(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】光半導体素子、光モジュール及び光半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/227 20060101AFI20230424BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20230424BHJP
H01S 5/02253 20210101ALI20230424BHJP
【FI】
H01S5/227
H01S5/343
H01S5/02253
(21)【出願番号】P 2021159473
(22)【出願日】2021-09-29
(62)【分割の表示】P 2016187517の分割
【原出願日】2016-09-26
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 宏治
(72)【発明者】
【氏名】北谷 健
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-165133(JP,A)
【文献】特開2009-003310(JP,A)
【文献】特開2010-141232(JP,A)
【文献】国際公開第2005/053124(WO,A1)
【文献】特開2015-061023(JP,A)
【文献】米国特許第07567601(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第101369718(CN,A)
【文献】特開2011-049346(JP,A)
【文献】特開2014-150145(JP,A)
【文献】特開2014-206557(JP,A)
【文献】特開2010-245231(JP,A)
【文献】特開2009-238857(JP,A)
【文献】特開2000-357841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InP半導体基板と、
前記InP半導体基板の上方に配置され、多重量子井戸層を含む、下部メサ構造と、
前記下部メサ構造上に配置される、クラッド層を含む、上部メサ構造と、
前記下部メサ構造の両側面を埋め込む、埋め込み半導体層と、
前記上部メサ構造の両側面を接して覆う、絶縁膜と、
を備える、光半導体素子であって、
前記下部メサ構造は、前記多重量子井戸層の上方に、第1半導体層を含み、
前記上部メサ構造は、前記クラッド層の下方に、前記クラッド層とは組成が異なる第2半導体層を含み、
前記第2半導体層は、相互に接触しない回折格子層と光閉じ込め層を有し、
前記光閉じ込め層は、前記回折格子層の上方にあり、
前記上部メサ構造と前記下部メサ構造は、互いに電気的に接続し、
前記クラッド層および前記光閉じ込め層の導電型は同じであり、
前記第1半導体層は、他の光閉じ込め層である、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光半導体素子であって、
前記第2半導体層の屈折率は、前記クラッド層の屈折率より高い、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光半導体素子であって、
前記第2半導体層は、電子ストップ層をさらに有する、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光半導体素子であって、
前記クラッド層は、InP層であり、
前記第2半導体層のうち少なくとも一層はP元素を含む多元素からなる層である、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光半導体素子であって、
前記多重量子井戸層は、Al元素を含む多元素からなる層である、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光半導体素子であって、
前記第1半導体層は、Al元素を含む多元素からなる層である、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光半導体素子が、複数並んで、前記InP半導体基板上に配置される、光半導体素子。
【請求項8】
請求項7に記載の光半導体素子であって、
隣り合う前記光半導体素子の間に配置される前記埋め込み半導体層を分離するアイソレーション溝を、備える、
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項9】
InP半導体基板に、多重量子井戸層及び第1半導体層を順に含む下部半導体多層と、第2半導体層及びクラッド層を順に含む上部半導体多層と、を積層する、半導体多層積層工程と、
光導波路の延伸方向に延びる第1マスクを前記上部半導体多層に形成し、前記第1マスクを用いて、前記上部半導体多層のうち前記第1マスクの外側にある部分を除去して、上部メサ構造を形成する、上部メサ構造形成工程と、
前記下部半導体多層のうち前記上部メサ構造の上面及び側面を囲む第2マスクの外側にある部分を除去して、下部メサ構造を形成する、下部メサ構造形成工程と、
前記下部メサ構造の両側の側面を、埋め込み半導体層にて埋め込む、埋め込み工程と、
前記上部メサ構造の両側の側面と、前記埋め込み半導体層の上面とを、絶縁膜にて接して覆う、絶縁膜形成工程と、
を備える、光半導体素子の製造方法であって、
前記第2半導体層は、前記クラッド層とは組成が異なり、
前記第2半導体層は、相互に接触しない回折格子層と光閉じ込め層を有し、
前記光閉じ込め層は、前記回折格子層の上方にあり、
前記上部メサ構造と前記下部メサ構造は、互いに電気的に接続し、
前記クラッド層および前記光閉じ込め層の導電型は同じであり、
前記第1半導体層は、他の光閉じ込め層である、
ことを特徴とする、光半導体素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の半導体光素子と、
前記半導体光素子から出射される光を集光するレンズと、を備えた
ことを特徴とする光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子、光モジュール及び光半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットはビジネスから家庭生活に至るまで現代社会に欠かすことのできないインフラストラクチャとして定着し、業務用のデータ処理からポータルサイト、ブログからインターネット通信販売、動画、電子書籍やSNS(Social Networking Service)などに至るまでその適用範囲を広げている。インターネット通信の大部分は高速ルータ装置を通して大容量化、長距離化で有利な光通信が使用されている。さらに、上記で述べた業務用データ処理、インターネット通信販売、SNS等の運営はデータセンタで行われることが主流となっている。データセンタ内の各サーバ間は光通信で接続されており、データセンタの大規模化によりセンタ中では膨大な光通信網が構築されている。このようなインターネット関連産業は今後もさらに発展し、光通信の伝送容量も増加の一途を辿っている。
これらの光通信には光送受信モジュールが使用されており、伝送容量増大の要求によりさらなる高速化が求められている。また、高速ルータ装置やデータセンタは高速化や大規模化により装置内での部品実装の高密度化や消費電力の増大が進んでおり、光送受信モジュールには高速化と共に小型化と低消費電力化をも求められている。
【0003】
光送受信モジュールの高速化には、光送信機能を有した光モジュールの光源である光半導体素子(例えば、半導体レーザや吸収型変調器が集積化された半導体レーザ)の高速化が必須である。半導体レーザの場合には一般に注入電流を変調させ光強度を変調させる直接変調方式が広く適用されている。この方式の場合、近年の10Gb/s以上の伝送速度の通信用半導体レーザでは発明者らにより特許文献1に開示されているように活性層に緩和振動周波数が高く高速化が実現できるInGaAlAs-MQW層(多重量子井戸層)を適用したリッジ型レーザが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-150145号公報
【文献】特開2013-165133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にリッジ型レーザはリッジストライプ下の半導体層での横方向の拡散電流があるため実効的な活性層が広くなり、さらにその外側にも電流が拡散するため無効電流が存在し、しきい電流が大きくなる。このようにリッジ型レーザは、横方向拡散電流による無効電流の影響を受けて実行的な駆動電流が小さくなり、実効的な活性層幅も広くなるため高速化のために緩和振動周波数を高くするのには、活性層の両脇を半導体層で埋め込んだBH構造と比較して不利な構造となっている。
【0006】
そこで、発明者らは、特許文献2に開示されているような、InGaAlAsを活性層とする半導体レーザにおいてしきい電流が小さく、低駆動電流での緩和振動周波数が高く、長期信頼性を有する埋め込み型レーザを提案した。特許文献2において半導体レーザはInP半導体基板上に形成されており、上部のクラッドがInPのメサストライプで形成され、その下に回折格子や光閉じ込め層(SCH層)、多重量子井戸層(MQW層)等を含む層が上部のメサストライプとほぼ同じ層に形成され、回折格子、SCH層、MQW層の両脇にInPの埋め込み層がある構造である。本構造により、光の対称性に優れ、信頼性が高いレーザを実現することができたが、近年の光送受信モジュールの高速化に伴い、高信頼性と低しきい電流を保持しつつより高速化を実現する半導体レーザが求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、しきい電流が小さく緩和振動周波数が高く、長期信頼性を有する光半導体素子、光モジュール及び光半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る光半導体素子は、InP半導体基板と、前記InP半導体基板の上方に配置され、多重量子井戸層を含む、下部メサ構造と、前記下部メサ構造上に配置される、クラッド層を含む、上部メサ構造と、前記下部メサ構造の両側面を埋め込む、埋め込み半導体層と、前記上部メサ構造の両側面を接して覆う、絶縁膜と、を備える、光半導体素子であって、下部メサ構造は、前記多重量子井戸層の上方に、第1半導体層を含み、上部メサ構造は、前記クラッド層の下方に、前記クラッド層とは組成が異なる第2半導体層を含む。
【0009】
(2)上記(1)に記載の光半導体素子であって、前記第2半導体層の屈折率は、前記クラッド層の屈折率より高くてもよい。
【0010】
(3)上記(1)または(2)に記載の光半導体素子であって、前記第2半導体層は、回折格子層、光閉じ込め層、及び電子ストップ層からなる群より選択される1又は複数であってもよい。
【0011】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記クラッド層は、InP層であり、前記第2半導体層のうち少なくとも一層はP元素を含む多元素からなる層であってもよい。
【0012】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記第1半導体層は、光閉じ込め層であってもよい。
【0013】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光半導体素子であって、前記多重量子井戸層は、Al元素を含む多元素からなる層であってもよい。
【0014】
(7)上記(6)に記載の光半導体素子であって、前記第1半導体層は、Al元素を含む多元素からなる層であってもよい。
【0015】
(8)本発明に係る光半導体素子は、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光半導体素子が、複数並んで、前記InP半導体基板上に配置される。
【0016】
(9)上記(8)に記載の光半導体素子であって、隣り合う前記光半導体素子の間に配置される前記埋め込み半導体層を分離するアイソレーション溝を、備えてもよい。
【0017】
(10)本発明に係る光半導体素子の製造方法は、InP半導体基板に、多重量子井戸層及び第1半導体層を順に含む下部半導体多層と、第2半導体層及びクラッド層を順に含む上部半導体多層と、を積層する、半導体多層積層工程と、光導波路の延伸方向に延びる第1マスクを前記上部半導体多層に形成し、前記第1マスクを用いて、前記上部半導体多層のうち前記第1マスクの外側にある部分を除去して、上部メサ構造を形成する、上部メサ構造形成工程と、前記下部半導体多層のうち前記上部メサ構造の上面及び側面を囲む第2マスクの外側にある部分を除去して、下部メサ構造を形成する、下部メサ構造形成工程と、前記下部メサ構造の両側の側面を、埋め込み半導体層にて埋め込む、埋め込み工程と、前記上部メサ構造の両側の側面と、前記埋め込み半導体層の上面とを、絶縁膜にて接して覆う、絶縁膜形成工程と、を備え、前記第2半導体層は、前記クラッド層とは組成が異なる。
【0018】
(11)本発明に係る光モジュールは、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の半導体光素子と、前記半導体光素子から出射される光を集光するレンズと、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、しきい電流が小さく緩和振動周波数が高く、長期信頼性を有する光半導体素子、光モジュール及び光半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る光半導体素子の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のAで示された断面における断面図である。
【
図3A】本実施形態に係る光半導体素子1の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図3B】本実施形態に係る光半導体素子の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図3C】本実施形態に係る光半導体素子の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図3D】本実施形態に係る光半導体素子の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図3E】本実施形態に係る光半導体素子の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図3F】本実施形態に係る光半導体素子の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【
図4】下部メサ幅W
aに対するΓ
QW/W
aの計算値を示したものである。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る光半導体素子の断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る光半導体素子の断面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る光半導体素子の断面図である。
【
図8】本発明の
図1の光半導体素子を搭載した光モジュールを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る光半導体素子1の概略構成を示す図である。
図1に示す光半導体素子1は、半導体レーザであって、直方体形状の対向する面に設けられた2つの電極に電圧が印加されることにより、発振領域101からレーザ光102を発振する。
【0023】
図2は、
図1のAで示された断面における断面図である。また、
図2は、光ファイバ通信用送信光源の1.3μm帯で発振する半導体レーザの光軸に垂直な断面の模式図である。光半導体素子1は、p型InP半導体基板11と、下部クラッド層12と、下部メサ構造13と、上部メサ構造14と、下部メサ構造13の両側面を埋め込む埋め込み半導体層15と、上部メサ構造14の両側面を接して覆う第1絶縁層16と、第1絶縁層16を覆う第2絶縁層17と、Ti/Pt/Auで構成されているn型電極18と、AuZn系をコンタクト電極とするp型電極19と、を含んで構成されている。なお、第1絶縁層16は、上部メサ構造14の両側面に加えて、埋め込み半導体層15の上面を接して覆っている。ここで、メサ構造とは、光導波路の延伸方向(
図2の紙面に垂直な方向)に対して、半導体多層の両側を除去したものをいう。また、本明細書では、p型InP半導体基板11上に半導体層が積層される方向(
図2における上下方向)において、便宜上、p型InP半導体基板11に近い側を下側、その反対側を上側としている。なお、「Ti/Pt/Au」は、Ti,Pt,Auの順に積層される多層構造を示している。
【0024】
下部クラッド層12は、ドーピング濃度は1×1018cm-3で厚さは1500nmのp型InPバッファ層である。
【0025】
下部メサ構造13は、p型InP半導体基板11の上方に配置され、多重量子井戸層を含んで構成されている。また、下部メサ構造13は、多重量子井戸層の上方に配置される第1半導体層を含む。本明細書において、「p型InP半導体基板11の上方に配置される」とは、p型InP半導体基板11から離れて配置される場合と、p型InP半導体基板に接して配置される場合との両方を含むこととする。第1半導体層は、例えば、光閉じ込め効果を有する光閉じ込め層(SCH層)である。具体的には、
図2に示すように、下部メサ構造13は、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは100nm、組成波長が0.93μmのp型InGaAlAs-SCH層31と、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さが40nmのp型InAlAs電子ストップ層32と、6周期で井戸層が8nm、障壁層が8nm、1.3μm帯で発光する歪InGaAlAs-MQW層33と、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは30nm、組成波長が0.93μmのn型InGaAlAs-SCH層34と、を含んで構成されている。
図2においては、歪InGaAlAs-MQW層33が多重量子井戸層であり、ここでは、多重量子井戸層はAl元素を含む多元素からなる層となる。そして、n型InGaAlAs-SCH層34が第1半導体層であり、ここでは、第1半導体層はAl元素を含む多元素からなる層となる。また、下部メサ構造13の上端の幅(
図2の左右方向の幅)は、0.8μmである。
【0026】
上部メサ構造14は、下部メサ構造13上に配置され、クラッド層を含んで構成されている。また、上部メサ構造14は、クラッド層の下方に配置され、クラッド層とは組成が異なる第2半導体層を含む。本明細書において、「下部メサ構造13上に配置される」とは、下部メサ構造13の上側に接して配置される場合のみを示すこととする。また、「クラッド層の下方に配置される」とは、クラッド層から離れて配置される場合と、クラッド層に接して配置される場合との両方を含むこととする。さらに、本明細書において、2つの半導体層の「組成が同じ」とは、半導体層を構成する多元素それぞれの元素が一致することを言う。例えば、2つの半導体層がともにInGaAlAsからなる場合、2つの半導体層は組成が同じである。そして、「組成が同じ」である2つの半導体層において、ドーパント(不純物)の元素が異なっていたり、ドーパント濃度が異なっていても、「組成が同じ」である。さらに、多元素の元素それぞれの割合が異なっていても、「組成が同じ」である。反対に、2つの半導体層の「組成が異なる」とは、2つの半導体層を構成する多元素の元素が完全に一致しないことを言う。例えば、一方の半導体層がInPからなり、他方の半導体層がInGaAlAsからなる場合、2つの半導体層は組成が異なる。上述の通り、2つの半導体層それぞれを構成する多元素それぞれの元素が一致する場合に、多元素の元素それぞれが異なっていても、ドーパントの元素が異なっていても、ドーパント濃度が異なっていても、「組成が異なる」とはならない。
【0027】
第2半導体層は、回折格子層、光閉じ込め層、及び電子ストップ層からなる群より選択される1又は複数であり、第2半導体層の屈折率は、クラッド層の屈折率より高い。具体的には、
図2に示すように、上部メサ構造14は、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは100nmのn型InGaAsP-SCH層41と、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは25nmのn型InPスペーサ層42と、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは50nmのn型InGaAsP回折格子層43と、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは1.3μmのn型InPクラッド層44と、ドーピング濃度は2×10
19cm
-3のn型InGaAsPコンタクト層45と、を含んで構成されている。InGaAsP回折格子層43は、
図2の紙面に垂直な方向に格子状に配置されており、
図2では、InGaAsP回折格子層43が存在する面を示している。
図2においては、n型InGaAsP-SCH層41または/及びInGaAsP回折格子層43が第2半導体層となり、ここでは、第2半導体層のうち少なくとも一層はP元素を含む多元素からなる層となる。そして、n型InPクラッド層44がクラッド層となる。また、上部メサ構造14の下端の幅(
図2の左右方向の幅)は、0.9μmである。
【0028】
埋め込み半導体層15は、p型半導体層、FeやRuがドーパントである高抵抗型(半絶縁性)半導体層、p型半導体層とn型半導体層からなる多層膜、又は高抵抗型半導体層とp型半導体層とn型半導体層からなる多層膜、のいずれであってもよい。本実施形態では、埋め込み半導体層15はp型InP層とする。
【0029】
第1絶縁層16は、SiO2等の絶縁膜である。第2絶縁層17は、ポリイミド等の有機絶縁層であるが、低応力の絶縁層であれば有機絶縁層であっても無機絶縁層であってよい。
【0030】
次に、本実施形態に係る光半導体素子1の製造方法について
図3A~
図3Fを用いて説明する。
図3A~
図3Fは、本実施形態に係る光半導体素子1の製造方法の過程を模式的に示す図である。
【0031】
まず、p型InP半導体基板11に、多重量子井戸層及び第1半導体層を順に含む下部半導体多層23と、第2半導体層及びクラッド層を順に含む上部半導体多層24と、を順に積層する(半導体多層積層工程:
図3A)。ここでは、p型InP半導体基板11上に、下部クラッド層12と、p型InGaAlAs-SCH層31、p型InAlAs電子ストップ層32、歪InGaAlAs-MQW層33(多重量子井戸層)、及びn型InGaAlAs-SCH層34(第1半導体層)を順に含む下部半導体多層23と、n型InGaAsP-SCH層41(第2半導体層)、InPスペーサ層42、InGaAsP回折格子層43、n型InPクラッド層44(クラッド層)、及びInGaAsPコンタクト層45を順に含む上部半導体多層24と、を既知のMOCVD法を用いて積層する。
なお、InGaAsP回折格子層43が第2半導体層であってもよい。なお、MOCVD法による回折格子層43形成後に、所望の波長となるように回折格子をエッチングにて形成してからまたMOCVD法でn型InPクラッド層44及びInGaAsPコンタクト層45を形成した。
【0032】
次に、光導波路の延伸方向に伸びる第1マスク20を上部半導体多層24上に形成し、第1マスク20を用いて、上部半導体多層24のうち第1マスク20の外側(
図2における左右両側)にある部分を除去して、上部メサ構造14を形成する(上部メサ構造形成工程:
図3B)。ここでは、二酸化珪素膜(SiO
2)を第1マスク20とし、メタン、酸素、水素の混合ガスを使用したRIE(reactive ion etching)でドライエッチングすることで、n型InGaAsP-SCH層41(第2半導体層)、InPスペーサ層42、InGaAsP回折格子層43、n型InPクラッド層44(クラッド層)、及びInGaAsPコンタクト層45の積層体からなる上部メサ構造14が形成される。このドライエッチでは、InGaAsP層のエッチングレートに比べてInGaAlAs層のレートが非常に低いためn型InGaAsP-SCH層41(第2半導体層)とn型InGaAlAs-SCH層34の境界でエッチングがほぼ止まる。なお、n型InPクラッド層44(クラッド層)は塩酸とリン酸の混合液でほぼ垂直にエッチングできるため、InGaAsPコンタクト層45をドライエッチしてからn型InPクラッド層44(クラッド層)をウェットエッチし、その後、n型InGaAsP-SCH層41(第2半導体層)、InPスペーサ層42、及びInGaAsP回折格子層43をドライエッチしてもよい。
【0033】
その後、後に下部メサ構造13となる領域以外の下部半導体層23を除去して、下部メサ構造13を形成する(下部メサ構造形成工程:
図3C~
図3E)。まず、
図3Cに示すように、二酸化珪素膜(SiO
2)の第2マスク21を、上部メサ構造14の上面及び側面、下部半導体多層23の上面に形成する。次に、セルフアライン(自己整合)的に第2マスク21の異方性ドライエッチを行うことにより
図3Dに示すような上部メサ構造14の上面及び側面を囲み、下部に庇を有するように第2マスク21の形状を変える。
図3Cにおいて、上部メサ構造14の上面では、上部メサ構造形成工程で形成された第1マスク20上に二酸化珪素膜(SiO
2)が成膜され、第1マスク20と新たに成膜された二酸化珪素膜(SiO
2)とを合わせて第2マスク21となっているため、上部メサ構造14の上面における第2マスク21の膜厚は、下部半導体多層23の上面における第2マスク21の膜厚より厚くなる。したがって、異方性ドライエッチを行うことにより、下部半導体多層23の上面に形成された膜厚の薄い第2マスク21が除去され、
図3Dに示すような上部メサ構造14の上面及び側面を囲む形状に第2マスク21が変わる。第2マスク21の庇は、上部メサ構造14を下側が短辺となる等脚台形形状にしたり、ステッパーや電子ビーム描画等の高精度の半導体露光装置で新たなパターニングしたりすることで形成することができる。また、二酸化珪素膜(SiO
2)の膜厚制御により等価的な庇幅の制御が可能となる。そして、In(Ga)AlAsのみを選択エッチングする水溶液、例えばリン酸、過酸化水素水、水の混合液や硫酸、過酸化水素水、水の混合液にてウェットエッチングを行うことで、下部半導体多層23のうち上部メサ構造14の上面及び側面を囲む第2マスク21の外側にある部分が除去され、
図3Eに示すようなp型InGaAlAs-SCH層31、p型InAlAs電子ストップ層32、歪InGaAlAs-MQW層33(多重量子井戸層)、及びn型InGaAlAs-SCH層34(第1半導体層)の積層体からなる下部メサ構造13が形成される。なお、下部メサ構造13を形成する際に、HBrと過酸化水素水、水の混合液等によるウェットエッチングで下部クラッド層12やInP半導体基板11までエッチングしてもよい。或いは下部メサ構造13を形成する際に、ドライエッチングを使用してもよいし、ドライエッチングとウェットエッチングを併用してもよい。
【0034】
そして、下部メサ構造13の両側の側面を、埋め込み半導体層15にて埋め込む(埋め込み工程:
図3F)。ここでは、既知のMOCVD法を用いてドーピング濃度7×10
17cm
-3のp型InPが埋め込まれる。埋め込み半導体層15の積層方向の厚さは、下部クラッド層12の上面から庇の下面までの高さとほぼ等しくなる。言い換えれば、埋め込み半導体層15は、下部メサ構造13の両側の側面が十分埋まるまで埋め込まれる。このように、Al系の多重量子井戸層の側面が埋め込み半導体層15で埋め込まれることで界面での結晶欠陥が非常に少なく長期信頼性が得られる。なお、埋め込み半導体層15に、半絶縁性InP、即ち、RuやFeをドーピングしたInPを適用してもよい。この場合、p型InPで埋め込むよりリーク電流の観点では劣ると考えられる。しかし、下部メサ構造13及び上部メサ構造14の側壁すべてを埋め込み半導体層15が接している埋め込み構造と比較すると、本実施形態においては上部メサ構造14の側壁は埋め込み半導体層15と接していないために、埋め込み半導体層15界面を介したリーク電流は小さいと考えられる。
【0035】
その後、上部メサ構造14の両側の側面と、埋め込み半導体層15の上面とを、絶縁膜にて接して覆う(絶縁膜形成工程)。ここでは、
図3Fにおける第2マスク21を一度除去した後、上部メサ構造14の上面及び側面、埋め込み半導体層15の上面を接して覆うように二酸化珪素膜(SiO
2)からなる第1絶縁層16が形成される。さらに、第1絶縁層16を接して覆うようにポリイミドからなる第2絶縁層17が形成され、エッチバックにより上部メサ構造14の上面に形成されている第1絶縁層16を露出させる。その後、上部メサ構造14の上面に形成されている第1絶縁層16を除去しその上部にn型電極18が形成される。また、下部クラッド層12の下部にはp型電極19が形成される。なお、第2マスク21を一度除去せずに、第2マスク21を覆うように第1絶縁層16及び第2絶縁層17が形成されてもよい。
【0036】
ここで、
図2に示す第1実施形態に係る光半導体素子1と従来のリッジ型レーザにおいて1量子井戸当たりの光閉じ込め係数を下部メサ構造13の上端の幅(以下、下部メサ幅とする)で割った値の比較をする。緩和振動周波数f
rは駆動電流I
m(=動作電流-しきい電流)と下部メサ幅W
aと、多重量子井戸内の1井戸当たりの光閉じ込め係数Γ
QWの間に以下の関係がある。
【0037】
【0038】
式(1)より、Γ
QW/W
aが増大するレーザ構造が望ましいことがわかる。
図4は、下部メサ幅W
aに対するΓ
QW/W
aの計算値を示したものである。
図4は従来のリッジ型レーザと第1実施形態に係る光半導体素子1の下部メサ幅W
aに対するΓ
QW/W
aの計算値を示している。ここでは、従来のリッジ型レーザと第1実施形態に係る光半導体素子1とで多重量子井戸層は同一構造である。なお、従来のリッジ型レーザのメサ幅はリッジストライプ部の横幅で定義し、計算を行っている。
【0039】
図4から分かるように第1実施形態に係る光半導体素子1はリッジ型レーザに比べて下部メサ幅が0.8μm付近でのΓ
QW/W
aの増大が顕著であり、リッジ型レーザに比べて約3割増大している。リッジ型レーザは多重量子井戸層及び多重量子井戸層上部の光閉じ込め層はメサ構造となっていないために、実効的な活性層幅が広い。対して、第1実施形態に係る光半導体素子1では、多重量子井戸層及び光閉じ込め層(n型InGaAsP-SCH層41)ともメサ構造となっているため、活性層幅は狭く、Γ
QWはリッジ型レーザと比較して大きくすることができる。なお、n型InPクラッド層44の膜厚は半導体内のレーザの発振波長の長さ、即ち、1.3μmをn型InPクラッド層44の屈折率で割った値である400nm以上が必要である。
【0040】
さらに、特許文献2に開示している埋め込み型レーザ(以下比較例)と比較すると、埋め込み半導体層15により覆われている領域が異なる。比較例では、上側のInPクラッド層の下部まで埋め込まれているのに対し、第1実施形態に係る光半導体素子1は、n型InGaAsP-SCH層41)なども埋め込まれていない。言い換えると、本実施形態の光半導体素子1のほうが埋め込まれている領域が縦方向でみて狭い構造となっている。
光閉じ込め率は、対象となる領域の屈折率差が大きいほうが大きくなるため、埋め込まれていない領域と埋め込まれている領域の光閉じ込め率を比較すると、埋め込まれていない領域のほうが閉じ込め率が大きくなる。つまり、比較例と光半導体素子1と比較すると埋め込まれていない領域が大きい本実施形態のほうが全体としての光閉じ込め率が大きくなり、結果としてΓQWを大きくすることができる。
【0041】
上述したように光閉じ込め率だけを考えると、埋め込み半導体層がないほうがΓQWを大きくすることができるが、多重量子井戸層を埋め込まない場合は、信頼性に大きくかかわる。多重量子井戸層が直接的又は水分等が透過できる絶縁膜を介して外部(外気)と接触することになり、信頼性の観点で好ましくない。そのため、多重量子井戸層は埋め込み半導体層で覆うことで信頼性を向上させる必要がある。以上のように、緩和振動周波数を大きくして高速応答性能を向上させるとともに、高信頼性を確保するためには少なくとも埋め込み半導体層は、多重量子井戸層までは覆い、多重量子井戸層から上側のクラッド層下部までの間のいずれかまでを覆うことが有効である。つまり、第1実施形態で示したように埋め込み半導体層15で覆われていない上部メサ構造14には、クラッド層(n型InPクラッド層44)とクラッド層より屈折率の高い第2半導体層(n型InGaAP-SCH層41)が含まれているような構造とする必要がある。
【0042】
さらに、従来型のリッジ型レーザでは多重量子井戸層はメサ構造となっていないために、注入された電流は多重量子井戸層の横方向に広がるために、実効的な活性層幅が広くなる。第1実施形態に係る光半導体素子1では多重量子井戸層はメサ構造となっているために、実効的な活性層幅が狭く、この点からも緩和指導周波数を大きくすることができる。
【0043】
また本実施形態ではp型InP半導体基板を使用し、上部メサ構造14にはn型InPクラッド層を採用している。従来はn型InP半導体基板を用いて、上部メサ構造はp型InPクラッド層としていることが多いが、p型InPクラッド層はn型InPクラッド層と比べると抵抗率が大きいために、素子全体の高抵抗化を抑制するため下部メサ幅は1.3~1.7μm程度と広めに設定している。従って
図4に示すように、従来のリッジ型レーザではΓ
QW/W
aは低めの値となる。これに対して、第1実施形態に係る光半導体素子1は抵抗率の小さいn型InPクラッド層を採用しているためにΓ
QW/W
aが最大となる0.8μm付近を下部メサ幅として設定しても素子の抵抗は上昇しない。設定できる下部メサ幅を考慮すると従来のリッジ型レーザに比べて第1実施形態に係る半導体素子1はΓ
QW/W
aを約2倍まで向上させることができる。
【0044】
また共振器長150μmで前端面0.5%以下の反射防止膜、後端面90%の高反射膜を施した光半導体素子1は、室温において、25℃にて1.2mA、85℃の高温において2.8mAの低しきい電流を得ることができた。また、しきい電流の特性温度はしきい電流が小さいにも拘らず71Kと良好な値であった。
【0045】
スロープ効率は25℃,85℃においてそれぞれ0.28W/A,0.25W/Aと良好であった。また、駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数frの傾きは25℃,85℃においてそれぞれ6.2GHz/mA1/2,4.3GHz/mA1/2と優れた特性を得た。さらに85℃における推定寿命時間は3.2×105時間と高い信頼性を得ることができた。
【0046】
このように、第1実施形態に係る光半導体素子1によれば、上部メサ構造14においてクラッド層の下方に、クラッド層より屈折率の高い第2半導体層が含まれていることで、上部メサ構造14内の光閉じ込め効率、緩和振動周波数が増大することにより光半導体素子1の高速化を実現できる。さらに、第1実施形態に係る光半導体素子1は、低しきい電流及び高信頼性をともに実現できる。
【0047】
また、第1実施形態では下部メサ幅(ここではn型InGaAsP-SCH層34の幅)は、上部メサ構造14の下端の幅(ここでは、n型InGaAsP-SCH層41の幅)(以下、上部メサ幅とする)よりも少し狭い0.8μmとしたが、下部メサ幅は上部メサ幅と等しくてもよいし、上部メサ幅より広くてもよい。下部メサ幅が上部メサ幅より狭い場合には、埋め込み半導体層15はn型InGaAsP-SCH層41の一部に接触し、リークパスと成り得る。しかし、その接触する一部が狭ければリーク電流は小さいと考えられる。リーク電流の観点から望ましい下部メサ幅は上部メサ幅に対して-0.5~+1.5μmである。ここで最大値は電流が横方向に十分拡散しうる範囲とレーザ発振時の光分布が十分に届く範囲で決定される。さらに望ましい範囲は-0.3~+0.7μmであり、この範囲ではリーク電流が小さく、最大値は光閉じ込め係数が大きくなる範囲である。また、上部メサ幅はレーザ発振光の横モードが基底モードで発振する0.4~1.3μmが望ましい。
【0048】
また、第1実施形態においてn型InGaAlAs-SCH層34とn型InGaAsP-SCH層41とは互いに接して形成されているが、結晶成長の均一性の観点からn型InGaAlAs-SCH層34とn型InGaAsP-SCH層41との間に薄いInP層を挿入してもよい。この場合、InP層の厚さが半導体内の発振波長の長さの1/8程度以下、即ち50nm以下であれば光はほとんど影響を受けないので上部メサ構造14内への光閉じ込め効果は変わらない。これはInGaAsP回折格子層43の下部にあるInPスペーサ層42でも同様である。
【0049】
また、n型InGaAlAs-SCH層34を、n型InGaAsP-SCH層にして、n型InGaAsP-SCH層41と一体の層として形成してもよい。この場合、上部メサ構造14の下端は一体化したn型InGaAsP-SCH層の下端以上、上端未満まで取り得ることができる。上部メサ構造14の下端の位置は、レーザ干渉によりエッチング深さを測定したり、ドライエッチング中の反応原子のプラズマ発光から深さを判定したりすることで制御可能である。ここで、クラッド層より屈折率の高い層をどこまで上部メサ構造14内に入れるかという観点で述べれば、下限は歪InGaAlAs-MQW層33内の最上部の量子井戸層の上端以上であり、上限はクラッド層より屈折率が高いInGaAsP回折格子層43の上端未満であることが望ましい。
【0050】
上述の説明では単体の光半導体素子1の例を示しているが、光半導体素子1がInP半導体基板上に複数並んで配置されるアレイ型の光半導体素子に適用しても同様の効果が得られる。
【0051】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る光半導体素子2の断面図である。
図5は光ファイバ通信用送信光源の1.3μm帯で発振する光半導体素子2の光軸に垂直な断面の模式図である。第2実施形態に係る光半導体素子2は、n型InP半導体基板51と、下部クラッド層52と、下部メサ構造53と、上部メサ構造54と、下部メサ構造53の両側面を埋め込む埋め込み半導体層55と、上部メサ構造54の両側面を接して覆う第1絶縁層56と、第1絶縁層56を覆う第2絶縁層57と、Ti/Pt/Auで構成されているp型電極58と、AuGe系をコンタクト電極とするn型電極59を含んで構成されている。
【0052】
下部クラッド層52は、ドーピング濃度は1×1018cm-3で厚さは500nmのn型InPバッファ層である。
【0053】
下部メサ構造53は、ドーピング濃度は1×10
18cm
-3で厚さは100nm、組成波長が0.93μmのn型InGaAlAs-SCH層61と、7周期で井戸層が5.5nm、障壁層が7nm、1.3μm帯で発光する歪InGaAlAs-MQW層62と、ドーピング濃度は8×10
17cm
-3で厚さは30nmのp型InAlAs電子ストップ層63と、ドーピング濃度は8×10
18cm
-3で厚さは50nm、組成波長が0.93μmのp型InGaAlAs-SCH層64と、を含んで構成されている。
図5においては、歪InGaAlAs-MQW層62が多重量子井戸層であり、p型InAlAs電子ストップ層63または/及びp型InGaAlAs-SCH層64が第1半導体層である。
【0054】
上部メサ構造54は、ドーピング濃度8×10
17cm
-3で厚さは5nmのp型InPスペーサ層65と、ドーピング濃度1×10
18cm
-3で厚さは80nm、組成波長が1.15μmのp型InGaAsP-SCH層66と、ドーピング濃度1×10
18cm
-3で厚さは25nmのp型InPスペーサ層67と、ドーピング濃度1×10
18cm
-3で厚さは50nmのp型InGaAsP回折格子層68と、ドーピング濃度1×10
18cm
-3のp型InPクラッド層69と、高濃度p型InGaAsコンタクト層70と、を含んで構成されている。
図5においては、p型InGaAsP-SCH層66または/及びp型InGaAsP回折格子層68が第2半導体層となり、p型InPクラッド層69がクラッド層となる。また、上部メサ構造54の下端の幅)は、0.75μmである。
【0055】
埋め込み半導体層55は、3層のInPで構成されており、ドーピング濃度4×1017cm-3のp型InP層71と、ドーピング濃度1×1018cm-3のn型InP層72と、ドーピング濃度8×1017cm-3のp型InP層73とから構成されている。
【0056】
第1絶縁層56は、SiO2等の絶縁膜である。第2絶縁層57は、ポリイミド等の有機絶縁膜であるが、低応力の絶縁膜であれば有機無機を問わない。
【0057】
第2実施形態では、3層のInPで構成されている埋め込み半導体層55の容量低減のためのアイソレーション溝60が形成される。アイソレーション溝60は、上部メサ構造54から1.5μm以上離して形成される。光半導体素子2がInP半導体基板上に複数並んで配置される光半導体素子においては、アイソレーション溝60は、隣り合う光半導体素子2の間に配置される埋め込み半導体層55を分離するよう形成される。
【0058】
また、下部メサ構造53の上端の幅、すなわち、p型InGaAlAs-SCH層64の上端の幅は、上部メサ構造54の下端の幅より大きい0.79μmである。
【0059】
第2実施形態に係る光半導体素子2の製造方法は、第1実施形態と同様の製造方法を適用することができる。
【0060】
第2実施形態に係る光半導体素子2は前端面に0.1%以下の無反射コーティングを施し、後端面には95%の高反射コーティングを施した。また、共振器長は130μmであり、後端面から40μmの位置に等価的なλ/4シフトを入れた回折格子構造となっている。第2実施形態に係る光半導体素子2は25℃,85℃のしきい電流がそれぞれ、1.1mA,3.2mAの低しきい電流であった。しきい電流の特性温度はしきい電流が小さいにも拘らず56Kと良好な値であった。
【0061】
スロープ効率は25℃,85℃においてそれぞれ0.24W/A,0.18W/Aと良好であった。また、駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数frの傾きは25℃,85℃においてそれぞれ6.3GHz/mA1/2,4.3GHz/mA1/2と優れた特性を得た。さらに85℃における推定寿命時間は1.9×105時間と高い信頼性を得ることができた。
【0062】
なお、第2実施形態では埋め込み半導体層55は3層で構成されているが、第1実施形態と同様に、p型InP層のみ、FeやRuをドーピングした高抵抗埋め込み層、Fe,Ru,n型,p型等を選択して多層化した埋め込み層を用いてもよい。また、第2実施形態ではn型InP半導体基板を用いて作成した半導体レーザについて述べたが、半絶縁性基板であるFeをドーピングしたInP半導体基板を用いても同様の半導体レーザを形成できる。この時、下部クラッド層52のn型InPバッファ層の厚さを3μm程度に厚くする。FeドープのInP半導体基板を使用することで半導体レーザのアレイ状態で隣り合う素子の電気的な絶縁を実現できるため、多チャンネルレーザアレイの実装と駆動を実現できる。この場合、n電極は基板側からでなく、上面側の活性層がない領域から取ることになる。
【0063】
[第3実施形態]
図6及び
図7は、本発明の第3実施形態に係る光半導体素子3の断面図である。
図6及び
図7は光ファイバ通信用送信光源の1.3μm帯で発振する光半導体素子3の光軸に垂直な断面の模式図である。第3実施形態に係る光半導体素子3は、第1実施形態に係る光半導体素子1とは、上部メサ構造84及び埋め込み半導体層85の構成が異なることを除けば同一であるので、重複する説明は省略する。
【0064】
第3実施形態に係る光半導体素子3の上部メサ構造84は、第1実施形態と比較してn型InGaAsP-SCH層41とInGaAsP回折格子層43との位置が逆となっている。具体的には、第3実施形態の上部メサ構造84は、下部メサ構造13上に、n型InPスペーサ層46と、n型InGaAsP回折格子層43と、n型InPスペーサ層42と、n型InGaAsP-SCH層41と、n型InPクラッド層44と、InGaAsPコンタクト層45とがこの順に形成されている。この構成により、回折格子の結合係数を増大することができる。
【0065】
また、第3実施形態に係る光半導体素子3の埋め込み半導体層85は、下部クラッド層12上に、p型InP層91と、n型InP層92と、FeドープInP層93とがこの順に形成されている。n型InP層92を介してFeドープInP層93を埋め込むことでFeとZnの相互拡散を抑制することができる。
【0066】
図6に示す上部メサ構造84の製造方法は第1実施形態と同様にドライエッチを使用してn型InPスペーサ層46までエッチングする。この場合、膜厚が比較的厚いn型InPクラッド層44は塩酸系溶液を使用したウェットエッチをドライエッチと併用して形成してもよい。下部メサ構造13は第1実施形態と同様の製造方法により形成することができる。その後、既知のMOCVD法を用いてドーピング濃度4×10
17cm
-3で厚さ30nmのp型InP層91、ドーピング濃度1×10
18cm
-3で厚さ50nmのn型InP層92、ドーピング濃度4×10
16cm
-3で厚さ320nmのFeドープInP層93を連続して埋め込む。埋め込み半導体層85の厚さは
図6のように400nm程度で下部メサ構造13の側壁を覆うような膜厚でよいし、
図7のように半導体レーザ全体の平坦性や上部メサ構造84へのストレス低減を優先してInGaAsPコンタクト層45以上まで膜厚を増大してもよい。
【0067】
第3実施形態に係る半導体レーザは前端面に0.1%以下の無反射コーティングを施し、後端面には90%の高反射コーティングを施した。共振器長は110μmであり、後端面から35μmの位置にλ/4シフトを入れた回折格子構造となっている。第3実施形態に係る半導体レーザは25℃,85℃のしきい電流がそれぞれ、1.1mA,2.8mAの低しきい電流であった。しきい電流の特性温度はしきい電流が小さいにも拘らず64Kと良好な値であった。
【0068】
スロープ効率は25℃,85℃においてそれぞれ0.29W/A,0.21W/Aと良好であった。また、駆動電流の平方根に対する緩和振動周波数frの傾きは25℃,85℃においてそれぞれ7.2GHz/mA1/2,6.8GHz/mA1/2と優れた特性を得た。さらに85℃における推定寿命時間は2.8×105時間と高い信頼性を得ることができた。
【0069】
図8は、光半導体素子1を搭載した光モジュールを概略的に示す図である。
図8に示されるように、光モジュールであるTOSAモジュール200は、光半導体素子1と、光半導体素子1を金属接合剤であるAuSnを用いて接合するセラミック基板であるサブマウント201と、サブマウント201上に光半導体素子1と共に搭載されるAPC(Automatic Power Control)制御のためのモニターフォトダイオード202と、光半導体素子1から出射された光を集光させるレンズ203と、レンズ203により結合された光を内部に導波させる光ファイバ204と、を有している。このように光半導体素子1を用いたTOSAモジュール200は、周波数応答特性に優れ、かつ長期信頼性に優れている。なお、光ファイバ204を用いずにフェルール(ファイバスタブ)を用いたタイプのTOSAモジュールであってもよい。
【0070】
なお、本発明はDFBレーザに限らず、Fabry-Perotレーザに適用することができる。また、本発明では単体の半導体レーザについて述べたが、半導体レーザの前方にパッシブ導波路を備えた集積型半導体レーザや導波路型の吸収型変調器を集積した変調器集積型半導体レーザを同様に作成できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0071】
1,2,3 光半導体素子、11 p型InP半導体基板、12,52 下部クラッド層、13,53 下部メサ構造、14,54,84 上部メサ構造、15,55,85 埋め込み半導体層、16,56 第1絶縁層、17,57 第2絶縁層、18,59 n型電極、19,58 p型電極、20 第1マスク、21 第2マスク、31,64 p型InGaAlAs-SCH層、32,63 p型InAlAs電子ストップ層、33,62 歪InGaAlAs-MQW層、34,61 n型InGaAlAs-SCH層、41 n型InGaAsP-SCH層、42,46 n型InPスペーサ層、43 n型InGaAsP回折格子層、44 n型InPクラッド層、45 n型InGaAsPコンタクト層、51 n型InP半導体基板、60 アイソレーション溝、65,67 p型InPスペーサ層、66 p型InGaAsP-SCH層、68 p型InGaAsP回折格子層、69 p型InPクラッド層、70 p型InGaAsコンタクト層、71,73,91 p型InP層、72,92 n型InP層、93 FeドープInP層、101 発振領域、102 レーザ光、201 サブマウント、202 モニターフォトダイオード、203 レンズ、204 光ファイバ。