(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】ボールジョイント及びそのダストカバー
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20230425BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20230425BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
F16C11/06 Q
F16J3/04 C
F16J15/52 B
(21)【出願番号】P 2019102628
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雅之
(72)【発明者】
【氏名】横井 良紘
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-092776(JP,A)
【文献】特開平11-002233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
F16J 3/04
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸直方向に凹設された溝状のカバー取付部を外側部に備え、前記カバー取付部の内壁面の少なくとも一部に軸方向一端側から他端側へと拡大する傾斜部を有する筒状の受け側部材と、この受け側部材に回動可能に保持されるボール部、及びこのボール部から突出して前記受け側部材の外部に延びるスタッド部を備えるボール側部材とを具備するボールジョイントに対し、前記受け側部材の前記カバー取付部と前記ボール側部材の前記スタッド部とに亘り取り付けられるボールジョイントのダストカバーであって、
筒状の本体部と、
この本体部の軸方向の端部に設けられ、少なくとも一部が前記カバー取付部に取り付けられるリップ部とを具備し、
前記リップ部は、前記受け側部材における前記カバー取付部の一端側の縁部に沿って形成された切欠部と
、前記傾斜部と等しいまたは略等しい形状に傾斜し前記傾斜部に密着する傾斜対向部と、前記傾斜対向部に凹設された吸収部とを備え
、
前記切欠部は、前記リップ部の内周縁において四角形状に切り欠き形成された段差部である
ことを特徴とするボールジョイントのダストカバー
。
【請求項2】
軸直方向に凹設された溝状のカバー取付部を外側部に備え、前記カバー取付部の内壁面の少なくとも一部に軸方向一端側から他端側へと拡大する傾斜部を有する筒状の受け側部材と、
この受け側部材に回動可能に保持されるボール部、及びこのボール部から突出して前記受け側部材の外部に延びるスタッド部を備えるボール側部材と、
前記受け側部材の前記カバー取付部と前記ボール側部材の前記スタッド部とに亘り取り付けられる請求項
1記載のダストカバーと
を具備したことを特徴とするボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受け側部材のカバー取付部とボール側部材のスタッド部とに亘り取り付けられるボールジョイントのダストカバー及びこれを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両の操舵装置や懸架装置に用いられるボールジョイントは、水泥や粉塵の侵入を防止するためにダストカバーが装着されている。ダストカバーは、円筒状に形成されており、両端部にリップ部を備えている。そして、一端側のリップ部がボール側部材であるボールスタッドのスタッド部に固定され、他端側のリップ部が受け側部材であるソケットの周囲に形成された溝状のカバー取付部に固定される。
【0003】
従来、ソケットのカバー取付部の内壁面がスタッド軸に対し傾斜したテーパ状に形成されるものがある(特許文献1及び2参照。)。また、近年、ソケットの成形時において省切削化が進んでおり、カバー取付部も鍛造で作られることがあり、その場合、カバー取付部がスタッド軸に対し傾斜したテーパ状に形成されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-22835号公報
【文献】実開平3-99217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カバー取付部の内壁面がテーパ形状になっていると、カバー取付部に対してダストカバーのリップ部を軸直方向に締め付ける緊迫力が、径が大きい位置と径が小さい位置とで異なる。例えば、リップ部の外周側をサークリップ等でカバー取付部に締め付ける場合、サークリップの両端の位置での緊迫力が異なる。そのため、リップ部に対し、カバー取付部の縁部をなす鍔部側にずれようとする力が作用することで、この鍔部からリップ部に対し高い応力が加わることとなる。したがって、ボールスタッドが揺動を繰り返した際に、上記の応力によってダストカバーのリップ部に材料疲労や鍔部による傷が生じないようにすることが望まれる。
【0006】
他方、補強のためにダストカバーのリップ部の厚みを増加させることも考えられるものの、その場合、ダストカバーが変形しにくくなる等の不具合が生じないようにする必要がある。
【0007】
したがって、ボールジョイントのダストカバーにおいて、厚みを増加させることなく耐久性を向上することが望まれている。このような課題は、車両用のボールジョイントに限らず、任意の箇所に用いるボールジョイントに対しても同様に生じる。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、厚みを増加させることなく耐久性を向上できるボールジョイントのダストカバー及びこれを備えたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載のボールジョイントのダストカバーは、軸直方向に凹設された溝状のカバー取付部を外側部に備え、前記カバー取付部の内壁面の少なくとも一部に軸方向一端側から他端側へと拡大する傾斜部を有する筒状の受け側部材と、この受け側部材に回動可能に保持されるボール部、及びこのボール部から突出して前記受け側部材の外部に延びるスタッド部を備えるボール側部材とを具備するボールジョイントに対し、前記受け側部材の前記カバー取付部と前記ボール側部材の前記スタッド部とに亘り取り付けられるボールジョイントのダストカバーであって、筒状の本体部と、この本体部の軸方向の端部に設けられ、少なくとも一部が前記カバー取付部に取り付けられるリップ部とを具備し、前記リップ部は、前記受け側部材における前記カバー取付部の一端側の縁部に沿って形成された切欠部と、前記傾斜部と等しいまたは略等しい形状に傾斜し前記傾斜部に密着する傾斜対向部と、前記傾斜対向部に凹設された吸収部とを備え、前記切欠部は、前記リップ部の内周縁において四角形状に切り欠き形成された段差部であるものである。
【0010】
請求項2記載のボールジョイントは、軸直方向に凹設された溝状のカバー取付部を外側部に備え、前記カバー取付部の内壁面の少なくとも一部に軸方向一端側から他端側へと拡大する傾斜部を有する筒状の受け側部材と、この受け側部材に回動可能に保持されるボール部、及びこのボール部から突出して前記受け側部材の外部に延びるスタッド部を備えるボール側部材と、前記受け側部材の前記カバー取付部と前記ボール側部材の前記スタッド部とに亘り取り付けられる請求項1記載のダストカバーとを具備したものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のボールジョイントのダストカバーによれば、リップ部の内周縁において四角形状に切り欠き形成された段差部である切欠部を形成することで、カバー取付部の内壁面の傾斜部との接触によるリップ部の軸方向他端側から一端側へのずれによりカバー取付部の一端側の縁部との接触によってリップ部に生じる応力を分散できる。また、リップ部の傾斜対向部に吸収部を凹設することで、カバー取付部の内壁面の傾斜部との接触によるリップ部の軸方向他端側から一端側へのずれを抑制し、カバー取付部の一端側の縁部との接触によってリップ部に生じる応力をより抑制できる。そのため、ボール側部材の動作の繰り返し等に対する材料疲労を抑制でき、厚みを増加させることなく耐久性を向上できる。
【0012】
請求項2記載のボールジョイントによれば、請求項1記載のダストカバーを備えることで、耐久性に優れたボールジョイントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態のダストカバー及びこれを備えたボールジョイントの一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態の構成について図面を参照して説明する。
【0015】
図1において、11はボールジョイントを示す。このボールジョイント11は、例えば自動車等の車両の操舵装置や懸架装置に用いられるものである。つまり、本実施の形態のボールジョイント11は、自動車用または車両用のものである。そして、ボールジョイント11は、受け側部材(ハウジング)であるソケット16と、ボール側部材であるボールスタッド17と、このボールスタッド17の一部を摺動(回動)可能に保持してソケット16に収容される摺動部材であるベアリングシート(ボールシート)18と、ソケット16からボールスタッド17に亘り配置されたカバー部材であるダストカバー19とを備えるものである。なお、以下、
図1の上側を一端側である上側、下側を他端側である下側として説明するが、一端側を上側、他端側を下側に限定することを意図するものではなく、ボールジョイント11の配置角度に応じて、一端側及び他端側の方向は変わるものとする。また、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での長手方向(すなわち
図1中の上下方向)を軸方向(スタッド軸方向)といい、この軸方向に対して直交する方向を軸直方向というものとする。したがって、ボールジョイント11の中心軸とは、ボールスタッド17の直立状態(中立状態)での中心軸と一致(略一致も含む)するものとする。
【0016】
ソケット16は、例えば金属製であり、有底円筒状に形成されている。すなわち、ソケット16は、一端部である上部に開口部21が開口され、他端部である下部が閉塞されている。また、ソケット16には、ベアリングシート18を収容する収容部である内室22が内部に区画されている。内室22は、開口部21と連通している。開口部21の周縁部は、ソケット16の中心軸側に突出する突出部23となっている。突出部23により、ベアリングシート18が内室22に抜け止め保持されている。さらに、ソケット16には、ダストカバー19が取り付けられるカバー取付部25が形成されている。ソケット16は、鍛造や鋳造により一体的に有底円筒状に形成されていてもよいし、複数の部材に分割されて、それらを互いに組み付けることで有底円筒状に形成されていてもよい。
【0017】
カバー取付部25は、ソケット16の外側部に凹設されて溝状となっている。カバー取付部25は、開口部21の周囲に位置している。カバー取付部25は、ソケット16の全周に亘り連なって形成されている。すなわち、カバー取付部25は、軸方向に見て円環状に形成されている。また、カバー取付部25は、ソケット16の上部寄りに配置されている。カバー取付部25は、ソケット16の上端部に対して下方に離れて位置している。そのため、ソケット16の上端部の外側部には、カバー取付部25の縁部をなす鍔部27が形成されている。換言すれば、鍔部27は、ソケット16の外側部の上端部のうち、カバー取付部25を除く残部である。鍔部27は、開口部21の外周を囲んで位置する。鍔部27は、軸直方向に沿って延びている。鍔部27の下部に隣接してカバー取付部25が位置する。また、鍔部27は、ソケット16の上端部をなしている。
【0018】
カバー取付部25は、一の端面部30と他の端面部31との間に、非傾斜部32と傾斜部33とが連なって形成されている。非傾斜部32と傾斜部33とにより、カバー取付部25の内壁面(溝壁面)が形成される。一の端面部30は、鍔部27の端面部をなす。また、一の端面部30は、カバー取付部25の一端部である上端部をなす。一の端面部30は、軸直方向に沿って延びる面である。一の端面部30は、平面状に形成されている。他の端面部31は、カバー取付部25の他端部である下端部をなす。他の端面部31は、軸直方向に沿って延びる面である。他の端面部31は、平面状に形成されている。他の端面部31は、一の端面部30に対し、軸直方向外側に向けて延出している。一の端面部30と他の端面部31とは、軸方向に離れて位置し、互いに対向している。
【0019】
非傾斜部32は、一の端面部30と連なって形成されている。非傾斜部32は、軸方向に沿って延びる面である。つまり、非傾斜部32は、一の端面部30に対して交差または直交する方向に延びている。非傾斜部32により、傾斜部33と一の端面部30とが連結される。非傾斜部32は、鍔部27の基端部と連なっている。非傾斜部32は、一定または略一定の径寸法を有する円筒外面状に形成されている。非傾斜部32は、必須の構成ではない。
【0020】
傾斜部33は、他の端面部31と連なって形成されている。本実施の形態において、傾斜部33は、鍔部27に対して離れて位置している。傾斜部33は、軸方向に対して傾斜して延びる面である。また、傾斜部33は、軸直方向に対して傾斜して延びる面である。つまり、傾斜部33は、他の端面部31に対し交差する方向に延びている。傾斜部33により、非傾斜部32と他の端面部31とが連結される。傾斜部33は、截頭円錐外面状に形成されている。傾斜部33は、軸方向一端側、つまり非傾斜部32側である上側から、軸方向他端側、つまり他の端面部31側である下側に向かい徐々に拡大(拡径)されるように形成されている。傾斜部33は、鍔部27から離れるほど径寸法が大きく形成されている。傾斜部33の小径側の径寸法が、非傾斜部32の径寸法と等しい。傾斜部33の小径側に鍔部27が位置する。本実施の形態において、傾斜部33は、軸方向に対し、一定または略一定の角度で傾斜しているが、この角度は徐変してもよい。
【0021】
ボールスタッド17は、例えば鋼鉄製等であり、球状のボール部35と、このボール部35に下端部が連結された軸状の軸部であるスタッド部36とを備えている。
【0022】
ボール部35は、外周面の一部がベアリングシート18に潤滑剤を介して摺動(回動)可能に保持されている。すなわち、ボール部35は、ベアリングシート18とともにソケット16の内室22に収容されている。
【0023】
スタッド部36は、図示しない外部の相手部材である被接続部材に接続されて荷重が加わる部分である。スタッド部36は、ボール部35に突設されている。スタッド部36は、円柱状に形成されている。また、スタッド部36は、ボール部35と同軸に配置されている。すなわち、スタッド部36の中心軸は、ボール部35の中心を通るように配置されている。スタッド部36は、開口部21に挿通されて上端部側がソケット16から外方(
図1中の上方)へと突出している。すなわち、スタッド部36は、ソケット16の外部に延びている。スタッド部36は、ボール部35と同一の材質によってボール部35と一体に形成されていてもよいし、ボール部35と同一の材質または異なる材質によってボール部35に対して溶接等により一体化されていてもよい。また、スタッド部36には、被接続部材との取付座面を形成するスタッド鍔部が形成されていてもよい。
【0024】
ベアリングシート18は、例えば耐摩耗性に優れる合成樹脂製等により筒状(円筒状)に形成され、ソケット16の内室22に嵌着保持されて収容されている。
【0025】
ダストカバー19は、ダストシール、あるいはブーツ等とも呼ばれ、ボールスタッド17の揺動に拘らずソケット16の開口部21を覆い、ソケット16あるいはベアリングシート18の内部への水分及び塵埃等の侵入を阻止するものである。ダストカバー19は、例えば合成樹脂により略円筒状に形成されている。また、ダストカバー19は、径寸法よりも軸寸法が小さい、扁平な形状となっている。ダストカバー19は、円筒状の本体部40と、ボールスタッド17に固定される第一固定部としての小径側リップ部41と、ソケット16に固定される第二固定部としてのリップ部である大径側リップ部42とを一体に備えている。また、ダストカバー19の内方には、潤滑剤(グリース)が封止されている。
【0026】
本体部40は、軸方向である上下方向の中央部が両端部に対して軸直方向に膨出するように形成されている。
【0027】
小径側リップ部41は、ボールスタッド17のスタッド部36に組み付けられる部分である。小径側リップ部41は、本体部40の一端部である上端部に連なって位置している。小径側リップ部41は、大径側リップ部42よりも内径寸法及び外径寸法が小さく形成されている。すなわち、ダストカバー19は、他端部である下端部よりも一端部である上端部が小径に形成されている。
【0028】
大径側リップ部42は、ソケット16のカバー取付部25に少なくとも一部が取り付けられて、ソケット16に対し保持される部分である。つまり、大径側リップ部42は、ソケット16の外周側に固定される部分である。大径側リップ部42は、本体部40の他端部である下端部に連なって位置している。大径側リップ部42は、本体部40と連なる連結部45と、連結部45と連なるリップ本体部46と、リップ本体部46と連なる折り返し部47とを一体的に備え、本体部40に対し、軸直方向にコ字状に折り返されて形成されている。すなわち、大径側リップ部42の外側には、溝状の取付部48が形成されている。取付部48には、固定部材である環状のクリップ49が取り付けられている。クリップ49により、大径側リップ部42はカバー取付部25に対し軸直方向に締め付け固定されている。
【0029】
連結部45は、鍔部27と対向する位置にある部分である。連結部45は、カバー取付部25の外側に位置している。
【0030】
リップ本体部46は、連結部45と折り返し部47とを連結する部分である。リップ本体部46は、軸方向に沿って中心軸を有する円筒状に形成されている。リップ本体部46は、カバー取付部25の内部に位置する。リップ本体部46は、外周面にクリップ49が密着する。リップ本体部46は、内周面がカバー取付部25の内壁面と対向し、内壁面と密着する。リップ本体部46は、非傾斜部32に対向する非傾斜対向部である第一本体部50と、傾斜部33に対向する傾斜対向部である第二本体部51とを有する。第一本体部50は、連結部45と連なる部分である。つまり、第一本体部50は、リップ本体部46の一端側である上端側をなす。第一本体部50は、内径寸法及び外径寸法がそれぞれ一定または略一定の円筒状に形成されている。第一本体部50は、非傾斜部32に密着する。カバー取付部25が非傾斜部32を備えない場合、第一本体部50は不要である。第二本体部51は、少なくとも内側が一端側である第一本体部50から他端側である折り返し部47に向かい徐々に拡大されている。第二本体部51は、傾斜部32と等しいまたは略等しい形状に傾斜し、傾斜部32に密着する。第一本体部50及び第二本体部51は、それぞれクリップ49の内方に位置している。そのため、第一本体部50と第二本体部51とに亘り、クリップ49からの締め付け力が作用するようになっている。
【0031】
さらに、リップ本体部46と連結部45とに亘り、切欠部53が形成されている。切欠部53は、ソケット16におけるカバー取付部25の一端側である上端側の縁部に沿って形成されている。切欠部53は、鍔部27が一端側である上端側から嵌合される形状となっている。すなわち、切欠部53は、鍔部27の下側の角部が嵌合される形状となっている。切欠部53は、大径側リップ部42の内周縁に形成されている。切欠部53は、四角形状に切り欠き形成された段差部である。切欠部53は、鍔部27の外縁部である側面部55に対向する第一対向面56と、鍔部27の端部であるカバー切欠部25の一の端面部30に対向する第二対向面57とを備えている。側面部55は、一の端面部30に対し、交差または直交する方向に沿って延びている。したがって、側面部55と一の端面部30とが連なる位置において、鍔部27は尖った角部を有する。すなわち、鍔部27は、少なくともカバー取付部25側である下側の縁部が角部となっている。
【0032】
第一対向面56は、軸方向に沿って延びる面である。第一対向面56は、一定または略一定の径寸法を有する円筒内面状に形成されている。第一対向面56は、一端側である上端側が、大径側リップ部42の上端まで延びている。第一対向面56は、鍔部27の側面部55に密着する。
【0033】
第二対向面57は、軸直方向に沿って延びる面である。つまり、第二対向面57は、第一対向面56に対し交差または直交する方向に沿って延びる面である。第二対向面57は、第一対向面56に対し、ダストカバー19または大径側リップ部42の中心軸側に延びている。第二対向面57は、第一対向面56の他端側である下端側に連なっている。第一対向面56と第二対向面57とにより、切欠部53の壁面がクランク状に形成されている。第二対向面57は、一の端面部30に密着する。
【0034】
また、リップ本体部46には、吸収部59が形成されている。吸収部59は、カバー取付部25の傾斜部33に対向する位置に凹設された凹部である。吸収部59は、リップ本体部46に形成されている。本実施の形態において、吸収部59は、第一本体部50と第二本体部51とに亘り形成されている。つまり、吸収部59は、カバー取付部25において、非傾斜部32と傾斜部33とが連なる位置に対向して形成されている。吸収部59は、非傾斜部32と傾斜部33とに亘り対向して位置している。吸収部59は、リップ本体部46の内面側に位置する。したがって、吸収部59は、クリップ49の内方に位置する。また、吸収部59は、本実施の形態において、断面半円形状に形成されている。吸収部59は、ダストカバー19の全周に亘り連なって形成されている。吸収部59により、リップ本体部46の軸直方向の厚みが低減されている。吸収部59の位置で、リップ本体部46または大径側リップ部42は、カバー取付部25に対して少なくとも軸直方向に離れて位置する。また、吸収部59は、切欠部53に対して下方に離れて位置している。
【0035】
折り返し部47は、カバー取付部25の他の端面部31に対向する部分である。折り返し部47は、リップ本体部46の他端部である下端部から、軸直方向に沿って延びている。折り返し部47は、連結部45に対し、軸方向に離れて位置し、連結部45と対向している。また、折り返し部47は、先端側がカバー取付部25の外方に延出している。
【0036】
なお、大径側リップ部42は、吸収部59を除く部分がカバー取付部25、鍔部27、及びクリップ49に対しそれぞれ密着しているが、説明をより明確にするために、図面においては、それぞれ隙間を有するように示している。
【0037】
次に、一実施の形態の作用を説明する。
【0038】
ダストカバー19をソケット16とボールスタッド17のスタッド部36とに亘り取り付けると、小径側リップ部41がスタッド部36の外周面に圧接されるとともに、大径側リップ部42がソケット16のカバー取付部25に位置し、クリップ49により締め付け固定される。
【0039】
大径側リップ部42は、切欠部53の位置にソケット16の鍔部27の側面部55と一の端面部30とが連なる角部が嵌合し、第一対向面56が側面部55に密着し、第二対向面57が一の端面部30に密着する。
【0040】
また、大径側リップ部42は、リップ本体部46がカバー取付部25の内壁面に密着し、折り返し部47が他の端面部31に密着する。リップ本体部46は、第一本体部50がカバー取付部25の非傾斜部32に密着し、第二本体部51がカバー取付部25の傾斜部33に密着する。さらに、吸収部59はカバー取付部25の内壁面に対して離れるように窪んで位置する。
【0041】
このとき、クリップ49による軸直方向の中心軸側に向かう締め付け力は、傾斜部33と第二本体部51との密着部分において、径が大きい下側より径が大きい上側で小さくなる。また、本実施の形態では、クリップ49による軸直方向の中心軸側に向かう締め付け力は、非傾斜部32と第一本体部50との密着部分で、傾斜部33と第二本体部51との密着部分よりも小さくなる。そのため、大径側リップ部42が、第二本体部51側から第一本体部50側へと、すなわち他端側である下端側から一端側である上端側へと、つまりカバー取付部25の一端側の縁部をなす鍔部27側へとずれようとする軸方向の力が生じる。大径側リップ部42では、カバー取付部25の上端側の縁部にある鍔部27に対し、切欠部53により強当たりを抑制する。本実施の形態では、切欠部53が第一対向面56と第二対向面57との二面で鍔部27に接触することにより、鍔部27を安定的に受ける。
【0042】
そして、ボールジョイント11は、車体側からの荷重がボールスタッド17に加わると、ボールスタッド17が左右方向に揺動する。この揺動に追従してダストカバー19が変形することにより、本体部40と連なる大径側リップ部42の連結部45が鍔部27に対し軸方向または軸直方向に押し付けられ、その反力を切欠部53の第一対向面56と第二対向面57とにより受け、特に鍔部27の角部による応力集中を分散する。
【0043】
このように、一実施の形態によれば、大径側リップ部42のソケット16におけるカバー取付部25の一端側の縁部、つまり鍔部27に沿って切欠部53を形成することで、カバー取付部25の内壁面の傾斜部33との接触による大径側リップ部42の軸方向他端側である下側から一端側である上側へのずれによりカバー取付部25の一端側の縁部である鍔部27との接触によって大径側リップ部42に生じる応力を分散できる。
【0044】
特に、切欠部53は、軸方向に沿って延びる第一対向面56と軸直方向に沿って延びる第二対向面57とにより形成されていることで、カバー取付部25の上端側の縁部にある鍔部27に対し、互いに交差する方向から接触し、大径側リップ部42に生じる応力を効率よく分散できる。
【0045】
そのため、ボールスタッド17の揺動動作の繰り返し等に対する材料疲労を抑制でき、ダストカバー19の厚みを増加させることなく耐久性を向上でき、破断等の不具合を抑制または防止できる。ダストカバー19の厚みを増加させずに済むため、ダストカバー19が変形しにくくならず、ボールスタッド17の揺動をダストカバー19により妨げにくいとともに、ボールスタッド17の揺動にダストカバー19を追従させやすく、開口部21への水泥や粉塵等の侵入を効果的に抑制または防止できる。
【0046】
さらに、大径側リップ部42のカバー取付部25の傾斜部33に対向する位置に凹設した吸収部59がクリップ49とカバー取付部25の内壁面との間に位置するので、クリップ49による締め付け力が、吸収部59での変形によって吸収される。そのため、例えば吸収部59を備えない構成の場合、クリップ49による軸直方向の締め付け力は大径側リップ部42を介してカバー取付部25に全て伝わり、そのまま反力となるのに対し、本実施の形態では、吸収部59により、クリップ49による軸直方向の締め付け力が大径側リップ部42の変形、つまり吸収部59を押し潰す力に使われるので、その分、クリップ49によるソケット16のカバー取付部25への押圧が減少する。そこで、傾斜部33による傾斜に伴い大径側リップ部42が軸方向他端側である下側から軸方向一端側である上側へとずれようとする力が小さくなるので、カバー取付部25の内壁面の傾斜部33との接触による大径側リップ部42の下側から上側へのずれを抑制できる。そのため、カバー取付部25の一端側の縁部、すなわち鍔部27との接触によって大径側リップ部42に生じる応力をより抑制できるので、ソケット16(鍔部27)からの反力も抑制でき、破断等の不具合を抑制または防止できる。
【0047】
そして、上記のダストカバー19を備えることで、ボールスタッド17の繰り返しの揺動等に対する耐久性に優れたボールジョイント11を提供できる。
【0048】
なお、上記一実施の形態において、ボールジョイント11は、自動車用または車両用に限られず、その他の任意の機器に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば自動車等の車両の操舵装置用や懸架装置用のボールジョイント及びそのダストカバーとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
11 ボールジョイント
16 受け側部材であるソケット
17 ボール側部材であるボールスタッド
19 ダストカバー
25 カバー取付部
33 傾斜部
35 ボール部
36 スタッド部
40 本体部
42 リップ部である大径側リップ部
51 傾斜対向部である第二本体部
53 切欠部
59 吸収部