(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】受動的に熱により駆動される可変不透明度材料
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20230424BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20230424BHJP
C08L 1/28 20060101ALI20230424BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20230424BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/105
C08L1/28
C08L33/26
C09K9/02 C
(21)【出願番号】P 2020533616
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(86)【国際出願番号】 US2018066115
(87)【国際公開番号】W WO2019126088
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-04
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500080214
【氏名又は名称】イー インク コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ウィドガー, ピーター カルステン ベイリー
(72)【発明者】
【氏名】アンセス, ジェイ ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】パオリニ, リチャード ジェイ. ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ブリーン, クレイグ アラン
(72)【発明者】
【氏名】ビオラ, ウェスリー
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-265006(JP,A)
【文献】特開平10-316453(JP,A)
【文献】特開2011-106857(JP,A)
【文献】米国特許第06524694(US,B1)
【文献】Preparation and characterization of thermo-responsive PDMS surfaces grafted with poly(N-isopropylacrylamide) by bemzophenone-initiated photopolymerization,Journal of Colloid and Interface Science,2009年,Vol.332 No.1,p.85-90
【文献】Controllable Monodisperse Multiple Emulsions,Angewandte Chemie,2007年,Vol.46 No.47,p.8970-8974
【文献】Synthesis and Morphology of poly(N-isopropylacrylamide) Nanocomposites with Emulsion Templated Nanoporous Structure,Journal of Macromolecular Science, Part A,2012年,Vol.49 No.10,p.906-909
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C09K 9/00 - 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリマー溶液と疎水性ポリマーとを含有するエマルジョンを含む可変不透明度材料であって、前記水性ポリマー溶液は、0~100℃の
下限臨界溶液温度(LCST
)を有し、前記LCSTを下回ると、前記水性ポリマー溶液と前記疎水性ポリマーとの屈折率間の差異は、0.05未満またはそれと等しく、
ここで、前記水性ポリマー溶液は、
ヒドロキシプロピルセルロースまたはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、および10~60重量%のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩を含み、そして前記エマルジョンの断続相であり、
そしてここで、前記疎水性ポリマーは、
ポリシロキサンを含み、そして前記エマルジョンの連続相である、可変不透明度材料。
【請求項2】
前記ポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサンを含む、請求項
1に記載の可変不透明度材料。
【請求項3】
前記
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩は、アルカリ金属ハロゲン化合物である、請求項
1に記載の可変不透明度材料。
【請求項4】
前記
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩は、臭化リチウムである、請求項
1に記載の可変不透明度材料。
【請求項5】
前記水性ポリマー溶液は、第2の塩を含む、請求項
1に記載の可変不透明度材料。
【請求項6】
前記水
性ポリマー溶液は、5重量%未満またはそれと等しい前記第2の塩を含む、請求項
5に記載の可変不透明度材料。
【請求項7】
前記第2の塩は、塩化ナトリウムである、請求項
5に記載の可変不透明度材料。
【請求項8】
前記
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩は、アルカリ土類金属の塩である、請求項
1に記載の可変不透明度材料。
【請求項9】
前記
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩は、臭化マグネシウムである、請求項
8に記載の可変不透明度材料。
【請求項10】
前記水性ポリマー溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースを含む、請求項1に記載の可変不透明度材料。
【請求項11】
前記水性ポリマー溶液は、25℃を上回るまたはそれと等しくかつ35℃未満またはそれと等しいLCSTを有する、請求項1に記載の可変不透明度材料。
【請求項12】
前記水性ポリマー溶液は、1.4を上回るまたはそれと等しい屈折率を有する、請求項1に記載の可変不透明度材料。
【請求項13】
前記水性ポリマー溶液は、1~40重量%の
ヒドロキシプロピルセルロースまたはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を含む、請求項1に記載の可変不透明度材料。
【請求項14】
前記疎水性ポリマーは、硬化性である、請求項1に記載の可変不透明度材料。
【請求項15】
前記疎水性ポリマーは、熱により硬化する、請求項
14に記載の可変不透明度材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、その内容が、参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる、2017年12月20日に出願された、仮出願第62/607,964号に基づく利益および優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、温度変化に応答して、透明から不透明に遷移し得る、水性組成物と、水性組成物を含む、積層可能フィルムとに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
用語「電気光学」は、材料またはディスプレイに適用されるとき、画像化技術分野におけるその従来的な意味で使用され、少なくとも1つの光学特性が異なる第1および第2の表示状態を有する材料であって、材料への電場の印加によって、その第1からその第2の表示状態に変化される、材料を指すために、本明細書で使用される。光学特性は、典型的には、ヒトの眼に知覚可能な色であるが、光学透過率、反射率、ルミネッセンス、または機械読取のために意図されるディスプレイの場合、可視範囲外の電磁波長の反射の変化の意味における擬似色等の別の光学特性であってもよい。
【0004】
光変調器は、潜在的に、電気光学媒体のための重要な市場を代表する。建物および車両のエネルギー性能が、ますます重要になるにつれて、電気光学媒体は、窓(天窓およびサンルーフを含む)上のコーティングとして使用され、電気光学媒体の光学状態を変動させることによって、窓を通して透過される入射放射の割合が電子的に制御されることを可能にすることができる。建物内のそのような「可変透過率」(「VT」)技術の効果的実装は、(1)高温天候の間の望ましくない加熱効果の低減、したがって、冷却のために必要とされるエネルギーの量、空調設備のサイズ、およびピーク電気需要の低減、(2)天然日光の使用の増加、したがって、照明のために使用されるエネルギーおよびピーク電気需要の低減、ならびに(3)熱および視覚的快適性の両方を増加させることによる、居住者快適性の増加を提供することが予期される。さらにより大きな利点は、光沢表面と封入された体積の比率が典型的建物内より有意に大きい、自動車内で生じることが予期されるであろう。具体的には、自動車内のVT技術の効果的実装は、前述の利点だけではなく、また、(1)自動車の運転上の安全性の増加、(2)グレアの低減、(3)ミラー性能の向上(電気光学コーティングをミラー上で使用することによる)、および(4)ヘッドアップディスプレイを使用する能力の増加を提供することが予期される。VT技術の他の潜在的用途は、電子デバイス内のプライバシガラスおよびグレア保護を含む。
【0005】
光変調器として使用され得る、1つのタイプの電気光学材料は、可変不透明度フィルムである。可変不透明度フィルムは、温度変化に応答して、透明から不透明状態に受動的に切り替えられ得る。現在利用可能な可変不透明度フィルムは、相分離ポリマー溶液(米国特許第5,615,040号に開示されるもの等、位相がより高い温度で分離する、水溶性ポリマー)、相分離サーモトロピックゲル(米国特許第5,587,404号に開示されるもの等、下限臨界溶液温度(「LCST」)を有する、ヒドロゲル)、およびサーモトロピックポリマー(米国特許出願公開第2015/0329715号に開示されるもの等、異なるポリマーマトリクス内に埋め込まれたポリマー粒子)を含んでもよい。
【0006】
上記に列挙されたカテゴリ内の水性系は、いくつかの不利点を被る。例えば、非架橋結合相分離ポリマーは、その不溶性形態において経時的に沈降し、フィルム内の不透明性の望ましくない変動につながり得る。架橋結合ゲルもまた、不透明状態における均一性の欠如を被る。ある相分離ポリマー溶液は、流体の低屈折率に起因して、コーティング目的のための結合剤等の外相の中に容易に光学的に結合および乳化されることができない。さらに、非架橋結合流体が、ガラス基板間にコーティングされると、付加的シーラントが、湿気内でシールするために必要とされ、製造コストの増加をもたらす。相分離サーモトロピックゲルは、典型的には、製造が高価であって、その高粘度に起因して、適用が困難である。また、ヒドロゲル内の低架橋結合密度は、ロバストな材料を提供しない。これらの材料のうちのいくつかに関する別の不利点は、温度増加に伴う体積の大きな変化であって、これは、シール破損を生じさせ得る。
【0007】
したがって、改良された可変不透明度フィルムの必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5,615,040号明細書
【文献】米国特許第5,587,404号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0329715号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面では、可変不透明度材料は、0~100℃のLCSTを有する、水性ポリマー溶液と、疎水性ポリマーの混合物を含み、LCSTを下回ると、水溶液と疎水性ポリマーとの屈折率間の差異は、0.05未満である。
【0010】
本発明のこれらおよび他の側面は、以下の説明に照らして明白となる。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
水性ポリマー溶液と疎水性ポリマーとを含有する混合物を含む、可変不透明度材料であって、前記水性ポリマー溶液は、0~100℃のLCSTを有し、前記LCSTを下回ると、前記水性ポリマー溶液と前記疎水性ポリマーとの屈折率間の差異は、0.05未満またはそれと等しい、可変不透明度材料。
(項目2)
前記疎水性ポリマーは、ポリシロキサンを含む、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目3)
前記ポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサンを含む、項目2に記載の可変不透明度材料。
(項目4)
前記水性ポリマー溶液は、少なくとも1つの塩を含む、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目5)
前記少なくとも1つの塩は、アルカリ金属ハロゲン化合物である、項目4に記載の可変不透明度材料。
(項目6)
前記少なくとも1つの塩は、臭化リチウムである、項目5に記載の可変不透明度材料。
(項目7)
前記水溶液は、10~60重量%の前記少なくとも1つの塩を含む、項目4に記載の可変不透明度材料。
(項目8)
前記水性ポリマー溶液は、第2の塩を含む、項目4に記載の可変不透明度材料。
(項目9)
前記水溶液は、5重量%未満またはそれと等しい前記第2の塩を含む、項目8に記載の可変不透明度材料。
(項目10)
前記第2の塩は、塩化ナトリウムである、項目8に記載の可変不透明度材料。
(項目11)
前記少なくとも1つの塩は、アルカリ土類金属の塩である、項目4に記載の可変不透明度材料。
(項目12)
前記少なくとも1つの塩は、臭化マグネシウムである、項目11に記載の可変不透明度材料。
(項目13)
前記水性ポリマー溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)から成る群から選択される、ポリマーを含む、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目14)
前記水性ポリマー溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースを含む、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目15)
前記水性ポリマー溶液は、25℃を上回るまたはそれと等しく、かつ35℃未満またはそれと等しい、LCSTを有する、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目16)
前記水性ポリマー溶液は、1.4を上回るまたはそれと等しい屈折率を有する、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目17)
前記水性ポリマー溶液は、エマルジョンの断続相であって、前記疎水性ポリマーは、前記エマルジョンの連続相である、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目18)
前記水性ポリマー溶液は、1~40重量%のポリマーを含む、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目19)
前記疎水性ポリマーは、硬化性である、項目1に記載の可変不透明度材料。
(項目20)
前記疎水性ポリマーは、熱により硬化する、項目19に記載の可変不透明度材料。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図面は、限定ではなく、一例にすぎない、本概念による、1つまたはそれを上回る実装を描写する。
【0012】
【
図1】
図1は、約45℃から室温に冷却されたヒドロキシプロピルセルロースおよび臭化リチウムの水溶液に関する反射率ならびにヘイズを経時的にプロットする、グラフである。
【0013】
【
図2A】
図2Aは、本発明の第1の実施形態による、2つのガラス基板間に適用される、室温におけるエマルジョンの写真である。
【0014】
【0015】
【
図3】
図3は、実施例1に説明される室温まで冷却された加熱されたフィルムに関する反射率およびヘイズ対時間をプロットする、グラフである。
【0016】
【
図4】
図4は、実施例6に説明される室温まで冷却された加熱されたフィルムに関するヘイズを経時的にプロットする、グラフである。
【0017】
【
図5】
図5は、実施例6に説明される室温まで冷却された加熱されたフィルムに関する反射率を経時的にプロットする、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
以下の発明を実施するための形態では、多数の具体的詳細が、関連教示の完全な理解を提供するために、一例として記載される。しかしながら、本教示は、そのような詳細を伴わずに実践されてもよいことが、当業者に明白となるはずである。
【0019】
概して、本発明の種々の実施形態は、ロバストな積層可能フィルムの形態において提供され得る、可変不透明度材料を提供する。本発明の種々の実施形態による、可撓性で、受動的に熱的に切替可能である、可変不透明度フィルムは、あるLCSTを伴う水性ポリマー溶液をシリコーン等の屈折率整合硬化性疎水性ポリマーの中に乳化させることによって作製される、エマルジョン等の混合物を含み得る。水性ポリマー溶液の屈折率を疎水性ポリマーに整合させるために、高屈折率塩が、水性ポリマー溶液に添加されてもよい。可変不透明度材料のための潜在的用途として、限定ではないが、窓に関するグレア低減、太陽光からの過熱を防止するための反射性フィルム、温度調整温室または屋根ふきタイル、およびシャワードア等の建築要素のための審美的装飾が挙げられる。可変不透明度フィルムは、既存のガラス基礎構造に適用されてもよい。可変不透明度フィルムの断続相内の比較的に高濃度の塩は、微生物成長を防止し、かつ組成物に低下した凝固点を提供し得る。硬化性疎水性ポリマーは、よりロバストな可変不透明度フィルムを提供し、フィルムからの水分の拡散を減速させ、かつ架橋結合される間、伸展および拡張することが可能であって、温度に伴う体積変化を可能にする、比較的に軟質フィルムを提供し得る。
【0020】
上記に記載されるように、本発明の種々の実施形態に従って作製される、エマルジョンの水性断続相は、1つまたはそれを上回るポリマーを含む。溶液は、0~100℃のLCSTを有してもよい。水溶液中に組み込まれ得る、例示的ポリマーとして、限定ではないが、好ましくは、約1000~100,000の平均分子量を有する、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびヒドロキシプロピルセルロース等のポリマー由来セルロースが挙げられる。好ましい実施形態では、水性ポリマー溶液中の1つまたはそれを上回るポリマーは、水溶液の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、40、35、30、25、20、15、および10重量%以下、かつ水溶液の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、9、8、7、6、5、4、3、2、および1重量%以上で存在してもよい。
【0021】
上記に記載されるように、水性ポリマー溶液の屈折率は、好ましくは、本発明の種々の実施形態に従って、混合物内の疎水性ポリマーの屈折率に整合される。好ましい実施形態では、水性ポリマー溶液と疎水性ポリマーとの屈折率間の差異は、与えられる順序における増加選好に応じて、0.05、0.03、0.01、0.008、0.006、0.004、0.002、および0.001以下であってもよい。
【0022】
本発明の種々の実施形態に従って、混合物の水性ポリマー溶液と疎水性ポリマーの屈折率を実質的に整合させるために、1つまたはそれを上回る高屈折率塩を含んでもよい。好ましい実施形態では、1つまたはそれを上回る塩のそれぞれの屈折率は、与えられる順序における増加選好に応じて、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、および1.4以上である。本発明の種々の実施形態において使用される、好ましい高屈折率塩として、限定ではないが、アルカリ金属ハロゲン化合物(例えば、臭化リチウムおよびヨウ化リチウム)およびアルカリ土類金属の塩、好ましくは、アルカリ土類金属のハロゲン化合物(例えば、臭化マグネシウム)が挙げられる。ヨウ化リチウムは、酸化が溶液を茶色または黄色に変化させ得るため、水溶液のためのあまり好ましくない塩である。ヨウ化リチウムを含有する水溶液中のアスコルビン等の還元剤の添加は、色変化を防止し得る。好ましい実施形態では、高屈折率を有する、塩は、水性断続相の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、70、60、50、45、および40重量%以下、かつ水性断続相の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、35、30、25、および20重量%以上で存在してもよい。
【0023】
高屈折率を有する、1つまたはそれを上回る塩に加え、本発明の種々の実施形態による、エマルジョンの水性相はさらに、可変不透明度材料のための所望の用途に応じて水溶液のLCSTを降下させるために降下的な量で添加される、1つまたはそれを上回る塩を含んでもよい。LCST低減塩は、高屈折率塩と同一である場合とそうではない場合がある。好ましい実施形態では、1つまたはそれを上回る塩を含む、水性ポリマー溶液のLCSTは、与えられる順序における増加選好に応じて、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、および20℃以下である。
【0024】
本発明の種々の実施形態の水性ポリマー溶液内に組み込まれ得る、適切な塩は、ポリマーを塩析することが知られている塩から選択されてもよい。当業者によって公知のように、ホーフマイスター系列は、ポリマーを塩析する可能性が最も高いものから低いものにランク付けされた塩のリストを提供する。単一塩が、水溶液の屈折率を満足の行くように増加させ、同時に、LCSTを降下させることが不可能である場合、塩の組み合わせが、ホーフマイスター系列の反対端上で選択され得る。例えば、本発明のいくつかの実施形態では、臭化リチウムおよび臭化マグネシウムは、LCSTを実質的に変化させずに、水性ポリマー溶液の屈折率を増加させる際に効果的であり得る。したがって、LCSTを降下させるように意図される、第2の塩が、添加されてもよい。例えば、第2の塩は、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、および塩化ナトリウムから成る群から選択されてもよい。好ましい実施形態では、第2の塩は、水溶液の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、50、40、30、20、および10重量%以下、かつ水性ポリマー溶液の重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、9、8、7、6、5、4、3、2、1、および0.5重量%以上で存在してもよい。
【0025】
本発明の種々の実施形態による、混合物内に含まれる、1つまたはそれを上回る疎水性ポリマーは、好ましくは、概して、混合物がLCSTを下回る温度において透明であるように、水性ポリマー溶液に実質的に類似する屈折率を有する。好ましい実施形態では、疎水性ポリマーおよび水溶液はそれぞれ、独立して、1.3~1.5の屈折率を有する。1つまたはそれを上回る疎水性ポリマーはまた、好ましくは、混合物からの水性ポリマー溶液の蒸発を防止するために耐水性である。1つまたはそれを上回る疎水性ポリマーは、好ましくは、光硬化性または熱により硬化するポリシロキサン等、硬化性である。架橋結合に応じて、連続相は、混合物が、その不透明状態において沈降しない、薄いまたは厚いフィルムとしてコーティングされ得る、堅牢材料内に組み込まれ得るように、構造支持を提供し得る。混合物が、エマルジョンの形態において提供されると、疎水性ポリマーを含む、外部連続相は、水性ポリマー溶液を含む切替可能な内部断続相からの水損失を減速させる利点を与え、架橋結合は、その不透明状態において沈降しない、薄いまたは厚いフィルムとしてコーティングされ得る、堅牢材料を可能にするために、構造支持を与える。好ましい実施形態では、1つまたはそれを上回る疎水性ポリマーは、エマルジョンの重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、75、70、65、60、および55重量%以下、かつエマルジョンの重量に基づいて、与えられる順序における増加選好に応じて、50、45、40、35、30、および25重量%以上で存在してもよい。
【0026】
本発明の種々の実施形態による、受動的に熱的に切替可能な可変不透明度フィルムは、様々な可撓性および剛性基板上に印刷されてもよい。基板はまた、基板が温度に伴って反射率の変化を呈するように、暗色バッキング材料の形態において提供されてもよい。(単語「印刷」の使用は、限定ではないが、パッチダイコーティング、スロットまたは押出成形コーティング、スライドまたはカスケードコーティング等の前計量コーティング、カーテンコーティング、ナイフオーバーロールコーティング、順方向および逆方向ロールコーティング等のロールコーティング、グラビア印刷コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、メニスカスコーティング、スピンコーティング、ブラシコーティング、エアナイフコーティング、シルクスクリーン印刷プロセス、静電印刷プロセス、熱印刷プロセス、インクジェット印刷プロセス、電気泳動堆積(米国特許第7,339,715号参照)、および他の類似技法を含む、あらゆる形態の印刷およびコーティングを含むように意図される)。フィルムは、(種々の方法を使用して)印刷されることができるため、結果として生じる印刷基板は、安価に作製され得る。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は、本発明の例証的実施形態として与えられ、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0028】
実施例1
【0029】
水溶液が、結果として生じる溶液が、8.2%HPCと、36.6%LiBrとを含有するように、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)および臭化リチウムを組み合わせることによって、調製された。結果として生じる透明溶液は、Abbe屈折率計によって約25℃において測定される際、約1.4の屈折率を有していた。溶液は、5ミルのシムを伴って、2つのガラスプレート間に設置され、溶液が不透明になるまで、ヒートガンを用いて約45℃までゆっくりと加熱された。溶液を約45℃の温度から室温まで冷却することに応じて、溶液は、その元の透明状態に戻った。冷却の間、サンプルは、反射された光のパーセント、すなわち、反射率を計算するための統合された検出器をサンプルの反対側に伴って、較正された光源の正面に設置された。加えて、較正されるチョッピングホイールが、拡散対透過光を測定し、ヘイズを評価するために使用された。反射率(L
*)およびヘイズ(%)は、
図1に図示されるように、時間に伴って、測定され、プロットされた。本明細書で使用されるように、明細書および請求項全体を通して、「ヘイズ」は、総透過光と比較した拡散する透過光(透過されるにつれて、散乱した光)のパーセンテージを指す。
【0030】
実施例2
【0031】
水溶液の4つのサンプル(サンプルA-D)が、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、臭化リチウム、および塩化ナトリウムを組み合わせることによって、調製された。最小および最大温度において、不透明度の変化が観察された。4つのサンプルに関する近似LCSTを表す、温度範囲と、HPCおよび塩のその個別の濃度とが、表1に提供される。塩化ナトリウムの添加は、依然として透明溶液を提供しながら、LCSTを低減させた。
【0032】
【0033】
実施例3
【0034】
乳化されたサンプルが、最初に、14重量%ヒドロキシプロピルセルロース、26.4重量%臭化リチウム、および3重量%塩化ナトリウムを含有する、水溶液を提供することによって、調製された。2mLの水溶液が、9:1のベース対硬化剤比において、0.25重量%TEGOFlow354を伴うSylgard(登録商標)184から成る、3mLのシリコーンの中に乳化された。エマルジョンの5ミル厚フィルムが、2つのガラススライド間に適用された。
図2Aにおいて実証されるように、室温におけるエマルジョンは、室温において透明であった。同一サンプルは、
図2Bにおいて実証されるように、45℃を上回って加熱されると、不透明になった。
【0035】
実施例4
【0036】
水溶液の4つのサンプル(サンプルE-H)が、ヒドロキシプロピルセルロース、臭化リチウム、および塩化ナトリウムを含有するように調製された。各サンプルは、そのLCSTを上回って加熱された。各サンプルの反射率が、実施例1に説明される手順に従って測定された。サンプルの濃度および反射率は、表2に提供される。HPCの濃度を増加させることによって、反射率は、増加された。しかしながら、粘度もまた、HPC濃度の増加に伴って増加した。溶液を加熱することは、粘度を降下させた。したがって、エネルギー節約のための反射太陽光等の高反射率を要求する用途のために調製されるエマルジョンは、エマルジョンが、水溶液をポリシロキサンの中に乳化するとき、より容易に調製され得るように、加熱された水溶液を使用すべきであることが示唆される。
【0037】
【0038】
実施例5
【0039】
水性内相が、以下の材料、すなわち、20重量%水性ヒドロキシプロピルセルロース(2.961g、Aldrich435007平均Mn約10,000、Mw約80,000)、臭化リチウム(5.299g)、5重量%水性塩化ナトリウム(5.005g)、および脱イオン水(0.637g)を組み合わせることによって、調製された。材料は、混合され、透明無色溶液をもたらした。HPC、LiBr、およびNaClの最終濃度は、それぞれ、4.26%、38.12%、および1.8%であった。シリコーン外相が、13.5gSylgard(登録商標)184ベースと0.0375gTEGO-flow354および1.5gSylgard(登録商標)184架橋結合流体を完全に混合することによって、調製された。シリコーンおよびポリマー溶液が、均質混合物が取得されるまで、材料を2つの継合されるシリンジ間で繰り返し(約60サイクル)通過させることによって、乳化された。油中水エマルジョンが形成されたことを確認するために、少量のサンプルが、水中でゆっくりと攪拌され、溶解に抵抗することが観察された。結果として生じるエマルジョンは、5ミルのシムによって分離されるガラスの2つのシート間で室温で48時間にわたって硬化させられた。
【0040】
フィルムは、ヒートガンを使用して、溶液の遷移温度を上回って加熱され、光学性質、反射率、およびヘイズが、実施例1に説明される手順に従って測定された。測定された性質は、
図3に図示される。非加熱フィルムは、約3.5%のヘイズを呈した。ポリマー溶液の遷移温度は、約35℃と測定された。約60秒を上回ると、フィルムが冷却されるにつれて、ヘイズ値は、約80%から8%まで降下した一方、反射率値は、21%から11%まで減少した。完全明確性は、約160秒時点で到達した。
【0041】
実施例6
【0042】
水溶液が、5.02gHPC(平均Mw約80,000、平均Mn約10,000、Aldrich435007)、9.34gMgBr2六水和物(Aldrich216844)、および10.74gDI水をバイアル内で組み合わせ、一晩、転動させることによって、調製された。サンプル反射率およびヘイズが、溶液のフィルムを5ミルのシムを伴うガラススライド間に適用し、ヒートガンを用いて、溶液を60℃を上回って加熱し、サンプルを室温まで冷却させることによって、実施例1に説明される手順に従って測定された(
図4および
図5参照)。溶液屈折率は、約25℃において1.4216であって、約48℃時点で不透明になった。
【0043】
実施例7
【0044】
水溶液の7つのサンプル(サンプルM-S)が、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、臭化マグネシウム、および(随意に)塩化ナトリウムを組み合わせることによって、調製された。Abbe屈折率計によって測定された25℃における屈折率、LCST、ならびにHPCおよび塩のその個別の濃度は、表3に提供される。塩化ナトリウムの添加は、依然として透明溶液を提供しながら、LCSTを低減させた。
【0045】
【0046】
実施例6および7の結果から、MgBr2およびHPCの水溶液は、シリコーン(RI約1.41~1.43)に屈折率整合され、LiBrおよびHPCの水溶液と比較して、高切替温度を実証し得ることが観察された。臭化リチウムは、向精神性および毒性であるため、臭化リチウムを利用する可変不透明度材料は、飲料が、高温すぎて、安全に飲むことができないときを示すための瓶またはガラス製品用のインジケータ等のある用途から除外され得る。したがって、HPC/MgBr2溶液を含有するエマルジョンは、毒性がより少なく、40℃を上回るLCSTを呈するため、これらのエマルジョンは、食品接触コンテナおよびパッケージングに好ましくあり得る。
【0047】
本発明は、その具体的実施形態を参照して説明されたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われてもよく、均等物が代用されてもよいことが、当業者によって理解されるであろう。加えて、多くの修正が、特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスステップ、または複数のステップを本発明の目的および範囲に適合させるために行われてもよい。全てのそのような修正は、本明細書に添付の請求項の範囲内にあるものと意図される。