(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-24
(45)【発行日】2023-05-02
(54)【発明の名称】ろ過装置
(51)【国際特許分類】
B01D 29/11 20060101AFI20230425BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B01D29/10 501C
B01D29/10 510F
B01D29/10 510G
B01D29/10 530A
B23Q11/00 U
(21)【出願番号】P 2022040441
(22)【出願日】2022-03-15
【審査請求日】2022-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518100834
【氏名又は名称】株式会社マイ・テクノス
(74)【代理人】
【識別番号】110000464
【氏名又は名称】弁理士法人いしい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 晃
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015011(JP,A)
【文献】登録実用新案第3225792(JP,U)
【文献】特開2019-098273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/00-37/04
B23Q 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械用のクーラント液からスラッジをろ過するろ過装置であって、
スラッジを含むクーラント液である懸濁液を、スラッジを除いたクーラント液である清澄液とスラッジとに分離する両端開口筒状のフィルタ体と、
前記フィルタ体を収容するケーシングとを備えており、
前記フィルタ体は、前記懸濁液の流れ方向に沿って延びた形態であり、前記懸濁液の流れ方向と前記フィルタ体の長手方向とが上下に延びる平行状になっており、
前記フィルタ体における
下側の開口端部は、前記懸濁液が流入するように開口している一方、前記フィルタ体における
上側の開口端部は、前記フィルタ体内に流入した前記懸濁液が衝突
する閉止板によって塞がれて
おり、
前記ケーシングの底部には、前記フィルタ体における下側の開口端部に対峙してスラッジを排出するスラッジ排出管が連通接続されている、
ろ過装置。
【請求項2】
前記フィルタ体は、両端開口筒状のろ布と、両端開口筒状の保持筒とを備えており、内側が前記ろ布、外側が前記保持筒という二重構造で筒形のカートリッジ状に構成されている、
請求項1に記載したろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削又は研削用である工作機械のクーラント液から切削屑や研削屑等(以下、スラッジと総称する)を分離除去するろ過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削又は研削用の工作機械では、加工精度維持や工具寿命向上等の目的で、工具によるワークの加工箇所にクーラント液が供給される。当該加工箇所に供給された使用後のクーラント液には、加工にて生じたスラッジが混在する。使用後のクーラント液はろ過装置に回収され、スラッジを分離除去してから、再び工作機械に循環供給される。すなわち、クーラント液は、ろ過装置を経由することによって繰り返し使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ろ過装置としては様々なものが提案及び使用されているが、本発明者は過去に、特許文献1において、スラッジ付着によるフィルタ体の目詰まりが起こりにくいろ過装置を提案している。特許文献1のろ過装置は、フィルタ体の交換頻度を少なくでき、コスト削減効果が高いものであるため、市場で高い評価を受けるに至っている。
【0005】
本発明は、基本的には市場から好評を博している先の発明を踏襲しつつ、さらなる改良を図ることを目的として成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、工作機械用のクーラント液からスラッジをろ過するろ過装置であって、スラッジを含むクーラント液である懸濁液を、スラッジを除いたクーラント液である清澄液とスラッジとに分離する両端開口筒状のフィルタ体と、前記フィルタ体を収容するケーシングとを備えており、前記フィルタ体は、前記懸濁液の流れ方向に沿って延びた形態であり、前記懸濁液の流れ方向と前記フィルタ体の長手方向とが上下に延びる平行状になっており、前記フィルタ体における下側の開口端部は、前記懸濁液が流入するように開口している一方、前記フィルタ体における上側の開口端部は、前記フィルタ体内に流入した前記懸濁液が衝突する閉止板によって塞がれており、前記ケーシングの底部には、前記フィルタ体における下側の開口端部に対峙してスラッジを排出するスラッジ排出管が連通接続されているというものである。
【0007】
本発明のろ過装置において、前記フィルタ体は、両端開口筒状のろ布と、両端開口筒状の保持筒とを備えており、内側が前記ろ布、外側が前記保持筒という二重構造で筒形のカートリッジ状に構成されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルタ体における下側の開口端部から流入した懸濁液を、前記フィルタ体における上側の開口端部を塞ぐ閉止板に衝突させるため、前記懸濁液の液流圧力を前記閉止板との衝突によって弱めて分散させ、流れを遅くできる。このため、スラッジを凝集させて粗大化させやすく、粗大化したスラッジを分離しやすくなる。前記フィルタ体に目詰まりが極めて生じ難いし、前記懸濁液の液流圧力によって前記フィルタ体が破れる等の故障するおそれは、まったく又はほとんどない。従って、前記フィルタ体の交換頻度を極力少なくでき、コスト削減効果が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ろ過装置でのろ過状態を説明する正面断面図である。
【
図4】フィルタ体上部の嵌合構造を説明する拡大正面断面図である。
【
図5】フィルタ体下部の嵌合構造を説明する拡大正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~
図5は、本発明の実施形態を示している。図示は省略するが、実施形態のろ過装置1は、切削又は研削用の工作機械に循環供給されるクーラント液からスラッジをろ過するものであり、工作機械におけるクーラント液の循環ライン中に配置されている。なお、以下の説明において、特定の方向や位置を示す用語(例えば「上下」等)を用いるが、これらの用語は説明の便宜のために用いたものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0012】
図1及び
図3に示すように、実施形態のろ過装置1は、金属製で縦長中空容器状のケーシング2を備えている。ケーシング2は、機台26上に立設されている。ケーシング2は、上向きに開口して漏斗状に形成された下ケース3と、下向きに開口した円筒箱状の上ケース4とによって構成されている。下ケース3の上端部には、当該下ケース3から外周側(半径外側)にはみ出した下フランジ5が溶接等で固定され、上ケース4の下端部には、当該上ケース4から外周側(半径外側)にはみ出した上フランジ6が溶接等で固定されている。パッキン(図示省略)を介して上下フランジ6,5を突き合わせ、ボルト7及びナット8にて上下フランジ6,5を締結することによって、上ケース4と下ケース3とが連結されて縦長中空容器状のケーシング2となる。
【0013】
下ケース3において上向き開口寄りの部位には、スラッジを含んだクーラント液(懸濁液)を下ケース3内に供給する懸濁液流入管9が連通接続されている。上ケース4において下向き開口寄りの部位には、スラッジを除いたクーラント液(清澄液)を上ケース4から放出する清澄液流出管10が連通接続されている。下ケース3の底部には、スラッジ(ケーク(ろ滓)とも言える)を排出するスラッジ排出管11が連通接続されている。
【0014】
上ケース4の上部には、後述する振動付与用のプロペラ25に圧縮空気を吹き付ける空気供給管12と、ケーシング2内の余剰空気を外部に逃がす空気排出弁13とが設けられている。なお、図示は省略するが、懸濁液流入管9、清澄液流出管10、スラッジ排出管11及び空気供給管12には、手動又は自動操作可能な開閉バルブが設けられている。
【0015】
下ケース3内には、懸濁液流入管9の出口に対峙する斜め下向き傾斜状の衝撃分散板14が溶接等で固定されている。懸濁液流入管9から下ケース3内に流入する懸濁液を衝撃分散板14に衝突させ、液流圧力を分散させることによって、ろ過処理時にろ布16や保持筒17(詳細は後述する)に作用する負荷が軽減される。
【0016】
ケーシング2内には、懸濁液を清澄液とスラッジ(ケーク、ろ滓)とに分離するフィルタ体15が収容されている。フィルタ体15は、合成繊維製の不織布又は織編布等で単層若しくは複層に形成された上下開口円筒状のろ布16と、多孔板又は金網等の通液性板からなる上下開口円筒状の保持筒17とを備えている。
【0017】
保持筒17の内部にろ布16が挿入されている。ろ布16における上下の開口端部は、それぞれ対応する保持筒17の開口端部で外向きに折り返されている。当該折り返し部分が耐水テープ又はOリング等で保持筒17に固定されている。従って、フィルタ体15は基本的に、内側がろ布16、外側が保持筒17という二重構造で円筒形のカートリッジ状に構成されている(
図3~
図5参照)。ろ過処理時の液流圧力を保持筒17で受けることによって、ろ布16に作用する負荷が軽減されると共に、液流圧力によるろ布16の過剰な膨出変形が抑制される。
【0018】
ろ布16付き保持筒17の上開口端部には、当該上開口端部を塞ぐ円盤状の閉止板18が取り付けられている。ろ布16付き保持筒17の下開口端部には、外向きに張り出した鍔状(環状)のフランジ板20が取り付けられている。従って、ろ布16付き保持筒17の上開口端部は、閉止板18で塞がれ、ろ布16付き保持筒17の下開口端部は、フランジ板20の開口を介して下向きに開口している。
【0019】
実施形態では、閉止板18の下面側に、ろ布16付き保持筒17の上開口端部が挿し込まれる下向き開口状の下向き嵌合溝19が形成されている(
図3及び
図4参照)。フランジ板20の上面側には、ろ布16付き保持筒17の下開口端部が挿し込まれる上向き開口状の上向き嵌合溝21が形成されている(
図3及び
図5参照)。
【0020】
閉止板18の下向き嵌合溝19にろ布16付き保持筒17の上開口端部を嵌め込むと共に、フランジ板20の上向き嵌合溝21にろ布16付き保持筒17の下開口端部を嵌め込んだ状態で、少なくとも両端側に雄ねじ山が形成された複数本のステーボルト22を用いて、閉止板18とフランジ板20とが互いに引き寄せるように締結されている。その結果、閉止板18とフランジ板20との間に、ろ布16付き保持筒17が保持される(
図2及び
図3参照)。なお、実施形態では、ステーボルト22として、全体にわたって雄ねじ山が形成された寸切りボルトを採用している。
【0021】
下ケース3内のうち衝撃分散板14寄りも上方の部位には、フィルタ体15のフランジ板20が上方から載る環状の取付フランジ23が内向きに張り出すように溶接等で固定されている。フランジ板20が取付フランジ23に上方から重なるようにして、下ケース3にフィルタ体15を載置し、フィルタ体15のフランジ板20と下ケース3の取付フランジ23とを複数のボルト24で締結することによって、フィルタ体15が下ケース3に固定される。
【0022】
そして、フィルタ体15に上ケース4を被せるようにして、パッキン(図示省略)を介して上下フランジ6,5を突き合わせ、ボルト7及びナット8にて上下フランジ6,5を締結することによって、内部にフィルタ体15が収容されたケーシング2となる。従って、下ケース3内部と上ケース4内部とは、フィルタ体15の下開口端部だけを介して連通している。
【0023】
なお、閉止板18の上面側には、空気供給管12からの圧縮空気の噴射圧力によってフィルタ体15に振動を付与するプロペラ25が設けられている。プロペラ25形状等の詳細については、本発明と直接的に関係しないので詳述しないが、必要であれば特許文献1等を参照されたい。
【0024】
上記の構成において、スラッジを含んだクーラント液(懸濁液)をろ過する場合は、懸濁液流入管9からケーシング2の下ケース3内に流入した懸濁液が、上ケース4内にある下向き開口状のフィルタ体15内に流れ込み、フィルタ体15を内から外向きに通過することによって、懸濁液を清澄液(スラッジを除いたクーラント液)とスラッジとに分離す
るろ過処理が実行され、清澄液が清澄液流出管10から放出される。
【0025】
ここで、スラッジのうち比重の大きいものは、フィルタ体15に入り込まずに、又はフィルタ体15内に入り込んでも内面(ろ布16)に付着せずに沈降し、下ケース3内に滞留する。スラッジのうち比重の小さいものは、フィルタ体15内面(ろ布16)に付着して次第に厚みを増し(凝集して粗大化し)、粗大化したものが自重や懸濁液の液流圧力によってフィルタ体15内面(ろ布16)から剥離、脱落し、下ケース3内に降下する。
【0026】
工作機械用のクーラント液の場合は、スラッジが金属で比重が大きくて、自重によって沈降し易く、ろ過処理中でも降下する。以上のことから、実施形態では、フィルタ体15内面(ろ布16)に目詰まりが極めて生じ難く、フィルタ体15の交換頻度を極力少なくでき、コスト削減効果が極めて高い。
【0027】
実施形態では、下ケース3からフィルタ体15内に向かう懸濁液は下から上に流れ込み、ろ布16付き保持筒17の上開口端部を塞ぐ閉止板18に衝突するため、その液流圧力は閉止板18との衝突によって弱められる。懸濁液の液流圧力を分散させて流れを遅くすれば、スラッジを凝集させて粗大化させやすくなり、粗大化したスラッジを下ケース3内に降下させやすくなる。また、閉止板18との衝突によって懸濁液の液流圧力を分散させて流れを遅くできるから、ろ過処理時において、ろ布16や保持筒17に作用する負荷はもちろん軽減されるのである。
【0028】
ろ布16付き保持筒17は、懸濁液の流れ方向(上下方向)に沿って長く延びた形態であり、懸濁液の流れ方向とろ布16の長手方向とが平行状であるから、懸濁液の液流圧力はろ布16に直接作用し難い。このため、実施形態によると、懸濁液の液流圧力によってろ布16が破れるおそれは、まったく又はほとんどないのである。
【0029】
図6は、ろ過装置1におけるフィルタ体15の別例を示している。本発明の第2実施形態を示している。当該別例において、構成及び作用が先の実施形態と同じものには、先の実施形態と共通の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0030】
図6の別例では、保持筒17における上下の開口端部に、外向きに張り出した挟持フランジ27,28が溶接等で固定されている。保持筒17内部に挿入されたろ布16の上下開口端部は、それぞれ対応する挟持フランジ27,28外面側に重なるように折り曲げられて、耐水テープ等で接着されている。ろ布16の上下開口端部には、それぞれ対応する挟持フランジ27,28外面側に重ねやすくするため、切り目を入れておくのが好ましい。
【0031】
上挟持フランジ27に閉止板18を上方から重ねた状態で、上挟持フランジ27と閉止板18とが複数のボルト29で締結されている。ろ布16付き保持筒17の上開口端部は閉止板18で塞がれる。ボルト29で締結された上挟持フランジ27と閉止板18とによって、ろ布16における上開口端部の折り曲げ部分が挟持されている。
【0032】
下挟持フランジ28にフランジ板20を下方から重ねた状態で、下挟持フランジ28とフランジ板20とが複数のボルト24で締結されている。ろ布16付き保持筒17の下開口端部は、フランジ板20の開口を介して下向きに開口している。ボルト24締結された下挟持フランジ28とフランジ板20とによって、ろ布16における下開口端部の折り曲げ部分が挟持されている。
【0033】
下挟持フランジ27とフランジ板20とを締結する複数のボルト24は、下挟持フランジ27及びフランジ板20を貫通している。フランジ板20が取付フランジ23に上方か
ら重なるようにして、下ケース3にフィルタ体15を載置し、フィルタ体15のフランジ板20と下ケース3の取付フランジ23とをボルト24群で締結することによって、フィルタ体15が下ケース3に固定される。換言すると、下挟持フランジ28とフランジ板20と取付フランジとの三者をボルト24群で共締めすることによって、フィルタ体15が下ケース3に固定される。別例のように構成した場合も、先の実施形態と同様の作用効果を奏するのである。
【0034】
本発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えばろ過装置1は縦形に限らず、横形でもよい。カートリッジ状のろ布16付き保持筒17は、一本だけに限らず、複数本あってもよい。複数本のろ布16付き保持筒17を採用する場合、先の実施形態の構成であれば、閉止板18やフランジ板20の嵌合溝19,21をろ布16付き保持筒17の本数に対応して形成すればよいし、別例の構成であれば、ろ布16付き保持筒17の本数に対応した嵌合穴を挟持フランジ27,28に形成して、各嵌合穴に保持筒17の上下開口端部を嵌め込み固定すればよい。
【符号の説明】
【0035】
1 ろ過装置
2 ケーシング
3 下ケース
4 上ケース
5 下フランジ
6 上フランジ
15 フィルタ体
16 ろ布
17 保持筒
18 閉止板
19 下向き嵌合溝
20 フランジ板
21 上向き嵌合溝
22 ステーボルト
23 取付フランジ
24 ボルト
27 上挟持フランジ
28 下挟持フランジ
29 ボルト
【要約】
【課題】工作機械用のクーラント液からスラッジをろ過するろ過装置において、市場から好評を博している本発明者の先の発明を踏襲しつつ、さらなる改良を図る。
【解決手段】本発明は、工作機械用のクーラント液からスラッジをろ過するろ過装置1である。スラッジを含むクーラント液である懸濁液を、スラッジを除いたクーラント液である清澄液とスラッジとに分離する両端開口筒状のフィルタ体15を備える。フィルタ体15における一方の開口端部は、懸濁液が流入するように開口している。フィルタ体15における他方の開口端部は、フィルタ体15内に流入した懸濁液が衝突可能なように、閉止板18によって塞がれている。
【選択図】
図3