(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ホウ素化合物に基づく新規の軟質材料の合成および最適化方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0564 20100101AFI20230424BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230424BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230424BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230424BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
H01M10/0564
H01M10/052
H01M10/054
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020090442
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2022-11-07
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラナ・モハタディ
(72)【発明者】
【氏名】オスカー・トゥトゥザウス
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/094250(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0564
H01M 10/052
H01M 10/054
H01B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電気化学セルのための電解質組成物の合成方法であって、
固体マトリックスの融解温度と同じまたはこれを超える温度において、前記固体マトリックスと金属塩とを混合して、融解した塩マトリックス中に前記金属塩を溶解させた後、溶解させた前記金属塩を有する前記融解した塩マトリックスを冷却して固体電解質混合物を生成することにより、前記固体マトリックスを前記金属塩でドープする工程を含み、
前記固体マトリックスは、式G
pAを有し、
式中、
Gは、アンモニウムおよびホスホニウムからなる群より選択されかつ複数の有機置換基を有する有機カチオンであり、前記複数の有機置換基の各有機置換基は、
(i)直鎖、分枝、または環式のC1~C8のアルキル基またはフルオロアルキル基、
(ii)C6~C9のアリール基またはフルオロアリール基、
(iii)直鎖、分枝鎖、または環式のC1~C8のアルコキシ基またはフルオロアルコキシ基、
(iv)C6~C9のアリールオキシ基またはフルオロアリールオキシ基、
(v)アミノ、および
(vi)(i)~(v)の2つ以上を組み合わせた置換基からなる群より独立して選択され、
前記複数の有機置換基のうち少なくとも1つの有機置換基は、前記複数の有機置換基のうち少なくとも1つの他の有機置換基とは異なり、
pは1または2であり、
Aはホウ素クラスターアニオンであり、
前記金属塩は金属カチオンおよびアニオンを含
み、
前記ホウ素クラスターアニオンは、ホウ素原子を6~12個有し実効電荷が-2であるボラン、クラスタ構造中に炭素原子1個およびホウ素原子5~11個を有し実効電荷が-1であるカルボラン、クラスタ構造中に炭素原子2個およびホウ素原子4~10個を有し実効電荷が-1または-2であるカルボランのうち、いずれかのアニオンの形態であり、
前記金属カチオンは、Li
+
、Na
+
、Mg
2+
、Ca
2+
からなる群より選択され、
前記金属塩のアニオンは、前記ホウ素クラスターアニオンであるAとは独立して、式[B
y
H
(y-z-i)
R
z
X
i
]
2-
、[CB
(y-1)
H
(y-z-i)
R
z
X
i
]
-
、[C
2
B
(y-2)
H
(y-t-j-1)
R
t
X
j
]
-
、[C
2
B
(y-3)
H
(y-t-j)
R
t
X
j
]
-
、および[C
2
B
(y-3)
H
(y-t-j-1)
R
t
X
j
]
2-
のうち1つを有するホウ素クラスターアニオンを含み、
式中、
yは6~12の範囲の整数であり、
(z+i)は0~yの範囲の整数であり、
(t+j)は0~(y-1)の範囲の整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、またはこれらの組み合わせであり、
Rは、直鎖、分枝鎖、または環式のC1~C18のアルキル基またはフルオロアルキル基、アルコキシまたはフルオロアルコキシ、およびこれらの組み合わせのうちいずれかを含む、方法。
【請求項2】
前記ホウ素クラスターアニオンであるAは、式[B
yH
(y-z-i)R
zX
i]
2-、[CB
(y-1)H
(y-z-i)R
zX
i]
-、[C
2B
(y-2)H
(y-t-j-1)R
tX
j]
-、[C
2B
(y-3)H
(y-t-j)R
tX
j]
-、および[C
2B
(y-3)H
(y-t-j-1)R
tX
j]
2-のうち1つを有し、
式中、
yは6~12の範囲の整数であり、
(z+i)は0~yの範囲の整数であり、
(t+j)は0~(y-1)の範囲の整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、またはこれらの組み合わせであり、
Rは、直鎖、分枝鎖、または環式のC1~C18のアルキル基またはフルオロアルキル基、アルコキシまたはフルオロアルコキシ、およびこれらの組み合わせのうちいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホウ素クラスターアニオンであるAは、closo-[B
6H
6]
2-、closo-[B
12H
12]
2-、closo-[CB
11H
12]
-、およびcloso-[C
2B
10H
11]
-のうち少なくとも1つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属塩のアニオンは、(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、ヘキサフルオロホスフェート、およびテトラフルオロボレートのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属塩は、Li(CB
11H
12)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Gはアンモニウムカチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Gはホスホニウムカチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属塩は、前記固体マトリックス全体に均質に分布している、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属塩は、前記固体マトリックスに対するモル比とし
て1:100~100:1の範囲(両端を含む)で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属塩は、前記固体マトリックスに対するモル比とし
て0.5:1~1:1の範囲(両端を含む)で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記固体マトリックスは少なくとも2つの有機カチオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記固体電解質混合物の弾性率は、10GPa未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記固体電解質混合物の弾性率は、1.0GPa未満である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、二次電池において使用するための軟質固体電解質およびホウ素クラスター化学に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
固体状電解質は、二次電池の設計において、力学的安定性、不揮発性、および易構築性を含む多くの利点を提供する。既存の、高いイオン伝導率を示す無機固体状電解質は、通常は硬質材料であり、こうした材料は、電池サイクル中において、はっきり認められる程度の電極材料との接触を維持することができない。ポリマーのような有機固体状電解質は、硬度が低いため、このような問題を克服できるが、イオン伝導率が低いという問題がある。
【0003】
こうした、はっきり認められる程度のイオン伝導率を有する固体状電解質は、一般的に、有機イオン性液晶(OIPC)に基づく。このような材料の高い伝導率は、固相-固相転移に依存する。OIPCに基づく材料は、融点が低いおよび/または伝導相の温度範囲が低いなどといった問題を有し得るため、利用可能性が限定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、OIPCに基づく電解質の伝導率に匹敵する伝導率を有するが、制約を伴う相転移には依存しない、改善された固体状電解質の提供が望まれていると考えられる。さらに、このような材料を合成および最適化するための改善された方法の提供も望まれていると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
二次電池のための軟質固体電解質の合成および最適化方法が提供される。
【0006】
一態様において、二次電池において使用するための固体電解質組成物の合成方法が開示される。この方法は、軟質固体マトリックスを金属塩でドープする工程を含む。軟質固体マトリックスは式GpAを有し、式中、Gは、本明細書中において開示される一連の可能なカチオンのうちの有機カチオンであり、pは1または2であり、Aはホウ素クラスターアニオンである。金属塩は、金属カチオンおよび金属塩アニオンを有する。
【0007】
他の態様において、本開示は、二次電気化学セルにおいて使用するための軟質電解質の最適化方法を提供する。この方法は、軟質電解質のライブラリを提供する工程を含み、ライブラリ中の個々の軟質電解質の各々は上述されるとおりである。この方法は、軟質電解質のライブラリから所望の特性をスクリーニングする工程と、スクリーニングに基づいて1つの軟質電解質を選択する工程とをさらに含む。
【0008】
軟質固体電解質の形成方法についての、これらのおよび他の特徴は、以下の詳細な説明と、例証的かつ非排他的であることを意図した図面および実施例を読むこととにより、明らかとなり得る。
【0009】
本発明の様々な態様および利点は、以下の実施形態の説明と添付の図面とにより、明らかとなりかつより容易に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本開示に係る代表的なホウ素クラスターアニオンであるcloso-[B
12H
12]
2-の透視概略図である。
【
図1B】本開示に係るホウ素クラスターアニオンであるcloso-[CB
11H
12]
-の透視概略図である。
【
図1C】本開示に係るホウ素クラスターアニオンであるcloso-[C
2B
10H
11]
-の透視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明の教示によって、固体状にて高いイオン伝導率を有する軟質電解質組成物の合成および最適化方法が提供される。軟質電解質組成物は、典型的には電池動作温度において固体であるが、高エントロピーでプラスチック様の分子構造をもつために、通常にはない程度の高いイオン伝導率を有する。
【0012】
この合成方法は、軟質固体マトリックスを金属塩でドープする工程を含む。この新規の固体マトリックスは、ホウ素クラスターアニオンと、フレキシブルかつ/または非対称の置換基を有する有機カチオンとを含む。得られる電解質は、高いイオン移動度および伝導率をもたらすプラスチック様またはガラス様で高エントロピーの分子構造を有する軟質固体を形成する。
【0013】
よって、二次電池において使用するための軟質固体電解質組成物(以下、簡単に「電解質組成物」と称される)が開示される。この電解質組成物は、式GpAを有する固体マトリックスを含み、式中、Gは有機カチオンであり、Aはホウ素クラスターアニオンであり、pは1または2のいずれかである。いくつかの実装形態において、有機カチオンは、以下に構造1~4として示される例などの、アンモニウムおよびホスホニウムカチオンのうち少なくとも1つを含んでよい。
【0014】
【0015】
式中、R、R’、ならびに、R’’およびR’’’が存在する場合にはR’’およびR’’’は、各々、独立して、直鎖、分枝鎖、または環式のC1~C8のアルキル基またはフルオロアルキル基である基(i)、C6~C9のアリール基またはフルオロアリール基である基(ii)、直鎖、分枝鎖、または環式のC1~C8のアルコキシ基またはフルオロアルコキシ基である基(iii)、C6~C9のアリールオキシ基またはフルオロアリールオキシ基である基(iv)、アミノである基(v)、ならびに、基(i)~(v)のうち任意の2つ以上によって定義されるような2つ以上の部位を含む置換基である基(vi)に属する置換基である。置換基であるR、R’、ならびに、R’’およびR’’’が存在する場合にはR’’およびR’’’は、以下において、代替的に「複数の有機置換基」とも称され得る。一般的に、有機カチオンは、置換基の大きさおよび分布に関してある程度の非対称を有してよい。したがって、R、R’、R’’、およびR’’’の少なくとも1つは、他と異なっていてよく、このカチオンは、好ましくは、2対の置換基を含まなくてよい。
【0016】
特定の具体的な実装形態において、有機カチオンは、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(以下、「Pyr13」と称される);N-メチル-N,N-ジエチル-N-プロピルアンモニウム(N1223);N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)-アンモニウム(DEME);N-メチル-N-プロピルピペリジニウム(以下、「Pip13」と称される);N-メチル-N-(2-メトキシエチル)-ピロリジニウム(Pyr12O1);トリメチルイソプロピルホスホニウム(P111i4);メチルトリエチルホスホニウム(P1222);メチルトリブチルホスホニウム(P1444);N-メチル-N-エチルピロリジニウム(Pyr12);N-メチル-N-ブチルピロリジニウム(Pyr14);N,N,N-トリエチル-N-ヘキシルアンモニウム(N2226);トリエチルヘキシルホスホニウム(P2226);およびN-エチル-N,N-ジメチル-N-ブチルアンモニウム(N4211)を含む基から選択されてよい。いくつかの実装形態において、Gは、上述されるカチオンを1つを超えて含んでよいことが理解される。pが2である場合、化学量論単位の固体マトリックス中に含有される2つの有機カチオンは、同じカチオンであってもよいし、2つの異なるカチオンであってもよいことが理解される。
【0017】
本明細書中において使用される「ホウ素クラスターアニオン」という句は、一般的に、ホウ素原子を6~12個有し実効電荷が-2であるボラン、クラスタ構造中に炭素原子1個およびホウ素原子5~11個を有し実効電荷が-1であるカルボラン、クラスタ構造中に炭素原子2個およびホウ素原子4~10個を有し実効電荷が-1または-2であるカルボランのうち、いずれかのアニオン形態を指す。いくつかの変形形態において、ホウ素クラスターアニオンは非置換であってよく、上述されるものの他には水素原子のみを有してよい。いくつかの変形形態において、ホウ素クラスターアニオンは置換されていてよく、1つ以上の水素原子が1つ以上のハロゲンで置き換えられている、または1つ以上の水素原子が1つ以上の有機置換基で置き換えられている、またはこれらの組み合わせであってよい。
【0018】
いくつかの実装形態において、ホウ素クラスターアニオンは、以下の式のうち任意のものを有するアニオンであってよい。
【0019】
【0020】
式中、yは6~12の範囲の整数であり、(z+i)は0~yの範囲の整数であり、(t+j)は0~(y-1)の範囲の整数であり、Xは、F、Cl、Br、I、またはこれらの組み合わせである。アニオン式I~Vに含まれる置換基Rは、任意の有機置換基または水素であってよい。
【0021】
XはF、Cl、Br、I、またはこれらの組み合わせであってよいことが理解され、これは、iが2~yの範囲の整数である場合、またはjが2~(y-1)の範囲の整数である場合に、複数のハロゲン置換基が存在することを示す。このような状況において、これらの複数のハロゲン置換基は、F、Cl、Br、I、またはこれらの任意の組み合わせを含んでよい。たとえば、3つのハロゲン置換基を有する(すなわち、iまたはjが3である場合の)ホウ素クラスターアニオンであれば、これらの3つのハロゲン置換基は、フッ素置換基が3つであってもよいし、塩素置換基が1つと臭素置換基が1つとヨウ素置換基が1つであってもよいし、任意の他の組み合わせであってもよい。
【0022】
多くの実装形態において、ホウ素クラスターアニオンは、任意の置換または非置換のcloso-ホウ素クラスターアニオンを含んでよい。いくつかの実装形態において、ホウ素クラスターアニオンは、closo-[B6H6]2-、closo-[B12H12]2-、closo-[CB11H12]-、またはcloso-[C2B10H11]-などの、closo-ホウ素クラスターアニオンであってよい。
【0023】
図1A~1Cは、アニオン式I~Vのそれぞれに係る例示的な非置換のホウ素クラスターアニオンの構造を示す。具体的には、
図1A~1Cは、closo-[B
12H
12]
2-、closo-[CB
11H
12]
-、closo-[C
2B
10H
11]
-をそれぞれ示す。アニオン式IIIの例示的なcloso-[C
2B
10H
11]
-アニオンは、1,2-ジカルバの種として示されるが、しかしながら、このようなcloso-二十面体ジカルバの種は代替的には1,7-または1,12-ジカルバであってよいことが理解され得る。より一般的には、アニオン式III、IV、およびVの要求される炭素原子はホウ素クラスター骨格において任意の可能な位置を占めてよいことが理解される。さらに、ホウ素クラスターアニオン上に非水素置換基が存在する場合には、可能であれば、ホウ素クラスター骨格において、ホウ素または炭素のいずれかが占めている頂点を含む任意の位置に付着していてよいことも理解される。
【0024】
いくつかの実装形態において、電解質組成物は、80℃未満および標準圧力において、DSCにより判断されるような相転移を呈さない。
【0025】
いくつかの実装形態において、電解質組成物は、固体状でのイオン伝導率が10-10S/cmよりも大きい。さらに、本発明の教示に係る軟質固体電解質は、現時点で最高技術水準の固体電解質のほとんどと比較して実質的に軟質であることが注目され得る。たとえば、典型的な硫化物固体状電解質の弾性率は、約26ギガパスカル(GPa)である。一方、Pyr14:CB9H10の固体マトリックスを有し、モル比1:1のLiCB9H10:LiCB11H12からなる金属塩を80%有する軟質固体電解質の硬度は、0.214GPaと低い。同様に、Pyr14:CB11H12の固体マトリックスを有し、LiCB11H12金属塩を45%有する軟質固体電解質の弾性率(硬度の指標)も、2.36GPaと低い。したがって、様々な実装形態において、電解質組成物は、約10GPa未満、または約1GPa未満、または約0.5GPa未満の弾性率を有し得る。
【0026】
電解質組成物は、さらに、金属カチオンおよびアニオンを有する金属塩を含む。この金属塩に関連および/または由来するアニオンが、以下で「金属塩アニオン」と称される場合がある。金属塩は、一般的に、電解質組成物の使用先となる電池の電気化学に基づいて選択されてよい。異なる変形形態において、金属カチオンは、Li+、Na+、Mg2+、Ca2+、または任意の他の電気化学的に好適なカチオンであってよい。
【0027】
いくつかの実装形態において、金属塩のアニオンは、上述される種類の任意のホウ素クラスターアニオンであってよい。電解質についてのいくつかのこのような実装形態において、金属塩のホウ素クラスターアニオンは軟質固体電解質のホウ素クラスターアニオンと同じであってもよく、いくつかの実装形態においては、2つのホウ素クラスターアニオンは異なってもよい。他の変形形態において、金属塩アニオンは、TFSI、BF4、PF6、またはFSIなどの、電池化学における使用に好適な任意のアニオンであってよい。
【0028】
固体マトリックスは、一般的に、金属塩でドープされて、電解質組成物が形成されてよい。ドープは、固体マトリックスとドープ塩とを密に接触させることによって行われてよい。これを達成するための1つの方法は、ドーパント塩を、融解した有機塩マトリックス中に溶解させる方法である(メルトインフュージョン)。別の方法は、すべての要素を溶媒中に溶解させ、混合し、溶媒を除去して固体材料を得る方法である。メルトインフュージョンの前または後に手粉砕またはボールミル粉砕を用いて材料をコンディショニングしてよいということに注意する。
【0029】
いくつかの実装形態において、電解質組成物は、固体マトリックスに対するモル比として約1:100~約100:1の範囲で存在する金属塩を含んでよい。より好ましくは、いくつかの実装形態において、電解質組成物は、固体マトリックスに対するモル比として約5:100~約1:1の範囲で存在する金属塩を含んでよい。
【0030】
よって、二次電池のための軟質固体電解質の合成方法が開示される。この方法は、固体マトリックスを金属塩でドープして固体電解質混合物を生成する工程を含んでよい。固体マトリックスおよび金属塩は、上述されるとおりである。ドープ工程は、たとえば、固体マトリックスの融解温度と同じまたはこれを超える温度において固体マトリックスと金属塩とを混合することによって行なってよい。別の一例において、ドープ工程は、固体マトリックスと金属塩とを溶媒の系の中に溶解させ、溶媒を除去することによって行なってもよい。
【0031】
部分的に重なる別の実施形態において、本発明の教示は、電気化学セルにおいて使用するための軟質電解質の最適化方法を含む。軟質電解質の最適化方法は、軟質電解質のライブラリを提供する工程を含み、ライブラリ中の個々の軟質電解質の各々は、その全詳細が上述のとおりである。好ましくは、軟質電解質のライブラリ中の各軟質電解質は、ライブラリ中の他のものと組成が異なっていてよい。よって、軟質電解質のライブラリは、有機カチオンが何であるか、ホウ素クラスターアニオンが何であるか、金属カチオンが何であるか、金属塩アニオンが何であるか、マトリックスと金属塩とのモル比、またはこれらのパラメータの任意の組み合わせにおいて、多様性を含んでいてよい。多くの実装形態において、ライブラリの全要素は、同じ金属カチオンを有してよい。特定の実装形態において、軟質電解質のライブラリは、有機カチオンが何であるかにおいて多様性を含んでもよく、ライブラリ中の個々の軟質電解質は、すべての点において互いに同一であってもよい。
【0032】
異なる変形形態において、軟質電解質ライブラリ中の電解質は、手で、または高処理能力を有する組み合わせ合成技術によって、上述されるとおりに合成されてよい。よって、特定の実装形態において、軟質マトリックスのライブラリが、まず、1つ以上のホウ素クラスターを多様な有機カチオンとを組み合わせることによって合成されてよい。次いで、軟質マトリックスのライブラリが、上述されるように、1つ以上の金属塩でドープされてよい。
【0033】
軟質電解質の最適化方法は、軟質電解質のライブラリから所望の特性をスクリーニングする工程を含んでよい。たとえば、イオン伝導率、イオン輸送、または柔軟性などの力学的特性が、ライブラリ中の各軟質電解質について測定されてよい。代替的には、またはこれに加えて、ライブラリ中の各軟質電解質が電気化学セル中に組み込まれて、多サイクル安定性、電力密度などの所望の電気化学的特性、または任意の他の所望の特性について試験されてもよい。典型的には、ライブラリ中の軟質電解質が組み込まれる電気化学セルは、電解質が何であるかという点を除くすべての点(たとえば、アノード、カソードなど)において同一であってよい。
【0034】
軟質電解質の最適化方法は、次いで、スクリーニングに基づいて1つの軟質電解質を選択する工程を含んでよい。よって、たとえば、軟質電解質の最適化方法は、所与の電気化学(たとえば、Li、Na、Mg、Ca、デュアルイオン、または任意の他の二次電池型)について軟質電解質を最適化することに関し得る。たとえば、リチウムイオン電池にとって最適な軟質電解質が既知であって、ナトリウム電池にとって最適な軟質電解質が所望される場合には、その最適化されたリチウムイオン電解質が、ライブラリ設計の開始点として使用されてよい。具体的な一例において、最適化されたリチウムイオン電解質のホウ素クラスターアニオンと同じホウ素クラスターアニオンを含むが有機カチオンは異なる軟質マトリックスライブラリが設計されてよい。次いで、軟質マトリックスライブラリが、最適化されたリチウムイオン電解質の金属塩と同じ金属塩であって、ただしこの金属塩においてLi+がNa+で置き換わっている金属塩で、ドープされてよい。このように、軟質電解質の最適化方法は、Na電池にとって有機カチオンを何にするかを探索および最適化してよい。
【0035】
上述される説明は本質的に単なる例示であり、本開示または本開示の用途もしくは使用の限定を意図するものではない。本明細書中で用いられる、A、B、およびCの少なくとも1種(1つ)という表現は、非排他的な論理「または」を使用した「AまたはBまたはC」という論理を意味すると解釈されるべきである。ある方法に含まれる多様な工程が異なる順序で行なわれても本開示の原理は変更されないことが理解される。範囲の開示は、範囲全体に含まれる個々の範囲と個々の細分された範囲とのすべてが開示されていることを含む。
【0036】
本明細書中において用いられる見出し(たとえば「背景」および「概要」など)および小見出しは、本開示の範囲に含まれるトピックを概括的に整理することのみを意図するものであって、本技術またはその任意の態様の開示内容を限定することを意図するものではない。説明された特徴を有する複数の実施形態についての記載は、さらなる特徴を有する他の実施形態、または説明された特徴の別の組み合わせを組み込んだ他の実施形態の除外を意図するものではない。
【0037】
本明細書で用いられる「備える」および「含む」という用語ならびにそれらの変形は非限定を意図しており、項目の連続的な記載または列記は、本技術のデバイスおよび方法において有用であってもよい他の類似の項目を除外するものではない。同様に、「できる(し得る)」「して(も)よい」という用語ならびにそれらの変形は非限定を意図しており、ある実施形態が特定の要素または特徴を含み得るまたは含んでよいという記載は、こうした要素または特徴を含んでいない、本発明に係る技術の他の実施形態を除外しない。
【0038】
本開示の広範な教示内容は、多様な形態において実施することができる。したがって、本開示は具体例を含むが、当業者が明細書および下記の請求項を研究することにより他の改変が明らかとなるため、本開示の真の範囲は、本開示に含まれる具体例に限定されるべきではない。本明細書中において一態様または多様な態様に対する言及は、ある実施形態または特定のシステムに関連して記載される具体的な特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態または態様に含まれることを意味する。「一態様において」という表現(またはその変形)が記載される場合、これは必ずしも同一の態様または実施形態を指すものではない。また、本明細書中に記載される多様な方法ステップは、記載される順序と同じ順序での実施が必須というわけではないこと、および、方法ステップの各々が各態様または実施形態において必要だというわけではないことが理解されるべきである。
【0039】
上述される実施形態の説明は、例示および説明の目的で提供される。網羅的であることも、本開示を限定することも意図していない。具体的な一実施形態の個々の要素または特徴は、一般的にはその具体的な実施形態に限定されず、適切な場合には、具体的な表記または記載がなくても、交換可能であり、かつ選択された実施形態において使用できる。また、具体的な一実施形態の個々の要素または特徴は、様々に変更されてもよい。このような変更は、本開示の範囲からの逸脱であるとみなされるべきではなく、このような改変はすべて、本開示の範囲内に含まれることが意図される。