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特許7267419防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品
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  • 特許-防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】防曇塗料組成物及び防曇塗膜ならびに防曇物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230424BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20230424BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021525746
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048372
(87)【国際公開番号】W WO2021140931
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020003244
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020102957
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】竹井 工貴
(72)【発明者】
【氏名】重松 遥
(72)【発明者】
【氏名】西井 健太郎
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253242(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092544(WO,A1)
【文献】特開2019-019253(JP,A)
【文献】特開2019-065178(JP,A)
【文献】国際公開第2016/153050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B32B 9/00
C09K 3/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカの混合物である長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカと、を含有する、防曇塗料組成物であって、
前記長尺状コロイダルシリカと前記球状コロイダルシリカの固形分重量比が15:10~25:10である、防曇塗料組成物
【請求項2】
該球状コロイダルシリカが、塩基性球状コロイダルシリカ、酸性球状コロイダルシリカ、またはこれらの混合物である、請求項に記載の防曇塗料組成物。
【請求項3】
さらに界面活性剤を含む、請求項1または2に記載の防曇塗料組成物。
【請求項4】
さらに有機溶剤を含む、請求項1~のいずれかに記載の防曇塗料組成物。
【請求項5】
酸性長尺状シリカと塩基性長尺状シリカの混合物である長尺状シリカと、球状シリカとを含む防曇塗膜であって、
前記長尺状シリカと前記球状シリカの固形分重量比が15:10~25:10であり、
隣接した該長尺状シリカの間にある空隙に、該球状シリカが埋設されてなる、前記防曇塗膜。
【請求項6】
該球状シリカが、塩基性球状シリカ、酸性球状シリカ、またはこれらの混合物を含む、請求項に記載の防曇塗膜。
【請求項7】
基材と、請求項またはに記載の防曇塗膜とを含む、防曇物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇塗料組成物及びこれを用いて作製した防曇塗膜ならびに防曇物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前照灯などの照明装置は、光源と光源の前方に配置されたガラスやプラスチックなどで形成された透明部材とから主に構成されている。そして光源が発する光が透明部材を介して照明装置の外部および周辺部に照射される。このような照明装置では、透明部材の内側(光源側)に曇りが発生することがあり、照射光の強度が低下して安全性の問題を生じることがある。また曇りの生じた透明部材を介して照射された光は光量が少なく、美観の点でも問題となりうる。
【0003】
特開2016-169287号公報には、共重合体(A)と多官能性ブロックイソシアネート化合物(B)と界面活性剤(C)とからなる防曇剤組成物が開示されている。特開2016-169287号公報の防曇剤組成物は、従来からよく知られた防曇の仕組みを利用したものであり、防曇剤組成物を適用した防曇塗膜中に存在する界面活性剤(C)が、基材上の防曇塗膜に付着した水の表面張力を低下させ、瞬時に平滑な水膜を形成して、光の乱反射を防ぐことにより曇りを防止するというものである。一方特開2005-126647号公報には、水性媒体とネックレス状コロイダルシリカとシラン誘導体と界面活性剤とを含む防曇剤が開示されている。特開2005-126647号公報では、水性媒体中に分散させたときのpHが8~11(すなわちアルカリ性)のネックレス状コロイダルシリカを使用している。特開2005-126647号公報の防曇剤は、塗膜を形成した基材の表面をコロイダルシリカが被覆することで防曇効果を発揮するものである。さらに特開2019-19253号公報は、水垂れ跡などの外観変化を引き起こすことなく、長期にわたり防曇効果を発揮する、酸性長尺状コロイダルシリカとpH調整用長尺状コロイダルシリカとを含有する防曇塗料組成物を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2016-169287号公報に開示されている界面活性剤を主成分として含む防曇剤組成物による防曇塗膜上に水膜が形成されると、その界面活性剤が水に溶け出して、局所的に界面活性剤と水とが一緒に流れてしまうことがあった。この様な箇所が乾燥すると、防曇物品上に水垂れ跡が残ることがあった。また、特開2005-126647号公報のように、水性媒体中で強アルカリ性を呈するコロイダルシリカを防曇剤として使用すると、理由は定かではないが、基材を被覆していたコロイダルシリカが水と共に流れてしまい、防曇物品上に水垂れ跡が残ることがあった。特開2019-19253号公報の防曇塗料組成物は、外観変化が少ない効果的な防曇塗膜を形成することができるが、特開2019-19253号公報の防曇塗膜に水蒸気が付着し、これが乾燥する過程で、塗膜が白化する現象が見られる場合があった。塗膜の白化は一時的なものであり、塗膜が完全に乾燥すれば白化はなくなるものである。しかしながら、当該防曇塗膜を、自動車前照灯や、信号機等のような安全性が最重要視される製品に使用するには、やや難があった。
そこで本発明は、水蒸気が付着しても白化しない防曇塗膜を形成することができる防曇塗料組成物ならびに水垂れ跡などの外観変化をほぼ引き起こすことなく、長期にわたり防曇効果を発揮することができる防曇塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態における防曇塗料組成物は、長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカと、を含有することを特徴とする。
本発明の他の実施形態は、長尺状シリカと、球状シリカとを含む防曇塗膜であって、隣接した該長尺状シリカの間にある空隙に、該球状シリカが埋設されてなる、防曇塗膜である。
本発明のさらに他の実施形態は、基材と、本発明の他の実施形態の防曇塗膜とを含む、防曇物品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の防曇塗料組成物を用いて形成した防曇塗膜は、瞬時に平滑な水膜を形成して光の乱反射を防ぎ防曇性能に優れる。本発明の防曇塗膜は、乾燥後の水垂れ跡などの外観変化を生じにくい。また本発明の防曇塗膜は、水蒸気の付着に伴う白化現象がほとんど見られず、常時透明な外観を維持することができる。本発明の防曇塗料組成物を利用した防曇物品(たとえば照明装置)は、外観変化を生じにくく、安定した光量を長期にわたり維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、基材の表面に長尺状シリカが配置した塗膜の様子を表した模式図である。
図2図2は、隣接した長尺状シリカの間にある空隙に球状シリカが埋設されてなる実施形態の防曇塗膜が、基材表面に形成されている様子を表した模式図である。
図3図3は、実施形態の防曇塗膜上を水が覆い、水膜が形成した様子を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を以下に説明する。本発明の一の実施形態は、長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカと、を含有する、防曇塗料組成物である。
【0009】
本実施形態において、防曇塗料組成物とは、ガラスやプラスチックなどの基材上に塗膜を形成して、水蒸気が原因の水滴による曇りを発生しにくくすることができる組成物のことである。基材で隔てられた両空間に温度差がある場合、高温側の湿気が基材表面上に結露して、水滴を形成する。この水滴が光の乱反射を起こして曇りが発生する。基材上における水滴の形成を防止する仕組みとして、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にするメカニズムと、基材表面に付着した水分を瞬時に吸収するメカニズムがあることが知られている。本実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に付着した水分を瞬時に水膜にして、水滴の形成を防止することにより基材の曇りを防ぐ防曇塗膜を形成する。
【0010】
本実施形態の防曇塗料組成物は、長尺状コロイダルシリカを含む。コロイダルシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ、SiO)またはその水和物のコロイド溶液(または分散液)である。分散媒の性質により水系のコロイダルシリカと、有機溶媒系のオルガノシリカゾルとがあるが、実施形態で特に好適に用いられるシリカはコロイダルシリカである。コロイダルシリカを形成する球状のシリカの一次粒子径は通常10~300nm程度であり、これが凝集等してさらに大きな二次粒子を形成している場合がある。本実施形態で好適に用いられるコロイダルシリカは、長尺状コロイダルシリカである。長尺状コロイダルシリカとは、シリカの一次粒子同士が数十個から数万個共有結合して、紐状、筒状または棒状等の長い形状を形成した長尺状シリカのコロイド溶液(あるいは分散液)のことである。このような長尺状シリカのコロイド溶液(あるいは分散液)であるコロイダルシリカとして、鎖状コロイダルシリカやパールネックレス状コロイダルシリカが知られている。長尺状コロイダルシリカは、基材の表面上に広がって吸着し、被膜を形成することができるため、防曇塗料組成物の成分として好ましく使用することができる。なお、水を分散媒としてシリカを分散させたコロイダルシリカには、シリカの表面の状態の違いに応じて、酸性、中性、塩基性のものが存在する。本実施形態で好適に用いられる長尺状コロイダルシリカとして、pH1~3の強酸性を示す酸性長尺状コロイダルシリカ、pH4~9の弱酸性~中性~弱アルカリ性を示す中性長尺状コロイダルシリカ、pH10~14を示す塩基性長尺状コロイダルシリカが挙げられ、これらを単独で用いることもできるし混合して用いることもできる。なお、複数のコロイダルシリカを混合して用いる場合は、混合したコロイダルシリカのpHが中性~弱アルカリ性(pH7~10程度)となるように混合することが好ましい。本実施形態の一成分として好適に用いられる長尺状コロイダルシリカは、pH1~3の強酸性を示す酸性長尺状コロイダルシリカと、塩基性長尺状コロイダルシリカとを混合した長尺状コロイダルシリカ混合物である。実施形態に使用できる長尺状コロイダルシリカとして、ST-OUP、ST-UP、ST-PS-S、ST-PS-M、ST-PS-SO、ST-PS-MO(いずれも日産化学(株))等の市販品を挙げることができる。
【0011】
実施形態の防曇塗料組成物に、酸性長尺状コロイダルシリカと、塩基性長尺状コロイダルシリカとを混合した長尺状コロイダルシリカ混合物を用いる場合、塩基性長尺状コロイダルシリカは、先に説明した酸性長尺状コロイダルシリカのpHを高めて弱酸性~弱アルカリ性に調整するために用いられる。酸性長尺状コロイダルシリカは、分散媒が蒸発して形成した後に塗膜を形成し、効果的に水膜を形成し防曇効果を発揮することができるので、好ましく用いられる。しかしコロイダルシリカの酸性が強すぎると、防曇塗料組成物の性状が安定せずハンドリングが困難になりうる。また強酸性の防曇塗料組成物は塗布する基材(たとえば金属基材や所定のプラスチック基材等)を腐食させる可能性があり、適用する基材によっては使用できない場合もある。そこで塩基性長尺状コロイダルシリカを混合して長尺状コロイダルシリカ全体のpHを適切に調整する。なお、pHを調整する目的として、無機塩基や有機塩基などの種々のアルカリ性化合物を使用することもできるが、pHの調整が比較的簡便な塩基性長尺状コロイダルシリカを使用することが好ましい。
【0012】
酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカは、コロイダルシリカ混合物のpHが中性~弱アルカリ性(pH7~10程度)となるように混合することが好ましい。コロイダルシリカ混合物のpHを中性~弱アルカリ性にするためには、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカとの固形分重量比が、2.5:10~90:10となるように混合するとよい。固形分重量比とは、各コロイダルシリカに実質的に占める固形分の重量の割合である。なお、上記の通り、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカは、混合物のpHが中性~弱アルカリ性(pH7~10程度)となるように混合することが特に好ましいが、後述する球状コロイダルシリカをさらに混合することによりpHを調整することもできる。
【0013】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらに球状コロイダルシリカを含む。球状コロイダルシリカも、上記の長尺状コロイダルシリカと同様、二酸化ケイ素(シリカ、SiO2)またはその水和物のコロイド溶液(あるいは分散液)である。シリカの一次粒子径は通常10~300nm程度であり、これが凝集等してさらに大きな二次粒子を形成している場合があるが、実施形態で用いられる球状コロイダルシリカの大きさは、大きくても100nm程度であることが好ましい。球状コロイダルシリカは、水中で概ね球形の粒子形状を有している。なお、上記の通り、水を分散媒としてシリカを分散させたコロイダルシリカには、シリカの表面の状態の違いに応じて、酸性、中性、塩基性のものが存在する。本実施形態で好適に用いられる球状コロイダルシリカとして、pH1~3の強酸性を示す酸性球状コロイダルシリカ、pH4~9の弱酸性~中性~弱アルカリ性を示す中性球状コロイダルシリカ、pH10~14を示す塩基性球状コロイダルシリカが挙げられ、これらを単独でも用いることもできるし混合して用いることもできる。実施形態では、球状コロイダルシリカとして、特に塩基性球状コロイダルシリカ、酸性コロイダルシリカ、または塩基性コロイダルシリカと酸性コロイダルシリカとの混合物を用いることが好ましい。球状コロイダルシリカは、上記の長尺状コロイダルシリカ混合物のpHを弱酸性~弱アルカリ性に調整するように用いることが好ましい。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとを含有する実施形態の防曇塗料組成物は、乾燥白化が起こりにくい防曇塗膜を形成することができる。なお、長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとの固形分重量比が、10:10~40:10、好ましくは15:10~30:10、さらに好ましくは20:10~25:10となるように混合することが特に好ましい。このような割合で配合した防曇塗料組成物は、特に造膜性に優れており、塗膜の表面に割れやハジキ等が見られない均質な塗膜を得ることができる。実施形態に使用できる球状コロイダルシリカとして、ST-N、ST-NXS、ST-S、ST-XS、ST-O、ST-OXS(いずれも日産化学(株))等の市販品を挙げることができる。なお、実施形態の防曇塗料組成物のpHが、防曇塗料組成物を塗布する基材に影響を及ぼさない範囲(通常は弱酸性~弱アルカリ性の範囲)となるように、上記の長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカは、如何なる組み合わせで混合してもよい。たとえば、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとを混合して用いるほか、塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカとの組み合わせ、中性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカの組み合わせ、塩基性長尺状コロイダルシリカと中性球状コロイダルシリカの組み合わせ、あるいは塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとの組み合わせ等、あらゆる組み合わせで混合することができる。
【0014】
実施形態の防曇塗料組成物は、さらに界面活性剤を含んでいてよい。実施形態の防曇塗料組成物において、界面活性剤は基材表面上への各コロイダルシリカの広がりを補助し、塗工作業を容易にするために用いられる。界面活性剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。アニオン性界面活性剤として、たとえば、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンサルフェート塩、パーフルオロアルキル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルキル基を含有するカルボン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するスルホン酸塩型、パーフルオロアルケニル基を含有するカルボン酸塩型等のアニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。カチオン性界面活性剤として、たとえば、エタノールアミン類のアミン塩、ラウリルアミンアセテート、トリエタノールアミンモノ蟻酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩等のアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有する4級アンモニウム塩型等のカチオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。
【0015】
ノニオン性界面活性剤として、たとえば、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート等のポリオキシエチレンアシルエステル類、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のリン酸エステル類、シュガーエステル類、セルロースエーテル、ポリエーテル変性シリコーンオイル等のシリコーン類、パーフルオロアルキル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルキル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルキル基を含有するオリゴマー型、パーフルオロアルケニル基を含有するエチレンオキシド付加物型、パーフルオロアルケニル基を含有するアミンオキサイド型、パーフルオロアルケニル基を含有するオリゴマー型等のノニオン性フッ素系界面活性剤類が挙げられる。両性界面活性剤として、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、ジメチルアルキルラウリルベタイン、ジメチルアルキルステアリルベタイン等の脂肪酸型両性界面活性剤、ジメチルアルキルスルホベタインのようなスルホン酸型両性界面活性剤、アルキルグリシン、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を含有するベタイン型の両性フッ素系界面活性剤類等を挙げることができる。本実施形態の界面活性剤として、上記のいずれの界面活性剤も好ましく用いることができる。界面活性剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して0.01~0.30重量部程度含まれていることが好ましい。
【0016】
さらに実施形態の防曇塗料組成物は、有機溶剤を含有していてよい。実施形態の防曇塗料組成物の主成分である、水を分散媒としたコロイダルシリカ混合物単独でも基材表面上に塗布して防曇塗膜を形成することができる。しかし、これにさらに有機溶剤が含まれていれば、塗膜形成時の水の乾燥が促進されるため、物品表面上により早く防曇塗膜を形成することが可能となる。実施形態で用いることができる有機溶剤は、水と相溶性を有するか、水と所定の範囲で混和する有機溶剤である。このような有機溶剤としてたとえば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド等)や、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、ニトロメタン、トリエチルアミンを挙げることができる。有機溶剤は、防曇塗料組成物100重量部に対して10~80重量部程度含まれていることが好ましい。
【0017】
本実施形態の好適な防曇塗料組成物は、まず長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカとを用意し、次いで必要に応じて界面活性剤および有機溶剤と混合して製造することができる。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカは、分散媒である水に特定の固形分割合で分散しており、長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカの固形分重量比が、10:10~40:10、好ましくは15:10~30:10、さらに好ましくは20:10~25:10となるように混合することができる。球状コロイダルシリカに対して長尺状コロイダルシリカの割合が多すぎると、後述の乾燥白化試験において白化が起こりやすくなり外観不良が起きやすくなる。球状コロイダルシリカに対して長尺状コロイダルシリカの割合が少なすぎると、造膜不良を起こしやすくなる。長尺状コロイダルシリカと球状シリカとの割合を適切に配合することで、造膜性に優れた防曇塗膜組成物を得ることができ、これにより均質で防曇性の高い防曇塗膜を形成できる。実施形態の防曇塗料組成物は、これらの成分のほか、塗料組成物に通常含まれている添加剤(たとえば染料、顔料、可塑剤、分散剤、防腐剤、つや消し剤、帯電防止剤、難燃剤)を適宜配合することができる。
【0018】
長尺状コロイダルシリカ、球状コロイダルシリカおよび場合により界面活性剤、有機溶剤を適切に配合した実施形態の防曇塗料組成物は、基材表面に塗布することができる。基材として、ガラス、プラスチック、金属などを挙げることができるが、実施形態の防曇塗料組成物は、特に透明プラスチック上に好適に塗布することができる。防曇塗料組成物の基材表面への塗布は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング方法により適宜行うことができる。塗布した防曇塗料組成物を加熱して、防曇塗膜を形成することができる。防曇塗料組成物の加熱は、水および含まれている場合は有機溶剤が蒸発するのに充分な温度まで加熱すればよい。使用する有機溶剤の種類にもよるが、通常は80~150℃、好ましくは100~150℃程度に加熱することで水及び有機溶剤を蒸発させることができる。防曇塗料組成物塗布物の加熱は、バーナーやオーブンなどの加熱装置による加熱のほか、ドライヤーなどの温風による加熱方法により行うことができる。このようにして、実施形態の防曇塗料組成物を基材に塗布し、加熱することにより水や有機溶剤が乾燥すると、基材表面上に広がった長尺状コロイダルシリカは長尺状シリカとなり、球状コロイダルシリカは球状シリカとなって被膜を形成する。こうして、実施形態の防曇塗料組成物を物品に適用することにより防曇塗膜を形成して、防曇物品を得ることができる。
【0019】
本発明の他の実施形態は、長尺状シリカと、球状シリカとを含む防曇塗膜である。実施形態の防曇塗膜において、隣接した長尺状シリカの間に空隙が存在し、当該空隙に球状シリカが埋設されていることを特徴とする。実施形態の防曇塗料組成物が、長尺状コロイダルシリカ混合物と球状コロイダルシリカとを含有することの技術的に有意な点は、図面を用いて以下に説明する。なお防曇塗膜の構造や、白化防止のメカニズムの理論は、必ずしも以下のものに拘泥するわけではない。
【0020】
図1は、長尺状コロイダルシリカのみを含有する防曇塗料組成物(従来品)で形成した防曇塗膜の様子を表す図面である。図1中、1は基材;2は長尺状シリカ;4は空隙;5は防曇塗膜(従来品)を表す。図1の防曇塗膜5においては、長い形状(たとえば筒状、棒状、紐状)の長尺状シリカ2が概ねその長さ方向が揃った状態で配置されているように描かれているが、実際の防曇塗膜5中では、長尺状シリカ2は必ずしも規則的に配置されているわけではない。図1において、比較的剛直な長い構造を有している長尺状シリカ2が、基材1上に配置されており、所々に空隙4が存在している。空隙4の大きさは、通常、数百ナノメートル~数マイクロメートル程度の大きさを有している。図1に表される防曇塗膜5に水蒸気が接触すると、防曇塗膜5の上に水膜が形成され、かつ空隙4の内部にまでが浸透することになる。水が乾燥する過程で、防曇塗膜5の表面上に形成された水膜は素早く乾燥するが、空隙4に入り込んだ水は若干乾燥が遅くなる。当該水の残った部分で光が散乱して乱反射し、防曇塗膜に白化が起こると考えられる。
【0021】
一方、図2は、長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカとを含有する防曇塗料組成物(本発明の実施形態)で形成した防曇塗膜の様子を表す図面である。図2中、1は基材;2は長尺状シリカ;3は球状シリカ;5は防曇塗膜である。図2の防曇塗膜5においては、長い形状(たとえば筒状、棒状、紐状)の長尺状シリカ2が概ねその長さ方向が揃った状態で配置されているように描かれているが、実際の防曇塗膜5中では、長尺状シリカ2は必ずしも規則的に配置されているわけではない。図2において、比較的剛直な長い構造を有している長尺状シリカ2が、基材1上に配置されており、隣接した長尺状シリカの間に所々に存在しうる空隙(数百ナノメートル~数マイクロメートル程度の大きさを有する。)に、空隙の大きさより小さい(数ナノメートル~数十ナノメートルの)球状シリカ3が埋設されている。球状シリカ3は、空隙を完全に埋めるように配置されているわけではないが、図2に示すように、空隙を概ねなくすように配置されていると考えられる。図2に表される防曇塗膜5に水蒸気が接触すると、防曇塗膜5の上に水膜が形成されるが、図2の防曇塗膜5には空隙がない、もしくは、あるとしても極めて小さいので、水蒸気が防曇塗膜5の内部にまで浸透しにくい。水が乾燥する過程で、防曇塗膜5の表面上に形成された水膜は素早く乾燥し、かつ光の乱反射が起こりうるポイントとなる防曇塗膜内部に浸透した水がほとんどないため、白化が見られないと考えられる。
【0022】
図3は、本発明の実施形態である、長尺状コロイダルシリカと、球状コロイダルシリカとを含有する防曇塗料組成物(本発明の実施形態)で形成した防曇塗膜と、水蒸気とが接触して、防曇塗膜表面上に水膜が形成した様子を表す図面である。図3中、1は基材;2は長尺状シリカ;3は球状シリカ;5は防曇塗膜;6は水;7は水が浸透しうる範囲である。図3の防曇塗膜5において、長尺状シリカ2と球状シリカ3が配置された様子が描かれているのは防曇塗膜5の上部分のみであり、下部分にはこの描画はないが、当該下部分にも上部分と同様に長尺状シリカ2と球状シリカ3の配置が形成されている。図3に表される防曇塗膜5に水蒸気が接触すると、防曇塗膜5の上に水膜(水6)が形成される。図3の防曇塗膜5には空隙がない、もしくは、あるとしても極めて小さいので、が防曇塗膜5の内部にまで浸透しにくい。そこで防曇塗膜5において水が浸透する範囲は、最大でも7で表される矢印の範囲のみとなり、防曇塗膜5の深部にまで水が達することがない。この後、水が乾燥する過程で、防曇塗膜5の表面上に形成された水膜(水6)は素早く乾燥し、光の散乱のポイントとなりうる防曇塗膜5の内部に浸透した水はほとんどないため、防曇塗膜5には白化が見られないと考えられる。
【0023】
上に説明したように、実施形態の防曇塗膜には、隣接した長尺状シリカが形成する空隙に球状シリカが埋設されているため、防曇塗膜が水蒸気に接触しても、水が防曇塗膜内部にまで浸透しにくい。防曇塗膜表面上に形成された水膜は直ちに乾燥し、防曇塗膜内部にも水が残りにくいため、光の散乱による乱反射を防止することができる。このため実施形態の防曇塗膜は白化が起こりにくい。なお、実施形態の防曇塗膜において、配置された長尺状シリカが、酸性長尺状シリカと塩基性長尺状シリカとを含み、隣接した長尺状シリカの間の空隙に埋設された球状シリカが、塩基性球状シリカ、酸性球状シリカ、あるいは塩基性球状シリカと酸性球状シリカの混合物を含んでいてよい。この実施形態において、酸性長尺状シリカとは、水に分散させると酸性を示す長尺状シリカのことである。また、塩基性長尺状シリカとは、水に分散させると塩基性を示す長尺状シリカのことである。さらに塩基性球状シリカとは、水に分散させると塩基性を示す球状シリカのことである。また酸性球状シリカとは、水に分散させると酸性を示す球状シリカのことである。
【0024】
本実施形態の防曇塗料組成物を基材に適用して防曇塗膜を形成することができる。そして実施形態の防曇塗膜を基材に有する防曇物品を得ることができる。実施形態の防曇物品として、たとえば、照明装置、前照灯、窓、レンズ、レンズカバー、モニター、モニターカバー等を挙げることができる。実施形態の防曇物品は、優れた防曇性能を有し、水垂れ跡の形成などの外観変化を引き起こさない。また実施形態の防曇物品に水蒸気が接触しても白化が生じないか、白化が非常に生じにくい。
【実施例
【0025】
(1)防曇塗料組成物の作製
酸性長尺状コロイダルシリカ(ST-OUP[固形分15%、水分散液]、日産化学(株))48.93重量部、塩基性長尺状コロイダルシリカ(ST-UP[固形分20%、水分散液]、日産化学(株))12.23重量部、塩基性球状コロイダルシリカ(ST-N[固形分20%、水分散液]、日産化学(株))10.49重量部、塩基性球状コロイダルシリカ(ST-NXS[固形分15%、水分散液]、日産化学(株))13.98重量部、界面活性剤(フタージェント150、フッ素系のアニオン系界面活性剤、(株)ネオス)0.03重量部、および有機溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル、日本乳化剤(株))14.34重量部を混合して、防曇塗料組成物を作製した(実施例1)。酸性長尺状コロイダルシリカ、塩基性長尺状コロイダルシリカ、2種類の塩基性球状コロイダルシリカST-NとST-NXS、2種類の酸性球状コロイダルシリカST-OとST-OXS、界面活性剤、有機溶剤の配合割合を種々変更し、実施例2~8の防曇塗料組成物をそれぞれ作製した。同様に、比較例1、2の防曇塗料組成物を作製した。各防曇塗料組成物の成分構成は、表1および表2に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
なお、表中の略号の意味は、以下の通りである:
ST-OUP:日産化学(株)商品名、BET法平均一次粒子径12nmの酸性シリカ(長尺状)の水分散液、固形分15%
ST-UP:日産化学(株)商品名、BET法平均一次粒子径12nmの塩基性シリカ(長尺状)の水分散液、固形分20%
ST-N:日産化学(株)商品名、BET法平均一次粒子系12nmの塩基性シリカの水分散液(球状)、固形分20%
ST-NXS:日産化学(株)商品名、シアーズ法平均一次粒子径5nmの塩基性シリカ(球状)の水分散液、固形分15%
ST-O:日産化学(株)商品名、BET法平均一次粒子径12nmの酸性シリカ(球状)の水分散液、固形分20%
ST-OXS:日産化学(株)商品名、シアーズ法平均一次粒子径5nmの酸性シリカ(球状)の水分散液、固形分10%
FT-150:(株)ネオス商品名、アニオン系界面活性剤
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0029】
表中の「長尺状シリカ/球状シリカ(固形分重量比)」とは、塗料組成物中に用いた長尺状コロイダルシリカ(混合物)と、球状コロイダルシリカ(混合物)の固形分の重量(すなわち、長尺状シリカ(混合物)と球状シリカ(混合物)の重量)のみを比較して、これらの比を計算した値である。たとえば、実施例1の防曇塗料組成物は、酸性長尺状コロイダルシリカST-OUPの固形分7.34重量部、塩基性長尺状コロイダルシリカST-UPの固形分2.45重量部、塩基性球状コロイダルシリカST-Nの固形分2.10重量部、塩基性球状コロイダルシリカST-NXSの固形分2.10重量部を含んでいるから、長尺状シリカ混合物と球状シリカ混合物の固形分の重量比は7/3(23.3/10)である。他の実施例および比較例についても同様に「長尺状シリカ/球状シリカ(固形分重量比)」の値を計算した。
【0030】
(2)防曇塗膜の作製
ポリカーボネート樹脂板基材上に、各防曇塗料組成物を塗布した。塗布は、バーコート法で行い、防曇塗料組成物が形成した後の防曇塗膜の厚さが1μmとなるように調整した。防曇塗料組成物が塗布された基材を110℃のオーブンに入れ15分間水と有機溶剤とを蒸発させ、防曇塗膜を形成した。こうして各防曇塗膜試験片を得た。
【0031】
(3)防曇塗料組成物の造膜性の評価
防曇塗膜試験片の表面を目視で観察した。均質な塗膜が得られるものについて「良」、均質であるが割れまたはハジキ等が僅かに見られる塗膜が得られるものについて「可」、表面に割れやハジキ等が多数見られ均質な塗膜が得られないものについて「不可」と記載した。
【0032】
(4)塗膜の防曇性の評価
60℃の温水浴の水面から高さ1cmの位置に防曇塗膜試験片を塗膜が下向きになるように配置して、塗膜に温水浴からの蒸気をあてた。1分間経過後に塗膜上に曇りが形成されているかを目視により観察した。塗膜の表面に曇りが生じていないものについて「曇りなし」、塗膜の表面に曇りが生じているものについて「曇りあり」と記載した。
【0033】
(5)塗膜の外観変化の評価
上記の塗膜の防曇性評価を行った後、防曇塗膜試験片を垂直に立てかけた状態で30分間維持して乾燥させた。その後防曇塗膜試験片上に水垂れ跡が形成されているか、目視により観察した。水垂れ跡が見られないものについて「タレなし」、水垂れ跡が認められるもののごく僅かであるものについて「タレ僅か」、水垂れ跡がはっきりと見られたものについて「タレあり」と記載した。
【0034】
(6)防曇塗膜の乾燥白化の評価
防曇塗膜表面から3センチメートル以内の距離から呼気を吹きかけ、防曇塗膜の外観の変化を目視により観察した。防曇塗膜表面に呼気を吹きかけた瞬間に、呼気に含まれる水蒸気が防曇塗膜を覆う。これが乾燥していく過程で、防曇塗膜が白く見えるかどうかを観察した。防曇塗膜が乾燥する過程で白化が見られないものについて「白化なし」、白化が認められるもののごく僅かであるものについて「白化僅か」、白化がはっきりと見られるものについて「白化あり」と記載した。
【0035】
酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとを配合した実施例1~4にかかる防曇塗料組成物は、いずれも割れやハジキなどのない防曇塗膜を形成することができた。これらの実施例にて形成された防曇塗膜は、優れた防曇性を有していた。また、防曇塗膜に水を接触させても水垂れ跡が生じることがなく、呼気を吹きかけて乾燥する過程で白化する現象も見られなかった。
【0036】
一方、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと酸性球状コロイダルシリカとを配合した実施例5~6にかかる防曇塗料組成物も、割れやハジキなどのない防曇塗膜を形成することができた。これらの実施例にて形成された防曇塗膜は、優れた防曇性を有していた。また、防曇塗膜に水を接触させても水垂れ跡が生じることがなく、呼気を吹きかけて乾燥する過程で白化する現象も見られなかった。
【0037】
実施例7の防曇塗料組成物は、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとを、長尺状シリカと球状シリカとの固形分重量比が40:10となるように配合したものである。本実施例の防曇塗料組成物は、割れやハジキなどのない防曇塗膜を形成することができた。また、防曇塗膜に水を接触させても水垂れ跡が生じることがなかった。本実施例の防曇塗膜に呼気を吹きかけて乾燥すると、僅かであるが白化が認められた。
【0038】
実施例8の防曇塗料組成物は、酸性長尺状コロイダルシリカと塩基性長尺状コロイダルシリカと塩基性球状コロイダルシリカとを、長尺状シリカと球状シリカとの固形分重量比が10:10となるように配合したものである。本実施例の防曇塗料組成物により形成した防曇塗膜は防曇性を有しており、これに呼気を吹きかけて乾燥する過程で白化する現象が見られなかった。ただし本実施例の防曇塗料組成物は、造膜性にやや難があり、防曇塗膜に水を接触させると水垂れ跡が僅かに認められた。
【0039】
これらの実施例の結果より、長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとを含有する防曇塗料組成物により得られた防曇塗膜は、防曇性が高く、防曇塗膜の乾燥白化がほぼ見られないものであることがわかる。長尺状コロイダルシリカと球状コロイダルシリカとの固形分重量比を適宜変えることにより、防曇塗料組成物の造膜性を向上させたり、得られる防曇塗膜の水垂れ跡の形成を防いだりすることができる。
【0040】
長尺状コロイダルシリカのみを配合し、球状コロイダルシリカが含まれていない比較例1の防曇塗料組成物による塗膜は、造膜性、防曇性、および塗膜の外観変化試験の評価はいずれも優れたものであった。しかしながら呼気の吹きかけ後の乾燥過程で明らかな白化が見られた。長尺状コロイダルシリカが含まれず、球状コロイダルシリカのみを配合した比較例2の防曇塗料組成物による塗膜は、塗膜表面で割れが発生し塗膜として成立しなかった。そこで、塗膜の防曇性、水垂れ跡、および乾燥白化性の評価は行わなかった。
【符号の説明】
【0041】
1:基材
2:長尺状シリカ
3:球状シリカ
4:空隙
5:防曇塗膜
6:水
7:水が浸透しうる範囲
図1
図2
図3