(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20230424BHJP
A61F 9/01 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61F9/008 120D
A61F9/01
A61F9/008 120C
(21)【出願番号】P 2020520252
(86)(22)【出願日】2018-10-01
(86)【国際出願番号】 IB2018057621
(87)【国際公開番号】W WO2019073332
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-14
(32)【優先日】2017-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ビトネベル
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0150160(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102009016008(DE,A1)
【文献】特開昭63-150069(JP,A)
【文献】特表2014-519888(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0135805(US,A1)
【文献】特表平06-501633(JP,A)
【文献】特表平09-506521(JP,A)
【文献】米国特許第05779696(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/008
A61F 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の角膜の角膜レーザ治療のためのレーザパルスを生成するレーザ源と;
前記レーザ源から前記レーザパルスを受信して前記レーザパルスを前記角膜上の位置標定へ導くことができるようにされたレーザスキャナと、
プロセッサにより実行可能な指示を格納するメモリ媒体へアクセスする前記プロセッサを含むレーザコントローラと、を含む角膜レーザ治療のためのレーザシステムであって、
前記指示は、
前記角膜レーザ治療の手術計画へアクセスするための指示であって、前記手術計画は、前記角膜上の位置標定と前記位置標定の各位置標定のレーザパルスの数とを規定する、指示と、
前記手術計画に従って前記角膜レーザ治療を制御するための指示であって、
前記角膜の温度を制御するため
に第1の位置標定における
前記レーザ源の定格値に前記レーザパルスの光エネルギーを変調する
ことによって、前記レーザパルスにより前記角膜上の前記第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーを制御することと、
前記第1の位置標定における前記角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために、第2の位置標定における前記レーザパルスの光エネルギーを、前記定格値から前記定格値より低い第2の値まで低減することであって、前記手術計画は前記第2の位置標定において受信されるパルスの数が閾値パルス数を超えることを規定することと、
によ
って制御
する、指示である、レーザシステム。
【請求項2】
前記光エネルギーを変調する工程はさらに、前記レーザパルスの周波数を変調する工程を含む、
請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項3】
前記光エネルギーを変調する工程はさらに、前記レーザパルスの振幅及びデューティサイクルのうちの少なくとも1つを変調する工程を含む、
請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項4】
前記光エネルギーを変調する工程はさらに、前記第1の位置標定における前記レーザパルスの前記光エネルギーを一継続期間にわたり
前記定格値から前記定格値より低い
前記第2の値まで線型に低減する工程を含み、
前記第2の値及び前記継続期間は、前記第1の位置標定における前記角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために前記熱エネルギーを制限するように予め定められる、
請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項5】
前記光エネルギーを変調する工程はさらに、前記第1の位置標定における前記レーザパルスの前記光エネルギーを、
前記定格値から前記定格値より低い
前記第2の値まで低減する工程を含み、
前記第2の値は、前記第1の位置標定における前記角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために、前記第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーを制限するように予め定められ、
前記第1の位置標定は、閾値パルス数を越える数のレーザパルスをそれぞれ受信するように前記手術計画により規定される、
請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項6】
前記第2の値はさらに、規定された数学的関係のレーザパルスの数に依存する、
請求項5に記載のレーザシステム。
【請求項7】
前記角膜の熱エネルギーを監視するように構成された熱センサを含み、
前記光エネルギーを変調する工程はさらに、
前記角膜レーザ治療中に、前記熱センサを使用して前記角膜の最高温度を測定する工程と、
前記角膜の最高温度に基づき、前記最高温度が閾値温度を越えることを防止するように前記熱エネルギーを制限するために前記第1の位置標定における前記レーザパルスの前記光エネルギーを調節する工程であって、前記最高温度が前記閾値温度を越えると前記光エネルギーを低減することと前記最高温度が前記閾値温度を越えないと前記光エネルギーを増加することとを含む工程とをさらに含む、
請求項1に記載のレーザシステム。
【請求項8】
前記角膜の前記最高温度を測定する工程はさらに、前記角膜の基質の最高温度を測定する工程を含む、
請求項7に記載のレーザシステム。
【請求項9】
前記熱センサは熱画像化装置を含み、
前記角膜の前記最高温度を測定する工程はさらに、前記位置標定へ関連付けられた温度値を生成するために前記熱画像化装置を使用する工程と、前記第1の位置標定における局所温度が前記閾値温度を越えるかどうかを判断する工程とを含む、
請求項7に記載のレーザシステム。
【請求項10】
前記第1の位置標定における前記レーザパルスの前記光エネルギーを調節する工程はさらに、前記位置標定における前記局所温度に基づき前記光エネルギーを調節する工程であって、前記局所温度が前記閾値温度を越えると前記光エネルギーを低減することと前記局所温度が前記閾値温度を越えないと前記光エネルギーを増加することとを含む工程を含む、
請求項9に記載のレーザシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は眼科手術に関し、より具体的にはレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の眼は、眼の瞳に入る光を網膜上へ集束するようにされた角膜及び水晶体を含む。しかし、眼は、光が網膜上へ正しく集束されなくなる様々な屈折異常であって視力を低下し得る屈折異常を呈示し得る。眼球収差は、近視、遠視又は正乱視を引き起こす比較的単純な球状及び円柱状異常から、例えば人の視野内のハロー及びスターバーストを引き起こし得るより複雑な屈折異常まで及ぶ。
【0003】
多くの診療行為が様々な眼球収差を補正するために何年にもわたって開発されてきた。これらは、眼鏡、コンタクトレンズ、角膜インプラント、眼内レンズ(IOL:intraocular lens)、及びレーザ角膜切削形成術(LASIK:laser-assisted in situ keratomileusis)又は経上皮光屈折角膜切除術(T-PRK:transepithelial photorefractive keratectomy)などのレーザ角膜治療を含む。特に、レーザ角膜治療は、角膜へ与えられる望ましくない熱エネルギーを生じ角膜の温度を上昇させ得る角膜へ向けられる多くのレーザパルスに関与し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、開示される方法は角膜レーザ治療のためのレーザパルス変調方法である。本方法は患者の角膜の角膜レーザ治療のための手術計画へアクセスする工程を含み得る。この方法では、手術計画は、角膜レーザ治療のための角膜上の位置標定(position location)と上記位置標定の各位置標定のレーザパルスの数とを規定し得る。本方法はさらに、手術計画に従って角膜レーザ治療を行う工程を含み得る。この方法では、レーザパルスにより角膜上の第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーは、角膜の温度を制御するために第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを変調することにより制御され得る。
【0005】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、レーザパルスの周波数の変調を含み得る。
【0006】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、レーザパルスの振幅及びデューティサイクルのうちの少なくとも1つを変調する工程を含み得る。
【0007】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを一継続期間にわたり角膜レーザ治療のために使用されるレーザ源の定格値から定格値より低い第2の値まで線型に低減する工程を含み得る。この方法では、第2の値及び上記継続期間は、第1の位置標定における角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために熱エネルギーを制限するように予め定められ得る。
【0008】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを、角膜レーザ治療のために使用されるレーザ源の定格値から定格値より低い第2の値まで低減する工程を含み得る。この方法では、第2の値は、第1の位置標定における角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために、第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーを制限するように予め定められ得、一方、第1の位置標定は、閾値パルス数を越える数のレーザパルスをそれぞれ受信するように手術計画により規定され得る。
【0009】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、第2の値はさらに、規定された数学的関係のレーザパルスの数に依存し得る。
【0010】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、角膜レーザ治療中に、角膜の最高温度を測定する工程と、この角膜の最高温度に基づき、最高温度が閾値温度を越えることを防止するように熱エネルギーを制限するために第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを調節する工程であって、最高温度が閾値温度を越えると光エネルギーを低減することと、最高温度が閾値温度を越えないと光エネルギーを増加することとを含む、工程とを含み得る。
【0011】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、角膜の最高温度を測定する工程はさらに、角膜の基質の最高温度を測定する工程を含み得る。
【0012】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、角膜の最高温度を測定する工程はさらに、位置標定へ関連付けられた温度値を生成するために熱画像化装置を使用する工程と、第1の位置標定における局所温度が閾値温度を越えるかどうかを判断する工程とを含み得る。
【0013】
本方法の開示実施形態のうちの任意のものでは、第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを調節する工程はさらに、第1の位置標定における局所温度に基づき光エネルギーを調節する工程であって局所温度が閾値温度を越えると光エネルギーを低減することと局所温度が閾値温度を越えないと光エネルギーを増加することとを含む工程を含み得る。
【0014】
さらに別の態様では、角膜レーザ治療のためのレーザシステムが開示される。レーザシステムは、患者の角膜の角膜レーザ治療のためのレーザパルスを生成するためのレーザ源と、レーザ源からレーザパルスを受信してこのレーザパルスを角膜上の位置標定へ導くことができるようにされたレーザスキャナと、プロセッサにより実行可能な指示を格納するメモリ媒体へアクセスするプロセッサを含むレーザコントローラとを含み得る。上記指示は、角膜レーザ治療のための手術計画へアクセスするためにプロセッサにより実行可能であり得る。レーザシステムでは、手術計画は、角膜上の位置標定と上記位置標定の各位置標定のレーザパルスの数とを規定し得る。上記指示はさらに、手術計画に従って角膜レーザ治療を制御するためにプロセッサにより実行可能であり得る。レーザシステムでは、レーザパルスにより角膜上の第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーは、角膜の温度を制御するために第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを変調することにより制御され得る。
【0015】
レーザシステムの開示実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、レーザパルスの周波数の変調を含み得る。
【0016】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、レーザシステムにおいて光エネルギーを変調する工程は、レーザパルスの振幅及びデューティサイクルのうちの少なくとも1つを変調する工程を含み得る。
【0017】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを一継続期間にわたり角膜レーザ治療のために使用されるレーザ源の定格値から定格値より低い第2の値まで線型に低減する工程を含み得る。レーザシステムでは、第2の値及び上記継続期間は、第1の位置標定における角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために熱エネルギーを制限するように予め定められ得る。
【0018】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、光エネルギーを変調する工程はさらに、第2の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを、角膜レーザ治療のために使用されるレーザ源の定格値から定格値より低い第2の値まで低減する工程を含み得る。レーザシステムでは、第2の値は、第1の位置標定における角膜の温度が閾値温度を越えることを防止するために、第2の位置標定へ与えられる熱エネルギーを制限するように予め定められ、一方、第2の位置標定は、閾値パルス数を越える数のレーザパルスをそれぞれ受信するように手術計画により規定される。
【0019】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、第2の値はさらに、規定された数学的関係のレーザパルスの数に依存し得る。
【0020】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、レーザシステムはさらに、角膜の熱エネルギーを監視するように構成された熱センサを含み得、一方、光エネルギーを変調する工程はさらに、角膜レーザ治療中に、熱センサを使用することにより角膜の最高温度を測定する工程と、この角膜の最高温度に基づき、最高温度が閾値温度を越えることを防止するように熱エネルギーを制限するために第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを調節する工程であって最高温度が閾値温度を越えると光エネルギーを低減することと最高温度が閾値温度を越えないと光エネルギーを増加することとを含む工程とを含み得る。
【0021】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、角膜の最高温度を測定する工程はさらに、角膜の基質の最高温度を測定する工程を含み得る。
【0022】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、熱センサは熱画像化装置を含み得、一方、角膜の最高温度を測定する工程はさらに、位置標定へ関連付けられた温度値を生成するために熱画像化装置を使用する工程と、第1の位置標定における局所温度が閾値温度を越えるかどうかを判断する工程とを含み得る。
【0023】
レーザシステムの開示された実施形態のうちの任意のものでは、第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを調節する工程はさらに、位置標定における局所温度に基づき光エネルギーを調節する工程であって局所温度が閾値温度を越えると光エネルギーを低減することと局所温度が閾値温度を越えないと光エネルギーを増加することとを含む工程を含み得る。
【0024】
他の開示される態様は、レーザ角膜治療を行うためのレーザコントローラを含み、レーザコントローラは、プロセッサと、本明細書に開示されるようにレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調を行うために実行可能な指示を格納するプロセッサへアクセス可能なメモリとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明とその特徴及び利点をより完全に理解するために、添付図面と併せて以下の説明が次に参照される。
【0026】
【
図2】角膜治療のためのレーザシステムの描写である。
【
図3】レーザコントローラの選択された要素のブロック図である。
【
図4】角膜治療のためのレーザ手術計画の描写である。
【
図5】レーザパルス変調方法の選択された要素のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の明細書では、詳細が、開示主題の論述を容易にするために一例として説明される。しかし、開示される実施形態は例示的であり、全ての可能な実施形態を網羅しないということは当業者にとって明らかなはずである。
【0028】
本開示を通じて、参照符号のハイフンで結んだ形式は要素の特定インスタンスを指し、参照符号のハイフンで結んでいない形式は要素を一般的に又は集合的に指す。したがって一例として(添付図面に示さない)、装置「12-1」は、集合的に装置「12」と呼ばれ得るとともにそのうちの任意の1つが装置「12」と概して呼ばれ得る装置クラスのインスタンスを指す。添付図面と明細書では、同様な参照符号は同様な要素を表すように意図されている。
【0029】
上に指摘したように、様々なレーザ角膜治療が、患者の視覚を改善するように眼球収差を補正するために開発されてきた。様々なタイプのレーザ角膜治療は、数ある中でも特にLASIK、PRK及びT-PRKを含み得る。このようなレーザ角膜治療を行うために使用されるレーザシステムは、Alcon Laboratories,Inc.,located at 6201 South Freeway,Fort Worth,Texas 76134製造のWaveLight(登録商標)Allegretto Wave(登録商標)及びEX500などのフェムト秒レーザシステム及びエキシマーレーザシステムを含み得る。レーザ角膜治療を行うために使用される様々なレーザシステムは200Hz~約1,000Hz又はそれ以上などの様々なレーザパルス周波数を使用することにより動作し得る。典型的市販レーザシステムは、パルス周波数又はパルス出力又はパルスエネルギーの固定値(定格値と呼ばれる)で動作するように設計される。レーザ角膜治療のために使用される各レーザパルスはまた「ショット」と呼ばれ得、角膜の表面から一定量の組織を光剥離するために使用される。パルス周波数(又はショット周波数)は通常、特定市販レーザシステムでは固定される。
【0030】
レーザ角膜治療中、患者の眼上の表面温度の連続的増加が、レーザパルスの形式で提供されるレーザ放射からの熱流入の結果として観測され得る。温度増加が眼の表面において余りに大きいと、眼に対する損傷が、望ましくない過剰熱負荷の結果として発生し得る。したがって、レーザ角膜治療中の眼への熱流入を低減又は制限するいくつかの従来方法が知られており、これらの方法は、治療表面全体にわたり広く散乱され一様な分布の個々のパルスを使用する工程を含む。一様分布のパルスは、外科治療計画の計算中にアルゴリズム的に判断され得、余りにも多くのショットが比較的長期間にわたって同じ位置へ印加されるのを防止し得る。また、レーザシステムのパルス周波数は、眼内への熱流入を制限するために500Hzなどの所定最大値周波数へ制約され得る。
【0031】
熱流入を分散するためのこのような従来方法は余りに大きい局所温度増加を軽減し得るが、従来方法は、患者の眼への臨床的に重要な損傷があり得る限界を越えてレーザ外科治療の位置標定近くで局所的に発生し得る温度上昇を防止しないかもしれない。いくつかのケースでは、細胞損傷がこのような過剰加熱の結果として生じ得、細胞損傷は、より長い回復時間を生じ得る、又はある程度恒久的であり得る。例えば、より多い数のパルスを有する比較的長いレーザ角膜治療時間に関与し得る所与の患者の高い屈折異常の治療は、熱流入からの温度上昇を伴い得る。
【0032】
さらに詳細に説明されるように、レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調が、患者の眼内への熱流入を制御するために開示される。レーザパルス変調はパルス周波数変調(ショット周波数変調)であってもよいし、又はパルス振幅/パルス幅変調であってもよい。本明細書に開示されるレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調は、所定因子に基づき患者の眼の温度上昇を制限するために角膜レーザ治療中に固定線形変調率を適用し得る。本明細書に開示されるレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調は、角膜の治療される表面の又は上皮又は基質のなどの角膜の深さの温度測定値を使用する制御ループを実施し得る。本明細書に開示されるレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調は、レーザパルスを変調するために、角膜へ印加されるレーザパルスの総数を考慮し得る。本明細書に開示されるレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調は、レーザパルスを変調するために、角膜の特定位置標定へ印加されるレーザパルスの局所数を考慮し得る。
【0033】
ここで添付図面を参照すると、
図1は角膜100の球状収差の実施形態の描写を示す。
図1は、説明目的のための概要図であって、精確な縮尺率又は遠近法に従って描かれていない。角膜100の球状収差において、光軸106は人間の眼の光軸を表し、一方、基準プロファイル102は球面を表し得る。さらに、前部角膜プロファイル104は、基準プロファイル102に対して示された角膜の表面における球状収差を表し得る。例えば、角膜レーザ治療を行う際、前部角膜プロファイル104は角膜の生じた球状収差を描写し得る。また
図1に示すのは、光が光軸106上に位置する様々な点に沿ってどのように集束すると期待されるかを描写する光線108である。例えば、これらの点は、視力を増進する様々な光学条件下の網膜の位置に対応するように選択され得る。このようにして、前部角膜プロファイル104は、所望視力を生じることになる入射光線(図示せず)の屈折の変動を生成するように形成され得る。前部角膜プロファイル104は断面プロファイルとして示されるが、前部角膜プロファイル104を三次元で表すために円状対称性が光軸106を中心として適用され得るということが理解されることになる。前部角膜プロファイル104は、様々な実施形態でいくつかの非対称特徴をさらに含み得るということに注意すべきである。
【0034】
次に
図2を参照すると、角膜治療のためのレーザシステム200の実施形態の描写が示される。
図2は、説明目的のための概略描写であって、精確な縮尺率又は遠近法に従って描かれていない。レーザシステム200は様々な実施形態ではより少ない又は多い要素と共に使用され得るということが理解される。
【0035】
図2では、角膜202-1を有する眼202のレーザ角膜治療が描写される。眼202は、様々な異なるタイプのレーザ角膜治療のうちの任意のものであり得るレーザシステム200を使用するレーザ角膜治療を受ける患者の眼を表す。示されるように、レーザシステム200は、レーザ源210と、
図3でさらに詳細に説明されるレーザコントローラ208の制御下で動作し得るレーザスキャナ206とを含む。特にレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調の実施形態では、本明細書で述べるように、レーザシステムはさらに、眼202の、特に角膜202-1の温度測定値を捕捉し得る熱センサ216を含み得、レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調を実施するためにこの温度測定値をレーザコントローラ208へ提供し得る。
【0036】
レーザシステム200において、レーザ源210は、レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調に任意の好適なレーザ源を表し得る。例えば、レーザ源210は、レーザ角膜治療に使用される比較的短い期間を有する高強度を有する光学パルスを生成するように動作するエキシマーレーザ又はフェムト秒レーザを表し得る。したがって、レーザ源210は、ビームチャネル212を介しレーザスキャナ206へ送信され得るレーザビーム214を生成する。レーザスキャナ206では、レーザビーム214は、座標面204のx及びy軸により定義された面などの面においてレーザビーム214を偏向させるために使用され得るレーザスキャナ・ミラー206-1に入射する。座標面204は説明目的のために任意に配向されており、様々な実施形態では眼202に対し様々に配向され得るということに注意すべきである。
図2に示すようにx及びy軸を有するデカルト座標面の代わりに、レーザシステム200の他の実施形態では、座標面204は、角膜202-1上の個々の位置標定を参照するために例えば半径R及び角度θ(図示せず)を使用することにより極座標を使用して実現又は参照され得るということにさらに注意すべきである。座標面204を使用した参照である角膜202-1上の位置標定に基づき、レーザスキャナ206は、角膜202-1上の各位置標定のレーザパルスの数を規定する手術計画に従ってレーザビーム214の偏向を実現するやり方でレーザスキャナ・ミラー206-1を傾けるように動作し得る。このようにして、所望前部角膜プロファイル104(
図1を参照)が、レーザビーム214により送信されるレーザパルスの結果としての角膜組織の除去により角膜202-1上に生成され得る。またレーザスキャナ206と共に示されるのは、照合、合焦、濾過又はレーザビーム214に関係する他の光学的目的のための様々な要素を含み得るビーム光学系206-2である。示されるように、レーザスキャナ206は、本明細書に開示されるように、パルス生成及び変調を含むレーザ源210の動作も連携調整及び制御し得るレーザコントローラ208により制御され得る。
【0037】
レーザシステム200において、熱センサ216は、角膜202-1の温度を記録し得る任意のタイプの光学的温度センサを表し得る。例えば、熱センサ216は、角膜202-1の特定位置標定における又は表面全体にわたる温度を一度に測定するための高温計又は赤外線(IR)レーザ温度センサを含み得る。他の実施形態では、熱センサ216は所与の分解能を有する熱画像を生成する温度感応素子のアレイを含み得る。このようにして、熱センサ216は、角膜202-1上の対応する複数の位置標定へ指標付けされた複数の同時温度測定値を生成するように動作し得る。熱センサ216が熱画像を生成する際、角膜202-1上の複数の位置標定を含む撮像された視野は、角膜202-1の手術計画における位置標定に対応する位置標定基準によりレーザスキャナ206により校正され得るということに注意すべきである。熱センサ216は、例えば熱センサ216からの温度測定値をレーザコントローラ208へトリガ又は伝達するために、レーザコントローラ208により制御され得る。したがって、様々な測定モードは、熱センサ216(レーザビーム214内のレーザパルスの印加と連携調整された連続測定結果又は測定結果など)を使用することにより実現され得る。いくつかの実施形態では、熱センサ216を使用した温度測定値は、レーザ角膜治療中に角膜202-1へ印加されるレーザ放射の熱的効果を確定するためにレーザパルスの印加の間に生成される。
【0038】
熱センサ216を使用しないレーザシステム200の基本動作では、レーザ角膜治療中に発射されるレーザパルスの数とレーザエネルギーの変調との間の規定数学的関係が定義され得る。例えば、いくつかある因子の中でも、瞳サイズ、角膜厚さ及び他の患者情報、並びに患者の手術計画などのいくつかの因子に基づき、レーザパルスのパルス周波数の線形低減はレーザコントローラ208による変調に従い得る。開始パルス周波数はレーザシステム200の定格パルス周波数であり得、一方、パルス周波数は、レーザパルスの数の増加又は角膜レーザ治療の期間の増加と共に周波数を線型に低減することにより変調される。このようにして、パルス周波数の線形変調率に基づき、角膜の表面温度は一定に保たれてもよいし、表面温度は、眼202内への熱取り込みを制限するために、余りに急速な上昇が防止されてもよい。レーザパルス周波数変調の代わりに、レーザパルス出力は、いくつかの実施形態では例えばパルス持続時間又はパルス振幅を変化させることにより変調され得る。パルス持続時間の変動はデューティサイクル変調とも呼ばれ得る。パルス出力が低減されるとパルス当たりレーザエネルギーもまた低減され、元の手術計画に従ってより低い全治療エネルギーを生じることになる、ということに注意すべきである。したがって、より低いパルス当たりレーザエネルギーが使用されると、レーザパルスの総数は、低減されたレーザ出力を補償しそして元の手術計画と同じ全治療エネルギーを達成するために増加され得る。この手法を使用することにより、レーザシステム200は、短いレーザ角膜治療を可能な限り速い時間で完了することと、角膜202-1の望ましくない熱負荷を依然として回避することとができるようにされ得る。温度測定値に依存すること無く、レーザパルスの数とレーザエネルギーの変調との間の固定された関係が式を使用することにより手術中に計算されてもよいし、又は参照テーブルの形式でレーザコントローラ208により予め計算され且つ参照されてもよい。
【0039】
熱センサ216を使用しない別の実施形態では、レーザシステム200は、患者の特定手術計画に基づきレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調に使用され得る。手術計画(
図4も参照)は、角膜202-1上の各位置標定において印加される様々な数のレーザパルスに対応する様々な除去深さを規定し得る。したがって、より深い除去深さは、所与の位置標定におけるより多い数のレーザパルスを規定する。したがって、レーザコントローラ208は、角膜レーザ治療の角膜202-1の各位置標定において印加される正確な数のレーザパルスにアクセスすることができる。
【0040】
したがって、利用可能情報は、レーザコントローラ208が角膜202-1上の所与の位置標定における熱流入から低温を生成するためにレーザエネルギーを変調することを可能にする。特に、より多い数のレーザパルスを受信する位置標定は、角膜202-1への熱エネルギー流入を低減するためにレーザエネルギーの変調を受け得、一方、より少ない数のパルスを受信する位置標定は、角膜202-1への熱エネルギー流入を増加するためにレーザエネルギーの変調を受け得る。このようにして、レーザエネルギーの変調は、角膜202-1の望ましくない熱負荷を依然として回避する一方で治療時間を最適化するために、各位置標定において柔軟且つ精密に行われ得る。上述のように、パルス変調はパルス周波数変調又はパルス出力変調(パルス持続時間/パルス振幅)に関与し得る。
【0041】
レーザシステム200の温度調節された動作では、熱センサ216はレーザ角膜治療中の角膜202-1の表面温度を監視するために使用され得る。一実施形態では、角膜202-1の最大測定温度は、角膜202-1へ印加されるレーザパルスのパルス変調の制限因子として使用される。例えば、熱センサ216が撮像カメラである場合、各画像からの最大測定温度は、レーザ角膜治療が進むにつれてレーザパルスのレーザエネルギー(パルス周波数又はパルス出力)の変調を制御するために使用され得る。したがって、角膜202-1の温度がある限度(予め定められ得る)を越えると、パルス変調は角膜レーザ治療からの角膜202-1上の熱負荷を低減するように調節され、これにより、温度がさらに上昇するのを停止させるが、これは望ましいことである。いくつかのケースでは、角膜202-1の温度が低下する又は別の限界未満であると、パルス変調は、熱負荷を増加するために使用され得、これはまた、治療時間を低減するためにレーザ角膜治療を加速するのに役立つ。このようにして、角膜202-1の表面温度の閉ループ温度調節を利用することで、レーザ角膜治療の全体時間は、角膜202-1に対する有害な熱的影響無しに可能な限り短くなるように最適化され得る。
【0042】
さらに、熱センサ216が基質内温度測定のために有効にされると、レーザシステム200の温度調節された動作は、角膜202-1内の角膜弁切開又は水晶体切開に使用されるフェムト秒レーザ又は紫外線フェムト秒レーザなどによる基質内治療に使用され得る。
【0043】
温度調節を有する更に別の実施形態では、レーザシステム200は、レーザパルスが印加される特定位置標定における局所温度を監視し、そして局所測定温度に従ってレーザエネルギーを変調するために使用され得る。この場合、手術計画は、角膜202-1上の各位置標定において印加されるレーザパルスの数に関する情報を提供する入力として使用される。より多くのレーザパルスが印加される位置標定では、パルス変調は眼202に対する熱負荷を低減するために行われ得、一方、より少ないレーザパルスが印加される位置標定では、パルス変調は眼202に対する熱負荷を増加するために行われ得る。上に指摘したように、熱センサ216の測定場は、各位置標定における温度に基づき監視及び調節を実施するためにレーザコントローラ208及びレーザスキャナ206により使用される手術計画における位置標定へ校正される。
【0044】
次に
図3を参照すると、レーザコントローラ300の実施形態の選択された要素を示すブロック図が提示される。レーザコントローラ300は、本明細書に開示されるようにレーザ角膜治療のためのレーザパルス変調を行うことができるようにされ得る。いくつかの実施形態では、レーザコントローラ300はレーザシステム200などのレーザ治療システムと一体化又は結合され得る。例えば、レーザコントローラ300は、
図2に関し上に説明したレーザコントローラ208の特定実施形態を表し得る。
【0045】
図3に描写された実施形態では、レーザコントローラ300は、メモリ310として総称されるメモリ媒体へ共用バス302を介し結合されるプロセッサ301を含む。
図3に描写するレーザコントローラ300はさらに、いくつかある他の装置の中でも特にレーザ治療システム、熱センサ、レーザスキャナなどの様々な外部エンティティへインターフェースし得る通信インターフェース320を含む。いくつかの実施形態では、通信インターフェース320はレーザコントローラ300がネットワーク(
図3に図示せず)へ接続することを可能にするように動作可能である。いくつかの実施形態では、
図3に描写するように、レーザコントローラ300は、共用バス302又は別のバスと1つ又は複数のディスプレイの出力ポートとを接続するディスプレイインターフェース304を含む。組み込み実装などのレーザコントローラ300のいくつかの実施形態では、ディスプレイインターフェース304又はディスプレイの使用は省略され得る。
【0046】
図3において、メモリ310は、持続性及び揮発性媒体、固定及び着脱可能媒体及び磁気及び半導体媒体を包含する。メモリ310は指示、データ又はその両方を格納するように動作可能である。示されたメモリ310は、幾組の又は一連の指示(すなわちオペレーティングシステム312)及びレーザパルス変調器314を含む。オペレーティングシステム312は、UNIXオペレーティングシステム又はUNIXのようなオペレーティングシステム、Windows(登録商標)ファミリオペレーティングシステム、又は別の好適なオペレーティングシステムであり得る。レーザパルス変調器314は、レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調に関して本明細書で説明された様々な方法及び計算のうちの任意のものを行い得る。
【0047】
次に
図4を参照すると、レーザ外科治療の手術計画200が2-Dプロットとして示される。手術計画200は、当該位置標定において印加される特定数のレーザパルスに対応する各位置標定における強度値(
図4に縮尺無しで示される)を有する角膜202-1の全ての位置標定のマッピングを表し得る。パルスの数はレーザ角膜治療中の角膜202-1の熱負荷に直接対応するので、手術計画200はまた、レーザ角膜治療が行われる際にどこで最高温度が発生されると予測されるかを示す温度計画として使用され得る。したがって、手術計画200の予備知識により、特定位置におけるレーザパルスの変調は、本明細書で述べたように角膜202-1の熱負荷を低減するように行われ得る。具体的には、所定値を越える強度値を有する位置標定は熱負荷を低減するためにパルス変調を受け得、一方、別の特定値未満の強度値を有する位置標定は熱負荷を増加するためにパルス変調を受け得る。既に述べたように、パルス変調はパルス周波数変調又はパルスエネルギー変調(パルス持続時間/パルス振幅)を含み得る。
【0048】
次に
図5を参照すると、レーザパルス変調の方法500の実施形態の選択された要素のフローチャートが示される。方法500において述べられたいくつかの動作は任意選択的であってもよいし様々な実施形態では再配置されてもよいということに注意すべきである。方法500は、レーザシステム200を使用することにより(具体的にはレーザコントローラ300/208内のレーザパルス変調器314により)行われ得る。
【0049】
方法500は、工程502において、患者の角膜の角膜レーザ治療の手術計画へアクセスすることにより始まり得、ここでは、手術計画は、角膜レーザ治療のための角膜上の位置標定と上記位置標定の各位置標定のレーザパルスの数とを規定する。工程504では、角膜レーザ治療は手術計画に従って行われ、ここでは、レーザパルスにより角膜上の第1の位置標定へ与えられる熱エネルギーは、角膜の温度を制御するために第1の位置標定におけるレーザパルスの光エネルギーを変調することにより制御される。
【0050】
本明細書において開示されるように、レーザ角膜治療のためのレーザパルス変調は、角膜へ与えられる熱エネルギーを制御するために使用される。レーザパルスの光エネルギーは、レーザ治療を受ける角膜の各位置標定における期待熱負荷又は測定温度に依存して熱エネルギーを低減又は増加するように変調され得る。レーザパルス変調はパルス周波数変調、パルス振幅変調及びパルス幅変調に関与し得る。
【0051】
上記開示された主題は例示的であって限定的ではないと考えるべきであり、添付の特許請求の範囲は、本開示の精神と範囲に入るこのような修正、拡張及び他の実施形態を全てカバーするように意図されている。したがって、法律により許容される最大限の範囲において、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲及びそれらの同等物の最も広い許容可能な解釈により判断されるべきであり、これまでの詳細説明により限定又は制限されないものとする。