(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】電気刺激治療器
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20230425BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2019571088
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020755
(87)【国際公開番号】W WO2020079879
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018195197
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591016334
【氏名又は名称】大塚テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】久本 隆
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-094445(JP,A)
【文献】特開平04-231073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0289667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被治療者の皮膚の電気刺激を与える部位に配置されて、前記皮膚へ電気的な刺激を供給する一対の印加電極と、
前記印加電極に電気的に接続され、前記印加電極へ供給する刺激電圧の大きさを制御する制御ユニットと
、
被治療者が、刺激が強いと感じたときに操作する入力部とを含み、
前記制御ユニットは、
被治療者ごとに設定された第1最大刺激電圧および予め設定された時間の刺激セッションの開始からの経過時間または刺激回数に応じて、出力すべき刺激電圧の大きさを算出する演算手段と、
前記演出手段の算出結果に基づいて、段階的に上昇させながら刺激電圧を出力する出力手段
と、
前記第1最大刺激電圧が記憶された第1最大刺激電圧メモリと、
第2最大刺激電圧が記憶される第2最大刺激電圧メモリと、
前記刺激セッションの開始からどれくらいの時間および何回の刺激によって前記第1最大刺激電圧に到達するかの刺激時間情報および刺激回数情報が記憶された記憶部とを含み、
前記制御ユニットは、前記入力部が操作されたときに、
前記入力部が操作された時点での実際の刺激時間と前記刺激時間情報とを比較するか、または、前記入力部が操作された時点での実際の刺激回数と前記刺激回数情報とを比較する比較ステップと、
前記入力部が操作された時点での前記実際の刺激時間または刺激回数が、前記比較ステップにおける比較対象となる前記刺激時間情報または前記刺激回数情報を超えている場合に、前記第1最大刺激電圧を第2最大刺激電圧として、前記第2最大刺激電圧メモリに記憶し、前記治療セッションの終了まで前記第1最大刺激電圧での刺激を継続するステップと、
前記入力部が操作された時点での前記実際の刺激時間または刺激回数が、前記比較ステップにおける比較対象となる前記刺激時間情報または前記刺激回数情報を下回っている場合に、前記入力部の操作時の刺激電圧を、前記第1最大刺激電圧よりも小さい第2最大刺激電圧として、前記第2最大刺激電圧メモリに記憶し、前記治療セッションの終了まで前記第2最大刺激電圧での刺激を継続するステップとを実行する、電気刺激治療器。
【請求項2】
前記演算手段は
、前記刺激セッションの開始からの経過時間または刺激回数が入力されたときに、前記記憶部の前記
刺激時間情報または前記刺激回数情報に基づいて刺激電圧の上昇率を算出し、当該上昇率に基づいて刺激電圧の大きさを算出する、請求項1に記載の電気刺激治療器。
【請求項3】
前記制御ユニットは、
実際の刺激電圧が、前記第1最大刺激電圧に到達しているか否か判別するステップと、
前記実際の刺激電圧が前記第1最大刺激電圧に到達していれば、前記刺激セッションの終了時間まで前記第1最大刺激電圧での刺激を継続するステップと、
前記実際の刺激電圧が前記第1最大刺激電圧に到達していなければ、前記刺激セッションの終了まで、または前記入力部が操作されるまで、前記刺激電圧を継続して増加させるステップとを実行する、請求項1または2に記載の電気刺激治療器。
【請求項4】
前記刺激セッションの終了まで実際に使用する
前記第2最大刺激電圧として、前記第1最大刺激電圧および前記演算手段によって算出された算出刺激電圧のどちらかに切り替え可能な切り替え手段を含
む、請求項
1~3のいずれか一項に記載の電気刺激治療器。
【請求項5】
前記電気刺激治療器は、排尿障害治療器
である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の電気刺激治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激療法に使用する機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気刺激療法に使用される機器の一例として、排尿障害を治療するための機器が、提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、CPU(中央処理装置)と、CPUに接続される緊急刺激スイッチと、CPUに接続される手動式刺激最大値設定ダイアルと、刺激周波数切替スイッチと、D/A変換器とを有する出力部、電気刺激、および電気刺激が印加される電極であって、不関電極および関電極(刺激電極)を含む電極とを備える、骨盤内臓機能不全・疼痛治療装置を開示している。この装置では、人体の第2~第4仙骨神経である骨盤内臓神経や陰部神経に対して、第2~第4後仙骨孔直上皮膚より電気刺激を与えることによって、これらの神経を興奮させ、排尿障害の治療を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような電気刺激治療器では、通常、被治療者の体型や症状等に合わせて、被治療者ごとに異なる最大刺激電圧が設定される。
【0006】
しかしながら、刺激の開始当初から最大刺激電圧で動作させると、刺激が強すぎ、被治療者が不快感を覚えることがある。
【0007】
また、同じ被治療者であっても、その日の体調や皮膚の状態(例えば、発汗やお風呂上りで肌に水分が残っている状態等)によっては、予め医療機関で設定された最大刺激電圧による刺激でも強いと感じることがある。
【0008】
そこで、本発明の一の目的は、刺激時の不快感を緩和することができる電気刺激治療器を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、皮膚の状態等に合わせて、被治療者自身が感じる刺激感を調整することができる電気刺激治療器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器は、被治療者の皮膚の電気刺激を与える部位に配置されて、前記皮膚へ電気的な刺激を供給する一対の印加電極と、前記印加電極に電気的に接続され、前記印加電極へ供給する刺激電圧の大きさを制御する制御ユニットとを含み、前記制御ユニットは、被治療者ごとに設定された第1最大刺激電圧および予め設定された時間の刺激セッションの開始からの経過時間または刺激回数に応じて、出力すべき刺激電圧の大きさを算出する演算手段と、前記演算手段の算出結果に基づいて、段階的に上昇させながら刺激電圧を出力する出力手段を含む。
【0011】
この構成によれば、刺激電圧が、刺激セッションの開始から段階的に上昇するので、被治療者が受ける刺激時の不快感を緩和することができる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器では、前記演算手段は、前記刺激セッションの開始からどれくらいの時間または何回の刺激によって前記第1最大刺激電圧に到達するかの記憶情報が記憶された記憶部を含み、前記刺激セッションの開始からの経過時間または刺激回数が入力されたときに、前記記憶部の前記記憶情報に基づいて刺激電圧の上昇率を算出し、当該上昇率に基づいて刺激電圧の大きさを算出してもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器は、被治療者が、刺激が強いと感じたときに操作する入力部を含み、前記出力手段は、前記第1最大刺激電圧に到達するまでに前記入力部が操作されたときには、前記入力部の操作時点から前記刺激セッションの終了まで前記刺激電圧を上昇させなくてもよい。
【0014】
この構成によれば、被治療者が入力部を操作した時点から刺激電圧の上昇が止まるので、被治療者の皮膚の状態(例えば、発汗やお風呂上りで肌に水分が残っている状態等)に合わせて、被治療者自身が感じる刺激感を調整することができる。
本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器は、前記刺激セッションの終了まで実際に使用する第2最大刺激電圧として、前記第1最大刺激電圧および前記演算手段によって算出された算出刺激電圧のどちらかに切り替え可能な切り替え手段を含み、前記出力手段は、前記第1最大刺激電圧に到達するまでに前記入力部が操作されたときには、前記算出刺激電圧を前記第2最大刺激電圧として使用してもよい。
【0015】
本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器は、前記刺激セッションの開始からどれくらいの時間または何回の刺激によって前記第1最大刺激電圧に到達するかの情報と、前記刺激セッションの開始からの実際の経過時間または刺激回数の情報とを比較する比較手段と、前記入力部が操作されたとき、前記比較手段の比較結果に基づいて、前記切り替え手段の電圧種別を選択する、選択手段とを含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器は、排尿障害治療器を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、排尿の神経支配を説明するための人体の側断面図である。
【
図2】
図2は、排尿の神経支配を説明するための人体の背面図である。
【
図3A】
図3Aは、排尿のメカニズムを説明するための図である。
【
図3B】
図3Bは、排尿のメカニズムを説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る排尿障害治療器の概略図である。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、前記排尿障害治療器の電極パッドの正面図および背面図である。
【
図6】
図6は、前記排尿障害治療器の取り付け状態を示す図である。
【
図7】
図7は、前記排尿障害治療器の電気的構成を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、前記排尿障害治療器の治療セッションのフロー図である。
【
図9】
図9は、前記治療セッションにおける刺激電圧の大きさの経時的変化を示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の他の実施形態に係る排尿障害治療器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、排尿の神経支配を説明するための人体1の側断面図である。
図2は、排尿の神経支配を説明するための人体1の背面図である。
図3Aおよび
図3Bは、排尿のメカニズムを説明するための図である。
図1~
図3A,Bでは、人体1の各部位のうち、本発明の一実施形態に係る排尿障害治療器31による治療の説明に必要な部位のみを示し、その他の部位については説明を省略する。
【0020】
人体1は、腰椎2、仙骨3等を含む脊椎4を備えている。仙骨3は、略逆三角形の形状を有しており、通常、左右対称に4つずつ、上から順に第1仙骨孔5、第2仙骨孔6、第3仙骨孔7および第4仙骨孔8を有している。
【0021】
また、人体1は、蓄排尿に関わる部位(器官、筋肉)として、膀胱9と、内尿道括約筋10と、外尿道括約筋11とを備えている。人体1の蓄排尿は、これらの部位9~11が神経に制御されることによって行われる。
【0022】
蓄排尿に寄与する主な神経として、人体1には、下腹神経(交感神経)12、骨盤神経(副交感神経)13および陰部神経(体性神経)14が存在している。
【0023】
下腹神経12は、排尿の抑制(蓄尿)に寄与するもので、膀胱9および内尿道括約筋10につながっている。骨盤神経13は、排尿の開始に寄与するもので、膀胱9および内尿道括約筋10につながっている。陰部神経14は、外尿道括約筋11につながっている。
【0024】
図3Aに示すように、人体1では、まず、下腹神経12からの信号によって、膀胱9(排尿筋)が弛緩して膀胱9に尿が溜まりやすくなるとともに、内尿道括約筋10が収縮する。これにより、尿の排泄が止められ、膀胱9内に蓄尿される。一方、
図3Bに示すように、骨盤神経13からの信号によって、膀胱9(排尿筋)が収縮するとともに、内尿道括約筋10が弛緩する。これにより、尿が膀胱9外に排泄される。そして、人体1の脳からの指令(自らの意志)により、体性神経である陰部神経14を介して、随意筋としての外尿道括約筋11を弛緩させ、腹圧をかけることによって排尿が行われる。
【0025】
上記のように、下腹神経12および骨盤神経13のいずれもが正常に活動することによって、膀胱9および内尿道括約筋10が適切に収縮・弛緩していれば、蓄排尿が適切に行われる。しかしながら、例えば、下腹神経12が低活動になったり、骨盤神経13が過活動になったりすると、膀胱9が収縮しやすく、内尿道括約筋10が弛緩しやすくなる。その結果、膀胱9に尿を溜め難くなり、蓄尿障害(過活動膀胱)といった排尿障害を引き起こす場合がある。
【0026】
そこで、この実施形態では、
図3Aに示すように、仙骨3の背面側から仙骨3上の皮膚に電気的な刺激信号を与えることによって、仙骨神経叢が刺激される。より具体的には、
図2に示すように、第1仙骨孔5を通る第1仙骨神経S1、第2仙骨孔6を通る第2仙骨神経S2、第3仙骨孔7を通る第3仙骨神経S3および第4仙骨孔8を通る第4仙骨神経S4が刺激される。これにより、例えば
図3Aに示すように、第3仙骨神経S3が刺激され、骨盤神経13による膀胱9を収縮させるという神経支配が抑制される。また、この電気的な刺激は下腹神経12にも伝達され、これにより、下腹神経12による膀胱9を緩和させるという神経支配が促通される。その結果、骨盤神経13の抑制および下腹神経12の促通がバランスよく保たれ、膀胱9が適度に弛緩することになり、過活動膀胱が改善する。
【0027】
そして、上記の電気的な刺激は、仙骨神経叢が存在する臀部およびその周辺部以外に存在する神経にも伝達される。例えば、
図2に示すように、第3仙骨神経S3の一部は、坐骨神経15として大腿部を下行し、最終的に、腓骨神経16および脛骨神経17に分かれる。腓骨神経16および脛骨神経17は、坐骨神経15の末端部として、人体1の足趾(第1指18(拇指)、第2指19、第3指20、第4指21および第5指22(小指))まで延びている。すなわち、足趾18~22の腓骨神経16および脛骨神経17は、坐骨神経15を介して、下腹神経12、骨盤神経13および陰部神経14につながっている。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係る電気刺激治療器の一例としての排尿障害治療器31の構成およびその動作について説明する。
【0029】
図4は、本発明の一実施形態に係る排尿障害治療器31の概略図である。
【0030】
排尿障害治療器31は、物理的な構成として、筐体32(治療器本体)と、筐体32の前面に設けられたモニタ33と、モニタ33の下方に設けられたスタート/ストップボタン34および本発明の入力部の一例としての複数の操作ボタン35,35と、筐体32に絶縁ケーブル36を介して接続された電極パッド37とを備えている。
【0031】
筐体32は、この実施形態では、略楕円形状に形成され、例えば、プラスチック製のケースからなっていてもよい。また、図示しないが、筐体32の背面には、排尿障害治療器31の電源用の電池を収容するための取り外し可能な裏蓋が設けられていてもよい。なお、排尿障害治療器31の電源は、電池である必要はなく、例えば、ACアダプタを介してコンセントから得てもよいし、電池およびコンセントの併用であってもよい。
【0032】
モニタ33は、筐体32の長手方向に沿って長い長方形状に形成され、筐体32の長手方向の一端部寄りに配置されていてもよい。また、モニタ33は、例えば、モノクロもしくはカラーの液晶モニタであってよい。モニタ33には、例えば、電極パッド37による電気的な刺激信号のパルス波形や周波数、被治療者の心電波形および心拍数、エラーメッセージ等を表示することができる。これにより、被治療者は、排尿障害治療器31の動作状態を簡単に知ることができる。
【0033】
スタート/ストップボタン34および複数の操作ボタン35,35は、モニタ33に対して、筐体32の長手方向他端部側に配置されていてもよい。
【0034】
また、操作ボタン35は、排尿障害治療器31の機種によって、様々な機能を有していてもよい。例えば、排尿障害治療器31のメモリ機能として、複数の被治療者それぞれに適した刺激信号のパルス波の幅(パルス幅)、周波数等を含む治療メニューを排尿障害治療器31に記憶させておき、それを読み出す際に操作するボタン等であってもよい。また、後述する治療セッションにおいて、刺激が強いと感じたときに押すためのものであってもよい。絶縁ケーブル36は、例えば、保護用の絶縁被膜で覆われた導線で構成されている。
【0035】
電極パッド37は、
図5Aおよび
図5Bに示すように、ベース部38と、不関電極39と、一対の印加電極40,40とを含む。
【0036】
ベース部38は、略台形状に形成されており、その表面領域が溝41によって3つの領域42,43,43に区画されている。より具体的には、溝41は、ベース部38の正面側および背面側の双方に略Y字状に形成されており、上部に不関電極領域42が区画され、下部に、横方向に隣り合う2つの印加電極領域43,43が区画されている。
【0037】
不関電極領域42および印加電極領域43,43の背面側には、それぞれ、略楕円形状の凹部44,45,45が形成されている。凹部44,45,45には、それぞれ、不関電極39および一対の印加電極40,40が、取り外し自在に嵌め込まれている。
【0038】
一方、不関電極領域42および印加電極領域43,43の正面側には、端子46,47,47が設けられている。端子46,47,47の内部には、それぞれ、配線ジャック48,49,49が形成されている。
【0039】
電極パッド37を人体1に取り付けるには、
図6に示すように、配線ジャック48,49,49に、絶縁ケーブル36の先端に接続された配線プラグ(図示せず)を接続し、別途準備したジェルパッド等を介して、自分の仙骨の背面直上の皮膚に貼り付ければよい。
【0040】
図7は、排尿障害治療器31の電気的構成を示すブロック図である。
【0041】
排尿障害治療器31は、筐体32に配線基板(図示せず)が内蔵されており、配線基板には、本発明の制御ユニットの一例としてのコントローラ50が設けられている。コントローラ50には、前述のスタート/ストップボタン34、操作ボタン35(入力部)および印加電極40が電気的に接続されている。スタート/ストップボタン34、操作ボタン35からの入力信号がコントローラ50に入力され、コントローラ50からの出力信号が印加電極40に出力される。
【0042】
コントローラ50は、半導体チップから構成されていてもよい。この実施形態では、コントローラ50は、本発明の演算手段の一例としての演算回路51と、本発明の出力手段の一例としての出力回路52と、本発明の切り替え手段の一例としての切り替え器53と、本発明の比較手段の一例としての比較器54と、本発明の選択手段の一例としての選択回路55とを含んでいる。
【0043】
演算回路51は、例えば、CPU、ROMやRAM等のメモリ、タイマー等を含む半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)で構成されていてもよい。
【0044】
演算回路51は、刺激セッション(刺激治療)の開始からの経過時間または刺激回数に応じて、出力すべき刺激電圧の大きさを算出するものである。演算回路51には、刺激セッションの開始からどれくらいの時間または何回の刺激によって、医療機関によって設定された最大刺激電圧(第1最大刺激電圧)に到達するかの記憶情報が記憶された本発明の記憶部の一例としてのメモリ56,57が設けられている。この第1最大刺激電圧は、被治療者の体型や症状等に合わせて、医療機関によって個別に設定される。
【0045】
この実施形態では、被治療者が刺激時に感じる不快感を緩和するため、印加電極40によって加えられる刺激電圧が段階的に上昇するようになっている。したがって、刺激電圧が第1最大刺激電圧に到達するまでに、一定の時間または刺激回数を要することになっている。例えば、第1最大刺激電圧に到達するまでに1分間必要という条件が設定されていれば、刺激開始から1分間かけて、刺激電圧が段階的に上昇し、第1最大刺激電圧に到達する。また、例えば、第1最大刺激電圧に到達するまでに10回の刺激が必要という条件が設定されていれば、刺激開始から10回かけて、刺激電圧が段階的に上昇し、第1最大刺激電圧に到達する。
【0046】
そして、メモリ56,57は、それぞれ、刺激セッションの開始からどれくらいの時間によって第1最大刺激電圧に到達するかの記憶情報が記憶された刺激時間メモリ56、および刺激セッションの開始から何回の刺激によって第1最大刺激電圧に到達するかの記憶情報が記憶された刺激回数メモリ57である。
【0047】
出力回路52は、例えば、CPU、ROMやRAM等のメモリ、タイマー等を含む半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)で構成されていてもよい。
【0048】
出力回路52は、演算回路51によって算出された刺激電圧を印加電極40に出力するものである。出力回路52には、第2最大刺激電圧メモリ58およびタイマー59が設けられている。
【0049】
ここで、第2最大刺激電圧とは、端的に言えば、刺激セッションの終了までに実際に使用する最大刺激電圧である。前述のように、この排尿障害治療器31には、被治療者の体型や症状等に合わせて、医療機関によって個別に第1最大刺激電圧が設定される。しかしながら、同じ被治療者であっても、その日の体調や皮膚の状態(例えば、発汗やお風呂上りで肌に水分が残っている状態等)によっては、予め医療機関で設定された第1最大刺激電圧による刺激でも強いと感じることがある。
【0050】
そこで、この実施形態では、治療セッションの最中、被治療者が操作ボタン35を押すと、被治療者が操作ボタン35を押した時点から刺激電圧の上昇が止まり、その段階での刺激電圧が第2最大刺激電圧として、治療セッションの終了後まで使用される。この第2最大刺激電圧は、第1最大刺激電圧と同じ大きさである場合もあるし、第1最大刺激電圧よりも小さい場合もある。その選択は、切り替え器53から第2最大刺激電圧メモリ58への入力信号によって決定される。
【0051】
また、タイマー59は、治療セッションの開始から終了までの時間を計測するものである。タイマー59によって、予め医療機関で定められた治療時間の経過が検出されると、出力回路52からの出力が終了となる。
【0052】
切り替え器53は、例えば、ゲート電圧の印加によってオンする半導体スイッチ(MOSFET等)や、半導体リレー等の公知のスイッチング素子で構成されていてもよい。切り替え器53は、刺激セッションの終了までに実際に使用する第2最大刺激電圧として、第1最大刺激電圧を使用するか、または演算回路51から入力された電圧を使用するかを切り替えるものである。この切り替え器53には、第1最大刺激電圧が記憶された第1最大刺激電圧メモリ60が電気的に接続されている。
【0053】
比較器54は、例えば、オペアンプ、コンパレータ等の公知の比較器で構成されていてもよい。比較器54は、刺激時間メモリ61または刺激回数メモリ62からの入力信号と、刺激セッションの開始からの実際の経過時間または刺激回数の入力信号とを比較することによって、刺激電圧が上昇中であるのか、または刺激電圧の上昇が終了しているのか(つまり、第1最大刺激電圧に到達しているのか)を比較する。比較器54の比較結果は、出力信号として選択回路55に出力される。刺激時間メモリ61および刺激回数メモリ62には、それぞれ、刺激時間メモリ56および刺激回数メモリ57と同じ情報が記憶されている。
【0054】
選択回路55は、例えば、CPU、ROMやRAM等のメモリ、タイマー等を含む半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)で構成されていてもよい。選択回路55は、被治療者によって操作ボタン35が押されたとき、比較器54の比較結果に基づいて、切り替え器53に制御信号を出力し、切り替え器53における電圧種別を選択する。
【0055】
図8は、排尿障害治療器31の治療セッションのフロー図である。
図9は、治療セッションにおける刺激電圧の大きさの経時的変化を示す図である。
【0056】
この排尿障害治療器31を使用して治療を行うには、例えば、被治療者は、まず電極パッド37を自身の体に取り付ける。
【0057】
電極パッド37の取り付け後、操作ボタン35を操作して、自分に適した治療メニューを選択し、スタート/ストップボタン34を押す。これにより、電極パッド37から電気的な刺激信号が出力されて第3仙骨神経S3が刺激され、排尿障害治療器31による治療を開始することができる。刺激信号(出力パルス)の条件は、例えば、パルス幅が1μs(秒)~500μs(秒)であり、パルスの周波数が1Hz~50Hzであってもよい。
【0058】
この実施形態では、
図9に示すように、刺激セッションの開始から、印加電極40によって加えられる刺激電圧が段階的に上昇する(ステップS1)。より具体的には、演算回路51に、刺激セッションの開始からの実際の経過時間または刺激回数の入力信号が入力されると、刺激時間メモリ56または刺激回数メモリ57の記憶情報に基づいて刺激電圧の上昇率を算出し、当該上昇率に基づいて刺激電圧の大きさを算出する。つまり、ある刺激電圧を算出するときに、当該刺激電圧が刺激セッションの開始からどのくらい時間が経過したときの刺激電圧であるのか、または、当該刺激電圧が何回目の刺激電圧であるのかを判別し、当該刺激電圧よりも1つ前の刺激電圧からの上昇率を算出する。そして、その算出結果を出力回路52に出力し、出力回路52から適切な刺激電圧が印加電極40に出力される。
【0059】
刺激電圧の上昇中、刺激電圧が第1最大刺激電圧に到達しているか否かが、判別される(ステップS2)。ここで、第1最大刺激電圧に到達していれば(ステップS2のYES)、その後は、治療セッションの終了時間まで第1最大刺激電圧での刺激が継続される。そして、セッション終了時間が到達すると(ステップS6のYES)、治療が終了する。
【0060】
一方、第1最大刺激電圧に到達しておらず(ステップS2のNO)、刺激が強いという操作ボタン35からの入力もなければ(ステップS3のNO)、第1最大刺激電圧に到達するか、または操作ボタン35からの入力があるまで、刺激電圧の上昇が継続する。
【0061】
次に、刺激電圧の上昇中、刺激電圧が強いと被治療者が感じて操作ボタン35を押すと(ステップS3のYES)、比較器54から選択回路55に入力された比較結果から、選択回路55によって、切り替え器53の電圧種別が選択される(ステップS4、S5)。
【0062】
例えば、比較器54から選択回路55に入力された比較結果から、実際の刺激時間または刺激回数が、刺激時間メモリ61または刺激回数メモリ62に設定された時間または回数を上回っていると(つまり、第1最大刺激電圧に到達するために十分な刺激時間および回数を経過していると)、第1最大刺激電圧メモリ60の情報が、第2最大刺激電圧メモリ58に記憶される。その後は、治療セッションの終了時間まで第1最大刺激電圧での刺激が継続される。そして、セッション終了時間が到達すると(ステップS6のYES)、治療が終了する。
【0063】
一方、比較器54から選択回路55に入力された比較結果から、実際の刺激時間または刺激回数が、刺激時間メモリ61または刺激回数メモリ62に設定された時間または回数を下回っていると(つまり、第1最大刺激電圧に到達するための刺激時間および回数を経過していないと)、操作ボタン35が押された時点の刺激電圧の情報が、演算回路51から第2最大刺激電圧メモリ58に記憶される。その後は、治療セッションの終了時間まで、
図9に示すように、第1最大刺激電圧よりも小さい第2最大刺激電圧での刺激が継続される。そして、セッション終了時間が到達すると(ステップS6のYES)、治療が終了する。
【0064】
以上、この排尿障害治療器31によれば、
図9に示すように、刺激電圧が、刺激セッションの開始から段階的に上昇するので、被治療者が受ける刺激時の不快感を緩和することができる。
【0065】
また、
図9に示すように、被治療者が操作ボタン35を操作した時点から刺激電圧の上昇が止まるので、被治療者の皮膚の状態(例えば、発汗やお風呂上りで肌に水分が残っている状態等)に合わせて、被治療者自身が感じる刺激感を調整することができる。
【0066】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0067】
例えば、前述の実施形態では、携帯型の排尿障害治療器31の構成について説明したが、排尿障害治療器の電気的構成およびその制御は、
図10に示すように、設置型(据え置き型)の排尿障害治療器63に適用されてもよい。このような設置型の排尿障害治療器63は、医療機関において複数の患者で共用される。そのため、患者一人一人の過去の治療データを記憶するメモリを備えていてもよい。
【0068】
また、前述の実施形態では、使用者にメッセージや画像を表示するモニタ33を示したが、排尿障害治療器31の動作状態を使用者に示す手段は、モニタ33でなくてもよい。例えば、被治療者への伝達事項(例えば、エラーメッセージ、電極の取り付け位置間違い等)を予め筐体32の前面パネルに印字して置き、その文字をLED等で点灯させたり、その文字近傍のランプを点灯させたりすることで被治療者に知らせてもよい。
【0069】
また、前述の実施形態では、電気刺激治療器の一例として排尿障害治療器31のみを取り上げたが、本発明は、排尿障害治療器に限らず、排尿障害以外の他の疾患を対象とした電気刺激療法に使用される機器全般に適用することができる。
【0070】
たとえば、排便障害の改善に適用することができる。この場合、前述の実施形態と同様に、仙骨神経叢や陰部神経に電気刺激を与えることによって、肛門括約筋を収縮させるという神経支配が抑制されると共に、肛門括約筋を緩和させるという神経支配が促通される。これにより、肛門括約筋の収縮および緩和がバランスよく保たれ、肛門が適度に弛緩することになり、排便障害が改善する。
【0071】
また、たとえば、前述の実施形態のように仙骨神経叢に対する電気刺激ではないが、嚥下障害を改善するための電気刺激治療器に適用することもできる。
【0072】
また、排尿障害および排便障害の作用機序に関して、電気刺激が仙骨神経叢に作用することに加え、骨盤低筋を収縮させることによっても、排尿障害および排便障害(特に、腹圧性尿失禁および漏出性便失禁)を改善することができる。
【0073】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0074】
本出願は、2018年10月16日に日本国特許庁に提出された特願2018-195197号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【符号の説明】
【0075】
1 人体
2 腰椎
3 仙骨
4 脊椎
5 第1仙骨孔
6 第2仙骨孔
7 第3仙骨孔
8 第4仙骨孔
9 膀胱
10 内尿道括約筋
11 外尿道括約筋
12 下腹神経
13 骨盤神経
14 陰部神経
15 坐骨神経
16 腓骨神経
17 脛骨神経
18 第1指(拇指)
19 第2指
20 第3指
21 第4指
22 第5指(小指)
23 電極部
24 パッド部
25 刺激電極
26 不関電極
27 凸部
28 凸部
29 ベース部
30 ジェル
31 排尿障害治療器
32 筐体
33 モニタ
34 スタート/ストップボタン
35 操作ボタン
36 絶縁ケーブル
37 電極パッド
38 絶縁ケーブル
39 不関電極
40 印加電極
41 溝
42 不関電極領域
43 印加電極領域
44 凹部
45 凹部
46 端子
47 端子
48 配線ジャック
49 配線ジャック
50 コントローラ
51 演算回路
52 出力回路
53 切り替え器
54 比較器
55 選択回路
56 刺激時間メモリ
57 刺激回数メモリ
58 第2最大刺激電圧メモリ
59 タイマー
60 第1最大刺激電圧メモリ
61 刺激時間メモリ
62 刺激回数メモリ
63 排尿障害治療器