(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】抗菌性ポリペプチド、抗菌性組成物および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20230425BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230425BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20230425BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20230425BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230425BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230425BHJP
C07K 14/195 20060101ALN20230425BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230425BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/04
A61P17/10
A61K8/64
A61Q19/00
A61K35/744
C07K14/195 ZNA
C12N15/31
C12N1/21
(21)【出願番号】P 2022006699
(22)【出願日】2022-01-19
【審査請求日】2022-05-26
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 恵亮
(72)【発明者】
【氏名】小泉 珠理
(72)【発明者】
【氏名】中南 秀将
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-534775(JP,A)
【文献】Accession No. RFT42120,Database GenBank [online],2018年08月23日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/RFT42120.1/
【文献】Y9 皮膚常在菌によるCutibacterium acnesの増殖抑制作用,第31回 微生物シンポジウム 予稿集,2019年
【文献】Accession No. QQY16236,Database GenBank [online],2021年01月28日,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/QQY16236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有し、かつ、
(b)以下:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる
のいずれかである、ポリペプチド
または
前記ポリペプチドをコードするDNAを含む微生物
を含む、抗菌性組成物。
【請求項2】
(a)グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有し、かつ、
(b)以下:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる
のいずれかである、ポリペプチド
または
前記ポリペプチドをコードするDNAを含む微生物
を含む、医薬組成物。
【請求項3】
皮膚疾患の治療および/または予防用である、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記皮膚疾患が、尋常性ざ瘡(ニキビ)であり、
前記グラム陽性菌が、Cutibacterium acnesである、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
(a)グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有し、かつ、
(b)以下:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる
のいずれかである、ポリペプチド
または
前記ポリペプチドをコードするDNAを含む微生物
を含む、化粧料組成物。
【請求項6】
前記グラム陽性菌が、Cutibacterium acnes、Cutibacteirum granulosum、Corynebacterium striatum、Corynebacterium xerosis、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarumおよびStreptococcus pneumoniaeからなる群より選択される、請求項
1~5のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項7】
前記ポリペプチドが、Cutibacterium avidumに由来する、請求項
1~6のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項8】
前記グラム陽性菌が薬剤耐性を有する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項9】
前記微生物が、Lactococcus属である、請求項
1~8のいずれか1項に記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性ポリペプチド、ならびに、当該ポリペプチドを含む抗菌性組成物および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ざ瘡は、多くの人が経験する炎症性の皮膚疾患である。ざ瘡の増悪には、皮脂産生など宿主の内分泌要因に加えて、皮膚常在菌であるCutibacterium acnes(C.acnes)(Propionibacterium acnesとしても既知)の異常増殖が関連している。ざ瘡の治療には、レチノイン酸誘導体および過酸化ベンゾイルなどの面皰改善薬、ならびに、C.acnesの除菌を目的とした抗菌薬が使用されている(非特許文献1)。
【0003】
一方で、抗菌薬の多用により薬剤耐性C.acnesの増加が世界中で認められている(非特許文献2)。抗菌薬の使用は、C.acnesだけでなくStaphylococcus epidermidisなどの他の皮膚常在菌も耐性化させるリスクを有する(非特許文献3)。また、皮膚細菌叢の破綻を引き起こし、他の皮膚疾患を誘発する可能性がある(非特許文献4)。
【0004】
したがって、皮膚疾患、特にざ瘡の治療において、さらなる選択肢が必要とされていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】N. Hayashi, H. Akamatsu, K. Iwatsuki, R. Shimada-Omori, C. Kaminaka, I. Kurokawa, et al. Japanese Dermatological Association Guidelines: Guidelines for the treatment of acne vulgaris 2017. J Dermatol 45 (2018) 898-935.
【文献】K. Nakase, N. Hayashi, Y. Akiyama, S. Aoki, N. Noguchi. Antimicrobial susceptibility and phylogenetic analysis of Propionibacterium acnes isolated from acne patients in Japan between 2013 and 2015. J Dermatol 44 (2017) 1248-54.
【文献】K. Nakase, A. Yoshida, H. Saita, N. Hayashi, S. Nishijima, H. Nakaminami, et al. 8 Relationship between quinolone use and resistance of Staphylococcus epidermidis in patients with acne vulgaris. J Dermatol 46 (2019) 782-6.
【文献】N.N. Schommer, R.L. Gallo. Structure and function of the human skin microbiome. Trends Microbiol 21 (2013) 660-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗菌性ポリペプチド、および、当該ポリペプチドを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
皮膚常在菌は、様々な菌種から構成されており、その一部は、代謝物およびバクテリオシンなどの抗菌性ペプチドを産生することによって、病原性細菌の定着を阻害し、皮膚細菌叢を維持している(参考文献5および6)。例えば、皮膚に存在するコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative Staphylococcus species;CoNS)として、S.gallinarum、S.epidermidisおよびS.hominisが挙げられるが、これらは、病原性細菌S.aureusの増殖抑制作用を有するバクテリオシンであるgallidermin、epiderminおよびhominicinをそれぞれ産生し、皮膚の健康に維持に関与している可能性が示されている(参考文献7および8)。しかしながら、抗菌活性および抗菌物質の産生について明らかになっていない皮膚常在菌も存在する。そこで、本発明者らはC.acnesの増殖を抑制する皮膚細菌について探索を行った。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、健常者の皮膚およびざ瘡膿疱から分離した皮膚細菌のうち、Cutibacterium avidum(C.avidum)がC.acnesの増殖を抑制すること、および、C.avidumは、C.acnesの薬剤耐性菌に対しても増殖抑制を示すことを見出した。また、C.avidumは、C.acnes以外の、数種のグラム陽性細菌に対しても特異的に増殖抑制を示すことが示された。さらに、本発明者らは、グラム陽性細菌の増殖を阻害するC.avidum株のゲノムを解析した結果、非阻害株には認められない新規のポリペプチドをコードする遺伝子クラスターを見出した。本発明は、これらの知見に基づき成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである:
[1](a)グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有し、かつ、
(b)以下:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(ii)配列番号1または2のアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iii)配列番号3または4の塩基配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、
(v)配列番号3または4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる
のいずれかである、ポリペプチド;
[2]前記グラム陽性菌が、Cutibacterium acnes、Cutibacteirum granulosum、Corynebacterium striatum、Corynebacterium xerosis、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarumおよびStreptococcus pneumoniaeからなる群より選択される、[1]に記載のポリペプチド;
[3]Cutibacterium avidumに由来する、[1]または[2]に記載のポリペプチド;
[4]前記グラム陽性菌が薬剤耐性を有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリペプチド;
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードするDNA;
[6][5]に記載のDNAを含む、プラスミド;
[7][5]に記載のDNAを含む、微生物;
[8]Lactococcus属である、[7]に記載の微生物;
[9][1]~[4]のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは[7]もしくは[8]に記載の微生物を含む、抗菌性組成物;
[10][1]~[4]のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは[7]もしくは[8]に記載の微生物を含む、医薬組成物;
[11]皮膚疾患の治療および/または予防用である、[10]に記載の医薬組成物;
[12]前記皮膚疾患が、尋常性ざ瘡(ニキビ)であり、
前記グラム陽性菌が、Cutibacterium acnesである、[11]に記載の医薬組成物;
[13][1]~[4]のいずれか1項に記載のポリペプチドまたは請求項7もしくは8に記載の微生物を含む、化粧料組成物;
[14][7]または[8]に記載の微生物を培養することを含む、ポリペプチドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、抗菌性ポリペプチド、および、当該ポリペプチドを含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】C.avidumによるC.acnes ATCC6919に対する増殖抑制作用を示す図である。(a)にはC.avidum ATCC25577を、(b)にはC.avidum TP-CV4を、(c)にはC.avidum TP-CV14を添加した。
【
図2】C.avidum ATCC25577によるC.acnes臨床分離株に対する増殖抑制作用を示す図である。50c、138a、132cおよび20bはマクロライド-クリンダマイシン耐性株、44bはキノロン耐性株であり、25cはテトラサイクリン耐性株、101bおよび102aは薬剤感受性株である。
【
図3】静置培養において、異なる菌量のC.avidumと混合したC.acnesの増殖曲線を示す。菌量比は、C.avidum:C.acnesを示す。
【
図4】本発明にかかるポリペプチドの遺伝子オペロンを示す図である。
【
図5】本発明にかかるポリペプチド(アビダマイシン)と他の環状バクテリオシンとのアミノ酸配列を比較した図である。
【
図6】本発明にかかるポリペプチドのアミノ酸配列および当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本明細書において、「~」を用いて示される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
【0014】
本明細書に記述されているDNAの取得、ベクターの調製、形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 4th Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、遺伝子工学実験ノート (羊土社 田村隆明)等に記載されている当該分野で既知の方法により行なうことができる。本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’から3’方向に向けて記載される。本明細書において、「ポリペプチド」および「タンパク質」の語は、互換可能に使用される。
【0015】
本明細書において、参照アミノ酸配列に対する比較アミノ酸配列の「配列同一性」の割合(%)は、これら2つの配列間の同一性が最大となるように配列を整列させ、必要であれば2つの配列の一方または双方にギャップが導入されたときの、参照配列中のアミノ酸残基と同一である、比較配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。このとき、保存的置換は配列同一性の一部として考慮しない。配列同一性は、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することによって決定することができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアライメントサーチツールを用いて決定することができる。当業者は、アラインメントにおいて、比較配列の最大のアラインメントを得るために適切なパラメーターを決定することができる。塩基配列の「配列同一性」についても、同様の方法によって決定することができる。
【0016】
本明細書において、「内因」または「内因性」の用語は、遺伝子組換えによる改変がなされていない宿主微生物が、言及された遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質を、当該宿主細胞内で優位な生化学的反応を進行させ得る程度に機能的に発現しているかどうかに関わらず、宿主微生物が有していることを意味するために用いられる。「内因性」および「内在性」の用語は、本明細書において互換可能に用いられる。また、本明細書において、「外来」または「外来性」の用語は、遺伝子組換えによる改変がなされていない宿主微生物が、言及された遺伝子を有していない場合、またはその遺伝子によりコードされるタンパク質を実質的に発現しない場合、または異なる遺伝子により当該タンパク質のアミノ酸配列をコードしているが、形質転換後に匹敵する内因性タンパク質の活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子配列を宿主微生物に導入することを意味するために用いられる。「外来性」および「外因性」の用語は、本明細書において互換可能に用いられる。
【0017】
本発明者らは、健常者の皮膚およびざ瘡膿疱から分離した122株の皮膚細菌のうち、Cutibacterium avidum(C.avidum)が、薬剤耐性株を含むC.acnesの増殖を抑制した。加えて、いくつかのグラム陽性菌の増殖を抑制することを見出した。グラム陽性菌の増殖を阻害するC.avidum株をゲノム解析した結果、増殖を阻害しない非阻害株には認められない新規の抗菌性ポリペプチド(以下、アビダマイシン(avidamicin)とも称する。)をコードする遺伝子クラスターが存在することを見出した。
【0018】
したがって、本発明の第1の側面は、抗菌性ポリペプチドに関する。本発明にかかるポリペプチドは、グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有する。グラム陽性菌の増殖を抑制する活性とは、本発明にかかるポチペプチドをグラム陽性菌に添加しない場合と比較して、グラム陽性菌の増殖を低下させる活性をいう。グラム陽性菌に関し、「増殖を抑制する活性」の語は、「増殖抑制活性」または「増殖阻害活性」とも称され、これらの語は互換可能に用いられる。
【0019】
本発明にかかるポリペプチドによって増殖が抑制されるグラム陽性菌は、具体的には、Cutibacterium属、Corynebacterium属、Lactobacillus属またはStreptococcus属に属する。
【0020】
一態様において、グラム陽性菌は、Cutibacterium acnes、Cutibacteirum granulosum、Corynebacterium striatum、Corynebacterium xerosis、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus plantarumおよびStreptococcus pneumoniaeからなる群より選択される。
【0021】
例えば、グラム陽性菌がCutibacterium acnes(C.acnes)である場合、C.acnes増殖抑制活性は、試験プレート上に播種したC.acnesに対し、本発明にかかるC.avidum株もしくはポリペプチドを添加し、一定の培養時間の後(例えば、35℃、嫌気条件下で48時間培養後)にC.acnesに対して増殖阻止円が形成される場合、C.acnes増殖抑制活性があると判断することができる。あるいは、液体培地で混合培養した時に、増殖したC.acnesの菌量を非添加群と比較することで決定することができる。上記方法は、以下で説明する本発明にかかる微生物によるC.acnes増殖抑制活性についても同様に適用することができる。ここで示した増殖抑制の確認方法は、C.acnes以外のグラム陽性菌の増殖抑制の確認にも用いることができる。
【0022】
ざ瘡患者から分離されるC.acnes株は薬剤耐性を有するものも多く認められる。本発明にかかるポリペプチドは、薬剤耐性を有するグラム陽性菌、特に、薬剤耐性を有するC.acnesに対しても増殖抑制活性を有する。薬剤耐性とは、抗生物質による抗菌作用に抵抗性を示すことをいい、Antimicrobial resistance(AMR)とも称される。抗生物質としては、例えば、マクロライド系、リンコマイシン系、キノロン系、テトラサイクリン系、β-ラクタム系およびアミノグリコシド系の抗生物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬剤耐性は、複数の抗生物質に耐性を有する、多剤耐性であってもよい。
【0023】
配列に関し、本発明にかかるポリペプチドは、以下のいずれかである:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(ii)配列番号1または2のアミノ酸配列に対して1~20個、1~15個、1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iii)配列番号3または4の塩基配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して1~20個、1~15個、1~10個、1~7個、1~5個または1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、
(v)配列番号3または4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる。
【0024】
ここで、配列番号1は、配列番号3の塩基配列から翻訳されるアミノ酸配列であり、配列番号2は、配列番号3の1~105番目の塩基から翻訳されるアミノ酸を含まないアミノ酸配列である(
図6)。配列番号1からなるポリペプチドおよび配列番号2からなるポリペプチドのいずれも抗菌活性を有すると予想され、特にN末端の19アミノ酸が活性に大きく関連すると推測される。
【0025】
配列に関し、本発明にかかるポリペプチドは、好ましくは、以下のいずれかである:
(i)配列番号1または2のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、
(ii)配列番号1または2のアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iii)配列番号3または4の塩基配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされる、
(v)配列番号3または4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる。
【0026】
本明細書において、「緊縮条件」とは、例えば、「1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、68℃」程度の条件である。
【0027】
配列に関し、本発明にかかるポリペプチドは、より好ましくは、以下のいずれかである:
(xi)配列番号1または2のアミノ酸配列からなる、および
(xiv)配列番号3または4の塩基配列からなるDNAによってコードされる。
【0028】
本発明にかかるポリペプチドは、Cutibacterium属に属する微生物、具体的には、Cutibacterium avidumに由来する。本発明にかかるポリペプチドは、より好ましくは、C.avidum ATCC25577株およびC.avidum TP-CV14株に由来する。本明細書において、「由来する」とは、遺伝子またはそれによりコードされるポリペプチドが、言及する特定の生物種が内因的に有しているものであることを意味する。
【0029】
本発明にかかるポリペプチドは、一態様において、環状構造を有していてもよい。例えば、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および、配列番号4の塩基配列からなるDNAによってコードされるポリペプチドは、環状構造を有する。
【0030】
本発明の第2の側面は、上記ポリペプチドをコードするDNAに関する。また本発明の別の側面は、当該DNAを含むプラスミド、および、当該DNAを含む微生物に関する。
【0031】
プラスミドは、前記DNAを導入した遺伝子組換えプラスミドであってよく、また、微生物は、前記DNAを宿主微生物(例えば受容菌株)に導入した遺伝子組換え微生物であってもよい。すなわち、上記のポリペプチドの外来性遺伝子を導入した遺伝子組換えプラスミドおよび遺伝子組換え微生物も、本発明の範囲に包含される。ここで、「遺伝子組換えプラスミド」および「遺伝子組換え微生物」は、それぞれ、単に「組換えプラスミド」および「組換え微生物」とも称される。
【0032】
本明細書において、「宿主微生物」および「宿主」の用語は、本明細書で互換可能に用いられる。一例において、「宿主微生物」の語は、プラスミドが形質転換によって導入される、受容菌株を示す。本発明の宿主微生物は、既に単離保存されているもの、新たに天然から分離したもの、および、遺伝子改変を行ったもの、いずれをも任意に選択することができる。
【0033】
例えば、宿主微生物は、Lactococcus属に属する微生物が使用される。したがって、本発明にかかる組換え微生物は、例えば、Lactococcus属に属する。宿主微生物の具体例としては、例えばLactococcus lactisが挙げられる。
【0034】
一態様において、本発明にかかる組換えプラスミドまたは組換え微生物は、以下:
(iv)配列番号3または4の塩基配列と80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA、
(v)配列番号3または4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNA、および
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNA
のいずれかを含む。
【0035】
好ましい態様において、本発明にかかる組換えプラスミドまたは組換え微生物は、以下:
(iv)配列番号3または4の塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるDNA、
(v)配列番号3または4の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNA、および、
(vi)配列番号3または4の塩基配列の縮重異性体からなるDNA
のいずれかを含む。
【0036】
より好ましい態様において、本発明にかかる組換えプラスミドまたは組換え微生物は、
(xiv)配列番号3または4の塩基配列からなるDNA
を含む。
【0037】
本発明の第3の側面は、先述の微生物を培養することを含む、ポリペプチドの製造方法に関する。具体的には、当該製造方法は、先述の微生物を培養して、当該改変微生物の培養物および/または培養物の抽出物を得る培養工程を含む。当該製造方法は、前記培養物および/または前記培養物の抽出物から、抗菌性ポリペプチドを回収する回収工程をさらに含んでもよい。
【0038】
培養工程に関し、培地組成および培養条件は、目的のポリペプチドの生産、ならびに、微生物の生育および維持の観点から、当業者が適宜選択および設定することができる。
【0039】
回収工程は、分離および/または精製を目的とした任意の手法により行われる。例えば、遠心分離、膜ろ過、膜分離、晶析、抽出、蒸留、吸着、相分離、イオン交換、および、各種のクロマトグラフィーといった手法が挙げられるが、これらに限定されない。分離および/または精製は、一つの手法を選択してもよく、あるいは、複数の手法を組み合わせて行ってもよい。
【0040】
本発明にかかる微生物およびその培養物は、例えば、皮膚常在菌、特にC.acnesの異常増殖を抑制することができるため、皮膚疾患の予防に有利に使用できることが期待される。
【0041】
本発明の第4の側面は、先述のポリペプチドまたは先述の微生物を含む組成物に関する。組成物は、薬理学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。組成物中、ポリペプチドは塩の形態で存在してもよい。当該組成物は、例えば、抗菌性組成物である。
【0042】
本発明にかかる組成物は、化粧料組成物または医薬組成物として使用することもできる。
【0043】
一態様において、本発明にかかる化粧料組成物は、先述のポリペプチドまたは先述の微生物を含み、化粧料として許容される担体をさらに含んでもよい。かかる化粧料組成物は、皮膚常在菌、特にC.acnesの異常増殖を抑制し、皮膚の美観を維持および/または向上させることができる。
【0044】
別の一態様において、本発明にかかる医薬組成物は、先述のポリペプチドまたは先述の微生物を含み、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0045】
別の好ましい態様において、本発明にかかる医薬組成物は、皮膚疾患の治療および/または予防用の医薬組成物である。皮膚疾患としては、例えば、ざ瘡、毛包炎および酒さが挙げられるが、これらに限定されず、グラム陽性菌、特にC.acnesの異常増殖が関与する皮膚疾患を指す。皮膚疾患は、特には尋常性ざ瘡(ニキビ)である。
【0046】
本明細書において皮膚疾患に関し、「予防」の語には「抑制」も包含される。「抑制」および「予防」の語は共に、皮膚疾患の悪化または進行を予防すること、遅らせることおよび軽減することを意味するものとする。皮膚疾患の「悪化」および「進行」は、疾患部分の数および範囲の増加または拡大が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
皮膚疾患の「予防」および「抑制」は、当該分野で公知の方法に従って評価することができる。例えば、疾患部分の数および範囲、疾患に関与する微生物の生存数、ならびに、疾患に関与する遺伝子の発現などを指標として評価することができる。疾患に関与する微生物の生存数は、例えば、カップ法、ディスク法およびTime kill法を用いて評価することができる。また、遺伝子の発現は、例えば、免疫蛍光染色法、および、RT-PCR法によって確認することができる。
【0048】
以上説明したとおり、本発明によれば、新規な抗菌性ポリペプチドおよび当該ポリペプチドを生産することのできる微生物が提供される。本発明にかかる抗菌性ポリペプチドまたは微生物によれば、皮膚常在菌、特にC.acnesの異常増殖が関与する皮膚疾患の治療用の新規な医薬組成物を提供することができる。本発明にかかる抗菌性ポリペプチドまたは微生物は、AMRを獲得した皮膚常在菌に対しても増殖抑制効果を示すため、既存の抗生物質による治療が難しい皮膚疾患に対しても代替の治療選択肢を提供することができる。また、本発明にかかるポリペプチドおよび微生物は、特定の皮膚常在菌にのみ作用するため、耐性化および細菌叢の破綻を起こす危険性が低く、この点で医薬組成物の活性成分として有用であると考えられる。さらに、上記ポリペプチドまたは上記微生物を用いることにより、皮膚疾患を事前に予防できる可能性がある。また、皮膚の美観を向上または維持することのできる化粧料も提供することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
<1>試料および培養条件
<1-1>菌株
皮膚細菌として、2014年に健常者の皮膚から得られたブドウ球菌属菌85株と、2013~2015年にざ瘡患者検体から分離された嫌気性菌37株を使用した(参考文献2)。具体的には、C.acnesとしては、基準株であるATCC6919、および、ざ瘡患者から分離された8株を(参考文献2および12)、グラム陽性菌としては、基準株であるC.avidum ATCC25577、C.granulosum ATCC25564、S.epidermidis ATCC14990、S.aureus ATCC29213、S.capitis ATCC27840、S.hominis ATCC29970、Bacillus subtillis ATCC6633、Enterococcus faecium ATCC19434、Enterococcus faecalis ATCC19433、Lactobacillus pentosus ATCC8041、L.plantarumATCC14917、Corynebacterium striatum ATCC6940、Corynebacterium xerosis ATCC373、Streptococcus pyogenes ATCC12344およびStreptococcus pneumoniaeATCC BAA-255を、グラム陰性菌としては、Escherichia coli ATCC8739および多剤排出ポンプacrAB欠損株であるKAM32を、真菌としては、Candida albicans ATCC10231を使用した。
【0051】
<1-2>培養条件
嫌気性菌であるC.acnes、C.avidum、C.granulosumは、modified GAM agar(NissuiPharmaceutical)またはmodified GAM medium(Nissui Pharmaceutical)で35℃、嫌気条件下で48~72時間培養した。
【0052】
Lactobacillus属菌およびStreptococcus属菌は、Blood agar[5%Defibrinated horseblood(Nippon Bio-Test Laboratiries)and 1.5% agar bacteriological(Oxoid)contained in brain heart infusion(BHI, Oxoid)]を用いて、好気条件下および微好気条件下で24時間培養した。
【0053】
その他の菌種は、tryptone soyaagar [1.5% agar bacteriological contained in tryptone soyabroth (TSB, Oxoid)]またはTSBを用いて35℃、好気条件下で24時間培養した。
【0054】
Lactococcus lactis MG1363は、M17培地(BD, Sparks, MD)に0.5% glucoseを添加したGM17培地を用いて、好気条件下、30℃で24時間培養した。
【0055】
<2>試験方法および結果
<2-1>皮膚細菌のC.acnesに対する増殖抑制活性
増殖抑制作用は、増殖阻止円形成の有無を判定することで評価した。試験プレートは、0.75% agar含有modified GAM mediumに、C.acnes ATCC6919を接種し、modified GAM agarに重層することで作製した。直径8mmの穴を試験プレートに空け、150μLの各種培養菌液を滴下した。試験プレートは35℃、嫌気条件下で48時間培養後に判定した。C.acnesに対して増殖阻止円を形成した菌株をC.acnes増殖阻害株と定義した(
図1)。
【0056】
試験した122株の皮膚常在菌の中から、C.acnesの増殖阻害株が28株(23.0%)得られた(
図1)。特に、ほとんどのC.avidum(89.7%,26/29)がC.acnesATCC6919の増殖を抑制した。そこで、これ以降はそのほとんどがC.acnesの増殖を抑制したC.avidumの基準株ATCC25577を用いて研究を行った。
【0057】
<2-2>C.avidumおよびC.acnesの共培養
modified GAM mediumで、48時間振とう培養したC.acnes ATCC6919およびC.avidum ATCC25577を、1:1、1:10、1:100および1:1000の菌量比となるように混合した。
【0058】
菌数測定を行うために、C.avidum ATCC25577およびC.acnes ATCC6919に、それぞれrifampicinおよびclarithromycin耐性を付与した(参考文献13および14)。静置条件での共培養の後、残存C.acnesの菌数を測定した。1μg/mL clarithromycin(Tokyo Chemical Industries)含有modified GAM agarおよび10μg/mL rifampicin(Sigma)含有modified GAM agarに増殖したコロニーを、それぞれC.acnesおよびC.avidumとして測定した。結果は、3回の独立した実験の平均±標準偏差として
図3に示した。
【0059】
C.avidum ATCC25577のC.acnesに対する増殖阻害作用を液体培地での共培養で検討した結果、菌量依存的な殺菌作用が認められた(
図3)。特に、C.acnesの10倍以上の菌量のC.avidumを混合すると、48時間後にはC.acnesは検出限界以下まで減少した。従って、C.avidumのC.acnesに対する増殖阻害作用は寒天培地上および液体培地での非振とう培養などの静置条件で発現することが示唆された。
【0060】
<2-3>C.avidumの増殖抑制活性の菌種特異性
各種の細菌および真菌に対してC.avidum ATCC25577の増殖阻害作用は、前述と同様に増殖阻止円形成の有無を判定することで評価した。結果は、3回の独立した実験の平均±標準偏差として示した。
【0061】
C.avidum ATCC25577は、薬剤耐性株を含む8株すべてのC.acnes臨床分離株の増殖を阻害した(
図2)。加えて、菌種特異性を明らかにするために、種々の菌種に対するC.avidum ATCC25577による増殖抑制作用を試験した(表1)。その結果、皮膚常在菌であるS.epidermidisおよびS.aureusの増殖阻害効果は認められなかった。一方、皮膚常在菌であるCutibacteirum granulosumの増殖を抑制した。加えて、Lactobacillus pentosus、L.plantarum、Corynebacterium striatum、C.xerosis、Streptococcus pneumoniaeの増殖を阻害することが示された。
【0062】
【0063】
<2-4>全ゲノム比較分析
C.acnes阻害C.avidum株TP-CV14(Accession No.AP024309)と非阻害C.avidum株TP-CV4(Accession No.AP024308))のゲノムをGeneious Prime ver. 2019.2.3(Biomatters,Auckland,New Zealand)を用いて比較した。Open reading frame(ORF)、アミノ酸配列は、Basic local alignment search tool(BLAST)およびPDBsumを用いて解析した。PDBsumで得られたタンパク質の配列と各ORFのタンパク質をGENETYX ver.10.1.0のLipman-Pearson法を用いたホモロジー解析で比較し、遺伝子機能を推定した。また、アミノ酸配列はGENETYX ver.10.1.0のclustal W2を使用して比較した。
【0064】
抗菌作用関連遺伝子を同定するために、C.acnes阻害C.avidum TP-CV14株と非阻害C.acnes TP-CV4株のゲノムを比較し、抗菌作用に関与すると予想される遺伝子領域を特定した(
図4)。遺伝子クラスター(4,899 bp)は、アミノ酸数94の抗菌性タンパク質(MW:9,126.7)をコードするopen reading frame (ORF)を含む8個のORFで構成されており、それぞれのORFを、avdAからavdHと名付けた。この抗菌性タンパク質をアビダマイシンと命名した。アビダマイシンをコードするavdAは、C.acnesに対し増殖阻害作用を示したすべてのC.avidum株から検出された。そこで、アビダマイシン生合成遺伝子クラスターをE.coli-LactococcusのシャトルベクターであるpMG36eにクローニングし、L.lactisMG1363に導入した結果、形質転換体L.lactisMG1363はC.acnesの増殖を抑制した。従って、アビダマイシン生合成伝子クラスターがC.acnesへの抗菌活性に関連することが示された。
【0065】
次いで、アビダマイシン生合成クラスターに含まれるORFの役割を推定するため、各ORFのタンパク質の配列相同性をPBDsumで検索し、相同性および類似性を算出した(
図4)。アビダマイシンをコードするavdAに加えて、他のバクテリオシンの遺伝子クラスターと同様に、膜タンパク質、ならびに、バクテリオシンの菌体外への排出および免疫に関連するトランスポーターが認められた。AvdAのアミノ酸配列をPBDsumで検索したところ、Enterococcus faecalisが産生する環状バクテリオシンであるenterocins NKR-5-3b (PDI id: 2mp8)およびz-score 182.1を示した(表2)。
【0066】
【0067】
環状バクテリオシンはリーダーペプチドである頭部が切断されたのち、頭部と尾部が環化する(参考文献16)。アビダマイシンのリーダーペプチドを推定するために、既知の環状バクテリオシンとの配列相同性を解析した(表2および
図5)。その結果、アビダマイシンのリーダーペプチドは35アミノ酸残基であることが推定された。推定領域におけるリーダーペプチド切断後のアビダマイシンは、Leuconostoc mesenteroides TK41401が産生するleucocyclicin Q(参考文献17)と最も高い相同性を示した(similarity 78.0 %, identity 37.3%)(表2)。
【0068】
TP-CV4とCP-CV14との比較により、Anti-bacterial proteinをコードすると推定される遺伝子領域の特異的プライマー:
ABP-F: 5‘-CAGTTGTCGGCGTTATGCTG-3’ (配列番号5)
ABP-R: 5‘-CGACCTTCTCCCACTTC-3’ (配列番号6)
を作成した。Anti-bacterial protein geneはGoTaq(登録商標) 3 Master mix (Promega)を用いてpolymerase chain reaction(PCR)[95℃、10secの熱変性、60℃、30secのアニーリング反応、72℃、20secの伸長反応を25サイクル]で検出した。
【0069】
<2-5>C.avidumの抗菌性タンパク質の遺伝子クラスターのクローニング
推定した抗菌性タンパク質の遺伝子クラスターをLactococcus lactis MG1363に導入し、抗菌活性への関連を評価した。C.avidumのDNA抽出はAoki et al.の方法で行った(参考文献15)。抽出したDNAは、制限酵素切断部位を付与したプライマー:
ABP cloning F (XbaI): 5’-GGG TCT AGA GCC AGG ATG GGG CTA GAC-3’
(配列番号7)
ABP cloning R (HindIII): 5’-GGG AAG CTT GCT CCA CTG ACA CCT ACA GG-3’
(配列番号8)
を用いて、KOD One(登録商標) PCR Master Mix (Toyobo, Osaka, Japan)で増幅した。増幅産物およびE.coli-LactococcusのシャトルベクターであるpMG36eは、XbaIおよびHindIII(New England Biolabs,Massachusetts,US)で切断し、Ligation high Ver.2(Toyobo)を用いてLigationした。Ligation産物はE.coli DH5αに塩化カルシウム法で形質転換を行ったのち、L.lactis MG1363にエレクトロポレーション法で導入した。E.coliおよびL.lactis形質転換体の選択には、100 mg/mL erythromycinを含むLB寒天培地およびGM17培地を使用した。形質転換体を、上記と同様にC.acnesを封入した軟GAM寒天培地に接種し、嫌気条件下で48時間培養し、阻止円の有無を確認した。
【0070】
<3>考察
C.acnesに対して増殖阻害作用を示す皮膚細菌を探索したところ、皮膚で最も多く認められるS.epidermidisのすべての株はC.acnesの増殖を抑制しなかった。また、健康なヒトの毛包内で多いとされるC.granulosumもC.acnesを阻害しなかった。C.acnesの増殖を抑制した菌株は、皮膚における存在量の少ないC.avidumであった。C.avidumによる増殖阻害作用は、C.acnes ATCC6919だけでなく、薬剤耐性株を含む試験したすべてのC.acnes臨床分離株にも認められた。加えて、Cutibacterium属以外の、Lactobacillus属菌、Corynebacterium属菌およびS.pneumoniaeなどのグラム陽性菌に対しても増殖抑制作用を示した。バクテリオシンは抗菌薬などに比べて、狭い抗菌スペクトルを示すことが知られている。C.avidumのアビダマイシンは特定の皮膚常在菌にのみ作用することが示唆され、耐性化および細菌叢の破綻を起こす危険性が低いと考えられる。
【0071】
L.lactis MG1363の遺伝子導入株は、C.acnesに対して増殖阻害作用を示した。本研究では、アビダマイシン生合成遺伝子クラスターがC.acnesへの抗菌活性に関連することに加えて、Cutibacterium属菌の遺伝子発現が近縁のL.lactisを用いることで可能であることを示した。
【0072】
アビダマイシンは、leucocyclicin Qと高い相同性を示し、他の類似するバクテリオシンはすべてプレペプチドからリーダーペプチドが切断された後に環化するhead-to-tail型の環状バクテリオシンであった(参考文献17)。そのため、アビダマイシンも環状バクテリオシンであると予想したが、アビダマイシンの生合成遺伝子クラスター中には、脱水酵素などの直接的に環化に関与する遺伝子(参考文献16)は見出されなかった。一方で、AS-48においてはAS-48B(膜タンパク質)、uberolysinにおいてはUlbB(ABCトランスポーター)が環状化に関連していると報告されており(参考文献21)、アビダマイシンにおいても膜タンパク質およびABCトランスポーターであるAvdBおよびAvdC、AvdE、AvdFが環状化に関連している可能性がある。リーダーペプチドの予測には、SDS-PAGEにより得られた分子量と理論分子量とのギャップにより推定されるが、上清中からアビダマイシンは検出できていない。他の環状バクテリオシンのアミノ酸配列と比較した時、既知の環状バクテリオシンの頭部(N末端)のアミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、バリンまたはメチオニンであった。そのため、アビダマイシンもこのいずれかのアミノ酸の前で切断されると推定した。加えて、リーダーペプチドの長さは~50アミノ酸であることを考慮すると35番目のチロシンで切断されると予想した。
【0073】
参考文献
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【要約】 (修正有)
【課題】抗菌性ポリペプチド、および、当該ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】(a)グラム陽性菌の増殖を抑制する活性を有し、かつ、(b)以下のいずれかであるポリペプチドに関する:(i)特定のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、(ii)特定のアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、(iii)特定の塩基配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して1~10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなる、(iv)特定の塩基配列からなるDNAによってコードされる、(v)特定の塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされる、および(vi)特定の塩基配列の縮重異性体からなるDNAによってコードされる。
【選択図】なし
【配列表】