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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】検知方法、及び、配管保守方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20230425BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230425BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20230425BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20230425BHJP
   F17D 5/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G01N17/00
C12Q1/68 100Z
G01N21/64 F
C02F1/50 510C
F17D5/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019070306
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169846
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、「発現マッピング法による細菌叢電気相互作用の追跡と制御基盤の構築」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-133354(JP,A)
【文献】特表2012-507288(JP,A)
【文献】特開昭62-298497(JP,A)
【文献】特開2014-181963(JP,A)
【文献】特開2001-004590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
C12Q 1/68
G01N 21/64
C02F 1/50
F17D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通している金属配管の微生物腐食を検知するための検知方法であって、
前記流体中におけるタンパク質、核酸、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子の含有量の単位時間あたりの変化を測定する工程と、
前記変化を予め定めた基準と比較する工程と
前記比較の結果、異常と判断された場合に、前記金属配管内に前記微生物腐食の原因となる微生物を含むバイオフィルムが形成されていると判断する工程と、を有し、
前記標的分子が、前記金属配管を流通している前記流体中に存在している物質であり、且つ、前記微生物に感染するバクテリオファージに由来する産生物である、検知方法。
【請求項2】
前記含有量は、標識化された前記標的分子の相対量である、請求項1に記載の検知方法。
【請求項3】
前記測定は、蛍光強度の測定である、請求項1又は2に記載の検知方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の検知方法を実施する工程と、
前記比較の結果、異常と判断された場合に、前記流体に微生物の活性を抑制するための薬剤を添加する工程とを有する、配管保守方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知方法、及び、配管保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料(例、石油、天然ガス、シェールオイル、シェールガス等)の採掘では高圧水による岩盤の破砕(水圧破砕法)等が行われており、この高圧水の流路である鉄配管等において微生物腐食がみられている。
【0003】
このような微生物腐食の発生の兆候の一つであるバイオフィルムの形成を検知するための技術が知られている。
特許文献1には、「流路内に配置される金属電極と、前記流路内に配置される参照電極と、非金属材料により形成され、前記金属電極における前記流路内の流れ方向で上流側の表面を覆うカバー部とを備える、バイオフィルム形成センサ。」を用いた方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-181963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は流路にモニタリング用の金属材料を配置し、その金属材料上におけるバイオフィルムの発生を検知する間接的な手法であり、金属配管自体の微生物腐食、又は、その兆候を直接検知するものではなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、流体が流通している金属配管自体の微生物腐食、又は、その兆候を直接検知する検知方法を提供することを課題とする。また、本発明は配管保守方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] 流体が流通している金属配管の微生物腐食を検知するための検知方法であって、上記流体中におけるタンパク質、核酸、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子の含有量の単位時間あたりの変化を測定する工程と、変化を予め定めた基準と比較する工程とを有する、検知方法。
[2] 標的分子がバクテリオファージに由来する産生物である、[1]に記載の検知方法。
[3] 含有量は、標識化された標的分子の相対量である、[1]又は[2]に記載の検知方法。
[4] 測定は、蛍光強度の測定である、[1]~[3]のいずれかに記載の検知方法。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の検知方法を実施する工程と、比較の結果、異常と判断された場合に、流体に微生物の活性を抑制するための薬剤を添加する工程とを有する、配管保守方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体が流通している金属配管自体の微生物腐食、又は、その兆候を直接検知する検知方法が提供できる。また、本発明は配管保守方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】流体が流通する金属配管の模式的な断面図である。
図2図1の断面図における金属配管内のP1点において、流体中の産生物の含有量を測定した結果を示す説明図である。
図3】流体が流通する金属配管の模式的な断面図の他の例である。
図4図1の断面図における金属配管内のP2点において、流体中の標的分子の含有量を測定した結果を示す説明図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る検知方法を説明するための説明図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る検知方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[検知方法]
本発明の実施形態に係る検知方法(以下「本検知方法」ともいう。)は、流体が流通している金属配管の微生物腐食を検知するための検知方法であって、上記流体中におけるタンパク質、及び、核酸からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子の含有量の単位時間あたりの変化を測定する工程と、上記変化を予め定めた基準と比較する工程とを有する、検知方法である。
【0013】
なお、本明細書において、金属配管とは、材料として少なくとも一部に金属が用いられている配管を意味する。また、配管とは、流体を流通させるために用いられる部材一式を意味し、管、継手、及び、ガスケット等が含まれる。
また、微生物腐食を検知するとは、微生物の活動によって腐食が発生したこと、及び/又は、微生物の活動によって腐食が発生するおそれがあることを検知することを意味し、典型的には、金属配管内に局所的に増殖する細胞集団が発生していることを検知することを意味する。なお、一般に上記の様な細胞集団は、金属配管に付着し、増殖した微生物群であることが多く、更に、上記微生物群はバイオフィルムを形成していることが多い。
【0014】
水圧破砕法等に用いられる金属配管に生ずる腐食の原因の一つとして、微生物の活動に起因するものが注目されている。このような腐食は、一般に、微生物腐食(Microbiologicaly Influenced Corrosion)と呼ばれている。微生物腐食は、流体中に存在する微生物群(例えば、硫酸還元細菌、硫黄還元細菌、硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌、鉄還元細菌、及び、酸生成菌等)が複合的に寄与することにより引き起こされると考えられている。
【0015】
上記微生物群は、金属配管の内部を流通する流体中に含まれていることがあるが、これらの微生物群が流体中に浮遊状態で存在している場合よりも、金属配管内に付着し、更に、固定化している場合、特に、バイオフィルムを形成している場合に、金属配管の微生物腐食への寄与の大きいことを本発明者らは知見している。
一般に、バイオフィルム内は、流体中と比較して酸素の含有量が低く、特殊な環境下にあり、バイオフィルム内において微生物群が行う特殊な代謝及び/又は物質生産が、微生物腐食の進行に寄与すると推測される。
【0016】
つまり、金属配管内における局所的に増殖する細胞集団(特にバイオフィルムを形成した状態の微生物群)の形成は微生物腐食が発生している、又は、腐食が発生する兆候の一つと考えられ、これを早期に検知することが金属配管の保守管理上、重要と考えられる。
しかし、上記細胞集団の占める表面積と比較して、広大な表面積を有する金属配管において、上記細胞集団の発生を直接的に精度よく検知するのは困難と考えられてきた。
また、上記細胞集団がバイオフィルムを形成した微生物群である場合、上記微生物群はバイオフィルム内部で恒常性を維持し、バイオフィルム外へと浮遊状態の微生物細胞が放出されることは必ずしも多くない。従い、流体中の微生物の量(個数)を測定してもバイオフィルムの形成に由来する変化を検出することは困難だった。
【0017】
そのため、従来は、金属配管の状態を間接的に調べる方法が用いられてきた。例えば、特許文献1に記載した方法は、金属配管内にセンサを配置し、そのセンサ内に流体の滞留部を形成し、上記滞留部におけるバイオフィルムの発生を検知することにより、金属配管内におけるバイオフィルムの発生を予測しようとするものである。これらの方法は、局所的なバイオフィルムの発生を直接的に検出する方法とは言えなかった。
【0018】
上記の方法により金属配管内にバイオフィルムの発生が予測された場合、金属配管内を流通する流体に殺菌剤を添加する等して微生物腐食を抑制する処置がとられることが多かった。しかし、上記の様な測定方法によれば、配管の実態を必ずしも反映しているわけではなく、バイオフィルムの発生が実際にはないにもかかわらず、殺菌剤を投入してしまう場合があった。これは環境面でも、コスト面でも不利だった。
【0019】
一方で、実際にバイオフィルムの発生が予想される場合であっても、金属配管のどの部分で発生している可能性が高いのかを判別することはできず、例えば、総延長の長い配管の場合には、全体を等しく処理しなければならず、この場合もコストと環境の面から問題があった。
また、バイオフィルムの発生位置を特定しようとしても、地下及び/又は埋設された金属配管においては、バイオフィルム等を直接採取して分析することは困難だった。更に、バイオフィルムを形成した状態では、内部はの微生物群は恒常性を維持するため、微生物自体がバイオフィルム外の流体中に放出されることは少なく、流体中からバイオフィルムの形成に由来する微生物(又はその変化)を検出するのは難しかった。
【0020】
これに対し、本発明者らは金属配管内に発生した細胞集団、典型的には、金属配管に付着し固定化されてバイオフィルムを形成している微生物群が、バイオフィルムの内外で物質の輸送を行っていることに着目し、なかでも、バイオフィルムを形成している微生物群から一定量のタンパク質、及び、核酸からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子が放出されることに着目した。
【0021】
上記標的分子が放出されるメカニズムとしては必ずしも明らかではないが、本発明者らは、バクテリオファージに由来する産生物が寄与しているものと推測している。
【0022】
バクテリオファージは微生物(典型的には細菌)に感染するウィルスであり、その感染の工程において、感染した微生物を介して多くの子孫バクテリオファージが生成される。
通常、流体が流通している金属配管中に存在する微生物の一定量もバクテリオファージに感染している場合があり、金属配管中に微生物を含有する流体が流通している場合、流体中には、バクテリオファージも存在している。
しかし、流体が金属配管を流通している場合、金属配管内の所定の位置における流体中に含まれるバクテリオファージに由来する産生物の含有量には経時的に大きな変化はないことが多い。
【0023】
図1は流体が流通する金属配管の模式的な断面図を表している。図1において、金属配管10内を流体11が図中の「Flow」方向に流通しており、流体11は微生物12を含有している。図2は、金属配管10内のP1点において、流体中の産生物の含有量を測定した結果を示す説明図である。図2において、横軸は時間を、縦軸は流体中における標的分子の含有量(相対量であって、後述する蛍光強度)を示しており、測定は経時的に複数回行われ、測定データ13として図中にプロットされている。
【0024】
上記のように、配管10内に局所的に増殖した細胞集団が存在していない場合、標的分子の含有量には経時的に大きな変化がない。この場合、検出される産生物は流体11中に存在する微生物12に由来するものであるが、流体11が定常的に流通している環境下においては、P1点における標的分子の含有量には大きな変化は生じにくい。
【0025】
図3は流体が流通する金属配管の模式的な断面図の他の例を表している。図3において、金属配管10内を流体11が図中の「Flow」方向に流通しており、流体11は微生物12を含有しており、更に、微生物の一部が金属配管10に付着し、固定化して、局所的に増殖した細胞集団14を形成している。
図4は、金属配管10内のP2点において、流体中の標的分子の含有量を測定した結果を示す説明図である。図4において、横軸は時間を、縦軸は流体中における標的分子の含有量(相対量であって、後述する蛍光強度)を示しており、測定は経時的に複数回行われ、測定データ15として図中にプロットされている。
【0026】
上記のように、配管10内に局所的に増殖した細胞集団14が存在している場合、流体11中には、微生物12に由来する標的分子に加えて、局所的に増殖した細胞集団14がバイオフィルム外へと放出する標的分子の分が加わり、経時的に標的分子の含有量が変化する。
【0027】
この変化は、微生物群の増殖、及び、バイオフィルムの形成等の細胞集団形成過程で変化し、例えば、図4中、ar1の領域では配管10内に微生物が付着、固定化して増殖していること、ar2の領域では配管10内にバイオフィルムが形成され、内部の恒常性が維持されていることがわかる。
【0028】
このように、流体中における標的分子の経時的な含有量の変化は、バイオフィルム内外における標的分子の移動を反映していると考えられる。そのため、流体中における標的分子の含有量の経時変化を測定することにより、金属配管内において微生物が付着、固定化し、更にはバイオフィルムを形成していることを検知することができる。また、標的分子がバクテリオファージの産生物である場合、微生物細胞の一つから生ずる標的分子は多数にわたるため、実質的に微生物細胞1つからの信号が増幅されることになり、優れた感度が得られる。
【0029】
すでに説明したとおり、バイオフィルムの形成は微生物腐食の兆候であり、本検知方法によれば、流体が流通している金属配管の状態を調べることで、微生物腐食を検知できる。
以下では、本検知方法の各工程について詳述する。
【0030】
〔測定工程〕
測定工程は、流体が流通している金属配管の微生物腐食を検知するための検知方法であって、流体中におけるタンパク質、核酸、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子の含有量の単位時間あたりの変化を測定する工程である。
【0031】
標的分子の単位時間あたりの変化とは、金属配管中の所定の位置で、所定時間測定を連続的又は断続的に行った場合の流体中における標的分子の含有量の変化を意味する。
【0032】
(標的分子)
標的分子は、タンパク質、核酸、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種であり、典型的には、バクテリオファージに由来する産生物であることが好ましい。本明細書において、バクテリオファージに由来する産生物とはバクテリオファージ自体、感染細胞中でバクテリオファージが産生される途中で生じる中間物質、及び、バクテリオファージに感染して破裂した細胞に由来する物質(タンパク質、及び、核酸等)等を意味する。
なお、本検知方法において定量対象とする標的分子は1種でもよく、2種以上であってもよい。
【0033】
標的分子がバクテリオファージ自体である場合、バクテリオファージとしては特に制限されない。バクテリオファージは1種であっても、2種以上であってもよい。本明細書において、バクテリオファージは、生きている細菌、真菌、マイコプラズマ、原生動物、酵母、及び、他の顕微鏡レベルの(microscopic)生きている生物に侵入することができ、それ自体が複製するためにこれらを使用するウイルスを指す任意の他の用語を含む。
【0034】
ここで、「顕微鏡レベル」とは、最も大きな寸法が1ミリメートル以下であることを意味する。バクテリオファージは、これら自体が複製する手段として細菌を使用するように自然の中で進化したウイルスである。ファージは、ファージ自体が細菌に付着し、そのDNA(またはRNA)をその細菌中に注入し、細菌がファージを数百回またはそれどころか数千回複製するように誘導することによってこれを行う。これは、ファージ増幅と称される。
【0035】
標的分子の含有量を検出する方法としては特に制限されないが、例えば、マトリクス支援レーザ脱離イオン化/質量分析(MALDI/TOF)法、イオン移動度分光分析法、光学分光分析法、及び、抗原抗体反応法等の公知の方法が使用可能である。
【0036】
なかでも、より簡便に測定が可能である点で、標的分子の含有量は、標識化された標的分子の相対量であることが好ましい。本検知方法は、金属配管を絶えず流通している流体中の異常な変化を検知することに特徴があるため、相対量を測定すれば十分に所望の結果が得られる。絶対量を測定する必要がない点でより簡便な点で優れている。
【0037】
標識化された標的分子とは、典型的には、染色され分光法により定量検出可能になった状態の標的分子を意味する。
標的分子の標識化方法としては特に制限されず、公知の色素を用いればよい。公知の色素としては、例えば、2-(4-amidinophenyl)-1H-indole-6-carboxamidine(DAPI)、Hoechst 33342、Propidium Iodide、及び、クマシーブリリアントブルー等が使用可能である。
標識化された標的分子の含有量の測定方法としては特に制限されないが、より簡便な点で、蛍光強度の測定が好ましい。この場合、励起、蛍光波長は用いる色素に応じて適宜変更すればよい。
【0038】
(流体)
流体としては特に制限されないが、例えば、海水、及び、河川水等が挙げられる。
【0039】
(微生物)
微生物としては特に制限されないが、配管の腐食の原因となる微生物であることが好ましい。配管の腐食の原因となる微生物としては特に制限されないが、
例えば、Desulfovibrio属菌、及び、Desulfuromonas属菌等の硫黄還元細菌;Thiobacillus属菌等の硫黄酸化細菌;Gallionella属菌、Leptothrix属菌、及び、Mariprofundus属菌等の鉄(又はマンガン)酸化細菌;Pseudomonas属菌、Shewanella属菌、及び、Geothermobacter属菌等の鉄還元細菌;Clostridium属菌、Fusarium属菌、Penicillium属菌、及び、Hormoconis 属菌等の酸生成菌及び真菌;等が挙げられる。なお、本段落において「;」は分類の階層を示す記号として用いており、本明細書において以下も同様である。
【0040】
〔比較工程〕
比較工程は、上記変化を予め定めた基準と比較する工程である。比較のための基準は特に制限されず、適宜定めることができる。例えば、直前の測定値と比較したとき、測定値の上昇が3回連続で検出されることを基準として、上記との比較で異常を判断することができる。
【0041】
[配管保守方法]
本発明の実施形態に係る配管保守方法はすでに説明した検知方法を実施する工程と、上記比較の結果異常と判断された場合に、上記流体に微生物の活性を抑制するための薬剤を添加する工程とを有する、配管保守方法である。
【0042】
添加する薬剤としては、微生物の活性を抑制することができれば特に制限されず、公知の殺菌剤等を使用することができる。
【0043】
[検知方法の他の実施形態]
本発明の他の実施形態に係る検知方法は、流体が流通している金属配管における微生物腐食の発生、及び、前記発生の箇所を検知するための検知方法であって、金属配管内において、上流側の測定点、及び、下流側の測定点を選択する第1工程と、それぞれの測定点における上記流体中におけるタンパク質、核酸、及び、これらの複合体からなる群より選択される少なくとも1種の標的分子の含有量の単位時間あたりの変化を測定する第2工程と、上記上流側の測定点における前記変化の量が、上記下流側の測定点における上記変化の量以上である場合、上記上流側の測定点を新たな下流側の測定点とし、上記上流側の測定点よりも上流側から、新たな上流側の測定点を選択し、上記新たな上流側の測定点における上記変化の量が、上記新たな下流側の測定点における上記変化の量より小さくなるまで、前記工程A及び前記工程Bを繰り返す工程Cと、を有する検知方法である。
【0044】
本検知方法によれば、微生物腐食の発生、及び、その箇所を検知することができる。図5には、本方法を説明するための説明図を示した。
図5には、「Flow」方向に流体が流通する金属配管が示されている。ここで、A~Dはそれぞれ測定点(箇所)を示している。
【0045】
図5の4つのグラフは、それぞれ金属配管の各箇所A~Dにおける観測時間に対する標的分子の含有量に由来する蛍光強度(合計)、言い換えれば、蛍光強度の経時変化が示されている。
これらの測定方法等について、第1実施形態に係る検知方法の説明において既に述べたとおりであり、説明を省略する。
【0046】
図5のグラフBをみると、時間t1から蛍光強度(図中「Intensity」と記載した。)が増加していることがわかる。この時ベースラインと最大値との差は「IL-1」である。同様にしてC及びDでも時間t1、又はそれ以降に蛍光強度が増加している(増加量はそれぞれ「IL-2」「IL-3」と示した。)。
【0047】
一方、A点では、蛍光強度は略一定であることがわかる。すでに説明したとおり、金属配管を流通している流体中には一定量の微生物、及び、バクテリオファージ等が存在している。一方で、B点のように、経時的に標的分子の含有量が増加していくことは、その付近に(典型的にはその上流に)局所的、かつ、異常に増殖した細胞集団(典型的には、配管内壁において付着増殖する微生物群)が存在することを示唆している。
【0048】
図6は、本方法のフローを示す図である。本方法においては、まず、配管内における流体の流通方向に沿って、上流側の測定点と、下流側の測定点とを選択する。例えば、図5におけるB点を上流側、C点を下流側として選択したとして、次の工程を説明する。
【0049】
次に、それぞれの測定点において標的分子の含有量の単位時間当たりの変化を測定する。図5ではIL-1とIL-2とが上記に対応する。
次に、上流側の測定点と下流側の測定点との間で、上記の変化の量を比較する。このとき、B点の方が、C点よりも変化の量が大きい。
【0050】
次に、B点を新たな下流側の測定点とし、B点よりも上流のA点を新たな上流側の測定点として選択し、再度、上流側の測定点と下流側の測定点との間で、上記の変化の量を比較する。このとき、A点の方が、B点よりも変化の量が小さい。
【0051】
このようにすることで、最終的に測定された上流側の測定点(上記の場合A点)と下流側の測定点(上記の場合B点)との間の領域において、微生物腐食が発生している可能性があることを検知することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本方法によれば、例えば水圧破砕法において用いられる高圧水用の金属配管の微生物腐食の発生とその箇所とを高精度に検知することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 :金属配管
11 :流体
12 :微生物
13、15 :測定データ
14 :微生物群
図1
図2
図3
図4
図5
図6