(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ポリエーテルイオノフォアを使用するタンパク質マンノシル化プロファイルの調節方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230424BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020534566
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2018085909
(87)【国際公開番号】W WO2019121961
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-15
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504104899
【氏名又は名称】アレス トレーディング ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ダビド ブリュールマン
(72)【発明者】
【氏名】トマス ビルマン
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ヨルダン
(72)【発明者】
【氏名】エルベ ブローリ
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534732(JP,A)
【文献】特表平08-503130(JP,A)
【文献】Sandhya Pande et al.,Monensin, a small molecule ionophore, can be used to increase high mannose levels on monoclonal antibodies generated by Chinese hamster ovary production cell-lines.,Biotechnol. Bioeng.,2015年05月19日,Vol.112, No.7,p.1383-1394,doi: 10.1002/bit.25551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質の製造方法であって、
マンノシル化レベルの調節は、前記タンパク質におけるマンノシル化レベルの増大であり、
前記方法は、ポリエーテルイオノフォアを含む細胞培養培地中で前記タンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含
み、
前記ポリエーテルイオノフォアは、マズラマイシン、ナラシン、及びサリノマイシンから成る群から選択される、方法。
【請求項2】
前記宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、調節されたマンノシル化プロファイルを用いて前記組換えタンパク質を精製することを更に含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えタンパク質は、ヒト抗体若しくはその抗原結合性部分、ヒト化抗体若しくはその抗原結合性部分、キメラ抗体若しくはその抗原結合性部分、融合タンパク質、成長因子、ホルモン、又はサイトカインなど、抗体若しくはその抗原結合性フラグメントから成る群から選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法
。
【請求項5】
播種後の前記細胞培養培地中のポリエーテルイオノフォア濃度は0.5nM~250nMである、又は約0.5nM~250nMである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルイオノフォアを使用する、細胞培養過程中に哺乳類宿主細胞によって発現される組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
治療用タンパク質又は抗体などのタンパク質のグリコシル化プロファイルは、例えば、フォールディング、安定性及び抗体依存性細胞傷害作用(ADCC、抗体の治療効果の原因となる機序の1つ)(Eon-Duval et al., 2012)に対する効果に基づく半減期及び親和性の変化によるタンパク質の生物活性に影響を与える重要な特徴である。グリコシル化は、対象となるタンパク質の産生のために使用されるセルライン、並びに細胞培養方法(pH、温度、細胞培養培地組成物、原料のロット間変動、培地ろ過材料、空気、その他)に大きく依存する。
【0003】
ADCC活性は、Fc領域のオリゴ糖と結合されたフコース及び/又はマンノースの量により影響を受け、フコースの減少及び/又はマンノースの増加と共に活性の増強が見られる。事実、例えば、フコシル化IgGと比較して、非フコシル化形態は劇的に増強されたADCCを示し、これは、補体依存性細胞障害作用(CDC)又は抗原結合能の検出可能な変化を伴わないFcγRIIIa結合能の増強によるためである(Yamane-Ohnuki and Satoh, 2009)。同様に、高レベルのマンノース-5グリカンを示す抗体は、より高いADCCも示した(Yu et al., 2012)。したがって、ADCC応答が抗体活性の基本的治療機序である場合、フコシル化減少及び/又はマンノシル化増加を特徴とするグリコシル化プロファイルを有する組換え治療用タンパク質の製造方法の提供は有益である。高度にマンノシル化された抗体の利点としては、低投与量で治療効果を達成することが挙げられる。
【0004】
グリコシル化(マンノシル化など)は治療有用性及び安全性に影響し得るので、マンノシル化などのタンパク質グリコシル化の調節は、市販の治療用タンパク質又は抗体にとって特に適切である。更に、バイオシミラー化合物の枠内で、組換えタンパク質のグリコシル化プロファイルは参照製品のグリコシル化プロファイルに相当しなければならないので、前記組換えタンパク質のグリコシル化プロファイルの制御は重要である。いくつかの化合物は、組換えで製造されたタンパク質のマンノシル化に対して影響を有すると報告されている:例えば、国際公開第2014/151878号パンフレット及び国際公開第2014/159259号パンフレットはマンノシル化レベルを増加するショ糖などのオリゴ糖の使用を開示し、国際公開第2015/105609号パンフレットはアルギナーゼ阻害剤の使用に関し、国際公開第2015/066357号パンフレットはモネンシンの使用を示唆している。
【0005】
しかしながら、組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルなどのグリコシル化プロファイルの制御を可能とするが、培養液中の細胞の性能にも組換えタンパク質収率にも影響しない培養条件及び製造方法に対するニーズが依然としてある。本発明は、許容可能な製造収率/条件を保持しながら、組換えタンパク質マンノシル化などの組換えタンパク質グリコシル化を調節するための方法及び組成物を提供することによってこのニーズに取り組む。
【発明の概要】
【0006】
1つの態様では、本発明は、調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質の製造方法であって、方法は、ポリエーテルイオノフォアを含む細胞培養培地中でタンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む、方法を提供する。
【0007】
あるいは、本明細書において、調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質の製造方法であって、方法は、ポリエーテルイオノフォアを含む少なくとも1つのフィードを補った細胞培養培地中でタンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む、方法を開示する。
【0008】
更なる態様では、本発明は、ポリエーテルイオノフォアを含む又はポリエーテルイオノフォアを補った細胞培養培地を含む組成物を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって製造される調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質及び薬剤的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0010】
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって製造される調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質を含む組成物を提供する。
【0011】
更なる態様では、本発明は、組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節するための細胞培養培地又はフィード培地におけるポリエーテルイオノフォアの使用を提供する。
【0012】
ポリエーテルイオノフォアは、好ましくは、マズラマイシン、ナラシン又はサリノマイシンから成る群から選択される。
【0013】
特記:全図面において、濃度が続くS0=培養開始時のサリノマイシン濃度、濃度が続くN0=培養開始時のナラシン濃度、濃度が続くM0=培養開始時のマズラマイシン濃度、濃度が続くM5=フィードとして5日目に添加されたマズラマイシン濃度、濃度が続くM7=フィードとして7日目に添加されたマズラマイシン濃度。μM=マイクロモル。mioVC/mL=mL当たりの百万個の生細胞。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ミニバイオリアクターAmbr中異なるポリエーテルイオノフォア濃度で培養されたmAb1細胞について時間に対する生細胞(ViCell(登録商標))密度を示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0015】
【
図2】
図2は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるサリノマイシン濃度で培養されたmAb1細胞について時間に対する生細胞(
図2A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図2B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図2C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0016】
【
図3】
図3は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるナラシン濃度で培養されたmAb1細胞について時間に対する生細胞(
図3A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図3B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図3C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0017】
【
図4】
図4は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるマズラマイシン濃度で培養されたmAb1細胞について時間に対する生細胞(
図4A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図4B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図4C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0018】
【
図5】
図5は、7日目に添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるマズラマイシン濃度で培養されたmAb1細胞について時間に対する生細胞(
図5A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図5B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図5C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0019】
【
図6A】
図6Aは、ミニバイオリアクターAmbr中異なるポリエーテルイオノフォア濃度で培養されたmAb1について12日目のマンノシル化プロファイルを示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。
【
図6B】
図6Bは、ミニバイオリアクターAmbr中異なるポリエーテルイオノフォア濃度で培養されたmAb1について14日目(
図6B)のマンノシル化プロファイルを示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。
【0020】
【
図7】
図7は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるサリノマイシン濃度で培養されたmAb2細胞について時間に対する生細胞(
図7A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図7B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図7C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0021】
【
図8】
図8は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるナラシン濃度で培養されたmAb2細胞について時間に対する生細胞(
図8A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図8B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図8C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0022】
【
図9】
図9は、培養開始時添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるマズラマイシン濃度で培養されたmAb2細胞について時間に対する生細胞(
図9A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図9B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図9C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0023】
【
図10】
図10は、5日目に添加された、ミニバイオリアクターAmbr中異なるマズラマイシン濃度で培養されたmAb2細胞について時間に対する生細胞(
図10A;ViCell(登録商標))密度及び生存率(
図10B;ViCell(登録商標))並びに14日目までの力価(
図10C;PA-HPLC)を示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。図中、mioVCs/mLはmL当たりの百万個の生細胞を示す。
【0024】
【
図11A】
図11Aは、ミニバイオリアクターAmbr中異なるポリエーテルイオノフォア濃度で培養されたmAb2について10日目のマンノシル化プロファイルを示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。
【
図11B】
図11Bは、ミニバイオリアクターAmbr中異なるポリエーテルイオノフォア濃度で培養されたmAb2について12日目のマンノシル化プロファイルを示す。結果を、平均値±標準偏差として示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中で言及される全ての出版物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全文の参照により援用される。本明細書中に述べられる出版物及び出願は、本出願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供さ れる。本明細書において、本発明は、先行発明が理由でそのような出版物に先行する権利を与えられないと認めることと解釈するべきでない。加えて、材料、方法、及び実施例は、ほんの一例にすぎず、限定するものではない。
【0026】
別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用されるとき、本発明の理解を容易にするために次の定義を提供する。
【0027】
本明細書において「A及び/又はB」などのフレーズで使用される用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、並びに「B」を含むものとする。
【0028】
用語「細胞培養」又は「培養」は、インビトロ、すなわち、生物又は組織の外側での細胞の成長及び増殖を意味する。哺乳類細胞のために適した培養条件は、Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies (2005)に教示されているように当技術分野で公知である。哺乳類細胞を、懸濁液中又は固体基質に結合させながら培養してよい。
【0029】
用語「細胞培養培地」、「培養培地」、「培地」、及びそのいずれかの複数形は、いずれもの型の細胞を培養することができる培地を表す。「基本培地」は、細胞代謝に有用な必須成分全てを含有する細胞培養培地を表す。これは、例えば、アミノ酸、脂質、炭素源、ビタミン類及び無機塩類を含む。DMEM(ダルベッコー修飾イーグル培地)、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所培地)又は培地F12(ハムF12培地)は、市販基本培地の例である。あるいは、前記基本培地は、本明細書で「既知組成培地」又は「既知組成培養培地」とも呼ぶ完全に研究室内開発された商標つき培地であってよく、成分の全てを化学式で記載することができ、既知濃度で存在する。培養培地は、タンパク質を含まず及び/又は血清を含まず、培養液中の細胞の要求性に依存して、アミノ酸、塩類、糖類、ビタミン、ホルモン、成長因子など、いずれかの追加の成分を補うことができる。
用語「フィード培地」又は「フィード」(及びその複数形)は、消費される栄養素を補充するための培養中の補給として使用される培地を表す。フィード培地は、市販のフィード培地であってもよく、商標つきフィード培地(あるいは本明細書において既知組成フィード培地)であってもよい。
【0030】
用語「バイオリアクター」又は「培養システム」は、細胞を、好ましくはバッチ式又は流加式で培養することができるいずれものシステムを表す。この用語は、これに限定されないが、フラスコ、静置フラスコ、スピナーフラスコ、チューブ、振盪チューブ、振盪ボトル、ウェイブバッグ、ミニバイオリアクター、バイオリアクター、ファイバーバイオリアクター、流動床バイオリアクター、及びマイクロキャリアありなしの撹拌槽バイオリアクターを含む。あるいは、用語「培養システム」は、マイクロタイタープレート、キャピラリー又はマルチウェルプレートも含む。例えば、0.1mL、0.5mL、1mL、5mL、0.01L、0.1L、1L、2L、5L、10L、50L、100L、500L、1000L(若しくは1KL)、2000L(若しくは2KL)、5000L(若しくは5KL)、10000L(若しくは10KL)、15000L(若しくは15KL)又は20000L(20KL)など、0.1ミリリットル(0.1mL、非常に小規模)~20000リットル(20000L若しくは20KL、非常に大規模)のいずれもの大きさのバイオリアクターを使用することができる。
【0031】
用語「流加培養」は、消費される栄養素を補充するボーラス又は連続式フィード培地補給がある、細胞増殖方法を表す。この細胞培養技術は、培地配合物、セルライン、及び他の細胞培養条件に依存して、10×106~40×l06細胞/ml超の程度の高細胞密度を得る可能性を有する。二相性培養条件を作製し、様々なフィードストラテジー及び培地配合によって維持することができる。
【0032】
あるいは、灌流培養を使用することができる。灌流培養は、同時に消費された培地を取り除きながら細胞培養が新鮮な灌流フィード培地を受ける培養である。灌流は、連続式、段階式、間欠式、又はこれらのいずれか若しくは全ての組合せであり得る。灌流速度は、1日当たり作業容量未満から多くの作業容量までであり得る。好ましくは、細胞は培養液中に保持され、取り除かれる消費培地は細胞を実質的に含まないか、又は培養液より著しく少ない細胞を有する。遠心分離、遠心沈降、又はろ過を含むいくつかの細胞保持技術によって灌流を行うことができる(例えば、Voisard et al., 2003参照)。
本発明の方法及び/又は細胞培養技術を使用する場合、調節されたマンノシル化プロファイルを有するタンパク質は、概して、培養培地中に直接分泌される。前記タンパク質が培地中に分泌された時点で、このような発現システムからの上澄みを、先ず、市販のタンパク質濃縮フィルターを使用して濃縮することができる。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「細胞密度」は、所与の体積の培養培地中の細胞数を表す。「生細胞密度」は、標準的生死判別アッセイによって決定される所与の体積の培養培地中の細胞数を表す。細胞密度は、コントロール培養条件と比較して、約-10%~+10%の範囲内である場合に維持されていると見做されるだろう。コントロール培養条件と比較して、+10%より多い場合に増加していると見做され、コントロール培養条件と比較して、-10%より少ない場合に減少していると見做されるだろう。
【0034】
用語「生存率」、又は「細胞生存率」は、生細胞の総数と培養液中の細胞の総数との比を表す。通常、培養開始と比較して60%以上である限り、生存率は許容される(しかしながら、許容できる閾値はケースバイケースで決定することができる)。生存率を使用して収穫タイミングを決定することが多い。例えば、流加培養では、生存率が少なくとも60%に達した時点又は培養14日後に収穫を行うことができる。生存率は、コントロール培養条件と比較して、約-10%~+10%の範囲内である場合に維持されていると見做されるだろう。コントロール培養条件と比較して、+10%より多い場合に増加していると見做され、コントロール培養条件と比較して、-10%より少ない場合に減少していると見做されるだろう。
【0035】
用語「力価」は、物質、本明細書では、溶液中の対象となるタンパク質の量又は濃度を表す。力価は、溶液を希釈して、対象となる分子の検出可能量をなお含むことができる倍数の指標である。例えば、対象となるタンパク質を含むサンプルを段階的(1:2、1:4、1:8、1:16、その他)に希釈してから、適切な検出方法(比色分析、クロマトグラフィー、その他)を使用して、各希釈物を検出可能レベルの対象となるタンパク質の存在を検定することによって、ルーチン的に力価を算出する。PA-HPLC(実施例で使用されているように)、ForteBio Octet(登録商標)又はBiacore C(登録商標)によるなどの手段によって、力価を測定することもできる。力価は、コントロール培養条件と比較して、約-10%~+10%の範囲内である場合に維持されていると見做されるだろう。コントロール培養条件と比較して、+10%より多い場合に増加していると見做され、コントロール培養条件と比較して、-10%より少ない場合に減少していると見做されるだろう。
【0036】
用語「調節されたマンノシル化プロファイル」又は「調節されたマンノシル化レベル」は、マズラマイシン、ナラシン又はサリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォアを補わない細胞培養培地中の組換えタンパク質を発現する組換え細胞の培養によって産生された同じタンパク質のマンノシル化プロファイル/レベルと比較して、調節された組換えタンパク質(例えば、治療用タンパク質若しくは抗体)のマンノシル化プロファイル/レベルを意味する。調節されたマンノシル化プロファイル/レベルは、例えば、前記タンパク質における高マンノース化学種の増加である。実施形態では、調節されたマンノシル化プロファイル/レベルは、前記タンパク質における高マンノース化学種の増加など、タンパク質のマンノシル化レベルの全体的増加を含んでよい。マンノシル化レベル(総レベル又は各化学種)は、コントロール培養条件と比較して、約-10%~+10%の範囲内である場合に維持されていると見做されるだろう。コントロール培養条件と比較して、+10%より多い場合に増加していると見做され、コントロール培養条件と比較して、-10%より少ない場合に減少していると見做されるだろう。
【0037】
本明細書で使用されるとき、用語「タンパク質」はペプチド及びポリペプチドを含み得、2つ以上のアミノ酸残基を含む化合物を表す。本発明によるタンパク質としては、サイトカイン、成長因子、ホルモン、融合タンパク質(Fc-融合タンパク質など)、抗体又はそのフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。治療用タンパク質は、治療において使用することができる又は使用されるタンパク質を表す。
【0038】
用語「組換えタンパク質」は、組換え技術によって製造されたタンパク質を意味する。組換え技術は、当業者の知識の充分範囲内である(例えば、Sambrook et al., 1989, 及び最新情報参照)。
【0039】
用語「抗体(antibody)」及びその複数形「抗体(antibodies)」としては、とりわけ、ポリクローナル抗体、アフィニティー精製ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、F(ab’)2などの抗原結合性フラグメント、Fabタンパク質分解フラグメント、及び一本鎖可変領域フラグメント(scFvs)が挙げられる。概して、SEEDボディ、キメラ抗体、scFv及びFabフラグメント、並びに合成抗原結合性ペプチド及びポリペプチドなど、人工的に造られたインタクト抗体又はフラグメントも挙げられる。
【0040】
用語「ヒト化」免疫グロブリンは、ヒトフレームワーク領域及び非ヒト(通常、マウス又はラット)免疫グロブリン由来の1つ以上のCDRを含む免疫グロブリンを表す。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」(ヒトフレームワーク及び定常部上への非ヒトCDRのグラフト化、又はヒト定常部上への全非ヒト可変ドメインの組込みによるヒト化)と呼ばれる。定常部は存在する必要はないが、存在する場合、定常部はヒト免疫グロブリン定常部と実質的に同じ、すなわち、少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同じでなければならない。したがって、エフェクター機能の調節が必要である場合に重鎖定常部において、例外かもしれないCDR及び少数の残基を除きヒト化免疫グロブリンの全部分は、天然ヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同じである。抗体のヒト化を通して、生物学的半減期は増長してよく、ヒトへの投与時の免疫有害反応の可能性は低減する。
【0041】
用語「完全ヒト」免疫グロブリンは、ヒトフレームワーク領域及びヒトCDRの両方を含む免疫グロブリンを表す。定常部は存在する必要はないが、存在する場合、定常部はヒト免疫グロブリン定常部と実質的に同じ、すなわち、少なくとも約85~90%、好ましくは約95%以上同じでなければならない。したがって、エフェクター機能又は薬物速度論的特性の調節が必要である場合に重鎖定常部において、例外かもしれない少数の残基を除き完全ヒト免疫グロブリンの全部分は、天然ヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同じである。場合によっては、結合親和性の改良及び/又は免疫原性の低減及び/又は抗体の生化学的/生物物理学的特性の改良のために、アミノ酸変異をCDR、フレームワーク領域又は定常部内に導入してよい。
【0042】
用語「組換え抗体」は、組換え技術によって製造された抗体を意味する。抗体の生成において組換えDNA技術が関係するため、天然抗体で見られるアミノ酸配列に限定される必要はなく;抗体を再設計して所望の特性を得ることができる。可能性ある変更は多く、たった1つ又は少数のアミノ酸の変更から、例えば、可変ドメイン又は定常部の完全な再設計までの範囲がある。定常部における変更は、通常、補体結合(例えば、補体依存性細胞障害作用、CDC)、Fc受容体と他のエフェクター機能との相互作用(例えば、抗体依存性細胞傷害作用、ADCC)、薬物速度論的特性(例えば、新生児Fc受容体;FcRn)などの特性を改良、低減又は変更するために行われるだろう。可変ドメインにおける変更は、抗原結合特性の改良のために行われるだろう。抗体に加えて、免疫グロブリンは、例えば、一本鎖又はFv、Fab、及びF(ab’)2、並びに二重特異性抗体、線形抗体、多価若しくは多重特異性ハイブリッド抗体を含む様々な他の形態で存在してよい。
【0043】
用語「抗体部分」は、インタクト若しくは完全長鎖又は抗体のフラグメント、通常、結合若しくは可変領域を表す。前記部分、又はフラグメントは、インタクト鎖/抗体の少なくとも1つの活性を維持すべきであり、すなわち、「機能性部分」又は「機能性フラグメント」である。前記部分、又はフラグメントは、少なくとも1つの活性を維持する場合、好ましくは、標的結合特性を維持する。抗体部分(又は抗体フラグメント)の例としては、「一本鎖Fv」、「一本鎖抗体」、「Fv」又は「scFv」が挙げられるが、これらに限定されない。これらの用語は、重鎖及び軽鎖両方からの可変ドメインを含むが、定常部、一本鎖ポリペプチド鎖内の全てを欠く抗体フラグメントを表す。概して、一本鎖抗体は、抗原結合を可能とする所望の構造を形成することを可能とするVHドメイン及びVLドメイン間のポリペプチドリンカーを更に含む。特定の実施形態では、一本鎖抗体は、二重特異性及び/又はヒト化であってもよい。
【0044】
「Fabフラグメント」は、1つの軽鎖並びに1つの重鎖の可変及びCH1ドメインから成る。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。1つの軽鎖及び1つの重鎖を含み、鎖間ジスルフィド結合を2つの重鎖間で形成することができるようにCH1及びCH2ドメイン間にいっそう多くの定常部を含む「Fab’フラグメント」は、F(ab’)2分子と呼ばれる。「F(ab’)2」は、2つの軽鎖及び鎖間ジスルフィド結合を2つの重鎖間で形成するようにCH1及びCH2ドメイン間に定常部の部分を含む2つの重鎖を含む。いくつかの重要な用語を定義することで、本発明の特定の実施形態に対して注意を集中することが可能である。
【0045】
本発明により製造することができる公知の抗体の例としては、アダリムマブ、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、カナキヌマブ、セルトリズマブペゴール、セツキシマブ、デノスマブ、エクリズマブ、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ナタリズマブ、ニボルマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ピディリズマブラニビズマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ又はベドリゾマブが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
規格(国際単位系(SI))に従って、単位、接頭語及び記号を使用する。
【0047】
大部分の天然タンパク質は、一次ペプチド鎖の長さに沿ってアミノ酸の選択数との特定の結合によりペプチドと結合された炭水化物又は糖類部分を含む。したがって、多くの天然ペプチドは「糖ペプチド」若しくは「糖タンパク質」と呼ぶか、又は「グリコシル化」タンパク質若しくはペプチドと呼ぶ。糖タンパク質上で見られる主要な糖は、フコース、ガラクトース、グルコース、マンノース、N-アセチルガラクトサミン(「GalNAc」)、N-アセチルグルコサミン(「GlcNAc」)、キシロース及びシアル酸である。ペプチド鎖と結合されたオリゴ糖構造は、「グリカン」分子として公知である。グリカンの性質は、三次元構造及びこれらが結合するタンパク質の安定性に影響を与える。天然糖ペプチドにおいて見られるグリカン構造は、2つの主分類:「N結合型グリカン」又は「N結合型オリゴ糖」(真核細胞における主要形態)及び「O結合グリカン」又は「O結合オリゴ糖」に分けられる。真核細胞内で発現されるペプチドは、通常、N-グリカンを含む。N結合型糖タンパク質に対する糖基のプロセシングは、小胞体(ER)の内腔において起こり、ゴルジ体内に続く。これらのN結合型グリコシル化は、アミノ酸配列アスパラギン-X-セリン/スレオニン(Xはプロリン及びアスパラギン酸を除くいずれかのアミノ酸残基である)を含む部位上のペプチド一次構造中アスパラギン残基上で起こる。
【0048】
CHO細胞によって分泌された抗体又はそのフラグメント上で見ることができる主要グリカンを、表1に示す:
【表1】
【0049】
用語「グリコフォーム」は、結合グリカンの数及び/又は種類においてのみ異なる抗体又はそのフラグメントなど、タンパク質のアイソフォームを表す。通常、糖タンパク質を含む組成物は、前記糖タンパク質のいくつかの異なるグリコフォームを含む。
【0050】
グリカン一次構造を決定する技術は当技術分野において周知であり、例えば、Roth et al. (2012) 又はSong et al. (2014)に詳述されている。細胞により産生されるタンパク質の分離及びこれらのN-グリカンの構造の決定はルーチンである。N-グリカンは、前記分岐の性質だけでなく、糖を含む分岐数(「アンテナ」とも呼ぶ)に関して異なり、man3GlcNac2コア構造に加えて、例えば、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、フコース及び/又はシアル酸を挙げることができる。標準的糖鎖生物学命名法の概説については、Varki et al., 1999を参照。
【0051】
タンパク質のN-グリカン構造は、マンノースの少なくとも3つの残基を含む。これらの構造は、更にマンノシル化され得る。Man5、Man6、Man7、Man8又はMan9などのマンノシル化グリカンは、高マンノースグリカン(又は高マンノース化学種)と呼ばれる(上表1参照)。
【0052】
用語「対象」は、ヒト、イヌ、雌ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、又はラットなどの哺乳類(これらの限定されない)を含むものとする。より好ましくは、対象は、ヒトである。
【0053】
本発明は、治療用タンパク質又は抗体などの組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節するための方法及び組成物を提供する。本発明は、抗体又は抗原結合性フラグメントの産生など、タンパク質製造のための細胞培養条件の最適化して、調節されたマンノシル化プロファイル、好ましくは増加されたマンノシル化レベル(高マンノース化学種の増加されたレベルなど)を有する組換えタンパク質の産生をもたらすことに基づく。
【0054】
マズラマイシン(Maduramycin)(又はマズラマイシン(maduramicin))は、放線菌アクチノマヅラ・ルブラ(Actinomadura rubra)から初めて単離されたポリエーテルイオノフォアである。これは、Na
+よりK
+に対して高い親和性を有する一価カチオンを含む複合体を形成する。CAS番号は、79356-08-4である。この化学式は:
【化1】
である。
【0055】
サリノマイシンは、別のポリエーテルイオノフォアである。CAS番号は、53003-10-40である。この化学式は:
【化2】
である。
【0056】
ナラシンは、ポリエーテルイオノフォアの別の例である。これは、更にメチル基を有するサリノマイシン誘導体である。CAS番号は、55134-13-9である。この化学式は:
【化3】
である。
【0057】
ラサロシドは、ストレプトマイセス・ラサリエンシス(Streptomyces lasaliensis)により産生されるポリエーテルイオノフォアである。CAS番号は、25999-31-9である。この化学式は:
【化4】
である。
【0058】
マズラマイシン、ナラシン、サリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォア(又はポリエーテルイオノフォア化合物)を補った細胞培養条件下、組換えタンパク質のマンノシル化グリコフォーム含有率が増加した(より特に、高マンノース化学種の含有率)ことが観察された。したがって、細胞培養産生実施中に、産生される組換えタンパク質の高マンノース化学種レベルなど、組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節することが望ましい場合、細胞培養は、マズラマイシン、ナラシン、サリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォアを補うことができるか、又はマズラマイシン、ナラシン、サリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォアを含むフィード培地を供給することができる。あるいは、細胞培養培地は、前記ポリエーテルイオノフォアを既に含み得る。ポリエーテルイオノフォアを補った特定の細胞培養条件下、細胞増殖、生存率及び力価は、ポリエーテルイオノフォアを含まない細胞増殖と比較してあまり大きく影響を受けなかったことも観察された;なお、ポリエーテルイオノフォアを含まないこのような細胞増殖は、本発明によるコントロールに相当する。
【0059】
1つの態様では、本発明は、調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質の製造方法であって、方法は、ポリエーテルイオノフォアを含む又は補った細胞培養培地中でタンパク質を発現する組換え細胞を培養することを含む、方法を提供する。
【0060】
あるいは、本発明は、調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質の製造方法であって、方法は、ポリエーテルイオノフォアを含む少なくとも1つのフィードを補った細胞培養培地中でタンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む、方法を記載する。
【0061】
実施形態では、本明細書において、哺乳類細胞中で産生される組換えタンパク質のグリコシル化プロファイルを調節(例えば、マンノシル化プロファイルを調節)するための細胞培養培地又はフィード培地中のポリエーテルイオノフォアの使用を提供する。
【0062】
更なる態様では、本発明は、ポリエーテルイオノフォアを含む細胞培養培地又はフィード培地を含む組成物を提供する。
【0063】
更なる態様では、本発明は、哺乳類細胞中で産生される組換えタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節するための、マズラマイシン、ナラシン又はサリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォアの使用を提供する。
【0064】
全体として本発明との関連で、好ましいポリエーテルイオノフォア化合物は、マズラマイシン、ナラシン又はサリノマイシンから成る群から選択される。
【0065】
好ましくは、全体として本発明との関連で、タンパク質の調節されたマンノシル化プロファイルは、コントロール(すなわち、ポリエーテルイオノフォアを用いない細胞増殖)と比較して、組換えタンパク質における全体的マンノシル化レベルの増加である。より詳細には、マンノシル化レベルの増加は、主に、Man5化学種、並びにそれほどではないが、Man6体及びMan7体の増加のためである。好ましくは、全体的マンノシル化レベル、並びに高マンノース化学種(Man5、Man6、Man7、Man8、Man9など)の各1つの個々のレベルは、コントロールの少なくとも2倍、例えば、コントロールと比較して少なくとも100%増加、又は少なくとも150%増加又は少なくとも200%増加などである。定義セクションに従って、マンノシル化レベルの調節又はマンノシル化レベルの増加は、ポリエーテルイオノフォアを補わない細胞培養培地中の前記組換えタンパク質を発現する組換え細胞の培養により産生される同じタンパク質のマンノシル化レベルと関連して表される。
【0066】
全体として本発明との関連で、産生しようとする組換えタンパク質(又は対象となるタンパク質)は、治療用タンパク質、融合タンパク質(Fc-融合タンパク質など)、ヒト抗体又はその抗原結合性部分、ヒト化抗体又はその抗原結合性部分、キメラ抗体又はその抗原結合性部分など、抗体又はその抗原結合性フラグメントであり得る。好ましくは、抗体又はその抗原結合性フラグメントである。
【0067】
本発明の方法を使用して、マンノシル残基の増加された量又はレベルを有する対象となるタンパク質を産生することができる。抗体のマンノシルレベルの調節は、例えば、実際に、特定のCDC及び/又はADCCレベルに達する、又は維持する必要があり得る。
【0068】
全体として本発明との関連で、マズラマイシン、ナラシン又はサリノマイシンなどのポリエーテルイオノフォア化合物を、播種(すなわち、接種)前又は後に細胞培養培地中に添加する。好ましくは、ポリエーテルイオノフォア化合物を、0.5~250nM又は約0.5~250nM、好ましくは1~200nM又は約1~200nM、更に好ましくは2~150nM又は約2~150nMの播種後の濃度、例えば、2、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120nM又は約2、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120nMの濃度などに達するために細胞培養培地中に添加する。例えば、ポリエーテルイオノフォア化合物の濃度の調節によって、マンノシル化プロファイルを調節することができる。ポリエーテルイオノフォア化合物を播種前に細胞培養培地中に添加する場合、播種それ自体と関連する希釈因子は考慮されなければならない。補給を行う時点での培養培地体積及び播種後の細胞培養の体積(又は添加される接種材料の体積)を知ることによって、希釈因子の算出は容易になる。前記希釈因子は、通常、10~15%の範囲である。しかしながら、高播種の場合、希釈因子は、30%以下であり得る。例えば、播種後約10nMの当量を目標とし、希釈因子は10%である場合、ポリエーテルイオノフォアは、それぞれ、約11nMの最終濃度(接種前)において添加されなければならないだろう。この最終濃度は、培養培地中の所与の補給/フィードのための最終濃度と理解されなければならない。事実、例として、ポリエーテルイオノフォア化合物を2フィードの培養中に添加する場合、総最終濃度は、第一補給/フィードの残りの最終濃度に添加される第二補給/フィードの最終濃度に相当すると、当業者は理解するだろう。なお、ポリエーテルイオノフォアの濃度は、対象となるセルラインのための各化合物の有害性に応じて、セルライン毎に適合されなければならないだろう。例えば、化合物がおおよそ200nMにおいて毒性(例えば、コントロールと比較して3日目に3分の1に減少したVCD)になり始める場合、約10分の1低い濃度(例えば、20nM)において試験することが得策であろう。
【0069】
本発明の目的のため、細胞培養培地は、インビトロ細胞培養において哺乳類細胞などの動物細胞の増殖に適する培地である。細胞培養培地配合物は、当技術分野において周知である。細胞培養培地は、培養液中の細胞のニーズに応じて、糖類、ビタミン類、ホルモン、及び成長因子などの追加の成分を補給してよい。好ましくは、細胞培養培地は動物成分を含まず;血清フリー及び/又はタンパク質フリーであり得る。
【0070】
本発明の特定の実施形態では、細胞培養培地は、例えば、培養の開始時、及び/又は流加式若しくは連続式でポリエーテルイオノフォアを補給する。ポリエーテルイオノフォア補給の添加は、測定された中間マンノシル化プロファイル/レベルに基づいていてよい。培養中の前記添加は、ポリエーテルイオノフォア化合物のみから成るフィード又は他の成分の中でもポリエーテルイオノフォア化合物の補給を含むフィードにより行うことができる。
【0071】
本発明の実施形態では、宿主細胞は、好ましくは、これに限定されないが、HeLa、Cos、3T3、ミエローマセルライン(例えば、NS0、SP2/0)、及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む哺乳類宿主細胞(本明細書において哺乳類細胞と呼ぶ)である。好ましい実施形態では、宿主細胞は、CHO-S細胞及びCHO-k1細胞などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0072】
全体として本発明との関連で、組換え細胞、好ましくは、哺乳類細胞は、バイオリアクターなどの培養システム中で増殖する。バイオリアクターは、ポリエーテルイオノフォア化合物を含む又は補った培養培地中の生細胞を接種する。好ましくは、培養培地は、血清フリー及び/又はタンパク質フリーである。一旦、製造用バイオリアクターに接種すれば、組換え細胞は、指数関数的に増殖する。前記ポリエーテルイオノフォアを必要に応じて補ったフィード培地又はポリエーテルイオノフォアから成るフィードのボーラス(若しくは連続式)フィードを用いた流加方法を使用して、増殖期を維持することができる。好ましくは、フィード培地は、血清フリー及び/又はタンパク質フリーである。細胞培養がフィージングを必要とすると予測又は決定される時点で、バイオリアクターに細胞を接種した直後に、これらの補給フィードは通常始まる。例えば、培養開始後3日目、4日目若しくは5日目若しくは約3日目、4日目若しくは5日目に、又は培養開始より1日若しくは2日早く、又は1日若しくは2日遅く、補給フィードを始めることができる。培養は、増殖期及び産生期中、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のボーラス(又は連続式)フィードを受けてよい。これらのフィードのいずれか1つを、必要に応じて、ポリエーテルイオノフォアを補給することができる。ポリエーテルイオノフォアの補給又はフィードを、流加方法及び/又は連続方法で、培養の開始時に行うことができる。あるいは、ポリエーテルイオノフォア化合物の補給を培養開始後にのみ行うことができ;このような場合、ポリエーテルイオノフォアを、培養開始時(例えば、接種時)に培養培地中に添加しないだろう。ポリエーテルイオノフォアをフィードとして添加する場合、別々に(単一成分フィードとして)又は通常の補給フィード(別の種類のフィードの一部として)と一緒に補給することができる。ポリエーテルイオノフォアの前記フィードを、培養開始後3日目、4日目若しくは5日目若しくは約3日目、4日目若しくは5日目に、又は培養開始より1日若しくは2日早く、又は1日若しくは2日遅く(1日目、2日目、6日目若しくは7日目など)始めることができる。培養は、増殖期及び産生期中、2つ、3つ、又はそれ以上のフィードを受けてよい。例えば、限定的例と見るべきではないが、1)ポリエーテルイオノフォアの第一フィードを3日目に添加し、次いで、追加のポリエーテルイオノフォアフィードを5日目、7日目及び10日目に添加することができるか、又は2)ポリエーテルイオノフォアの第一フィードを5日目に添加し、次いで、追加のポリエーテルイオノフォアフィードを7日目及び10日目に添加することができる。培養期間は21~24日など、12~14日より長い場合、フィードの数及びタイミングを適合することができる(例えば、15日目、16日目又は17日目までのフィード)。補給/フィードストラテジーは、標的マンノシル化プロファイル及び培養期間に依存し、本開示に基づいてケースバイケースで適合することができる。
【0073】
本発明による方法、組成物及び使用を使用して、多段階培養方法で組換えタンパク質の産生を向上することができる。多段階方法では、2つ以上の異なるフェーズで細胞を培養する。例えば、細胞増殖及び生存率を向上する条件下で1つ以上の増殖期で先ず細胞を培養し、それから、タンパク質産生を向上する条件下で産生期に移行する。多段階培養方法では、1つのステップ(又は1つのフェーズ)から他のステップへいくつかの条件を変更してもよい:培地組成、pHシフト、温度シフト、その他。産生期より高い温度において、増殖期を行うことができる。例えば、約35℃~約38℃の第一温度において増殖期を行うことができ、それから、約29℃~約37℃の第二温度へ産生期のために温度をシフトする。収穫前数日間又は数週間でさえ産生期において細胞培養を維持することができる。
【0074】
本発明で使用されるセルライン(「組換え細胞」とも呼ばれる)を、商業的又は科学的興味あるタンパク質を発現するように遺伝的に改変する。対象となるポリペプチドを発現する細胞及び/又はセルラインの遺伝的改変のための方法及びベクターは当業者に周知であり;例えば、Ausubel et al. (1988, 及び最新情報)又はSambrook et al. (1989, 及び最新情報)に様々な技術が例証されている。本発明の方法を使用して、対象となる組換えタンパク質を発現する細胞を培養することができる。組換えタンパク質は、通常、これらが回収される培養培地へ分泌される。それから、回収されるタンパク質を、公知の方法及び商業的供給業者から入手可能な製品を使用して精製、又は部分的に精製することができる。それから、精製されたタンパク質を医薬組成物として製剤することができる。医薬組成物に適した製剤としては、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1995に記載されているものが挙げられる。
【0075】
更なる態様では、本発明の方法によって製造される調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質を含む組成物を提供する。
【0076】
増加されたマンノシル化レベル又は量を有する調節された、マンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質、例えば、Fc-融合タンパク質、抗体又はその抗原結合性フラグメントを含む本発明の組成物を使用して、組成物中に含まれる治療用タンパク質(抗体又はその抗原結合性フラグメントなど)が適切である対象のいずれかの障害を治療してよい。
【0077】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法により産生された調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質、及び薬剤的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0078】
特定の実施形態では、調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質を含む本発明の医薬組成物を、医薬(治療用)組成物として薬剤的に許容可能な担体と共に製剤してよく、当技術分野において公知の様々な方法によって投与してよい(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1995参照)。このような医薬組成物は、塩、緩衝剤、界面活性剤、可溶化剤、ポリオール、アミノ酸、防腐剤、相溶性担体、必要に応じて他の治療用薬物、及びこれらの組合せのいずれか1つを含んでよい。調節されたマンノシル化プロファイルを有する組換えタンパク質を含む本発明の医薬組成物は、当技術分野において公知の形態で存在し、液体製剤、又は凍結乾燥製剤などの治療用途にふさわしい。当業者は、本明細書に記載されている本発明は、詳細に記載されているもの以外の変更及び修正も許容されると理解するだろう。本発明は、その趣旨又は本質的特徴から逸脱することなく全てのこのような変更及び修正を包含すると理解されるものとする。本発明は、個別に又は集団的に、本明細書に言及されている又は示されているステップ、特徴、組成物及び化合物の全て、並びに前記ステップ又は特徴のいずれか2つ以上の全ての組合せも包含する。
【0079】
前述の記載は、次の実施例を参照してより充分に理解されるだろう。しかしながら、このような実施例は、本発明を実施する方法の例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0080】
材料及び方法
I.細胞、細胞繁殖及び細胞増殖
「mAb1」は、細胞膜上に見られる受容体に対するヒト化モノクローナル抗体である。その等電点(pl)は、約8.5~9.5である。mAb1は、CHO-S細胞内で産生された。
【0081】
「mAb2」は、可溶性タンパク質を標的とする第二部分と結合された膜タンパク質(Fcドメインを含むIgG部分)に対する1つの部分を含むIgG1融合タンパク質(すなわち、Fc-融合タンパク質)である。その等電点(pl)は、約6.6~8.0である。これは、CHO-S細胞内で発現された。
【0082】
mAb1及びmAb2を発現する細胞を、0.2×106細胞/ミリリットル(mL)で接種した。
【0083】
全てのアッセイを、流加培養で行った。血清フリー既知組成培養培地を使用した。これを、そのまま使用した、又は所望の濃度でポリエーテルイオノフォア化合物(マズラマイシン、ナラシン、サリノマイシン及びラサロシドは全てSigma-Aldrichから購入した)を補給した。既知組成フィード培地、並びに>0~約8g/Lの範囲にグルコースレベルを保持するために前記グルコースを、培養培地に定期的に供給した(3日目、5日目、7日目、10日目にフィードを行い、12日目に追加のグルコースフィードを行った)。
【0084】
実施例1のため、30mLの作業容量を有するSpinTubes(登録商標)内で培養を行った。これらを、36.5℃、CO25%、湿度80%でインキュベートを行い、320rpmで振盪した。サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンを、100、250、500及び1000nMで試験した。
実施例2及び3のため、14mLの作業要領を有するAmbr(登録商標)15内で培養を行った(36.5℃、溶存酸素40%、N2 0.1ml/分、pH範囲:6.75~7.15、800rpm)。mAb1を発現する細胞については、6日目に温度シフトを行った。更なる条件を表2に示す。
流加培養の各々を14日継続した。
【0085】
II.分析方法
ViCell(登録商標)(Beckmann Coulter)を用いて、生細胞密度及び生存率を測定した。PA-HPLCを用いて、抗体力価を測定した。
超高速液体クロマトグラフィー-2-アミノベンズアミド標識技術(2AB-UPLC;mAb1)又は質量分析法(MS;mAB2)のいずれかによって、グリコシル化プロファイルを実証した。グリカンのグループを表1に規定した。
【0086】
実施例1 - ポリエーテルイオノフォアの有害性
細胞を培養し、結果を材料及び方法セクションに開示されているように解析した。なお、本発明によるコントロール(又はコントロール条件)は、ポリエーテルイオノフォアを用いない細胞増殖に相当する。
【0087】
経過時間の関数としての生細胞密度を
図1に示す(サリノマイシンについては
図1A;ナラシンについては
図1B及びマズラマイシンについては
図1C)。試験された全濃度において(すなわち、100nMと低濃度)、サリノマイシン及びナラシンの両方は細胞に対して非常に有害性であり、VCDを3分の1に減少させた。マズラマイシンは、250nMにおいて同等な有害性を有した。100nMにおけるマズラマイシンは、VCDに対してあまり重度の効果を示さない。
【0088】
これらの実験は、次の実験のために各化合物濃度の設定を可能とした。
【0089】
実施例2 - mAb1抗体に対するポリエーテルイオノフォアの影響
細胞を培養し、結果を材料及び方法セクションに開示されているように解析した。
【0090】
生細胞密度、生存率及び力価:
経過時間の関数としての生細胞密度、生存率、並びに流加培養終了時の抗体力価を
図2~5に示す(培養開始時に添加された、サリノマイシンについては
図2;ナラシンについては
図3、マズラマイシンについては
図4、7日目に添加されたマズラマイシンについては
図5)。
【0091】
いずれの場合も生存率は影響を受けない:いずれの濃度及びいずれのポリエーテルイオノフォアを使用しても、コントロールと比較して安定なままであった。
【0092】
培養開始時の添加:試験された濃度、すなわち、5nM及び10nMのいずれか1つにおいて、コントロールと比較して、培養終了時、サリノマイシン及びナラシンの両方は、細胞増殖(それぞれ、-13%及び-15%)又はタンパク質力価(どちらも-15%)に対して僅かに悪影響を与えた。40nMにおけるマズラマイシンについて同様な結果が観察された(約13%VCDが減少、及び約15%力価が減少)。それとは反対に、10nM及び20nMの両方において培養開始時に添加されたマズラマイシンは、コントロールに匹敵するVCD(両方の濃度において-10%以下)及び力価(それぞれ、-6%及び+1%)を示した。
【0093】
7日目における添加:10nMの濃度において培養開始後7日目に添加されたマズラマイシンは、コントロールと比較して、VCD及び力価の両方に対して悪影響を示さなかった。40nMにおいて、マズラマイシンは、細胞増殖に対して僅かに悪影響を与えた(-15%)が、しかしながら、力価に対しては影響はなかった。興味深いことに、20nMにおいて、マズラマイシンは、生存率に対して悪影響を与えた。これは、このバイオリアクター中のラクテートの予期しない増加が原因であり得る。それにもかかわらず、マズラマイシンは、より高濃度での他の結果を考慮して、この濃度において有害性であってはならない。
【0094】
グリコシル化プロファイル:
グリコシル化プロファイルを
図6に示す(
図6A=12日目;
図6A=14日目)。
培養開始時に添加されたポリエーテルイオノフォアについて、得られたデータは以下のことを明確に示している:
- ポリエーテルイオノフォアナラシン、サリノマイシン及びマズラマイシンは、コントロールと比較して、mAb1のマンノシル化レベルに対して、特にMan5化学種に対して強力な影響を与える。例えば、12日目、Man5化学種レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約1%(コントロール)から約27%以下まで、又は10mMナラシン及び40nMマズラマイシンの両方に関して約32%以下まで増加した。
- ポリエーテルイオノフォアナラシン、サリノマイシン及びマズラマイシンは、コントロールと比較して、mAb1のMan6~Man9化学種レベルに対して影響を与える。例えば、12日目:
o Man6化学種(M6)レベルは、40mMのマズラマイシンを用いて約0.35%(コントロール)から約3.7%以下まで、10mMのサリノマイシンを用いて約3.2%以下まで、又は10mMナラシンを用いて約6.5%以下まで増加した。
o Man7化学種レベルは、40mMのマズラマイシン若しくは10mMのサリノマイシンを用いて約0.35%(コントロール)から約1.5%以下まで、又は10mMナラシンを用いて約4.5%以下まで増加した。
o Man8化学種レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約0.12%(コントロール)から約0.3%以下まで、40mMのマズラマイシン用いて約1.5%以下まで、又は10mMナラシンを用いて約3.5%以下まで増加した。
o Man9化学種レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約0.2%(コントロール)から約0.45%以下まで、又は40mMのマズラマイシン若しくは10mMナラシンを用いて約0.5%以下まで増加した。
- 総マンノシル化レベルに対する影響は、使用されるポリエーテルイオノフォアの関数として大きく変わる。例えば、10nMにおけるサリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンの効果を比較する場合、ナラシンは、最も高いマンノシル化の増加を示した。事実、10nMのナラシンを使用して、総マンノシル化は、培養12日後に約43%及び培養14日後に約38.9%に達した。それどころか、マズラマイシンは、マンノシル化に対して最も低い効果を有し、培養12日後に6.1%及び培養14日後に6.6%の総マンノシル化であった。ポリエーテルイオノフォア間のこの差異は、これらの化合物の異なる有害性によって説明することができる。事実、有害性試験は、100nMにおいて、マズラマイシンは、試験された他のものと比較して、有害性がより低いポリエーテルイオノフォアであった(実施例1参照)。
- コントロールと比較して、mAb1のマンノシル化レベルに対する影響を、使用されるポリエーテルイオノフォアの性質/濃度及び培養における経過時間の関数として調節することができる(例えば、12日又は14日)。
【0095】
培養中のフィードとして添加されるポリエーテルイオノフォアについて、得られたデータは以下のことを明確に示している:
- 化合物(マズラマイシンなど)の添加は、マンノシル化レベルにも影響を与える。
- 主な影響は、今一度主にMan5化学種に対するものであるが、より強力な効果は、特にマズラマイシンの20mMの濃度においてMan6及びMan7に対して示された。
【0096】
mAb1に関する結論:
驚くべきことに、本結果は、サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンは抗体、この場合、mAb1のマンノシル化を調節することができ、特に、アフコシル化(afucoslyated)グリコフォームに大きく影響を与えないで(約1~2%だけの増加;データ示さず)、Man5化学種、及びそれほどではないがM6~M9の量を大きく増加させることができることを明確に示している。示されないが、フコシル化グリコフォームのレベルは減少したが、Manグリコフォームは増加した(3~40%の減少)。それとは反対に、別のポリエーテルイオノフォア、すなわち、ラサロシドは、マンノシル化に対する効果を有しない。本実施例は、使用されるポリエーテルイオノフォア(サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシン)の性質/濃度、培養における経過時間及び分子の添加のタイミング、すなわち、培養の開始時(播種前又は播種直後の細胞培養液中など)又は後の段階におけるフィードとして(例えば、実施例2における7日目)のタイミングをいじることによって本発明の教示に基づいて、マンノシル化を微調整することができることを示している。
【0097】
実施例3 - mAb2抗体に対するポリエーテルイオノフォアの影響
細胞を培養し、結果を材料及び方法セクションに開示されているように解析した。
【0098】
生細胞密度、生存率及び力価:
経過時間の関数としての生細胞密度、生存率、並びに流加培養終了時の抗体力価を
図7~10に示す(培養開始時に添加された、サリノマイシンについては
図7;ナラシンについては
図8、マズラマイシンについては
図9、5日目に添加されたマズラマイシンについては
図10)。
【0099】
培養開始時の添加:試験された濃度、すなわち、5nM及び10nMのいずれか1つにおいて、サリノマイシンは、培養終了時にコントロールに匹敵する細胞増殖(10nMにおいて10%以下)又はタンパク質力価(+10%以下)を示した。両方の濃度において細胞増殖に対する悪影響を有するが、ナラシンは、5nMにおいてコントロールに匹敵する力価(+10%)及び10nMにおいて僅かにプラスの影響(+15%)を示した。マズラマイシンは、細胞増殖及び力価の両方に対してナラシンと同様なプロファイルを示した(試験された濃度においてコントロールと比較して+10%以下及び+12%以下)。
【0100】
5日目における添加:その濃度にかかわらず、10nMの濃度において培養開始後5日目に添加されたマズラマイシンは、細胞増殖開始12日目に対して悪影響を有したが、コントロールと比較して力価に対して悪影響を示さなかった。
【0101】
グリコシル化プロファイル:
グリコシル化プロファイルを
図11に示す(
図11A=10日目;
図11B=12日目)。得られたデータは以下のことを明確に示している:
培養開始時に添加されたポリエーテルイオノフォアについて、得られたデータは以下のことを明確に示している:
- ポリエーテルイオノフォア、ナラシン、サリノマイシン及びマズラマイシンは、コントロールと比較して、mAb2のマンノシル化レベルに対して、特にMan5化学種に対して強力な影響を与える。例えば、10日目、Man5化学種レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約0.7%(コントロール)から約15%以下まで、並びに40mMマズラマイシン及び10mMナラシンの両方に関して約16.5%以下まで増加した。
- ポリエーテルイオノフォア、ナラシン、サリノマイシン及びマズラマイシンは、コントロールと比較して、それほどではないが、mAb2のMan6~Man9化学種レベルに対しても影響を与える。例えば、10日目:
o Man6化学種(M6)レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約0.1%(コントロール)から約2.5%以下まで、並びに40mMのマズラマイシン及び10mMナラシンの両方について約3%以下まで増加した。
o Man7化学種レベルは、10mMのサリノマイシンを用いて約0.05%(コントロール)から約0.65%以下まで、40mMのマズラマイシン用いて約0.8%以下まで、又は10mMナラシンを用いて約1.0%以下まで増加した。
- mAb1に見られるように、総マンノシル化レベルに対する影響は、使用されるポリエーテルイオノフォアの関数として大きく変わる。もう一度、10nMにおけるサリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンの効果を比較する場合、ナラシンは、最も高いマンノシル化の増加を示した。事実、10nMのナラシンを使用して、総マンノシル化は、培養10日後に約12.0%及び培養12日後に約18.0%に達した。それどころか、マズラマイシンは、マンノシル化に対して最も低い効果を有し、培養10日後に2.7%及び培養12日後に3.5%の総マンノシル化であった。
- コントロールと比較して、mAb2のマンノシル化レベルに対する影響を、使用されるポリエーテルイオノフォアの性質/濃度及び培養における経過時間の関数として調節することができる(例えば、10日又は12日)。
【0102】
培養中のフィードとして添加されるポリエーテルイオノフォアについて、得られたデータは以下のことを明確に示している:
- 化合物(マズラマイシンなど)の添加は、マンノシル化レベルにも影響を与える。
- 主な影響は、今一度主にMan5化学種に対して1倍超であるが、無視できない効果が、試験された最も高い濃度においてMan6及びMan7に対しても示された。
【0103】
mAb2に関する結論:
驚くべきことに、本結果は、サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンはFc-融合タンパク質、この場合、mAb2のマンノシル化を調節することができ、特に、アフコシル化(afucoslyated)グリコフォームに大きく影響を与えないで(データ示さず)、Man5化学種、及びそれほどではないがM6~M9の量を大きく増加させることができることを明確に示している。示されないが、フコシル化グリコフォームのレベルは減少したが、Manグリコフォームは増加した。本実施例は、マンノシル化が使用されるポリエーテルイオノフォア(サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシン)の性質/濃度、培養における経過時間及び分子の添加のタイミング、すなわち、培養の開始時(播種前又は播種直後の細胞培養液中など)又は後の段階におけるフィードとして(例えば、実施例3における5日目)のタイミングをいじることによって本発明の教示に基づいて微調整することができる。
【0104】
総体的結論
本実施例は、ポリエーテルイオノフォア、サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンは、フコシル化化学種を減少させながら、高マンノース化学種を増加することによってマンノシル化を特異的に調節することを実証している。製造のため、特に全体的マンノシル化レベルを増加させるために使用されるどんなセルラインでも、いずれもの抗体及びいずれものタンパク質のマンノシル化プロファイルを調節するために、サリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンのいずれか1つを使用することができることを、当業者は上記実施例の結果から理解するだろう。培養開始時の添加及びフィードとしての添加の両方は、マンノシル化レベルを調節するために優れたストラテジーであることを証明した。驚くべきことに、別のポリエーテルイオノフォア、ラサロシドはマンノシル化に対して影響を与えないことも分かった。
【0105】
細胞培養培地に添加しようとするサリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンのいずれか1つの正確な濃度、並びに添加/補給のタイミング(培養開始時又は後の時点におけるフィードとしてのいずれか)は、当業者が分子毎に得たいと望むマンノシル化プロファイルに応じて、ケースバイケースで決定されなければならないだろう。本発明の教示に基づいて、本発明の技術を経ることなく、この決定を行うことができる。当業者は、たとえ特定のグリコシル化プロファイルに達することを目的としない場合でも、抗体などのタンパク質のいずれかの製造方法においてサリノマイシン、ナラシン及びマズラマイシンのいずれか1つを使用することができることも理解するだろう。
【表2】
【0106】
参考文献
1) Eon-Duval et al., 2012. Quality Attributes of Recombinant Therapeutic Proteins: An Assessment of Impact on Safety and Efficacy as Part of a Quality by Design Development Approach. Biotechnol. Prog. 28(3): 608-622
2) N. Yamane-Ohnuki et M. Satoh, 2009. Production of therapeutic antibodies with controlled fucosylation; mAbs, 1(3): 230‐236
3) Yu et al., 2012. Characterization and pharmacokinetic properties of antibodies with N-linked Mannose-5 glycans”; mAbs, 4(4):475-487.
4) Ziv Roth et al., 2012. Identification and Quantification of Protein Glycosylation; International Journal of Carbohydrate Chemistry, Article ID 640923.
5) Ting Song et al., 2014. In-Depth Method for the Characterization of Glycosylation in Manufactured Recombinant Monoclonal Antibody Drugs; Anal. Chem., 86(12):5661-5666
6) Varki et al., 1999, Essentials of Glycobiology, Cold Spring Harbor Lab Press.
7) Voisard et al., 2003, Biotechnol. Bioeng. 82:751-765
8) Ausubel et al., 1988 and updates, Current Protocols in Molecular Biology, eds. Wiley & Sons, New York.
9) Sambrook et al., 1989 and updates, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Laboratory Press.
10) Remington's Pharmaceutical Sciences, 1995, 18th ed., Mack Publishing Company, Easton, PA