(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】レチノイドの副作用に対する感受性の決定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20230424BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20230424BHJP
G16B 20/20 20190101ALI20230424BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6876 Z
G16B20/20
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2019539546
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031823
(87)【国際公開番号】W WO2019044852
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2017167230
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】天野 聡
(72)【発明者】
【氏名】出田 立郎
(72)【発明者】
【氏名】大田 正弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 宜史
(72)【発明者】
【氏名】落合 美咲
(72)【発明者】
【氏名】上沼 三紀子
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/048123(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/035867(WO,A1)
【文献】特表2016-527307(JP,A)
【文献】ALZOUBI, Karem H. et al.,The effect of genetic polymorphisms of RARA gene on the adverse effects profile of isotretinoin-treated acne patients,Int. J. Clin. Pharmacol. Ther.,2013年,Vol. 51,pp. 631-640
【文献】猪狩敦子 ほか,遺伝子多型・総論(網羅的解析方法:SNP解析・DNAチップ・GWAS),血栓止血誌,2012年,Vol. 23,pp. 436-442
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる、少なくとも1のSNPを検出する工程、
検出されたSNPの種類又は数に応じて、レチノイドの皮膚外用における副作用に対する感受性を決定する工程
を含む、レチノイドの副作用に対する感受性の非診断的決定方法。
【請求項2】
前記SNPが以下の:rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、及びrs2247880からなる群から選ばれる、請求項1に記載の非診断的決定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により決定されたレチノイドの皮膚外用における副作用に対する感受性に応じた化粧料の使用法の提供方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により決定されたレチノイドの副作用に対する感受性に基づいて化粧料を選択することを特徴とする、化粧料の提供方法。
【請求項5】
レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータであって、以下の:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038
からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPに関する情報を記憶させた記憶部、
利用者のDNA情報を入力する入力部、
入力されたDNA情報中において、記憶されたSNPの存在を検出する処理部、
検出されたSNPに基づき、レチノイドの皮膚外用における副作用に対する感受性を出力する出力部
を含む、コンピュータ。
【請求項6】
前記コンピュータが、サーバーであり、入力部が通信部であり、出力部が通信部である、請求項5に記載のコンピュータ。
【請求項7】
前記SNPが以下の:rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、及びrs2247880からなる群から選ばれる、請求項5又は6に記載のコンピュータ。
【請求項8】
記憶部と、入力部と、処理部と、出力部とを含むレチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータを制御するプログラムであって、以下の:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPに関する情報と、当該SNPと関連するレチノイドの皮膚外用における副作用に対する感受性の情報とを記憶部に記憶させ、
入力部から、利用者のDNA情報を入力させ、
処理部に、入力されたDNA情報において記憶されたSNPの存在を検出させ、
処理部に、検出されたSNPに基づき、レチノイドの副作用に対する感受性を決定させ、
出力部に、レチノイドの副作用に対する感受性情報を出力させる、
前記プログラム。
【請求項9】
前記コンピュータが、サーバーであり、入力部が通信部であり、出力部が通信部である、請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
前記SNPが以下の:rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、及びrs2247880からなる群から選ばれる、請求項8又は9に記載のプログラム。
【請求項11】
以下の:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038
からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPを検出するための核酸試薬を含む、レチノイドの皮膚外用における副作用に対する感受性の決定のためのキット。
【請求項12】
前記キットが、さらに核酸抽出及び精製試薬を含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記核酸試薬が、SNPを選択的に増幅可能なプライマーであり、前記キットがさらに、ポリメラーゼ、dNTPを含む、請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
前記核酸試薬が、核酸プローブであり、前記キットがさらに、プローブ検出試薬を含む、請求項11又は12に記載のキット。
【請求項15】
前記SNPが以下の:rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、及びrs2247880からなる群から選ばれる、請求項11~14のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SNP解析により遺伝要素に基づいて対象のレチノイドの副作用に対する感受性を決定する方法、レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータ、及び当該コンピュータを制御するプログラムに関する。決定された対象のレチノイドの副作用に対する感受性に基づいて、感受性を緩和する方法の開発、美容の指導サービス、化粧料の選択が可能になる。
【背景技術】
【0002】
天然ビタミンAの一つであるレチノールは、人体中に天然に存在する内因性物質であり、レチナールやレチノイン酸への変換を経て、成長、生殖、視覚、感染予防など幅広い生理機能に関与する。ビタミンAとしての作用を発揮する化合物として、レチノールの他に、レチナールやレチノイン酸、さらにはそれらの誘導体が知られており、これらを総称してレチノイドと呼ばれる。レチノイドの皮膚への作用として、角層剥離作用によるターンオーバーの促進、ケラチノサイトの増殖促進及び分化誘導による表皮肥厚、真皮線維芽細胞におけるコラーゲンやエラスチンなどの弾性線維の産生亢進、皮脂腺機能抑制による皮脂分泌低下、並びにメラニン顆粒の排出による色素沈着の改善が知られている。したがって、レチノイドは、抗シワ作用、美白作用、抗シミ作用などを目的して化粧料や医薬品に配合されている。
【0003】
その一方で、レチノイドは皮膚に対する刺激性を有しており、その副作用として、発赤、表皮過形成、浮腫、水疱、紅斑、熱傷、かゆみ、熱傷感受性、表皮剥離などが生じることがある。こうした副作用は、特に高濃度のレチノイドや、生理活性の強いレチノイド、例えばトレチノイン等が配合された皮膚外用剤を用いた際に生じることが多い。その一方で、レチノイドの副作用に対する感受性は、使用する対象に応じて大きく異なっている。(非特許文献1:J Drugs in Dermatology (2011), vol. 10, Issue 5, page 483-489)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J Drugs in Dermatology (2011), vol. 10, Issue 5, page 483-489
【文献】J. Clin Invest. 2013; 123 (9): 3941-3951
【文献】Plos One 2013; 8 (10):e78203
【文献】網羅的遺伝子多型解析(SNP)日薬理誌(2005)、125, 148-152頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レチノイドの抗シワ作用、美白作用、及び抗シミ作用は、美容及び医療上極めて有用であるため、予めレチノイドの副作用に対する感受性を決定することは有用である。したがって、レチノイドの副作用に対する感受性を決定する方法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、レチノイドの副作用に対する感受性を決定することを目的として、被験者に対してSNP解析を行った。その結果、レチノイドの副作用に対する感受性に関わる55種のSNPを同定し、本発明に至った。
【0007】
そこで、本発明は以下の発明:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038
からなる群から選ばれる、少なくとも1のSNPを検出する工程、
検出されたSNPに基づき、レチノイドの副作用に対する感受性を決定する工程
を含む、レチノイドの副作用に対する感受性の決定方法。
【0008】
さらに別の態様では、本発明は、レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータであって、以下の:
rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038
からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPに関する情報を記憶させた記憶部、
利用者のDNA情報を入力する入力部、
入力されたDNA情報中において、記憶されたSNPの存在を検出する処理部、
検出されたSNPに基づき、レチノイドの副作用に対する感受性を出力する出力部
を含む、コンピュータに関する。本発明のさらなる態様では、このようなコンピュータを制御する方法及び/又は制御プログラムにも関し、さらにかかる制御プログラムを格納した記憶媒体にも関する。このような記憶媒体は、不揮発性の媒体であることが好ましい。
【0009】
さらに別の態様では、本発明は、rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPを検出するための核酸試薬を含む、レチノイドの副作用に対する感受性の決定のためのキットにも関する。
【0010】
さらに本発明は、レチノイドの副作用に対する感受性の決定方法や、レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータにより決定された感受性に基づき、化粧料、医薬品、及び美容法を提供する方法にも関する。
【0011】
さらに本発明は、以下の:
候補薬剤を適用する工程、
適用された細胞において、下記の:CAPN2、OR14I1、LYPD8、OSTN、LOC643675、FHDC1、TENM2、LOC105375854、SHC3、KCNMA1、ST3GAL4、LINGO1、NSMCE1、及びLOC105372121からなる群から選ばれる少なくとも1の遺伝子の発現変化を決定する工程、また、遺伝子から翻訳された機能タンパク質の作用変化を評価する工程
前記発現変化、機能変化に基づき、候補薬剤のレチノイド感受性の制御を決定する、
候補薬剤のスクリーニング方法にも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、レチノイドの副作用に対する感受性を決定することが可能となり、決定された感受性に基づいて、化粧料及び医薬品、並びに美容法及び治療法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータを制御するプログラムによる処理の流れを示した図である。
【
図2】
図2は、レチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータの構成図である。
【
図3】
図3は、レチノイド感受性との関連するSNPを評価した、ゲノムワイド関連解析{Genome-Wide Association Study(GWAS)}の結果を示したマンハッタンプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、レチノイドの副作用に対する感受性と関連のあるSNPを検出する工程、及び検出されたSNPに基づき、レチノイドの副作用に対する感受性を決定する工程を含む、レチノイドの副作用に対する感受性の決定方法に関する。ここで、レチノイドの副作用に対する感受性と関連のあるSNPとしては、以下の:rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる、少なくとも一つのSNPが用いられる。
【0015】
本発明において、レチノイドとは、レチノール、レチナール、及びレチノイン酸などのビタミンA、並びにその誘導体をいう。誘導体は、ビタミンA活性を有していれば任意の誘導体であってよく、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、レチニールエステルなどが挙げられる。レチノイン酸には、オールトランスレチノイン酸(トレチノイン)、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸などの立体異性体知られており、特にトレチノインが高い効力を有することが知られている。
【0016】
レチノイドの副作用としては、催奇性、炎症誘発、角層剥離、炎症誘導性色素沈着などが挙げられる。本発明では、これらの副作用のうち、特に皮膚外用剤として使用された場合の副作用、すなわち炎症誘発、角層剥離、炎症誘導性色素沈着に関する。皮膚炎症として、落屑、紅斑、発赤、皮膚炎が生じうる。
【0017】
レチノイドの副作用に対する感受性は、任意に分類することができる。例えば、感受性の有りの群と無しの群といったように2つ以上、場合によっては高、低、無の3つの群、又はそれ以上の群、例えば4群、又は5群に分類することができる。感受性は、検出されるSNPの種類及び数に応じて決定することができる。一例として、3群に分類する場合、55種類のSNPのうち、ある一定数以上のSNPが検出された場合に感受性が高いと判定することができ、ある一定数のSNPが検出されない場合に感受性が低いと判定することができる。例えば、20以上、場合により30以上、さらには40以上のSNPが検出された場合に感受性が高いと判定することが出来る。また、55種のSNPのうち、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、及びrs2247880は、第10染色体のKCNMA1遺伝子の制御領域に関与するSNPである。ここで、KCNMA1遺伝子は、Kイオンチャンネルに関しており、レチノイドにより活性化されるTRPV1と呼ばれる刺激受容体受容体の作用を抑制することが知られている(非特許文献2:J. Clin Invest. 2013; 123 (9): 3941-3951、非特許文献3:Plos One 2013; 8 (10):e78203)。したがって、KCNMA1遺伝子の制御に関わる遺伝子は、レチノイドの副作用に寄与する蓋然性が高い。したがって、これらのSNPが1つ以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上検出された場合、レチノイドの副作用に対する感受性が高いと判定することができる。レチノイドの副作用に関する感受性は、医師以外のものによって決定することができ、例えばエステティシャン、美容部員、カウンセラーなどの非医療従事者や、臨床検査技師などの医療従事者も決定することができる。本発明の方法は、非診断的方法ということもできる。
【0018】
本発明において、SNPは、rs番号(Reference SNP ID number)で表示されている。各rs番号に対応するSNPの詳細情報(染色体上の位置や変異)については、米国国立生物工学情報センター(NCBI)により管理されており、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において参照可能である。
【0019】
本発明において特定された、レチノイドの副作用に対する感受性に関与するSNPの詳細は下記の通りである:
【表1】
【0020】
SNPの検出は、公知である任意の方法で行われてよい。一例として、被験者の生体試料、例えば唾液、血液、粘膜、組織片、毛髪等から、定法に基づき、被験者の核酸を精製し、精製された核酸においてSNPが検出される。したがって、本発明のレチノイドの副作用に対する感受性の決定方法には、試料調製工程、核酸精製工程がさらに含まれていてもよい。SNP検出工程では、精製された核酸においてSNPの検出を可能にする手法であれば、任意の方法を用いることができる。対象となるSNPの位置周辺の配列決定を行って、SNPを検出することもできるし、PCR法をベースとした手法、DNAプローブを用いた手法、質量分析を用いた手法を用いて検出することもできる。PCRをベースとした手法として、SNPタイピング法、TaqMan PCR法、一塩基伸長法、Pyrosequencing法、Exonuclease Cycling Assay法などが挙げられる。DNAプローブを用いた手法としては、Invader法などが挙げられる(網羅的遺伝子多型解析(SNP)日薬理誌、125, 148-152, 2005)。SNPは、連鎖不平衡にある別のSNPを伴うことがある。目的とするSNPと連鎖不平衡にあるSNPを検出することで、目的とするSNPを検出することができる。したがって、本発明において、SNPの検出とは、目的とするSNPを直接検出することに限定されず、連鎖不平衡にあるSNPを検出することで、目的とするSNPを検出することも含まれるものとする。
【0021】
また、既に配列決定がされた個人の塩基配列、又は当該塩基配列から決定された個人のSNPのリストに基づき、レチノイドの副作用に対する感受性に関与するSNPの存在を検出することもできる。この場合、既に決定された塩基配列のデータ内で、SNPの存在する位置の配列を調べることで、SNPの存在を検出でき、また、個人のSNPリストに、レチノイドの副作用に対する感受性に関与するSNPが存在するか否かを決定することができる。したがって、この場合のSNPの検出は、SNP情報が記憶されたコンピュータに、塩基配列データや個人のSNPリストを入力することで行われてもよい。より好ましい態様では、入力は、端末からインターネットを介して入力され、サーバー上でSNPが検出され、検出結果をインターネットを介して当該端末に出力することができる。
【0022】
本発明により、レチノイドの副作用に対する感受性を検出される対象は、任意の人種であってよい。より好ましくは、対象となる人種は、黄色人種(モンゴロイド)である。
【0023】
本発明の別の態様では、本発明はレチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータに関する。かかるコンピュータは、上述のレチノイドの副作用に対する感受性の決定方法を実行することができる。本発明のさらなる方法では、本発明は、本発明のレチノイドの副作用に対する感受性を決定するコンピュータを制御する方法又は制御するプログラム、並びに当該プログラムを格納する記憶媒体にも関する。本発明のコンピュータは、記憶部、入力部、出力部、及び処理部を含む。
【0024】
記憶部は、RAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置などを有する。記憶部は、入力部から入力されたデータ及び指示、処理部で行った演算処理結果等の他、コンピュータの各種処理に用いられるプログラム、データベースなどを記憶する。コンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。コンピュータプログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部にインストールされる。本発明において、記憶部は、rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる少なくとも1のSNPに関する情報を記憶する。これらのSNPに関する情報には、さらに、当該SNPと連鎖不平衡にあるSNPの情報を記憶していてもよい。SNPに関する情報には、配列情報が含まれうる。
【0025】
入力部は、インターフェイスを含む。インターフェイスは、例えば、キーボード、マウス等の操作部、LANやポート等の通信部、CD-ROM、DVD-ROM、BD-ROM、メモリースティックなどの外部記憶装置に接続されていてもよい。SNPに関する情報が入力部から入力されて、記憶部に記憶されてもよい。また、対象の配列情報又はSNPリストが、入力部から入力される。入力された配列情報又はSNPリストは、いったん記憶部に記憶されてもよいし、そのまま処理部に送られてもよい。対象の配列情報は、対象の全ゲノム配列であってもよいし、目的の一部配列のみであってもよい。操作部を介して、入力部から処理部における処理の指示を与えることができる。
【0026】
処理部は、対象の配列情報中におけるSNPの存在を検出する。より具体的に、処理部は、記憶部に記憶されたSNPの配列情報と、入力部から入力された対象の配列情報とから、対象の配列情報中に含まれるレチノイドの副作用に対する感受性に関するSNPの存在を検出することができる。記憶部に記憶されたSNPの配列情報と、入力部から入力された対象の配列情報との比較、又は入力部から入力された対象の配列情報において、記憶部に記憶されたSNPの配列情報を検索することにより、レチノイドの副作用に対する感受性に関するSNPの存在を検出することができる。また、処理部は、入力された対象のSNPリストに、レチノイドの副作用に対する感受性に関するSNPが存在するか検出することもできる。処理部は、記憶部に記憶しているプログラムに従って各種の演算処理を実行する。演算処理は処理部に含まれるCPU又はプロセッサによりおこなわれる。このCPU又はプロセッサは、入力部、記憶部、及び出力部を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェアなどで構成されてもよい。処理部により検出されたSNPの存在についての情報は、一旦、記憶部に記憶されてもよいし、そのまま処理部が、出力部に表示してもよい。また、複数のSNPが存在する場合に、SNPの数や種類に応じてレチノイドの副作用に対する感受性の強さを決定することもできる。
【0027】
出力部は、データ処理部で演算処理を行って検出されたSNPについて、記憶部に記憶されたレチノイドの副作用に対する感受性の強さについての情報を出力するように構成さる。出力部は、感受性が高いと判定された対象には、感受性の強さについての情報に加えて又は代えて、レチノイド含有の化粧料の使用を停止する旨の警告を出力することもできる。出力部は、感受性の強さについての情報に加えて又は代えて、レチノイドの副作用に対する感受性に応じて、適切なレチノイド含量の化粧料を提示することもできる。出力部は、演算処理の結果を直接表示する液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段であってもよいし、外部記憶装置への出力又はネットワークを介して出力するためのインターフェイス部であってもよい。さらに別の態様では、提示された化粧料とともに、購入ボタンを合わせて表示することができ、対象が購入ボタンをクリックすることで、商品の購入を可能になるように構成されてもよい。
【0028】
本発明の好ましい態様では、本発明のコンピュータは、サーバーを構成し、入力部及び出力部は、それぞれインターフェイス部を介して、ネットワークに接続される。この場合、ネットワークに接続された個別の端末から、ゲノム情報やゲノムの一部の配列情報を提供することができ、提供された配列情報がサーバーにおいて処理される。サーバーにおいて、レチノイドの副作用に対する感受性に関するSNPの存在が検出され、検出されたSNPと共に、検出されたSNPの数又は種類に対応するレチノイドの副作用に対する感受性を、ネットワークを通じて端末に出力することができる。
【0029】
単一のSNPを検出することで、レチノイドの副作用に対する感受性を決定することもできるが、より優れた感度を達成する観点では、複数のSNPを検出して、感受性を決定することが好ましい。複数のSNPの検出に基づき、感受性を決定するためには、一例として、そのSNPが、当該感受性にポジティブ又はネガティブの作用を与えるかを明らかにし、その存在に応じてポイントを付することで、SNPスコアを算出することにより行われる。SNPスコアと感受性との関連を予め決定しておくことで、SNPスコアから、感受性を決定することができる。
【0030】
本発明のレチノイドの副作用に対する感受性の決定方法により感受性が決定された場合、感受性についての情報に基づき、カウンセリングを行うことができる。したがって、本発明の一態様は、カウンセリング方法にも関する。こうしたカウンセリングにおいて、使用する化粧料や医薬品についてアドバイスを提供することができる。一例として、レチノイドの副作用に対する感受性が高いと判定された対象には、レチノイド含有の化粧料の使用の注意喚起を行うことができる。またそのような対象には、注意喚起とともに又は注意喚起とは別にレチノイドが含まれていないか、又は低減された化粧料を提供することができる。レチノイドの副作用に対する感受性が低いと判定された対象には、レチノイドを含有する化粧料を提供することができる。レチノイドの含量および使用量は、レチノイドの感受性に応じて変更して提供することができる。別の態様では、レチノイドの副作用に対する感受性が高いと判定された対象に、レチノイド感受性を緩和する方法や、感受性を緩和するための美容の指導サービス、感受性を緩和するための化粧料を選択する方法を提供することができる。感受性を緩和するために、レチノイドの刺激緩和剤を多く含む化粧料又は医薬品を提供することもできる。したがって、本発明は、レチノイドの副作用に対する感受性の決定方法により感受性を決定し、感受性に基づいて適切な化粧料又は医薬品を選択して提供することを含む、美容又は治療方法に関する。
【0031】
本発明の別の態様では、レチノイドの副作用に対する感受性の決定のためのキットにも関する。当該キットは、以下の:rs117761959、rs35515429、rs35736558、rs61840347、rs12754142、rs9290978、rs28501222、rs117675886、rs117758125、rs875705、rs58310152、rs58286474、rs112273273、rs73380909、rs73380910、rs73380913、rs12655922、rs17068781、rs278015、rs17068796、rs73381002、rs59490468、rs117142738、rs10086126、rs145653129、rs1903895、rs2574810、rs6480852、rs497578、rs562187、rs531402、rs2574801、rs2247887、rs2247880、rs814014、rs137908383、rs186198501、rs7933887、rs80067170、rs78606856、rs12100559、rs150171951、rs2060609、rs2060608、rs1349250、rs145745344、rs57595200、rs8008945、rs12907778、rs151092710、rs28363677、rs16948876、rs17753299、rs150302670、及びrs763038からなる群から選ばれる少なくとも1のSNP、またはその連鎖不平衡にあるSNPを検出するための核酸試薬を含む。かかるキットは、さらに核酸抽出試薬及び精製試薬を含んでもよい。また、検出されたSNPと感受性との関係を説明する使用説明書を含んでもよい。
【0032】
このような核酸試薬として、一例としては、SNPを選択的に増幅可能なプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP、そして場合により増幅緩衝液を含む。SNPを増幅可能なプライマーは、各SNPに対して、任意に設計することができる。
【0033】
核酸試薬として、核酸プローブを使用する場合、前記キットがさらに、プローブ検出試薬を含んでもよい。かかる核酸プローブは、未固定のプローブを用いてもよいし、DNAチップ上に固定されたものを用いて、複数のSNPを同時に検出することができる。このような核酸プローブは、特定のSNPを検出可能なように標識されていてもよい。
【0034】
本発明で特定されたレチノイドの副作用に対する感受性に関わるSNPが存在する遺伝子も特定できる。このような遺伝子として、CAPN2、OR14I1、LYPD8、OSTN、LOC643675、FHDC1、TENM2、LOC105375854、SHC3、KCNMA1、ST3GAL4、LINGO1、NSMCE1、及びLOC105372121からなる群から選ばれる少なくとも1の遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子は、レチノイドの副作用に対する感受性に関わる遺伝子であることから、候補薬剤の適用後におけるこれらの遺伝子の発現変化を指標とすることで、レチノイド感受性に対して作用できる薬剤のスクリーニングに用いることができる。また、遺伝子から翻訳された機能タンパク質の作用変化を評価し、その変化を調整する候補薬剤のスクリーニングも可能である。レチノイド感受性に対する作用としては、レチノイド感受性の緩和作用、又はその逆のレチノイド感受性の増加作用が挙げられる。上述の遺伝子発現を変動させることができるとスクリーニングされた候補薬剤が、レチノイド感受性の緩和作用、又はその逆のレチノイド感受性の増加作用のどちらを有するかについては、遺伝子の種類及びそのメカニズムに応じて決定することができるし、さらに2次スクリーニングを行うことで容易に決定することもできる。また、機能タンパク質の作用変化がレチノイド感受性の緩和作用、又はその逆のレチノイド感受性の増加作用を示し、その作用の変化をコントロールできるものが、候補薬剤となる。2次スクリーニングとしては、一例として、被験者においてレチノイド含有化粧品との併用することにより決定することができる。
【0035】
スクリーニング方法の一例として、
候補薬剤を含む溶液を適用する工程;
適用された細胞において遺伝子の発現変化を決定する工程;及び
前記発現変化に基づき、候補薬剤のレチノイド感受性に対する作用を決定する工程
を含む、候補薬剤のスクリーニング方法に関する。
【0036】
また、スクリーニング方法の他の例として、
候補薬剤を含む溶液を適用する工程;
適用された細胞において機能タンパクの作用への影響を評価する工程;及び
機能タンパク質の作用変化に基づき、候補薬剤のレチノイド感受性に対する作用を決定する工程
を含む、候補薬剤のスクリーニング方法に関する。
【0037】
さらに、スクリーニング方法のさらなる例として、
候補薬剤を含む溶液を適用する工程;
適用された細胞において遺伝子の発現を決定する工程;
適用された細胞において、機能タンパク質の作用への影響を評価する工程;及び
前記発現変化及び機能タンパク質の作用変化に基づき、候補薬剤のレチノイド感受性に対する作用を決定する工程
を含む、候補薬剤のスクリーニング方法に関する。
【0038】
候補薬剤を含む溶液の適用工程は、培養細胞に対して適用されてもよいし、皮膚に対して適用されてもよい。遺伝子の発現は、個別の遺伝子に対して、RT-PCRなどの手法により、遺伝子発現量を測定してもよいし、アレイを用いて遺伝子発現の変化を特定してもよい。対照として、候補薬剤のみを含まない溶液などを用いた場合の遺伝子発現、又は機能タンパク質の作用を測定し、候補薬剤を含む溶液を適用された細胞において、遺伝子発現やタンパク質の作用とを比較することにより、発現変化や作用変化を決定することができる。対照の測定値は予め実験を行うことで予め決定されていてもよいし、同時に行われていてもよい。
【0039】
機能タンパク質の作用の変化は、それぞれの機能を定量的に評価する評価系に基づき、変化を特定してもよい。機能タンパク質が、酵素である場合、酵素活性の変化を測定することで、機能タンパク質の作用の変化を評価することができる。その場合、例えば、酵素の特異基質を用いて分解活性を指標として、候補薬剤のレチノイド感受性を評価することができる。機能タンパク質が他の物質(特にタンパク質)に作用して細胞機能に影響する場合には、他の物質との相互作用を指標として機能タンパク質の作用変化を評価することができる。機能タンパク質が、局在を変えることで機能を発揮する場合もあり、局在の変化を指標として、機能タンパク質の作用変化を評価することもできる。その場合例えば、核やゴルジ体などの所定の細胞小器官、細胞膜、細胞質内、又は細胞外などの局在位置に応じて、機能タンパク質の作用変化を評価でき、それにより候補薬剤のレチノイド感受性を評価することができる。また、他のタンパク質との相互作用や、局在変化の帰結として、生じる細胞増殖や細胞内イオン濃度の変化などの表現型の変化を指標とすることができる。
【0040】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0041】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例】
【0042】
試験1
150名の被験者に対し、普段のスキンケアのお手入れに加えて、レチノール配合美容液を、2週間にわたって左右の目尻及び頬部を中心に全顔に1日2回(朝夜)塗布した。2週間の連用塗布後、外観写真を撮影し、問診を行うとともに、皮膚所見を判定した。
【0043】
試験2
80名の被験者に対し、普段のスキンケアのお手入れに加えて、レチノール配合美容液を被験試料とし、被験試料からレチノールのみを抜去した製剤を対照試料として、ハーフフェイス法に基づいて試験を行った。具体的に、プラセボ対照ランダム化された被験試料と、対照試料とを、それぞれ左顔面及び右顔面に分けて9週間にわたり1日2回(朝夜)塗布した。試験開始前、及び9週間後に、外観写真を撮影し、問診を行うとともに、皮膚所見を判定した。
【0044】
試験3
360名の被験者に対し、普段のスキンケアのお手入れに加えて、レチノール配合美容液を4週間にわたって左右の目尻及び頬部を中心に全顔に1日2回(朝夜)塗布した。4週間の連用塗布後、外観写真を撮影し、問診を行うとともに、皮膚所見を判定した。
【0045】
レチノール感受性の判定
試験1、試験2、及び試験3で得られた結果に基づき、レチノール感受性が反応群と健常群に分類した。具体的に、健常群は、レチノール試料の投与に対しトラブルが全く見られなかった被験者の群に関する。反応群は、副作用が明らかに認められ、レチノールに対する皮膚トラブルを経験した被験者の群に関する。
【0046】
被験者から、唾液を採取し、DNAを精製して、SNPアレイ解析に供した。SNPアレイ解析として、ジャポニカアレイ(株式会社東芝)を用いてジェノタイピングした。ジェノタイピング結果をインピュテーションを行い、網羅的に被験者のSNP結果を取得した。ジェノタイピング結果とインピュテーション後のSNP結果をレチノール反応群と健常群でゲノムワイド関連解析を実施し、その結果を縦軸に統計学的な有意性(p値の対数表示)を示し、横軸をクロモゾーム番号とするマンハッタンプロットを作成した(
図3)。p値<10
-5となるSNPとして、下記の表2に列挙される55種が特定された。
【0047】