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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】土壌の乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
G01N1/28 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020183506
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073487
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591098112
【氏名又は名称】イビデンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大矢 智一
(72)【発明者】
【氏名】小林 理恵
(72)【発明者】
【氏名】安本 和広
(72)【発明者】
【氏名】日比野 純
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-349323(JP,A)
【文献】特開2017-079688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削した土壌を分析するための土壌の乾燥方法であって、
複数の貫通孔を有する金型を用いて前記土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程と、
複数の前記棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程とを有しており、
前記恒温装置は、当該恒温装置内の空気を除湿する除湿装置を備えており、
前記乾燥工程では、前記恒温装置内の温度が22℃を超え、且つ30℃を超えないように温度を設定するとともに、前記恒温装置内の湿度を50%以下にすることを特徴とする土壌の乾燥方法。
【請求項2】
前記棒状体の直径が10mm以下である請求項1に記載の土壌の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染対策法等で指定されている試験・分析方法によって土壌を分析する際、試料としての土壌を乾燥させて適切な含水量とする前処理を行う場合がある。例えば、自然由来の重金属が環境基準を上回る可能性がある建設発生土は、工事ヤードに仮置きして土壌汚染対策法に基づく分析を行い、その結果に基づいて処分先や再利用先を決めており、仮置きスペースの制約から分析を短時間で行うことが求められている。その際、土壌の乾燥に時間がかかるため、土壌の分析に要する時間が長くなるという課題を有している。
【0003】
特許文献1は、土壌汚染対策法の第二種特定有害物質の土壌溶出量調査又は土壌含有量調査に用いる土壌の乾燥方法について記載している。
図4、5に示すように、含水した土壌60をふるい網61の上に押し付け、ふるい網61に密着させるように敷き均すことにより、空気への露出面積を増やしている。空気への露出面積を増やすことによって、乾燥時間の短縮を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-23596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の乾燥方法では、土壌60はふるい網61に密着した状態で乾燥されるため、空気への露出面積が十分であるとはいえなかった。そのため、乾燥時間に約15時間と長時間を要し、例えばトンネル掘削現場の土壌を分析する場合において、土壌を掘削した日に乾燥を開始しても翌朝までに分析結果を得ることができない虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための土壌の乾燥方法は、土壌の乾燥方法であって、複数の貫通孔を有する金型を用いて上記土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程と、複数の上記棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程とを有することを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程を有することによって、空気への露出面積である土壌の表面積を相対的に大きくすることができる。そのため、棒状体の形状で乾燥を行うことにより、乾燥時間をより短縮することができる。また、複数の棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程を有することにより、乾燥条件をより一定にすることができる。
【0008】
本発明の土壌の乾燥方法について、上記棒状体の直径が10mm以下であることが好ましい。この構成によれば、棒状体の直径が相対的に小さくなるため、棒状体が乾燥しやすくなる。また、一度により多くの棒状体を押し出すことが可能になるため、土壌の表面積を大きくすることが容易になる。
【0009】
本発明の土壌の乾燥方法について、上記恒温装置は、当該恒温装置内の空気を除湿する除湿装置を備えていることが好ましい。この構成によれば、土壌をより効率良く乾燥させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の土壌の乾燥方法によれば、乾燥時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】押出工程に用いる押出装置の模式図。
図2】容器に載置された複数の棒状体の模式図。
図3】乾燥工程に用いる恒温装置の斜視図。
図4】従来技術の土壌の乾燥方法に用いられるふるい網の平面図。
図5】従来技術の土壌の乾燥方法に用いられるふるい網の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
土壌の乾燥方法の一実施形態を説明する。
土壌の乾燥方法は、複数の貫通孔を有する金型を用いて土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程と、複数の棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程とを有する。
【0013】
押出工程について説明する。
図1に示すように、押出工程は、押出装置10を用いて行う。
押出装置10は、断面が円環状の周壁11aを有する筒状体11と、筒状体11の軸方向の一端部である第1端部11bに位置する円板状の金型12と、筒状体11の軸方向の他端部である第2端部11cに位置する円板状の端壁13とを有する。金型12及び端壁13の少なくとも一方は、周壁11aの軸方向に沿って移動可能に構成されており、金型12と端壁13は、互いに接近、もしくは離間することができる。
【0014】
金型12及び端壁13の少なくとも一方を移動させるための駆動源としては特に限定されず、公知の駆動源を採用することができる。公知の駆動源としては、例えば、油圧ジャッキ等のプレス装置が挙げられる。
【0015】
金型12は、金型12の厚さ方向に貫通する複数の円形の貫通孔12aを有している。貫通孔12aの内径は、特に限定されないが、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。貫通孔12aの内径が10mm以下であることにより、後述のように、貫通孔12aを通して押し出される土壌50の直径を相対的に小さくすることができる。
【0016】
貫通孔12aの内径は、1mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましい。貫通孔12aの内径が1mm以上であることにより、貫通孔12aから土壌50を押し出す際の抵抗をより小さくすることができる。貫通孔12aの数は特に限定されず、適宜設定することができる。
【0017】
図1に示すように、押出し工程を行なう際には、筒状体11の内部における円板状の金型12と、同じく円板状の端壁13との間に、所定量の土壌50を配置する。
図1の矢印Aで示すように、端壁13を金型12に近づく方向に移動させる。土壌50が、金型12と端壁13との間に挟まれることによって、金型12の貫通孔12aを通して複数の棒状体51(図2参照)が押し出される。具体的には、図1の矢印Bの方向に複数の棒状体51が押し出される。金型12の貫通孔12aの形状に由来して、棒状体51の断面形状は、略円形となる。
【0018】
図2に示すように、押し出された棒状体51をトレイ等の容器14上に載置する。金型12から押し出された棒状体51は、自重によって個々に分離した状態で載置される。金型12から押し出された棒状体51を、適宜、手でほぐして分離させてもよいし、鋏等の切断治具を用いて切断して分離してもよい。分離した棒状体51は、容器14上において個々に所定の間隔をおいて載置することが好ましい。
【0019】
棒状体51の形状は、特に限定されないが、例えば、直径が10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
ここで、棒状体51の直径は、棒状体51の長手方向に直交する方向に沿う断面(横断面)における直径を意味するものとする。
【0020】
棒状体51の長さは5mm~50mmであることが好ましく、10mm~20mmであることがより好ましい。
なお、本実施形態における「棒状」とは、細長い形状のみを意味するのではなく、金型12の複数の貫通孔12aから押し出された任意の形状を含むものとする。そのため、例えば、直径と長さが略等しく構成された小片状も含むものとする。
【0021】
乾燥工程について説明する。
図3に示すように、乾燥工程は、恒温装置20を用いて行う。
恒温装置20は、箱型の外周壁21と、外周壁21の内側に設けられた断熱層22と、断熱層22の内側に設けられた収容空間Sとを有している。収容空間Sは、押出工程で得られた棒状体51を収容する空間として機能する。外周壁21の前方側であって、水平方向の手前側(図3の手前側)の端部には開口部21aを有している。恒温装置20は、開口部21aを開閉可能な扉部材(図示省略)を有している。
【0022】
恒温装置20は、収容空間S内の温度を所定の温度に保つことが可能な温度調節装置(図示省略)を有している。温度調節装置は、別途設けられた電源からの電力で作動する。
恒温装置20は、収容空間S内の空気を除湿する除湿装置(図示省略)を有する。除湿装置としては特に限定されず、公知の除湿機が取り付けられていてもよいし、収容空間S内に除湿装置として公知の除湿材料が配置されていてもよい。公知の除湿材料としては、例えば、シリカゲル等が挙げられる。公知の除湿機が取り付けられている場合、上記温度調節装置と同様に別途設けられた電源からの電力で作動するように構成されていてもよい。
【0023】
上記温度調節装置や除湿装置が接続される電源として、持ち運び可能なバッテリーを用いてもよい。持ち運び可能なバッテリーを用いることにより、恒温装置20を車両等に搭載して持ち運ぶことが可能になる。これにより、恒温装置20を車両等に搭載して、移動しながら棒状体51の乾燥を行うことが可能になる。恒温装置20としては、例えば、公知の培養器(インキュベーターともいう。)を用いることができる。
【0024】
図3に示すように、恒温装置20を用いて乾燥工程を行なう際には、複数の棒状体51が載置された容器14を収容空間S内に配置する。その際、予め複数の棒状体51の質量を容器14と合わせて測定しておくと、乾燥工程後の棒状体51の乾燥状態を把握しやすくなる。
【0025】
恒温装置20内の温度が30℃を超えないように、温度調節装置を用いて温度を設定する。恒温装置20内の温度は、22℃を超えていることが好ましく、25℃以上であることがより好ましい。
【0026】
また、恒温装置20内の湿度は、特に限定されないが、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
所定の時間乾燥工程を行なった後、収容空間S内の複数の棒状体51の質量を容器14と合わせて測定して、乾燥工程前後の質量差を求めることにより、棒状体51の乾燥状態を把握することができる。
【0027】
以上の押出工程、及び乾燥工程を行なうことによって、土壌50の乾燥を行うことができる。
本実施形態の作用について記載する。
【0028】
複数の貫通孔を有する金型を用いて土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程を有することにより、土壌の表面積を相対的に大きくすることができる。棒状体の形状で乾燥を行うことにより、乾燥時間をより短縮することができる。また、複数の棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程を有することにより、乾燥条件をより一定にすることができる。
【0029】
本実施形態の効果について記載する。
(1)複数の貫通孔を有する金型を用いて土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程と、複数の棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程とを有する。
【0030】
より表面積の大きな棒状体の形状で乾燥を行うことにより、土壌の乾燥時間をより短縮することができる。したがって、土壌を分析する際の前処理をより短時間で行うことができる。例えばトンネル掘削現場の土壌を分析する場合において、土壌を掘削した日の翌朝までに分析結果を得ることが可能になるため、工期を短縮することが可能になる。
【0031】
また、複数の棒状体を恒温装置内に配置して乾燥する乾燥工程を有することにより、乾燥条件をより一定にすることができる。乾燥温度が高くなりすぎることによる土壌に含まれる測定対象物の揮発を抑制することができるため、土壌を正しく分析することができる。
【0032】
(2)棒状体の直径が10mm以下である。棒状体の直径が相対的に小さくなるため、棒状体が乾燥しやすくなる。また、一度により多くの棒状体を押し出すことが可能になるため、土壌の表面積を大きくすることが容易になる。
【0033】
(3)恒温装置は、恒温装置内の空気を除湿する除湿装置を備えている。したがって、土壌をより効率良く乾燥させることができる。
(4)恒温装置を車両等に搭載して移動することができるため、移動しながら恒温装置を用いた乾燥を行うことが可能になる。具体的には、トンネル掘削現場等、分析が必要な土壌の発生場所が土壌の分析装置の設置場所から離れている場合、土壌を搬送しながら前処理としての乾燥を行うことが可能になる。したがって、土壌の分析にかかる時間をより短縮することが可能になる。
【0034】
なお、上記のように、分析が必要な土壌の発生場所が、土壌の分析装置の設置場所から離れている場合は、土壌から複数の棒状体を押し出す押出工程を、土壌の発生場所の近くで行い、棒状体を乾燥する乾燥工程を移動中の車両内で行ってもよい。
【0035】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・本実施形態において、押出装置の周壁は、断面が円環状に構成されていたが、この態様に限定されない。周壁の断面は、楕円形や多角形等の環状に構成されていてもよい。
【0036】
・本実施形態において、金型の貫通孔は円形に構成されていたが、この態様に限定されない。金型の貫通孔は、楕円形や多角形、星形、十字形等であってもよい。
なお、貫通孔が円形以外の形状である場合、貫通孔の内径は、貫通孔の外縁を通る仮想円を想定した際の仮想円の半径を意味するものとする。
【0037】
・本実施形態において、金型は複数の貫通孔を有する円板で構成されていたが、この態様に限定されない。例えば、金型は網材で構成されていてもよい。網材の網目を土壌が通過する際に、棒状に押し出されるように構成されていてもよい。この態様では、網材の網目が金型の貫通孔として機能する。
【0038】
・本実施形態において、棒状体の断面形状は円形であったが、この態様に限定されない。金型の貫通孔の形状に由来して、楕円形や多角形、星形、十字形等であってもよい。棒状体の断面形状が星形や十字形であると、円形に比べて棒状体の表面積を相対的に大きくすることができるため、より乾燥しやすくなる。
【0039】
・本実施形態において、恒温装置は、除湿装置を有していたがこの態様に限定されない。除湿装置を有することなく構成されていてもよい。
・押出工程と乾燥工程の両方を、移動中の車両内で行うことができるように構成されていてもよい。
【実施例
【0040】
以下、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
含水率約35%の土壌を用いて、図1に示す押出装置10を用いて複数の棒状体を押し出した。棒状体の断面形状は円形で、直径は5mm、長さは40mmであった。
【0041】
複数の棒状体をバット上に載置した状態で恒温装置20内に配置した。恒温装置20内に、除湿装置としてシリカゲルを配置した。温度29℃、湿度30%の条件で乾燥を行い、土壌の含水率が3%となるまでの時間(乾燥時間)を測定したところ、乾燥時間は約10時間であった。
【0042】
(比較例1)
含水率約35%の土壌を用いて、図1に示す押出装置10を用いて複数の棒状体を押し出した。棒状体の断面形状は円形で、直径は5mm、長さは40mmであった。
【0043】
複数の棒状体をバット上に載置した状態で室内にて乾燥した。室内の温度は22℃、湿度30%であった。この条件で、土壌の含水率が3%となるまでの乾燥時間を測定したところ、乾燥時間は約15時間であった。
【0044】
上記の結果から、実施例1の乾燥方法は、比較例1の乾燥方法に比べて乾燥時間が短縮されることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
12…金型、12a…貫通孔、50…土壌、51…棒状体。
図1
図2
図3
図4
図5