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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】装置、熱交換器、および蒸発体収容器
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/04 20060101AFI20230425BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20230425BHJP
   H01L 23/427 20060101ALI20230425BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
F28D15/04 B
F28D15/02 L
F28D15/02 101L
F28D15/02 102A
F28D15/04 H
F28D15/04 E
H01L23/46 B
H05K7/20 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020523163
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022434
(87)【国際公開番号】W WO2019235552
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2018110630
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業の研究領域「エネルギー高効率利用と相界面」における「多孔体内三相界面における熱流動解析に基づく熱輸送革新」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100128886
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(72)【発明者】
【氏名】小田切 公秀
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-052109(JP,A)
【文献】特開2007-247930(JP,A)
【文献】特開2011-242061(JP,A)
【文献】特開2014-114962(JP,A)
【文献】特開2005-106313(JP,A)
【文献】米国特許第5303768(US,A)
【文献】米国特許第4116266(US,A)
【文献】米国特許第9103602(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/04
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と、
前記発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、当該蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として当該蒸発器に環流させる熱交換器と
を備える装置において、
前記蒸発器は、
内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、当該空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を当該外面に複数有する蒸発体と、
前記蒸発体を収容するとともに、当該蒸発体の前記外面を支持する内面を備える収容体と
を有し、
前記収容体は、前記内面における前記蒸発体溝と対向する領域に、当該蒸発体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、当該第1収容体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝とを有する
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記第1収容体溝および前記第2収容体溝各々の溝幅は、深さ方向において底部に向かうに従い小さくなる
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記第1収容体溝および前記第2収容体溝は、前記収容体の前記内面において格子状に形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記収容体は、前記内面における一の前記蒸発体溝と対向する領域において、前記第1収容体溝および前記第2収容体溝の各々を複数有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記第1収容体溝および前記第2収容体溝の溝幅は、1μm~100μmである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、当該蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として当該蒸発器に環流させる熱交換器において、
前記蒸発器は、
内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、当該空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を当該外面に複数有する蒸発体と、
前記蒸発体を収容するとともに、当該蒸発体の前記外面を支持する内面を備える収容体と
を有し、
前記収容体は、前記内面における前記蒸発体溝と対向する領域に、当該蒸発体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、当該第1収容体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝を有する
ことを特徴とする熱交換器。
【請求項11】
内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、当該空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を当該外面に複数有する蒸発体を収容し、かつ
前記蒸発体の前記外面を支持する内面と、
前記内面における前記蒸発体溝と対向する領域に形成され、当該蒸発体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、
前記内面における前記蒸発体溝と対向する領域に形成され、前記第1収容体溝と交差する方向に延び当該蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝と
を有する
ことを特徴とする蒸発体収容器。
【請求項12】
(削除)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、装置、熱交換器、および蒸発体収容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、設置角度の如何に関わらず効率的に発熱部品を冷却するべく、蒸発部、凝縮部、及び液戻り管の内部にそれぞれ設けられるとともに、毛細管力を生じさせるウィックを有するループ型ヒートパイプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-215702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、電子機器などの装置が小型化および高性能化することにともない、装置における発熱密度が増大している。そのため、装置に設けられる発熱体からの高い熱流束を効率よく除去することが求められている。
そこで、本開示は、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のある実施形態の装置は、発熱体と、発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器とを備える装置において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面における蒸発体溝と対向する領域に、蒸発体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、第1収容体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝とを有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施の形態に係るループ型ヒートパイプを示す概略構成図である。
図2】(a)は本実施の形態に係る蒸発器の軸方向における断面図を示し、(b)は図2(a)のIIb-IIb面で切断した断面図である。
図3】(a)は図2(b)のIIIa内の拡大図であり、(b)は図3(a)のIIIb内の拡大図である。
図4】(a)は図3(a)のIVa-IVa面における断面図であり、(b)は蒸発器本体の内周面の斜視図であり、(c)は図4(a)のIVc-IVc面における断面図であり、(d)は図4(a)のIVd内の拡大図である。
図5】熱流束と熱伝達係数の関係を示す図である。
図6】(a)は図5の領域(A)における液相の作動流体の状態を示す図であり、(b)は図5の領域(B)における液相の作動流体の状態を示す図であり、(c)は図5の領域(C)における液相の作動流体の状態を示す図である。
図7】(a)は図5の領域(A)における案内溝周辺の液相の作動流体の状態を示す図であり、(b)は図5の領域(B)における案内溝周辺の液相の作動流体の状態を示す図である。
図8】実験条件を説明するための図である。
図9】測定に用いたウィックの概略構成を示す図である。
図10】測定試料の熱伝達係数を示す図である。
図11】(a)乃至(c)は変形例を説明するための図である。
図12】(a)乃至(c)は変形例を説明するための図である。
図13】ループ型ヒートパイプを備える携帯電話を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、以下の項目に記載の装置、熱交換器、および蒸発体収容器を含む。
[項目1] 発熱体と、発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器とを備える装置において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面における蒸発体溝と対向する領域に、蒸発体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、第1収容体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝とを有する。
項目1の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置実現できる。
[項目2] 第1収容体溝および第2収容体溝各々の溝幅は、深さ方向において底部に向かうに従い小さくなることを特徴とする項目1記載の装置。
項目2の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、第1収容体溝および第2収容体溝にて生じる毛細管力を増加させることができる。
[項目3] 第1収容体溝および第2収容体溝は、収容体の内面において格子状に形成されていることを特徴とする項目1または2記載の装置。
項目3の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、収容体の内面に沿って流体の作動流体を広げることができる。
[項目4] 収容体は、内面における一の蒸発体溝と対向する領域において、第1収容体溝および第2収容体溝の各々を複数有することを特徴とする項目1乃至3のいずれか1項記載の装置。
項目4の装置によれば、熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目5] 蒸発体溝の溝幅は、0.1mm~3.0mmであることを特徴とする項目1乃至4のいずれか1項記載の装置。
項目5の装置によれば、熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目6] 第1収容体溝および第2収容体溝の溝幅は、1μm~100μmであることを特徴とする項目1乃至5のいずれか1項記載の装置。
項目6の装置によれば、熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目7] 発熱体と、発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器とを備える装置において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面における蒸発体溝と対向する領域に、液相の作動流体の毛細管力により液相の作動流体を内面に沿って案内する案内機構を有することを特徴とする装置。
項目7記載の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目8] 発熱体と、発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器とを備える装置において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面における蒸発体溝と対向する領域に、蒸発体溝と交差する方向に延び、溝幅が1μm~100μmである複数の収容体溝を有することを特徴とする装置。
項目8の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目9] 蒸発体溝は、収容体溝と比較して溝幅が4倍以上であることを特徴とする項目1乃至8のいずれか1項記載の装置。
項目9記載の装置によれば、熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
[項目10] 発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面における蒸発体溝と対向する領域に、蒸発体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、第1収容体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝を有することを特徴とする熱交換器。
項目10記載の熱交換器によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた熱交換器を提供することができる。
[項目11] 内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有するとともに、蒸発した作動流体を案内する蒸発体溝を外面に複数有する蒸発体を収容し、かつ蒸発体の外面を支持する内面と、内面における蒸発体溝と対向する領域に形成され、蒸発体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第1収容体溝と、内面における蒸発体溝と対向する領域に形成され、第1収容体溝と交差する方向に延び蒸発体溝より溝幅が小さい複数の第2収容体溝とを有することを特徴とする蒸発体収容器。
項目11の蒸発体収容器によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた蒸発体収容器を提供することができる。
[項目12] 発熱体と、発熱体から熱を吸収して作動流体を液相から気相へと蒸発させる蒸発器を有し、蒸発器から流出させた気相の作動流体を凝縮させ液相の作動流体として蒸発器に環流させる熱交換器とを備える装置において、蒸発器は、内部に液相の作動流体が流入する空間を有し、空間内の液相の作動流体を毛細管力により外面へ導き蒸発させる空孔を複数有する蒸発体と、蒸発体を収容するとともに、蒸発体の外面を支持する内面を備える収容体とを有し、収容体は、内面に設けられ蒸発した作動流体を案内する複数の蒸発体溝を有するとともに、蒸発体溝に設けられ液相の作動流体の毛細管力により液相の作動流体を案内する収容体溝を有することを特徴とする装置。
項目12記載の装置によれば、本構成を有しない場合と比較して、大型化を抑制しながら熱交換率を向上させた装置を提供することができる。
以下、添付図面を参照して、本実施の形態について詳細に説明する。
<ループ型ヒートパイプ100の構成>
まず、図1を参照して、本実施の形態が適用されるループ型ヒートパイプ100の構成を説明する。ここで、図1は、本実施の形態に係るループ型ヒートパイプ100を示す概略構成図である。
本実施の形態が適用されるループ型ヒートパイプ100は、例えば電子機器等の筺体の内部に備えられる、例えばコンピュータのCPUなどの発熱体200を、外部から動力を供給することなく冷却するため、環状の装置内で作動流体を循環させるよう構成されている。
【0009】
詳細に説明すると、冷却素子の一例であるループ型ヒートパイプ100は、作動流体が気化する際の潜熱を利用して発熱体200を冷却するため作動流体を蒸発させる蒸発器101と、この蒸発器101で気化された作動流体を放熱して液化する凝縮器(Condenser)107とを有する。また、ループ型ヒートパイプ100は、蒸発器101で気化された作動流体を凝縮器107まで送る蒸気管(Vapor Line)105と、凝縮器107で液化された作動流体を蒸発器101まで送る液管(Liquid Line)109とを備えている。そして、本開示のループ型ヒートパイプ100内には液相および気相の間で相変化する作動流体が充填されている。なお、作動流体は、例えば、水、アルコール、アンモニア等が用いられる。
【0010】
<ループ型ヒートパイプ100の動作>
次に、図1を参照して、ループ型ヒートパイプ100内の動作を説明する。
発熱体200において発生する熱は、蒸発器101に伝達される(矢印C1参照)。蒸発器101において熱を吸収した作動流体は気化し、蒸気管105を通って(矢印A1参照)凝縮器107へ送られる(矢印A2参照)。凝縮器107へ送られた作動流体は、熱を放出して(矢印C2参照)液化する。そして、液化した作動流体は、液管109を通って(矢印A3参照)再び蒸発器101へと送られる(矢印A4参照)。
【0011】
<蒸発器101の構成>
図2(a)は、本実施の形態に係る蒸発器101の軸方向における断面図を示し、図2(b)は、図2(a)のIIb-IIb面で切断した断面図である。
【0012】
次に、図1及び図2を参照して、本実施の形態が適用される蒸発器101の構成を説明する。
図2(a)に示すように、蒸発器101は、電子機器(図示せず)の内部に備えられ、発熱体200からの熱を伝達するよう設けられる蒸発器本体110と、この蒸発器本体110と接続され内部に液相および気相の作動流体を収容する液溜め部120とを有する。また、蒸発器101は、蒸発器本体110の内部に挿入されるウィック130と、一端がウィック130の内部に配置されるとともに他端が液管109と接続されウィック130内に液相の作動流体を導入する導入管(ベイオネット管)150とを有する。
【0013】
収容体の一例である蒸発器本体110は、中空管状の金属からなり、一端が蒸気管105(図1参照)と接続され他端が液溜め部120と接続される。
液溜め部120は、蒸発器本体110と内部が連続するように設けられた中空管状の部材を有する。なお、図示の例においては、液溜め部120には、液管109を挿入する挿入口129が設けられている。
【0014】
蒸発体の一例であるウィック130は、多孔質金属(ポーラスメタル)からなる部材である。ウィック130は、作動流体に毛細管力を発生させ、結果として作動流体を移動させる。
また、ウィック130は、一端が閉塞されているとともに、他端が開放されている中空管状の部材である。ウィック130は、蒸発器本体110の内周面(内面)111に接触して設けられる。図示の例におけるウィック130は円筒状の部材であるが、その形状は板状(直方体)等他の形状であってもよい。
なお、蒸発器101を組み立てる際には、例えば蒸発器本体110と液溜め部120とを接続する前に、ウィック130が蒸発器本体110の内部に挿入される。
【0015】
ウィック130は、細孔径が50nmよりも大きい所謂マクロ孔を有する。具体的には、ウィック130の実効細孔径(あるいは平均細孔径)は、例えば0.1~25μmである。なお、この平均細孔径は、バブルポイント法により測定されたものであるが、他の測定方法により測定されたものであってもよい。ウィック130は、多孔質金属に限定されるものではなく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂多孔質、セラミック多孔質、ガラス多孔質、多孔質繊維などから形成されてもよい。また、ウィック130の空孔率は、25%~70%である。さらに、ウィック130として、熱伝導率が低い材質を用いると、蒸発器本体110から液溜め部120への熱リークを低減することができる。なお、熱リークをより低減したい場合、一般的には、熱伝導率が金属よりも低い非金属を用いることが好ましい。
【0016】
ここで、ウィック130の外径について説明をする。ウィック130の外径は、例えば3mm~100mmの範囲であり、好ましくは、4mm~80mmの範囲であり、より好ましくは6mm~60mmの範囲である。
【0017】
導入管150は、ウィック130内に設けられる中空管状の部材である。図2(b)に示す例においては、蒸発器本体110と、ウィック130と、導入管150とは同軸に設けられている。
【0018】
<蒸発器101の動作>
次に、図2を参照しながら蒸発器101内の動作について説明する。
まず、液管109によって蒸発器101へと送られた液相の作動流体は、導入管150を介して蒸発器本体110内へと流入する(矢印B1参照)。
【0019】
蒸発器本体110内へ流入した作動流体は、蒸発器本体110内でウィック130に浸透する。また、蒸発器本体110内へと流入した作動流体の一部は、液溜め部120に供給され(矢印B3参照)、液溜め部120内に保留される。
ウィック130に浸透した作動流体は、ウィック130の毛細管力により、外周面に向けて移動する(矢印B2参照)とともに、発熱体200の熱により加熱され気化する。この気化した作動流体は、蒸発器本体110とウィック130との間隙(後述)を通過しながら、蒸気管105側へと移動する(矢印B4参照)。また、蒸発器本体110内の作動流体がウィック130に浸透することにともない、液溜め部120内の作動流体は蒸発器本体110へと供給される。
【0020】
ここで、ウィック130の外周面(外面)131では、気化された作動流体が蒸気管105側へと移動することにともない、ウィック130に浸透した液相の作動流体がウィック130の外周面131に向けて移動する。そして、この液相の作動流体は、気化し蒸気管105へと移動する。このようにして、ウィック130の外周面131において作動流体の流れが途切れることなく、上記のサイクルが繰り返される。そして、発熱体200において発生した熱が、上述のように蒸発器101から凝縮器107(図1参照)へ輸送される。
【0021】
<蒸発器本体110およびウィック130>
図3(a)は図2(b)のIIIa内の拡大図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb内の拡大図である。
次に、図2および図3を参照して、本実施の形態が適用される蒸発器本体110およびウィック130について詳細に説明する。
【0022】
まず、図3(a)に示すように、蒸発器本体110は、ウィック130と接触する内周面111を有する。また、ウィック130は、蒸発器本体110と接触する外周面131を有する。言い替えると、ウィック130の外周面131は、蒸発器本体110の内周面111によって支持されている。
【0023】
また、ウィック130は、外周面131に蒸気溝133を有する。この蒸気溝133は、蒸発器本体110あるいはウィック130の軸方向に延びる。言い替えると、蒸気溝133は、蒸気管105を通って流出する気相の作動流体の流出する方向(矢印A1参照)、あるいは導入管150を通って流入する液相の作動流体の流入する方向(矢印B1参照)に沿って形成されている。
【0024】
ここで、図2(b)に示すように、図示の蒸気溝133は、蒸発体溝の一例であり、ウィック130の外周面131に複数設けられている。さらに説明をすると、蒸気溝133は、ウィック130の周方向において、所定の間隔で複数設けられている。また、ウィック130に蒸気溝133が設けられることにより、蒸発器本体110の内周面111には、ウィック130と接触する領域である接触領域119(図3(a)参照)と、蒸気溝133と対向しウィック130から離間する領域である対向領域117(図3(a)参照)とが形成される。この接触領域119と対向領域117とは、蒸発器本体110の周方向において、交互に配置される。
【0025】
また、図3(a)に示すように、蒸気溝133は、各々断面が略長方形である。さらに説明をすると、蒸気溝133は、ウィック130の径方向に沿う面である側面135と、ウィック130の周方向に沿う面である底面137とにより形成される。
【0026】
ここで、蒸気溝133の開口部は、蒸発器本体110の内周面111によって覆われる。そして、蒸気溝133の内部空間、すなわち蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の側面135と、ウィック130の底面137とによって囲まれた(形成された)空間は、後述するように気化した作動流体の流路として機能する。
【0027】
また、本実施の形態において、蒸発器本体110は、内周面111に案内溝115を有する。詳細は後述するが、案内溝115が液相の作動流体の流路として機能することで、蒸発器本体110の内周面111に沿う作動流体の流れが促進され得る。
【0028】
次に、作動流体の流れについて説明をする。毛細管力によりウィック130の内部から外周面131に向けて移動した作動流体は、加熱され気化するとともに、蒸発器本体110とウィック130との間に形成された蒸気溝133に流出する。そして、作動流体は、蒸気溝133に沿って移動し、蒸気管105(図1参照)側へと抜ける。
【0029】
ここで、ループ型ヒートパイプ100が動作している際、図3(b)に示すように、蒸気溝133の内部であって、蒸発器本体110の内周面111とウィック130(蒸気溝133)の側面135とが交差する部分である隅部Cnに液相の作動流体Lqが滲み出る、すなわち進出することがある。この隅部Cnに進出した液相の作動流体Lqは、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の側面135との間をつなぐ面を形成する。また、この内周面111と側面135との間をつなぐ面は、液相の作動流体Lqの表面張力の作用により湾曲する。ここで、液相の作動流体Lqの湾曲した面(界面)は、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の側面135と、蒸気溝133との共通の境界において形成される、液相の作動流体Lqの架橋(液架橋Lq1)として捉えることができる。
【0030】
また、図3(b)に示すように、蒸発器本体110の内周面111において、作動流体の気液界面が形成される。同様に、ウィック130の側面135において、作動流体の気液界面が形成される。このように、固相の内周面111(またはウィック130の側面135)、液相の作動流体Lq、および気相の作動流体の3つの相の境界線を、三相界線Bdと呼ぶことがある。なお、この三相界線Bdの長さが長いほど、より蒸発面積が増大し、蒸発器本体110の熱伝達性能が向上する。
【0031】
<案内溝115>
図4(a)は図3(a)のIVa-IVa面における断面図であり、図4(b)は蒸発器本体110の内周面111の斜視図であり、図4(c)は図4(a)のIVc-IVc面における断面図であり、図4(d)は図4(a)のIVd内の拡大図である。
次に、図3および図4を参照して、案内溝115の詳細構成について説明する。
【0032】
まず、図4(a)に示すように、蒸発器本体110は、内周面111全体に格子状に形成された案内溝115を有する。案内溝115は、蒸気溝133と直交する方向に延びる第1案内溝115Aと、蒸気溝133に沿う方向に延びる第2案内溝115Bとを有する。すなわち、案内溝115は、各々異なる方向に延び互いに交差する第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bを有する。図示の例においては、第1案内溝115Aは、ウィック130の周方向に延びる。また、第2案内溝115Bは、ウィック130の軸方向に延びる。付言すると、第1案内溝115Aは、接触領域119から対向領域117に向けて延びる。すなわち、第1案内溝115Aは、接触領域119および対向領域117に跨って形成される。なお、第1案内溝115Aは第1収容体溝の一例である。また、第2案内溝115Bは第2収容体溝の一例である。
【0033】
ここで、案内溝115は蒸気溝133よりも小さな寸法で形成されている。そして、図4(a)に示すように、一つの蒸気溝133と対向する一つの対向領域117において、第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bの各々が複数形成されている。言い替えると、一つの対向領域117において、第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bの交点が複数形成される。
【0034】
図4(b)に示すように、案内溝115は、蒸発器本体110の内周面111において楔型溝を十字方向に加工して形成される。この案内溝115は、例えば切削加工、レーザ加工、エッチング加工など周知の技術により形成される。また、蒸発器本体110を3Dプリンタにより製造することにともない、内周面111に案内溝115を形成してもよい。
【0035】
次に、図4(c)を参照しながら、案内溝115の構成を詳細に説明する。まず、図示の例における案内溝115、すなわち第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bの断面形状は、略V字状である。言い替えると、案内溝115の深さ方向において底面側に近づくにつれ、溝幅が小さくなる構成である。また、案内溝115は、マイクロオーダーのサイズで形成される。具体的に説明をすると、案内溝115の溝幅G1は、1μm~100μmであり、10μm~50μmであることが好ましく、図示の例においては20μm~30μmの範囲で形成される。また、案内溝115の深さG2は、10μm以上であることが好ましく、図示の例においては20μm~30μmの範囲で形成される。また、案内溝115の溝同士の間隔であるピッチG3は、20μm~100μmであることが好ましく、図示の例においては50~60μmの範囲であり、平均値57μmで形成される。
【0036】
なお、上記では説明を省略したが、蒸気溝133の溝幅は0.1mm~3.0mmである。一方で、上述のように案内溝115の溝幅G1は1μm~100μmである。したがって、蒸気溝133は、案内溝115と比較して、10~3000倍の溝幅を有する。また、三相界線Bdの長さをできる限り伸ばすという観点からは、ピッチG3がより小さい、すなわちピッチG3が0μmに近づくほど望ましい。しかしながら、後述する図5におけるモード(C)のように、接触熱抵抗が支配的になる状況においては、ピッチG3が小さいと蒸発器本体110およびウィック130の実接触面積が小さくなり、動作温度が非常に高くなる。このような温度上昇を回避するため、上述のようにピッチG3は20μm~100μmとすることが好ましい。
【0037】
ここで、案内溝115の溝幅G1は、1μmより小さいと溝内の流動抵抗が大きくなり、作動流体の搬送効果を得にくくなる。また、案内溝115の溝幅G1は、100μmより大きいと得られる毛細管力が小さくなるため、作動流体の搬送効果を得にくくなる。
また、案内溝115の深さG2は10μmより小さいと、溝内の流動抵抗が大きくなり、作動流体の搬送効果を得にくくなる。なお、案内溝115の深さG2が大きいほど、溝内の流動抵抗を低減できる。一方で、例えば切削加工により案内溝115を形成する場合などには、案内溝115の深さG2が大きいほど加工時間が長くなることがある。そこで、例えば案内溝115の深さG2を50μm以下とすることができる。
また、蒸気溝133の溝幅が小さいほど、熱伝達係数および最大熱流束が増加する。一方で、蒸気溝133の溝幅が小さいと、気相の作動流体が受ける抵抗が増加する。また、溝幅が小さな蒸気溝133を形成すると、製造コストが増加する。そこで、蒸気溝133の溝幅は、例えば0.1mm~3.0mmの範囲が好ましい。
【0038】
上記のように形成された案内溝115は、案内溝115の内部に進入した液相の作動流体の毛細管力を用いて、内周面111全体に作動流体を搬送する。いわば、案内溝115は、毛細管構造として機能する。
【0039】
さらに説明をすると、図3(a)に示すように、ウィック130に浸透する液相の作動流体は、ウィック130の毛細管力により外周面131に向けて移動する(矢印B2参照)。そして、ウィック130の外周面131と蒸発器本体110の内周面111の界面に到達した作動流体は、案内溝115を介して蒸発器本体110の内周面111に沿って移動する(矢印B5参照)。
【0040】
詳細に説明をすると、図4(d)に示すように、接触領域119に存在する液相の作動流体は、毛細管現象により第1案内溝115A内を移動することで、接触領域119から対向領域117に向かう(図中矢印B51)。また、第1案内溝115A内を移動する作動流体の一部は、第1案内溝115Aから第2案内溝115Bに向けて分岐し、第2案内溝115Bに沿って移動する(図中矢印B52)。このように、対向領域117において、互いに異なる向きに延びる第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bに沿って液相の作動流体が移動することにともない、液相の作動流体が対向領域117の全域に広がるように移動する。そして、液相の作動流体が広がると、作動流体の蒸発面積が増加する。このように、案内溝115は、液相の作動流体の毛細管力により液相の作動流体を蒸発器本体110の内周面111に沿って案内する案内機構として機能する。
【0041】
さて、第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bの溝幅は小さいほど、各々の内部に存在する液相の作動流体の毛細管力が増加する。また、第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bは、上述のように断面略V字状であり、深さ方向において溝底側に近づくほど溝幅が小さくなる。さらに、第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bは、各々の最も深い部分が交わり交点Cpを形成する。すなわち、この交点Cpにおける第1案内溝115Aおよび第2案内溝115B各々の溝幅は小さい。このように各々の溝幅が小さい交点Cpを介して第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bが連続することで、交点Cpにおける液相の作動流体の毛細管力が確保され、結果として第1案内溝115Aから第2案内溝115Bに分岐する流れが促進され得る。
【0042】
<ウィック130の動作モード>
図5は、熱流束と熱伝達係数の関係を示す図である。なお、図5において、横軸は熱流束(W/cm)を示し、縦軸は熱伝達係数(W/m/K)を示す。また、図5は、細孔半径が1.0μmであり、空隙率が57%のステンレス鋼の試料を用いた実験結果である。
図6(a)は図5の領域(A)における液相の作動流体Lqの状態を示す図であり、図6(b)は図5の領域(B)における液相の作動流体Lqの状態を示す図であり、図6(c)は図5の領域(C)における液相の作動流体Lqの状態を示す図である。
【0043】
次に、図5および図6を参照しながら、熱流束の変化に伴うウィック130の動作モードの変化について説明をする。
まず、図5に示すように、ウィック130は、熱流束の変化に応じて、熱伝達係数が変化する。図4に示す例において、熱流束が低い領域から高い領域を、順に領域(A)、領域(B)、領域(C)とすると、熱流束が高い領域(C)と比較して、領域(A)および領域(B)における熱伝達係数が高い。また、領域(A)と比較して、領域(B)における熱伝達係数がより高い。言い替えると、熱伝達係数は、領域(B)において最も高くなる。
【0044】
上記のような熱伝達係数の変化は、ウィック130の動作モードが変化することにより生じるものと考えられる。以下、図6(a)乃至(c)に示すように、図5の領域(A)~(C)の各々におけるウィック130の動作モードを、液相の作動流体Lqの状態に着目しながら説明をする。
【0045】
まず、図5における領域(A)の動作モードである第1動作モードについて説明をする。図6(a)に示すように、第1動作モードでは、蒸気溝133に進出した液相の作動流体Lqによって液架橋Lq1が形成される。そして、この液架橋Lq1の界面を介して液相の作動流体Lqが蒸発する(矢印D1参照)。ここで、上記のように図5における領域(A)は、領域(C)と比較して熱伝達係数が高い。これは、上記液架橋Lq1が形成されることにより、液相の作動流体Lqの蒸発面が増加するためと考えられる。また、熱抵抗の小さな液膜(蒸気溝133に進出した液相の作動流体Lq)を介して熱輸送が行われるためと考えることもできる。
【0046】
次に、図5における領域(B)の動作モードである第2動作モードについて説明をする。図6(b)に示すように、第2動作モードでは、液相の作動流体Lqによって液架橋Lq1が形成される。なお、この液架橋Lq1は、図6(a)に示す液架橋Lq1と比較して、小さい(短い)。また、図6(b)に示す状態においては、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の外周面131との界面において、核沸騰が生じる。さらに説明をすると、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の外周面131との接触面において、気相の作動流体Gsが気泡として周期的に発生する。このとき、図6(b)に示すように、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の外周面131との接触面には、発生した気相の作動流体Gsが存在する領域と、液相の作動流体Lqが存在する領域とが形成される。
【0047】
ここで、上記のように気相の作動流体Gsが発生することにより、気相の作動流体Gsと、蒸発器本体110の内周面111と、ウィック130の外周面131との共通の境界において、液相の作動流体Lqの架橋である接触面液架橋Lq2が形成される。このように、液架橋Lq1とともに接触面液架橋Lq2が形成されることにより、液架橋Lq1および接触面液架橋Lq2の両者を介して液相の作動流体Lqが蒸発する(矢印D1、D2参照)。
【0048】
すなわち、図6(b)に示す状態においては、図6(a)に示す状態と比較して液相の作動流体Lqの蒸発面が増加する。言い替えると、図6(b)に示す状態の液架橋Lq1および接触面液架橋Lq2の総数が、図6(a)に示す状態の液架橋Lq1の数よりも多く、結果としてより大きな液相の作動流体Lqの蒸発面が形成された状態となる。
【0049】
次に、図5における領域(C)の動作モードである第3動作モードについて説明をする。図6(c)に示すように、第3動作モードでは、液相の作動流体Lqによって液架橋Lq1が消失する。また、ウィック130の外周面131は、気相の作動流体Gsが存在する領域に覆われ、ウィック130の内部(図中下側)から移動してくる液相の作動流体Lqが蒸発器本体110の内周面111に到達しない状態となる。すなわち、液相の作動流体Lqが、蒸発器本体110の内周面111から離間した位置で蒸発する(矢印D3参照)。このように、ウィック130の内部で液相の作動流体Lqが蒸発することにより、蒸発器本体110の熱が液相の作動流体Lqへ直接伝達されなくなり、結果として熱伝達係数が低下すると考えられる。
【0050】
さて、ループ型ヒートパイプ100を設計する際に、上記のように図6(a)および(b)に示す状態、すなわち液架橋Lq1が形成されるようにウィック130を構成すると、熱伝達係数を高め得る。付言すると、例えばコンピュータのCPUなどの発熱体200が最も熱を発生させる状態において、液架橋Lq1が形成されるようにウィック130を設計してもよい。言い替えると、発熱体200からの熱を受けるウィック130が、第3動作モードとならずに、第1動作モードあるいは第2動作モードで動作するように設計してもよい。さらに言い替えると、図5における領域(B)と領域(C)とが切り替わる熱流束Hmよりも低い範囲の熱流束で動作するように、ウィック130を設計してもよい。なお、熱流束Hmは、ウィック130に伝えられる熱流束を変化させた際に、熱伝達係数が最も大きくなる点として捉えることができる。
【0051】
なお、ここでは説明の都合上、第1動作モード乃至第3動作モードを各々独立して動作するモードとして説明をした。しかしながら、各動作モードは必ずしも明確に切り替わるものではなく、第1動作モード乃至第3動作モードのうちの複数が同時に動作する態様であってもよい。
【0052】
<案内溝115の動作モード>
図7(a)は図5の領域(A)における案内溝115周辺の液相の作動流体Lqの状態を示す図であり、図7(b)は図5の領域(B)における案内溝115周辺の液相の作動流体Lqの状態を示す図である。
【0053】
次に、図5および図7を参照しながら、熱流束の変化に伴う案内溝115周辺の液相の作動流体Lqの状態の変化について説明をする。
【0054】
まず、図5における領域(A)の動作モードである第1動作モードについて説明をする。図7(a)に示すように、第1動作モード、すなわち低熱流束条件では、蒸発器本体110の内周面111と作動流体との接触角が0°となる。これは、内周面111に凹凸構造の一例である案内溝115が形成され、濡れ性が向上するためである。このため、蒸発器本体110の内周面111全面に、液相の作動流体の層、すなわち液膜が形成される。そして形成された液膜の表面で蒸発が生じる。
【0055】
次に、図7(a)に示す状態から、熱流束が増加すると、液相の作動流体を保持するために、気液界面である接触面液架橋Lq3が案内溝115内部で徐々に形成されていく。そして、さらに熱流束が増加すると、図7(b)に示すように、全ての案内溝115内部で三相界線Bdが形成される(図中破線円内参照)。図示の例においては、案内溝115の開口側、言い替えると案内溝115の溝端部で三相界線Bdが形成される。この三相界線Bdが形成されることにより、案内溝115を備えない場合と比較して、例えば10~100倍の長さの三相界線Bdが得られる。その結果、この領域で発生する薄液膜蒸発により、熱伝達性能が向上すると考えられる。
【0056】
<実験結果>
図8は実験条件を説明するための図である。
図9は測定に用いたウィック230の概略構成を示す図である。
図10は測定試料の熱伝達係数を示す図である。なお、図10において、横軸は熱流束(W/cm)を示し、縦軸は熱伝達係数(W/m/K)を示す。
【0057】
次に、図8乃至図10を参照しながら、案内溝115を形成することにともなう熱伝達性能の変化を確認する実験について説明をする。この実験においては、比較対象として案内溝115が形成されない蒸発器本体110をモデルとした平板と、上記実施の形態のように案内溝115が形成された蒸発器本体110をモデルとした溝加工板との熱伝達性能を評価した。
【0058】
図8に示すように、平板および溝加工板は、ともにステンレス鋼板、より具体的には15mm×10mmのSUS304を用いた。また、平板においてはステンレス鋼板に溝加工を施さず、溝加工板においてはステンレス鋼板に溝加工を施した。さらに説明をすると、溝加工板においては、溝幅G1が20μm~30μmの範囲であり、深さG2が約50μm、ピッチG3が50~60μmの範囲となるように案内溝115を形成した。また、案内溝115の断面形状は、略V字状である。
【0059】
まず、上記の平板および溝加工板に対して、作動流体としてエタノールを用いながら接触角を測定した。図8に示すように、平板および溝加工板の各々の板面にエタノールを滴下すると、平板の接触角は8.2±1.3°となり、溝加工板の接触角は0°となった。このことから、案内溝115を形成することにより、作動流体と板面との濡れ性の理論限界である0°が得られたことが確認された。
【0060】
次に、平板および溝加工板を測定試料として、熱伝達係数を測定した結果を説明する。なお、この測定においては、図9に示すように、上記ウィック130をモデルとした平板状のウィック230を用いた。この平板状のウィック230は、ステンレス鋼により形成され、熱伝導率が16.3W/m K、細孔半径(平均細孔半径)が4.4μmである。ウィック230には、蒸気溝133をモデルとした蒸気溝233が形成されている。ウィック230の幅L1は15mmであり、長さL2は10mm、高さL3は5mmである。そして、ウィック230の上面に平板または溝加工板からの熱が伝達され(矢印C1参照)、ウィック230の下面に液相の作動流体(矢印B2参照)が供給される。また、ウィック230の上面と平板または溝加工板との接触面積は75mmである。また、蒸気溝233の溝幅が1.0mmである。また、蒸気溝233同士の間隔(フィン幅、図9の長さW2参照)は1.0mm、蒸気溝233の溝深さ(図9の長さW3参照)は1.0mm、蒸気溝233の本数は7本である。
【0061】
さて、図10に示すように、測定された熱伝達係数が測定試料ごとに異なることが確認された。具体的には、溝加工板は、平板と比較して、熱伝達係数が大きくなることが確認された。さらに説明をすると、熱流束が高い領域(例えば、10.0~15.0W/cm)において、溝加工板は、平板と比較して最大約20倍、熱伝達性能が向上することが明らかとなった。付言すると、この測定結果から、案内溝115を蒸発器101(図1参照)に設けることで蒸発器101の性能向上が期待される。
【0062】
<変形例>
図11および図12は、変形例を説明するための図である。なお、図11(a)乃至(c)の各々は上記実施の形態を示す図4(a)に対応する図である。また、図12(a)乃至(c)の各々は上記実施の形態を示す図3(a)に対応する図である。
次に、図3(a)、図4(a)、図11および図12を参照しながら、上記実施の形態の変形例について説明をする。
【0063】
上記の説明においては、図4(a)に示すように、案内溝115が互いに直交する第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bを有することを説明したが、液相の作動流体の毛細管力を用いながら、蒸発器本体110の内周面111に沿って液相の作動流体を案内することができれば、これに限定されない。
例えば、図11(a)に示す蒸発器本体210のように、一方向に延びる案内溝215のみを有する構成であってもよい。図示の案内溝215は、蒸気溝133と直交する方向に延びる。
また、図11(b)に示す蒸発器本体310のように、案内溝315が互いに直交以外の角度で交差する第1案内溝315Aおよび第2案内溝315Bを有する構成であってもよい。図示の第1案内溝315Aおよび第2案内溝315Bは、各々蒸気溝133と直交以外の角度で交差する方向に延びる。
【0064】
また、上記の説明においては、図4(a)に示すように、案内溝115の第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bが、各々の方向において連続して形成される溝であることを説明したが、液相の作動流体の毛細管力を用いながら、蒸発器本体110の内周面111に沿って液相の作動流体を案内することができれば、これに限定されない。
例えば、図11(c)に示す蒸発器本体410のように、案内溝415の第1案内溝415Aおよび第2案内溝415Bが、各々の方向において不連続に形成される溝であってもよい。図示の例においては、第1案内溝415Aが蒸気溝133と直交する方向において不連続で形成され、第2案内溝415Bが蒸気溝133に沿う方向において不連続で形成される。さらに説明をすると、図示の案内溝415は、各々十字状に形成された溝として捉えることができる。また、十字状の各溝は、接触領域119および対向領域117に跨って形成される。
【0065】
また、上記の説明においては、図3(a)に示すように、案内溝115が蒸発器本体110の内周面111全体に形成されることを説明したが、これに限定されない。
例えば、図12(a)に示す蒸発器本体510のように、内周面511の一部に案内溝515が形成されてもよい。言い替えると、内周面511の一部に案内溝515が形成されなくてもよい。図示の例においては、内周面511における対向領域117には案内溝515が形成され、接触領域119には案内溝515が形成されない。
【0066】
また、上記の説明においては、図3(a)に示すように、案内溝115が断面略V字状に形成されることを説明したが、液相の作動流体の毛細管力を用いながら、蒸発器本体110の内周面111に沿って液相の作動流体を案内することができれば、これに限定されない。
例えば、図12(b)に示す蒸発器本体610のように、断面略U字状に案内溝615が形成されてもよい。また、図示の例とは異なり、断面略コの字状、すなわち矩形状の案内溝でもよい。また、深さ方向において底面側に近づくにつれ溝幅が小さくなり、かつ底面が平面の案内溝でもよい。さらに、案内溝を形成する面は、平面に限らず、湾曲面であってもよいし、凹凸を有する面であってもよい。
【0067】
また、上記の説明においては、図3(a)に示すように、ウィック130が蒸気溝133を有し、蒸発器本体110が案内溝115を有することを説明したが、これに限定されない。
例えば、図12(c)に示すように、ウィック730に蒸気溝733は形成されず、蒸発器本体710の内周面711に蒸気溝733および案内溝715の両者を有する構成であってもよい。図示の案内溝715は、蒸気溝733の側面733Aおよび底面733Bにも互いに連続して形成されている。このことにより、蒸気溝733の側面733Aおよび底面733Bに沿って、液相の作動流体を移動させることができる。
【0068】
なお、図12(a)乃至(c)においては、案内溝515、615、715として、紙面と交差する向きに延びる溝のみを示しているが、紙面に沿う向きに延びる溝も形成される。すなわち、案内溝515、615、715は、各々蒸気溝133と直交する方向に延びる第1案内溝と、蒸気溝133に沿う方向に延びる第2案内溝とを有する。また、案内溝515、615、715は、各々蒸気溝133と直交する方向に延びる第1案内溝および、蒸気溝133に沿う方向に延びる第2案内溝のいずれか一方により構成されてもよい。
【0069】
さらに、図示は省略するが、案内溝115の第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bは、互いに異なる形状で形成されてもよい。例えば、案内溝115の第1案内溝115Aおよび第2案内溝115Bは、互いに異なる溝幅、溝深さ、溝間隔などで形成されてもよい。また、案内溝115は、蒸発器本体110の内周面111などに凹凸構造を形成するものであれば、溝構造に限定されるものではない。例えば、内周面111に不規則に形成された凹部を複数有する構成でもよい。この不規則な凹部は、例えばサンドブラストなど、周知の技術により形成することができる。また、内周面111に凹部ではなく、凸部を複数有することにより、凸部同士の間隙で毛細管力を発生させる構成であってもよい。
【0070】
<電子機器>
図13は、ループ型ヒートパイプ100を備える携帯電話800を説明する図である。
次に、図13を参照しながら、ループ型ヒートパイプ100を備える携帯電話800について説明をする。
【0071】
図13に示すように、ループ型ヒートパイプ100は、携帯電話800などの電子機器に設けられる。図示の携帯電話800は、平板状の形状を有する所謂スマートフォンである。この携帯電話800は、中央演算処理装置(CPU)801と、中央演算処理装置801を冷却するループ型ヒートパイプ100と、これらを内部に収容する筺体803とを備える。そして、発熱体の一例である中央演算処理装置801において発生する熱が、蒸発器101に伝達されるとともに、凝縮器107にて放出される。なお、図示の例における凝縮器107は、放熱面積を確保するため、複数の折り返し部を有する。
【0072】
ここで、熱交換器の一例であるループ型ヒートパイプ100が設けられる装置は、上記の携帯電話800に限定されない。例えば、ループ型ヒートパイプ100は、パーソナルコンピュータやプロジェクタなどの電子機器、自動車などの輸送機器など発熱源となる部品を備えた種々の装置に設けられてもよい。
【0073】
また、ウィック130は、上述のように板状の部材として構成してもよい。ここで、ウィック130および蒸発器101を平板状に形成することにより、ループ型ヒートパイプ100の厚み方向の寸法を抑制し得る。付言すると、例えば図13に示す携帯電話800内に設けられる蒸発器101を平板状に形成することにより、携帯電話800の厚みが抑制され得る。
【0074】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
100…ループ型ヒートパイプ、101…蒸発器、107…凝縮器、110…蒸発器本体、111…内周面、115…案内溝、115A…第1案内溝、115B…第2案内溝、117…対向領域、119…接触領域、130…ウィック、131…外周面、133…蒸気溝、Lq…液相の作動流体
図1
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図13