(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】コンクリートを養生するための方法および器具
(51)【国際特許分類】
B28B 11/24 20060101AFI20230424BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230424BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230424BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20230424BHJP
C04B 40/04 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B28B11/24
B32B27/32 Z
B32B27/12
E04G21/02 104
C04B40/04
(21)【出願番号】P 2020524722
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(86)【国際出願番号】 US2018042574
(87)【国際公開番号】W WO2019018456
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-04-13
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520020328
【氏名又は名称】トランシールド,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オゾル,セチキン
(72)【発明者】
【氏名】トット,グレゴリー,エル.
(72)【発明者】
【氏名】チー,ナー
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036657(JP,A)
【文献】実開昭63-021367(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第02578395(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B
B32B
E04G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の外層と、第2の外層と、前記第1の外層に隣接した第1の内層と、前記第2の外層に隣接した第2の内層と、前記第1の内層に隣接した第3の内層と、前記第2の内層および前記第3の内層に隣接した第4の内層と、を有するフィルムと、
不織布を含む吸収層と、
前記フィルムの前記第2の外層を前記吸収層に接着する接着材料と、を備え、
前記第2の外層は、ポリエチレンの極性コポリマーを含み、
前記第2の内層は、高密度ポリエチレンを含み、
前記第3の内層および前記第4の内層は、エチレンポリプロピレンコポリマーを含む、コンクリートを養生するための器具。
【請求項2】
前記フィルムの前記第1の外層は、滑り止め成分を含む、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記フィルムの前記第1の外層は、動摩擦係数および静摩擦係数が各々少なくとも0.7である、請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記不織布は、複数の隆起領域および複数の凹領域を含み、前記接着剤は前記フィルムの前記第2の外層を前記不織布の前記隆起領域に接着する、請求項1に記載の器具。
【請求項5】
前記養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHを調整するためのpH調整成分をさらに含む、請求項1に記載の器具。
【請求項6】
前記pH調整成分は、前記フィルムに取り込まれている、請求項5に記載の器具。
【請求項7】
前記pH調整成分は、前記吸収層に取り込まれている、請求項5に記載の器具。
【請求項8】
前記pH調整成分は、酸化カルシウムである、請求項5に記載の器具。
【請求項9】
前記フィルムは、前記吸収層の片面に水蒸気バリアを形成する、請求項1に記載の器具。
【請求項10】
前記器具は、前記フィルムの前記第2の内層を介した前記吸収層からの
10g/m
2
/日未満の水蒸気透過率
を有する、請求
項9に記載の器具。
【請求項11】
前記器具は、貫入抵抗が少なくとも14ポンドである、請求項1に記載の器具。
【請求項12】
前記器具は、エルメンドルフ引裂強度が少なくとも1,000gである、請求項1に記載の器具。
【請求項13】
前記フィルムの前記第1の外層および前記第2の外層は、エチレンブチルアクリレートを含む、請求項1に記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、米国特許法第119条(e)により、2017年7月19日に出願された米国特許仮出願第62/534,482号および2017年11月29日に出願された米国特許仮出願第62/591,817号の優先権の利益を主張するものであり、両仮出願の開示内容全体を本明細書に援用する。本発明は、コンクリートを養生するための方法および器具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートには、投入後に養生過程がある。投入直後、コンクリートは塑性状態にある。この状態から、投入されたコンクリートは流動状態から固体状態に変化しはじめ、密度が増して硬くなる。これが起こる際、コンクリートに「ブリード」が生じはじめる、すなわちコンクリート中の固体粒子が沈降しはじめ、コンクリート中の水が表面に向かって上に移動しはじめる。
【0003】
コンクリートを所望の強度まで硬化させるには、適切な条件下で十分な時間が必要である。適切に養生したコンクリートは、凍結と融解の繰り返しに起因する応力、摩耗、機械的な問題に対する耐性が高い。また、適切に養生したコンクリートは、スケーリング、クリープ、破損に対する耐性も高い。コンクリートにおける問題は、表面で始まることが多い。コンクリート部材の上3インチ(すなわち約7.6cm)、特に上3/16インチ(すなわち約0.47cm)を適切に養生すると、これらの問題の多くを防ぐことができる。
【0004】
養生中のコンクリートを適切に水和させることが、適切な養生に寄与する。養生中のコンクリートを水和させるための既知の方法のひとつに、水を散布し、養生ブランケットで覆うことがある。一般に、養生ブランケットは、養生過程の間、投入されたコンクリートの水分を維持するのに用いられる。そのような製品の例が、米国特許第1,694,588号、同第8,852,380号、同第7,572,525号、同第7,998,564号、同第5,780,367号および同5,611,369号に説明されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、コンクリートを養生するための複数の方法および器具を含む。これらの方法および器具には、(1)投入されたコンクリート部材用の養生カバー、(2)コンクリート構造物の保存時、運搬時、設置後に使用するための養生カバー、(3)養生カバーの製造方法、(4)養生中のコンクリート部材の水和に用いる水のpHを変更する方法、(5)投入されたコンクリート用のバリア層が含まれる。
【0006】
本発明の一実施形態では、コンクリートを養生するための器具は、第1の外層と、第2の外層と、第1の内層と、第2の内層と、第3の内層と、第4の内層と、を有するフィルムと、吸収層とを含む。第1の外層および第2の外層は、直鎖状低密度ポリエチレンを含む。第1の内層は第1の外層に隣接し、第2の内層は第2の外層に隣接している。第1の内層および第2の内層は、直鎖状低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンを含む。第3の内層は第1の内層に隣接し、第4の内層は第2の内層および第3の内層に隣接している。第3の内層および第4の内層は、エチレンポリプロピレンコポリマーを含む。吸収層は、不織布を含む。接着材料がフィルムの第2の外層を吸収層に接着する。
【0007】
一実施形態では、フィルムの第1の外層は、滑り止め成分を含む。一実施形態では、フィルムの第1の外層は、動摩擦係数および静摩擦係数が各々少なくとも0.7である。
【0008】
別の実施形態では、不織布は、複数の隆起領域および複数の凹領域を含み、接着剤はフィルムの第2の外層を不織布の隆起領域に接着する。
【0009】
別の実施形態によれば、器具は、養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHを調整するためのpH調整成分をさらに含む。pH調整成分は、フィルムおよび/または吸収層に取り込まれていてもよい。いくつかの実施形態では、pH調整成分は、参加カルシウムを含む。養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHは、約11~約13であってもよい。
【0010】
別の実施形態では、フィルムは、吸収層の片面に水蒸気バリアを形成する。いくつかの実施形態では、フィルムの第2の内層を介した吸収層からの器具の水蒸気透過率は、10g/m2/日未満である。
【0011】
他の実施形態では、器具は、貫入抵抗が少なくとも14ポンドである。いくつかの実施形態では、器具は、エルメンドルフ引裂強度が少なくとも1,000gである。いくつかの実施形態では、フィルムの第1の外層および第2の外層は、エチレンブチルアクリレートを含む。
【0012】
本発明の別の実施形態では、コンクリートを養生するための器具の製造方法は、フィルムを準備し、複数の隆起面と複数の凹領域とを有する吸収材を準備し、接着材料を準備し、フィルムをその結晶軟化温度まで加熱し、接着材料を吸収材の隆起面に塗布し、フィルムおよび吸収材の凹領域によって区切られた複数のポケットが形成されるように、フィルムを吸収材の隆起面に接着することを含む。
【0013】
本発明の一実施形態では、吸収材および接着材料は、一緒に積層されている。別の実施形態では、接着材料は、ホットメルト接着剤である。いくつかの実施形態では、得られる器具は、飽和結合強度が少なくとも約22g/インチである。
【0014】
本発明の別の実施形態では、コンクリートを養生する方法は、コンクリートを所望の形状になるように投入してコンクリート部材を形成し、コンクリートがブリード段階に達するまで待ち、投入されたコンクリートの表面に水和水を接触させ、水和水を接触させた後に、コンクリートの表面に器具を接触させる。この器具は、フィルムと、フィルムに接着された吸収層と、水和水のpHを調整するためのpH調整成分と、を含む。
【0015】
一実施形態では、器具は、養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHを調整するためのpH調整成分をさらに含む。pH調整成分は、フィルムおよび/または吸収層に取り込まれていてもよい。いくつかの実施形態では、pH調整成分は、酸化カルシウムを含む。養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHは、約11~約13であってもよい。一実施形態では、この方法は、少なくとも7日間、水和水のpHを約11より高く維持することを含む。
【0016】
別の実施形態では、フィルムは、吸収層の片面に水蒸気バリアを形成する。いくつかの実施形態では、フィルムを介した吸収層からの器具の水蒸気透過率は、10g/m2/日未満である。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、フィルムは、滑り止め成分を含む。いくつかの実施形態では、器具は、コンクリート部材を囲むように構成されている。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態によれば、器具を前記コンクリート部材に接触させる工程は、コンクリート部材を器具の中に囲い込み、囲い込んだコンクリート部材を、コンクリート部材が投入された場所とは異なる場所まで運搬することで、運搬時にもコンクリート部材の養生を継続することを含む。
【0019】
本発明の別の実施形態では、地面と、地面に投入されるコンクリートとの間にバリア層を設けるための器具は、第1の外層と、第2の外層と、第1の内層と、第2の内層と、第3の内層と、第4の内層と、を有するフィルムを備える。第1の外層および第2の外層は、直鎖状低密度ポリエチレンを含む。第1の内層は第1の外層に隣接し、第2の内層は第2の外層に隣接している。第1の内層および第2の内層は、直鎖状低密度ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンを含む。第3の内層は第1の内層に隣接し、第4の内層は第2の内層および第3の内層に隣接している。第3の内層および第4の内層は、エチレンポリプロピレンコポリマーを含む。
【0020】
本発明のこれらの特徴および他の特徴は、以下の説明および添付図面から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの部分分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバー製造プロセスの概略図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態によるコンクリート部材を養生する方法の斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施形態によるコンクリート部材を養生する方法の斜視図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施形態によるコンクリート部材を養生する方法の斜視図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態によるコンクリート部材を養生する方法の斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーの斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態によるコンクリート部材を養生する方法を示す。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの部分分解斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの部分分解斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの部分分解斜視図である。
【
図10-1】
図10-1は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの構成要素を列挙したスプレッドシートである。
【
図10-2】
図10-2は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの構成要素を列挙したスプレッドシートである。
【
図10-3】
図10-3は、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの構成要素を列挙したスプレッドシートである。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーの供試体で実施した水蒸気透過率試験の結果を示す。
【
図12】
図12は、本発明の別の実施形態によるコンクリート養生カバーの供試体で実施した水蒸気透過率試験の結果を示す。
【
図13】
図13は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して3日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図14】
図14は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して3日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図15】
図15は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して7日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図16】
図16は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して7日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図17】
図17は、カバーなしで養生したコンクリートスラブの断面を示す。
【
図18】
図18は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーを用いて養生したコンクリートスラブの断面を示す。
【
図19】
図19は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して3日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図20】
図20は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して3日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図21】
図21は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して7日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図22】
図22は、他の養生技術と比較した、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して7日間養生したコンクリートスラブの供試体で実施した相対湿度試験の結果を示す。
【
図23】
図23は、カバーなしで養生したコンクリートスラブの断面を示す。
【
図24】
図24は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーを使用して養生したコンクリートスラブの断面を示す。
【
図25】
図25は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーの供試体で実施した水蒸気透過率試験の結果を示す。
【
図26】
図26は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバーの供試体で実施した水蒸気透過率試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によるコンクリート養生カバーの一実施形態は、フィルム、吸収層、接着剤の3つの部分を含む。本発明の一実施形態では、インフレーション法の当業者に知られている「崩壊気泡」(CB)技術を利用して、コンクリート養生カバーのフィルム部分を形成する。この実施形態では、コンクリート部材を運搬中に養生し、コンクリート部材の設置後にも使用するために、コンクリート養生カバーを、プレキャストコンクリート構造物の取り扱いおよび運搬に伴う悪条件に耐え得るカスタム形状のカバーにできるだけの強度を持つ多層フィルムを作製する。また、このフィルムは、設置時や投入されたコンクリートの表面から取り除く際に破れたり、設置されたカバーの上を人が歩くことで破れたりしないだけの十分な強度を持つ。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルムの部分分解斜視図である。
図1に示すように、フィルム10は、第1の外層11、第1の内層12、第2の内層13、第3の内層13A、第4の内層12Aおよび第2の外層11Aを含む。
【0024】
図示の実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、着色成分および滑り止め成分を有するエチレンブチルアクリレート(EBA)マトリックス中の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成される。前文で用いた「マトリックス」とは、第1の外層11および第2の外層11Aのポリマー含有量の少なくとも50%がEBAであることを意味する。以下で詳細に説明するように、着色成分および滑り止め成分は、マスターバッチの形で準備することができる。本発明のいくつかの実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、EBA約50%~約90%、LLDPE約1%~約25%、着色成分約5%~約20%、滑り止め成分約1%~約20%を含む。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、EBA80%、LLDPE10%、着色成分5%、滑り止め成分5%で構成される。EBAは極めて極性の高いポリマーであるため、第1の外層11および第2の外層11Aの表面に水を引き付けてクラスター化する。第1の外層11および第2の外層11Aの全体または一部を、例えばエチレンアクリル酸(EAA)などの他の極性ポリマーで構成することもできる。
【0025】
第1の内層12および第4の内層12Aは、図示の実施形態では、高密度ポリエチレン(HDPE)マトリックス中のLLDPEから構築される。前文で用いた「マトリックス」とは、第1の内層12および第4の内層12Aのポリマー含有量の少なくとも50%がHDPEであることを意味する。本発明の一実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、LLDPEが約1%~約25%、HDPEが約50%~約90%、着色成分が約5%~約20%である。本発明の一実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE70%、LLDPE15%、着色成分15%で構成される。
【0026】
第2の内層13および第3の内層13Aは、図示の実施形態では、エチレンポリプロピレンコポリマーで構成される。本発明の一実施形態では、エチレンポリプロピレンコポリマーは、テキサス州アービングのExxon Mobil Corporationから入手可能なVistamaxx 3020 FLである。
【0027】
EBAまたはEAAを使用すると、フィルム10の外面の摩擦係数が高くなる。上述したように、第1の外層11および/または第2の外層11Aには、これらの層にテクスチャーを与えることで滑り止めの特性を生む添加剤などの成分を含んでもよい。本明細書に記載の例では、滑り止め成分は、滑り止め剤を約45%~約55%含み、残りがLDPEであるマスターバッチの形態である。本発明の一実施形態では、滑り止め剤は、オハイオ州フェアローンのA. Schulman, Inc.から入手可能なPolybatch MAS 25などの部分架橋ポリエチレンポリマーを含む。本発明の別の実施形態では、滑り止め剤は、テネシー州モリスタウンのColortech, Inc.から入手可能な#10030-12である。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aの静摩擦係数は約1.770であり、動摩擦係数は約1.580である。滑り止め成分を含まなくても、本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aの静摩擦係数は約1.400、動摩擦係数は約1.150である。
【0028】
本発明の特定の実施形態では、フィルム10は明るい白色であり、日光を反射し、温度を制御する際の一助となる。また、フィルム10の視認性を高めるために、フィルム10に蛍光増白剤を含んでもよい。本発明の他の実施形態では、フィルム10は熱を吸収し、養生中のコンクリートを温めるために黒色である。本発明のいくつかの実施形態では、着色成分を加えることによって所望の色が達成される。本明細書に記載の例では、着色成分は、色調整剤約50%~約65%、UV安定剤約10%を含み、残りがLDPEであるマスターバッチの形態である。実施形態によっては、色調整剤は、マスターバッチの62%を構成する。
【0029】
図2に示すように、フィルム10は、コンクリート養生カバー40を構成するために、接着剤30によって吸収層20に接着されている。本発明の一実施形態では、吸収層20は、レーヨン、ビスコース、リヨセルおよび/または同様の材料などの高吸収性合成繊維とポリエステル(PET)繊維の両方を含むスパンレースすなわち水流交絡によって得られた複合材料を含むがこれらに限定されるものではない群から選択される不織布層である。本発明の一実施形態では、吸収層20は少なくとも20%のビスコース繊維である。本発明の別の実施形態では、吸収層20は、約70%のビスコース繊維と約30%のポリエステル繊維である。図示の実施形態における吸収層20は、エンボス加工または他の方法で処理されて、隆起面21および凹領域または谷22を形成する。隆起面21は、例えば、正方形、円形または他のパターンなどの多くの構成のいずれであってもよい。実施形態によっては、吸水と水の保持を助ける開口を吸収層20に含むことができる。また、親水性を改善するために、イリノイ州バタビアのTechmer PM, LLCから入手可能なTechsurf-15560などの添加剤で吸収層20を処理してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態では、接着剤30は、例えばミネソタ州セントポールのAdherent Laboratories, Inc.製のAL-1262またはAL 34-149-1などのホットメルト熱可塑性ゴム接着剤である。これらは、外装防水接着剤である。本発明のいくつかの実施形態では、接着剤30は、剪断接着破壊温度が少なくとも華氏約140度(すなわち約60℃)である。
【0031】
図2は、本発明の一実施形態によるコンクリート養生カバー40の製造方法を示す。この方法では、従来技術において知られている低圧ニップ積層法を利用する。接着剤30は、吸収層20の隆起面21に塗布される。フィルム10は、フィルム10がニップステーションに達する前に第2の外層11Aがその結晶軟化点Tcに達するように加熱される。第2の外層11AにはEBAまたはEAAが存在するため、軟化点が高めであるHDPEを含む第4の内層12Aよりも第2の外層11AのほうがTcが低い。したがって、第2の外層11Aは、第4の内層12Aよりも大きく軟化する。フィルム10の様々な層は、加熱されると非晶質になり、フィルム10の層同士および第2外層11Aと吸収層20との間での交換結合の形成を促進する。これらの二次結合および三次結合は、水と長時間接触した後でも非常に安定したままであり、コンクリート養生中に生じる高温で湿った環境に長時間耐えることができるコンクリート養生カバー40になる。
【0032】
以下でさらに詳しく説明するように、(上記の着色成分および滑り止め成分に加えて、またはその代わりに)さまざまな添加剤50をコンクリート養生カバー40に加えることができる。様々な添加物を、(1)
図2に示すような積層プロセスの間に、(2)マスターバッチの形での添加を含めて、フィルム10および/またはフィルム10の異なる層を構成するさまざまな構成要素に、(3)吸収層20および/または(4)接着剤30に、加えることができる。加熱後、凹領域22とフィルム10との間にポケットが形成されるように、フィルム10を吸収層20の隆起面21に結合する。所望の結合および結合強度になるように、ニップ開口とニップ圧力を調整する。これらのポケットは、水和プロセスの間に水を集め、その水を養生過程で使用するために保持することができる。本発明のいくつかの実施形態では、ポケットは少なくとも7日間、最大21日以上、水を保持する。
【0033】
本発明の一実施形態では、得られるコンクリート養生カバー40は、以下の特徴を有する。
【0034】
結合強度-1インチ(すなわち約2.54cm)あたり100~2000g
24時間の水飽和後の結合強度-1インチ(すなわち約2.54cm)あたり少なくとも20g
坪量-70~300g/1m2(フィルム40~200g/1m2、吸収層30~120g/1m2、接着剤1~10g/1m2)
機械方向の引き裂き-500~8000g
幅方向の引き裂き-500~8000g
水蒸気透過率(ASTM F1249-13またはASTM E96)-0.5~9.9g/m2/日
コンクリートは、養生中のコンクリート部材の水和に用いる水のpHが硬化反応のpHと同じかそれに近い場合、より良く硬化する。水道水のpHは通常6.5~8.5である。養生中のコンクリートは一般にpH約11~約13.5の範囲であり、約12.5が一般的であると考えられている。本発明の様々な実施形態において、pH調整添加剤は、養生中のコンクリートの水和に用いる水のpHを、所望のレベル、好ましくはコンクリートの硬化反応のpH前後に変えるのに有効な量で用いられる。例えば、酢酸ナトリウム、ウォラストナイト、酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムなどのpH調整添加剤を、コンクリート養生カバー40の1つ以上の層および/または投入されたコンクリート部材またはプレキャストコンクリート部材に接触させる水に加えることができる。これらのpH調整添加剤は、コンクリート養生カバー40の層に直接、または1種類以上のpH調整添加剤を含むマスターバッチの形態のpH調整成分として添加することができる。
【0035】
コンクリート養生カバー40に添加すると、これらの添加剤は、コンクリート養生カバーと接触する水のpHを上げる。本発明の一実施形態では、酸化カルシウムを使用して、養生中のコンクリートの水和に用いられる水のpHを上昇させる。酸化カルシウムが水と接触すると、水酸化カルシウムが生成し、反応の副作用として熱が放出される。添加剤は、上述した方法のいずれか、またはコンクリート養生カバー40と接触する水のpHを上げるのに有効な他の方法のいずれかで、コンクリート養生カバー40に取り込むことができる。添加剤として酸化カルシウムを用いる場合、pH調整成分はEBAを含むと好ましく、成分が取り込まれるフィルム10の層のマトリックスポリマーは、EBAコポリマーであると好ましい。
【0036】
吸収層20は吸収性が高く、第2の外層11Aに隣接して水を保持する。第2の外層11AにEBAを使用すると、同じく容易に吸水して水蒸気透過率も比較的高い層が作られる。第4の内層12AにHDPEを使用すると、本質的に水バリアとして機能する層が作られる。したがって、コンクリートに接した水和水は、吸収層20から第2の外層11Aに移動し、第4の内層12Aのバリア効果によってそこに保持される。これにより、水和水が第2の外層11Aに取り込まれたpH調整成分と接触することができるため、水和水のpHが上昇する。
【0037】
コンクリート養生カバー40にpH調整添加剤を含めることに加えて(またはその代わりに)、投入されたコンクリートまたはプレキャストコンクリートおよび/またはコンクリート養生カバー40に散布する水和水にも添加剤を加えることができる。
図3Aおよび
図3Bは、そのための1つの方法を示す。
図3Aに示すように、ホース60などの散布装置には、水が流れるチャンバ62を有するアタッチメント61を設けることができる。pH調整添加剤については、チャンバ62の中に入れればよい。
図4Aおよび
図4Bの実施形態では、タンカートラック70などの水源にpH調整添加剤を加える。pH調整添加剤については、アタッチメント61またはタンカートラック70などの水源に、液状で、錠剤T(pH調整添加剤をより良く分散させるための発泡錠など)、要素の入った水溶性パウチまたは他の手段を使用して加えてもよい。
【0038】
コンクリートを養生するための本発明による1つの方法は、
図3Aおよび
図4Aに示すように、pH調整添加剤を含有する水をコンクリート部材80に散布することである。
【0039】
別の方法として、
図3Bおよび
図4Bに示すように、pH調整添加剤を含有する水を散布した部材80をコンクリート養生カバー40で覆うことがあげられる。カバー40は、pH調整添加剤を含んでも含まなくてもよく、(1)乾燥状態で、(2)水道水を散布した後および/または(3)pH調整添加剤を含有する水を散布した後に、部材80に接触させることができる。
【0040】
別の方法として、(pH調整添加剤の有無にかかわらず)コンクリート養生カバー40に(pH調整要素の有無にかかわらず)水を散布し、それを、まだ水を散布していないかpH調整添加剤を含有しない水を散布したコンクリート部材80の表面に当てることがあげられる。
【0041】
図5は、本発明の実施形態による別の方法を示す。この実施形態では、コンクリート養生カバーは、プレキャストコンクリート部材100に固定することができる特製のエンクロージャ(ポーチなど)90の形に作られている。エンクロージャ90は、熱溶接、縫製または従来技術において知られた他の方法によって形成することができる。上述した方法を用いる場合と同様に、エンクロージャ90には、pH調整添加剤が含まれていても含まれていなくてもよい。エンクロージャ90および/または部材100には、散布をする(またはしない)ことができ、用いる水は、
図3A、
図3B、
図4Aおよび
図4Bの実施形態に関連して上述したように、pH調整添加剤を含んでも含まなくてもよい。エンクロージャ90には、ジッパー、スナップまたは他の固定機構91を設けて、それらを部材100に固定し、エンクロージャ90の内部に水分を保持するのを助けることができる。エンクロージャ90を用いることで、部材100の保存および出荷時に養生過程を継続することができる。エンクロージャ90は、部材100の保護パッケージとしても機能する。
【0042】
図6は、コンクリート部材を養生する、本発明の実施形態による方法を示す。この実施形態では、本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーで形成した、既成の管の形をした特製のエンクロージャ90A内に、コンクリート製枕木RTを配置する。エンクロージャ90Aの一端は閉じてある。養生中の枕木RTを水和するための水をエンクロージャ90Aの中に散布し、開口端を封止する。図示の実施形態では、枕木RTは金属製の金具Fを含む。必要に応じて、腐食防止手段を持つプラスチックキャップなどの保護カバーを金具Fに固定して、エンクロージャ90Aでの出荷および保存中に保護することができる。
【0043】
本発明の別の実施形態では、養生カバー80またはエンクロージャ90を、設置後に養生中のコンクリート部材の表面に残すことができる。例えば、地中設置用のプレキャストコンクリート管の表面にカバー80を配置し、運搬時ならびに設置時および設置後に管の表面に残すことができる。これによって、継続的な養生が容易になり、管を保護するとともに、岩、汚れ、砂などによって生じる可能性がある表面の破損を防止しやすくなる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、コンクリートがブリージング段階に達した後、養生中のコンクリートの表面に水和水を接触させる。その後、養生中のコンクリートの上に養生カバーを載せる。水和水を表面に接触させ、養生カバーを接触させる前に、表面からブリード水を除去することができる。
【0045】
pH調整添加剤の効果を決定するために、出願人は、pH約7.8の水道水50mlにマスターバッチの形態で様々な添加剤を加えた。出願人は、酸化カルシウム20%とポリエチレン80%とを含むマスターバッチ10~25gを組み合わせると、水50mlのpHが約7.75~約8.9~9.7に上昇することを見いだした。酸化カルシウム65%とEBA35%を含むマスターバッチ10~25gを組み合わせると、水50mlのpHが約7.75~pH約12.1~12.3に上昇する。ウォラストナイト26%とポリプロピレン74%を含むマスターバッチ10~25gを組み合わせると、水50mlのpHが約7.75~約8.3~8.6に上昇する。
【0046】
本発明の別の実施形態では、フィルム10の第1の外層11および第2の外層11Aは、EBA約50%~約90%、pH調整添加剤が約65%で残りがEBAのpH調整成分約1%~約25%、着色成分約5%~約20%、滑り止め成分約1%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、EBA80%、pH調整添加剤65%とEBA35%を含有するpH調整成分10%、着色成分5%、滑り止め成分5%で構成される。
【0047】
本実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE約50%~約90%、LLDPE約1%~約25%、着色成分約5%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE70%、LLDPE15%、着色成分15%で構成される。
【0048】
本実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エチレンポリプロピレンコポリマーで構成される。
【0049】
本発明の別の実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、EBA67.5%、pH調整添加剤65%とEBA35%とを含有するpH調整成分22.5%、着色成分5%、滑り止め成分5%で構成される。本実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE70%、LLDPE15%、着色成分15%で構成される。第2の内層13および第3の内層13Aは、LLDPE60%とエチレンポリプロピレンコポリマー40%で構成される。
【0050】
図7は、本発明の他の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルム200の分解斜視図である。図示の実施形態では、フィルム200は、第1層201と、第2層202と、第3層203と、を有する。フィルム200は、崩壊気泡プロセスで作製したものではなく、共押出フィルムである。第3層203は、積層過程での吸収部材20への積層時に(上記実施形態に関連して説明したように)その結晶化温度Tcまで加熱される。
【0051】
本発明の一実施形態では、第1層201は、HDPE約50%~約85%、LLDPE約5%~約20%、滑り止め成分約1%~約20%、着色成分約5%~約20%で構成される。一実施形態では、第1層201は、HDPE65%、LLDPE20%、滑り止め成分5%、着色成分10%で構成される。
【0052】
本発明の一実施形態では、第2層202は、HDPE約20%~約45%、LLDPE約50%~約85%、着色成分約5%~約20%で構成される。一実施形態では、第2層202は、HDPE30%、LLDPE60%、着色成分10%で構成される。
【0053】
本発明の一実施形態では、第3層203は、HDPE約10%~約80%、LLDPE約5%~約85%、pH調整添加剤約65%とEBA35%とを含むpH調整成分約5%~約50%、着色成分約0%~約20%で構成される。一実施形態では、第3層203は、HDPE70%、LLDPE20%、pH調整添加剤65%とEBA35%を含むpH調整成分5%、着色成分5%で構成される。
【0054】
図8は、本発明の他の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルム300の分解斜視図である。図示の実施形態では、フィルム300は、第1層301と、第2層302と、第3層303と、を有する。本実施形態も、共押出フィルムである。積層時、上述したように第3層303をその結晶化温度Tcまで加熱して、交換結合の形成を促進する。EBAが存在するため、第3層303は、第1層301および第2層302のTcよりもTcが低い。
【0055】
本発明の一実施形態では、第1層301は、EAA約50%~約90%、HDPE約0%~約20%、滑り止め成分約1%~約20%、着色成分約5%~約20%で構成される。一実施形態では、第1層301は、EAA65%、HDPE20%、滑り止め成分5%、着色成分10%で構成される。
【0056】
本発明の一実施形態では、第2層302は、HDPE約10%~約60%、LDPE約5%~約20%、着色成分約5%~約20%、LLDPE約10%~約60%で構成される。一実施形態では、第2層302は、HDPE60%、LDPE10%、着色成分10%、LLDPE20%で構成される。
【0057】
本発明の一実施形態では、第3層303は、EBA約40%~約99%、pH調整添加剤約65%と残りがEBAのpH調整成分約1%~約60%で構成される。一実施形態では、第3層303は、EBA50%、pH調整添加剤65%とEBA35%とを含むpH調整成分50%で構成される。
【0058】
図9は、本発明の他の実施形態によるコンクリート養生カバーの構成要素であるフィルム400の分解斜視図である。図示の実施形態では、フィルム400は、第1層401と、第2層402と、第3層403と、を有する。
【0059】
本発明の一実施形態では、第1層401は、EBA約5%~約44%、LLDPE約50%~約85%、滑り止め成分約1%~約20%、着色成分約5%~約20%で構成される。一実施形態では、第1層401は、EBA20%、LLDPE65%、滑り止め成分5%、着色成分10%で構成される。
【0060】
本発明の一実施形態では、第2層402は、HDPE約10%~約60%、LDPE約5%~約20%、着色成分約5%~約20%およびLLDPE約10%~約60%で構成される。一実施形態では、第2層402は、HDPE60%、LDPE10%、着色成分10%、LLDPE20%で構成される。
【0061】
本発明の一実施形態では、第3層403は、EBA約40%~約99%、pH調整添加剤が約65%で残りがEBAのpH調整成分約1%~約60%で構成される。一実施形態では、第3層403は、EBA70%、pH調整添加剤が65%でEBAが35%のpH調整成分30%で構成される。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態では、フィルム層のEBA成分は、Lucofin 1400 MN、Lucofin 1400 PNまたはLucofin 1400 HNの形で供給され、pH調整成分のEBAは、EBA 990341の形で供給される。これらはいずれも、オハイオ州アクロンのChemigon, LLCから入手可能である。
【0063】
EBAは、LLDPE、HDPE、LDPEと比較すると、水蒸気透過率が比較的高い。EBAを利用する上記の実施形態では、水はEBA含有層に浸透し、酸化カルシウムなどのpH調整添加剤と反応することができる。しかしながら、EBAを含有しない層には、水はさほど浸透しない。したがって、本発明のコンクリート養生カバーは、pHを調整した水を吸収層20およびフィルムの内層の内部またはその近辺に保持し、それによって、pHを調整した水を養生コンクリート部材と接触状態に維持する。例えば、Lucofin 1400 HNの水蒸気透過率は、約27.6g*ミル/m2/日である。しかしながら、本発明の実施形態では、コンクリート養生カバー40全体での水蒸気透過率は、4.2~4.6g/m2/日である。これは、1つ以上の中間層の水蒸気透過率が低いためである。
【0064】
本発明の別の実施形態では、フィルム10の第1の外層11および第2の外層11Aは、LLDPE約0%~約90%、LDPE約0%~約90%、pH調整添加剤が約65%で残りがEBAであるpH調整成分約1%~約20%、着色成分約1%~約20%、滑り止め成分約1%~約10%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、LLDPE76%、LDPE10%、pH調整成分1%、着色成分10%、滑り止め成分3%で構成される。
【0065】
本実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE約20%~約90%、LLDPE約0%~約90%、着色成分約1%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE73%、LLDPE20%、着色成分7%で構成される。
【0066】
本実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エラストマーポリマー約20%~約100%、LLDPE約0%~約80%で構成される。本発明の一実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エラストマーポリマー40%、LLDPE60%で構成される。
【0067】
本発明の別の実施形態では、フィルム10の第1の外層11および第2の外層11Aは、LLDPE約0%~約90%、LDPE約0%~約90%、pH調整添加剤が約65%で残りがEBAであるpH調整成分約1%~約20%、着色成分約1%~約20%、滑り止め成分約1%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2の外層11Aは、LLDPE65%、LDPE10%、pH調整成分1%、着色成分9%、滑り止め成分15%で構成される。
【0068】
本実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE約20%~約90%、LLDPE約0%~約90%、着色成分約1%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の内側層12および第4の内側層12Aは、HDPE72%、LLDPE20%、着色成分8%で構成される。
【0069】
本実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エチレンポリプロピレンコポリマー約20%~約100%、LLDPE約0%~約80%で構成される。本発明の一実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エチレンポリプロピレンコポリマー40%、LLDPE60%で構成される。
【0070】
本発明の別の実施形態では、フィルム10の第1の外層11および第2の外層11Aは、LLDPE約50%~約80%、LDPE約0%~約20%、pH調整添加剤が約65%で残りがEBAであるpH調整成分約1%~約5%、着色成分約5%~約20%、滑り止め成分約1%~約5%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の外層11および第2外層11Aは、LLDPE76%、LDPE10%、pH調整成分1%、着色成分10%、滑り止め成分3%で構成される。
【0071】
本実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE約50%~約90%、LLDPE約0%~約20%、エチレンポリプロピレンコポリマー約0%~約10%、着色成分約5%~約20%で構成される。本発明の一実施形態では、第1の内層12および第4の内層12Aは、HDPE73%、LLDPE20%、着色成分7%で構成される。
【0072】
本実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エチレンポリプロピレンコポリマー約20%~約100%、LLDPE約0%~約80%で構成される。本発明の一実施形態では、第2の内層13および第3の内層13Aは、エチレンポリプロピレンコポリマー40%、LLDPE60%で構成される。
【0073】
本発明の別の実施形態では、第1層201は、HDPE約0%~約90%、LLDPE約0%~約90%、滑り止め成分約1%~約10%、着色成分約1%~約20%で構成される。一実施形態では、第1層201は、HDPE27%、LLDPE60%、滑り止め成分3%、着色成分10%で構成される。
【0074】
本発明の一実施形態では、第2層202は、HDPE約20%~約90%、LLDPE約0%~約90%、着色成分約1%~約20%で構成される。一実施形態では、第2層202は、HDPE70%、LLDPE20%、着色成分10%で構成される。
【0075】
本発明の一実施形態では、第3層203は、HDPE約0%~約90%、LLDPE約0%~約90%、pH調整添加剤約65%とEBA35%とを含むpH調整成分約1%~約20%、着色成分約0%~約20%で構成される。一実施形態では、第3層203は、HDPE33%、LLDPE66%、pH調整成分1%で構成される。
【0076】
本発明の別の実施形態では、第1層201は、HDPE約0%~約90%、LLDPE約0%~約90%、滑り止め成分約1%~約10%、着色成分約1%~約20%で構成される。一実施形態では、第1層201は、HDPE25%、LLDPE60%、滑り止め成分5%、着色成分10%で構成される。
【0077】
本発明の一実施形態では、第2層202は、HDPE約20%~約90%、LLDPE約0%~約90%、着色成分約1%~約20%で構成される。一実施形態では、第2層202は、HDPE70%、LLDPE20%、着色成分10%で構成される。
【0078】
本発明の一実施形態では、第3層203は、HDPE約0%~約90%、EBA約5%~約50%、pH調整添加剤約65%とEBA35%とを含むpH調整成分約5%~約50%、着色成分約0%~約20%で構成される。一実施形態では、第3層203は、EBA50%、pH調整成分50%で構成される。
【0079】
本発明の異なる実施形態に従って作製した2種類のコンクリート養生カバーの3つの供試体について、水蒸気透過率試験を実施した。一方のカバーでは、
図10-3の実施形態5に従って作製したフィルムを用いた。もう一方のカバーでは、EBAをEAAに代えて
図10-1の実施形態1に従って作製したフィルムを用いた。試験は、ASTM E96/E96M-16 Standard Test Methods for Water Vapor Transmission of Materials, ASTM International, 2016に記載された「水法」手順に従って、ASTM C171-16 Standard Specification for Sheet Materials for Curing Concrete, ASTM International, 2016に従って実施した。試験用供試体を、ASTM C156に規定された環境チャンバ内に保存した。試験期間については、約1週間とした。試験期間中、試験アセンブリの質量を、少なくとも1日に2回記録した。
【0080】
両実施形態の性能は比較的類似しており、水蒸気透過率の実測値は実施形態1のカバーについては4.6g/m
2/24時間、実施形態5のカバーについては4.2g/m
2/24時間であった。
図11および
図12に示すように、質量損失/時間の関係について双線形曲線が観察された。最初の24~36時間の間、双線形曲線の2番目の区間に達する前に、供試体の水蒸気透過率が高いのが認められた。曲線の最初の部分は、ASTM E96の試験法で想定される、急激な質量変化を伴う試験での遷移状態をとらえている。
【0081】
本発明の実施形態によるコンクリート養生カバーの性能を、他の養生製品および方法との比較で調査するために、12×12×3インチ(すなわち約30.48cm×30.48cm×7.62cm)の同一のコンクリートスラブ7つを製作し、異なる方法で養生した。覆いのないスラブ1つ、最初に湿らせておいた黄麻布にポリエチレンシートをのせたもの(「PE/B」)を用いて養生したスラブ2つ、
図10-3の実施形態5に従って作製したフィルムを含むカバーを用いて養生したスラブ2つ、EBAに代えてEAAを用いた、
図10-1の実施形態1に従って作製したフィルムを含むカバーを用いて養生したスラブ2つである。個々の養生時間は、養生したスラブの組(すなわち、PE/B、実施形態5のカバー、実施形態1のカバーを使用して養生したもの)でスラブごとに異なっていた。各組の一方のスラブを3日間養生、もう一方のスラブを7日間養生した。各スラブの上面のみ、利用した養生測定の対象とした。指定時間後に養生カバーを取り除き、試験の残りでは各スラブの上面のみ乾燥させた。スラブの側面と底面からの水分の損失を防ぐために、これらの表面を型枠に入れたままとした。
【0082】
供試体の製造には、コンクリート混合物として、代表的な高性能コンクリート(HPC)橋床版混合物を用いた。これらの混合物は一般に、セメント材の組み合わせ(すなわち、ポルトランドセメント、フライアッシュ、シリカヒュームなど)を含み、一般に水セメント比(w/cm)で表される全体の水量を制限するように設計されている。コンクリート混合物には、ASTM C150/C150M-17, Standard Specification for Portland Cement, ASTM International, West Conshohocken, PA, 2017ASTM C150 Type I cementに従って配合したセメント440lbs/yd3、ASTM C618 Class Cのフライアッシュ147lbs/yd3、粗骨材1662lbs/yd3、細骨材1512lbs/yd3、水200lbs/yd3を含有するコンクリート混合物を使用した。w/cmは0.34であった。4種類の化学混和剤(空気泡連行剤、水和安定剤、高性能減水剤および中性能減水剤)を用いて、試験スラブをうまく製造することができるフレッシュコンクリートの望ましいス特性と適切なワーカビリティを実現した。
【0083】
試験スラブの製造後、養生カバーを接触させ、封止し、華氏73±3度(すなわち約21.11℃~24.44℃)および相対湿度(RH)50±4%に維持した制御環境にスラブを運搬した。Rapid RHセンサーを使用して、試験スラブの相対湿度と温度をモニターした。各スラブについて、RHセンサーをスラブの中心(上面よりも1.5インチ(すなわち約3.11cm)内側)に配置し、養生カバーの除去時に、第2番のセンサーをスラブの表面に装着した。最初の30日間は、温度とRHの値を毎日記録し、その後さらに60日間にわたって毎週データを収集した。
【0084】
相対湿度試験の結果を
図13~
図16に示す。覆いのないスラブが最も速く乾燥し、乾燥室で90日間を経た後の内部相対湿度は77%であった。養生期間の影響については、実施形態5または実施形態1のカバーまたはポリエチレン/黄麻布(PE/B)カバーを用いて養生したスラブの乾燥には有意な影響が生じなかった。3日間養生したスラブの内部相対湿度を測定したところ、実施形態1のスラブは86%、実施形態5のスラブは83%、PE/Bのスラブは84%であった(
図13および
図14)。同様に、7日間養生したスラブでも内部相対湿度を測定したところ、実施形態1のスラブとPE/Bのスラブのどちらも82%であったが、実施形態5のスラブでは90日間の乾燥後に測定した内部相対湿度は92%であった(
図15および
図16)。
【0085】
図10-1の実施形態1に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバーで7日間養生したスラブ部分と、覆いのないスラブ部分で、岩石学的検査を実施した。それぞれの部分の岩石学的検査は、ASTM C856-17, Standard Practice for Petrographic Examination of Hardened Concrete, ASTM International, West Conshohocken, PA, 2017に従って実施した。最大倍率45倍の立体顕微鏡を使用して、スラブの打継面を検査した。セメントペーストの色、吸収性、硬度、光沢および中性化の深さを検査した。色については、周囲光の下で肉眼にて評価し、より強い照明の下では立体顕微鏡で評価した。ペーストの全体的な色相は、ペーストに用いるセメント材とペーストの中性化に最も大きく影響を受ける。ペーストの色の明るさまたは暗さは、水セメント比(w/cm)、気孔率、セメントの水和度、その他の要因によって影響を受ける可能性がある。一般に、適切に養生したペーストはセメント水和度が大きく、セメントの水和が阻害されたペーストよりも吸収性が低く、硬く、光沢がある。
【0086】
スラブの表面近くの部分では、実施形態1のカバーで覆ったスラブ(
図18に矢印で示す)よりも覆いのないスラブ(
図17に矢印で示す)のほうが、低品質のセメントペーストが深い領域まで観察された。一般に、この領域は中間のベージュ灰色を呈し、適度に吸収性であるか吸収性であり、適度に硬く、鈍い色であるかガラス質に近い光沢がある。覆いのないスラブの場合、この領域は表面の内側6~10mmに広がっているが、実施形態1のカバーで覆ったスラブでは同様の特性を持つ領域の厚さが1~5mmしかない。ただし、どちらの場合も、深さは供試体の場所によって異なる場合がある。同様に、中性化の深さは覆いのないスラブでは2~4mmであったのに対し、実施形態1のカバーで覆ったスラブでは1~2mm(局所的には最大3mm)しかなかった。
【0087】
図19~
図22は、カバーなしで養生したHPCスラブ、市販のカバー(OTC)、
図10-1の実施形態3に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバー、
図10-2の実施形態11に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバーを用いて養生したHPCスラブの相対湿度試験の結果を示す。試験は、上記の方法に従って実施した。覆いのないスラブは最も速く乾燥し、乾燥室で90日後に内部相対湿度が70%になった。他の3種類のカバーを用いて養生したスラブは、内部相対湿度が養生過程全体でほぼ同一であった。
図20~
図21は、相対湿度勾配を示す。これは、スラブの上部の湿度とスラブの中央の湿度の比である。RH勾配は小さいほうが望ましい。RH勾配が小さいということは、水分がスラブに保持されていることを示すからである。実施形態3のカバーを用いて養生したスラブの相対湿度勾配は、基本的には養生過程全体を通して他のカバーを用いて養生したスラブの相対湿度勾配よりも小さいままであった。
【0088】
図23は、カバーなしで養生したコンクリートスラブの断面を示す。
図24は、
図10-1の実施形態3に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバーを用いて養生したコンクリートスラブの断面を示す。図示のように、カバーなしで養生したコンクリートスラブの色は、本発明の一実施形態によるカバーを用いて養生したスラブよりも不均一である。具体的には、
図23に示すスラブには、スラブの上部近くに明るい色の素材の帯(赤い矢印で示す)が含まれる。
図24に示すスラブには、明るい色の帯は含まれていない。
【0089】
図25および
図26は、本発明の実施形態に関する水蒸気透過率試験の結果を示す。これらの試験結果は、ASTM F1249の試験方法を用いて得られた。
図25は、
図10-1の実施形態8に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバーでの結果を示している。
図25に示すように、この製品の水蒸気透過率は、約2時間後に、約2.2g/m
2/24時間~2.3g/m
2/24時間である。
図26は、
図10-1の実施形態8に従って作製したフィルムを有するコンクリート養生カバーの結果も示している。
図26に示すように、この製品の水蒸気透過率は、約1.5時間後に約2.5g/m
2/24時間である。
【0090】
本発明を詳細に図示し、説明したが、本発明は、限定としてではなく単なる例示として解釈されるべきである。本発明の範囲から逸脱することなく、記載された実施形態に対して多くの変更を行うことができる。例えば、開示されたコンクリート養生カバーのフィルムの構成要素は、3層または6層に限定されるものではない。最大で少なくとも9層のフィルムを使用することができます。さらに、上記の実施形態では、LLDPEを低密度ポリエチレン(LDPE)に置き換えることができる。他のpH調整成分を使用してもよい。例えば、pH調整添加剤約20%~約65%とEBAおよび/またはLDPE約35%~約80%であるpH調整成分を利用することができる。上記の様々なフィルムは、養生中のコンクリート表面に水を保持し、水のpHを変更するために、吸収層を取り付けずに使用することもできる。さらに、フィルムは、コンクリートが投入される地面と投入後のコンクリートとの間のバリア層として使用することができる。このような使用は、投入後のコンクリートに地面の水が移動するのを防ぐ一助となる上、さらにコンクリートの水が地面に移動するのを防ぐ一助にもなる。