もかなり大きなイナーシャを駆動する必要があり、高出力モータを外すことができない。
【0007】
特許文献3、4のトランスファ装置は、グリップ動作をバネやエアシリンダで行うのでモータは不要であるが、フィードバー全体をアドバンス、リターン操作するので、フィードバーの駆動に高い出力のモータが必要である。
【0008】
本発明は低出力のモータで駆動することができ、さらにモータの数を少なくすることができるトランスファ機構およびトランスファ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のトランスファ機構10は、レール11と、前記レール11に移動自在に設けられる第1および第2テーブル12、13と、前記第1および第2テーブル12、13によってそれぞれ支持される第1および第2アーム18、19と、前記第1および第2テーブル12、13をそれぞれ前記レール11に沿って独立して移動させる第1および第2駆動機構15、16とを備え、前記第1および第2駆動機構15、16による前記第1および第2テーブル12、13同士の相対的な逆方向への移動が前記第1および第2アーム18、19にクランプ/アンクランプ動作をもたらし、前記第1および第2テーブル12、13同士の同方向への協調移動が前記第1および第2アーム18、19にアドバンス/リターン動作をもたらすことを特徴としている。
【0010】
さらに本発明のトランスファ機構10においては、前記第1および第2アーム18、19の基部がそれぞれ前記第1および第2テーブル12、13によって回動自在に支持されており、前記第1および第2アーム18、19はそれぞれの先端側と基部(25)側の間で互いに回動自在に連結されており、前記第1および第2アーム18、19の連結されている部位(17)より先端側がワークWを保持するフィンガ21、22とされている。
【0011】
このようなトランスファ機構10においては、前記第1および第2テーブル12、13が、それぞれ斜めガイド12a、13aを備えたテーブル本体12b、13bと、前記斜めガイド12a、13aに沿って移動自在に設けられるアームベース12c、13cとからなり、前記アームベース12c、13cに前記第1および第2アーム18、19の基部が回動自在に支持されており、前記第1および第2テーブル12、13の前記斜めガイド12a、13aが、上に向かって次第に離れるように互いに逆向きに傾斜しているものが好ましい。このような前記斜めガイド12a、13aを備えたトランスファ機構10においては、前記アームベース12c、13cが、前記斜めガイド12a、13aの下方に向かって付勢(20)されているものが好ましい。
【0012】
また、前記いずれのトランスファ機構10においても、前記レール11に複数組の前記第1および第2テーブル12、13が設けられており、前記第1駆動機構15が複数の前記第1テーブル12を一括して移動させ、前記第2駆動機構16が複数の前記第2テーブル13を一括して移動させるものが一層好ましい。
【0013】
本発明のトランスファ装置40、45は、前記いずれかのトランスファ機構10を2基、互いに向き合うように備えていることを特徴としている。このようなトランスファ装置40、45においては、前記向かい合う2基のトランスファ機構10の前記第1テーブル12が1つの前記第1駆動機構15によって駆動され、前記第2テーブル13が1つの前記第2駆動機構16によって駆動されるものが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトランスファ機構は、フィードバー全体を駆動させる必要がなく、前記第1および第2テーブルを前記レールに沿って移動させる第1および前記第2駆動機構だけでアドバンス/リターン動作およびクランプ/アンクランプ動作をさせることができる。したがって低出力のモータで駆動機構を高速駆動することができ、さらにモータの数を少なくすることができる。
【0015】
さらに前記第1および第2アームの基部がそれぞれ前記第1および第2テーブルによって回動自在に支持されており、前記第1および第2アームはそれぞれの先端側と基部側の間で互いに回動自在に連結されており、前記第1および第2アームの連結されている部位より先端側がワークを保持するフィンガとされているので、前記第1および第2テーブル同士を離すように移動させると、前記第1および第2アームと前記第1および第2フィンガは開きながら、先端側が基部側へ移動して金型内の前記ワークから離れる。逆に前記第1および第2テーブル同士を近づけるように移動させると、前記第1および第2アームと前記第1および第2フィンガは閉じながら、先端側が金型側へ移動して金型内の前記ワークに近づく。そのため、金型とフィンガの取り合いがよく、省スペース化が図れる。また、アドバンス/リターンの動作によって、前記第1および第2テーブル同士が同方向へ移動しているときに、各々のテーブルの移動速度を変えると、テーブル同士は相対的に逆方向に動く。このように相対的に逆方向に動かすことによって、アドバンス/リターン動作をさせながら、前記第1および第2アームにクランプ/アンクランプ動作をさせることができるため、搬送の高速化が可能になる。
【0016】
前記第1および第2テーブルが、それぞれ斜めガイドを備えたテーブル本体と、前記斜めガイドに沿って移動自在に設けられるアームベースとからなり、前記アームベースに前記第1および第2アームの基部が回動自在に支持されており、前記第1および第2テーブルの前記斜めガイドが、上に向かって次第に離れるように互いに逆向きに傾斜している場合は、前記第1テーブルと前記第2テーブルを接近させると、まず前記テーブル本体と前記アームベースが接近して前記第1および第2アームおよび前記フィンガが閉じ、前記ワークをクランプする。前記ワークをクランプした後にさらに前記第1および第2テーブル同士を接近させると、前記アームベース同士はそれ以上接近できないため、前記アームベースが上昇し、前記第1および第2アームにリフト動作を行わせることができる。
【0017】
その状態から前記第1および第2テーブル同士を離していくと、前記アームベースが下降し、前記第1および第2アームにダウン動作を行わせることができる。そしてさらに前記第1および第2テーブル同士を離すと、前記第1および第2アームは前記ワークをアンクランプする。したがって別個にリフト/ダウンの駆動源を設ける必要がない。
【0018】
前記第1および第2テーブルが前記斜めガイドを有する前記テーブル本体と前記アームベースとからなる場合において、前記アームベースが、前記斜めガイドの下方にむかって付勢されている場合は、クランプ動作が一層確実になり、前記第1および第2テーブルを互いに離す方向に移動させるとき、前記アームベースの下降動作が一層確実になる。
【0019】
前記いずれかのトランスファ機構において、前記レールに複数組の前記第1および第2テーブルが設けられており、前記第1駆動機構が、複数の前記第1テーブルを一括して移動させるものであり、前記第2駆動機構が、複数の前記第2テーブルを一括して移動させるものである場合は、複数のワークを一斉に次のステージに搬送することができる。
【0020】
本発明のトランスファ装置は、互いに向き合う第1および第2アームの協調動作(または協調移動)によって大きいワークを搬送することができる。このようなトランスファ装置において、前記向かい合う2基のトランスファ機構の第1テーブルが1つの第1駆動機構によって駆動され、第2テーブルが1つの第2駆動機構によって駆動される場合は、駆動機構の数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1Aは本発明のトランスファ機構の一実施形態をアンクランプ状態で示す平面図、
図1Bおよび
図1Cはその正面図および側面図である。
【
図2】
図2A~
図2Cはそれぞれ第1テーブル(兼第2テーブル)の背面斜視図、分解斜視図および正面斜視図、
図2Dはアームベースの正面斜視図である。
【
図5】本発明のトランスファ装置の一実施形態を示す平面図である。
【
図6】
図6Aは本発明のトランスファ装置の他の実施形態を示す平面図、
図6Bはその正面図である。
【
図7】
図7Aおよび
図7Bは本発明のトランスファ装置のさらに他の実施形態をアンクランプ状態で示す平面図および正面図である。
【
図8】
図7Aのトランスファ装置のクランプ状態を示す平面図である。
【
図9】
図9Aおよび
図9Bは本発明のトランスファ機構の他の実施形態のクランプ状態およびアンクランプ状態を示す平面図、
図9Cは
図9Bの正面図、
図9Dはプライヤ支点を外した状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1Aに示すトランスファ機構10は、1本のレール11と、そのレール11の上に摺動自在に設けられる第1および第2テーブル12、13と、両方のテーブルに跨って設けられるプライヤ機構14と、それぞれのテーブル12、13をレール11に沿って駆動する第1および第2駆動機構15、16とからなる。前記プライヤ機構14は、前記第1および第2アーム18、19と、アーム18、19のそれぞれの先端側と基部側の間の部位を互いに回動自在に連結するためのピン(プライヤ支点)17とからなる。第1テーブル12と第2テーブル13の間には引っ張りバネ20が介在されている。
【0023】
図1Bに示すように、第1および第2アーム18、19の先端近辺は厚さが半分にされ、それらを前述のピン(プライヤ支点)17によって水平面内で回動自在となるように連結している。ピン17より先端側の部分は、ワークWをつかむフィンガ21、22である。アーム18、19の基部はそれぞれテーブル12、13に対し支持軸(アーム支点)25回りに回動自在に取り付けられている。この実施形態のように各アーム18、19をそれぞれ1枚の板で構成している場合は、一方のアームの先端側を一山クレビス(凸)形状とし、他方のアームの先端側を二山クレビス(凹)形状とし、互いの凸凹を組合せた状態をピン17で連結してもよい。また、一方のアームを2枚の板で構成し、他方の1枚の板からなるアームを挟むようにすることができ、あるいはそれぞれ2枚の板で構成することもできる。
【0024】
第1および第2テーブル12、13は左右勝手違いで実質的に同一であるので、基本的に左側の第1テーブル12について説明する。テーブル12は、斜めガイド12aを備えたテーブル本体12bと、斜めガイド12aに沿って摺動自在に設けられるアームベース12cとからなる。前記引っ張りバネ20はそれぞれのアームベース12c、13cの間に介在されており、アームベース12c、13c間の距離を縮める方向に付勢している。両方のテーブル12、13の斜めガイド12a、13aは、上に向かって次第に離れるように、互いに逆向きに傾斜している。すなわち、両方のテーブル12、13の向かい合っている側が低く、反対側が高くなるように傾斜している。
【0025】
テーブル本体12bの上部は略三角形状の板で構成され、前記略三角形状の板の傾斜面と平行に前記板を貫通するガイド用の溝が斜めガイド12aとして形成されている。斜めガイド12aは溝以外に突条などで構成することもできる。
図2A~Dに示すように、アームベース12cの下端にはテーブル本体12bの上部が挿入される溝12eが形成され、さらに斜めガイド12aの溝内を摺動ないし転動する2本のガイドローラ12fが取り付けられている。ガイドローラ12fはアームベース12cに対しガイドピン12gによって連結され、斜めガイド12aの溝内を回転自在に転動する。ガイドローラ12fに代えてピンないしスライドブロックを設けてもよい。テーブル本体12bの下端にはレール11に沿って移動するスライド部26が設けられている(
図1C参照)。レール11とスライド部26は、スライド式のリニアガイドのほか、ボールを介在させるリニアボールガイドによって構成することもできる。レール11は支持部材27によって支持されている。
【0026】
この実施形態では前記斜めガイド12aの溝はテーブル本体12bの板を貫通しているが、貫通しない浅い溝を両面に設けてもよい。また、テーブル本体12bは上端が傾斜面とされた板とし、アームベース12cの下部にその板の上部を挿入する溝12eを形成しているが、逆にテーブル本体12bの上端に溝を形成し、アームベース12cの下部を挿入するようにすることもできる。
【0027】
さらにこの実施形態では、両方のアームベース12c、13cを引っ張りバネ20によって互いに近づくように付勢している。そして両方のアーム18、19はピン(プライヤ支点)17回りに基部側が閉じる方向に付勢される。そのため、たとえば
図1A、
図1Bの状態からテーブル12、13同士を近づけたとき、アームベース12c、13cが斜めガイド12a、13aの溝に沿って上昇せず、
図3A、
図3Bのように閉じる動作が優先される。それにより開閉操作が安定する。
【0028】
前述のように、この実施形態では両方のアームベース12c、13cを引っ張りバネ20によって互いに近づけるように付勢しているので、1本の引っ張りバネで両方のアームベース12c、13cの付勢手段を兼用することができる。さらに付勢力の大きさを同一にすることができる。ただしテーブル本体12b、13bとアームベース12c、13cの間に引っ張りバネを張り渡し、アームベース12c、13cを斜めガイド12aの溝に沿って斜め下方向に付勢するようにしてもよい。引っ張りバネとしては引っ張りコイルスプリングが好ましい。圧縮コイルスプリングをテーブル本体12b、13bとアームベース12c、13cの間に介在させてもよい。
【0029】
前記フィンガ21、22は、閉じたときにワークWの厚さないし径と同一ないしそれよりいくらか狭い隙間となるように形成する(
図3A参照)。フィンガ21、22のワークと接触する面に弾性変形可能なシートなどを貼り付けて、製造誤差や制御誤差を吸収するようにしてもよい。片方のアーム18のアーム支点25回りの揺動角度は、アーム18が開いて第1連結バー28の長手方向に対し水平になった状態を0°として、初期アーム角度(アンクランプ時の角度)が0°~30°程度、クランプ時の角度が60°~80°程度とするのが好ましい。初期アーム角度を0°近傍にする場合は、両方のアームベース12c、13cが近づこうとするときにアーム18、19がクランプ側に動作するように、ねじりコイルバネ20aや板バネによってアーム支点25回りに初期力を与えておくことが必要である(
図9A、B参照)。このアーム支点25回りに初期力を与えるためのねじりコイルバネ20aを引っ張りバネ20の代用にすることも可能である。初期アーム角度が30°程度であれば、引っ張りバネ20のみでクランプ/アンクランプ動作が可能である。アーム18の基部側の長さ(プライヤ支点17とアーム支点25の距離)とフィンガ21の長さの比は2:1~5:1程度が好ましい。それによりプライヤ機構14による増力作用は2~5倍程度となる。
【0030】
図1Aに戻って、前記第1および第2駆動機構15、16は、図面の左側の第1テーブル12の前面(図の下側)にスペーサ28aを介して固定される第1連結バー28と、右側の第2テーブル13の背面(図の上側)にスペーサ29aを介して固定される第2連結バー29と、それらの連結バー28、29を独立して駆動する第1モータM1および第2モータM2とからなる。第1テーブル12と第2連結バー29との間には隙間29bが設けられている。連結バー28と第各モータM1、M2と連結バー28、29とは、ボールネジとボールナットの組み合わせなどの回転-直進変換機構(
図4参照)などを介して連結することができる。
【0031】
つぎに上記のように構成されるトランスファ機構10の作用、とくにアーム周りの作用を説明する。このトランスファ機構10では、
図1Aのように両方のテーブル12、13が離れている状態がアンクランプ状態である。この状態ではアーム18、19同士が広がり、先端がレール11側に移動(後退)している。フィンガ21、22も広がって、金型や休止ステージなどに載置されているワークWから遠ざかっている。また
図1Bのように、アームベース12c、13cは下端まで下降している。
【0032】
この状態から駆動機構15、16によってテーブル本体12b、13bが近づくように駆動されると、
図3Aに示すようにアーム18、19の基部側の間隔が狭くなり、第1および第2アーム18、19は閉じるようにアーム支点25回りに回動する。それによりフィンガ21、22が閉じて金型の上のワークWをクランプする(クランプ動作)。このとき、張られていた引っ張りバネ20は緩むが、引っ張り力は残っている。引っ張りバネ20の付勢力をワークのクランプ力に利用することができる。
【0033】
図3A、
図3Bの状態から左右のテーブル本体12b、13b同士をさらに近づけると、フィンガ21、22がワークWをクランプしているので、アーム18、19はそれ以上閉じない。そして
図4A、
図4Bに示すように、アームベース12c、13cが斜めガイド12a、13aに沿って上昇する(リフト動作)。そのとき、フィンガ21、22はワークWをクランプしたまま上昇し、たとえば成形されたワークWが金型などから持ち上げられる。上昇端は上のストッパ12hにより規制される。テーブル本体12b、13bの動作が左右対称であり、斜めガイド12a、13aの角度が同一であれば、アームベース12c、13cはレール11に対して直角に上昇する。ここで第1モータM1と第2モータM2の回転数の制御により、斜めなど、任意の軌跡で上昇させることもできる。下降の軌跡も同様である。
【0034】
図4A、
図4Bの状態から駆動機構15、16によって第1および第2テーブル12、13を同時に、同一方向(たとえば
図4Aの右方向)に同一速度で移動させると、ワークWはその方向に移動され、たとえば次の金型などのステージまで搬送される(アドバンス動作)。また、
図3A、
図3Bの状態から第1および第2テーブル12、13を同時に、同一方向(たとえば
図3Aの右方向)に移動させ、このときに第1テーブル12を第2テーブル13よりも速く移動させると、ワークWを上昇させながら次の金型などのステージへ搬送することもできる。テーブル12、13の動作が正確に同調されていると、フィンガ21、22のワークWをつかむ力は緩まず、ワークWを安定して搬送することができる。
【0035】
ワークWが次のステージに搬送された後、第1および第2テーブル12、13の距離を離すように互いに逆方向へ移動させる。第1および第2テーブル12、13の距離が離れても、引っ張りバネ20がアーム18、19を閉じる方向に付勢しているので、アーム18、19はワークWをつかんでいる。そして第1および第2アームベース12c、13cが斜めガイド12a、13aに沿って下降すると共に、ワークWも下降する(
図3B参照、ダウン動作)。下降端は下方のストッパ12jにより規制される。また、ワークWの搬送中に、第1テーブル12を第2テーブル13よりも遅く移動させると、ワークWを下降させながら搬送することもできる。搬送中にリフト動作とダウン動作を行うことで搬送の高速化が可能になる。
【0036】
その状態からさらにテーブル本体12b、13bを離すように駆動すると、アームベース12c、13cはそれ以上下降しないので、テーブル本体12b、13bが離れるのに伴ってアーム18、19が開き、フィンガ21、22が開く(
図1A、
図1B参照)。それによりワークWが次のステージに載置される(アンクランプ動作)。そのとき、
図1Aのように、フィンガ21、22は金型などの中心から離れるように移動(後退)する。そしてこの状態で第1および第2テーブル12、13が一斉に戻り方向に移動し(リターン動作)、その間にプレス加工が行われる。テーブル12、13が元のステージまで戻ると、始めのクランプ動作から繰り返す。
【0037】
なお、上型が大きく、フィンガ21、22のレール11側への移動だけでは上型との干渉を充分に回避できない場合は、リターン動作を半ピッチだけ行い、その状態でトランスファ機構を停止し、プレス加工を行い、上型が上昇してから残りの半ピッチ分、リターン動作を継続させることもできる。このようにするとフィンガ21、22が隣接する工程の金型の中間位置で退避するので、フィンガ21、22と金型の干渉を一層避けることができる。
【0038】
つぎに
図5を参照して、シングルアームタイプの3次元トランスファ装置の実施形態を説明する。このトランスファ装置30は、基本的に
図1Aのトランスファ機構10をそのまま用いたもので、1本のレール11上に第1および第2アーム18、19などからなるプライヤ機構(グリップ機構)31を複数個、走行自在に設けている。
図5では2個だけ示しているが、プレス機械の加工工程数などに応じて3個以上、たとえば5~10個などとすることができる。プライヤ機構31は金型のピッチ(送りピッチ)だけ間隔をあけて配置されている。それぞれのプライヤ機構31は、
図1A、
図1Bのプライヤ機構14と同様であり、第1および第2アーム18、19、ピン17、テーブル12、13および引っ張りバネ20を備えている。
【0039】
そして向かい合っているトランスファ機構のそれぞれの第1テーブル12のテーブル本体12b同士は第1連結バー28で連結され、第1モータMでレール11に沿って同一方向、同一距離を一斉に走行駆動される。第1連結バー28は、テーブル本体12bの前面(
図5の下側)に固定している。この実施形態では、第1モータM1の出力軸に雄ねじ32が連結され、その雄ねじ32に螺合しているナット33に第1連結バー28が固定されている。雄ねじ32の両端はフレーム34に設けたボールベアリングなどの軸受け35、35によって回転自在に支持されている。雄ねじ32およびナット33はボールネジおよびボールナットとするのが好ましい。
【0040】
第2テーブル13についても上記と同様である。向かい合っているトランスファ機構の第2テーブル13のテーブル本体13b同士は第2連結バー29で連結されており、第2モータM2によってナット33および雄ねじ32を介して走行駆動される。なお、第2連結バー29は、第1連結バー28と反対のテーブル本体13bの背面(
図5の上側)に固定している。それにより、第1連結バー28と第2連結バー29の干渉や摺接を避けている。
【0041】
第1および第2モータM1、M2はサーボモータが好ましく、それにより第1テーブル12および第2テーブル13のそれぞれの停止位置、移動速度、同調移動などを容易に制御することができる。そして第1モータM1および第2モータM2の制御プログラムにより、ワークの搬送方向は
図5の右方向、左方向のいずれにすることもできる。また、ワークの送りピッチ(アドバンス、リターンの長さ)を任意に選択することができる。
【0042】
このトランスファ装置30では、多数のテーブル12、13、アーム18、19および連結バー28、29の重量がレール11および支持部材(
図1Bの符号27)によって支持されているので、フィードバーを用いるトランスファ装置に比して作動部分のイナーシャが小さい。そのため、低出力のモータであっても高速で駆動させることができる。また、可動部分にモータや減速機を設けないので、一層、モータ負荷が少なくて済む。
【0043】
つぎに
図6A、
図6Bを参照して、ダブルレールタイプの3次元トランスファ装置の実施形態を説明する。このトランスファ装置40は、基本的に前述のシングルレールタイプの3次元トランスファ装置30を2セット、向かい合わせで組み合わせたものである。フィンガ21、22同士が向かい合わせに配置され、1個のワークWの端部をそれぞれのプライヤ機構のフィンガ21、22でクランプし、両側のフィンガで保持したままリフト、アドバンス、ダウンした後、アンクランプすることにより次の金型まで搬送できる。アンクランプ後は、元の金型の位置までリターンする。リターンの間にプレス加工を行う。
【0044】
なお、シングルタイプのトランスファ装置ごとに2本の雄ねじ、2個のナット、2個のモータM1、M2を用いることもできるが、
図6Aの装置では、奥側(図面の上側)のトランスファ機構の第1連結バー28と手前側(図面の下側)のトランスファ機構の第1連結バー28を第1クロスバー41によって連結し、雄ねじ32、ナット33、モータM1を兼用している。第2連結バー29についても同様に第2クロスバー42で連結している。それにより部品点数を少なくすることができ、制御をシンプルにできる。
【0045】
図7Aおよび
図7Bは、ダブルレールタイプの2次元トランスファ装置の実施形態を示している。このトランスファ装置45はリフト/ダウン機構を備えていない。すなわち
図7Bに示すように、テーブル12、13が本体とアームベースに分かれておらず、一体に構成され、あるいは複数の部品が一体に固定されている。ワークWは金型上でプライヤ機構46のフィンガ21、22によってクランプされ(
図8参照)、同一のフィード高さを維持したままアドバンスされ、次の金型でアンクランプされる(
図7A参照)。ついでワークをつかんでいないプライヤ機構46はリターンされ、その間にプレス加工が行われる。ワークWのリフト/ダウンが必要な場合は、金型に組み込まれたダイクッションやリフト機構で行う。
【0046】
図7A、
図7Bの2次元トランスファ装置45においても、第1連結バー28同士が第1クロスバー41によって連結され、第2連結バー29同士が第2クロスバー42によって連結されている。なお、前述の3次元トランスファ装置30、40は、モータの制御によって2次元動作をさせることができる。しかし
図7A、
図7Bのトランスファ装置45はリフト/ダウン機構を省略した2次元専用の装置であるので、一層イナーシャが少なく、低出力のモータで高速駆動することができる。
【0047】
なお、アドバンス/リターンの動作によって第1および第2テーブル12、13が同方向へ移動しているときに、各々のテーブル12、13の移動速度を変えると、テーブル12、13同士は相対的に逆方向に動く。このように相対的に逆方向に動かすことによって、アドバンス/リターン動作をさせながら、第1および第2アーム18、19にクランプ/アンクランプ動作をさせることができ、それにより搬送を一層高速化することができる。
【0048】
図9A~Cに示すトランスファ機構50は、第1テーブル12のアームベース12cと第1アーム18の間に、第1アーム18をクランプする向きに、すなわち図面では反時計方向に回動付勢するねじりコイルバネ20aが介在されている。ねじりコイルバネ20aのコイル部分は、支持軸25の周囲に配置され、一方の端部が第1アーム18に、他方の端部がアームベース12cに係止されている。第2テーブル13と第2アーム19の間にも、第2アーム19をクランプする向き、すなわち時計方向に回転付勢するねじりコイルバネ20aが介在されている。
【0049】
ところで
図9Bのように、左右の支持軸25、25とピン17とが一直線に並ぶまでアーム12、13を回動させると、アーム12、13が内向きに突出せず、プレス加工時におけるアームと金型の干渉を避けやすくなる。しかしこの状態で左右のアームベース12c、13c同士を近づける方向に力を加えても、アーム12、13を回動させる分力が生じない。そこで
図9Aのようにアーム12、13に回転付勢力を与えるねじりコイルバネ20a、20aを設けると、ねじりコイルバネ20aで最初の回動力を与えることができる。そして一旦回動を始めると、引き続きクランプ/アンクランプ動作およびリフト/ダウン動作をスムーズ行わせることができる。
【0050】
上記のように、ねじりコイルバネ20a、20aは、とくに
図9Bのように、左右の支持軸25、25とアーム12、13同士を連結するピン17が一直線に並ぶまでアーム18、19を拡げる場合に、アームベース12c、13c同士を近づけるように付勢する引っ張りコイルバネ20の作用を補助することができる。なお、ねじりコイルバネ20a、20aを設けるだけで充分なクランプ力が確保できる場合は、引っ張りコイルバネ20を省略することができる。
【0051】
アーム12、13とアームベース12c、13cの間には、アーム12、13がレール11に対し直角を超えて回動しないようにストッパを設けるのが好ましい。この場合、支持軸25によって両方のアーム12、13を連結する前は、
図9Dのように、アーム12、13がレール11に対して直角になるまで回動する。ねじりコイルバネ20a、20aは、左右いずれか一方だけでも足りるが、両方に設ける方が動作がスムーズである。
【0052】
以上、いくつかの実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることなく、種々の変更を行うことができる。たとえば前記実施形態では雄ねじ(ないしボールネジ)とナット(ないしボールナット)を用いてモータの回転をテーブルの直線運動に変換しているが、レールとテーブルの間にリニアモータを介在して直接リニア駆動することもできる。さらにワイヤケーブルないしチェーンなどの巻き掛け要素を利用して、モータの回転をテーブル12、13の往復直進運動に変換することもできる。
【0053】
また、複数の第1テーブル12の背面にナット(ないしボールナット)を固定し、それらと螺合する1本の雄ねじ(ないしボールねじ)を第1モータで回転駆動させると共に、複数の第2テーブルの前面にナット(ないしボールナット)を固定し、1本の雄ねじ(ないしボールネジ)を介して第2モータで駆動するようにしてもよい。
【0054】
なお、ダブルレールタイプのトランスファ装置の場合、フィンガでワークの端部をグリップするほか、向かい合わせに配置されたフィンガが中心側に近づくときにワークの両側をクランプし、中心側から離れるときにアンクランプさせるようにしてもよい。フランジを備えているワークの場合は、フランジの下面側をクランプすることによってより安定して搬送できる。
【符号の説明】
【0055】
10 トランスファ機構
11 レール
12 第1テーブル
12a 斜めガイド
12b テーブル本体
12c アームベース
12e 溝
12f ガイドローラ
12g ガイドピン
12h ストッパ
12j ストッパ
13 第2テーブル
13a 斜めガイド
13b テーブル本体
13c アームベース
14 プライヤ機構
15 第1駆動機構
16 第2駆動機構
17 ピン(プライヤ支点)
18 第1アーム
19 第2アーム
20 引っ張りバネ
20a ねじりコイルバネ
W ワーク
21、22 フィンガ
25 支持軸(アーム支点)
26 スライド部
27 支持部材
28 第1連結バー
28a スペーサ
29 第2連結バー
29a スペーサ
29b 隙間
M1 第1モータ
M2 第2モータ
30 トランスファ装置(シングルレールタイプ・3次元)
31 プライヤ機構
32 雄ねじ
33 ナット
34 フレーム
35 軸受け
40 トランスファ装置(ダブルレールタイプ・3次元)
41 第1クロスバー
42 第2クロスバー
45 トランスファ装置(ダブルレールタイプ・2次元)
46 プライヤ機構
50 トランスファ機構