(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】土壌水分の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20230425BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G01N33/24 E
G01N27/22 C
(21)【出願番号】P 2021140791
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】原 恭彦
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 渉
(72)【発明者】
【氏名】浅野 章好
(72)【発明者】
【氏名】芦刈 正公
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-124343(JP,A)
【文献】特開2021-078359(JP,A)
【文献】特開2015-130802(JP,A)
【文献】特開2012-150068(JP,A)
【文献】特開昭62-108132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 -33/46
G01N 27/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験圃場における複数の土壌水分センサーを用いた土壌水分の測定結果の情報に基づき、対象圃場における土壌水分の代表値を推定するための土壌水分の推定方法であって、
複数の前記土壌水分センサーを用いて前記実験圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する第1の空間分布確認工程と、
前記第1の空間分布確認工程で、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示す際に、前記実験圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第1の個数の前記土壌水分センサーで、前記実験圃場の土壌水分を、所定の測定間隔及び所定の測定回数で測定した、測定タイミングごとの測定結果に由来する、全数中央値または全数平均値を取得する全数由来値取得工程と、
前記第1の個数を用いた測定結果の中から、前記第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、測定タイミングごとの測定結果に由来する、減数中央値または減数平均値を、複数のパターンの前記第2の個数で取得する減数由来値取得工程と、
前記全数中央値または前記全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定すると共に、測定タイミングごとに、前記減数中央値または前記減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入るか否かを判定し、同判定を全測定タイミング分行い、前記第2の個数での、減数中央値または減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出する、経験的確率算出工程と、
前記任意の所定幅及び前記経験的確率に基づき、前記複数のパターンの前記第2の個数の中から、所望の精度を有する前記土壌水分センサーの個数である第3の個数を選択するセンサー個数選択工程と、
前記第1の個数、前記第3の個数、及び、前記土壌水分センサーの個数であり、前記対象圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数、前記実験圃場の面積の情報、及び、前記対象圃場の面積の情報に基づき、前記対象圃場で使用する前記土壌水分センサーの個数m
2について、
前記第1の個数と、前記第4の個数が同じ場合には、前記個数m
2の数を、前記第3の個数と同じ数に決定し、
または、
前記第1の個数と、前記第4の個数が異なる場合には、前記第1の個数をn
1、前記第3の個数をm
1、及び、前記第4の個数をn
2として、前記個数m
2の数を、下記の式(1)を満たす整数として決定する、センサー数決定工程と、
前記個数m
2の前記土壌水分センサーで前記対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とする代表値推定工程と、を備える
土壌水分の推定方法。
【数1】
・・・(1)
【請求項2】
前記土壌水分センサーにおける土壌水分の測定結果は、
所定の範囲内に含まれる測定値のみを採用する
請求項1に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項3】
前記土壌水分センサーにおける土壌水分の測定結果は、
所定の範囲内に含まれない測定値を、前記所定の範囲内に含まれるように、
前記所定の範囲に満たない測定値は、前記所定の範囲の下限の値として扱い、または、前記所定の範囲を超える測定値は、前記所定の範囲の上限の値として扱う
請求項1に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項4】
前記土壌水分センサーにおける土壌水分の測定を、一定の測定間隔で複数回行う際に、測定結果として、一連の測定における一定範囲区分に含まれる複数の測定値の区分中央値または区分平均値を採用する
請求項1、請求項2または請求項3に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項5】
前記土壌水分センサーにおける土壌水分の測定を、一定の測定間隔で複数回行う際に、測定結果として、一連の測定において、測定回数を固定して、かつ、測定のタイミングをずらした移動範囲区分に含まれる複数の測定値の前記土壌水分センサーごとの移動中央値または移動平均値を採用する
請求項4に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項6】
前記空間統計学
的手法は、
前記実験圃場に配置したn個の前記土壌水分センサーから任意の2個を選ぶ組み合わせの全通りに対して、センサー間の距離を算出し、前記センサー間の距離に応じたグループである距離グループ群に分けると共に、前記距離グループ群におけるグループごとの土壌水分の測定値の差のデータ群に基づいて、標本セミバリオグラムを作成する、標本セミバリオグラム作成工程と、
前記センサー間の距離と、前記標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめ、セミバリオグラムモデルを作成すると共に、前記セミバリオグラムモデルを用いて、任意の距離に対するセミバリオグラムの値を推定する、セミバリオグラム推定工程と、
前記n個の前記土壌水分センサーによる土壌水分の測定値に基づく、拡張された重み付き平均を用いて、前記実験圃場の任意の地点における土壌水分を推定する任意地点水分値推定工程と、
前記n個の前記土壌水分センサーによる土壌水分の測定値と、前記任意地点水分値推定工程から推定された前記任意の地点における土壌水分から、各測定時点での、前記実験圃場における土壌水分の可視化を行い、前記実験圃場の空間分布の均一性を確認する空間分布把握工程と、を有する
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項7】
前記個数m
2の前記土壌水分センサーを用いて前記対象圃場の土壌水分を測定し、前記空間統計学的手法により、土壌水分について、前記対象圃場が均一な空間分布を示すかを確認する第2の空間分布確認工程と、を備える
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、または請求項6に記載の土壌水分の推定方法。
【請求項8】
実験圃場における複数の土壌水分センサーを用いた土壌水分の測定結果の情報に基づき、対象圃場における土壌水分の代表値を推定するための土壌水分の推定方法であって、
複数の前記土壌水分センサーを用いて前記実験圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する空間分布確認工程と、
前記空間分布確認工程で、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示す際に、所定の測定間隔及び所定の測定回数にて、第1の個数の前記土壌水分センサーで、前記実験圃場の土壌水分を測定した第1の測定結果と、前記第1の測定結果の中から、前記第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択した、第2の測定結果を、複数のパターンで得ると共に、前記第1の測定結果の測定タイミングごとに得られた全数中央値または全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定し、前記第2の測定結果の測定タイミングごとに得られた減数中央値または減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出する、経験的確率算出工程と、
前記任意の所定幅及び前記経験的確率に基づき、前記複数のパターンの前記第2の個数の中から、所望の精度を有する前記土壌水分センサーの個数である第3の個数を選択するセンサー個数選択工程と、
前記実験圃場の面積の情報、前記対象圃場の面積の情報、及び、前記第3の個数の情報に対して、平均値による近似を用いて、前記対象圃場で使用する前記土壌水分センサーの個数を決定するセンサー数決定工程と、
前記センサー数決定工程で決定した個数の前記土壌水分センサーで前記対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とする代表値推定工程と、を備える
土壌水分の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌水分の推定方法に関する。詳しくは、実験圃場から得られた測定情報を基に、土壌水分を把握したい対象圃場における測定において、測定の精度を担保しながら、適切な個数の土壌水分センサーを用いて、対象圃場の土壌水分の代表値を得ることが可能な土壌水分の推定方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物を栽培する圃場等において、適切なタイミングや量で潅水を行い、水分管理した上で農業を行うために、土壌水分の測定が行われている。
【0003】
ここで、例えば、土壌水分の測定には、土壌水分センサーのプローブに電極を設けて、電極間の静電容量の変化に基づいて、土壌水分を測定する手段が採られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、土壌水分の測定対象となる圃場は、一般的には、一定以上の面積を有する広範囲の土壌が測定対象となるケースが多く、土壌水分を測定する際、複数の土壌水分センサーが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、従前の圃場における土壌水分の測定方法では、対象となる圃場の土壌水分の代表値、即ち、その圃場の代表的な値を、適切に取得することが困難であった。
【0007】
その理由として、まず、土壌自体の構造が複雑であることから、同じ対象圃場に対して、多数の土壌水分センサーを用いて測定を行っても、取得される測定値は、ばらばらの値となることが挙げられる。
【0008】
また、短い距離の設置間隔で配置した土壌水分センサー同士でも、その測定値が異なってしまうことがあった。
【0009】
従って、多数の土壌水分センサーを用いたとしても、従前の土壌水分の測定方法では、個々のセンサーの測定値から、対象圃場の代表値を決定することができなかった。
【0010】
また、同じ圃場の区画内でも、一部の範囲と、他の範囲で、土壌水分や乾燥時の経時的変化が全く異なることがあり、即ち、同じ圃場の区画内で、土壌水分の空間分布に均一性がない場合がある。
【0011】
そのため、土壌水分の代表値を決める際には、土壌水分において均一性を有する範囲を考慮する必要があり、圃場の中で、土壌水分において均一性を有する範囲であれば、その範囲の代表値は1つで良いものとなる。
【0012】
一方、対象圃場の範囲内で、土壌水分において均一性がなければ、土壌水分や乾燥時の経時的変化に基づき、その範囲を区分けして、それぞれの範囲に由来する代表値を決定しなければ、土壌水分を正確に把握することができない。
【0013】
さらに、従前の測定方法では、複数の土壌水分センサーを圃場に配置する際に、どの程度の個数を用いれば、所望の精度で土壌水分を取得できるかが不明であった。
【0014】
また、設置する土壌水分センサーの個数をむやみに増やすことは現実的でなく、対象圃場の広さや、ユーザが望む測定精度に合わせて、適切な土壌水分センサーの個数を決める指標が求められていた。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、実験圃場から得られた測定情報を基に、土壌水分を把握したい対象圃場における土壌水分の測定において、測定の精度を担保しながら、適切な個数の土壌水分センサーを用いて、対象圃場の土壌水分の代表値を得ることが可能な土壌水分の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の土壌水分の推定方法は、実験圃場における複数の土壌水分センサーを用いた土壌水分の測定結果の情報に基づき、対象圃場における土壌水分の代表値を推定するための土壌水分の推定方法であって、複数の前記土壌水分センサーを用いて前記実験圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する第1の空間分布確認工程と、前記第1の空間分布確認工程で、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示す際に、前記実験圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第1の個数の前記土壌水分センサーで、前記実験圃場の土壌水分を、所定の測定間隔及び所定の測定回数で測定した、測定タイミングごとの測定結果に由来する、全数中央値または全数平均値を取得する全数由来値取得工程と、前記第1の個数を用いた測定結果の中から、前記第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、測定タイミングごとの測定結果に由来する、減数中央値または減数平均値を、複数のパターンの前記第2の個数で取得する減数由来値取得工程と、前記全数中央値または前記全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定すると共に、測定タイミングごとに、前記減数中央値または前記減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入るか否かを判定し、同判定を全測定タイミング分行い、前記第2の個数での、減数中央値または減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出する、経験的確率算出工程と、前記任意の所定幅及び前記経験的確率に基づき、前記複数のパターンの前記第2の個数の中から、所望の精度を有する前記土壌水分センサーの個数である第3の個数を選択するセンサー個数選択工程と、前記第1の個数、前記第3の個数、及び、前記土壌水分センサーの個数であり、前記対象圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数、前記実験圃場の面積の情報、及び、前記対象圃場の面積の情報に基づき、前記対象圃場で使用する前記土壌水分センサーの個数m2について、前記第1の個数と、前記第4の個数が同じ場合には、前記個数m2の数を、前記第3の個数と同じ数に決定し、または、前記第1の個数と、前記第4の個数が異なる場合には、前記第1の個数をn1、前記第3の個数をm1、及び、前記第4の個数をn2として、前記個数m2の数を、下記の式(1)を満たす整数として決定する、センサー数決定工程と、前記個数m2の前記土壌水分センサーで前記対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とする代表値推定工程と、を備える。
【0017】
【0018】
ここで、第1の空間分布確認工程で、複数の土壌水分センサーを用いて実験圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認することによって、実験圃場の対象範囲において、土壌水分の代表値の必要な数を決めることができる。即ち、実験圃場の全範囲が、土壌水分において均一性を有する範囲となれば、代表値を1つ決めれば良いことを確認することができる。また、実験圃場の全範囲が、土壌水分において均一性を有しない範囲であれば、均一性を示す範囲に区分けして、均一性を示す範囲ごとに代表値を得るようにすることができる。
【0019】
また、第1の空間分布確認工程で、土壌水分について、実験圃場が均一な空間分布を示す際に、全数由来値取得工程で、実験圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第1の個数の前記土壌水分センサーで、実験圃場の土壌水分を、所定の測定間隔及び所定の測定回数で測定した、測定タイミングごとの測定結果に由来する、全数中央値または全数平均値を取得することによって、後の経験的確率算出工程にて基準となる数値を算出することができる。なお、ここでいう測定タイミングごとの測定結果に由来するとは、所定の測定間隔及び所定の測定回数で測定した際の、測定タイミングごとに、その時点での、第1の個数の土壌水分センサーの全測定値から算出することを意味している。
【0020】
また、減数由来値取得工程で、第1の個数を用いた測定結果の中から、第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、測定タイミングごとの測定結果に由来する、減数中央値または減数平均値を、第2の個数で取得することによって、第1の個数の土壌水分センサーに由来する、測定タイミングごとの全数中央値または全数平均値を基準とした一定の範囲に、第1の個数から数を減らした個数の測定値が含まれる経験的確率を求めるための、個別の個数ごとの数値を算出することができる。なお、ここでいう、「第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、測定タイミングごとの測定結果に由来する、減数中央値または減数平均値」とは、例えば、第1の個数による測定条件が、1分間隔で、10回の測定回数であれば、「1回目の測定タイミング(例えば0分時測定)」における、第1の個数の測定結果の全部の測定値から、第2の個数分を選択した測定値(数を減らした測定値)の中央値、または、平均値を意味する。また、測定タイミングごとに算出されるので、1回目の測定タイミング(例えば0分時測定)、2回目の測定タイミング(例えば1分経過時測定)、3回目の測定タイミング(例えば2分経過時測定)等のように、測定タイミングごとに、減数中央値または減数平均値が算出されるものとなる。
【0021】
また、第1の個数を用いた測定結果の中から、第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、測定タイミングごとの測定結果に由来する、減数中央値または減数平均値を、複数のパターンの第2の個数で取得することによって、第2の個数を、複数のパターン準備することができ、それぞれの個数について、経験的確率を求めるための、個別の個数ごとの数値を算出することができる。例えば、第1の個数が90個であれば、複数のパターンの第2の個数とは、90個から任意で数を減じた、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個等のように、複数の個数を設定して、各測定タイミングにおける、それぞれの第2の個数分選択した測定値の、減数中央値または減数平均値を算出することができる。
【0022】
また、経験的確率算出工程で、全数中央値または全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定すると共に、測定タイミングごとに、減数中央値または減数平均値が、基準から見た任意の所定幅の範囲内に入るか否かを判定し、判定を全測定タイミング分行い、第2の個数での、減数中央値または減数平均値が、基準から見た任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出することによって、第1の個数の土壌水分センサーの測定結果に対して、第1の個数の測定結果から数を減らした第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、第2の個数分で担保できる測定の精度の情報を取得可能となる。つまり、実験圃場で、土壌水分センサーの個数を減らしていった際に、元々の第1の個数の測定結果に対して、数を減らした個数での測定の精度がどの程度に収まるかの数値情報を確認することができる。なお、ここでいう任意の所定幅とは、使用者の求める精度に応じて設定できる数値幅であり、単一数値の数値幅と、複数の数値の数値幅のいずれもが設定できる。また、任意の所定幅とは、例えば、±5%、±3%、±1%等のように、使用者が所望する、任意の測定の精度で、数値幅を設定することができる。
【0023】
また、センサー個数選択工程で、任意の所定幅及び経験的確率に基づき、複数のパターンの第2の個数の中から、所望の精度を有する土壌水分センサーの個数である第3の個数を選択することによって、使用者が所望する、土壌水分センサーの測定の精度が決められたものとなる。例えば、経験的確率算出工程を経て、第1の個数が90個であり、第3の個数(第2の個数の中の1つ)として14個が選択され、その14個のセンサーを使用した場合に、90個のセンサーの全中央値を基準に、±3%の範囲内に入る経験的確率が87%であるとすれば、使用者は「90個のセンサーの全中央値を基準に、±3%の範囲内に入る経験的確率が87%」となる測定の精度を、土壌水分の測定の精度として設定したことになる。このように、第3の個数ごとの測定の精度を、使用者が設定可能となる。また、複数のパターンの第2の個数を設定しておくことで、使用者が選択できる測定の精度の種類も複数準備することができる。
【0024】
また、第1の個数、第3の個数、及び、土壌水分センサーの個数であり、対象圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数、実験圃場の面積の情報、及び、対象圃場の面積の情報に基づき、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2について、センサー数決定工程で、第1の個数と、第4の個数が同じ場合には、個数m2の数を、第3の個数と同じ数に決定することによって、実験圃場において設定した、使用者が選択できる測定の精度を維持しながら、実際に、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数を、第3の個数の数に決めることができる。また、ここでは、実験圃場の広さと、対象圃場の広さが同じ、即ち、実験圃場の広さに応じて配置可能な個数である第1の個数と、対象圃場の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数が同じとみなすことができるため、個数m2の数を、第3の個数と同じ数にすることができる。
【0025】
また、第1の個数、第3の個数、及び、土壌水分センサーの個数であり、対象圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数、実験圃場の面積の情報、及び、対象圃場の面積の情報に基づき、対象圃場で使用するセンサーの個数m2について、センサー数決定工程で、第1の個数と、第4の個数が異なる場合には、第1の個数をn1、第3の個数をm1、及び、第4の個数をn2として、個数m2の数を、上記の式(1)を満たす整数として決定することによって、実験圃場において設定した、使用者が選択できる測定の精度を維持しながら、実際に、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数を決めることができる。また、ここでは、実験圃場の広さと、対象圃場の広さが異なっている、即ち、実験圃場の広さに応じて配置可能な個数である第1の個数と、対象圃場の広さに応じて配置可能な個数である第4の個数が異なるとみなすことができるため、第1の個数をn1、第3の個数をm1、及び、第4の個数をn2として、個数m2の数を、上記の式(1)を満たす整数として決定することによって、実験圃場において設定した、使用者が選択できる測定の精度を維持しながら、実際に、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数を決めることができる。
【0026】
ここで、上記の式(1)は、以下の内容に基づき導かれる。
まず、土壌水分センサーの個数について、元の全数をn個とし、n個から数を減じた個数であるm個がある場合、n個中m個の測定値の「小平均」と、n個の測定値の「全平均」の差の分布については、理論的に、期待値(分布の中心)は0、標準偏差(分布の広がり)は、下記の式(2)と導かれる。
【0027】
【数2】
・・・(2)但し、σは測定値の標準偏差。
【0028】
この上記式(2)に基づくと、例えば、全数n1が90個に対して、m1が7個の場合、標準偏差は、下記の式(3)となる。また、n2が30個に対して、m2が6個の場合、標準偏差は、下記の式(4)となる。
【0029】
【0030】
【0031】
このように、上記の式(1)における標準偏差の係数(下記の式(5))の値がほぼ等しいと、上記の式(3)及び式(4)のように標準偏差もほぼ等しくなる。
【0032】
【0033】
これは、n1個中m1個の測定値の「小平均」と、n1個の測定値の「全平均」の差の分布で概形が近い、つまり、(n1、m1)=(90、7)と、(n2、m2)=(30、6)では、測定値の「小平均」と、測定値の「全平均」の差の分布の概形が近いことを表している。
【0034】
そして、一般的に、下記の式(6)を解いたものが、上記の式(1)となる。
【0035】
【0036】
ここでは、n個、m個の測定値の「平均値」を使用する場合、上記の式(1)に基づいて、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2を算出することができる。また、n個、m個の測定値の「中央値」を使用する場合でも、「小中央値」と「全中央値」の差の分布を、平均値を用いて近似する、即ち、小中央値を小平均に、全中央値を全平均にそれぞれ対応させ、小中央値と全中央値の差の分布を、小平均と全平均の差の分布で置き換えたものとして、同様に、上記の式(1)に基づいて、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2を算出することができる。
【0037】
なお、土壌水分センサーの個数n1と、個数n2との関係では、n1>n2、または、n1<n2のいずれの関係であっても、上記の式(1)に基づいて、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2を算出することができる。また、ここでは、実験圃場の方が広い、即ち、n1>n2、または、対象圃場の方が広い、即ち、n1<n2のいずれの関係であっても、上記の式(1)に基づいて、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2を算出することができる。
【0038】
また、代表値推定工程で、個数m2の土壌水分センサーで対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とすることによって、対象圃場における土壌水分の代表値を、個数m2の土壌水分センサーで測定した結果から推定することができる。この対象圃場における土壌水分の代表値は、実験圃場の測定から決定した測定の精度が担保された値となる。また、測定の精度が担保できる適切な個数の土壌水分センサーが用いられた測定とすることができる。
【0039】
また、土壌水分センサーにおける土壌水分の測定結果が、所定の範囲内に含まれる測定値のみを採用する場合には、得られる測定値の精度を高めることができる。また、この結果、対象圃場における土壌水分の代表値の精度を高めることができる。即ち、例えば、使用する土壌水分センサーについて、測定精度が良好に保たれる測定値の上限及び下限の範囲に基づき、所定の範囲を設定することで、同範囲内のみの測定値が採用されるものとなり、測定値の精度を向上させることができる。
【0040】
また、土壌水分センサーにおける土壌水分の測定結果が、所定の範囲内に含まれない測定値を、所定の範囲内に含まれるように、所定の範囲に満たない測定値は、所定の範囲の下限の値として扱い、または、所定の範囲を超える測定値は、所定の範囲の上限の値として扱う場合には、得られる測定値の精度を高めることができる。また、この結果、対象圃場における土壌水分の代表値の精度を高めることができる。即ち、例えば、使用する土壌水分センサーについて、測定精度が良好に保たれる測定値の上限及び下限の範囲に基づき、所定の範囲を設定し、設定した範囲に満たない測定値や、設定した範囲を超える値を、その範囲の下限値または上限値として扱うことで、設定した範囲に含まれる測定値として収集可能となり、測定値の精度を向上させることができる。
【0041】
また、土壌水分センサーにおける土壌水分の測定を、一定の測定間隔で複数回行う際に、測定結果として、一連の測定における一定範囲区分に含まれる複数の測定値の区分中央値または区分平均値を採用する場合には、1回ずつの測定値で生じうる、変動する誤差の影響が小さくなり、対象圃場における土壌水分の代表値の精度を高めることができる。例えば、1分間隔での測定を、数時間継続する際に、30分の範囲ずつの、土壌水分センサーごとの中央値または平均値を測定結果に採用することで、1分間隔の測定で生じうる測定誤差の影響を小さくした測定結果を得ることができる。つまり、30回分の測定値の中に、いくつか測定誤差と考えられる値が含まれていても、30回分の中央値または平均値を用いることで、測定誤差と考えられる値の影響を減らすことができる。
【0042】
また、土壌水分センサーにおける土壌水分の測定を、一定の測定間隔で複数回行う際に、測定結果として、一連の測定において、測定回数を固定して、かつ、測定のタイミングをずらした移動範囲区分に含まれる複数の測定値の土壌水分センサーごとの移動中央値または移動平均値を採用する場合には、1分間隔の測定で生じうる測定誤差の影響をリアルタイムで減らすことができる。即ち、例えば、1分間隔での測定を、数時間継続し、30分の範囲ずつの、土壌水分センサーごとの中央値または平均値を測定結果に採用する際に、0分から30分までの同一範囲(30分範囲)だけを採用せず、1分から31分の異なる範囲で、30分の範囲ずつの中央値または平均値を測定結果に採用することで、変動する誤差の影響がリアルタイムで小さくなり、対象圃場における土壌水分の代表値の精度をリアルタイムで高めることができる。
【0043】
また、空間統計学手法にて、標本セミバリオグラム作成工程で、実験圃場に配置したn個の土壌水分センサーから任意の2個を選ぶ組み合わせの全通りに対して、センサー間の距離を算出し、センサー間の距離に応じたグループである距離グループ群に分けると共に、距離グループ群におけるグループごとの土壌水分の測定値の差のデータ群に基づいて、標本セミバリオグラムを作成し、セミバリオグラム推定工程で、センサー間の距離と、標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめ、セミバリオグラムモデルを作成すると共に、セミバリオグラムモデルを用いて、任意の距離に対するセミバリオグラムの値を推定する場合には、各土壌水分センサーの配置位置の座標以外の地点も含めた、任意の地点の間の距離に対するセミバリオグラムの値を取得することができる。また、セミバリオグラムモデルを作成することで、確率場の理論から導かれる関係式(コバリオグラムとの関係式)により、空間類似性の有無、空間類似性の強さ、及び、空間類似性が及ぶ距離を確認することができる。なお、セミバリオグラムは空間類似性を、標本セミバリオグラムは測定値から算出される空間類似性を、それぞれ意味している。
【0044】
また、空間統計学手法にて、任意地点水分値推定工程で、n個の土壌水分センサーによる土壌水分の測定値に基づく、拡張された重み付き平均を用いて、実験圃場の任意の地点における土壌水分を推定する場合には、土壌水分センサーの配置位置以外の任意の地点での、土壌水分の測定値の情報を得ることができる。なお、ここでいう拡張された重み付き平均における、重み係数には、任意の地点と、センサーとの距離hに対するセミバリオグラム、γ(h)が反映されている。
【0045】
また、空間統計学手法にて、n個の土壌水分センサーによる土壌水分の測定値と、任意地点水分値推定工程から推定された任意の地点における土壌水分から、各測定時点での、実験圃場における土壌水分の可視化を行い、実験圃場の空間分布の均一性を確認する空間分布把握工程を有する場合には、各測定時点での、実験圃場の土壌水分の状態を視覚化して、その経時的変化を追うことで、実験圃場の範囲で、均一な空間分布を示すかを確認することができる。なお、ここでは、例えば、測定時点ごとの、実験圃場の各地点での、土壌水分の測定値または推定値に対して、等高図等で空間分布をグラフ化し、グラフの経時的な変化を確認することで、空間分布の均一性、または、不均一性(傾向や偏り)等を視覚化することができる。
【0046】
また、個数m2の土壌水分センサーを用いて対象圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、対象圃場が均一な空間分布を示すかを確認する第2の空間分布確認工程を備える場合には、対象圃場において、個数m2の土壌水分センサーの測定結果の中央値または平均値という1つの値を、土壌水分の代表値とすることの妥当性を確認することができる。
【0047】
また、上記の目的を達成するために、本発明の土壌水分の推定方法は、実験圃場における複数の土壌水分センサーを用いた土壌水分の測定結果の情報に基づき、対象圃場における土壌水分の代表値を推定するための土壌水分の推定方法であって、複数の前記土壌水分センサーを用いて前記実験圃場の土壌水分を測定し、空間統計学的手法により、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する空間分布確認工程と、前記空間分布確認工程で、土壌水分について、前記実験圃場が均一な空間分布を示す際に、所定の測定間隔及び所定の測定回数にて、第1の個数の前記土壌水分センサーで、前記実験圃場の土壌水分を測定した第1の測定結果と、前記第1の測定結果の中から、前記第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択した、第2の測定結果を、複数のパターンで得ると共に、前記第1の測定結果の測定タイミングごとに得られた全数中央値または全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定し、前記第2の測定結果の測定タイミングごとに得られた減数中央値または減数平均値が、前記基準から見た前記任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出する、経験的確率算出工程と、前記任意の所定幅及び前記経験的確率に基づき、前記複数のパターンの前記第2の個数の中から、所望の精度を有する前記土壌水分センサーの個数である第3の個数を選択するセンサー個数選択工程と、前記実験圃場の面積の情報、前記対象圃場の面積の情報、及び、前記第3の個数の情報に対して、平均値による近似を用いて、前記対象圃場で使用する前記土壌水分センサーの個数を決定するセンサー数決定工程と、前記センサー数決定工程で決定した個数の前記土壌水分センサーで前記対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とする代表値推定工程と、を備える。
【0048】
ここで、空間分布確認工程で、土壌水分について、実験圃場が均一な空間分布を示す際に、経験的確率算出工程で、所定の測定間隔及び所定の測定回数にて、第1の個数の土壌水分センサーで、実験圃場の土壌水分を測定した第1の測定結果と、第1の測定結果の中から、第1の個数から、任意で数を減らした数である第2の個数分の測定値を選択した、第2の測定結果を、複数のパターンで得ると共に、第1の測定結果の測定タイミングごとに得られた全数中央値または全数平均値の値を基準に、任意の所定幅を設定し、第2の測定結果の測定タイミングごとに得られた減数中央値または減数平均値が、基準から見た任意の所定幅の範囲内に入る経験的確率を算出することによって、第1の個数の土壌水分センサーの測定結果に対して、第1の個数の測定結果から数を減らした第2の個数分の測定値を選択して、その選択した測定値につき、第2の個数分で、担保できる測定の精度の情報を取得可能となる。つまり、実験圃場で、土壌水分センサーの個数を減らしていった際に、元々の第1の個数の測定結果に対して、数を減らした個数での測定の精度がどの程度に収まるかの数値情報を確認することができる。
【0049】
また、代表値推定工程で、センサー数決定工程で決定した個数の土壌水分センサーで対象圃場の土壌水分を測定して、その測定結果の中央値または平均値を、対象圃場における土壌水分の代表値とすることによって、対象圃場における土壌水分の代表値を、決定した個数の土壌水分センサーで測定した結果から推定することができる。この対象圃場における土壌水分の代表値は、実験圃場の測定から決定した測定の精度が担保された値となる。また、測定の精度が担保できる適切な個数の土壌水分センサーが用いられた測定とすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明に係る土壌水分の推定方法は、実験圃場から得られた測定情報を基に、土壌水分を把握したい対象圃場における測定において、測定の精度を担保しながら、適切な個数の土壌水分センサーを用いて、対象圃場の土壌水分の代表値を得ることが可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例における流れの全体概略を示すフロー図である。
【
図2】距離hと標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめる作業を説明するためのグラフである。
【
図3】セミバリオグラムとコバリオグラムの関係を示すグラフである。
【
図4】圃場を土壌水分センサーの座標を含む0.5mの大きさの正方形で区分けすることを示す説明図である。
【
図5】土壌水分の値に基づき、0.5mの大きさの正方形の区分ごとに色分けすることを示す説明図である。
【
図6】圃場を土壌水分センサーの座標を含む0.1mの大きさの正方形で区分けして、土壌水分の値に基づき、正方形の区分ごとに色分けした事例を示す説明図である。
【
図7】
図6の説明図に等高線を重ね書きした状態を示す説明図である。
【
図8】
図7の説明図で等高線に沿って、土壌水分の値に応じた色を再度付けた状態を示す説明図である。
【
図9】実験圃場で90個の土壌水分センサーを用いて任意の地点を含めて、土壌水分の状態を可視化した説明図である。
【
図10】
図9に続いて、異なる測定時点での実験圃場の土壌水分の状態を可視化した説明図である。
【
図11】
図9及び
図10に続いて、異なる測定時点での実験圃場の土壌水分の状態を可視化した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
なお、以下に示す内容は本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例であり、本発明の内容は以下に示す内容に限定されるものではなく、適宜設定変更することが可能である。
【0053】
本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法は、一定の広さの実験圃場における土壌水分センサーの測定結果の情報に基づき、実験圃場より面積が小さい対象圃場における土壌水分の代表値を推定する方法である。
【0054】
まず、
図1を用いて、本発明の土壌水分の推定方法の流れの全体概略を説明する。
【0055】
図1に示すように、本発明では、まず、実験圃場において、実験圃場の面積の広さに配置可能な個数(n
1個とする)の土壌水分センサーを用いて土壌水分の測定を行う(図のSTEP1)。以下の内容では、個数n
1の一例として、90個を例に説明を行う。また、必要に応じて、個数n
1を「全数」と呼ぶことがある。
【0056】
次に、個数n
1(全数)の土壌水分センサーの測定結果から、実験圃場の空間分布の確認を行う(
図1のSTEP2)。
【0057】
この実験圃場の空間分布の確認の工程では、空間統計学的手法を用いて、実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する。
【0058】
また、実験圃場において、その全体範囲が均一な空間分布を示すものであれば、実験圃場の土壌水分の代表値が1つで良いことを確認することができる。つまり、本工程で、実験圃場の代表値の妥当性を検証することができる。
【0059】
また、実験圃場が均一な空間分布を示すかを確認する工程により、対象圃場の空間分布を見える化できる。また、本工程では、実験圃場における、土壌水分センサーの空間類似性が及ぶ距離(レンジ)の情報を得ることができる。なお、土壌水分センサー及び実験圃場の空間分布の確認の詳細については後述する。
【0060】
また、実験圃場の空間分布の確認の工程にて、実験圃場が均一な空間分布を示した場合、個数n
1個(90個)の土壌水分センサーでの測定結果(全測定値)から、その個数n
1個から数を減らした個数の測定値の選択を行う(
図1のSTEP3)。
【0061】
ここでは、後述する測定精度の選択の工程で、複数のパターンの測定精度の中から、所望の精度を使用者が選択可能となるように、個数n1個から数を減らした個数については、実験圃場の空間分布の確認で用いたn1個(90個)から数を減らしていった、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個のように、複数のパターンで測定値の選択を行う。
【0062】
また、土壌水分センサーの個数n1個から数を減らす際には、センサー間の距離が同じになるように、かつ、センサーの外縁の形状が矩形となるように、その個数を選択した。
【0063】
ここで、実験圃場の空間分布の確認で用いた土壌水分センサーの個数(n1)は、必ずしも90個に設定される必要はなく、適宜設定することができる。但し、この数は、実験圃場の面積の広さに応じて配置可能な個数であるとして配置及び設定される必要がある。
【0064】
また、必ずしも、土壌水分センサーの個数を減らした個数の複数のパターンが、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個に限定される必要はなく、その数を変更した内容を選択可能である。但し、後の測定精度の選択の工程で、使用者が選択できる測定精度のバリエーションを幅広く持たせるため、減少させる個数のバリエーションも、多めの個数から、少なめの個数まで、幅広く設定しておくことが好ましい。
【0065】
また、必ずしも、土壌水分センサーの個数を減らす際には、必ずしも、センサー間の距離が同じになるように、かつ、センサーの外縁の形状が矩形となるように、その個数を減らす必要はなく、任意の条件で個数を減らすように選択することができる。
【0066】
続いて、実験圃場における土壌水分センサー個数n
1個の測定結果と、個数n
1個から数を減らした個数の測定値を選択した結果から、経験的確率を算出する(
図1のSTEP4)。
【0067】
この経験的確率を算出する工程では、90個の土壌水分センサーで行った測定結果に由来する、各測定タイミングでの「全数中央値」を基準に、この全数中央値から所定の数値範囲内に、土壌水分センサーの数を減らした個数の測定値を選択して、その選択した測定値における、各測定タイミングでの測定中央値(減数中央値)が含まれる確率(経験的確率)を算出する。
【0068】
この経験的確率は、90個の土壌水分センサーの個数を、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個と減らしていった場合に、どの程度の測定精度が担保できるかを示す指標となる。
【0069】
ここで、必ずしも、経験的確率の算出において、測定結果の、各測定タイミングでの中央値(全数中央値、減数中央値)が採用される必要はなく、各測定タイミングでの平均値が採用され、経験的確率が算出されてもよい。但し、明らかな測定誤差等に由来する外れ値を除外して、精度の高い値が得られやすいこと、及び、外れ値に対して頑健性があることから、測定結果の中央値が採用されることが、より好ましい。
【0070】
次に、測定精度の選択工程において、算出した経験的確率の内容から、使用者が求める精度に応じて、土壌水分センサーの個数を減らすように選択した複数のパターンの個数から、1つを選択する(
図1のSTEP5)。
【0071】
つまり、経験的確率を算出する工程で得られた、90個の土壌水分センサーの個数を、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個と減らしていった場合での、各個数で測定精度の中から、使用者が求める精度に応じて、センサーの個数(m1個とする)を選択する。
【0072】
ここでの精度とは、例えば、土壌水分センサーの個数「13個」を選択した場合、90個のセンサーの測定結果に関する全中央値±5%に含まれる経験的確率が99.3%(0.993)となるような値である。
【0073】
上記を換言すれば、土壌水分センサーを90個から13個に減らした場合、13個のセンサーでの測定結果の中央値(小中央値)は、99.3%の確率で、90個のセンサーでの測定結果の「全中央値±5%」の範囲に入る精度が担保されることを意味する。
【0074】
そのため、測定精度の選択工程では、使用者はセンサーの減らした個数を選択することで、自身が必要とする測定精度を選択したものとなる。
【0075】
次に、対象圃場で使用するセンサーの個数を決定する工程では、測定精度の選択工程で選択した、実験圃場での個数を減らした数(m
1個)と、実験圃場において、その面積の広さに配置可能な数であり、個数を減らす前の土壌水分センサーの数(n
1個=90個)と、対象圃場の面積の広さに配置可能な土壌水分センサーの数(n
2個とする)の情報から、対象圃場で使用するセンサーの個数(m
2個とする)を決定する(
図1のSTEP6)。
【0076】
この工程では、実験圃場で個数を減らすように選択した土壌水分センサーの数に対応する測定精度の水準が、対象圃場においても維持可能となるための、土壌水分センサーの数を決定する工程である。つまり、使用者が求める測定精度が、対象圃場の広さで担保できる、土壌水分センサーの数(m2個)を求める工程である。
【0077】
ここまでの工程で、対象圃場において、使用者が求める土壌水分の測定精度と、それを得るために必要な土壌水分センサーの個数(m2個)を設定することができる。
【0078】
続いて、対象圃場において、m
2個の土壌水分センサーを用いて、土壌水分の測定を行い、測定結果に基づき、対象圃場の代表値を取得する(
図1のSTEP7)。本工程では、所定の測定条件で、m
2個の土壌水分センサーを介して、土壌水分を測定して、原則、各測定タイミングでの測定値から、中央値を算出する。この中央値が、対象圃場における土壌水分の代表値と推定することができる。
【0079】
また、更なる工程として、m
2個の土壌水分センサーを用いて測定した対象圃場の測定結果から、空間統計学的手法を用いて、対象圃場が均一な空間分布を示すかを確認する工程を行う(
図1のSTEP8)。
【0080】
この対象圃場において、その全体範囲が均一な空間分布を示すものであれば、対象圃場の土壌水分の代表値が1つで良いことを確認することができる。つまり、本工程で、対象圃場の代表値の妥当性を検証することができる。
【0081】
また、詳細は後述するが、対象圃場が均一な空間分布を示すかを確認する工程により、対象圃場の空間分布を見える化できる。
【0082】
以上の内容が、本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法Aによる、対象圃場での土壌水分の代表値を推定する方法の概略である。続いて、以下、推定方法Aの詳細を説明する。
【0083】
[土壌水分センサー]
まず、土壌水分センサーについて説明する。本発明では、土壌水分を測定する土壌水分センサーとして、静電容量方式の非接触型の土壌水分センサー(DFROBOT社製、型番:Capacitive Soil Moisture Sensor v1.2)を用いている。
【0084】
この土壌水分センサーは、土壌水分の指標の一つである体積含水率(θ:土の全体積に対する水の体積の比、m3/m3)のパラメータを非接触でリアルタイムに計測することができる。そのため、本実施の形態における土壌水分の測定値とは、体積含水率(θ)の値である。
【0085】
ここで、必ずしも、本発明における土壌水分の測定値として、体積含水率が採用される必要はない。例えば、土壌水分の指標である含水比(w)、または、乾燥密度(ρb)を用いる態様であってもよい。また、本発明では、土壌水分センサーとして、その他の既知の測定手段を採用することが可能である。
【0086】
[空間統計学的手法による空間分布の確認]
次に、実験圃場における空間統計学的手法による空間分布の確認について、詳細を説明する。なお、以下の内容は対象圃場における空間統計学的手法による空間分布の確認についても同様の手法が採用しうる。
【0087】
[土壌水分センサーの実験圃場での配置]
まず、実験圃場における空間統計学的手法による空間分布では、90個(n1個)の土壌水分センサーを使用した。本実施の形態では、実験圃場は、横6mかつ縦18mの長方形状の圃場である。
【0088】
この実験圃場に対して、90個の土壌水分センサーを、横一列に5台、かつ、縦に18台として、縦横のいずれもセンサー同士の距離を1m間隔で、格子状になるように配置した。
【0089】
このような配置とすることで、実験圃場の大部分の範囲が、均等に配置された土壌水分センサーで占められることになり、センサーの個数90個を、実験圃場の面積の広さに配置可能な数とみなすことができる。
【0090】
また、本実施の形態で使用するセンサーは、本体中の約7cmの範囲に計測部分が設けられており、ここでは、土壌水分センサーの計測部分が、土壌の地表面から深さ2cm~9cmの範囲に位置するように、センサーを土壌に設置した。90個のセンサーはいずれも同様に、地表面から深さ2cm~9cmの範囲に設置した。
【0091】
なお、土壌水分センサーの測定は、略平坦な圃場が測定対象であっても、センサー本体の計測部分が設置される土壌深さによって異なる測定となる。そのため、略平坦な圃場を測定対象とする際には、センサーの設置深さを揃える必要がある。
【0092】
上記では、地表面から深さ2~9cmの範囲にセンサーを設置したが、土壌のより深い位置で測定するのであれば、センサーの挿入深さを揃えるものとなる。また、例えば、圃場に畝が設けられ、高低差を含む土壌の場合、畝のある範囲と、畝のない範囲に分けて、それぞれの範囲に、本発明を適用した土壌水分の推定方法を適用することができる。
【0093】
ここで、必ずしも、本発明では、90個の土壌水分センサーを、縦横のいずれもセンサー同士の距離を1m間隔で、格子状になるように配置する必要はなく、センサー間の距離が算出可能であれば、センサーの設置間隔や配置の形状は限定されるものではない。但し、1m間隔で、格子状になるように配置することで、多数のセンサーの設置が容易となり、かつ、2つのセンサーの各組み合わせでのセンサー間の距離が算出しやすいものとなる。
【0094】
上記で説明した内容で90個の土壌水分センサーを配置して、次の測定条件で、実験圃場における土壌水分の測定を行った。まず、実験圃場の全範囲に対して、土壌が乾燥した状態から、その土壌の最大容水量の水を潅水して、自然乾燥で、土壌がそれ以上乾燥しない状態になるまで、経時的に測定を行った。
【0095】
土壌への潅水後、土壌がそれ以上乾燥しない状態になるまでは、3週間の期間であった。また、90個の土壌水分センサーでの測定は、初期の乾燥した状態から測定を開始して、潅水後に、土壌が再度乾燥するまでの間、1分間隔で測定を行った。即ち、1つのセンサーでは、例えば、30分間に30個の測定値が得られ、これを経時的に3週間測定し、データの取得を行った。
【0096】
続いて、実験圃場での、90個の土壌水分センサーを用いた3週間の測定結果に対して、空間統計学的手法を用いて、土壌水分における実験圃場の空間分布の確認を行った。
【0097】
[標本セミバリオグラム作成工程]
まず、空間統計学的手法では、各測定タイミングでの測定値に対して、標本セミバリオグラム作成工程を行う。標本セミバリオグラム作成工程は、次の手順である。
【0098】
ここでは、90個のセンサーから、任意の2つを選ぶ組み合わせについて、その全通りの組み合わせである、「90×(90-1)/2」通り、即ち、4005通りの組み合わせに対して、2つのセンサー間の距離hに応じて、グループ分けを行った。例えば、距離1mのグループ、距離2mのグループ、距離√2のグループ等のように、センサー間の距離が同じ距離となる組み合わせで、グループに分類する。
【0099】
そして、2つのセンサー間の距離hにおけるグループ(区間)ごとに、そのグループに含まれる2つのセンサーの組み合わせの各測定値(zi、zj)の差の2乗の平均値を、2で割った値である標本セミバリオグラムを算出する。標本セミバリオグラムは、下記の式(7)で表される。つまり、距離hごとに、標本セミバリオグラムを算出する。
【0100】
【0101】
[セミバリオグラム推定工程]
次に、距離hと標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめる。空間統計学(確率場の理論)では、この曲線をセミバリオグラムモデルと呼ぶ。このセミバリオグラムモデルを用いて、任意の距離hに対するセミバリオグラムの値γ(h)を推定する。
【0102】
ここで、セミバリオグラムには、空間統計学(確率場の理論)において複数のモデルがある。その1つがナゲット効果モデルと球形モデルを組み合わせたモデルであり、下記の式(8)で定義される。
【0103】
【数8】
・・・(8)
ここで、θ
0、θ
1、θ
2はパラメータで、これらの値により、このモデルの曲線の形が決まる。また、セミバリオグラムは、2つのセンサー間の距離hの関数である。
【0104】
また、距離hと標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめる作業について、
図2を用いて説明する。
図2は、横軸にセンサー間の距離h、縦軸に標本セミバリオグラムを取った散布図であり、グラフ中の丸が、各距離hでの標本セミバリオグラムを示している。
【0105】
ここで、
図2中の曲線が、セミバリオグラムモデルである。この曲線は、曲線と、各距離hにおける標本セミバリオグラムとの誤差(
図2中に縦向きの点線で示す)について、その誤差の2乗の総和が最小になるように、上記式(9)おけるパラメータθ
0、θ
1、θ
2の値を求めることで生成することができる。なお、
図2は、説明を簡易にするために用いた典型的な曲線の形である。
【0106】
このようにして、距離hと標本セミバリオグラムの散布図に曲線をあてはめ、セミバリオグラムモデルを生成し、このセミバリオグラムモデルを用いて、任意の距離hに対するセミバリオグラムの値γ(h)を推定する。つまり、曲線に任意の距離hを与えることで、距離hに対するセミバリオグラムの値γ(h)を求めることができる。
【0107】
なお、セミバリオグラムγ(h)は空間非類似性とも呼ばれる。また、標本セミバリオグラムは空間類似性の平均値とも呼ばれる。
【0108】
また、確率場の理論により、セミバリオグラム(空間非類似性)γ(h)には、以下の式(9)で表す定理が成り立つ。
【0109】
【数9】
・・・(9)
特にγ(0)=0のとき、C=C(0)よりC(h)=C(0)-γ(h)が成り立つ。
【0110】
ここで、関数C(h)はコバリオグラム(空間類似性)を表し、Cは定数を表している。また、確率場の理論から、セミバリオグラムとコバリオグラムは表裏一体の関係となる(
図3参照)。
【0111】
即ち、
図3には、
図2で示したセミバリオグラムモデルに対するコバリオグラムの曲線(符号Cで示す)を示している。また、セミバリオグラム(空間非類似性)とコバリオグラム(空間類似性)の関係から、空間類似性の強さ(
図3の符号Yで示す箇所)と、空間類似性が及ぶ距離(
図3の符号Xで示す箇所)が明らかとなる。
【0112】
なお、空間類似性が及ぶ距離については、セミバリオグラムモデルの曲線で、標本セミバリオグラムが頭打ちになった箇所の距離(h)からも確認可能である。
【0113】
ここで、空間類似性が及ぶ距離(レンジ)は、土壌水分センサーの測定値が及ぶ範囲を示す数値である。本実施の形態では、空間類似性が及ぶ距離(レンジ)は0.55mであった。そのため、実験圃場においては、土壌水分センサー間の距離に関して、空間類似性は隣接する土壌水分センサーに及ばず、個々のセンサーで測定を行う意義があることが確認できた。
【0114】
また、
図2及び
図3に示すセミバリオグラムモデルからは、曲線で、標本セミバリオグラムが頭打ちになった箇所の距離(h)(約1.9m)の位置を境界として、距離(h)が0~1.9mの範囲では、距離(h)と標本セミバリオグラムとの間に比例関係があり、距離(h)が1.9m以上の範囲では、距離(h)と標本セミバリオグラムとの間に関係が無くなることが分かる。このように、セミバリオグラムモデルからは、空間類似性の関係も明らかとなる。
【0115】
[任意地点水分値推定工程]
次に、実験圃場の任意の地点における土壌水分の値について、90個全ての土壌水分センサーの測定値を総合的に考慮し、「拡張された重み付き平均」を用いて推定する。即ち、実験圃場の中で、センサーが配置されていない地点について、土壌水分の値を推定する。
【0116】
ここで、拡張された重み付き平均とは、以下の式(10)で表され、かつ、重み係数wiの条件を以下の式(11)のみとしたものである。
【0117】
【0118】
【0119】
まず、任意の地点における土壌水分の値を、全ての土壌水分センサーの測定値z1、z2・・・znからの、通常の平均値として求めると、任意の地点における値は同じになってしまい、地点ごとの値の違い(空間分布)を知ることはできない。
【0120】
そこで、通常の平均値を拡張した、「重み付き平均」を考える。通常の平均値は、全ての土壌水分センサーの測定値z1、z2・・・znに重み係数(1/n)をかけた総和とみなすことができる。この重み係数を、より一般的なwiとし、wiの条件として、0≦wi≦1、かつ、上記の式(11)を満たす値としたのが、重み付き平均である。この重み付き平均は、上述した式(10)で表される。
【0121】
ここで、さらに、上述したように、重み付き平均における、0≦wi≦1の条件を除外して、上記の式(11)のみをwiの条件としたものが、「拡張された重み付き平均」である。これは線形結合とも呼ばれる。また、空間統計学(確率場の理論)においては、より一般的な、上記の式(11)のみをwiの条件としたものが採用されている。
【0122】
以下、任意の地点について、拡張された重み付き平均を用いた、土壌水分の値の推定をさらに説明する。
【0123】
まず、2地点の土壌水分センサーを考えた場合、1つ目のセンサーについて、x座標をx1、y座標をy1、測定値z1とし、2つ目のセンサーについて、x座標をx2、y座標をy2、測定値z2とする。この際の拡張された重み付き平均は、以下の式(12)となる。また、重み係数w1及びw2は、w1+w2=1を満たす。
【0124】
【0125】
また、確率場の理論より、重み係数w1及びw2を、任意の地点における各土壌水分センサーからの距離に応じて、以下の式(13)及び式(14)のように決める。なお、h01は任意の地点と1つ目のセンサーの距離であり、h02は任意の地点と2つ目のセンサーの距離であり、h12は1つ目のセンサーと1つ目のセンサーの距離である。また、γ(h)はセミバリオグラムである。このように、重み係数には、任意の地点と、センサーの距離hに対するセミバリオグラムγ(h)が反映される。
【0126】
【0127】
【0128】
そして、任意の地点と、距離h01及び距離h02について、次の3つの場合を考える。
(場合1)任意の地点が、2つの土壌水分センサーから等距離にある(h01=h02)。
(場合2)任意の地点が、1つ目の土壌水分センサーに近い(h01<h02)。
(場合3)任意の地点が、2つ目の土壌水分センサーに近い(h01>h02)。
【0129】
まず、「場合1」の際は、h01=h02で、セミバリオグラムが同じ値になり(γ(h01)=γ(h02))、重み係数w1及びw2は、上記の式(13)及び式(14)から、同じ1/2の値となる。そして、式(12)から、拡張された重み付き平均は、(z1+z2)/2で、通常の平均値となる。
【0130】
また、「場合2」の際は、h01<h02で、セミバリオグラムはγ(h01)≦γ(h02)となり、重み係数w1及びw2は、上記の式(13)及び式(14)から、w1≧w2となる。そして、拡張された重み付き平均は、重み係数w1の方が、重み係数w2よりも大きいと、式(12)から、通常の平均値に比べて、z1に近い値となる。
【0131】
また、「場合3」の際は、h01>h02で、セミバリオグラムはγ(h01)≧γ(h02)となり、重み係数w1及びw2は、上記の式(13)及び式(14)から、w1≦w2となる。そして、拡張された重み付き平均は、重み係数w2の方が、重み係数w1よりも大きいと、式(12)から、通常の平均値に比べて、z2に近い値となる。
【0132】
このように、実験圃場における任意の地点では、2地点の土壌水分センサーの座標からの距離と、各センサーの測定値との関係から、拡張された重み付き平均を用いて、その任意の地点での土壌水分の値を推定することができる。
【0133】
以上の内容は、説明を簡略化するため、2地点の土壌水分センサーとの関係で説明を行ったが、実験圃場の任意の地点では、1つの任意の地点に対して、全てのセンサーに関する、各座標からの距離と、各センサーの測定値と関係で考える。即ち、90個のセンサーを配置した場合、1つの任意の地点に対する土壌水分の値の推定は、90個のセンサーとの関係で演算する。
【0134】
[空間分布把握工程]
次に、実験圃場における土壌水分の空間分布の見える化の詳細を説明する。
ここでは、各測定タイミングにおける土壌水分センサーの測定値と、全ての土壌水分センサーの測定値から、上述した拡張された重み付き平均を用いて推定された、任意の地点における土壌水分の値を用いて、各測定タイミングでの、実験圃場の土壌水分を可視化する。
【0135】
まず、
図4及び
図5を用いて説明する。本部分では、説明の便宜上、土壌水分センサーを12個用いた例をもって説明を行う。ここでは、圃場中に配置した12個のセンサーで囲まれた縦及び横の範囲を、0.5mの大きさの正方形で区分けして、各正方形の範囲の土壌水分を示していく。
図4の横軸はx座標、縦軸はy座標である。また、右側のスケールバーは土壌水分の値の大きさを色分けして示したものである。
【0136】
また、
図4中の黒丸は、12個の土壌水分センサーの位置を示している。0.5mの大きさの正方形は、真ん中にセンサーが位置するように区分けされている。
図4では、各センサーに対応する正方形に、それぞれのセンサーの測定値に応じた土壌水分を示す色が付されている。
【0137】
また、
図4の符号Aで示す点線の正方形は、土壌水分センサーがない任意の地点の1つの範囲を示す図である。
図4では内容を分かりやすくするため、任意の地点を1つ示しているが、実際には、圃場中の12個のセンサーで囲まれた範囲で、センサーがない位置の全てに、0.5mの大きさの正方形が設定される。
【0138】
そして、任意の地点の正方形の中心位置の座標に対して、12個の土壌水分センサーとの距離(h)と、全センサーの測定値との関係から、上述した拡張された重み付き平均を用いて、任意の地点の土壌水分の値を推定する。即ち、演算された拡張された重み付き平均の値を、その任意の地点における土壌水分の値とする。
【0139】
このような作業を、圃場の中の土壌水分センサーがない、全ての任意の地点の正方形に対して行い、各地点の土壌水分の値を算出する。この結果、
図5に示すように、土壌水分について、12個の土壌水分センサーの測定値と、センサーのない任意の地点の推定値の、それぞれに応じた色を付して、ある測定タイミングにおける圃場の土壌水分の状態を可視化することができる。
【0140】
また、
図4及び
図5は、0.5mの大きさの正方形の例を示したが、正方形の大きさを小さくすることで、より細かく、圃場の土壌水分の状態を示すことができる。一例として
図6には、12個の土壌水分センサーに対して、圃場を、0.1mの大きさの正方形で区分けして、圃場の土壌水分の状態を可視化している。
【0141】
図6では、一例として、0.1mの大きさの正方形の875個で区分けがされている。このように、正方形の大きさの設定を変えることで、より高精度に、圃場の土壌水分の状態を可視化することができる。
【0142】
また、土壌水分の空間分布の見える化では、土壌水分の測定値及び推定値の結果に基づき、等高線を重ね書きして表示することができる(
図7参照)。なお、
図7は、
図6の結果に対して、等高線を重ね書きした図である。また、さらに、
図7の状態から、等高線に沿って、土壌水分の値に応じた色を再度付けると色のはみ出しが消え、より自然に、圃場の土壌水分の状態を可視化することができる(
図8参照)。
【0143】
以上の流れで、ある測定タイミングでの、実験圃場における土壌水分の空間分布の見える化を行うことができる。本実施の形態では、実際には、90個の土壌水分センサーを使って、同様の手法で、各測定タイミングでの、実験圃場の中の土壌水分の状態を可視化した。
【0144】
また、この実験圃場における土壌水分の空間分布の見える化は、90個のセンサーで、1分間隔で測定した、各測定時において、見える化の作業を行った。その結果、例えば、
図9~
図11に示すような、測定時点ごとの、実験圃場の土壌水分の状態の情報を得ることができる。
【0145】
また、本発明では、実験圃場の空間分布の確認の工程(
図1のSTEP2)として、この測定時点ごとの、実験圃場の土壌水分の状態の図を用いて、その内容を検証することで、土壌水分について、実験圃場が均一な空間分布を示すか否かを確認する。
【0146】
より詳細には、実験圃場の土壌水分の状態の図を、順番に観察していき、実験圃場の面全体として、同じ土壌水分の値が観察される結果が、複数の測定タイミングで得られれば、その観察した圃場のエリアは、均一性がある(均一な空間分布を示す)と判断できる。
【0147】
ここで、例えば、
図9~
図11では、黒い点の1つが、1つの土壌水分センサーの位置を示している。また、全センサーを囲む矩形が、圃場のエリアの面全体に相当し、この面全体(矩形)が、同一の色、即ち、同じ土壌水分の値を示していることから、観察した圃場のエリアは、均一性があると判断できる。
【0148】
なお、黒い点がない箇所は、その測定時点において、測定タイミングのずれ等により、土壌水分センサーの測定値がないことを示している。また、1つずつのセンサーの測定値には、ばらつきがあるため、個々のセンサーを中心とする範囲は、異なる色を示している。
【0149】
また、本事例では、全測定タイミングは46,519回であり、全測定タイミング分の空間分布の画像も46,519枚存在した。そして、全画像中のわずか10枚(約1万分の2)を除いて、残りの全ての画像で、圃場のエリアの面全体(矩形)が、同一の色、即ち、同じ土壌水分の値を示す結果となった。
【0150】
一方、仮に、圃場のエリアの面全体(矩形)が、同一の色にならず、面全体の中に色が異なる複数の境界範囲が含まれる画像が、全測定タイミング分の空間分布の画像の中で多数観察される場合には、その観察した圃場のエリアは、均一性がない(均一な空間分布を示さない)とみなされる。
【0151】
このように、測定時点ごとの、実験圃場の土壌水分の状態を、実験圃場の全体の「面」として捉えることで、そのエリア全体が、土壌水分について、均一な空間分布を示すか否かを決めることができる。
【0152】
本実施の形態では、
図9~
図11に示すように、ほとんどの測定時点で、圃場のエリアの面全体(矩形)が、同じ土壌水分の値(同一の色)を示す結果が得られたことから、実験圃場は均一な空間分布を示すものであった。また、このことから、実験圃場では、均一な空間分布を示すことから、土壌水分の代表値が1つで良いことが明らかとなった。
【0153】
一方、もし仮に、実験圃場の範囲内が同一の色にならず、面全体の中に色が異なる複数の境界範囲が含まれる画像が、多数の測定タイミングで観察され、均一な空間分布を示さないとなった場合には、明確な境界のある範囲と、そうでない範囲を分けて、取り扱うことができる。
【0154】
つまり、例えば、明確な境界のある範囲だけを対象として、複数の土壌水分センサーの測定結果から、同じ手法を用いて、均一な空間分布を示すものであれば、明確な境界のある範囲について、代表値が1つでよいものとして取り扱うことができる。
【0155】
また、実験圃場の場所によっては、同じ土地であっても、水はけや、乾きやすさ等の違いにより、例えば、長方形の土地の、一端側の20%と、残りの80%で、土壌水分の挙動が異なるケースも想定される。そのような場合、20%の土地と、80%の土地を区分けして、それぞれの土地で、土壌水分の代表値を求めることが可能である。
【0156】
このように、実験圃場の空間分布の確認の工程では、空間統計学的手法を用いて、土壌水分について、実験圃場が均一な空間分布を示すか否かを確認することができ、また、代表値を1つとして良いことの妥当性を検証することができる。さらに、本工程では、土壌水分センサーの空間類似性が及ぶ距離(レンジ)を取得することができる。
【0157】
[土壌水分センサーの個数を減らしての測定]
上述したように、次に、土壌水分センサーの測定結果(全測定値)から、その個数n
1個から数を減らした個数の測定値の選択を行う(
図1のSTEP3)。
【0158】
本工程では、実験圃場の空間分布の確認で用いた90個(n1個)の土壌水分センサーから数を減らし、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個のそれぞれの個数を選択した。
【0159】
[経験的確率を算出する工程]
続いて、実験圃場における土壌水分センサーの個数n
1個の測定結果と、個数n
1個から数を減らした個数の測定値を選択した結果から経験的確率を算出した(
図1のSTEP4)。
【0160】
本工程では、90個の土壌水分センサーで行った測定結果に由来する、各測定タイミングでの「全数中央値」を基準に、この各測定タイミングでの全数中央値から所定の数値範囲内に、土壌水分センサーの数を減らした個数の測定値を選択して、その選択した測定値における、各測定タイミングでの測定中央値(減数中央値)が含まれる確率(経験的確率)を算出する。
【0161】
より詳細には、以下の手順で行う。まず、所定の数値範囲の幅をdとする。dは任意の値を設定可能である。また、測定条件における全時点数(全測定回数)をn(1分間隔で合計n回測定した)する。
【0162】
また、90個の土壌水分センサーでの各測定タイミングでの測定値から、中央値(全数中央値)を算出する。
【0163】
また、個数を減らすように選択した土壌水分センサー、例えば、45個のセンサーの測定で、ある測定タイミング(nの中の1回)における、45個のセンサーの測定値の中央値(減数中央値)の値が、同じ測定タイミングにおける「全数中央値-d」から「全数中央値+d」までの範囲に入るかどうかを判定する。なお、本部分は、「|減数中央値-全数中央値|≦d」と数学的に同義である(「|」の記号は絶対値である)。
【0164】
そして、この判定を、45個の土壌水分センサーの全測定タイミングの測定値に対して行う。また、45個のセンサーの減数中央値の値が、「全数中央値-d」から「全数中央値+d」までの範囲に入った回数をxとする。
【0165】
続いて、上記の入った回数xを全時点数nで割った値を算出する。この値が、経験的確率となる。45個と同様に、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個のそれぞれの個数でも経験的確率を算出する。
【0166】
また、経験的確率では、所定の数値範囲の幅であるdを、使用者の求める精度に応じて、設定できる。例えば、dは、5、3、1のような数値で設定しうる。本実施の形態で算出した経験的確率の結果を表1に示す。
【0167】
【0168】
[測定精度の選択の工程]
次に、測定精度の選択工程において、経験的確率の内容から、使用者が求める精度に応じて、土壌水分センサーの個数を減らした複数のパターンの個数から、1つを選択する(
図1のSTEP5)。
【0169】
ここでは、表1に基づき、90個の土壌水分センサーの個数を、45個、27個、14個、13個、9個、7個、6個、5個、4個と減らしていった場合での、各個数で測定精度の中から、使用者が求める精度に応じて、センサーの個数(m1個)を選択する。
【0170】
例えば、土壌水分センサーの個数「13個」を選択した場合、90個のセンサーの測定結果に関する全数中央値±5%に含まれる経験的確率が99.3%(0.993)となる。
【0171】
つまり、13個のセンサーでの測定結果の中央値(小中央値)は、99.3%の確率で、90個のセンサーでの測定結果の「全中央値±5%」の範囲に入る精度が担保されることになる。
【0172】
そのため、使用者はセンサーの減らした個数を選択することで、自身が必要とする測定精度を選択したものとなる。
【0173】
[対象圃場で使用するセンサーの個数を決定する工程]
続いて、対象圃場で使用するセンサーの個数を決定する(
図1のSTEP6)。
【0174】
本工程では、上記の、測定精度の選択工程で選択した、実験圃場での個数を減らした数(m1個)と、実験圃場において、その面積の広さに配置可能な数であり、個数を減らす前の土壌水分センサーの数(n1個=90個)と、対象圃場の面積の広さに配置可能な土壌水分センサーの数(n2個とする)の情報から、対象圃場で使用するセンサーの個数(m2個とする)を決定する。
【0175】
まず、本事例では、対象圃場の面積の広さに応じて配置可能な土壌水分センサーの数n2個が「30個」であったものとする。即ち、対象圃場は、土壌水分センサーを、縦横のいずれもセンサー同士の距離を1m間隔で、格子状になるように配置した場合、30個が配置可能な個数に相当する。また、対象圃場は、実験圃場よりも面積が小さいものとする。
【0176】
そして、上述した式(2)~式(6)の内容から、式(1)が導かれる。また、式(1)について、小中央値を小平均に、全中央値を全平均にそれぞれ対応させ、小中央値と全中央値の差の分布を、小平均と全平均の差の分布で置き換えたものとして、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2を算出する。
【0177】
例えば、使用者が、測定精度の選択工程で、使用者が求める精度から、土壌水分センサーの個数m1個として、「7個」を選択した場合、上記の式(1)を満たす整数として、対象圃場で使用する土壌水分センサーの個数m2は、「6個」と算出できる。
【0178】
即ち、実験圃場で担保された、7個の土壌水分センサーを用いた測定精度の水準を維持して、対象圃場で測定を行う際には、6個のセンサーを用いることが分かり、このことから、対象圃場で使用するセンサーの適切な個数を決定できる。
【0179】
[対象圃場での土壌水分の測定及び代表値の取得]
そして、対象圃場において、6個の土壌水分センサーを用いて、土壌水分の測定を行い、測定結果に基づき、対象圃場の代表値を取得する(
図1のSTEP7)。
【0180】
また、6個の土壌水分センサーは、対象圃場において、センサー間の距離を空けて各センサーを配置する。
【0181】
そして、所定の測定条件で測定を行い、原則、各測定タイミングでの測定値から、中央値を算出する。この中央値が、対象圃場における土壌水分の代表値と推定することができる。
【0182】
例えば、対象圃場での潅水前のタイミングで測定を行い、測定の代表値を取得することで、乾燥時の対象圃場についての土壌水分の情報を把握できる。また、対象圃場で、作物等を育てる際に、土壌水分センサーで経時的にモニタリングしながら、所望のタイミングでの土壌水分を確認することで、適切な潅水のタイミングや、潅水時間等を設定することができる。
【0183】
また、6個の土壌水分センサーを用いて測定した対象圃場の測定結果から、空間統計学的手法を用いて、対象圃場が均一な空間分布を示すかを確認することもできる(
図1のSTEP8)。
【0184】
この対象圃場において、その全体範囲が均一な空間分布を示すものであれば、対象圃場の土壌水分の代表値が1つで良いことを確認することができる。また、対象圃場の土壌水分についての空間分布を見える化できる。
【0185】
また、本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法Aでは、土壌水分センサーの測定値に対して、所定の数値範囲に含まれる測定値のみを測定結果として採用することも可能である。ここで、所定の数値範囲とは、例えば、使用するセンサーで規定された、精度が担保された測定値範囲である。即ち、センサーの測定値を、測定結果として採用する前に、前処理でフィルタリングして、センサーの性能から見て異常と思われる測定値が含まれないように、データの値を制限する。このようにすることで、測定の精度が高まり、結果として、土壌水分の代表値の精度を向上させることができる。
【0186】
また、本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法Aでは、土壌水分センサーの測定値に対して、所定の範囲内に含まれない測定値を、所定の範囲内に含まれるように、所定の範囲に満たない測定値は、所定の範囲の下限の値として扱い、または、所定の範囲を超える測定値は、所定の範囲の上限の値として扱うことも可能である。ここで、所定の数値範囲とは、例えば、使用するセンサーで規定された、精度が担保された測定値範囲である。即ち、センサーの測定値を、測定結果として採用する前に、測定精度が良好に保たれる測定値の上限及び下限の範囲に基づき、所定の範囲を設定し、設定した範囲に満たない測定値や、設定した範囲を超える値を、その範囲の下限値または上限値として扱うように、前処理でフィルタリングして、センサーの性能から見て異常と思われる測定値も、所定の範囲に含まれるように処理することで、測定の精度が高まり、結果として、土壌水分の代表値の精度を向上させることができる。
【0187】
また、本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法Aでは、土壌水分センサーの測定値を、1分間隔で測定した各測定値を利用していたが、必ずしも、1分間隔で測定した各測定値をそのまま用いる必要はない。例えば、1分間隔で測定した際に、30分を1区分として、30回分の各測定値から、土壌水分センサーごとに中央値または平均値を算出して、これを用いることもできる。
【0188】
これは、実験圃場での空間分布の確認の工程、経験的確率を算出する工程、対象圃場で代表値を取得する工程等、各工程で採用することができる。このように、一定の時間範囲で、土壌水分センサーごとに中央値または平均値をとることで、個々の測定で生じうる測定誤差の影響を小さくした測定結果を得ることができる。この結果、土壌水分の代表値の精度を向上させることができる。
【0189】
また、本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法Aでは、上述した、一定の時間範囲で中央値または平均値をとる際に、例えば、測定のタイミングをずらして、土壌水分センサーごとに中央値または平均値をとるように設定することも可能である。即ち、例えば、長い時間、土壌水分のモニタリングをする際に、一定の時間範囲として、常に、0分~30分の各測定値から、30分の平均値を算出するのではなく、1分~31分の各測定値から、30分の中央値または平均値を算出するように、測定のタイミングをずらした、移動範囲区分で、土壌水分センサーごとに中央値または平均値をとるような態様とすることもできる。これによっても、個々の測定で生じうる測定誤差の影響を小さくした測定結果を得ることができ、土壌水分の代表値の精度を向上させることができる。
【0190】
以上で説明した本発明を適用した土壌水分の推定方法の一例である推定方法では、実験圃場から得られた測定情報を基に、空間統計学的手法を用いて、実験圃場が均一な空間分布を示すことを確認すると共に、空間分布を見える化できる。また、実験圃場の代表値の妥当性を検証することができる。
【0191】
また、本発明の推定方法では、実験圃場で、土壌水分センサーの個数を減らして測定を行い、各個数の測定結果から、経験的確率を算出し、平均値による近似を用いて、対象圃場で選択するセンサーの個数を決定することで、使用者が求める精度に必要なセンサーの個数を決めることができる。
【0192】
また、本発明の推定方法では、対象圃場にて、使用者が求める精度に応じた個数の土壌水分センサーを使用して、圃場の面全体での土壌水分の代表値を推定することができる。
【0193】
以上のように、本発明の土壌水分の推定方法は、実験圃場から得られた測定情報を基に、土壌水分を把握したい対象圃場における測定において、測定の精度を担保しながら、適切な個数の土壌水分センサーを用いて、対象圃場の土壌水分の代表値を得ることが可能なものとなっている。