(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
F21S 41/255 20180101AFI20230424BHJP
F21S 41/663 20180101ALI20230424BHJP
F21S 41/143 20180101ALI20230424BHJP
F21V 5/04 20060101ALI20230424BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20230424BHJP
F21W 102/145 20180101ALN20230424BHJP
【FI】
F21S41/255
F21S41/663
F21S41/143
F21V5/04 400
F21V5/04 450
F21Y115:10
F21W102:145
(21)【出願番号】P 2021214117
(22)【出願日】2021-12-28
(62)【分割の表示】P 2017179694の分割
【原出願日】2017-09-20
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081433
【氏名又は名称】鈴木 章夫
(72)【発明者】
【氏名】本橋 和也
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-009778(JP,A)
【文献】特開昭63-306411(JP,A)
【文献】特開2017-146600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21S 43/00
F21V 5/04
F21Y 115/10
F21W 102/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光源から出射した光を投影する投影レンズを含む車両用灯具であって、前記投影レンズは正の屈折力を有する両凸レンズからなる第1レンズと、負の屈折力を有する両凹レンズからなる第2レンズと、正の屈折力を有する両凸レンズからなる第3レンズとを含むトリプレットレンズで構成され、
前記第1レンズ及び第3レンズは前記第2レンズよりも低分散の透光材料で構成され、前記第1レンズと前記第2レンズの第1レンズ間距離t1と、前記第2レンズと前記第3レンズの第2レンズ間距離t2と、前記投影レンズのレンズ総厚Tとが、0.03<t1/T<0.1、及び0.03<t2/T<0.1の関係にあることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記第1レンズ間距離t1と、前記第2レンズ間距離t2は相違する請求項
1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記投影レンズのFナンバーは1.0よりも小さい請求項1
または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記光源は複数の発光素子で構成され、各発光素子から出射される光を前記投影レンズで投影してそれぞれ対応する複数の照明領域を形成する請求項1ないし
3のいずれかに記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記複数の発光素子を個別に発光制御してADB配光制御を行う請求項
4に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に用いられる灯具に関し、特にADB(Adaptive Driving Beam)配光制御が可能な前照灯(ヘッドランプ)に適用して好適な車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプとして、自車両の前方領域の照明効果を高める一方で、当該前方領域に存在する先行車や対向車等の自車両の前方領域に存在する車両(以下、前方車両と称する)に対する眩惑を防止する配光を得るための手法の一つとして、ADB配光制御が提案されている。このADB配光制御では、車両位置検出装置によって前方車両を検出し、検出した前方車両が存在する領域の光量を低減あるいは消灯し、それ以外の広い領域を明るく照明する制御が行われる。
【0003】
近年ではこのADB配光制御はLED等の発光素子を光源とするヘッドランプにも適用されており、光源としての複数個のLEDからの光、すなわち各LEDのそれぞれの照明領域を合成して自車両の前方領域を照明するための配光を形成している。そして、前方車両を検出したときには、検出した前方車両に対応する照明領域のLEDを減光あるいは消灯する構成がとられている。
【0004】
このようなADB配光制御では、複数個のLEDから出射された白色光を投影レンズで自車両の前方領域に投影して複数の照明領域を形成し、これらの照明領域を適宜組み合わせて合成することで所要の照明領域を形成している。しかし、投影レンズによる球面収差、例えば色収差により、各照明領域の周縁部に光の分散が発現し、照明領域における視認性の低下が生じることがある。
【0005】
特許文献1には、投影レンズの球面収差、特に色収差を改善するために、凸レンズと凹レンズからなるダブレットレンズを採用し、これら凸レンズと凹レンズとの間に間隙を設けた投影レンズが提案されている。また、凸レンズと凹レンズの各面を非球面で構成した投影レンズも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の投影レンズは、色収差の改善には有効であるが、非点収差やコマ収差には必ずしも十分ではなく、これらの収差によって複数の照明領域のそれぞれの周縁部、ないしは合成された照明領域の周縁部の鮮鋭度が低下され、照明領域の境界があいまいになる。そのため、ADB制御を実行した場合に、減光あるいは消光した領域に隣接する照明領域の境界の光が前方車両に向けて照射されることがあり、前方車両を眩惑するおそれが生じる。
【0008】
本発明の目的は、照明領域の境界を明確にすることが可能な鮮鋭度の高い投影レンズを備えた車両用灯具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用灯具は、光源と、光源から出射した光を投影する投影レンズを含む車両用灯具であって、前記投影レンズは正の屈折力を有する両凸レンズからなる第1レンズと、負の屈折力を有する両凹レンズからなる第2レンズと、正の屈折力を有する両凸レンズからなる第3レンズとを含むトリプレットレンズで構成され、第1レンズ及び第3レンズは第2レンズよりも低分散の透光材料で構成され、第1レンズと第2レンズの第1レンズ間距離t1と、第2レンズと第3レンズの第2レンズ間距離t2と、投影レンズのレンズ総厚Tとが、0.03<t1/T<0.1、及び0.03<t2/T<0.1の関係にある。
【0010】
本発明の車両用灯具の好ましい形態として、前記光源は複数の発光素子で構成され、各発光素子から出射される光を前記投影レンズで投影してそれぞれ対応する複数の照明領域を形成する。また、前記複数の発光素子を個別に発光制御してADB配光制御を行う構成とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トリプレットレンズで構成される投影レンズの、第1レンズと第2レンズの第1レンズ間距離t1と、第2レンズと第3レンズの第2レンズ間距離t2と、投影レンズのレンズ光軸上のレンズ総厚Tとを所定の関係式を満たすように設計することにより、投影レンズの球面収差を抑制し、鮮鋭度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用したヘッドランプの概略縦断面図。
【
図4】凸レンズと凹レンズの各面の設計式と設計値。
【
図5】LEDチップから出射される光を合成した配光パターン図。
【
図6】投影レンズの各部の寸法を説明する概念図と、実施形態のレンズのスポット半径の測定値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明を、ADB配光制御を適用した自動車のヘッドランプHLに適用した概念構成の縦断面図である。なお、以後の説明において、前又は後についてはヘッドランプHLにおける光源側を後、ヘッドランプHLの前方側を前と称する。
【0014】
前記ヘッドランプHLは、ランプボディ11と、透光性材料からなる前面カバー12とで形成されているランプハウジング1内にランプユニット2が内装されている。このランプユニット2は、内面が光反射面として形成されたユニットケーシング21に内装かつ支持された光源3と投影レンズ4を有しており、光源3から出射した光を投影レンズ4により自動車の前方領域に照射して所望の配光を得るように構成されている。
【0015】
図2は前記投影レンズ4を前方から見たときの透視的な概略図であり、
図1にも示したように、前記光源3はヒートシンク32に支持されている基板31に複数個の発光素子30、ここでは9個の白色光を発光するLED(発光ダイオード)チップ301~309が搭載されている。これらのLEDチップ301~309は、上下二段に、すなわち上段には4個のLEDチップ301~304が、下段には5個のLEDチップ305~309がそれぞれ水平方向に配列された状態で搭載されている。これらのLEDチップ301~309が発光したときに、それぞれから出射される光は直接、あるいは前記ユニットケーシング21の内面で反射されて投影レンズ4に向けられる。
【0016】
図1に示したように、前記LEDチップ301~309は基板31を通して発光回路5に接続されており、この発光回路5によって個別に発光、消光、さらには発光光度が変化できるように制御される。前記発光回路5には運転者が操作する照明スイッチ51が接続されており、この照明スイッチ51により、ロービーム配光、ハイビーム配光、ADB配光が切り替え設定できるように構成されている。また、この発光回路5はADB制御を実行するための車載カメラ52が接続されており、当該車載カメラ52で撮像した自動車の前方画像から前方車両を検出し、当該前方車両を眩惑しない配光制御を実行するように構成されている。
【0017】
図3に示すように、前記投影レンズ4はトリプレットレンズで構成されており、ランプ前側から順に、正の屈折力を有する両凸レンズからなる第1レンズ41と、負の屈折力を有する両凹レンズからなる第2レンズ42と、正の屈折力を有する両凸レンズからなる第3レンズ43とで構成されている。その上で、これら第1レンズ41~第3レンズ43は同軸配置されるとともに、前記第1レンズ41と第2レンズ42との間、及び第2レンズ42と第3レンズ43との間にはレンズ光軸Lxに沿った方向の間隙が確保されている。そして、この投影レンズ4のランプ後側の焦点Foの近傍に前記光源3、すなわち前記各LEDチップ301~309が配設されている。
【0018】
ここで、
図6を参照して後述するが、第1レンズ41と第2レンズ42のレンズ光軸上でのレンズ間距離を第1レンズ間距離t1とし、第2レンズ42と第3レンズ43のレンズ光軸Lx上でのレンズ間距離を第2レンズ間距離t2とする。また、レンズ光軸Lx上における第1レンズ41の第1面S1から第3レンズ43の第6面S6までの距離(寸法)を投影レンズ4のレンズ総厚Tとする。
【0019】
前記投影レンズ4を構成している第1レンズ41ないし第3レンズ43は樹脂あるいはガラス等の透光材料で構成されているが、第1レンズ41と第3レンズ43は第2レンズ42よりも低屈折率で低分散(高アッベ数)の透光材料で形成されている。例えば、第1レンズ41と第3レンズ43はクラウンガラスで形成され、第2レンズ42はフリントガラスで形成される。あるいは、第1レンズと第3レンズはPMMA(アクリル樹脂)で形成され、第2レンズ42はポリカーボネート樹脂で形成される。
【0020】
前記投影レンズ4は、色収差、非点収差、コマ収差を低減するために、第1レンズ41の前面(第1面)S1と後面(第2面)S2、第2レンズ42の前面(第3面)S3と後面(第4面)S4、第3レンズ43の前面(第5面)S5と後面(第6面)Sのうち、少なくとも第1面S1から第5面S5は非球面に設計されている。なお、この実施形態では第1面S1から第6面S6の全てを
図4に示す非球面定義式(1)に基づいて非球面に設計されている。ここで、zはサグ量、rは光軸からの径方向寸法、Rは曲率半径、kはコーニック定数、α
1~α
2は非球面係数である。
【0021】
以上の構成の投影レンズ4を備える実施形態のヘッドランプHLでは、運転者によるランプスイッチ51の切替え等によってロービーム配光制御あるいはハイビーム配光制御に設定される。ロービーム配光制御のときには、発光回路5での制御により上段の4つのLEDチップ301~304が発光される。これらのLEDチップ301~304から出射された白色光は投影レンズ4により自動車の前方領域に照射され、
図5において、照明領域P1~P4が合成された配光、すなわちレンズ光軸Lxを通る水平線Hにほぼ沿ったカットオフラインよりも下側領域を照明するロービーム配光が形成される。
【0022】
ハイビーム配光制御のときには、発光回路5での制御によりさらに下段の5つのLEDチップ305~309が発光される。これらLEDチップ305~309の白色光は投影レンズ4により自動車の前方領域に照射され、照明領域P5~P9が合成された配光となる。この配光は前記したロービーム配光P1~P4と合成され、広い領域を照明するハイビーム配光が形成される。
【0023】
一方、運転者によってADB配光制御に設定されたときには、発光回路5は原則としてハイビーム配光の制御を行うとともに、車載カメラ52で撮像した画像に基づいて自動車の前方領域に存在する前方車両を検出する。そして、検出した前方車両と重なる照明領域、特に照明領域P5~P9と重なる領域に対応したLEDチップを減光あるいは消光するように制御する。これにより、前方車両が属する照明領域が選択的に遮光されて前方車両に対する眩惑を防止する一方で、他の照明領域での視認性を高めたADB配光が実行される。
【0024】
ここで、各LEDチップ301~309から出射された光で自動車の前方の広い領域をより明るく照明するためには、投影レンズ4の焦点距離をなるべく短くし、かつFナンバー(=f/D)を小さくすることが好ましい。そのため、この実施形態では、
図6(a)に示すように、焦点距離fを57mm、レンズ径Dを67mmに設計している。これにより、Fナンバーはほぼ0.84となり、照明領域の照度を高めることができる。
【0025】
一方、この投影レンズ4において焦点距離fをなるべく短くするためには、第1レンズ41と第3レンズ43の正の屈折力をより大きくし、また第1レンズ間距離t1と第2レンズ間距離t2を大きくする必要がある。しかし、このように第1レンズ間距離t1と第2レンズ間距離t2を大きくすると、第2レンズ42の負の屈折力を大きくする必要が生じ、この屈折力を大きくすることにより非点収差、あるいは高次のコマ収差が顕著になり易く、投影レンズ4の鮮鋭度が劣化する。
【0026】
投影レンズにおける色収差、あるいは非点収差やコマ収差が顕著になると、光源から出射されて自動車の前方に投影される光源像にいわゆる「ぼけ」が生じ、集光される光のスポット径が大きくなる。そのため、本発明のようなランプユニット2の場合には、
図5に示した各照明領域P1~P9の斜線を付した周辺部、特にレンズ光軸Lxから離れた辺部において鮮鋭度が低下し、各照明領域の境界があいまいになり、視認性の低下や配光品質の低下が目立ち、かつ前方車両を眩惑するおそれが生じる。
【0027】
そこで、投影レンズ4の第1面S1~第6面S6を前記のように設計した上で、前記した第1レンズ間距離t1と第2レンズ間距離t2を変化させながら鮮鋭度の変化を測定した。ここでは、投影レンズ4の前側、すなわち
図6(a)の左側から所定の光束径の光を入射し、右側の焦点位置Foに集光する光のスポット半径を測定した。すなわち、スポット半径が小さくなるほど鮮鋭度が高くなるからである。なお、ここでは第1レンズ間距離t1と第2レンズ間距離t2を等しくし、両者共通のレンズ間距離tとして測定している。
【0028】
測定によると、
図6(b)に示すように、レンズ総厚Tに対するレンズ間距離tの比、すなわちt/Tが0.03<t/T<0.1の範囲ではスポット半径をほぼ25μm以下にできることが判る。すなわち、鮮鋭度の高い投影レンズが得られる。
【0029】
t/Tをこれよりも大きくするとスポット半径が増大し、投影レンズ4の鮮鋭度が低下する。一方、t/Tが0.03よりも小さくなると、隣接するレンズが接近して互いに干渉し、レンズ光軸外や瞳端の光が通らなくなり、スポットに集光しなくなる。したがって、この理由によっても投影レンズ4の鮮鋭度が低下する。
【0030】
なお、図示は省略するが、t1とt2を相違させた場合においても、t1/Tとt2/Tを前記と同様に、0.03<t1/T<0.1及び0.03<t2/T<0.1を満たすように設定することにより、スポット半径を抑制し、鮮鋭度の高い投影レンズが得られる。
【0031】
このように第1レンズ間距離t1と、第2レンズ間距離t2について前記した関係を満たすように投影レンズ4を設計したことにより、
図5に示した各照明領域P1~P9の斜線を付した周辺部の鮮鋭度が向上し、各照明領域の境界が明確なものになる。これにより、照明領域での視認性が向上するとともに、照明領域の境界領域に存在する前方車両に対する眩惑を確実に防止することができる。
【0032】
以上説明した実施形態では、投影レンズのFナンバーが0.84の例を説明したが、前記したt/Tにかかわる条件式を満たすのであれば、Fナンバーが1.0よりも小さい投影レンズに適用することにより、投影レンズを大型化することなく、すなわちレンズ総厚やレンズ径を極端に大きくすることなく、鮮鋭度を改善することができる。
【0033】
本実施形態においては、第1面から第6面の全てを非球面に設計した例を説明したが、本発明では、少なくとも第1面から第5面が非球面であればよく、したがって第6面は球面であっても良い。また、第1レンズと第3レンズの凸レンズ、及び第2レンズの凹レンズは両面が同じ方向に湾曲しているメニスカスレンズの場合でも本発明を適用することができる。
【0034】
本実施形態は光源を9個のLEDチップで構成してADB配光を形成した例を示したが、このADB配光に限られるものではなく、LEDチップの個数や照明領域の個数、さらには個々の照明領域のパターン形状は任意に設定することができる。また、光源として、MEMS(micro electro mechanical systems)ミラーアレイを用いたヘッドランプに適用することもできる。
【符号の説明】
【0035】
HL ヘッドランプ
1 ランプハウジング
2 ランプユニット
3 光源
4 投影レンズ
5 発光回路
41 凸レンズ(第1レンズ)
42 凹レンズ(第2レンズ)
43 凸レンズ(第3レンズ)
301~309 LEDチップ(発光素子)
S1~S6 第1面~第6面
t1,t2 レンズ間距離
T レンズ総厚