(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】ガスセルおよびガスセルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 1/06 20060101AFI20230425BHJP
H03L 7/26 20060101ALI20230425BHJP
G04F 5/14 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
H01S1/06
H03L7/26
G04F5/14
(21)【出願番号】P 2018191550
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】519355839
【氏名又は名称】株式会社USリサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】520085811
【氏名又は名称】株式会社サイナジェティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
(72)【発明者】
【氏名】西野 仁
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】原 基揚
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雄一郎
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-537373(JP,A)
【文献】特開2007-178272(JP,A)
【文献】特開平10-303514(JP,A)
【文献】特開2001-056952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0189605(US,A1)
【文献】特開2007-173445(JP,A)
【文献】特開2010-109525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/06
H03L 1/00 - 9/00
G04F 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属原子を含むガスを収納可能に設けられた反射空間と、
前記反射空間の内部に設けられた入射光反射面と平面内反射部と出射光反射面とを有し、
前記入射光反射面は、外部の所定の方向から入射する入射光を、前記入射光に対してほぼ垂直を成す光路平面内に反射するよう、記光路平面からの仰角がほぼ45度を成しており、
前記平面内反射部は、前記入射光反射面からの反射光を前記光路平面内で1回または複数回反射させるよう、前記入射光反射面からの反射光を反射する反射面が、前記光路平面に対してほぼ垂直を成しており、
前記出射光反射面は、前記平面内反射部からの反射光を前記光路平面に対してほぼ垂直を成す方向に反射して、外部に出射光を出射するよう、前記光路平面からの仰角がほぼ45度を成していることを
特徴とするガスセル。
【請求項2】
前記出射光反射面は、前記入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に、前記出射光を出射するよう設けられていることを特徴とする請求項1記載のガスセル。
【請求項3】
前記入射光反射面および前記出射光反射面は、同じ一つの平面から成り、
前記平面内反射部は、前記入射光反射面で反射された反射光と、前記出射光反射面に入射する反射光とが、進行方向が逆向きで互いに平行を成すよう設けられていることを
特徴とする請求項1または2記載のガスセル。
【請求項4】
前記平面内反射部は、前記入射光反射面で反射された反射光を反射して、その進行方向を90度曲げるよう設けられた第1反射面と、前記第1反射面で反射された反射光を反射して、その進行方向を90度曲げるよう設けられた第2反射面とを有することを特徴とする請求項3記載のガスセル。
【請求項5】
前記入射光反射面、前記入射光反射面からの反射光を反射する前記平面内反射部の反射面、および前記出射光反射面は、誘電体多層膜で覆われていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスセル。
【請求項6】
前記アルカリ金属原子は、CsまたはRbであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガスセル。
【請求項7】
前記反射空間は密封されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のガスセル。
【請求項8】
前記反射空間と通気可能に設けられ、前記アルカリ金属原子を放出可能なアルカリ金属ディスペンサーを収納した収納空間を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のガスセル。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のガスセルを製造するガスセルの製造方法であって、
板状のシリコンを結晶異方性エッチングして、前記入射光反射面と前記出射光反射面とを形成するとともに、前記シリコンを深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)して、前記入射光反射面からの反射光を反射する前記平面内反射部の反射面を形成することを特徴とするガスセルの製造方法。
【請求項10】
前記シリコンは、(100)面からのオフ角が9.74°のシリコンウエハから成ることを特徴とする請求項9記載のガスセルの製造方法。
【請求項11】
前記結晶異方性エッチングおよび前記深掘り反応性イオンエッチングの後、1000℃以上の温度で水素アニールを行うことを特徴とする請求項9または10記載のガスセルの製造方法。
【請求項12】
前記結晶異方性エッチングおよび前記深掘り反応性イオンエッチングの後、または、前記水素アニールの後、前記入射光反射面、前記出射光反射面、および、前記平面内反射部の反射面に、蒸着により、誘電体多層膜を形成することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載のガスセルの製造方法。
【請求項13】
蒸着材料が前記入射光反射面、前記出射光反射面、および、前記平面内反射部の反射面に、同じ角度で衝突するよう、前記蒸着を行うことを特徴とする請求項12記載のガスセルの製造方法。
【請求項14】
前記入射光反射面と前記出射光反射面と前記平面内反射部の反射面とを形成した後、または、前記誘電体多層膜を形成した後、1対のガラス板で前記シリコンを挟んで前記反射空間を密封することを特徴とする請求項9乃至13のいずれか1項に記載のガスセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセルおよびガスセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子を密封したガスセルを利用するものとして、その原子が吸収する電磁波の周波数を基準にした高精度な原子時計(例えば、非特許文献1参照)や、その原子の光ポンピングを利用した磁気センサー(例えば、特許文献1参照)などが開発されている。また、これらの装置を小型化するために、ガスセルをMEMS技術により作製することも行われている。しかし、ガスセルを小型化すると、ガスセルに入射するレーザー光等の光路長が短くなり、S/N比が低下してしまうという問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決するために、ガスセル内で、ガスセルの基板面に対して平行な方向にレーザー光を反射させることにより、光路長を伸ばすことができる反射型のガスセルが開発されている(例えば、非特許文献2参照)。このガスセルは、薄く形成することができると共に、レーザー光の入射窓と出力窓をガスセルの同一面上に作製することができるため、回路に実装しやすくなっている。
【0004】
また、この反射型のガスセルは、(100)面で切り出したシリコンウエハを用いて結晶異方性ウエットエッチングすることにより、(111)面を形成し、これを反射面として利用している。この(111)面は、シリコンウエハの基板面に対して54.74°を成しているため、基板面に対して垂直に入射する光を、基板面に対して平行な方向に反射させたり、その反射光を基板面に対して垂直方向に出射させたりするために、回折格子を使用して入射光および出射光を曲げている。
【0005】
なお、(100)面からのオフ角が9.74°のシリコンウエハを用いて結晶異方性エッチングすることにより、シリコンウエハの表面に対して45°の面を作製する方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】M. Hara, et al., “Micro Atomic Frequency Standards Employing An Integrated FBAR-VCO Oscillating On The 87RB Clock Frequency Without A Phase Locked Loop”, IEEE, MEMS 2018, p.715-718
【文献】Ravinder Chutani et al, “Laser light routing in an elongated micromachined vapor cell with diffraction gratings for atomic clock applications”, Sci. Rep., 2015, 5, 14001
【文献】Carola Strandman et al, “Fabrication of 45° mirrors together with well-defined v-grooves using wet anisotropic etching of silicon”, IEEE J. Microelectromech. Syst., 1995, Vol. 4, No. 4, p. 213-219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2に記載の反射型のガスセルは、回折格子で光が回折する際に、光の強度が低下するため、信号としての光のS/N比が小さくなり、精度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、信号としての光のS/N比を大きくすることができ、高い精度を有するガスセルおよびガスセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るガスセルは、アルカリ金属原子を含むガスを収納可能に設けられた反射空間と、前記反射空間の内部に設けられた入射光反射面と平面内反射部と出射光反射面とを有し、前記入射光反射面は、外部の所定の方向から入射する入射光を、前記入射光に対してほぼ垂直を成す光路平面内に反射するよう、記光路平面からの仰角がほぼ45度を成しており、前記平面内反射部は、前記入射光反射面からの反射光を前記光路平面内で1回または複数回反射させるよう、前記入射光反射面からの反射光を反射する反射面が、前記光路平面に対してほぼ垂直を成しており、前記出射光反射面は、前記平面内反射部からの反射光を前記光路平面に対してほぼ垂直を成す方向に反射して、外部に出射光を出射するよう、前記光路平面からの仰角がほぼ45度を成していることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るガスセルは、光路平面に対してほぼ垂直な方向を成す入射光および出射光を利用することができるため、入射光の照射手段や出射光の受光手段等の設計や設置が容易であり、入射光および出射光を回折格子等で曲げる必要もない。また、反射空間内でも、光は反射面で反射するのみで、回折したりしないため、光の強度の低下を抑えることができる。このため、信号としての光のS/N比を大きくすることができ、高い精度が得られる。また、本発明に係るガスセルは、入射光を入射光反射面で反射させて光路平面内に入れてから、出射光反射面で反射させて出射光を外部に出射させるまで、平面内反射部で反射させながら光路平面内に光を通すことにより、光路長を長くすることができる。これにより、さらに精度を高めることができる。
【0012】
本発明に係るガスセルは、平面内反射部で反射させながら光路平面内に光を通すため、光路平面に対して垂直方向の厚みを小さくすることができる。このため、回路などでの設置スペースを小さくすることができる。また、本発明に係るガスセルは、入射光反射面、出射光反射面、入射光反射面の反射面、および光路平面の互いに成す角度が、ほぼ45度や90度になるため、設計が容易である。
【0013】
本発明に係るガスセルで、平面内反射部での反射回数はいくつであってもよいが、光路長を長くするためには、反射回数は多い方がよい。また、アルカリ金属原子は、いかなるものであってもよく、例えば、CsまたはRbである。また、より精度を高めるために、反射空間は密封されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係るガスセルで、前記出射光反射面は、前記入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に、前記出射光を出射するよう設けられていることが好ましい。この場合、入射光の入射窓と、出射光の出力窓とを、ガスセルの同じ側に作製することができるため、回路などへの実装が容易である。
【0015】
本発明に係るガスセルで、前記入射光反射面および前記出射光反射面は、同じ一つの平面から成り、前記平面内反射部は、前記入射光反射面で反射された反射光と、前記出射光反射面に入射する反射光とが、進行方向が逆向きで互いに平行を成すよう設けられていてもよい。この場合、入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に、出射光を出射することができる。また、この場合、前記平面内反射部は、前記入射光反射面で反射された反射光を反射して、その進行方向を90度曲げるよう設けられた第1反射面と、前記第1反射面で反射された反射光を反射して、その進行方向を90度曲げるよう設けられた第2反射面とを有することが好ましい。
【0016】
本発明に係るガスセルで、前記入射光反射面、前記入射光反射面からの反射光を反射する前記平面内反射部の反射面、および前記出射光反射面は、誘電体多層膜または前記アルカリ金属原子と反応しない金属膜で覆われていてもよい。誘電体多層膜で覆う場合、各反射面の反射率を高くすることができる。また、金属膜で覆う場合、各反射面を保護することができる。金属膜は、例えば、表面がTi層から成るTi/Pt/Au膜またはTi/Au膜である。
【0017】
本発明に係るガスセルは、前記反射空間と通気可能に設けられ、前記アルカリ金属原子を放出可能なアルカリ金属ディスペンサーを収納した収納空間を有することが好ましい。この場合、収納空間に収納されたアルカリ金属ディスペンサーから放出されたアルカリ金属原子を、反射空間の内部に供給することができる。なお、反射空間および収納空間は、密封されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係るガスセルの製造方法は、本発明に係るガスセルを製造するガスセルの製造方法であって、板状のシリコンを結晶異方性エッチングして、前記入射光反射面と前記出射光反射面とを形成するとともに、前記シリコンを深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)して、前記入射光反射面からの反射光を反射する前記平面内反射部の反射面を形成することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るガスセルの製造方法は、本発明に係るガスセルを比較的容易かつ正確に製造することができる。本発明に係るガスセルの製造方法で、前記シリコンは、(100)面からのオフ角が9.74°のシリコンウエハから成ることが好ましい。この場合、結晶異方性エッチングにより、シリコンウエハの表面に対して45°の面を作製することができる。これにより、光路平面をシリコンウエハの表面に平行な面とし、入射光反射面と出射光反射面とが、光路平面からの仰角が45度になるよう形成することができる。
【0020】
また、本発明に係るガスセルの製造方法は、前記結晶異方性エッチングおよび前記深掘り反応性イオンエッチングの後、1000℃以上の温度で水素アニールを行うことが好ましい。この場合、熱処理工程により、シリコンの表面流動が生じ、エッチングにより形成された入射光反射面、出射光反射面および平面内反射部の反射面を、平坦にすることができる。
【0021】
本発明に係るガスセルの製造方法は、前記結晶異方性エッチングおよび前記深掘り反応性イオンエッチングの後、または、前記水素アニールの後、前記入射光反射面、前記出射光反射面、および、前記平面内反射部の反射面に、蒸着により、誘電体多層膜または前記アルカリ金属原子と反応しない金属膜を形成してもよい。また、この場合、蒸着材料が前記入射光反射面、前記出射光反射面、および、前記平面内反射部の反射面に、同じ角度で衝突するよう、前記蒸着を行うことが好ましい。これにより、各反射面に同時に、ほぼ同じ厚さで誘電体多層膜または金属膜を形成することができる。
【0022】
また、本発明に係るガスセルの製造方法は、前記入射光反射面と前記出射光反射面と前記平面内反射部の反射面とを形成した後、または、前記誘電体多層膜を形成した後、1対のガラス板で前記シリコンを挟んで前記反射空間を密封することが好ましい。また、収納空間を有する場合には、反射空間と共に、収納空間も密封することが好ましい。これらの場合、より高精度のガスセルを製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、信号としての光のS/N比を大きくすることができ、高い精度を有するガスセルおよびガスセルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態のガスセルを示す(a)平面図、(b) (a)のA-A’端面図である。
【
図2】(a)~(d)本発明の実施の形態のガスセルの製造方法を示す端面図である。
【
図3】本発明の実施の形態のガスセルの製造方法を示す(a)平面図、(b)および(c) (a)のA-A’端面図、(d)底面図、(e)および(f) (d)のA-A’端面図である。
【
図4】本発明の実施の形態のガスセルの製造方法を示す(a)平面図、(b)および(c) (a)のA-A’端面図、(d)平面図、(e) (d)のA-A’端面図である。
【
図5】(a)本発明の実施の形態のガスセルの変形例を示す端面図、(b) (a)に示すガスセルの製造方法を示す端面図である。
【
図6】本発明の実施の形態のガスセルの、シリコンウエハに形成された反射空間を示す(a)反射空間が五角形を成す変形例の平面図、(b)平面内反射部での反射回数が3回の変形例の平面図、(c)第1反射面および第2反射面での反射角度が90度からややずれたときの変形例の平面図、(d) (c)の第2反射面を拡大した平面図である。
【
図7】本発明の実施の形態のガスセルの、RbのD1線の吸収スペクトルである。
【
図8】本発明の実施の形態のガスセルの、CPTスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図8は、本発明の実施の形態のガスセルおよびガスセルの製造方法を示している。
【0026】
図1に示すように、ガスセル10は、上部ガラス板11とシリコンウエハ12と下部ガラス板13の三層構造を成している。
図1に示す具体的な一例では、上部ガラス板11および下部ガラス板13は、テンパックスガラスから成っている。また、上部ガラス板11、シリコンウエハ12、および下部ガラス板13は、それぞれ厚みが0.3 mm、0.2 mm、1 mmである。
【0027】
また、ガスセル10は、上部ガラス板11、シリコンウエハ12および下部ガラス板13を加工して、上部ガラス板11と下部ガラス板13との間に反射空間14と収納空間15とを有している。また、ガスセル10は、反射空間14の内部に設けられた入出射光反射面16と平面内反射部17とを有し、収納空間15の内部にアルカリ金属ディスペンサー18を有している。
【0028】
図1(b)に示すように、反射空間14および収納空間15は、シリコンウエハ12を貫通して形成されている。反射空間14および収納空間15は、シリコンウエハ12の表面に沿って並んで配置され、互いに通気可能に設けられている。また、反射空間14および収納空間15は、ガスセル10の外部に対して密封されている。
図1(a)に示すように、反射空間14および収納空間15は、平面視の外形が矩形状を成し、反射空間14が一方の長辺側に、収納空間15が他方の長辺側に設けられている。反射空間14は、平面視での収納空間15との境界線が、収納空間15側に山型に突出しており、その山型の頂部が長辺と平行を成し、山裾部が長辺に対して45度を成している。
【0029】
図1に示すように、入出射光反射面16は、反射空間14の一方の長辺を成し、シリコンウエハ12の表面との成す角が45度で、反射空間14の内側かつ上部ガラス板11の側に向いた状態で設けられている。平面内反射部17は、平面視での一方の山裾部を成す第1反射面17aと、平面視での他方の山裾部を成す第2反射面17bとを有している。第1反射面17aおよび第2反射面17bは、シリコンウエハ12の表面との成す角が90度で、反射空間14の内側に向いた状態で設けられている。なお、入出射光反射面16が、入射光反射面および出射光反射面を成している。
【0030】
アルカリ金属ディスペンサー18は、加熱することによりアルカリ金属原子を放出可能であり、収納空間15の内部に設置されている。アルカリ金属ディスペンサー18は、アルカリ金属原子を放出するものであれば、CsやRb等のディスペンサーなど、いかなるものであってもよい。
図1に示す具体的な一例では、アルカリ金属ディスペンサー18は、Rbのディスペンサーから成っている。ガスセル10は、アルカリ金属ディスペンサー18から放出されるアルカリ金属原子により、収納空間15および反射空間14の内部に、アルカリ金属原子(Rb)を含むガスを密封するようになっている。
【0031】
図1に示すように、ガスセル10は、上部ガラス板11の上方から、シリコンウエハ12の表面に対して垂直方向に入射する入射光が、入出射光反射面16で反射して90度曲がり、シリコンウエハ12の表面に平行な光路平面内に入って、平面内反射部17の第1反射面17aに向かうよう設けられている。また、ガスセル10は、入出射光反射面16からの入射光の反射光が、平面内反射部17の第1反射面17aで反射して、光路平面内で90度曲がり、平面内反射部17の第2反射面17bに向かうよう設けられている。また、ガスセル10は、第1反射面17aからの反射光が、平面内反射部17の第2反射面17bで反射して、光路平面内で90度曲がり、入出射光反射面16に向かうよう設けられている。これにより、ガスセル10は、入出射光反射面16で反射された入射光の反射光と、入出射光反射面16に入射する第2反射面17bからの反射光とが、進行方向が逆向きで互いに平行を成すようになっている。また、ガスセル10は、第2反射面17bからの反射光が、入出射光反射面16で反射して90度曲がり、上部ガラス板11から外部に向かって、シリコンウエハ12の表面に対して垂直方向に出射光を出射するよう設けられている。これにより、ガスセル10は、入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に、出射光が出射するようになっている。なお、入出射光反射面16は、光路平面からの仰角が45度であり、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bは、光路平面に対して垂直を成している。
図1に示す具体的な一例では、反射空間14の内部での光路長は、約15mmである。
【0032】
ガスセル10は、本発明の実施の形態のガスセルの製造方法により、好適に製造される。すなわち、本発明の実施の形態のガスセルの製造方法は、
図2に示すように、まず、厚みが200μmで、(100)面からのオフ角が9.74°のシリコンウエハ12を用い(
図2(a)参照)、そのシリコンウエハ12を熱酸化して、両側の表面に500nmのSiO
2膜21を形成する(
図2(b)参照)。次に、その両面に、レジスト膜22をパターニングし(
図2(c)参照)、BHF(超高純度バッファードフッ酸)を用いて、反射空間に対応する位置のSiO
2膜21をエッチングした後、レジスト膜22を取り除く(
図2(d)参照)。
【0033】
次に、水酸化カリウム水溶液(KOH)を用いて、Siが露出した部分について、Siを結晶異方性エッチングする(
図3(b)参照)。これにより、シリコンウエハ12の表面に対して45°を成す入出射光反射面16を形成することができる。次に、BHFを用いてSiO
2膜21を全てエッチングして除去する(
図3(c)参照)。露出したシリコンウエハ12の表面に、レジスト膜23をパターニングし(
図3(e)参照)、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)する(
図3(f)参照)。これにより、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bや、収納空間15の内壁などを形成し、反射空間14および収納空間15を形成することができる。
【0034】
深掘り反応性イオンエッチングの後、1100℃で30分間の水素アニールを行う(
図4(b)参照)。これにより、シリコンの表面流動が生じ、各エッチングにより形成された入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bなどの面を平坦にすることができる。次に、フィルムレジストのパターニングとサンドブラストとを用いて、反射空間14および収納空間15に対応する位置に凹部を形成した、厚さ1μmのテンパックスガラス製の下部ガラス板13を、シリコンウエハ12の一方の表面に陽極接合し(
図4(b)参照)、収納空間15にアルカリ金属ディスペンサー18を収納した後、シリコンウエハ12の他方の表面に、別のテンパックスガラス製の上部ガラス板11を陽極接合する(
図4(c)参照)。これにより、上部ガラス板11および下部ガラス板13でシリコンウエハ12を挟み、反射空間14および収納空間15を密封することができる。密封後、アルカリ金属ディスペンサー18をYAGレーザー光で活性化し、Rbを発生させる。なお、
図1に示すように、上部ガラス板11および下部ガラス板13は、それぞれシリコンウエハ12の反対側の面に接合されていてもよい。こうして、本発明の実施の形態のガスセルの製造方法により、比較的容易かつ正確にガスセル10を製造することができる。
【0035】
ガスセル10は、光路平面に対してほぼ垂直な方向を成す入射光および出射光を利用することができるため、入射光の照射手段や出射光の受光手段等の設計や設置が容易であり、入射光および出射光を回折格子等で曲げる必要もない。また、反射空間内でも、光は反射面で反射するのみで、回折したりしないため、光の強度の低下を抑えることができる。このため、信号としての光のS/N比を大きくすることができ、高い精度が得られる。また、ガスセル10は、入射光を入出射光反射面16で反射させて光路平面内に入れてから、入出射光反射面16で反射させて出射光を外部に出射させるまで、平面内反射部17で反射させながら光路平面内に光を通すことにより、光路長を長くすることができる。これにより、さらに精度を高めることができる。
【0036】
ガスセル10は、入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17b、ならびに光路平面の互いに成す角度が、45度や90度になるため、設計が容易である。ガスセル10は、平面内反射部17で反射させながら光路平面内に光を通すため、光路平面に対して垂直方向の厚みを小さくすることができる。このため、回路などでの設置スペースを小さくすることができる。また、ガスセル10は、入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に、出射光を出射することができるため、入射光の入射窓と、出射光の出力窓とを、ガスセル10の同じ側に作製することができ、回路などへの実装が容易である。
【0037】
なお、
図5(a)に示すように、ガスセル10は、少なくとも入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bが、誘電体多層膜19で覆われていてもよい。誘電体多層膜19は、例えば、20nmの厚みを有するAl
2O
3膜である。この場合、誘電体多層膜19により、入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bの反射率を高くすることができる。
【0038】
誘電体多層膜19は、例えば、
図5(b)に示すように、
図4(c)の後に、収納空間15やシリコンウエハ12の表面の誘電体多層膜19を形成しない部分を、ステンシルマスク24で覆ったのち、蒸着やALD(Atomic Layer Deposition)などを利用することにより形成することができる。また、蒸着やALDを行う際には、誘電体多層膜19の材料が入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bに、同じ角度で衝突するよう、誘電体多層膜19の材料の移動方向に対して、シリコンウエハ12や下部ガラス板13を相対的に傾けることが好ましい。
図5(b)に示す一例では、入出射光反射面16と光路平面との交線に沿った軸を中心として、誘電体多層膜19の材料の移動方向と入出射光反射面16との成す角度が71.5度になるよう、誘電体多層膜19の材料の移動方向に対して、シリコンウエハ12や下部ガラス板13を相対的に傾けている。これにより、誘電体多層膜19の材料の移動方向と、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bとの成す角度も71.5度になるため、各反射面に同時に、ほぼ同じ厚さで誘電体多層膜19を形成することができる。
【0039】
なお、誘電体多層膜19の代わりに、アルカリ金属ディスペンサー18が放出するアルカリ金属原子と反応しない金属膜が設けられていてもよい。金属膜は、例えば、表面がTi層から成るTi/Pt/Au膜またはTi/Au膜である。Ti/Pt/Au膜の厚みは、例えば、40/60/100nmである。また、Ti/Au膜の厚みは、例えば、20/100nmである。この場合、入出射光反射面16、平面内反射部17の第1反射面17aおよび第2反射面17bを保護することができる。
【0040】
また、
図6(a)に示すように、ガスセル10は、第1反射面17aと第2反射面17bとが接しており、反射空間14が平面視で五角形を成していてもよい。また、
図6(b)に示すように、ガスセル10は、入出射光反射面16が入射光反射面16aと出射光反射面16bとに分かれており、平面内反射部17が、入射光反射面16aと出射光反射面16bとの間に、シリコンウエハ12の表面との成す角が90度を成す第3反射面17cを有しており、入射光反射面16aから光路平面内に入った反射光が、第1反射面17a、第3反射面17c、第2反射面17bの順にそれぞれ鋭角に反射して、出射光反射面16bに向かうよう設けられていてもよい。この場合、平面内反射部17での反射回数が3回となり、光路長を長くすることができる。
【0041】
また、
図6(c)に示すように、ガスセル10は、第1反射面17aおよび第2反射面17bでの反射角度がほぼ90度であり、
図1のように正確に90度ではなく、90度からややずれていてもよい。
図6(d)に示すように、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)等により、第1反射面17aおよび第2反射面17bが、光路平面内で湾曲したり傾きがややずれたりすることがあるが、その場合でも、入出射光反射面16からの出射光を、シリコンウエハ12の表面に対して垂直方向、すなわち、入射光の入射方向に対して平行かつ逆方向に出射することができる。
【実施例1】
【0042】
図1に示すガスセル10を用いて、RbのD1線の吸収線を測定した。なお、使用するガスセル10は、反射空間14および収納空間15を真空封止したものである。測定は、ガスセル10を90℃に加熱した状態で行い、入射光として、VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)から、795 nmの波長域を有し、直径が200 mmのレーザーを入射した。測定では、レーザーに加える電流を変調させて波長を変化させた。また、出射光の検出には、フォトダイオードを用いた。また、磁場の外乱を防ぐため、磁気シールドとして、パーマロイでガスセル10を覆った。
【0043】
吸収線の測定結果を、
図7に示す。
図7に示すように、RbのD1線の各吸収線が明瞭に確認された。
図7中の±2GHzより外側の吸収線は、87Rbの吸収線であり、±2GHzの内側の吸収線は、85Rbの吸収線である。
【0044】
次に、入射光を、3.4 GHzのCPT(Coherent Population Trapping)共鳴周波数近傍で周波数変調させて、CPTスペクトルの測定を行った。測定には、吸収線測定と同じ装置を使用し、入射光の強度変調には、電気光学変調器を用いた。CPTスペクトルの測定結果を、
図8に示す。
図8に示すように、暗共鳴(Dark resonance)のピークの幅が狭く、周波数シフトが少ないことが確認された。ピークの半値幅は、1.40MHzであった。
【0045】
このように、ガスセル10は、明瞭な吸収線を確認でき、CPTスペクトルのピーク幅が狭いため、高精度の原子時計や、心拍や脳波などにより発生する生体磁気を測定可能な高精度の磁気センサー等に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 ガスセル
11 上部ガラス板
12 シリコンウエハ
13 下部ガラス板
14 反射空間
15 収納空間
16 入出射光反射面
17 平面内反射部
17a 第1反射面
17b 第2反射面
18 アルカリ金属ディスペンサー
19 誘電体多層膜
21 SiO2膜
22、23 レジスト膜
24 ステンシルマスク
16a 入射光反射面
16b 出射光反射面
17c 第3反射面