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特許7267646締結ユニット、ボルトとナットの固定装置、及びボルトとナットの固定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】締結ユニット、ボルトとナットの固定装置、及びボルトとナットの固定方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/00 20060101AFI20230425BHJP
   F16B 39/22 20060101ALI20230425BHJP
   B25B 21/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
F16B37/00 C
F16B39/22 Z
B25B21/00 530Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022018030
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】521495183
【氏名又は名称】大貫 学
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】大貫 学
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-160615(JP,A)
【文献】特開平10-073118(JP,A)
【文献】特開2017-180755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00 - 43/02
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットと、
前記ナットの内周面に係合可能な軸部を有するボルトと、を備え、
前記軸部の外周面に、正ネジである第1雄ねじ部と、逆ネジである第2雄ねじ部とが設けられ、
前記ナットは、前記第1雄ねじ部と前記第2雄ねじ部の両方にまたがって係合されることを特徴とする締結ユニット
【請求項2】
加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットを被締結部材に押し付けて保持するホルダ部と、
前記ナットに挿通されたボルトの軸部を該ボルトの頭部とは反対側に引っ張るボルト引込み部と、
前記ホルダ部に保持された前記ナットを加熱する加熱部とを備えていることを特徴とするボルトとナットの固定装置。
【請求項3】
前記ボルト引込み部は、前記ボルトに係合可能な雌ねじを有する係合部と、該係合部を回転駆動する駆動部とを備えていることを特徴とする請求項2に記載のボルトとナットの固定装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記ホルダ部に保持された前記ナットに向かう温風を発生させる温風発生部であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のボルトとナットの固定装置。
【請求項5】
加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットと、前記ナットの内周面に係合可能な軸部を有し、前記軸部の外周面に、正ネジである第1雄ねじ部と、逆ネジである第2雄ねじ部とが設けられたボルトと、を用意するステップと、
前記ナットと前記ボルトの頭部との間に被締結部材を挟み込むように、前記軸部を前記被締結部材と前記ナットとに差し込む準備ステップと、
前記ナットを前記被締結部材に押し付け、且つ、前記軸部を前記ボルトの頭部とは反対側に引っ張りながら、前記ボルトの軸部の外周面に前記ナットの内周面を密着させ前記第1雄ねじ部と前記第2雄ねじ部の両方にまたがって係合されるように前記ナットを熱収縮させる締結ステップと、
を順に行うことを特徴とするボルトとナットの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット、ボルトとナットを備えた締結ユニット、並びに、ボルトとナットを固定するための固定装置及び固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトとナットにより複数の被締結部材を締結した後、振動等に起因して緩みが発生することがある。このような緩みを抑制するための技術が従来から知られている。例えば、ボルトの余長部に装着される部品によって、ナットが軸方向先端側へ変位することを規制して、緩みを抑制する技術がある。この種の部品の一例として、特許文献1には、熱収縮性のプラスチックチューブが開示されている。このプラスチックチューブは、ボルトの余長部に装着された後に加熱されて収縮することでボルトに固着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-332836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、ボルトとナットによる締結後にさらに緩み止めの部品の装着を行う必要がある。そのため、作業工数および部品点数が増加してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、ボルトとナットの固定にあたって、作業工数および部品点数を増加させることなく緩み止めを果たすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る締結ユニットは、加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットと、前記ナットの内周面に係合可能な軸部を有するボルトと、を備え、前記軸部の外周面に、正ネジである第1雄ねじ部と、逆ネジである第2雄ねじ部とが設けられ、前記ナットは、前記第1雄ねじ部と前記第2雄ねじ部の両方にまたがって係合されることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るボルトとナットの固定装置は、加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットを被締結部材に押し付けて保持するホルダ部と、前記ナットに挿通されたボルトの軸部を該ボルトの頭部とは反対側に引っ張るボルト引込み部と、前記ホルダ部に保持された前記ナットを加熱する加熱部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係るボルトとナットの固定方法は、加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナットと、前記ナットの内周面に係合可能な軸部を有し、前記軸部の外周面に、正ネジである第1雄ねじ部と、逆ネジである第2雄ねじ部とが設けられたボルトと、を用意するステップと、前記ナットと前記ボルトの頭部との間に被締結部材を挟み込むように、前記軸部を前記被締結部材と前記ナットとに差し込む準備ステップと、 前記ナットを前記被締結部材に押し付け、且つ、前記軸部を前記ボルトの頭部とは反対側に引っ張りながら、前記ボルトの軸部の外周面に前記ナットの内周面を密着させ前記第1雄ねじ部と前記第2雄ねじ部の両方にまたがって係合されるように前記ナットを熱収縮させる締結ステップと、を順に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱によって径方向に収縮変形するナットの内周面を、径方向内側への応力が作用した状態でボルトの軸部に密着させることができ、これにより、ボルトとナットの相対変位を規制することができる。そのため、ボルトとナット以外の別部品を装着しなくても、緩み止めを果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る締結ユニットを示す断面図である。
図2】同締結ユニットのナットを示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るボルトとナットの固定装置を示す図である。
図4】同固定装置の制御システムを示すブロック図である。
図5】同固定装置の使用例を示す図である。
図6】締結が完了した状態の締結ユニットを示す断面図である。
図7】変形例に係る締結ユニットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
[締結ユニット]
図1に示すように、本実施形態に係る締結ユニット1は、被締結部材101,201を締結するためのボルト10とナット20を備えている。本実施形態では、被締結部材101,201が2枚の鉄板である例について説明する。ただし、本発明において、被締結部材の材料、形状、および個数は特に限定されるものでない。
【0014】
ボルト10は、頭部12と軸部14を有する。軸部14の外周面には、正ネジである雄ねじ部16が設けられている。軸部14は、雄ねじ部16においてナット20に係合可能となっている。このように、本実施形態のボルト10は、一般的なボルトと同様の構造を有する。つまり、ボルト10として、汎用品を用いることができる。
【0015】
図1及び図2に示すように、ナット20は、リング状に形成されている。つまり、ナット20の内周および外周は、軸方向(厚さ方向)から見て円形の輪郭を有する。ナット20の厚さは、一般的なナットと同様の厚さとなっている。
【0016】
ナット20は、加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなる。熱収縮材料の主原料としては、一般的なシュリンクフィルム(熱収縮性フィルム)で使用される熱収縮樹脂が用いられてもよい。また、熱収縮性材料には、ナット20の強度を高めるための材料がさらに含有されてもよい。
【0017】
なお、ナット20の表面の少なくとも一部に、上記の熱収縮性材料とは別の材料からなる層が設けられてもよい。例えば、ナット20の内周面に、ボルト10の軸部14との密着力を高めるための層が設けられたり、ナット20の外周面に、ナット20の強度を高めるための層が設けられたりしてもよい。
【0018】
ナット20は、熱収縮前の状態において平らな内周面22を有する。熱収縮前において、ナット20の内径は、ボルト10の軸部14の外径に比べて等しいか又は僅かに大きい。つまり、熱収縮前のナット20にボルト10の軸部14が差し込まれた状態において、ナット20の内周面22は、ボルト10の雄ねじ部16のねじ山に対して接するか又は僅かに離間する。
【0019】
[ボルトとナットの固定方法の概要]
以上のように構成されたボルト10とナット20は、準備ステップ(図1参照)と締結ステップ(図5参照)とが順に行われることで、互いに固定される(図6参照)。
【0020】
図1に示すように、準備ステップでは、ボルト10の頭部12とナット20との間に被締結部材101,201が挟み込まれるように、ボルト10の軸部14が被締結部材101,201のボルト穴102,202とナット20とに差し込まれる。本実施形態では、ナット20に雌ねじが形成されていないため、準備ステップにおいて、ナット20に対するボルト10のねじ込みは不要となっている。
【0021】
続く締結ステップでは、ナット20が被締結部材201に押し付けられ、且つ、ボルト10の軸部14が先端側(頭部12とは反対側)に引っ張られながら、ボルト10の軸部14の外周面にナット20の内周面22が密着するようにナット20が熱収縮される。
【0022】
本発明における締結ステップの具体的な方法は任意であるが、本実施形態では、図3に示すボルト10とナット20の固定装置(以下、単に「固定装置」ともいう)30を用いて、締結ステップが行われる。固定装置30を用いたボルト10とナット20の具体的な固定方法については後に説明する。
【0023】
[ボルトとナットの固定装置]
図3を参照しながら、固定装置30の構成について説明する。なお、図3は、固定装置30の内部の主要構造を概略的に示した一部破断側面図である。
【0024】
固定装置30は、ナット20を被締結部材201に押し付けて保持するホルダ部40と、ナット20に挿通されたボルト10の軸部14をボルト10の頭部12とは反対側に引っ張るボルト引込み部50と、ホルダ部40に保持されたナット20を加熱する加熱部としての温風発生部60とを備えている。
【0025】
また、固定装置30は、ボルト引込み部50と温風発生部60を収容する筒状のハウジング32を備えている。ハウジング32の一端側の開口部は、ハウジング32の内部空間S1に外気を導入するための給気口34とされている。ハウジング32の周壁には、内部空間S1の空気をハウジング32の外側に排出するための排気口36が貫通して設けられている。排気口36は、ハウジング32における給気口34とは反対側の端部近傍に設けられている。排気口36は、周方向に間隔を空けて複数設けられてもよい。
【0026】
さらに、固定装置30は、ユーザに把持される把持部38を備えている。把持部38は、ハウジング32の周壁における給気口34の近傍部から径方向外側に延びるように設けられている。把持部38は、ハウジング32と一体に設けられてもよいし、ハウジング32に着脱可能に設けられてもよい。把持部38には、ボルト引込み部50及び温風発生部60の動作に関する操作を行うための操作部72が設けられている。
【0027】
ホルダ部40は、ハウジング32における給気口34とは反対側の端部に設けられている。ホルダ部40は、ハウジング32に着脱可能に設けられることが好ましい。これにより、ホルダ部40を適宜交換することができる。ナット20の種類に応じて複数種類のホルダ部40を用意しておくことで、ナット20に対応した形状および大きさを有するホルダ部40を選択的に用いることができる。
【0028】
ホルダ部40は概ねリング状に形成されている。ホルダ部40の軸心は、ハウジング32の軸心上に配置されてもよい。ホルダ部40の内部空間S2は、ハウジング32の内部空間S1に連通する。ホルダ部40の内周面は、ホルダ部40の内径が給気口34側において縮小されるように段状に形成されている。これにより、ホルダ部40の内周には、被締結部材201(図5参照)とは反対側からナット20に押し当てられる環状の押し当て部42が形成されている。
【0029】
ボルト引込み部50は、ボルト10に係合可能な係合部52と、係合部52を回転駆動する駆動部としての引込み用モータ56とを備えている。
【0030】
係合部52は、ホルダ部40の軸心方向に延びる筒状部である。係合部52は、軸方向においてホルダ部40に隣接するようにハウジング32内に配置されている。係合部52の軸心は、ホルダ部40の軸心上に配置されている。係合部52の内周面には、雌ねじ54が形成されている。雌ねじ54には、ボルト10の雄ねじ部16がねじ込み可能となっている。
【0031】
引込み用モータ56は、係合部52に駆動連結されている。これにより、係合部52は、軸心周りに回転可能となっている。引込み用モータ56によって係合部52が回転駆動されると、係合部52に係合されたボルト10の軸部14は、軸方向において係合部52に対して相対的に並進移動する。
【0032】
引込み用モータ56は、正逆回転可能なモータであることが好ましい。引込み用モータ56が正回転されると、ボルト10の軸部14は、係合部52との係合長さを増大させるように給気口34側(ボルト10の頭部12とは反対側)に向かって相対移動される。これにより、ボルト10の軸部14を給気口34側に引き込むことができる。引込み用モータ56が逆回転されると、ボルト10の軸部14は、係合部52との係合長さを減少させるように給気口34とは反対側(ボルト10の頭部12側)に向かって相対移動される。これにより、係合部52からボルト10を取り外すことが可能になる。
【0033】
引込み用モータ56に対して、係合部52は、着脱可能に連結されることが好ましい。これにより、係合部52を適宜交換することができる。ボルト10の種類に応じて複数種類の係合部52を用意しておくことで、ボルト10に対応した形状および大きさを有する係合部52を選択的に用いることができる。
【0034】
温風発生部60は、ホルダ部40に保持されたナット20に向かう温風を発生させるように構成されている。温風発生部60は、ハウジング32の軸方向において、ボルト引込み部50よりも給気口34側に配置されている。
【0035】
温風発生部60は、給気口34からホルダ部40に向かう空気の流れを形成する送風源としてのファン62と、ファン62を回転駆動する送風用モータ64とを備えている。ファン62は、ハウジング32内において給気口34の近傍に配置されている。ファン62は、ハウジング32の軸方向に平行な軸心周りに回転可能である。
【0036】
また、温風発生部60は、熱源としてのヒータ66を備えている。ヒータ66は、例えば、電熱線で構成されている。ハウジング32の軸方向において、ヒータ66は、ファン62よりもホルダ部40側に配置されている。ファン62によってハウジング32内に取り込まれた空気は、ヒータ66を通過することにより加温され得る。これにより、温風発生部60は、ホルダ部40に向かって温風を送ることが可能となっている。また、温風発生部60は、ヒータ66の作動が停止されていれば、冷却風をホルダ部40に向かって送ることもできる。
【0037】
固定装置30は、引込み用モータ56、送風用モータ64、及びヒータ66に電力を供給するための電源部としてのバッテリー70を備えている。バッテリー70は、例えば、把持部38内に収容されてもよい。
【0038】
また、固定装置30は、引込み用モータ56、送風用モータ64、及びヒータ66の動作を制御する制御部80を備えている。制御部80を構成する制御基板は、例えば、把持部38内に収容されてもよい。
【0039】
[固定装置の制御システム]
図4を参照しながら、固定装置30の制御システムについて説明する。
【0040】
制御部80には、操作部72から送られる信号が入力可能となっている。また、制御部80は、引込み用モータ56、送風用モータ64、及びヒータ66に指令信号を出力可能となっている。本実施形態において、制御部80は、引込み制御部81、取外し制御部82、加熱制御部83、及び冷却制御部84を備えている。
【0041】
引込み制御部81は、引込み用モータ56を作動させて、係合部52にねじ込まれたボルト10の軸部14を給気口34側(ボルト10の頭部12とは反対側)に引き込む動作(図5参照)を制御する。具体的に、引込み制御部81は、軸部14を給気口34側(頭部12とは反対側)に向かって相対的に並進させる方向への所要の回転駆動力を係合部52に作用させるように、引込み用モータ56を作動させる。これにより、被締結部材101,201の締結に必要な引張力をボルト10に作用させることができる。
【0042】
引込み制御部81による上記のようなボルト引込み制御は、操作部72において締結を行うための所定操作が行われたときに、加熱制御部83による後述の加熱制御と並行して実行される。また、引込み制御部81によるボルト引込み制御は、加熱制御部83による加熱制御の終了に合わせて終了する。
【0043】
取外し制御部82は、引込み用モータ56を作動させて、係合部52にねじ込まれたボルト10の軸部14を給気口34とは反対側(ボルト10の頭部12側)に押し出す動作を制御する。具体的に、取外し制御部82は、軸部14を給気口34とは反対側(頭部12側)に向かって相対的に並進させる方向に係合部52を回転させるように、引込み用モータ56を作動させる。これにより、係合部52からボルト10を容易に取り外すことができる。
【0044】
取外し制御部82による上記のようなボルト取外し制御は、締結完了後等に、操作部72においてボルト10を取り外すための所定操作が行われたときに実行される。
【0045】
加熱制御部83は、送風用モータ64とヒータ66を作動させて、ハウジング32内において給気口34からホルダ部40に向かって流れる温風を発生させるように制御する。これにより発生した温風によって、ホルダ部40に保持されたナット20を加熱することができる。
【0046】
加熱制御部83による上記のような加熱制御は、操作部72において締結を行うための所定操作が行われたときに、引込み制御部81による引き込み制御と並行して実行される。
【0047】
加熱制御部83は、加熱制御を開始してから所定の加熱時間が経過したとき、送風用モータ64とヒータ66の作動を自動的に停止させてもよいし、例えば音又は振動等によってユーザに停止操作を促すための報知手段を作動させてもよい。所定の加熱時間が経過したときに加熱制御が終了することにより、ナット20が必要以上に加熱されることを抑制できる。上記の加熱時間は、ナット20の種類等に応じて、ユーザによって設定できるようにしてもよい。
【0048】
冷却制御部84は、ヒータ66の作動を停止させつつ送風用モータ64のみを作動させて、ハウジング32内において給気口34からホルダ部40に向かう送風を発生させるように制御する。この送風によって、ホルダ部40に保持されたナット20を冷却することができる。
【0049】
冷却制御部84による冷却制御は、操作部72においてボルト10を冷却するための所定操作が行われたときに実行されてもよいし、加熱制御部83による加熱制御が終了した後に自動的に実行されてもよい。なお、加熱制御と冷却制御が自動的に連続して実行される場合、加熱制御の終了時には、ヒータ66の作動のみを停止させて、送風用モータ64の動作を継続させるようにしてもよい。
【0050】
[固定装置を用いたボルトとナットの固定方法]
図5を参照しながら、固定装置30を用いてボルト10とナット20を固定する具体的な方法について説明する。
【0051】
まず、ユーザは、固定装置30の把持部38を掴み、ホルダ部40にナット20を嵌め込んで、ナット20を被締結部材201に押し当てる。これにより、ナット20は、ホルダ部40の押し当て部42によって被締結部材201に押し付けられる。この状態で、ユーザは、ボルト10の軸部14を被締結部材101,201のボルト穴102,202とナット20に差し込んで、ボルト10の先端部を係合部52に少しだけねじ込む。ここまでの作業が、上述の準備ステップに相当する。
【0052】
続いて、ユーザは、締結ステップとして、ボルト10の頭部12を押さえながら、操作部72において締結を行うための所定操作を行う。これにより、引込み制御部81によるボルト引込み制御と、加熱制御部83による加熱制御とが並行して実行される。
【0053】
ボルト引き込み制御により、係合部52が回転駆動されることで、ボルト10の軸部14が給気口34側(頭部12とは反対側)に引っ張られる。これにより、ボルト10には締結に必要な引張力が作用し、被締結部材101,201には締結に必要な圧縮力が作用する。
【0054】
また、加熱制御により、温風発生部60から送られる温風がナット20に当てられることで、ナット20が加熱される。加熱されたナット20は径方向に収縮変形する。
【0055】
所定の加熱時間が経過すると、加熱制御およびボルト引込み制御は、自動的に停止されるか、又は、操作部72の所定操作によって停止される。この時点でナット20の内周面22はボルト10の軸部14に密着しており、ボルト10とナット20は固定されている。
【0056】
その後、後処理ステップとして、冷却制御部84による冷却制御と、取外し制御部82によるボルト取外し制御とが順に行われ、作業が完了する。ただし、冷却制御およびボルト取外し制御は省略されてもよい。
【0057】
[作用効果]
図6に示すように、ボルト10とナット20が固定された状態において、ナット20の内周面22は、ボルト10の雄ねじ部16に沿った雌ねじのような形状に変形した状態で、雄ねじ部16に密着している。ナット20の内周面22は、径方向内側への応力が作用した状態でボルト10の軸部14に密着している。そのため、ボルト10とナット20の相対変位を規制するのに十分な密着力を作用させることができる。これにより、ナット20の緩み止めが果たされている。
【0058】
また、図6に示す固定状態において、ボルト10には締結に必要な引張力が作用しており、被締結部材101,201には締結に必要な圧縮力が作用している。これにより、ボルト10とナット20による被締結部材101,201の締結が果たされている。
【0059】
このように、本実施形態によれば、上述の1回の締結ステップによって、被締結部材101,201の締結と、ナット20の緩み止めとを完了させることができる。本実施形態によれば、ボルト10とナット20以外の別部品を装着する必要がないため、作業工数および部品点数を増加させることなく、緩み止めを果たすことができる。
【0060】
また、本実施形態では、ねじ切りされていないリング状のナット20が用いられる。このようにナット20の構造が簡素で済むため、ナット20の製造コストを抑えることができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、被締結部材101,201の圧縮と、ボルト10の引っ張りと、ナット20の加熱とを、1つの固定装置30によって並行して行うことができる。そのため、ユーザは、その熟練度に関わらず、簡単に上記の固定作業を行うことができる。
【0062】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0063】
例えば、図7に示すように、ボルト10の軸部14の外周面に、正ネジである第1雄ねじ部17と、逆ネジである第2雄ねじ部18とが設けられてもよい。この場合、第1雄ねじ部17が軸部14の先端部に設けられ、第2雄ねじ部18が第1雄ねじ部17の基端側に隣接して設けられることが好ましい。また、第1雄ねじ部17と第2雄ねじ部18の両方がナット20に係合されることが好ましい。これにより、ボルト10とナット20の相対回転をより確実に規制して、緩み止め効果を高めることができる。また、固定装置30の係合部52に対して第1雄ねじ部17を係合させて、上記と同様にボルト10の引き込みを行うことができる。
【0064】
また、本発明において、ボルト10とナット20の固定には必ずしも上記の固定装置30を用いなくてもよいし、固定装置30の構成に種々の変更を加えてもよい。
【0065】
例えば、固定装置30の加熱部は、ナット20を加熱可能なものであれば、上述した温風発生部60に限られない。加熱部は、例えば、電磁誘導等によって発生するジュール熱を利用してナット20を加熱するように構成されてもよい。
【0066】
さらに、固定装置30のボルト引込み部は、ボルト10の軸部14を頭部12とは反対側に引っ張ることが可能なものであれば、係合部52を回転駆動させるものに限られず、例えば、係合部52を並進駆動させるものであってもよい。この場合、ボルト10と係合部52は、ねじ込み係合に限られず、任意の態様で係合させればよい。また、この場合、ボルト10の軸部14には、ねじ切りが必須ではなく、ナット20との密着力を高めるための任意形状の凹凸が設けられてもよい。
【0067】
本発明では、ナット20の構成にも種々の変更を加えることが可能である。例えば、ナット20の外周の輪郭は、円形以外の種々の形状に変更可能であり、例えば、一般的なナットと同様に六角形であってもよい。また、ナット20の内周面22は、必ずしも平らでなくてもよく、例えば、一般的なナットと同様、雌ねじが形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 締結ユニット
10 ボルト
12 頭部
14 軸部
16 雄ねじ部
17 第1雄ねじ部
18 第2雄ねじ部
20 ナット
22 内周面
30 ボルトとナットの固定装置
32 ハウジング
38 把持部
40 ホルダ部
42 押し当て部
50 ボルト引込み部
52 係合部
54 雌ねじ
56 引込み用モータ(駆動部)
60 温風発生部(加熱部)
62 ファン
64 送風用モータ
66 ヒータ
70 バッテリー(電源部)
72 操作部
80 制御部
101,201 被締結部材
【要約】
【課題】ボルトとナットの固定にあたって、作業工数および部品点数を増加させることなく緩み止めを果たす。
【解決手段】締結ユニット1は、加熱により径方向に収縮変形可能な熱収縮性材料からなるナット20と、ナット20の内周面22に係合可能な軸部14を有するボルト10とを備えている。ボルト10とナット20の固定装置30は、ナット20を被締結部材201に押し付けて保持するホルダ部40と、ナット20に挿通されたボルト10の軸部14を該ボルトの頭部12とは反対側に引っ張るボルト引込み部50と、ホルダ部40に保持されたナット20を加熱する加熱部60とを備えている。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7