(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】熱的特性を有する積層体を含む材料
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20230424BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230424BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
C03C17/36
B32B15/08 M
B32B15/04 B
(21)【出願番号】P 2020502597
(86)(22)【出願日】2018-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2018066941
(87)【国際公開番号】W WO2019015917
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ニシタ ワナクール
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン ブーチェ
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/051638(WO,A1)
【文献】特表2014-508093(JP,A)
【文献】特表2011-522286(JP,A)
【文献】特表2007-505810(JP,A)
【文献】特開2012-093771(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0237917(US,A1)
【文献】特表2014-504583(JP,A)
【文献】特表2014-508711(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/00
B32B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材を含む材料であり、その少なくとも1つの表面に、銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体が堆積されており、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層が、誘電体層の2つの組の間に配置されている、材料であって、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と、前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ、550nmの波長での屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含み、
・前記高屈折率層のうちの少なくとも1つの、波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている前記誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれており、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さが、10nmと70nmの間に含まれ、
・前記光学的厚さ(E
O)は、E
O=n×Eの関係により定義され、この式のnは層の屈折率、Eはその実際の又は幾何学的な物理的厚さであ
り、
前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、20nmと50nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれ、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、50nmと100nmの間、好ましくは55nmと75nmの間に含まれる、
ことを特徴とする材料。
【請求項2】
透明基材を含む材料であり、その少なくとも1つの表面に、銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体が堆積されており、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層が、誘電体層の2つの組の間に配置されている、材料であって、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と、前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ、550nmの波長での屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含み、
・前記高屈折率層のうちの少なくとも1つの、波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている前記誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれており、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さが、10nmと70nmの間に含まれ、
・前記光学的厚さ(E
O
)は、E
O
=n×Eの関係により定義され、この式のnは層の屈折率、Eはその実際の又は幾何学的な物理的厚さであり、
前記最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さが、150nmと180nmの間に含まれる、
ことを特徴とする材料。
【請求項3】
透明基材を含む材料であり、その少なくとも1つの表面に、銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体が堆積されており、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層が、誘電体層の2つの組の間に配置されている、材料であって、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と、前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ、550nmの波長での屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含み、
・前記高屈折率層のうちの少なくとも1つの、波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている前記誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれており、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さが、10nmと70nmの間に含まれ、
・前記光学的厚さ(E
O
)は、E
O
=n×Eの関係により定義され、この式のnは層の屈折率、Eはその実際の又は幾何学的な物理的厚さであり、
前記最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、酸化チタンをベースとしており、前記基材から最後の機能層の上に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、ジルコニウムとケイ素の窒化物をベースとしている、
ことを特徴とする材料。
【請求項4】
透明基材を含む材料であり、その少なくとも1つの表面に、銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体が堆積されており、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層が、誘電体層の2つの組の間に配置されている、材料であって、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と、前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ、550nmの波長での屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含み、
・前記高屈折率層のうちの少なくとも1つの、波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている前記誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれており、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さが、10nmと70nmの間に含まれ、
・前記光学的厚さ(E
O
)は、E
O
=n×Eの関係により定義され、この式のnは層の屈折率、Eはその実際の又は幾何学的な物理的厚さであり、
各銀ベースの金属機能層の厚さが、前記基材から出発してそれに先立つ銀ベースの機能層の厚さより大きい、
ことを特徴とする材料。
【請求項5】
前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さ以下である、請求項
2~4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、20nmと50nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれ、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、50nmと100nmの間、好ましくは55nmと75nmの間に含まれる、請求項
5に記載の材料。
【請求項7】
前記最初の銀ベースの機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、前記最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さより小さい、請求項1~
6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さが、100nmと200nmの間、好ましくは150nmと180nmの間に含まれる、請求項1
、3~4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
前記高屈折率層の550nmでの吸収係数の値が、0.02以下である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
前記基材から出発して最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の各組が、550nmでの屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含まない、請求項1~
9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記高屈折率層が、TiO
2、MnO、WO
3、NiO、ZnTiO
4、Nb
2O
5、BaTiO
3、Bi
2O
3、SiZrNから選ばれる化合物をベースとしている、請求項1~
10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
前記最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、酸化チタンをベースとしており、前記基材から最後の機能層の上に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、ジルコニウムとケイ素の窒化物をベースとしている、請求項1
、2、4~
11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項13】
各銀ベースの金属機能層の厚さが、前記基材から出発してそれに先立つ銀ベースの機能層の厚さより大きい、請求項1~
3、5~12のいずれか一項に記載の材料。
【請求項14】
前記銀ベースの金属機能層のおのおのの厚さが、6nmと20nmの間に含まれる、請求項1~
13のいずれか一項に記載の材料。
【請求項15】
前記積層体が、銀ベースの金属機能層の上にそれと接して配置された少なくとも1つのブロッカー層を更に含んでおり、1以上の前記ブロッカー層が、好ましくは、Ti及びNiCrから選ばれる金属又は合金をベースとする金属層である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の材料。
【請求項16】
前記積層体が、銀ベースの金属機能層の下にそれと接して配置された少なくとも1つの下方接触層を更に含んでおり、1以上の前記下方接触層が、亜鉛酸化物、ニッケル酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛スズ酸化物、亜鉛マグネシウム酸化物、亜鉛チタン酸化物から選ばれる酸化物をベースとしている、請求項1~
15のいずれか一項に記載の材料。
【請求項17】
少なくとも1つの平滑化層が、酸化亜鉛をベースとした下方接触層の下にそれと接して配置されており、1以上の前記平滑化層が、スズと亜鉛の酸化物をベースとしている、請求項
16に記載の材料。
【請求項18】
前記透明基材がガラスシートである、請求項1~
17のいずれか一項に記載の材料。
【請求項19】
請求項1~
18のいずれか一項に記載の材料を少なくとも1つ含む、グレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に積層体を堆積させた透明基材を含む材料であって、前記表面を攻撃しがちな太陽放射線及び/又は赤外線に積層体自体が作用するのを可能にする複数の機能層を含む、材料に関する。本発明は、そのような材料を含むグレージングにも関する。
【背景技術】
【0002】
人間活動の環境への影響を低減することを目的とする法的取り決め及び法律文書は、局所的、全国的、及び国際的規模に増加している。これらの取り決め及び文書は、特にインフラの電力消費量を減少させようとしている。それらは、特に、建物及び輸送手段がそれらの空調及び加熱手段の電力消費量を低減するようにすることを推奨又は要求している。
【0003】
グレージングをはめた領域は、多くの場合、建物及び輸送手段の外側領域の大部分を構成し、そしてそれらの割合は、採光の点に関してユーザーの必要を満たす目的で大きくなり続けている。しかし、これらのグレージングをはめた領域は、特に非常に日当たりのよい期間中に、受動的な熱源になりかねず、そして特に冬期の間には、熱の放散源になりかねない。したがって、これらのグレージングをはめた領域のある建物及び輸送手段の内部の温度の変動は、非常に大きくなることがある。これらの温度変動は、不快感を招き、空調及び加熱手段の使用が多くなる原因となりかねない。
【0004】
エネルギー及び快適さに関連した理由から、これらのグレージングをはめた領域は、「温室効果」を低減するように入射赤外線及び/又は太陽放射線に作用するために機能化する必要がある。これらの領域の機能化は、一般に、金属の機能層を含む積層体を当該領域に堆積させることによりなされる。これらの層は、グレージングを通り抜けて内側へ透過するエネルギーの量を、可視スペクトルの光の透過に不利に働くことなく、低下させるのを可能にする、いわゆる「選択的」機能を、当該領域に、及びそれらを含むグレージングに与える。
【0005】
機能化したグレージング又はグレージングをはめた領域の性能は、一般に、次のフリーパラメーターを使って評価される:
・グレージングをはめた領域又はグレージングを通り抜けて内側へ透過した全エネルギーの、入射太陽エネルギーに対する比として定義される、日射係数g、
・入射光の量の、グレージングをはめた領域又はグレージングを透過した可視スペクトルの光の量に対する比として定義される、可視スペクトルの光透過率TL、
・光透過率TLの、日射係数gに対する比、すなわちTL/gとして定義される、選択率s。
【0006】
したがって、グレージングをはめた領域及びそれらを含むグレージングは、理想的には、次のような機能を有する:
・光透過率が可能な限り高く、少なくとも65%、あるいは更には少なくとも68%である、
・日射係数が最大で36%である、
・選択率が少なくとも1.9である。
【0007】
更に、美観上の理由から、これらのグレージングをはめた領域及びグレージングは、外側での反射、内側での反射、及び透過において、見た目に心地よい表面外観を有する必要がある。これは、詳しく言えば、青-緑の色度範囲における中間色、すなわち好ましくはグレーの色に近く、その色調が観察する角度に応じてほとんど変動してはならないものを必要とする。
【0008】
国際公開第2012/093238号には、積層体を含む材料であって、積層体自体が銀をベースとした金属機能層を少なくとも3つ含み、機能層のおのおのが一組の誘電体の層により互いに分離されている材料が開示されている。基材から出発して最初の機能層の下に位置する誘電体層の組と、基材から出発して最後の機能層の上に位置する誘電体層の組は、おのおの、550nmで2.15以上の高屈折率の層を含む。光透過率、日射係数及び選択率の上述の値は、積層体と基材が、温度が500℃より高い熱処理を受けた後にのみ得られる。L*a*b*系における2つのパラメーターa*及びb*の値は、ゼロに近く、特にa*は2未満であり、観測角が0°と60°の間で変動する場合にはほとんど変動しない。
【0009】
国際公開第2017/006029号には、透明基材と積層体とを含む材料であって、積層体自体が銀をベースとした金属機能層を少なくとも3つ含み、機能層のおのおのが一組の誘電体の層により互いに分離されている材料が記載されている。誘電体層の組のおのおのは、2.15以上の高屈折率で、光学的厚さが20nmより大きい層を少なくとも1つ含む。誘電体層の組のおのおのについて、高屈折率層の光学的厚さの、それを含んでいる誘電体層の組の光学的厚さに対する比は、0.3より大きい。光透過率、日射係数及び選択率の上述の値は、熱処理なしに得られる。この材料を含むグレージングも、国際公開第2012/093238号と同じ色の中間性に関する要件を満たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それらを製造するために必要とされるエネルギー経済及び採掘資源の理由から、同じ性能レベルを保持しながら製品を単純化できることが有利である。この場合には、単純化した積層体を用いながら、できるならば高価な化学成分を制限し且つ熱処理に頼ることなく、光透過率、日射係数、選択率、及び色に関する上述の要件を満たす材料を得ることが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、透明基材を含む材料であって、その少なくとも1つの表面に銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体を堆積させた材料に関し、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層は誘電体層の2つの組の間に配置されている。この材料は、基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ550nmの波長での屈折率の値が、2.15以上である高屈折率層を含み、
・当該高屈折率層のうちの少なくとも1つの波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・当該高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれている、
という点で、特筆すべきである。
【0012】
本明細書では、次の定義と約束事を使用する。
【0013】
「最初」、「最後」、「の上」及び「の下」という用語は、スタックの層又は一組の層の位置を、それを堆積させた基材の方位又は位置に対して特定する。基材の位置は、本発明の実施のために採用される選択に応じて、水平でもよく、垂直でもよく、又は傾いていてもよい。層又は層の組を挙げる順番は、基材に向かい合う積層体の表面の方向において基材から見て明示される。したがって、「最初」及び「最後」という用語は、それらが層又は層の組を特定する場合、それぞれ、当該層又は当該層の組が、基材に一番近いこと又は基材から一番遠いことを意味する。層又は層の組の位置を特定し機能層の位置に対して明示される「の上」及び「の下」という用語は、それぞれ、当該層又は当該層の組が、基材に近い方及び基材から遠い方にあることを意味する。これらの2つの用語「の上」及び「の下」は、それらが特定する層又は層の組と機能層(この機能層に関してそれらが明示される)とが互いに接触することを決して意味しない。それらは、これらの2つの層の間の中間に他の層が存在することを排除しない。「接触する」又は「接触して」などの表現における「接触」という用語が、明らかに間に他の層が配置されないことを示すために使用される。
【0014】
層について明確さ又は限定なしに使用される「厚さ」という用語は、当該層の実際の又は幾何学的な物理的厚さEに相当する。それは、ナノメートルで表される。「光学的厚さ」という表現は、EOで表される層の光学的厚さを明確に示すために用いられる。それは、EO=n×Eの関係により定義され、この式のnは層の屈折率、Eはその実際の又は幾何学的な物理的厚さである。層の屈折率は、550nmの電磁波波長で測定される。光学的厚さも、ナノメートルで表される。
【0015】
「誘電体層の組」という表現は、互いに接触しそして全体から見て誘電性である積層体を形成している1以上の層、すなわち金属機能層の機能のない積層体を表す。誘電体層の組が複数の層を含む場合、後者はそれら自体が誘電性である。誘電体層の組の厚さ及び光学的厚さは、それぞれ、それを構成する層のおのおのの厚さの合計及び光学的厚さの合計に相当する。
【0016】
本書において、材料又は層が何を含有しているかを特定するために使用される「ベースとする」及び「ベースとした」という表現(あるいは「ベースの」という表現)は、それが含む構成成分の質量分率が少なくとも50%、特に少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%であることを意味する。
【0017】
可視スペクトルにおける光透過率、日射係数、及び選択率は、標準規格EN 410及びEN 14501に準拠して定義され、測定され、及び計算される。色は、標準規格ISO 11664によるL*a*b* CIE 1976色空間でもって、D65光源を用い、基準観測者に対し2°の視野で測定される。
【0018】
本発明による材料を含むグレージングは、好ましくは、可視スペクトルにおける少なくとも68%の光透過率、最大で36%の日射係数、及び少なくとも1.9の選択率を有する。グレージングの美的外観は、好ましくは、反射において中間的で、かつその色合いが観測角が0°と60°の間で変動する場合にほとんど変動しない色を特徴とする。特に、観測角が0°と60°の間で変動する場合におけるL*a*b*色空間におけるパラメーターa*及びb*の変動の絶対値は、5以下である。
【0019】
各誘電体層の組は、一般に、窒化物、特に窒化ケイ素又は窒化アルミニウムをベースとすることができる、及び/又は酸化物をベースとすることができる誘電材料をベースとする層を少なくとも1つ含む。
【0020】
金属機能層は、連続的な層である。それらの数は、好ましくは3又は4である。銀をベースとした金属機能層に含まれる銀の質量分率は、少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%である。
【0021】
堆積させる材料の量を減少させるために、銀をベースとした金属機能層の厚さは、光学的及び熱的性能を損ねることがなければ、銀ベースの各金属機能層の厚さが基材から出発してそれに先立つ銀ベースの機能層の厚さよりも大きいことを条件として、有利に小さくてよい。一般には、銀をベースとした金属機能層のおのおのの厚さは、好ましくは6nmと20nmの間に含まれよう。
【0022】
堆積させる材料の量を減少させるという同じ理由から、誘電体層の組の厚さは、光学的及び熱的性能を損ねることがなければ、基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さ以下であることを条件として、小さくてよい。限定することのない指摘として、基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さは、20nmと50nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれ、基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さは、50nmと100nmの間、好ましくは55nmと75nmの間に含まれる。
【0023】
本発明によれば、基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組、及び基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組は、好ましくは、おのおのが高屈折率層を含み、その屈折率は550nmの波長で2.15以上である。これらの高屈折率層は、TiO2、MnO、WO3、NiO、ZnTiO4、Nb2O5、BaTiO3、Bi3O3、SiZrN、Zr3N4から選ばれる化合物をベースとすることができる。
【0024】
上述の高屈折率層のうちの少なくとも1つのものの屈折率の値が本発明に従って550nmの波長で2.40以上である場合には、当該層は、TiO2、BaTiO3、Bi3O3、Zr3N4から選ばれる化合物をベースとすることができる。
【0025】
上述の高屈折率層が全て、550nmの波長で2.40より高い屈折率である場合には、それらは同じ化合物をベースとすることができ、又は異なる化合物をベースとすることができる。
【0026】
高屈折率層に含まれる化合物、特に一例として示したものが、完全に化学量論的である必要はない。それらは、屈折率の値の条件、すなわち550nmの波長で2.15又は2.40より高いというものが守られることを条件に、酸素、窒素及び/又はその他の元素の含有量に関して化学量論から逸脱してもよい。同様に、それらがドーパント元素、例えばアルミニウムなどを含むことは排除されない。
【0027】
実質的な「化学量論」、及びそれから派生した形容詞は、技術分野における慣例としての意味で解釈されなければならない。それは特に、化合物の構成化学元素の割合が、熱化学ダイアグラムによって又は技術分野において有効な慣例によって定義されるような「定義済みの化合物」のそれらに相当することを意味する。
【0028】
堆積させる材料の量を減らすために、上述の高屈折率層のおのおのの光学的厚さは、有利には10nmと70nmの間、好ましくは20nmと50nmの間に含まれよう。
【0029】
高屈折率層の吸収係数の値は、550nmで0.02以下であるのが好ましい。したがって、求められている熱的及び光学的性能を高屈折率の金属層を用いて得ることが可能ではあろうけれども、本発明の目的のためにそれらを使用することは薦められない。それらの吸収係数の値は、一般に0.02より大きい。しかし、そのような金属層を含む本発明による材料を酸化性雰囲気でアニーリングすることが、当該金属層を酸化し、それによりその屈折率が2.15よりも高くなり、かつその吸収係数が0.02よりも小さくなるようにすることが可能である。
【0030】
本発明の一つの特定の実施形態によれば、最初の銀ベースの機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さは、最初と最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さよりも小さい。この実施形態の中心的な利点は、積層体を形成している層の厚さを更に減少させることが可能なことである。詳しく言えば、最初と最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さは、100nmと200nmの間に含まれ、好ましくは150nmと180nmの間に含まれる。
【0031】
本発明のもう一つの実施形態によれば、基材から出発して最初と最後の銀ベース金属機能層の間に位置する誘電体層の各組は、550nmでの屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含まない。具体的に言えば、基材から出発して最初と最後の銀ベースの金属機能層が高屈折率層を含む場合に、追加の有意の利益があることは観測されていない。光学的及び熱的パラメーターの値は、ほとんど変動しない。したがって、そのような高屈折率層は、積層体の単純化が求められている場合には省略して差し支えない。これには、高屈折率層を形成するために必要とされる化学元素の使用に伴うコストを削減するという利点もある。
【0032】
更に、積層体は、銀ベースの金属機能層の下にそれと接触して配置される少なくとも1つのいわゆる「下方接触」安定化層を含む。一般に厚さが非常に小さいこの層の機能は、銀の付着と結晶化を促進することである。この層は、「湿潤層」とも呼ばれる。この意味で、このような層を、積層体が含む各1つの銀ベース金属機能層の下にそれと接触して配置することが有利であろう。この層は、好ましくは、亜鉛酸化物、ニッケル酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛スズ酸化物、亜鉛マグネシウム酸化物、亜鉛チタン酸化物から選ばれる酸化物をベースとする。
【0033】
「下方接触」層に含まれる化合物は、酸素、窒素及び/又は他の元素の含有量に関して化学量論から逸脱してもよい。それらは、例えば酸化亜鉛の場合のアルミニウムのような、ドーパント元素を含むこともできる。
【0034】
更に、積層体は、銀ベースの金属機能層の上にそれと接触して配置されるいわゆるブロッカー層を含むこともできる。一般に厚さが非常に小さいこの層の機能は、その後の層の堆積が酸化性雰囲気で行われる場合、又は熱処理中に酸素などの特定の元素が1つの層から別のものへとマイグレートしがちである場合に、銀層を保護することである。各銀層を保護することが必要な場合には、積層体が含む各銀ベース機能層の上にそれと接触してブロッカー層を配置することが有利である。この層は、好ましくは、Ti及びNiCrから選ばれる金属又は合金をベースとする。
【0035】
積層体は、任意選択的に、下方接触層の下にそれと接触して配置されるいわゆる平滑化層を更に含んでもよい。その機能は、下方接触層の成長を促進することである。この平滑化層は、混合酸化物をベースとし、下方接触層が酸化亜鉛をベースとする場合には好ましくは亜鉛及びスズの酸化物をベースとする。それは、完全に非晶質であっても部分的に結晶質であってもよい。それは一般には、その厚さの全体にわたって非結晶質である。
【0036】
本発明の1つの特に有利な実施形態によれば、最初の銀ベース金属機能層の下に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層は、酸化チタンをベースとし、そして基材から最後の機能層の上に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層は、ジルコニウムとケイ素の窒化物をベースとする。このジルコニウムとケイ素の窒化物のZr/Si原子比の値は、好ましくは1以下でよい。
【0037】
平滑化層と下方接触層は、これらの2つの層が関係する銀ベースの金属機能層の下に配置される誘電体層の組に含まれると見なされる。
【0038】
本発明の第1の好ましい実施形態では、積層体は、基材から出発して以下のものを含む:
・次のものを含む誘電体層の第1の組:
・550nmでの屈折率の値が2.40より高く、光学的厚さが10nmと50nmの間、又は更には20nmと40nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれる、酸化チタンをベースとした高屈折率層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層、
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第1の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第1のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第2の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・光学的厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層、
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第2の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第2のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第3の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・光学的厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層、
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第3の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第3のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第4の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・550nmでの屈折率の値が2.15より高く、光学的厚さが10nmと50nmの間、又は更には30nmと40nmの間、好ましくは20nmと30nmの間に含まれる、ケイ素とジルコニウムの窒化物をベースとした高屈折率層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが5nmと20nmの間、好ましくは9nmと12nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層。
【0039】
本発明の第2の好ましい実施形態では、積層体は、基材から出発して以下のものからなる:
・次のものを含む誘電体層の第1の組:
・550nmでの屈折率の値が2.40より高く、光学的厚さが10nmと50nmの間、又は更には20nmと40nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれる、酸化チタンをベースとした高屈折率層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層、
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第1の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第1のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第2の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・光学的厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層、
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第2の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第2のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第3の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが10nmと30nmの間、好ましくは15nmと25nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層、
・光学的厚さが10nmと20nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした下方接触層
・厚さが6nmと20nmの間に含まれる、第3の銀ベース金属機能層、
・厚さが0.5nmと1.5nmの間に含まれる、第3のチタンベース金属ブロッカー層、
・次のものを含む誘電体層の第4の組:
・光学的厚さが5nmと15nmの間、好ましくは8nmと12nmの間に含まれる、酸化亜鉛をベースとした誘電体層、
・550nmでの屈折率の値が2.15より高く、光学的厚さが10nmと50nmの間、又は更には30nmと40nmの間、好ましくは20nmと30nmの間に含まれる、ケイ素とジルコニウムの窒化物をベースとした高屈折率層、
・光学的厚さが100nmと150nmの間、好ましくは100nmと130nmの間に含まれる、窒化ケイ素をベースとした誘電体層、
・光学的厚さが5nmと20nmの間、好ましくは9nmと12nmの間に含まれる、亜鉛とスズの酸化物をベースとした平滑化層。
【0040】
本発明による透明基材は、平面的であるか又は湾曲した、剛質であるか又は軟質の、有機又は無機の基材でよい。それは、好ましくは、光の吸収を最小限にし、ひいては最大の光透過率を維持するために、無色である。
【0041】
本発明を実施するのに有利に使用することができる有機基材の例は、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミドなどのポリマー材料である。これらのポリマーはフルオロポリマーであってもよい。
【0042】
本発明において有利に実施することができる無機基材の例は、無機ガラス又はガラスセラミックのシートである。ガラスは、好ましくは、ソーダ石灰シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、あるいは更にはアルミノホウケイ酸ガラスである。
【0043】
本発明による材料の1つの実施形態によれば、積層体は、当業者に知られている慣用の堆積方法を使って透明基材上に堆積させられる。好ましくは、積層体は、マグネトロン陰極スパッタリング法を使って堆積させることができる。
【0044】
本発明の1つの特定の実施形態では、透明基材は無機ガラスのシートである。この場合、本発明による材料は、一体式、積層又は多層グレージングの構成要素であることができる。
【0045】
一体式のグレージングは、単一のガラスシートを含む。本発明による材料を一体式グレージングとして使用する場合には、積層体を、好ましくは、建物の部屋の内側又はグレージンを取り付ける部屋の壁に向けられるガラスシートの面に堆積させ、積層体を物理的又は化学的な劣化から適当な手段を使って保護することが有利であろう。
【0046】
多層グレージングは、絶縁用のガスを充填した空間により分離された少なくとも2枚の平行なガラスシートを含む。大抵の多層グレージングは、二層又は三層グレージングであり、すなわちそれらは、それぞれ2枚又は3枚のグレージングを含む。本発明による材料を多層グレージングの構成要素として使用する場合には、積層体は、好ましくは、絶縁用ガスと接する内側の方を向いたガラスシートの面に堆積させられる。この配置には、外部環境による化学的又は物理的劣化から積層体を保護するという利点がある。
【0047】
積層グレージングは、中間層シートにより分離された少なくとも2枚の平行なガラスシートを含む。この中間層シートは、一般に、例えばポリビニルブチラール(PVB)などの有機材料である。本発明による材料を積層グレージングの構成要素として使用する場合には、積層体を、ガラスシートの面のどちらか一方に堆積させることができ、その面は中間層シートと接していてもいなくてもよい。積層体を中間層シートと接するガラスシートの面へ堆積させるのが、外部環境による化学的又は物理的劣化の防止に関して有利であろう。しかし、中間層シートの構成要素が積層体の層と相互作用しその劣化の原因となるような性質のものでないことを保証することが必要である。
【0048】
本発明による材料を含むグレージングは、外面反射において青又は青緑の色範囲の中間色を有する。観測角がどうであれ、外観はほとんど変化しない。観測者は、色合いの不均一性を感知することができない。L*a*b*系において、グレージングの色は、好ましくは、透過、内面反射及び/又は外面反射において、パラメーターa*の値が-4と1の間に含まれ、パラメーターb*の値が-7.5と0.5の間に含まれることを特徴とする。特に、観測角が0°と60°の間で変動する場合にL*a*b*色空間におけるパラメーターa*及びb*の変動の絶対値は、5以下である。
【0049】
本発明による材料の特徴と利点を、次の図面を参照する下記の例により説明する。
【実施例】
【0050】
本発明固有の技術的効果を説明するために、本発明による材料の6つの例と、本発明による材料の特徴のない材料の1つの比較例を作製した。これらの積層体を表1に示す。それらを、厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラスのシート上に堆積させた。マグネトロン陰極スパッタリングに関する当業者が慣例的に使用するものであった層の堆積条件は、広く文献に記載されており、例えば国際公開第2012/093238号及び国際公開第2017/006029号に記載されている。
【0051】
これらの積層体のおのおのは、以下のものを含む:
・基材から出発してそれぞれCFM1、CFM2及びCFM3と表示される、3つの銀ベースの金属機能層、
・それぞれED1、ED2、ED3及びED4と表示される、誘電体層の4つの組、
・それぞれB1、B2及びB3と表示される、3つのブロッカー層。
【0052】
表の値は、誘電体の組の総計の光学的厚さに対応しており、すなわちそれらがそれぞれ製作される層の光学的厚さの合計に対応しており、また、銀ベースの金属機能層とブロッカー層の実際の又は幾何学的な厚さに対応している。表中、「CHI」の列は、おのおのの誘電体層の組が含む高屈折率層の光学的厚さを示している。「CBI」の列は、低屈折率層の光学的厚さ、又はおのおのの誘電体層の組が含む低屈折率層の光学的厚さの合計を示している。1以上の低屈折率層の屈折率の値は、2.15未満である。下線付きの太字の値は、高屈折率層の屈折率の値が2.40以上であることを示している。表の最下部には、高屈折率層の光学的厚さの、それを含む誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値を、示している。これらの値は、誘電体層の組ED1とED4についてのみ提示している。
【0053】
ブロッカー層、高屈折率層、及び誘電体層の組を構成する層の種類は、表1に示していない。下方接触層は、亜鉛酸化物、ニッケル酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛スズ酸化物、亜鉛マグネシウム酸化物、亜鉛チタン酸化物から選ばれる酸化物をベースとすることができる。ブロッカー層は、例えばTi又はNiCrといった、金属及び合金をベースとすることができる。高屈折率層は、TiO2、MnO、WO3、NiO、ZnTiO4、Nb2O5、BaTiO3、Bi2O3、SiZrNから選ばれる化合物をベースとすることができる。最後に、誘電体層の組に含まれる高屈折率層以外の層は、一般に、金属窒化物、酸化物又は酸窒化物であり、一例として、SiO2、TiO2、SnO2、ZnO、ZnAlOx、Si3N4、AlN、Al2O3、ZrO2、Nb2O5及びそれらの混合物などである。これらの化合物は、化学量論から逸脱してもよく、また、例えば特にアルミニウムのようなドーパント元素を含んでもよい。
【0054】
【0055】
表2に、表1の材料の例の光学的及び熱的性能を評価するのを可能にする複数のパラメーターを示す。これらの値は、これらの例の材料を含むとともに、厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラス/少なくとも90%のアルゴンを含有している厚さ16mmのガス入りの空間/厚さ4mmのソーダ石灰シリカガラスという6/16/4構造を有する、二層グレージングで測定された。積層体は、厚さ6mmのガラスの、アルゴンを含有しているガス入りの空間と接する内側面に堆積させた。
【0056】
可視スペクトルにおける光透過率TL、日射係数gと選択率s、及び可視スペクトルにおける内側反射率Rintと外側反射率Rextは、標準規格EN 410及びEN 14501に準拠して定義され、測定及び計算される。色は、D65光源を用い基準観測者について2°の視野で、標準規格ISO 11664によるL*a*b* CIE 1976色空間で測定した。
【0057】
【0058】
表2において:
・a*Tとb*Tは、D65光源を用い、基準観測者について2°の視野及びグレージングの表面に対する垂線に対してゼロの観測角で、L*a*b* CIE 1976色空間での透過で測定されたパラメーターa*及びb*の値である。
・Rextは、D65光源を用い、上述の二層グレージングの厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラスの外側面で観測者について2°の視野で測定し、パーセントで表された、可視スペクトルでの光反射率の値である。
・a*Rextとb*Rextは、D65光源を用い、上述の二層グレージングの厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラスの外側面で観測者について2°の視野で、当該グレージングの表面に対する垂線に対してゼロの観測角で、L*a*b* CIE 1976色空間での反射で測定されたパラメーターa*及びb*の値である。
・Rintは、D65光源を用い、上述の二層グレージングの厚さ4mmのソーダ石灰シリカガラスの外側面で観測者について2°の視野で測定し、パーセントで表された、可視スペクトルでの光反射率の値である。
・a*Rintとb*Rintは、D65光源を用い、上述の二層グレージングの厚さ4mmのソーダ石灰シリカガラスの外側面で観測者について2°の視野で、当該グレージングの表面に対する垂線に対してゼロの観測角で、L*a*b* CIE 1976色空間での反射で測定されたパラメーターa*及びb*の値である。
・a*60とb*60は、D65光源を用い、単一グレージングの表面に対する垂線に対して60°の観測角で、グレージングに対する観測者について2°の視野で、L*a*b* CIE 1976色空間での反射で測定されたパラメーターa*及びb*の値である。
【0059】
表1の例1~6は、本発明による材料の例である。
【0060】
例1では、誘電体層の各組は、屈折率の値が2.15より高い高屈折率層を含んでいる。誘電体層の組ED2とED3は、高屈折率層だけで製作されている。誘電体層の組ED1に含まれる高屈折率層の屈折率の値は、2.40より高い。得られた光透過率は、68%未満である。更に、パラメーターb*Tの値が3より大きく、これは透過が黄色であることに相当している。
【0061】
例2は、誘電体層の組ED2とED4が高屈折率でないその他の層も含むことを除いて、例1と同様である。これらの2つの組の層のおのおのの光学的厚さは、これらの2つの組の光学的厚さの合計が例1のそれらと類似のままであるようにした。この例では、積層体はより複雑になっているが、光学的及び熱的性能を評価するのに用いたパラメーターの値は、類似のままである。誘電体層の組ED2とED3が高屈折率層を含むということに、更なる利点はない。
【0062】
例3~6は、例1及び2を改良したものである。これらの例では、誘電体層の組ED2とED3は、屈折率の値が2.15より高い高屈折率層を含んでいない。例3及び5では、誘電体層の組ED1のみが、屈折率の値が2.40より高い高屈折率層を含んでいる。例6では、この層は誘電体層の組ED4のみに含まれている。例4では、誘電体層の組ED1とED4がおのおの、屈折率の値が2.40より高い高屈折率層を含んでいる。
【0063】
表2の値から、本発明による材料の例3~6は、光学的及び熱的性能を例1及び2に対して向上させることを可能にするということが明らかであろう。可視スペクトルでの光透過率TLは、68%より大きく、日射係数gは、36%より小さく、選択率sは1.9以上である。パラメーターa*の値は、例1、2、4、5、6で0未満である。パラメーターb*の値は、1未満である。観測の角度が0°と60°の間で変動する場合のこれら2つのパラメーターのおのおのにおける変動の絶対値は、5未満である。
【0064】
比較例1は、本発明によらない材料の例である。誘電体層の組ED1とED4のみが、屈折率の値が2.15以上且つ2.40以下の高屈折率層を含んでいる。R1比は、0.55より大きい。得られた光透過率は、68%未満である。
【0065】
本発明の好ましい実施形態に相当する材料の他の2つの例を表3に示す。積層体を、厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラスのシート上に堆積させた。層の堆積条件は、マグネトロン陰極スパッタリングに関して当業者が慣例的に使用するものであって、広く文献に記載されており、例えば国際公開第2012/093238号及び国際公開第2017/006029号に記載されている。
【0066】
積層体のおのおのは、次のものを含む:
・基材から出発してそれぞれAg1、Ag2及びAg3と表示される、3つの銀ベース金属機能層、
・それぞれD1、D2、D3及びD4と表示される、誘電体層の4つの組、
・それぞれB1、B2及びB3と表示される、金属チタンをベースとした3つのブロッカー層。
【0067】
誘電体層の組D1、D2及びD3は、それぞれ銀層Ag1、Ag2及びAg3の下にそれと接して配置された酸化亜鉛ベースの下方接触層を含んでいる。それらは、酸化亜鉛をベースとした下方接触層の下にそれと接して配置された平滑化層も含んでいる。
【0068】
誘電体層の組D1は、酸化チタンをベースとした高屈折率層を含んでおり、その屈折率の値は2.40より高い。誘電体層の組D4は、ジルコニウムとケイ素の窒化物をベースとした高屈折率層を含んでおり、その屈折率の値は2.15より高く、2,40より低い。
【0069】
表3の値は、誘電体の組に含まれる層の光学的厚さと、銀ベースの金属機能層及びブロッカー層の実際の又は幾何学的な物理的厚さに相当している。全ての例において、金属機能層、ブロッカー層、及び誘電体層の組に含まれる層の種類が示されている。2つの例のそれぞれについて、R1とR4の比の値は0.25と0.55の間に含まれている。
【0070】
表3の材料の例の光学的及び熱的性能を評価するのを可能にするパラメーターの値を表4に示す。これらの値は、これらの例の材料を含むとともに、厚さ6mmのソーダ石灰シリカガラス/少なくとも90%のアルゴンを含有している厚さ16mmのガス入りの空間/厚さ4mmのソーダ石灰シリカガラスという6/16/4構造を有する、二層グレージングで測定された。積層体は、厚さ6mmのガラスの、アルゴンを含有しているガス入りの空間と接する内側面に堆積させた。それらを測定するために使用したパラメーターの定義と方法は、表2に関して説明したものと同一である。
【0071】
表3の2つの例は、求められている光学的及び熱的性能を得るのを可能にしている。光透過率TLは、68%より高く、日射係数gは、36%未満であり、選択率sは、1.9以上である。パラメーターa*の値は4未満であり、パラメーターb*の値は1未満である。観測角が0°と60°の間で変動する場合にこれら2つのパラメーターのおのおのにおける変動の絶対値は、5未満である。
【0072】
【0073】
【表4】
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目17]に記載する。
[項目1]
透明基材を含む材料であり、その少なくとも1つの表面に、銀ベースのn個の金属機能層とn+1個の誘電体層の組とを含む積層体が堆積されており、ここでのnは3以上であり、各銀ベースの金属機能層が、誘電体層の2つの組の間に配置されている、材料であって、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組と、前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組とが、
・それぞれ、550nmの波長での屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含み、
・前記高屈折率層のうちの少なくとも1つの、波長550nmでの屈折率の値が、2.40以上であり、
・前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さの、それが含まれている前記誘電体層の組の光学的厚さに対する比の値が、0.25と0.55の間に含まれている、
ことを特徴とする材料。
[項目2]
前記高屈折率層のおのおのの光学的厚さが、10nmと70nmの間、好ましくは20nmと50nmの間に含まれる、項目1に記載の材料。
[項目3]
前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さ以下である、項目1又は2に記載の材料。
[項目4]
前記基材から出発して最後の銀ベースの金属機能層の上に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、20nmと50nmの間、好ましくは30nmと40nmの間に含まれ、前記基材から出発して最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、50nmと100nmの間、好ましくは55nmと75nmの間に含まれる、項目3に記載の材料。
[項目5]
前記最初の銀ベースの機能層の下に位置する誘電体層の組の光学的厚さが、前記最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さより小さい、項目1~4のいずれか一項に記載の材料。
[項目6]
前記最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の組のおのおのの光学的厚さが、100nmと200nmの間、好ましくは150nmと180nmの間に含まれる、項目1~5のいずれか一項に記載の材料。
[項目7]
前記高屈折率層の550nmでの吸収係数の値が、0.02以下である、項目1~6のいずれか一項に記載の材料。
[項目8]
前記基材から出発して最初及び最後の銀ベースの金属機能層の間に位置する誘電体層の各組が、550nmでの屈折率の値が2.15以上である高屈折率層を含まない、項目1~7のいずれか一項に記載の材料。
[項目9]
前記高屈折率層が、TiO
2
、MnO、WO
3
、NiO、ZnTiO
4
、Nb
2
O
5
、BaTiO
3
、Bi
2
O
3
、SiZrNから選ばれる化合物をベースとしている、項目1~8のいずれか一項に記載の材料。
[項目10]
前記最初の銀ベースの金属機能層の下に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、酸化チタンをベースとしており、前記基材から最後の機能層の上に位置する誘電体層の組に含まれる高屈折率層が、ジルコニウムとケイ素の窒化物をベースとしている、項目1~9のいずれか一項に記載の材料。
[項目11]
各銀ベースの金属機能層の厚さが、前記基材から出発してそれに先立つ銀ベースの機能層の厚さより大きい、項目1~10のいずれか一項に記載の材料。
[項目12]
前記銀ベースの金属機能層のおのおのの厚さが、6nmと20nmの間に含まれる、項目1~11のいずれか一項に記載の材料。
[項目13]
前記積層体が、銀ベースの金属機能層の上にそれと接して配置された少なくとも1つのブロッカー層を更に含んでおり、1以上の前記ブロッカー層が、好ましくは、Ti及びNiCrから選ばれる金属又は合金をベースとする金属層である、項目1~12のいずれか一項に記載の材料。
[項目14]
前記積層体が、銀ベースの金属機能層の下にそれと接して配置された少なくとも1つの下方接触層を更に含んでおり、1以上の前記下方接触層が、亜鉛酸化物、ニッケル酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛スズ酸化物、亜鉛マグネシウム酸化物、亜鉛チタン酸化物から選ばれる酸化物をベースとしている、項目1~13のいずれか一項に記載の材料。
[項目15]
少なくとも1つの平滑化層が、酸化亜鉛をベースとした下方接触層の下にそれと接して配置されており、1以上の前記平滑化層が、スズと亜鉛の酸化物をベースとしている、項目14に記載の材料。
[項目16]
前記透明基材がガラスシートである、項目1~15のいずれか一項に記載の材料。
[項目17]
項目1~16のいずれか一項に記載の材料を少なくとも1つ含む、グレージング。