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特許7267387皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤の探索方法及び皮膚のツヤ向上剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤の探索方法及び皮膚のツヤ向上剤
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230424BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20230424BHJP
   G01N 21/21 20060101ALI20230424BHJP
   G01N 21/57 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A61B5/00 M ZDM
A61B5/107 800
G01N21/21 Z
G01N21/57
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021195348
(22)【出願日】2021-12-01
(62)【分割の表示】P 2020019173の分割
【原出願日】2015-11-10
(65)【公開番号】P2022033864
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2014228494
(32)【優先日】2014-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26(2014)年10月30日掲載アドレス/http://www.shiseidogroup.jp/releimg/2350-j.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】舛田 勇二
(72)【発明者】
【氏名】八木 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 智裕
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047597(JP,A)
【文献】特開2011-130808(JP,A)
【文献】特開2004-215991(JP,A)
【文献】特開平5-220130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の表面に偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光を受光することにより第一の反射率を測定するステップと、
前記皮膚の表面に前記偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と垂直な方向の反射光を受光することにより第二の反射率を測定するステップと、
拡散反射率を第二の反射率に基づいて決定し、鏡面反射率を第一の反射率と第二の反射率の差分に基づいて決定するステップを有し、
前記拡散反射率及び前記鏡面反射率が所定の条件を満たす場合に、前記皮膚にツヤがあると判定することを特徴とする皮膚のツヤの評価方法。
【請求項2】
前記決定ステップが、以下の式:
前記拡散反射率=第二の反射率×2、及び
前記鏡面反射率=第一の反射率-第二の反射率
を用いる、請求項1に記載の皮膚のツヤの評価方法
【請求項3】
前記第一の反射率及び前記第二の反射率を測定する前の皮膚に試料を塗布するステップをさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の皮膚のツヤの評価方法。
【請求項4】
前記所定の条件が、25%以上の前記拡散反射率及び10%以上の前記鏡面反射率である、請求項2に記載の皮膚のツヤの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤の探索方法及び皮膚のツヤ向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚の見え方を表現するものとして透明感を指標とするものが知られていた。皮膚の透明感は、必要に応じて、皮膚外用剤を塗布した上で、美容技術者の視覚により、官能評価されていた。
【0003】
しかしながら、皮膚の透明感を的確に評価するためには、長年の経験を必要とすることに加え、経験が豊富な被験者が皮膚の透明感を評価しても、評価のばらつきを完全に解消することは困難であった。
【0004】
例えば、従来では、皮膚表面にP偏光を入射させてS偏光成分の反射光を受光するとともに、皮膚表面にS偏光を入射させてP偏光成分の反射光を受光し、得られるS偏光成分及びP偏光成分の2つの反射光の反射率の合計値に基づいて皮膚の透明感を評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、美白効果を有する皮膚外用剤として、アルコキシサリチル酸及び/又はその塩の一種又は二種以上を含有する皮膚外用剤が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-215991号公報
【文献】特開平6-40886号公報
【文献】特開2013-189396号公報
【文献】特開2013-40114号公報
【文献】特開2000-63255号公報
【文献】特開2012-6902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、皮膚のツヤを客観的に評価する方法がなかった。このため、皮膚のツヤの評価方法が望まれている。また、皮膚のツヤを向上させることが可能な化合物又は組成物、即ち、皮膚のツヤ向上剤及び該皮膚のツヤ向上剤の探索方法が望まれている。
【0008】
本発明の一態様は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤及び該皮膚のツヤ向上剤の探索方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、皮膚のツヤの評価方法において、皮膚の表面に偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光を受光することにより第一の反射率を測定するステップと、前記皮膚の表面に前記偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と垂直な方向の反射光を受光することにより第二の反射率を測定するステップと、前記第一の反射率及び前記第二の反射率から、拡散反射率及び鏡面反射率を求めるステップを有し、前記拡散反射率及び前記鏡面反射率が所定の条件を満たす場合に、前記皮膚にツヤがあると判定することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様は、皮膚のツヤ向上剤の探索方法において、角層細胞の表面粗さを測定するステップと、角層細胞に試料を塗布するステップと、該試料が塗布された角層細胞の表面粗さを測定するステップを有し、前記試料が塗布されていない角層細胞の表面粗さに対して、前記試料が塗布された角層細胞の表面粗さが有意に減少している場合に、前記試料が皮膚の鏡面反射率を向上させることが可能であると判定することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様は、皮膚のツヤ向上剤において、サリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上を含むことを特徴とする。
【0012】
より具体的に、本発明は以下に関する:
[1] アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びトリメチルグリシンを含む、皮膚のツヤ向上剤。
[2] 前記アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩が、4-メトキシサリチル酸カリウムである、項目1に記載の皮膚のツヤ向上剤。
[3] 0.5%~3%の4-メトキシサリチル酸カリウムを含む、項目2に記載の皮膚のツヤ向上剤。
[4] 2%~10%のトリメチルグリシンを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の皮膚のツヤ向上剤。
[5] 角層細胞の表面粗さを測定するステップと、
角層細胞に試料を塗布するステップと、
該試料が塗布された角層細胞の表面粗さを測定するステップを有し、
前記試料が塗布されていない角層細胞の表面粗さに対して、前記試料が塗布された角層細胞の表面粗さが有意に減少している場合に、前記試料が皮膚の鏡面反射率を向上させることが可能であると判定することを特徴とする皮膚のツヤ向上剤の探索方法。
[6] 皮膚の表面に偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光を受光することにより第一の反射率を測定するステップと、
前記皮膚の表面に前記偏光を入射させた後、該入射した偏光の偏光方向と垂直な方向の反射光を受光することにより第二の反射率を測定するステップと、
前記第一の反射率及び前記第二の反射率から、拡散反射率及び鏡面反射率を求めるステップを有し、
前記拡散反射率及び前記鏡面反射率が所定の条件を満たす場合に、前記皮膚にツヤがあると判定することを特徴とする皮膚のツヤの評価方法。
[7] 前記第一の反射率及び前記第二の反射率を測定する前の皮膚に試料を塗布するステップをさらに有することを特徴とする項目6に記載の皮膚のツヤの評価方法。
[8] 皮膚のツヤ向上剤又は鏡面反射率増加剤の製造のための、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びトリメチルグリシンの使用。
[9] 前記アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩が、4-メトキシサリチル酸カリウムである、項目8に記載の使用。
[10] 0.5%~3%の4-メトキシサリチル酸カリウムを含む、項目9に記載の使用。
[11] 2%~10%のトリメチルグリシンを含む、項目8~10のいずれか一項に記載の使用。
[12] 皮膚のツヤ向上方法、鏡面反射率増加方法、又は美容方法であって、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びトリメチルグリシンを適用することを含む方法。
[13] 前記アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩が、4-メトキシサリチル酸カリウムである、項目12に記載の方法。
[14] 0.5%~3%の4-メトキシサリチル酸カリウムを含む、項目13に記載の方法。
[15] 2%~10%のトリメチルグリシンを含む、項目8~10のいずれか一項に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、皮膚のツヤの評価方法、皮膚のツヤ向上剤及び該皮膚のツヤ向上剤の探索方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態における皮膚のツヤの評価方法の一例を示すフローチャートである。
図2】本実施形態における皮膚の鏡面反射率向上剤の探索方法の一例を示すフローチャートである。
図3】実施例1における拡散反射率に対する鏡面反射率の関係を示すマップである。
図4】実施例2における拡散反射率に対する鏡面反射率の関係を示すマップである。
図5】実施例3における化粧水及び乳液を塗布する前後の拡散反射率に対する鏡面反射率の関係を示すマップである。
図6】実施例3における化粧水及び乳液を塗布する前後の鏡面反射率を示す図である。
図7】実施例4における角層細胞の算術平均粗さSaに対する鏡面反射率の関係を示す図である。
図8】4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)の濃度を変化させて添加した後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を示す。
図9】トリメチルグリシン(TMG)の濃度を変化させて添加した後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を示す。
図10】4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)単独、及び4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)及びトリメチルグリシン(TMG)の組合せを、濃度を変化させて添加した後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を示す。
図11】試料1-1及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す図である。
図12】試料1-1及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図13】試料1-1、1-2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図14】試料2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す図である。
図15】試料2及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図16】試料3を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す図である。
図17】試料3及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図18】試料4-1を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す図である。
図19】試料4-1及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図20】試料4-1、4-2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図21】試料5を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す図である。
図22】試料5及び水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す図である。
図23】候補化粧料連用後におけるアンケート結果を示す。
図24】候補化粧料連用後3ヶ月目における角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。
図25】候補化粧料連用後3ヶ月目におけるキメ画素数の変化を示す。
図26】候補化粧料連用後3ヶ月目における鏡面反射率及び拡散反射率の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を図面と共に説明する。
【0016】
皮膚のツヤとは、皮膚の性状のうちの一つであり、皮膚を美しくみせる性状である。皮膚を美しくみせる皮膚表面の性状としては、透明感、ツヤなどが挙げられる。透明感は、皮膚の色に影響があると考えられている。透明感には、皮膚における光の拡散反射が寄与すると考えられており(肌の透明感測定とその対応化粧品の有用性評価:J. Soc. Cosmet. Chem. Japan, 2005; 39: 201-208)、美白を行うことにより皮膚における光の拡散反射が増大することで、透明感が増加する。美白以外にも、保湿や血行促進も透明感の増加に寄与している。ツヤは、皮膚の光沢のことを指すが、美容上好ましくない皮膚性状であるてかり(glossy又はgreasy shine)も光沢と関連があり、区別して評価することが困難であることから、ツヤの適切な評価は行われていなかった。本発明者らの研究により、拡散反射が増大した透明感のある皮膚において、さらに鏡面反射を増大することで、ツヤ肌を実現できることが見出されており(図3)、ツヤ肌は、拡散反射と鏡面反射の両方が関与すると考えられる。皮膚のツヤには、いくつかの表現があり、例えば輝き(glow, luminous, sheen)、光沢(luster)、艶(sheen)などと呼ばれることもある。したがって、本発明の皮膚のツヤ向上剤には、皮膚の輝き又は光沢向上剤ということもできる。
【0017】
皮膚へ入射した光の一部が反射されて反射光となる。反射光は、鏡面反射と拡散反射に大別される。鏡面反射とは、一方向からの光が別の一方向に反射されることをいい、皮膚における鏡面反射は、主に皮膚の表面で生じる反射のことをいう。皮膚における鏡面反射は、皮膚の光沢に寄与していると考えられるが、皮膚の光沢に関する皮膚性状としては、ツヤのみならず、てかりも含まれる。ツヤは、皮膚を美しくみせる性状である一方で、てかりは、大量に分泌された皮脂によりもたらされることから、美容上好ましくない皮膚性状と考えられている。拡散反射は、入射光が様々な方向に反射されることをいい、皮膚の内部における反射のことをいう。皮膚における拡散反射は、皮膚の透明感に寄与しており、拡散反射が少ない皮膚はくすんだ印象を与える(図3)。
【0018】
本発明者らの研究により、単に鏡面反射を高めた場合には、てかりが生じてしまう一方で、拡散反射が高い透明感のある皮膚において、鏡面反射を高めた場合に限り、ツヤのある皮膚となることが明らかになった(図3)。これらの知見をもとに、本発明は、下記に説明するように、皮膚の表面に偏光を入射させた後、入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光及び偏光方向と垂直な方向に偏光している反射光を指標とした皮膚のツヤの評価方法に関する。
【0019】
<皮膚のツヤの評価方法>
本発明の皮膚のツヤの評価方法は、
皮膚の表面に偏光を入射させる工程、
入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光(平行反射光)及び偏光方向と垂直な方向に偏光している反射光(垂直反射光)を測定する工程、
平行反射光及び垂直反射光の反射率を計算する工程、
平行反射率及び垂直反射率に基づき皮膚のツヤを決定する工程
を含む。
【0020】
平行反射率及び垂直反射率に基づき皮膚のツヤを決定する工程は、予め決定された平行反射率及び垂直反射率と皮膚のツヤとの関係を示すグラフに基づき決定することができるし、予め決定された閾値に基づいて決定することもできる。さらに別の態様では、平行反射率及び垂直反射率に基づき皮膚のツヤを決定する工程は、平行反射率及び垂直反射率から、鏡面反射率及び拡散反射率を計算する工程を含んでもよい。この場合、予め決定された鏡面反射率及び拡散反射率と皮膚のツヤとの関係を示すグラフに基づき決定することができるし、予め決定された閾値に基づいて決定することもできる。
【0021】
この発明により、従来、美容技術者の視覚に頼る官能評価によってしか評価できなかった皮膚のツヤを、客観的に評価することが可能になる。
【0022】
本発明の具体的実施形態における皮膚のツヤの評価方法について、図1を用いて説明する。
【0023】
まず、皮膚の表面に偏光を入射させた後、入射した偏光の偏光方向と平行な方向に偏光している反射光を受光することにより第一の反射率(平行反射率)を測定する(S01)。
【0024】
なお、入射した偏光の偏光方向と平行な方向とは、入射した偏光が皮膚の表面で偏光方向を変化させずに反射した場合の偏光方向と平行な方向を意味する。
【0025】
次に、皮膚の表面に偏光を入射させた後、入射した偏光の偏光方向と垂直な方向の反射光を受光することにより第二の反射率(垂直反射率)を測定する(S02)。ここで、偏光を入射させる皮膚の表面及び皮膚の表面に入射させる偏光は、S01と同一である。
【0026】
なお、入射した偏光の偏光方向と垂直な方向とは、入射した偏光が皮膚の表面で偏光方向を変化させずに反射した場合の偏光方向と垂直な方向を意味する。
【0027】
このとき、S01及びS02の順序は、特に限定されない。
【0028】
さらに、第一の反射率及び第二の反射率から、拡散反射率及び鏡面反射率を求める(S03)。
【0029】
次に、S03で求められた拡散反射率に対する鏡面反射率の関係を示すマップを作成する(S04)。ここで、拡散反射率及び鏡面反射率が所定の条件を満たす場合に、皮膚にツヤがあると判定する。このとき、複数の予備被験者の拡散反射率及び鏡面反射率を求めると共に、複数の予備被験者の皮膚のツヤを美容技術者の視覚により官能評価することにより、判定基準を決定することができる。
【0030】
一例として、拡散反射率が所定値以上であると共に、鏡面反射率が所定値以上である場合に、皮膚にツヤがあると判定する。この場合、皮膚にツヤがあると判定する拡散反射率は、通常、25%以上であり、27%以上であることが好ましい。また、皮膚にツヤがあると判定する鏡面反射率は、通常、10%以上であり、12%以上であることが好ましい。
【0031】
全反射率、第一の反射率及び第二の反射率を測定する皮膚の部位としては、特に限定されないが、頬(特に、頬上部の目尻の直下(頬骨部))等が挙げられる。
【0032】
なお、第一の反射率及び第二の反射率は、公知の方法を用いて、測定することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0033】
本実施形態における皮膚のツヤの評価方法は、第一の反射率及び第二の反射率を測定する前の皮膚に試料を塗布するステップをさらに有していてもよい。この場合、試料を皮膚に塗布する前後の拡散反射率及び鏡面反射率を求めることにより、皮膚のツヤ向上剤を探索することができる。
【0034】
<拡散反射率及び鏡面反射率の算出方法>
第一の反射率(平行反射率)及び第二の反射率(垂直反射率)を、それぞれx1[%]及びx2[%]とすると、拡散反射率は、式(1):
2x2・・・(1)
から算出することができ、鏡面反射率は、式(2):
1-x2・・・(2)
から算出することができる。
【0035】
次に、皮膚のツヤ向上剤の探索方法について説明する。ここでは、図1の皮膚のツヤの評価方法を用いて、皮膚のツヤ向上剤を探索する方法よりも簡便な皮膚のツヤ向上剤の探索方法について説明する。
【0036】
<皮膚のツヤ向上剤の探索方法>
皮膚のツヤを向上させるためには、前述したように、皮膚の鏡面反射率及び拡散反射率を向上させる必要がある。ここで、皮膚の拡散反射率は、一般に、キメが細かく、メラニン・ヘモグロビン量が少なく、角層水分量が多い肌で高いことが知られている。また、美白剤(アルブチン、エチルビタミンC)、血行促進剤(ビタミンEアセテート)、保湿剤(グリセリン他)を配合した化粧料を塗布すると、皮膚の拡散反射率が上昇することが知られている(例えば、J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.39(3) 201-208(2005)参照)。
【0037】
一方、皮膚の鏡面反射率については、皮膚のどのような特性に起因しているかが知られておらず、皮膚の鏡面反射率を上昇させる方法は知られていない。
【0038】
そこで、皮膚のツヤを向上剤を探索するためには、皮膚の鏡面反射率を向上させる化合物又は組成物、即ち、皮膚の鏡面反射率向上剤を探索する必要がある。
【0039】
本発明者らの研究により、鏡面反射を高めるためには、皮膚の表面粗さを減少させることが有効であることが見いだされた(図7)。本明細書でいう皮膚の表面粗さとは、皮溝や皮丘により表される凹凸を指しているのではなく、さらに小さい皮丘上の角層細胞の表面の凹凸のことを指している。理論に限定されることを意図するものではないが、皮丘部の表面の凹凸が平滑化することで、入射光の乱反射が減少し、鏡面反射率が増大するものと考えられる。したがって、角層平滑化作用は、鏡面反射率増大作用ともいうことができ、角層平滑化剤を、鏡面反射率増加剤ということもできる。
【0040】
皮膚の表面粗さは、テープストリップなどにより採取された角層細胞表面を、顕微鏡、例えば原子間力顕微鏡を用いることで測定することができる。皮膚の表面粗さは、原子間力顕微鏡を用いて撮影された3Dスキャン画像を自作の解析プログラムを用いて半値幅2μmガウシアンフィルター適用画像を減算することで、3D形状の傾きを補正し、表示し、XY各座標におけるZ座標の絶対値の平均を計算することでISO25178に定義される算術平均粗さ(Sa)を算出することができる。
【0041】
本実施形態における皮膚の鏡面反射率向上剤の探索方法について、図2を用いて説明する。
【0042】
まず、角層細胞の算術平均粗さSaを測定する(S11)。次に、角層細胞に試料を塗布する(S12)。さらに、試料が塗布された角層細胞の算術平均粗さSaを測定する(S13)。次に、試料が塗布されていない角層細胞の算術平均粗さSaに対する試料が塗布された角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を求める(S14)。ここで、試料が塗布されていない角層細胞の算術平均粗さSaに対して、試料が塗布された角層細胞の算術平均粗さSaが有意に減少している場合に、試料が皮膚の鏡面反射率を向上させることが可能であると判定する。
【0043】
なお、本実施形態においては、皮膚の鏡面反射率向上剤を探索する指標として、角層細胞の算術平均粗さSaが用いられているが、角層細胞の表面粗さであれば、特に限定されない。本発明の皮膚の鏡面反射率向上剤の探索方法を用いてスクリーニングを行った結果、鏡面反射率を向上できる薬剤として、下記の薬剤を選別することができた。鏡面反射率向上剤は、透明感を改善する作用を有する薬剤と一緒に用いることにより、又は鏡面反射率向上剤自体が、透明感を改善する効果を有している場合、或いはもともと十分な透明感の皮膚を有する対象に用いられる場合に、ツヤ向上作用を発揮することができる。したがって、鏡面反射率向上剤は、ツヤ向上剤と言うこともできる。
【0044】
<皮膚のツヤ向上剤>
皮膚のツヤ向上剤は、例えばサリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上を含む。アルカリ金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
【0045】
サリチル酸のアルカリ金属塩としては、特に限定されないが、サリチル酸ナトリウム(2-ヒドロキシ安息香酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0046】
アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩としては、特に限定されないが、4-メトキシサリチル酸カリウム(2-ヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸カリウム)等が挙げられる。4-メトキシサリチル酸カリウムは、角質剥離作用、メラニン生成阻害作用、ターンオーバーの正常化作用などが知られている美容成分であり、主に美白作用を謳った化粧料に配合される成分である(特許文献3及び4)。美白作用は、拡散反射を高めて皮膚の透明感の向上に寄与するが、4-メトキシサリチル酸カリウムの鏡面反射率向上作用及びツヤ向上作用については知られていなかった。
【0047】
アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩の配合量は、任意に選択することができるが、例えば化粧料中に0.5質量%~5質量%の濃度で配合することができる。ツヤ向上作用を発揮する観点から、1質量%以上が好ましい。一方で、効果な薬剤であることから、ツヤ向上作用が発揮される限りにおいて配合量を少なくすることが望ましく、3質量%以下で配合することが好ましい。ツヤ向上作用を発揮しつつ、配合量を少なくすることから、1質量%~3質量%、例えば1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、又は3質量%で配合することが好ましい。
【0048】
皮膚のツヤ向上剤は、トリメチルグリシンをさらに含んでいてもよい。これにより、皮膚のツヤをさらに向上させることができる。トリメチルグリシンは、保湿剤として化粧料に配合されることが多い(特許文献5及び6)。一方で、本発明者らの試験により、トリメチルグリシンは、角層平滑化効果を有さず、ツヤ向上作用は有さなかった(図9)。本発明者らが、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩として4-メトキシサリチル酸カリウムと、トリメチルグリシンとを配合したところ、驚くべきことに、角層平滑化効果について相乗効果が見られた(図10)。4-メトキシサリチル酸カリウムは、高価な薬剤であることから、ツヤ向上作用を保ちつつ、使用量を抑えることが肝要である。
【0049】
トリメチルグリシンの配合量は、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩とのツヤ向上作用についての相乗作用を発揮させる限りにおいて任意に選択することができ、例えば化粧料中に1質量%~10質量%の濃度で配合することができる。アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩とのツヤ向上作用についての相乗効果を発揮させる観点から、2質量%以上が好ましく、2.5%質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、5質量%がさらにより好ましい。安定性、使用性の観点から、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明は、皮膚のツヤ向上剤又は鏡面反射率増加剤の製造のための、サリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上の使用にも関する。さらに別の態様では、ツヤ向上剤又は鏡面反射率増加剤の製造のための、サリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上、及びトリメチルグリシンの使用に関する。使用される具体的な薬剤及びその濃度は上に記載される通りである。
【0051】
本発明の一の態様では、皮膚のツヤ向上方法又は鏡面反射率増加方法であって、サリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上を適用することを含む方法に関する。この方法には、さらにトリメチルグリシンを適用することを含んでもよい。このような方法を適用する対象としては、任意の対象であってもよく、例えば皮膚のツヤ向上又は鏡面反射率の増加を望む対象であり、例えばくすみ、てかりなどの皮膚トラブルを有する対象、並びに皮膚の透明感を有する対象に適用することができる。使用される具体的な薬剤及びその濃度は上に記載される通りである。任意の方式で適用可能であるが、経皮、経口、経腸などで適用することもできるが、特に塗布による経皮適用が好ましい。
【0052】
本発明の別の態様では、美容方法であって、サリチル酸のアルカリ金属塩、アルコキシサリチル酸のアルカリ金属塩及びグリコール酸からなる群より選択される一種以上を適用することを含む方法に関する。この方法には、さらにトリメチルグリシンを適用することを含んでもよい。このような方法を適用する対象としては、任意の対象であってもよく、例えば皮膚のツヤ向上又は鏡面反射率の増加を望む対象、例えばくすみ、てかりなどの皮膚トラブルを有する対象、並びに皮膚の透明感を有する対象に適用することができる。使用される具体的な薬剤及びその濃度は上に記載される通りである。
【0053】
皮膚のツヤ向上剤としては、特に限定されないが、化粧水、乳液、美容液、クリーム等が挙げられるし、これらの化粧料に配合されてもよい。また、医薬品、医薬部外品などに配合することもでき、特に皮膚外用剤に配合することができる。これらの化粧料に一般に添加できる薬剤、例えば保湿剤、美白剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、着色剤、香料、水、溶媒、防腐剤、保存剤、pH調整剤、ゲル化剤、その他活性成分を含むことができる。
【0054】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0055】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例
【0056】
[実施例1]皮膚のツヤの評価
肌光沢測定装置SAMBA FACE(Bossa Nova Technologies社製)を用いて、何も塗布していない28名の被験者を対象として、ツヤのある頬、テカリがある頬、透明感がある頬及びくすみがある頬の拡散反射率及び鏡面反射率を求めた。このとき、照射光源の前面及び受光カメラの前部に、それぞれ偏光フィルターを設置した。ここで、受光カメラの前部における偏光フィルターの偏光方向が照射光源における偏光フィルターの偏光方向と平行又は垂直な方向になるようにして、平行偏光画像及び直交偏光画像を取得し、式(1)及び(2)から、拡散反射率及び鏡面反射率を求めた。また、頬のツヤ、テカリ、透明感、くすみの分類は、複数の美容技術者の視覚に基づき、官能評価することにより決定した。
【0057】
なお、偏光フィルターの偏光方向と平行(又は垂直)な方向とは、偏光フィルターを通過した偏光が皮膚の表面で偏光方向を変化させずに反射した場合の偏光方向と平行(又は垂直)な方向を意味する。
【0058】
図3に、拡散反射率に対して鏡面反射率をプロットし、その被験者の官能評価の結果を併せて表示した。
【0059】
図3から、ツヤのある頬は、拡散反射率が30%以上であると共に、鏡面反射率が12%以上であることがわかる。
【0060】
[実施例2]年代別の被験者におけるツヤの評価
肌光沢測定装置SAMBA FACE(Bossa Nova Technologies社製)を用いて、何も塗布していない20、30代、40、50代及び60、70代のそれぞれ20名の被験者を対象として、頬の拡散反射率及び鏡面反射率を、実施例1と同様にして、求めた。
【0061】
図4に、拡散反射率に対して鏡面反射率をプロットし、その被験者の年代を併せて表示した。
【0062】
[実施例3]化粧料の塗布によるツヤの変化
[化粧水の調製]
水(残余)、エタノール(5質量%)、グリセリン(10質量%)、ジプロピレングリコール(10質量%)、ポリオキシエチレン(10)メチルグルコシド(1質量%)、エリスリトール(1質量%)、トレハロース(1質量%)、ヒアルロン酸ナトリウム(0.1質量%)、ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(1質量%)、カルボキシビニルポリマー(0.1質量%)、苛性カリ(適量)、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(0.2質量%)、ジイソステアリン酸ポリグリセリル(0.1質量%)、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(0.2質量%)、イソステアリルアルコール(0.1質量%)、イソステアリン酸(0.1質量%)、エデト酸三ナトリウム(適量)、フェノキシエタノール(適量)及び香料(適量)を混合し、化粧水を得た。
【0063】
[乳液の調製]
水(残余)、エタノール(5質量%)、グリセリン(4質量%)、ジプロピレングリコール(5質量%)、ヒアルロン酸ナトリウム(0.1質量%)、カルボキシビニルポリマー(0.1質量%)、キサンタンガム(0.1質量%)、苛性カリ(適量)、イソステアリン酸(0.5質量%)、ステアリン酸(0.5質量%)、ベヘニン酸(0.5質量%)、自己乳化型モノステアリン酸グリセリル(1質量%)、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン(1質量%)、ベヘニルアルコール(1質量%)、ワセリン(3質量%)、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット(5質量%)、オレフィンオリゴマー(3質量%)、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(2質量%)、エデト酸三ナトリウム(適量)、メタリン酸ソーダ(適量)、フェノキシエタノール(適量)及び香料(適量)を混合し、乳液を得た。
【0064】
被験者の頬に化粧水及び乳液を塗布すると、物理化学的な作用により、一見ツヤが増したと感じられた。
【0065】
肌光沢測定装置SAMBA FACE(Bossa Nova Technologies社製)を用いて、何も塗布していない10名の被験者を対象として、頬の拡散反射率及び鏡面反射率を、実施例1と同様にして、求めた。次に、被験者の頬に化粧水及び乳液を塗布した後、上記と同様にして、頬の拡散反射率及び鏡面反射率を求めた。化粧水及び乳液を塗布する前後の拡散反射率に対する鏡面反射率の関係を図5に示す。また、化粧水及び乳液を塗布する前後の鏡面反射率の変化を図6に示す。
【0066】
図6から、化粧水及び乳液を塗布することにより、頬の鏡面反射率が増大することがわかる。化粧水及び乳液の塗布の前後で拡散反射率の変化は少ない一方で、鏡面反射率は塗布後に増加する傾向がある。化粧水や乳液は、皮膚に潤いを与える結果、角層表面の凹凸を一時的に平滑化するため、鏡面反射率が増加すると考えられる。一方で、化粧水や乳液などを塗布していない状態で、鏡面反射率を増加できる薬剤の探索を可能にする指標について下記の通り検討した。
【0067】
[実施例4]皮膚の鏡面反射率に相関する指標の探索
肌光沢測定装置SAMBA FACE(Bossa Nova Technologies社製)を用いて、皮膚外用剤を塗布していない20、30代、40、50代及び60、70代のそれぞれ20名の被験者を対象として、頬の拡散反射率及び鏡面反射率を求めた。
【0068】
一方、ポスト・イット(3M社製)を用いて、被験者の頬から角層細胞を剥離した。次に、スライドガラスに両面テープを貼付した後、剥離した角層細胞をスライドガラスに転写した。さらに、3CCDリアルカラーコンフォーカル顕微鏡OPTELICS H1200A(レーザーテック社製)に装着されているAFMを用いて、5個の角層細胞の算術平均粗さSaを測定し、平均値を求めた。
【0069】
図7に、角層細胞の算術平均粗さSaに対する鏡面反射率の関係を示す。
【0070】
図7から、角層細胞の算術平均粗さSaと鏡面反射率との間の相関係数が-0.222であり、負の相関が見られることがわかる。すなわち、角層細胞の算術平均粗さSaが低下することで、鏡面反射率が向上することが判明した。そこで、角層細胞の算術平均粗さSaを指標として用い、皮膚の鏡面反射率向上剤を探索した。
【0071】
[実施例5] 鏡面反射率向上剤のスクリーニング
ポスト・イット(3M社製)を用いて、被験者の頬から角層細胞を剥離した。次に、スライドガラスに両面テープを貼付した後、剥離した角層細胞をスライドガラスに転写した。さらに、3CCDリアルカラーコンフォーカル顕微鏡OPTELICS H1200A(レーザーテック社製)に装着されているAFMを用いて、5個の角層細胞の算術平均粗さSaを測定し、平均値を求めた。次に、角層細胞に候補試料100μLを滴下した後、37℃で30分間インキュベーションした。さらに、上記の5個の角層細胞の算術平均粗さSaを同様に測定し、平均値を求めた。候補試料が塗布されていない角層細胞の表面粗さに対して、前記試料が塗布された角層細胞の表面粗さが有意に減少している場合に、前記試料が皮膚の鏡面反射率を向上させることが可能であると判定した。
【0072】
候補試料として、化粧品素材9種についてスクリーニングを行った結果、4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)、サリチル酸ナトリウム、及びグリコール酸を鏡面反射率向上剤としてスクリーニングすることができた。スクリーニングにより得られた候補試料を下記の処方でさらに分析を行った。
【0073】
[試料の調製1]
0質量%、0.1質量%、1.0質量%、3.0質量%、及び10.0質量%の濃度の4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)の候補試料を調製した。
【0074】
候補試料を添加前後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を図8に示す。4-メトキシサリチル酸カリウムは、3.0質量%まで用量依存的に算術平均粗さSaの減少率が増加し、角層細胞の表面が平滑化していることが示される。これにより、鏡面反射率の向上が期待できる。なお、4-メトキシサリチル酸カリウムは、美白効果を有する化合物であることから、透明度と、鏡面反射率の両方を増加することにより、ツヤ向上剤として作用できる。
【0075】
[試料の調製2]
0質量%、5質量%及び10質量%の濃度のトリメチルグリシン(TMG)の候補試料を調製した。
【0076】
候補試料を添加前後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を図9に示す。トリメチルグリシンは、どの濃度においても算術平均粗さSaの減少率に差はなかった。
【0077】
[試料の調製3]
上記試料の調製1に加えて、1.0質量%の濃度の4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)及び1質量%の濃度のトリメチルグリシン(TMG)、1.0質量%の濃度の4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)及び3質量%の濃度のトリメチルグリシン(TMG)、1.0質量%の濃度の4-メトキシサリチル酸カリウム(4-MSK)及び5質量%の濃度のトリメチルグリシン(TMG)を含む候補試料を調製した。
【0078】
候補試料を添加前後における角層細胞の算術平均粗さSaの変化率を図10に示す。1.0質量%の4-メトキシサリチル酸カリウムと比較すると、TMGをさらに添加した場合、用量依存的にSa減少率が増加した。トリメチルグリシン単独では、Sa減少率に影響がなかった一方で、4-メトキシサリチル酸カリウムと組み合わせると有意にSa減少率が増加しており、相乗効果であるといえる。
【0079】
[試料1-1の調製]
4-メトキシサリチル酸カリウム3質量%及び水97質量%を混合し、試料1-1を得た。
【0080】
[試料1-2の調製]
4-メトキシサリチル酸カリウム10質量%及び水90質量%を混合し試料1-2を得た。
【0081】
図11に、試料1-1を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す。ここで、図11には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaも併せて示す。
【0082】
図12に、試料1-1を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図12には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0083】
図12から、試料1-1は、水と比較して、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることができ、その結果、皮膚の鏡面反射率を向上させることができる。
【0084】
図13に、試料1-1、1-2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図13には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0085】
図13から、試料中の4-メトキシサリチル酸カリウムの濃度が3~10質量%であると、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることがわかる。
【0086】
[試料2の調製]
4-メトキシサリチル酸カリウム1質量%、トリメチルグリシン5質量%及び水94質量%を混合し、試料2を得た。
【0087】
図14に、試料2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す。ここで、図11には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaも併せて示す。
【0088】
図15に、試料2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図15には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0089】
図15から、試料2は、水と比較して、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることができ、その結果、皮膚の鏡面反射率を向上させることができる。なお、トリメチルグリシン単独では、皮膚の鏡面反射率が向上しないことを確認している。
【0090】
[試料3の調製]
サリチル酸ナトリウム3質量%及び水97質量%を混合し、試料3を得た。
【0091】
図16に、試料3を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す。ここで、図13には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaも併せて示す。
【0092】
図17に、試料3を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図17には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0093】
図17から、試料3は、水と比較して、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることができ、その結果、皮膚の鏡面反射率を向上させることができる。
【0094】
[試料4-1の調製]
グリコール酸4質量%及び水96質量%を混合し、試料4-1を得た。
【0095】
[試料4-2の調製]
グリコール酸40質量%及び水60質量%を混合し、試料4-2を得た。
【0096】
図18に、試料4-1を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す。ここで、図18には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaも併せて示す。
【0097】
図19に、試料4-1を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。
ここで、図19には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0098】
図19から、試料4-1は、水と比較して、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることができ、その結果、皮膚の鏡面反射率を向上させることができる。
【0099】
図20に、試料4-1、4-2を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図20には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0100】
図20から、皮膚外用剤中のグリコール酸の濃度が4~40質量%であると、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることがわかる。
【0101】
[試料5の調製]
グリコール酸2質量%、トリメチルグリシン5質量%及び水93質量%を混合し、試料5を得た。
【0102】
図21に、試料5を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaを示す。ここで、図23には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaも併せて示す。
【0103】
図22に、試料5を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率を示す。ここで、図22には、水を塗布する前後の角層細胞の算術平均粗さSaの減少率も併せて示す。
【0104】
図22から、試料5は、水と比較して、角層細胞の算術平均粗さSaを有意に減少させることができ、その結果、皮膚の鏡面反射率を向上させることができる。
【0105】
[実施例6]皮膚への適用試験
31歳~59歳の女性被験者60人を3群に分け、候補美容液を、入浴後1日1回、3ヶ月間、顔に適用した。適用開始前、適用開始後1ヶ月目、2ヶ月目、及び3ヶ月目において、アンケートを行った。また、同時に角層試料を取得して、肌理及び角層粗さを測定した。さらにSambaFaceにより鏡面反射率及び拡散反射率を測定しツヤを評価した。
【0106】
[候補美容液]
候補美容液として下記のものを用いた:
A:薬剤無配合の乳液状美容液(対照群)
B:1%4-メトキシサリチル酸カリウム+5%トリメチルグリシン配合の乳液状美容液(1%4-MSK+5%TMG群)
C:3%4-メトキシサリチル酸カリウム配合の乳液状美容液(3%4-MSK群)
乳液状美容液としては、下記の美容液を用いた:
(配合成分) (質量%)
エタノール 5%
グリセリン 2%
ジプロピレングリコール 4%
1,3-ブチレングリコール 2%
キサンタンガム 0.1%
イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1%
新油型モノステアリン酸グリセリル 2%
バチルアルコール 1%
ベヘニルアルコール 2.5%
メチルポリシロキサン 5%
硬化油 2.5%
ホホバ油 3%
エチルヘキサン酸セチル 3%
クエン酸 適量
クエン酸Na 適量
EDTA-3Na 適量
メチルパラベン 適量
水 残余
100%
【0107】
[アンケート]
アンケートの項目は、肌のツヤが良くなった:5点、やや良くなった:4点、変わらない:3点、やや悪くなった:2点、悪くなった:1点とし、その平均点を計算した。1ヶ月目、2ヶ月目、及び3ヶ月目の結果を図23に示す。
【0108】
[角層粗さ測定]
被験者の皮膚から、ポストイット(登録商標)(3M社)を用いて表面の角層試料を剥離した。実施例4に記載の方法に従い、算術平均粗さSaを測定し平均値を求め、適用開始前からの減少率の結果を図24に示す。
【0109】
[キメの測定]
被験者の皮膚から、ポストイット(登録商標)(3M社)を用いて表面の角層試料を剥離した。走査型電子顕微鏡(SEM)台のカーボンテープに転写し、SEMで撮影した。画像処理(Skin Res Technol 2014; 20: 299-306参照)を用いて、キメ画素数を測定した。結果を図25に示す。
【0110】
[ツヤの評価]
被験者に対し、実施例1に記載の方法を用いて、鏡面反射率及び拡散反射率を測定した。適用前の鏡面反射率及び拡散反射率に対する3ヶ月後の鏡面反射率及び拡散反射率の結果を図26に示す。
【0111】
アンケートの結果及びツヤの評価結果の両方において、1%4-MSK+5%TMG群及び3%4-MSK群の両方で、肌のツヤの改善が見られており、その改善度は、1%4-MSK+5%TMG群の方が優れていることが示された。また、角層粗さによるツヤの評価においても、同じ傾向が見られた。さらに、キメの測定結果から、1%4-MSK+5%TMG群及び3%4-MSK群の両方でキメが細かくなっているという結果を得た。鏡面反射率は、キメが荒くなることでも増加することが知られているが、1%4-MSK+5%TMG及び3%4-MSKは、それぞれキメを荒くすることなく鏡面反射率を増加できることが示された。
図1
図2
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