(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】移動体駆動ユニット
(51)【国際特許分類】
B60K 17/16 20060101AFI20230425BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20230425BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20230425BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230425BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20230425BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230425BHJP
【FI】
B60K17/16 A
B60K17/06 G
B60K17/04 D
B60K17/16 D
H02K7/116
H02K9/19 A
F16H57/04 B
(21)【出願番号】P 2019012305
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清岡 晃司
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】喜多 航朔
(72)【発明者】
【氏名】井上 佑
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 達也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0168174(US,A1)
【文献】特開2012-044760(JP,A)
【文献】特開2008-048494(JP,A)
【文献】実開昭50-044919(JP,U)
【文献】特開2016-111723(JP,A)
【文献】特開2008-213775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/16
B60K 17/06
B60K 17/04
H02K 7/116
H02K 9/19
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の車輪を駆動するために用いられる移動体駆動ユニットであって、
ケースと、
前記ケースの内側の所定の第1方向一方側に形成されたモータ収容部に配置される電動モータであって、前記第1方向に延びるモータ軸を有する電動モータと、
前記ケースの内側の前記第1方向他方側に形成され油溜めを兼ねるギア収容部に配置される、前記車輪に連動するギア装置と、
前記ケースの内側に配置され前記モータ軸と前記ギア装置との間で動力を伝達する動力伝達機構と、
前記ケースの内側で、前記モータ収容部と前記ギア収容部とを相互連通する油通路と、
前記モータ収容部の上側に形成されて前記電動モータに油を流して冷却するための油導入ポートと、
前記ギア収容部の下側に形成された油排出ポートと、
前記ケースの外側で前記油導入ポートと前記油排出ポートとに接続され、油ポンプを有する外部油路と、を
備え、
前記油通路は、前記ケースの内側で前記第1方向に延びて前記ケースを貫通するように前記モータ収容部の径方向外側に並設され、前記モータ収容部に一端が開口し、前記ギア収容部に連通された貫通部を含み、
前記貫通部の下端は、前記電動モータのロータの最下端より下側にある、
移動体駆動ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体駆動ユニットにおいて、
前記ギア装置は、
前記第1方向に直交する第2方向の両側に分かれて配置され前記第2方向に延びる2つの出力軸から前記車輪への動力を出力する差動ギア装置である、
移動体駆動ユニット。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の移動体駆動ユニットにおいて、
前記ケースの外側面で、前記油排出ポートを中心として前記油排出ポートの周囲に少なくとも2つのネジ孔が形成され、
前記2つのネジ孔の第1ネジ孔にネジ結合されたネジを用いて前記ケースに結合される配管継手であって、前記油排出ポートに差し込む一端部と、前記ケースの外側面に沿う他端部とを備え、
前記配管継手は、前記第1ネジ孔の代わりに、前記2つのネジ孔の第2ネジ孔を用いて前記他端部の向きを変更自在に前記ケースに結合可能に形成され、
前記外部油路は、前記油排出ポートに、前記配管継手の前記他端部を介して接続される、
移動体駆動ユニット。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の移動体駆動ユニットにおいて、
前記油通路は、前記動力伝達機構を構成する中間ギアが配置される中間ギア収容部を有し、
前記ケースは、前記中間ギア収容部と前記モータ収容部とを仕切る仕切り壁を含み、
前記油通路が前記仕切り壁を貫通し、
前記油排出ポートに向かって吸引される油を清浄化する手段が、少なくとも前記ギア収容部に設けられている
移動体駆動ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の移動体駆動ユニットにおいて、
前記仕切り壁には貫通孔が形成され、
前記貫通孔に嵌合された磁石を備え、
前記磁石の両側面が、前記モータ収容部と前記中間ギア収容部とにそれぞれ露出する、
移動体駆動ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の車輪を駆動するために用いられる移動体駆動ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、電動車両(移動体)の前側に電動モータを配置し、その電動モータで発生した動力を、前側の差動ギア装置及び左右2つの車軸を介して左右2つの前輪に伝達し、前輪を回転させる構成が知られている。この構成では、電動モータを車両の走行風により冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで移動体の車輪を駆動するために用いられる駆動ユニットとして、ケース内に電動モータと、ギア装置とを配置し、ケース内にギア装置の潤滑のための油を貯留するとともに、電動モータに潤滑用とは別の油を循環させて電動モータを冷却することが考えられる。しかしながら、この場合には、駆動ユニットの大型化及び部品点数の増大が生じる原因となる。一方、ケース内のギア装置が配置される部分と電動モータが配置される部分とをケースの外側で配管により接続し、共通の油を流すことも考えられるが、この場合も、駆動ユニットの大型化及び部品点数の増大が生じる原因となる。
【0005】
本発明の目的は、移動体駆動ユニットにおいて、大型化及び部品点数の増大を抑制しながら、電動モータの油冷却用の油でギア収容部内のギア装置を潤滑することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動体駆動ユニットは、移動体の車輪を駆動するために用いられる移動体駆動ユニットであって、ケースと、前記ケースの内側の所定の第1方向一方側に形成されたモータ収容部に配置される電動モータであって、前記第1方向に延びるモータ軸を有する電動モータと、前記ケースの内側の前記第1方向他方側に形成され油溜めを兼ねるギア収容部に配置される、前記車輪に連動するギア装置と、前記ケースの内側に配置され前記モータ軸と前記ギア装置との間で動力を伝達する動力伝達機構と、前記ケースの内側で、前記モータ収容部と前記ギア収容部とを相互連通する油通路と、前記モータ収容部の上側に形成されて前記電動モータに油を流して冷却するための油導入ポートと、前記ギア収容部の下側に形成された油排出ポートと、前記ケースの外側で前記油導入ポートと前記油排出ポートとに接続され、油ポンプを有する外部油路と、を備える、移動体駆動ユニットである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る移動体駆動ユニットによれば、モータ収容部で電動モータを冷却した油が、油通路を介して、モータ収容部からギア収容部に流れる。これにより、電動モータの油冷却用の油でギア収容部内のギア装置を潤滑できる。さらに、ケース内に油通路が形成されるので、ケースの外側にモータ収容部とギア収容部とを接続する配管を接続する必要がない。これにより、移動体駆動ユニットの大型化及び部品点数の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る実施形態の移動体駆動ユニットを含む移動体の側面図である。
【
図2】実施形態の移動体駆動ユニットを、車両の左右方向の一方側から見た図である。
【
図4】
図2の移動体駆動ユニットを後側から見た図である。
【
図7B】一部を省略して示している
図7AのE部拡大図である。
【
図9】
図7Aにおいて、モータ及びケーブルを省略して示す図である。
【
図10】一部を省略して示している
図2のH-H断面図である。
【
図12】
図2とは配管継手の取付位置を変更した場合における
図2のJ部拡大相当図である。
【
図13】実施形態の別例の移動体駆動ユニットにおいて、
図6に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下では、移動体駆動ユニットを含む移動体が、荷台を有し、森林、湿地、荒地、岩山等の不整地を走行するオフロード型多用途車両(Utility Vehicle)である場合を説明するが、移動体は、除雪作業、掘削作業、土木作業、農作業、芝草刈りのいずれか1つ以上の作業を行う作業機を有する作業車両、あるいはバギーと呼ばれるAll Terrain Vehicle(ATV)や、レクリエーショナルビークル(Recreational Vehicle(RV))や、レクリエーショナルオフハイウェイビークル(Recreational Off-highway Vehicle(ROV))としてもよい。以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0010】
図1から
図12は、実施形態を示している。
図1は、実施形態の移動体駆動ユニットを含む電動車両10の側面図である。電動車両10は、移動体に相当する。
図2は、移動体駆動ユニット20を、車両の左右方向の一方側から見た図である。以下で説明する一部の図面では、前後方向をXで示し、左右方向をYで示し、上下方向をZで示している。また、前側をFで示し、左側をLで示し、上側をUで示している。前後方向Xは所定の第1方向に相当し、左右方向Yは第2方向に相当し、上下方向Zは第3方向に相当する。X,Y,Zは互いに直交する。
【0011】
図1に示す電動車両10は、車体を構成するフレーム11の上側に基礎構造であるプラットフォーム12が固定され、フレーム11の前側(
図1の左側)にはフロントカバー13が固定される。以下、電動車両10は車両10と記載する。プラットフォーム12において、フロントカバー13の後側には運転席14が固定され、運転席14の後側には荷台19が固定される。車両10は、進行方向である前後方向Xの両側にそれぞれ車輪を備える。具体的には、車両10は、フレーム11の前後方向両側に支持された車輪である左右2つの前輪15及び左右2つの後輪17と、前後両側に配置された移動体駆動ユニット20、40とを備える。
【0012】
前側の移動体駆動ユニット20は、動力源であるモータ(電動モータ)32の動力により、左右2つの前輪15を駆動するために用いられる。後側の移動体駆動ユニット40は、動力源であるエンジン41の動力により、左右2つの後輪17を駆動するために用いられる。
【0013】
車両10のアクセルペダル82が踏み込み操作されると、その操作量がペダルセンサ(図示せず)で検出され、その検出信号が制御装置(図示せず)に送信される。制御装置は、その信号に応じて、前側の移動体駆動ユニット20が含むモータ32を駆動させるように制御信号を出力する。モータ32は、電源であるバッテリ(図示せず)から電力を供給されて駆動する。オペレータが四輪駆動モードを選択した場合、前記制御装置は前後輪の周速を同期させるように該モータ32と、後側の移動体駆動ユニット40を駆動するエンジン41とを協調制御する。
【0014】
図3は、
図2のA-A断面図である。前側の移動体駆動ユニット20は、動力伝達機構88及び前側の差動ギア装置98を含んで形成される。後述のように、モータ32の動力は、動力伝達機構88を介して差動ギア装置98に伝達される。差動ギア装置98は、車両10の前側で左右方向Yの両側に分かれて配置され左右方向に延びる2つの出力軸110から車輪である前輪15への動力を出力する。これにより、2つの出力軸110のそれぞれに、車軸(図示せず)を介して連結された前輪15が駆動される。このとき、差動ギア装置98は前輪15に連動する。
【0015】
後側の移動体駆動ユニット40は、エンジン41と、動力伝達部43と、車両10の後側で左右方向Yの両側に分かれて配置され左右方向Yに延びる2つの出力軸(図示せず)とを含んで形成される。エンジン41は、アクセルペダル82の踏み込み操作に応じて回転速度が高くなるように制御装置(図示せず)により制御される。動力伝達部43は、ベルト式無段変速装置であるCVT44、歯車変速装置(図示せず)、及び後側の差動ギア装置(図示せず)を含む。CVT44は、アクチュエータにより減速比が制御される。CVT44は、エンジン41の回転速度が高くなるほど、入力プーリPIにおけるベルトの巻き掛け径を大きくして減速比を小さくする。これにより、車両10の高速走行での燃費向上を図れる。エンジン41の動力は、CVT44、歯車変速装置、及び後側の差動ギア装置を介して、2つの出力軸に伝達される。これにより、2つの出力軸のそれぞれに、車軸(図示せず)を介して連結された後輪17が駆動される。
【0016】
次に、
図2~
図12を用いて、前側の移動体駆動ユニット20を説明する。
図4は、移動体駆動ユニット20を後側から見た図である。
図5は、
図4のB-B断面図である。
図6は、
図5のC部拡大図である。
図7Aは、
図2のD-D断面図である。
図7Bは、一部を省略して示している
図7AのE部拡大図である。
図8は、
図2のG-G断面図である。
図9は、
図7Aにおいて、モータ32及びケーブル39を省略して示す図である。
図10は、一部を省略して示している
図2のH-H断面図である。
図11は、
図2のI-I断面図である。
【0017】
移動体駆動ユニット20は、モータの油冷却構造200を含んでいる。モータの油冷却構造200は、ケース21と、モータ32と、油導入継手118とを含んで形成される。移動体駆動ユニット20は、大型化及び部品点数の増大を抑制しながら、ケース21内に配置されたモータ32を油冷却する際に、モータ32が配置されるモータ収容部Saに溜まった油がロータに接触することを抑制することで、モータ32の油冷却における出力損失を抑制するものである。以下、移動体駆動ユニット20及び油冷却構造200の各要素を具体的に説明する。
【0018】
モータ32と各種伝動ギアとを内装するケース21は、前側Fに配置された前側ケース要素22と、後側に配置された有底筒状の後側ケース要素26と、カバー29とを複数のボルトB1で結合することにより一体化されて形成される。前側ケース要素22は、後側ケース要素26の前端(
図3の右端)に突き当てられ、カバー29は、後側ケース要素26の後端(
図3の左端)に突き当てられる。そして、前側及び後側ケース要素22,26とカバー29とを前後方向Xに延びる共通のボルトB1により共締めすることで、部品点数の削減を図ると共に、小型化を図っている。前側及び後側ケース要素22,26は、ボルトB2によっても結合される。カバー29は、後側ケース要素26の後端開口を塞いでいる。この状態でケース21の内側には、モータ収容部Saと第1ギア収容部S1と第2ギア収容部S2とが形成される。
【0019】
モータ収容部Saは、カバー29で後端が塞がれた後側ケース要素26の内側空間によって形成される。モータ収容部Saには、モータ32が配置される。
図3、
図5に示すように、第1ギア収容部S1は、前側ケース要素22の前後方向X中間部の内側に形成された仕切り部23より後側(
図3、
図5の左側)に形成される。第2ギア収容部S2は、前側ケース要素22の仕切り部23より前側(
図3、
図5の右側)に形成される。これにより、第1ギア収容部S1は、モータ収容部Saと第2ギア収容部S2との間に配置される。したがって、モータ収容部Saは、ケース21の内側の後側に形成され、第2ギア収容部S2は、ケース21の内側の前側Fに形成される。
【0020】
第1ギア収容部S1には、後述のモータ軸33の前側部分(
図5の右側部分)とギア軸90とが配置される。第2ギア収容部S2には、後述の差動ギア装置98が配置される。第1ギア収容部S1は、中間ギア収容部に相当する。ギア軸90は、第2ギア部95を有するギア機構94とともに動力伝達機構88を形成する。第2ギア部95は、中間ギアに相当する。動力伝達機構88は、ケース21の内側に配置され、モータ軸33と差動ギア装置98との間で動力を伝達する。ケース21の内側の下部には、モータ32及び各種ギア等の冷却や潤滑のための油が、攪拌抵抗を考慮して所定量だけ溜まっている。
図7A、
図8、
図10、
図11に示す横方向の実線Tは、油面(上面)を示している。3つの収容部Sa、S1、S2は、収容部Saから収容部S2に向かって油が流れるようにするために、互いに油通路130で連通し、かつ、収容部Saから収容部S2に向かって底部の高さが徐々に低くなるように形状を設定している。
【0021】
油通路130は、第2ギア部95が配置される第1ギア収容部S1、第1貫通部131、及び第2貫通部132を有する。
図3に示すように、ケース21は、後側ケース要素26の前端部であり、モータ収容部Saと第1ギア収容部S1とを仕切る仕切り壁26aを含む。
図5、
図10に示すように第1貫通部131は、後述のギア軸90の下側において、油通路130の前端部に形成され、前後方向Xに延びて仕切り部23を貫通し、第1ギア収容部S1と第2ギア収容部S2とを通じさせる。
図10では、第1貫通部131は、複数設けられるが、1つのみ、または3つ以上でもよい。
図3、
図7A~
図9に示すように第2貫通部132は、油通路130の後端部に形成され、前後方向Xに延びて仕切り壁26aを貫通し、モータ収容部Saと第1ギア収容部S1とを通じさせる。第2貫通部132は、後側ケース要素26において、モータ収容部Saの径方向外側に並設され、モータ収容部Saと第1及び第2ギア収容部S1,S2とを相互連通する。このために、
図7Aに示すように、モータ32において第2ギア収容部S2とは反対側の後述のコイルエンド38と同じモータ軸方向位置において、モータ収容部Saは、第2貫通部132側に突出した形状を有し、その突出部分でモータ収容部Saは、第2貫通部132の後端(
図7Aの紙面の表側端)に接続される。さらに、
図7A、
図8に示すように、第2貫通部132の下端132aと、モータ収容部Saへの開口端とは、それぞれモータ32のロータ32bより下側に設けている。具体的には、第2貫通部132の下端132aは、モータ32のロータ32bの最下端Mより下側にある。油通路130は、第1ギア収容部S1に連通される。第1ギア収容部S1及び第2ギア収容部S2は、油が貯留される油溜めを兼ねる。上記の油通路130によって、後述のように、モータ収容部Saに溜まった油の油面Tをロータ32bの下端より低くしやすい。これにより、モータ収容部Saに溜まった油がロータ32bに接触することを抑制できるので、モータ32の油冷却における出力損失を抑制できる。なお、
図7A、
図8、
図9では、第2貫通部132の上側に、第3貫通部157を、第2貫通部132に並設している。第3貫通部157も、第2貫通部132と同様にモータ収容部Saと第1ギア収容部S1とを通じさせる。第3貫通部157を省略することもできる。
【0022】
ケース21は、上面において、前後方向Xの中間部に凹部21aが形成される。
図3~
図5、
図10に示すように、モータ32のモータ軸33と、ギア軸90とは、左右方向Yと、上下方向Zとのそれぞれに異なる位置に配置される。これによって、ケース21におけるモータ軸33及びギア軸90の周囲での上下方向Z及び左右方向Yの寸法を小さくできる。
【0023】
ケース21は、
図2に示すように、フレーム11の前側にボルト等の締結部材を介して固定するためのブラケット部21dが、左右側面の前後位置にそれぞれ備えられている。
【0024】
図5~
図8に示すように、モータ32は、例えばステータ32aと、ステータ32aの径方向内側に配置されたロータ32bとを有する永久磁石式の3相モータである。モータ32は、後側ケース要素26の内側に配置される。モータ32は、前後方向Xに延びるモータ軸33と、モータ軸33の周囲に固定された円筒状のロータコア34と、略円筒状のステータコア35と、3相のステータコイル37とを有する。ステータ32aは、ステータコア35と、3相のステータコイル37とを含んで形成される。ロータ32bは、ロータコア34と、ロータコア34の周方向複数位置に配置される永久磁石(図示せず)とを含んで形成される。永久磁石は、例えばロータ径方向に磁化される。ロータコア34及びステータコア35は、鉄、ケイ素鋼等の磁性材料により形成される。ステータコア35は、後側ケース要素26の内側に嵌合固定される。このとき、
図8に示すように、後側ケース要素26の内側面とステータコア35の外周面との間には、ケース21に対するステータコア35の回転を阻止する凹凸係合部133が設けられる。凹凸係合部133は、コア側凹凸係合部に相当する。凹凸係合部133は油面より下方に位置して、ステータコア35の外周面の周方向一部である下端部に、径方向外側に突出するように形成された突部134と、後側ケース要素26の内側面の後述の大径筒部140の周方向一部に形成された凹部141とで形成される。突部134は、凹部141に係止される。これにより、ケース21に対するステータコア35の回転が阻止される。このため、移動体駆動ユニット20の製造時に、ステータコア35の外周面に形成された後述のステータ油溝35aと、ケース21に形成された後述のケース油溝142との、モータ周方向についての位置を容易に一致させることができる。また、前記凹部141は大径筒部140の、正面視で見て最底部に設けてあり、この位置はモータ駆動状態では確実に油面下にあり、ここに配置されるコイルエンド38は油に常時浸かっているので冷却のための給油が不要でありステータ油溝35aとケース油溝142とを形成しない代わりに凹凸係合部133を設けることとしている。したがって突部134は、回り止めに必要な強度を備える大きさに設定することができる。
【0025】
ステータコア35の内周面の複数位置には、内周側に突出する複数のティース36が形成される。3相のステータコイル37は、複数のティース36に、集中巻で巻回される。これにより、ステータコア35の周方向複数位置の内周側にはステータコイル37が巻回される。3相のステータコイル37は、複数のティース36に、分布巻で巻回されてもよい。
図6に示すように、ステータ32aの軸方向におけるステータコイル37の両端部で、ステータコア35の軸方向両端面より外側に突出する部分により、ステータ軸方向両側の複数のコイルエンド38が形成される。
【0026】
モータ軸33の前後方向X両端部は、ロータコア34の前後方向X両側面から突出する。モータ軸33の後端部は、カバー29の中心部にモータ収容部Sa側に突出するように形成された筒部30の内側を貫通し、筒部30の内側に固定された軸受H1により、ケース21に対し回転可能に支持される。カバー29において、後側面(
図5の左側面)の筒部30の内側に通じる孔31の開口周辺部にはキャップ85が固定される。キャップ85は、フランジを有する有底筒状である。キャップ85により、孔31の内側がケース21の外側から密封される。
【0027】
さらに、モータ軸33の後端部(
図5の左端部)外周面とキャップ85との間には、回転速度検出部86が配置される。回転速度検出部86は、モータ軸33の回転速度を検出する。回転速度検出部86の代わりに、モータ軸33の回転角度を検出する角度検出部が配置されてもよい。回転速度検出部86または角度検出部の検出信号は、ケーブルを介して制御装置に送信される。角度検出部の検出信号が制御装置に送信される場合には、制御装置でその検出信号に基づいてモータ軸33の回転速度を算出する。回転速度検出部及び角度検出部は、例えばレゾルバを含んで構成される。
【0028】
モータ軸33の前側部分(
図5の右側部分)は、後側ケース要素26の仕切り壁26aに形成された孔を貫通して、第1ギア収容部S1に配置される。モータ軸33の前側部分は、仕切り壁26aの孔に固定された軸受H2と、前側ケース要素22の内側に固定された軸受H3とによって、ケース21に対し回転可能に支持される。モータ軸33の前側部分において、2つの軸受H2,H3の間には第1ギア部33aが直接に形成される。第1ギア部33aは、例えば静粛性に優れるヘリカルギアである。第1ギア部33aには、後述のギア軸90に固定された第2ギア部95が噛み合う。
【0029】
3相のステータコイル37から導出されたケーブル39は、後側ケース要素26の上端部に突き出るように固定された3つのコネクタ87に接続される。バッテリからの電力は、インバータ(図示せず)に出力され、インバータに接続された3相の電線(図示せず)が3つのコネクタ87に接続される。バッテリは、例えば車両の運転席14または荷台19の下側に配置される。インバータは、直流電力を3相の交流電力に変換する。モータ32の駆動時には、インバータが制御装置により制御され、3つのコネクタ87を介して3相のステータコイル37に3相の交流電力が出力される。このため、ステータコア35に回転磁界が発生し、その回転磁界によりロータコア34及びモータ軸33が回転する。なお、電動モータは、DCモータ、誘導モータ等、3相の永久磁石式モータ以外としてもよい。
【0030】
ギア軸90は、前後方向Xに延びており、前端部(
図5の右端部)に、ベベルギア91が形成される。ベベルギア91は、例えばスパイラルベベルギアである。ギア軸90は、前側ケース要素22の後側部分(
図5の左側部分)の内側に、モータ軸33の前側部分と平行に並んで配置される。
【0031】
ギア軸90の後端部(
図5の左端部)は、後側ケース要素26の仕切り壁26aに形成された孔に固定された軸受H4により、ケース21に対し回転可能に支持される。ギア軸90の前端部(
図5の右端部)は、前側ケース要素22の仕切り部23に形成された筒部24の内側に固定された軸受H5により、ケース21に対し回転可能に支持される。
【0032】
ギア軸90において、2つの軸受H4,H5の間の外周面には、第2ギア部95の内周面が相対回転を阻止した状態で固定される。第2ギア部95は、円筒状のカラー96を介して2つの軸受H4,H5で前後方向Xに挟まれる。第2ギア部95は、モータ軸33に形成された第1ギア部33aと噛み合う。ギア機構94は、第1ギア部33aと第2ギア部95とを含んで形成される。これにより、ギア機構94は、モータ軸33からギア軸90に動力を伝達する。
【0033】
図3、
図11に示すように、差動ギア装置98は、前側ケース要素22の第2ギア収容部S2に配置される。差動ギア装置98は、ギア軸90のベベルギア91に噛み合うリングギア99、リングギア99が固定された差動ギアケース100、差動ギアケース100に回転可能に支持されたピニオンギア100a(
図11)、及び差動ギアケース100内に配置されピニオンギア100aと噛み合う左右両側の2つのサイドギア101を含む。2つのサイドギア101は、左右2つの出力軸110の一端部に固定される。
【0034】
2つの出力軸110は、左右方向Yの両側に分かれて配置され、それぞれ左右方向Yに延びている。2つの出力軸110の他端側部分は、ケース21の左右方向Y両側端から外側に突出する。これにより、差動ギア装置98には、2つの出力軸110が差動連結される。出力軸110には、ユニバーサルジョイント(図示せず)及び車軸(図示せず)を介して前輪15が連結される。
【0035】
次に、モータの油冷却構造200をより詳しく説明する。
図5、
図6に示すように、ケース21とステータコア35との間において周方向に配列された各ティース36に対応する複数位置には、モータ軸方向に延びる油溝が形成される。具体的には、ステータコア35の外周面及び該面と対向する後側ケース要素26の内側面のそれぞれのモータ周方向の複数位置には、油溝として、複数のケース油溝142と複数のステータ油溝35aとが形成されている。
図9に示すように、ケース油溝142は、断面形状がモータ周方向に長い略矩形となっている。
図7Bに示すように、ステータ油溝35aの断面形状は、略三角形であり、そのモータ周方向長さは、ケース油溝142(
図9)のモータ周方向長さより小さい。
【0036】
さらに、
図5、
図6に示すように、ケース21の内側面においてステータコア35が対向する円筒状のコア対向面135の後端部(
図5、
図6の左端部)には、コア対向面135の前側Fより直径が大きくなった大径筒部140がケース21製作の際に型抜きと同時に無加工で同時形成されるようにしている。したがって該大径筒部140の後端は開放している。また、該大径筒部140の内側は、複数のケース油溝142と複数のステータ油溝35aの各々と連通する。コア対向面135の後端部は、モータ軸方向の第1端側端部に相当する。コア対向面135の前側Fは、モータ軸方向第2端側に相当する。これにより、大径筒部140とステータコア35の後端部外周面との間で、周方向が全周にわたって開口された第1環状空間136が形成されている。第1環状空間136は、ステータコア35の軸方向の後端面側が開放されるように形成されている。第1環状空間136には、複数のケース油溝142と複数のステータ油溝35aとの後端部が通じている。
【0037】
さらに、後側ケース要素26の上端部で、1つのケース油溝142の中間部と対向する位置には、内外両側面を通じさせる油導入ポート21bが形成されている。油導入ポート21bは、モータ収容部Saの上側に形成される。油導入ポート21bは、後述の油導入継手118(
図2)を介して外部からの油を、ケース21の内部に導入する。これにより、油導入ポート21bは、複数のケース油溝142と複数のステータ油溝35aとの少なくとも1つに接続される。油導入ポート21bは、モータ32に油を滴下等で流して冷却するために用いられる。油導入ポート21bは、
図13に示す別例の構成のように、前記油溝に(直接に)接続する代わりに、ケース21の内面において、ステータコア35の軸方向中央部付近の径方向における対向部分に機械加工によってリング状に設けた大径筒部160の内側の第1環状空間136aに接続させてもよい。第1環状空間136aは、ケース油溝142及びステータ油溝35aの各々と連通する。これにより、油導入ポート21bから大径筒部160に供給された油が、ステータコア35の軸方向中央部付近における外周側の周方向の多くの部分に広がって、ケース油溝142やステータ油溝35aを通じて、ステータコア35の軸方向両端部外周側から噴出される。
図13の構成では、ステータ油溝35aを省略し、ステータコアの外周面を単なる円筒面としてもよい。
【0038】
図6、
図9に示すように、後側ケース要素26の内側面において、コア対向面135の前側(
図6の右側、
図9の紙面の裏側)には、コア対向面135に隣接して段差面137が形成され、その段差面137に隣接して前側には、小径筒部138が形成される。小径筒部138は、コア対向面135より直径が小さい。ステータコア35の前側(
図6の右側)端面の外周側端部は、段差面137に突き当てられる。
【0039】
段差面137において、複数のケース油溝142とモータ周方向について一致する複数位置には、油噴出溝137aが、外周側であるコア対向面135側からロータ中心O(
図9)に向かう方向に形成されている。
図9に示すように、油噴出溝137aの断面形状は半円形であり、そのモータ周方向長さは、ケース油溝142のモータ周方向長さより小さい。油噴出溝137aの底部は、段差面137の外周縁よりケース油溝142側に延びている。これにより、
図6に示すようにステータコア35の前側端面の外周側端部が段差面137に突き当てられた状態で、ケース油溝142とステータ油溝35aとの間の空間は、油噴出溝137aの内側を介して、小径筒部138の内側の空間に通じている。
【0040】
一方、
図6に示すように、後側ケース要素26の内側面におけるステータコア35の後側端(
図6の左側端)よりコア対向面135とは反対側(
図6の左側)には、前記大径筒部140の後端開放を閉じるように環状プレートVが配置される。環状プレートVは、内環状プレート144と外環状プレート147とにより形成される。これにより第1環状空間136の周方向が全周にわたって開口されることになる。内環状プレート144は第1環状空間136の開放部(
図6の右端部)に隣接して配置される。外環状プレート147は、内環状プレート144におけるコア対向面135とは反対側に重ねるように配置される。内環状プレート144及び外環状プレート147は、円環状である。外環状プレート147は、内環状プレート144より内径が小さい。内環状プレート144及び外環状プレート147の外径は、後述の突部146(
図6、
図7B)を除く部分でほぼ同じである。
図6、
図7Bに示すように、内環状プレート144の内周面において、ステータ油溝35aの後側端(
図6の左側端、
図7Bの紙面の表側端)と対向する位置には、複数の油噴出溝145が形成される。
【0041】
内環状プレート144の外周面と後側ケース要素26の内側面との間には、ケース21に対する内環状プレート144の回転を阻止する凹凸係合部148が設けられる。凹凸係合部148は、プレート側凹凸係合部に相当する。凹凸係合部148は、内環状プレート144の外周面の周方向一部である上部に径方向外側に突出するように形成された突部146と、後側ケース要素26の内側面の大径筒部140の周方向一部に形成され突部146が係合する凹部140aとで形成される。これにより、ケース21に対する内環状プレート144の回転が阻止される。このため、移動体駆動ユニット20の製造時に、内環状プレート144の油噴出溝145と、ステータコア35に形成されたステータ油溝35aとの、モータ周方向についての位置を容易に一致させることができる。一方、外環状プレート147は、外周面に突部を有しない。
【0042】
図6に示すように、後側ケース要素26の内側面の外環状プレート147に対して、第1環状空間136とは反対側には、係止リング149が係止されており、その係止リング149とステータコア35の後側端面(
図6の左側端面)とで、内環状プレート144及び外環状プレート147が挟まれている。上記のように外環状プレート147の内径は、内環状プレート144の内径より小さい。これにより、
図6の矢印αで示すように、外部からケース油溝142及びステータ油溝35aの間に送られた油は、油導入ポート21bを介して、ケース油溝142及びステータ油溝35aの第1環状空間136側端部(
図6の左側端部)に送られる。そして、
図6に矢印βで示すように、油は、内環状プレート144の油噴出溝145を含む内周面と外環状プレート147の内周縁部の側面とで囲まれた第2環状空間L(
図6)によって流れる向きが変えられ、第1環状空間136側(
図6の左側)のコイルエンド38に向けて噴射される。
【0043】
後述のように、油導入ポート21bには
図2に示す油導入継手118が接続され、その油導入継手118を介して、外部油路120からケース21内に油が導入される。その油は、複数のケース油溝142の1つから、第1環状空間136と、複数のケース油溝142及び複数のステータ油溝35aにおける第1環状空間136とは反対側端部(
図6の右側端部)とから、ステータ32aの軸方向におけるステータコイル37の両端部である複数のコイルエンド38に向けて噴射される。このとき、第1環状空間136に入り込んだ油は、周方向に流れる間に、油導入ポート21bが接続されたケース油溝142以外の複数のケース油溝142と、それらのケース油溝142に対向するステータ油溝35aとの間に入り込んで、前側(
図6の右側)に流れる。そして、複数のケース油溝142及びステータ油溝35aの第1環状空間136とは反対側端部から、油噴出溝137aの内側を介して、第1環状空間136と反対側(
図6の右側)のコイルエンド38に向けて油が噴射される。したがって、ステータコア35の軸方向両端部外周側から、ステータ軸方向両端の複数のコイルエンド38に向けて油が噴出される。
【0044】
さらに、
図2に示すように、ケース21の前端部(
図2の右端部)の右面下端部には油排出継手116が接続される。このために、
図11に示すように、ケース21の内側の第2ギア収容部S2の底部に通じる油排出ポート21cが形成される。これにより、油排出ポート21cは、第2ギア収容部S2の下側に形成される。油排出継手116は、油排出ポート21cに差し込む一端部116aと、ケース21の外側面に沿う他端部116bとを有する。このため、油排出継手116は、油排出ポート21cに接続される。油排出継手116は、配管継手に相当する。ケース21の後端部(
図2、
図5の左端部)の上部に形成された油導入ポート21b(
図5)には、油導入継手118(
図2)が接続される。油排出継手116と油導入継手118とには、ケース21の外側で外部油路120(
図2)を形成する配管が接続される。なお、該配管には放熱フィンを備えているのが好ましい。これにより、外部油路120は、油排出ポート21cと油導入ポート21bとに接続される。このとき、外部油路120は、油排出ポート21cに、油排出継手116の他端部116bを介して接続される。移動体駆動ユニット20の製品を搬送する場合には、油導入継手118(
図2)ならびに油排出継手116(
図2)に代えてそれぞれ油封止部材(図示せず)が取り付けられる。
【0045】
図2に示すように、外部油路120は、ケース21の外側で油導入ポート21b(
図5)と油排出ポート21c(
図11)とに接続され、電動ポンプ(油ポンプ)121と、油クーラ123とを含んでいる。油排出継手116から排出された油が、電動ポンプ121で吸引され、油クーラ123で冷却された後、油導入継手118に送られる。油導入継手118からケース21の内側に送られた油は、
図6に示すように、モータ収容部Saの内側で、モータ32のステータコア35の上側から前後方向(
図6の左右方向)両側を下側に流れる。このとき、上記のように、油は、第1環状空間136と、複数のケース油溝142及び複数のステータ油溝35aの第1環状空間136とは反対側端部とから、軸方向両側の複数のコイルエンド38に向けて噴射され、複数のコイルエンド38を冷却する。例えば、上記のように、油は、ステータ油溝35a及びケース油溝142の第1環状空間136側端部から、内環状プレート144の内側の第2環状空間Lを介して、第1環状空間136側のコイルエンド38に向けて噴射される。このとき、第1環状空間136内で油が上側から周方向に流れながら、
図7Aの矢印Kで示すように、周方向について複数の油噴出溝137aと一致する位置から、ロータ中心O側に向かって、第1環状空間136側(
図7Aの紙面の表側)のコイルエンド38に向けて油が噴出される。
【0046】
モータ収容部Saの下部に流れた油は、
図5に示す第1ギア収容部S1を通って、第2ギア収容部S2に送られる。そして、第2ギア収容部S2から油排出継手116(
図2)を通って外部油路120に戻る。これにより、油が、外部油路120、モータ収容部Sa、第1、及び第2ギア収容部S1,S2を循環し、その循環によって、
図5に示すモータ32の冷却と、ギア機構94、及び差動ギア装置98の潤滑とが行われる。
図2で示す外部油路120、電動ポンプ121、油クーラ123の位置は、油循環回路を概念的に説明するために示したものであり、実際の配置位置を示すものではなく、電動ポンプ121、油クーラ123は車両のボンネット内に配置するのが好ましい。
【0047】
図12は、
図2とは油排出継手116の取付位置を変更した場合における
図2のJ部拡大相当図である。
図2、
図12に示すように、ケース21の外側面で、油排出ポート21c(
図11)を中心として油排出ポート21cの周囲には、少なくとも2つのネジ孔として、3つのネジ孔150a、150b、150cが形成される。3つのネジ孔150a、150b、150cは、最下端の第1ネジ孔150aと最上端の第2ネジ孔150cとそれらの間の中間ネジ孔150bとを有する。
図2~
図11では、第1ネジ孔150aにネジ結合されたネジとしてのボルト151を用いて、油排出継手116がケース21に結合されている。
【0048】
図12に示すように、油排出継手116は、第1ネジ孔150aの代わりに、第2ネジ孔150c(
図2)を用いて他端部116bの向きを変更自在にケース21に結合可能に形成される。油排出継手116は、第1ネジ孔150aの代わりに、中間ネジ孔150bを用いても、結合可能に形成される。これによって、車両の内部構造によりそれらとの干渉を避けるべく屈曲させる外部油路120のレイアウトに応じて、油排出継手116の向きを容易に変更できるとともに、移動体駆動ユニット20の多くの部品を共通に使用できる。油排出ポート21cの周囲に形成するネジ孔150a、150b、150cは、3つに限定せず、第1ネジ孔及び第2ネジ孔の2つのみ、または4つ以上としてもよい。
【0049】
さらに、移動体駆動ユニット20は、少なくとも第2ギア収容部S2に設けられ、油排出ポート21cに吸引される油を清浄化する清浄化手段として、第1磁石153(
図5)及びフィルタ154(
図11)を有する。
図5に示すように、ケース21の前側の底部にはドレンプラグ152が外側から貫通するようにネジ結合されており、第1磁石153は、ドレンプラグ152の先端部に取り付けられて第2ギア収容部S2に配置される。第1磁石153は差動ギア装置98等のギアの磨耗により生じた、第2ギア収容部S2中の油中の鉄粉等の異物を磁力で吸着することで、油排出ポート21c(
図11)に向かって、電動ポンプ121(
図2)で吸引される前の油を清浄化する。
【0050】
図11に示すように、フィルタ154は、油排出ポート21cにおいて、油排出継手116と反対側であるケース21内側に配置するように接続される。フィルタ154は、フランジに網目かご状のフィルタ本体が接続されており、フランジが油排出ポート21cに固定される。これにより、第2ギア収容部S2中の油に異物が含まれる場合にその異物を捕捉し、または外部油路120(
図2)への異物の排出を阻止して、油排出ポート21cに向かって吸引される油を清浄化する。上記のように第1磁石153及びフィルタ154により、油を清浄化できるので、モータ32のロータ32b(
図5)に異物が大量に付着することを防止して、それによりモータ32に回転抵抗が発生することを防止して伝動効率の良い状態を持続できる。また、外部油路120にフィルタを設ける必要がなくなる。
【0051】
さらに、
図3に示すように、ケース21の仕切り壁26aの下側端部には、モータ収容部Saと第1ギア収容部S1とを通じさせる貫通孔26bが形成される。移動体駆動ユニット20は、貫通孔26bに嵌合固定された円板状の第2磁石155を備える。第2磁石155の両側面がモータ収容部Saと第1ギア収容部S1とにそれぞれ露出するように第2磁石155の外周面を貫通孔26bの内周面が保持しつつ軸線方向への抜け止めが施されている。これにより、第2磁石155は、モータ収容部Sa中及び第1ギア収容部S1中の油に含まれる鉄粉等の異物を磁力で吸着することで、油排出ポート21c(
図11)に向かって吸引される油を清浄化する。このため、1つの第2磁石155でモータ収容部Sa中及び第1ギア収容部S1中の両方の油に含まれる鉄粉等の異物を効率よく除去できる。
【0052】
上記の移動体駆動ユニット20によれば、モータ収容部Saでモータ32を冷却した油が、油通路130を介して、モータ収容部Saから第2ギア収容部S2に流れる。これにより、モータ32の油冷却用の油で第2ギア収容部S2内の差動ギア装置98の各ギアを潤滑できる。また、モータ収容部Saでモータ32を冷却した油が、モータ収容部Saの径方向外側に並設された油通路130であって、下端がロータ32bより下側にある油通路130を通って第2ギア収容部S2に流れる。これにより、モータ収容部Saに溜まった油の油面Tをロータ32bの下端より低くしやすい。このため、モータ収容部Saに溜まった油がロータ32bに接触することを抑制できるので、モータ32の油冷却における出力損失を抑制できる。さらに、ケース21内に油通路130が形成されるので、ケース21の外側にモータ収容部Saと第2ギア収容部S2とを接続する配管を接続する必要がない。これにより、移動体駆動ユニット20の大型化及び部品点数の増大を抑制できる。
【0053】
さらに、移動体駆動ユニット20の組立後、ケース21内にギア潤滑用の油とモータ冷却用の油とを別に供給する必要がないので、油の供給作業の容易化を図れる。
【符号の説明】
【0054】
10 電動車両(車両)、11 フレーム、12 プラットフォーム、13 フロントカバー、14 運転席、15 前輪、17 後輪、19 荷台、20 移動体駆動ユニット、 21 ケース、21a 凹部、21b 油導入ポート、21c 油排出ポート、22 前側ケース要素、23 仕切り部、24 筒部、26 後側ケース要素、26a 仕切り壁、26b 貫通孔、29 カバー、30 筒部、31 孔、32 モータ、32a ステータ、32b ロータ、33 モータ軸、33a 第1ギア部、34 ロータコア、35 ステータコア、35a ステータ油溝、36 ティース、37 ステータコイル、38 コイルエンド、39 ケーブル、40 移動体駆動ユニット、41 エンジン、43 動力伝達部、44 CVT、82 アクセルペダル、85 キャップ、86 回転速度検出部、87 コネクタ、88 動力伝達機構、90 ギア軸、91 ベベルギア、94 ギア機構、95 第2ギア部、96 カラー、98 差動ギア装置、99 リングギア、100 差動ギアケース、101 サイドギア、110 出力軸、116 油排出継手、118 油導入継手、120 外部油路、121 電動ポンプ、123 油クーラ、130 油通路、131 第1貫通部、132 第2貫通部、133 凹凸係合部、135 コア対向面、136,136a 第1環状空間、137 段差面、137a 油噴出溝、138 小径筒部、140 大径筒部、140a 凹部、141 凹部、142 ケース油溝、144 内環状プレート、145 油噴出溝、146 突部、147 外環状プレート、148 凹凸係合部、149 係止リング、150a 第1ネジ孔、150b 中間ネジ孔、150c 第2ネジ孔、151 ボルト、152 ドレンプラグ、153 第1磁石、154 フィルタ、155 第2磁石、157 第3貫通部、160 大径筒部、200 油冷却構造。