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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】薬剤散布装置、及び、薬剤散布システム
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20230425BHJP
   B05B 17/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A01M7/00 N
B05B17/00 102
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018231338
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020092620
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518440110
【氏名又は名称】飯田精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】福田 光正
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/015707(WO,A1)
【文献】実開平2-137965(JP,U)
【文献】特開2005-21848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置に設定された主軸線の周りの回転方向の異なる角度位置に配置される複数の噴霧ユニットと、
前記複数の噴霧ユニットに薬剤を供給する薬剤供給経路と、
を具備し、
前記噴霧ユニットは、
気流を形成可能に構成された送風ファンと、
前記送風ファンによって形成された気流の内部に配置された噴霧ノズルと、
前記気流を前記主軸線の周りの半径方向内側から半径方向外側に導く気流案内部材と、を有し、
前記主軸線は接地面と平行な水平方向に対して傾斜角が30度以内の範囲に設定され、
前記複数の噴霧ユニットは、前記主軸線の周りの異なる角度位置において、前記主軸線を中心とする半径方向内側から半径方向外側へ向けた噴霧方向を備える姿勢で配置され、前記噴霧方向は、前記送風ファンのファン軸線と一致し、
前記複数の噴霧ユニットは、前記主軸線より上方において幅方向両側にわたり前記主軸線の周りの前記回転方向に沿った円弧状に配列され、
前記主軸線は、前記複数の噴霧ユニットの半径方向外側の先端位置が配列される円弧の半径に相当する距離よりも接地面に接近した位置に配置され、
前記複数の噴霧ユニットの稼働状態を個々に独立して制御可能に構成された制御手段をさらに具備し、
前記主軸線に沿った方向を前後方向として移動可能に構成する車両構成部をさらに具備する、
薬剤散布装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記送風ファンのファン駆動用原動機を制御するファン駆動制御部と、前記噴霧ノズルに薬剤を供給する薬剤供給経路に設けられた薬剤供給制御部とを有する薬剤噴霧制御部を備え、
前記ファン駆動制御部は、前記複数の噴霧ユニットの各ファン駆動用原動機の全てに対して、それぞれ独立して、駆動の有無、或いは、駆動量をどの程度にするかを制御できるように構成され、
前記薬剤供給制御部は、前記複数の噴霧ユニットの各噴霧ノズルの全てに対して、それぞれ独立して、薬剤を供給するか否か、或いは、薬剤の供給量をどの程度にするかを制御できるように構成される、
請求項1に記載の薬剤散布装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記薬剤散布装置と、前記薬剤供給経路に接続される薬剤供給ホースと、前記薬剤供給ホースに対して薬剤を吐出する薬剤吐出ポンプと、前記薬剤吐出ポンプに供給される薬剤を収容する薬剤収容タンクとを具備し、前記薬剤吐出ポンプ及び前記薬剤収容タンクを搭載する搭載車両をさらに具備する、
薬剤散布システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤散布装置及び薬剤散布システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、果樹園などにおいて薬剤を散布する薬剤散布装置として、スピードスプレーヤと呼ばれる移動式装置が知られている。この種の薬剤散布装置では、薬剤タンクからポンプなどにより供給された薬剤を大きな送風ファンによって生ずる気流に乗せてノズルから周囲に薬剤を噴霧することにより散布するように構成される(例えば、以下の特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に記載された薬剤散布装置では、エンジン3aによって駆動される送風ファン3bを内蔵するとともに、この送風ファン3bによって生ずる気流を噴出する円弧状の噴霧窓3cを外周側に備えるダクト3dが設けられる。そして、上記の気流が外周側へ向けられることにより噴霧ノズル3jから放出される薬剤が上記の噴霧窓3cから噴霧される。また、送風ファン3bの回転軸3eを中心にダクト回動用プーリ3gを介してモータ3hがダクト3dを回動させることにより、噴霧窓3cの方向を変えることができる。
【0004】
特許文献2及び3に記載された薬剤散布装置でも基本的な構成は特許文献1と同様であるが、ファン20や動翼15が車両の端部に配置され、当該端部から吸い込まれた気流が整流筒18や整流部18により外周側へ向けられることにより、ノズル22やノズル30から供給される薬剤が噴霧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平4-50934号公報
【文献】特開平10-286502号公報
【文献】特開2007-313483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の薬剤散布装置では、ファンによって生じた水平方向の気流を、ダクト3d、整流筒18、整流部18によって外周側へ向けることにより、外周に沿って円弧状に配列された噴霧ノズル3j、ノズル22、ノズル30により供給される薬剤を周囲に噴霧するように構成される。このため、単一のファンで形成した気流を円弧状の広い角度範囲に分けたり、気流の向きを強制的に直角に変化させたりする必要があるため、気流による噴霧効率が悪くなることにより燃料代がかさむとともに、噴霧口の周辺で乱流が生じて薬剤の噴霧方位にばらつきが生ずることにより所望の場所に効率的に薬剤を撒くことができず、薬剤の使用効率も低くなるので、薬剤散布作業を効率的に行うことができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するものであり、その課題は、気流による噴霧効率や薬剤の使用効率を高めることにより、薬剤散布作業を効率的に実施可能な薬剤散布装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の薬剤散布装置は、装置に設定された主軸線の周りの回転方向の異なる角度位置に配置される複数の噴霧ユニットと、前記複数の噴霧ユニットに薬剤を供給する薬剤供給経路と、を具備する。この噴霧ユニットは、気流を形成可能に構成された送風ファンと、前記送風ファンによって形成された気流の内部に配置された噴霧ノズルと、前記気流を前記主軸線の周りの半径方向内側から半径方向外側に導く気流案内部材と、を有する。
【0009】
本発明において、前記主軸線は接地面と平行な水平方向に対して傾斜角が30度以内の範囲に設定されることが好ましい。ここで、前記主軸線は、前記複数の噴霧ユニットの半径方向外側の先端位置が配列される円弧の半径に相当する距離よりも接地面に接近した位置に配置されることが望ましい。
【0010】
本発明において、前記複数の噴霧ユニットは、前記主軸線の周りの前記回転方向に沿った円弧状に配列されることが好ましい。ここで、前記複数の噴霧ユニットは、前記主軸線と直交する一つの平面に沿って配置されていることが望ましい。ただし、主軸線の前後方向に隣接する噴霧ユニットを交互にずらして配置することにより、薬液噴霧部を(特に幅方向に)コンパクトに構成できる。
【0011】
本発明において、前記複数の噴霧ユニットの稼働状態を個々に独立して制御可能に構成された制御手段をさらに具備することが好ましい。ここで、前記複数の噴霧ユニットは、前記送風ファンを駆動するファン駆動用原動機をそれぞれ有し、前記制御手段により前記ファン駆動用原動機が前記複数の噴霧ユニットごとに独立して制御可能に構成されることが望ましい。
【0012】
本発明において、前記噴霧ユニットは、前記気流による前記薬剤の噴霧方位を可変に構成する噴霧方位変更手段を備えることが好ましい。ここで、前記噴霧方位変更手段は、前記噴霧方位を前記主軸線と直交する平面上で変更可能に構成されることが望ましい。
【0013】
本発明において、前記気流案内部材は、前記薬剤の噴霧方位に沿った筒形状に構成されることが好ましい。この場合において、前記気流案内部材は、前記噴霧方位に向けて拡大する拡開状の先端部を備えることが望ましい。また、前記気流案内部材は、前記送風ファンを包摂する基部枠と、この基部枠の先端側に接続される先端枠とを備えることが好ましい。このとき、前記先端枠が上記拡開状の先端部を備えることが望ましい。また、前記先端枠は、前記基部枠の周囲に環状の内側開口部を備えることが望ましい。さらに、前記先端枠は、内部の流路断面積が狭窄したスロート部において一旦減少した後に増大する構造を備えることが望ましい。このスロート部は、前記送風ファンの前方に配置されることがさらに望ましい。
【0014】
本発明において、前記複数の噴霧ユニットの前記半径方向内側に設けられた空間が外部に向けて開放されていることが好ましい。この場合、上記空間は下方に向けて開放されていることが望ましい。また、前記複数の噴霧ユニットは、前記主軸線に沿った方向の装置端部に配置されることがさらに望ましい。ここで、前記装置端部において前記主軸線に沿った方向に向けて外部に開放されていることが望ましい。
【0015】
本発明において、前記主軸線に沿った方向を前後方向として移動可能に構成する車両構成部をさらに具備することが好ましい。ここで、前記車両構成部は、前記前後方向を基準とした左右部分にそれぞれ車輪駆動用原動機により回転駆動される駆動輪によって動作する走行用クローラーを備えることが望ましい。
【0016】
次に、本発明に係る薬剤散布システムは、上記薬剤散布装置と、前記薬剤供給経路に接続される薬剤供給ホースと、前記薬剤供給ホースに対して薬剤を吐出する薬剤吐出ポンプと、前記薬剤吐出ポンプに供給される薬剤を収容する薬剤収容タンクとを具備する。ここで、前記薬剤吐出ポンプ及び前記薬剤収容タンクを搭載する搭載車両をさらに具備することが好ましい。また、前記薬剤供給ホースを巻き取るホース巻取装置を、前記薬剤散布装置と前記搭載車両の少なくともいずれか一方に設けることが望ましい。さらに、上記搭載車両は、前記薬剤散布装置をさらに搭載可能に構成されることが望ましい。
【0017】
この場合において、前記薬剤散布装置は上記搭載車両から分離され、独自に走行可能に構成されることがさらに望ましい。このとき、上記ホース巻取装置は、上記登載車両に搭載されたままで前記薬剤散布装置の離反に応じて前記薬剤供給ホースが引き出されるように構成されていてもよい。また、上記ホース巻取装置は、上記薬剤散布装置に搭載された状態とされ、前記搭載車両からの前記薬剤散布装置の離反に応じて前記薬剤供給ホースが引き出されるように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、主軸線の周りの回転方向の異なる角度位置に配置される複数の噴霧ユニットを具備し、各噴霧ユニットでは、送風ファン及び気流案内部材によって主軸線の周りの半径方向内側から半径方向外側に向かう気流が形成され、この気流中に配置された噴霧ノズルから薬剤が噴霧されるようになっている。このため、送風ファンにより形成された気流を広い角度範囲に分けたり、気流の方向を大きく変更したりする必要がなくなるとともに、各噴霧ユニットがそれぞれ半径方向外側へ向かう独立した気流によって薬剤を噴霧するように構成されることから、気流による噴霧効率や薬剤の使用効率を高めることが可能になるので、薬剤散布作業を効率的に実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】薬剤散布システムの全体構成を示す概略構成図である。
図2】薬剤散布装置の構造を透視状態でそれぞれ示す正面図(a)、右側面図(b)及び平面図(c)である。
図3】薬剤散布装置の薬剤噴霧部を示す拡大正面図(a)及び噴霧方位変更手段の一部を構成する支持体の構成を示す説明図(b)である。
図4】噴霧ユニットの構造を示す拡大部分断面図である。
図5】薬剤散布装置の制御系を模式的に示す全体制御構造図(a)、及び、薬剤散布システムの薬剤収容タンク、薬剤吐出ポンプ、薬剤供給ホース、及び、薬剤散布装置の薬剤供給系の全体構成を模式的に示す概略構成図(b)である。
図6】上記実施形態の複数の噴霧ユニットを従来の単一の送風ファンに置き換えた場合の比較例1及び比較例2をそれぞれ示す概略構成図(a)及び(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1及び図2を参照して、本発明に係る薬剤散布システム1の全体構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、薬剤散布システム1は、薬剤散布装置2と、搭載車両3とを具備する。薬剤散布装置2は、主軸線23xを前後方向とする移動手段を構成する車両構成部21と、後述する薬剤供給ホース34を巻き取るためのホース巻取部22と、薬剤を噴霧することによって散布するように構成された薬剤噴霧部23とを有する。また、搭載車輌3は、車両構成部31と、この車両構成部31に設置された薬剤収容タンク32と、薬剤吐出ポンプ33と、薬剤供給ホース34とを有する。薬剤供給ホース34は、上記ホース巻取装置22によって巻き取られることで大部分が格納可能となるように構成されている。搭載車両3の車両構成部31は、上記薬剤収容タンク32や薬剤吐出ポンプ33とともに、薬剤散布装置2をも搭載できるように構成されることが好ましい。
【0022】
図2に示すように、薬剤散布装置2の車両構成部21は、架台211に搭載された原動機(エンジン)212と、この原動機212によって駆動される発電機(オルタネータ)213と、発電機213から供給される電力を蓄電する蓄電器(バッテリー)214とを備える。また、その電力によって作動する車輪駆動用原動機(モータ)215と、この車輪駆動用原動機215の出力軸に接続されたギアユニット216と、ギアユニット216の出力軸に接続された駆動輪217とを有する。駆動輪217は、前後の接地輪218との間に架設されるクローラー(履帯)219に噛合している。なお、車輪駆動用原動機215及びギアユニット216は、左右の走行用クローラー(駆動輪217、接地輪218及びクローラー219)にそれぞれ設けられる。これによって、図示しない制御器(無線コントローラなど)による操作に基づいて、薬剤散布装置2の前進、後進、旋回、自転などが自在となるように構成される。
【0023】
また、ホース巻取部22は、薬剤供給ホース34を巻き取り可能に構成された巻取リール221と、この巻取リール221を巻き取り方向に回転駆動する原動機(モータ)及びギアユニットを含む巻取機構222とを備える。また、この巻取機構222による巻取リール221の巻き取り動作に対応して巻取リール221における薬剤供給ホース34の適切な巻取位置(リールの幅方向の位置)を設定するホース案内機構223とを備える。このような構造により、薬剤散布装置2が搭載車両3(薬剤収容タンク32及び薬剤吐出ポンプ33)から離れることによって薬剤供給ホース34が巻取リール221から引き出される。また、薬剤散布装置2が搭載車両3(薬剤収容タンク32及び薬剤吐出ポンプ33)に接近することにより、引き出されていた薬剤供給ホース34が巻取リール221によって巻き取られる。
【0024】
さらに、薬剤噴霧部23には、複数の噴霧ユニット231~234が主軸線23xの周りの回転方向の異なる角度位置において、主軸線23xを中心とする半径方向内側から半径方向外側へ向けた噴霧方位を備える姿勢で配置されている。噴霧ユニットの数は、図示例では4個であるが、3~5個程度が好ましいものの、特に限定されるものではない。ここで、図示例では、主軸線23xは、薬剤噴霧装置2の接地面と平行な水平方向に伸びる軸線である。ただし、主軸線23xを水平方向に対して前後いずれかに30度以下、特に好ましくは15度以下の傾斜角度となるように設定してもよい。また、本実施形態では、主軸線23xは、薬剤噴霧装置2の正面と背面を結ぶ正規の進行方向に沿った前後方向に伸びる水平線であるが、これに特に限定されるものではない。図示例では、噴霧ユニット231~234は、主軸線23xと直交する仮想平面上において、上記回転方向に沿って円弧状に配列される。ただし、噴霧ユニットを交互に前後にずらして配置することにより、薬液噴霧部23を特に幅方向においてコンパクトに構成できる。
【0025】
図2(a)に示すように、主軸線23xを中心とし、複数の噴霧ユニット231~234の半径方向外側の先端位置を通過する円(円弧)23yを想定する。このとき、複数の噴霧ユニットの先端の半径方向の位置が相互に異なる場合には、最も半径方向外側にある先端位置を基準とする。このときの円(円弧)23yの半径を23zとすると、上記主軸線23xと接地面との間の距離23vは、半径23zよりも小さいことが好ましい。これによって、噴霧性能を犠牲にすることなしに、後述する比較例1及び2、或いは、従来技術の構成よりも、薬剤噴霧部23を低く構成できるので、薬剤散布装置2の安定性を高めることができ、傾斜地などでの転倒を防止できる。この場合に、上記距離23vは0に近い小さな値、或いは、0より小さい負の値となるように設定してもよい。しかし、上記距離23vが小さくなりすぎると、複数の噴霧ユニット231~234の半径方向内側にある空間が小さくなるため、吸入効率が低下したり、噴霧ユニットが接地面と抵触しやすくなったりする。このため、上記距離23vは0以上であることが望ましい。
【0026】
図3(a)に示すように、噴霧ユニット231~234は、それぞれ、架台211に固定された支持体230に取り付けられる。図3(b)に示すように、支持体230は、図示例では、主軸線23xと直交する平面に沿った姿勢で配置され、上縁が円弧状に形成された板状材により構成される。この上縁の円弧形状は、主軸線23xを中心とする円弧に沿った形状であることが好ましい。噴霧ユニット231~234は、主軸線23xの方向の両側にそれぞれ固定された支持体230により両側から支持されることが望ましい。各噴霧ユニットは、ファン駆動用原動機(モータ)231a~234aと、このファン駆動用原動機231a~234aによって駆動される送風ファン231b~234bと、この送風ファン231b~234bによって形成された気流中に配置され、薬剤を供給する噴霧ノズル231c~234cと、上記気流を適切に上記噴霧方位に導くための気流案内部材231d~234dとを備える。
【0027】
ここで、噴霧ユニット231~234は、上記支持体230に設けられた取付支点230aにおいて取り付けられる。各噴霧ユニットに対応する取付支点230aは、主軸線23xを中心とする円弧に沿って円弧状に配列されている。ただし、取付支点230aの位置は、主軸線23xを中心とする円弧そのものでなくてもよい。これらの取付支点230aは、支持体230に対して噴霧ユニット231~234を回動可能に取り付ける。また、支持体230には、上記取付支点230aを中心とする回転方向に噴霧ユニットの姿勢を案内する案内部230bを備える。案内部230bは、各噴霧ユニット231~234に設けられた被案内部231e~234eを案内する(図4参照)。図示例では、案内部230bは取付支点230aを中心とする円弧状のスリットからなる。また、上記被案内部231e~234eは主軸線23xと平行に伸びるように架設された、上記スリットに挿通された軸体からなる。
【0028】
上記の支持取付構造(上述の噴霧方位変更手段に相当する。)は、噴霧ユニット231~234をそれぞれ上記取付支点230aを中心として支持体230に対して回動可能に構成するので、各噴霧ユニット231~234の噴霧方位は所定の範囲内で変更可能に構成される。図示例では、主軸線23xの半径方向を中心に、それぞれ両側にわたる30度の範囲内で噴霧方位を変更可能に構成している。ただし、この角度範囲は、10~50度の範囲が好ましいものの、特に限定されるものではない。なお、図示例の場合、各噴霧ユニットの噴霧方位は主軸線23xと直交する平面(図の紙面)上で変更可能に構成される。
【0029】
図4は、噴霧ユニット231の構造を拡大して示す部分断面図である。なお、複数の噴霧ユニット231~234は全て同様に構成できるので、ここでは噴霧ユニット231の構造のみを詳述し、他の噴霧ユニット232~234については説明を省略する。ファン駆動用原動機231aの出力軸231a1は送風ファン231bの取付軸部231b1に固定され、この取付軸部231b1の周囲に複数の送風羽根231b2が取り付けられている。送風ファン231bは、その軸線231x(以下、「噴霧軸線」という。)の方向に気流231fを形成する。図示例では、気流231fは、噴霧軸線231xを中心とする旋回流である。ここで、気流231fは直進性の高いものであるほど、噴霧方位を変えずに、また、大きく広がらないように構成できるので、遠方まで薬剤を届けることができる。このような気流231fの直進性の程度や気流231fの広がり度合は、送風ファン231bの構造(送付羽根231b2の形状など)によって適宜に設定される。なお、図示例では、噴霧軸線231xの方向が上記の噴霧方位に相当する。また、本実施形態では、送風ファン231bのファン軸線が噴霧方位(噴霧軸線231x)と一致するので、噴霧効率を高めることができる。
【0030】
ファン駆動用原動機231aは取付枠231a2を備え、この取付枠231a2は上記の気流案内部材231dに接続固定される。気流案内部材231dは、取付枠231a2に固定され、主軸線23xの半径方向内側に配置される基部枠231d1と、この基部枠231d1の半径方向外側に接続される先端枠231d2とを有する。基部枠231d1は筒状(図示例では円筒状)に構成され、送風ファン231bを収容する。基部枠231d1は、半径方向内側においてファン駆動用原動機231a(取付枠231a2)の周囲に環状の内側開口部231daを備える。また、基枠部231dは、送風ファン231bに対する半径方向外側に外側開口部231dbを備える。先端枠231d2は概略で筒状(図示例では円筒状)に構成されるが、より詳細には、噴霧軸線231xに沿った方向の中間部に狭窄したスロート部231dsを備えるとともに当該方向の両側に拡開した形状を備える。先端枠231d2は、上記基部枠231d1の周囲に環状に形成された内側開口部231dcを備えるとともに、その反対側に気流放出口(噴霧口)を構成する外側開口部231ddを備える。なお、気流案内部材231dは、図示例とは異なるが、送風ファン231bを包摂する単なる筒状(円筒状)に構成されていてもよい。
【0031】
気流案内部材231dの内部には、送風ファン231bによって形成された気流中に配置されるように噴霧ノズル231cが設置される。噴霧ノズル231cには、上記薬剤供給経路を介して薬剤が供給される。これにより、噴霧ノズル231cから吐出された薬剤は、上記気流によって噴霧される。噴霧ノズル231cの数は図示例では3つであるが、3~5個が好ましいものの、特に限定されるものではない。図示例では、噴霧ノズル231cのノズル口が、先端枠231d2の上記スロート部231dsよりも外側の拡開領域に開口するように配置される。ただし、噴霧ノズル231cを、図示例とは異なる位置、例えば、最も気流が高速になり圧力が低下する位置にノズル口が開口するように配置し、それによって、噴霧ノズル231cより吐出される薬剤が撹拌され、微細化されやすく構成することも可能である。
【0032】
薬剤散布装置2の各部は、車両構成部21内に設置された図1及び図2には図示しない制御装置210によって制御される。図5(a)に示すように、制御装置210は、上記発電機213に設置された電流センサ及び蓄電器214に設置された充電センサ等の信号を送出するセンサ出力部210Sからの発電状態や充電状態を示す検出信号と、図示しない制御器(無線コントローラなど)からの無線信号を受信し、当該無線信号に対応する制御信号を出力する受信出力部210Pからの信号とを受けるように構成される。また、制御装置210は、上記の検出信号や制御信号に応じて、原動機212を制御する原動機制御部210Eと、薬剤噴霧部23を制御する薬剤噴霧制御部210Jと、左右の駆動輪217の車輪駆動用原動機215をそれぞれ制御する車両移動制御部210Vとを備える。ここで、薬剤噴霧制御部210Jは、ファン駆動用原動機231a~234aを制御するファン駆動制御部210Fと、薬剤供給経路に設けられた薬剤供給制御部210Dとを備える。
【0033】
上記ファン駆動制御部210Fは、ファン駆動用原動機231a~234aの駆動状態を制御する。本実施形態では、複数の噴霧ユニット231~234の各ファン駆動用原動機231a~234aの全てに対して、それぞれ独立して、駆動の有無、或いは、駆動量(送風量)をどの程度にするかを制御できるようになっている。これにより、必要のない噴霧方位を備える噴霧ユニットでは気流を形成しないように、或いは、必要性の低い噴霧方位を備える噴霧ユニットでは送風量を低くするように設定できるので、エネルギー効率を高めることができる。
【0034】
薬剤供給制御部210Dは、図5(b)に示すように、薬剤供給ホース34から供給された薬剤の供給状態を、複数の噴霧ユニット231~234の各噴霧ノズル231c~234cに対して個々に制御する。本実施形態では、複数の噴霧ユニット231~234の各噴霧ノズル231c~234cの全てに対して、それぞれ独立して薬剤を供給するか否か、或いは、薬剤の供給量をどの程度にするかを制御できるようになっている。これにより、必要のない噴霧方位を備える噴霧ユニットには薬剤を供給しないようにしたり、必要性の低い噴霧方位を備える噴霧ユニットでは薬剤の供給量を低くするように設定できるので、薬剤を効率的に散布できる。
【0035】
以上のように構成される薬剤噴霧システム1は、以下のような作用効果を奏する。まず、薬剤噴霧部23において複数の噴霧ユニット231~234が主軸線23xの周りの回転方向の相互に異なる角度位置において、それぞれ主軸線23xを中心とした半径方向内側から半径方向外側に向けた噴霧方位を有するように設けられている。これにより、従来技術のように、一つの送風ファンの気流を広い角度範囲に分けたり、気流の方位を大きく変更したりする必要がなくなるため、エネルギー効率の向上により、噴霧効率を高めることができる。特に、各噴霧ユニット231~234がそれぞれ半径方向外側へ向かう独立した気流によって薬剤を噴霧するように構成されることから、薬剤の噴霧方位への方向付けが確実にできるので、噴霧効率や薬剤の使用効率を容易に高めることができる。
【0036】
また、薬剤の噴霧の必要な方位が限られる場合においては、複数の噴霧ユニットを用いるか否かを個々に制御できるように構成すれば、必要な噴霧ユニットのみを稼働させればよいので、エネルギー効率をさらに向上できるとともに、余分な薬剤を散布することもなくすことができるため、薬剤の使用効率もさらに高めることができる。
【0037】
図6は、上記実施形態の薬剤散布装置2において、薬剤噴霧部23の代わりに、従来技術で用いられていた単一の送風ファンを備えた薬剤噴霧部43、53を搭載した比較例1の薬剤散布装置4及び比較例2の薬剤散布装置5の構成を示す概略構成図である。ここで、図6(a)に示す比較例1の薬剤散布装置4では、薬剤噴霧部43において、送風ファン43aが車両構成部21の側に配置され、薬剤噴霧口43bが車両構成部21とは反対側の装置端部に配置されている。そして、送風ファン43aは車両構成部21の側から空気を吸い込んで、装置端部側の薬剤噴霧口43bへ気流を送り込むように構成される。このように構成すると、単一の送風ファン43aで形成した気流を広い角度範囲に分ける必要があるとともに、気流の向きを水平方向から半径方向外側へとほぼ直角に変える必要があるため、噴霧効率が悪い。また、送風ファン43aは車両構成部21の側から空気を吸い込むようになっているため、原動機22、発電機23、蓄電器24などが配置されていると吸入効率が悪化し、さらに噴霧効率を低下させるという問題もある。さらに、噴霧効率が悪い故に送風ファン43aを大きくする必要があり、そのために薬剤噴霧部43が大幅に高くなる。薬剤噴霧部43の高さが増大すると、薬剤散布装置2の安定性が悪化し、傾斜地などで倒れる可能性も高くなる。
【0038】
図6(b)に示す比較例2の薬剤散布装置5では、薬剤噴霧部53において、送風ファン53aが車両構成部21の反対側である装置端部に配置され、薬剤噴霧口53bが車両構成部21の側に配置されている。そして、装置端部に設置された送風ファン53aは車両構成部21の反対側から空気を吸い込んで、車両構成部21の側の薬剤噴霧口53bへ気流を送り込むように構成される。このように構成すると、送風ファン53aは車両構成部21の反対側から空気を吸い込むようになっているため、原動機22、発電機23、蓄電器24などが邪魔にならないが、その他の点は比較例1と同様である。
【0039】
上記比較例1及び2に比べると、本実施形態では、薬剤噴霧部23を低く構成できるので、薬剤散布装置2の安定性を高めたり、矮小化した果樹などへの適応性を高めることができる。また、各噴霧ユニット231~234の噴霧方位を変更可能に構成することによって、従来構造では難しい特定方位への薬剤の集中や特定の散布量分布を形成することが可能になる。特に、噴霧方位を主軸線23xと直交する平面に沿って変更できるように構成することにより、主軸線23xの周りの回転方向に沿った噴霧範囲や噴霧量分布を的確に設定することが可能になる。
【0040】
なお、本発明の薬剤散布装置及び薬剤散布システムは、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、薬剤散布装置2には、車両構成部21、ホース巻取部22及び薬剤噴霧部23が設けられているが、ホース巻取部22を搭載車両3に設けたり、搭載車両3に搭載されている薬剤収容タンク32や薬剤吐出ポンプ33を薬剤散布装置2内に設けたりしても構わない。
【符号の説明】
【0041】
1…薬剤散布システム、2…薬剤散布装置、21…車両構成部、211…架台、212…原動機、213…発電機、214…蓄電器、215…車輪駆動用原動機、216…ギアユニット、217…駆動輪、218…接地輪、219…クローラー、22…ホース巻取部、221…巻取リール、222…巻取機構、223…ホース案内機構、23…薬剤噴霧部、23x…主軸線、230…支持体、231~234…噴霧ユニット、231a~234a…ファン駆動用原動機、231b~234b…送風ファン、231c~234c…噴霧ノズル、231d~234d…気流案内部材、231a1…出力軸、231a2…取付枠、231b1…取付軸部、231b2…送風羽根、231d1…基部枠、231d2…先端枠、3…搭載車両、31…車両構成部、32…薬剤収容タンク、33…薬剤吐出ポンプ、34…薬剤供給ホース
図1
図2
図3
図4
図5
図6