(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-21
(45)【発行日】2023-05-01
(54)【発明の名称】コバルトフリー層状正極材料及びその製造方法、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230424BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230424BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230424BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022513520
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2020132904
(87)【国際公開番号】W WO2021143373
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】202010054735.8
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】喬斉斉
(72)【発明者】
【氏名】江衛軍
(72)【発明者】
【氏名】許▲しん▼培
(72)【発明者】
【氏名】施澤涛
(72)【発明者】
【氏名】馬加力
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186933(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129376(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトフリー層状正極材料であって、
前記コバルトフリー層状正極材料がコアシェル構造であり、且つ前記コアシェル構造のシェルを形成する材料が窒化チタンを含み、前記コアシェル構造のコアを形成する材料がコバルトを含まず、且つ単結晶構造である、
ことを特徴とするコバルトフリー層状正極材料。
【請求項2】
前記コアを形成する材料がLiNi
xMn
yO
2であり、但し、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45である、
ことを特徴とする請求項1に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項3】
前記コアを形成する材料の粒径が1μm~5μmである、
ことを特徴とする請求項2に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項4】
前記シェルの厚みが50nm~500nmである、
ことを特徴とする請求項1に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項5】
前記コアシェル構造において、前記窒化チタンの含有量が0.13wt%~0.39wt%である、
ことを特徴とする請求項1に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項6】
コバルトフリー層状正極材料を製造する方法であって、
コア材料を提供するステップであって、前記コア材料がコバルトを含まず、且つ単結晶構造であるステップと、
前記コア材料の表面にチタンの化合物を被覆するステップであって、前記チタンの化合物が4価チタンであるステップと、
前記被覆された前記コア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆された前記コバルトフリー層状正極材料を得るステップと、を含む、
ことを特徴とするコバルトフリー層状正極材料を製造する方法。
【請求項7】
コア材料を提供する前記ステップは、
前駆体混合物を焼成処理して、前記コア材料を得るステップであって、前駆体混合物がリチウムの前駆体とニッケルマンガンの前駆体とを含み、且つ前記焼成処理が800~1000℃で10時間~15時間であるステップを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記チタンの化合物が二酸化チタン及びチタン酸テトラブチルのうちの少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記被覆の高温処理が400℃~700℃で4時間~8時間であり、前記アンモニア処理が400℃~700℃で3時間~5時間である、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
リチウムイオン電池であって、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコバルトフリー層状正極材料からなる正極と、電解質と、負極とを含む、
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池正極材料の技術分野に関し、具体的には、本発明は、コバルトフリー層状正極材料及びその製造方法、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン動力電池における三元正極材料の応用はますます広がっている。従来の三元正極材料には一般にコバルトが含まれているが、コバルト元素の価格は三元素の中で最も高いため、三元正極材料の価格はLiFePO4、LiMn2O4などの他の正極材料に比べて明らかに物凄く高くなる。そのため、三元正極材料は、低コバルト化、さらにはコバルトフリー化へと発展していく。
【0003】
コバルトフリー層状正極材料は高い容量と低いコストを有するが、コバルトフリー化は逆に正極材料の導電性を低下させ、さらに材料の倍率性能に影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、発明者らの以下の知見に基づいてなされたものである。
本発明の発明者らは、コバルトフリー正極材料が導電性に劣り、倍率性能に劣るという技術的課題に対して、高導電性窒化チタンを表面に被覆した正極材料を提供し、コバルトフリー材料の表面導電性を向上させることができるだけでなく、コバルトフリー材料の表面抵抗を低減させることができ、それによってコバルトフリー材料のサイクルや倍率などの電気的性能を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、本発明は、コバルトフリー層状正極材料を提供する。
【0006】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料がコアシェル構造であり、且つ前記コアシェル構造のシェルを形成する材料が窒化チタンを含み、前記コアシェル構造のコアを形成する材料がコバルトを含まず、且つ単結晶構造である。
【0007】
本発明の実施例のコバルトフリー層状正極材料は、コバルトを含まないコアの表面に高導電性の窒化チタンを被覆し、正極材料の価格コストを低減すると同時に、正極材料の倍率性能を向上させることができ、それによってコバルトフリー正極材料の倍率性能をより良好にする。
【0008】
また、本発明の上記実施例によるコバルトフリー層状正極材料は、以下のような付加的な技術的特徴を有していてもよい。
【0009】
本発明の実施例によれば、前記コアを形成する材料がLiNixMnyO2であり、但し、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45である。
【0010】
本発明の実施例によれば、前記コアを形成する材料の粒径が1~5μmである。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記シェルの厚みが50~500nmである。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記コアシェル構造において、前記窒化チタンの含有量が0.13~0.39%(wt)である。
【0013】
本発明の第2の態様では、本発明は、コバルトフリー層状正極材料を製造する方法を提供する。
【0014】
本発明の実施例によれば、前記方法は、コア材料を提供するステップであって、前記コア材料がコバルトを含まないステップと、前記コア材料の表面にチタンの化合物を被覆するステップであって、前記チタンの化合物が4価チタンであるステップと、前記被覆された前記コア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆された前記コバルトフリー層状正極材料を得るステップと、を含む。
【0015】
本発明の実施例の製造方法を採用し、まずコア材料の表面に4価チタンの化合物を被覆し、その後アンモニアガス中で処理して窒化チタンのシェルを形成し、このように、コバルトフリーコア材料の表面に高導電性の窒化チタンシェルを被覆し、それによって製造したコバルトフリー層状正極材料の電気的性能をより良好にすることができ、且つ、当該製造方法はステップが簡単で量産化の可能性を有する。
【0016】
また、本発明の上記実施例による方法は、以下のような付加的な技術的特徴を有していてもよい。
【0017】
本発明の実施例によれば、コア材料を提供する前記ステップは、前駆体混合物を焼成処理して、前記コア材料を得るステップであって、前駆体混合物がリチウムの前駆体とニッケルマンガンの前駆体とを含み、且つ前記焼成処理が800~1000℃で10~15時間であるステップを含む。
【0018】
本発明の実施例によれば、前記チタンの化合物が二酸化チタン及びチタン酸テトラブチルのうちの少なくとも1種を含む。
【0019】
本発明の実施例によれば、前記被覆の高温処理が400~700℃で4~8時間である。
【0020】
本発明の実施例によれば、前記アンモニア処理が400~700℃で3~5時間である。
【0021】
本発明の第3の態様では、本発明は、リチウムイオン電池を提供する。
【0022】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、上記コバルトフリー層状正極材料からなる正極と、電解質と、負極とを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施例のリチウムイオン電池は、正極が、より低コストで、より優れた倍率性能を有するコバルトフリー層状正極材料から形成されており、それによって当該リチウムイオン電池の低価格化及び電気化学的性能の向上を図ることができる。当業者には理解されるように、コバルトフリー層状正極材料について先に述べた特徴及び利点は、引き続き当該リチウムイオン電池に適用可能であり、ここでは繰り返さない。
【0024】
本発明の追加の態様及び利点は、以下の説明において部分的に示され、その一部は、以下の説明から明らかになるか、又は本発明の実践から知られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本願の一部を構成する添付図面は、本発明の更なる理解を提供するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を不適切に限定するものではない。
【0026】
【
図1】本発明の一実施例に係るコアシェル構造を有するコバルトフリー層状正極材料の概略断面構造図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るコバルトフリー層状正極材料の被覆前(a)(b)及び被覆後(c)(d)の電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の一実施例に係るコバルトフリー層状正極材料の被覆前後の1周期目の充放電曲線である。
【
図4】本発明の一実施例に係るコバルトフリー層状正極材料の被覆前後のサイクル維持率の比較である。
【
図5】本発明の一実施例に係るコバルトフリー層状正極材料の被覆前後の異なる倍率の放電比容量の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものと考えるべきではないことは、当業者であれば理解できる。特に明記しない限り、以下の実施例で具体的な技術や条件が明示されていない場合、当業者であれば、当該技術分野で一般的に使用されている技術や条件、あるいは製品の仕様に従うことができる。
【0028】
本発明の一態様では、本発明は、コバルトフリー層状正極材料を提供する。
【0029】
本発明の実施例によれば、
図1を参照すると、コバルトフリー層状正極材料がコアシェル構造であり、且つコアシェル構造のシェル200を形成する材料が窒化チタンを含み、コアシェル構造のコア100を形成する材料がコバルトを含まず、且つ単結晶構造である。本発明の発明者らは、検討の過程において、リチウムイオン動力電池の三元正極材料が、低コバルト化が進むにつれてコストが低減するものの、コバルトの含有量が低いほど正極材料の導電性も低下し、倍率性能が悪化することを見出した。そこで、発明者らは、コバルトフリーのコア100の表面に一層の窒化チタン(TiN)のシェル200を被覆することにより、コバルトフリー層状正極材料の導電性を著しく向上させることができ、それによってコバルトフリー正極材料の倍率性能をより良好にする。
【0030】
本発明のいくつかの実施例では、コア100を形成する材料は、LiNixMnyO2であってもよく、但し、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45であり、具体的には例えばLiNi0.75Mn0.25O2であり、このように、コバルト(Co)を含まないコア材料は、コバルトフリー層状正極材料の高容量化及び低コスト化が可能となり、それによって商用化により有利となる。また、なお、コア材料としてLiNixMnyO2(0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45)を選択したことも、本発明者らが多数の実験を通じて得られた結果であり、他のコア材料に比べ、当該コア材料と窒化チタン被覆層と共同でからなる正極材料は、電池性能をさらに向上させることができ、倍率性能がより良好であり、容量及び容量維持率がより高い。
【0031】
本発明のいくつかの実施例では、コア100を形成する材料の粒径は、1~5μmであってもよく、このように、上記サイズの単結晶構造を採用することにより、後期サイクル充放電時の収縮・膨張により、多結晶粒子の様に新たな粒界界面や副反応が生じず、それによってコバルトフリー層状正極材料のサイクル安定性をより良好にすることができる。具体的には、
図2の(a)及び(b)を参照すると、被覆前のコア材料の表面が比較的滑らかであり、且つ粒径が1~5μmの間であり、
図2の(c)及び(d)を参照すると、被覆後の正極材料の表面に明らかに被覆物が存在する。
【0032】
本発明のいくつかの実施例では、シェル200を形成する窒化チタン材料の粒径は、50~500nmであってもよく、具体的には例えば100nm以下であり、このように、コア100の外面に高導電性の窒化チタンをより均一に被覆することができ、それによってコバルトフリー層状正極材料のサイクル安定性をより良好にすることができる。
【0033】
本発明のいくつかの実施例では、コアシェル構造において、窒化チタン(TiN)の含有量が0.13~0.39%(wt)であり、即ちチタンの添加量が0.10~0.30%(wt)であってもよく、このように、コバルトフリー層状正極材料の表面に千分の1から千分の4分の窒化チタンシェルを被覆するだけで、1周期目の充電比容量及び放電比容量をいずれも3%向上させ、1C倍率で50周期間サイクル後の容量維持率を99%より高くし、且つ2C及び4C倍率での放電比容量(specific discharge capacity)を10%以上向上させることができる。
【0034】
具体的には、LiNi
0.75Mn
0.25O
2をコバルトフリー単結晶正極材料とし、その初回充放電曲線は
図3を参照することができ、被覆前の正極材料は0.1Cで1周期目の充電及び放電の比容量がそれぞれ200.5及び173.3mAh/gであり、その初回効率が86.4%であるが、被覆後の材料は0.1Cで1周期目の充電及び放電の比容量がそれぞれ207.5及び185.0mAh/gであり、その初回効率が89.2%であることから、被覆窒化チタンの被覆がコバルトフリー層状正極材料の容量及び初回効率の向上に有利であることがわかる。
【0035】
また、25℃において0.5C又は1Cの倍率で電圧が3.0~4.3Vである時に、被覆前後のサイクル性能の比較は
図4を参照することができ、被覆前の材料は1Cの倍率で50周期間サイクル後の容量維持率が96.9%であるが、被覆後の材料は1Cの倍率で50周期間サイクル後の容量維持率が99.3%であることから、窒化チタンの被覆層がコバルトフリー層状正極材料と電解液との接触を避け、電解液との間の副反応を抑え、それによってサイクル性能を2.4%向上させることが分かる。
【0036】
さらに、被覆前後の倍率性能は
図5を参照することができ、2Cの倍率では、被覆前の正極材料の放電比容量が143mAh/gのみであり、被覆後の材料の放電比容量が157mAh/gに達しているのに対し、4Cの倍率では、被覆前の材料の放電比容量が132mAh/gのみであり、被覆後の材料の放電比容量が146mAh/gに達することから、窒化チタンの導電性が良好であり、コバルトフリー層状正極の電気化学的活性を向上させることができ、それによって材料の倍率性能を10%以上向上させることがわかる。
【0037】
以上のように、本発明の実施例によれば、本発明は、コバルトフリー層状正極材料を提供し、コバルトを含まないコアの表面に高導電性の窒化チタンを被覆し、正極材料の価格コストを低減すると同時に、正極材料の倍率性能を向上させることができ、それによってコバルトフリー正極材料の倍率性能をより良好にする。
【0038】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、コバルトフリー層状正極材料を製造する方法を提供する。本発明の実施例によれば、当該製造方法は、S100~S300を含む。
【0039】
S100:コア材料を提供する。
当該ステップにおいて、コア材料を提供し、且つコア材料がコバルト(Co)を含まない。ここで、ステップS100は、前駆体混合物を焼成処理して、コア材料を得るステップであってもよく、ここで、前駆体混合物がリチウム(Li)の前駆体とニッケル(Ni)マンガン(Mn)の前駆体とを含み、且つ焼成処理が800~1000℃で10~15時間であってもよい。
【0040】
本発明のいくつかの実施例では、リチウムの前駆体は、水酸化リチウム(LiOH)又は炭酸リチウム(Li2CO3)などのリチウム塩を選択することができ、ニッケルマンガンの前駆体はNixMny(OH)2を選択することができ、ここで、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45であり、このように、コバルトを含まないコア材料LiNixMnyO2、具体的には例えばLiNi0.75Mn0.25O2を形成し、それによってコバルトフリー層状正極材料を高容量化するとともに、製造コスト及び低価格化を図ることができる。
【0041】
具体的には、LiOH又はLi2CO3とNixMny(OH)2(0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45)を、高速混合装置を用いて混合することができ、ここで、回転数が800~900rpmであり、混合時間が5~20分間であり、上記混合物を窯炉で焙焼し、温度が800~1000℃であり、時間が10~15時間であり、雰囲気がO2であり、且つO2の濃度が90%よりも大きく、且つ焼結後の材料を2本ロール粉砕と機械粉砕に通し、粉砕後の材料を300~400メッシュの篩に掛けることで、コア材料を得ることができる。
【0042】
S200:コア材料の表面にチタンの化合物を被覆する。
当該ステップにおいて、コア材料の表面にチタンの化合物を被覆し、ここで、チタンの化合物は、4価チタン(Ti4+)である。本発明のいくつかの実施例では、チタンの化合物は、二酸化チタン及びチタン酸テトラブチルのうちの少なくとも1種を含んでもよい。いくつかの具体的な例において、チタンの化合物は、二酸化チタン(TiO2)を選択することができ、このように、広く入手可能でコストの低い酸化チタンを被覆材料として選択することは、コバルトフリー層状正極材料の製造コストをより低くすることができ、且つ被覆されたシェルがより均一である。
【0043】
具体的には、まずステップS100の粉砕・篩掛け後の材料をTiO2と混合することができ、ここで、Tiの被覆含有量が0.10~0.30%(wt)であり、回転数が800~950rpmであり、混合時間が5~50分間であり、そして混合物を400~700度の高温で4~8時間処理すると、被覆された製品を得ることができる。
【0044】
S300:被覆後のコア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料を得る。
当該ステップにおいて、被覆後のコア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料を得る。アンモニアガスは、還元性ガスとして、正極材料の不安定なNi3+を安定なNi2+に還元することができ、材料の構造安定性を向上させるとともに、高温条件下でNH3が正極材料の表面を窒化することができ、窒化すると材料表面の導電性が向上し、耐熱性及び耐食性が著しく向上する。
【0045】
具体的には、ステップS200で被覆した製品をアンモニアガス中で処理することができ、ここで、温度が400~700度であり、時間が3~5時間であり、自然冷却し、最後に、窒化チタンを被覆した材料を300~400メッシュで篩い分けし、最終製品を得ることができる。本発明のいくつかの実施例では、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1~0.8m2/gであってもよく、残留アルカリの含有量が0.5%以下であり、且つpHが12以下である。
【0046】
以上のように、本発明の実施例によれば、本発明は、製造方法を提供し、まずコア材料の表面に4価チタンの化合物を被覆し、その後アンモニアガス中で処理して窒化チタンのシェルを形成し、このように、コバルトフリーコア材料の表面に高導電性の窒化チタンシェルを被覆し、それによって製造したコバルトフリー層状正極材料の電気的性能をより良好にすることができ、且つ、当該製造方法はステップが簡単で量産化の可能性を有する。
【0047】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、リチウムイオン電池を提供する。本発明の実施例によれば、リチウムイオン電池は、上記コバルトフリー層状正極材料からなる正極と、電解質と、負極とを含む。なお、リチウムイオン電池には、正極、電解質及び負極の他に、具体的には例えばシェル、電極取り出し端などの他の必要な組成及び構造が含まれ、当業者は、当該リチウムイオン電池の具体的な設計要件に応じて適宜選択して補足することができるが、ここでは繰り返さない。
【0048】
本発明の実施例のリチウムイオン電池は、正極が、より低コストで、より優れた倍率性能を有するコバルトフリー層状正極材料から形成されており、それによって当該リチウムイオン電池の低価格化及び電気化学的性能の向上を図ることができる。当業者には理解されるように、コバルトフリー層状正極材料について先に述べた特徴及び利点は、引き続き当該リチウムイオン電池に適用可能であり、ここでは繰り返さない。
【0049】
本発明の説明において、「第1」及び「第2」という用語は、説明の目的でのみ使用され、相対的な重要性を示す又は暗示するか、又は示された技術的特徴の数を暗黙的に示すと理解できないことを理解されたい。このように、「第1」及び「第2」が限定されている特徴は、少なくとも1つの当該特徴を明示的又は暗黙的に含んでもよい。本発明の説明において、「複数」とは、特に明記しない限り、少なくとも2つ、例えば2つ、3つを意味する。
【0050】
本明細書の説明において、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、又は「いくつかの例」などの用語を参照する説明は、当該実施例や例を結び合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施例や例に含まれることを意味する。本明細書では、上記の用語に対する概略的な説明は、必ずしも同じ実施例や例を指すとは限らない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、いずれか1つ又は複数の実施例や例において適切な方式で結び合わせることができる。さらに、当業者は、互いに矛盾することなく、本明細書に記載されている異なる実施例や例及び異なる実施例や例の特徴に対して結び合わせと組み合わせを行うことができる。
【0051】
以下、実施例により本発明の有益な効果についてさらに説明する。
【0052】
(実施例1)
S100、コア材料を提供する。
リチウム塩水酸化リチウム(LiOH)、ニッケルマンガンの前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)2を、高速混合装置を用いて混合し、ここで、回転数が900rpmであり、混合時間が20分間であり、上記混合物を窯炉で焙焼し、温度が950℃であり、時間が10時間であり、雰囲気がO2であり、且つO2の濃度が90%よりも大きく、且つ焼結後の材料を2本ロール粉砕と機械粉砕に通し、粉砕後の材料を300メッシュの篩に掛けることで、コア材料LiNi0.75Mn0.25O2を得ることができる。
【0053】
S200、コア材料の表面にチタンの化合物を被覆する。
まずステップS100の粉砕・篩掛け後の材料をTiO2と混合し、ここで、Tiの被覆含有量が0.30%(wt)であり、回転数が950rpmであり、混合時間が30分間であり、そして混合物を600度の高温で8時間処理すると、被覆された製品を得ることができる。
【0054】
S300:被覆後のコア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料を得る。
ステップS200で被覆した製品をアンモニアガス中で処理することができ、ここで、温度が600度であり、時間が5時間であり、自然冷却し、最後に、窒化チタンが被覆された材料を400メッシュで篩い分けし、最終製品を得ることができる。本発明のいくつかの実施例では、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.6m2/gであってもよく、残留アルカリの含有量が0.2%であり、且つpHが11.60である。
【0055】
上記製造された窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料は、コアの平均サイズが3μmであり、被覆層の平均厚みが500nmである。
【0056】
(実施例2)
S100、コア材料を提供する。
リチウム塩水酸化リチウム(LiOH)、ニッケルマンガンの前駆体Ni0.95Mn0.05(OH)2を、高速混合装置を用いて混合し、ここで、回転数が900rpmであり、混合時間が20分間であり、上記混合物を窯炉で焙焼し、温度が750℃であり、時間が10時間であり、雰囲気がO2であり、且つO2の濃度が90%よりも大きく、且つ焼結後の材料を2本ロール粉砕と機械粉砕に通し、粉砕後の材料を300メッシュの篩に掛けることで、コア材料LiNi0.95Mn0.05O2を得ることができる。
【0057】
S200、実施例1と同じである。
【0058】
S300、実施例1と同じである。
【0059】
(実施例3)
S100、コア材料を提供する。
リチウム塩水酸化リチウム(LiOH)、ニッケルマンガンの前駆体Ni0.55Mn0.45(OH)2を、高速混合装置を用いて混合し、ここで、回転数が900rpmであり、混合時間が20分間であり、上記混合物を窯炉で焙焼し、温度が1000℃であり、時間が10時間であり、雰囲気がO2であり、且つO2の濃度が90%よりも大きく、且つ焼結後の材料を2本ロール粉砕と機械粉砕に通し、粉砕後の材料を300メッシュの篩に掛けることで、コア材料LiNi0.55Mn0.45O2を得ることができる。
【0060】
S200、実施例1と同じである。
【0061】
S300、実施例1と同じである。
【0062】
(実施例4)
S100、コア材料を提供する。
リチウム塩水酸化リチウム(LiOH)、ニッケルマンガンの前駆体Ni0.45Mn0.55(OH)2を、高速混合装置を用いて混合し、ここで、回転数が900rpmであり、混合時間が20分間であり、上記混合物を窯炉で焙焼し、温度が1050℃であり、時間が10時間であり、雰囲気がO2であり、且つO2の濃度が90%よりも大きく、且つ焼結後の材料を2本ロール粉砕と機械粉砕に通し、粉砕後の材料を300メッシュの篩に掛けることで、コア材料LiNi0.45Mn0.55O2を得ることができる。
【0063】
S200、実施例1と同じである。
【0064】
S300、実施例1と同じである。
【0065】
(実施例5)
S100、コア材料を提供する。
高温温度が970℃であること以外、実施例1の方法と同じである。
【0066】
S200、コア材料の表面にチタンの化合物を被覆する。
まずステップS100の粉砕・篩掛け後の材料をTiO2と混合し、ここで、Tiの被覆含有量が0.10%(wt)であり、回転数が950rpmであり、混合時間が30分間であり、そして混合物を600度の高温で8時間処理すると、被覆された製品を得ることができる。
【0067】
S300:被覆後のコア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料を得る。
ステップS200で被覆した製品をアンモニアガス中で処理することができ、ここで、温度が600度であり、時間が5時間であり、自然冷却し、最後に、窒化チタンが被覆された材料を400メッシュで篩い分けし、最終製品を得ることができる。
【0068】
上記製造された窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料は、コアのサイズが5μmであり、被覆層の厚みが500nmである。
【0069】
(実施例6)
S100、コア材料を提供する。
高温温度が990℃であること以外、実施例1の方法と同じである。
【0070】
S200、コア材料の表面にチタンの化合物を被覆する。
まずステップS100の粉砕・篩掛け後の材料をTiO2と混合し、ここで、Tiの被覆含有量が0.40%(wt)であり、回転数が950rpmであり、混合時間が30分間であり、そして混合物を600度の高温で8時間処理すると、被覆された製品を得ることができる。
【0071】
S300:被覆後のコア材料をアンモニア処理して、窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料を得る。
ステップS200で被覆した製品をアンモニアガス中で処理することができ、ここで、温度が600度であり、時間が5時間であり、自然冷却し、最後に、窒化チタンが被覆された材料を400メッシュで篩い分けし、最終製品を得ることができる。
【0072】
上記製造された窒化チタンが被覆されたコバルトフリー層状正極材料は、コアのサイズが6μmであり、被覆層の厚みが700nmである。
【0073】
(比較例1)
ステップS200及びS300を行わず、正極材料がLiNi0.55Mn0.45O2のみであること以外、実施例3と同じである。
【0074】
(比較例2)
前駆体がNi0.75Mn0.20Co0.05(OH)2で、コア材料がLiNi0.75Mn0.20Co0.05O2であること以外、実施例1の方法と同じである。
【0075】
S200、実施例1と同じである。
【0076】
S300、実施例1と同じである。
【0077】
性能の特徴付け:上記各実施例及び比較例で製造した正極材料の性能を特徴付けることは、具体的には次の通りであり、正極材料をホモジナイズし、塗布して正極シートを製造した後に、リチウムイオン電池に組み立て、負極に金属リチウムシートを用い、電池セパレータにCelgard2400ミクロポーラスポリプロピレンフィルムを用い、電解液にLiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)/EC(エチレンカーボネート)-DMC(ジメチルカーボネート)を用い、電池型番はR2032である。電池のサイクル性能、容量などを測定し、結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
以上、本発明の実施例について示し、説明したが、上記の実施例は例示的であり、本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、当業者は、本発明の範囲内で、上記の実施例に対して変更、修正、置換及び変形を行うことができることを理解されたい。